説明

自動車

【課題】空調装置を駆動する空調用インバータ回路より空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かをより適正に診断する。
【解決手段】インバータより空調用コンプレッサ側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、昇圧コンバータの上アームをオンで保持すると共に下アームをオフで保持しながらインバータの作動とゲート遮断とを行なってそれらのときの電圧波形出力回路からの電圧波形に基づいて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する(S220,S230)。これにより、この診断中に高電圧系電力ラインの電圧VHが変動するのを抑制することができ、この診断をより適正に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に関し、詳しくは、走行用の電動機と、電動機を駆動する電動機用インバータ回路と、二次電池と、二次電池が接続された電池電圧系と電動機用インバータ回路が接続された駆動電圧系とに接続されて駆動電圧系の電圧を電池電圧系の電圧以上の範囲内で調節すると共に電池電圧系と駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、車室内の空気調和を行なう空調装置と、電池電圧系に接続され空調装置を駆動する空調用インバータ回路と、を備える自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三相交流により回転駆動するモータと、バッテリと、バッテリからの直流電力を交流電力に変換してモータに出力するインバータ回路と、バッテリとインバータ回路とに介在するリレーと、システム全体をコントロールする駆動システムコントロールユニットと、を備える駆動システムの漏電箇所を、バッテリとリレーとの間に設けられて駆動システムの漏電を検出する漏電検出回路を用いて特定する漏電検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この漏電検出装置では、漏電検出回路からの漏電信号と、駆動システムコントロールユニットからのリレーのオンオフ信号やインバータ回路の遮断信号と、を用いて漏電箇所を特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−223841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バッテリからの電力を昇圧してインバータ回路に供給可能な昇圧コンバータを備え、車室内の空気調和を行なう空調装置を駆動する空調用インバータ回路を昇圧コンバータよりバッテリ側の電力ラインに接続した自動車では、インバータ回路によってモータを駆動している最中などに空調用インバータ回路より空調装置側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否か(漏電していないか否か)を診断する必要が生じることがある。この診断では、上述の漏電検出装置と同様に、空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とを伴って漏電検出回路からの漏電信号を用いて行なうことが考えられるが、昇圧コンバータによってバッテリからの電力を昇圧してインバータ回路に供給しているときに空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とを切り替える際には、空調装置の消費電力の変化によってインバータ回路に作用する電圧が変動し、その影響が漏電信号に反映されてしまい、この診断を適正に行なうことができない場合が生じる。
【0005】
本発明の自動車は、空調装置を駆動する空調用インバータ回路より空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かをより適正に診断することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1の自動車は、
走行用の電動機と、前記電動機を駆動する電動機用インバータ回路と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機用インバータ回路が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を前記電池電圧系の電圧以上の範囲内で調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、車室内の空気調和を行なう空調装置と、前記電池電圧系に接続され前記空調装置を駆動する空調用インバータ回路と、を備える自動車であって、
前記二次電池の正極側または負極側に接続されて回路の絶縁抵抗に応じた信号を絶縁抵抗信号として検出する絶縁抵抗信号検出手段と、
前記空調用インバータ回路より前記空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際、前記駆動電圧系の電圧が前記電池電圧系の電圧に対して昇圧されないよう前記昇圧コンバータを制御する非昇圧制御と、前記空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう該空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御と、を伴って前記絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて前記空調交流部診断処理を実行する診断処理実行手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の第1の自動車では、空調用インバータ回路より空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際には、駆動電圧系の電圧が電池電圧系の電圧に対して昇圧されないよう昇圧コンバータを制御する非昇圧制御と、空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御と、を伴って二次電池の正極側または負極側に接続されて回路の絶縁抵抗に応じた信号を絶縁抵抗信号として検出する絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて空調交流部診断処理を実行する。即ち、駆動電圧系の電圧を電池電圧系の電圧に等しい電圧で保持しながら空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とを行なって絶縁抵抗信号に基づいて空調交流部診断処理を実行するのである。これにより、空調交流部診断処理を実行している最中において、空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とを切り替える際に駆動電圧系の電圧が変動するのを抑制することができ、空調交流部診断処理をより適正に行なうことができる。
【0009】
本発明の第2の自動車は、
走行用の電動機と、前記電動機を駆動する電動機用インバータ回路と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機用インバータ回路が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を前記電池電圧系の電圧以上の範囲内で調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、車室内の空気調和を行なう空調装置と、前記電池電圧系に接続され前記空調装置を駆動する空調用インバータ回路と、を備える自動車であって、
前記二次電池の正極側または負極側に接続されて回路の絶縁抵抗に応じた信号を絶縁抵抗信号として検出する絶縁抵抗信号検出手段と、
前記空調用インバータ回路より前記空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際、前記空調装置で電力が消費されずに前記空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう該空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御を伴って前記絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて前記空調交流部診断処理を実行する診断処理実行手段と、
を備えることを要旨とする。
【0010】
この本発明の第2の自動車では、空調用インバータ回路より空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際には、空調装置で電力が消費されずに空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御を伴って二次電池の正極側または負極側に接続されて回路の絶縁抵抗に応じた信号を絶縁抵抗信号として検出する絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて空調交流部診断処理を実行する。即ち、空調装置で電力が消費されない態様で空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とを行なって絶縁抵抗信号に基づいて空調交流部診断処理を実行するのである。これにより、空調交流部診断処理を実行している最中において、空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とを切り替える際に駆動電圧系の電圧が変動するのを抑制することができ、空調交流部診断処理をより適正に行なうことができる。
【0011】
本発明の第2の自動車において、前記診断処理実行手段は、前記空調交流部診断処理を実行する際、前記空調装置の消費電力が値0となるよう前記空調インバータ回路を制御するゼロ電力制御を実行し、該ゼロ電力制御の実行後に、前記空調交流部診断処理を実行する手段である、ものとすることもできる。
【0012】
本発明の第1または第2の自動車において、前記診断処理実行手段は、前記電動機と前記電動機用インバータ回路と前記二次電池と前記昇圧コンバータと前記空調装置と前記空調用インバータ回路とを含む電気系のいずれかの箇所で絶縁抵抗の低下が生じたことを前記絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて検出したとき、前記空調交流部診断処理を実行する手段である、ものとすることもできる。この場合、前記二次電池と前記電池電圧系との接続および接続の解除を行なうリレーを備え、前記診断処理実行手段は、前記電気系のいずれかの箇所で絶縁抵抗の低下が生じたことを検出した後にイグニッションオフされたとき、前記電動機用インバータ回路より前記電動機側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する電動機交流部診断処理と、前記リレーより前記二次電池側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する二次電池診断処理と、を実行する手段である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】第1実施例の電気系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】第1実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される絶縁抵抗低下検出ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】第1実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】第2実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図8】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【図9】変形例の電機自動車420の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、ハイブリッド自動車20が備える電気系の構成の概略を示す構成図である。第1実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、インバータ41,42が接続された電力ライン(以下、高電圧系電力ラインという)54aとシステムメインリレー56を介してバッテリ50が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)54bとに接続されて高電圧系電力ライン54aの電圧VHを電池電圧系電力ライン54bの電圧VLから最大許容電圧VHmaxの範囲内で調節すると共に高電圧系電力ライン54aと低電圧系電力ライン54bとの間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ55と、高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線とに接続された平滑用のコンデンサ57と、電池電圧系電力ライン54bの正極母線と負極母線とに接続された平滑用のコンデンサ58と、車室内の空気調和を行なう空調装置60と、電池電圧系電力ライン54bに接続されて空調装置60の空調用コンプレッサ61を駆動するインバータ62と、バッテリ50の負極端子とシステムメインリレー56との間の接続点Cn(図2参照)に接続されて電気系のうち接続点Cnから見た現在の接続部分(以下、現在対象部分という)の絶縁抵抗に応じた電圧波形を出力する電圧波形出力回路90と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。ここで、最大許容電圧VHmaxは、コンデンサ57の耐圧よりも若干低い値などを用いることができる。また、電気系は、モータMG1,MG2やインバータ41,42,昇圧コンバータ55,空調装置60,インバータ62,バッテリ50などを含み、現在対象部分は、例えば、システムメインリレー56がオフのときにはシステムメインリレー56よりバッテリ50側の部分に相当し、システムメインリレー56がオンでインバータ41,42,62がゲート遮断のときにはインバータ41,42より高電圧系電力ライン54a側やインバータ62より電池電圧系電力ライン54b側の部分に相当するものとした。
【0016】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ41,42は、図2に示すように、6つのトランジスタT11〜T16,T21〜26と、トランジスタT11〜T16,T21〜T26に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16,D21〜D26と、により構成されている。トランジスタT11〜T16,T21〜T26は、それぞれ高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータMG1,MG2の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線との間に電圧が作用している状態で対をなすトランジスタT11〜T16,T21〜T26のオン時間の割合を制御することによって三相コイルに回転磁界を形成でき、モータMG1,MG2を回転駆動することができる。以下、トランジスタT11〜T13をインバータ41の上アーム、トランジスタT14〜T16をインバータ41の下アーム、トランジスタT21〜T23をインバータ42の上アーム、トランジスタT24〜T26をインバータ42の下アームと称することがある。
【0017】
モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する図示しない回転位置検出センサからのモータMG1,MG2の回転子の回転位置や、図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流,インバータ41,42に取り付けられた図示しない温度センサからのインバータ温度などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜26へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0018】
昇圧コンバータ55は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ高電圧系電力ライン54aの正極母線と高電圧系電力ライン54aおよび電池電圧系電力ライン54bの負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと電池電圧系電力ライン54bの負極母線とにはシステムメインリレー56を介してそれぞれ高圧バッテリ50の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフ制御することにより、電池電圧系電力ライン54bの電力を昇圧して高電圧系電力ライン54aに供給したり、高電圧系電力ライン54aの電力を降圧して電池電圧系電力ライン54bに供給したりすることができる。以下、トランジスタT31を昇圧コンバータ55の上アーム、トランジスタT32を昇圧コンバータ55の下アームと称することがある。
【0019】
バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電池電圧系電力ライン54bに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてバッテリ50に蓄えられている蓄電量の全容量(蓄電容量)に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0020】
インバータ62は、図2に示すように、6つのトランジスタT41〜T46と、トランジスタT41〜T46に逆方向に並列接続された6つのダイオードD41〜D46と、により構成されている。即ち、インバータ62は、高電圧系電力ライン54aではなく電池電圧系電力ライン54bに接続されている点を除いて、上述のインバータ41,42と同様に構成されている。以下、トランジスタT41〜T43をインバータ62の上アーム、トランジスタT44〜T46をインバータ62の下アームと称することがある。
【0021】
電圧波形出力回路90は、図2に示すように、一方が接地されて一定周波数のパルス(例えば、矩形波や正弦波,三角波など)を発生する発振器92と、発振器92に一方の端子が接続された検出抵抗94と、検出抵抗94の他方の端子と接続点Cnとに接続されたコンデンサ95と、検出抵抗94とコンデンサ95との接続点Coに接続されて高周波成分を除去して信号をハイブリッド用電子制御ユニット70に出力するローパスフィルタ96とを備え、検出抵抗94の抵抗値と電気系のうち接続点Cnから見た現在の接続部分である現在対象部分の抵抗値との関係に応じた信号(電圧波形)をハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。この電圧波形出力回路90からの電圧波形は、現在対象部分の絶縁抵抗が低下していないとき(漏電のおそれがないとき)には発振器92と略同一の振幅の電圧波形となり、現在対象部分の絶縁抵抗が低下しているとき(漏電のおそれがあるとき)には検出抵抗94での電圧降下によって発振器92よりも小さな振幅の電圧波形となる。したがって、第1実施例の電子制御ユニット70では、現在対象部分の絶縁抵抗が正常であるか否かを判定する絶縁判定として、電圧波形出力回路90からの電圧波形の振幅が発振器92の電圧波形の振幅より若干小さな値として定められた判定用閾値以上のときには現在対象部分の絶縁抵抗は正常であると判定し、電圧波形出力回路90からの電圧波形が判定用閾値より小さいときには現在対象部分の絶縁抵抗が低下している(異常である)と判定するものとした。
【0022】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、コンデンサ57の端子間に取り付けられた電圧センサ57aからのコンデンサ57の電圧(高電圧系電力ライン54aの電圧)VHやコンデンサ58の端子間に取り付けられた電圧センサ58aからのコンデンサ58の電圧(電池電圧系電力ライン54bの電圧)VL,イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,電圧波形出力回路90からの信号(電圧波形)などが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号,システムメインリレー56へのオンオフ信号,インバータ62のトランジスタT41〜T46へのスイッチング制御信号,警告灯89への点灯信号などが出力ポートを介して出力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、上述したように、現在対象部分の絶縁抵抗が正常であるか否かの判定も行なっている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0023】
こうして構成された第1実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力が駆動軸32に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸32に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであるから、両者を合わせてエンジン運転モードとして考えることができる。
【0024】
エンジン運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸32の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrv*を計算すると共に計算した走行用パワーPdrv*からバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定し、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させるための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。そして、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22における吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜T26のスイッチング制御を行なう。このエンジン運転モードでは、エンジン22の要求パワーPe*がエンジン22を効率よく運転するためにエンジン22を運転停止した方がよいとして定められた閾値Pstop以下に至ったときなどにエンジン22の運転を停止してモータ運転モードに移行する。
【0025】
モータ運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクTr*を設定し、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸32に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してこれらをモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜26のスイッチング制御を行なう。このモータ運転モードでは、要求トルクTr*に駆動軸32の回転数Nrを乗じて得られる走行用パワーPdrv*からバッテリ50の充放電要求パワーPb*を減じて得られるエンジン22の要求パワーPe*がエンジン22を効率よく運転するためにエンジン22を始動した方がよいとして定められた閾値Pstart以上に至ったときなどにエンジン22を始動してエンジン運転モードに移行する。
【0026】
また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*と回転数Nm1,Nm2とに基づいて高電圧系電力ライン54aの目標電圧VHtagを設定し、電圧センサ57aからの高電圧系電力ライン54aの電圧VHが目標電圧VHtagとなるよう昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。ここで、高電圧系電力ライン54aの目標電圧VHtagは、第1実施例では、モータMG1の目標動作点(トルク指令Tm1*,回転数Nm1)でモータMG1を駆動できる電圧とモータMG2の目標動作点(トルク指令Tm2*,回転数Nm2)でモータMG2を駆動できる電圧とのうち大きい方の電圧を設定するものとした。
【0027】
次に、こうして構成された第1実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、電気系のうち接続点Cnから見た現在の接続部分である現在対象部分の絶縁抵抗の低下を判定したり絶縁抵抗の低下箇所を特定したりする際の動作について説明する。図3は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される絶縁抵抗低下検出ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、イグニッションオンされてシステムメインリレー56がオンとされたときに実行が開始される。
【0028】
絶縁抵抗低下検出ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、電圧波形出力回路90からの電圧波形と判定用閾値とを用いて現在対象部分の絶縁判定を行ない(ステップS100,S110)、現在対象部分の絶縁抵抗が正常であると判定されたときにはステップS100に戻り、現在対象部分の絶縁抵抗が異常である(低下している)と判定されたときには、警告灯89を点灯し(ステップS120)、初期値として値0が設定される絶縁抵抗低下検出フラグFに値1を設定して(ステップS130)、本ルーチンを終了する。現在対象部分の絶縁判定の方法については前述した。こうして絶縁抵抗低下検出フラグFに値1が設定されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、絶縁抵抗の低下箇所を特定するために、図4に例示する絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンの実行を開始する。
【0029】
絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、イグニッションオフされたか否かを判定し(ステップS200)、イグニッションオフされていないときには、インバータ62より空調用コンプレッサ61側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を未だ行なっていないか否かを判定し(ステップS210)、空調交流部診断処理を未だ行なっていないときには、昇圧コンバータ55の上アームがオンで保持されると共に下アームがてオフで保持されるよう昇圧コンバータ55を制御する上アームオン制御の実行を開始し(ステップS220)、その状態で空調交流部診断処理を実行する(ステップS230)。上アームオン制御の実行を開始すると、昇圧コンバータ55による昇圧が行なわれなくなるため、高電圧系電力ライン54aの電圧VHは電池電圧系電力ライン54bの電圧VLに近づいてその電圧VLで一定となる。また、空調交流部診断処理は、インバータ62の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ62を制御し、それらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する処理である。具体的には、インバータ62の作動時に上述の絶縁判定によって現在対象部分(インバータ62より電池電圧系電力ライン54b側および空調交流部)の絶縁抵抗が異常であると判定されると共にインバータ62のゲート遮断時(非作動時)に絶縁判定によって現在対象部分(インバータ62より電池電圧系電力ライン54b側)の絶縁抵抗が正常であると判定されたときには、空調交流部の絶縁抵抗は異常である(低下している)と判定し、インバータ62の作動時に絶縁判定によって現在対象部分の絶縁抵抗が異常であると判定されると共にインバータ62のゲート遮断時も絶縁判定によって現在対象部分の絶縁抵抗が異常であると判定されたときには、空調交流部の絶縁抵抗は正常である(低下していない)と判定するものとした。この空調部交流診断処理を実行する際に昇圧コンバータ55の上アームをオンで保持する理由について以下に説明する。上述したように、空調交流部診断処理は、インバータ62の作動時の電圧波形出力回路90からの電圧波形とインバータ62のゲート遮断時の電圧波形出力回路90からの電圧波形とを用いて行なうことができる。しかしながら、昇圧コンバータ55によって高電圧系電力ライン54aの電圧VHを電圧VLより高くしているとき(昇圧しているとき)にインバータ62の作動とゲート遮断とを切り替えると、空調用コンプレッサ61の消費電力が変化したときにその変化によって高電圧系電力ライン54aに電圧変動が生じ、その電圧変動よって電圧波形出力回路90からの出力波形が安定せず、空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かの診断を適正に行なうことができない場合が生じる。第1実施例では、このことを考慮して、高電圧系電力ライン54aの電圧VHを電池電圧系電力ライン54bの電圧VLに等しい電圧で保持しながら空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かの診断を行なうものとした。これにより、この診断の最中に高電圧系電力ライン54aの電圧VHが変動するのを抑制することができ、この診断をより適正に行なうことができる。なお、この場合、高電圧系電力ライン54aの電圧VHを電池電圧系電力ライン54bの電圧VLに等しい電圧で保持しているから、インバータ62の作動時には、空調用コンプレッサ61に電力が供給されるようインバータ62を制御するものとしてもよい。
【0030】
こうして空調交流部診断処理を実行すると、上アームオン制御の実行を終了して(ステップS240)、ステップS200に戻る。その後、イグニッションオフされるまでは、ステップS200でイグニッションオフされていないと判定され、ステップS210で空調交流部診断処理が完了していると判定されてステップS200に戻り、イグニッションオフされたときに、インバータ41よりモータMG1側の第1モータ交流部やインバータ42よりモータMG2側の第2モータ交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断するモータ交流部診断処理を実行すると共に(ステップS250)、インバータ41,42より高電圧系電力ライン54a側やインバータ62より電池電圧系電力ライン54b側の直流部のうちシステムメインリレー56よりバッテリ50側のバッテリ部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断するバッテリ部診断処理を実行して(ステップS260)、本ルーチンを終了する。いま、イグニッションオフされたときを考えているから、モータMG1,MG2からトルクを出力する必要がないため、第1実施例では、昇圧コンバータ55については、上アームオン制御を実行するか駆動停止するものとした。なお、昇圧コンバータ55を駆動停止しても昇圧コンバータ55のダイオードD31を介してバッテリ50からインバータ41,42に電力を供給することは可能である。モータ交流部診断処理は、モータECU40に指令を出力してその指令を受信したモータECU40にインバータ41の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ41を制御させて、それらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いた上述の絶縁判定によって第1モータ交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断し、続いて、モータECU40に指令を出力してその指令を受信したモータECU40にインバータ42の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ42を制御させて、それらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いた絶縁判定によって第2モータ交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断することによって行なうものとした。また、バッテリ部診断処理は、システムメインリレー56がオンオフされるよう制御し、それらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いた絶縁判定によって直流部のうちバッテリ部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断することによって行なうものとした。ここで、インバータ41,42の作動は、上アームと下アームのうち一方をオンで保持すると共に他方をオフで保持するものとしてもよいし、上アームがオンで下アームがオフの状態と上アームがオフで下アームがオンの状態とを周期的に切り替えるものとしてもよいし、モータMG1,MG2のd軸に電流が流れるようにトランジスタT11〜T16,T21〜T26をスイッチング制御するものとしてもよい。こうしたステップS230,S250,S260の処理により、絶縁抵抗の低下箇所を特定することができる。なお、モータ交流部診断処理では、インバータ41,42をゲート遮断する必要があり、バッテリ部診断処理では、システムメインリレー56をオフとする必要があるため、第1実施例では、イグニッションオフされたときにこれらの処理を行なうものとした。
【0031】
以上説明した第1実施例のハイブリッド自動車20によれば、インバータ62より空調用コンプレッサ61側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、昇圧コンバータ55の上アームをオンで保持すると共に下アームをオフで保持しながらインバータ62の作動とゲート遮断とを行なってそれらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形に基づいて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断するから、この診断中に高電圧系電力ライン54aの電圧VHが変動するのを抑制することができ、この診断をより適正に行なうことができる。
【0032】
第1実施例のハイブリッド自動車20では、空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際には、昇圧コンバータ55の上アームがオンで保持されると共に下アームがてオフで保持されるよう昇圧コンバータ55を制御する上アームオン制御を実行しながら空調交流部診断処理を実行するものとしたが、上アームオン制御に代えて、昇圧コンバータ55の上アームが周期的にオンオフされる(いわゆるデューティ制御される)と共に下アームがてオフで保持されるよう昇圧コンバータ55を制御するものとしたり、昇圧コンバータ55の上アームおよび下アームが共にオフとされるよう昇圧コンバータ55を制御する(昇圧コンバータ55を駆動停止する)ものとしたりしてもよい。
【0033】
第1実施例のハイブリッド自動車20では、電気系のうち接続点Cnから見た現在の接続部分である現在対象部分の絶縁抵抗の低下を検出したときには、空調交流部診断処理を未だ行なっていないときに、上アームオン制御を実行しながら空調交流部診断処理を実行するものとしたが、空調交流部診断処理を未だ行なっておらず上アームオン制御を実行可能なときに、上アームオン制御を実行しながら空調交流部診断処理を実行するものとしてもよい。なお、上アームオン制御を実行できないときとしては、例えば、昇圧コンバータ55の上アームの温度が許容温度を超えているときや、オフからオンに切り替えることができないときなどが考えられる。
【実施例2】
【0034】
次に、本発明の第2実施例としてのハイブリッド自動車20Bについて説明する。第2実施例のハイブリッド自動車20Bは、図1および図2を用いて説明した第1実施例のハイブリッド自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複した説明を回避するために、第2実施例のハイブリッド自動車20Bのハード構成についての詳細な説明は省略する。
【0035】
第2実施例のハイブリッド自動車20Bでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図4の絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンに代えて、図5に例示する絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンを実行する。このルーチンは、図4のルーチンのステップS220〜S240の処理に代えてステップS220b,230bの処理を実行する点を除いて図4のルーチンと同一である。したがって、同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0036】
図5の絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンでは、電気系のうち接続点Cnから見た現在の接続部分である現在対象部分の絶縁抵抗の低下を検出した後において、未だイグニッションオフされておらず(ステップS200)、空調交流部診断処理を未だ行なっていないときには(ステップS210)、空調用コンプレッサ61の消費電力が値0となるようインバータ62を制御するゼロ電力制御を実行する(ステップS220)。このゼロ電力制御は、インバータ62の上アームと下アームとのうち一方をオンで保持すると共に他方をオフで保持したり、上アームがオンで下アームがオフの状態と上アームがオフで下アームがオンの状態とを周期的に切り替えたりすることによって行なうことができる。
【0037】
そして、空調用コンプレッサ61の消費電力が値0となると、空調用コンプレッサ61で電力が消費されない態様でインバータ62の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ62を制御しながら電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いた上述の絶縁判定によって空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか異常であるかを診断する空調交流部診断処理を実行する(ステップS230b)。具体的には、インバータ62の作動では、インバータ62の上アーム(トランジスタT41〜T43)と下アーム(トランジスタT44〜T46)とのうち一方をオンとすると共に他方をオフとし、ゲート遮断では、インバータ62の全てのトランジスタT41〜T46をオフとし、これらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いた絶縁判定によって空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか異常であるかを診断する。この場合、インバータ62の作動時に空調用コンプレッサ61には電力が供給されないため、インバータ62の作動とゲート遮断とを切り替える際に空調用コンプレッサ61の消費電力の変化によって高電圧系電力ライン54aに電圧変動が生じるのを抑制することができる。この結果、空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かの診断をより適正に行なうことができる。
【0038】
こうして空調交流部診断処理を実行すると、ステップS200に戻り、その後に、イグニッションオフされたときに、モータ交流部診断処理を実行すると共に(ステップS250)、バッテリ部診断処理を実行して(ステップS260)、本ルーチンを終了する。
【0039】
以上説明した第2実施例のハイブリッド自動車20Bによれば、インバータ62より空調用コンプレッサ61側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、空調用コンプレッサ61の消費電力が値0となるようインバータ62を制御するゼロ電力制御を実行し、その後に、空調用コンプレッサ61で電力が消費されない態様でインバータ62の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ62を制御しながら電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか異常であるかを診断するから、この診断中に高電圧系電力ライン54aの電圧VHが変動するのを抑制することができ、この診断をより適正に行なうことができる。
【0040】
第2実施例のハイブリッド自動車20Bでは、空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、ゼロ電力制御を実行した後に、空調用コンプレッサ61で電力が消費されない態様でインバータ62の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ62を制御しながら空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか異常であるかを診断するものとしたが、ゼロ電力制御を実行せずに、直ちに、空調用コンプレッサ61で電力が消費されない態様でインバータ62の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ62を制御しながら空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断するものとしてもよい。
【0041】
第1実施例や第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、電気系のうち接続点Cnから見た現在の接続部分である現在対象部分の絶縁抵抗の低下を検出した後にイグニッションオフされたときには、モータ交流部診断処理やバッテリ部診断処理を実行するものとしたが、現在対象部分の絶縁抵抗の低下を検出した後にイグニッションオフされたときでも、既に、空調交流部の絶縁抵抗が異常であると判定されているときには、モータ交流部診断処理やバッテリ部診断処理を実行しないものとしてもよい。
【0042】
第1実施例や第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、現在対象部分の絶縁抵抗の低下を検出したときに、空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断するものとしたが、このときに限られず、例えば、イグニッションオンされてシステムメインリレー56をオンとした後などに空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断するものとしてもよい。
【0043】
第1実施例や第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、電圧波形出力回路90は、バッテリ50の負極端子とシステムメインリレー56との間の接続点Cnに接続されるものとしたが、バッテリ50の正極端子とシステムメインリレー56との間の接続点Cnに接続されるものとしてもよい。
【0044】
第1実施例や第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、モータMG2からの動力を駆動輪39a,39bに連結された駆動軸32に出力するものとしたが、図6の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸32が接続された車軸(駆動輪39a,39bに接続された車軸)とは異なる車軸(図6における車輪39c,39dに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0045】
第1実施例や第2実施例のハイブリッド自動車20,20Bでは、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪39a,39bに接続された駆動軸32に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸32に出力するものとしたが、図7の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、駆動輪39a,39bに接続された駆動軸に変速機230を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ229を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機230とを介して駆動軸に出力すると共にモータMGからの動力を変速機230を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。また、図8の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、エンジン22からの動力を変速機330を介して駆動輪39a,39bに接続された車軸に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪39a,39bに接続された車軸とは異なる車軸(図8における車輪39c,39dに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0046】
第1実施例や第2実施例では、本発明を、駆動軸32にプラネタリギヤ30を介して接続されたエンジン22およびモータMG1と、駆動軸32に接続されたモータMG2と、を備えるハイブリッド自動車20,20Bに適用するものとしたが、図9の変形例の電気自動車420に例示するように、走行用の動力を出力するモータMGを備える単純な電気自動車に適用するものとしてもよい。
【0047】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。第1実施例および第2実施例とこれらに対応する本発明の第1および第2の自動車との関係として、共通して、モータMG1,MG2が「電動機」に相当し、インバータ4インバータ41,42が「電動機用インバータ回路」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、昇圧コンバータ55が「昇圧コンバータ」に相当し、空調装置60が「空調装置」に相当し、空調装置60の空調用コンプレッサ61を駆動するインバータ62が「空調用インバータ回路」に相当し、電圧波形出力回路90が「絶縁抵抗信号検出手段」に相当する。
【0048】
第1実施例と本発明の第1の自動車との関係では、インバータ62より空調用コンプレッサ61側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、昇圧コンバータ55の上アームをオンで保持すると共に下アームをオフで保持しながらインバータ62の作動とゲート遮断とを行なってそれらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形に基づいて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する図4の絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「診断処理実行手段」に相当する。
【0049】
第2実施例と本発明の第2の自動車との関係では、インバータ62より空調用コンプレッサ61側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、空調用コンプレッサ61の消費電力が値0となるようインバータ62を制御するゼロ電力制御を実行し、その後に、空調用コンプレッサ61で電力が消費されない態様でインバータ62の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ62を制御しながら電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか異常であるかを診断する図5の絶縁抵抗低下箇所特定ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「診断処理実行手段」に相当する。
【0050】
ここで、「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG1,MG2に限定されるものではなく、誘導電動機など、走行用の電動機であれば如何なるタイプの電動機であっても構わない。「電動機用インバータ」としては、インバータ41,42に限定されるものではなく、電動機を駆動するものであれば如何なるものとしても構わない。「二次電池」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、如何なるタイプの二次電池であっても構わない。「昇圧コンバータ」としては、昇圧コンバータ55に限定されるものではなく、二次電池が接続された電池電圧系と電動機用インバータ回路が接続された駆動電圧系とに接続されて駆動電圧系の電圧を電池電圧系の電圧以上の範囲内で調節すると共に電池電圧系と駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なうものであれば如何なるものとしても構わない。「空調装置」としては、空調装置60に限定されるものではなく、車室内の空気調和を行なうものであれば如何なるものとしても構わない。「空調用インバータ回路」としては、空調装置60の空調用コンプレッサ61を駆動するインバータ62に限定されるものではなく、電池電圧系に接続され空調装置を駆動するものであれば如何なるものとしても構わない。「絶縁抵抗信号検出手段」としては、電圧波形出力回路90に限定されるものではなく、二次電池の正極側または負極側に接続されて回路の絶縁抵抗に応じた信号を絶縁抵抗信号として検出するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0051】
本発明の第1の自動車における「診断処理実行手段」としては、インバータ62より空調用コンプレッサ61側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、昇圧コンバータ55の上アームをオンで保持すると共に下アームをオフで保持しながらインバータ62の作動とゲート遮断とを行なってそれらのときの電圧波形出力回路90からの電圧波形に基づいて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断するものに限定されるものではなく、空調用インバータ回路より空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際、駆動電圧系の電圧が電池電圧系の電圧に対して昇圧されないよう昇圧コンバータを制御する非昇圧制御と、空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御と、を伴って絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて空調交流部診断処理を実行するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0052】
本発明の第2の自動車における「診断処理実行手段」としては、インバータ62より空調用コンプレッサ61側の空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する際には、空調用コンプレッサ61の消費電力が値0となるようインバータ62を制御するゼロ電力制御を実行し、その後に、空調用コンプレッサ61で電力が消費されない態様でインバータ62の作動とゲート遮断とが行なわれるようインバータ62を制御しながら電圧波形出力回路90からの電圧波形を用いて空調交流部の絶縁抵抗が正常であるか異常であるかを診断するものに限定されるものではなく、空調用インバータ回路より空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際、空調装置で電力が消費されずに空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御を伴って絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて空調交流部診断処理を実行するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0053】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、自動車の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、39c,39d 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54a 高電圧系電力ライン、54b 電池電圧系電力ライン、55 昇圧コンバータ、57,58 コンデンサ、57a,57b 電圧センサ、60 空調装置、61 空調用コンプレッサ、62 インバータ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、89 警告灯、229 クラッチ、230,330 変速機、420 電気自動車、D11〜D16,D21〜D26,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、MG,MG1,MG2 モータ、T11〜T16,T21〜T26,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の電動機と、前記電動機を駆動する電動機用インバータ回路と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機用インバータ回路が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を前記電池電圧系の電圧以上の範囲内で調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、車室内の空気調和を行なう空調装置と、前記電池電圧系に接続され前記空調装置を駆動する空調用インバータ回路と、を備える自動車であって、
前記二次電池の正極側または負極側に接続されて回路の絶縁抵抗に応じた信号を絶縁抵抗信号として検出する絶縁抵抗信号検出手段と、
前記空調用インバータ回路より前記空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際、前記駆動電圧系の電圧が前記電池電圧系の電圧に対して昇圧されないよう前記昇圧コンバータを制御する非昇圧制御と、前記空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう該空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御と、を伴って前記絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて前記空調交流部診断処理を実行する診断処理実行手段と、
を備える自動車。
【請求項2】
走行用の電動機と、前記電動機を駆動する電動機用インバータ回路と、二次電池と、前記二次電池が接続された電池電圧系と前記電動機用インバータ回路が接続された駆動電圧系とに接続されて前記駆動電圧系の電圧を前記電池電圧系の電圧以上の範囲内で調節すると共に前記電池電圧系と前記駆動電圧系との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータと、車室内の空気調和を行なう空調装置と、前記電池電圧系に接続され前記空調装置を駆動する空調用インバータ回路と、を備える自動車であって、
前記二次電池の正極側または負極側に接続されて回路の絶縁抵抗に応じた信号を絶縁抵抗信号として検出する絶縁抵抗信号検出手段と、
前記空調用インバータ回路より前記空調装置側の絶縁抵抗が正常であるか否かを診断する空調交流部診断処理を実行する際、前記空調装置で電力が消費されずに前記空調用インバータ回路の作動とゲート遮断とが行なわれるよう該空調用インバータ回路を制御するゲート切替制御を伴って前記絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて前記空調交流部診断処理を実行する診断処理実行手段と、
を備える自動車。
【請求項3】
請求項2記載の自動車であって、
前記診断処理実行手段は、前記空調交流部診断処理を実行する際、前記空調装置の消費電力が値0となるよう前記空調インバータ回路を制御するゼロ電力制御を実行し、該ゼロ電力制御の実行後に、前記空調交流部診断処理を実行する手段である、
自動車。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の自動車であって、
前記診断処理実行手段は、前記電動機と前記電動機用インバータ回路と前記二次電池と前記昇圧コンバータと前記空調装置と前記空調用インバータ回路とを含む電気系のいずれかの箇所で絶縁抵抗の低下が生じたことを前記絶縁抵抗信号検出手段により検出される絶縁抵抗信号に基づいて検出したとき、前記空調交流部診断処理を実行する手段である、
自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−135124(P2012−135124A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285462(P2010−285462)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】