説明

自動車内装材用水性メタリック塗料および塗装物品

【課題】 1コート仕上げのメタリック塗膜が、素材との密着性と耐油脂性に優れ、しかも、濃度の高いアルカリ水溶液によっても白化もしくは変色することのないなど、高度の耐アルカリ性をも備えている、自動車内装材用水性メタリック塗料を提供する。
【解決手段】 メタリック顔料とビヒクルを含む自動車内装材用水性メタリック塗料であって、前記ビヒクルとして、単量体成分としてイソボロニルメタクリレートを必須としスチレンは含まず、計算Tgが80〜140℃、酸価が10〜25mgKOH/g、SP値が9.5〜10.0であるアクリル系樹脂を界面活性剤を用いずに水性分散化してなる第1の水性分散樹脂(A)と、酸変性量が1.6〜2.5質量%、塩素化度が18〜25%、重量平均分子量が5〜8万の酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を界面活性剤を用いずに水性分散化してなる第2の水性分散樹脂(B)とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタリック色を呈する自動車内装材用の水性塗料およびこの水性メタリック塗料による塗装が施されている自動車用内装材などの塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装には、製品仕様に要求される物性に応じて選択された各種プラスチック素材が使用されており、該プラスチック素材に対して内装材に相応しい塗装が施されている。この自動車内装材の塗装色として、近年、意匠・デザイン性が高いメタリック色の人気が急激に高まりつつあり、メタリック色を呈する自動車内装材用塗料の需要が増えている。
メタリック色は塗料中にアルミニウム、銅、亜鉛などの光輝顔料を内添することで生じさせるが、このような塗料を構成するビヒクルとしてはアクリル系樹脂が最適である。エンジンオイル、グリースなどに対する耐汚染性に優れ、不粘着性、耐傷付き性にも優れるからである。しかし、アクリル系樹脂はプラスチック素材に対する密着性が高くないので、その添加量を増やすことが難しいという弱点がある。この弱点を補うため、塩素化ポリオレフィン樹脂を併用するようにしている(特許文献1など参照)。
【0003】
近年、環境保護の観点から有機溶剤の排出削減の要望が高まりつつあるなか、各種塗料においても従来の有機溶剤型塗料から水性塗料への変換が求められている。そこで、特許文献1に記載されているメタリック塗料では、アクリル系樹脂については親水性官能基を付与した上で界面活性剤を用いてエマルションとし、塩素化ポリオレフィン樹脂についても界面活性剤を用いることによりエマルションとして、水性化を図っている。
しかしながら、親水性官能基を多く持つ樹脂からなる塗膜は耐水性や耐アルカリ性に乏しいという欠点を持つ。また、水中安定性を保つために、親水性物質である界面活性剤を多量に用いたエマルション樹脂からなる塗膜も、耐アルカリ性が低い。すなわち、アルカリ水溶液に曝される状態においては塗膜中にアルカリ水溶液が含浸しやすいという欠点があった。
【0004】
そのため、従来の水性塗料においては、例えば、アルミニウムフレーク等のメタリック顔料を配合してメタリック色を発現させるようにした場合、形成された塗膜がアルカリ水溶液に曝されると、塗膜中のメタリック顔料がアルカリ水溶液によって溶解し白化もしくは変色してしまうといった問題を生じることがあった。自動車内装材は、自動車に製品化され販売されたのちに、時折、石鹸液やウィンドーウォッシャー液のようなアルカリ性の洗剤類で拭かれることがあるため、自動車内装材用の塗料では特に、アルカリ水溶液によりメタリック顔料が溶解し白化もしくは変色するという前述した問題が生じないものであることが求められる。したがって、自動車内装材用の水性塗料を、メタリック色を呈するものとするためには、該塗料により形成される塗膜がアルカリ水溶液によって白化もしくは変色しないことが必要となる。
【0005】
このような問題に鑑みて、本発明者は、アクリル系樹脂の水性化について、先に、アクリル系樹脂の酸価を調整することでハイドロゾル化することにより、界面活性剤を用いることなく水性化する技術を開発した(特許文献2,3参照)。他方、塩素化ポリオレフィン樹脂を酸変性しておいて塩基性物質で中和することにより、界面活性剤を使用することなく、塩素化ポリオレフィン樹脂を水性化する技術についても、最近、開発された(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2001− 2977号公報
【特許文献2】特開2005−132927号公報
【特許文献3】特開2005−132928号公報
【特許文献4】特開2004− 18659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の自動車内装用水性塗料における水性化の工夫は、いずれも、十分な耐アルカリ性を有するものではなかったため、これまで自動車内装材用としての水性メタリック塗料は実用化されていないのが現状であった。
ところで、アクリル系樹脂においても、単量体としてスチレンを使用することにより造膜性を高めて、長時間のアルカリ水溶液との接触によっても白化もしくは変色することのないようにすることが図られている。しかし、スチレンの使用は塗膜の耐油脂性を低下させる恐れがある。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、界面活性剤の使用を無くすることにより、1コート仕上げのメタリック塗膜が、素材との密着性と耐油脂性に優れ、しかも、スチレンフリーでありながら、長時間のアルカリ水溶液接触によっても白化もしくは変色することの起きないなど、高度の耐アルカリ性をも備えている自動車内装材用水性メタリック塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、特定範囲の計算Tg、酸価およびSP値を持つスチレンフリーのアクリル系樹脂を界面活性剤を用いずにハイドロゾル化してなるものと、特定範囲の酸変性量、塩素化度および重量平均分子量を持つ酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を界面活性剤を用いずにハイドロゾル化してなるものとをビヒクルとして併用すると、水性塗料でありながら素材との密着性と耐油脂性に優れかつ耐アルカリ性にも優れた塗膜を形成することができることを見出し、このような塗料が前記課題を一挙に解決しうることを確認して、本発明を完成した。
すなわち、本発明にかかる自動車内装材用水性メタリック塗料は、メタリック顔料とビヒクルを含む自動車内装材用水性メタリック塗料であって、前記ビヒクルとして、単量体成分としてイソボロニルメタクリレートを必須としスチレンは含まず、計算Tgが80〜140℃、酸価が10〜25mgKOH/g、SP値が9.5〜10.0であるアクリル系樹脂を界面活性剤を用いずにハイドロディスパージョン化してなる第1の水性ハイドロディスパージョン樹脂Aと、酸変性量が1.6〜2.5質量%、塩素化度が18〜25%、重量平均分子量が5〜8万の酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を界面活性剤を用いずにハイドロディスパージョン化してなる第2の水性ハイドロディスパージョン樹脂Bとを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる自動車内装材用水性メタリック塗料は、上記において、前記アクリル系樹脂を合成するための重合性単量体成分中に占める前記イソボロニルメタクリレートの割合が20〜50質量%であることが好ましく、前記ハイドロディスパージョン樹脂Aと前記ハイドロディスパージョン樹脂Bの相互割合(固形分比A/B)が6/4〜8/2であることが好ましく、前記ハイドロディスパージョン樹脂Aとハイドロディスパージョン樹脂Bの合計固形分量の塗料固形分全量に対する割合が70〜98質量%であることが好ましく、また、前記メタリック顔料の塗料固形分全量に対する割合が1〜15質量%であることが好ましい。
【0009】
そして、本発明にかかる塗装物品は、好ましい実施形態を含めて、上記本発明にかかる水性メタリック塗料による塗装が施されている塗装物品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の自動車内装材用水性メタリック塗料によれば、塗装時において環境保護の要望を満たしつつ、これにより形成された1コート仕上げの塗膜が、素材との密着性と耐油脂性に優れ、しかも、スチレンフリーでありながら、長時間のアルカリ水溶液接触によっても白化もしくは変色することを回避することができて高度の耐アルカリ性をも備えており、自動車内装材に意匠・デザイン性が高いメタリック色を呈することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかる自動車内装材用水性メタリック塗料は、ビヒクルとメタリック顔料とを含む塗料であって、上記ビヒクルとして、上記特定の水性ハイドロディスパージョン樹脂Aと上記特定の水性ハイドロディスパージョン樹脂Bとを含むものである。
以下では、これらの構成要素について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
<第1の水性ハイドロディスパージョン樹脂Aについて>
本発明において用いられている第1の水性ハイドロディスパージョン樹脂Aは、イソボロニルメタクリレートを必須とし計算Tgが80〜140℃、酸価が10〜25mgKOH/g、SP値が9.5〜10.0であるアクリル系樹脂を界面活性剤を用いずにハイドロディスパージョン化してなるものである。
【0012】
アクリル系樹脂を構成する重合性単量体成分は、イソボロニルメタクリレートを必須としたうえで、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリレート類等のα,β−エチレン性不飽和モノマーを適宜量含むものであればよい。なお、アクリル系樹脂を構成する重合性単量体成分がイソボロニルメタクリレートを必須とする理由は、耐アルカリ性を高度にするためである。重合性単量体成分中に占めるイソボロニルメタクリレートの割合は、特に制限されないが、重合性単量体成分中20〜50質量%であることが好ましい。イソボロニルメタクリレートの割合が20質量%未満であると、耐アルカリ性が悪くなる恐れがあり、他方、イソボロニルメタクリレートの割合が50質量%を超えると、造膜性が悪くなる恐れがある。
【0013】
前記酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、アクリル酸ニ量体、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α−ハイドロ−ω−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]ポリ[オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル)]、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸等を挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
重合性単量体成分に占める前記酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーの割合は、アクリル系樹脂の酸価が10〜25mgKOH/gとなるように適宜設定すればよい。
前記重合性単量体成分は、前記酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーのほかに、水酸基を有するモノマーを含むものであってもよい。水酸基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコール、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの付加物等が挙げられる。水酸基を有するモノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0015】
前記重合性単量体成分が前記水酸基を有するモノマーをも含む場合、重合性単量体成分に占める前記水酸基を有するモノマーの割合は、特に限定されないが、得られるアクリル系樹脂の水酸基価が20mgKOH/g以下となるように設定することが好ましい。
前記重合性単量体成分は、さらに必要に応じて、前記酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマー以外のその他のα,β−エチレン性不飽和モノマーを含むものであってもよい。その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミド、2,4−ジヒドロキシ−4´−ビニルベンゾフェノン、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等の重合性アミド化合物;ビニルケトン、ビニルナフタレン等の重合性芳香族化合物;(メタ)アクリルニトリル等の重合性ニトリル;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;ブタジエン、イソプレン等のジエン;等が挙げられる。その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーは1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0016】
アクリル系樹脂を得る際の溶液重合において用いることのできる重合開始剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等のパーオキサイド系重合開始剤;等が挙げられる。重合開始剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記重合においては、必要に応じて、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタン類等の連鎖移動剤を用いることもできる。
アクリル系樹脂を得る際の溶液重合においては、溶媒として、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;ケトン類;アルコール類またはその誘導体;ジエチレングリコールまたはその誘導体;プロピレングリコールまたはその誘導体; ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド;等を用いることができる。溶媒は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記溶液重合の方法は、特に制限されないが、例えば、反応容器に溶媒を仕込み所定の反応温度に昇温したのち、該温度にて反応容器に重合性単量体成分と重合開始剤とを滴下し、所定時間、恒温で重合させるようにすればよい。このとき、反応温度は60〜100℃とするのが好ましく、反応時間は5〜8時間程度とするのが好ましい。
アクリル系樹脂の酸価は、10〜25mgKOH/gであることが重要である。このような特定の酸価をもつ水性アクリル系樹脂をハイドロゾル化してなる水性ハイドロゾル樹脂(A)をビヒクルの1つとすることにより、本発明の水性メタリック塗料は形成された塗膜が高濃度のアルカリによって白化もしくは変色することを回避しうるのである。アクリル系樹脂の酸価が10mgKOH/g未満であると、このアクリル系樹脂を水性化できず、水性塗料が得られないこととなり、他方、25mgKOH/gを超えると、得られる水性ハイドロゾル樹脂(A)の耐アルカリ性が不充分となり、メタリック顔料を配合すると形成された塗膜がアルカリ水溶液によって白化もしくは変色することとなる。
【0018】
本発明において用いられるアクリル系樹脂は、その計算Tgが80〜140℃であり、SP値が9.5〜10.0であることが重要である。アクリル系樹脂の計算Tgが80℃を下回ると、耐アルカリ性が落ちるともに耐油脂性などの耐汚染性や粘着性不良が起き易くなり、他方、アクリル系樹脂の計算Tgが140℃を上回ると、造膜性が悪くなる。アクリル系樹脂のSP値が9.5を下回ると耐油脂性などの耐汚染性が悪くなり、10.0を上回ると耐アルカリ性が悪くなる。
本発明において、アクリル系樹脂のTgは、このアクリル系樹脂を得るための各単量体の配合割合をWnとし、各単量体のみを用いて得られるホモポリマーの実測TgをTgnとして、下記の式で求められる計算上のものである。
【0019】
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)
ホモポリマーのTg実測は、単独重合により得られたホモポリマーの揮発成分を減圧留去してから、このホモポリマーに対し、示差走査熱量計(DSC;セイコー電子社製の熱分析装置SSC/5200H使用)で、第1工程:20℃→100℃(昇温速度10℃/分)、第2工程:100℃→−50℃(降温速度10℃/分)、第3工程:−50℃→100℃(昇温速度10℃/分)の昇温・降温・昇温処理を施し、上記第3工程の昇温時にTgを実測する、と言う方法によった。ホモポリマーのTg実測値は、例えば、イソボロニルメタクリレート・ホモポリマーが180℃、n−ブチルアクリレート・ホモポリマーが−54℃、メタクリル酸・ホモポリマーが185℃、イソブチルメタクリレート・ホモポリマーが48℃、メチルメタクリレート・ホモポリマーが105℃、ターシャリブチルメタクリレート・ホモポリマーが107℃であった。
【0020】
他方、アクリル系樹脂のSP値は、つぎのようにして求めた値である(Suh,Clarke〔J.P.S.A−1,5,1671−1681(1967)〕参照)。すなわち、アクリル系樹脂0.5gを100mlのビーカーに秤取し良溶媒(ジオキサンおよび/またはアセトン)10mlを加えて溶解することにより得た溶液を試料として、ビュレットを用い、貧溶媒(n−ヘキサンおよび/またはイオン交換水)を液温20℃の上記溶液に滴下し、溶液に濁りが生じたときの滴下量を小数点以下1桁の数値で表す。
アクリル系樹脂のTgとSP値を前記特定の数値範囲に納めるためには、例えば、必須単量体であるイソボロニルメタクリレートの必要量と、必要な酸価を得るための酸基含有α,β-エチレン性不飽和単量体の必要量とを設定するとともに、酸基含有α,β-エチレン性不飽和単量体以外の単量体の共重合組成をも設定するにあたり、上で述べた計算Tgと実測SP値が前記特定の数値範囲に納まるように設定するのである。
【0021】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば、15,000〜100,000であることが好ましい。
アクリル系樹脂をハイドロディスパージョン化する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法で行うことができる。例えば、1)前述した重合により得られたアクリル系樹脂の樹脂溶液を中和剤および水の入った容器の中に添加し、強制的に水中分散させる方法、2)前記樹脂溶液に中和剤を添加して中和した後、得られた中和樹脂溶液を、水の入った容器に攪拌下で添加しながら水中分散させる方法、3)前記樹脂溶液に中和剤を添加して中和した後、得られた中和樹脂溶液を攪拌下で若干加熱しながら、該中和樹脂溶液に高温の水を添加していき、転相して水中分散させる方法、等を採用すればよい。
【0022】
アクリル系樹脂のハイドロディスパージョン化に用いる前記中和剤としては、特に制限はなく、1級アミン、2級アミン、3級アミン等の有機アミン化合物やアンモニア水等を用いることができる。有機アミン化合物の具体例としては、例えば、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン等のアルカノールアミン類;等が挙げられる。中和剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
<第2の水性ハイドロディスパージョン樹脂Bについて>
水性ハイドロディスパージョン樹脂Bは、酸変性量が1.6〜2.5質量%、塩素化度が18〜25%、重量平均分子量が5〜8万の酸変性塩素化ポリオレフィンを界面活性剤を用いずにハイドロディスパージョン化してなるものであり、このハイドロディスパージョン化は、たとえば、上記特定の酸変性塩素化ポリオレフィンをエーテル系溶剤に溶解させ、これに塩基性物質を加えて中和した後に、水を加えて分散させ、次いでエーテル系溶剤を除去することで行う。
【0023】
原料の酸変性塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合して酸変性ポリオレフィンを得た後に、この酸変性ポリオレフィンを塩素化して得られるものを用いることができる。
ここで、プロピレン−α−オレフィン共重合体とは、プロピレンを主体としてこれにα−オレフィンを共重合したものである。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどを1種または数種用いることができる。これらの中では、エチレン、1−ブテンが好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン成分とα−オレフィン成分との比率には特に制限はないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明において用いられる塩素化ポリオレフィン樹脂は酸変性してなるものであり、その酸変性度が1.6〜2.5質量%の範囲にすることが必要である。その酸変性度が1.6質量%を下回ると分子量大なる場合においては界面活性剤が存在していない状態下でのディスパージョン化が困難であり、2.5質量%を上回ると分子量小なる場合においては凝集力が低下するので初期密着性が落ちる。
本発明において用いられる塩素化ポリオレフィン樹脂は、この酸変性度の調整のために、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種にα,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物の1種を適当量共重合させてグラフト化する。グラフト共重合するα,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸、無水イタコン酸がより好ましい。
【0025】
ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合する方法としては、溶液法や溶融法などの公知の方法が挙げられる。
溶液法は、例えば、次のように行う。すなわち、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種を、トルエン等の芳香族系有機溶媒に100〜180℃で溶解させた後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を添加し、さらにラジカル発生剤を一括または分割で添加して反応させる。
【0026】
溶融法は、例えば、次のように行う。すなわち、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種を、融点以上に加熱溶融した後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種とラジカル発生剤を添加して反応させる。
ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられ、反応温度と分解温度によって選定することができる。
上記方法で得られた酸変性ポリオレフィンを塩素化して、酸変性塩素化ポリオレフィンを得る。
【0027】
この塩素化は、例えば、塩素系溶媒中に酸変性ポリオレフィンを溶解し、ラジカル発生剤の存在下または不存在下で、塩素含有率が18〜25質量%になるまで塩素ガスを吹き込んで行うことができる。塩素系溶媒としては、例えば、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム等が挙げられる。
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は、18〜25質量%であることが必要である。18質量%未満だと界面活性剤が存在しないか少ない状態での乳化が困難であり、25質量%を超えると初期密着性に劣るからである。
酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は、50,000〜80,000であることが必要である。重量平均分子量が50,000未満であると、凝集力が弱くなり初期密着性が悪くなる。重量平均分子量が80,000を超えると、軟化温度が若干上がるため、やはり、初期密着性が悪くなる。なお、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することができる。
【0028】
本発明の水性樹脂分散組成物を製造するには、酸変性塩素化ポリオレフィンをエーテル系溶剤に溶解させ、これに塩基性物質を加えて中和した後に、水を加えて分散させ、次いでエーテル系溶剤を除去すればよい。
これを、工程ごとに説明する。
まず、酸変性塩素化ポリオレフィンをエーテル系溶剤に溶解させる。エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。好ましいエーテル系溶剤は、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノプロピルエーテルである。
【0029】
次に、上記で得られた酸変性塩素化ポリオレフィン溶液に、塩基性物質を加えて中和する。塩基性物質としては、モルホリン;アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。好ましい塩基性物質は、ジメチルエタノールアミンである。
次に、中和した酸変性塩素化ポリオレフィン溶液に、水を加えてW/O型の分散体を形成させ、続いて水を加えながらこれをO/W型に転相させる。加える水の温度は特に制限されないが、50〜70℃程度が好ましい。また、加える水の量も特に制限されないが、酸変性塩素化ポリオレフィンに対して2〜6倍質量であるのが好ましく、3〜5倍質量であるのがより好ましい。
【0030】
次に、転相後の分散体からエーテル系溶剤を除去して、本発明の水性樹脂分散組成物を得る。エーテル系溶剤を除去するには、減圧で留去すればよい。留去する際の減圧度は特に制限されないが、90〜95KPa程度の減圧度が好ましい。この際、水の一部も留去される。なお、必要に応じて追加量の水を添加することができる。
<水性メタリック塗料化について>
本発明の水性メタリック塗料において、水性ハイドロディスパージョン樹脂Aと水性ハイドロディスパージョン樹脂Bの相互割合(固形分比A/B)は6/4〜8/2であることが好ましい。
【0031】
なお、ビヒクルとしての水性ハイドロディスパージョン樹脂Aと水性ハイドロディスパージョン樹脂Bの合計固形分量の塗料固形分全量に対する割合(含有量)は、70〜98質量%であることが好ましい。ビヒクル樹脂の含有量が70質量%未満であると、耐アルカリ性が不充分となる恐れがある。ビヒクル樹脂の含有量が98質量%を上回ると、下地隠蔽性が低下する恐れがある。
本発明の水性メタリック塗料は、メタリック顔料を含むものである。これにより、メタリック色を呈する塗料となる。前記メタリック顔料としては、例えば、アルミニウム(コーティングアルミ)、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金のような金属製光輝材(無着色のものであってもよいし、着色されたものであってもよい)等が挙げられる。メタリック顔料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。なお、前記メタリック顔料を構成する金属(アルミニウム等)が酸化腐食して沈降凝集したり、塗膜としたときに金属光沢を発しなくなったりするのを防止するため、あらかじめクロメート処理や酸化防止処理を施しておいたり、塗料中に酸化防止剤を別途配合するなどの措置を講ずるようにしてもよい。ここで、用いることのできる酸化防止剤としては、例えば、ラウリルフォスフェートや高分子アクリルフォスフェート等の有機燐化合物が挙げられ、その使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定すればよい。
【0032】
本発明の水性メタリック塗料中に占める前記メタリック顔料の含有量は、塗料中の全固形分(樹脂固形分および顔料などその他の固形分)中1〜15質量%であることが好ましい。メタリック顔料の含有量が1質量%未満であると、メタリック感が不充分になる傾向があり、他方、15質量%を超えると、塗膜の凝集力が弱くなる恐れがあり、いずれも好ましくない。
本発明の水性メタリック塗料は、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、前記メタリック顔料以外の顔料をも含有していてもよい。前記メタリック顔料以外の顔料としては、例えば、マイカ顔料、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄系顔料、酸化クロム等の無機顔料;アゾ系顔料、アントラセン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料;タルク、沈降性硫酸バリウム、珪酸塩等の体質顔料;導電カーボン等の導電性顔料;等が挙げられる。前記メタリック顔料以外の顔料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0033】
本発明の水性メタリック塗料は、水を主溶媒とするものであるが、その他の溶媒としての水に対し外割として50質量%以下であり、かつ、本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機溶剤を含有するものであってもよい。有機溶剤としては、例えば、水性アクリル系樹脂を得る際の重合で用いることのできる前述した溶媒その他、以下のような溶剤がある。これらの有機溶剤は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。有機溶剤を含有させると、作業性が向上し、顔料等の分散性が高くなる。もっとも、一般的には、有機溶剤を含有させない方がエマルションの貯蔵安定性が高く、最近の有機溶剤の規制にも適合し、好ましい。
【0034】
このような有機溶剤としては、たとえば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル等のエステル類;n−ブチルエーテル、イソブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、n−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のセロソルブ類;ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカービトール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジアセトンアルコール等のその他の溶剤類等を挙げることができる。
【0035】
本発明の水性メタリック塗料は、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、他の水性樹脂、増粘剤、消泡剤、顔料分散剤、表面調整剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、可塑剤、導電性材料、電磁波吸収材料、臭い物質吸収剤等の添加剤を含有していてもよい。上記他の水性樹脂としては、水溶性アクリル樹脂がもっとも好ましいが、水溶性アクリル樹脂以外に、ポリエステル樹脂エマルション、ポリウレタン樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルションやアミノ樹脂エマルション等も配合されて良い。
本発明の水性メタリック塗料は、前述した各成分を通常の方法によって均一に混合することにより得ることができる。例えば、攪拌機を備えた容器に、前述した各成分を攪拌下で順次もしくは一挙に添加し、均一に混合するようにすればよい。また、顔料は、あらかじめ一部または全ビヒクルに必要なレベルまで分散させて顔料ペ−ストとしておき、添加するようにしてもよい。
【0036】
本発明の水性メタリック塗料は、pHが7〜10であることが好ましく、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で前述した水性アクリル系樹脂のハイドロディスパージョン化に用いる前記中和剤を用いて、pH調整されていてもよい。
本発明の水性メタリック塗料は、被塗装物上に直接塗装することもできるし、被塗装物上にあらかじめ下地となるプライマー塗膜を形成しておき、該プライマー塗膜上に塗装することもできる。
本発明の水性メタリック塗料を塗装する際の塗布方法については、特に限定はなく、エアースプレー塗装、ベル塗装、回転ディスク塗装、浸漬塗装、ハケ塗り塗装などの公知の方法を採用することができる。また、塗装時に静電をかけて、塗着効率を上げるようにしてもよい。
【0037】
本発明の水性メタリック塗料を塗装する際の塗布量は、用途に応じて適宜設定すればよく特に制限されないが、例えば、内装材用途に用いる場合には、乾燥膜厚が10〜50μm、好ましくは15〜40μmなるようにするのがよい。乾燥膜厚が薄すぎると、被塗装物の色を完全に隠蔽できない恐れがあり、しかも平滑な塗膜が得られにくくなる。一方、乾燥膜厚が厚すぎると、乾燥時にワキが発生したり、メタリック顔料の配向が乱れて光輝感が低下したりする傾向がある。
本発明の水性メタリック塗料を塗装した後の塗膜を乾燥温度は、被塗装物の耐熱性を考慮して適宜設定すればよく特に制限されないが、例えば、60〜140℃とすればよい。また、このときの乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば、5〜60分間程度とすればよい。
【0038】
本発明にかかる自動車内装材用水性メタリック塗料が対象とする塗装物品は、プラスチック素材など種々の材料からなる自動車用内装材の基材であるほか、これらの基材を組み込んだ自動車車体そのものであっても良い。上記プラスチック素材としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィンのほか、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、特に断りのない限り、「質量部」を単に「部」と記す。
〔水性ハイドロディスパージョン樹脂Aの製造〕
<樹脂A−1の製造>
反応容器にイソプロピルアルコール82.7部を入れ、窒素気流中で混合攪拌しながら73℃に昇温した。そして、この反応容器の中に、3時間にわたり、メタクリル酸メチル(MMA)39.9部、メタクリル酸イソブチル(IBMA)25.3部、イソボロニルメタクリレート(IBX)31.7部とメタクリル酸(MAA)3.1部を滴下するのと並行して、メチルイソブチルケトン10.0部と2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.7部からなる開始剤溶液をも滴下した。滴下終了後、0.5時間、同温度で熟成を行った。そののち、メチルイソブチルケトン5.0部と2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり、さらに、反応容器内に滴下した。滴下終了後、2時間、同温度で熟成を行い、不揮発分50質量%、固形分酸価20%、重量平均分子量(Mw)=45,000のアクリル系樹脂を得た。そして、このアクリル系樹脂に、ジメチルエタノールアミンを3.2部加えて均一に分散させ、60℃まで冷却したのち、イオン交換水325.0部を1時間かけて滴下した。そののち、脱溶剤装置を用いて、減圧下(70Torr)50℃で溶剤を190.0部留去することにより、疎水性アクリル樹脂水分散体(水性ハイドロディスパージョン樹脂A−1)を得た。この水分散体の不揮発分量は30質量%であった。
<樹脂A−2〜A−14の製造>
水性ハイドロディスパージョン樹脂A−1を製造したのと同じ方法で、仕込みのモノマー量のみが表1に示されるような組成でもって、水性ハイドロディスパージョン樹脂A−2〜A−14を製造した。表1の単量体表示において、NBAはn−ブチルアクリレート、TBMAはターシャリー−ブチルメタクリレート、Stはスチレンを表す。これらの水分散体の不揮発分量もすべて、30質量%であった。
【0040】
表1にみるように、水性ハイドロディスパージョン樹脂A−14は単量体成分としてスチレンを含むものである。なお、水性ハイドロディスパージョン樹脂A−10の製造においては、アクリル系樹脂の酸価が8mgKOH/gと小さかったので、ハイドロディスパージョン化が出来なかった。
〔水性ハイドロディスパージョン樹脂Bの製造〕
<樹脂B−1の製造>
〈無水マレイン酸変性〉
温度制御可能なオイルバスに、攪拌羽根と温度計を持った容量1Lの反応容器を取り付け、この反応容器の中に、重量平均分子量(Mw)18万のアイソタクチックポリプロピレン(1SOTPP)300部を入れ、オイルバスによる加熱で、反応容器の内部温度を180℃まであげた。ついで、無水マレイン酸(MAn)3部とジ−ターシャリブチルパーオキサイド(DTBPO)3部を、2時間かけて徐々に加え、その後さらに2時間反応させて、重量平均分子量7万、マレイン酸付加量2%の酸無水物変性ポリプロピレン樹脂を得た。
【0041】
〈塩素化〉
温度制御可能なオイルバスに、攪拌羽根、ガス吹込口、ガス排出口と温度計を持った容量1Lの反応容器を取り付け、この反応容器の中に、上記酸無水物変性ポリプロピレン樹脂を300部仕込み、オイルバスによる加熱で、反応容器の内部温度を180℃まであげ、樹脂を完全に溶液状にした。ついで、強く攪拌しながら、容器底部から塩素ガスを吹き込み、塩素化反応を行った。適宜、内部樹脂をサンプル採取して塩素化度を測定し、塩素化度が20%になった時点で反応を中止し、冷却して酸無水物変性塩素化ポリプロピレン樹脂(酸変性CLPP)を得た。
【0042】
(水性化)
温度制御可能な温水槽に、攪拌羽根、温度計と冷却管を備えた容量1Lの反応容器を漬け、この反応容器の中に、上記酸無水物変性塩素化ポリプロピレン樹脂50部を仕込み、ついで、テトラヒドロフラン93部とプロピレングリコールモノプロピルエーテル24部を仕込んで、徐々に内部温度を65℃まで昇温し、この温度で1時間保持した後、ジ−エタノールアミン0.9部を添加した。反応容器内の液温を65℃に保持しながら、65℃の水167部を1時間かけて徐々に滴下して、W/O型からO/W型の分散体に転相させた。この水分散体を91KPaの減圧下に置き、2時間かけて、テトロヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルと水の一部を除去することによって、水性ハイドロディスパージョン樹脂B−1を得た。この樹脂B−1の固形分量は、30質量%であった。
<樹脂B−2〜B−10の製造>
上記水性ハイドロディスパージョン樹脂B−1を製造したのと同様の方法で、表2に示される配合組成・特性をもった水性ハイドロディスパージョン樹脂B−2〜B−10を製造した。これらの水分散体の不揮発分量もすべて、30質量%であった。
【0043】
表2にみるように、水性ハイドロディスパージョン樹脂B−6の製造時のみ、界面活性剤を用いた。なお、水性ハイドロディスパージョン樹脂B−7の製造においては酸無水物変性塩素化ポリプロピレン樹脂の酸変性量が1.4質量%と小さく、また、水性ハイドロディスパージョン樹脂B−9の製造においては酸無水物変性塩素化ポリプロピレン樹脂の塩素化度が15%と低かったので、いずれも、ハイドロディスパージョン化が出来なかった。

表1,2には、水性ハイドロディスパージョン樹脂A−1〜A−14の製造に用いたアクリル系樹脂の特性(計算Tg、AV(酸価)、SP(溶解性パラメーター)と水性ハイドロディスパージョン樹脂B−1〜B−10の製造に用いた酸無水物変性塩素化ポリプロピレン樹脂の特性(酸変性量、塩素化度、Mw(重量平均分子量))を併せて示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】



【0046】
〔塗料の製造と塗装物品の製造〕
(実施例1)
攪拌機を備えた容器に水性ハイドロディスパージョンA−1を70部と、表面調整剤(ダイノール604、エアープロダクツ社製)1.0部、アルミ(「Hydrolan 3560」ECKART社製)4.0部、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル6部およびイオン交換水20部とを攪拌下、順次仕込み、ついで、水性ハイドロディスパージョン樹脂B−1を30部と、増粘剤(「アデカノールUH752」旭電化工業社製)1.0部を仕込み、全ての仕込み終了後、さらに1時間攪拌することによって、水性メタリック塗料を得た。
【0047】
市販のポリプロピレン素材(100mm×350mm×3mm)の表面をイソプロピルアルコール拭きしておいて、この素材表面に、上記の水性メタリック塗料を、乾燥膜厚が20μmとなるように、エアースプレー塗装し、80℃で25分間加熱乾燥することによって試験片を作製した。
(実施例2〜13、比較例1〜8)
表3,4に示す「塗料の材料配合」と表5,6に示す「塗料性能と樹脂配合」で、実施例1と同様にして、実施例2〜13、比較例1〜8の塗料を調製するとともに、これらの塗料を用いての試験片作製も行った。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
これら実施例1〜13、比較例1〜8の試験片について、下記3つの評価を行い、結果を上の表5,6に示した。
<耐水2次付着性>
試験片を、40℃に調節された恒温水槽中に浸漬し、24時間後に取り出して、同一試料の未試験品と比較し、変色退色の程度、剥れ、クラックの有無を目視と指触で確認するとともに、碁盤目(2mm巾)テープ剥離試験を用いて密着性についても確認した。
○:変色退色、剥れ、クラックが無く、密着性による剥れもない。
×:変色退色、剥れとクラックが有るか、若しくは、密着性試験による剥れがある。
<耐アルカリ性>
試験片の塗膜上に、内径40mm、高さ15mmのポリエチレン製円筒を置き、塗膜面と接する部分から液が漏れないように接着剤で円筒と塗膜間をシールしたのち、円筒内に0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを入れ、時計皿で円筒上部に蓋をして密閉状態にした。この状態のまま、55℃の雰囲気下で8時間放置したのち、円筒内の水酸化ナトリウム水溶液を破棄して塗膜から円筒を外し、塗膜を水洗、風乾した。そして、水酸化ナトリウム水溶液を接触させていた部分とそうでない部分との色差ΔE(デルタ・イー)を、色彩色差計「MINOLTA CR−200」)を用いて測定し、以下の基準で判定した。
【0053】
○:ΔE<1.5、×:ΔE≧1.5
<耐エンジンオイル性〉
平らに置いた試験片にエンジンオイルを0.2m1滴下し、80℃の恒温槽で4時間加熱し、取り出して、この試験片を軟らかい布に中性洗剤を含ませて拭取り、塗膜を爪で引掻いたときの塗膜剥離の有無を見た。塗膜剥離の起きないものを合格とした。エンジンオイルは本田技研工業社製の「純正ウルトラオイル(商品名)」を使用した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明にかかる自動車内装材用水性メタリック塗料は、界面活性剤とスチレンを用いないでも、塗装作業時の環境保護を図りつつ、プラスチック素材との密着性に優れるとともに、高度の耐アルカリ性を持ち、メタリック色を呈する自動車内装材を得る際に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタリック顔料とビヒクルを含む自動車内装材用水性メタリック塗料であって、前記ビヒクルとして、単量体成分としてイソボロニルメタクリレートを必須としスチレンは含まず、計算Tgが80〜140℃、酸価が10〜25mgKOH/g、SP値が9.5〜10.0であるアクリル系樹脂を界面活性剤を用いずにハイドロディスパージョン化してなる第1の水性ハイドロディスパージョン樹脂Aと、酸変性量が1.6〜2.5質量%、塩素化度が18〜25%、重量平均分子量が5〜8万の酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を界面活性剤を用いずにハイドロディスパージョン化してなる第2の水性ハイドロディスパージョン樹脂Bとを含むことを特徴とする、自動車内装材用水性メタリック塗料。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂を合成するための重合性単量体成分中に占める前記イソボロニルメタクリレートの割合が20〜50質量%である、請求項1に記載の自動車内装材用水性メタリック塗料。
【請求項3】
前記ハイドロディスパージョン樹脂Aと前記ハイドロディスパージョン樹脂Bの相互割合(固形分比A/B)が6/4〜8/2である、請求項1または2に記載の自動車内装材用水性メタリック塗料。
【請求項4】
前記ハイドロディスパージョン樹脂Aとハイドロディスパージョン樹脂Bの合計固形分量の塗料固形分全量に対する割合が70〜98質量%である、請求項1から3までのいずれかに記載の自動車内装材用水性メタリック塗料。
【請求項5】
前記メタリック顔料の塗料固形分全量に対する割合が1〜15質量%である、請求項1から4までのいずれかに記載の自動車内装材用水性メタリック塗料。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載の水性メタリック塗料による塗装が施されている、塗装物品。

【公開番号】特開2007−182527(P2007−182527A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56659(P2006−56659)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(593135125)日本ビー・ケミカル株式会社 (52)
【Fターム(参考)】