説明

自動車用の空調システム、自動車用の空調システム制御方法および熱輸送システム

【課題】 簡易な構造で効率よく駆動部等の熱源側から空調システム側に熱を輸送することが可能であるとともに、冷房時側にも効率が低下することがない自動車用の空調システム等を提供する。
【解決手段】 伝熱部材7には、放熱装置31が設けられる。放熱装置31は、伝熱部材7に形成されたフィンおよび送風用のファン等から構成される。すなわち、放熱装置31は、伝熱部材7を冷却し、伝熱部材7から外部に熱を放熱する部位である。暖房時には熱源側冷却経路の熱を暖房側加熱経路に伝達することで、熱源で発生する熱を有効に利用することができる。また、冷却時には、熱源の熱が暖房側加熱経路に伝わることを防止するための放熱装置を稼働するため、暖房側加熱経路の熱が暖房側加熱経路に伝達されることを防止することができる。このため、冷房時に送風されるエアの冷却効率が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車におけるエンジンやモータなど熱源からの熱を利用して効率よく車内の暖房および冷房を行うことが可能な自動車用の空調システム等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車内の空調を行うためには、車内に噴出するエア等を加熱または冷却して、車内に送風する必要がある。例えば、暖房を行う際には、暖房装置内を循環する熱媒体をヒータ等で加熱して、高温の熱媒体とエアとを熱交換させながら、温風を車内に送風する。
【0003】
このような空調システムにおいては、熱媒体を加熱するヒータ等の加熱装置が必要となる。しかし、熱媒体の加熱に多くのエネルギーを消耗するため、より省エネルギーの空調システムが望まれる。
【0004】
これに対し、水またはアルコール等の溶媒の添加により溶媒和物となるときに発熱してくる物質(塩化カルシウム)の溶媒和物を自動車のエンジンから排出される排気ガスから取出す高温の熱量により、溶媒を分離した状態に復元せしめて溶媒和熱として蓄積させておき、その物質に随時溶媒を添加して溶媒和熱を発生させて、その熱量を自動車のキャビン内の暖房に用いるようにする自動車の室内即暖用の蓄熱方法がある(特許文献1)。
また、排気管と室内の間をヒートパイプで熱的に接続し、さらにヒートパイプ中間部に冷却フィンを設けて自然風で冷却する暖房装置がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−50841号公報
【特許文献2】特開昭61−125531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2のようなシステムでは、エンジンから発生する熱を利用して、暖房を行うためエアを加熱するため、効率良く暖房を行うことができる。
【0007】
一方、近年は電気自動車やアイドリングストップ機能を有する自動車が増加しており、自動車の停車中には、エンジンやモータ等の駆動部(発熱部)が停止した状態となる場合がある。このような場合には、発熱部を冷却するための冷却経路の温度が十分に上がらずに、暖房等にその熱を効率良く利用することが困難である。この場合には、暖房用の加熱源に多くのエネルギーを消耗するため、電気自動車においては、その航続距離の低下につながる。
【0008】
また、通常の空調システムは、温風および冷風の吹き出し口は共通であり、エア吹き出し口の背後に、エアの加熱経路および冷却経路の両者が配置される。例えば、暖房時には、エアの加熱経路内の熱媒体を加熱し、背後からエアを送風することで、エアが加熱経路の熱媒体から熱を受け取り、温風が車内に送風される。しかし、排気管が温まるまでは暖房効果が薄いという課題があった。
【0009】
一方、冷却時には、エアの冷却経路内の熱媒体を冷却し、背後からエアを送風することで、エアが冷却経路の熱媒体に熱を放出し、冷風が車内に送風される。
【0010】
しかし、前述のように、エンジン等の発熱部から発生する熱を暖房側加熱経路に伝達するシステムにおいては、冷却時においても、発熱部の熱によって暖房側加熱経路内の熱媒体が昇温する。したがって、エアの温度が加熱経路によって上昇してしまい、冷却経路によるエアの冷却効率が低下してしまうという課題があった。
また、特許文献2では、ヒートパイプ中間部で自然風を用いて、室内への熱の移動を取り除く方法が取られているが、走行中のみしか対応していない。また、排気管が温まるまでは暖房効果が薄いという課題があった。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、簡易な構造で効率よく駆動部等の熱源側から空調システム側に熱を輸送することが可能であるとともに、冷房時側にも効率が低下することがない自動車用の空調システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、自動車用の空調システムであって、自動車の駆動源である熱源を冷却する熱源側冷却経路と、自動車室内の暖房用のエアが流れるエア経路と、前記エア経路内のエアと熱交換することが可能な暖房側加熱経路と、前記熱源側冷却経路上に配置され、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第1の熱交換器と、前記暖房側加熱経路上に配置され、前記暖房側加熱経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第2の熱交換器と、前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器とを接続する熱輸送手段と、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の流量を制御する制御部と、を具備することを特徴とする自動車用の空調システムである。
【0013】
前記制御部は、暖房時において、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の温度が所定温度以上となるように熱媒体の温度に応じて前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の流量を制御することが望ましい。
【0014】
前記熱輸送手段は、少なくとも一部がヒートパイプからなることが望ましく、この場合、前記ヒートパイプは、サーモサイフォン型ヒートパイプであり、前記ヒートパイプの前記第1の熱交換器から熱を受け取る側の端部に対して、前記第2の熱交換器に熱を放出する側の端部が高い位置に配置されることが望ましい。さらに、前記ヒートパイプは、略鉛直に配置されることが望ましい。
【0015】
前記熱輸送手段には熱輸送手段放熱装置が設けられてもよい。また、前記熱輸送手段は、第1の熱輸送手段および第2の熱輸送手段が直列に配置されて構成され、前記第1の熱輸送手段の一方の端部が前記第1の熱交換器と接続され、前記第2の熱輸送手段の一方の端部が前記第2の熱交換器と接続され、前記第1の熱輸送手段と前記第2の熱輸送手段との接続部には、熱輸送手段放熱装置が設けられてもよい。また、前記第2の熱交換器の上部には第2の熱輸送手段が接続され、前記第2の熱輸送手段の端部には、放熱装置が設けられてもよい。
【0016】
第1の発明によれば、暖房時には熱源側冷却経路の熱を暖房側加熱経路に伝達することで、熱源で発生する熱を有効に利用することができる。また、冷却時には、熱源の熱が暖房側加熱経路に伝わることを防止するための熱輸送手段放熱装置を稼働するため、暖房側加熱経路の熱が暖房側加熱経路に伝達されることを防止することができる。このため、冷房時に送風されるエアの冷却効率が高い。
【0017】
また、熱源側冷却経路の熱媒体温度に応じて、熱源側冷却経路を流れる熱媒体の流量(流速)を制御するため、例えば、温度が低い場合には熱媒体の流量を減らすことで、熱源側冷却経路の熱媒体温度を上昇させることができる。したがって、熱源の熱を暖房側に有効に利用することができる。
【0018】
また、熱源側冷却経路に配置される第1の熱交換器と、暖房側加熱経路に配置される第2の熱交換器とがサーモサイフォン型のヒートパイプで接続され、さらに第1の熱交換器に対して、第2の熱交換器が高い位置に配置される。このため、第1の熱交換器側が高温部となり、第2の熱交換器側が低温部となる場合には、第1の熱交換器側から第2の熱交換器側へヒートパイプを用いて効率よく熱を輸送可能である。また、高温部と低温部とが逆になると、ヒートパイプによる熱輸送が停止し、暖房側加熱経路から熱源側冷却経路への熱の逆流を防止することができる。
【0019】
また、熱源側冷却経路上に冷却装置を配置せずに、熱源側冷却経路を流れる熱媒体の冷却を熱輸送手段放熱装置により行うことで、ラジエータ等の冷却装置を小型化でき、あるいは不要となり、よりコンパクトな空調システムを得ることができる。
【0020】
第2の発明は、自動車用の空調システム制御方法であって、自動車の駆動源である熱源を冷却する熱源側冷却経路と、自動車室内の暖房用のエアが流れるエア経路と、前記エア経路内のエアと熱交換することが可能な暖房側加熱経路と、前記熱源側冷却経路上に配置され、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第1の熱交換器と、前記暖房側加熱経路上に配置され、前記暖房側加熱経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第2の熱交換器と、前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器とを接続する熱輸送手段と、前記熱輸送手段の冷却を行う熱輸送手段放熱装置と、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の温度を監視し、温度に応じて、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の流量を制御する制御部と、を具備する空調システムに対し、前記制御部により、暖房時においては、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の温度が所定温度以上となるように熱媒体の流量を制御し、前記熱源側冷却経路の熱を、前記熱輸送手段を介して前記暖房側加熱経路に伝え、
冷房時には、前記放熱装置を作動させて前記熱輸送手段を冷却することで、前記熱源側冷却経路の熱が前記暖房側加熱経路に伝わることを抑制することを特徴とする自動車用の空調システム制御方法である。
【0021】
第2の発明によれば、暖房時には、熱源の熱を有効に利用して、エアを温めることが可能であるとともに、冷房時には、効率良くエアを冷却することが可能である。
【0022】
第3の発明は、熱輸送システムであって、熱源を冷却する熱源側冷却経路と、流体が流れる流体経路と、熱を利用し、前記流体経路内の流体と熱交換可能な熱利用経路と、前記熱源側冷却経路と前記熱利用経路とを接続する熱輸送手段と、前記熱輸送手段の冷却を行う熱輸送手段放熱装置と、を具備し、前記熱利用経路の熱媒体を昇温する際には、前記熱源側冷却経路の熱を、前記熱輸送手段を介して前記熱利用経路に伝え、前記熱利用経路の熱媒体を降温する際には、前記熱輸送手段放熱装置を作動させて前記熱輸送手段を冷却することで、前記熱源側冷却経路の熱が前記熱利用経路に伝わることを抑制することを特徴とする熱輸送システムである。
【0023】
第3の発明によれば、熱源側冷却経路と熱利用経路とが伝熱部材で接続され、伝熱部材に放熱装置が設けられるため、放熱装置の稼働の有無によって、伝熱部材により輸送される熱を、熱利用経路に輸送するか、外気に放熱するかを制御することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡易な構造で効率よく駆動部等の熱源側から空調システム側に熱を輸送することが可能であるとともに、冷房時側にも効率が低下することがない自動車用の空調システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】空調システム1を示すシステム構成図。
【図2】暖房時における、空調システム1の制御フローを示すフローチャート。
【図3】冷房時における、空調システム1の制御フローを示すフローチャート。
【図4】空調システム1aを示すシステム構成図。
【図5】暖房時における、空調システム1aの制御フローを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態にかかる空調システム1について説明する。図1は、空調システム1を示すシステム構成図である。なお、以下に示す図は、システムの側方から見た概念図である。空調システム1は、主に、熱源側冷却経路3、暖房側加熱経路5、エア経路6、冷房側冷却経路23、伝熱部材7、放熱装置31、制御部33等から構成される。空調システム1は、例えば電気自動車等の空調システムである。
【0027】
熱源側冷却経路3は、例えばエンジンやモータなどの自動車の駆動部を冷却する経路である。熱源側冷却経路3には、熱媒体として冷却水等が循環する。熱源側冷却経路3には、モータ9、ポンプ11、ラジエータ12等が設けられる。
【0028】
モータ9は、自動車の駆動部であり、熱源となる部位である。なお、本実施形態においては、熱源がモータ9のみである電気自動車の例を示すが、本発明はこれに限られない。例えば、熱源として、通常のエンジンであっても良く、その両者が配置されても良い。また、熱源としては、駆動部のみに限られず、自動車の走行等において発熱する部位であればよい。
【0029】
ポンプ11は、熱源側冷却経路3内の熱媒体を循環させるものである(図中矢印A方向)。また、ラジエータ12は、熱源側冷却経路3内の熱媒体を冷却する部位であり、熱を外部に放出する。
【0030】
熱源側冷却経路からの熱を利用する熱利用経路である暖房側加熱経路5は、車内を暖房するためのエアを加熱する経路である。暖房側加熱経路5には、熱媒体として水等が循環する。暖房側加熱経路5には、ヒータ13、ポンプ15、放熱部17等が設けられる。
【0031】
ヒータ13は、暖房側加熱経路5内の熱媒体を加熱する部位である。ポンプ15は、暖房側加熱経路5内の熱媒体を循環させるものである(図中矢印B方向)。また、放熱部17は、暖房側加熱経路5内の熱媒体の熱をエア経路6内のエア側に放熱する部位である。すなわち、放熱部17は、暖房側加熱経路5とエア経路6との交わる部位に形成される。エア経路6内には、外気または車内から取り込まれたエアが流される。エア経路6内を流れるエアは、放熱部17によって加熱されて車内に送り込まれる(図中矢印D方向)。すなわち、エア経路6内のエアは、暖房側加熱経路5内の熱媒体と熱交換される。
【0032】
冷房側冷却経路23は、車内を冷房するためのエアを冷却する経路である。冷房側冷却経路23には、熱媒体として冷媒が循環する。冷房側冷却経路23には、ポンプ25、コンデンサ27、エバポレータ29等が設けられる。
【0033】
ポンプ25は、冷房側冷却経路23内の熱媒体を循環させるものである(図中矢印C方向)。図示を省略したコンプレッサによって圧縮された冷媒はコンデンサ27で冷却される。液体の熱媒体はエバポレータ29で気化されて熱を奪う。したがって、エバポレータ29近傍が冷却される。エバポレータ29は、冷房側冷却経路23とエア経路6との交わる部位に形成される。外気または車内から取り込まれたエア経路6内のエアは、熱媒体と熱交換されて車内に送り込まれる(図中矢印D方向)。すなわち、エア経路6内のエアは、冷房側冷却経路23内の熱媒体と熱交換される。
【0034】
ここで、車内にエアを送風するファンは、冷房側冷却経路23(エバポレータ29)および暖房側加熱経路5(放熱部17)の背後に配置される。したがって、暖房時には、暖房側加熱経路5が稼働して熱媒体を加熱するため、当該ファンによるエアは、熱媒体により加熱されて車内に送風される。一方、冷房時には、冷房側冷却経路23が稼働して熱媒体を冷却するため、当該ファンによるエアは、熱媒体により冷却されて車内に送風される。
【0035】
熱源側冷却経路3の一部には、第1の熱交換器である熱交換器19が設けられる。また、暖房側加熱経路5の一部には、第2の熱交換器である熱交換器21が設けられる。さらに、熱交換器19、21を接続するように熱輸送手段である伝熱部材7が設けられる。伝熱部材7は、熱輸送を行うことができる手段(熱輸送デバイス)であればいずれの形態でも構わないが、好ましくはヒートパイプである。ヒートパイプは、たとえば、端部を密閉した金属の内部に、溶媒を配置して、溶媒の蒸発と凝縮により熱を伝達することができる。主に銅の内部に水を入れたヒートパイプが多く用いられている。このため、電源を用いなくても熱伝達を行うことができ、また、密閉されているので水が減少することもないのでメンテナンス性にも優れる。なお、さらに好ましくはサーモサイフォン型のヒートパイプであることが望ましい。
【0036】
熱交換器19は、熱源側冷却経路3内の熱媒体と、伝熱部材7の一方の端部との間で熱交換を行うものである。また、熱交換器21は、伝熱部材7の他方の端部と暖房側加熱経路5内の熱媒体との間で熱交換を行うものである。ここで、熱交換器21は、熱交換器19よりも高い位置に配置される。したがって、熱交換器19、21と接続される伝熱部材7は、一方の端部に対して他方の端部が高い位置に配置される。
【0037】
熱交換器19がヒートパイプの作動温度以上となって高温部となり、熱交換器21側が低温部となると、熱交換器19により伝熱部材7の端部が加熱される。伝熱部材7の端部が加熱されると、伝熱部材7内部の作動液が蒸発して、当該部位の熱を奪い、蒸気が熱交換器21側に輸送される。低温部である熱交換器21では、蒸気が凝縮して熱を放出する。放出された熱は、熱交換器21により暖房側加熱経路5を流れる熱媒体に伝達される。
【0038】
熱交換器21側で凝縮した作動液は、伝熱部材7の内面を伝わり、重力によってより低い位置にある熱交換器19側に移動する。以上を繰り返すことで、熱源側冷却経路3の熱が、暖房側加熱経路5側に伝達される。
【0039】
一方、熱交換器19が低温部となり、熱交換器21側が高温部となると、伝熱部材7の作動液は、熱交換器19側に溜まった状態となり、伝熱部材7は、熱輸送を行うことがない。したがって、暖房側加熱経路5内の熱媒体の熱が、熱源側冷却経路3側に逃げることがない。
【0040】
すなわち、伝熱部材7は、熱源側冷却経路3から暖房側加熱経路5側に熱を輸送するが、暖房側加熱経路5から熱源側冷却経路3への熱の輸送を行うことがない。なお、このような効果をより高めるためには、伝熱部材7を略鉛直方向に配置することが望ましい。
【0041】
また、伝熱部材7には、熱輸送手段放熱装置である放熱装置31が設けられる。放熱装置31は、伝熱部材7に形成されたフィンおよび送風用のファン等から構成される。すなわち、放熱装置31は、伝熱部材7を冷却し、伝熱部材7から外部に熱を放熱する部位である。例えば、前述の通り、伝熱部材7の内部では、熱交換器19により熱を受け取った作動液が気化し、熱交換器21側に移動するが、放熱装置31を稼働させると、放熱装置31の部位で作動液が冷却されて凝縮する。したがって、伝熱部材7内で輸送される熱は、放熱装置31によって放出され、熱交換器21まで熱が輸送されることが抑制される。これにより、熱交換器19から暖房側加熱経路5を流れる熱媒体への熱の輸送を抑制することが可能である
【0042】
次に、空調システム1の暖房時の制御について説明する。空調システム1には、制御部33が配置される。制御部33は、熱源側冷却経路3の熱媒体を流すためのポンプ11および放熱装置31の動作を制御するものである。なお、ポンプ11および放熱装置31それぞれの制御を別の制御部で行ってもよい。
【0043】
図2は、暖房時における、空調システム1の制御フローを示すフローチャートである。暖房時には、制御部33は、まず放熱装置31を停止する(ステップ101)。したがって、伝熱部材7は、熱交換器19から熱交換器21へ熱を輸送することができる。
【0044】
次に、制御部33は、図示を省略したセンサによって、熱源側冷却経路3内部の熱媒体の温度を検知する(ステップ102)。次に、制御部33は、熱媒体の温度が、所定値(基準下限温度)以下であるかを判定する(ステップ103)。熱媒体の温度が基準下限温度よりも低い場合には、モータ9による発熱量が小さく、熱媒体の循環による冷却能力が十分すぎるため、熱媒体の流量を減少させ(ステップ104)、ステップ102に戻る。なお、熱媒体の流量としては、例えば、4.1L/min以下に制御される。このようにすることで、モータ9から回収する熱の輸送量を5kW以下にすることができる。
【0045】
熱媒体の温度が基準下限温度以上である場合には、次に、制御部33は、熱媒体の温度が、所定値(基準上限温度)以上であるかを判定する(ステップ105)。熱媒体の温度が基準上限温度よりも高い場合には、モータ9による発熱量が大きく、熱媒体の循環による冷却能力が十分ではないため、熱媒体の流量を増加させ(ステップ105)、ステップ102に戻る。なお、熱媒体温度が所定範囲内(基準下限温度以上基準上限温度以下)であれば、熱媒体の流量を調整せず、ステップ102に戻る。
【0046】
以上により、常に熱媒体温度が所定温度(例えば40℃)以上になるように制御される。したがって、熱源側冷却経路3から暖房側加熱経路5側に熱を輸送することが可能となり、モータ9の熱を、暖房に有効利用することができる。なお、ラジエータ12による放熱能力が不足し、熱媒体の流量を最大量まで増加させても熱源側冷却経路3内の熱媒体温度が過剰に上昇してしまう場合には、後述する放熱装置31を用いて、熱媒体の熱を外部に放熱するようにしてもよい。
【0047】
次に、図1を用いて空調システム1の暖房時の熱の流れを説明する。前述の通り、熱源側冷却経路3内の熱媒体は、ポンプ11によって熱源側冷却経路内を循環する(図中矢印A方向)。例えば駆動中(発熱中)であるモータ9を流れる熱媒体は、モータ9からの熱を奪い、モータ9を冷却する。なお、熱媒体の流量は、前述の通り制御される。
【0048】
モータ9により加熱された熱媒体は、熱交換器19で熱交換され、その熱の一部が伝熱部材7に伝達される。伝熱部材7の下端で受熱すると、伝熱部材7は上方の熱交換器21へ熱を輸送する。さらに、熱交換器21によって、熱を暖房側加熱経路5内の熱媒体に伝達する。
【0049】
なお、熱交換器19に熱を伝達した熱源側冷却経路内の熱媒体は、ラジエータ12に送られて、外気等に熱を放出して冷却される。冷却された熱媒体は、再度モータ9に送られ、モータ9を冷却する。熱交換器19は、熱源側冷却経路3内の熱媒体の循環方向に対して、モータ9からラジエータ12までの間に配置される。モータ9から熱を受けた直後の、より高温の熱媒体と熱交換を行わせるためである。
【0050】
暖房側加熱経路5内の熱媒体は、ポンプ15によって循環される(図中矢印B方向)。熱交換器21により加熱された熱媒体は、ヒータ13に移動する。熱媒体の温度が十分でない場合には、必要に応じてヒータ13によってさらに熱媒体が加熱される。
【0051】
所定の温度以上に加熱された熱媒体は放熱部17でエア経路6内のエアに対して熱を放出し、温風が車内に送られる。以上により、モータ9の熱を有効に利用して、ヒータ13による加熱を最小限に抑えて暖房を行うことが可能となる。なお、熱交換器21は、暖房側加熱経路5内の熱媒体の循環方向に対して、放熱部17からヒータ13までの間に配置される。放熱部17で放熱した直後の、より低温の熱媒体と熱交換を行わせるためである。
【0052】
また、熱源側冷却経路3内における熱交換器19の配置を、モータ9よりも高い位置に配置してもよい。このようにすることで、循環を停止した後であっても、モータ9からの熱が自然対流によって熱源側冷却経路3の上方に移動し、より長期にわたって熱源側冷却経路3から暖房側加熱経路5に熱を移動させることができる。
【0053】
同様に、暖房側加熱経路5内における熱交換器21の配置を、ヒータ13よりも低い位置に配置してもよい。このようにすることで、循環を停止した後であっても、熱交換器21からの熱が自然対流によって暖房側加熱経路5の上方に移動し、ヒータ13近傍を保温することができる。また、熱交換器21近傍の熱を、暖房側加熱経路5上方に対流させることができるため、熱交換器21近傍に熱が溜まることがなく、効率よく熱源側冷却経路からの熱を受け取ることができる。
【0054】
次に、空調システム1の冷房時の制御について説明する。図3は、冷房時における、空調システム1の制御フローを示すフローチャートである。冷房時には、制御部33は、放熱装置31を動作する(ステップ201)。また、熱源側加熱経路の熱媒体の流量を最大量とする(ステップ202)。
【0055】
したがって、伝熱部材7による、熱交換器19から熱交換器21への熱の輸送が抑制される。すなわち、熱源側冷却経路3内には、前述の通りモータ9の冷却のための熱媒体が流れるが、その熱は暖房側加熱経路5には伝達されない。また、当然に暖房側加熱経路5のヒータ13およびポンプ15は稼働を停止する。また、冷房側冷却経路23内のコンデンサ27およびエバポレータ29が駆動され、ポンプ25により熱媒体が常に冷房側冷却経路23内を循環する。このため、車内に冷風が送風される。この際、暖房側加熱経路5内の熱媒体の温度が上昇することがないため、冷房効率が良い。
【0056】
第1の実施形態にかかる空調システム1によれば、モータ9のような駆動部等の熱源から発生する熱を効率よく暖房側加熱経路に伝えることができる。このため、暖房側加熱経路を効率よく加熱することができる。したがって、ヒータ13による発熱量を抑えることができる。
【0057】
また、熱源側冷却経路3内の熱媒体温度に応じて熱媒体の流量を制御するため、モータ9の発熱量が小さい場合や、十分に昇温されていない状態において、熱媒体の温度が外部に放出されることを抑制して、効率良く熱を暖房に利用することができる。
【0058】
また、伝熱部材7の放熱装置31を設け、制御部33によって、暖房時の制御と冷房時の制御とを切り替える。すなわち、制御部33は、冷房時には放熱装置31を稼働することで、伝熱部材7を介して熱源側冷却経路3から暖房側加熱経路5に熱が伝わることを抑制することができる。このため、冷房時の冷却効率に優れる。
【0059】
また、熱交換器19よりも熱交換器21を高い位置として、サーモサイフォン型の伝熱部材7によって熱を輸送するため、暖房側加熱経路5から熱源側冷却経路3へ熱が逆流することがない。したがって、渋滞中や信号待ちなどで自動車が停止し、これに伴いモータ9等が停止した場合であっても、熱源側冷却経路3の温度低下に伴う、暖房側加熱経路5からの熱の逃げがない。
【0060】
次に、他の実施の形態について説明する。図4は他の実施の形態にかかる空調システム1aを示すシステム構成図である。なお、以下の実施の形態において、空調システム1と同様の機能を奏する構成については、図1と同様の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0061】
空調システム1aは、空調システム1と略同様の構成であるが、熱源側冷却経路3にラジエータ12が設けられない点で異なる。前述の通り、従来の化石燃料の燃焼のみによるエンジンと比較して、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動部の発熱量は少ない。したがって、従来の自動車で用いられるようなラジエータの冷却能力は不要である。過剰に冷却を行うと、駆動部からの発熱量を暖房等に有効に利用することが困難となり、システム自体も大型化するためである。
【0062】
一方で、モータ9でも所定の発熱を行うため、冷却が不要となることはない。そこで、空調システム1aでは、放熱装置31のみによって熱源側冷却経路3内の熱媒体を冷却する。
【0063】
図5は、暖房稼働時の空調システム1aの制御フローを示すフローチャートである。なお、空調システム1aの冷房時の制御フローは、図3に示すものと同様である。すなわち、熱源側冷却経路3内の熱媒体によって、モータ9を冷却し、熱媒体の熱を一度伝熱部材7に伝えて、伝熱部材7から放熱装置31によって外部に熱を放出すればよい。
【0064】
暖房時には、制御部33は、図示を省略したセンサによって、熱源側冷却経路3内部の熱媒体の温度を検知する(ステップ301)。次に、制御部33は、熱源側冷却経路3内部の熱媒体の温度が、所定値(基準上限温度)以上であるかを判定する(ステップ302)。熱媒体の温度が基準上限温度よりも高い場合には、モータ9を冷却する必要があるため、放熱装置31を作動させ(ステップ303)、ステップ301に戻る。
【0065】
熱媒体の温度が基準上限温度よりも低い場合には、モータ9の冷却が十分であるため、制御部33は、放熱装置31を停止する(ステップ304)。また、さらに、熱媒体の温度が、所定温度(基準下限温度)以下であるかを判定し(ステップ305)、基準下限温度以下であれば、さらにモータ9の冷却能力を低下させるために、熱媒体の流量を減少させ(ステップ306)、ステップ301に戻る。なお、熱媒体の温度が所定範囲内である場合には、熱媒体の流量を調整せず、ステップ301に戻る。
【0066】
以上により、常に熱媒体温度が所定温度以上(所定範囲内)になるように制御される。したがって、熱源側冷却経路3から暖房側加熱経路5側に熱を輸送することが可能となり、モータ9の熱を、暖房に有効利用することができる。
【0067】
第2の実施形態にかかる空調システム1aによれば、空調システム1と同様の効果を得ることができる。また、ラジエータが不要となり、熱源側冷却経路3の冷却は、伝熱部材7に形成された放熱装置31のみで行われるため、コンパクトな空調システムを得ることができる。
【0068】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0069】
例えば、熱交換器19は、熱源側冷却経路3上に配置されるが、直接熱源であるモータ9と熱交換させても良い。このようにしても、前述した空調システム1と同様の効果を得ることができる。なお、この場合であっても熱交換器19は、熱源側冷却経路3に配置されていると称する。また、本実施形態では、本発明の熱輸送システムを自動車の暖房システムに適用する例を示したが、本発明は、熱源を冷却する経路と、熱を利用する経路とが存在すれば、他のシステムにも適用可能である。
【0070】
また、伝熱部材7は、複数の熱輸送手段によって構成してもよい。例えば、伝熱部材7を第1の熱輸送手段と第2の熱輸送手段との複数の部材を直列に接合して配置してもよい。この場合、第1の熱輸送手段の下端が熱交換器19と接続され、第2の熱輸送手段の上端が熱交換器21と接続されれば良い。この場合には、放熱装置31は、当該第1の熱輸送手段と第2の熱輸送手段との接続部に配置し、第1、第2の熱輸送手段間における熱の移動を抑制してもよい。
【0071】
また、伝熱部材7に加えて、さらに別の熱輸送手段を配置してもよい。例えば、伝熱部材7の上端部(熱交換器21)に対してさらに第2の熱輸送手段を接続し、当該第2の熱輸送手段に対して放熱装置31を配置してもよい。この場合には、熱交換器19から熱交換器21への熱の輸送は伝熱部材7によって行われるが、熱交換器21が冷却されることで、熱交換器21から暖房側加熱経路3を流れる熱媒体への熱の移動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0072】
1、1a………空調システム
3………熱源側冷却経路
5………暖房側加熱経路
6………エア経路
7………伝熱部材
9………モータ
11………ポンプ
12………ラジエータ
13………ヒータ
15………ポンプ
17………放熱部
19、21………熱交換器
23………冷房側冷却経路
25………ポンプ
27………コンデンサ
29………エバポレータ
31………放熱装置
33………制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の空調システムであって、
自動車の駆動源である熱源を冷却する熱源側冷却経路と、
自動車室内の暖房用のエアが流れるエア経路と、
前記エア経路内のエアと熱交換することが可能な暖房側加熱経路と、
前記熱源側冷却経路上に配置され、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第1の熱交換器と、
前記暖房側加熱経路上に配置され、前記暖房側加熱経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第2の熱交換器と、
前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器とを接続する熱輸送手段と、
前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の流量を制御する制御部と、を具備することを特徴とする自動車用の空調システム。
【請求項2】
前記制御部は、暖房時において、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の温度が所定温度以上となるように熱媒体の温度に応じて前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の流量を制御することを特徴とする請求項1記載の自動車用の空調システム。
【請求項3】
前記熱輸送手段は、少なくとも一部がヒートパイプからなり、前記ヒートパイプは、サーモサイフォン型ヒートパイプであり、前記ヒートパイプの前記第1の熱交換器から熱を受け取る側の端部に対して、前記第2の熱交換器に熱を放出する側の端部が高い位置に配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用の空調システム。
【請求項4】
前記熱輸送手段には熱輸送手段放熱装置が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動車用の空調システム。
【請求項5】
前記熱輸送手段は、第1の熱輸送手段および第2の熱輸送手段が直列に配置されて構成され、
前記第1の熱輸送手段の一方の端部が前記第1の熱交換器と接続され、前記第2の熱輸送手段の一方の端部が前記第2の熱交換器と接続され、
前記第1の熱輸送手段と前記第2の熱輸送手段との接続部には、熱輸送手段放熱装置が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動車用の空調システム。
【請求項6】
前記第2の熱交換器の上部には第2の熱輸送手段が接続され、前記第2の熱輸送手段の端部には、熱輸送手段放熱装置が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動車用の空調システム。
【請求項7】
自動車用の空調システム制御方法であって、
自動車の駆動源である熱源を冷却する熱源側冷却経路と、
自動車室内の暖房用のエアが流れるエア経路と、
前記エア経路内のエアと熱交換することが可能な暖房側加熱経路と、
前記熱源側冷却経路上に配置され、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第1の熱交換器と、
前記暖房側加熱経路上に配置され、前記暖房側加熱経路を流れる熱媒体と熱交換を行う第2の熱交換器と、
前記第1の熱交換器と前記第2の熱交換器とを接続する熱輸送手段と、
前記熱輸送手段の冷却を行う熱輸送手段放熱装置と、
前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の温度を監視し、温度に応じて、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の流量を制御する制御部と、
を具備する空調システムに対し、
前記制御部により、暖房時においては、前記熱源側冷却経路を流れる熱媒体の温度が所定温度以上となるように熱媒体の流量を制御し、前記熱源側冷却経路の熱を、前記熱輸送手段を介して前記暖房側加熱経路に伝え、
冷房時には、前記放熱装置を作動させて前記熱輸送手段を冷却することで、前記熱源側冷却経路の熱が前記暖房側加熱経路に伝わることを抑制することを特徴とする自動車用の空調システム制御方法。
【請求項8】
熱輸送システムであって、
熱源を冷却する熱源側冷却経路と、
流体が流れる流体経路と、
熱を利用し、前記流体経路内の流体と熱交換可能な熱利用経路と、
前記熱源側冷却経路と前記熱利用経路とを接続する熱輸送手段と、
前記熱輸送手段の冷却を行う熱輸送手段放熱装置と、
を具備し、
前記熱利用経路の熱媒体を昇温する際には、前記熱源側冷却経路の熱を、前記熱輸送手段を介して前記熱利用経路に伝え、
前記熱利用経路の熱媒体を降温する際には、前記熱輸送手段放熱装置を作動させて前記熱輸送手段を冷却することで、前記熱源側冷却経路の熱が前記熱利用経路に伝わることを抑制することを特徴とする熱輸送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−103633(P2013−103633A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249512(P2011−249512)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】