説明

自動車用フロアマットの裏面に用いる防滑シート

【課題】 滑りにくい防滑シートを提供する。
【解決手段】 この防滑シートは、経糸及び緯糸で織成された基布1の表面に突起2が設けられている。突起2はパイル糸3で形成されている。パイル糸3は、隣り合う経糸4及び5間に経糸と平行に挿入され、隣り合う経糸4及び5と共に緯糸6と織成されている。パイル糸3は、芯鞘型単フィラメントが複数本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸よりなる。芯鞘型単フィラメントは、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分で構成されている。突起2の根元近傍では鞘成分の溶融固化によって単フィラメントント間が結合一体化されている。突起2の先端近傍では単フィラメント間が完全に結合一体化されておらず、ばらけた状態となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用フロアマットの裏面に用いる防滑シートに関し、特に自動車用フロアマットの裏面に貼着して用いる防滑シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の床には、騒音防止や乗り心地を良くするために、一般的に、ニードルパンチカーペットやタフトカーペットが敷設されている。そして、このカーペットの汚れ防止を目的として又は使用者の好みに応じて、さらにこのカーペットの上に、比較的小さな形状のフロアマットを敷設することも行われている。
【0003】
フロアマットはカーペットの上に部分的に敷設されるため、足で踏むと滑りやすいということがあった。フロアマットが滑ると、使用者が転倒するという危険がある。また、運転手が使用している場合は、運転に危険が生じることもある。
【0004】
したがって、従来より、フロアマットの裏面に防滑シートを貼着して、それが滑りにくいようにしている。たとえば、基布の表面に多数のモノフィラメントを植設した防滑シートを貼着することが提案されている(特許文献1)
【0005】
【特許文献1】特開2007−168730号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、基布表面にモノフィラメントを植設した防滑シートでは、十分な防滑性が得られないということがあった。すなわち、モノフィラメントは、剛直性があるとはいえ、一本のフィラメントであるため、高剪断力を負荷すると曲がりやすく、剪断力が負荷された方向に滑るということがあった。
【0007】
そこで、本発明は、基布表面にマルチフィラメント糸を植設すると共に、このマルチフィラメント糸に特定の処理を施して、剛直であって曲がりにくく、しかも敷設されたカーペットに食い込みやすい防滑シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、経糸及び緯糸で織成された基布の表面に突起が設けられた防滑シートにおいて、前記突起は、隣り合う経糸間に該経糸と平行に挿入され、該隣り合う経糸と共に緯糸と織成されたパイル糸で形成されており、前記パイル糸は、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分で構成された芯鞘型単フィラメントが複数本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸であって、前記突起の根元近傍では鞘成分の溶融固化によって該単フィラメントント間が結合一体化されていると共に、前記突起の先端近傍では該単フィラメント間が完全に結合一体化されておらず、ばらけた状態となっていることを特徴とする自動車用フロアマットの裏面に用いる防滑シートに関するものである。
【0009】
本発明に係る防滑シートは、経糸及び緯糸で織成された基布1と、その基布1表面に設けられた複数列の突起2からなるものである。突起2の設け方は任意であるが、たとえば、図1に示したように、経方向に複数列設け、緯方向にも複数行設けるのが一般的である。また、列間及び行間の間隔も任意である。一般的に、1インチ当たり突起2を数個〜十数個設けるのが好ましい。突起2の高さも任意であり、一般的に2mm程度である。
【0010】
突起2は、パイル糸3で形成されている。パイル糸3は、隣り合う経糸4及び5の間に、経糸4及び5と平行に挿入されている。そして、この経糸4及び5と共に、緯糸6と織成されている。パイル糸3の挿入態様としては、数本〜十数本の経糸ごとに挿入されるのが一般的である。たとえば、14本の経糸の真ん中にパイル糸が挿入されると、パイル糸の左側に7本の経糸が存在し、パイル糸の右側に7本の経糸が存在することになる。この場合において、パイル糸3に隣り合う経糸4というのは、パイル糸3の左側に存在する1本の経糸のことを意味し、また隣り合う経糸5というのは、パイル糸3の右側に存在する1本の経糸のことを意味している。
【0011】
パイル糸は経糸と共に経方向に走行する糸であり、緯糸と共に織成される。織成する場合の織組織は任意であるが、一般的に平織組織が採用される。平織組織を採用した場合、パイル糸3と経糸4及び5の関係は、図2に示したとおりである。すなわち、隣り合う経糸4及び5は緯糸6に対して同様の上下関係となり、パイル糸3が経糸4及び5とは逆の上下関係となるように、織成される。そして、パイル糸3は、緯糸数本乃至数十本の間隔で緯糸と織成されずに起立して、その先端が切断されており、これが突起2を形成するのである。
【0012】
パイル糸は、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分で構成された芯鞘型単フィラメントが複数本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸よりなる。そして、パイル糸で形成された突起の根元近傍では鞘成分の溶融固化によって単フィラメントント間が結合一体化されている。したがって、複数本の単フィラメントが一体化されているので、突起の根元近傍は剛直である。一方、パイル糸で形成された突起の先端近傍では単フィラメント間が完全に結合一体化されておらず、ばらけた状態となっている。すなわち、当初の単フィラメントがそのままの状態となっているか、又は若干の単フィラメント同士が接着した状態となって、複数本のフィラメントが現出している。したがって、突起の先端近傍は、敷設されたカーペット表面に食い込みやすくなっている。なお、パイル糸で形成された突起の状態を図3で模式的に示しておいた。
【0013】
経糸及び緯糸としては、従来公知の任意の糸が用いられるが、形態安定性の観点から、経糸としてマルチフィラメント糸を用い緯糸として紡績糸を用いるのが好ましい。また、経糸、緯糸及びパイル糸の素材についても従来公知の任意の重合体が用いられるが、耐候性や耐久性の観点から、ポリエステルを用いるのが好ましい。たとえば、パイル糸として、高融点ポリエステルよりなる芯成分と低融点ポリエステルよりなる鞘成分で構成されてなる芯鞘型複合単フィラメントが複数本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸を用いた場合、経糸として芯成分である高融点ポリエステルの融点以上の融点を持つポリエステルマルチフィラメント糸を用いるのが好ましい。また、緯糸としても、高融点ポリエステルの融点以上の融点を持つポリエステル紡績糸を用いるのが好ましい。経糸、緯糸及びパイル糸の繊度も任意であるが、パイル糸は突起を形成するものであるため、経糸及び緯糸に比べて高繊度のものを用いるのが一般的である。
【0014】
本発明に係る防滑シートは、その裏面(突起が出ていない面)がフロアマットの裏面に当接するようにして貼着される。貼着手段は、接着剤によって接着するのが一般的であるが、縫製等によって貼着してもよい。このようにして得られた防滑シート付きフロアマットは、自動車の床に敷設されているニードルパンチカーペットやタフトカーペットの上に、部分的に敷設して用いられる。
【0015】
本発明に係る防滑シートの製造方法の一例を挙げると、次のとおりである。まず、経糸、緯糸及び高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分で構成された芯鞘型単フィラメントが複数本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸よりなるパイル糸を準備する。そして、鈴木式二重ベロア織機等を用いて、ダブルパイル織物を得る。ダブルパイル織物は、図4に示した方法で織成される。すなわち、表基布を経糸及び緯糸で、裏基布を別個の経糸及び緯糸で織成しながら、表基布側に経方向に走行するパイル糸を経糸間に挿入し、また裏基布側にも経方向に走行する別個のパイル糸を経糸間に挿入する。そして、表基布で織成されていたパイル糸を、所定の位置で裏基布側に導入して裏基布を織成する。また、この位置で裏基布側で織成されていた別個のパイル糸を表基布側に導入して表基布を織成する。この動作を繰り返すことにより、ダブルパイル織物が得られる。かかるダブルパイル織物は、一定間隔でパイル糸で連結された表基布と裏基布とからなるものである。なお、図4は分かりやすくするために、パイル糸3と、これに隣り合う経糸4及び5の動作のみを示している。
【0016】
ダブルパイル織物を織成した後、表基布と裏基布とを連結しているパイル糸を略中央で切断する。図4の矢印で示した箇所が切断箇所である。これにより、横断面が図5に示したような、カットパイル7が形成された基布1が二枚得られる。カットパイル7が長すぎる場合には、シャーリング加工、すなわちハサミ等でさらに切断して、その長さを調整すればよい。
【0017】
次に、カットパイルが形成された基布に熱処理を施す。熱処理条件は、パイル糸を構成している単フィラメントの鞘成分である低融点重合体の融点よりも高く、かつ、芯成分である高融点重合体の融点よりも低い温度で、所定時間行う。この熱処理によって、カットパイルの根元近傍では、鞘成分の溶融固化によって単フィラメントント間が結合一体化される。一方、カットパイルの先端近傍では単フィラメント間が完全に結合一体化されず、ばらけた状態となる。このように、カットパイルの根元近傍と先端近傍で一体化の程度が異なるのは、以下の理由による。すなわち、カットパイルの根元近傍では、基布の経糸及び緯糸の拘束により、単フィラメント相互間が密着しているので、鞘成分の溶融固化によってほぼ完全に結合一体化されるのである。これに対して、カットパイルの先端近傍では、基布の経糸及び緯糸の拘束から解放され自由端となっているので、単フィラメントが分離する傾向となって密着していないので、鞘成分が溶融固化しても、単フィラメント同士が一体化しにくいのである。図3は、この状態を模式的に示したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る防滑シートに設けられている突起は、その先端近傍が単フィラメント間が完全に結合一体化されておらず、ばらけた状態となっているので、ニードルパンチカーペット等の自動車の床に用いられているカーペット表面によく食い込む。しかも、突起の根元近傍は単フィラメントの鞘成分の溶融固化によって、単フィラメント間が結合一体化されており、剛直になっている。したがって、カーペット表面への突起先端近傍の食い込みと、突起の根元近傍が剛直で曲がりにくいことから、カーペット表面に敷設されたフロアマットが滑りにくいという効果を奏する。
【実施例】
【0019】
本発明を以下実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、特定の状態のマルチフィラメント糸からなる突起を基布表面に設けると、剛直で敷設されたカーペットに食い込みやすい突起が得られるとの知見に基づくものであると解釈されるべきである。
【0020】
実施例
経糸、緯糸及びパイル糸として、以下の糸を準備した。
経糸:繊度11.7デシテックスのポリエステル単フィラメントが48本撚り合わされてなるポリエステルマルチフィラメント糸である。ポリエステルの融点は約260℃である。
緯糸:20番手のポリエステル紡績糸の双糸である。ポリエステルの融点は約260℃である。
パイル糸:融点約260℃のポリエステルよりなる芯成分と融点約170℃の低融点ポリエステルよりなる鞘成分で構成された、繊度11.5デシテックスの芯鞘型単フィラメントが96本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸を、さらに3本引き揃えた引き揃えマルチフィラメント糸である。
【0021】
鈴木式二重ベロア織機を用いて、上記経糸、緯糸及びパイル糸を供給して、ダブルパイル織物を得た。パイル糸の連結箇所は、図6に示したとおりであり、緯糸6本ごとにパイル糸によって表基布と裏基布とが連結している。なお、図6は、経糸を省略してパイル糸の動作のみを示している。表基布と裏基布は、いずれも、経糸密度63本/インチで緯糸密度38本/インチの平織組織である。また、パイル糸は、経糸10本に対して1本挿入されている。
【0022】
以上のようにして得られたダブルパイル織物の表基布と裏基布とを連結しているパイル糸を切断し、2枚の基布を得た。基布に形成されたカットパイルの長さが約2.3mmであったので、シャーリング加工して、カットパイルの長さを約2mmに調整し、カットパイルが形成された基布を得た。
【0023】
この基布を、180℃の雰囲気温度のオーブンで1分間熱処理した。この結果、基布表面に突起が植設された防滑シートが得られた、突起の数は、62本/インチ2であった。また、突起の先端近傍はささくれだった状態であり、突起の根元近傍は完全に一体化した状態であった。
【0024】
以上のようにして得られた防滑シートの静摩擦係数を、次の方法で測定した。すなわち、防滑シートを63mm×63mmの大きさに裁断して試料片(重量約3g)とし、この試料片を同大きさで重量200gの基板に取り付けた。なお、取り付け方は、突起が設けられていない試料片の面が基板面に当接するようにした。そして、試料よりも大きいニードルパンチカーペット(市販品、商品名「シティードパンチカーペット」)の上に、基板に取り付けた試料片の突起が当接するように置き、基板の上にさらに1kgの錘を載せた。そして、試料片を経方向及び緯方向と平行に引っ張って、最大静止摩擦力を測定し、静摩擦係数を計算した。経方向及び緯方向共に3回測定及び計算し、その結果、経方向の静摩擦係数は3.6で緯方向は2.7であった。一般的な市販品の場合、静摩擦係数は1.0〜1.3程度であるので、この防滑シートは非常に滑りにくいものであることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一例に係る防滑シートの平面図である。
【図2】図1に示した防滑シートのパイル糸、経糸及び緯糸の関係を示した模式図である。
【図3】図1に示した突起の状態を示した模式図である。
【図4】ダブルパイル織物を織成する際の動作を示した模式図である。
【図5】カットパイルが形成された基布の模式的側面図である。
【図6】実施例で用いたパイル糸の動作を示した模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1 基布
2 突起
3 パイル糸
4、5 経糸
6 緯糸
7 カットパイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸で織成された基布の表面に突起が設けられた防滑シートにおいて、
前記突起は、隣り合う経糸間に該経糸と平行に挿入され、該隣り合う経糸と共に緯糸と織成されたパイル糸で形成されており、
前記パイル糸は、高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分で構成された芯鞘型単フィラメントが複数本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸であって、前記突起の根元近傍では鞘成分の溶融固化によって該単フィラメントント間が結合一体化されていると共に、前記突起の先端近傍では該単フィラメント間が完全に結合一体化されておらず、ばらけた状態となっていることを特徴とする自動車用フロアマットの裏面に用いる防滑シート。
【請求項2】
経糸がポリエステルマルチフィラメント糸であり、緯糸がポリエステル紡績糸であり、芯鞘型単フィラメントが高融点ポリエステルよりなる芯成分と低融点ポリエステルよりなる鞘成分で構成されている請求項1記載の自動車用フロアマットの裏面に用いる防滑シート。
【請求項3】
自動車用フロアマットの裏面に、請求項1記載の防滑シートの裏面が貼着されてなる防滑シート付き自動車用フロアマット。
【請求項4】
経糸、緯糸及び高融点重合体よりなる芯成分と低融点重合体よりなる鞘成分で構成された芯鞘型単フィラメントが複数本撚り合わされてなるマルチフィラメント糸よりなるパイル糸を用いて、該経糸及び該緯糸で織成されてなる表基布と裏基布とが、経方向に走行する該パイル糸で連結されたダブルパイル織物を得る工程と、
前記ダブルパイル織物の前記表基布と前記裏基布とを連結している前記パイル糸を切断して、カットパイルが形成された基布を二枚得る工程と、
前記カットパイルが形成された基布を、前記低融点重合体の融点よりも高く前記高融点重合体の融点よりも低い温度で、熱処理する工程とを具備することを特徴とする自動車用フロアマットの裏面に用いる防滑シートの製造方法。
【請求項5】
経糸がポリエステルマルチフィラメント糸であり、緯糸がポリエステル紡績糸であり、芯鞘型単フィラメントが高融点ポリエステルよりなる芯成分と低融点ポリエステルよりなる鞘成分で構成されており、該経糸及び該緯糸を構成しているポリエステルは該高融点ポリエステルの融点以上である請求項4記載の自動車用フロアマットの裏面に用いる防滑シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−43558(P2013−43558A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182907(P2011−182907)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(594054520)株式会社ユニチカテクノス (4)
【Fターム(参考)】