説明

自動車グレージング用プラスチック基材

【課題】耐擦傷性、UV遮蔽性、耐候性を兼ね備え、更に硬度、透明性、密着性に優れ、且つ長期間の屋外暴露後においても劣化が少ない耐候性に優れる自動車グレージング用プラスチック基材を提供する。
【解決手段】アルコキシシリル基を有するベンゾフェノンの反応生成物及び/又はその(部分)加水分解物を含有する耐候性に優れたハードコート剤と、紫外線吸収性の官能基を共重合したポリマーからなるプライマー層を組み合わせた、プラスチック基材上に塗工され、加熱硬化されることにより、耐候性、耐摩耗性、密着性に優れた塗膜を形成する組成物を被覆した自動車グレージング用プラスチック基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ガラスに代わる構造材料として、車両等の窓用等に使用されるポリカーボネート樹脂等に優れた耐擦傷性、耐候性の保護被膜を形成するシリコーン系コーティング剤で被覆された自動車グレージング用プラスチック基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、透明板ガラスの代替として、軽量で非破砕性の透明樹脂材料を使用することが広く行われるようになってきた。プラスチック基材、特にポリカーボネート樹脂等は、透明性、耐衝撃性、耐熱性等に優れていることから、ガラスに代わる構造部材として、車両等の窓用や計器カバー等の用途に用いられている。
しかし、ポリカーボネート樹脂等のプラスチック基材は、ガラスに比べて耐擦傷性、耐候性等の表面特性に劣ることから、この表面特性を改良することが切望されている。
ポリカーボネート樹脂成形品の耐擦傷性を改良する方法としては、樹脂基材の表面にオルガノポリシロキサン等の熱硬化性樹脂をコーティングする方法が提案されている。また、耐候性を改良する手段としては、表面に耐候性に優れた紫外線吸収剤を含有した樹脂層を設ける方法が提案されている。
【0003】
従来、プラスチック等の有機樹脂基材の表面に、高硬度、耐擦傷性の付与を目的とした表面保護塗膜を形成するコーティング剤として、加水分解性オルガノシランを加水分解もしくは部分加水分解して得られる組成物からなるコーティング剤、あるいは該組成物にコロイダルシリカを混合したコーティング剤が知られている。例えば、特開昭63−168470号公報(特許文献1)には、オルガノアルコキシシランの加水分解物及び/又はその部分縮合物、及びコロイダルシリカからなり、過剰の水でアルコキシ基をシラノールに変換してなるコーティング剤が提案されている。
【0004】
このコーティング剤により得られる塗膜は、硬度が高く、基材保護用として優れているが、靭性に乏しく、10μm以上の厚膜においては、加熱硬化中、あるいは、屋外で使用中、急激な温度変化が起こったとき等に容易にクラックが発生する。また、このコーティング層は紫外線をカットする能力に乏しく、樹脂基材に基材接着性を付与するための下塗り層とトップ層の界面が紫外線で劣化するため、膜が剥離したり、プラスチック基材が変色するという欠点があった。
【0005】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性ビニル系単量体あるいはベンゾフェノン系紫外線吸収性ビニル系単量体とこの単量体に共重合可能なビニル系単量体の混合物を塗料の成分とし、これを用いて合成樹脂等の表面に保護塗膜を形成することが知られている(特許文献2:特開平8−151415号公報)。更に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性ビニル系単量体あるいはベンゾフェノン系紫外線吸収性ビニル系単量体、アルコキシシリル基含有ビニル系単量体、及びこれら単量体に共重合可能なビニル系単量体の共重合体を塗料成分とすることで、樹脂基材への密着性を保ちつつ耐候性を付与した多層積層樹脂物品を得られることが知られている(特許文献3:特許第3102696号公報)。しかし、こうした保護被膜はビニル系重合体からなるため、耐擦傷性が悪いという欠点があった。
シリコーン層に有機系紫外線吸収剤を添加する方法も以前から行われてきた。しかしながら、これらの化合物をコーティング組成物に単純に添加しただけでは、塗膜とした後の耐久性、即ち長期暴露後の紫外線吸収剤の表面からのブリード、流出が発生し、持続性に乏しいものであった。
【0006】
そこで、コーティング層の主成分であるシロキサン化合物と化学結合が形成できるような、シリル変性した有機系紫外線吸収剤を用いる方法もこれまで開示されている(特許文献4:特公平3−14862号公報、特許文献5:特公平3−62177号公報、特許文献6:特開平7−278525号公報参照)。これは、紫外線吸収剤がシロキサンマトリックスに強固に結合しているため、持続性は向上したが、その一方で、耐候性発現のために導入した紫外線吸収性官能基の影響のため、本来のコーティング層の耐擦傷性が大幅に低下し、あるいは可撓性の低下によるミクロクラックの発生が顕著になるという問題があった。
【0007】
耐候性及び耐擦傷性を併せ持つ透明体を製造する方法としては、特開昭56−92059号公報(特許文献7)及び特公平7−10966号公報(特許文献8)等に記載があり、多量の紫外線吸収剤を添加した下塗り層を介してコロイダルシリカ含有ポリシロキサン塗料の保護被膜を設けた紫外線吸収透明基板が知られている。また、特許第3102696号公報(特許文献3)では、共重合体塗料を下塗り剤とし、その被膜上にコロイダルシリカ含有ポリシロキサン樹脂被膜を形成することで、耐擦傷性及び耐候性を付与した被覆物品を得ている。しかしながら、トップ層に耐候性が全くないため、下塗り層とトップ層の界面が紫外線により劣化を起こして下塗り層とトップ層の間で剥離するといった不具合が発生しやすく、長期の耐候性は不十分であった。
【0008】
以上のように、コーティング剤で被覆したプラスチック基材について、耐候性、耐擦傷性等の改善について様々な試みがなされてきたが、可視光の透明性を維持しながら耐擦傷性、紫外線遮蔽性を発現し、長期の屋外暴露に耐えうる耐候性、耐久性を全て満たしたコーティング組成物で被覆した基材は存在してなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−168470号公報
【特許文献2】特開平8−151415号公報
【特許文献3】特許第3102696号公報
【特許文献4】特公平3−14862号公報
【特許文献5】特公平3−62177号公報
【特許文献6】特開平7−278525号公報
【特許文献7】特開昭56−92059号公報
【特許文献8】特公平7−10966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情を改善するためになされたもので、可視光透明性を損なうことなく、紫外線遮蔽性を兼ね備え、長期の耐擦傷性、耐候性に優れるコーティング層で被覆した自動車グレージング用プラスチック基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、プラスチック等の基体の表面上に2層以上の樹脂層を有し、これらの樹脂層のうち、基体表面側の第1層(下塗り層)をアルコキシシリル基と紫外線吸収基を有するビニル系共重合体と二酸化ケイ素微粒子を含む硬化樹脂層とし、この第1層上に存する第2層(ハードトップ層)は、紫外線吸収性を有するオルガノオキシシランを含む有機ケイ素化合物の加水分解混合物又は共加水分解物と二酸化ケイ素微粒子を含むオルガノポリシロキサン組成物の硬化樹脂層としたところ、下塗り層の有機紫外線吸収基がブリードアウトせず、かつ、ハードトップ層と下塗り層の二酸化ケイ素微粒子と相性が良好なため耐擦傷性を悪化させることがなく、更に、ハードトップ層の有機紫外線吸収基と下塗り層の有機紫外線吸収基とを併用するため、両者の相乗的な作用で広範囲の紫外線領域の光を効率よく吸収し得るため、ポリカーボネート樹脂等のプラスチック基体の耐候性が大幅に改善されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記自動車グレージング用プラスチック基材を提供する。
請求項1:
基体の表面上に2層以上の樹脂層を有し、これらの樹脂層のうち、基体表面側の第1層は、アルコキシシリル基と紫外線吸収基を有するビニル系共重合体と二酸化ケイ素微粒子を含む硬化樹脂層であり、第1層上に存する第2層は、紫外線吸収性を有するオルガノオキシシランを含む有機ケイ素化合物の加水分解混合物又は共加水分解物と二酸化ケイ素微粒子を含むオルガノポリシロキサン組成物の硬化樹脂層であることを特徴とする自動車グレージング用プラスチック基材。
請求項2:
第1層が、下記(イ)〜(ハ)成分を用いて形成されたビニル系共重合体と二酸化ケイ素微粒子を含むコーティング剤の硬化物である請求項1記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
(イ)紫外線吸収性ビニル系単量体
(ロ)アルコキシシリル基含有ビニル系単量体
(ハ)それ以外のビニル系単量体
請求項3:
第1層に用いられるビニル系共重合体が、(イ)紫外線吸収性ビニル系単量体と(ロ)アルコキシシリル基含有ビニル系単量体と(ハ)それ以外のビニル系単量体とを(イ):(ロ):(ハ)=1〜30質量%:1〜30質量%:40〜98質量%の比率で共重合して得られるビニル系樹脂である請求項2記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
請求項4:
第1層を形成するコーティング剤が、更に脱水剤を含有する請求項2又は3記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
請求項5:
第2層が、下記(1)〜(4)成分を含有する紫外線吸収性コーティング剤の硬化物である請求項1乃至4のいずれか1項記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
(1)(A)下記一般式(1)で表される少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物又はその(部分)加水分解縮合物
1aSi(OR3(4-a) (1)
(式中、R1は、炭素数1〜18の有機基であり、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、aは0≦a≦2の整数である。)
(B)アルコキシシリル基を有するベンゾフェノン又はその(部分)加水分解縮合物からなる反応性紫外線吸収剤
(2)二酸化ケイ素微粒子
(3)下記平均組成式(2)のシロキサン樹脂
2bSi(OR3c(OH)d(4-b-c-d)/2 (2)
(式中、R2は、同一又は異種の炭素数1〜18の有機基であり、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、b,c及びdは、0.8≦b≦1.5、0≦c≦0.3、0.001≦d≦0.5、0.801≦b+c+d<2を満たす数である。)
で表され、40℃以下で固体であり、重量平均分子量が2,000以上のシロキサン樹脂
(4)硬化触媒
請求項6:
(B)成分が、下記一般式(I)で示される、アルコキシシリル基を有するベンゾフェノンからなる反応性紫外線吸収剤である請求項5記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
【化1】

(式中、A1〜A10は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、又は下記一般式(II)で示される基であるが、A1〜A10のうち少なくとも1個は下記一般式(II)で示される基である。)
−O−(CH2m+2−SiR11n(OR123-n (II)
(式中、R11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基を示す。mは、1〜5の整数、nは、0〜2の整数を示す。)
請求項7:
(1)成分及び(2)成分として、(1)の(A)成分及び(B)成分と(2)成分とを酸性触媒中で加水分解・縮合させることによって得られたものを用いる請求項5又は6記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
請求項8:
紫外線吸収性コーティング剤が、更に(5)チタンテトラアルコキシドのβ−ジケトンとの反応物及び/又は混合物の加水分解・縮合物を含有する請求項5乃至7のいずれか1項記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
請求項9:
前記基体が、ポリカーボネート樹脂である請求項1乃至8のいずれか1項記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、可視光の透明性を維持しながら耐擦傷性、紫外線遮蔽性を発現し、更に長期の屋外暴露に耐えうる耐候性、耐久性を兼ね備えた樹脂層で被覆した自動車グレージング用プラスチック基材を提供することができる。
【0014】
本発明のプラスチック基材、特に本発明に係る樹脂層が形成されたポリカーボネート樹脂は、軽量で優れた透明性、耐擦傷性、耐候性、耐薬品性を有するため、車両の窓材等として、紫外線に曝される屋外で使用される用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の自動車グレージング用プラスチック基材は、基体の表面上に2層以上の樹脂層を有するものである。この場合、基体表面側の層(樹脂層が2層の場合は基体表面に接している層)である第1層(下塗り層)は、アルコキシシリル基と紫外線吸収基を有するビニル系共重合体と二酸化ケイ素微粒子を含む硬化樹脂層であり、第1層上に存する層(樹脂層が2層の場合は第1層に接している層)である第2層(ハードトップ層)は、紫外線吸収性を有するオルガノオキシシランを含む有機ケイ素化合物の加水分解混合物又は共加水分解物と二酸化ケイ素微粒子を含むオルガノポリシロキサン組成物の硬化樹脂層である。
【0016】
このように、本発明は、紫外線吸収性のハードトップ層と紫外線吸収性の下塗り層の組み合わせからなる紫外線吸収能と耐擦傷性を付与された自動車グレージング用プラスチック基材を提供するものである。
【0017】
以下、本発明のプラスチック基材につき、更に詳しく説明する。
(1)基体
本発明において、基体としては、プラスチック成形体、あるいはプラスチックとセラミックス、ガラス、金属等との複合物等が挙げられ、各種プラスチック材料(有機樹脂基材)が好適に使用され、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂等のプラスチック基体が好ましく、特にポリカーボネート樹脂等が好ましい。
【0018】
更にこれらの樹脂基体の表面が処理されたもの、具体的には、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液での処理、及び基体本体と表層が異なる種類の樹脂で形成されている積層体を用いることもできる。積層体の例としては、共押し出し法やラミネート法により製造されるポリカーボネート樹脂基体の表層にアクリル樹脂層もしくはウレタン樹脂層が存在する積層体、又はポリエステル樹脂基体の表層にアクリル樹脂層が存在する積層体等が挙げられる。
【0019】
(2)第1層(下塗り層)
本発明の第1層(下塗り層)は、下塗り剤組成物(コーティング剤)の硬化層である。
ここで、本発明に係る下塗り剤組成物の必須成分は、次の(イ)〜(ハ)成分を用いて形成された紫外線吸収性のビニル系共重合体と二酸化ケイ素微粒子を含むコーティング剤である。
即ち、ビニル系共重合体は、(イ)紫外線吸収性ビニル系単量体と、(ロ)アルコキシシリル基含有ビニル系単量体と、(ハ)それ以外のビニル系単量体とを用いて得られるもので、この場合、(イ)、(ロ)、(ハ)成分が(イ):(ロ):(ハ)=1〜30質量%:1〜30質量%:40〜98質量%の比率で共重合して得られるビニル系樹脂であることが好ましい。
【0020】
ここで、(イ)成分の紫外線吸収性ビニル系単量体としては、分子内に紫外線吸収基とビニル基とをそれぞれ少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はない。このような化合物として、例えば、下記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール系化合物、及び一般式(4)で表されるベンゾフェノン系化合物を挙げることができる。
【0021】
【化2】

(式中、Xは、水素原子又は塩素原子を示す。R21は、水素原子、メチル基、又は炭素数4〜8の第3級アルキル基を示す。R22は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R23は、水素原子又はメチル基を示す。nは、0又は1を示す。)
【0022】
【化3】

(式中、R23は、上記と同じ意味を示す。R24は、置換又は非置換の直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R25は、水素原子又は水酸基を示す。)
【0023】
上記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール系化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロキシメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(8−(メタ)アクリロキシオクチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。
【0024】
上記一般式(4)で表されるベンゾフェノン系化合物の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(4−(メタ)アクリロキシブトキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,2’,4−トリヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−1−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0025】
上記紫外線吸収性ビニル系単量体としては、式(3)で表されるベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、中でも2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールが好適に使用される。
【0026】
(ロ)成分のアルコキシシリル基含有ビニル系単量体としては、アルコキシシリル基とビニル基を含む一価の炭化水素基からなる化合物で、ビニル基を含む一価の炭化水素基としては、ビニル、アリル、3−アクリロキシプロピル、3−メタクリロキシプロピル、p−ビニルフェニル等が原料入手と合成の容易さから推奨され、アルコキシシリル基は、トリアルコキシル基、ジアルコキシル基又はモノアルコキシル基である。望ましいビニル系単量体としては、トリアルコキシシリル基を含有するビニル系単量体を挙げることができる。加水分解性基の数は1〜3の整数から選ばれ、短時間の内に網状構造を形成させる意味から2又は3であることが好ましく、3であることが特に好ましい。
【0027】
これら(ロ)成分の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(エトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリス(エトキシエトキシ)シラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリス(エトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(エトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0028】
本発明で使用する(ハ)成分のそれ以外のビニル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンのようなビニル芳香族炭化水素;塩化ビニル、塩化ビニリデンのようなハロゲン化ビニル;ブタジエン、イソプレンのような共役ジエン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのような炭素数1〜12の飽和脂肪酸のビニルエステル等を挙げることができる。
【0029】
本発明で使用するビニル系共重合体は、(イ)成分、(ロ)成分及び(ハ)成分を有機溶剤及び遊離基開始剤の存在下で、おおよそ室温から溶剤の還流温度までの温度、好ましくは50〜150℃の温度で反応させることにより得られる。用いる溶剤の種類と量は後述する有機溶剤と同じでよい。
【0030】
遊離基開始剤としては、アゾ化合物又は有機過酸化物が使用でき、具体的にはアゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、アセトンパーオキサイド等が例示される。遊離基開始剤の量は特に限定されないが、(イ)成分、(ロ)成分及び(ハ)成分の合計量に対して0.01〜1質量%程度が適当である。
【0031】
また、この重合を行う際に、n−プロパンチオール、1−ヘキサンチオール、1−デカンチオール、ベンゼンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシラン又は3−メルカプトプロピルトリエトキシシランのような連鎖移動剤を用いて分子量をコントロールすることもできる。
【0032】
共重合体中の(イ)成分と(ロ)成分の含有量は、(ハ)成分に対して、(イ)成分、(ロ)成分共に1〜30質量%であることが好ましい。(イ)成分の使用量がこの範囲より少ないと紫外線遮蔽性が低下するおそれがあり、逆にこの範囲より多いと下塗り層とハードトップ層間の密着性が悪くなるおそれがある。(ロ)成分の使用量がこの範囲より少ないとハードトップ層と下塗り層との間の密着性が低下するおそれがあり、逆にこの範囲より多いと下塗り層が脆くなるおそれがある。
【0033】
ビニル系共重合体は、溶剤に溶解して用いることが好ましく、溶剤としては、(イ)〜(ハ)成分を用いて得られた共重合体を溶解するものであれば特に限定されるものではないが、極性の高い有機溶剤が主溶剤であることが好ましい。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類などを挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上の混合物を使用することができる。
【0034】
溶剤の添加量としては、固形分濃度を1〜30質量%、特に5〜25質量%とする量を用いることが好ましい。この範囲外ではコーティング剤を塗布、硬化した塗膜に不具合が生じることがあり、特に上記範囲未満の濃度では塗膜にタレ、ヨリ、マダラが発生し易くなり、所望の硬度、耐擦傷性が得られない場合がある。また、上記範囲を超える濃度では、塗膜のブラッシング、白化、クラックが生じ易くなるおそれがある。
【0035】
本発明の下塗り層における必須成分である、二酸化ケイ素微粒子について説明すると、これは、有機溶剤に分散した二酸化ケイ素微粒子である。
【0036】
二酸化ケイ素の粒子は、下塗り層の線膨張係数を低減するために、添加するものである。ナノサイズの二酸化ケイ素が、有機溶剤の媒体にコロイド分散している形態であり、市販されている有機分散タイプが使用可能である。
【0037】
二酸化ケイ素微粒子は有機溶剤に分散し、かつ本下塗り剤組成物(コーティング剤)を硬化させることにより形成される下塗り層の線膨張係数が150×10-6/℃以下となれば、特に制限はない。ここで、二酸化ケイ素微粒子は粒子表面にSiOH基を有するため、ビニル系重合体の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基との間でシロキサン架橋することにより有機−無機複合体を生成する。その結果、線膨張係数が150×10-6/℃以下にまで低下する。
【0038】
このような有機溶剤に分散した二酸化ケイ素微粒子の有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン/n−ブタノールの混合物を挙げることができる。なかでも、ビニル系重合体の溶解性を考慮すると、エチレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が好ましい。
【0039】
また、下塗り層中での分散性及び透明性を考慮すると、二酸化ケイ素微粒子の一次粒子径は1〜100nmであるのが好ましい。より好ましくは2〜50nmがよい。100nmを超えると、二酸化ケイ素微粒子の本組成物中での分散安定性が低下したり、硬化被膜の透明性が著しく低下したりする場合がある。
【0040】
このような有機溶剤に分散した二酸化ケイ素微粒子としては、オルガノシリカゾルと称される有機溶剤に分散したコロイダルシリカが好ましい。特にエチレングリコール分散シリカゾル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル分散シリカゾル、エチルセロソルブ分散シリカゾル、ブチルセロソルブ分散シリカゾル、プロピレングリコールモノメチルエーテル分散シリカゾル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散シリカゾル、メチルエチルケトン分散シリカゾル、メチルイソブチルケトン分散シリカゾルが例示できる。更に、前記有機溶剤に分散した二酸化ケイ素微粒子は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
なお、これらの有機溶剤に分散したコロイダルシリカとしては、市販品が用いられる。例えばこのような市販品として、後述する実施例1〜4で用いたPMA−ST、MEK−ST、MIBK−ST(いずれも日産化学工業(株)製)のほか、IPA−ST−L、IPA−ST−MS、EG−ST−ZL、DMAC−ST−ZL、XBA−ST(いずれも日産化学工業(株)製)、OSCAL1132、1332、1532、1722、EOM ST−1003SIV(いずれも触媒化成工業(株)製)を挙げることができる。
【0042】
本発明の下塗り剤組成物(コーティング剤)中における上記加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と有機系紫外線吸収性基とが側鎖に結合したビニル系重合体と有機溶剤に分散したシリカ微粒子の配合量は、ビニル系重合体の樹脂分100質量部に対し、シリカ微粒子の固形分を0.1〜100質量部含有するのが好ましく、より好ましくは1〜50質量部含有するのがよい。二酸化ケイ素微粒子を、100質量部を超えて添加すると、本発明の下塗り層における架橋密度が高くなりすぎて、得られる被膜の硬度が高くなり、基材や該下塗り層表面に積層したポリシロキサン系被膜との密着性が不良となる場合がある。また、0.1質量部未満では得られる被膜の架橋密度が低くなり、該下塗り層の線膨張係数が150×10-6/℃以下にならずに、期待した密着性、耐クラック性が得られない場合がある。
【0043】
また、本発明の下塗り剤組成物(コーティング剤)は、前記加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と有機系紫外線吸収性基とが側鎖に結合したビニル系重合体と、有機溶剤に分散した二酸化ケイ素微粒子とを反応させた有機−無機複合体を含んでいてもよい。予めこれらを反応させて有機−無機複合体を形成しておくと、本発明の下塗り剤組成物(コーティング剤)を硬化させる際に硬化が進行し基板との密着性がより低下することがある。
【0044】
前記加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と有機系紫外線吸収性基とが側鎖に結合したビニル系重合体と、有機溶剤に分散した二酸化ケイ素微粒子との反応が、水分の存在下、あるいは、加熱下(30〜120℃、特に40〜80℃で0.5〜12時間、特に1〜10時間)に起こるため、溶液組成物での安定性を損ねることがあるため、脱水剤を共存させることが望ましい。
【0045】
脱水剤は、水と反応して消費するものであればどのようなものでもよい。通常、オルソギ酸エステル、オルソ酢酸エステル、カルボジイミド等が使用できる。オルソギ酸メチル、オルソギ酸エチル、オルソギ酸プロピル等が容易に入手できる。
【0046】
この場合、脱水剤の使用量は下塗り剤組成物(コーティング剤)の樹脂分100質量部に対し、0.1〜100質量部使用するのが好ましく、より好ましくは1〜50質量部使用するのがよいが、このうち外部から持ち込まれた水分が反応しさえすればよい。
【0047】
この脱水剤の存在により、溶液中では加水分解性シリル基は安定に存在し、塗膜形成後に効率的にハードトップ層の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と結合を起こし、紫外線吸収性基とが側鎖に結合したビニル系重合体中の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と架橋するため、被膜が緻密化され、クラックを抑制でき、また紫外線吸収剤等を塗膜層中に効率よく固定化できる。
【0048】
(3)ハードトップ層
以下に、本発明の第2層(ハードトップ層)を構成する組成物(コーティング剤)を説明すると、これは、以下の(1)〜(4)成分を含有する組成物である。
(1)(A)下記一般式(1)で表される少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物又はその(部分)加水分解縮合物
1aSi(OR3(4-a) (1)
(式中、R1は、炭素数1〜18の有機基であり、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、aは0≦a≦2の整数である。)
(B)アルコキシシリル基を有するベンゾフェノン又はその(部分)加水分解縮合物からなる反応性紫外線吸収剤
(2)二酸化ケイ素微粒子
(3)下記平均組成式(2)のシロキサン樹脂
2bSi(OR3c(OH)d(4-b-c-d)/2 (2)
(式中、R2は、同一又は異種の炭素数1〜18の有機基であり、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、b,c及びdは、0.8≦b≦1.5、0≦c≦0.3、0.001≦d≦0.5、0.801≦b+c+d<2を満たす数である。)
で表され、40℃以下で固体であり、重量平均分子量が2,000以上のシロキサン樹脂
(4)硬化触媒
【0049】
以下に、本発明の各成分を詳細に説明する。
1)(1)(A)成分
本発明のハードトップコート剤(コーティング剤)の(A)成分は、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物又はその(部分)加水分解縮合物である。
1aSi(OR3(4-a) (1)
(式中、R1は、炭素数1〜18の有機基であり、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、aは0≦a≦2の整数である。)
【0050】
上記式(1)中、R1は、炭素数1〜18の有機基であり、特に炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基が好ましい。これらの一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、シクロヘキシル基、1,1,2−トリメチルプロピル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリル基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基等が例示される。これらの中でも、特に耐擦傷性や耐候性が要求される用途に使用する場合にはアルキル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0051】
OR3は加水分解性基であり、炭素数1〜6の加水分解性基等が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、イソプロペノキシ基等のアルコキシ基などのオルガノオキシ基を挙げることができる。この中で、特に操作性、副産物の留去の容易さ、安定性から炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、とりわけメトキシ基、エトキシ基が好ましく、ハードトップ剤の硬度、耐摩耗性、密着性の観点から、3官能性加水分解性シラン(a=1のシラン)が40モル%以上含まれることが好ましい。
【0052】
具体的なケイ素化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0053】
2)(1)(B)成分
(B)成分は、アルコキシシリル基を有するベンゾフェノン誘導体又はその(部分)加水分解縮合物からなる反応性紫外線吸収剤で、下記式(I)で表され、特に2つ以上のアルコキシシリル基を有するベンゾフェノン誘導体(I)である反応性紫外線吸収剤が望ましい。
【0054】
【化4】

(式中、A1〜A10は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、又は下記一般式(II)で示される基であるが、A1〜A10のうち少なくとも1個、好ましくは2個以上は下記一般式(II)で示される基である。)
−O−(CH2m+2−SiR11n(OR123-n (II)
(式中、R11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基を示す。mは、1〜5の整数、nは、0〜2の整数を示す。)
【0055】
この反応性紫外線吸収剤は、2つ以上のヒドロキシ基を有するベンゾフェノン(III)とアリル化合物(IV)を反応させて、アリル基を有するベンゾフェノンを合成した後、ヒドロキシ基を持つアルコキシシラン(V)を、白金触媒の存在下で反応させて得られる。
【化5】

【0056】
一般式(III)中のR1〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又はヒドロキシ基で、R1〜R10の少なくとも2個はヒドロキシ基である。一般式(IV)中のXは、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンで、mは、1〜5の整数を示す。
一般式(V)中のR11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基を示す。mは、1〜5の整数、nは0〜2の整数を示す。
【0057】
本発明の原料である一般式(III)で表わされる2つ以上のヒドロキシ基を有するベンゾフェノンは、2つ以上のヒドロキシ基を有するフェノール類と、芳香族カルボン酸類との反応により、ポリヒドロキシベンゾフェノン類として容易に製造することができる(例えば、特開平5−70397号公報)。
【0058】
具体的には4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4,4’−ペンタヒドロキシベンゾフェノン、2,3−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−4’−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−3,4−ジメトキシベンゾフェノン、2,3−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−メトキシ−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−メトキシ−2’,3’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ブトキシ−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、及び3,4−ジメトキシ−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0059】
本発明において用いられる前記一般式(I)で表される化合物は、このポリヒドロキシベンゾフェノン類と、アリル基を有するハロゲン類との反応により、製造することができる。
【0060】
より具体的には、前記一般式(III)で表される化合物と、アリルクロライドやアリルブロマイド、アリルヨージドのような一般式(IV)で表される化合物とを、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属アルコキサイド、アルカリ土類金属アルコキサイド、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アミン類のような塩基の存在下に、ケトン、エステル、エーテル等の反応に不活性な溶媒中で反応させることにより合成することができる。反応は、室温〜約200℃の範囲で行い得るが、好ましくは、50〜150℃で行われる。通常、反応は、120℃程度の温度下の場合、約30分〜10時間程度で完了する。得られる反応物は、一般式(VI)で表される。
【0061】
【化6】

(式中、A1〜A10は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、又は−O−(CH2m−CH=CH2で示される基(但し、mは1〜5の整数)であり、A1〜A10の少なくとも1個、好ましくは2個以上が−O−(CH2m−CH=CH2で示される基である。)
【0062】
一般式(I)で表される化合物は、前記一般式(IV)で表される化合物と一般式(V)で表されるヒドロシラン化合物とを、白金触媒の存在下に、必要に応じて、トルエン、テトラヒドロフラン等の反応に不活性な溶媒中で、又は無溶媒で反応させることにより合成することができる。
【0063】
ヒドロシラン化合物は、式(V)で表されるメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシを1〜3個有するヒドロシラン化合物を用いることができる。より好ましくは、トリメトキシシラン、トリエトキシシランである。
【0064】
反応は、室温〜約200℃の範囲で行い得るが、好ましくは、25〜約100℃で行われる。トリメトキシシランを用いる場合、反応は、常温〜60℃程度の加温することで、約30分〜2時間程度で完了する。得られる反応物は、一般式(I)で表される。
【0065】
本発明で使用するシリル化紫外線吸収剤ポリヒドロキシ−ポリ(トリアルコキシシリルアルコキシ)ベンゾフェノン又はポリ(トリアルコキシシリルアルコキシ)ベンゾフェノンの調製は、例えば次のようにして遂行される。
【0066】
最初に有機溶剤中でハロゲン化アリル及び炭酸カリウムをポリヒドロキシベンゾフェノンと反応させて、ポリヒドロキシ−ポリアリロキシベンゾフェノン又はポリアリロキシベンゾフェノンを生じさせる。
【0067】
このベンゾフェノンに白金触媒存在条件下でヒドロアルコキシシランを作用させて、ポリヒドロキシ−ポリ(アルコキシシリルアルコキシ)ベンゾフェノン又はポリ(アルコキシシリルアルコキシ)ベンゾフェノンを生成させる。このとき、すべてのヒドロキシがアリル基を経てアルコキシシリルアルコキシ基に変わってもよいし、一部、ヒドロキシ基のままで残ってもよい。ヒドロキシ基が残ったものは、UVA領域に大きな吸収特性を持ちやすいため、高紫外線吸収能を持ちやすいが、吸収波長域が可視部に広がり、黄色に着色しやすい点と、アルコキシシリル基と反応し高分子化を引き起こしゲル化するおそれがあるため、1分子当たり2モル以下が望ましい。特に、ヒドロキシ基をシリル化することで、この欠点は防止することができる。
【0068】
ヒドロアルコキシシランの量は、ポリアリロキシベンゾフェノンを用いる場合は、アリロキシ基1モルに対し1〜1.2モルでよいが、ポリヒドロキシ−ポリアリロキシベンゾフェノンを用いる場合は、アリロキシ基1モルに対し1.1モル以上、望ましくは1.2モル以上必要である。これは、ヒドロキシ基の一部がアルコキシシロキシ化されるためである。最大量は、アリロキシ基+ヒドロキシ基の総モル数である。このヒドロキシ基の一部をアルコキシシロキシ化することで、高分子化を引き起こし、ゲル化する現象を防止することが可能である。
【0069】
本発明の反応性紫外線吸収剤は、分子内にベンゾフェノン系の骨格を持ち、これが紫外線の吸収に寄与する。また、分子端のアルコキシ基は加水分解して反応性の高いシラノールを生じ、これが縮合重合することによって自身で高分子化、あるいは他のバインダー成分と結合することができる。なお、この硬化性紫外線吸収剤はアルコキシル基の一部が加水分解し、シラノールが縮合重合したオリゴマーの形態でも存在しうる。
【0070】
3)(2)成分
(2)成分は、二酸化ケイ素微粒子である。本成分は、塗膜に硬度・耐摩耗性を与える充填剤の役割と、粒子表面でバインダーとしての(A),(B)成分中のオルガノオキシ基又はシラノール基と結合を形成するため、架橋剤としての役割を果たすと考えられている。即ち、粒子表面は水酸基(Si−OH)が存在しており、(A),(B)成分との間で結合生成(Si−O−Si)が可能である。特に、コロイド状の二酸化ケイ素分散液、即ちコロイダルシリカで、分散媒中に分散された状態(酸化物ゾル)で使用するのが好ましい。分散媒は、水、アルコール等の極性溶剤が好ましい。
【0071】
二酸化ケイ素微粒子の粒径は、塗膜の透明性が維持できるほど小さいものであれば使用可能であるが、1〜300nm、特に1〜100nmの範囲にあるものが好ましい。粒子の分散安定性を増す目的でシランカップリング剤やテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、チタンカップリング剤、カルボキシル基含有有機ポリマー等で一部処理・被覆されたものを用いてもよい。但し、ここでいう(2)成分の主成分は、無機二酸化ケイ素であって、安定化のため添加し、被覆に使用される有機物含有量は10質量%以下であることが好ましい。
【0072】
(2)成分の配合量は、(A),(B)成分中100質量部に対して、5〜300質量部、特に5〜100質量部が好ましい。
【0073】
(A),(B),(2)成分は、(2)成分の二酸化ケイ素の水分散液を、(A),(B)成分の原料である加水分解性ケイ素化合物に加えることによって調製するのが好ましい。これは、(2)成分共存下で(A),(B)成分を製造することを意味する。この方法は、酸性あるいはアルカリ性の水分散の二酸化ケイ素ゾルを使用する場合に効率のよい製造方法であり、本発明では、特に酸性水分散二酸化ケイ素ゾルを用いることが好ましい。この調製法を用いた場合でも、加水分解性基OR3 1モルに対し、水分散二酸化ケイ素ゾル中の水が1モル以上、好ましくは1.2モル以上であることが好ましい。1モル未満だと、前述の如く加水分解性基が残存することになり、架橋密度の低下による硬度低下、密着性低下がおこる。なお、水量の上限に制限はないが、通常10モル以下、特には5モル以下である。
【0074】
また、加水分解触媒を使用してもよい。加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、特に酸性のハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸、酸性あるいは弱酸性の酸化物や無機塩、イオン交換樹脂等の固体酸等を使用することができる。これらの例としては、酢酸、マレイン酸に代表される有機酸、表面にスルホン酸基、又はカルボン酸基を有するカチオン交換樹脂等を好適に用いることができる。加水分解触媒の量は、加水分解性基OR3 1モルに対して0.001〜10モル%が好ましい。また、加水分解は弱酸性条件下で加水分解することが好ましく、特にpHが2〜7の範囲で反応させることが好ましい。加水分解を弱酸性下で行わない場合は生成するシラノール基が不安定となり、縮合反応が進み、分子量が大きくなりすぎることがある。
【0075】
とりわけ、ハードトップ膜の高硬度を得るには、前記の加水分解に続いて、縮合させることが必要である。縮合は、加水分解に続いて連続的に行えばよく、通常、液温が常温又は100℃以下の加熱下で行われる。100℃より高い温度ではゲル化する場合がある。更に80℃以上、常圧又は減圧下にて、加水分解で生成したアルコールを留去することにより、縮合を促進させることができる。更に、縮合を促進させる目的で、塩基性化合物、酸性化合物、金属キレート化合物等の縮合触媒を添加してもよい。縮合工程の前又は最中に、縮合の進行度及び濃度を調整する目的で有機溶剤を添加してもよく、また二酸化ケイ素ゾル等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものを添加してもよい。一般的にシリコーンレジンは縮合が進行すると共に、高分子量化し、水や生成アルコールへの溶解性が低下していくため、添加する有機溶剤としては、生成物をよく溶解し、沸点が80℃以上の比較的極性の高い有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤の具体例としてはイソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類などを挙げることができる。
【0076】
この縮合により得られたシリコーン生成物のGPC分析におけるポリスチレン換算数平均分子量は、1,500以上であることが好ましく、1,500〜50,000であることがより好ましく、2,000〜20,000であることが更に好ましい。分子量がこの範囲より低いと、塗膜の靱性が低く、クラックが発生しやすくなる傾向があり、一方、分子量が高すぎると、硬度が低くなる傾向があり、また塗膜中の樹脂が相分離するために塗膜白化を引き起こす場合がある。
【0077】
4)(3)成分
(3)成分は、下記平均組成式(2)で示されるシロキサン樹脂である。
2bSi(OR3c(OH)d(4-b-c-d)/2 (2)
(式中、R2は、同一又は異種の炭素数1〜18の有機基、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基を示し、b,c及びdは、0.8≦b≦1.5、0≦c≦0.3、0.001≦d≦0.5、0.801≦b+c+d<2を満たす数である。)
【0078】
これは、ハードトップコート膜の高硬度性を維持しながら、柔軟性を与え、クラック等を防止する成分である。
この作用は、(3)成分の末端基(OR3及びOH)量が比較的少なく、ハードトップコート剤の架橋反応に限定的にしか関与せず、架橋ネットワークの隙間を埋める緩衝材のような役割を演じているためと考えられる。この場合、末端基量が少なすぎると、膜内に強固に固定されないので、耐溶剤性等で不利になる場合がある。従って、(3)成分としては、末端基量は比較的少ないが、限定的にハードトップコート膜内に固定化されるだけの結合形成を(A),(B),(2)成分との間で行うことができるものであることが必要である。
【0079】
2は、同一又は異種の炭素数1〜18、特に1〜10の有機基であり、置換又は非置換の一価炭化水素基、例えばアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、ハロゲン置換アルキル基等が挙げられ、アルキル基、アリール基が好ましい。例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ビニル基、トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0080】
3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、特にアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。(OR3)は、シロキサン樹脂の末端基のうち、シラノール基(Si−OH)以外の部分を示し、具体例としてメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、原料の入手が容易なメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0081】
b,c及びdは、0.8≦b≦1.5、0≦c≦0.3、0.001≦d≦0.5、0.801≦b+c+d<2を満たす数である。R2の含有量bが0.8未満だとクラック防止性が低下し、1.5を超えると、有機基が多くなって疎水性が高くなるため、ハードトップコート層への相溶性が低下し、膜内からブリードするため、クラック防止効果がなくなるだけでなく、ハジキ等の外観不良が生じる。OR3の含有量cが0.3を超えると、末端基量が多く、(A),(B),(2)成分との縮合反応に関与してくる比率が高まり、クラック防止性能が発現しなくなる。これらのアルコキシ基等は赤外吸収スペクトル(IR)、アルカリクラッキングによるアルコール定量法等で定量可能である。
【0082】
OHの含有量dが0.5を超えると、加熱硬化時に(A),(B),(2)成分との縮合反応に関与してくる比率が高まり、高硬度ではあるが耐クラック性に乏しくなる。dが0.001未満だと、(A),(B),(2)成分との結合生成が全くなくなり、膜内に固定化されず、硬度低下、耐溶剤性低下をもたらす。
【0083】
より好ましくは、0.9≦b≦1.3、0.001≦c≦0.2、0.01≦d≦0.3、0.911≦b+c+d≦1.8である。これらの値は、樹脂の29Si−NMRを測定し、樹脂の平均化学構造を算出することによって求めることができる。例えば、3官能加水分解性シランから合成されるT単位(RSiO3/2)の中で、下記に示す4種類の構造単位(T0〜3)は、前述の29Si−NMRスペクトルにおいて異なる化学シフトでシグナルが観測される。このシグナルの面積は、この構造の存在比を示すため、この存在比、及びIRスペクトルから求めたアルコキシ基残量からシロキサン樹脂の構造を算出することができる。一般に4官能シラン由来のQ単位(SiO4/2)、3官能シラン由来のT単位(R2SiO3/2)、2官能シラン由来のD単位(R2SiO2/2)、1官能シラン由来のM単位(R2SiO1/2)の組み合わせで表現することができる。本発明の(3)成分をこの表記法で表した時、全シロキサン単位の総モル数に対し、R2SiO3/2で表されるT単位の含有モル数の比率が70モル%以上であることが好ましい。T単位が70モル%未満だと、硬度、耐摩耗性、密着性、塗工性、外観等の総合的なバランスが崩れる場合がある。なお、残部はM,D,Q単位でよく、これらの和が30モル%以下であることが好ましい。
【0084】
(3)成分のシロキサン樹脂は、40℃以下で固体である。40℃以下で液体だと、加熱硬化時に(3)成分のシロキサン樹脂と(A),(B),(2)成分の間で結合が生成したとしても、塗膜の硬度、耐溶剤性が低下する。また、(3)成分のシロキサン樹脂中に含まれる揮発分は、105℃,3時間乾燥にて2質量%以下であることが好ましい。2質量%を超えると40℃以下でも固体が流動したり、融着したりして作業性が低下する場合がある。シロキサン樹脂は、軟化点が60〜90℃であることが好ましい。60℃未満だと、ハードトップコート膜の硬度、耐摩耗性が低下する場合があり、90℃を超えると、(A),(B),(2)成分への相溶性、耐クラック性が低下する場合がある。なお、軟化点はJIS K2207に準拠した環球法で測定した値である。
【0085】
このシロキサン樹脂の分子量は、GPC(ゲルクロマトグラフィー)によって測定することができる。本発明のシロキサン樹脂は、GPCにより測定したポリスチレン標準で換算した重量平均分子量が2,000以上、好ましくは2,000〜10,000である。分子量が2,000未満だと、末端基量が多すぎて架橋に関与してしまうためクラック防止性に乏しくなり、分子量が大きすぎると、(A),(B),(2)成分等との相溶性が低下し、塗膜が不透明になることがある。
【0086】
(3)成分のシロキサン樹脂の製造方法は、以下のような従来公知のレジン製造方法が適用できる。即ち、1種類以上の加水分解性シラン化合物、あるいはこれらと有機溶剤との混合液に対し、水を加えて撹拌し、加水分解性シラン化合物と水を接触させることによって加水分解反応をさせ、加水分解反応によって発生するシラノール基を、互いに、あるいは他の加水分解性基と反応させてシロキサン結合(−Si−O−Si−)を生成させ、縮重合させることによる重合体製造法である。重合後、中和し、最終的に有機溶剤を留去することによって、固形のシロキサン樹脂を得ることができる。この固形レジンは、溶剤不溶のゲルとは異なり、再び有機溶剤に溶解するものである。特に(3)成分として用いる場合に有利な製造方法としては、加水分解を強酸性条件下(特にpHが2より小さいことが好ましい)に行うことがよい。このような強酸性条件下では、縮重合反応に寄与するシラノール基が弱酸性時に比べ不安定で、反応が次々と急速に進行するため高分子量体となる。
【0087】
加水分解に用いる好ましい水量は、原料として用いるシランの加水分解性基の種類によるが、アルコキシシランを原料とした場合、加水分解性基OR3 1モルに対し、1.5モル未満、特に0.6〜1.0モルであることが好ましい。この場合のような強酸性条件での縮重合反応で、加水分解水量が1.5モル以上であると、急速に3次元的な縮合が進み、ゲル化するので不適である。また、原料がクロルシランの場合は、加水分解水量は特に問わない。加水分解には有機溶剤を用いてもよく、有機溶剤は、水への溶解性の低い非極性溶剤が好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶剤が主に好ましく用いられるが、水との混和性が低すぎると加水分解反応が進行しにくいので、アルコール等の極性溶剤を併用しても構わない。原料となる加水分解性シラン化合物は、一般式(1)と同様のもの、あるいは相当するクロルシランが用いられる。具体的にはビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジクロルシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、テトラクロルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリクロルシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリクロルシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロルシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリクロルシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が好ましい。特にメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランが好ましい。
【0088】
(3)成分の配合量は、(A),(B),(2)成分の合計100質量部に対し、(3)成分が3〜100質量部、特に3〜80質量部であることが好ましい。(3)成分の配合量が3質量部未満だと耐クラック効果が発現しない場合があり、100質量部を超えると、ハードトップコートとしての硬度、耐摩耗性が極端に低下する場合がある。
【0089】
(3)成分のシロキサン樹脂を配合する場合に、シロキサン樹脂の有機溶剤溶液を予め調製しておいて、これを上記各成分と混合してもよい。シロキサン樹脂を溶剤に溶かす際、加熱を要する場合があるからである。溶剤としては、好ましくはエタノール、イソプロパノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ダイアセトンアルコール等が使用できるが、これに限定されるものではない。
【0090】
5)(4)成分
(4)成分は硬化触媒で、シラノール基、アルコキシ基等の縮合可能基が縮合する反応を促進する触媒であり、従来公知のハードトップコート剤で使用されている硬化触媒が適用できる。
【0091】
例えば、プロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム等を好適に利用できる。
【0092】
(4)成分の配合量は、(1)〜(3)成分を硬化させるのに有効な量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、(1)〜(3)成分の固形分に対し、0.0001〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量%である。0.0001質量%未満であると硬化が不十分となり、硬度が低下する場合があり、30質量%より多いと塗膜にクラックが発生しやすくなる場合や、耐水性が低下する場合がある。
【0093】
6)(5)成分
本発明の第一層のコーティング剤組成物には、更に、任意の構成成分(5)を含んでもよい。
(5)成分の加水分解・縮合物(反応生成物)は、チタンテトラアルコキシドのβ−ジケトンとの反応物及び/又は混合物の加水分解・縮合物(反応生成物)であり、これは、チタン化合物を溶媒中、一般式R31COCH2COR32(但し、R31、R32は、互いに同じでも異なっていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。)で表されるβ−ジケトンと反応させ、更に加水分解・縮合反応させることにより得られた反応生成物である。
【0094】
ここで、チタンアルコキシドの具体例としては、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン等を挙げることができる。また、これらチタンアルコキシドのオリゴマーでもよい。
【0095】
また、上記式中、R31、R32としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。このβ−ジケトン類の具体例としては、アセチルアセトン、2,4−ヘキサン−ジオン、2,4−ヘプタン−ジオン、3,5−ヘプタン−ジオン、2,4−オクタン−ジオン、2,4−ノナン−ジオン、5−メチル−ヘキサン−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタン−ジオン等が挙げられる。これらのうち、特にアセチルアセトンが好ましい。これらのβ−ジケトン類は1種単独で又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0096】
(5)成分は、上記チタン化合物を溶媒中、上記β−ジケトン類と反応させ、更に加水分解・縮合反応させることにより得ることができる。
この場合、上記チタン化合物とβ−ジケトン類の配合比は、チタン化合物1モルに対してβ−ジケトン類0.5〜2モルの範囲が好ましい。より好ましくは0.7〜1.0モルの範囲である。このモル比が0.5モル未満となると次の加水分解・縮合時にゲル化又は安定性が悪くなるおそれがある。また2モルを超えて加えると次の加水分解・縮合が起こりづらくなり、本発明の好適なコーティング剤にならなかったり、コスト的に不利となる場合がある。
【0097】
この時使用される溶媒としては、アルコール類又は沸点が120℃以下の低沸点有機溶媒が好ましい。アルコール類としては、例えば1価アルコール又は2価アルコールを挙げることができ、このうち1価アルコールとしては炭素数1〜8の飽和脂肪族アルコールが好ましい。
【0098】
これらのアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等を挙げることができる。また、沸点が120℃以下の低沸点有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
【0099】
上記方法(1)では、まずチタン化合物とβ−ジケトン類とを反応させる。この場合、反応は20〜120℃の温度で1〜10時間行うことが好ましい。
【0100】
上記成分において、加水分解・縮合反応を行う際は、上記チタン化合物に対して3.1〜15倍モル当量の水を加え、加水分解・縮合させることが好ましい。更に好ましくは3.4〜8.0倍モル当量である。この量が3.1倍モル当量未満だと反応生成物が微粒子形状をなさないためか、紫外線吸収能が弱くなるおそれがある。また、15倍モル当量を超えるとゲル化する場合がある。
【0101】
この加水分解・縮合時の反応は20〜120℃の温度範囲で1〜30時間反応させることが好ましい。より好ましくは60〜90℃で5〜20時間加熱反応を行うのがより好ましい。更にこの時、系内を酸性下あるいはアルカリ性下で加水分解・縮合を行わせるとよい。そのために従来公知の酸性触媒あるいは塩基性触媒の使用が可能である。酸性触媒としては酸性のハロゲン化水素、カルボン酸、スルホン酸等が好ましい。具体例としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、マレイン酸等が挙げられる。また塩基性触媒としてはアミン系のものが好ましい。具体例としてはアンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン等が挙げられる。
【0102】
このようにして得られた(5)成分は、平均粒径が100nm以下のβ−ケトエステル基(β−ジケトン基)を含有する金属酸化物微粒子であり、350nm以下の紫外線を吸収するものであることがよい。
【0103】
本発明のコーティング剤組成物は、(1)〜(4)成分の固形分100質量部に対して、(5)成分の加水分解縮合物は固形有効成分で0.01〜10質量部である。特に好ましくは0.1質量部以上、とりわけ0.2質量部以上であり、また5質量部以下、とりわけ3質量部以下である。10質量部よりも多いと経済的に不利であり、0.01質量部よりも少ないと所望の耐候性、耐摩耗性が得られない。
【0104】
(4)樹脂層
本発明の硬化塗膜は、プラスチックを基材とした場合、基材の黄変、表面劣化を防ぐ目的で、本発明の(イ)成分、(ロ)成分及び(ハ)成分の下塗り層中の紫外線吸収剤が効果を果たしており、本発明の(B)成分で述べたシラン化合物の紫外線吸収効果により、ハードトップ層と下塗り層の界面の劣化が防止され、長期の耐久性が発現しているものと推定される。
【0105】
上述したコーティング剤は、基体の少なくとも一方の面に、直接もしくは少なくとも1種の他の層を介して、該コーティング剤を塗布、硬化することにより被膜を形成した被覆物品を得ることができる。
【0106】
ここで、各層、つまりハードトップ剤と下塗り剤の塗布方法としては、通常の塗布方法で基材にコーティングすることができ、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を選択することができる。
【0107】
塗膜の形成方法は、以下の工程からなるものが好ましい。下塗り層を第一層として基体に塗布する工程、塗布した膜を風乾あるいは加熱硬化することにより硬化させる工程、本発明のハードトップ剤を下塗り層上に塗布する工程、室温乾燥あるいは加熱してハードトップ層を形成させることによって第二層とする工程を順次行うことにより達成される。
【0108】
本発明の組成物を塗布した後の硬化は、空気中に放置して風乾させてもよいし、加熱してもよい。硬化温度、硬化時間は限定されるものではないが、基材の耐熱温度以下で10分〜2時間加熱するのが好ましい。具体的には80〜145℃で30分〜2時間加熱するのがより好ましい。
【0109】
各塗膜の厚みは特に制限はないが、通常0.01〜100μm、特に0.5〜60μmである。特に塗膜の硬さ、耐擦傷性、長期的に安定な密着性、及びクラックが発生しないことを満たすためには、1〜30μmが特に好ましい。なお、以上の操作を繰り返し、重ね塗りを行ってもよい。とりわけ、下塗り層の厚みは、プラスチック材を紫外線から保護するために重要で、0.5〜20μmであることが好ましい。薄すぎるとハードトップ層との密着性が十分でない場合があり、また、厚すぎると発泡が起こりやすく硬さが十分でない場合がある。また、ハードトップ層においては、薄すぎると硬さが十分でない場合があり、また、厚すぎるとクラックが起こりやすくなる。
【実施例】
【0110】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において部は質量部を示し、%は質量%を示す。
【0111】
[合成例]
以下に反応性紫外線吸収剤、ハードトップ剤、下塗り剤の合成例を示す。
1)反応性紫外線吸収剤の合成
[合成例1]シリル化紫外線吸収剤(UVEsilane)の調製
温度計、加熱還流装置の付いたフラスコに、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン100g(0.406mol)をメチルイソブチルケトン(MIBKと略記)500gに入れ、撹拌することで溶解させた。これに、アリルブロマイド100g(0.82mol)と無水炭酸カリウム138g(1mol)を加え、激しく撹拌しながら、外部からオイルバスにより110℃で5時間加熱した。
生成した臭化カリウムの塩をろ過により除いた。この反応溶液は、減圧ストリップにより溶媒MIBKを除いたところ、約100gの2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアリロキシベンゾフェノンの赤色高粘度オイルを得た。これに、メタノールを加えて結晶化させた後、ろ過することで88.6g(0.272mol)の黄色固体の2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアリロキシベンゾフェノンを得た。収率67%。融点95℃。
2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアリロキシベンゾフェノン(32.6g、0.1mol)を70mLのトルエン中に懸濁した。これに白金触媒PL50−T(信越化学工業(株)製)を2滴加え、温度を65℃に上げてトリメトキシシラン(29.3g、0.24mol)を加えた。
温度を約65〜85℃に約1〜2時間保ち、しかる後に反応混合物を冷却し、ワコーゲルC−100の5gを加え、白金触媒を吸着させた後、濾過し、溶剤を減圧ストリップにより除き、赤色のオイル状物51.9g(0.091mol)を得た。主成分のNMRスペクトルは2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ビス(トリメトキシシリルプロポキシ)ベンゾフェノンの構造と一致した。収率は91%。このシランをUVEsilaneと略記する。
【0112】
[合成例2]シリル化紫外線吸収剤(UVAsilane)の調製
アリル化紫外線吸収剤4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノンについては、アルドリッチ社より入手した。
4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン(25.4g、0.1mol)を70mLのトルエン中に懸濁した。これに白金触媒PL50−T(信越化学工業(株)製)を2滴加え、温度を65℃に上げてトリメトキシシラン(29.3g、0.24mol)を加えた。
温度を約65〜85℃に約1〜2時間保ち、しかる後に反応混合物を冷却し、ワコーゲルC−100の5gを加え、白金触媒を吸着させた後、濾過し、溶剤を減圧ストリップにより除き、赤色のオイル状物34.8g(0.092mol)を得た。主成分のNMRスペクトルは2−ヒドロキシ−4−トリメトキシシリルプロポキシベンゾフェノンの構造と一致した。収率は92%。このシランをUVAsilaneと略記する。
比較添加用紫外線吸収剤のベンゾフェノンAとして、市販の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンを用いた。
【0113】
2)ハードトップ剤の合成
〔ハードトップ剤用(3)原料ポリシロキサン(D)の製造〕
[原料合成例]
温度計、撹拌機、冷却器を備えた2Lの三口フラスコに、メチルトリメトキシシラン408部、トルエン400部を仕込み、98%メタンスルホン酸11部を触媒として添加し、内温を30℃以下に保ちながら水146部を滴下し、メチルトリメトキシシランを加水分解した。滴下終了後、室温で2時間撹拌して反応を完結させた。
その後、酸性成分を中和し、生成したメタノールを減圧留去した。2回水洗することにより完全に中和塩を除去した後、再び減圧にて105℃,3時間乾燥前後の質量減少が1.1質量%となるまでトルエン等の溶剤成分を除去することにより、無色透明固体のシロキサン樹脂210部を得た。
この樹脂のGPCから得られた重量平均分子量は7.5×103であった。また、この樹脂の29Si−NMR、及びIRスペクトルの結果から、このシロキサン樹脂Gの平均組成式は、下記式(D)であった。
MeSi(OMe)0.06(OH)0.12(O)1.41 (D)
(式中、Meはメチル基を示す。)
この透明固体樹脂の軟化点をJIS K2207に準拠し、環球式自動軟化点試験機で測定したところ、73℃であった。予めシロキサン樹脂283部は、イソプロパノール717部を加えて、溶解させることにより、固形分濃度28質量%のシロキサン樹脂溶液Dとした。
【0114】
〔ハードトップ剤用原料(4)合成例〕
[原料F合成例]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた0.5リットルフラスコに、チタンテトライソプロポキシド170.6g(0.6モル)を仕込み、氷冷下で撹拌しながら滴下ロートによりアセチルアセトン140g(1.4モル)を45分間で滴下した。それにより内温は25℃まで上昇した。そのまま2時間室温で撹拌熟成を行い、黄色透明溶液状の加水分解性金属化合物を得た。
次いで、室温下で6.9%アンモニア水溶液46.0g(水2.38モル)を20分間で滴下した。発熱により35℃まで上昇し、その後室温に戻った。室温下で20時間反応させたところ、黄白色沈殿が生成した。これを濾過、アセトン洗浄後、60℃で3時間減圧乾燥を行い、121gの黄白色粉末物質を得た。
このものの固形分濃度が0.05g/Lになるようにエタノールで希釈した溶液を使用して吸光度分析を行ったところ、350nm以下の波長を吸収するものであった。また、このものの元素分析測定を行ったところ、ほぼ理論値通りアセチルアセトナート基を含有していることを確認した。
最終的に、このものの固形分濃度が20%になるようにメタノールで希釈した溶液を作成し、F溶液とした。
【0115】
[Top合成例1]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコにメチルトリメトキシシラン371g、UVEsilane8.6gを仕込み、撹拌しながら20℃に維持し、ここに水分散コロイダルシリカ(スノーテックスO(平均粒子径15〜20nm)、日産化学工業(株)製、SiO2 20%含有品)108gと0.25Nの酢酸水溶液252gとの混合溶液を添加して高速撹拌した。
更に、60℃にて3時間撹拌後、シクロヘキサノン330gを添加したのち、常圧にて副生したメタノールと一部の水、計335gを留去した。
次いで、イソプロパノール205g、溶液D(シロキサン樹脂溶液D)400g、溶液F(20%メタノール溶液F)4g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーンKP−341(信越化学工業(株)製)0.6gを添加し、硬化触媒として10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液3.7gを添加した。
こうして得られたオルガノポリシロキサン溶液の粘度は6.98mm2/s、GPC分析による重量平均分子量は2,500であった。このものをTop合成例1とする。
【0116】
[Top合成例2]
メチルトリメトキシシラン371g、UVEsilane8.6gの替わりに、メチルトリメトキシシラン368g、UVAsilane13gを用いた以外は、Top合成例1と同様に行った。このものをTop合成例2とする。
【0117】
[Top比較例1]
メチルトリメトキシシラン371g、UVEsilane8.6gの替わりに、メチルトリメトキシシラン373gを用いた以外は、Top合成例1と同様に行った。このものをTop比較例1とする。
【0118】
[Top比較例2]
UVEsilaneの替わりに、ベンゾフェノンA(2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン)13gを用いた以外は、合成例と同様に行った。このものをTop比較例2とする。
【0119】
[Top比較例3]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコにメチルトリメトキシシラン368g、UVAsilane13gを仕込み、撹拌しながら20℃に維持し、ここに0.25Nの酢酸水溶液252gを添加して高速撹拌した。更に、60℃にて3時間撹拌後、シクロヘキサノン330gを添加したのち、常圧にて副生したメタノールと一部の水、計335gを留去した。
次いで、水分散コロイダルシリカ(スノーテックスO(平均粒子径15〜20nm)、日産化学工業(株)製、SiO2 20%含有品)108g、イソプロパノール205g、溶液D(シロキサン樹脂溶液D)400g、溶液F(20%メタノール溶液F)4g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーンKP−341(信越化学工業(株)製)0.6gを添加し、硬化触媒として10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液3.7gを添加した。
【0120】
こうして得られたオルガノポリシロキサン溶液の粘度は6.81mm2/s、GPC分析による重量平均分子量は2,500であった。このものをTop比較例3とする。
紫外線吸収剤の物性を表1に示し、ハードトップ剤の物性を表2に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】


* 2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン
** 粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した25℃の値である。
【0123】
3)下塗り剤用ポリマーの合成
[ポリマー合成例1]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに溶剤としてジアセトンアルコール248gを仕込み、窒素気流下にて80℃に加熱した。
ここに予め調製しておいた単量体混合溶液(2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−メタクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93と略記、大塚化学(株)製)72g、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−503と略記、信越化学工業(株)製)80g、メチルメタクリレート(MMAと略記)270g、ジアセトンアルコール(DAAと略記)600g)のうち400g及び予め調製しておいた重合開始剤としての2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)3gをジアセトンアルコール200gに溶解した溶液のうち150gを順次投入した。
80℃で30分反応させた後、残りの単量体混合溶液と残りの重合開始剤溶液を同時に80〜90℃で1.5時間かけて滴下した。更に80〜90℃で5時間撹拌した。
得られたアルコキシシリル基を含有する紫外線吸収性ビニル系共重合体溶液の粘度は(回転粘度計による25℃での粘度)5,370mPa・s、また、その共重合体中の紫外線吸収性単位の含有量は18%、アルコキシシリル基単位の含有量は20%であった。また、標準ポリスチレンを基準とするGPC分析による重量平均分子量は27,600であった。このアルコキシシリル基を含有する紫外線吸収性ビニル系共重合体(溶液)をポリマー1とする。
【0124】
[ポリマー比較合成例1]
KBM−503の替わりに、GMA(グリシジルメタクリレート)を用いた以外は、合成例1と同様に行った。このものをポリマー比較合成例1とする。
【0125】
[Primer合成例1,2、Primer合成比較例1,2]
ポリマー合成例1並びにポリマー比較合成例1のポリマー溶液に、溶剤[DAA(ジアセトンアルコール)、MFDG(ジ(プロピレングリコール)モノメチルエーテル)、PGMAC(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、EA(エチルアセテート)]、並びに有機溶剤に分散したシリカゾル溶液(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに分散したコロイダルシリカ(PMA−ST、固形分濃度30%、一次粒子径10〜15nm、日産化学工業(株)製)、必要に応じて脱水剤(オルソギ酸トリエチル)を加え、下塗り剤とした。
【0126】
単量体の種類と配合量、及び得られた下塗り剤溶液の特性を表3〜6に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

*** 回転粘度計による25℃での粘度
【0131】
[実施例1〜3、比較例1〜5]
(1)塗膜の作製
表面を清浄化した0.5mmポリカーボネート樹脂板(ユーピロンシート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)に、下塗り用組成物を硬化塗膜として10μmになるようにフローコーティング法にて塗布し、室温で45分風乾した後、135℃で45分硬化させた。これを2回繰り返した後、その上に合成例で得られたハードトップコート剤を硬化塗膜として5μmになるようにフローコーティング法にて塗布し、室温で45分風乾した後、135℃で60分硬化させた。このようにして得られた塗膜を下記評価方法で評価した。各種物性評価の結果を表7,8に示す。
【0132】
評価法
各種物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
1)評価の方法
評価は、ハードコート膜付きポリカーボネート樹脂について、光学特性、膜特性、耐久性について行った。また、下塗り層の液の保存安定性については、13C−NMRの測定を行い、ポリマー中の脱メタノールの割合を測定して評価した。
(1)光学特性
光学特性により、塗膜透明性と紫外線阻止能について評価した。
(1.1)初期塗膜外観
下塗り剤組成物層及びハードトップ層を順次硬化・積層した試験片の塗膜外観を目視にて観察した。
(1.2)紫外線・可視光透過スペクトルの測定
石英ガラス(厚さ1mm)上に形成したハードトップ層及び下塗り層−ハードトップ層の複層膜の紫外線・可視光透過スペクトルを、日立製作所製分光光度計U−3310により、波長200〜500nmの測定を行った。
複層膜の450nmの透過率で透明性を、ハードトップ層及び下塗り層−ハードトップ層の複層膜の350nm透過率で紫外線阻止能を評価した。
【0133】
(2)膜特性
膜特性により、塗膜密着性と塗膜耐擦傷性について評価した。
(2.1)1次密着性
JIS K5400に準拠し、試験片をカミソリの刃で2mm間隔の縦横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作り、市販のセロハン粘着テープをよく密着させた後、90度手前方向に急激に剥がした時、被膜が剥離せずに残存したマス目数(X)をX/25で表示した。
(2.2)耐水性及び耐水密着性
試験片を沸騰水中に2時間浸漬した後に、目視にて外観観察、及び前記と同様にして密着性試験を行った。
(2.3)耐擦傷性試験
ASTM1044に準拠し、テーバー摩耗試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着し、荷重500g下で500回転後の曇価を測定した。耐擦傷性(%)は(試験後の曇価)−(試験前の曇価)で示した。
○: ΔH≦6.0
△: 6.1<ΔH<10.0
×: ΔH≧10.0
【0134】
(3)耐久性
(3.1)耐候性試験
岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターを使用し、以下のLモード、Rモード、Dモードの3つの劣化サイクルを1サイクル12時間として、このサイクルを繰り返す条件で試験を行った。
1.Lモード(光照射モード)4時間
ブラックパネル温度63℃、湿度70%RH、照度90mW/cm2
2.Rモード(結露モード)4時間
ブラックパネル温度70℃、湿度90%RH
3.Dモード(休止モード)4時間
未制御放置:ブラックパネル温度30℃以上、湿度95%RH以上、降雨15秒/1時間
【0135】
[耐候塗膜剥離]
耐候性試験後の塗膜の状態を下記の基準で評価し、全面剥離を起こすまでのサイクル数で評価した。
○:異常なし
△:下塗り剤組成物層と基材との間で一部剥離
×:下塗り剤組成物層と基材との間で全面剥離
【0136】
【表7】

【0137】
【表8】

【0138】
本発明の下塗り層とハードトップ層により被膜を施されたプラスチックポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐擦傷性、耐候性を発現することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面上に2層以上の樹脂層を有し、これらの樹脂層のうち、基体表面側の第1層は、アルコキシシリル基と紫外線吸収基を有するビニル系共重合体と二酸化ケイ素微粒子を含む硬化樹脂層であり、第1層上に存する第2層は、紫外線吸収性を有するオルガノオキシシランを含む有機ケイ素化合物の加水分解混合物又は共加水分解物と二酸化ケイ素微粒子を含むオルガノポリシロキサン組成物の硬化樹脂層であることを特徴とする自動車グレージング用プラスチック基材。
【請求項2】
第1層が、下記(イ)〜(ハ)成分を用いて形成されたビニル系共重合体と二酸化ケイ素微粒子を含むコーティング剤の硬化物である請求項1記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
(イ)紫外線吸収性ビニル系単量体
(ロ)アルコキシシリル基含有ビニル系単量体
(ハ)それ以外のビニル系単量体
【請求項3】
第1層に用いられるビニル系共重合体が、(イ)紫外線吸収性ビニル系単量体と(ロ)アルコキシシリル基含有ビニル系単量体と(ハ)それ以外のビニル系単量体とを(イ):(ロ):(ハ)=1〜30質量%:1〜30質量%:40〜98質量%の比率で共重合して得られるビニル系樹脂である請求項2記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
【請求項4】
第1層を形成するコーティング剤が、更に脱水剤を含有する請求項2又は3記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
【請求項5】
第2層が、下記(1)〜(4)成分を含有する紫外線吸収性コーティング剤の硬化物である請求項1乃至4のいずれか1項記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
(1)(A)下記一般式(1)で表される少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物又はその(部分)加水分解縮合物
1aSi(OR3(4-a) (1)
(式中、R1は、炭素数1〜18の有機基であり、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、aは0≦a≦2の整数である。)
(B)アルコキシシリル基を有するベンゾフェノン又はその(部分)加水分解縮合物からなる反応性紫外線吸収剤
(2)二酸化ケイ素微粒子
(3)下記平均組成式(2)のシロキサン樹脂
2bSi(OR3c(OH)d(4-b-c-d)/2 (2)
(式中、R2は、同一又は異種の炭素数1〜18の有機基であり、R3は、同一又は異種の炭素数1〜6の有機基であり、b,c及びdは、0.8≦b≦1.5、0≦c≦0.3、0.001≦d≦0.5、0.801≦b+c+d<2を満たす数である。)
で表され、40℃以下で固体であり、重量平均分子量が2,000以上のシロキサン樹脂
(4)硬化触媒
【請求項6】
(B)成分が、下記一般式(I)で示される、アルコキシシリル基を有するベンゾフェノンからなる反応性紫外線吸収剤である請求項5記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
【化1】

(式中、A1〜A10は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、又は下記一般式(II)で示される基であるが、A1〜A10のうち少なくとも1個は下記一般式(II)で示される基である。)
−O−(CH2m+2−SiR11n(OR123-n (II)
(式中、R11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基を示す。mは、1〜5の整数、nは、0〜2の整数を示す。)
【請求項7】
(1)成分及び(2)成分として、(1)の(A)成分及び(B)成分と(2)成分とを酸性触媒中で加水分解・縮合させることによって得られたものを用いる請求項5又は6記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
【請求項8】
紫外線吸収性コーティング剤が、更に(5)チタンテトラアルコキシドのβ−ジケトンとの反応物及び/又は混合物の加水分解・縮合物を含有する請求項5乃至7のいずれか1項記載の自動車グレージング用プラスチック基材。
【請求項9】
前記基体が、ポリカーボネート樹脂である請求項1乃至8のいずれか1項記載の自動車グレージング用プラスチック基材。

【公開番号】特開2012−56098(P2012−56098A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198654(P2010−198654)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】