説明

自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法

【課題】材料の異なる製品毎に「熱履歴と物性値の関係式」あるいは「熱履歴とDSC吸熱ピーク温度との関係式」を求める必要がなく、さらに履歴評価の製品にダメージを与えずに、自動車エンジンルーム内の樹脂製品、ゴム製品の熱履歴を推定する方法を提供する。
【解決手段】融点が150℃以上の結晶性樹脂で作成した所定サイズのインジケーターを、エンジルーム内に設置されている樹脂製品やゴム製品に貼付け、所定時間経過後に回収・サンプリングし、DSC分析から熱履歴を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車エンジンルーム内の樹脂製品、ゴム製品などの熱履歴推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンルーム内に設置されているホース、カップ・シール部品、装置部品(タンク類、シリンダヘッドカバーなど)等の樹脂製品、ゴム製品はエンジン部やその他外部からの熱を受け経年劣化していくため、市場回収を行い製品設計へフィードバックしている。
経年劣化の評価としては熱履歴を利用するのが一般的であり、その熱履歴の推定方法としては材料物性からの評価、あるいは分析機器を利用した評価が考えられる。
分析評価方法としてはDSC(示差走査熱量計)分析が用いられており、熱履歴既知のポリエチレンのDSC分析から熱履歴に基づく吸熱ピークの温度との関係式を求め、サンプルの熱履歴を推定する方法が報告されている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平3−142347
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この熱履歴推定を材料物性やDSC分析から評価する場合、次のステップを取る必要がある。
1.事前に、熱履歴既知の材料(その製品に使用している材料)で物性評価あるいはDSC分析をしておき、「熱履歴と物性値の関係式」あるいは「熱履歴とDSC吸熱ピーク温度との関係式」を求める。
2.熱履歴を評価する対象製品からサンプルを切出し物性を評価あるいはDSC分析をし、「熱履歴と物性値の関係式」あるいは「熱履歴とDSC吸熱ピーク温度との関係式」から熱履歴を推定する。
この方法で熱履歴を推定する場合には、事前に材料の異なる製品毎に「熱履歴と物性値の関係式」あるいは「熱履歴とDSC吸熱ピーク温度との関係式」を求める必要があり煩雑な準備が必要となる。さらに、熱履歴評価の製品形状が複雑な場合にはサンプリングが出来にくい問題、また製品形状を元の状態のまま保存できない問題などが生じる。一方、DSC分析の場合には結晶性材料製の製品のみが対象となり汎用性が少ないという問題もある。
そこで本発明の目的は、材料の異なる製品毎に「熱履歴と物性値の関係式」あるいは「熱履歴とDSC吸熱ピーク温度との関係式」を求める必要がなく、さらに履歴評価の製品にダメージを与えずに、自動車エンジンルーム内の樹脂製品、ゴム製品の熱履歴を推定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するために次の手段を採ったものである。
融点が150℃以上の結晶性樹脂で作成した所定サイズのインジケーターを、エンジルーム内に設置されている樹脂製品やゴム製品に貼付け、所定時間経過後に回収・サンプリングし、DSC分析から熱履歴を推定する自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。以下に本発明における各要素の態様を例示する。
1.融点(mp)が150℃以上の結晶性樹脂
融点が150℃以上の結晶性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール(mp=200℃)、PET(ポリエチレンテレフタレート)(mp=280℃)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)(mp=285℃)及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(mp=346℃)などが例示できる。さらにポリアミドは脂肪族ポリアミドとしてポリアミド6(mp=224℃)、ポリアミド66(mp=264℃)、ポリアミド11(mp=189℃)、ポリアミド12(mp=182℃)が例示できる。また芳香族ポリアミドとしてはMXD6(mp=243℃)が例示できる。DSCチャートの吸熱ピークが顕著に現れる脂肪族ポリアミドが適しており、その中でもポリアミド11がより適している。
融点が150℃以上の結晶性樹脂の選定理由としては、昨今のエンジンルーム内は高熱化しており、前述の特許文献1に記載のポリエチレンでは熱履歴の推定が困難なためである。
2.インジケーターのサイズ
複数回のサンプリングができるよう、例えば長手方向に5mm等間隔で切り込みを入れた5mm×25mmサイズの樹脂板を射出成形などで成形する。特にサイズは限定する必要はなく、熱履歴評価製品の大きさ・形状により任意のサイズでよい。尚、DSC分析に使用するサンプル量は10mg程度と少量なので板厚はできるだけ薄いほう良く、0.5mm程度が適している。
3.所定時間
被測定物の環境により適宜取り決めれば良く、100時間、250時間、500時間、1000時間程度を目安にする。
4.サンプリング量
10mg程度が目安であるが、少なくとも1mgのサンプル量は必要である。
5.DSC分析からの熱履歴推定方法
熱履歴が判明しているサンプルを準備し(熱履歴として温度・時間水準を取ったサンプル)それぞれDSC分析を行う。融点より低温側でかつ吸熱側に出現するブロードピークの温度を読み取り、このブロードピーク温度と熱履歴温度・時間との関係をグラフ化する。その後、所定時間経過した測定サンプルのDSC分析を行い、ブロードピーク温度と熱履歴時間から熱履歴温度を推定する。
6.樹脂製品やゴム製品
エンジルーム内に設置されている樹脂製品としては、樹脂ホース(フューエルチューブ、樹脂ウォーターパイプ、樹脂バキュームブレーキホースなど)、装置部品(タンク類、シリンダヘッドカバーなど)等があり、ゴム製品としてはゴムホース(ラジエータホースなど)、カップ・シール部品等がある。
【発明の効果】
【0005】
材料の異なる製品毎に熱履歴と物性値の関係式(あるいは熱履歴とDSC吸熱ピーク温度との関係式)を求める必要がなく、さらにエンジンルーム内で熱を受けた製品にダメージを与えることなく熱履歴 (所定時間に受けた熱履歴温度) の推定ができ、製品設計へのフィードバックが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の好ましい態様としては、長手方向に5mm等間隔で切り込みを入れた5mm×25mm(t=0.5mm)サイズのポリアミド11(mp=189℃)製のインジケーターを作成する。このインジケーターには切り込みが入れてあるので試料サンプリングが容易であり、また各試料は一つのインジケーターから作成しているので成形条件のバラツキの影響が受けにくい。そのインジケーターをエンジルーム内の樹脂製品やゴム製品に貼付け、所定時間経過後に回収・サンプリングをし、DSC分析から熱履歴を推定することである。
【実施例】
【0007】
表1の熱履歴を付与した試料(ポリアミド11)のDSC分析を行い、図1に示すDSCチャートのブロードピーク温度を読み取る。その結果を表2及び図2に示す。図2をブロードピーク温度と熱履歴温度・時間との関係グラフとする。
DSCの測定条件を下記する。
サンプル量:10mg
昇温速度: 20℃/分

実車を想定した125℃の雰囲気下にラジエータホースを置き、前もって射出成形で作成しておいたポリアミド11の5mm×25mm片(t=0.5mm)のインジケーターをラジエータホース上に貼り付けた。尚、比較用として同サイズのポリエチレン(PE)製インジケーターも試験に供した。
125℃雰囲気下に400時間、800時間放置した試験片から試料(5mm×5mm片)を取り出し、それぞれDSC分析を行った。
DSCチャートから読み取ったブロードピーク温度の結果を表3に示す。このブロードピーク温度を図2のブロードピーク温度と熱履歴温度・時間との関係グラフにプロットして熱履歴温度を推定した。その結果を表3に示す。
推定した熱履歴温度は400時間放置のものが123℃、800時間放置のものが127℃であり、測定雰囲気温度である125℃に近い結果を得ることができた。尚、PE試料ではブロードピーク温度が出現せず熱履歴温度の推定はできなかった。
(表1)

【0008】
(表2)



【0009】
(表3)

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ポリアミド11のDSCチャート
【図2】ブロードピーク温度と熱履歴温度・時間との関係グラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が150℃以上の結晶性樹脂で作成した所定サイズのインジケーターを、エンジルーム内に設置されている樹脂製品やゴム製品に貼付け、所定時間経過後に回収・サンプリングし、DSC分析から熱履歴を推定する自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。
【請求項2】
前記結晶性樹脂がポリアミド、ポリアセタール、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)から選ばれる1種である請求項1記載の自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。
【請求項3】
前記ポリアミドが脂肪族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドでである請求項2記載の自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。
【請求項4】
前記脂肪族ポリアミドがポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11及びポリアミド12から選ばれる1種である請求項3記載の自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。
【請求項5】
前記芳香族ポリアミドがMXD6である請求項3記載の自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。
【請求項6】
前記DSC分析は、融点より低温側でかつ吸熱側に出現するブロードピークの温度を読み取り、前もって作成したブロードピーク温度と熱履歴温度・時間との関係から熱履歴を推定する請求項1〜5のいずれか一項に記載の自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。
【請求項7】
前記ブロードピーク温度と熱履歴温度・時間との関係は、熱履歴が判明しているサンプルを準備し(熱履歴として温度・時間水準を取ったサンプル)それぞれのDSC分析を行い、前記融点より低温側でかつ吸熱側に出現するブロードピークの温度と熱履歴温度・時間から求めたものである請求項6記載の自動車エンジンルーム内の樹脂・ゴム製品の熱履歴推定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−93265(P2007−93265A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279776(P2005−279776)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】