説明

自動車両の運転者の血液中のエチルアルコールを干渉物質の存在下で経皮的かつ非侵襲的に検出及び測定するためのシステム及び方法

本発明は、エタノール摂取から数分以内に、かつ干渉物質の存在下で、経皮的かつ非侵襲的に、自動車両の運転者の血中のエチルアルコールを迅速かつ正確に検出及び測定することができるシステム及び方法に関する。本システムは、自動車両のステアリング機構に埋め込まれたセンサのアレイと、種々の組合せ及び濃度における種々の検体の経験的試験を通じて生成されたパターンのデータベースと、運転者の経皮的アルコール濃度を確認するためのニューラル・ネットに基づくパターン認識アルゴリズムと、人体試験から導出された、運転者の経皮的アルコール濃度を運転者の血中アルコール濃度に対して相関させるデータベースとを含む。本検出システムは、BACが予め設定された限度を超える運転者による自動車両の運転を防止することができる自動車両決定モジュールに組み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルアルコール(エタノール)摂取から数分以内に、かつ干渉物質の存在下で、経皮的かつ非侵襲的に、自動車両の運転者の血中のエタノールの存在を迅速かつ正確に判定し、かつエタノールの濃度を正確に測定することができるシステム及び方法に関する。本システムは、自動車両のステアリング機構に埋め込まれたセンサのアレイ、パターン認識ライブラリ、並びに関連付けられたパターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズムを用いて、運転者の経皮的アルコール濃度を測定することにより、運転者の血中のエタノールの存在を確認する。測定されたエタノールが予め設定された限度を超えた場合、車両の作動を防止するインターロック・システムが始動される。
【0002】
(関連出願の交互参照)
本出願は、その全体で、2009年4月24日付で出願された米国仮特許出願番号第61/172,383号に基づく優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
飲酒運転はこれまで、そして現在もなお米国における自動車死亡事故原因の第一位である。酒酔い運転者(drunk driver)(又は酒気帯び運転者(alcohol impaired driver))による自動車の運転の防止には過去数十年にわたる進歩が見られるが、問題は解消されておらず、酒酔い運転者が関与する事故により、毎日平均36人の死者及び700人の負傷者が出ている。しかしながら、適正な技術があれば、飲酒運転者によるこのような死傷の全てでないにせよ大部分は防げるはずである。
【0004】
酒気検知器システムは酒気帯び運転撲滅のために現在利用可能な主要手段である。しかしながら、酒気検知器システムは典型的には、目立ち、かさばり、運転者にとっては非常に邪魔なので、酒気検知器システムの使用を義務付けられた飲酒運転(「DUI:driving under the influence」)違反者がこれを順守する率は非常に低い。その使用が運転操作と区別がつかないほど邪魔にならない車載型アルコール検出システムが必要とされている。
【0005】
運転者が車両を運転する前又は運転中に運転者の酩酊度を計測し、飲酒運転を撲滅しようと試みる、他の多くのシステムが考案されてきた。幾つかのシステムは、運転者に所与の時間内に無作為な順序でボタンを押すことを要求することにより、運転者の酩酊度を直接測定することを試みている。他のシステムは、組織内アルコール濃度又は呼気中アルコール濃度を測定することにより、運転者の血中アルコール濃度を判定することを試みている。しかしながら、これらのシステムは複雑で、費用が高く、邪魔であることから、典型的には、その普及及び順守には非実用的なものとなっている。その上、種々の干渉物質(エタノール以外の物質)が存在する場合には、従来技術の多くの装置の精度は大幅に低下する。ブタン、ガソリン、香水、又はアルコール・ベースの製品といったこれらの干渉物質は、従来技術のセンサで検出され又はセンサを混乱させて、偽陽性を示させ、又はマスキングされたエタノールの存在を示し損なうことがある。運転者の血中のエタノールの存在の迅速かつ正確な判定を提供し、非侵襲的な、かつ任意の干渉物質の存在下での判定を提供し、普及のために実用的なシステムが必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
車載型アルコール検出システム及び方法は、任意の自動車両のステアリング機構に埋め込まれたセンサの組合せを用いて、運転者による最初のエタノール摂取から数分以内に、かつ干渉物質の存在下で、経皮的に、迅速、正確、かつ非侵襲的に、運転者の血液中のエタノールの存在を検出し、かつ運転者の血液中のエタノールの濃度を判定する。車載型アルコール検出システムは、その構成要素が自動車のステアリング機構の内部に収まるほど十分にコンパクトであり、少しでもアルコールを摂取した運転者又は血中アルコール濃度(「BAC」)が予め設定された限度を超えた運転者による車両の運転を防止することができる、自動車両に組み入れ可能な酒酔い運転防止システムの一構成要素である。
【0007】
運転者の血中のエタノールの存在は、運転者の経皮的アルコール濃度(「TAC」)の測定によって検出される。運転者のTACは、運転者の手から発散する発汗になる前の蒸気(pre−perspiratory vapor)を収集し、その蒸気をセンサのアレイに供し、次いでパターン認識ライブラリを、関連付けられたパターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズムと共に用いて、センサ応答データを処理することにより測定される。0を超えるTACが測定された場合には、運転者の血中にエタノールが存在することが分かり、ゼロ・トレランスの状況においては適切なインターロックが始動される。実際の血中アルコール濃度(「BAC」)レベルもまた、この車載型アルコール検出システムによって、最初に運転者のTACを測定し、次いでヒトの静脈内試験から導出されたルックアップ・テーブル・データベースを用いて、その運転者のTACに対応するBACを見いだすことにより、判定される。データベースは、その運転者に特有の生理学的情報及び代謝情報を含むものとすることができる。
【0008】
重要なのは、本発明は、干渉物質の存在下であっても正確なTAC測定を行うことができるという点である。これは、存在する検体の同定と定量の両方を提供する、1つ又はそれ以上の化学的容量性(chemicapacitive)センサ・アレイと、パターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズムとの独自の組合せによるものである。
【0009】
1つの実施形態において、各センサ・アレイ内の化学的容量性センサは、誘電体として、化学物質吸収性ポリマーのような選択的吸収性材料で被覆される。エタノール及び干渉物質(検体)は誘電体に吸収され、その誘電率を変化させ、その結果、センサの静電容量を増大又は低下させる。静電容量の変化は、電気的に検出及び測定することができる。
【0010】
センサは、少なくとも2つのセンサが同じ検体に対して異なった応答をするように設計される。従って、1つの実施形態において、特異的標的検体を吸収するポリマーが選択される。各センサは、標的検体を吸収するポリマーの能力に基づき、特異的かつ異なるポリマー被覆を有する。各ポリマー被覆は、各検体に対して互いに異なる反応をする。センサによって検出されると、異なるエタノール濃度又はエタノール/干渉物質混合物は、互いに異なるセンサ応答をもたらす、互いに異なる静電容量変化を生じさせる。結果として、異なるエタノール濃度又は化学混合物は、センサ・アレイ全体にわたって個々のセンサ応答を同時に見ることにより観察可能な、特異的かつ一意の識別可能なセンサ応答スパイクのパターンを作り出すことになる。
【0011】
得られた応答パターンは、次に、互いに異なるポリマーごとにエタノール及び潜在的な干渉物質に対するセンサ出力に対応する多数のパターン化された応答を含む、パターン認識ライブラリを通じて処理される。各検体に対する応答は、互いに異なるポリマーごとに、多数の濃度、温度及び湿度レベルで測定及び記録され、パターン認識ライブラリに格納されている。プロセッサが、パターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズムを使用して、蒸気中の検体を分類、即ち、同定及び定量する。
【0012】
化学的容量性センサ・アレイにおいて、より大きな冗長性及び精度を付加することに加えて、干渉物質排除のための根拠を提供するために、センサごとに異なるポリマーが用いられる。化学的容量性センサ・アレイは、感度及び干渉物質同定能力を向上させるために、化学抵抗センサ、金属酸化物センサ及び電気化学センサといった他のセンサ技術と組み合わせて用いることもできる。
【0013】
各センサ−ポリマーの組合せからの出力は、そのポリマーに特異的なパターン認識ライブラリ内のチャネルを通じて供給される。これは、センサ−ポリマーの組合せごとに別々のチャネルで同時に行われる。各ポリマー・チャネルからのセンサ応答は、次にパターン認識アルゴリズムに従って処理され、所与のセンサ−ポリマーの組合せからそのような信号を生じさせる可能性のある検体の組合せが同定される。次いで、検体同定及び識別アルゴリズムを用いて、存在する各検体の正体及び濃度が判定される。「ゼロ・トレランス」システムの場合には、単にエタノールの存在を同定するだけで十分である。BACの計算の場合には、アルゴリズムは、パターン認識ライブラリからの出力を利用して、センサによって検出された検体を同定及び定量する。これらのアルゴリズムは、線形回帰モデル化、人工ニューラル・ネットワーク及び/又は統計学的解析を含むものとすることができ、次にこれを用いて、パターン認識ライブラリの出力を解釈し、存在する検体を同定及び定量する。同定及び定量がなされると、全センサ・アレイ応答から干渉物質に帰属するセンサ応答が差し引かれる。この結果、正確なTAC測定値が得られ、次にこれを、その運転者由来の生理学的データを含むことができる埋め込まれたヒト試験データベースを用いて、運転者の対応するBACに対して相関させることができる。
【0014】
本発明の目的は、任意の干渉物質の存在下で、運転者の血中にアルコールが存在するか否かについての、迅速、正確、かつ非侵襲的な判定を提供することができる、普及のために実用的なシステムを提供することである。本発明の別の目的は、任意の干渉物質の存在下で、運転者の実際のBACレベルの迅速、正確、かつ非侵襲的な判定を提供することができる、普及のために実用的なシステムを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従って動作するセンサ・アレイの概略図である。
【図2】自動車両の運転者の経皮的アルコール濃度を判定し、該経皮的アルコール濃度を自動車両内のシステムに送信するプロセスを示す動作流れ図である。
【図3】センサ応答スパイクのパターンを表すグラフである。
【図4】本発明に従って構築されたステアリング機構の上面図である。
【図5】自動車両の運転者の血中アルコール濃度を判定し、該血中アルコール濃度を自動車両内のシステムに送信するプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
車載型アルコール検出システム及び方法は、化学的容量性センサ・アレイと、パターン認識ライブラリと、関連付けられたパターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズムとを用いて、運転者による最初のエタノール摂取から数分以内に、かつ干渉物質の存在下で、迅速、正確、かつ非侵襲的に、運転者の血液中のエタノールの存在を経皮的に検出する。本システムは、次に、運転者の血液中のエタノールの存在又は非存在を車両決定モジュール(Vehicle decision Module)に示し、車両決定モジュールが運転者による自動車両の運転を許可するか防止するかを決定することができるようにする。
【0017】
一般に、この車載型アルコール検出システムにより用いられるセンサ・アレイは、多重のセンサから構成される。アレイ内の少なくとも2つの個々のセンサが、同一の検体に対して異なった応答をする。本発明の1つの実施形態において、センサは化学的容量性センサであり、各々が独自の一意的なポリマー被覆を有する。センサは、測定量として静電容量の変化を用いる微小電子機械システム(MEMS)デバイスに基づく。
【0018】
より具体的には、センサ・アレイは、図1に示されるような複数の電子的対(electro−pair)から成る。対の各構成員は、駆動電極又は検知電極である。一般に、センサ・アレイ20は、基板1を含む。1つの非限定的な例では、基板1の表面上にシールド層4が配置される。異なるポリマー検知材料7a−7dを用いて、種々の電極対が被覆される。各電極対は、互いに異なる別々のポリマーを有する。
【0019】
センサ電極対12、13、14及び15は、各々が、基板1の表面の上方に隆起したそれぞれの駆動電極10及び検知電極11を含む。それぞれのボア16が、センサ・ポリマー7a−7dの中にポリマー7a−7dを充填するための通路を提供する。通気孔17により、それぞれのセンサに蒸気が出入りすることができるようになっている。
【0020】
これらの微小容量性トランスデューサは、微小電子機械システム(MEMS)デバイスである。これらは、典型的には直径350umの、固定された並列のプレート・ディスクの形、又は、下側基板1の上に高さ2umの絶縁体の柱で並列に支持された、電極対12、13、14及び15(各ビームは典型的には3.5umずつ離間される)の検知電極11及び駆動電極10を交互に有する、およそ400um×500umの、隆起したインターデジット型のセンサ素子の形のいずれかとすることができる。標的検体とポリマー7との間の相互作用がポリマーの誘電特性を変更し、その結果、センサの静電容量がpFの範囲で変化する。MEMSデバイスは、アナログ増幅、アナログ−デジタル変換器、並びに、較正、線形化並びに温度及び湿度補償のためのデジタル・インテリジェンスを含むことができる。
【0021】
ポリマーによって吸収される検体の量は、そのポリマーの化学的性質に依存する。例えば、非極性ポリマーは、非極性検体を吸収する傾向がある。逆に、極性ポリマーは、極性検体を吸収する傾向がある。従って、予期される干渉物質の存在下で検体であるエタノールを検出するように、センサのための異なるポリマー被覆が選択される。センサ応答スパイクはベースラインから測定されるので、化学物質の濃度が高くなるほど、静電容量の変化の結果として生じる経時的な電圧の変化といった、観察可能な応答は大きくなる。
【0022】
センサ・アレイ20は、周囲湿度及び温度のセンサを含むこともできる。これらのセンサは、基板1と一体に製造されるMEMSとすることができる。しかしながら、センサを分離した素子として形成することも可能である。
【0023】
各センサ・アレイ20内の複数のセンサ(電極対12−15)は、適正な干渉物質の排除のためにきわめて重要である。典型的には、従来技術の実時間エタノール用フィールド検出器は、干渉する化学物質が存在するときには読み取り間違いを犯しやすい。個別には、どの1つのセンサ12、13、14又は15も、エタノールと干渉物質とを区別することができないことがあるが、多重のセンサを組み合わせて用いると、個々の検体を同定及び定量することができる。各々が異なるポリマーで被覆された多重の化学キャパシタの応答を比較することにより、得られるポリマー応答パターンを用いることで、エタノールから干渉物質を区別することが可能になる。
【0024】
確実にTACを測定するために、車載型アルコール検出システムは、センサ・アレイ20の出力を取得し、検出された全ての検体を同定及び定量し、次いで、全センサ応答に対する干渉物質の寄与分を差し引いて、もしあれば、エタノールの寄与分のみを残す。
【0025】
センサ・アレイ20は、非限定的な例として、10個のセンサ(その各々は、上述の図1に従って構築することができる)で構成することができ、各センサは、化学物質をカバーする領域を最大限にするように、異なるポリマー7によって被覆される。各センサは、検体が提示されると、様々な高さのピークを有するそれぞれの出力信号を生成する。ピーク高さは、検体の濃度に比例し、これは、センサを被覆しているポリマーの関数である。最良の場合のシナリオでは、検体ごとに少なくとも1つのセンサが一意の信号ピークを与え、かつ、同一の検体の存在下で少なくとも2つのセンサが異なる信号を生成する。センサ・アレイ20全体にわたって各センサにより生じる個々の変化から得られるこのセンサ応答のパターンにより、可能な干渉物質の広範なスペクトルが存在する場合でさえ、エタノール又はいずれかの他の標的検体を検出し、同定し、測定することが可能になる。さらに、標的検体(例えばエタノール)に対して、可能性のありそうな干渉物質とは異なる、応答の一意性を有するポリマーを同定することにより、検出及びシステムの実用性は最大化される。
【0026】
車載型アルコール検出システムの第2の構成要素は、干渉物質の存在下でエタノールを同定及び測定するための、パターン認識ライブラリ、並びに関連付けられたパターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズムの使用である。パターン認識ライブラリに格納されたデータを利用するCPUは、センサによって検出された検体を、パターン認識アルゴリズムの使用を通じて同定及び定量する。ライブラリは、ポリマーごとに、エタノール及び干渉物質の様々な混合物及び濃度を表す応答パターンを収容している。解析技術(後述する)は、人工ニューラル・ネットワーク及び統計学的解析を含むものとすることができ、次いでこの解析技術を用いて、個々の信号の各々の解析からTACについての値を抽出する。実際のTACは、存在する検体を同定及び定量し、次に全応答から応答の干渉物質部分を差し引くことにより求められる。これにより、センサ−ポリマーの組合せごとにTACレベル値が得られる。次いで、(A)エタノールの存在若しくは非存在、又は(B)存在するエタノールの実際の値のいずれかついての確率的判定を行うことができる。
【0027】
好ましい実施形態において、人工ニューラル・ネットワークは、標本の集合に対する入力−出力マッピングを学習する能力を有するので、人工ニューラル・ネットワークが用いられる。この場合、パターン認識ライブラリからの出力が人工ニューラル・ネットワークの入力として用いられ、ネットワークの出力としてTACが生成される。好ましい非限定的な例において、周囲環境がセンサに与える影響を補償するために、温度及び湿度センサからの入力を含めることもできる。ネットワーク・アーキテクチャ及び入力パターンのトレーニング・セット(即ちパターン認識ライブラリ)が与えられると、可変重みの集積(collection of variable weights)が、各ポリマー応答パターンの関数としてネットワークの出力を決定する。ネットワーク・アーキテクチャは、ネットワークの種類、各層内のノードの数、及びノード間の接続といった因子を含む。
【0028】
初期ニューラル・ネットワークを、1)ソリューションの初期集合(集団)から開始し、ここでソリューションはあるゴールを達成するための候補ストラテジであり、2)現在のデータ集団の単位体(individual)の幾つか又は全てをランダムに変更し(例えば変異させ、及び/又は組換えし)、3)集団の各単位体の価値を指定されたゴールを考慮して量的に評価し、4)選択規則を用いて、集団の中の個々のソリューションの部分集合を次世代の親として選択し、5)停止基準が満たされない限りはステップ2に戻る、ことにより展開することができる。
【0029】
ここで図3を参照すると、図中、それぞれのセンサ・アレイ20と種々の検体との相互作用の結果として得られる、経時的な電圧信号として表されるセンサ応答スパイク19のグラフが示される。センサ・アレイ20内の異なるポリマー被覆を表すP1−P7として示される各センサは、図示されるように特定の検体A1−A5に対して互いに異なる応答を示す。各センサP1−P7は、センサ周囲の環境中の特定の検体の存在又は非存在を検出する。ポリマーは、標的検体を同定するように特異的に選択される。各ポリマーは、異なる濃度の特定の検体に曝されると、全くピークを示さない場合を含む一意的なタイプの信号ピーク・パターンを生成する。通常、特定の検体の濃度が高くなるほど、ピークは高くなる。応答の一意性により、パターンマッチング・ライブラリの作成が可能になる。各検体に対する各々のセンサ−ポリマーの組の一意の応答パターンにより、計算デバイス160が、パターン認識ライブラリ並びに関連付けられたニューラル・ネットに基づく同定及び定量アルゴリズム116を利用して、このセンサ応答19のアレイを解いてエタノールの存在又は非存在に関する決定を行うことも可能になる。
【0030】
ここで図面、特に図2を参照すると、車載型アルコール検出システムの動作を詳述する動作フローチャートが示される。発汗になる前の蒸気に曝されると、センサ・アレイ20内の各センサ12−15は、一意のセンサ応答スパイク19a−19nを生成する。これらのセンサ応答スパイク19a−19nがひとまとまりになって、パターン認識ライブラリ116並びにその関連付けられたパターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズム118への入力を提供する、センサ・アレイ応答パターンを形成する。上述のように、パターン認識ライブラリ116は、制御された試験プログラムを通じて経験的に導出された、潜在的な応答パターン19に対応する複数のパターンを含む。ASIC又はCPU160が、パターン認識ライブラリ116からの出力を同定及び定量アルゴリズムを用いて処理し、TACレベルを判定する。下記で示されるように、CPU及びパターン認識ライブラリ116は、計算デバイス160の一部を構成する。CPU160は、各センサ出力を1チャネルずつ、パターンマッチング・ライブラリ116に格納された既知の応答と比較し、チャネルごとに1つ又はそれ以上のマッチ162を生成する。次いで、マッチ結果162のパターンは、非限定的な1つの実施形態においてはニューラル・ネットワーク118によって表されるアルゴリズムに従い、CPU116によって処理され、エタノールが存在する確率及び/又は存在するエタノールの量が、センサ・アレイ出力19の比較の関数である、マッチ162の関数として、決定される。
【0031】
換言すれば、パターン認識ライブラリ116からの出力は、次に計算デバイス160によって用いられ、センサによって検出された、エタノールを含む検体を同定及び定量する。その結果として、TACレベル値が得られる。
【0032】
生成されたTAC測定値を、次に自動車両上の特定の構成要素に提供することができる。そうした構成要素の1つである車両決定モジュール(VDM)119は、車両インターロック117のような電気的又は機械的な構成要素を始動させ、ゼロ・トレランスの実施形態においては、0を上回るあらゆるTAC測定値の場合に車両の作動を防止する。その他の構成要素である運転者情報インターフェース(DII)122は、アルコールの存在若しくは非存在又は運転者のBACについての値を示す、運転席から目視可能なデジタル又はLEDの表示を提供する。この情報は、時間、温度及び湿度を含むことができ、さらに記録も行われる。
【0033】
ここで図4を参照すると、全体として100で示される車載型アルコール検出システムの1つの実施形態の構成要素が、ステアリング機構内に取り付けられた状態で示される。1つ又はそれ以上の収集サイト110が、好ましくはステアリング機構100のリム部分の裏側の運転者の掌からの発汗になる前の蒸気の収集を容易にする位置に取り付けられる。収集サイト110は、ステアリング機構の中心に設置されたセンサ装置120に、不活性チューブ130により機械的に接続される。センサ装置120は、低電圧(典型的には12ボルト)の直流電源に接続され、この電源を利用しており、小型のエアポンプ140を用いて、収集サイト110から不活性チューブ130を通じてセンサ装置120に発汗になる前の蒸気を吸引する。周囲湿度及び温度も、センサ装置120において測定される。
【0034】
発汗になる前の蒸気は、センサ装置120に到達すると、センサ・アレイ150に送られ、そこでセンサ・アレイ150(一例として、センサ・アレイ20の構造を有する)内の種々のポリマーに曝露される。上述のように、それぞれn個のセンサ12−15上のポリマーと発汗になる前の蒸気との間の相互作用により、センサから静電容量応答パターンが生成される。この静電容量応答パターン19は、周囲湿度及び温度の測定値と共にデジタル・データ信号に変換され、電気的接続を通じて計算デバイス160に送信される。
【0035】
計算デバイス160は、センサ・アレイから必要な入力データを受信できるように、センサ装置120に電子的に接続される。計算デバイス160は、パターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズムが動作する処理ユニットと、パターン認識ライブラリ116を格納するためのメモリと、データ記憶媒体と、入力及び出力ポートとを含む。入力がパターン認識アルゴリズムによって受信されると、その入力を用いて人工ニューラル・ネットワークが実行され、その結果、TAC出力が得られる。次いで、TAC出力は、指定された車両システム117、119、122に有線又は無線のいずれかで送信される。
【0036】
ここで図5を参照すると、車載型アルコール検出システムの代替的な実施形態の動作を詳述する動作図が示される。同様の符号は同様の構造を示すために用いられており、主たる違いは、TACからBACを求めるためのデータベースの使用である。
【0037】
発汗になる前の蒸気及びおそらくは他の干渉物質に曝されると、センサ12−15は各々、応答信号スパイク19a−19nを生成する。これらのセンサ応答信号スパイクがひとまりになって、パターン認識ライブラリ116のための入力を提供するセンサ応答パターン19を形成する。計算デバイス160は、パターン認識ライブラリ116からの出力、並びに関連付けられたパターン認識、検体同定及び干渉物質識別アルゴリズム118を用いて、センサ・アレイ20によって検出された検体を、入力信号パターンの関数として同定及び定量する。上述のように、ニューラル・ネットワーク118のような処理アルゴリズムの実行を通じてTAC測定値が得られる。
【0038】
この実施形態においては、生成されたTAC値は、次いで、計算デバイス160がTAC値を対応するBAC値に変換するために用いるデータベース又はルックアップ・テーブル30に入力される。好ましい実施形態において、データベース30は、ヒトの試験データから導き出されたものであり、運転者のBACをその運転者のTACと相関させるために、広範なヒトの静脈内試験を通じて収集された一般的な経験的データと共に、その運転者特異的情報を用いることができる。運転者特異的情報は、性別、年齢、肥満度指数(「BMI」)といった生理学的データを含むことができるが、これらに限定されるものではない。この実施形態においては、BACは、車両決定モジュール117及び運転者情報インターフェース122に提供される。車両決定モジュール117は、この実施形態においては、運転者のBAC値がシステムがセットアップされた時点で選択された予め設定された限度を上回った場合にのみ、車両を動かないようにする。運転者情報インターフェース122は、この実施形態においては、運転席から目視可能なBAC値の表示(デジタル又はLED)を提供する。
【0039】
上記の例は、自動車のハンドルとの関連で提供された。しかしながら、本発明は、手動制御を利用する任意の車両又は機械の操作制御に適用可能である。アルゴリズム解析に従って処理される上述したようなセンサ・アレイ及びパターンマッチング・ライブラリを設けることにより、操作者によるアルコール使用の存在下での装置の操作を防止する、車両及び/又は重機に関連付けられた任意の操作制御のための制御システムを提供することができる。さらに、CPU又はASICチップによって行われるアルゴリズム解析に関してニューラル・ネットワークを上記で論じたが、TACレベルが存在する確率を操作者由来の発汗になる前の蒸気の検知の関数として予測するために、その他の統計学的モデルを利用することができる。最後に、化学的容量性センサ・アレイは一例として用いられている。発汗になる前の蒸気の存在下で一意なセンサ・パターンを作り出すことができる、化学抵抗センサ、金属酸化物センサ及び電気化学センサといった他のセンサ技術を用いることができる。
【0040】
本発明を、本明細書において、最も実用的かつ好ましい実施形態であると考えられる形で示し、説明してきた。しかしながら、本発明の範囲内でそこから逸脱することができること、そして当業者は明白な改変を想起するであろうことが認識される。上記の技術の直接的な用途としては、航空機、列車、船舶、重機及び原子炉の操縦及び制御機構が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
1:基板
4:シールド層
7:センサ・ポリマー材料
10:駆動電極
11:検知電極
12、13、14、15:センサ電極対
16:ボア
17:通気孔
20、150:センサ・アレイ
30:データベース又はルックアップ・テーブル
100:車載型アルコール検出システム(ステアリング機構)
110:収集サイト
120:センサ装置
130:不活性チューブ
140:エアポンプ
160:計算デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血流中のエチルアルコールを検出及び測定するための装置であって、
人体から発散される発汗になる前の蒸気を処理するように適合されたセンサのアレイを備え、前記発汗になる前の蒸気は1つ又は複数の検体を含有し、
前記アレイ内の各センサは、前記検体の存在に応答して信号を生成し、少なくとも1つのセンサはエタノールの検体に対して同定可能な信号を生成し、前記センサ・アレイ内の少なくとも2つのセンサは、同一の検体に応答して異なる信号を生成し、
前記センサのアレイの1つ又はそれ以上の出力に対応する信号パターンを格納するパターン認識ライブラリと、
前記センサのアレイからの個々の出力を受信する計算デバイスと
をさらに備え、前記アレイ出力はパターンを示し、前記計算デバイスは、前記アレイ出力を前記パターン認識ライブラリに格納された前記信号パターンと比較して、前記比較の関数として経皮的アルコール含量測定値を判定する
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記計算デバイスが、前記パターン認識ライブラリの前記出力のニューラル・ネットワーク解析を通じて前記経皮的アルコール含量測定値を判定することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記センサの前記出力が、標的検体の存在下での静電容量の変化の関数であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記センサのアレイ内の少なくとも1つのセンサが、周囲湿度センサであることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記アレイ内の少なくとも1つのセンサが、周囲温度センサであることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記計算デバイスが、前記アレイ出力の一部が干渉物質に対応することを判定し、前記干渉物質に帰属可能な前記信号の前記一部を前記アレイ出力から差し引くことにより、前記経皮的アルコール含量測定値を判定することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記装置が車両内に配置され、前記車両は、操作制御部を含み、少なくとも前記センサは前記操作制御部内に配置され、前記操作制御部は、前記車両を操作するためには前記車両のユーザと接触すること必要とされており、前記車両は、前記計算デバイスと通信するとともに該計算デバイスから経皮的アルコール含量測定値の関数として信号を受信する車両決定モジュールをさらに備え、前記車両決定モジュールは、前記経皮的アルコール含量測定値の関数として、前記車両の作動を防止することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記操作制御部が、ステアリングホイールであることを特徴とする、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記パターン認識ライブラリ及び前記計算デバイスが、前記操作制御部上に配置されることを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
運転者情報インターフェースをさらに備え、前記運転者情報インターフェースが、前記計算デバイスから前記出力信号を受信し、前記車両の操作者の血流中のアルコールの存在又は非存在を示す、該操作者から目視可能な表示を提供することを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
ヒトのデータベースをさらに備え、前記ヒトのデータベースは、前記経皮的アルコール含量測定値を血中アルコール含量測定値に変換するための変換データを格納し、前記計算デバイスが、人間の前記血中アルコール含量を判定するために、前記ヒトのデータベースに動作可能に接続されることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
運転者情報インターフェースをさらに備え、前記運転者情報インターフェースは、前記計算デバイスから前記出力信号を受信し、前記車両の操作者の血流中のアルコールの存在又は非存在から濃度までを示す、該操作者から目視可能な表示を提供することを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
前記計算デバイスが、前記パターン認識ライブラリの前記出力の統計学的解析を通じて、前記経皮的アルコール含量及び測定値を判定することを特徴とする、請求項1に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−524911(P2012−524911A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507464(P2012−507464)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/032359
【国際公開番号】WO2010/124275
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511257159)ソバー ステアリング センサーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】