説明

自動車用電線

【課題】耐バッテリー液性に優れる自動車用電線を提供する。
【解決手段】(A)マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂1〜30重量部と、該マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂以外のポリオレフィン系樹脂との混合物100重量部、
(B)ハロゲン系難燃剤10〜80重量部、及び
(C)金属水和物難燃剤5〜45重量部、
を含む組成物で被覆されている自動車用電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用電線に関し、詳細には、所定量の金属水和物、ハロゲン系難燃剤及び変性ポリプロピレン樹脂の組合わせを含む組成物により被覆されていることによって、良好な耐バッテリー液性と同時に良好な皮むき性を備える自動車用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用電線を被覆するための絶縁樹脂組成物をハロゲンフリーにするために、ベースポリマーとしてポリプロピレン系樹脂を用い、水酸化マグネシウム等の金属水和物を充填したものが用いられている。しかし、金属水和物を大量に含むことから、これらのノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、機械的特性に問題がある。
【0003】
機械的特性、耐熱性、耐寒性等の諸特性についてバランスのとれた難燃性樹脂組成物として、(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)エチレン・酢酸ビニル共重合体、(c)スチレン系熱可塑性エラストマー、(d)変性ポリオレフィン、及び(e)水酸化マグネシウムを含有する樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、機械的特性を向上するために、ポリアミド樹脂を用いることが提案されている。しかし、成形温度が高くなるという問題がある。これを解決するために、該ポリアミド樹脂として、ポリアミド6/66共重合体を用いた樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239901号公報
【特許文献2】特開2009−40947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの樹脂組成物は、ISO6722(2006年度版)に準じる耐バッテリー液性を満たすことができないことが見出された。そこで、本発明は、耐バッテリー液性に優れる難燃性絶縁樹脂組成物により被覆された自動車用電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、種々検討したところ、金属水和物が耐バッテリー液性を悪くすることが見出された。しかし、金属水和物の量を減らすと、難燃性が低下する。さらに、皮むき性、即ち、電線と金属端末を接続するために絶縁被覆層の端部を剥がした際に、該絶縁層が容易に千切れる性能、が悪くなることも見出された。そこで、種々検討した結果、金属水和物の量を抑える代わりに、ハロゲン系難燃剤を用い、さらにマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を所定量用いることによって、上記特性を満たす組成物が得られることが分かった。
即ち本発明は、以下のとおりである。
(A)マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂1〜30重量部と、該マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂以外のポリオレフィン系樹脂との混合物100重量部、
(B)ハロゲン系難燃剤10〜80重量部、及び
(C)金属水和物難燃剤5〜45重量部、
を含む組成物で被覆されている自動車用電線。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の自動車用電線は、耐バッテリー液性、皮むき性、及び難燃性をバランス良く満たす。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<(A)ポリオレフィン系樹脂>
本発明で用いる組成物において、ベース樹脂は、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂と、該マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂以外のポリオレフィン系樹脂(以下、「ポリオレフィン系樹脂」という)の組合わせである。マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を所定量含むことによって、電線の皮むき性が良好となる。
【0010】
マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂は、無水マレイン酸をポリプロピレンにグラフト共重合したポリプロピレンである。該マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂としては、溶融法、溶液法いずれの製法で製造されたものであってもよい。該無水マレイン酸の酸価(JIS K 0070)は、15〜55であり、好ましくは、30〜40である。また重量平均分子量は15,000〜50,000であり、好ましくは20,000〜40,000である。該マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂の配合量は、ポリオレフィン系樹脂全量の、1〜30重量%であり、好ましくは、5〜10重量%である。マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂の含有量が前記範囲外であると、皮むき性が悪くなる。
【0011】
上記マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂以外のポリオレフィン系樹脂(以下、「ポリオレフィン系樹脂」と略する場合がある)は、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂以外のポリプロピレン系樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及びスチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種である。該マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂以外のポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、及びプロピレンと共重合可能なモノマーとの共重合体が含まれる。該モノマーとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテンなどのα−直鎖状オレフィン、(メタ)アクリル酸、フマル酸等の、マレイン酸以外のエチレン系不飽和カルボン酸及びその酸無水物が挙げられる。これらの共重合可能なモノマーの二種以上の組合せであってもよい。
【0012】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、結晶性ポリオレフィンと非晶性オレフィン系共重合ゴムの混合物、結晶性ポリオレフィンと非晶性ゴムのブロック共重合体、エチレン/プロピレン/ブテンの共重合体等を挙げることができる。該結晶性ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1等の単独重合体もしくは非エラストマー性共重合体が挙げられる。非晶性ゴムとしては、エチレン/プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン/1−ブテン共重合ゴム(EPM)、エチレン/プロピレン/ブテン共重合ゴム、及びエチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)などを挙げることができる。
【0013】
上記の非晶性ゴムのほかに、ゴム成分として、たとえばスチレン- ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、及びブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムなどを用いてもよい。
【0014】
該オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、「ミラストマー」(三井化学(株)社製)、「サーモラン」(三菱化学(株)製)、「住友TPE」(住友化学(株)社製)、「サントプレーン」(AESジャパン社製)、及び「ダイナロン」(JSR(株)社製)等が市販されている。
【0015】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と共役ジエン系重合体ブロック(ソフトセグメント)を有するブロック共重合体もしくはランダム共重合体が挙げられる。芳香族ビニル系化合物の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−シクロヘキシルスチレン等の核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。共役ジエン系化合物としては、ブタジエン、イソプレン、及びメチルペンタジエン等を挙げることが出来る。
【0016】
具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)などが挙げられる。
【0017】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、「ラバロン」(三菱化学(株)社製)、「住友TPE−SB」(住友化学(株)社製)、「セプトン」(クラレ(株)社製)、及び「ハイブラー」(クラレ(株)社製)等が市販されている。
【0018】
好ましくはプロピレン単独重合体及び/又はプロピレン共重合体、より好ましくはプロピレン単独重合体及びプロピレン共重合体と、オレフィン系熱可塑性エラストマーを、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂と組合わせて使用する。
【0019】
<(B)ハロゲン系難燃剤>
ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤及び塩素系難燃剤が挙げられ、例えばヘキサブロモベンゼン、エチレンビス−ジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、エチレンビス−テトラブロモフタルイミド、テトラブロモ−ビスフェノールS、トリス(2,3−ジブロモプロピル−1)イソシアヌレート、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、オクタブロモフニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA(TBA)エポキシオリゴマーもしくはポリマー、TBA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、塩素化ポリオレフィン、パークロロシクロペンタデカン、デカブロモジフェニルオキシド、ポリジブロモフェニレンオキシド、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビス−ペンタブロモベンゼン、ジブロモエチル−ジブロモシクロヘキサン、ジブロモネオペンチルグリコール、トリブロモフェノール、トリブロモフェノールアリルエーテル、テトラデカブロモ−ジフェノキシベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ペンタブロモフェノール、ペンタブロモトルエン、ペンタブロモジフェニルオキシド、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルオキシド、ジブロモネオペンチルグリコールテトラカルボナート、ビス(トリブロモフェニル)フマルアミド、N−メチルヘキサブロモフェニルアミン、及びこれらの組合わせが例示される。これらのうち、臭素系難燃剤が好ましく、TBA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)が最も好ましい。また、臭素系難燃剤と、二酸化アンチモン、三酸化アンチモンを併用することで、より少ない配合量で難燃性を満足させることができる。
【0020】
ハロゲン系難燃剤の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、10〜80重量部、好ましくは20〜50重量部である。配合量が前記下限値未満では、難燃性が十分ではなく、前記上限値を超えると、難燃性の向上が無いばかりか、他の物理的特性、例えば耐磨耗性等が低下し、又、ブリードアウトが生じ得る。
【0021】
<(C)金属水和物難燃剤>
金属水和物難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウムなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物及びこれらの組合わせを挙げることができる。これらのうち、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好ましく、なかでも水酸化マグネシウム、特に、脂肪酸またはシランカップリング剤等で表面処理された水酸化マグネシウムが好ましく使用される。
【0022】
金属水和物難燃剤の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、5〜45重量部、好ましくは20〜30重量部である。配合量が前記下限値未満では、難燃性が十分ではなく、前記上限値を超えては、耐バッテリー液性が低下する傾向がある。
【0023】
上記(A)〜(C)成分に加えて、本発明で用いる組成物には、慣用の添加剤、例えば酸化防止剤、耐候剤、安定剤、充填材、滑材、架橋剤、可塑剤、分散促進剤を、本発明の目的を阻害しない量で配合することができる。
【0024】
上記組成物は、上記各成分、所望により各種添加剤、を定法に従い溶融混合することによって製造することができる。混合手段としては、押出機、ヘンシェルミキサー、ニーダー、軸型混練機、バンバリーミキサー、ロールミル等のコンパウンディング可能な設備を使用することができる。得られた組成物を定法に従い押出し機等を用いて導体上に被覆することによって、電線を得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例により詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[実施例1〜75、比較例1〜65]
実施例の組成物は奇数番号の表に、比較例の組成物は偶数番号の表に、夫々示す配合量(重量部)の各成分をニーダー又は軸型混練機で混練することによって調製し、それらの組成物を用いて自動車用電線を作成した。表中の各成分の詳細は以下のとおりである。
ポリオレフィン系樹脂1:プロピレン単独重合体(PS201A、サンアロマー(株)製)
ポリオレフィン系樹脂2:プロピレン共重合体(PM870A、サンアロマー(株)製)
オレフィン系熱可塑性エラストマー:Q100f(サンアロマー(株)製)
スチレン系熱可塑性エラストマー:スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(タフテックH1062、旭化成(株)製)
マレイン酸変性ポリプロピレン(ユーメックス1001、三洋化成(株)製)
ハロゲン系難燃剤:臭素系難燃剤(フレームカット121K、東ソー(株)製)
金属水和物難燃剤:水酸化マグネシウム(キスマ5A、協和化学(株)製)
【0027】
得られた樹脂組成物を、押出機(φ60mm、L/D=24.5、FFスクリュ)に投入し、押出速度600mm/分、押出温度230℃にて、導体面積0.3395mm(素線構成0.2485mm×7本撚り)の導体上に押出し、仕上がり外径1.20mmの絶縁被覆電線を作製した。
【0028】
得られた電線について以下の評価を行った。
(1)皮むき性
平刃の加工機を用いて、電線の皮むき作業が容易かどうか、即ち、被覆樹脂が伸びて引き千切れないということが無くすっきり切れたかどうか、確認した。すっきり切れたものを「○」、そうでないものを「×」として評価した。
(2)耐バッテリー液性
ISO6722に従い試験を行った。絶縁被覆電線に、比重1.260±0.005のバッテリー液(HSO溶液)を一滴ずつ、滴同士が互いに接触しないようにして、振りかけた。次いで、該絶縁被覆電線を8時間、90℃のオーブン中に保持した後、取り出して、再度、上記のようにしてバッテリー液滴を振りかけた後、16時間、90℃のオーブン中に保持した。これを1サイクルとして、計2サイクル繰り返した後、室温(23℃±5℃)で30分放置した。次いで、電線を所定のマンドレルに巻き付け、巻き付けられた電線の絶縁被覆部を目視観察した。導体の露出が認められなかったものについて、耐電圧試験を行い、導通断の無いものを合格(「○」)とした。導体の露出が認められたもの及び導通断が有ったものを「×」とした。
(3)難燃性
ISO6722に従い試験を行った。長さ600mm以上の電線試料を無風槽中に、45°に傾斜させて設置し、上端から500mm±5mmの部分に、ブンゼンバーナーの還元炎を5秒間当てた後、70秒以内の消炎を合格(「○」)とし、そうでないものを「×」とした。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
【表9】

【0038】
【表10】

【0039】
上記各表に示すように、マレイン酸変性PP樹脂が本発明の範囲以外である比較例は、いずれも皮むき性に劣った。また、金属水和物難燃剤を多く含むもの(比較例13等)は、耐バッテリー液性に劣った。これらに対して、実施例の電線は、いずれの特性においても優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の自動車用電線は、バッテリー部及びその周辺に設置するのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂1〜30重量部と、該マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂以外のポリオレフィン系樹脂との混合物100重量部、
(B)ハロゲン系難燃剤10〜80重量部、及び
(C)金属水和物難燃剤5〜45重量部、
を含む組成物で被覆されている自動車用電線。

【公開番号】特開2011−233335(P2011−233335A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102035(P2010−102035)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】