説明

自動車車体の製造方法

【課題】ルーフパネルとルーフレインフォースメントとの間に介在された接着剤を塗装乾燥の熱により硬化させる自動車車体の製造方法において、車体側面衝突対策に対する強化を図りつつ、塗装乾燥時における接着剤(マスチックシーラ)の破断防止の確実性を高める。
【解決手段】第1,第3,第4ルーフレインフォースメント7a,7c,7dをアルミ製し、Bピラー(中心ピラー)付近では、マスチックシーラ9の破断が問題とならないようにすると共に、車体側面衝突時にBピラー付近に作用する荷重を効果的に逃がす。さらには、塗装乾燥時に、そのBピラー付近の第2ルーフレインフォースメント7bにより一対のサイドルーフレール3が車幅方向外方に拡開することを抑制し、その大きい熱膨張率の熱膨張方向をルーフパネル6側に向け、ルーフパネル6の熱膨張に対する第1,第3,第4ルーフレインフォースメント7a,7c,7dの追従性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造(ルーフ構造)には、特許文献1に示すように、左右一対のサイドルーフレールにルーフパネルを跨るように接合し、そのルーフパネルの側部内面にルーフレインフォースメントの端部を取付けてルーフレインフォースメントとルーフパネルとの間に隙間を形成し、その隙間に接着剤を介在させてルーフパネルとルーフレインフォースメントとを接続したものがある。このものによれば、ルーフパネルが接着剤を介してレインフォースメントにより支えられることに基づき、そのルーフパネルの張り剛性(耐デント性)が確保され、また、ルーフパネルとルーフレインフォースメントとの間が接着剤により接続されてその接着剤が伸縮可能とされることに基づき、振動、騒音の発生が抑制される。
【0003】
このような車体構造は、塗装乾燥工程の熱を有効に利用すべく、次のように製造される。すなわち、塗装、塗装乾燥工程の前に、車体の状態が、上記の如く、サイドルーフレール、ルーフパネル、ルーフレインフォースメントが組付けられて、その組み付けられたルーフパネルとルーフレインフォースメントとの間に未硬化の接着剤が介在される状態とされる。その上で、その車体は、塗装、塗装乾燥工程に搬送され、その塗装乾燥工程における熱を利用することにより前記接着剤が硬化される。これにより、ルーフパネルとルーフレインフォースメントとは接着剤を介して接続されることになる。
【0004】
ところで、近時、車体の軽量化が望まれている。この観点から、上記ルーフパネルについても、材質として軽いもの(低比重のもの)が用いられる傾向にある。
【特許文献1】特開2006−240420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ルーフパネルに用いられる材質として軽いもの(低比重のもの、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金)は、熱膨張率が、一般に、そのルーフパネルの内面に取付けられるルーフレインフォースメント(例えばスチール製)の熱膨張率よりも大きく、そのような熱膨張率の大きな材質をルーフパネルに用いて、前述の塗装乾燥工程において熱を付与した場合には、ルーフパネル及びルーフレインフォースメントが各取付け部において拘束されていることから、両者はルーフパネルの外側(上側)に向けて熱膨張することになり、その際、熱膨張率の差に基づき、ルーフパネルはルーフレインフォースメントよりも該ルーフパネルの外側に向けて大きく熱膨張することになる。このため、ルーフパネルとルーフレインフォースメントとの熱膨張の差に基づき、ルーフパネルとルーフレインフォースメントとの間の接着剤が破断(接着剤切れ)するおそれがあり、そのような場合には、耐デント性、振動、騒音の抑制等の本来の機能が損なわれる。
【0006】
これに対しては、塗装乾燥時におけるルーフパネルの熱膨張に対する追従性を高めるべく、ルーフレインフォースメント全てを、ルーフパネルと同様の熱膨張率を有する材質のもの(例えばアルミニウム又はアルミニウム合金製)に変更することが考えられる。
しかし、ルーフレインフォースメント全てを、ルーフパネルと同様の熱膨張率を有する材質のものとした場合には、それらが一般的に通常のルーフレインフォースメント(例えばスチール製)よりも強度的に弱いことから、特に、車体の中心ピラー(Bピラー(センターピラー))付近に配置されるルーフレインフォースメントに関しては、車両側面衝突対策に対する強化要請の点から好ましくないものとなる。しかも、塗装乾燥時に、全てのルーフレインフォースメントが、その高い熱膨張率に基づく熱膨張により、サイドルーフレールを車幅方向外方に向けて拡げることになり、これに伴い、各ルーフレインフォースメントのルーフパネル側への熱膨張が減り、ルーフパネルに対する追従性(熱膨張)が期待するほどには高まらないおそれがある。
その一方、本件発明者は、研究の結果、塗装乾燥時に、中心ピラーから車体前後方向に離れる側、特に中心ピラーよりも車体後方側におけるルーフレインフォースメントとルーフパネルとの間の隙間間隔(上下間隔)が増大される傾向にあり、それに基づき、中心ピラー付近のルーフレインフォースメントとルーフパネルとの間の接着剤よりも、その中心ピラーから車体前後方向に離れる側(特に中心ピラーよりも車体後方側)におけるルーフレインフォースメントとルーフパネルとの間の接着剤の方が、破断される可能性が高いことを見出した。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、ルーフパネルとルーフレインフォースメントとの間に介在された接着剤を塗装乾燥の熱により硬化させる自動車車体の製造方法において、ルーフパネルとして、熱膨張率の大きな材質のものが用いられる場合であっても、車体側面衝突対策に対する強化を図りつつ、塗装乾燥時における接着剤の破断防止の確実性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)においては、
車体に対して塗装、塗装乾燥を行う前に、該車体の状態を、左右一対のサイドルーフレールに該サイドルーフレールよりも熱膨張率が大きく且つ低比重とされたルーフパネルが跨るように接合されること、該ルーフパネルの内面側に複数のルーフレインフォースメントが車幅方向に延びるようにしつつ車体前後方向に間隔をあけて取付けられること、該各ルーフレインフォースメントと該ルーフパネルとの間に隙間がそれぞれ形成されて該各隙間に接着剤がそれぞれ配置されることを満足する状態にし、この後、前記車体に対して塗装、塗装乾燥を行って、その塗装乾燥の熱により前記各接着剤を硬化させる自動車車体の製造方法において、
前記複数のルーフレインフォースメントのうち、車室の前後方向略中央に位置する中心ピラー付近のルーフレインフォースメントとして、前記ルーフパネルよりも熱膨張率が小さく且つ高強度とされたものを用い、
前記中心ピラーから車体前後方向に離れる側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントとして、前記中心ピラー付近のレインフォースメントよりも熱膨張率が大きいものを用いる構成としてある。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2以下の記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、本件発明者の知見に基づき、接着剤の破断があまり問題とならない中心ピラー付近のルーフレインフォースメントとして、ルーフパネルよりも熱膨張率が小さく且つ高強度とされた材質のものを用いることから、そこでは、接着剤の破断が問題とならいことは勿論、車体側面衝突時に最も重要となる中心ピラー付近に作用する荷重を効果的に逃がすことができ、さらには、塗装乾燥時に、その中心ピラー付近のルーフレインフォースメントにより一対のサイドルーフレールが車幅方向外方に向けて拡開(変形)することを抑制できることになり、この結果、接着剤の破断が問題となる中心ピラーから車体前後方向に離れる側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントにおいて、その大きい熱膨張率の熱膨張方向をルーフパネル側(上側)に積極的に向けることができる。これにより、接着剤の破断が問題となる中心ピラーから車体前後方向に離れる側において、ルーフパネルの熱膨張に伴うルーフレインフォースメントの追従性を高めることができ、ルーフパネルとして、熱膨張率の大きな材質のものが用いられる場合であっても、車体側面衝突対策に対する強化を図りつつ、塗装乾燥時における接着剤の破断防止の確実性を高めることができる。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、中心ピラーから車体前後方向に離れる側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントが、中心ピラーよりも車体後方側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントであることから、本件発明者の知見に基づき最も接着剤の破断が問題となる領域において、ルーフパネルの熱膨張に対するルーフレインフォースメントの追従性を高め、接着剤の破断防止の確実性を高めることができる。
【0011】
請求項3に係る発明によれば、中心ピラー付近のルーフレインフォースメントを左右一対の各サイドルーフレールに対してボルト止め状態とすることから、サイドルーフレールに対する中心ピラー付近のルーフレインフォースメントの支持剛性を高めることができ、車体側面衝突時の衝突荷重をルーフレインフォースメントに的確に伝達する(逃がす)ことができると共に、一対のサイドルーフレールが車幅方向外方に向けて拡開(変形)することを効果的に抑制して、接着剤の破断が問題となる中心ピラーから車体前後方向に離れる側において、ルーフパネルの熱膨張に伴うルーフレインフォースメントの追従性をより高めることができる。
【0012】
請求項4に係る発明によれば、中心ピラー付近のルーフレインフォースメントを左右一対の各サイドルーフレールに対してボルト止め状態とすることが、荷重伝達部材を用いて、荷重伝達部材の一端側をサイドルーフレールにボルト止めすると共に、荷重伝達部材の他端側を中心ピラー付近のレインフォースメントにボルト止めすることであることから、直接、左右一対の各サイドルーフレールに対して中心ピラー付近のルーフレインフォースメントをボルト止めしなくても、荷重伝達部材を利用することにより、前記請求項3と同様の作用効果を得ることができる。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、中心ピラーよりも車体後方側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントとして、ルーフパネルの材質と同種のものを用いることから、接着剤の破断が問題となる中心ピラーよりも車体後方側において、ルーフレインフォースメントをルーフパネルの熱膨張に的確に追従させて、接着剤の破断防止の確実性をより高めることができる。
【0014】
請求項6に係る発明によれば、中心ピラー付近のルーフレインフォースメントが、スチール製とされ、中心ピラーよりも車体後方側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントが、アルミニウム又はアルミニウム合金製とされていることから、実施に好適な材料からなる部材を用いて、前述の請求項1等と同様の作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る製造方法は、図1に示すように、車体組立工程、塗装工程、塗装乾燥工程を経ることになる。
【0016】
車体組立工程においては、車体が、塗装工程前において、所定の車体状態に組立てられる。具体的に、所定の車体状態について説明する。車体1は、図2に示すように、左右一対の車体側部2を有しており、その各車体側部2には、その各上部において、車体基部材としてのサイドルーフレール3が車体前後方向に延びるようにしてそれぞれ設けられ、その左右一対のサイドルーフレール3には、車室の前後方向略中間位置において、Bピラー(中心ピラー)PBが下方に延びるようにして接合されている。この左右一対のサイドルーフレール3には、その前部において、フロントヘッダ4が跨るように取付けられ、その左右一対のサイドルーフレール3の後部にはリアヘッダ5が跨るように取付けられている。
【0017】
前記左右一対の各サイドルーフレール3は、図4,図5に示すように、スチール製のアウターパネル(サイドアウタパネル)10とインナパネル(サイドルーフインナ)11とにより閉断面12を構成するようにしつつ車体前後方向に延びている。アウターパネル10及びインナパネル11は、一対の接合部(フランジ部)10a,10b、11a,11bを上下配置関係をもってそれぞれ有している。アウターパネル10及びインナパネル11の各上側接合部10a,11aは、車幅方向内方に向けてそれぞれ略水平に突出しており、アウターパネル10の上側接合部10aは、インナパネル11の上側接合部11aよりも車幅方向内方に向けて突出されている。アウターパネル10及びインナパネル11の各下側接合部10b、11bは、下方に向うに従って車幅方向外方に向うように傾斜した状態で延びており、その両接合部10b、11bは対向配置されている。このアウターパネル10とインナパネル11との間には、その両パネル10,11が形成する閉断面12を二分するようにしてスチール製のレインフォースメント13が配置されている。レインフォースメント13の一端側13aは、BピラーPB付近から車体前後方向に離れた領域において、図4に示すように、アウターパネル10の上側接合部10aとインナパネル11の上側接合部11aとの間を通って、アウターパネル10の上側接合部10aに対向する位置にまで延び、BピラーPB付近においては、図5に示すように、上述のBピラーPB付近から車体前後方向に離れた領域の場合(図4の場合)よりもさらに車幅方向内方に延びている。このレインフォースメント13に対して、アウターパネル10の上側接合部10a及びインナパネル11の上側接合部11aが、車幅方向にずれた状態で溶接により接合されている(以下、溶接部分は、他の部分を含め、符号Wをもって示す)。一方、レインフォースメント13の他端側は、アウターパネル10及びインナパネル11の下側接合部10b、11bに対向する位置にまで延びており、そこにおいて、三者13,10b,11bは、溶接により一体化されている。
【0018】
前記フロントヘッダ4、リアヘッダ5、左右一対のサイドルーフレール3上には、図2,図4,図5に示すように、パネル部材として、アルミニウム又はアルミニウム合金製(以下、アルミ製)のルーフパネル6が配置されている。このルーフパネル6は、その両側部に車幅方向外方に向けて突出する接合部(フランジ部)6aと、その各接合部6aの内方側から上方にそれぞれ立ち上がる起立壁部6bと、その両起立壁部6b,6bを上方に凸となる湾曲状態をもって接続するルーフパネル本体部6cと、を有している。このルーフパネル6の前部はフロントヘッダ4に取付けられ、そのルーフパネル6の後部はリアヘッダ5に取付けられ、そのルーフパネル6の両側部は、左右一対のサイドルーフレール3に取付けられている。そのうち、ルーフパネル6の両側部に関しては、その各側部の接合部6aが、各サイドルーフレール3におけるアウターパネル10の接合部10aに上側から溶接により接合されており、この接合(溶接)には、前述のアウターパネル10の接合部10aとレインフォースメント13のとの接合の際の溶接が用いられる(図4,図5参照)。
【0019】
前記ルーフパネル6の内面側には、図2,図4,図5に示すように、第1〜第4ルーフレインフォースメント7a〜7d(代表符号として7を用いる)が車幅方向に延びるようにして配置されている。具体的には、第1ルーフレインフォースメント7aは、フロントヘッダ4とBピラーPBとの間に配置され、第2ルーフレインフォースメント7bは、BピラーPB付近(近傍)に配置され、第3,4レインフォースメントは、BピラーPBとリアヘッダ5との間において、車体後方に向けて間隔をあけて順次、配置されている。本実施形態においては、第1,第3,第4ルーフレインフォースメントとして、低比重で熱膨張率の大きいアルミニウム又はアルミニウム合金製(以下、アルミ製)のものが用いられ、第2ルーフレインフォースメントとして、アルミニウム又はアルミニウム合金よりも高強度で熱膨張率が小さいスチール製のものが用いられている。この各ルーフレインフォースメント7は、ルーフパネル6の両接合部6a間にそれぞれ掛け渡されており、各ルーフレインフォースメント7の各端部は、ルーフパネル6の接合部6aの下面に溶接により接合されている。この各ルーフレインフォースメント7は、ルーフパネル6の起立壁部6bよりも車幅方向内方側において、段差部14を形成するように屈曲された後、略水平状態をもって車幅方向内方に延びており、この段差部14よりも車幅方向内方側において、各ルーフレインフォースメント7とルーフパネル6との間に所定の隙間(例えば4mm程度)8が形成されている。この各ルーフレインフォースメント7とルーフパネル6との間の所定の隙間8には、図3,図4,図5に示すように、接着剤として複数のマスチックシーラ9が配置されている(図3はルーフパネル6を除いた状態で図示、図4,図5においては、1つのマスチックシーラ9のみを図示)。この各マスチックシーラ9は、熱を加えることにより、発泡、硬化し、ルーフパネル6内面とルーフレインフォースメント7とを接続する機能を有しているが、塗装工程に移行する前の現段階(組立工程)においては、各マスチックシーラ9は、未だ硬化していない。
【0020】
前記第2ルーフレインフォースメント7bの下面側には、図5に示すように、サイドルーフレール3の要素であるレインフォースメント13の一端側が延出されている。このレインフォースメント13は、第2ルーフレインフォースメント7bの下面に沿うようにして配置されており、その端部には、長孔20が形成されている。一方、第2ルーフレインフォースメント7bには、長孔20の上方領域において取付けボルト21が予め取付けられており、その軸部21aは、第2ルーフレインフォースメント7bの下面側に向けて突出されている。この取付けボルト21の軸部21aは、レインフォースメント13の長孔20を貫通して下方に延びており、その軸部21aにナット22が螺合されている。これにより、サイドルーフレール3(レインフォースメント13)に対して第2ルーフレインフォースメント7bがボルト止め(ボルト留め)されている。
【0021】
図6〜図13は、本件発明者が、塗装工程前の所定の車体状態をこれまで述べてきたものに決定した実験結果を示している。そのうち、図6〜図11に示す実験結果は、実機において、ルーフパネルをアルミ製に取り替えて(ルーフレインフォースメント7a〜7dに関しては、従来通り、全てスチール製のものを使用)、所定温度(180℃)に加熱したときに(後述の塗装乾燥工程の熱膨張を想定)、ルーフパネルと第1〜第4ルーフレインフォースメントとの隙間8間隔(上下間隔)がどのようになり、その結果、接着剤としてのマスチックシーラ9の状態がどのようになったかを調べたものである。
より具体的には、図6は、上記ルーフパネル6(右半分)の熱膨張時(加熱時の)の熱膨張状態(変位)を等高線をもって可視化した状態を平面的に示しており、その図6において、下側のフロントヘッダ4,ルーフレインフォースメント7a〜7d、リアヘッダ5は、ルーフパネル6に対する車体前後方向の相当位置を示している。図7は、加熱を終えて、車体1が所定温度(例えば15℃)まで下降した後、マスチックシーラ9が破断(マスチックシーラ切れ)しているか否かを示している(符号OBLは中心線を示す)。図8〜図11は、加熱を終えて、車体1が所定温度(例えば15℃)まで下降した後(図8〜図11おいては冷却後として表示)における各ルーフレインフォースメント7a〜7dとルーフパネル6との間の隙間8間隔を示している。この図8〜図11において、各ルーフレインフォースメント7a〜7dについての各隙間8間隔の測定点(特性線の符号)は、図7における符号をもって示されている。
尚、この場合、アルミ製ルーフパネル6に関しては、張り剛性をスチール製ルーフパネルと等しくすべく、板厚調整を行い、また、第2ルーフレインフォースメント7bについては、サイドルーフレール3に対してボルト止めを行った。
【0022】
図8〜図11に示す実験結果によれば、車体の冷却後における各隙間8間隔に関し、第2ルーフレインフォースメント7bとルーフパネルとの隙間8間隔があまり増大しない一方で、第1,第3,第4ルーフレインフォースメント7a,7c,7dとルーフパネル6との各隙間8間隔が、第2ルーフレインフォースメント7bとルーフパネル6との隙間8間隔よりも大きく増大した。特に、車体後方側の第3,第4ルーフレインフォースメント7c,7dとルーフパネル6との隙間8間隔が大きく増大した。このことから、加熱時(熱膨張時)においても、各ルーフレインフォースメント7a〜7dにおける各隙間8間隔について、上記冷却後の場合と同様の傾向があるとの知見を得た。
【0023】
図7に示す実験結果に関しては、上記図8〜図11の結果を反映した結果となった。すなわち、マスチックシーラ9の破断は、第2ルーフレインフォースメント7bとルーフパネル6との間のマスチックシーラ9にはあまり起こらず、それ以外のマスチックシーラ9、特に車体後方側の第3,第4ルーフレインフォースメント7c,7dとルーフパネルとの間のマスチックシーラ9に多く発生した。
【0024】
一方、図12,図13に示す実験は、ルーフパネル6をアルミ製とする状況の下で、第1〜第4の全てのルーフレインフォースメントをアルミ製とする場合(図13)と、第2ルーフレインフォースメント7bのみをスチール製(鋼板製)としその他のルーフレインフォースメント7a,7c,7dをアルミ製とした場合(図12)とについて、180℃加熱時(後述の塗装乾燥工程の熱膨張を想定)の隙間8間隔(接着剤9の破断が問題となる個所の隙間間隔)がどのようになるかを調べたものである。尚、図12,図13のいずれの実験においても、第2ルーフレインフォースメント7bは、サイドルーフレール3にボルト止めした。
この図12,図13に示す実験結果によれば、第2ルーフレインフォースメント7bのみをスチール製とした場合(図12)における第1,第3ルーフレインフォースメント7a,7cとルーフパネル6との間の隙間8間隔の方が、第2ルーフレインフォースメント7bを含む全てのルーフレインフォースメント7a〜7dをアルミ製とした場合(図13)における第1,第3ルーフレインフォースメント7a,7cとルーフパネル6との間の隙間8間隔よりも狭くなった。
【0025】
このような結果から、本件発明者は、ルーフパネル6の熱膨張に伴う接着剤9の破断を防止する観点から(アルミ製ルーフパネル6の熱膨張に対する追従性を高める必要があることから)、基本的には、ルーフレインフォースメントとして、アルミ製ルーフレインフォースメントを用いるべきとであると考えている。そしてその上で、第2ルーフレインフォースメント7bをスチール製としても接着剤9の破断があまり問題とならず、そのように第2ルーフレインフォースメント7bをスチール製とする方が、むしろ、接着剤9の破断が問題となるその他のルーフレインフォースメント7a,7c,7d(アルミ製)とアルミ製ルーフパネル6との隙間8間隔をより狭めることができるとの知見から、本件発明者は、第2ルーフレインフォースメント7bのみをスチール製とすべきとの考えに至っている。これについては、本件発明者は、図15に示すように、ルーフパネル6の熱膨張時に、左右一対のサイドルーフレール3が拡がろうすること(変形)がスチール製ルーフレインフォースメント7bにより規制される結果、大きい熱膨張率を有するルーフレインフォースメント(アルミ製)7a,7c,7dの熱膨張方向がルーフパネル側(上側)に積極的に向けられるためと考えている(図15中、破線矢印は熱膨張方向)。この考えに基づき、車体1は、前述した如く、所定の車体状態とされている。この所定の車体状態は、同時に、車体側面衝突の衝撃力がサイドルーフレール3から入力されても、その衝撃力をBピラーPBだけでなく第2ルーフレインフォースメント7bにも逃がす構造となり、車体側面衝突対策の強化を図ることにもなる。
【0026】
車体組立工程で車体1が上記所定の車体状態とされると、車体1は、塗装工程、塗装乾燥工程へと順次、搬送される。塗装工程においては、本実施形態においては、前記車体1に対して電着塗装が行われ、塗装乾燥工程においては、その塗装膜の乾燥が行われる。また、塗装乾燥工程においては、塗装膜の乾燥の他に、その塗装乾燥工程の熱を有効利用すべく、その熱は、各マスチックシーラ9の硬化ために使用される。これにより、各マスチックシーラ9は、発泡、硬化することになり、ルーフパネル6と各ルーフレインフォースメント7とは、各マスチックシーラ9を介して接続される。
【0027】
その一方で、塗装乾燥工程においては、その工程における熱が、同時に、ルーフパネル6及び各ルーフレインフォースメント7に対しても付与されることになり、ルーフパネル6及び各ルーフレインフォースメント7は、その各熱膨張率に基づき、上方側に向けて熱膨張する。
しかし、前述した如く、車体1が所定の車体状態(第2ルーフレインフォースメント7bのみがスチール製され、第1,第3,第4ルーフレインフォースメント7a,7c,7dがアルミ製とされていること)とされており、この塗装乾燥工程において、各マスチックシーラ9が破断することは抑制される。
すなわち、第2ルーフレインフォースメント7bとルーフパネル6との間のマスチックシーラ9の破断に関しては、本件発明者の知見に基づき元々問題にならない一方、第1,第3,第4ルーフレインフォースメント7a,7c,7dとルーフパネル6との間のマスチックシーラ9の破断に関しては、ルーフパネル6の熱膨張時に、左右一対のサイドルーフレール3が車幅方向外方に拡がろうすること(変形)が比較的強固なスチール製ルーフレインフォースメント7bにより規制され、ルーフレインフォースメント7a,7c,7dは、その方向(車幅方向外方)への熱膨張が規制される。その結果、各ルーフレインフォースメント7a,7c,7dの熱膨張方向がルーフパネル側(上側)に向くことになり、これにより、ルーフパネル6の熱膨張に対する各ルーフレインフォースメント7a,7c,7dの追従性が高まって、第1,第3,第4ルーフレインフォースメント7a,7c,7dとルーフパネル6との間のマスチックシーラ9の破断が抑制されることになる(図15参照)。
以上の塗装乾燥工程が終了すると、車体1に対する本実施形態が関係する工程は終了する。
【0028】
図14は、ルーフパネル6としてアルミ製のものを用い、第2ルーフレインフォースメント7b(サイドルーフレインフォースメント3とはボルト止め)としてスチール製のものを用いた状況の下で、第3,第4ルーフレインフォースメント7c,7dをアルミ製とした場合(図14中、左側)と、スチール製(鋼板製)とした場合(図14中、右側)とについて、熱膨張時(180℃加熱時)の隙間8間隔(上下間隔)がどのようになるかを調べた実験結果(図示化したもの)を示したものである。図14の実験結果によれば、第3,第4ルーフレインフォースメント7c,7dをアルミ製とした場合の方が、第3,第4ルーフレインフォースメント7c,7dをスチール製とした場合に比べて、隙間8間隔が狭まる結果を示し、この点からも、前述の内容が裏付けられた。
【0029】
図16は第2実施形態をを示す。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図16に示す第2実施形態においては、第2ルーフレインフォースメント7bをサイドルーフレール3に直接的ではなく、両者7b、3間に荷重伝達部材としてのガセット(例えば鋼板製)23を介在させ、そのガセット23と第2ルーフレインフォースメント7b、サイドルーフレール3とガセット23とをそれぞれボルト24によりボルト止めしたものを示している。これによっても、第2ルーフレインフォースメント7bとサイドルーフレール3とを直接、ボルト止めした場合と同様の作用効果を生じる。尚、図16中、符号25は、ボルト24を挿通させるためにガセット23に形成された取付け孔、26はボルト24を挿通させるためにガセット23に形成された取付け用長孔である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の製造方法が実施される車体の製造工程を示す工程図。
【図2】第1実施形態に係る所定の車体状態を説明する説明図。
【図3】ルーフレインフォースメント上のマスチックシーラの配置を説明する説明図。
【図4】第1実施形態に係る第1,第3,第4ルーフレインフォースメント位置における車体断面を示す図。
【図5】第1実施形態に係る第2ルーフレインフォースメント位置における車体断面を示す図。
【図6】アルミ製ルーフパネルの熱膨張時の熱膨張状態(変位)を等高線をもって可視化した状態を平面的に示す図。
【図7】アルミ製ルーフパネル、スチール製ルーフレインフォースメントを用いた場合におけるマスチックシーラの破断結果を示す図。
【図8】アルミ製ルーフパネル、スチール製ルーフレインフォースメントを用いた場合において、そのアルミ製ルーフパネルと第1ルーフレインフォースメントとの隙間間隔の変化を示す図。
【図9】アルミ製ルーフパネル、スチール製ルーフレインフォースメントを用いた場合において、そのアルミ製ルーフパネルと第2ルーフレインフォースメントとの隙間間隔の変化を示す図。
【図10】アルミ製ルーフパネル、スチール製ルーフレインフォースメントを用いた場合において、そのアルミ製ルーフパネルと第3ルーフレインフォースメントとの隙間間隔の変化を示す図。
【図11】アルミ製ルーフパネル、スチール製ルーフレインフォースメントを用いた場合において、そのアルミ製ルーフパネルと第4ルーフレインフォースメントとの隙間間隔の変化を示す図。
【図12】ルーフパネルをアルミ製、第2ルーフレインフォースメントをスチール製、第1.第3,第4ルーフレインフォースメントをアルミ製とした場合における熱膨張時の隙間間隔の実験結果を示す図。
【図13】ルーフパネルをアルミ製、第1〜第4ルーフレインフォースメントをアルミ製とした場合における熱膨張時の隙間間隔の実験結果を示す図。
【図14】ルーフパネルをアルミ製、第2ルーフレインフォースメントをスチール製とする状況の下で、第1,第3,第4ルーフレインフォースメントの材質(アルミ製、スチール製)を変えたときの熱膨張時の隙間間隔(実験結果)を示す図。
【図15】第1実施形態を概念的に説明する説明図。
【図16】第2実施形態に係る所定の車体状態を説明する説明図。
【符号の説明】
【0032】
1 車体
3 サイドルーフレール
6 ルーフパネル
7(7a,7b,7c,7d) ルーフレインフォースメント(ルーフレインフォースメント)
8 隙間
9 マスチックシーラ(接着剤)
13 レインフォースメント(サイドルーフレール)
21 取付けボルト
22 ナット
23 ガセット(荷重伝達部材)
24 ボルト
PB Bピラー(中心ピラー)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対して塗装、塗装乾燥を行う前に、該車体の状態を、左右一対のサイドルーフレールに該サイドルーフレールよりも熱膨張率が大きく且つ低比重とされたルーフパネルが跨るように接合されること、該ルーフパネルの内面側に複数のルーフレインフォースメントが車幅方向に延びるようにしつつ車体前後方向に間隔をあけて取付けられること、該各ルーフレインフォースメントと該ルーフパネルとの間に隙間がそれぞれ形成されて該各隙間に接着剤がそれぞれ配置されることを満足する状態にし、この後、前記車体に対して塗装、塗装乾燥を行って、その塗装乾燥の熱により前記各接着剤を硬化させる自動車車体の製造方法において、
前記複数のルーフレインフォースメントのうち、車室の前後方向略中央に位置する中心ピラー付近のルーフレインフォースメントとして、前記ルーフパネルよりも熱膨張率が小さく且つ高強度とされたものを用い、
前記中心ピラーから車体前後方向に離れる側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントとして、前記中心ピラー付近のレインフォースメントよりも熱膨張率が大きいものを用いる、
ことを特徴とする自動車車体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記中心ピラーから車体前後方向に離れる側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントが、前記中心ピラーよりも車体後方側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントである、
ことを特徴とする自動車車体の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記中心ピラー付近のルーフレインフォースメントを前記左右一対の各サイドルーフレールに対してボルト止め状態とする、
ことを特徴とする自動車車体の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記中心ピラー付近のルーフレインフォースメントを前記左右一対の各サイドルーフレールに対してボルト止め状態とすることが、荷重伝達部材を用いて、該荷重伝達部材の一端側を該サイドルーフレールにボルト止めすると共に、該荷重伝達部材の他端側を該中心ピラー付近のレインフォースメントにボルト止めすることである、
ことを特徴とする自動車車体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
前記中心ピラーよりも車体後方側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントとして、前記ルーフパネルの材質と同種のものを用いる、
ことを特徴とする自動車車体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、
前記中心ピラー付近のルーフレインフォースメントが、スチール製とされ、
前記中心ピラーよりも車体後方側の少なくとも1つのルーフレインフォースメントが、アルミニウム又はアルミニウム合金製とされている、
ことを特徴とする自動車車体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−83246(P2010−83246A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252548(P2008−252548)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】