説明

自動車用複合電線

【課題】自動車の廃車に伴うリサイクルにおいて電線導体の導電部材と補強材としての張力保持部材との分離回収を容易とした自動車用複合電線を提供すること。
【解決手段】複数本の電線導体12内に張力保持部材14を束ね撚り電線としたもので、電線導体12が非磁性の非鉄金属材料からなり、張力保持部材14が磁性材料からなる。例えば、電線導体が、電気抵抗の低い銅、銅合金、アルミ、アルミ合金などで、張力保持部材が鉄、ニッケル、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス硬質材、あるいはそれらを基材とする合金、またはそれらを含む銅被覆鋼線やニッケル被覆銅線などの複合線などが適用される。この場合、張力保持部材は、10kHzでの比透磁率(μr)が5以上100以下であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用複合電線に関し、さらに詳しくは、複数本の電線導体内に張力保持部材を束ね撚り電線とした自動車用複合電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車用複合電線としては、電線の細径化、軽量化を目的として複数本の電線導体内に張力保持部材(テンションメンバ)を束ね、撚り電線としたものが一般に用いられている。そしてこのテンションメンバとしては、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼線の軟質材を用いたものが、例えば特許文献1の特開2004−207079号公報などに示されている。
【0003】
このような複合撚り電線は、詳しくは図6に示すが、自動車のリサイクルにおいて、シュレッダーにより裁断された後、比重分離で金属と樹脂に分けられ、金属についてはさらに磁気分離で鉄鋼材料と非鉄金属に分離されるが、補強材がオーステナイト系ステンレス鋼の軟質材の場合、磁性を持たないため磁気分離により非鉄金属側に混入してしまう。
【0004】
この場合、自動車用電線の導体あるいは端子に用いられる金属は、主として銅であるが、銅合金の成分としての亜鉛や若干のメッキ材料としての錫が含まれる。ここに、誤って非鉄金属側に混入したステンレス鋼には、鉄、ニッケル、クロムといった成分が含まれるのだが、電気用銅として転炉による精錬を行う際に行う酸化精錬により、鉄、クロムは容易に除去できるものの、ニッケルの除去は非常に困難である。
【0005】
これに対し、スラグ精錬という方法を使えばニッケルの減量は可能であるが、電気用銅として許容されるレベルまで低減させるには、数回の精錬を繰り返し行う必要があり、非常にコスト高になる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−207079号公報
【特許文献2】特開平11−260167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電線導体とともに撚り電線とされる補強部材に磁性材料を用いることで、自動車の廃車に伴うリサイクルでシュレッダー後の磁気分離で導電部材と補強部材との分離を可能とした自動車用複合電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の請求項1に係る自動車用複合電線は、複数本の電線導体内に張力保持部材を束ね撚り電線とした自動車用複合電線において、前記電線導体が非磁性の非鉄金属材料からなり、前記張力保持部材が磁性材料からなることを要旨とする。
【0009】
この場合、請求項2に記載のように、前記電線導体が、電気抵抗の低い銅、銅合金、アルミ、アルミ合金より選ばれた1種又は2種以上の材料からなり、前記張力保持部材が鉄、ニッケル、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス硬質材、あるいはそれらを基材とする合金、またはそれらを含む銅被覆鋼線やニッケル被覆銅線などの複合線から選ばれた1種又は2種以上の材料からなるものが、好適な例として挙げられる。
【0010】
さらにこれらの場合、請求項3に記載のように、前記張力保持部材は、10kHzでの比透磁率(μr)が5以上100以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の自動車用複合電線によれば、非磁性の非鉄金属材料からなる電線導体の補強材としての張力保持部材が磁性材料からなるものであるから、自動車のリサイクルに際して電線導体の導電部材と補強材である張力保持部材との分離が容易確実に行われ、特に電線導体の導電部材の回収再生の利用効率が高められる。
【0012】
この場合、電線導体並びに張力保持部材がそれぞれ請求項2に記載の材料から選択されることにより、リサイクルに際しての分離再利用がより確実に行われるものである。
【0013】
そしてこれらの場合に、張力保持部材の比透磁率(μr)が請求項3に記載の5〜100の範囲内であることにより、電線特性が維持されるとともにリサイクルに際しての電線導体の導電部材の分離再利用が達成される。張力保持部材の10kHzでの比透磁率(μr)が5以下であるとリサイクルに際しての導電部材と補強部材との間の磁性分離が困難であり、一方、張力保持部材の10kHzでの比透磁率(μr)が100を超えると電磁波あるいは高周波ノイズによる鉄損発熱による温度上昇が起こるため望ましくない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の各種の実施形態について詳細に説明する。図1〜図4は本発明の各種実施の形態に係る自動車用複合電線の断面形態を示している。
【0015】
初めに図1(a)〜(e)は、電線導体と張力保持部材(テンションメンバ)とが合わせて7本で構成されている。図1(a)の複合電線10aは、6本の電線導体12と1本の張力保持部材14との撚り電線として構成され、図1(b)の複合電線10bは5本の電線導体12と2本の張力保持部材14とで構成され、図1(c)の複合電線10cは4本の電線導体12と3本の張力保持部材14とで、さらに図1(d)の複合電線10dは3本の電線導体12と4本の張力保持部材14とで構成されている。そして図1(e)の複合電線10eは、6本の電線導体12と1本の張力保持部材14との撚り電線として構成されるが、撚り電線とした後円形に圧縮されている。
【0016】
これらの複合電線10a〜10eにおいて、電線導体12の導電部材としては、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金等が一般に用いられており、当該電線の補強部材としての張力保持部材14には、鉄、ニッケル、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス硬質材等の磁性材料が適用される。これらの材料からなる張力保持部材14によれば、磁性材料としての10kHzでの比透磁率(μr)が5〜100の範囲にあり、電線の補強材として用いても電磁波あるいは高周波ノイズによる鉄損発熱による温度上昇が起こることがなく、自動車用電線としての品質特性が維持され、一方、自動車の廃車に伴うリサイクルに際しても電線導体12の導電部材と補強材としての張力保持部材14との磁性分離も確実に行われ、回収された導電部材中に張力保持部材中の異質な金属材料が混入することも回避される。
【0017】
図2は、12本構成の複合電線を示したもので、図2(a)の複合電線20aは、9本の電線導体12と3本の張力保持部材14とで構成され、また図2(b)の複合電線20bは、それを撚り電線とした後円形に圧縮されたものである。
【0018】
また図3は、19本構成の複合電線を示したもので、図3(a)の複合電線30aは、18本の電線導体12と1本の張力保持部材14とで構成され、図3(b)の複合電線30bは、15本の電線導体12と4本の張力保持部材14とで構成され、図3(c)の複合電線30cは、12本の電線導体12と7本の張力保持部材14とで構成される。そして図3(d)に示した複合電線30dは、図3(c)に示した複合電線が円形に圧縮されたものである。
【0019】
図4は、さらに他の実施形態に係る複合電線を示している。図4(a)〜(c)の複合電線40a〜40cは、電線導体12の本数も違うが、張力保持部材14の大きさ(径)を違えている。また図4(d)〜(f)の複合電線40d〜40fも、それぞれ4本の張力保持部材14の大きさ(径)を違えたものである。そして図4(a)〜(f)の複合電線40a〜40fは、いずれも撚り線とした後に円形に圧縮されている。
【0020】
次にこのような複合電線が用いられた自動車をリサイクルするに際しての流れを図5に示して説明する。廃材となる電線は初めにシュレッダーにより微細に裁断され、比重分離により電線被覆材や保護材(樹脂テープやプロテクタ等)などの非金属材料やアルミ、アルミ合金、マグネシウム合金などの軽金属が除去される。
【0021】
次いで磁性分離により鉄や磁性SUSなどの磁性金属材料を除去し、残された銅や銅合金などの非磁性金属(軽金属は除く)が回収され、導電材料としてリサイクルされる。この場合、前述の比重分離により除去されたアルミなどの軽金属や磁性分離により除去された鉄鋼材料などもリサイクルにより回収される。
【0022】
尚、この図5に示した分離リサイクル工程では、比重分離によりアルミ、マグネシウムなどの軽金属を予め分離し、次いで磁性分離により鉄、磁性SUSなどの磁性金属と銅などの非磁性金属との分離を行っているが、初めに磁性分離により鉄、磁性SUSなどの磁性金属を除去し、次いで比重分離によりアルミ、マグネシウムなどの軽金属と銅や銅合金などの導電材料との分離を行うものであっても良い。
【実施例】
【0023】
次に各種の実施例について実験を行ったのでその結果を表1に示して説明する。
【0024】
(実施例1〜16)
実施例1〜16は、電気導体の導電部材として軟銅、コルソン銅、錫入り銅、電気用純アルミ、5056アルミ合金、6151アルミ合金の各種材料を用い、補強部材の張力保持部材として磁性材料である銅被覆鋼線(硬質)、SUS430(軟質)、ニッケル覆銅線(硬質)、SUS304,302(90%又は80%加工材)などについて確認した。これらの磁性材料の比透磁率(μr)は10kHzにおいて5〜100の範囲にある。そしてこれらの導電部材と補強部材とを表1中に示したように所定本数ずつ束ね撚り線とし、さらに一部の実施例品については円形圧縮を行った。
【0025】
(実施例17〜20)
実施例17〜20は、電気導体の導電部材が軟銅で、補強部材として磁性材料である亜鉛メッキ鉄線(軟質)、パーマロイ(軟質)、ケイ素鋼(軟質)、SUS304(40%加工材)について確認した。これらの磁性材料は一応磁性を有するが、10kHzにおける比透磁率(μr)が5〜100の範囲を外れている。
【0026】
(従来例21)
従来例21は、導電部材が軟銅で、補強部材が非磁性のSUS304(軟質)である。10kHzにおける比透磁率(μr)が1.0程度と著しく低い。
【0027】
これらの供試サンプルについて磁性分離の可否と鉄損発熱の有無について測定を行ったのでその結果を表1に示してある。磁性分離のテストは、1〜3mmに微小裁断した電線を、高性能永久磁石式非鉄金属分別装置(磁束密度3000G)を用いて混入の有無を確認することで実施し、鉄損発熱のテストは、当該電線の許容電流を通電時に、数〜数GHzの範囲の電磁波を照射し、鉄損発熱により許容温度を超える発熱の有無を確認することで実施した。
【0028】
その結果、従来品(従来例21)については、補強部材が非磁性材料のSUS304(軟質)であるため導電部材である軟銅との磁性分離は不可であった。
【0029】
これに対して本発明品の実施例1〜16までは磁性分離が可能であったし、鉄損発熱がないことも確認された。これらの供試サンプルは補強部材の比透磁率(μr)が5〜100(at10kHz)の範囲とされていたため、このような結果が得られたものと考察される。
【0030】
また本発明品の実施例17〜20については、補強部材の比透磁率(μr)が5(at10kHz)以下の実施例20については磁性分離が困難であるし、比透磁率(μr)が100(at10kHz)を超える実施例17〜19については鉄損発熱があった。
【0031】
以上の実施結果から、本発明では電線導体としての導電部材に磁性材料である補強部材を加え複合電線とすることはリサイクルにおいて磁性分離する上で有効であることがわかる。ただしこの場合に電線としての利用上鉄損発熱が生じることは品質上避けるべきであり、また磁性の弱い補強部材では磁性分離による分別再利用に難があるので補強部材の比透磁率(μr)を5〜100(at10kHz)の範囲とすることが望ましいと言える。
【0032】
【表1】

【0033】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施例において、各種導電部材及び補強材の組合せについて実験したが、これらの材料及び組合せに限定されるものでないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動車用複合電線の断面形態を示した図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る自動車用複合電線の断面形態を示した図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係る自動車用複合電線の断面形態を示した図である。
【図4】本発明の更に他の実施形態に係る自動車用複合電線の断面形態を示した図である。
【図5】自動車リサイクルに伴う本発明の複合電線の分離回収の流れを説明する図である。
【図6】従来一般に知られる複合電線の分離回収の流れを示した図である。
【符号の説明】
【0035】
10a〜10e自動車用複合電線
12 電線導体
14 張力保持部材(テンションメンバ)
20a, 20b 複合電線
30a〜30d 複合電線
40a〜40f 複合電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線導体内に張力保持部材を束ね撚り電線とした自動車用複合電線において、前記電線導体が非磁性の非鉄金属材料からなり、前記張力保持部材が磁性材料からなることを特徴とする自動車用複合電線。
【請求項2】
前記電線導体が、電気抵抗の低い銅、銅合金、アルミ、アルミ合金より選ばれた1種又は2種以上の材料からなり、前記張力保持部材が鉄、ニッケル、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス硬質材、あるいはそれらを基材とする合金、またはそれらを含む銅被覆鋼線やニッケル被覆銅線などの複合線から選ばれた1種又は2種以上の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の自動車用複合電線。
【請求項3】
前記張力保持部材は、10kHzでの比透磁率(μr)が5以上100以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用複合電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−147507(P2006−147507A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339724(P2004−339724)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】