自動車用骨格部品
【課題】剛性に優れた自動車用骨格部品を得る。
【解決手段】本発明に係る自動車用骨格部品1は、断面形状が略ハット形状のフレーム部品3のフランジ部3aと、フランジ部3aに対向して配置するパネル部品5とを溶接して閉断面を構成する自動車用骨格部品1であって、溶接位置座標を、フランジ部3aとパネル部品5との接触位置の端部を0とし、フランジ部3aのフランジ外端側を(−)、略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、略ハット形状の縦壁部3bとフランジ部3aを繋ぐ円弧状部3cの半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【解決手段】本発明に係る自動車用骨格部品1は、断面形状が略ハット形状のフレーム部品3のフランジ部3aと、フランジ部3aに対向して配置するパネル部品5とを溶接して閉断面を構成する自動車用骨格部品1であって、溶接位置座標を、フランジ部3aとパネル部品5との接触位置の端部を0とし、フランジ部3aのフランジ外端側を(−)、略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、略ハット形状の縦壁部3bとフランジ部3aを繋ぐ円弧状部3cの半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板により製造された自動車車体を構成する部品に関し、特に車体の曲げ剛性やねじり剛性など操縦安定性に大きな影響を及ぼす自動車用骨格部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図8、図9に示すように、フランジ部3aを有し断面形状が略ハット断面形状のフレーム部品3と、他のフレーム部品もしくはパネル部品5を溶接して閉断面を構成した自動車用骨格部品11を製造する際には、フレーム部品3のフランジ部3aを抵抗スポット溶接により接合し、部品を組み立てるのが一般的であった。
抵抗スポット溶接の場合には、スポット溶接用電極径が大きく、フランジ部3aに垂直に電極を当てて加圧する必要があるため、製品に25mm幅程度のフランジ部3aを設け、その中央部を溶接している。
【0003】
これに対し、レーザ溶接やレーザ溶接と消耗電極式のアーク溶接を組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接などのような連続溶接手法では、平坦なフランジ部3aと縦壁部3bにつづく円弧上部3cとの境界位置を溶接することが可能である。
そこで、特許文献1では、レーザ・アークハイブリッド溶接を用いて、フランジ部3aの接触端部から縦壁部の方向に(円弧上部3cの内側に)1.5mm未満の範囲を連続溶接することにより、亜鉛めっき鋼板を連続溶接する際に亜鉛のヒュームを逃がしブローホールの発生を防止するとともに、衝突安全性に優れた自動車用骨格部品21を製造することを提案している(図10、図11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-253545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フランジ部3aの中央部をスポット溶接した自動車用骨格部品は、スポット溶接であるため、図8、図9に示すように、隣接するスポット溶接部13の間は非溶接部となる。また、溶接位置がフランジ中央部であるため、スポット溶接部13と、フレーム部品3の円弧状部3cとこれに対向して溶接接合されるパネル部品5との間に形成される隙間部sは、平面状の隙間(図9の太い矢印で示す部位)も存在することから、大きな隙間となっている。
このため、自動車用骨格部品11がねじれなどの変形を受けると、フランジ端部が開口して部品剛性が著しく低下するという問題があった。
【0006】
他方、特許文献1に開示された自動車用骨格部品21の場合、フランジ部3aの端部近傍を連続溶接するため、スポット溶接のように多点溶接方向の溶接位置と溶接位置との間に非溶接部が存在することはない(図10参照)。
しかしながら、特許文献1においては、フランジ部3aの接触端部から縦壁部3bの方向に(円弧上部3cの内側に)1.5mm未満の範囲を連続溶接するとしているので、上述したスポット溶接ほどではないが、溶接部23と縦壁部3bとの隙間部sの距離がある程度長い(図11参照)。このため、自動車用骨格部品21がねじれなどの変形を受けるとその隙間部sの部位が変形して部品の剛性を低下させるという問題が残されていた。
特に略ハット断面形状のフレーム部品3の円弧状部3cの曲率半径が大きい場合には、上記板間における隙間部sで示す領域が広くなるため、部材の剛性が著しく低下する。
【0007】
本発明はかかる問題を解決するためになされたものであり、剛性に優れた自動車用骨格部品を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1において、フランジ部3aの接触端部から縦壁部3bの方向に(円弧状部3cの内側に)1.5mm未満の範囲を連続溶接する目的は、溶接時におけるブローホールの形成を防止すること、及び溶接における熱収縮にともなう歪変形防止である。
つまり、特許文献1においては溶接時に着目して上記の連続溶接する位置を決めており、溶接後の自動車用骨格部品の剛性については検討されていない。
【0009】
発明者は、溶接後の自動車用骨格部品の剛性に着目して、どのような位置を溶接することが自動車用骨格部品の剛性を高めるのに好ましいかを鋭意検討して本発明を完成したものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0010】
(1)本発明に係る自動車用骨格部品は、断面形状が略ハット形状のフレーム部品のフランジ部と、該フランジ部に対向して配置する他のフレーム部品またはパネル部品とを溶接して閉断面を構成する自動車用骨格部品であって、
溶接位置座標を、前記フランジ部と前記他のフレーム部品またはパネル部品との接触位置の端部を0とし、前記フランジ部のフランジ外端側を(−)、前記略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、前記略ハット形状の縦壁部とフランジ部を繋ぐ円弧状部の半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記片側溶接方法が、レーザ・アークハイブリッド溶接方法であり、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2R-1)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、フランジの接触面端部より円弧状部寄りの位置で溶接を行うため、従来の溶接方法に比べ、フレーム部品と対向し溶接されるフレーム部品またはパネル部品との間に発生する間隙部の距離を短くすることができ、自動車用骨格部品に荷重が作用して変形が生じる際に、間隙部の開口が抑制され、部品の剛性を向上させることができる。
そして、本発明による自動車用骨格部品を適用した自動車車体は、車体剛性が高く操縦安定性に優れるとともに、軽量化のために薄肉化した自動車用骨格部品の剛性低下を補償することができるため車体の軽量化にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動車用骨格部品の説明図である。
【図2】図1の丸で囲んだA部の拡大図である。
【図3】本発明の一実施の形態における溶接位置の座標を説明する説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態における溶接位置の求め方の説明図である。
【図5】本発明の効果を確認するための実験に用いた試験片の説明図である。
【図6】本発明の効果を確認するための実験方法の説明図である。
【図7】本発明の効果を確認するための実験結果のグラフである。
【図8】従来のスポット溶接によって形成された自動車用骨格部品の説明図である。
【図9】図8の丸で囲んだA部の拡大図である。
【図10】特許文献1に開示された自動車用骨格部品の説明図である。
【図11】図10の丸で囲んだA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係る自動車用骨格部品1は、図1に示すように、断面形状が略ハット形状のフレーム部品3のフランジ部3aと、該フランジ部3aに対向して配置するパネル部品5とを溶接部7にて溶接して閉断面を構成したものである。
そして、本実施の形態の自動車用骨格部品1は、溶接位置座標を、図3に示すように、フランジ部3aとパネル部品5との接触位置の端部を0とし、フランジ部3aのフランジ外端側を(−)、前記略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、略ハット形状の縦壁部3bとフランジ部3aを繋ぐ円弧状部3cの半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【0015】
溶接位置Xを1.5mm超えとした理由は、後述する実施例で示すように、溶接位置Xが1.5mmを超えることで自動車用骨格部品1の剛性が急激に向上するからである。
【0016】
また、溶接位置Xを+√(2Ra-a2)以下に設定した理由は以下の通りである。
溶接位置Xはなるべくフランジ接触端部より縦壁部3bに近い位置を溶接したほうが、後述の実施例により検証されるように剛性向上の観点からは有利である。しかしながら、溶接手法によって溶接可能な板間の間隙量aが決まっているため、溶接可能な間隙量aに対応する位置を上限値としたものである。自動車用骨格部品の剛性向上の観点からは、上限値に近い位置で溶接することが重要である。
【0017】
溶接位置Xの上限値である√(2Ra-a2)の求め方を図4に基づいて説明する。
図4に示すように、破線で示した円が略ハット形状の縦壁部3bとフランジ部3aを繋ぐ円弧状部3cを含む円である。
図4に示すように、溶接可能な板間の間隙量をaとすると、図4から分かるように、(R-a)2+X2=R2の関係があり、この式をXについて解くと、X=√(2Ra-a2)となる。このXが間隙量aに対応する溶接位置の上限値である。
【0018】
本実施の形態においては、図2に示すように、略ハット断面形状のフレーム部品3における縦壁部3bとフランジ部3aの間の円弧状部3cにおいて、フランジ部3aの接触面端部より円弧状部3c寄りの位置で溶接を行うため、従来の溶接方法に比べ、フレーム部品3と対向し溶接されるパネル部品5との間に発生する間隙部sを少なくすることができる。
このため、自動車用骨格部品1に荷重が作用して変形が生じる際に、間隙部sの開口が抑制され、部品の剛性を向上させることができる。
【0019】
連続溶接方法としては、レーザ溶接、レーザ溶接と消耗式電極を用いたアーク溶接とを併用したレーザ・アークハイブリッド溶接など片側から溶接が可能である手法を用いればよい。
ただし、溶接方法によって、溶接可能な板間の間隙量aにそれぞれ異なる限界値があるため、本発明を適用するにあたっては溶接位置における板間の間隙量aに応じて、溶接手法を選定すればよい。
【0020】
レーザ溶接とアーク溶接を組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接では、溶融したワイヤが接合部に供給されるため、レーザ溶接単独の溶接方法に比べ、板間の間隙量aが大きくても溶接が可能である。
【0021】
レーザ・アークハイブリッド溶接による溶接可能な間隙量aは実験的に1mm程度であることがわかっている。
したがって、略ハット断面形状のフレーム部品3の円弧状部3cの半径をR(mm)とすると、√(2Ra-a2)においてa=1を代入することで、フレーム部品3のフランジ部3aと対向し溶接される部品の平坦部との板間の間隙量が1mm以内となる範囲は、√(2R-1)mmであることが分かる。逆に言えば、フランジ面の接触端部から√(2R-1)mmの範囲までは、フレーム部品3のフランジ部3aと対向し溶接される部品の平坦部との板間の間隙量が1mm以内となるため溶接が可能である。
なお、本発明の効果は、熱延鋼板、冷延鋼板、めっき鋼板などの鋼種にはよらない。
【0022】
上記の例では断面形状が略ハット形状のフレーム部品3に溶接する部品としてパネル部品5を例示したが、パネル部品5に代えて他のフレーム部品を溶接するようにしてもよい。
【実施例】
【0023】
略ハット断面形状の自動車用骨格部品の試験片を用いて、ねじり試験を実施し本発明による効果を検証した。試験に用いた試験片は、図5に示すような長手方向800mmのストレート部品であり、ハット断面のフランジ部3aおよび縦壁部3bに挟まれた円弧状部3cの半径は10mm、フランジ幅は25mmとした。
試験片に用いた素材は、1.6mm厚の引張強度270MPa級の冷延鋼板である。図6に示すように、試験片の端部を溶接により当て板に完全に固定し、反対側の端部に0.2kNmのトルクを負荷しそのときに生じた回転角を計測して剛性値を算出した。
【0024】
連続溶接には、レーザ・アークハイブリッド溶接を用い、溶接位置を「フランジ中央部」から「フランジ接触端部から6mmの位置」までの範囲で変更し、ねじり剛性試験により剛性値を測定した。
溶接位置と、板間の間隙、及び溶接品質を表1に示す。なお、表1における「溶接位置」は、フランジ接触端部から縦壁部3b方向への距離を示している。
【0025】
【表1】
【0026】
また、剛性試験の試験結果を図7に示す。縦軸はねじり剛性比であり、比較例としてフランジ中央部をスポット溶接した試験片のねじり剛性値を1として、各試験片の剛性比を示している。
試験結果より、フランジ中央部を連続溶接することにより剛性値は5%程度上昇し、溶接位置をフランジ中央部からフランジ接触端部まで近づけることにより緩やかに剛性が向上し、フランジ接触端部(0mm)から縦壁部3b側に1.5mm程度の位置までは剛性値は飽和している。
更に本発明による1.5mm〜4mm(√(2R-1)=4.35)の範囲では、急激に剛性比が増加することがわかり、本発明による剛性向上効果が検証された。
【0027】
なお、表1に示したように、フランジ接触端部より5mm、6mm位置での連続溶接を試みたが、表1に示すように板間の間隙量が大きく、アンダフィルや溶け落ちなどの溶接不良が発生した。
このことは、溶接位置は板間距離が溶接可能な間隙量a(=1mm)以内にしなければならないことを示している。
【符号の説明】
【0028】
s 間隙の水平長さ
1 自動車用骨格部品
3 フレーム部品
3a フランジ部
3b 縦壁部
3c 円弧状部
5 パネル部品
7 溶接部
11 自動車用骨格部品(従来例)
13 スポット溶接部
21 自動車用骨格部品(従来例)
23 溶接部
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板により製造された自動車車体を構成する部品に関し、特に車体の曲げ剛性やねじり剛性など操縦安定性に大きな影響を及ぼす自動車用骨格部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図8、図9に示すように、フランジ部3aを有し断面形状が略ハット断面形状のフレーム部品3と、他のフレーム部品もしくはパネル部品5を溶接して閉断面を構成した自動車用骨格部品11を製造する際には、フレーム部品3のフランジ部3aを抵抗スポット溶接により接合し、部品を組み立てるのが一般的であった。
抵抗スポット溶接の場合には、スポット溶接用電極径が大きく、フランジ部3aに垂直に電極を当てて加圧する必要があるため、製品に25mm幅程度のフランジ部3aを設け、その中央部を溶接している。
【0003】
これに対し、レーザ溶接やレーザ溶接と消耗電極式のアーク溶接を組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接などのような連続溶接手法では、平坦なフランジ部3aと縦壁部3bにつづく円弧上部3cとの境界位置を溶接することが可能である。
そこで、特許文献1では、レーザ・アークハイブリッド溶接を用いて、フランジ部3aの接触端部から縦壁部の方向に(円弧上部3cの内側に)1.5mm未満の範囲を連続溶接することにより、亜鉛めっき鋼板を連続溶接する際に亜鉛のヒュームを逃がしブローホールの発生を防止するとともに、衝突安全性に優れた自動車用骨格部品21を製造することを提案している(図10、図11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-253545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フランジ部3aの中央部をスポット溶接した自動車用骨格部品は、スポット溶接であるため、図8、図9に示すように、隣接するスポット溶接部13の間は非溶接部となる。また、溶接位置がフランジ中央部であるため、スポット溶接部13と、フレーム部品3の円弧状部3cとこれに対向して溶接接合されるパネル部品5との間に形成される隙間部sは、平面状の隙間(図9の太い矢印で示す部位)も存在することから、大きな隙間となっている。
このため、自動車用骨格部品11がねじれなどの変形を受けると、フランジ端部が開口して部品剛性が著しく低下するという問題があった。
【0006】
他方、特許文献1に開示された自動車用骨格部品21の場合、フランジ部3aの端部近傍を連続溶接するため、スポット溶接のように多点溶接方向の溶接位置と溶接位置との間に非溶接部が存在することはない(図10参照)。
しかしながら、特許文献1においては、フランジ部3aの接触端部から縦壁部3bの方向に(円弧上部3cの内側に)1.5mm未満の範囲を連続溶接するとしているので、上述したスポット溶接ほどではないが、溶接部23と縦壁部3bとの隙間部sの距離がある程度長い(図11参照)。このため、自動車用骨格部品21がねじれなどの変形を受けるとその隙間部sの部位が変形して部品の剛性を低下させるという問題が残されていた。
特に略ハット断面形状のフレーム部品3の円弧状部3cの曲率半径が大きい場合には、上記板間における隙間部sで示す領域が広くなるため、部材の剛性が著しく低下する。
【0007】
本発明はかかる問題を解決するためになされたものであり、剛性に優れた自動車用骨格部品を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1において、フランジ部3aの接触端部から縦壁部3bの方向に(円弧状部3cの内側に)1.5mm未満の範囲を連続溶接する目的は、溶接時におけるブローホールの形成を防止すること、及び溶接における熱収縮にともなう歪変形防止である。
つまり、特許文献1においては溶接時に着目して上記の連続溶接する位置を決めており、溶接後の自動車用骨格部品の剛性については検討されていない。
【0009】
発明者は、溶接後の自動車用骨格部品の剛性に着目して、どのような位置を溶接することが自動車用骨格部品の剛性を高めるのに好ましいかを鋭意検討して本発明を完成したものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0010】
(1)本発明に係る自動車用骨格部品は、断面形状が略ハット形状のフレーム部品のフランジ部と、該フランジ部に対向して配置する他のフレーム部品またはパネル部品とを溶接して閉断面を構成する自動車用骨格部品であって、
溶接位置座標を、前記フランジ部と前記他のフレーム部品またはパネル部品との接触位置の端部を0とし、前記フランジ部のフランジ外端側を(−)、前記略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、前記略ハット形状の縦壁部とフランジ部を繋ぐ円弧状部の半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記片側溶接方法が、レーザ・アークハイブリッド溶接方法であり、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2R-1)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、フランジの接触面端部より円弧状部寄りの位置で溶接を行うため、従来の溶接方法に比べ、フレーム部品と対向し溶接されるフレーム部品またはパネル部品との間に発生する間隙部の距離を短くすることができ、自動車用骨格部品に荷重が作用して変形が生じる際に、間隙部の開口が抑制され、部品の剛性を向上させることができる。
そして、本発明による自動車用骨格部品を適用した自動車車体は、車体剛性が高く操縦安定性に優れるとともに、軽量化のために薄肉化した自動車用骨格部品の剛性低下を補償することができるため車体の軽量化にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動車用骨格部品の説明図である。
【図2】図1の丸で囲んだA部の拡大図である。
【図3】本発明の一実施の形態における溶接位置の座標を説明する説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態における溶接位置の求め方の説明図である。
【図5】本発明の効果を確認するための実験に用いた試験片の説明図である。
【図6】本発明の効果を確認するための実験方法の説明図である。
【図7】本発明の効果を確認するための実験結果のグラフである。
【図8】従来のスポット溶接によって形成された自動車用骨格部品の説明図である。
【図9】図8の丸で囲んだA部の拡大図である。
【図10】特許文献1に開示された自動車用骨格部品の説明図である。
【図11】図10の丸で囲んだA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係る自動車用骨格部品1は、図1に示すように、断面形状が略ハット形状のフレーム部品3のフランジ部3aと、該フランジ部3aに対向して配置するパネル部品5とを溶接部7にて溶接して閉断面を構成したものである。
そして、本実施の形態の自動車用骨格部品1は、溶接位置座標を、図3に示すように、フランジ部3aとパネル部品5との接触位置の端部を0とし、フランジ部3aのフランジ外端側を(−)、前記略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、略ハット形状の縦壁部3bとフランジ部3aを繋ぐ円弧状部3cの半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とするものである。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【0015】
溶接位置Xを1.5mm超えとした理由は、後述する実施例で示すように、溶接位置Xが1.5mmを超えることで自動車用骨格部品1の剛性が急激に向上するからである。
【0016】
また、溶接位置Xを+√(2Ra-a2)以下に設定した理由は以下の通りである。
溶接位置Xはなるべくフランジ接触端部より縦壁部3bに近い位置を溶接したほうが、後述の実施例により検証されるように剛性向上の観点からは有利である。しかしながら、溶接手法によって溶接可能な板間の間隙量aが決まっているため、溶接可能な間隙量aに対応する位置を上限値としたものである。自動車用骨格部品の剛性向上の観点からは、上限値に近い位置で溶接することが重要である。
【0017】
溶接位置Xの上限値である√(2Ra-a2)の求め方を図4に基づいて説明する。
図4に示すように、破線で示した円が略ハット形状の縦壁部3bとフランジ部3aを繋ぐ円弧状部3cを含む円である。
図4に示すように、溶接可能な板間の間隙量をaとすると、図4から分かるように、(R-a)2+X2=R2の関係があり、この式をXについて解くと、X=√(2Ra-a2)となる。このXが間隙量aに対応する溶接位置の上限値である。
【0018】
本実施の形態においては、図2に示すように、略ハット断面形状のフレーム部品3における縦壁部3bとフランジ部3aの間の円弧状部3cにおいて、フランジ部3aの接触面端部より円弧状部3c寄りの位置で溶接を行うため、従来の溶接方法に比べ、フレーム部品3と対向し溶接されるパネル部品5との間に発生する間隙部sを少なくすることができる。
このため、自動車用骨格部品1に荷重が作用して変形が生じる際に、間隙部sの開口が抑制され、部品の剛性を向上させることができる。
【0019】
連続溶接方法としては、レーザ溶接、レーザ溶接と消耗式電極を用いたアーク溶接とを併用したレーザ・アークハイブリッド溶接など片側から溶接が可能である手法を用いればよい。
ただし、溶接方法によって、溶接可能な板間の間隙量aにそれぞれ異なる限界値があるため、本発明を適用するにあたっては溶接位置における板間の間隙量aに応じて、溶接手法を選定すればよい。
【0020】
レーザ溶接とアーク溶接を組み合わせたレーザ・アークハイブリッド溶接では、溶融したワイヤが接合部に供給されるため、レーザ溶接単独の溶接方法に比べ、板間の間隙量aが大きくても溶接が可能である。
【0021】
レーザ・アークハイブリッド溶接による溶接可能な間隙量aは実験的に1mm程度であることがわかっている。
したがって、略ハット断面形状のフレーム部品3の円弧状部3cの半径をR(mm)とすると、√(2Ra-a2)においてa=1を代入することで、フレーム部品3のフランジ部3aと対向し溶接される部品の平坦部との板間の間隙量が1mm以内となる範囲は、√(2R-1)mmであることが分かる。逆に言えば、フランジ面の接触端部から√(2R-1)mmの範囲までは、フレーム部品3のフランジ部3aと対向し溶接される部品の平坦部との板間の間隙量が1mm以内となるため溶接が可能である。
なお、本発明の効果は、熱延鋼板、冷延鋼板、めっき鋼板などの鋼種にはよらない。
【0022】
上記の例では断面形状が略ハット形状のフレーム部品3に溶接する部品としてパネル部品5を例示したが、パネル部品5に代えて他のフレーム部品を溶接するようにしてもよい。
【実施例】
【0023】
略ハット断面形状の自動車用骨格部品の試験片を用いて、ねじり試験を実施し本発明による効果を検証した。試験に用いた試験片は、図5に示すような長手方向800mmのストレート部品であり、ハット断面のフランジ部3aおよび縦壁部3bに挟まれた円弧状部3cの半径は10mm、フランジ幅は25mmとした。
試験片に用いた素材は、1.6mm厚の引張強度270MPa級の冷延鋼板である。図6に示すように、試験片の端部を溶接により当て板に完全に固定し、反対側の端部に0.2kNmのトルクを負荷しそのときに生じた回転角を計測して剛性値を算出した。
【0024】
連続溶接には、レーザ・アークハイブリッド溶接を用い、溶接位置を「フランジ中央部」から「フランジ接触端部から6mmの位置」までの範囲で変更し、ねじり剛性試験により剛性値を測定した。
溶接位置と、板間の間隙、及び溶接品質を表1に示す。なお、表1における「溶接位置」は、フランジ接触端部から縦壁部3b方向への距離を示している。
【0025】
【表1】
【0026】
また、剛性試験の試験結果を図7に示す。縦軸はねじり剛性比であり、比較例としてフランジ中央部をスポット溶接した試験片のねじり剛性値を1として、各試験片の剛性比を示している。
試験結果より、フランジ中央部を連続溶接することにより剛性値は5%程度上昇し、溶接位置をフランジ中央部からフランジ接触端部まで近づけることにより緩やかに剛性が向上し、フランジ接触端部(0mm)から縦壁部3b側に1.5mm程度の位置までは剛性値は飽和している。
更に本発明による1.5mm〜4mm(√(2R-1)=4.35)の範囲では、急激に剛性比が増加することがわかり、本発明による剛性向上効果が検証された。
【0027】
なお、表1に示したように、フランジ接触端部より5mm、6mm位置での連続溶接を試みたが、表1に示すように板間の間隙量が大きく、アンダフィルや溶け落ちなどの溶接不良が発生した。
このことは、溶接位置は板間距離が溶接可能な間隙量a(=1mm)以内にしなければならないことを示している。
【符号の説明】
【0028】
s 間隙の水平長さ
1 自動車用骨格部品
3 フレーム部品
3a フランジ部
3b 縦壁部
3c 円弧状部
5 パネル部品
7 溶接部
11 自動車用骨格部品(従来例)
13 スポット溶接部
21 自動車用骨格部品(従来例)
23 溶接部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が略ハット形状のフレーム部品のフランジ部と、該フランジ部に対向して配置する他のフレーム部品またはパネル部品とを溶接して閉断面を構成する自動車用骨格部品であって、
溶接位置座標を、前記フランジ部と前記他のフレーム部品またはパネル部品との接触位置の端部を0とし、前記フランジ部のフランジ外端側を(−)、前記略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、前記略ハット形状の縦壁部とフランジ部を繋ぐ円弧状部の半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とする自動車用骨格部品。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【請求項2】
前記片側溶接方法が、レーザ・アークハイブリッド溶接方法であり、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とする請求項1記載の自動車用骨格部品。
+√(2R-1)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
【請求項1】
断面形状が略ハット形状のフレーム部品のフランジ部と、該フランジ部に対向して配置する他のフレーム部品またはパネル部品とを溶接して閉断面を構成する自動車用骨格部品であって、
溶接位置座標を、前記フランジ部と前記他のフレーム部品またはパネル部品との接触位置の端部を0とし、前記フランジ部のフランジ外端側を(−)、前記略ハット形状における縦壁側を(+)とした座標系で表し、前記略ハット形状の縦壁部とフランジ部を繋ぐ円弧状部の半径をR(mm)としたときに、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とする自動車用骨格部品。
+√(2Ra-a2)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
a:溶接可能な間隙量
【請求項2】
前記片側溶接方法が、レーザ・アークハイブリッド溶接方法であり、下式で表される位置Xを片側溶接方法にて連続溶接してなることを特徴とする請求項1記載の自動車用骨格部品。
+√(2R-1)≧X>1.5 ただし、R≧2 (単位:mm)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−240118(P2012−240118A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116368(P2011−116368)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(306019122)株式会社エイチワン (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(306019122)株式会社エイチワン (10)
【Fターム(参考)】
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