説明

自動車用プラスチックフィラーネック

【課題】燃料ガスの透過が少なくて排ガス規制を満たし、同時に製造コストが節減できる材料を開発し、これを用いて作製された自動車用プラスチックフィラーネックを提供する。
【解決手段】自動車用プラスチックフィラーネックは、緑粘土系クレイを水中で膨張した状態で有機改質剤と陽イオン交換した有機化クレイを、樹脂に分散させてなるナノクレイ/樹脂コンポジットを素材として製造される。また、別の実施形態では、緑粘土系クレイを水よりなるスラリーを、高圧スプレー乾燥して作られたナノクレイを、樹脂に分散させてなるナノクレイ/樹脂コンポジットを素材として製造される。ここで、緑粘土系クレイは、モンモリロナイト、ヘクトライト及びベントナイトから選ばれる一つ以上であるのが好ましく、樹脂は、ポリアミド、ポリオレフィンよりなる群から選ばれたいずれか一つであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用プラスチックフィラーネックに係り、より詳しくは燃料ガス透過性に優れた高分子/クレイ−ナノコンポジットを素材とした自動車用プラスチックフィラーネックに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料タンクは、駆動に必要な燃料を貯蔵して、エンジンに燃料を供給している。すなわち、燃料タンクの上面一側には、上方に延びるプラスチック燃料注入管が取付けられ、気密を保ちながら注油器から燃料タンクに移送する燃料注入管機能のフィラーネックメインパイプと、燃料注入時に流入されたガスを抜くためのガス排出管機能のブリーザパイプ(breather pipe)とから構成されている。このフィラーネックパイプとブリーザパイプは、炭化水素ガスの透過性が低く、密封効果が優れているものが要求されており、一般にその成形素材は、ポリアミド、ポリエチレン、その他エンジニアリングプラスチックであって、圧出または3Dブロー(blow)成形で生産されている。
【0003】
一方、世界では、原油の依存度を下げ、かつ汚染物質排出の低減による環境保護の一環として、エタノールなど代替燃料が実用化されつつあり、これに対応して従来のガソリンとエタノール燃料の両方が使用できる可変燃料車両が増えつつある。現在使用されているフィラーネックの素材は、従来の使用燃料であるガソリンのガス透過性で関連排ガス規制を満足しているものの、可変燃料車両が登場すると、その耐ガス透過性が充分満足いくものでなく、透過した燃料ガスによる環境汚染の問題が猶予され、排ガス規制が満足できないことが起こりうる状況である。
【0004】
耐ガス透過性を上げるための努力はこれまでも行われてきており、例えば多層構造プラスチック素材の使用〔例えば、特許文献1参照〕、表面フッ素処理〔例えば、特許文献2参照〕、ポリアセタール樹脂の使用〔例えば、特許文献3参照〕などが提案されているが、これらは高価な素材となってコストアップとなり、実用上の制約があった。また、これまで提案された材料が、可変燃料車両のフィラーネックの成形素材として満足できるかどうかについて充分検討されていない。従って、可変燃料車両に使用できるようなガス透過の少ない、効率的な代替プラスチック材料の開発が急務になっている。
【0005】
本発明では、ガス透過性を抑える材料として、エンジニアリングプラスチックにナノクレイを添加したナノコンポジットを用いている。プラスチックにクレイなど各種のフィラーを混合したコンポジット材料は、層状シリケートを用いたポリアミド複合材料〔例えば、特許文献4参照〕など多くの報告があり、実用化されているものも多い。
【0006】
【特許文献1】特開平7−40998号公報
【特許文献2】特開2005−170167号公報
【特許文献3】特開平9−327855号公報
【特許文献4】特公平7−47644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、可変燃料車両のフィラーネックに使用したとき、燃料ガスの透過が少なくて排ガス規制を満たし、同時に製造コストが節減できる材料を開発し、これを用いて作製された自動車用プラスチックフィラーネックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく本発明の自動車用プラスチックフィラーネックは、緑粘土系クレイを水中で膨張させた状態で有機改質剤と陽イオン交換した有機化クレイを、樹脂に分散させてなるナノクレイ/樹脂コンポジットを素材としている。
【0009】
また、別の実施形態での自動車用プラスチックフィラーネックは、緑粘土系クレイと水とのスラリーを、高圧スプレーでスプレー乾燥して作られたナノクレイを、樹脂に分散させてなるナノクレイ/樹脂コンポジットを素材としている。
【0010】
ここで、緑粘土系クレイは、モンモリロナイト、ヘクトライト及びベントナイトから選ばれる一つ以上であるのが好ましく、樹脂は、ポリアミド、ポリオレフィンよりなる群から選ばれたいずれか一つであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るナノクレイをナノサイズに分散させたナノクレイ/樹脂コンポジットは、従来の汎用性エンジニアリングプラスチックに比べて耐衝撃性及び靭性を損なわず強度を著しく増加させることができ、自動車燃料ベーパーガスの透過抑制能、高温安定性、耐摩耗性などを大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るナノクレイ/樹脂コンポジットは、ナノサイズの無機フィラー(filler)を高分子マトリックスである樹脂に均質に分散させて、樹脂が元々有している物理的性質を向上させ、さらに新たな性質を与えている。
【0013】
ナノクレイ/樹脂コンポジットの特性を決定づける無機フィラーとしては、金属ナノ粒子、ナノサイズの球状または積層板状構造のセラミック成分、フラーレンや炭素ナノチューブで代表されるナノサイズの新炭素系材料などがある。無機フィラーは、3次元構造のうちいずれか一方向だけナノ化しても物性の大きな変化をもたらすことがある。しかし、分子単位で多様に化学反応する有機成分とは違って、無機フィラーはナノサイズで安定した状態にすることが難しく、作製工程にかなり手間がかかる。そこで、天然条件下でナノサイズの構造を有する無機物を探す努力が行われ、この一環として1980年代後半以来、大きく関心がもたれ、研究対象となってきたものが粘土鉱物で代表される層状シリケートである。
【0014】
層状シリケートは、表面積が平均800m/gと極めて大きく、概略厚さ1nm、長さ30nmから1000nmほどの極薄のシートが数十から数百枚ほど積層された構造をもっている。このような積層構造を有するナノシートを一種のナノフィラーとして高分子マトリックスに均質に分散させると、無機フィラーが数μm以上のサイズに凝集した状態の従来のコンポジット材料では期待できなかった性状が実現でき、機械物性、耐熱性、電気的特性、ガス遮断性など多様な面で向上することが認められている。
【0015】
層状構造を有する無機化合物は、自然界にはいくつかの種類があることが知られているが、そのうち、層状シリケート(phyllosilicate)、すなわちクレイ(clay)系列が多様な反応性と空間拡張能力を有していることが報告されている。層状シリケートの基本構造は、4面体構造のシリカ層と8面体構造のアルミナ層の組み合わせよりなっており、シリカ層とアルミナ層が1:1で構成されているカオリナイト(kaolinite)、2:1で構成されていて、内部の負電荷量の程度によってろう石−滑石(pyrophyllite−talc)、緑粘土(smectite)、バーミキュライト(vermiculite)、イライト(illite)、雲母(mica)などがある。このうち、さらに緑粘土系列には、モンモリロナイト(montmorillonite)、サポナイト(saponite)、またはペクトライト(pectorite)があり、これらは優れたインターカレーション性向を示している。本発明では、緑粘土系クレイを自動車用プラスチックフィラーネックに適用するナノクレイ/樹脂コンポジットの中心素材として使用する。
【0016】
緑粘土系クレイは、その構造においてSi4面体とAl8面体が2:1の比率で3層構造(Si−Al−Si)が集まって1枚の板を形成しており、1枚の板厚は約1nm程度、板と板との距離も約1nmで、板が多層に重って層状構造(layer structure)を作っている。平面の大きさが10〜20μm程度であるが、層と層との間に分子間力が働いていることから、樹脂とのコンポジットを製造しようとして単純に樹脂と混合しただけでは、層と層との間に樹脂が挿入されるインターカレーション(intercalation)作用はほとんど期待できない。
【0017】
しかし、層状構造の層間にはNaやCaのような陽イオンが存在しており、水が加わるとこれら陽イオンにより水を吸収して層間が開き膨張したり、層状構造をなしている板が崩壊する。このよう性状を利用して樹脂中に緑粘土系クレイを微細に分散させてナノクレイ/樹脂コンポジットとすることができる。
【0018】
その1つの方法が、緑粘土系クレイを水中で膨張した状態にして、ここに有機改質剤を加えてして層間のNaやCaなどの陽イオンを有機改質剤で置換させて有機化クレイとし、これを用いてナノクレイ/樹脂コンポジットを製造する。ここで、有機改質剤は、代表的には4級アンモニウム塩基をもつ有機化合物である。有機化クレイは、径が約5〜10μmの粒子となっている。この有機化クレイを樹脂と混合するとき、混合時の剪断力により、広がっている層間に樹脂が入り込み層と層が離れて樹脂内に分散されてナノクレイ/樹脂コンポジットを作ることができる。
【0019】
第2の方法は、緑粘土系クレイを水と混合してスラリーとし、このスラリーを高圧スプレーで噴霧して乾燥してナノクレイとする。すなわち、スラリー中での緑粘土系クレイは、層間のNaやCaなどの陽イオンが水分子を吸着し、この水分子はさらに他の水分子を引寄せることで層間隔が広まり、遂に層状構造が破壊する。層が破壊された状態で、あるいはいくつかの層状が重なり合った状態にあるスラリーを、2.5〜3.5kgf/cmの圧力で175〜185℃の温度の噴霧管中に噴霧すると、噴霧管中で瞬間的に乾燥されて、クレイの面が0.5〜1.0μm程度の大きさ、厚さが100nm以下のナノクレイとなる。このナノクレイを、上記と同様にして樹脂と混合して剪断力で樹脂内に分散させてナノクレイ/樹脂コンポジットとすることができる。
この第2の方法は、工程が極めて簡単であり、環境面においても有害物質を使用しないので、環境に優しい方法である。
【0020】
本発明のナノクレイ/樹脂コンポジットにおいて使用される緑粘土系クレイは、モンモリロナイト、ヘクトライト及びベントナイトから選ばれる一つ以上であるのが好ましい。樹脂は、ポリアミド、ポリオレフィンよりなる群から選ばれたいずれか一つであるのが好ましい。また、緑粘土系クレイと樹脂との混合比率は、使用する樹脂の種類に応じて、また目的とする成形物の種類によって適宜調節できる。
この比率は当業者にとって十分理解できよう。
【0021】
また、ナノクレイ/樹脂コンポジットを作るために硬化剤を添加することができる。硬化剤としてはポリオキシプロピレンジアミンのようなアミン系硬化剤が主に使用され、硬化剤の添加量は所望の硬化程度によって適宜調節できる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明による自動車用プラスチックフィラーネックは、上記のようにして製造されたナノクレイ/樹脂コンポジットを素材としており、可変燃料車両に対する排ガスの規制に対応できりようになり、環境汚染の主原因である燃料のガスの放出を低減することができ、さらにフィラーネックの製造コストアップを抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑粘土系クレイを水中で膨張させた状態で有機改質剤と陽イオン交換した有機化クレイを、樹脂に分散させてなるナノクレイ/樹脂コンポジットを素材としたことを特徴とする自動車用プラスチックフィラーネック。
【請求項2】
緑粘土系クレイと水とのスラリーを高圧スプレーでスプレー乾燥して作られたナノクレイを、樹脂に分散させてなるナノクレイ/樹脂コンポジットを素材としたことを特徴とする自動車用プラスチックフィラーネック。
【請求項3】
前記緑粘土系クレイが、モンモリロナイト、ヘクトライト及びベントナイトから選ばれる一つ以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用プラスチックフィラーネック。
【請求項4】
前記樹脂が、ポリアミド、ポリオレフィンよりなる群から選ばれたいずれか一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用プラスチックフィラーネック。

【公開番号】特開2009−68009(P2009−68009A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231668(P2008−231668)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(508273670)コリア フューエル−テック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】