説明

自動車用樹脂外装部品

【課題】寸法安定性(低そり性)、機械的強度、耐熱性、耐衝撃性、低比重、優れた表面外観性等を有する自動車用樹脂外装部品を提供する。
【解決手段】ガラス長繊維強化ポリカーボネート樹脂/スチレン系樹脂からなる成形体であって、成形体中のガラス繊維の含有量が25〜50重量%、重量平均繊維長が0.5〜2.0mmであり、塗装・メッキ及び蒸着を施すすべての面の中心線平均粗さ(Ra)が0.8μm以下、30〜80℃における最大の線膨張係数が5×10-5以下であることを特徴とする、射出成形により成形された投影面積が200cm2以上の塗装・メッキ及び蒸着が可能な自動車用樹脂外装部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性、塗装性等に優れた自動車用樹脂外装部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用外装部品には金属性の構造部品に金属製の外装パネルを取り付ける構造が用いられていた。しかしながら、近年は自動車の燃費向上、走行性能向上等を目的として、各種自動車部品の軽量化が求められる傾向にあり、外装パネルや、それを支える構造体においても樹脂が用いられるようになってきた。
樹脂製の自動車用外装部品は、比較的大型部品であり、寸法安定性(低そり性)、機械的強度、耐熱性、耐衝撃性、低比重、優れた表面外観性等が要求される。
従来、樹脂製の自動車用外装部品としては、炭素繊維強化ポリアミド組成物(特許文献1)や、ポリブチレンテレフタレート等の繊維強化ポリエステル樹脂組成物(特許文献2)を用いることが提案されており、配合する繊維の量や繊維長等を検討することにより、上記要求性能を満足させることが試みられているが、その効果は十分とは言えなかった。
【特許文献1】特開2002−226703号公報
【特許文献2】特開2006−82275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、寸法安定性(低そり性)、機械的強度、耐熱性、耐衝撃性、低比重、優れた表面外観性等を有する自動車用樹脂外装部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、樹脂としてポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのアロイを選択し、且つ成形体中のガラス繊維の含有量及び重量平均繊維長を規制することにより、上記優れた性能を示す自動車用樹脂外装部品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、ガラス長繊維強化ポリカーボネート樹脂/スチレン系樹脂からなる成形体であって、成形体中のガラス繊維の含有量が25〜50重量%、重量平均繊維長が0.5〜2.0mmであり、塗装・メッキ及び蒸着を施すすべての面の中心線平均粗さ(Ra)が0.8μm以下、30〜80℃における最大の線膨張係数が5×10-5以下であることを特徴とする、射出成形により成形された投影面積が200cm2以上の塗装・メッキ及び蒸着が可能な自動車用樹脂外装部品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の自動車用樹脂外装部品は、樹脂としてポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのアロイを選択し、且つ成形体中のガラス繊維の含有量及び重量平均繊維長を規制することにより、機械的強度、耐熱性、耐衝撃性、低比重に優れ、特に寸法安定性(低そり性)、塗装性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の自動車用樹脂外装部品は、寸法安定性が問題となり易い大型部品に適しており、具体的には投影面積が200cm2以上の成形体が対象となる。
さらに、本発明の自動車用樹脂外装部品は、後記するガラス繊維、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂からなる組成物から形成される成形体であって、成形体中のガラス繊維の含有量が25〜50重量%、重量平均繊維長が0.5〜2.0mmであることが必要である。
成形体中のガラス繊維の含有量が25重量%未満の場合、又は、重量平均繊維長が0.5mm未満の場合、曲げ弾性率・曲げ強度をはじめとした機械的強度や寸法安定性が低下するので好ましくない。また、上記強化繊維の含有率が50重量%を超える場合、又は、重量平均繊維長が2.0mmを超える場合は、成形性が低下するので好ましくない。
成形体中のガラス繊維の好ましい含有量は25〜45重量%であり、より好ましくは25〜40重量%である。また、成形体中のガラス繊維の好ましい重量平均繊維長は0.7〜2.0mmであり、より好ましくは1.0〜1.5mmである。
また、本発明の自動車用樹脂外装部品では、塗装・メッキ及び蒸着を施すすべての面の中心線平均粗さ(Ra)が0.8μm以下、好ましくは0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下であることが、優れた塗装性を得る上で必要である。
更に、本発明の自動車用樹脂外装部品では、30〜80℃における最大の線膨張係数が5×10-5以下、好ましくは4×10-5以下、より好ましくは3.5×10-5以下であることが必要である。
更に、本発明の自動車用樹脂外装部品は、面衝撃に優れていることが要求され、これを数値で示すと、成形体の肉厚2.5mm以上の面衝撃が5.0(J)以上、好ましくは6.0(J)以上、より好ましくは7.0(J)以上であることが望ましい。
以下、本発明の自動車用樹脂外装部品に用いられる樹脂組成物について説明する。
【0008】
本発明において、ガラス繊維は、直径が0.1〜50μm、好ましくは5〜30μm、さらに好ましくは7〜20μmである。本発明において、成形用のペレットに含まれるガラス繊維は、ペレット長さにもよるが、ペレット長よりも長くなることはなく、平均長さが0.1〜100mm、好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは3〜30mmである。
【0009】
ガラス繊維の種類としては、E−ガラス、S−ガラス、C−ガラス、AR−ガラス、T−ガラス、D−ガラス及びR−ガラス等の市販品が挙げられる。繊維強化熱可塑性樹脂のペレットを製造する場合には、ガラス繊維は、通常、複数のフィラメントを集めた束を、コイル状に巻きとった、いわゆるガラスロービングの形態をしたもの、ガラスロービングを所望の長さにカッティングした、チョップドストランドタイプのものとして利用できる。ガラス繊維径は、3〜40μmのものが適している。3μm未満では、ガラス含有量が多い場合、相対的にガラス繊維数が増すため樹脂の含浸が困難となり、40μmを超えると成形品の表面外観が著しく悪化する。最適なガラス繊維径は9〜20μmである。
【0010】
ガラス繊維はカップリング剤を含む表面処理剤で表面処理されていてもよい。カップリング剤としてはアミノシラン、エポキシシラン、アミドシラン、アジドシラン、アクリルシランのようなシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤及びこれらの混合物が利用できる。これらの内、アミノシランとエポキシシランが好ましく、特にエポキシシランカップリング剤が好ましい。複数のフィラメントを集めて束にするために使用するバインダーの種類も、特に限定されず、従来公知のものも含めて適切なものが使用できる。
【0011】
本発明のガラス長繊維強化樹脂は、強化用連続繊維を引きながら熱可塑性樹脂を繊維に含浸させる引き抜き成形法により得られる。例えば、上記熱可塑性樹脂に必要に応じて樹脂添加剤を加えて、連続繊維をクロスヘッドダイを通して引きながら、熱可塑性樹脂を押出機から溶融状態でクロスヘッドダイに供給して強化用連続繊維に、熱可塑性樹脂を含浸させ、溶融含浸物を加熱し、冷却後、引き抜き方向と直角に切断して得られるので、該ペレットの長さ方向に強化繊維が同一長さで平行配列している。引き抜き成形は、基本的には連続した強化用繊維束を引きながら樹脂を含浸するものであり、上記クロスヘッドの中を繊維束を通しながら押出機等からクロスヘッドに樹脂を供給し含浸する方法の他に、樹脂のエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸浴の中を繊維束を通し含浸する方法、樹脂の粉末を繊維束に吹きつけるか粉末を入れた槽の中を繊維束を通し繊維に樹脂粉末を付着させたのち樹脂を溶融し含浸する方法等が知られており、本発明ではいずれも利用できる。特に好ましいのはクロスヘッド方法である。また、これらの引き抜き成形における樹脂の含浸操作は1段で行うのが一般的であるが、これを2段以上に分けてもよく、さらに含浸方法を異にして行ってもかまわない。
【0012】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(PC)には、ポリカーボネート樹脂の他に、ポリエステルカーボネート系樹脂も含まれる。ポリカーボネート系樹脂は、通常、ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン法)、ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとの反応(エステル交換法)により得られる。ジヒドロキシ化合物は、脂環族化合物などであってもよいが、好ましくはビスフェノール化合物である。
【0013】
ビスフェノール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1-8 アルカン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4-12シクロアルカン;4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなどが挙げられる。これらのビスフェノール化合物は、一種又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0014】
好ましいポリカーボネート系樹脂は、芳香族ポリカーボネートであり、特にビスフェノール型芳香族ポリカーボネート(ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート)が好ましい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(PC)の粘度平均分子量は、13000〜20000、好ましくは14000〜19000、より好ましくは15000〜18000である。尚、本願で言う粘度平均分子量とは、後記する実施例の方法により測定した値である。
【0015】
スチレン系樹脂(SR)としては、少なくとも芳香族ビニル系単量体(又はスチレン系単量体)を重合成分とする樹脂(又は重合体)が挙げられる。
【0016】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンなど)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレンなど)などが挙げられる。これらの芳香族ビニル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの芳香族ビニル単量体のうち、通常、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン(特にスチレン)などのスチレン系単量体が使用される。
【0017】
スチレン系樹脂は、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体(共重合性単量体)との共重合体であってもよい。共重合性単量体(ビニル系単量体)には、シアン化ビニル系単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物、イミド系単量体などが含まれる。その他、ビニル系単量体は、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル系単量体であってもよいが、溶着性の点から、非ハロゲン系単量体が好ましい。
【0018】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。これらのシアン化ビニル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのシアン化ビニル系単量体のうち、通常、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリロニトリルが使用される。
本発明では、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体との重量比率が90/10〜60/40、好ましくは85/15〜65/35、より好ましくは85/15〜70/30の共重合体を用いるのが好ましい。
特に、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを主成分として含む単量体成分を重合してなるグラフト共重合体は好ましいものである。
【0019】
スチレン系樹脂(後述のゴム含有スチレン系樹脂では、ゴムを除くマトリックス樹脂としてのスチレン系樹脂)の重量平均分子量は、例えば、10,000〜1,000,000、好ましくは30,000〜500,000、さらに好ましくは50,000〜500,000程度であってもよい。
【0020】
また、スチレン系樹脂は、樹脂組成物に耐衝撃性などの優れた特性を付与するという観点から、ゴム成分を含む樹脂(ゴム含有スチレン系樹脂)であってもよい。ゴム含有スチレン系樹脂は、スチレン系樹脂とゴム成分(又はゴム状重合体)との混合(又はブレンド)、共重合(グラフト重合、ブロック重合など)などにより、スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中にゴム状重合体(ゴム成分)が粒子状に分散した重合体であってもよい。ゴム含有スチレン系樹脂は、通常、ゴム状重合体の存在下、少なくとも芳香族ビニル単量体を、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)で重合することにより得られるグラフト共重合体(ゴムグラフトスチレン系重合体)である。なお、後述するように、本発明では、ゴム含有スチレン系樹脂として、塊状重合法で得られた樹脂を好適に用いることができる。
【0021】
ゴム状重合体としては、例えば、ジエン系ゴム[ポリブタジエン(低シス型又は高シス型ポリブタジエン)、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソブチレン−ブタジエン系共重合ゴムなど]、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム(ポリアクリル酸C2−8アルキルエステルを主成分とする共重合エラストマーなど)、エチレン−α−オレフィン系共重合体[エチレン−プロピレンゴム(EPR)など]、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体[エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、水添ジエン系ゴム(水素化スチレン−ブタジエン共重合体、水素化ブタジエン系重合体など)などが挙げられる。なお、これらのゴム状重合体において、共重合体はランダム又はブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体等が含まれる。これらのゴム状重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
好ましいゴム成分は、共役1,3−ジエン又はその誘導体の重合体、特にポリブタジエン(ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴムである。
【0023】
ゴム含有スチレン系樹脂において、ゴム成分の含有量は、スチレン系樹脂全体に対して0〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは10〜25重量%程度である。
【0024】
スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中に分散するゴム状重合体の形態は、特に限定されず、サラミ構造、コア/シェル構造、オニオン構造などであってもよい。
【0025】
分散相を構成するゴム状重合体の粒子径は、例えば、重量平均粒子径230〜3000nm、好ましくは240〜2000nm、さらに好ましくは240〜1500nm程度の範囲から選択できる。また、ゴム状重合体のグラフト率は、5〜150%、好ましくは10〜150%程度である。
【0026】
なお、スチレン系樹脂は、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)を用いて得られる。例えば、ゴム非含有スチレン系樹脂は、芳香族ビニル系単量体(および必要に応じてシアン化ビニル系単量体、アクリル系単量体などの共重合性単量体)を慣用の方法(塊状重合、懸濁重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)で重合することにより得ることができる。また、ゴム含有スチレン系樹脂は、通常、ゴム状重合体の存在下、少なくとも芳香族ビニル単量体を、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)で重合することにより得られる。
【0027】
代表的なスチレン系樹脂としては、例えば、ゴム成分を含有しないスチレン系樹脂(ゴム非含有スチレン系樹脂){例えば、ポリスチレン(GPPS)、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体及び/又はアクリル系単量体との共重合体[例えば、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体など]、芳香族ビニル系単量体と無水不飽和カルボン酸との共重合体[例えば、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)など]など}、ゴム含有スチレン系樹脂{例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、メタクリル酸メチル変性HIPS(透明HIPS)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂(透明ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体(MBS樹脂)、AXS樹脂、メタクリル酸メチル変性AXS樹脂など}が挙げられる。なお、前記AXS樹脂とは、ゴム成分X(アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)にアクリロニトリルAとスチレンSとがグラフト重合した樹脂を指し、具体的には、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン樹脂(AES樹脂)などが挙げられる。
【0028】
これらのスチレン系樹脂のうち、耐衝撃性ポリスチレン、アクリル系単量体及び/又はシアン化ビニル系単量体を重合成分(又は共重合成分)とするスチレン系樹脂[アクリル系単量体単位及び/又はシアン化ビニル系単量体単位を構成単位とするスチレン系樹脂、例えば、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体及び/又はアクリル系単量体との共重合体(例えば、AS樹脂などのスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との共重合体)などのゴム成分を含有しないスチレン系樹脂、アクリル系単量体及び/又はシアン化ビニル系単量体を共重合成分とするゴム含有(ゴムグラフト)スチレン系樹脂(ゴム成分にアクリル系単量体及び/又はシアン化ビニル系単量体とスチレン系単量体とがグラフト重合した共重合体、例えば、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、MBS樹脂、メタクリル酸変性ABS樹脂など)など]などが好ましい。
これらのスチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
本発明において、ポリカーボネート樹脂及びスチレン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。このような他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなど)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド5、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド6/66、ポリアミド6/11などの脂肪族ポリアミド系樹脂;ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXDなどの芳香族ポリアミド系樹脂;脂環族ポリアミド系樹脂など)、ポリウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂{ポリエチレン(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなども含む)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレンゴムなどのオレフィンの単独又は共重合体(エラストマーも含む)、環状オレフィン系樹脂など}、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂(塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、熱可塑性エラストマー(ポリエステル系熱可塑性エラストマーなど)などが挙げられる。これらの他の熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であってもよく、非結晶性樹脂であってもよい。これらの他の熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、樹脂特性を低下させない限り、慣用の添加剤、例えば、相溶化剤、可塑剤、難燃助剤(例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂など)、着色剤、安定剤(酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤など)、滑剤、分散剤、発泡剤、抗菌剤などが含まれていてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
また、成形においてはペレットに含まれる繊維を出来る限り長い繊維長で維持することが好ましい。そのためには、一般的な成形方法及び成形装置では、材料を可塑化する際にスクリュの回転によって生じる剪断が大きく、繊維を折損させてしまう確率が大きいため、使用可能ではあるが、あまり好ましくない。従って成形機メーカー各社の長繊維強化熱可塑性樹脂用に開発した可塑化システムを持つ成形機を用いる事が好ましい。また、繊維長を保護する成形条件としては、マトリックス樹脂に対して強化繊維を添加していない(非強化の)状態で成形する際の一般的可塑化温度より10〜30℃高めの温度設定とするなど、可塑化による剪断を低減する事が望ましい。更に金型及び/又はダイの設計においては、特に限定されるものではないが、樹脂の流路はその断面を出来得る限り広く設計し、また樹脂流路の形状についても検討した上で、圧力損失の低減された設計を施す事が繊維長を保護する上で望ましい。
【0032】
このように成形時においては繊維長を長くするよう条件をとることで、ガラス長繊維強化樹脂から成形される成形体中に分散される強化繊維の重量平均繊維長が0.5mm〜2mmであるガラス長繊維強化樹脂成形体を達成できる。強化繊維に含浸するポリカーボネート樹脂(PC)とスチレン系樹脂(SR)の比率は、通常は重量比としてPC/SR=90/10〜50/50であり、好ましくはPC/SR=90/10〜60/40であり、特に好ましくはPC/SR=80/20〜60/40である。PC/SRの比が90/10より大きくなると、つまりポリカーボネート樹脂が過剰となると流動性悪くなり、成形加工性低下に繋がる。また、PC/SRの比が50/50より小さくなると、つまりPCが極少量となると、耐熱性が低下すると共にPC特有の強度が発揮できない。ガラス長繊維強化樹脂に含まれる強化繊維の比率は、通常はペレット100重量部に対して強化繊維が11〜200重量部であり、好ましくは25〜150重量部であり、特に好ましくは30〜100重量部である。強化繊維が11重量部未満では成形品の機械的強度が低下し、強化繊維が200重量部を超えると引き抜き法において樹脂の含浸が充分に出来なくなりペレットの繊維の毛羽立ちが多くなり製造困難となる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、以下に実施例、比較例で使用した材料及び物性測定方法並びに射出成形装置を示した。
[使用材料]
PC:粘度平均分子量(Mv)=17800
ABS:ゴム含有量20%、マトリックスを構成するモノマー成分の共重合比:スチレン/アクリロニトリル=82/18(重量比)、ゴム重量平均粒径1000nm
PP:メルトフローレート=60g/10min(ホモポリプロピレン)
ガラス繊維ロービング:繊維径17μm、エポキシシランカップリング剤処理品
ガラス短繊維(チョップドストランド):繊維径13μm、繊維長3mm、エポキシシランカップリング剤処理品
[物性測定]
粘度平均分子量(Mv):ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出した。
[η]=1.23×10−5Mv0.83
メルトフローレート:ISO1133(230℃・2.16kg)に準拠
繊維含有量:成形品の任意の位置から無作為に切出した試験片から、繊維含有量を測定した。
繊維長測定方法(重量平均繊維長):成形品の任意の位置から無作為に約5gの試料を切出し、650℃で灰化して繊維を取り出す。取り出した繊維の一部(約500本)から重量平均繊維長を求めた。
線膨張係数:成形品の肉厚2.5mm以上の任意の位置から無作為に10mm×20mmの試験片を切出し、n=10で測定した最大値を示した。
中心線平均粗さ(Ra):成形品の塗装・メッキ及び蒸着を施す面の任意の位置から無作為に5箇所を選択し、測定した平均値を示した。
面衝撃:成形品の肉厚2.5mmの任意の位置から100mm×100mm×2.5mmの試験片を切出し、測定した。
製品合わせ品質:図1a)に示すように想定車両の形状の治具に成形品を組み付けた状態で、高温(80℃)下→低温(−30℃)下雰囲気中に放置し、合わせ品質の必要な部位(図1b)に示す箇所A、B及び図1c)に示す箇所C)にて、スキ、ズレ、段差を下記3段階で評価した。
○…設定値±1.0mm以内
△…設定値+2.0mm〜+1.0mmまたは設定値−2.0mm〜−1.0mm
×…設定値±2.0mm以上
塗装性:自動車外板用一般塗料を用いて以下の条件で塗装し、表面を下記3段階で評価した。
(条件)
ベース(15μm)→フラッシュ(1分)→クリヤ(25μm)→セッティング(10分)→80℃×30分乾燥
○…塗装のゆず肌が見られない
△…一部に塗装のゆず肌が見られる
×…全体に塗装のゆず肌が見られる
冷熱サイクルによるズレ:製品合わせ品質の評価と同じ試験片について、高温(80℃)下→低温(−30℃)下を繰り返し、常温下でのスキ、ズレ、段差について成形品の初期値と試験後の変化量を下記3段階で評価した。
○…1.0mm以下
△…1.0〜2.0mm
×…2.0mm以上
低温落球衝撃:製品合わせ品質の評価と同じ試験片について、低温(−30℃)下にて落錘を破壊が生じる高さまで上げて落下させていき、破壊の生じる高さを下記3段階で評価した。
○…1.5N・m以上
△…1.0〜1.5N・m
×…1.0N・m以下
比重:塗装前の比重を下記3段階で評価した。
○…1.5以下
△…1.5〜1.6
×…1.6以上
[射出成形]
装置:(株)日本製鋼所製、 J1300SSII
成形温度(シリンダー温度):280℃
金型温度;120℃
成形品:ラッゲージガーニッシュ型
実施例1
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、ガラス繊維ロービングを引きながら、熱可塑性樹脂としてPCが70重量部とABSが30重量部の混合物をクロスヘッドに接続された押出機から溶融状態(280℃)で供給して、ガラス繊維に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、裁断し、ガラス繊維含有量32重量%、長さ11mmのペレットを得た。得られたペレットを射出成形により表1の特性を持った成形品を作成した。ここで得られた成形品は製品合わせ品質、塗装性、冷熱サイクルによるズレ及び低温落球衝撃優れ、比重が低い。
実施例2
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、ガラス繊維ロービングを引きながら、熱可塑性樹脂としてPCが70重量部とABSが30重量部の混合物をクロスヘッドに接続された押出機から溶融状態(280℃)で供給して、ガラス繊維に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、裁断し、ガラス繊維含有量40重量%、長さ11mmのペレットを得た。得られたペレットを射出成形により表1の特性を持った成形品を作成した。ここで得られた成形品は製品合わせ品質、塗装性、冷熱サイクルによるズレ及び低温落球衝撃優れ、比重が低い。
比較例1
クロスヘッドでの繊維への樹脂含浸方法は実施せずに、熱可塑性樹脂としてPCが70重量部とABSが30重量部の混合物70重量部とガラス短繊維(チョップドストランド)30重量部をタンブラーブレンダーにて混合後、押出機で溶融混練してペレット状の樹脂組成物を得た。得られたペレットを射出成形により実施例と同じ成形品を作成した。
ここで得られた成形品は塗装性優れ、比重が低いが、製品合わせ品質、冷熱サイクルによるズレ及び低温落球衝撃に劣る。
比較例2
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、ガラス繊維ロービングを引きながら、熱可塑性樹脂としてPCが30重量部とABSが70重量部の混合物をクロスヘッドに接続された押出機から溶融状態(280℃)で供給して、ガラス繊維に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、裁断し、ガラス繊維含有量40重量%、長さ11mmのペレットを得た。得られたペレットを射出成形により表1の特性を持った成形品を作成した。ここで得られた成形品は製品合わせ品質、塗装性及び低温落球衝撃優れ、比重が低いが、冷熱サイクルによるズレに劣る。
比較例3
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、ガラス繊維ロービングを引きながら、熱可塑性樹脂としてPCが70重量部とABSが30重量部の混合物をクロスヘッドに接続された押出機から溶融状態(280℃)で供給して、ガラス繊維に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、裁断し、ガラス繊維含有量60重量%、長さ11mmのペレットを得た。得られたペレットを射出成形により表1の特性を持った成形品を作成した。ここで得られた成形品は製品合わせ品質、冷熱サイクルによるズレ及び低温落球衝撃に優れるが、比重が高く、塗装性に劣る。
比較例4
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、ガラス繊維ロービングを引きながら、熱可塑性樹脂としてPPをクロスヘッドに接続された押出機から溶融状態(280℃)で供給して、ガラス繊維に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、裁断し、ガラス繊維含有量40重量%、長さ11mmのペレットを得た。得られたペレットを射出成形により表1の特性を持った成形品を作成した。ここで得られた成形品は低温落球衝撃に優れ、比重が低いが、製品合わせ品質、冷熱サイクルによるズレ及び塗装性に劣る。
【0034】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】製品合わせ品質の評価状況を示す図であり、a)は想定車両の形状の治具に成形品を組み付けた状態を示す図、b)及びc)は測定箇所を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス長繊維強化ポリカーボネート樹脂/スチレン系樹脂からなる成形体であって、成形体中のガラス繊維の含有量が25〜50重量%、重量平均繊維長が0.5〜2.0mmであり、塗装・メッキ及び蒸着を施すすべての面の中心線平均粗さ(Ra)が0.8μm以下、30〜80℃における最大の線膨張係数が5×10-5以下であることを特徴とする、射出成形により成形された投影面積が200cm2以上の塗装・メッキ及び蒸着が可能な自動車用樹脂外装部品。
【請求項2】
成形体の肉厚2.5mm以上の面衝撃が5.0(J)以上であることを特徴とする請求項1記載の自動車用樹脂外装部品。
【請求項3】
ガラス長繊維強化ポリカーボネート樹脂/スチレン系樹脂中のポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂との重量比が90/10〜50/50である請求項1又は2記載の自動車用樹脂外装部品。
【請求項4】
ガラス繊維がエポキシシランカップリング剤で表面処理された請求項1〜3の何れか1項記載の自動車用樹脂外装部品
【請求項5】
自動車用樹脂外装部品が、リアガーニッシュ、ラジエータグリル、ラゲッジガーニッシュ、バックパネル、サイドパネル、スポイラー、ルーフ、ピラーアウター、フード又はホイールカバーである請求項1〜4の何れか1項記載の自動車用樹脂外装部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−202013(P2008−202013A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43052(P2007−43052)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】