説明

自動車用内装部品並びにその製造方法

【課題】発泡樹脂基材とその裏面側に一体化される樹脂モールド体とからなる積層構造体を全体、あるいは一部に採用した自動車用内装部品並びにその製造方法において、樹脂リブの収縮歪みが原因となる外観不良を防止するとともに、軽量化、低コスト化を図る。
【解決手段】ドアトリム10は、ドアトリムアッパー(積層構造体)20と、ドアトリムロア(樹脂単体品)30とから構成されている。ドアトリムアッパー20は、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材21と、その内面側に一体化される樹脂モールド体22とから構成されている。そして、樹脂モールド体22は、樹脂リブ24、樹脂フランジ25とから構成され、少なくともその一部には、中空部26が形成された中空構造を採用することで、樹脂モールド体22の収縮歪みを中空部26により吸収して外観不良をなくすとともに、軽量化及び低コスト化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、トランクトリム、ラゲージトリム、ルーフトリム、リヤサイドトリム等の自動車用内装部品並びにその製造方法に係り、軽量でかつ外観意匠性、製品剛性を高めた自動車用内装部品並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用内装部品の構成について、ドアトリムを例示して図16,図17を基に説明する。ドアトリム1は、保形性及び車体パネルへの取付剛性を備え、製品面のほぼ全体にいきわたっている樹脂芯材2の表面に、表面外観に優れた表皮3を積層一体化して構成されている。上記樹脂芯材2としては、タルクを混入したポリプロピレン系樹脂を素材としており、また、表皮3は、それ自体保形性を備えておらず、塩ビシート等の合成樹脂シートの裏面にポリエチレンフォーム等のクッション材が積層された積層シート材料が使用され、最近では、環境面やリサイクル面を考慮して、サーモプラスチックオレフィン(以下TPOという)シート等のエラストマーシートの裏面にポリエチレンフォーム等のクッション材が積層された積層シート材料が多用される傾向にある。
【0003】
次に、上記ドアトリム1の成形方法における従来例について図18を基に説明する。まず、ドアトリム1を成形する成形金型4は、所定ストローク上下動可能な成形上型5と、成形上型5と対をなす固定側の成形下型6と、成形下型6と接続される射出機7とから大略構成されている。そして、成形上下型5,6を型締めした際、ドアトリム1の製品形状を形造るために成形上型5にはキャビティ部5aが形成され、成形下型6にはコア部6aが設けられている。上記成形上型5を所定ストローク上下動作させるために、昇降シリンダ5bが連結され、成形下型6には射出機7からの溶融樹脂Mの通路となるマニホールド6b、ゲート6cが設けられている。また、上下動作する成形上型5は、適正姿勢を維持させるために、成形下型6の4隅部にガイドポスト6dが設けられ、このガイドポスト6dに対応して成形上型5にはガイドブッシュ5cが設けられている。
【0004】
従って、成形上下型5,6が型開き状態にある時、表皮3を金型内にセットし、成形上下型5,6を型締めした後、両金型間の製品キャビティ内に射出機7からマニホールド6b、ゲート6cを通じて溶融樹脂Mを射出充填することにより、樹脂芯材2を所要の曲面形状に成形するとともに、樹脂芯材2の表面に表皮3を一体成形している(例えば、特許文献1参照。)。尚、図18では、説明の便宜上、コア部6aの型面にオープン状態で溶融樹脂Mが供給されているが、溶融樹脂Mは成形上下型5,6の型締め後にキャビティ内に射出充填されても良い。
【0005】
【特許文献1】特開平10−138268号公報 (第2頁、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のドアトリム1においては、樹脂芯材2の投影面積が大きいため、材料コストが高く、かつ製品が重量化するという問題点が指摘されている。また、樹脂芯材2の投影面積が大きいことから、成形時における射出圧を高く設定せざるを得ず、高い射出圧に耐え得る金型構造が必要となり、金型の作製費用も嵩み、しかも、大量の溶融樹脂を冷却固化させるため、成形サイクルが長期化し、生産性を低下させる大きな要因となっている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ドアトリム等の自動車用内装部品並びにその製造方法に係り、特に、軽量化を促進でき、コストダウンを図れ、かつ外観品質、並びに製品剛性を向上させた自動車用内装部品並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意研究の結果、従来から表皮として使用していた発泡樹脂シートに保形性を付与することで、芯材としての機能をもたせ、より以上に剛性が必要な箇所、すなわち製品の周縁部分やパネル、あるいは部品取付箇所並びに荷重がかかる部位には、剛性に優れた樹脂リブ等の樹脂モールド体を配置することで、従来の投影面積の広い樹脂芯材に比べ軽量で、かつコストが廉価な積層構造体を提供するとともに、この樹脂モールド体の少なくとも一部に中空構造を採用することで、樹脂材料の低減化が達成できることに加えて、外観ヒケやリブ痕跡等が生じることがなく、外観性能を良好に維持できることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、所要形状に成形され、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材と、この発泡樹脂基材の裏面に一体化される樹脂モールド体とからなる積層構造体を全体、あるいは一部に採用してなる自動車用内装部品において、前記積層構造体における発泡樹脂基材は、加熱軟化処理された発泡樹脂シートが成形上下型間で絞り成形される一方、樹脂モールド体は、成形下型の溝部内に溶融樹脂を射出充填することにより、発泡樹脂基材の裏面に一体化されるとともに、溶融樹脂の射出充填時にガスを注入することで中空部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
ここで、自動車用内装部品の用途としては、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、トランクトリム、ラゲージトリム、ルーフトリム、リヤサイドトリム等に適用できる。また、自動車用内装部品の全体に本発明構造を適用することもできるとともに、自動車用内装部品の一部、例えば、上下二分割ドアトリムにおけるドアトリムアッパーだけに本発明構造を適用することもできる。
【0011】
更に、保形性を有する発泡樹脂基材は、発泡樹脂シートを加熱軟化処理した後、成形金型内で所望の曲面形状に成形することで、リブ等の補強材がなくても、成形後、型から脱型しても形状を保持する程度の剛性(保形性)を有している。また、製品形状が高展開率部分を含む場合には、発泡樹脂シートを加熱軟化処理した後、成形金型に真空吸引機構を配設して成形金型の内面に沿って発泡樹脂シートに真空吸引力を作用させるようにしても良い。
【0012】
上記発泡樹脂シートとしては、熱可塑性樹脂に発泡剤を添加した素材を使用する。尚、熱可塑性樹脂は、1種類の熱可塑性樹脂でも2種類以上の熱可塑性樹脂からなっても良い。好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等が使用できる。また、発泡剤としては、アゾ化合物、スルホヒドラジド化合物、ニトロソ化合物、アジド化合物等の有機発泡剤、あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤の使用が可能である。上記発泡樹脂シートを加熱軟化処理後、所要形状に成形して得た発泡樹脂基材は、製品の重量と強度とのバランスを考慮した場合、2〜10倍の発泡倍率が好ましい。その時の発泡樹脂基材のセル径は、0.1μm〜2.0mmの範囲であることが好ましく、厚みは0.5〜30mm、好ましくは1〜10mmのものが良い。
【0013】
そして、外観意匠性を高めるために、発泡樹脂基材の表面に加飾材が積層一体化されていても良い。この加飾材としては、材料は限定しないが、表面外観を高めるトップ層と、クッション性能を付与するクッション層の二層構造の積層シート材料とから構成され、トップ層としては、TPOシート、サーモプラスチックウレタン(TPU)シート、塩ビシート等の合成樹脂シート、あるいは織布、不織布、編布等の布地シート等を使用することができ、クッション層としては、ポリプロピレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム等を使用することができる。
【0014】
一方、樹脂モールド体として使用する熱可塑性樹脂材料は、広範な熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。通常好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等が使用できる。また、これら熱可塑性樹脂中に各種充填剤を混入しても良い。使用できる充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、タルク、クレイ、シリカ、炭酸カルシウム等の無機粒子などがある。また、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、低収縮剤等の各種の添加剤が配合されても良い。
【0015】
上記樹脂モールド体としては、発泡樹脂基材の裏面に所定パターン形状、例えば、縦横方向、斜め方向に延びる格子状のパターン形状に配設され、投影面積が低減化された樹脂リブや、製品の外周縁に沿って延びる樹脂フランジ、また、樹脂リブの一部に一体化されるクリップ座やパネル当てボス等が該当する。そして、このうち、樹脂リブや樹脂フランジに中空部が設けられている。この中空部としては、樹脂モールド体を射出成形する際、ガスインジェクション工法を採用することで簡単に中空部を形成することができる。
【0016】
そして、本発明に係る自動車用内装部品によれば、保形性を有する発泡樹脂基材の裏面側に剛性を補強する意味で樹脂モールド体が一体化されるという構成であるため、従来の樹脂芯材を廃止することができる。従って、従来の投影面積の非常に広い樹脂芯材を廃止することで、製品の軽量化を図ることができ、しかも、樹脂材料を節約できることから、材料コストの低減化も同時に達成できる。尚、発泡樹脂基材の多孔質吸音機能により、吸音性能に優れた内装部品が得られるとともに、発泡樹脂基材及び樹脂モールド体の素材として、ポリオレフィン系樹脂を使用した場合、オールオレフィン系樹脂に統一されるため、分離工程が廃止でき、リサイクル作業を簡素化できる。
【0017】
更に、樹脂モールド体は、少なくともその一部に中空構造が採用されているため、剛性が強化されているとともに、樹脂量を低減でき、軽量化が図れ、かつ材料コストを低減できる。特に、樹脂モールド体の収縮歪みの影響を中空部で吸収できるため、外観ヒケやリブ痕跡等の外観不良が生じることがない。
【0018】
次いで、本発明に係る自動車用内装部品の製造方法は、所要形状に成形され、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材と、この発泡樹脂基材の裏面に一体化される樹脂モールド体とからなる積層構造体を全体、あるいは一部に採用してなる自動車用内装部品の製造方法において、前記積層構造体の製造方法は、加熱軟化処理された発泡樹脂シートを型開き状態にある成形上下型内にセットする発泡樹脂シートのセット工程と、成形上下型を型締めすることにより、成形上下型間で形成されるキャビティ形状に沿って発泡樹脂基材を所要形状に絞り成形する発泡樹脂基材の成形工程と、成形上下型を型締めするとともに、射出機から溶融樹脂を成形下型の溝部内に射出充填し、その後、スピルイン機構部から溝部内にガスを注入し、スピルアウト機構部から余剰樹脂を外部に排出することで中空部を備えた樹脂モールド体を発泡樹脂基材の裏面所定部分に一体化する樹脂モールド体の成形工程とからなることを特徴とする。
【0019】
ここで、自動車用内装部品の製造方法に使用する成形金型は、上下動可能な成形上型と、成形上型の下方側に位置する固定側である成形下型と、成形下型に連設される射出機とから構成され、射出機から供給される溶融樹脂は、成形下型に設けられたマニホールド、ゲート等の樹脂通路を通じて成形下型の型面に穿設加工されている溝部内に供給される。
【0020】
更に、本発明に係る成形金型は、ガスインジェクション工法を採用しているため、溝部の一方端にはスピルイン機構部、他方端にはスピルアウト機構部がそれぞれ設けられている。スピルイン機構部としては、エアブロー機構と接続するガス注入部が設けられ、スピルアウト機構部としては、余剰樹脂を外部に排出して貯留するスピルアウト用ゲート、スピルアウト樹脂貯留部がそれぞれ金型内に設けられている。尚、所望ならば成形上型に真空吸引機構が付設されていても良く、発泡樹脂基材の絞り成形時、成形上型から真空吸引力を作用させることで、製品形状の保形性を高めるとともに、絞模様等の転写に有利である。
【0021】
従って、本発明方法によれば、従来の投影面積の広い樹脂芯材に比べ、樹脂リブや樹脂フランジ等の樹脂モールド体だけを成形すれば良いため、射出圧力を従来に比べて低く設定することができ、成形上型の負荷が少なくて済むとともに、材料費を節約でき、従来の樹脂芯材に比べ、冷却時間も少ないため、成形サイクルを短縮化できる。
【0022】
更に、本発明方法によれば、発泡樹脂基材の裏面側に一体化する樹脂モールド体の少なくとも一部には、中空部が形成された中空構造が採用されていることで、軽量化や剛性を強化できるとともに、樹脂リブ、樹脂フランジ等の収縮歪みを中空部により吸収できるため、外観ヒケやリブ痕跡等が生じることがなく、外観性能を著しく高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した通り、本発明に係る自動車用内装部品並びにその製造方法によれば、自動車用内装部品の全体、あるいは一部を構成する積層構造体は、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材と、この発泡樹脂基材の裏面に一体化される樹脂モールド体とから構成されているため、従来の重量の嵩む樹脂芯材を廃止できることから、軽量で低コスト、しかも多孔質素材であるため、吸音性能にも優れた自動車用内装部品を提供できる。また、樹脂モールド体の一部に中空構造が採用されているため、軽量化並びに低コスト化をより一層促進させることができるという効果を有する。
【0024】
更に、本発明に係る自動車用内装部品並びにその製造方法によれば、成形上下型の型締めにより発泡樹脂シートを絞り成形して、発泡樹脂基材を成形するとともに、発泡樹脂基材を成形した後、発泡樹脂基材の裏面側に溶融樹脂を所定パターン形状に射出充填し、同時にガスを注入することで、樹脂モールド体に簡単に中空部を形成するというものであるから、樹脂モールド体成形時における収縮歪みを中空部により吸収することができ、発泡樹脂基材やその表面の加飾材に収縮歪みの影響が加わることがなく、製品表面の外観性能を良好に維持することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る自動車用内装部品並びにその製造方法の好適な実施例について、自動車用ドアトリム並びにその製造方法を例示して詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0026】
図1乃至図15は本発明の一実施例を示すもので、図1はツートンタイプの自動車用ドアトリムを示す正面図、図2は同自動車用ドアトリムを示す断面図、図3は同自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの樹脂モールド体を示す正面図、図4は同自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの要部構成を示す断面図である。また、図5乃至図7は本発明方法に使用する成形金型を示すもので、ドアトリムアッパーを成形する成形金型であり、図5は成形金型の全体構成を示す側面図、図6,図7は同成形金型におけるスピルイン機構部、及びスピルアウト機構部をそれぞれ示す説明図である。更に、図8乃至図12は本発明方法の各工程を示す説明図、図13乃至図15は本発明に係る自動車用内装部品の変形例を示す各説明図である。
【0027】
まず、図1乃至図4に基づいて、本発明に係る自動車用内装部品の構成を適用したツートンタイプの自動車用ドアトリム10の構成について説明する。ツートンタイプの自動車用ドアトリム10は、積層構造体からなるドアトリムアッパー20と、樹脂単体品からなるドアトリムロア30との上下二分割体から構成されている。そして、ドアトリム10に装着される機能部品としては、ドアトリムアッパー20にインサイドハンドルエスカッション11、パワーウインドウスイッチエスカッション12が取り付けられている。更に、ドアトリムロア30には、ドアポケット用開口13が開設され、その背面側には、図2に示すように、ポケットバックカバー(樹脂成形体から構成されている)14が取り付けられており、ドアトリムロア30のフロント側にスピーカグリル15がドアトリムロア30と一体、あるいは別体に設けられている。
【0028】
ところで、本発明に係る自動車用ドアトリム10は、積層構造体からなるドアトリムアッパー20の構造に特徴があり、製品の軽量化が図られているとともに、良好な表面外観と強固な製品剛性が確保されている。すなわち、ドアトリムアッパー20は、図2に示すように、所望の曲面形状に成形され、保形性を有する発泡樹脂基材21と、この発泡樹脂基材21の裏面側に一体化される樹脂モールド体22と、発泡樹脂基材21の表面側に積層一体化される加飾機能をもつ加飾材23とから大略構成されている。尚、加飾材23は、TPOシートからなるトップ層23aの裏面にポリプロピレンフォームからなるクッション層23bがラミネートされた積層シート材料が使用されている。
【0029】
上記発泡樹脂基材21は、保形性を備えるように、発泡樹脂シートを加熱軟化処理後、所要形状に熱成形、例えば、所望の型面を有する成形金型でコールドプレス成形して、形状が付与される。上記発泡樹脂シートは、汎用の熱可塑性樹脂に発泡剤を添加した構成であり、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等が使用でき、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤や重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤が使用できる。この実施形態では、ポリプロピレン系樹脂に発泡剤として重炭酸ナトリウムを適宜添加した発泡樹脂シートを使用している。また、この発泡樹脂基材21の発泡倍率は、2〜10倍に設定され、厚みは0.5〜30mm、特に好ましくは1〜10mmの範囲に設定されている。
【0030】
次いで、樹脂モールド体22は、発泡樹脂基材21の裏面全面に亘り所定パターン形状に肉抜きされた樹脂リブ24、あるいは発泡樹脂基材21の周縁の全長、あるいは一部に沿って設けられる樹脂フランジ25等であり、更に図示はしないが、樹脂リブ24の交差部に設けられるパネル当てボスや、クリップ取付座等がある。この樹脂モールド体22の素材としては、ガラス繊維、天然繊維等の強化繊維を添加した汎用の合成樹脂成形体からなり、通常好ましく使用できる合成樹脂として、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等から適宜選択されて良く、本実施形態では、環境面、リサイクル面を考慮してポリプロピレン系樹脂が使用されている。
【0031】
このように、図1乃至図3に示すドアトリム10は、積層構造体からなるドアトリムアッパー20と、合成樹脂単体品であるドアトリムロア30とから構成され、外観上のアクセント効果により、優れた外観意匠性を備えている。更にドアトリムアッパー20は、保形性を有する発泡樹脂基材21と、発泡樹脂基材21の裏面に積層一体化される樹脂モールド体22とから構成されているため、従来のように製品の全面に亘り占有していた樹脂芯材を廃止でき、かつ軽量な発泡樹脂基材21を使用する一方、樹脂モールド体22における樹脂リブ24は骨状であり、荷重が加わる部位、例えば、クリップ取付座、ウエストフランジ、アームレスト部上面等を除いた部位は、肉抜き構造となっている関係で、製品の重量について、従来例に比し40%以上の軽量化を図ることができるとともに、樹脂材料も大幅に節約でき、コストダウンにも貢献できる。更に、発泡樹脂基材21は、多孔質構造であるため、ドアトリムアッパー20は、吸音性能に優れ、車室内外の騒音を低減することができる。
【0032】
次に、図4はドアトリムアッパー20の要部構成を示す断面図であり、上述したように、ドアトリムアッパー20は、軽量でかつ保形性を備え、所要形状に成形された発泡樹脂基材21の裏面に樹脂モールド体22が一体化され、かつ発泡樹脂基材21の表面には、クッション性を有する加飾材23がラミネートされている。そして、本発明におけるドアトリムアッパー20においては、上記樹脂モールド体22の一部を構成する樹脂リブ24には中空部26が形成されている。この中空部26の形成方法は、後述するが、樹脂リブ24の射出成形時にガスを注入することで簡単に形成することができる。従って、中空部26を形成することで、樹脂リブ24を更に軽量化できるとともに、材料費も節約できる等、コスト的な利点を備える一方、樹脂リブ24の成形後、収縮歪みが生じても、これら収縮歪みが中空部26で吸収できるため、加飾材23の表面に外観ヒケやリブ痕跡等の不良が生じることがなく、外観性能を良好に維持することができる。尚、ドアトリム10を構成するドアトリムアッパー20とドアトリムロア30の接合については、例えば、ドアトリムロア30の上縁に沿ってその裏面側から取付用ボスを立設し、ドアトリムアッパー20の対応する取付孔内に取付用ボスを挿入した後、カシメ加工することで、簡単に両者を一体化することができる。
【0033】
次いで、図5乃至図7に基づいて、ドアトリム10におけるドアトリムアッパー20の成形方法に使用する成形金型40の構成について説明する。図5において、ドアトリムアッパー20の成形に使用する成形金型40は、所定ストローク上下動可能な成形上型41と、成形上型41と対をなす固定側の成形下型42と、成形下型42に接続される射出機43とから大略構成されている。更に詳しくは、成形上型41は、製品形状に合致したキャビティ部411が形成されており、成形上型41の上面に連結された昇降シリンダ412により所定ストローク上下駆動される。また、成形上型41の4隅部には、ガイドブッシュ413が設けられている。
【0034】
一方、成形下型42には、成形上型41のキャビティ部411に対応するコア部421が設けられている。また、このコア部421の型面に溶融樹脂を供給するためにマニホールド422、ゲート423が設けられており、このマニホールド422、ゲート423の樹脂通路を経て、射出機43から供給される溶融樹脂Mがコア部421の上面に供給される。尚、樹脂リブ24、あるいは樹脂フランジ25を形成するために、コア部421上面に溝部424が穿設されている。
【0035】
また、成形下型42の4隅部には、ガイド機構となるガイドポスト425が突設され、このガイドポスト425は、成形上下型41,42が型締めされる際、成形上型41のガイドブッシュ413内に案内され、成形上型41のプレス姿勢を適正に維持できる。更に、図6,図7に示すように、樹脂モールド体22の一部を構成する樹脂リブ24に中空部26を形成するために、樹脂リブ24を形成する成形下型42の溝部424の一方端側にスピルイン機構部44が配設されるとともに、他方端側にスピルアウト機構部45が配設されている。スピルイン機構部44は、ブロワ441と接続される供給配管442がスリットピン443に延びており、このスリットピン443がガス注入部として機能し、ガスが溶融樹脂M内部に供給される。一方、スピルアウト機構部45は、スピルアウト樹脂SAを外部に排出して貯留するスピルアウト樹脂用ゲート451、スピルアウト樹脂貯留部452が設定されている。尚、スピルアウト樹脂貯留部452は、通常、製品キャビティ外に配置される。
【0036】
次いで、ドアトリムアッパー20の成形方法について、図8乃至図12を基に簡単に説明する。まず、図8に示すように、ヒーター装置50により発泡樹脂シートSの一方面に加飾材23をラミネートしたものを所定温度に加熱軟化させる。この実施形態では、発泡樹脂シートSとして、ポリプロピレン製発泡シート(住化プラステック製、商品名:スミセラー発泡PPシート、発泡倍率=3倍、厚み3mm)が使用されている。
【0037】
そして、図9に示すように、加熱軟化処理した発泡樹脂シートS(加飾材23をラミネートしている)を成形上型41のキャビティ部411と成形下型42のコア部421で画成されるキャビティにセットする。尚、所望により、発泡樹脂シートSと加飾材23とを成形金型40内に別々にセットするようにしても良い。そして、発泡樹脂シートSをセットした後、成形上型41の昇降シリンダ412が動作して、成形上型41が所定ストローク下降して、成形上下型41,42が型締めされて発泡樹脂シートSが所望の型面形状に沿って賦形される一次加圧処理が行なわれ、発泡樹脂基材21が所要形状に成形される(図10参照)。尚、この発泡樹脂基材21の成形工程において、図示はしないが、成形下型42側から冷却用エアを吹き付けて強制冷却をしてサイクルを速めるようにしても良い。
【0038】
次いで、図11に示すように、成形上下型41,42で発泡樹脂基材21を絞り成形すると同時、あるいは絞り成形した後、成形下型42の溝部424内に射出機43から溶融樹脂Mを射出充填するが、この溶融樹脂Mとしては、住友ノーブレンBUE81E6(住友化学工業製ポリプロピレン、メルトインデックス=80g/10分)を使用している。尚、溶融樹脂Mには、タルクが適宜割り合いで混入されているが、他のフィラーを使用しても、また、フィラーなしで使用することもできる。
【0039】
そして、図12に示すように、本発明方法においては、溝部424内に溶融樹脂Mを射出充填すると同時にスピルイン機構部44からガスを注入して、スピルアウト樹脂SAをスピルアウト機構部45を通じて外部に排出することで、樹脂リブ24に簡単に中空部26を形成することができる。従って、スピルイン機構部44、及びスピルアウト機構部45を成形金型40に配設するだけで簡単に樹脂リブ24に中空部26を形成することができ、中空部26を形成することにより、樹脂リブ24成形時における収縮歪みを中空部26で吸収して、外観表面にヒケやリブ痕跡等が生じることがなく、平滑面を強調できるとともに、剛性アップ及び軽量化にも貢献できる。
【0040】
図13は、樹脂モールド体22の一部をなす樹脂フランジ25に中空部26を形成した変形例を示すもので、この場合においても、成形下型42の溝部424の一方端に図示はしないがスピルイン機構部44が、他方端にスピルアウト機構部45がそれぞれ配設され、溝部424内に溶融樹脂Mが射出充填されると同時にガスインジェクション工法によりガスが内部に注入されて樹脂フランジ25に中空部26を簡単に形成することができる。そして、このことにより、ドアインナーシール16を支持する樹脂フランジ25の強度アップが図れ、コストの低減化が達成できるとともに、ウエスト部表面の外観意匠性を高めることができる。
【0041】
以上説明した実施例は、ドアトリムアッパー20とドアトリムロア30とからなる上下二分割タイプのドアトリム10に適用した実施例であるが、図14,図15に示すように、一体型の自動車用ドアトリム100に適用することができる。この一体型の自動車用ドアトリム100は、所望の曲面形状に成形され、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材21と、この発泡樹脂基材21の裏面に所定パターン形状に成形されて一体化される樹脂モールド体22と、発泡樹脂基材21の表面全面にラミネートされる加飾材23とから構成されており、上述実施例同様、樹脂モールド体22としては、樹脂リブ24や樹脂フランジ25からなり、この変形例においては、ポケット用開口13の周縁に沿う樹脂リブ24に中空部26が形成されている。このように、中空部26の設定箇所は、製品に要求される機能に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明した実施例は、ツートンタイプの自動車用ドアトリム10におけるドアトリムアッパー20、あるいは一体型の自動車用ドアトリム100に本発明構造並びに本発明方法を適用したが、ドアトリム10,100以外の内装部品、例えば、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、トランクトリム、ラゲージトリム、ルーフトリム、リヤサイドトリム等、内装トリム全般に本発明構造及び本発明方法を適用することができる。また、実施例においては、発泡樹脂基材21の表面に加飾材23をラミネートした積層体を使用したが、発泡樹脂基材21の表面に印刷加工、塗装加工を施す廉価構成タイプの内装部品に本発明構造を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る自動車用内装部品をツートンタイプの自動車用ドアトリムに適用した実施例を示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】図1に示す自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの発泡樹脂基材を取り除いた後の樹脂モールド体とドアトリムロアとを示す正面図である。
【図4】図1に示す自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの要部構成を示す断面図である。
【図5】図1に示すドアトリムにおけるドアトリムアッパーの成形に使用する成形金型の構成を示す全体図である。
【図6】図5に示す成形金型におけるスピルイン機構部並びにスピルアウト機構部を示す説明図である。
【図7】図5に示す成形金型におけるスピルイン機構部とスピルアウト機構部の配置関係を示す断面図である。
【図8】図1に示すドアトリムにおけるドアトリムアッパーの成形方法における発泡樹脂シートの予熱工程を示す説明図である。
【図9】図1に示すドアトリムにおけるドアトリムアッパーの成形方法における発泡樹脂シートのセット工程を示す説明図である。
【図10】図1に示すドアトリムにおけるドアトリムアッパーの成形方法における発泡樹脂基材の成形工程を示す説明図である。
【図11】図1に示すドアトリムにおけるドアトリムアッパーの成形方法における溶融樹脂の射出充填工程を示す説明図である。
【図12】図1に示すドアトリムにおけるドアトリムアッパーの成形方法におけるガス注入工程を示す説明図である。
【図13】図1に示すドアトリムの変形例を示す断面図である。
【図14】本発明に係る自動車用内装部品を適用する一体型の自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図15】図14中XV-XV線断面図である。
【図16】従来の自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図17】図16中XVII−XVII線断面図である。
【図18】従来のドアトリムを成形する際に使用する成形金型の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
10 ツートンタイプの自動車用ドアトリム
100 一体型の自動車用ドアトリム
11 インサイドハンドルエスカッション
12 パワーウインドウスイッチエスカッション
13 ポケット用開口
14 ポケットバックカバー
15 スピーカグリル
16 ドアインナーシール
20 ドアトリムアッパー(積層構造体)
21 発泡樹脂基材
22 樹脂モールド体
23 加飾材
24 樹脂リブ
25 樹脂フランジ
26 中空部
30 ドアトリムロア
40 成形金型
41 成形上型
42 成形下型
424 溝部
43 射出機
44 スピルイン機構部
45 スピルアウト機構部
50 ヒーター装置
S 発泡樹脂シート
M 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要形状に成形され、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材(21)と、この発泡樹脂基材(21)の裏面に一体化される樹脂モールド体(22)とからなる積層構造体(20)を全体、あるいは一部に採用してなる自動車用内装部品(10)において、
前記積層構造体(20)における発泡樹脂基材(21)は、加熱軟化処理された発泡樹脂シート(S)が成形上下型(41,42)間で絞り成形される一方、樹脂モールド体(22)は、成形下型(42)の溝部(424)内に溶融樹脂(M)を射出充填することにより、発泡樹脂基材(21)の裏面に一体化されるとともに、溶融樹脂(M)の射出充填時にガスを注入することで中空部(26)が形成されていることを特徴とする自動車用内装部品。
【請求項2】
所要形状に成形され、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材(21)と、この発泡樹脂基材(21)の裏面に一体化される樹脂モールド体(22)とからなる積層構造体(20)を全体、あるいは一部に採用してなる自動車用内装部品(10)の製造方法において、
前記積層構造体(20)の製造方法は、加熱軟化処理された発泡樹脂シート(S)を型開き状態にある成形上下型(41,42)内にセットする発泡樹脂シート(S)のセット工程と、
成形上下型(41,42)を型締めすることにより、成形上下型(41,42)間で形成されるキャビティ形状に沿って発泡樹脂基材(21)を所要形状に絞り成形する発泡樹脂基材(21)の成形工程と、
成形上下型(41,42)を型締めするとともに、射出機(43)から溶融樹脂(M)を成形下型(42)の溝部(424)内に射出充填し、その後、スピルイン機構部(44)から溝部(424)内にガスを注入し、スピルアウト機構部(45)から余剰樹脂(SA)を外部に排出することで中空部(26)を備えた樹脂モールド体(22)を発泡樹脂基材(21)の裏面所定部分に一体化する樹脂モールド体(22)の成形工程と、
からなることを特徴とする自動車用内装部品の製造方法。
【請求項3】
所要形状に成形され、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材(21)と、この発泡樹脂基材(21)の裏面に一体化される樹脂モールド体(22)とからなる積層構造体(20)を成形する成形金型(40)であって、
前記成形金型(40)は、相互に型締め、型開き可能な成形上型(41)、並びに成形下型(42)と、成形下型(42)に連結され、樹脂モールド体(22)の素材である溶融樹脂(M)を供給する射出機(43)とから構成され、成形下型(42)の型面には、樹脂モールド体(22)用の溶融樹脂(M)を射出充填する溝部(424)が形成され、溝部(424)の一方端にスピルイン機構部(44)、他方端にスピルアウト機構部(45)がそれぞれ配設されていることを特徴とする積層構造体の成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−155574(P2008−155574A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349636(P2006−349636)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】