説明

自動車用アンダーフード部品

【課題】本発明は、機械特性、低吸水性、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および耐クリープ性に優れるポリアミド樹脂組成物からなる自動車用アンダーフード部品を提供することを課題としている。
【解決手段】(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して、(b)充填材1〜200重量部を配合せしめたポリアミド樹脂組成物を成形してなる自動車用アンダーフード部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラメチレンジアミンを主要構成成分とするポリアミド樹脂に充填材を配合した、機械特性、低吸水性、耐塩化カルシウム性、耐クリープ性および耐不凍液性に優れるポリアミド樹脂組成物を成形してなる自動車用アンダーフード部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂の強度や剛性を向上させる手法として、ガラス繊維や炭素繊維などの充填材を添加することが一般に行われている。この方法で得られる強化ポリアミド樹脂は、靭性と強度、剛性に優れたエンジニアリングプラスチックとして自動車部品、電気・電子部品、建材、家具用部品などに幅広く使用されている。
【0003】
ガラス繊維強化ナイロン66に代表されるポリアミド樹脂は、耐熱性、耐油性、強靭性に優れた特徴を有し、自動車アンダーフード部品、例えばクーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ギヤ、バルブ、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品など種々の機能部品において相当の使用実績がある。しかしながら、従来のガラス繊維強化ナイロン66樹脂は、寸法安定性に乏しく、凍結防止剤として道路に散布された塩化カルシウムによって、ストレスクラックが生じる問題があり、また高温雰囲気下での不凍液との接触によって強度が低下する問題もあり、さらなる性能向上が望まれていた。この解決を目的としてナイロン66よりアミド基濃度の低いナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等の長鎖脂肪族ポリアミドをそのまま、あるいはナイロン66とブレンドした組成物を用いる方法(例えば、特許文献1)が開示されている。しかしながら、これらの方法では凍結防止剤に対する耐薬品性や寸法安定性には優れるものの、機械特性や耐熱性の面について満足するに至っておらず、なお改善の余地があった。
【0004】
一方、特許文献2には、テトラメチレンジアミンと炭素数8〜14の脂肪族ジカルボン酸からなる単量体から構成されるポリアミド樹脂の記載があり、機械特性や耐熱性に優れる記載はあるものの、耐塩化カルシウム性にとりわけ優れることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−2392号公報
【特許文献2】国際公開第00/09586号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、機械特性、低吸水性、耐塩化カルシウム性、耐クリープ性および耐不凍液性に優れるポリアミド樹脂組成物からなる自動車用アンダーフード部品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のポリアミド樹脂に、特定量の充填材を添加すると、予想外にも耐塩化カルシウム性が飛躍的に向上するだけでなく、機械特性、低吸水性、耐クリープ性および耐不凍液性にも優れたポリアミド樹脂組成物からなる自動車用アンダーフード部品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して、(b)充填材1〜200重量部を配合せしめたポリアミド樹脂組成物を成形してなる自動車用アンダーフード部品、
(2)前記(a)ポリアミド樹脂を濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した硫酸相対粘度が2.0〜5.0であることを特徴とする(1)記載の自動車用アンダーフード部品、
(3)炭素数7以上のジカルボン酸がアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である(1)または(2)に記載の自動車用アンダーフード部品、
(4)前記(b)充填材が繊維状充填材であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の自動車用アンダーフード部品、
(5)前記(b)充填材がガラス繊維、または炭素繊維であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の自動車用アンダーフード部品、
(6)前記(a)ポリアミド樹脂が、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上のジカルボン酸、またはその塩を、密閉系で加熱する工程を経由した後、溶融高重合度化して得られることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の自動車用アンダーフード部品、
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械特性、低吸水性、耐塩化カルシウム性、耐クリープ性および耐不凍液性に優れるポリアミド樹脂組成物を成形してなる自動車用アンダーフード部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で使用する(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂とは、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸の総重量が、原料となる単量体の70重量%以上であるポリアミド樹脂である。より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0012】
炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸としては、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。特に、耐熱性、溶融滞留安定性のバランスに優れるアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸が好ましい。
【0013】
(a)ポリアミド樹脂を構成する、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸以外の共重合体単位としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられ、これらの少なくとも1種を、全構成成分に対して30重量%未満含有することができる。
【0014】
本発明の(a)ポリアミド樹脂の製造方法としては、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸、またはその塩を、加熱して低次縮合物を合成する工程を経て、固相重合または溶融高重合度化する方法が挙げられる。この方法は、低次縮合物を一旦取り出して、固相重合または溶融高重合度化する2段重合、低次縮合物の製造工程に続いて、同一反応容器内で固相重合または溶融重合する1段重合のどちらを用いてもよい。溶融重合により得られたポリアミド樹脂は、固相重合により得られたポリアミド樹脂と比較して分子量分布が狭く、相対的に低分子量成分の含有量が少なくなるため、引張強度や引張破断歪み等の機械的性質が向上し、かつ耐塩化カルシウム性、耐クリープ性および耐不凍液性も向上するため、より好ましい。なお、低次縮合物とは、後述する硫酸相対粘度が1.05〜1.90のポリアミド樹脂と定義する。また、加熱重縮合とは、製造時のポリアミド樹脂の最高到達温度を180℃以上に上昇させる製造プロセスと定義する。固相重合とは、100℃〜融点の温度範囲で、減圧下、あるいは不活性ガス中で加熱する工程、溶融高重合度化とは、常圧、または減圧下で融点以上に加熱する工程を示す。
【0015】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂を製造する際には、テトラメチレンジアミン、およびその環化反応により生成するピロリジンが揮発したり、ピロリジンが末端封鎖剤となるなどの理由で、重合の進行に伴い、重合系内では全カルボキシル基量に対する全アミノ基量が少なくなり、重合速度が遅延する傾向がある。本発明では、テトラメチレンジアミンの揮発を抑制するためには、重合系内の圧力が高い方が好ましいが、反面、縮合水の揮発が抑制されると、テトラメチレンジアミンの環化反応が促進される傾向にあるため、本発明では重合系内の最高圧力を1〜25kg/cmとすることが好ましい。より好ましくは2〜20kg/cm、さらに好ましくは2〜15kg/cm、最も好ましくは3〜10kg/cmである。圧力が1kg/cm未満の場合には、テトラメチレンジアミンの揮発を十分に抑制することができず、アミノ基、カルボキシル基の等モル性が大きく崩れる傾向がある。また、圧力が25kg/cmを越える場合には、重縮合による水の脱離が抑制され、重合度が上昇しにくい傾向がある。縮合反応の進行により、縮合水が生成し、系内の圧力は上昇するので、重合開始時の圧力はゼロでもよいが、テトラメチレンジアミンの揮発を最小限に抑制する場合には、原料にあらかじめ水を添加する方法、重合開始時にあらかじめ不活性ガスで加圧する方法などにより、系内の圧力が高くなるよう調整することができる。
【0016】
また、原料を仕込む段階で、あらかじめ特定量のテトラメチレンジアミンを過剰に添加して、重合系内のアミノ基量を制御することが、高分子量の(a)ポリアミド樹脂を得るためには好ましい。原料として使用するテトラメチレンジアミンのモル数をA、炭素数7以上のジカルボン酸のモル数をBとしたとき、その比A/Bが1.005〜1.07となるように原料組成比を調整することが好ましく、1.01〜1.06となるように原料組成比を調整することがより好ましい。A/Bが1.005未満の場合には、重合系内の全アミノ基量が、全カルボキシル基量よりも極めて少なくなり、高分子量のポリマーが得られにくい傾向がある。一方、A/Bが1.07より大きい場合には、重合系内の全カルボキシル基量が、全アミノ基量よりも極めて少なくなり、高分子量のポリマーが得られにくい傾向がある。更にジアミン成分の揮散量も増加し、生産性、環境の点からも好ましくない。
【0017】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂の加熱重縮合においては、テトラメチレンジアミンの揮発や、脱アンモニア反応による環化の抑制に加え、着色を防止するためには、重合工程全体でポリマーが受ける熱履歴を極力小さくすることが重要であり、その手段として、重合系内の最高到達温度を低くすることが有効である。本発明で、低次縮合物を溶融高重合度化する場合には、重合系内の最高到達温度は、ポリアミド樹脂の融点以上、285℃以下にすることが好ましく、より好ましくは融点以上、融点+30℃以下である。285℃より高い温度の場合には、テトラメチレンジアミンの揮発や環化が促進される上、得られるポリアミド樹脂が着色する傾向がある。なお、固相で高重合度化する場合には、減圧下、または不活性ガス雰囲気下で融点−40℃以上、融点未満で固相重合することが好ましい。
【0018】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂の重合度は、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、2.0〜5.0であることが好ましい。より好ましくは、2.2〜4.5、さらに好ましくは2.5〜4.0である。相対粘度が2.0未満では、ポリアミド樹脂の靭性が低下する傾向がある。一方、相対粘度が5.0を超えると成形加工性に劣る傾向がある。
【0019】
本発明では、必要に応じて、重合促進剤を添加することができる。重合促進剤としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物が好ましく、特に亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムが好適に用いられる。重合促進剤は原料100重量部に対して、0.001〜1重量部の範囲で使用するのが好ましい。重合促進剤の使用量が0.001重量部に満たない場合には、その添加効果が殆ど認められず、また1重量部を越える場合には、得られるポリアミド樹脂の重合度が上がり過ぎるため、溶融成形が困難となる傾向がある。
【0020】
本発明で使用される(b)充填材は、有機、無機あるいは繊維状充填材、非繊維状充填材のいずれの様態としても用いることができる。繊維状充填材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維などが挙げられる。非繊維状充填材としては、例えばタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型型四珪素フッ素雲母の膨潤性雲母に代表される膨潤性層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの水酸化物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、燐酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。上記の膨潤性層状珪酸塩は層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された膨潤性層状珪酸塩であってもよく、有機オニウムイオンとしてはアンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。また、これら充填材は2種以上を併用して使用することもできる。これら充填材の中で好ましくは繊維状充填材である。
【0021】
繊維状充填材として、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化珪素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化珪素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材が挙げられる。特に好ましくはガラス繊維、炭素繊維である。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。さらに、ガラス繊維の断面は、円形、扁平状のひょうたん型、まゆ型、長円型、楕円型、矩形またはこれらの類似品など限定されるものではないが、ガラス繊維配合ポリアミドに特有の反りを低減させるには、扁平状の繊維が長径/短径の比が1.5〜10のものが好ましく、2.0〜6.0のものがさらに好ましい。長径/短径の比が1.5以下では断面を扁平状にした効果が少なく、10以上のものはガラス繊維自体の製造が困難である。なお、本発明に使用する上記の充填材はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)により処理することが優れた機械的強度や外観性を得る意味において好ましい。カップリング剤は常法に従って、予め充填材を表面処理し、ついでポリアミド樹脂と溶融混練する方法が好ましく用いられるが、予め充填材の表面処理を行わずに、充填材とポリアミド樹脂を溶融混練する際に、カップリング剤を添加するインテグラブルブレンド法を用いてもよい。カップリング剤の処理量は充填材100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましい。より好ましくは0.1〜5重量部、最も好ましくは0.5〜3重量部である。0.05重量部未満の場合には、カップリング剤で処理することによる機械特性の改良効果が小さく、10重量部を上回る場合には、充填材が凝集しやすく、分散不良が生じる傾向がある。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被膜あるいは集束されていてもよい。
【0022】
上記の(b)充填材の配合量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜200重量部である。好ましくは5〜150重量部、より好ましくは10〜100重量部である。1重量部未満では、強度や剛性の改良効果が小さく、また200重量部を超えると成形性が低下することがあるので好ましくない。
【0023】
本発明の(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族カルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂と、(b)充填剤を配合してなるポリアミド樹脂組成物は、耐塩化カルシウム性、機械特性に優れ、かつ低吸水性、耐クリープ性および耐不凍液性をバランスよく有しており、これらの特性により、当該ポリアミド樹脂組成物からなる成形品は自動車用アンダーフード部品に適することを見いだしたものである。
【0024】
本発明では、ポリアミド樹脂と充填材の界面を強化するために、カップリング剤による充填材の処理に加え、さらに、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、またはポリ無水マレイン酸から選ばれる無水物の少なくとも1種を配合することが好ましい。これらの中で、無水マレイン酸、ポリ無水マレイン酸が延性、剛性のバランスに優れるため好ましく用いられる。ポリ無水マレイン酸としては、例えばJ. Macromol. Sci.-Revs. Macromol. Chem.,C13(2), 235(1975)等に記載のものを用いることができる。
【0025】
これら無水物の添加量はポリアミド樹脂100重量部に対して0.05〜10重量部が延性の向上効果、得られる組成物の流動性の点から好ましく、さらに0.1〜5重量部の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。なお、これら無水物は、実質的にポリアミド樹脂、充填材と溶融混練する際に無水物の構造を取ればよく、加水分解してカルボン酸あるいはその水溶液の様な形態で溶融混練に供し、溶融混練の際の加熱により脱水反応させ、実質的に無水酸の形でナイロン樹脂と溶融混練してもかまわない。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法としては、特に制限はないが、具体的且つ効率的な例として、原料のポリアミド樹脂、充填材の混合物を単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給し、用いられるポリアミド樹脂の融点以上で溶融混練する方法などを挙げることができる。中でも、二軸押出機が好ましい。混練方法としては、(a)ポリアミド樹脂と(b)充填材をあらかじめブレンダーを用いてブレンドし押出機上流のメインフィーダーより供給する方法、押出機上流のメインフィーダーから(a)ポリアミド樹脂を供給し、(b)充填材を押出機下流のサイドフィーダーより供給する方法や事前に(a)ポリアミド樹脂を溶融混練した後、(b)充填材と溶融混練する方法などが挙げられる。
【0027】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、要求される特性に応じて他のポリアミド樹脂や他のポリマー類を含有させることができる。他のポリアミド樹脂として具体的には、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。中でも好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン6/12コポリマーなどの例を挙げることができる。他のポリマー類として具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0028】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、発明の目的を損なわない範囲で、他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ホスフィン酸金属塩などのリン系難燃剤、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)を任意の時点で添加することができる。
【0029】
本発明で言う自動車用アンダーフード部品とは、例えばクーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ギヤ、バルブ、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品などを示す。
【0030】
本発明の自動車用アンダーフード部品は、公知の方法で成形でき、その成形方法に関しても特に制限はなく、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形できる。中でも射出成形および押出成形によって得られたクーリングファン、ラジエータータンク、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ギヤ、バルブ、チューブ、パイプなどが有用である。なおこのようにして得られた成形部品は塗装、接着などの二次加工を行うことができる。また、成形温度については、通常、ポリアミド樹脂の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択される。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。材料特性評価については下記の方法に従って行った。
【0032】
[硫酸相対粘度]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0033】
[引張強度]
ASTM D638に従って引張試験機テンシロンUTA2.5T(オリエンテック社製)により、厚さ1/8インチのASTM1号ダンベル試験片についてクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、求めた。
【0034】
[曲げ強度および曲げ弾性率]
ASTM D790に従って曲げ試験機テンシロンRTA−1T(オリエンテック社製)により、厚さ1/4インチの棒状試験片についてクロスヘッド速度3mm/minで曲げ試験を行い、求めた。
【0035】
[吸水率]
100mm×150mm×3mmtの角板を、60℃、相対湿度95%の雰囲気中に500時間放置した後の重量増加より算出した。
【0036】
[耐塩化カルシウム性]
角板(100mm×150mm×3mmt)からTD方向にテストピース(8mm×100mm×3mmt)を切り出し、フライス仕上げを行い、60℃、相対湿度95%の雰囲気中で24時間吸湿処理を行った。このテストピースを専用治具に取り付け240gの荷重(19.6MPa)をかけた。その後以下の作業を繰り返した。
(1)恒温恒湿機(60℃×95%RH)で1時間処理
(2)20%塩化カルシウム溶液をガーゼで塗布し、オーブンにて100℃で1時間加熱
(3)ガーゼを取り除き、室温で1時間放置した後、表面観察
(1)〜(3)を1サイクルとし、クラックが発生するまで繰り返す。
【0037】
[耐クリープ性]
ASTM D674に準じて、6本掛けクリープ試験機CP6−L−10kN(オリエンテック製)により、ASTM1号ダンベル試験片を、150℃、50MPa荷重にて280時間処理した後の歪み量を測定した。歪み量が小さいほど耐クリープ性に優れることを示している。
【0038】
[耐不凍液性]
ロングライフクーラント(LLC)50%水溶液中でASTM1号ダンベル片を130℃/1000時間処理した後の引張強度および強度保持率を測定し、耐不凍液性の目安とした。
強度保持率の計算方法
(処理後引張強度−処理前引張強度)/処理前引張強度×100=強度保持率(%)。
【0039】
参考例1(テトラメチレンセバカミド塩の製造)
メタノール2375gにセバシン酸(東京化成)300.0g(1.483mol)を添加し、60℃のウォーターバスに浸漬して溶解させた。ここに、あらかじめ調製したテトラメチレンジアミン(関東化学)130.75g(1.483mol)をメタノール554gに溶解した溶液を2時間かけて滴下した。3時間撹拌を続けた後、静置下で室温に放置し、析出した塩を沈降させた。その後、ろ過、エタノール洗浄を行い、50℃で24時間真空乾燥して、ナイロン410塩を得た。
【0040】
参考例2(ポリテトラメチレンセバカミドの製造(溶融重合))
参考例1で作成したナイロン410塩700g、テトラメチレンジアミン10重量%水溶液21.2g(ナイロン410塩に対して1.00mol%)、次亜リン酸ナトリウム0.3065g(生成ポリマー重量に対して0.05重量%)を3L圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。加熱を開始して、缶内圧力が5.0kg/cmに到達した後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を5.0kg/cmで1.5時間保持した。その後10分かけて缶内圧力を常圧に戻し、更に窒素フロー下で1,5時間反応させ重合を完了した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.84のナイロン410を得た。
【0041】
参考例3(ポリテトラメチレンセバカミドの製造(固相重合))
参考例1で作成したナイロン410塩700g、テトラメチレンジアミン4.25g、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.3065g、イオン交換水70gを、攪拌機付きの内容積が3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この圧力容器を密閉したまま、加熱を開始し、内温223℃、15.0kg/cmに到達後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を15.0kg/cmで30分保持した。その後、反応容器から内容物をクーリングベルト上に吐出した。これを80℃で24時間真空乾燥して得られた低次縮合物を220℃、100Paで24時間固相重合し、ηr=3.06のナイロン410を得た。
【0042】
(実施例1,2、比較例1)
シリンダー設定温度270℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、参考例2で得たポリテトラメチレンセバカミド樹脂をメインフィーダーより供給し、充填剤をスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て約0.35の位置に設置したサイドフィーダーより、表1に記載の割合で供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度265℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械特性、吸水性、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および耐クリープ性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0043】
(実施例3)
シリンダー設定温度270℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、参考例3で得たポリテトラメチレンセバカミド樹脂をメインフィーダーより供給し、充填剤をスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て約0.35の位置に設置したサイドフィーダーより、表1に記載の割合で供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度265℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械特性、吸水性、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および耐クリープ性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0044】
(比較例2)
シリンダー設定温度245℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、硫酸相対粘度が2.70であるナイロン610樹脂をメインフィーダーより供給し、充填剤をスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て約0.35の位置に設置したサイドフィーダーより、表1に記載の割合で供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度240℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械特性、吸水性、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および耐クリープ性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0045】
(比較例3)
シリンダー設定温度280℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、硫酸相対粘度が2.78であるナイロン66樹脂をメインフィーダーより供給し、充填剤をスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て約0.35の位置に設置したサイドフィーダーより、表1に記載の割合で供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度280℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械特性、吸水性、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および耐クリープ性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0046】
(比較例4)
シリンダー設定温度245℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、硫酸相対粘度が2.75であるナイロン6樹脂をメインフィーダーより供給し、充填剤をスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て約0.35の位置に設置したサイドフィーダーより、表1に記載の割合で供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度240℃、金型温度80℃)により試験片を調製した。各サンプルの機械特性、吸水性、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および耐クリープ性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0047】
【表1】

【0048】
本実施例および比較例に用いた(b)充填剤は以下の通りである。
(b−1):ガラス繊維(日本電気硝子製T−289)
(b−2):炭素繊維(東レ性PAN系炭素繊維TS−12)。
【0049】
実施例1は比較例2よりも機械特性、耐塩化カルシウム性、耐クリープ性に優れるものであった。また、実施例1は比較例3、4に対して同レベルの機械特性を有し、かつ低吸水性、耐塩化カルシウム性および耐不凍液性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、機械特性、低吸水性、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および耐クリープ性に優れるという特徴を生かして、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ギヤ、バルブ、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品などの自動車用アンダーフード部品として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して、(b)充填材1〜200重量部を配合せしめたポリアミド樹脂組成物を成形してなる自動車用アンダーフード部品。
【請求項2】
前記(a)ポリアミド樹脂を濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した硫酸相対粘度が2.0〜5.0であることを特徴とする請求項1記載の自動車用アンダーフード部品。
【請求項3】
炭素数7以上のジカルボン酸がアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の自動車用アンダーフード部品。
【請求項4】
前記(b)充填材が繊維状充填材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用アンダーフード部品。
【請求項5】
前記(b)充填材がガラス繊維、または炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用アンダーフード部品。
【請求項6】
前記(a)ポリアミド樹脂が、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上のジカルボン酸、またはその塩を、密閉系で加熱する工程を経由した後、溶融高重合度化して得られることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自動車用アンダーフード部品。

【公開番号】特開2011−94103(P2011−94103A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189317(P2010−189317)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】