説明

自動車用電源制御装置

【課題】 より運転者の意図に近い電源遷移を適切に行うことができる自動車用電源制御装置を提供する。
【解決手段】 電源回路とバッテリーとを接続する複数のスイッチング部(6〜9)と、押しボタン型の操作スイッチ(2)の操作回数に応じてスイッチング部を所定の順序にて駆動する制御を行う制御部(5)とを有し、制御部は、操作スイッチの操作を検知する第1検知部と、第1検知部が操作スイッチの操作を検知した場合に次の順番となるスイッチング部を駆動させる駆動命令を出力する出力部と、駆動命令を出力した時点から駆動されたスイッチング部の接点が切り替わるまでの間に操作スイッチの操作回数を検知する第2検知部とを含み、第2検知部で検知された操作回数の分だけ順番に沿ってスイッチング部を駆動していき所定の順番の最後のスイッチング部を駆動させると終了し、あるいは、所定の順番の最初のスイッチング部を駆動させると終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用電源制御装置に関し、詳しくは、押しボタン型の操作スイッチを備えた自動車において、同スイッチの操作に応じて電源遷移を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電源遷移を歴史的に概観すると、当初、単純にOFF(エンジンの停止状態)とON(エンジンの作動状態)の二つしかなかった遷移状態は、その後の電気式エンジン始動装置(イグニッションモータ)の登場により、ONがIGON(エンジンの作動状態)とSTART(エンジンの始動状態)の二つに分かれ、都合、「OFF」、「IGON」及び「START」の三つになった。さらに歴史が流れ、ラジオ等の各種電装品(アクセサリー)の出現により、「OFF」と「IGON」の間に電装品のみの電源オンを可能とするための「ACC」が加えられ、さらに今日では、セキュリティの観点から「OFF」の状態でステアリングロック等を行う自動車が多数を占めるようになり、「OFF」を「LOCK」と称し、結局、「LOCK」、「ACC」、「IGON」及び「START」の四つの遷移状態を持つに至った。
【0003】
一方、かかる電源遷移は運転者の操作に委ねられており、この操作手段には、古くから機械鍵方式のロータリスイッチが広く用いられてきたが、昨今は、この機械鍵と併用可能な、電子式キーを利用したイグニッション装置が登場してきた。この電子式イグニッション装置では、運転者が保持する電子式キー(携帯機)と、車両に搭載された認証部16との間で無線による認証を行ってエンジン始動等の電源遷移を許容する。そのようなイグニッション装置のひとつとして、押しボタン型の操作スイッチ(単にプッシュスイッチということもある)を備えたエンジン始動装置が知られている(たとえば、下記の特許文献1参照)。
【0004】
このエンジン始動装置では、モーメンタリ方式のプッシュスイッチを備えており、このプッシュスイッチを押す度に自動車の電源遷移状態を切り替えている。詳しくは、同文献の段落〔0025〕に記載されているように、プッシュスイッチを押す度に、LOCK→ACC→IGON→START→LOCKの順番でシーケンシャルに切り替えている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−351453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記の従来技術にあっては、面倒な機械鍵を用いることなくワンタッチで自動車の電源遷移状態を切り替えることができるという利点があるものの、常に正しい回数を意識してプッシュスイッチを操作する必要があり、場合によっては、不適切な回数でプッシュスイッチを操作してしまうことがある。たとえば、LOCK状態からSTART(エンジン始動)に遷移させようとして3回押すべきところを、間違って4回押してしまった場合には、エンジンが一瞬始動した直後に再び停止状態(LOCK状態)に戻ってしまい、運転者に違和感を与えるという問題点がある。
【0007】
また、上記のワンタッチ方式のエンジン始動装置では、任意の遷移状態から他の遷移状態に移る際に、電磁リレー等の動作遅れによるタイムラグが少なからずあるため、たとえ正しい回数でプッシュスイッチを操作したとしても、運転者によっては、そのタイムラグを待ちきれず、「意図した遷移状態に移っていない」と誤認し、再度、プッシュスイッチを操作してしまうことがあり、この場合、意図した遷移状態を通り越して不本意な遷移状態に入ってしまうという不都合もある。
【0008】
そこで本発明は、より運転者の意図に近い電源遷移を適切に行うことができる自動車用電源制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、押しボタン型の操作スイッチの操作に基づいて車両の複数の電源回路を切り替える制御を行う自動車用電源制御装置において、前記電源回路と車両用バッテリーとを接続する複数のスイッチング部と、前記操作スイッチの操作回数に応じて前記スイッチング部を所定の順序にて駆動する制御を行う制御部とを有し、前記制御部は、前記操作スイッチの操作を検知する第1検知部と、前記第1検知部が前記操作スイッチの操作を検知した場合に次の順番となる前記スイッチング部を駆動させる駆動命令を出力する出力部と、前記駆動命令を出力した時点から駆動された前記スイッチング部の接点が切り替わるまでの間に前記操作スイッチの操作回数を検知する第2検知部とを含み、前記第2検知部で検知された操作回数の分だけ順番に沿って前記スイッチング部を駆動していき所定の順番の最後のスイッチング部を駆動させると終了し、あるいは、所定の順番の最初のスイッチング部を駆動させると終了することを特徴とする自動車用電源制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、押しボタン型の操作スイッチの操作回数の分だけ順番に沿って、電源回路と車両用バッテリーとを接続する複数のスイッチング部を駆動していき所定の順番の最後のスイッチング部を駆動させると終了し、あるいは、所定の順番の最初のスイッチング部を駆動させると終了するようにしたので、「LOCK→ACC→IGON」から「LOCK→・・・・」、または、「IGON→LOCK」から「ACC→・・・・」といった不本意な電源遷移を生じることがない。したがって、より運転者の意図に近い電源遷移を適切に行うことができる自動車用電源制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施の形態に係る自動車用電源制御装置の概略構成図である。この図において、自動車用電源制御装置(以下、単に電源制御装置という。)1は、モーメンタリ方式の押しボタン型エンジン始動スイッチ(以下、プッシュスイッチという。)2からのプッシュ信号を整形して取り込む信号入力部3と、この信号入力部3を介して取り込まれたプッシュ信号に基づいて電源遷移部4の電源遷移動作を制御する、たとえば、マイクロプログラム制御方式の制御要素(コンピュータ)で構成された制御部5と、この制御部5からの制御指示に従って自動車に搭載された複数の電源遷移要素(スイッチング部)6〜9を個別に駆動する電源遷移部4と、この電源遷移部4の遷移状態(LOCK、ACC、IGON、START)を判定する遷移状態判定部10とを備える。
【0012】
加えて、この電源制御装置1は、LF帯の微弱無線で送信を行う送信部(不図示)やその送信アンテナ11並びにUHF帯の微弱無線で受信を行う受信部(不図示)やその受信アンテナ12を含む通信部13と、制御部5からの制御指示に従って通信部13を介して乗員が携帯する携帯機14の通信部15から返送された照合情報(以下、ID)を受け取ってそのIDを照合して認証を行う認証部16とを備える。
【0013】
なお、認証部16と携帯機14には、それぞれ認証のための照合情報(ID)が格納されている。図中のID記憶部17、18は、そのための記憶要素である。ID記憶部17、18に格納されている各IDは同じものであってもよいし、何らかの関連付けがなされた異なる情報であってもよい。
【0014】
プッシュスイッチ2は、押しボタン2aを備えており、運転者がこの押しボタン2aを押している間のみ、接点が閉じるような構成となっている。プッシュスイッチ2からのプッシュ信号は、信号入力部3を介して波形整形された信号として制御部5の入力ポートから取り込まれる。制御部5は、取り込まれた信号の立上がりや立下りの変化を検出することによって、プッシュスイッチ2が操作されたか否かを判定する。
【0015】
なお、ここでは、複数の電源遷移要素6〜9のそれぞれを、一般的な自動車を例にして便宜的にLOCKリレー6、ACCリレー7、IGONリレー8及びSTARTリレー9とするが、発明の思想上はこれに限定されない。他のリレーを含んでもよく、あるいはリレー以外のものであってもよい。要は、電源遷移部4によって個別に駆動されるものであればよい。
【0016】
電源遷移要素6〜9のそれぞれを、LOCKリレー6、ACCリレー7、IGONリレー8及びSTARTリレー9とすると、電源遷移部4によってLOCKリレー6が駆動されると、ステアリングをロックするためのアクチュエータとバッテリーとの間が接続され、これにより、アクチュエータが駆動してステアリングがロックされる。また、電源遷移部4によってACCリレー7が駆動されると、車両のアクセサリ回路とバッテリーとの間が接続され、これにより、アクセサリ回路に電源が供給される。また、電源遷移部4によってIGONリレー8が駆動されると、車両のイグニッション回路とバッテリーとの間が接続され、これにより、イグニッション回路に電源が供給される。
【0017】
図2は、電源遷移状態の関係を示す模式図である。この図において、LOCKはエンジンが停止し且つアクセサリ回路とイグニッション回路に電源が供給されていない状態で、しかも、ステアリングがロックされた遷移状態であり、自動車を使用していないときの状態である。ACCはアクセサリ回路だけに電源が供給されているときの遷移状態であり、たとえば、駐停車中にカーステレオを聞くなどしているときの状態である。IGONはアクセサリ回路とイグニッション回路に電源が供給されているときの状態である。エンジンを始動する場合には、フットブレーキ(不図示)を踏み込んだ状態でプッシュスイッチ2を操作すればよい。この場合のみ電源遷移部4によってSTARTリレー9が駆動される。電源がどの状態であってもフットブレーキ(不図示)を踏み込んだ状態でプッシュスイッチ2を操作すればエンジンが始動し、電源はIGON状態に遷移する。ブレーキを踏み込まない状態でプッシュスイッチ2を操作すると、電源状態のみが遷移する。図1のフットブレーキスイッチ信号はそのための信号(フットブレーキの踏み込み操作を示す信号)である。
【0018】
これらのLOCK、ACC及びIGON(START)の遷移状態を、運転者の意図に従って整理分類すると、電源の利用を意図する第一の流れ「LOCK→ACC→IGON(START)」と、エンジンの停止を意図する第二の流れ「IGON→LOCK」の二つに分けることができる。もちろん、これら二つの流れ以外にも、たとえば、IGON→ACCなどの他の流れもあるが、ここでは、簡単化のために省略し、上記の二つの流れ(第一の流れと第二の流れ)について説明することにする。
【0019】
さて、エンジンの始動を便宜上、“上流”として見た場合、前記の第一の流れは「上り」、前記の第二の流れは「下り」と表現することができるので、本明細書でもその表現に従うことにする。つまり、「LOCK→ACC→IGON」を「上り」と称し、「IGON→LOCK」を「下り」と称することにする。
【0020】
これらの「上り」と「下り」の順番は、発明の要旨に記載の“所定の順番”に相当し、この場合、「上り」においてはIGONリレー8の駆動順が所定の順番の最後となり、また、「下り」の場合はLOCKリレー6の駆動順が所定の順番の最後となる。なお、他の態様として、「下り」における順番が「IGON→ACC→LOCK」となることもある。この場合においても所定の順番の最後はLOCKリレー6を駆動させることである。
【0021】
図3は、実施の形態における制御プログラムの概略フローを示す図である。この制御プログラムは制御部5において定期的に実行される。この制御プログラムでは、まず、信号入力部3を介して取り込まれたプッシュ信号の変化からプッシュスイッチ2の操作の有無を判定する(ステップS1)。そして、プッシュスイッチ2が操作されていなければ、そのまま待機し(ステップS1を繰り返し)、プッシュスイッチ2が操作されていれば、次に、現在の遷移状態が「LOCK」であるか否かを判定し(ステップS2)、現在の遷移状態が「LOCK」である場合には、「ACC」への遷移を指示するために、制御部5からの命令に基づき電源遷移部4からACCリレー7に駆動信号を出力して、このACCリレー7を駆動する(ステップS5)。
【0022】
なお、図では省略しているが、ステップS1において、プッシュスイッチ2の操作が有ったと判定された場合には、同時に公知の認証処理を実行する。すなわち、ステップS1において、プッシュスイッチ2の操作が有ったと判定された場合に、携帯機14と認証部16との間で無線による認証を行い、その認証結果がID一致の場合に、ステップS5を実行して「ACC」への遷移を行い、そうでない場合には「ACC」への遷移をパスしてプログラムを終了する。
【0023】
なお、認証方法は上記の例示に限定されない。たとえば、他の認証方法としては、運転者が車室内に乗り込んだ時に携帯機14の認証を済ませてしまうものがある。この方法では、ドア開閉を認証部16で検知すると、ID要求信号を送信して、携帯機14からの応答信号に含まれるIDを照合する。
【0024】
ステップS5でACCリレー7を駆動すると、次に、ACCリレー9がオフ状態(非駆動状態)からオン状態(駆動状態)に切り替えられたか否か、つまり、ACCリレー9の切り替えが完了したか否かを判定する(ステップS6)。もし、まだ切り替えられていないと判定された場合には、再びプッシュスッチ2が操作されたか否かを判定する(ステップS7)。そして、プッシュスイッチ2が操作されていると判定された場合には、カウンタ(以下、CTと略す)を+1(ステップS8)した後、ステップS6に戻り、ACCリレー7の切り替えが完了するまで、ステップS6〜ステップS7を繰り返す。このことによって、リレー切り替え完了までの間に運転者が再度プッシュスイッチ2を操作したか否かが分かる。
【0025】
ステップS6においてACCリレー7の切り替えが完了したと判定された場合には、ステップS9に移り、CTがセット(CT=1)されているか否かを判定する。セットされていると判定した場合にはステップS10に移り、CTをクリアする。
【0026】
次いで、ステップS11において制御部5からIGONリレー8を駆動させるための命令を電源遷移部4に送り、電源遷移部4はIGONリレー8を駆動させるための出力を行う。
【0027】
そして、ステップS12に移り、IGONリレー8の切り替え完了を判定する。IGONリレー8の切り替え完了を判定すると、プログラムを終了し、また、ステップS9でCTがセットされていないと判定した場合にもプログラムを終了する。
【0028】
次に、現在の電源遷移状態がACCである状態において、プッシュスイッチ2が押された場合の処理についての説明を行う。
【0029】
ステップS1にてプッシュスイッチ2が操作されたと判定するとステップS2に移り、現在の電源遷移状態がLOCK状態か否かを判定するが、LOCK状態でないと判定した場合には、ステップS3に移り、ACC状態か否かを判定する。
【0030】
そして、現在の電源遷移状態がACCであると判定した場合には、ステップS11に移り、IGONリレー8を駆動させるために制御部9から電源遷移部4への命令出力を行う。電源遷移部4は、この命令に従いIGONリレー8を駆動させるための出力を行う。そして、ステップS12に移り、IGONリレー8の切り替え完了を判定し、IGONリレー8の切り替え完了を判定した場合には、プログラムを終了する。
【0031】
次に、現在の電源遷移状態がIGONである状態において、プッシュスイッチ2が押された場合の処理についての説明を行う。
【0032】
ステップS1にてプッシュスイッチ2の操作を判定すると、ステップS2に移り、現在の電源遷移状態がLOCK状態か否かを判定する。LOCK状態でないと判定した場合には、ステップS3に移り、ACC状態か否かを判定する。現在の電源遷移状態がACCでないと判定した場合には、ステップS4に移り、IGON状態か否かを判定する。
【0033】
ステップS4においてIGON状態であると判定した場合には、ステップS13に移り、LOCKリレー6を駆動させるために、制御部9から電源遷移部4への命令出力を行う。電源遷移部4は、この命令に従ってLOCKリレー6を駆動させるための出力を行う。また、同時にACCリレー7およびIGONリレー8を非駆動させるための処理も行う。そして、ステップS14に移り、LOCKリレー6の切り替え完了を判定し、LOCKリレー6の切り替え完了を判定した場合には、プログラムを終了する。
【0034】
以上が制御プログラムの詳細な流れであるが、理解をしやすくするために、具体的な状況を想定して説明する。
【0035】
(状況1)エンジン動作中にプッシュスイッチ2が操作された場合:
この状況においては、エンジンが動作中であるので、現在の遷移状態(「IGON」)からの遷移先は「下り」の一つ(「LOCK」)しかない。したがって、ステップS4で現在の遷移状態が「IGON」であると判定した後は、そのまま「LOCK」に遷移(ステップS13)すればよい。
【0036】
さて、この状況1の場合、プッシュスイッチ2の操作回数は何ら関与しない。少なくとも1回操作されればよい。ステップS13の後は、ステップS14を実行することによって、LOCKリレー6の切り替えが完了するまでは、ステップS1のプッシュスイッチ2の操作判定に戻らないからであり、仮に複数回操作されたとしてもその回数は無視されるからである。つまり、プッシュスイッチ2の操作回数にかかわらず、「下り」の処理(ステップS13、ステップS14の処理)は1度しか実行されないからである。したがって、仮にプッシュスイッチ2が複数回操作された場合であっても、「下り」から「上り」への不本意な反転遷移は生じず、たとえば、「LOCK」に遷移した後に、再び「ACC」や「IGON」に移行するという、運転者の意図に反した動作は生じない。
【0037】
(状況2)エンジン停止中にプッシュスイッチ2が操作された場合:
この状況においては、エンジンが停止中であるので、現在の遷移状態は「LOCK」又は「ACC」若しくは「IGON」のいずれかである。また、その遷移先は、現在の遷移状態とも関連するが、「ACC」又は「IGON」若しくは「LOCK」のいずれかであり、且つ、その遷移先は、運転者によって行われるプッシュスイッチ2の操作回数に依存する。
【0038】
たとえば、現在の遷移状態が「LOCK」のときに、プッシュスイッチ2が操作された場合、運転者の意図した遷移先は「ACC」又は「IGON」である。
【0039】
まず、現在の遷移状態が「LOCK」であって、プッシュスイッチ2の操作回数が「1」である場合を考える。この場合、ステップS8は実行されず、CTに「1」がセットされない。ステップS5にてACCリレー7が駆動された後に、ステップS9で「CT=1?」が判定されるだけである。この場合のCTは「1」でないので、ステップS9の判定結果がNOとなり、結局、そのままプログラムを終了する。または、仮に、ACCリレー7の切り替え完了までにタイムラグがあったとしても、運転者によるプッシュスイッチ2の操作回数が「1」であるから、ステップS7の判定結果はNOのままで、そのタイムラグの間、ステップS6→ステップS7→ステップS6のループを繰り返すのみである。そして、いずれは、ACCリレー7の切り替え完了に伴い、同様にステップS9で「CT=1?」が判定されるだけである。この場合のCTも「1」ではないので、ステップS9の判定結果がNOとなり、結局、そのままプログラムを終了することに変わりない。
【0040】
したがって、この場合は、遷移状態が「LOCK」から「ACC」に変化し、運転者の意図した遷移状態が達成される。
【0041】
次に、現在の遷移状態が「LOCK」であって、遷移状態が「ACC」に切り替わる前にプッシュスイッチ2が操作された場合を考える。ステップS5でACCへの遷移が指示され、ステップS8で「CT=1」にセットされた後、ステップS9で「CT=1?」が判定される。この場合、CT=1であるので、ステップS9の判定結果がYESとなり、ステップS11に進み、IGONへの遷移が指示された後、ステップS12でIGONリレーの切り替え完了を判定し、プログラムを終了する。
【0042】
したがって、この場合は、遷移状態が「LOCK」から「ACC」に変化し、さらに「IGON」へと変化するので、運転者の意図した遷移状態が達成される。
【0043】
次に、現在の遷移状態が「ACC」であって、プッシュスイッチ2の操作回数が「1」である場合を考える。この場合、このステップS3の判定結果がYESとなり、ステップS11でIGONへの遷移が指示された後、ステップS12でIGONリレーの切り替え完了を判定し、プログラムを終了する。
【0044】
したがって、この場合は、遷移状態が「ACC」から「IGON」へと変化するので、運転者の意図した遷移状態が達成される。
【0045】
さて、プッシュスイッチ2の操作回数を間違えて多く押してしまった場合を考える。たとえば、現在の遷移状態が「LOCK」であって、運転者の意図した遷移先が「IGON」であるにもかかわらず、正しい回数(2)を越える「3」を押してしまった場合である。
【0046】
このような場合、図示の制御プログラムにおいては、「IGON」から「LOCK」への不本意な遷移(上りから下りへの反転遷移)は発生しない。ステップS5でACCリレー7を駆動させた後に、ステップS11でIGONリレー8を駆動させた後はプログラムを終了し、IGON状態からLOCK状態には移行しないからであり、要するに、プッシュスイッチ2の「2」を越える操作回数は無視される仕組みになっているからである。
【0047】
なお、現在の遷移状態が「ACC」であって、運転者の意図した遷移先が「IGON」であるにもかかわらず、正しい回数(1)を越える「2」を押してしまった場合を考えると、ステップS11で「IGON」への遷移指示が行われた後は、プッシュスイッチ2の操作の有無の確認を行うステップが無いため、次の電源遷移には移らない。したがって、この場合においても、「IGON」から「LOCK」へと不本意な遷移(上りから下りへの反転遷移)は発生しない。
【0048】
以上のとおりであるから、この実施の形態によれば、より運転者の意図に近い電源遷移を適切に行うことができる自動車用電源制御装置を提供することができる。
【0049】
図4は、実施の形態における概念説明図である。この図では、プッシュスイッチ2の操作と、その操作に伴う複数の電源遷移要素(図1のLOCKリレー6、ACCリレー7、IGONリレー8及びSTARTリレー9を参照)の状態変化との関係を示している。
【0050】
まず、(a)を参照して説明すると、今、LOCK状態から時間軸に沿って、所定の間隔Tでプッシュスイッチ2を3回操作したとする。P1〜P3は各々の操作を示す。(a)において、所定の間隔Tが、電源遷移要素のタイムラグ(図ではリレーの切り替え時間)を充分上回る時間であるとすれば、P1に応答して符号イで示すリレー切り替えが行われ、その後のP2に応答して符号ロで示すリレー切り替えが行われ、さらに、その後のP3に応答して符号ハで示すリレー切り替えが行われる。したがって、この場合(P1→P2→P3)においては、LOCK→ACC→IGONという電源遷移が支障なく行われる。
【0051】
さて、この(a)において、P3の後、所定の間隔T以下の時点で間違ったスイッチ操作(符号P4)が行われたとする。しかし、このP4の操作入力は制御上は無視されているので不本意な反転遷移(IGON→LOCK)は生じない。これは、図3のフローにおいて、ステップS13で「LOCK」状態への遷移指示が行われた後は、LOCLリレー6の切り替えが完了するまで、ステップS14をループする仕組みになっているからであり、P3の後、所定の間隔T以下の時点で間違ったスイッチ操作(符号P4)が行われたとしても、そのスイッチ操作(P4)は同ループにより無視されるからである。
【0052】
次に、(b)を参照して説明する。この(b)では、所定の間隔T以下の短い間隔でプッシュスイッチ2を3回操作(P11、P12、P13)し、その後、所定の間隔Tを大きく越える時間を空けて、再び、所定の間隔T以下の短い間隔でプッシュスイッチ2を2回操作(P14、P15)した例を示す。結論から言えば、この場合は、図3のフローの働きによって、P11の操作に基づきACC状態への遷移、P12の操作に基づきIGON状態への遷移、P13の操作は破棄、P14の操作に基づきLOCK状態への遷移、P15の操作は破棄、となり、プッシュスイッチ2が必要以上に多く操作されたにもかかわらず、LOCK→ACC→IGONという電源遷移が支障なく行われると共に、IGON→LOCK→ACCへという不本意な電源遷移も生じない。
【0053】
<P13→破棄>
P13の操作が破棄される理由は、ACCリレー7の切り替え中のプッシュスイッチ2の操作(P12とP13)は最初の1回だけが有効になる仕組みになっているからである。つまり、P12とP13の双方で「CT=+1」(ステップS8)にされるが、CTの値はP12とP13で同一の「+1」になるだけであり、結局、ACCリレー7の切り替え完了と同時にステップS9の判定結果がYESとなって、ステップS10で「CTをクリア」した後、ステップS11で「IGON」状態への遷移指示が行われるに過ぎないからである。したがって、ACCリレー7の切り替え中に、プッシュスイッチ2が何回操作されたとしても、その操作回数は1回とみなされ(2回以上は無視:上記例示のP12とP13でいえばP13は無視)、そのみなし回数(1回)に従い、IGON状態への遷移指示が支障なく行われる。
【0054】
<P15→破棄>
P15の操作が破棄される理由は、LOCKリレー6の切り替え中のプッシュスイッチ2の操作が無視される仕組みになっているからである。つまり、P14に応答してステップS13でLOCK状態への遷移指示を行った後、LOCKリレー6の切り替えが完了するまでの間、ステップS14をループするからであり、P15は、このループの間に生じているために無視されるからである。したがって、LOCKリレー6の切り替え中に、プッシュスイッチ2が何回操作されたとしても、その操作は全て無視され、LOCKからACCへの不本意な電源遷移は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施の形態に係る自動車用電源制御装置の概略構成図である。
【図2】実施の形態における電源遷移状態の関係を示す模式図である。
【図3】実施の形態における制御プログラムの概略フローを示す図である。
【図4】実施の形態における概念説明図である。
【符号の説明】
【0056】
2 プッシュスイッチ(操作スイッチ)
5 制御部(第1検知部、第2検知部、出力部)
6 LOCKリレー(スイッチング部)
7 ACCリレー(スイッチング部)
8 IGONリレー(スイッチング部)
9 STARTリレー(スイッチング部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押しボタン型の操作スイッチの操作に基づいて車両の複数の電源回路を切り替える制御を行う自動車用電源制御装置において、
前記電源回路と車両用バッテリーとを接続する複数のスイッチング部と、
前記操作スイッチの操作回数に応じて前記スイッチング部を所定の順序にて駆動する制御を行う制御部とを有し、
前記制御部は、
前記操作スイッチの操作を検知する第1検知部と、
前記第1検知部が前記操作スイッチの操作を検知した場合に次の順番となる前記スイッチング部を駆動させる駆動命令を出力する出力部と、
前記駆動命令を出力した時点から駆動された前記スイッチング部の接点が切り替わるまでの間に前記操作スイッチの操作回数を検知する第2検知部とを含み、
前記第2検知部で検知された操作回数の分だけ順番に沿って前記スイッチング部を駆動していき所定の順番の最後のスイッチング部を駆動させると終了し、あるいは、所定の順番の最初のスイッチング部を駆動させると終了する
ことを特徴とする自動車用電源制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−100113(P2010−100113A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271638(P2008−271638)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)