説明

自動車用シート

【課題】 振動の増幅のおそれを低減した自動車用シートを提供する。
【解決手段】 座面と背もたれとを接続する支持部と、支持部を車両上下方向に変位させるスライド機構と、支持部に設けられ、スライド機構による変位に対し弾性力を付与する弾性体とを備え、弾性体は、少なくとも支持部の車幅方向外側に設けられることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用シートの制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1記載の自動車用シートにあっては、運転席の座面とフロアとの連結部にゴム製防振材を設け、水平方向と車両上下方向の振動を吸収している。ここで、車両のシートにおいて、背もたれと座面間では、車両のロール方向振動はほぼ車両上下方向振動とみなされる。
【特許文献1】実開平7−24637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来技術にあっては、ゴム製防振材の弾性率につき特に記載がなく、水平方向と車両上下方向の固有振動数の近接により連成が生じ、振動が増幅されるおそれがあった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、振動の増幅のおそれを低減した自動車用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、座面と背もたれとを接続する支持部と、支持部を車両上下方向に変位させるスライド機構と、支持部に設けられ、スライド機構による変位に対し弾性力を付与する弾性体とを備え、弾性体は、少なくとも支持部の車幅方向外側に設けられることとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、振動の増幅のおそれを低減した自動車用シートを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の自動車用シートを実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[シート概要]
実施例1につき説明する。図1は本願自動車用シート1の斜視図である。なお、車幅方向をx軸、車両前方をy軸正方向、車両上下方向上側をz軸正方向とする。また、図1の自動車用シート1は助手席のシートであって、x軸正方向側を外側、x軸負方向側を運転席側(内側)とする。
【0009】
自動車用シート1は、背もたれ10、シートバックフレーム20、座面30、シートクッションフレーム40、支持部50を有する。シートバックフレーム20およびシートクッションフレーム40はそれぞれ背もたれ10、座面30の内部に設けられている。
【0010】
背もたれ10およびシートバックフレーム20はz軸に対し傾斜して設けられ、シートバックフレーム20に平行であってx軸と直交する軸をξ軸とする。ξ軸は鉛直上方側を正とする。
【0011】
シートバックフレーム20およびシートクッションフレーム40はそれぞれ中空金属パイプであり、背もたれ10および座面30の形状に合わせて長方形または正方形に曲げ加工されている。また、それぞれのフレーム20,40の断面は略円形に設けられている。
【0012】
支持部50はシートバックフレーム20のz軸負方向側であってx軸正方向側(車両外側)に設けられ、シートクッションフレーム40と接続する連結部51を有する。また、シートバックフレーム20はz軸負方向側であってx軸負方向側(車両内側)に連結部21を有する。
【0013】
シートクッションフレーム40にはy軸負方向側であってx軸正、負方向側に連結部41,42が設けられている。x軸正方向側の連結部41は支持部50の連結部51と接続し、x軸負方向側の連結部42はシートバックフレーム20の連結部21と直接接続する。
【0014】
[シートバックフレーム]
図2はシートバックフレーム20のy軸正方向正面図、図3は支持部50付近の拡大図である。
【0015】
上述のようにシートバックフレーム20のz軸負方向側であってx軸正方向側端部には、ξ軸方向に延在する円柱状の支持部50が設けられている。この支持部50はスライド機構60を有し、このスライド機構60によりシートバックフレーム20のx軸正方向側部分とシートクッションフレーム40のx軸正方向側部分をξ軸方向摺動可能に接続する。
【0016】
スライド機構60は、中空のシートバックフレーム20のy軸負方向側であってx軸正方向側端部の開口端22に、弾性体100および支持部50の挿入部52をξ軸方向摺動可能に挿入することで形成される。この挿入部52は連結部51のξ軸正方向側に設けられる。シートバックフレーム開口端22のz軸正方向側には、中心軸方向にかしめられた凹部23が設けられている。
【0017】
弾性体100は挿入部52よりも先に開口端22に挿入され、凹部23によってξ軸正方向側を係止される。これにより連結部51は弾性体100を介して凹部23にξ軸正方向側を係止される。
【0018】
弾性体100はξ軸を軸とする円柱状部材であり、径方向側面において開口端22の側面に当接する。これにより弾性体100は、シートバックフレーム20と支持部50のx軸方向相対変位を吸収する。
【0019】
また、組み付け時には弾性体100はξ軸正方向側において凹部23に当接し、ξ軸負方向側において挿入部52に当接する。これにより弾性体100は、シートバックフレーム20と支持部50のξ軸方向相対変位を吸収する。
【0020】
[弾性体]
図4は弾性体100の軸方向正面図、図5は径方向正面図である。弾性体100は円柱状部材であって、径方向側面には切欠部110が設けられている。切欠部110は弾性体100の径方向側面をスリット状に切り欠いて形成され、これにより弾性体100は軸方向(ξ軸方向)と径方向(x軸方向)で異なる剛性(弾性率)を有することとなる。
【0021】
したがって、弾性体100によってシートバックフレーム20と支持部50の相対変位を吸収する際、x軸、ξ軸方向で互いに異なる弾性率によって振動が吸収されることとなり、x軸方向振動とξ軸方向振動の固有振動数が互いに遠ざかる。よって、x軸方向とξ軸方向の振動の連成を回避し、振動増幅を回避する。
【0022】
とりわけ、車両のロール方向振動は車幅方向外側で大きくなり、シートバックフレーム20−シートクッションフレーム40間においてはロール方向振動はほぼ車両上下方向振動とみなせる。したがって、車幅方向外側(x軸正方向側)に弾性体100を設けることで、ロール方向振動と車幅方向振動との共振を抑制し、運転者に対する違和感を低減する。
【0023】
[シートバックフレームと弾性体の径方向断面形状]
図6〜図8はシートバックフレーム20の開口端22および弾性体100の径方向断面図である。図6、図7は比較例、図8は本願を示す。
【0024】
比較例では、シートバックフレーム20は中空矩形断面であり、開口端22も中空矩形である。弾性体100は開口端22の内周に当接して径方向振動を吸収する必要があるため、開口端22と同様に矩形断面を有することとなる。
【0025】
シートバックフレーム20とシートクッションフレーム40のξ軸方向相対移動により弾性体100がξ軸方向に押圧されると弾性体100は弾性変形するが、弾性変形によって逃げた肉が開口端22の矩形の頂点に集中し、応力集中によって開口端22の劣化が早まるおそれがある(図7参照)。
【0026】
このため、本願ではシートバックフレーム20の開口端22を中空円形とし、弾性体100の肉を径方向均等に変形させて応力集中を回避する。なお、図9に示すように中空楕円形としてもよい。
【0027】
[実施例1の効果]
(1)弾性体100は、少なくとも支持部50のx軸正方向側(車幅方向外側)に設けられることとした。
【0028】
これにより、振動の増幅のおそれを低減した自動車用シートを提供できる。
【0029】
(2)支持部50は、ξ軸方向(z軸方向)に延在し、
シートバックフレーム20は、中空の開口端22を有し、この開口端22に弾性体100および支持部50が挿入され、
弾性体100は、支持部50よりもξ軸正方向側(z軸正方向側)に設けられ、開口端22の内部でξ軸正方向側(z軸正方向側)を係止されることとした。
【0030】
これにより、既存部品を大きく変更することなく上記(1)の効果を得ることができる。
【0031】
(3)開口端22は、中心方向に凹む凹部23を有し、
弾性体100は、凹部23によってξ軸正方向側(z軸正方向側)を係止されることとした。これにより、容易に弾性体100を係止することができる。
【0032】
(4)弾性体100は切欠部110を有することとした。これにより、容易に弾性体100の軸方向と径方向の弾性率を異ならせることができる。
【0033】
(5)弾性体100は、径方向断面が円形または楕円形であることとした。これにより、開口端22の応力集中を回避することができる。
【0034】
(6)、ξ軸方向(上下方向)とx軸方向(車幅方向)で異なる剛性を有することした。
【0035】
弾性体100によってシートバックフレーム20と支持部50の相対変位を吸収する際、x軸、ξ軸方向で互いに異なる弾性率によって振動が吸収されることとなり、x軸方向振動とξ軸方向振動の固有振動数が互いに遠ざかる。よって、x軸方向とξ軸方向の振動の連成を回避し、振動増幅をさらに抑制することができる。
【0036】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本願自動車用シートの斜視図である。
【図2】シートバックフレームのy軸正方向正面図である。
【図3】支持部付近の拡大図である。
【図4】弾性体の軸方向正面図である。
【図5】弾性体の径方向正面図である。
【図6】シートバックフレームの開口端22および弾性体100の径方向断面図である(比較例)。
【図7】シートバックフレームの開口端22および弾性体100の径方向断面図である(比較例)。
【図8】シートバックフレームの開口端22および弾性体100の径方向断面図である(本願)。
【図9】図8の変形例である。
【符号の説明】
【0038】
1 自動車用シート
20 シートバックフレーム
22 開口端
23 凹部
30 座面
40 シートクッションフレーム
50 支持部
60 スライド機構
100 弾性体
110 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面と、
背もたれと、
前記座面と前記背もたれとを接続する支持部と、
前記支持部を車両上下方向に変位させるスライド機構と、
前記支持部に設けられ、前記スライド機構による変位に対し弾性力を付与する弾性体と
を備え、
前記弾性体は、少なくとも前記支持部の車幅方向外側に設けられること
を特徴とする自動車用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車用シートにおいて、
前記背もたれの骨格部材であるシートバックフレームと、
前記座面の骨格部材であるシートクッションフレームと
をさらに備え、
前記支持部は、車両上下方向に延在し、
前記シートバックフレームは、中空の開口端を有し、この開口端に前記弾性体および前記支持部が挿入され、
前記弾性体は、前記支持部よりも車両上方側に設けられ、前記開口端の内部で車両上方側を係止されること
を特徴とする自動車用シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の自動車用シートにおいて、
前記開口端は、軸中心方向に凹む凹部を有し、
前記弾性体は、前記凹部によって車両上方側を係止されること
を特徴とする自動車用シート。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自動車用シートにおいて、
前記弾性体は切欠部を有すること
を特徴とする自動車用シート。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自動車用シートにおいて、
前記弾性体は、径方向断面が円形または楕円形であること
を特徴とする自動車用シート。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の自動車用シートにおいて、
前記弾性体は、上下方向と車幅方向で異なる剛性を有すること
を特徴とする自動車用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−214636(P2009−214636A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58880(P2008−58880)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】