説明

自動車用インパネ補強材構造

【課題】重量増加を抑えて良好な変形強度、剛性及び振動特性を確保すると共に、低コストで製造可能なアルミ合金製の自動車用インパネ補強材構造を提供する。
【解決手段】軸線Lが車体に対し水平でかつ車幅方向に平行に延在するアルミニウム合金押出形材からなる自動車用インパネ補強材構造において、前記軸線Lに沿って下向きに開口部1aを有し、両端部を直接またはブラケット6a,6bを介して車体フレームに接合可能とされた上部開断面部品1と、前記軸線Lに沿って上向きに開口部2aを有する下部開断面部品2とからなり、前記上部及び下部開断面部品1,2が、前記車体の運転席相当部において、前記開口部1a,2aの両端面同士に形成された嵌合部3により嵌合されてなるメインメンバを有することを特徴とする自動車用インパネ補強材構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用インパネ補強材構造に関し、特に、低コストで剛性及び変形強度に優れる自動車用インパネ補強材構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体では、車室内前方にステアリングコラムを支持するためのインパネ補強材(インパネリーンフォース、ステアリングサポートビーム、ステアリングハンバービーム、クロスカービームなどとも言う。)が車幅方向に設けられている。
【0003】
このインパネ補強材は、周知の通り、車体に対し略水平方向で車幅方向に対し平行に延在するように配置され、直接或いは車幅方向の端部に設けられたブラケットを介して車体フレームに取付けられると共に、車体中央付近に設置される車体下方向或いは前方向に延在するステイと呼ばれる部材により、車体フロア或いはダッシュパネルと連結される。このようなインパネ補強材は、種々の断面形状が選択される。また、他部材との干渉を回避するために長手方向に曲げ、スェージング等が施される場合もある。更に、コストや性能面から、その素材についても鋼板、アルミニウム(以下、アルミと略称する。)及びマグネシウムなど様々な素材が選択される。
【0004】
インパネ補強材は、走行時のステアリングの振動を防止するために高い剛性が要求される。また、前面衝突において、車体前方からステアリングを介して伝わる車体後方への荷重、乗員の前方移動による車体前方への荷重、加えて側面衝突におけるインパネ補強材軸方向荷重に対しても、高い強度が要求される。近年では、自動車軽量化の観点から、これらの強度、剛性を確保した上で更に軽量化することが望まれている。
【0005】
アルミ材料は、従来から使われている鋼板に比べて軽量であることから、このようなインパネ補強材などのフレーム部材への適用も期待されている。これまでに、プレス成形或いはロール成形で形成したアルミ板材の接合構造、アルミ鋳造品、或いはアルミ押出形材からなるインパネ補強材が検討或いは実用化されている。しかし、アルミ材料は鋼板に比べて素材コストが高いことから、加工或いは接合コストをできるだけ抑えることが課題となる。
【0006】
インパネ補強材のようなフレーム部品において、剛性、強度要件を満足した上でより軽量化するためには、閉断面構造を採用することが望ましい。このため、アルミニウム板材からフレーム部品を製造する場合、プレス或いはロール加工後に接合を行い、閉断面構造を形成することが多い。しかし、このような板材からの構造では、溶接線長が長くなるために、製造コストが高いことが問題になる。
【0007】
インパネ補強材をアルミ鋳造により製造する場合については、他部品との取付部などを一体的に形成可能という利点はあるものの、閉断面中空部を形成することが難しいという問題がある。このため、コの字型などの開断面形状を採用し、強度、剛性確保のために補強リブを設けることが一般的であるが、前記中空閉断面部品に比べて重量が重くなるという問題がある。
【0008】
この点、アルミニウム合金押出形材(以下、アルミ押出形材と略称する。)は、板材のように溶接を伴わず、予め閉断面空間を持った直線状部品を形成可能という大きな利点がある。そして、インパネ補強材は、重量軽減と車幅方向の荷重を受け持つために、車体に対し略水平方向で車幅方向に対し平行に、直線的に設けることが望まれる。そこで、長手方向に同一断面のアルミ押出形材を用いたインパネ補強構造が幾つか提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
しかし、アルミ押出形材の場合、長手方向に一様な断面形状を有するため、形状的な制約が問題になる場合も多い。このため、長手方向の一部の断面をプレス加工するなど変形断面部を備えるような構造も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、長手方向に、より複雑な断面形状を付与する方法として、液圧成形なども提案されてきたが、加工に要する時間が長いなどコストアップが問題となることが多い。
【0010】
また、インパネ補強材の助手席側領域では、ステアリングコラムが連結される運転席側領域に比べて、剛性、強度の要求値自体が比較的低い。逆に、収納ボックスの配置などの関係もあって、形状の制約については厳しくなっており、運転席側に比べて小径薄肉管が望まれる。このため、従来から用いられてきた鋼管製インパネ補強材では、スェージングにより、助手席側を小径薄肉化することも一般的に行なわれている。しかし、鋼板に比べて成形性に劣るアルミ材料の場合は、スェージングなどで同様の形状を得ることは非常に難しい。
【0011】
そこで、運転席側と助手席側で異なる断面を有する部品を用い、これらを溶接接合或いは縮管など塑性変形を利用した加締接合、またボルト、ピンなどを用いた機械的接合により接合するという構造が数多く提案されている(例えば、特許文献3〜7参照参照)。
しかし、これらの構造は、部品点数が増加することによるコストアップが問題になることも多い。更に溶融溶接を用いる場合、アルミ材料では接合コスト自体が鋼板構造に比べて高くなるという問題がある。また更には、熱膨張率が高いために、接合時の熱変形の抑制など生産上の課題も解決する必要があり、製品立ち上げに時間を要することも問題になっている。
【0012】
以上整理すると、インパネ補強財では、ステアリングコラムが接合される運転席側は、高強度、高剛性への要求が強く、高強度大径断面フレームが必要である一方、助手席側では形状的制約を満足し、かつ軽量化するために小径薄肉フレームが必要であり、これらを低コストで製造可能な構造が求められていると言える。特に、鋼材に比べて接合コストの高いアルミ材料では、コスト低減のために接合長をできるだけ短くするような構造も必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−34266号公報
【特許文献2】特開2010−52487号公報
【特許文献3】特許第3734651号公報
【特許文献4】特開2004−189040号公報
【特許文献5】特許第4496592号公報
【特許文献6】特開2008−51237号公報
【特許文献7】特開2003−267264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、重量増加を抑えて良好な変形強度、剛性及び振動特性を確保すると共に、低コストで製造可能なアルミ合金製の自動車用インパネ補強材構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、軸線が車体に対し水平でかつ車幅方向に平行に延在するアルミニウム合金押出形材からなる自動車用インパネ補強材構造において、前記軸線に沿って下向きに開口部を有し、両端部を直接またはブラケットを介して車体フレームに接合可能とされた上部開断面部品と、前記軸線に沿って上向きに開口部を有する下部開断面部品とからなり、前記上部及び下部開断面部品が、前記車体の運転席相当部において、前記開口部の両端面同士に形成された嵌合部により嵌合されてなるメインメンバを有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項2に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、請求項1に記載の自動車用インパネ補強材構造において、前記下部開断面部品が、前記車体の助手席相当部において下方に曲げ加工され、曲げ加工された当該下部開断面部品の端部が車体フロアと連結されてなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の請求項3に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、請求項1または2に記載の自動車用インパネ補強材構造において、前記嵌合部の上部及び下部開断面部品における、少なくとも前記軸線方向の一部の開口部両端面が、上向きまたは下向きに平行方向に延在する180度折り返し曲げ加工部を有し、この180度折り返し曲げ加工部によって、前記上部及び下部開断面部品が嵌合されてなることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の請求項4に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、請求項1乃至3の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造において、前記嵌合部が、前記上部及び下部開断面部品の開口部両端面同士を、前記軸線方向に互いにスライドしながら嵌挿して形成された後、プレス成形して加締接合されてなることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の請求項5に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、請求項4に記載の自動車用インパネ補強材構造において、前記嵌合部が、前記軸線方向に異なる断面形状を有してなることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の請求項6に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、請求項1乃至5の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造において、前記上部及び下部開断面部品の少なくとも車体後方側の開口部端面が、前記軸線方向に直交する断面を断面視したとき、半径3mm以上の曲面形状を有してなることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の請求項7に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、請求項1乃至6の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造において、前記上部及び下部開断面部品が、それぞれ略半円筒断面部品であることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の請求項8に係る自動車用インパネ補強材構造が採用した手段は、請求項1乃至7の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造において、前記メインメンバが、5000系、6000系或いは7000系アルミニウム合金からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、軸線が車体に対し水平でかつ車幅方向に平行に延在するアルミニウム合金押出形材からなる自動車用インパネ補強材構造において、前記軸線に沿って下向きに開口部を有し、両端部を直接またはブラケットを介して車体フレームに接合可能とされた上部開断面部品と、前記軸線に沿って上向きに開口部を有する下部開断面部品とからなり、前記上部及び下部開断面部品が、前記車体の運転席相当部において、前記開口部の両端面同士に形成された嵌合部により嵌合されてなるメインメンバを有している。
【0024】
その結果、前記メインメンバの運転席側は、比較的大径の閉断面構造を有することになり、高変形強度、高剛性及び良振動特性を確保することができる。そして、本インパネ補強材構造では、比較的厚肉となる嵌合部が、車体略前方及び略後方に設けられることになり、衝突など車体前後方向に荷重が負荷される場合の曲げ変形強度を高くすることができる。また、ステアリングコラムを介して伝わる荷重に対する剛性も高くなるという特徴も得られる。
【0025】
また、本発明の請求項2に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記下部開断面部品が、前記車体の助手席相当部において下方に曲げ加工され、曲げ加工された当該下部開断面部品の端部が車体フロアと連結されてなるので、小径化と軽量化、更には部品点数の低減を同時に実現できる。尚、既述の特許文献7には、助手席側は側周面の一部が開口した管状の小径部材からなるステアリングメンバーが開示されているが、ワイヤーハーネスの収納が主目的であり、本願発明のように変形強度や剛性等の向上を目的としたものではない。
【0026】
更に、本発明の請求項3に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記嵌合部の上部及び下部開断面部品における、少なくとも前記軸線方向の一部の開口部両端面が、上向きまたは下向きに平行方向に延在する180度折り返し曲げ加工部を有し、この180度折り返し曲げ加工部によって、前記上部及び下部開断面部品が嵌合されてなるので、車体上下或いは車幅方向に抜けにくい構造となり、結果的に強度の高い自動車用インパネ補強材構造となる。
【0027】
また更に、本発明の請求項4に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記嵌合部が、前記上部及び下部開断面部品の開口部両端面同士を、前記軸線方向に互いにスライドしながら嵌挿して形成されてなるので、メインメンバの長手方向に線的な接合部が形成されることになり、比較的高い剛性を確保できる。これら接合部については、一部を補助的に溶接しても良いが、溶接を施さない方が、むしろ熱変形防止による形状精度と製作コストの増加防止の点から好ましい。
【0028】
前記嵌合部については、更にプレス成形により加締めて加締接合されるのが好ましい。この場合、後工程であるプレス成形により強固に加締接合できるため、前記嵌合部の断面形状は多少クリアランスを有する形状に設計しても大きな問題はなく、素材押出時の形状精度の管理基準も厳しくすることなく、嵌合自体も容易にできるという製作上の利点がある。また、前記嵌合部に接着剤などを併用して、更に接合強度の向上を図っても良い。
【0029】
そして、本発明の請求項5に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記嵌合部が、前記軸線方向に異なる断面形状を有してなるので、車幅方向への部品のずれ変形を抑制する効果があり、より強度及び剛性の高い構造を得ることができる。
【0030】
また、本発明の請求項6に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記上部及び下部開断面部品の少なくとも車体後方側の開口部端面が、前記軸線方向に直交する断面を断面視したとき、半径3mm以上の曲面形状を有してなる。衝突時に乗員に接触する可能性があるメインメンバの前記断面において、車体後方側部位に鋭角部が存在すると、乗員への切傷が問題になる可能性があるため、板状部品などにおいて鋭角な端面がある場合、端面を内側へ折り返す加工を施すなど、接触しても切傷し難くする必要がある。しかしながら、アルミ押出形材の場合、予め端面に曲面を有する断面形状となるようなダイスの押出形状としておけば、追加加工しなくとも端面断面に鋭角部のない製品を得ることが可能となる。
【0031】
更には、少なくとも車体後方側の開口部端面が、半径3mm以上の緩やかな曲面形状を有する端面を嵌合及びプレス加工により加締接合する場合、この開口部端面が強固に食い込むことで接合されることになり、より結合強度を高くするという効果も得られる。
【0032】
そして、前記上部及び下部開断面部品の断面形状は、夫々略半円筒断面部品であることが望ましい。これは、特に運転席側領域において、軸線直交方向の異方性が少なくなることで、インパネ補強材としての振動特性が確保しやすいこと、また半円筒の断面形状であるために、軸線方向の荷重負荷時に座屈が生じ難く、比較的高い強度が得られるという効果も有する。
【0033】
一方、本発明の請求項7に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記メインメンバが、5000系、6000系或いは7000系アルミニウム合金からなるので、素材として必要な強度と剛性を確保し得る。そして、腐食環境ではない室内空間で、かつ高強度が要求されることを考慮すると、押出形材には7000系アルミ合金、板材ブラケットを用いる場合には、溶接部の強度を確保しやすい5000系アルミ板材の適用が最も望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1に係る自動車用インパネ補強材構造の模式的斜視図である。
【図2】図1の軸線Lに直行する垂直断面Aを運転席方向に断面視した嵌合部の種々の形態を示す模式的断面図である。
【図3】図2(c)に示した下部開断面部品の開口部端面の詳細を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の模式的斜視図である。
【図5】図4の自動車用インパネ補強材構造に係り、図(a)は軸線Lに直行する垂直断面Aを運転席方向に断面視した模式的断面図、図(b)は軸線Lに直行する垂直断面Bを運転席方向に断面視した模式的断面図、図(c)は水平断面Cを上方向から断面視した模式的断面図、図(d)は水平断面Dを上方向から断面視した模式的断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程においてメインメンバの準備工程を示す模式的斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程において嵌挿工程を示す模式的斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程においてプレス成形工程を示し、図(g)はプレス成形後の模式的斜視図、図(h),(i)は夫々A断面及びB断面におけるプレス成形工程を示す模式的断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程において、A断面におけるプレス成形工程の他の態様例を示す模式的断面図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係る自動車用インパネ補強材構造の模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
先ず、本発明の実施の形態1に係る自動車用インパネ補強材構造について、以下添付図1,2を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る自動車用インパネ補強材構造の模式的斜視図、図2は図1の軸線Lに直行する垂直断面Aを運転席方向に断面視した嵌合部の種々の形態を示す模式的断面図、図3は図2(c)に示した下部開断面部品の開口部端面の詳細を示す模式的断面図である。
【0036】
本発明の実施の形態1に係る自動車用インパネ補強材構造は、図1に示す通り、軸線Lが車体に対し水平でかつ車幅方向に平行に延在するアルミニウム合金押出形材からなる自動車用インパネ補強材構造に関する。そして、この自動車用インパネ補強材構造は、前記軸線Lに沿って下向きに開口部1aを有する上部開断面部品1と、前記軸線Lに沿って上向きに開口部2aを有する下部開断面部品2とによりメインメンバを構成している。
【0037】
尚、ここでは、例として、上部開断面部品1及び下部開断面部品2の断面形状を夫々略半円筒形状として示しているが、中空断面の形状については、矩形筒断面や平坦部のある円筒断面など、形状制約、製品要求仕様、或いは他部品との接合の観点などから適宜選択される。また、上部開断面部品1及び下部開断面部品2は、必ずしも相似形である必要はなく、後述する嵌合部3,3同士を結ぶ直線が、その断面中心を通らない軸線方向断面で分割されていても良い。
また、前述したように、運転席側領域におけるインパネ補強材の振動性能の向上、軸方向荷重負荷時の座屈抑制という観点からは、上部開断面部品1および下部開断面部品2の断面形状は、図示したように略半円筒形状であることが好ましい。
【0038】
同時に、この自動車用インパネ補強材構造は、車体の運転席側において、後述の図2に例示する如く、上部開断面部品1の開口部端面1b,1bと下部半円筒部品2の開口部端面2b,2bの両端面1b,2b同士が嵌合された嵌合部3,3が形成されている。前記嵌合自体は,上部開断面部品1の開口部1aと下部開断面部品2の開口部2aの両端面1b,2b同士を、軸線L方向に挿入することにより形成される。
【0039】
また、この自動車用インパネ補強材構造は、メインメンバの運転席側と助手席側の境界部に上端部を連結されて支持し、図示しない車体下方フロアに下端部4aを接合された接合ステイ4、及び助手席側に連結され車両前側のカウルと連結された連結ステイ5を有している。更に、前記メインメンバの運転席側端部にはブラケット6aが、助手席側端部にはブラケット6bが夫々接合されており,これらのブラケット6a,6bを介して車体と接合される構造を有している。
【0040】
そして、前記メインメンバの材質としては、5000系、6000系或いは7000系アルミニウム合金からなるのが好ましい。このようなアルミニウム合金は、素材として自動車用インパネ補強材に必要な強度と剛性を確保し得る。そして、腐食環境ではない室内空間で、かつ高強度が要求されることを考慮すると、押出形材には7000系アルミ合金、板材ブラケットを用いる場合には、溶接部の強度を確保しやすい5000系アルミ板材の適用が最も望ましい。
【0041】
尚、インパネ補強材のメインメンバと車両の接合ステイ4或いはブラケット6a,6bなどとの接合は、MIG溶接、レーザー溶接など必要に応じて便宜選択すれば良い。また、前記メインメンバは、両端部にブラケット6a,6bを取付けることなく、直接車体フレームに接合することもできる。
【0042】
嵌合部3の形態は図2に示す通り、種々の形態を用いることができる。即ち先ず、上部開断面部品1の開口部端面1b,1bが下向きの180度折り返し曲げ加工部を、下部開断面部品2の開口部端面2b,2bが上向きの180度折り返し曲げ加工部を、夫々アルミ押出形材として形成された後、これらの開口部両端面1b,2b同士が、夫々下向きに90度折り曲げ加工した形状で嵌挿して形成された勘合部3(図(a))や、開口部両端面1b,2bの180度折り返し曲げ加工部の向きがこれと逆向きに形成された勘合部3(図(b))が可能である。
【0043】
また、嵌合部3を後述する如くプレス成形して加締め、加締接合することが好ましい。即ち、水平方向に180度折り返し曲げ加工された上部開断面部品1の開口部端面1bに、下部開断面部品2の水平方向の開口部端面2bを嵌挿後、プレス成形して接合されたもの(図(c))や、図(a)の嵌合部3を水平方向にプレス成形されたもの(図(d))、図(c)の嵌合部3を後述する図8(h)の如くプレス成形されたもの(図(e))、図(a)の嵌合部3を水平方向にプレス成形されたもの(図(d))が可能である。
【0044】
更には、図(a)の開口部端面1b,1bに水平部1c,1cや突起1d,1dを配置して形成されたもの(図(e),(f))や、図(d)の嵌合部3を更に後述する図9の如くプレス成形されたもの(図(g))、上部開断面部品1の開口部端面1b,1bに、突起1d,1dを取付けて拘束するように形成されたもの(図h))なども形成可能である。
【0045】
尚、嵌合部3の形態は、車体上下或いは車幅方向に抜けにくい構造の方が強度の高いことを考えると、図2(a),(b)に比べて、図(c)〜(h)など加締接合した構造が好ましい。また、形状制約の観点から、できるだけ小スペースで強度、剛性が高いことが好ましいことを考慮すれば、外周に突出部の少ない図(e),(f),(g)の構造がより好ましい。即ち、前記メインメンバの嵌合部3の断面形状は、嵌合部3を構成する両開断面部品1,2の開口部両端面1b,2bが、上方または下方に平行方向に延在している180度の折り返し曲げ加工部により嵌合され、更には加締接合されていることが望ましい。
【0046】
また、図2(a)〜(h)に示した嵌合部3,3の形態は、上部開断面部品1及び下部開断面部品2の嵌合部の態様例を示したものであって、その他例えば、図2(a)と(b)のように上部及び下部開断面部品1,2の構成を入れ替えた態様や、これら図2(a)〜(h)に示した上部及び下部開断面部品1,2の嵌合部断面形状を組み合わせて、所定の性能を得ることも可能である。
【0047】
尚、これら上部及び下部開断面部品1,2は、少なくとも車体後方側の開口部端面1b,2bが、図3に例示する如く、半径3mm以上の緩やかな曲面形状を有して形成されているのが好ましい。特に、衝突時に乗員に接触する可能性がある車体後方側部位については、このような構成を採用することにより、開口部端面1b,2bが乗員などと接触した場合でも切傷を防止することが可能になる。これらの端面形状は、アルミ押出形材を適用する場合には、押出金型により予め設定することが可能である。また、この曲面形状が端側の面外方向に突出するような端面形状の場合、この部位を後述する如くプレス成形して加締めることにより、突出部が相手先部品に強固に食い込んで接合されるため、より結合強度を高くすることも可能となる。
【0048】
次に、本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造につき、先ず添付図4,5を参照しながら概要を説明する。図4は本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の模式的斜視図、図5は図4の自動車用インパネ補強材構造に係り、図(a)は軸線Lに直行する垂直断面Aを運転席方向に断面視した模式的断面図、図(b)は軸線Lに直行する垂直断面Bを運転席方向に断面視した模式的断面図、図(c)は水平断面Cを上方向から断面視した模式的断面図、及び図(d)は水平断面Dを上方向から断面視した模式的断面図である。
【0049】
尚、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、車体下方フロアと接合される接合ステイの構成にあり、その他は全く同構成であるから、接合ステイの構成についての説明に止めるものとする。
【0050】
即ち、本発明の実施の形態1においては、接合ステイ4が、メインメンバの運転席側と助手席側の境界部に連結して支持し、図示しない車体下方フロアと接合されていたのに対し、本発明の形態2においては、下部開断面部品2の車体の助手席相当部が下方に曲げ加工され、曲げ加工された下部開断面部品2の助手席相当部が接合ステイ4として、その下端部4aを図示しない車体フロアと連結された構成をなしている。本構造によれば、部品点数の削減とともに、溶接熱による変形の抑制が可能となるため、形状精度の向上効果も得られより好ましい。
【0051】
そして、この自動車用インパネ補強材構造は、メインメンバにおける運転席側の垂直断面Aの部位においては、上部開断面部品1の開口部1aと下部開断面部品2の開口部2aの両端面同士を軸線L方向に嵌挿して嵌合した後、更に後述するプレス成形により加締接合され、図2(e)と同一形態の嵌合部3が形成され(図5(a)参照)ている。一方、車体の助手席側の垂直断面Bの部位においては、垂直断面Aにおける上部開断面部品1と同一断面を有し、軸線Lに沿って下方に開口部1aを有する上部開断面部品1のみにより形成されている(図5(b)参照)。
【0052】
また、接合ステイ4は、水平断面Cの部位において、後述する如く開口部端面2b,2bを除去された下部開断面部品2の運転席側と助手席側の境界部相当(図5(c)参照)と、接合ステイ4の水平断面Dの部位において、断面にフランジ部4b,4bを有するコの字状に形成された部品2の助手席相当(図5(d)参照)とから構成されている。
【0053】
次に、上記自動車用インパネ補強材構造の詳細を、その製造工程に従って添付図6〜9を参照しながら説明する。図6は本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程においてメインメンバの準備工程を示す模式的斜視図、図7は本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程において嵌挿工程を示す模式的斜視図、図8は本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程においてプレス成形工程を示し、図(g)はプレス成形後の模式的斜視図、図(h),(i)は夫々A断面及びB断面におけるプレス成形工程を示す模式的断面図、図9は本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造工程において、A断面におけるプレス成形工程の他の態様例を示す模式的断面図である。
【0054】
本発明の実施の形態2に係る自動車用インパネ補強材構造の製造に当り、先ず、上部開断面部品1は、開口部1aを有する略半円筒形部材からなり、その断面の開口部端面1b,1bが、夫々水平外向き方向に180度折り曲げ部を有するアルミ押出形材として形成される(図6(a)参照)。
【0055】
一方、下部開断面部品2は、開口部2aを有する略半円筒形部材からなり、その開口部端面2b,2bが、夫々水平外向き面を有するアルミ押出形材として形成される(図6(b)参照)。そして、この下部開断面部品2の運転席側と助手席側の境界部近傍にトリム(切除)加工部7,7を施した後(図6(c)参照)、助手席側相当部を開口部2aと逆方向に略90度折り曲げ加工する(図6(d)参照)。この折り曲げ加工の際、助手席側相当部の断面を、略半円筒形状から平面部を有するコの字状に変化させるとともに、フランジ4b,4bを180度折り曲げ加工して、開口部端面2b,2bを有する接合ステイ4が形成される。尚、これらの形状変化の有無は,設計上或いは形状的制約などにより便宜選択される。
【0056】
そして、曲げ加工された下部開断面部品2を軸線L方向(車幅方向)にスライドさせて、上部開断面部品1に嵌挿させる(図7(e),(f)参照)。この際、下部開断面部品2の運転席側と助手席側の境界部近傍にトリム加工部7,7を施していることにより、運転席側部分のみを嵌挿させることができる。本実施の形態2では、更に、車体上方向から嵌合部3,3をプレス成形することによって加締めて加締接合し、開口端部同士の接合を強固なものとしている(図8(g)参照)。
【0057】
即ち、図4,8の垂直断面Aに相当する箇所においては、図8(h)に示す如く、嵌合部3,3を形成して嵌挿された下部開断面部品2と上部開断面部品1の中空部に芯金8を挿通した後、下部開断面部品2の下部をダイ9で支持しつつ、上部開断面部品1の上方からパンチ10をプレスすることにより、嵌合部3,3を加締めて接合する。一方、図4,8の垂直断面B相当の箇所においては、図8(i)に示す如く、上部開断面部品1の開口部1aの内面を芯金9で支持しつつ、上部開断面部品1の上方からパンチ10をプレスすることにより、垂直方向に180度折り曲げ部を有する開口部端面1b,1bが形成される。
【0058】
嵌合部3,3の態様は、その他、嵌合部3,3を有して形成された下部開断面部品2と上部開断面部品1の中空部に芯金8を挿通した後、上下方向からダイ9,9により支持しつつ、パンチ10,10により車体の前後方向から嵌合部3,3をプレスして加締接合する図9に示すものなど、便宜選択すれば良い。
【0059】
次に、本発明の実施の形態3に係る自動車用インパネ補強材構造につき、添付図10を参照しながら説明する。図10は、本発明の実施の形態3に係る自動車用インパネ補強材構造の模式的斜視図である。
尚、本発明の実施の形態3が上記実施の形態1と相違するところは、上部開断面部品と下部開断面部品の嵌合部の構成にあり、その他は全く同構成であるから、嵌合部の構成についての説明に止めるものとする。
【0060】
即ち、本発明の実施の形態1においては、上部開断面部品1と下部開断面部品2の嵌合部3,3が、軸線L方向に同一断面形状を有して接合されていたのに対し、本発明の実施の形態3においては、運転席側の端部における嵌合部3a,3a及び運転席側の助手席寄りの嵌合部3a,3aの断面形状と、運転席側中央部の嵌合部3b,3bの断面形状が異なった構造を有している。このように、上部開断面部品1と下部開断面部品2の嵌合部3,3が、軸線L方向に異なる断面形状を有して構成されている場合、車幅方向へのズレ変形も抑制することが可能になり、より強度の高い自動車用インパネ補強材構造を得ることができる。
【0061】
以上説明した通り、本発明に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記軸線に沿って下向きに開口部を有し、両端部を直接またはブラケットを介して車体フレームに接合可能とされた上部開断面部品と、前記軸線に沿って上向きに開口部を有する下部開断面部品とからなり、前記上部及び下部開断面部品が、前記車体の運転席相当部において、前記開口部の両端面同士に形成された嵌合部により嵌合されてなるメインメンバを有している。
【0062】
そのため、前記メインメンバの運転席側は、比較的大径の閉断面構造を有することになり、高変形強度、高剛性及び良振動特性を確保することができる。そして、本インパネ補強材構造では、比較的厚肉となる嵌合部が、車体略前方及び略後方に設けられることになり、衝突など車体前後方向に荷重が負荷される場合の曲げ変形強度を高くすることができる。また、ステアリングコラムを介して伝わる荷重に対する剛性も高くなる。
【0063】
また、本発明に係る自動車用インパネ補強材構造によれば、前記下部開断面部品が、前記車体の助手席相当部において下方に曲げ加工され、曲げ加工された当該下部開断面部品の端部が車体フロアと連結されてなるので、小径化と軽量化、更には部品点数の低減を同時に実現できる。
【符号の説明】
【0064】
A,B:垂直断面,
C,D:水平断面,
L:軸線,
1:上部半円筒部品, 1a:開口部, 1b:開口部端面,
1c:水平部, 1d:突起,
2:下部半円筒部品, 2a:開口部, 2b:開口部端面,
3,3a,3b:嵌合部,
4:接合ステイ, 4a:下端部, 4b:フランジ部,
5,連結ステイ,
6a,6b:ブラケット,
7:トリム加工部,
8:芯金, 9:ダイ, 10:パンチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線が車体に対し水平でかつ車幅方向に平行に延在するアルミニウム合金押出形材からなる自動車用インパネ補強材構造において、
前記軸線に沿って下向きに開口部を有し、両端部を直接またはブラケットを介して車体フレームに接合可能とされた上部開断面部品と、
前記軸線に沿って上向きに開口部を有する下部開断面部品とからなり、
前記上部及び下部開断面部品が、前記車体の運転席相当部において、前記開口部の両端面同士に形成された嵌合部により嵌合されてなるメインメンバを有することを特徴とする自動車用インパネ補強材構造。
【請求項2】
前記下部開断面部品が、前記車体の助手席相当部において下方に曲げ加工され、曲げ加工された当該下部開断面部品の端部が車体フロアと連結されてなることを特徴とする請求項1に記載の自動車用インパネ補強材構造。
【請求項3】
前記嵌合部の上部及び下部開断面部品における、少なくとも前記軸線方向の一部の開口部両端面が、上向きまたは下向きに平行方向に延在する180度折り返し曲げ加工部を有し、この180度折り返し曲げ加工部によって、前記上部及び下部開断面部品が嵌合されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用インパネ補強材構造。
【請求項4】
前記嵌合部が、前記上部及び下部開断面部品の開口部両端面同士を、前記軸線方向に互いにスライドしながら嵌挿して形成された後、プレス成形して加締接合されてなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造。
【請求項5】
前記嵌合部が、前記軸線方向に異なる断面形状を有してなることを特徴とする請求項4に記載の自動車用インパネ補強材構造。
【請求項6】
前記上部及び下部開断面部品の少なくとも車体後方側の開口部端面が、前記軸線方向に直交する断面を断面視したとき、半径3mm以上の曲面形状を有してなることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造。
【請求項7】
前記上部及び下部開断面部品が、それぞれ略半円筒断面部品であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造。
【請求項8】
前記メインメンバが、5000系、6000系或いは7000系アルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つの項に記載の自動車用インパネ補強材構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−254664(P2012−254664A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127510(P2011−127510)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】