説明

自動車用サスペンション部品

【課題】 略中央に軸孔を有する環状部と、フランジとウエブとを有するアーム部とが、連結部で連結され、鋳造一体とされた自動車用サスペンション部品であって、強度及び剛性を確保しつつ軽量化が可能で、しかも製造(鋳造)に際して、鋳型の造型時の型落ちをが防止され、また大型で複雑な中子を不要として、造型コストを低減することができる自動車用サスペンション部品を得る。
【解決手段】 環状部の軸孔の少なくとも1つは窪み部が設けられ、前記窪み部は、アーム部のウエブに向けて連続すると共に、ウエブの手前を底部として漸閉され、かつ連結部の外形は、前記窪み部との間で所定の肉厚を有してアーム部に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造一体とされた自動車用サスペンション部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のサスペンション部品は、路面からの振動や衝撃が車体に伝達するのを緩和して、乗員の乗り心地を確保すると共に、車輪の向きを抑制して走行安定性の向上を図っている。自動車のサスペンションのうち、例えば独立懸架式のサスペンションは、車輪を個別に車体に支持する構造であるため、乗り心地や走行安定性が向上でき、また、ばね下荷重を小さくできるという利点を有する。この独立懸架式サスペンションには、ダブルウイッシュボーン型、ストラット型、マルチリンク型などがある。
【0003】
図8は、自動車用サスペンションの一例として、上下一対(ダブル)のサスペンションアームで車輪を懸架するダブルウイッシュボーン型サスペンション80の一例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。ダブルウイッシュボーン型サスペンション80は、コイルスプリング83と一体的に設けられたショックアブソーバー84と、タイヤ85を回転自在に支持するスピンドル86と、鋳造製または鍛造製のナックル87と、一端がナックル87の下端部に固定されたボールジョイント(図示せず)と軸孔D3で連結すると共に、他端がゴムブッシュを圧入した軸孔D1、D2で車体(図示せず)に支持されるロアーアーム51(下側のサスペンションアーム)と、一端がナックル87の上端部に固定されたボールジョイント(図示せず)に軸孔E3で連結すると共に、他端がゴムブッシュを圧入した軸孔E1、E2で車体に支持されるアッパーアーム56(上側のサスペンションアーム)などからなる。なお、上述したボールジョイントは、タイヤ85の上下運動と旋回運動を自由に行うとともに、軸孔を支点にロアーアーム51およびアッパーアーム56が円滑に上下に動作するように、またゴムブッシュは、ロアーアーム51およびアッパーアーム56からの振動が車体に伝わらないように設けられている。このようなダブルウイッシュボーン型サスペンションは、上下のサスペンションアームの長さ、形状、配置などにより車体の姿勢制御などを自由に設計でき、剛性も高いので、他の型式に較べ乗り心地や走行安定性に優れていることから、近年、多くの自動車に用いられている。
【0004】
ところで、ロアーアーム51やアッパーアーム56、ナックル87などのサスペンション部品は、車重の一部を支えており、走行中のタイヤ85が受ける外力も支えなければならない。また、サスペンションの狭い取り付けスペースに配置されて車体や他部品と連結する構造のためその形状は複雑となる。このため頑丈で複雑に成形が可能なプレスまたは鋳造で製造されている。しかし、プレス成形によるサスペンション部品は、薄板をプレス後、溶接して成形するため、狭い取り付スペース内で強度を成立させて形成することが難しい。そこで、鋳造一体となった自動車用サスペンション部品が用いられてきている。
【0005】
図5は、自動車用サスペンション部品のうち、従来の鋳造一体となったロアーアーム51を示し、(a)はその平面図、(b)は(a)での断面O−Oである。図5に示すロアーアーム51は、略中央に軸孔D1〜D3を有する環状部R1〜R3とアーム部Aとが連結部C1〜C3で連結され、鋳造一体とされている。そして、アーム部Aの断面形状を図示のようにフランジFとウエブWとを有する略H形として強度が確保されている。サスペンション部品には、アーム部Aの断面形状を略H形のほかに、略I形または略コ形としているものもある。また、自動車用サスペンション部品は、狭い取り付けスペースに配置されて車体や他部品と連結する構造のため、形状が複雑となり、図5に符合Qで示すように、例えばアーム部Aなどに、湾曲した屈曲部Qを有することがある。
【0006】
ここで「フランジ」とは、H形鋼の部位名称を用いており、アーム部が略H形の場合には「H」の文字の「両側の縦棒」を言い、アーム部が略I形の場合には「I」の文字の「上下の横棒」を言う。また、「ウエブ」とは、同じくH形鋼の部位名称を用いており、アーム部が略H形の場合には「H」の文字の「中間の横棒」を言い、アーム部が略I形の場合には「I」の文字の「中間の縦棒」を言う。なお、アーム部が略コ形の場合には、「フランジ」とは「コ」の文字の「上下の横棒」を言い、「ウエブ」とは「コ」の文字の「右の縦棒」を言う。
【0007】
図5に示すロアーアーム51のような従来の自動車用サスペンション部品は、アーム部についてはその断面形状を略H形、略I形、略コ形として強度が確保される反面、アーム部と環状部との連結部やその近傍では、車体に取り付けるブラッケトなど隣接する他部品との干渉を防止しつつ狭い取り付けスペースに配置する必要があるため、湾曲、くびれなど形状の変化が大きくなり、強度や剛性の低下や、後述する鋳造時の鋳型の型落ちによる鋳造不良を生じやすい。強度や剛性の確保や鋳型の型落ち防止のためには、連結部やその近傍の肉厚や抜き勾配を増す必要があるため軽量にすることが難しい。
【0008】
そこで本出願人は、自動車用サスペンションアームについて、強度を確保しつつ軽量化が図れる施策を特許文献1で提案している。図6は、特許文献1で提案したロアーアーム61の平面図である。図6に示すロアーアーム61は、略中央に軸孔D1〜D3を有する環状部R1〜R3とアーム部Aとが連結部C1〜C3で連結され、鋳造一体とされている。そして、アーム部Aは、空隙62を囲み略コ字(略コ形)として対向させた中空構造とされている。また、軸孔D1、D2と中空構造のアーム部Aは、連結部C1、C2で連通61a、61bされている。図6に示すロアーアーム61によれば、連通61a、61bにより、環状部R1、R2と連結部C1、C2との質量が少なくなるので、軽量にすることができ、また鋳造時の中子の数を少なくできる。
【0009】
また本出願人は、自動車用サスペンションアームについて、特許文献1とは別の手段で強度及び剛性を確保しつつ軽量化が図れる施策を特許文献2で提案している。図7は、特許文献2で提案したロアーアーム71を示し、(a)はその平面図、(b)は(a)での断面P−Pである。図7に示すロアーアーム71は、略中央に軸孔D1〜D3を有する環状部R1〜R3とアーム部Aとが連結部C1〜C3で連結され、鋳造一体とされている。そして、アーム部Aおよび連結部C1〜C3をフランジFとウエブWとを有する略H形とし、連結部C1〜C3には、フランジF(特許文献2では補強リブ)に跨る横断リブ71a〜71cを環状部D1〜D3から僅かに離間して形成している。図7に示すロアーアーム71によれば、横断リブ71a〜71cを設けているのでフランジFの肉厚を薄肉にしても強度及び剛性を確保しつつ軽量化が可能である。
【0010】
【特許文献1】特開2002−307921号公報
【特許文献2】特開2003−063224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図5に示す従来のロアーアーム51のように、アーム部Aと環状部R1〜R3とを連結する構造の鋳造一体の自動車用サスペンション部品は、連結部C1〜C3とその近傍でアーム部Aがくびれて平面視での幅が狭まり、略H形、略I形、略コ形をなすフランジF同士が接近する形状となることが多い。また、連結部に屈曲部を有していたり、図5に示すように連結部C2に隣接するアーム部Aに屈曲部Qを有する場合にも、フランジF同士が接近する形状となる。接近したフランジFによって形成される狭くて急峻な凹部は、鋳造のために転写する鋳型(主型)からみれば、狭くて急峻な凸部(鋳造用語でいう「島」部)となる。狭くて急峻な凸部(島部)は、鋳型の造型時に抜型抵抗によって型落ちしやすく、凹部を転写できない形状不良や砂かみなどの鋳造不良が発生しやすい。形状不良や砂かみなどの鋳造不良は製造歩留りを悪化して造型コストを増加させる。上述したように、連結部やその近傍の強度や剛性の確保や鋳型の型落ち防止のために、肉厚や抜き勾配を増したり、凹部を浅くなるように埋めたりなくすことも考えられるが、これでは軽量化を図れない。
【0012】
本出願人が特許文献1で提案した、図6に示すロアーアーム61は、アーム部Aの中空構造を、中子を用いて鋳造することで形成しているが、以下の課題も含んでいる。すなわち、ロアーアーム61を鋳造するために必要な中子は、軸孔D1、軸孔D2、アーム部A、連結部C3に跨る中空構造を形成するために、ロアーアーム61平面視のほぼ全域に亘る大型でしかも複雑な形状のものとなる(特許文献1の図面の図4において符合4−3に示す中子で例示される)。大型で複雑な中子は、変形や破損を発生させずに造型するのが難しく、また大型の中子造型機が必要となるなど、造型コストが増加しやすい。
【0013】
また、本出願人が特許文献2で提案した、図7に示すロアーアーム71は、連結部C1〜C3に、環状部D1〜D3から僅かに離間して横断リブ71a〜71cを設けているが、以下の課題も含んでいる。すなわち、このロアーアーム71では、環状部D1〜D3と横断リブ71a〜71cとの間は、狭くて急峻な凹部72a〜72cとなる。狭くて急峻な凹部72a〜72cは、鋳型からみれば、狭くて急峻な凸部(島部)となり、造型時に抜型抵抗によって型落ちしやすい。型落ちは、形状不良や砂かみなど鋳造不良によって製造歩留りを悪化して造型コストを増加させる。凹部72a〜72cをなくすことで型落ちは防止できが、それでは図5に例示した従来のロアーアーム51に類似した形状となってしまい、環状部R1〜R3と連結部C1〜C3の質量が増加して特許文献2の目的の1つである軽量化を達成できない。
【0014】
従って本発明の課題は、略中央に軸孔を有する環状部と、フランジとウエブとを有するアーム部とが、連結部で連結され、鋳造一体とされた自動車用サスペンション部品であって、強度及び剛性を確保しつつ軽量化が可能で、しかも製造(鋳造)に際して、鋳型の造型時の型落ちが防止され、また大型で複雑な中子を不要として、造型コストを低減することができる自動車用サスペンション部品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、強度、剛性を確保しつつ、軽量化と製造性の向上を両立させるに最適な製品形状を鋭意検討した。その結果、製品形状について、連結部やその近傍の外形から狭くて急峻な凹部をなくすことで、鋳型としての狭くて急峻な凸部(島部)をなくして鋳型造型時の型落ちを防止する一方で、環状部の内側の軸孔に、小型で単純形状の中子を用いて窪みを設けることで、上記課題を解決できるとの知見を得て本発明に想到した。
【0016】
すなわち、本発明の自動車用サスペンション部品は、略中央に軸孔を有する環状部と、フランジとウエブとを有するアーム部とが、連結部で連結され、鋳造一体とされた自動車用サスペンション部品であって、環状部の軸孔の少なくとも1つは窪み部が設けられ、前記窪み部は、アーム部のウエブに向けて連続すると共に、ウエブの手前を底部として漸閉され、かつ連結部の外形は、前記窪み部との間で所定の肉厚を有してアーム部に連結されていることを特徴とする。
【0017】
ここで、略中央に軸孔を有する環状部とは、軸孔に直交する環状部の断面形状の中心又はそれに近い位置に軸孔の中心を有する環状部を言う。環状部の断面形状は円形、楕円形、たまご形、四角形などの多角形から選択できるが、これに限定されない。また、フランジとウエブとを有するアーム部とは、略H形、略I形、および略コ形の少なくとも1つ以上の断面を有するアーム部を言う。フランジ及びウエブとは、前述したとおりである。また、窪み部は、アーム部のウエブに向けて連続するとは、窪み部の深さ方向がアーム部のウエブに向けられている形状を、またウエブの手前を底部として漸閉とは、窪み部の底部をウエブの手前として、該底部に向かって次第に閉じていく形状を言う。なお、窪み部は、その開口の断面形状は特に限定されず、正方形、長方形、台形、菱形、五角形などの略角形、正三角形、二等辺三角形、おむすび形などの略三角形、円、楕円などの略円形や、それらの組合せとすることができる。また、窪み部は1つの軸孔内に、1つまたは複数設けてもよい。
【0018】
また、前記自動車用サスペンション部品が、前記連結部又は前記連結部に隣接する前記アーム部に屈曲部を有する自動車用サスペンション部品の場合には、前記窪み部は、前記屈曲部に向けて延設されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の自動車用サスペンション部品は、上記した手段での構成により、連結部やその近傍の外形に狭くて急峻な凹部がないので、鋳型としての狭くて急峻な凸部(島部)もなく鋳型造型時の抜型抵抗による型落ちを防止できると同時に、環状部の軸孔の少なくとも1つに、アーム部のウエブに向けて連続すると共に、ウエブの手前を底部として漸閉された窪み部が設けられているので、環状部と連結部とが軽量となる。また、連結部の外形は、窪み部との間で所定の肉厚を有してアーム部に連結しているので、強度と剛性が確保される。しかも、鋳造用の中子は、軸孔に窪み部を付加したのみの小型で単純形状なので、変形や破損の問題がなく、また大型の中子造型機は不要で、造型コストを増加させない。
【0020】
また、連結部又は連結部に隣接するアーム部に屈曲部を有する自動車用サスペンション部品の場合には、前記窪み部を屈曲部に向けて延設すれば、屈曲部でフランジ同士が接近することによって形成される狭くて急峻な凹部(鋳型としての狭くて急峻な凸部)がなくなるので、屈曲部での鋳型造型時の抜型抵抗による型落ちを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施の形態に基づき詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の自動車用サスペンション部品であるロアーアーム11を示し、(a)はその平面図、(b)は(a)での断面E−E、(c)は(a)での断面G1−G1、(d)は(a)での断面G2−G2、(e)は(a)での断面G3−G3、(f)は(a)での断面G4−G4である。図1に示すロアーアーム11は、略中央に軸孔D1〜D3を有する環状部R1〜R3と、フランジFとウエブWとを有するアーム部Aとが、連結部C1〜C3で連結され、鋳造一体とされている。そして、アーム部Aの断面を略H形として強度が確保されている。さらに、軸孔D1〜D3には、アーム部AのウエブWに向けて連続すると共に、ウエブWの手前を底部s1〜s3(s3は図示せず)として漸閉した窪み部V1〜V3が設けられている。窪み部V1〜V3は、その開口の断面形状を、図1(d)〜(f)に示すように隅Rをもつ略四角形としている。また、連結部C1〜C3の外形は、窪み部V1〜V3との間で所定の肉厚tを有してアーム部Aに連結している。
【0022】
また、ロアーアーム11は、連結部C2に隣接するアーム部Aに、湾曲した屈曲部Qを有している。そして窪み部V2は、屈曲部QのウエブWに向けて連続すると共に、ウエブWの手前を底部s2として漸閉するように、屈曲部Qに向けて延設されている。
【0023】
図1に示すロアーアーム11によれば、軸孔D1〜D3に窪み部V1〜V3が設けられているので、環状部R1〜R3と連結部C1〜C3とが軽量となる。また、連結部C1〜C3の外形は、窪み部V1〜V3との間で所定の肉厚tを有するので、強度と剛性が確保される。
【0024】
図1に示すロアーアーム11は以下のようにして鋳造される。図2は、実施の形態1のロアーアーム11を鋳造するための鋳型M11を示し、(a)は見切面Y−Yで切断した平面図、(b)は上型M11aと下型M11bとを含む(a)での断面H−Hである。なお、図2中の括弧内文字は、鋳造後のロアーアーム11の各部位を示している。鋳型M11は、上型M11a及び下型M11bと、3つの中子M21〜M23とで構成されている。中子M21〜M23は、棒状部MD1〜MD3(軸孔D1〜D3)と、その両側に設けた幅木と、棒状部の中ほどに設けた略四角形の突起部MV1〜MV3(窪み部V1〜V3)とから形成されている。中子の突起部MV1〜MV3は、アーム部(A)のウエブ(W)に向けて連続すると共に、ウエブ(W)の手前を先端部Ms1〜Ms3(ただしMs3は図示せず)(底部s1〜s3)として漸減している。また、連結部(C1〜C3)の外形を形成する鋳型MC1〜MC3と中子の突起部MV1〜MV3との間には所定の隙間Mt(肉厚t)を形成している。
【0025】
また、中子M22の突起部MV2(窪み部V2)は、連結部(C2)に隣接するアーム部(A)が有する屈曲部(Q)のウエブ(W)に向けて連続すると共に、ウエブ(W)の手前を先端部Ms2(底部s2)として漸減するように、屈曲部(Q)に向けて延設されている。
【0026】
そして、中子M21〜M23を、幅木を用いて下型M11bに据え付ける(納める)ことで、ウエブ(W)に向けて突起部MV1〜MV3が位置決めされる。その後、下型M11bに上型M11aを型合わせして上下型を一体にすることで、ロアーアーム11のキャビティが形成された鋳型M11(11)となる。そして、鋳型M11のキャビティに、球状黒鉛鋳鉄やアルミニウム合金などの組成からなる溶湯を注湯して鋳造することで、図1に示すロアーアーム11が得られる。
【0027】
上型M11a及び下型M11bには、連結部を形成する鋳型MC1〜MC3やその近傍の鋳型に、狭くて急峻な凸部(島部)がなく、鋳型を造型時する際の抜型抵抗による型落ちが防止される。さらに、中子M22の突起部MV2を、連結部(C2)に隣接するアーム部(A)が有する屈曲部(Q)に向けて延設していので、鋳型には、屈曲部(Q)でアーム部(A)のフランジ(F)同士が接近することによって形成される狭くて急峻な凸部(島部)がなく、屈曲部(Q)での鋳型造型時の抜型抵抗による型落ちが防止される。
【0028】
また、中子M21〜M23は、棒状部MD1〜MD3に突起部MV1〜MV3を付加した小型でしかも単純形状なので、変形や破損の問題がなく、また大型の中子造型機が不要なので造型コストが増加しない。
【0029】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2の自動車用サスペンション部品であるロアーアーム31を示し、(a)はその平面図、(b)は(a)での断面K−K、(c)は(a)での断面L−Lである。図3に示すロアーアーム31は、略中央に軸孔D1〜D3を有する環状部R1〜R3と、フランジFとウエブWとを有するアーム部Aとが、連結部C1〜C3で連結され、鋳造一体とされている。そして、アーム部Aの断面を略コ形として強度と剛性が確保されている。さらに、軸孔D1〜D3には、アーム部AのウエブWに向けて連続すると共に、ウエブWの手前を底部s1〜s3(s3は図示せず)として漸閉し、開口の断面形状を略四角形とした窪み部V1〜V3が設けられている。また、連結部C1〜C3の外形は、窪み部V1〜V3との間で所定の肉厚tを有してアーム部Aに連結している。
【0030】
また、ロアーアーム31は、連結部C2に隣接するアーム部Aに、湾曲した屈曲部Qを有している。そして窪み部V2は、屈曲部QのウエブWに向けて連続すると共に、ウエブWの手前を底部s2として漸閉するように、屈曲部Qに向けて延設されている。
【0031】
図3に示すロアーアーム31によれば、軸孔D1〜D3に窪み部V1〜V3が設けられているので、環状部R1〜R3と連結部C1〜C3とが軽量となる。また、連結部C1〜C3の外形は、窪み部V1〜V3との間で所定の肉厚tを有するので、強度と剛性が確保される。また、連結部C1〜C3やその近傍の外形に狭くて急峻な凹部がないので、鋳型としての狭くて急峻な凸部(島部)がなく、鋳型を造型時する際の抜型抵抗による型落ちが防止される。さらに、窪み部V2は、連結部C2に隣接するアーム部Aの屈曲部Qに向けて延設されているので、屈曲部Qでの鋳型造型時の型落ちが防止される。また鋳造用の中子は、軸孔D1〜D3に窪み部V1〜V3を付加しただけの小型かつ単純形状なので造型コストを増加させない。
【0032】
(実施の形態3)
図4は、実施の形態3の自動車用サスペンション部品であるリンク41を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での断面N−Nである。図4に示すリンク41は、略中央に軸孔D4〜D6を有する環状部R4〜R6と、フランジFとウエブWとを有する略H字の断面を有するアーム部A1、A2とが、連結部C4、C5a、C5b、C6で連結され、鋳造一体とされている。そして、軸孔D4〜D6には、アーム部A1、A2のウエブWに向けて連続すると共に、ウエブWの手前を底部s4、s5a、s5b、s6として漸閉し、開口の断面形状を略四角形(図示せず)とした窪み部V4、V5a、V5b、V6が設けられ、かつ連結部C4、C5a、C5b、C6の外形は、窪み部V4、V5a、V5b、V6との間で所定の肉厚tを有してアーム部A1、A2に連結している。
【0033】
図4に示すリンク41によれば、軸孔D4〜D6に、窪み部V4、V5a、V5b、V6が設けられているので、環状部R4〜R6と連結部C4、C5a、C5b、C6とが軽量となる。また、連結部C4、C5a、C5b、C6の外形は、窪み部V4、V5a、V5b、V6との間で所定の肉厚tを有するので、強度と剛性が確保される。さらに、連結部V4、V5a、V5b、V6やその近傍の外形には、狭くて急峻な凹部がないので、鋳型としての狭くて急峻な凸部(島部)がなく、鋳型を造型時する際、抜型抵抗による型落ちが防止される。しかも、鋳造用の中子は、軸孔D4〜D6に窪み部V4、V5a、V5b、V6を付加しただけの小型かつ単純形状なので造型コストが増加しない。
【実施例】
【0034】
次に、実施例について説明する。
実施例として、図1に示す実施の形態1のロアーアーム11を鋳造した。ロアーアーム11は、図1(a)の紙面で左右方向となる横方向を約600mm、これとは直交する縦方向を約500mm、高さを約80mm、環状部R1〜R3の外径を各々約70mm、軸孔D1〜D3の内径を各々約50mm、肉厚tを約10mm、フランジFとウエブWの肉厚を約7mmとした。一方、比較例として、実施の形態1のロアーアーム11と、軸孔D1〜D3および環状部R1〜R3が同一の寸法になるように、図5に示す従来のロアーアーム51、図6に示す特許文献1で提案したロアーアーム61、図7に示す特許文献2で提案したロアーアーム71を鋳造した。そして、各ロアーアームについて、(1)軽量化、(2)型壊れ防止、(3)造型コストの観点から、優(◎)、良(○)、可(△)で評価した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から、図1に示す実施の形態1のロアーアーム11は、(1)軽量化、(2)型壊れ防止、(3)造型コストを総合すると優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上、実施の形態1および実施例では、ダブルウイッシュボーン型サスペンションのロアーアームを例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、ストラット型、マルチリンク型などその他の型式の独立懸架式サスペンションはもとより、リンクやナックルなども含めて広く自動車のサスペンションを構成するサスペンション部品に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施の形態1の自動車用サスペンション部品であるロアーアーム11を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での断面E−E、(c)は(a)での断面G1−G1、(d)は(a)での断面G2−G2、(e)は(a)での断面G3−G3、(f)は(a)での断面G4−G4である。
【図2】実施の形態1の自動車用サスペンション部品であるロアーアーム11を鋳造するための鋳型M11を示し、(a)は見切面Y−Yで切断した平面図、(b)は上型M11aと下型M11bとを含む(a)での断面H−Hである。
【図3】実施の形態2の自動車用サスペンション部品であるロアーアーム31を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での断面K−K、(c)は(a)での断面L−Lである。
【図4】実施の形態3の自動車用サスペンション部品であるリンク41を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での断面N−Nである。
【図5】従来の鋳造一体となったロアーアーム51を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での断面O−Oである。
【図6】特許文献1で提案したロアーアーム61の平面図である。
【図7】特許文献2で提案したロアーアーム71を示し、(a)は平面図、(b)は(a)での断面P−Pである。
【図8】ダブルウイッシュボーン型サスペンション80の一例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【符号の説明】
【0039】
11、31、51、61、71:ロアーアーム
41:リンク
56:アッパーアーム
61a、61b:連通
62:空隙
71a〜71c:横断リブ
72a〜72c:凹部
80:ダブルウイッシュボーン型サスペンション
A、A1、A2、56A:アーム部
F:フランジ
W:ウエブ
C1〜C6:連結部
D1〜D6、E1〜E3:軸孔
R1〜R6:環状部
V1〜V6:窪み部
s1〜s4、s5a、s5b、s6:底部
t:肉厚
Q:屈曲部
M11:鋳型
M11a:上型
M11b:下型
M21〜M23:中子
MC1〜MC3:連結部の鋳型
MD1〜MD3:中子の棒状部
MV1〜MV3:中子の突起部
Ms1〜Ms3:中子の先端部
Mt:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略中央に軸孔を有する環状部と、フランジとウエブとを有するアーム部とが、連結部で連結され、鋳造一体とされた自動車用サスペンション部品であって、環状部の軸孔の少なくとも1つは窪み部が設けられ、前記窪み部は、アーム部のウエブに向けて連続すると共に、ウエブの手前を底部として漸閉され、かつ連結部の外形は、前記窪み部との間で所定の肉厚を有してアーム部に連結されていることを特徴とする自動車用サスペンション部品。
【請求項2】
前記自動車用サスペンション部品が、前記連結部又は前記連結部に隣接する前記アーム部に屈曲部を有する自動車用サスペンション部品であって、前記窪み部は、前記屈曲部に向けて延設されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車用サスペンション部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−30382(P2010−30382A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193286(P2008−193286)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】