説明

自在キャスターの偏心補正部材

【課題】本発明は市販の自在キャスターが使用出来ると共にその偏心量の欠点を補正して、台車の横振れや蛇行を殆どなくし、特に自動搬送用台車として使用可能となる自在キャスターの偏心補正部材を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも、下面の一端側に自在キャスター4を取付ける下プレート1と、該下プレート1の他端側上面に回転自在に軸支する上プレート2と、前記下プレート1と上プレート2との間に装着する転動部材3とから構成する。また前記下プレート1に自在キャスター4を取付けた際、車輪41の偏心量eに対して、上プレート2の中心軸21が、自在キャスター4の旋回部43の中心線から偏心量Eになるように上プレート2を下プレート1に軸支させると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自在キャスターと台車の間に取付けて自在キャスターの偏心による欠点を補正するための偏心補正部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自在キャスターを取付けた台車は、前進から後進(戻り)する際、自在キャスターが旋回中心から偏心量(e)を半径として反転し、180度向きを変える。この時、車輪が横方向に向き、横振れを生じる。このため、搬送用台車を用いて積荷を受け渡す際、搬送用台車の横振れを制限する位置決めガイドが設けられる。しかしながら、一般には搬送用台車を前進から後進に戻す際は、自在キャスターが偏心量(e)だけ横に進もうとすることにより、搬送用台車が左右に横振れし、左右いずれかの位置決めガイドに当ってしまい、搬送用台車が動けなくなってしまう事故が生じることもあった(図5参照)。この時、位置決めガイドがなくても方向転換するのには、大きな力が必要であった。この結果、電動用台車の場合などは操作電流がオーバーして停止してしまい、保全者が駆けつけて復帰させているのが現状である。
【0003】
このため、台車を停止させない対策方法としては、台車に押し戻すプッシャー装置を設けたもの、自在キャスターがスリップし易いように床面を平滑に管理するもの、台車と位置決めガイドとの隙間を多めに取ったもの等がある。上記プッシャー装置を設けるものは、それを付けたり、その管理が必要となり、又、床面を平滑に管理する対策方法は、維持管理が大変で面倒なものであった。更に台車と位置決めガイドとの隙間を多めに取った対策方法は、相手設備と荷卸を正しい位置で受け渡しする必要がある自動搬送用台車では、使用できなくなる恐れがあった。
【0004】
この横振れや蛇行しない台車として、特開2000−318617「片袖形手押車」が提案されている。この構造は、キャスターの取付板及び旋回板の中心部に旋回回転軸を設け、旋回板に車軸支持板を取付け、車軸支持板に設ける車軸の位置を、旋回回転軸より垂直線上に設けて偏心量のない自在車輪と成し、自在車輪の車軸支持板とアームを一体にして車体枠の下面左右に取付板で固定取付け、更に、車体枠の左右に取付けた偏心量のない自在車輪のアームが平行に回動するようにアームの両先端を繋ぎ板と回動ピンとで固定するものであった。
【0005】
しかしながら、特開2000−318617は、本発明のように市販の自在キャスターを用いることが出来ず、必ず上記特定構造のキャスターを用いなければならず、高価であると共にその入手も困難なものであり、更には自動搬送用としては使用できないものであった。このため、簡単で且つ維持管理に余り手間が掛からない対策方法が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−318617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は市販の自在キャスターが使用出来ると共にその偏心量の欠点を補正して、台車の横振れや蛇行を殆どなくし、特に自動搬送用台車として使用可能となる自在キャスターの偏心補正部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記要望に応えるために成されたものであり、つまり、少なくとも、下面の一端側に自在キャスターを取付ける下プレートと、該下プレートの他端側上面に回転自在に軸支する上プレートと、前記下プレートと上プレートとの間に装着する転動部材とから構成する。また前記下プレートに自在キャスターを取付けた際、該自在キャスターの車輪の偏心量に対して、上プレートの中心軸が、自在キャスターの旋回部の中心線から反対側の偏心量になるように上プレートを下プレートに軸支させると良い。前記下プレートを矩形状と成し、且つ、その四隅に切欠き部を設け、上プレートの一端が下プレートの一端と略一致させ、上プレートを半回転した時に、下プレートの他端が上プレートの一端と略一致する長さとするのが好ましく、転動部材として、上プレートの上面に刻設された円形状のガイド溝と、該ガイド溝と対向して上プレートの下面に刻設された円形状のガイド溝と、ガイド溝に配列して転動する多数のボールとから成されたものとすると良い。
【発明の効果】
【0009】
請求項1のように少なくとも、下面の一端側に自在キャスター(4)を取付ける下プレート(1)と、該下プレート(1)の他端側上面に回転自在に軸支する上プレート(2)と、前記下プレート(1)と上プレート(2)との間に装着する転動部材(3)とから構成するものであり、下プレート(1)に自在キャスター(4)を取付けた際、該自在キャスター(4)の車輪(41)の偏心量(e)に対して、上プレート(2)の中心軸(21)が、自在キャスター(4)の旋回部(43)の中心線から偏心量(E)になるように上プレート(2)が下プレート(1)に軸支される構成とした本発明品を用いることにより、台車(5)に市販の自在キャスター(4)が使用出来ると共にその偏心量(e)が本発明品を介在させることにより補正されて、台車(5)の横振れや蛇行が殆どなくなるものとなるため、特に自動搬送用台車として使用するのに適したものとなる。更に従来の自在キャスター(4)を使用した場合と殆ど同様に用いることができ、且つ、その維持管理も容易なものとなる。又、本発明品を用いて自在キャスター(4)が台車(5)の四隅に取付けられることにより、無理なく自由な方向に移動出来るものとなる。
【0010】
請求項2のように下プレート(1)を矩形状と成し、且つ、その四隅に切欠き部(11)を設け、上プレート(2)の一端が下プレート(1)の一端と略一致させ、上プレート(2)を半回転した時に、下プレート(1)の他端が上プレート(2)の一端と略一致する長さとすることにより、コンパクトな製品となる。
【0011】
請求項3に示すように転動部材(3)として少なくとも、上プレート(2)の上面に刻設された円形状のガイド溝(31)と、該ガイド溝(31)と対向して上プレート(2)の下面に刻設された円形状のガイド溝(32)と、ガイド溝(31),(32)に配列して転動する多数のボール(33)とから成されることにより、安定した回転性能が得られると共に構造が極めて簡単であるので、製作費が安価である。
【0012】
請求項4に示すように偏心量(E)を前記偏心量(e)の0.7〜1.5倍の範囲とすることにより、台車(5)の横振れや蛇行が殆どなくなると共に台車(5)の進行方向の切換えがスムーズなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の要部を示す説明図である。
【図2】本発明の全体を示す一部切欠いた斜視図である。
【図3】本実施形態の取付方法を示す説明図である。
【図4】本実施形態の作用を示す説明図である。
【図5】従来の台車が方向転換する際の車輪状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図1、図2に基づいて説明する。(1)は下面の一端側(図1の図中に於いては右側)に自在キャスター(4)を取付ける金属製などで且つ矩形状の下プレートであり、該下プレート(1)の四隅には図3、図2に示すように切欠き部(11)が設けられていると共に左寄りに、U字状の断面を有した円形状の後述するガイド溝(31)が刻設されている。
【0015】
(2)は下プレート(1)の他端側上面に回転自在に軸支する金属製などで且つ矩形状の上プレートであり、該上プレート(2)の中央には中心軸(21)が嵌入されて下方に突出されている。また上プレート(2)の四隅には、段付きの取付穴(22)が穿設されている。又、上プレート(2)の下面側には、前記ガイド溝(31)と対向してU字状の断面を有した円形状の後述するガイド溝(32)が刻設されている。尚、前記中心軸(21)は下プレート(1)に立設させたものとしても良い。又、前記中心軸(21)の代りに、下プレート(1)の下面から図示しない挿入穴から止めネジを挿入し、上プレート(2)の図示しないネジ穴に螺合させて固定するようにしても良い。
【0016】
(3)は下プレート(1)と上プレート(2)との間に装着する転動部材であり、該転動部材(3)は、少なくとも、下プレート(1)の上面に刻設された円形状のガイド溝(31)と、該ガイド溝(31)と対向して上プレート(2)の下面に刻設された円形状のガイド溝(32)と、前記ガイド溝(31),(32)に配列して転動する多数のボール(33)とから成されている。(4)は市販の一般的な自在キャスターであり、該自在キャスター(4)の車輪(41)は旋回部(43)の中心線から偏心量(e)ずれている。
【0017】
又、前記下プレート(1)の長さとしては、上プレート(2)の一端が図3(a)のように下プレート(1)の一端(右端)と略一致させ、上プレート(2)を半回転した時に、下プレート(1)の他端(左端)が図3(b)のように上プレート(2)の一端と略一致する長さとするのが好ましい。つまり、下プレート(1)の長さは、上プレート(2)の1.5倍とするのが良い。尚、前記下プレート(1)の下面の一端側に自在キャスター(4)を取付けた場合、下プレート(1)の他端側上面に上プレート(2)を回転自在に軸支させると、図1に示すように旋回部(43)の中心線を基準にして、右側が自在キャスター(4)の偏心量(e)を表わし、左側が上プレート(2)の中心の偏心量(E)を表わす。この時の前記偏心量(E)としては、偏心量(e)の0.7〜1.5倍の範囲が好ましく、その値が0.7倍以下になると、方向転換する時に大きな力が必要となり、台車(5)の進行方向の切換えがスムーズに行えなくなる恐れを生じる。一方、1.5倍以上になると、振れ(逃げ)が大きくなるため、台車(5)が規定の範囲からはみ出す恐れが生じ、且つ、位置決めガイドを新たに設置する必要が生じるものとなる。
【0018】
次に発明品を台車(5)に取付ける場合について説明する。予め上プレート(2)が下プレート(1)に回動自在に軸支されて組立てられたもの(本発明品)を所定数量用意しておくと共に取付部材(6)も用意しておく。先ず始めに、市販の自在キャスター(4)を下プレート(1)の下面に取付ける。この時、図1、図3に示すように下プレート(1)の側面と自在キャスター(4)の側面を合わせて取付ける。次に予め用意した台車(5)の底面に発明品を取付け易い状態、つまり、台車(5)を反転又は垂直に立てる。そして図3(a)に示す左側の2つの段付き取付穴(22)に取付ネジ(61)を挿入すると共に台車(5)側の穴に貫通させ、その先端にナット(62)を螺合させて取付ける。左側の2つの取付穴(22)に取付ネジ(61)を取付けた後、車輪(41)を手に持って反対側(図3の図中左側)に図中矢印のように回転させると、下プレート(1)も一緒に回転されて、上プレート(2)の右側に穿設した2つの取付穴(22)が表われる。この取付穴(22)に取付ネジ(61)を前記同様にして取付けることにより、本発明品は、台車(5)の底面と、自在キャスター(4)の取付部の間に介在されるのである。このようにして、台車(5)に所定数量の自在キャスター(4)と一緒に本発明品を取付ければ良い。
【0019】
図4は本発明の作用を示す図であり、これについて説明する。先ず始めに前進状態で停止している台車(5)を元の位置に引き戻すと、自在キャスター(4)は図4(a)の状態から(b)の状態になると、車輪(41)は横方向に向き、横振れの力(F)が発生する。この力(F)により下プレート(1)は中心軸(21)を中心として回転し、横振れの力(F)を吸収することができ、台車(5)の横振れが解消されるものとなる。更に台車(5)が後進すると、下プレート(1)に自在キャスター(4)は180度反転すると共に自在キャスター(4)も180度反転する。この状態で元の位置まで台車(5)は戻されるのである。
【0020】
このように台車(5)を方向転換させる場合、自在キャスター(4)の車輪(41)は横方向に向きながら、旋回部(43)の中心線から、従来と同様に偏心量(e)の半径で回転して横振れを起こそうとするが、発生した横振れの力(F)によって下プレート(1)を回転させて車輪(41)の横方向のはみ出しを最小限に防ぐものとなる。従って、台車(5)の方向転換がスムーズに行えると共に車輪(41)の横振れも防止でき、本発明品を用いることにより、自動搬送用の台車(5)として重宝されるものとなるのである。尚、本発明品を取付けた台車(5)は、無理なく自由な方向に移動出来るため、免震機能付きの台車(5)として利用することも可能となる。
【符号の説明】
【0021】
1 下プレート
11 切欠き部
2 上プレート
21 中心軸
3 転動部材
31,32 ガイド溝
33 ボール
4 自在キャスター
41 車輪
43 旋回部
E 上プレートの偏心量
e 自在キャスターの車輪の偏心量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下面の一端側に自在キャスター(4)を取付ける下プレート(1)と、該下プレート(1)の他端側上面に回転自在に軸支する上プレート(2)と、前記下プレート(1)と前記上プレート(2)との間に装着する転動部材(3)とから構成するものであり、前記下プレート(1)に自在キャスター(4)を取付けた際、該自在キャスター(4)の車輪(41)の偏心量(e)に対して、前記上プレート(2)の中心軸(21)が、前記自在キャスター(4)の旋回部(43)の中心線から偏心量(E)になるように前記上プレート(2)が前記下プレート(1)に軸支されたことを特徴とする自在キャスターの偏心補正部材。
【請求項2】
前記下プレート(1)が矩形状であり、且つ、その四隅に切欠き部(11)が設けられ、前記上プレート(2)の一端が前記下プレート(1)の一端と略一致させ、前記上プレート(2)を半回転した時に、前記下プレート(1)の他端が前記上プレート(2)の一端と略一致する長さである請求項1記載の自在キャスターの偏心補正部材。
【請求項3】
前記転動部材(3)が少なくとも、上プレート(2)の上面に刻設された円形状のガイド溝(31)と、該ガイド溝(31)と対向して上プレート(2)の下面に刻設された円形状のガイド溝(32)と、前記ガイド溝(31),(32)に配列して転動する多数のボール(33)とから成された請求項1記載の自在キャスターの偏心補正部材。
【請求項4】
前記偏心量(E)が前記偏心量(e)の0.7〜1.5倍の範囲である請求項1記載の自在キャスターの偏心補正部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112232(P2013−112232A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261172(P2011−261172)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(596063791)有限会社東洋メカシステム (1)