説明

自動車前部の導風構造

【課題】空気取入口から取り入れられた走向風にて、冷却系部品を効率的に冷却しつつ、かかる走行風の一部を、冷却系部品以外の装置や部品の冷却風として有効に利用可能とした自動車前部の導風構造を提供する。
【解決手段】空気取入口16から取り入れられた走向風を、筒状の導風部材14にて、冷却系部品12に導くと共に、導風部材14の少なくとも一部の筒壁部28を、空気取入口16の開口周縁部17cよりも内側に位置させることにより、それら筒壁部28と空気取入口16の開口周縁部部位17cとの間に、エンジンルーム内における導風部材16の外側空間に走行風を導入する導入口60を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車前部の導風構造に係り、特に、自動車前面から取り入れられた走向風を、自動車前部に設置される冷却系部品に導くための自動車前部の導風構造の改良に関する。
【0002】
よく知られているように、自動車では、その走行によって生ずる、車両前方から後方に向かう流れの走行風が、自動車前面に設けられたフロントバンパやフロントグリルの開口部からなる空気取入口を通じて、自動車前部のエンジンルーム内に取り入れられるようになっている。そして、この走行風が、エンジンルーム内に設置されたラジエータや空調用コンデンサ等の冷却系部品に導かれて、それらの冷却系部品の冷却に利用されている。
【0003】
ところで、従来から、走行風を冷却系部品に対して効率的に導くための構造が、種々、提案されている。例えば、特開2005−96684号公報(特許文献1)や特開2001−80371号公報(特許文献2)等には、エンジンルーム内におけるフロントバンパと冷却系部品との間に、導風部材を配設してなる自動車前部の導風構造が提案されている。それらの導風構造のうち、前者では、導風部材が、エンジンルーム内において、車幅方向に所定距離を隔てて互いに対向しつつ、車両前後方向に延びるように配設された二つの導風板にて構成されている。また、後者では、導風部材が、エンジンルーム内において、車幅方向に所定距離を隔てて互いに対向しつつ、車両前後方向に延びるように配設された二つの導風板と、それら二つの導風板の下端部同士を相互に連結する導風板とにて構成されている。そして、それら何れの導風構造によっても、走行風が、導風部材にて、冷却系部品に対してスムーズに導かれ、以て、冷却系部品の冷却効率の向上と空力性能の向上とが有利に図られるとされている。
【0004】
ところが、そのような従来の導風構造について本発明者が検証したところ、実際には、所望の導風効果を十分に得るのが困難であることが判明した。即ち、従来の導風構造のうち、導風部材が二つの導風板にて構成されたものにあっては、導風部材の上部側と下部側とが、エンジンルーム内に開口した状態となっている。また、導風部材が三つの導風板にて構成されたものにおいては、導風部材の上部側が、エンジンルーム内に開口した状態となっている。このため、それらの導風構造では、空気取入口から取り入れられて、導風部材にて導かれる走向風の一部が、冷却系部品に達する前に、導風部材の上側開口部や下側開口部から不可避的に抜けていってしまう。それ故、空気取入口から取り入られる走向風を、冷却系部品の冷却風として十分に利用することが難しく、また、導風部材にて走向風をスムーズに導くことによって得られる空力性能の向上も、十分に実現することが困難であったのである。
【0005】
なお、導風部材の上側開口部や下側開口部からの風抜けを防止するには、四つの導風板を相互に組み付けてなる筒状体によって導風部材を構成することが考えられる。しかしながら、従来の導風部材に代えて、単に、筒状の導風部材を用いただけの場合には、以下の如き問題が新たに生ずることが懸念される。
【0006】
すなわち、従来の導風部材を用いる場合、上側開口部や下側開口部からの風抜けによって、冷却系部品の冷却効率が低下する反面、上側開口部や下側開口部から抜けた一部の走向風が、エンジンマウントやドライブシャフト、エキゾーストマニホールド等、エンジンルーム内で比較的に高温となる装置や部品の冷却風として有効に利用されることとなる。
【0007】
これに対して、従来の導風部材に代えて、上側開口部や下側開口部を有しない筒状の導風部材を用いた場合には、上側開口部や下側開口部からエンジンルーム内ヘの風抜けが阻止される。そのため、空気取入口から取り入れられる走向風の一部を、エンジンルーム内で高温となる、冷却系部品以外の装置や部品の冷却風として利用することが不可能となり、その結果、従来構造では走向風の一部にて冷却されていた、冷却系部品以外の装置や部品が冷却されなくなって、それらの装置や部品に様々な熱害が生ずる可能性があるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−96684号公報
【特許文献2】特開2001−80371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、空気取入口から取り入れられた走向風を冷却系部品にスムーズに導くことにより、冷却系部品の冷却効率の向上と空力性能の向上とを共に有利に図りつつ、かかる走向風の一部を、自動車前部のエンジンルーム内に配置された冷却系部品以外の装置や部品の冷却風として有効に利用して、それらの装置や部品を確実に冷却可能とした自動車前部の導風構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かかる課題の解決のために、自動車の前面に設けられた空気取入口と自動車前部のエンジンルーム内に配置された冷却系部品との間に導風部材を配設して、該空気取入口から取り入れられた走向風を、該導風部材にて、該冷却系部品に導くようにした自動車前部の導風構造であって、車両の前側と後側とに向かってそれぞれ開口する開口部を備えた筒状体にて、前記導風部材を構成すると共に、かかる導風部材を、前記エンジンルーム内において、該前側開口部が前記空気取入口を通じて外部に連通し、且つ該後側開口部が前記冷却系部品に向かって開口して、車両前後方向に延びるように配設し、更に、該導風部材の筒壁部のうちの少なくとも一部を、前記空気取入口の開口周縁部よりも内側に位置させることにより、該少なくとも一部の筒壁部と、それよりも外側に位置する該空気取入口の開口周縁部部位との間に、該エンジンルーム内における該導風部材の外側の空間に前記走行風を導入するための導入口を形成したことを特徴とする自動車前部の導風構造を、その要旨とするものである。
【0011】
なお、本発明の好ましい態様の一つにによれば、前記導風部材の筒壁部のうち、車両上部側に位置する筒壁部部位が、前記空気取入口の開口周縁部の内側に位置せしめられて、前記導入口が、該車両上部側に配置された筒壁部部位と、それよりも外側に位置する該空気取入口の開口周縁部部位との間に形成される。
【0012】
また、本発明の望ましい態様の一つによれば、車両の上下方向において互いに対向配置されて、車両前後方向に延びる二つの導風板と、車幅方向において互いに対向配置されて、車両前後方向に延びる二つの導風板とが相互に組み付けられてなる筒状体にて、前記導風部材が構成される。
【発明の効果】
【0013】
すなわち、本発明に従う自動車前部の導風構造においては、空気取入口から取り入れられて、筒状体からなる導風部材の前側開口部から導風部材内に導入された走向風が、かかる導風部材の筒壁部の内面によりスムーズに導かれて、後側開口部から冷却系部品に向かって確実に吹き付けられる。また、空気取入口から取り入れられた走向風の一部が、導風部材の筒壁部の少なくとも一部と空気取入口の開口周縁部との間に形成された導入口から、エンジンルーム内における導風部材の外側の空間に導かれる。そして、そのような走向風の一部が、エンジンルーム内における導風部材の外側の空間に配置された、冷却系部品以外の各種の装置や部品の冷却風として有効利用される。
【0014】
従って、かくの如き本発明に従う導風構造によれば、冷却系部品の冷却効率の向上と空力性能の向上とを共に有利に図りつつ、空気取入口から取り入れられる走向風の一部にて、エンジンルーム内に配置された冷却系部品以外の装置や部品を確実に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従う導風構造の一実施形態を採用した自動車前部の部分断面説明図であって、図2のI−I断面に相当する図である。
【図2】図1のII−II断面説明図である。
【図3】図1に示された導風構造を採用する自動車前部に取り付けられた導風部材を示す縦断面説明図である。
【図4】図3のIV矢視説明図である。
【図5】図3のV−V断面説明図である。
【図6】本発明に従う導風構造の別の実施形態を採用した自動車前部の部分断面説明図であって、図1に対応する図である。
【図7】本発明に従う導風構造の更に別の実施形態を採用した自動車前部の部分断面説明図であって、図1に対応する図である。
【図8】本発明に従う導風構造の他の実施形態を採用した自動車前部の部分断面説明図であって、図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0017】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う導風構造の一実施形態が適用された自動車前部の構造が、概略的に示されている。本実施形態においては、自動車の前面に設置されたフロントバンパ10と、自動車前部のエンジンルーム:E内において、フロントバンパ10よりも車両後側(図1及び図2の右側)に配設された、冷却系部品としてのラジエータ12との間に、筒状の導風部材14が、車両前後方向(図1及び図2における左右方向)に延びるように設置されている。そして、自動車の前面からエンジンルーム:Eに導入された走行風が、導風部材14にて、ラジエータ12の前面に導かれるようになっている。なお、以下からは、車両前後方向を、単に前後方向、車両上下方向(図1の上下方向で、図2の紙面に垂直な方向)を、単に上下方向、車両左右方向(図1の紙面に垂直な方向で、図2の上下方向)を、単に左右方向又は車幅方向と言う。
【0018】
より具体的には、フロントバンパ10は、それを貫通する開口部としての空気取入口16を有している。この空気取入口16は、全体として、略矩形状を呈し、車幅方向両側において上下方向に延びる右側開口周縁部分(右側内周面部分)17a及び左側開口周縁部分(左側内周面部分)17bと、上下両側において車幅方向に延びる上側開口周縁部分(上側内周面部分)17c及び下側開口周縁部分(下側内周面部分)17dとにて形成された開口周縁部(内周面)を有している。そして、このような空気取入口16が、車両前後方向においてラジエータ12と対応配置するフロントバンパ10部分の一部に形成されている。これにより、エンジンルーム:E内が、空気取入口16を通じて外部に連通されている。そして、自動車の走行時に、走行風が、空気取入口16を通じて、エンジンルーム:E内に取り入れられて、エンジンルーム:E内をラジエータ12側に向かって流れるようになっている。
【0019】
ラジエータ12は、枠状乃至は筒状を呈するファンシュラウド18にて囲繞されている。即ち、ファンシュラウド18は、右側壁部20aと左側壁部20bと上側壁部20cと下側壁部20dとが一体に組み付けられてなる矩形の枠状乃至は筒状の全体形状を有し、ラジエータ12を外側から取り囲むように配置されている。そして、かかるファンシュラウド18の後部には、図示しない冷却ファンが装着されており、この冷却ファンの作動によって生ずる風が、ファンシュラウド18にてラジエータ12に導かれるようになっている。また、ファンシュラウド18の右側壁部20aと左側壁部20bの互いの対向側とは反対側の面の前端部には、狭幅平板状の取付板部21,21が、かかる反対側面から直角に突出して、上下方向に連続して延びるように一体形成されている。
【0020】
ファンシュラウド18は、ラジエータサポート22にて支持されている。このラジエータサポート22は、ファンシュラウド18よりも一周り大きな矩形の枠状乃至は筒状を呈している。そのようなラジエータサポート22の下面上に、ファンシュラウド18が、その下側壁部20dにおいて載置されていることにより、ファンシュラウド18がラジエータサポート22内に収容されて、支持されている。そして、ラジエータサポート22が、エンジンルーム:E内に配される、図示しないフレーム等に固定されている。
【0021】
かくして、ラジエータ12が、ファンシュラウド18にて囲繞された状態で、ラジエータサポート22を介して、エンジンルーム:E内に固定されているのである。なお、そのようなラジエータ12のエンジンルーム:E内への固定状態下で、ラジエータ12とファンシュラウド18との間、及びファンシュラウド18とラジエータサポート22との間には、それぞれ、所定の隙間が形成されている。これにより、ラジエータ12とファンシュラウド18とラジエータサポート22とが、それらへの入力振動時に、互いに接触しないようになっている。
【0022】
一方、図3乃至図5に示されるように、導風部材14は、筒壁部としての四つの導風板24,26,28,30が相互に組み付けられてなる筒状体にて構成され、全体として、略四角筒形状を有している。
【0023】
より詳細には、導風部材14は、エンジンルーム:E内への配置状態下で、車幅方向に所定間隔を隔てて互いに対向配置されて、前後方向に延びる右側導風板24及び左側導風板26と、上下方向に所定間隔を隔てて互いに対向配置されて、前後方向に延びる上側導風板28及び下側導風板30とを有している(図1及び図2参照)。なお、以下に記載する四つの導風板24,26,28,30の説明中の上下方向及び前後方向と左右方向とは、導風部材14をエンジンルーム:E内に配置した状態での車両の上下方向及び前後方向と幅方向に対応するものであり、また、上下方向は、図3の上下方向で、前後方向は、図3の左右方向で、左右方向(車幅方向)は、図3の紙面に垂直な方向であることが理解されるべきである。
【0024】
右側導風板24は、上下方向寸法が前後方向寸法よりも大きくされた縦長の略矩形状を呈する樹脂平板からなり、厚さ方向の一方の面が、平坦な案内面32とされている。また、この右側導風板24は、前後両端において上下方向に延びる前側端面34及び後側端面36と、上下両端において前後方向に延びる上側端面38及び下側端面40とを有している。それら四つの端面34,36,38,40のうち、後側、上側、及び下側端面36,38,40は、上下方向又は前後方向に真っ直ぐに延びる平面からなっている。そして、前側端面34だけが、フロントバンパ10の内面形状に対応して、前側に向かって凸となる湾曲面とされている。
【0025】
かかる右側導風板24の前側端面34の上下方向中央部位には、矩形状を呈する切欠部42が設けられている。また、右側導風板24の案内面32とは反対側の面における切欠部42の周辺部には、平板状を呈する二つの取付突起44,44が、一体的に突設されている。右側導風板24の後端部には、狭幅の矩形平板状を呈する後側フランジ部46が一体形成されている。この後側フランジ部46は、案内面32とは反対側の面から直角に所定高さで突出し、且つ後側端面36に沿って、その全長に連続して延びる形態とされている。また、右側導風板24の上端部と下端部とにも、狭幅の矩形平板形状を呈する上側フランジ部48と下側フランジ部50とがそれぞれ一体形成されている。それら上側及び下側フランジ部48,50は、案内面32とは反対側の面から直角に所定高さで突出し、且つ上側端面38や下側端面40に沿って、その全長に満たない長さで連続して延びる形態とされている。
【0026】
左側導風板26は、右側導風板24と同一の構造及び同じ大きさで且つ対称な形状を有する樹脂平板からなっている。即ち、左側導風板26においても、厚さ方向一方の面が案内面32とされている。そして、前側端面34の上下方向中央部に、切欠部42が形成され、この切欠部42の周辺部位に、二つの取付突起44,44が突設されている。また、後側端部と上端部と下端部とに対して、後側フランジ部46と上側フランジ部48と下側フランジ部50とが、それぞれ、後側端面36と上側端面38と下側端面40に沿って延びるように一体形成されている。
【0027】
そして、図1に示されるように、ここでは、右側導風板24と左側導風板26のそれぞれの幅(右側及び左側導風板24,26の前後方向長さであって、図1及び図3にW1 で示される寸法)が、エンジンルーム:E内におけるフロントバンパ10とラジエータ12との間の距離(図1にDで示される寸法)よりも僅かに小さな寸法とされている。また、右側導風板24と左側導風板26のそれぞれの長さ(右側及び左側導風板24,26の上下方向長さであって、図1及び図3にL1 で示される寸法)が、フロントバンパ10に設けられた空気取入口16の上下方向の開口幅(上側開口周縁部分17cと下側開口周縁部分17dとの間の距離であって、図1にS1 で示される寸法)と略同じか、又はそれよりも所定寸法だけ小さくされている。
【0028】
一方、図3乃至図5から明らかなように、上側導風板28と下側導風板30は、互いに同一の構造を有し、且つ互いに同じ大きさの長手の矩形平板形状を呈する樹脂平板からなっている。そして、厚さ方向一方の面が、平坦な案内面32とされている。
【0029】
それら上側及び下側導風板28,30は、右側及び左側導風板24,26と略同一の厚さを有するものの、その幅(上側及び下側導風板28,30の前後方向長さであって、図3にW2 とW3 で示される寸法)が、右側及び左側導風板24,26の幅(図3にW1 にて示される寸法)よりも所定寸法だけ小さくされている。また、図2に示されるように、上側及び下側導風板28,30のそれぞれの長さ(上側及び下側導風板28,30の車幅方向に沿った長さ寸法であって、図2、図4、及び図5にL2 とL3 で示される寸法)が、フロントバンパ10に設けられた空気取入口16の車幅方向の開口幅(右側開口周縁部分17aと左側開口周縁部分17bとの間の距離であって、図2にS2 で示される寸法)よりも充分に大きくされている。
【0030】
そして、上記の如き構造とされた右側及び左側導風板24,26が、所定距離を隔ててそれぞれの案内面32同士を互いに対向させつつ、平行に延びるように配置されている。また、そのような配置状態下において、右側及び左側導風板24,26のそれぞれの上端部が、それらの間に架け渡されるように配置された上側導風板28にて連結されている一方、右側及び左側導風板24,26のそれぞれの下端部が、それらの間に架け渡されるように配置された下側導風板30にて連結されている。
【0031】
すなわち、ここでは、上側導風板28が、案内面32を下側に向け、この案内面32の長さ方向(車幅方向)の両端部を、右側及び左側導風板24,26のそれぞれの上端部から互いの対向側(それぞれの案内面32,32側)とは反対側に突出する上側フランジ部48,48の上面に重ね合わせて、配置されている。そして、上側導風板28の長さ方向両端部と各上側フランジ部48,48にそれぞれ設けられた貫通孔(図示せず)に樹脂クリップ52が挿通されることにより、それら上側導風板28の長さ方向両端部と各上側フランジ部48,48とが互いに固定されている。
【0032】
また、下側導風板30が、案内面32を上側に向け、この案内面32の長さ方向(車幅方向)の両端部を、右側及び左側導風板24,26のそれぞれの下端部から互いの対向側(それぞれの案内面32,32側)とは反対側に突出する下側フランジ部50,50の下面に重ね合わせて、配置されている。そして、下側導風板30の長さ方向両端部と各下側フランジ部50,50にそれぞれ設けられた貫通孔(図示せず)に樹脂クリップ52が挿通されることにより、それら下側導風板30の長さ方向両端部と各下側フランジ部50,50とが互いに固定されている。
【0033】
かくして、導風部材14が、右側導風板24と左側導風板26と上側導風板28と下側導風板30とを一体的に組み付けてなる、全体として、略四角筒形状を呈し、内周面が、四つの導風板24,26,28,30のそれぞれの平坦な案内面32にて形成された一体組付品にて構成されている。
【0034】
そして、図1及び図2に示されるように、上記の如き構造とされた筒状の導風部材14が、エンジンルーム:E内のフロントバンパ10とラジエータ12との間に、前後方向に延びるように配置されている。これにより、筒状の導風部材14の前側に位置する前側開口部56が、フロントバンパ10の空気取入口16を通じて、外部に連通する一方、後側開口部58が、ラジエータ12に向かって開口した状態とされている。また、導風部材14の内側が、四つの案内面32,32,32,32にて囲まれてなる通風路53とされている。
【0035】
そのような導風部材14のエンジンルーム:E内への配置状態下において、導風部材14における右側及び左側導風板24,26のそれぞれの後側フランジ部46,46が、ファンシュラウド18の右側及び左側壁部20a,20bにそれぞれ一体形成された取付板部21,21に重ね合わされている。そして、それら互いに重ね合わされる各後側フランジ部46,46と各取付板部21,21にそれぞれ設けられた複数の貫通孔(図示せず)に樹脂クリップ52が各々挿通されている。また、右側及び左側導風板24,26のそれぞれの切欠部42,42内に、エンジンルーム:E内を車幅方向に横切るバンパリーンホースメント54が嵌入されて、右側及び左側導風板24,26の切欠部42,42の周辺に突設された各取付突起44が、バンパリーンホースメント54にボルト固定されている。これにより、導風部材14が、ファンシュラウド18の前面とバンパリーンホースメント54とに固定されて、エンジンルーム:E内のフロントバンパ10とラジエータ12との間に位置固定に設置されている。
【0036】
なお、図1及び図2から明らかなように、ここでは、導風部材14の上側導風板28と下側導風板30の上下方向において互いに対向する案内面32,32同士の間の距離:K1 と、右側及び左側導風板24,26の長さ:L1 とが互いに同一寸法とされていることで、上側及び下側導風板28,30の案内面32,32間の距離:K1 が、空気取入口16の上下方向の開口幅:S1 と略同じか、又はそれよりも所定寸法だけ小さくされている。また、上側導風板28と下側導風板30のそれぞれの長さ:L2 、L3 が、空気取入口16の車幅方向の開口幅:S2 よりも充分に大きくされていることで、それら上側及び下側導風板28,30の長さ方向両端にそれぞれ固定される右側導風板24と左側導風板26の、車幅方向において互いに対向する案内面32,32同士の間の距離(図2にK2 で示される寸法)が、空気取入口16の車幅方向の開口幅:S2 よりも所定寸法だけ大きくされている。
【0037】
そして、本実施形態では、導風部材14の四つの導風板24,26,28,30の互いに対向する案内面32間の距離:K1 、K2 と空気取入口16の上下及び車幅方向の開口幅:S1 、S2 とが上記の如き関係とされていることによって、それら四つの導風板24,26,28,30が、導風部材14のエンジンルーム:E内への設置状態下において、従来とは異なる特別な位置とされている。
【0038】
すなわち、図2に示されるように、導風部材14の右側導風板24は、空気取入口16の右側開口周縁部分17aよりも外側に配置されている。また、左側導風板26は、空気取入口16の左側開口周縁部分17bよりも外側に配置されている。つまり、右側導風板24の前側端面34が、空気取入口16の右側開口周縁部分17aよりも右側に位置するフロントバンパ10の内面部分に対して、僅かな隙間を隔てて前後方向に対向配置されており、左側導風板26の前側端面34が、空気取入口16の左側開口周縁部分17bよりも左側に位置するフロントバンパ10の内面部分に対して、僅かな隙間を隔てて前後方向に対向配置されている。それら右側及び左側導風板24,26の各前側端面34,34とフロントバンパ10の内面部分との間の隙間は、所謂設計スキとなるように、必要最小限の幅寸法とされている。
【0039】
さらに、図1に示されるように、右側及び左側導風板24,26は、それぞれの下端部が、空気取入口16の下側開口周縁部分17dよりも外側、つまり下側開口周縁部分17dよりも下側に位置するように配されている。これにより、それら右側及び左側導風板24,26の下端に固定された下側導風板30も、空気取入口16の下側開口周縁部分17dよりも下側に配置されている。そして、かかる下側導風板30の前側の端面が、下側開口周縁部分17dよりも下側に位置するフロントバンパ10の内面部分に対して、所謂設計スキとなる、必要最小限の幅の隙間を開けて前後方向に対向配置されている。
【0040】
一方、右側及び左側導風板24,26のそれぞれの上端縁は、空気取入口16の上側開口周縁部分17cよりも内側、つまり上側開口周縁部分17cよりも下側に位置するように配されている。そうして、それら右側及び左側導風板24,26の上端に固定された上側導風板28も、空気取入口16上側開口周縁部分17cよりも下側に配置されている。また、それにより、かかる上側導風板28の前側の端面が、空気取入口16を通じて外部に露呈するように配置されていると共に、上側導風板28の上面と空気取入口16の上側開口周縁部分17cとが、上下方向において、設計スキよりも充分に大きな幅の隙間を開けて配置されている。そして、ここでは、そのような上側導風板28の上面と空気取入口16の上側開口周縁部分17cとの間の隙間が、導入口60とされている。
【0041】
かくして、本実施形態では、空気取入口16から取り入れられた走行風の多くが、導風部材14の前側開口部56を通じて、導風部材14の内部に送り込まれ、四つの導風板24,26,28,30のそれぞれの案内面32により囲まれてなる通風路53に沿って、後方に導かれて、後側開口部58からラジエータ12に向かって吹き付けられるようになっている。このとき、空気取入口16の右側、左側、及び下側開口周縁部分17a,17b,17dよりも右側、左側、及び下側に位置するフロントバンパ10の内面部分と、導風部材14の右側、左側、及び下側導風板24,26,30のそれぞれの前側の端面34との間の隙間が充分に小さくされているため、開口周縁部導風部材14の前側開口部56を通じて取り込まれる走行風が、それらの隙間から抜け出すようなことが可及的に回避乃至は抑制される。これによって、空気取入口16から取り入れられた走行風のうちの多くが、導風部材14にて、ラジエータ12に向かってスムーズに導かれて、ラジエータ12の冷却風として、より効率的且つ確実に利用される。そして、自動車の空力性能の向上も、有利に図られる。
【0042】
一方、空気取入口16から取り入れられた走行風の一部は、導風部材14の上側導風板28と空気取入口16の上側開口周縁部分17cとの間に形成された導入口60を通じて、エンジンルーム:E内における導風部材14の外側の空間内に導き入れられることとなる。これによって、空気取入口16から取り入れられた走行風の一部が、エンジンルーム:E内における導風部材14の外側空間に配置された、例えば、エンジンマウントやドライブシャフト、エキゾーストマニホールド等の比較的に高温となる装置や部品の冷却風として、有効に利用される。
【0043】
従って、かくの如き本実施形態によれば、空気取入口16から取り入れられた走行風によるラジエータ12の冷却効率を充分に維持し、且つ空力性能の向上も有利に図りつつ、エンジンルーム:E内に配置された、ラジエータ12以外の高温となる装置や部品を効率的且つ確実に冷却することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態では、空気取入口16から取り入れられた走行風の一部を、エンジンルーム:E内における導風部材14の外側空間内に導入する導入口60が、導風部材14の上側導風板28と空気取入口16の上側開口周縁部分17cとの間に形成されて、導風部材14よりも上側に配置されている。このため、エンジンルーム:E内における導風部材14の外側空間内において熱気がこもりがちとなる上部空間に、走行風の一部が迅速且つ確実に導入される。これによって、エンジンルーム:E内における導風部材14の外側空間内に配置される装置や部品が、更に一層効率的に冷却され得ることとなる。
【0045】
さらに、本実施形態においては、導風部材14の製造に際しての設計段階、或いは導風部材14をエンジンルーム:E内に設置する際の設計段階等において、導風部材14をエンジンルーム:E内に位置固定に取り付けたときにおける空気取入口16の上側開口周縁部分17cに対する上側導風板28の上下方向での相対位置、つまり、空気取入口16の上側開口周縁部分17cと上側導風板28との間の上下方向での距離を適宜に調節することができる。そして、それにより、導入口60の大きさ、ひいては導入口60を通じて導入される走行風の量を任意に調節することが可能となる。
【0046】
従って、本実施形態によれば、単に、上側導風板28の位置を調節するだけで、導風部材14にて導かれて、ラジエータ14の冷却風として利用される走行風の量と、導入口60から導入されて、ラジエータ14以外の装置や部品の冷却風として利用される走行風の量とを、それぞれ、極めて容易に最適量と為すことができるのである。
【0047】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0048】
例えば、導入口60の形成位置や形成個数は、前記実施形態に示されたものに、何等限定されるものではない。四つの導風板24,26,28,30のうちの幾つかのものの大きさを変えたり、導風部材14のエンジンルーム:E内での設置位置を変えたりすることによって、導入口60の形成位置や形成個数を、種々変更することも可能である。
【0049】
すなわち、例えば、図6に示されるように、導風部材14の上側導風板28を、空気取入口16の上側開口周縁部分17cよりも上側(外側)に配置する一方、下側導風板30を、空気取入口16の下側開口周縁部分17dよりも上側(内側)に配置することによって、下側導風板30と空気取入口16の下側開口周縁部分17dとの間に、導入口60を形成する。そうして、導入口60を、導風部材14よりも下側に位置させることも可能である。
【0050】
また、図7に示されるように、導風部材14の上側導風板28を、空気取入口16の上側開口周縁部分17cよりも下側(内側)に配置する一方、下側導風板30を、空気取入口16の下側開口周縁部分17dよりも上側(内側)に配置することによって、上側導風板28と空気取入口16の上側開口周縁部分17cとの間と、下側導風板30と空気取入口16の下側開口周縁部分17dとの間に、それぞれ、導入口60を形成する。そうして、導入口60を、導風部材14よりも上側と下側の両方に位置させても良い。
【0051】
さらに、図8に示されるように、導風部材14の右側導風板24を、空気取入口16の右側開口周縁部分17aよりも左側(内側)に配置する一方、左側導風板26を、空気取入口16の左側開口周縁部分17bよりも右側(内側)に配置することによって、右側導風板24と空気取入口16の右側開口周縁部分17aとの間と、左側導風板26と空気取入口16の左側開口周縁部分17bとの間に、それぞれ、導入口60を形成する。そうして、導入口60を、導風部材14よりも右側と左側の両方に位置させても良い。
【0052】
また、図示されてはいないものの、導風部材14の右側導風板24を、空気取入口16の右側開口周縁部分17aよりも左側(内側)に配置する一方、左側導風板26を、空気取入口16の左側開口周縁部分17bよりも左側(外側)に配置するか、或いは右側導風板24を、空気取入口16の右側開口周縁部分17aよりも右側(外側)に配置する一方、左側導風板26を、空気取入口16の左側開口周縁部分17bよりも右側(内側)に配置することによって、右側導風板24と空気取入口16の右側開口周縁部分17aとの間と、左側導風板26と空気取入口16の左側開口周縁部分17bとの間のうちの何れか一方のみに、導入口60を形成する。そうして、導入口60を、導風部材14よりも右側と左側のうちの何れか一方のみ位置させても良い。
【0053】
さらに、図示されてはいないものの、右側、左側、上側、及び下側導風板24,26,28,30を、空気取入口16の右側、左側、上側、及び下側開口周縁部分17a,17b,17c,17dよりも内側にそれぞれ配置する。これにより、それら四つの導風板24,26,28,30の周りを取り囲むようにして、導風部材14の周方向に延びる導入口60を形成することも可能である。
【0054】
このように、導入口60は、導風部材14における右側、左側、上側、及び下側導風板24,26,28,30と空気取入口16の右側、左側、上側、及び下側開口周縁部分17a,17b,17c,17dとの間に形成されておれば良く、その形成位置と形成個数の組合せは、自由に選択可能である。
【0055】
また、導風部材14は、筒状体にて構成されておれば、その全体形状が、特に限定されるものではない。
【0056】
従って、複数の導風板を組み付けて、導風部材を形成する場合にあっても、導風板の数や形状は、種々変更可能なのである。また、複数の導風板の組付構造も、前記実施形態に例示されるもの以外に、ボルト止め、ねじ止めの機械的接合方式を利用した組付構造以外に、接着や溶着を利用した組付構造も、適宜に採用可能である。
【0057】
さらに、導風部材を、組付部や接合部のないパイプ形態やダクト形態を有する筒状体にて構成することもできる。
【0058】
また、導風部材の形成材料は、樹脂材料に何等限定されるものではなく、例えばアルミニウム等の金属材料を用いても良い。
【0059】
さらに、導風部材を自動車の前部に設置した状態下で、導風部材の筒壁部と空気取入口の開口周縁部部位との間に導入口が形成されるようになっておれば、導風部材の大きさ(筒壁部間の寸法等)と空気取入口(対向する開口周縁部部位間の寸法等)の大きさの関係は、特に限定されるものではない。
【0060】
空気取入口は、自動車の前面に設けられるフロントグリル等に設けられていても良い。
【0061】
加えて、前記実施形態では、本発明を、走行風をラジエータに導く自動車前部の導風構造に適用した例が示されていたが、本発明は、ラジエータ以外の冷却系部品に走行風を導く自動車前部の導風構造の何れに対しても有利に適用され得ることは勿論である。
【0062】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0063】
10 フロントバンパ 12 ラジエータ
14 導風部材 16 空気取入口
18 ファンシュラウド 17a 右側開口周縁部分
17b 左側開口周縁部分 17c 上側開口周縁部分
17d 下側開口周縁部分 24 右側導風板
26 左側導風板 28 上側導風板
30 下側導風板 32 案内面
56 前側開口部 58 後側開口部
60 導入口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の前面に設けられた空気取入口と自動車前部のエンジンルーム内に配置された冷却系部品との間に導風部材を配設して、該空気取入口から取り入れられた走向風を、該導風部材にて、該冷却系部品に導くようにした自動車前部の導風構造であって、
前記導風部材を筒状体にて構成すると共に、かかる筒状の導風部材を、前記エンジンルーム内において車両前後方向に延びて、一方の開口部が前記空気取入口を通じて外部に連通する一方、他方の開口部が前記冷却系部品に向かって開口するように配設し、更に、該導風部材の筒壁部のうちの少なくとも一部を、前記空気取入口の開口周縁部よりも内側に位置させて、該少なくとも一部の筒壁部と、それよりも外側に位置する該空気取入口の開口周縁部部位との間に、該エンジンルーム内における該導風部材の外側の空間に前記走行風を導入する導入口を形成したことを特徴とする自動車前部の導風構造。
【請求項2】
前記導風部材の筒壁部のうちの車両上部側に位置する筒壁部部位が、前記空気取入口の開口周縁部のうちの上部部位よりも下側に位置せしめられていることにより、前記導入口が、該車両上部側に配置された筒壁部部位と、それよりも上側に位置する該空気取入口の開口周縁部部位との間に形成されて、該導風部材よりも上側に位置せしめられている請求項1に記載の自動車前部の導風構造。
【請求項3】
車両の上下方向において互いに対向配置されて、車両前後方向に延びる二つの導風板と、車幅方向において互いに対向配置されて、車両前後方向に延びる二つの導風板とが相互に組み付けられてなる筒状体にて、前記導風部材が構成されている請求項1又は請求項2に記載の自動車前部の導風構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−250636(P2012−250636A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125411(P2011−125411)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】