説明

自動車部品上に硬化塗膜組成物を形成する方法

自動車部品上に硬化塗膜組成物を形成する方法が提供される。本方法は、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を含む塗装化合物を用い、該塗膜組成物を自動車部品へ塗布する工程を含む。この有機ボラン開始剤は、炭素主鎖と二個の有機ボラン錯形成基をもつ二官能性非環式ブロック剤と錯形成する。この二個の基は、相互に異なり、アミン基とチオール基とホスフィン基からなる群からから選ばれる。また、この二個の基は、それぞれ2〜4個の炭素原子で隔てられて、ブロック剤の有機ボラン開始剤に対する求核性があげられている。この有機ボラン開始剤は、ブロック剤から非錯化されるとラジカルを形成し、これがラジカル重合性化合物の重合と自動車部品上の塗膜組成物の硬化に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には有機ボラン開始剤を用いて自動車部品上に硬化塗膜組成物を形成する方法に関する。より具体的には、この有機ボラン開始剤は、特定の二官能性非環式ブロック剤と錯生成をする。
【背景技術】
【0002】
車両の生産数の伸びのため、米国等の国では自動車の塗装や再塗装は成長産業である。通常、OEMでの自動車の仕上げ塗料と、販売後の自動車の再塗装塗料は、二つの濃縮相の物理的混合を必要とする二成分組成物である。この混合により、通常硬化が制限され、硬化時間が延び、複雑な形状や凹んだ表面への塗膜の塗布が妨げられる。
【0003】
このため、自動車の仕上げ塗装や再塗装では、UV硬化や電子線法などの急速硬化技術の使用に興味がもたれつつある。これらの技術は、塗膜の重合や硬化に、紫外光によるラジカルであれ電子線からの電子であれ自由電子を用いる。これらの技術では、硬化の異なる溶媒系及び水系塗装と較べて塗装の硬化時間が短縮されるが、UVランプや真空、フィラメントなどの高価な設備を必要とする。したがって、これらの技術の使用は、高コストであり、時間を浪費し、人手を多く必要とし、フィルムの収縮や酸素表面阻害を受ける恐れがある。
【0004】
他方、再塗装膜も、架橋反応を開始するため熱や大きな炉を使って硬化できる。通常、これらの塗膜は、自動車部品上に塗布され、次いでこれらの塗膜の硬化のために炉内を通過させられる。しかしながら、このような炉の使用は非常に多くのエネルギーを浪費し、環境に悪影響を与える。OEM自動車製造設備では、これらの炉が大面積を占め、使用しがたい。
【0005】
塗膜の硬化速度と効率を向上させるために、他の技術も開発された。この技術は、有機モノマーを重合し塗膜を硬化させるラジカルを生成するのに、ホウ素化合物、例えば有機ボラン開始剤を使用する。有機ボラン開始剤は、そのラジカル発生能と有機モノマーを重合する能力により、フリーラジカル重合を開始させて塗膜の低表面エネルギー基材への接着を進める。いずれかの特定の理論に拘泥するのではないが、有機ボラン開始剤の拡散律速での酸化とそれからのラジカルの発生は、有機ボラン開始剤中のホウ素−酸素結合の熱力学的安定性により引き起こされ、酸素中では有機ボラン開始剤が自然発火すると考えられている。この反応性のため、これらの有機ボラン開始剤は、通常ブロック剤で安定化されており、これにより有機ボラン開始剤への酸素付加が起こりにくくなり、ラジカルの生成があまり速くならないようになっている。これらのブロック剤は、制御された条件(例えば、加熱または非錯体化剤への暴露)下で解離し、有機ボラン開始剤を放出し、酸素との反応によりフリーラジカル成形を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国公開公報第2007/0196579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
典型的な公知のブロック剤は、効果的ではあるものの、いろいろ異なる塗装条件下での、特に仕上げ塗装や再塗装用途に用いられた場合での解離の自由度(即ち、ブロックの除去)に欠く。従って、塗膜形成方法で使用しうる改善された有機ボラン錯体の開発の余地が存在する。また、有機ボラン錯体を用いる、改善された自動車部品上に硬化塗膜組成物を形成する方法の開発の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有機ボラン開始剤を用いて、自動車部品上に硬化塗膜組成物を形成する方法を提供する。本方法は、自動車部品に塗膜組成物を塗布する工程を含む。この塗膜組成物は、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を含んでいる。この有機ボラン開始剤は、二官能性非環式ブロック剤と錯体を形成している。このブロック剤は、炭素主鎖と二個の相互に異なる有機ボラン錯形成基をもつ。この有機ボラン錯形成基は、アミン基、チオール基及びホスフィン基からなる群からから選ばれ、それぞれ2〜4個の炭素原子で隔てられている。この分離により、ブロック剤の有機ボラン開始剤に対する求核性が増加している。本方法はまた、ブロック剤から有機ボラン開始剤を非錯化してラジカルを形成する工程を含む。本方法はさらに、このラジカルを用いてラジカル重合性化合物を重合し、自動車部品上の塗膜組成物を硬化させる工程を含む。
【0009】
本発明のブロック剤は、本方法の汎用性を増加させ、本方法をいろいろな条件下で使用可能とする。より具体的には、本発明のブロック剤は、アミンとチオール官能基、アミンとホスフィン官能基、またはチオールとホスフィン官能基を有し、特定の条件の向けた、また特定の硬化特性や時間に適した方法を可能とする。また、このブロック剤はいろいろな官能基をもつため、特に特定用途で使用するために有機ボラン開始剤からこのブロック剤を選択的に除くことができる。さらに、2〜4個の炭素原子で錯形成基が隔てられているため、ブロック剤の求核性が増加し、ブロック剤が有機ボラン開始剤とより完全に相互作用することが可能となる。
【0010】
次の添付図とともに以下の詳細な説明を参照することで、本発明の他の利点が容易に明確となり、よりよい理解が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、酸を非錯体化剤として用いて、有機ボラン開始剤をブロック剤から非錯体化する場合の第一の理論的反応機構を示す。
【図2】図2は、有機ボラン開始剤をブロック剤から非錯体化する場合の第二の理論的反応機構を示す。
【図3】図3は、二酸化炭素をフリーのアミンと相互作用する非錯体化剤として用いて有機ボラン開始剤をブロック剤から非錯体化する場合の第三の理論的反応機構を示す。
【図4】図4は、有機ボラン開始剤を用いるラジカルの成形と伝搬の理論的反応経路と有機ボランと酸素との間に起こりうる副反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、以下に詳細に説明するラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤とを含む塗料組成物を提供する。本発明はまた、以下に詳細に説明する自動車部品上に硬化塗膜組成物を形成する方法と上記ラジカル重合性化合物を重合する方法を提供する。
【0013】
この塗膜組成物(以降「組成物」と称す)は、いずれの産業で用いてもよい。この組成物は、OEM「仕上げ」塗膜、販売後の「再」塗膜、自動車の塗膜、保護塗膜、フィルム、カプセル化剤、ゲル、シーラント、放出塗膜、コンフォーマル塗膜およびこれらの組み合わせなど様々な用途に使用でき、これらに限定されるのではない。最も多くは、この組成物は、自動車のOEM仕上げ塗装または自動車の再塗装に、プライマー、ベースコート、クリアコート、及び/又はシーラントとして用いられる。
【0014】
この組成物は、水性であっても溶媒性であってもよく、一成分系(1K)であっても、二成分系(2K)であってもよい。この組成物は、通常自動車部品などの基材に塗布し、硬化してフィルムを形成する。ある実施様態においては、この組成物が2K系であり、相互に反応性の二成分を、具体的には上述のラジカル重合性化合物と、下に詳述する非錯体化剤と有機ボラン開始剤とを含んでいる。他の実施様態においては、この2K系は、一成分に架橋剤を含み、他成分にラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を含む。この実施様態においては、有機ボラン開始剤が、架橋剤あるいはラジカル重合性化合物と共存しても良く、また両方と共存してもよい。更に別の実施態様においては、この組成物が1K系であり、ラジカル重合性化合物を含む。さらに他の実施様態においては、この組成物が1K系であり、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を含む。他の実施様態においては、この1K系が、ラジカル重合性化合物と架橋剤と非錯体化剤とを含む。さらに他の実施様態においては、この1K系または2K系が、実質的にまたは完全に、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤とからなる。「実質的に」とは、1K系または2K系が、系の基本的な新規な特徴に物質的な影響を与えない化合物のみを、例えばオレフィン、ポリオレフィン、アルキン、アクリレート、不飽和アクリル酸エステル樹脂、機能的アクリル酸エステルモノマー等のみを含むことを意味する。さらに他の実施様態においては、この1K及び/又は2K系は、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、UVAパッケージ、流動性添加物、湿潤剤、顔料、架橋剤、触媒等を含んでいてもよい。また、この1K及び/又は2K系は、アクリレート及び/又はメタクリレートをラジカル重合性化合物として含んでいてもよい。
【0015】
上述のように、ラジカル重合性化合物が塗膜組成物中に存在する。このラジカル重合性化合物は、通常分子当り一個以上のエチレン性不飽和基、即ちC=C基を有する。このラジカル重合性化合物は、2個のエチレン性不飽和基をもっていてもよく、3個以上のエチレン性不飽和基をもっていてもよい。このラジカル重合性化合物はまた、一個以上のアルキニル基、即ちC≡C基をもっていてもよい。このラジカル重合性化合物は、このラジカル重合性化合物がラジカル重合可能であればいずれでも良く、モノマー、ダイマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマー、コポリマー、ブロックポリマー、星型ポリマー、グラフトポリマー、ランダムコポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。ある実施様態においては、このラジカル重合性化合物がモノマーである。もう一つの実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、部分的に重合しており、オリゴマーまたはポリマーであるが、まだ更に重合する能力を保持している。他の実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、モノ−及びポリ−不飽和グリセロールまたはリン脂質、ホスホジエステル、ペプチド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、およびこれらの組み合わせで、少なくとも一種のラジカル重合可能な官能基をもつものからなる群からから選ばれる。
【0016】
さらに他の実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、アクリレート、カルバメート、エポキシド、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。カルバメートとエポキシドの好適な非制限的な例は、少なくとも一種のラジカル重合可能な官能基をもち、さらに通常、エステル、エーテル、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、アミド、尿素、アクリル系基、硫黄基、リン基、及びこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる一種以上の官能基をもつものである。これらのカルバメートとしては、脂肪族、脂環式、および芳香族基が含まれ、分岐状炭化水素官能基、ヒドロキシル官能基、カルボキシレート官能基、カルバメート官能基、及び/又はエステル官能基などを含む(が、これらに限定されない)いろいろな官能基をもつ線状または分岐構造を有していてもよい。他の実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、α,β−不飽和脂肪族化合物、ビニルエステル、置換スチレン、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。好適なα,β−不飽和脂肪族の化合物の例としては、例に限定されないが、例えば1−オクテン、1−ヘキセン、1−デセン、およびこれらの組み合わせがあげられる。好適なビニルエステルとスチレンの非制限的な例としては、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、およびこれらの組み合わせがあげられる。
【0017】
他の実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、アクリレート、ハロゲン置換のアクリレート、アルケノエート、カーボネート、フタレート、アセテート、イタコネート、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。アクリレートの好適な例としては、特に限定されないが、例えば、ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソデシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、イソシアナトアクリレートなどのイソシアネート含有アクリレート、およびこれらの組み合わせがあげられる。他の実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、ジアクリレート、トリアクリレート、ポリアクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。ジ−、トリ−、およびポリ−アクリレートの好適な例としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アルコキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、およびこれらの組み合わせがあげられる。ウレタンアクリレートの適当な非制限的な例には、UCBケミカルズから販売されているエベクリル8402とエベクリル8301や、アクロスケミカルズから販売されているアクチレーン251が含まれる。不飽和ポリエステルの好適な非制限的な例には、無水マレイン酸で製造したポリエステルが含まれる。他の実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、さらにOH−アクリル樹脂とジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレートの混合物と定義される。更に別の態様において、このラジカル重合性化合物が、不飽和アクリル酸及びメタクリル酸のエステルの樹脂、官能性アクリル酸及びメタクリル酸エステルモノマー、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。
【0018】
さらに他の実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、カプロラクトンアクリレート、ペルフルオロブチルアクリレート、ペルフルオロブチルメタクリレート、1H−,1H−,2H−,2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、1H−,1H−,2H−,2H−ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート、テトラヒドロペルフルオロアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、ビスフェノールAアクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAメタクリレート、ヘキサフルオロビスフェノールAジアクリレート、ヘキサフルオロビスフェノールAジメタクリレート、ジエチレングリコール.ジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。他の好適なアクリレートの例には、N−イソプロピルアクリルアミドやN,N−ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミドやメタクリルアミドがあげられる。ある実施様態においては、このラジカル重合性化合物は、アルキレングリコールジアルキルアクリレート、アルキレングリコールジアクリレート、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。最も多くは、このラジカル重合性化合物がアクリレートまたはメタクリレートである。
【0019】
アルケノエートの好適な例としては、特に限定されないが、例えば、アルキル−N−アルケノエートやメチル−3−ブテノエート、およびこれらの組み合わせがあげられる。カーボネートの好適な例としては、特に限定されないが、例えば、アルキルカーボネート、アリルメチルカーボネートやジアリルピロカーボネート、ジアリルカーボネートなどのアリルアルキルカーボネート、およびこれらの組み合わせがあげられる。本発明で用いられる好適なイタコネートとしては、特に限定されないが、例えばイタコン酸ジメチルなどのアルキルイタコネートがあげられる。好適なアセテートの非制限的な例には、アルキルアセテート、酢酸アリル、アリルアセトアセテート、およびこれらの組み合わせがあげられる。フタレートの非制限的な例としては、特に限定されないが、例えば、アリルフタレート、ジアリルフタレート、およびこれらの組み合わせがあげられる。
【0020】
特にアクリルモノマーと併用する場合、このラジカル重合性化合物は、スチレンと置換スチレンも含んでよい。あるいは、このラジカル重合性化合物が、ヒドロキシアクリレートなどのイソシアネート反応性のアクリレートモノマー、オリゴマーまたはポリマーをイソシアネート官能性プレポリマーと反応させて得られたアクリレート末端ポリウレタンプレポリマーを含んでいてもよい。一群の、平均して分子当り少なくとも一個のフリーラジカル重合性基をもち、電子、イオン、正孔及び/又はフォノンを輸送可能な伝導性モノマーやドーパント、オリゴマー、ポリマー、マクロモノマーもまた有用である。
【0021】
非制限的な例としては、特に限定されないが、例えば、4,4’,4”−トリス[N−(3(2−アクリロイルオキシエチルオキシ)フェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミンや4,4’,4”−トリス[N−(3(ベンゾイルオキシフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミンがあげられる。このラジカル重合性化合物は、アクリロイルプロピル基などのアクリロイルアルキル基、メアクリロイルプロピル基などのメアクリロイルアルキル基、及び/又はビニルやアリル、ブテニル、ヘキセニル基などの2−12個の炭素原子をもつアルケニル基とエチニルやプロピニル、ブチニル基、2−12個の炭素原子をもつアルキニル基、およびこれらの組み合わせを含む(がこれらに限定されない)不飽和有機基をもつ化合物を含んでいてもよい。これらの不飽和有機基が、アリルオキシポリ(オキシアルキレン)基を含むオリゴマー状及び/又はポリマー状のポリエーテル中ラジカル重合性基やこれらのハロゲン置換類似体、およびこれらの組み合わせを含んでいてもよい。もう一つの実施様態においては、このラジカル重合性化合物が、ポリマー状の主鎖をもつ有機化合物をラジカル重合性化合物と共重合させて平均でポロマー当り少なくとも一個のフリーラジカル重合性基があるようにした化合物を含む。適当な有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリイソブチレンやポリブタジエン、ポリイソプレンなどの炭化水素系ポリマー、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンポリプロピレンコポリマー、ポリスチレン、スチレンブタジエン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリアクリレートなどのポリオレフィン、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリウレア、ポリメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレンなどの部分フッ素化または完全フッ素化ポリマー、フッ素化ゴム、末端不飽和炭化水素、オレフィン、ポリオレフィン、およびこれらの組み合わせがあげられる。もちろん、このラジカル重合性化合物は、上記の化合物に限定されるものではなく、他のいずれの既知の化合物をも含む。
【0022】
ラジカル重合性化合物に加えて、この組成物は、二個、三個、あるいは四個以上のラジカル重合性化合物を含んでいてもよい。二個、三個、あるいはそれ以上のラジカル重合性化合物は、上記のラジカル重合性化合物と同一であっても異っていてもよい。いろいろな実施様態において、このラジカル重合性化合物は、通常組成物中に、100重量部の組成物に対して20〜99重量部で、あるいは50〜99重量部、あるいは60〜99重量部、あるいは80〜99重量部の量で存在する。もう一つの実施様態においては、このラジカル重合性化合物は、100重量部の組成物に対して50〜80重量部の量で存在する。この実施様態においては、通常この組成物は20重量部の溶媒を含んでいる。他の実施様態においては、通常組成物中にこのラジカル重合性化合物が、100重量部の組成物に対して1〜90重量部の量で、あるいは1〜60重量部、あるいは1〜40重量部の量で存在する。さらに他の実施様態においては、この組成物が、通常二個の、三個の、及び/又はさらに多くのラジカル重合性化合物を、ラジカル重合性化合物の総量として上記の量で含む。
【0023】
上述の有機ボラン開始剤について、この有機ボラン開始剤は、公知のいずれの開始剤であってもよい。この有機ボラン開始剤は、通常次の一般構造式をもつ三官能性ボランを含む:
【0024】
【化1】

【0025】
式中、R1〜R3は、それぞれ独立して1〜20個の炭素原子であり、式中、R1〜R3は、それぞれ独立して、水素原子、シクロアルキル基、主鎖中に1〜12個の炭素原子をもつ直鎖又は分岐鎖のアルキル基、脂肪族基、芳香族基、アルキルアリール基、ホウ素に共有架橋として機能できるアルキレン基、およびこれらのハロゲン置換同族体であり、R1とR2とR3の少なくとも一つは一個以上の炭素原子を含み、相互に共有結合している。R1〜R3のうち多くて二つの基が、独立してメトキシまたはエトキシ基のアルコキシ基であり、R1〜R3の少なくとも一つの基がホウ素−炭素共有結合を与える。これらの脂肪族及び/又は芳香族炭化水素基は、線状であっても、分岐状であっても、及び/又は環状であってもよい。この有機ボラン開始剤は、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリ−n−ブチルボラン、トリ−n−オクチルボラン、トリ−sec−ブチルボラン、トリ−ドデシルボラン、フェニルジエチルボラン、およびこれらの組み合わせと定義されるが、これらに限定されるのではない、他の好適な例としては、9−BBN(モノマー9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン)の0.5Mヘキサン溶液や、9−BBN(モノマー9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン)の0.5Mテトラヒドロフラン溶液、9−BBN(モノマー9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン)の0.5Mトルエン溶液、ジブチルボロントリフレート(DBBT)の0.5M−n−ヘプタン溶液、ジブチルボロントリフレート(DBBT)の0.5M塩化メチレン溶液、ジブチルボロントリフレート(DBBT)の0.5Mルエン溶液、ジシクロヘキシルボロントリフレート(DCBT)の0.5Mヘキサン溶液、ジシクロヘキシルクロロボラン(DCBCL)の1Mヘキサン溶液、メトキシジエチルボラン(MDEB)の純液体、メトキシジエチルボラン(MDEB)の50重量%テトラヒドロフラン溶液、トリエチルボラン(TEB)の純液体、トリエチルボラン(TEB)の純液体のテトラヒドロフラン溶液、トリエチルボラン(TEB)の1Mヘキサン溶液、トリ−n−ブチルボラン(TNBB)の純液体、トリ−sec−ブチルボラン(TSBB)の純液体があげられる。通常、この有機ボランは、さらにトリ−n−ブチルボランと定義される。純粋に説明目的のために、トリ−n−ブチルボランの構造を下に示す。
【0026】
【化2】

【0027】
この有機ボラン開始剤はブロック剤と錯形成し、有機ボラン錯体を形成する。このブロック剤は、環境条件下でまたいろいろなラジカル重合性化合物の溶液中で有機ボラン錯体を安定にする。ブロック剤から有機ボラン開始剤が解離すると、この有機ボラン錯体は、ラジカル重合性化合物の重合または架橋反応を開始することができる。
【0028】
この有機ボラン錯体の結合エネルギーは、通常5〜25kcal/molであり、より多くは10〜20kcal/molであり、最も多くは10〜15kcal/molである。周知のように、有機ボラン錯体の結合エネルギーは、その有機ボラン錯体をその成分に、即ち有機ボラン開始剤とブロック剤に分解するのに必要なエネルギーの正味量である。もちろん本発明は、上記の結合エネルギーに限定されるのではない。
【0029】
いずれか特定の理論に拘泥するのではないが、三重項酸素の存在下では、三置換ボランは、ホウ素−炭素結合で二分子等方的開裂を起こし、対応するペルオキシル、アルコキシル、アルキル、ケトン三重項、及び/又はチイル(スルフェニルとも呼ばれる)ラジカルを生成する。これらのラジカルは、ブロック剤から遊離する有機ボラン開始剤と反応し、最終的にトリアルキルボレートとなって終了する。ラジカルの形成と生長の理論反応経路と起こりうる副反応を図4に示す。いずれかの特定の理論に拘泥するのではないが、アルキル基(R・)は、通常ラジカル重合性化合物の重合を開始すると考えられている。
【0030】
このブロック剤は、さらに二官能性非環式ブロック剤と定義される。このブロック剤は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、環状ではない。また、このブロック剤は二官能性であり、有機ボラン錯形成基である官能基を正確に二個もつ。この二個の有機ボラン錯形成基は、相互に異なっており、それぞれアミン基(−NR2)、チオール基(−SR)、ホスフィン基(−PR2)(式中、Rはそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基である)からなる群からから選ばれる。通常、このアミン基は一級アミンであるが、二級アミンであってもよい。この有機ボラン錯形成基は、相互に2〜4個の炭素原子で隔てられている。ある実施様態においては、この有機ボラン錯形成基が相互に正確に2個の炭素原子で隔てられ、錯形成基の一つが他のαとなっている。もう一つの実施様態においては、有機ボラン錯形成基が、相互に正確に3個の炭素原子で隔てられている。さらに他の実施様態においては、有機ボラン錯形成基が、正確に4個の炭素原子で相互に隔てられている。このように分離することで、ブロック剤の有機ボラン開始剤への求核性が増加し、ブロック剤が有機ボラン開始剤と完全に相互作用を起こすことが可能となっている。有機ボラン錯形成基の間が2個以上の炭素原子で隔てられている場合にも、求核性が改善される。
【0031】
ある実施様態においては、この二官能性非環式ブロック剤が、脂肪族であり、単一のアミン基と単一のチオール基を有する。もう一つの実施様態においては、このブロック剤が脂肪族であり単一のアミン基と単一のホスフィン基を有する。さらに他の実施様態においては、このブロック剤が脂肪族であり、単一のチオール基と単一のホスフィン基をもつ。他の実施様態においては、このブロック剤が、炭素−炭素不飽和をもたない。好適なブロック剤の例としては、特に限定されないが、例えば、2−アミノエタンチオール、2−ホスフィノエタンアミン、2−ホスフィノエタンチオール、3−アミノプロパン−1−チオール、3−ホスフィノプロパン−1−アミン、3−ホスフィノプロパン−1−チオール、4−アミノブタン−1−チオール、4−ホスフィノブタン−1−アミン、4−ホスフィノブタン−1−チオール、これらのPとNがアルキルモノ−置換された誘導体、およびこれらの組み合わせがあげられる。説明のために、2−アミノエタンチオールと2−ホスフィノエタンアミン、2−ホスフィノエタンチオール、3−アミノプロパン−1−チオール、3−ホスフィノプロパン−1−アミン、3−ホスフィノプロパン−1−チオール、4−アミノブタン−1−チオール、4−ホスフィノブタン−1−アミン、4−ホスフィノブタン−1−チオールの化学構造を下に示す。
【0032】
【化3】

【0033】
通常、この二官能性非環式ブロック剤は、2−アミノエタンチオール、2−ホスフィノエタンアミン、2−ホスフィノエタンチオール、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。また、この二官能性非環式ブロック剤は、以下の構造の一つ以上を、あるいはその類似構造をとることができると考えられる。
【0034】
【化4】

【0035】
上に説明したように、窒素原子に共有結合している水素原子が、硫黄原子に水素結合し、このようにしてこの硫黄原子を「活性化」させて、有機ボランとの錯形成を促進する。あるいは、硫黄原子に供給結合した水素原子が窒素原子に水素結合して、この窒素原子を「活性化」して、有機ボランとの錯形成を促進する。
【0036】
ある実施様態においては、このブロック剤が2−アミノエタンチオールであり、有機ボランが2−アミノエタンチオールのアミン基と錯形成をする。もう一つの実施様態においては、このブロック剤がまた2−アミノエタンチオールであるが、有機ボランが2−アミノエタンチオールのチオール基と錯形成する。純粋に説明のために、2−アミノエタンチオールの化学構造を下に示す。また、2−アミノエタンチオールと錯生成する有機ボランの典型的な化学構造を下に示す。
【0037】
【化5】

【0038】
いずれかの特定の理論に拘泥するのではないが、このブロック剤の結合は、溶媒の使用で影響を受ける及び/又はコントロールされると考えられている。このブロック剤がアミン基とチオールまたはホスフィン基を有する場合、非極性溶媒を使用すると、窒素に共有結合している水素原子の、硫黄原子またはリン原子との水素結合を高め、このためその硫黄原子またはリン原子を「活性化」して、有機ボランとの錯形成を促進すると考えられている。逆に、この実施様態で極性溶媒を使用すると、アミン基の窒素原子と硫黄原子またはリン原子に結合した水素原子との間の水素結合を乱し、窒素原子と有機ボランの錯形成を促進すると考えられている。また、ブロック剤がチオール基とホスフィン基を含む場合は、非極性溶媒の使用で、硫黄原子よりはリン原子優先的に活性化して、有機ボランとの錯形成を促進すると考えられている。あるいは、この実施様態において極性溶媒を使用すると、リン原子より硫黄原子を優先的に活性化し、有機ボランとの錯形成を促進すると考えられている。
【0039】
この有機ボラン錯体は、作業時間の制御のために、また液相の有機ボラン錯体を保存時の分離から安定化するために、相支持体などの固体粒子に物理的及び/又は化学的に添付(結合)することができる。結合は、いろいろな既知の基材処理で、その場でまたは前もって実施できる。いくつかの基材処理方法は、粉砕シリカまたは沈降性シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、炭素ナノ粒子、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、銀、金、白金、パラジウム、これらの合金、ニッケルやアルミニウム、銅、スチールなどの卑金属、およびこれらの組み合わせなどの固体粒子を反応性化合物で前処理することを含む。この前処理の後で、有機ボラン錯体との錯形成を行ってもよいし、固体粒子の直接処理を行ってもよい。この固体粒子が官能基をもつ場合、付着している有機ボラン錯体の早すぎる非錯化を避けるためには、基材処理剤などの添加物または元来反応性である不純物を前処理する必要がある。有機ボラン錯体への結合前に、反応性物質を含む固体粒子を精製または中和することができる。あるいは、有機ボラン錯体の結合を無酸素環境で行ってもよい。
【0040】
この組成物の形成にあたり、この有機ボラン錯体をいかなる量で用いてもよい。通常、有機ボラン錯体は、100重量部の組成物に対して0.01〜95重量部の量で使用され、より多くは0.1〜80重量部、さらに多くは0.1〜30重量部、さらに多くは1〜20重量部、さらに多くは1〜15重量部、最も多くは2〜5重量部の量で使用される。この有機ボラン錯体の量は、有機ボラン錯体の分子量と官能基に、また組成物中の増量剤など他成分の存在に依存する。
【0041】
本発明の有機ボラン開始剤は、有名なヒドロホウ素化法で合成できる。ある合成経路は、THF中でのジエチルボランと末端アルケン性化合物との反応を含む。このような反応が、一般的には二重結合炭素のα−末端から二番目の位置またはβ−末端位置へのホウ素付加に由来する生成物の混合物を与えることは公知である。β−生成物も、またはα−及びβ−生成物の混合物も有機ボラン開始剤に含まれていることを銘記しておくべきである。
【0042】
いろいろな実施様態において、この有機ボラン錯体が、ラジカル重合と鎖移動に使用される。いろいろな実施様態において、この有機ボラン錯体が、ラジカル重合性化合物を重合して、ダイマーやオリゴマー、プレポリマー、ポリマー、コポリマー、ブロックポリマー、星型ポリマー、グラフトポリマー、ランダムコポリマー、及び/又はこれらの組み合わせ(これらは、さらにラジカル重合が可能であっても不可能であってもよい)を製造するのに使われる。
【0043】
ある実施様態においては、この有機ボラン錯体が、置換メラミンとアクリレートの重合に用いられる。このような重合の一例を下に説明する。
【0044】
【化6】

【0045】
もう一つの実施様態においては、この有機ボラン錯体が、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)及び/又はヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)などのヒドロキシアクリレートモノマーと、EPDI三量体、HDI三量体などの多官能性イソシアヌレートとの反応からの付加生成物の重合に用いられる。他の実施様態においては、この有機ボラン錯体が、イソシアヌレートアクリレートモノマーと、トリメチロールプロパンやペンタエリスリトール、ジ−エチレン−トリ−アミン等の多ヒドロキシモノマーまたはアミノ官能性モノマーとの重合に用いられる。さらに他の実施様態においては、この有機ボラン錯体が、グリシジルメタクリレートの重合に用いられる。アクリレートモノマーを、まず置換メラミン、イソシアヌレート、または類似の多官能基と反応させて多アクリレート中間体とし、次いでこれをUVまたは他の放射線または熱なくして硬化して架橋塗膜組成物とすることが考えられる。
【0046】
ある実施様態において、また二官能性非環式ブロック剤のアミンが有機ボランに結合しているとき、この組成物は他のアミンを含んでいてもよい。この他のアミンは有機ボラン錯体のどのアミンとも異なっており、つまりこの他のアミンは有機ボラン錯体の一部ではない。しかしながら、この他のアミンは、有機ボラン錯体の一部であるアミンのいずれかと化学的に同一であってもよい。あるいは、この他のアミンが、有機ボラン錯体の一部であるアミンのいずれとも異なっていてもよい。通常、下に詳述するように、非錯体化剤が使用されて二酸化炭素を含む場合に、この他のアミンが添加される。この他のアミンは、通常一級アミンであるが、二級アミンであってもよく、または一級と二級アミンの組み合わせであってもよい。ある実施様態においては、この他のアミンがアンモニアである。もう一つの実施様態においては、この他のアミンが、アンモニア、メチルアミン、エタノールアミンまたは2−アミノエタノール、プロピルアミン、2−プロピルアミン、トリスアミン、ジメチルアミン、メチルエタノールアミンまたは2−(メチルアミノ)エタノール、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ベンジルアミン、メトキシプロピルアミン、システアミン、アジリジン、アゼチジン、ピロリドン、ピペリジン、ジメチルエタノールアミン(DMEA)または2−(ジメチルアミノ)エタノール、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。この他のアミンは、組成物中に有機ボラン錯体と約1:1の化学量論的比率で含まれていてもよい。他の実施様態においては、この他のアミンが、非錯体化剤に対していろいろな化学量論的な比率で、例えば1:2、1:3、1:4,1:5などで含まれる。さらに他の実施様態においては、有機ボラン錯体に対する他のアミン及び/又はフリーのアミンの比率を、化学量論的比率より小さくできる。これらの実施様態においては、驚くべきことに、また本発明者らには予想外に、他のアミン及び/又はフリーのアミン:有機ボラン錯体の化学量論的比率の低い組成物は、硬化特性が高く、自然発火性が低い。ある実施様態においては、他のアミン及び/又はフリーのアミン:有機ボラン錯体の低化学量論比は、0.5:1〜1:1である。もう一つの実施様態においては、この他のアミン及び/又はフリーのアミン:有機ボラン錯体の低化学量論比が、0.6〜0.85:1である。さらに他の実施様態においては、この他のアミン及び/又はフリーのアミン:有機ボラン錯体の低化学量論比が、0.7〜0.8:1である。さらに他の実施様態においては、この他のアミン及び/又はフリーのアミン:有機ボラン錯体の低化学量論比が、約1:1より小さい。
【0047】
この組成物は、上記化合物に加えて一種以上の添加物を含むことができる。この一種以上の添加物は、レベリング剤、溶媒、界面活性剤、増量剤、安定剤、溶媒、可塑剤、消泡剤、ぬれ添加物、触媒、流動性制御剤、顔料、光相乗剤、接着促進剤、顔料分散剤、流動助剤、酸官能性ポリマー、添加ポリマー、触媒、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。適当な界面活性剤の非制限的な例としては、エアプロダクトアンドケミカルズ社(Allentown、PA)から販売されているサーフィノール(R)界面活性剤があげられる。可塑剤の好適な非制限的な例としては、クックコンポジットアンドポリマーズ(St. Louis, MO)から販売されているコロック(R)アクリル系可塑剤樹脂があげられる。
【0048】
この一種以上の添加物には、硬化を促進する触媒も含まれる。このような触媒(当業界では有名な触媒である)としては、特に限定されないが、例えば、パラトルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、フェニルリン酸、マレイン酸モノブチル、ブチルホスフェート、ヒドロキシホスフェートエステル、およびこれらの組み合わせがあげられる。この組成物中で有用な他の触媒としては、特に限定されないが、例えば、ルイス酸、亜鉛塩やスズ塩などの遷移金属塩、およびこれらの組み合わせがあげられる。この触媒は、ブロックされていても、されていなくても、または部分的にブロックされていてもよい。この触媒は、アミンまたは他のオキシラン修飾剤などの適当なブロック剤で、一部または完全にブロックされていてもよい。含まれている場合は、この触媒は、好ましくは100重量部の組成物に対して0.1〜1.2重量部の量で、より好ましくは0.1〜0.9重量部、最も好ましくは0.2〜0.7重量部の量で含まれる。
【0049】
この組成物が溶媒を一種以上の添加物として含む場合、この溶媒は、水などの公知の何れの溶媒であってよく、HAPを含んでいなくてもよい。ある実施様態においては、この溶媒は有機極性溶媒を含む。もう一つの実施様態においては、この溶媒が高極性の脂肪族溶媒を含む。他の実施様態においては、この溶媒が高極性の芳香族溶媒を含む。更に別の実施態様においては、この溶媒が、ケトンとエステル、アセテート、非プロトン性アミド、非プロトン性スルホキシド、非プロトン性アミン、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。有用な溶媒の非制限的な例としては、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、m−アミルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、キシレン、N−メチルピロリドン、2−エチルヘキサノール、n−ブタノール、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エクソンモービル社(Irving、TX)より販売されているナフサ由来のSC150溶媒、重質ベンゼン、エチルエトキシプロピオネート、ブチルグリコールアセテート、ブチルグリコール、芳香族100などの芳香族炭化水素のブレンド、ブチルアルコール、エチルアセテート、ブチルアセテート、ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ミネラルスピリット、2−ブトキシエタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジブチルエーテル、2−エチルヘキサノール、およびこれらの組み合わせがあげられる。含まれている場合は、この溶媒は、通常100重量部の組成物に対して多くて60重量部の量で、より多くは5〜50重量部、最も多くは10〜40重量部の量で含まれる。
【0050】
また、この一種以上の添加物が顔料を含んでもよい。例えばこの組成物がベースコートとして用いられる場合、この顔料は、有機及び/又は無機化合物、着色材料、増量剤、雲母またはアルミニウムフレークなどの金属製及び/又は無機フレーク材料、およびこれらの組み合わせを含む。好適な顔料の非制限的な例としては、カーボンブラック顔料、二酸化チタン、さらには酸化鉄や黄鉛、モリオレンジ、チタンイエロー、ニッケルチタンイエローの、クロムグリーン等の他の無機着色顔料があげられる。含まれている場合、この顔料は、通常100重量部の組成物に対し最大で60重量部の量で、より多くは5〜50重量部、最も多くは10〜40重量部の量で含まれる。
【0051】
さらに、この一種以上の添加物がレベリング剤を含んでもよい。このレベリング剤は、特に限定されるものではないが、ビニルアクリル系のコポリマー等を含んでいてもよい。含まれている場合、このレベリング剤は、通常100重量部の組成物に対し最大で20重量部の量で、より多くは1〜10重量部、最も多くは2〜5重量部の量で含まれる。
【0052】
あるいは、この一種以上の添加物が安定剤を含んでいてもよい。この安定剤は、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)を含む。含まれている場合、このHALSは公知のすべてのものを含む。好ましくは含まれている場合、このHALSの分子量は300g/mol未満が好ましく、260g/mol未満がより好ましい。本発明で適当な用いられる市販のHALSの具体例としては、特に限定されないが、例えば、サンド社(Basel、Switzerland)から販売されているサンズボル(R)3058とチバガイギー社(Ardsley、NY)から販売されているチヌビン(R)123、292、および384があげられる。含まれている場合、この安定剤は、通常100重量部の組成物に対して最大で20重量部の量で、より多くは1〜10重量部、最も多くは2〜5重量部の量で含まれる。
【0053】
以下に自動車部品上に硬化塗膜組成物を形成する方法について述べる。本方法は、自動車部品の本組成物を塗布する工程を有する。この塗布工程は、公知のいずれかの塗布方法を含む。好適な塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、噴霧塗布、浸漬塗装、ロール塗布、カーテン塗布、静電噴霧、およびこれらの組み合わせがあげられる。ある実施様態においては、この組成物が、押出塗装用の静電噴霧で自動車部品に塗布される。本方法のある実施様態においては、この組成物の形成に当り、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を同時に導入して本組成物を形成する。本方法のもう一つの実施様態においては、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を順次導入して組成物を形成する。
【0054】
本方法はまた、ブロック剤から有機ボラン開始剤を非錯化させ、かくしてラジカルを形成する工程を有する。ある実施様態においては、この非錯化工程において、初めに述べたように結合エネルギーを超えるエネルギーが有機ボラン錯体に加えられる。他の実施様態においては、非錯化により動力学的にまたは熱力学的により安定な生成物が生成する場合にこの非錯化工程が起こる。この非錯化工程を、例えば、特に限定されるのではないが、非錯体化剤、紫外光、及び/又は熱を用いて、周知のメカニズムを用いて実施してもよい。ある実施様態においては、このブロック剤から有機ボラン開始剤を非錯化する工程が、組成物に、アミン基、チオール基及びホスフィン基の少なくとも一つの基で反応する非錯体化剤を投入する工程と定義される。非錯体化剤の反応が起こると、有機ボラン開始剤が、ブロック剤から解離する(即ち、分解して離れる)。ブロック剤からの有機ボラン開始剤の非錯化の理論的な反応機構を図1〜3に示すが、決して本発明を限定するものではない。ある実施様態においては、自動車部品に本組成物を塗布する工程と組成物に非錯体化剤を投入する工程を同時に行う。もう一つの実施様態においては、これらの工程が順次に起こる。他の実施様態においては、自動車部品に本組成物を塗布する工程と組成物に非錯体化剤を投入する工程が、それぞれさらに、一個以上のスプレーガンから、例えば衝突混合スプレーガンから組成物を、また非錯体化剤を噴霧する工程と定義される。
【0055】
この非錯体化剤は公知の何れのものであってもよく、ガス状でも、液体状または固体状であってもよい。ある実施様態においては、この有機ボラン錯体が非錯体化剤と反応して、本組成物の重合または架橋反応を開始させる。通常、非錯体化剤を有機ボラン錯体と混合し、これが酸素含有環境に有機ボラン錯体の解離温度未満の温度で、室温以下を含む温度で曝された場合に、これが起こる。いずれか特定の理論に拘泥するのではないが、非錯体化剤はブロック剤を隔離させ、有機ボラン開始剤にO2存在下でフリーラジカル開始剤として作用させ、ラジカル重合性化合物の重合を開始させると考えられている。
【0056】
ある実施様態においては、この非錯体化剤が、フリーラジカル重合性基または加水分解基などの他の官能基をもち、モノマー、ダイマー、オリゴマーまたはポリマー状である。フリーラジカル重合性基を含む非錯体化剤の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、およびこれらの組み合わせがあげられる。あるいは、この非錯体化剤が、ルイス酸、カルボン酸、カルボン酸誘導体、カルボン酸塩、イソシアネート、アルデヒド、エポキシド、酸クロライド、スルホニルクロライド、ヨードニウム塩、無水物、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれてもよい。ある実施様態においては、この非錯体化剤が、酢酸やアクリル酸、メタクリル酸などの酸、及び/又は公知のいずれかの強酸、酸クロライドなどの酸ハロゲン化物、HClや硫酸などの無機酸、アルキルまたはアリールスルホン酸、遷移金属カチオン、メチルアイオダイドなどの強アルキル化剤、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。ある実施様態においては、この非錯体化剤が酢酸である。通常、この非錯体化剤はブロック剤と反応する基を持っている。これらの基は、有機ボラン錯体及び/又は存在するいずれかの添加物に由来すると考えられている。ある実施様態においては、この非錯体化剤が、二酸化炭素、二酸化硫黄、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。更に別の態様においては、この非錯体化剤が二酸化炭素である。二酸化炭素を用いる場合は、同じ日に出願された、タイトルが「組成物を硬化させるシステムと方法」であるUS No.61/220,929の仮出願特許と、タイトルが「有機ボラン−アミン錯体を非錯化する方法」であるUS No.61/220,876の仮出願特許に記載の方法のいずれかで使用される。
【0057】
すべての実施様態において、この非錯体化剤は、本組成物中に組成物の100%未満の量で存在できる。しかしながら、いろいろな実施様態において、この非錯体化剤は、通常100重量部の組成物に対して0.1〜95重量部の量で、より多くは0.1〜90重量部、最も多くは1〜50重量部の量で存在する。非錯体化剤の量は、非錯体化剤の分子量と官能基、また増量剤などの他成分の存在により大きく影響を受ける。重合時間または硬化時間を増加させるためには、組成物中に存在するブロック剤の実際の量に、少なくとも化学量論的に等価であるか、好ましくは過剰であるブロック剤反応性基を与える非錯体化剤の量を用いることが好ましい。
【0058】
いずれかの特定の理論に拘泥するのではないが、二酸化炭素を非錯体化剤として用いる場合、この二酸化炭素は組成物中に存在するまたはブロック剤の一部として存在するフリーのアミン基とを反応すると考えられている。なお、「フリーのアミン基」とは、(1)他の反応が可能で、(2)有機ボラン開始剤に配位的に結合(例えば、供与的または配位的な共有結合)していないいずれかのアミンをいう。このフリーのアミン基は、一級アミンであっても二級アミンであってもよい。通常、このフリーのアミン基は一級アミンである。ある実施様態においては、錯体のアミンがジ−、トリ−、テトラ−、または多官能性のアミンの場合、このフリーのアミン基は、有機ボラン・ブロック剤錯体中に見受けられる。
【0059】
本方法はまた、そのラジカルを使ってラジカル重合性化合物を重合させて自動車部品上の塗膜組成物を硬化させる工程を有する。ある実施様態においては、この重合工程は、さらに−78℃〜35℃の温度で重合をすると定義される。もう一つの実施様態においては、この重合工程は、さらに15℃〜35℃の温度で重合をすると定義される。もう一つの実施様態においては、さらに20℃〜30℃の温度で重合をすると定義される。更に別の態様において、この重合工程はさらに、およそ室温で重合すると定義される。あるいは、この方法は、組成物及び/又はラジカル重合性化合物に、熱及び/又は照射線を当ててラジカル重合性化合物を重合させる工程を含む。このラジカル重合性化合物を重合する工程は、さらに、自動車部品上に組成物を硬化させるための重合と定義される。
【0060】
ラジカルを用いるこの重合工程は、また、フリーラジカル重合による重合と定義される。フリーラジカル重合のメカニズムは公知であり、通常三段階:開始と生長と停止を含む。開始と生長段階は、図4に一般的に示されている。通常、また上述のように、三重項酸素と有機ボラン開始剤の間にホモリシス的置換反応がおこり、その結果としてラジカルが発生して、これが酸素と反応してペルオキシドラジカルを生じさせる。このペルオキシドラジカルは、通常ラジカル重合性化合物と、第二、第三、または他のラジカル重合性化合物とののホモリシス的な反応により、ポリマー鎖を伸張させる。いずれかの特定の理論に拘泥するのではないが、アルキル基(R・)は通常ラジカル重合性化合物の重合を開始させると考えられている。停止段階は、二つのラジカル種相互の単一分子への結合を含む。あるいは、鎖の不均一化がおこり、二つのラジカルが会合してプロトンを交換する。
【0061】
ある実施様態においては、この方法はまた、組成物に入る酸素の量を制限する工程を含む。これは、組成物中での酸素の存在はラジカルの形成と生長を阻害し、このようにして硬化を阻害すると考えられているためである。同様に、本方法が、自動車部品(例えば、自動車部品の表面)に入る酸素の量を制限して酸素表面阻害をできるだけ小さくする工程をも含んでよい。しかしながらいくらかの酸素は、ラジカルを発生させるのに必要である。この酸素は、基材及び/又は組成物に、有機ボラン開始剤に対するモル比で1:1〜5:1で加えられる。他の実施様態においては、この酸素が、組成物中及び/又は基材中に、100重量部の二酸化炭素に対して0.5〜5重量部の量で存在する。
【0062】
本方法はまた、他のアミンをこの組成物に投入する工程を含んでいてもよい。ある実施様態においては、本方法は、非錯体化剤が二酸化炭素を含むときに他のアミンを投入する工程を含む。しかしながら、他のアミンの投入はこの実施様態に限定されるものではない。
【0063】
更に別の態様において、本方法はさらに、自動車部品を第一の組成物で電着塗装する工程を含む。この電着塗装工程と自動車部品の電着塗装に用いる組成物は公知である。したがって、本発明における電着塗装工程は、公知のいずれかの方法を用いて実施できる。同様に、基材の電着塗装に用いる第一の組成物が、電着塗装に適当な公知の何れかの組成物である。他の実施様態においては、自動車部品に塗膜組成物を塗布する工程が、さらに、第一の組成物用の塗膜組成物を自動車部品に塗布することと定義される。この実施様態においては、この第一の組成物が、上記の電着塗装工程で基材に塗布される。
【0064】
さらに他の実施様態においては、本方法は、自動車部品上で組成物の厚みを低下させる工程、自動車部品を加熱する工程、自動車部品を照射する工程、自動車部品を乾燥する工程、及び/又は硬化組成物を含む自動車部品を自動車シャーシに取り付ける工程のうちの一工程以上を含む。あるいは、ラジカルを用いてラジカル重合性化合物を重合する工程が、塗膜組成物の外的な加熱なしに行われる。
【0065】
冒頭の述べたように、本発明はまた、有機ボラン開始剤を用いてラジカル重合性化合物を重合する方法を提供する。本方法は、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を基材上に乗せて混合物を形成する工程を含む。この基材は上述の自動車部品であってもよい。その場合、この自動車部品は、ドア、フード、屋根、パネルなどであってもよい。この自動車部品は、スチール製材料及び/又は押し出し材料を含む。ある実施様態においては、この自動車部品はさらに、好ましくは下塗りまたは電着塗装された自動車の成型物パネルである。
【0066】
他の実施様態においては、この基材がまた、反応器または容器と定義される。この反応器及び/又は容器は、試験室サイズであっても工業用サイズであってもよい。通常、この基材がさらに反応器及び/又は容器と定義されるときは、ラジカル重合性化合物が反応器または容器中で重合される。一旦形成されると、この重合化合物は、当業界の熟練者により選択されてさらに使用される。ある実施様態においては、この重合化合物が反応器中で形成された後、自動車部品に塗布される。
【0067】
あるいは、この基材は、塗装されていてもいなくても良く、処理されていてもいなくても、あるいはこれらのいずれの組み合わせであってもよい。いろいろな実施様態において、この基材は、プラスチック、スチールや鉄、アルミニウムなどの金属、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる。ある実施様態においては、本方法は、塗膜組成物を形成し、容器または反応器中ではなく自動車部品上でラジカル重合性化合物を重合させることを含む。しかしながら上述のように、本方法はこのような実施様態に限定されるものではない。
【0068】
この有機ボラン開始剤を用いてラジカル重合性化合物を重合する方法が、自動車部品に関して述べた上記の工程のいずれか又はすべてを含んでいてもよい。ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を、基材上に、別個に、一緒に、またはいろいろな組合せで塗布してもよい。投入工程は、いずれか公知の塗布方法で合ってもよい。適当な塗布方法としては、特に限定されるのではないが、例えば、噴霧塗布、浸漬塗装、ロール塗布、カーテン塗布、静電噴霧、およびこれらの組み合わせがあげられる。ある実施様態においては、ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤が、押出成型塗装用の静電噴霧により基材に塗布される。
【0069】
本方法の目的においては、「混合物」は、上記の「組成物」と同じ意味で使用される。従って、混合物は、単独であるいは組み合わせて、上記の化合物のいずれかまたはすべてを含む。
【実施例】
【0070】
五種の塗膜組成物(組成物1〜5)を形成する。以下に述べるように、本発明の方法で組成物1〜3と5が基材に塗布される。
【0071】
組成物1の形成と硬化
バイアル瓶中で、ラジカル重合性化合物としての10.08グラムのラロマーUA9061と有機ボラン錯体としての0.47グラムのトリエチルボラン2−アミノエタンチオール(システアミン(TEB−CA)とも呼ばれる)を混合して組成物1を得る。ラロマーUA9061は、BASF社より販売されている脂肪族ウレタンアクリレートである。形成の後、組成物1を、電着塗装層を有し、非錯体化剤として作用する酢酸をその上に塗りつけた金属パネルに塗布する。バイアル瓶中では約3分後に組成物1が硬化する。5〜10分間後に、パネル上に認めうる効果が見られる。
【0072】
組成物2の形成と硬化
バイアル瓶中で、10.0グラムのラロマーUA9061と、有機ボラン錯体としての0.48グラムのリエチルボラン2−アミノエタンチオール(TEB−CA)とを混合して組成物2を得る。形成の後、組成物2を電着塗装層を有する金属パネルに塗布する。この組成物2を塗装したパネルを、次いで非錯体化剤としての二酸化炭素に暴露する。組成物2は、およそ2分後にバイアル瓶中で硬化する。30分間後、パネル上に認められる硬化が表れる。
【0073】
組成物3の形成と硬化
バイアル瓶中で、10.04グラムのラロマーUA9061と有機ボラン錯体としての0.99グラムのトリ−n−ブチルボラン2−アミノエタンチオール(TnBB−CA)を混合して、組成物3を得る。形成の後、組成物3を電着塗装層を有する金属パネルに塗布する。この組成物3を塗装したパネルを、ついで非錯体化剤としての二酸化炭素に暴露する。組成物3は、およそ3〜5分後にバイアル瓶中で硬化する。20分間後、パネル上に認められる硬化が表れる。
【0074】
組成物4の形成と硬化
バイアル瓶中で、10.58グラムのラロマーUA9061と有機ボラン錯体としての0.95グラムのトリ−n−ブチルボラン2−アミノエタンチオール(TnBB−CA)を混合して、組成物4を得る。このバイアル瓶を5〜6分間放置し、潜熱で有機ボラン錯体を非錯化させる。組成物4は、およそ6分後にバイアル瓶中で硬化する。
【0075】
組成物5の形成と硬化
バイアル瓶中で、9.94グラムの、ラロマーUA9043とエベクリル9198、サートマー(R)CN9008、ウレタンアクリレートモノマー、アクリレートエステルを含む樹脂と有機ボラン錯体としての0.51グラムのトリ−n−ブチルボラン2−アミノエタンチオール(TnBB−CA)を混合して、組成物5を得る。形成の後、組成物5を電着塗装層を有する金属パネルに塗布する。この組成物5を塗装したパネルを、ついで非錯体化剤としての二酸化炭素に暴露する。30分間後、パネル上に認められる硬化が表れる。
【0076】
したがって、以上のデータから、本発明の方法は、効果的にラジカル重合性化合物を重合させ、塗膜組成物に認められる硬化を引き起こすことがわかる。また、組成物1〜5は、いろいろな条件下で認められる硬化を示す。
【0077】
以上、本発明を具体的に説明したが、ここで使用した用語は、制限を意図したものではなくもっぱら説明を目的とするものである。上の記述を元に本発明の変更や変動が可能であり、本発明を上記の具体例とは異なった形で実施することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ボラン開始剤を用いてラジカル重合性化合物を重合する方法であって、
A.該ラジカル重合性化合物と該有機ボラン開始剤を基材上に供給して混合物を形成する工程(なお、該有機ボラン開始剤が、炭素主鎖と、アミン基、チオール基及びホスフィン基からなる群からから選ばれ且つ相互に異なる二個の有機ボラン錯形成基とをもつ二官能性の非環式ブロック剤と錯体を形成し、該二つの異なる基が、2〜4個の炭素原子で相互に隔てられて、ブロック剤の有機ボラン開始剤に対する求核性があげられている);
B.該ブロック剤から該有機ボラン開始剤を非錯化させてラジカルを形成する工程;及び
C.該ラジカルを用いて、必要なら外部加熱無しで、または必要なら20℃〜30℃の温度で、該ラジカル重合性化合物を重合する工程、
を含む方法。
【請求項2】
上記基材がさらに自動車部品と定義され、上記混合物がさらに塗膜組成物と定義され、上記重合工程が自動車部品上の塗膜組成物を硬化させ、さらには、上記方法が必要ならさらに、該自動車部品を第一の組成物で電着塗装する工程を含み、該工程中で上記塗膜組成物が自動車部品の第一の組成物に塗布される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記2個の異なる基が、相互に2個の炭素原子で隔てられている請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記ブロック剤が脂肪族であり単一の末端アミン基と単一の末端チオール基とをもつ請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記ブロック剤が炭素−炭素不飽和をもたず、必要なら上記ブロック剤が2−アミノエタンチオールであり有機ボランが必要なら該2−アミノエタンチオールのアミン基またはチオール基と錯形成している請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記ブロック剤から有機ボラン開始剤を非錯化する工程がさらに、ブロック剤から有機ボラン開始剤を非錯化するためにアミン基、チオール基及びホスフィン基の少なくとも一つの基に反応する非錯体化剤を上記混合物に投入することと定義され、該非錯体化剤が二酸化炭素であるか、必要なら二酸化炭素、二酸化硫黄及びこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
上記ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を基材上に供給して混合物を形成する工程と非錯体化剤を投入する工程を同時にまたは順次に行う請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記ラジカル重合性化合物と有機ボラン開始剤を基材上に供給する工程と非錯体化剤を投入する工程が、それぞれ一個以上のスプレーガンからの噴霧であると更に定義される請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
上記ラジカル重合性化合物と上記有機ボラン開始剤を、同時にまたは順次に投入する請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記ラジカル重合性化合物が、不飽和アクリル酸エステル樹脂、機能的アクリル酸エステルモノマー、メタクリレート、およびこれらの組み合わせからなる群からから選ばれる請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
A.ラジカル重合性化合物;及び
B.炭素主鎖と、アミン基、チオール基及びホスフィン基からなる群から選ばれ且つ相互に異なる二個の有機ボラン錯形成基とをもつ二官能性の非環式ブロック剤(該二つの異なる基が、2〜4個の炭素原子で相互に隔てられて、ブロック剤の有機ボラン開始剤に対する求核性があげられている)と錯体を形成している有機ボラン開始剤、
を含むラジカル重合性自動車塗膜組成物。
【請求項12】
上記二個の異なる基がそれぞれ二個の炭素原子で隔てられている請求項11に記載の塗膜組成物。
【請求項13】
上記ブロック剤が脂肪族であり単一の末端アミン基と単一の末端チオール基とをもつ請求項11または12に記載の塗膜組成物。
【請求項14】
上記ブロック剤が炭素−炭素不飽和をもたず、必要なら上記ブロック剤が2−アミノエタンチオールであり有機ボランが必要なら該2−アミノエタンチオールのアミン基またはチオール基と錯形成している請求項11〜13のいずれか一項に記載の塗膜組成物。
【請求項15】
二酸化炭素であるか、必要なら二酸化炭素、二酸化硫黄及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる非錯体化剤をさらに含む請求項11〜14のいずれか一項に記載の塗膜組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−530833(P2012−530833A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516748(P2012−516748)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059011
【国際公開番号】WO2010/149747
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】