説明

自在継手

【課題】不自然な曲がりや金属疲労による折損がない、形状記憶合金のワイヤを用いた自在継手を提供する。
【解決手段】接合部材2と接合部材2との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなるワイヤ1とした。接合部材2の一端には、ワイヤ1を差し込んで挿入する挿入孔2aが開孔され、ワイヤ1の両端を接合部材2の挿入孔2aに差し込んで自在継手とし、接合部材2を所望の角度に可変する。形状記憶合金のワイヤ1は、繰り返しの曲げ伸ばしにおける金属疲労が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材と部材との接合する角度を、自由に変化することができる自在継手の構造に関し、特に形状記憶合金のワイヤを用いた自在継手の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、部材と部材との間を可撓性のある金属線材を用いて自在継手とした技術がある。例えば、特開2000−61151号公報(特許文献1)に開示された「人形体の製造方法」は、人形の膝や肘などの関節部に針金などの可撓性を有する芯材を備え、自由なポーズに変えることができるものである。
【0003】
特開2000−279647号公報(特許文献2)に開示された「弾性人形体」も、特許文献1と同様に人形の関節部に金属製の芯材を用いて、自由なポーズに変えることができるものである。また、芯材の一部に応力が集中して不自然な曲がり方や折損をしないように、芯材の周囲を合成樹脂で覆いこれを解消している
【0004】
実開昭62−6887号公報(特許文献3)に開示された「関節部に形状記憶合金を組み込んだ玩具人形」は、玩具人形の関節部に形状記憶合金を組み込んで、形状記憶合金を加温又は減温することで玩具人形の手足や首が動作するように形成したものである。
【0005】
特開昭62−179489号公報(特許文献4)に開示された「人形や動物おもちゃ等の変形構造」は、人形や動物おもちゃの関節部分に配置された形状記憶合金を、通電加熱することで、自在に変形させることができ、通電による加熱を停止すればもとのポーズに戻る構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開2000−61151号公報
【特許文献2】 特開2000−279647号公報
【特許文献3】 実開昭62−6887号公報
【特許文献4】 特開昭62−179489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の関節部に備えられた針金などの可撓性を有する芯材は、きれいな曲率半径をもって曲げることも可能であるが、V字状に急角度で曲げることも可能である。したがって粗暴な取り扱いを行うと不自然な曲がり方になったり、曲げ伸ばしを繰り返すことによって金属疲労を起こして折損したりする。このため、人形の関節部の外観が不自然な曲がりであったり、折損した芯材が肉部分を突き破って突出したりといった課題があった。
【0008】
特許文献2の発明が解決しようとする課題(段落番号0003)では、前記した課題について次のように指摘している。「針金をへの字形に曲げた後に逆への字形に曲げ返すとき、同じ部分が曲がるわけではなく、異なる部分が曲がってしまうという現象が発生する。したがって、一度曲がった部分は逆側に曲げても矯正されずに曲がったままになる。このように、一方に曲げるときとその逆側に曲げるときとでは曲がり位置が変わるために不自然であるほか、腕部が変形したり、その長さが短くなったりする。しかも、針金などの金属製芯材を直接に曲げると、合成樹脂製の芯材とは異なり、U字形ではなくL字形又はV字形のように急角度で曲がるのでこの部分にのみ応力が集中し、芯材が折損するおそれがある。弾性人形体の内部で芯材が折れてしまうと、その端部が肉部分を突き破って外部に露出する可能性があり、人を傷つける危険性がある。また、関節以外の部分が曲がってしまうので不自然である。」この点については、図9及び図10の従来のワイヤ(11)を使用した自在継手を曲げた状態を示す図も合わせて参照されたい。図9及び図10のようにワイヤ(11)が折れ曲がると人形の皮膚と肉部である外装材(3)の外観にも影響が生じ、人形の特に関節部の外観が著しく損なわれ、人体外観としてのリアリティを失ってしまうという課題があった。
【0009】
そこで、特許文献2ではこのような不都合を解消するために、芯材を鉄、ステンレス等の針金によって構成するとともに、その周囲を適宜硬度の熱可塑性エラストマーなどの合成樹脂で覆うことで、芯材が急角度で折れ曲がらないようにしている。(段落番号0017及び段落番号0020参照)しかしながら、鉄、ステンレス等の針金は、繰り返しの曲げ伸ばしを行うことで確実に金属疲労が生じて折損することを避けられない。また、製造上の手間やコストも多くなるといった課題もあった。
【0010】
特許文献3の関節部に組み込まれた形状記憶合金は、いわば金属製の針金ではあるが、前記特許文献1及び2のように関節部を任意に曲げ伸ばすことを目的としたものではない。すなわち、形状記憶合金の本来の特性である温度による形態制御を行うことを目的として用いたもので、この特性を利用して形状記憶合金を加温又は減温することで玩具人形の手足や首が動作するように構成したものなので、その動作は単一的であり、すぐに飽きがきて何らおもちゃとして面白みのあるものではない。
【0011】
特許文献4も前記特許文献3と同様に関節部を任意に曲げ伸ばすことを目的としたものではない。すなわち、形状記憶合金の本来の特性である温度による形態制御を行うことを目的として用いたもので、この特性を利用して形状記憶合金に通電することで加熱されて所望の角度に変形させ、通電による加熱を停止すればもとのポーズに戻るように構成したものなので、その動作は単一的であり、すぐに飽きがきて何らおもちゃとして面白みのあるものではない。
【0012】
そこで本発明は、これらの課題を解決するとともに、部材と部材との接合する角度を自由に変化することができるとともに、不自然な曲がりや金属疲労による折損がない、形状記憶合金のワイヤを用いた自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1においては、接合部材と接合部材との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなるワイヤであることで解決される。
【0014】
請求項2においては、接合部材と接合部材との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなる束状にした複数のワイヤであることで解決される。
【0015】
請求項3においては、該自在継手は、人形の関節部に備えたことで解決される。
【0016】
請求項4においては、該自在継手は、三脚の雲台に備えたことで解決される。
【発明の効果】
【0017】
請求項1においては、接合部材と接合部材との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなるワイヤとしたので、銅やアルミニウムのワイヤのように繰り返しの曲げと伸ばしによる不自然な変形や金属疲労による折損が生じることなく長期にわたって自在継手としての機能を確実に維持することが可能である。また、接合部材と接合部材との間を形状記憶合金からなるワイヤで接合するといったシンプルな構成であるので故障がなく、手で接合部材と接合部材との角度を変えることができる比較的コンパクトな物品に幅広い分野で用いることができる。
【0018】
請求項2においては、接合部材と接合部材との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなる束状にした複数のワイヤとしたので、銅やアルミニウムのワイヤのように繰り返しの曲げと伸ばしによる不自然な変形や金属疲労による折損が生じることなく長期にわたって自在継手としての機能を確実に維持することが可能である。また、接合部材と接合部材との間を形状記憶合金からなるワイヤで接合するといったシンプルな構成であるので故障がなく、手で自在継手の角度を変えることができる比較的コンパクトな物品に幅広い分野で用いることができる。さらに、該自在継手は形状記憶合金からなる複数の束状のワイヤであるので、例えば0.5mmφの細い形状記憶合金のワイヤを複数本束ねることで、よりしなやかに手で接合部材と接合部材との角度を変えることができる。
【0019】
請求項3においては、該自在継手は、人形の関節部に備えたので、人形の手足などの関節部分の繰り返しの曲げと伸ばしを行ったとしても不自然な曲がりや金属疲労による折損が生じることなく、皮膚と肉部である外装材の関節部分の外観に好影響を与え、人形本体に様々なポーズをとらせても、人体外観としてリアリティのある美しいラインを保つことができるとともに、長期にわたって人形のポーズを変化させて遊ぶことが可能となる。
【0020】
請求項4においては、該自在継手は、三脚の雲台に備えたので、特にコンパクトカメラ用の三脚に用いた場合、雲台に取り付けられたカメラの角度調整がネジで締め込んで固定する必要がなく、極めて容易で使い勝手に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の自在継手の正面図である。
【図2】図1のA−A線拡大断面図である。
【図3】本発明の自在継手を曲げた状態を示す図である。
【図4】本発明の自在継手を曲げた状態を示す図である。
【図5】本発明の自在継手を人形に適用した正面図である。
【図6】人形に適用した自在継手を曲げた状態を示す図である。
【図7】人形に適用した自在継手を曲げた状態を示す図である。
【図8】本発明の自在継手を三脚に適用した正面図である。
【図9】従来の針金を使用した自在継手を曲げた状態を示す図である。
【図10】従来の針金を使用した自在継手を曲げた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0022】
本発明の自在継手の第1実施例について、図面を参照し詳細に説明する。図1は、本発明の自在継手の正面図、図2は、図1のA−A線拡大断面図である。
【0023】
本発明の自在継手は、接合部材(2)と接合部材(2)との間を形状記憶合金からなるワイヤ(1)で接合して構成される。接合部材(2)の一端には、ワイヤ(1)を差し込んで挿入する挿入孔(2a)が開孔され、ワイヤ(1)の両端を接合部材(2)の挿入孔(2a)に差し込んで自在継手とし、接合部材(2)を所望の角度に可変する。
【0024】
形状記憶合金は、ニッケルとチタンの合金が一般的であり、家庭電化製品、医療用機器、自動車、産業用機器、ロボット、眼鏡、下着など様々な分野で応用されている。その特性は、高温で記憶した形状をある温度で変形させても加熱によって元の形状に回復する一方向性や、温度サイクルに対して可逆的に変化する二方向性があり、この変形範囲は鋼などを使う通常のばね等に比べてはるかに広く、この性質を超弾性という。
【0025】
出願人は、形状記憶合金の超弾性という点に大いに着目し、一般的に用いられている加熱によって元の形状に回復するといった特性(特許文献3及び4参照)ではなく、新たな特性を発見し、これを自在継手に応用することを見いだした。新たな特性とは、形状記憶合金のワイヤは、繰り返しの曲げ伸ばしにおける金属疲労が生じないこと。最も曲げた際の最小曲率(半径)が決まっていることである。ワイヤ(1)の最小曲率は、線径によってある程度決定される。0.5mmφであれば約R2mm、1mmφであれば約R5mmである。
【0026】
出願人によれば、0.5mmφの形状記憶合金ワイヤを最小曲率(約R2mm)への曲げと直線への伸ばし耐久試験を行った。その結果、1000回の曲げ伸ばしを行ってもまったく最小曲率の変化や金属疲労が生じず、V字型に折れ曲がったり金属疲労が生じて折損したりといった現象も現れず、相当の耐久性があることが実証された。このような特性を自在継手として応用すれば、極めて広範な用途に応用することが可能となる。なお、ワイヤ(1)をペンチなどの工具類を用いて無理に曲げようとすれば分子構造が破壊され最小曲率を維持することはできないことを付け加えておく。
【0027】
図9及び図10は、従来のワイヤ(11)を使用した自在継手を曲げた状態を示す図である。前述(段落番号0008)したように、銅やアルミニウムの針金をへの字形に曲げた後に逆への字形に曲げ返すとき、同じ部分が曲がるわけではなく、異なる部分が曲がってしまうという現象が発生する。したがって、一度曲がった部分は逆側に曲げても矯正されずに曲がったままになる。このように、一方に曲げるときとその逆側に曲げるときとでは曲がり位置が変わるために不自然であるほか、腕部が変形したり、その長さが短くなったりする。しかも、針金などの金属製芯材を直接に曲げると、L字形又はV字形のように急角度で曲がるのでこの部分にのみ応力が集中して折損するおそれがある。また繰り返しの曲げ伸ばしによっても金属疲労が生じて折損する。
【0028】
図3及び図4は、本発明の自在継手のワイヤ(1)を曲げた状態を示す図である。通常は、図3に示されるように曲げたり、あるいはそれを伸ばしたりすることが繰り返し行われる。そして、図4は最小曲率にワイヤ(1)を曲げた状態を示している。前述(段落番号0025)のように、形状記憶合金からなるワイヤ(1)は、最も曲げた際の最小曲率(半径)が決まっていることから、最小曲率よりも大きな半径での曲げであれば、きれいなラインを描いて曲がる。すなわち、への字、V字、L字のように曲がることはないことが大きな特徴である。
【実施例2】
【0029】
実施例2では、接合部材(2)と接合部材(2)との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなる束状にした複数のワイヤ(1a)とした。ワイヤ(1a)は図2の図1におけるA−A線拡大断面図に表されるように、細いワイヤを複数本束ねて形成した。この束状のワイヤ(1a)の両端部を接合部材(2)の一端に開孔された挿入口(2a)に差し込んで自在継手とし、接合部材(2)を所望の角度に可変する。
【0030】
図2においては、線径0.5mmφの形状記憶合金のワイヤを6本束にして用いている。これによって、束ねた状態の径と同寸のワイヤを用いた場合を比較すると、基本的な特性は同一であるが、よりしなやかに曲げ易いといった特性を得ることができる。また、細いワイヤの場合は切断などの加工上の取り扱いが容易であることも特徴である。なお、図2においては、線径0.5mmφのワイヤを6本束にして用いているが用途に応じて線径や本数を適宜増減して用いることで用途に合った最適な特性を得ることが可能となる。
【実施例3】
【0031】
実施例3では、該自在継手であるワイヤ(1)(1a)を人形本体(4)の首、肩、肘、手首、腰、股、膝、足首の関節部に備えた。図5は、本発明の自在継手を人形に適用した正面図である。人形本体(4)は、関節が可動する人形として、人体の骨格をベースにして複数の接合部材を備えた。上肢は前腕部材(2b)と上腕部材(2c)と手部材(2d)とから構成、下肢は下腿部材(2e)と大腿部材(2f)と足部材(2g)とから構成、頭部は頚部材(2j)から構成、体幹は胴部材(2h)と腰部材(2i)とから構成され、それぞれの端部に開孔された挿入孔(2a)にワイヤ(1)(1a)を挿入して関節部を自在継手として備えた。そして人形の皮膚及び肉としての外装材(3)で、複数の接合部材とワイヤ(1)(1a)を覆い人形としての体をなす。外装材(3)は、人肌のような柔軟性を有するウレタン樹脂が好適に用いられる。
【0032】
図6及び図7は、人形本体(4)に適用した自在継手のワイヤ(1)(1a)を曲げた状態を示す図である。通常は、図6に示されるように曲げたり、あるいはそれを伸ばしたりすることが繰り返し行われる。そして、図7は最小曲率にワイヤ(1)(1a)を曲げた状態を示している。前述(段落番号0025)のように、形状記憶合金からなるワイヤ(1)は、最も曲げた際の最小曲率(半径)が決まっていることから、最小曲率よりも大きな半径での曲げであれば、きれいなラインを描いて曲がる。すなわち、への字、V字、L字のように曲がることはないことが大きな特徴である。これによって、外装材(3)の関節部分の外観に好影響を与え、人形本体(4)に様々なポーズをとらせても、人体外観としてリアリティのある美しいラインを保つことが可能となる。また、人形本体(4)に様々なポーズをとらせるために、関節部分を繰り返し曲げと伸ばしを行ったとしても、金属疲労による折損が生じることなく長期にわたってポーズを変化させて遊ぶことが可能となる。
【実施例4】
【0033】
実施例4では、該自在継手のワイヤ(1)(1a)を、三脚の雲台に備えた。図8は、本発明の自在継手のワイヤ(1)(1a)を三脚に適用した正面図である。三脚本体(5)は、接合部材としてのカメラを取り付ける雲台(5a)、同じく接合部材として雲台取付部(5b)と、脚(5c)から構成される。そして、自在継手のワイヤ(1)(1a)を雲台(5a)の底面に開孔した挿入孔(5d)と雲台取付部(5b)の上面に開孔した挿入孔(5d)に差し込んで自在継手とし、雲台(5a)を所望の角度に可変する。本実施例においては、特に軽量なコンパクトカメラ用の三脚本体(5)に好適に用いられ、雲台(5a)に取り付けられたカメラの角度調整と固定をネジの緩め締めで行う必要がなく、極めて容易で使い勝手に優れたものとなる。
【符号の説明】
【0034】
1 ワイヤ
1a ワイヤ
2 接合部材
2a 挿入孔
2b 前腕部材
2c 上腕部材
2d 手部材
2e 下腿部材
2f 大腿部材
2g 足部材
2h 胴部材
2i 腰部材
2j 頚部材
3 外装材
4 人形本体
5 三脚本体
5a 雲台
5b 雲台取付部
5c 脚
5d 挿入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部材と接合部材との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなるワイヤであることを特徴とする自在継手。
【請求項2】
接合部材と接合部材との間を接合する自在継手であって、該自在継手は形状記憶合金からなる束状にした複数のワイヤであることを特徴とする自在継手。
【請求項3】
該自在継手は、人形の関節部に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自在継手。
【請求項4】
該自在継手は、三脚の雲台に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−68316(P2013−68316A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222314(P2011−222314)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(510271440)株式会社チップジャック (1)
【Fターム(参考)】