自己ゲル化性アルギネート系及びその使用
【課題】形状やサイズ及びゲル化動力学をコントロールでき使用上の制限の少ない、外科手術や治療及びインプラント用に使用可能な自己ゲル化性アルギネート、その組成物、キット、それらの製造方法及び使用方法を提供する。
【解決手段】可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなるアルギネートゲル製造用キット、及び可溶性アルギネート溶液中で不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を形成させ、そしてアルギネートゲルマトリックスを形成させるように分散物を人体内に投与する方法。
【解決手段】可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなるアルギネートゲル製造用キット、及び可溶性アルギネート溶液中で不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を形成させ、そしてアルギネートゲルマトリックスを形成させるように分散物を人体内に投与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延されたゲル化速度をもつアルギネート系及び組成物、部材(デバイス)、キット及びそのような系の製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギネートは親水性の海産バイオポリマーで、生物学的に適切な温度で生育し定着できる熱安定性ゲルを形成できるユニークな能力をもっている。アルギネートは、1−4グリコシド的に結合したβ−D−マンヌロン酸(M)とα−L−グルロン酸(G)残基をもつ分岐のない二元コポリマーの仲間である。二つのウロン酸の相対量とそのポリマー鎖に沿った連続配列はアルギネートの起源によって広範囲に変化する。アルギネートはラミナリアハイパーボリア、マクロシスチスピリフェーラ、レソニアニグレセンス及びアスコフィリウムノドサムのような海産の褐色藻類中の構造ポリマーである。アルギネートは又シュードモナスアエルギノーザ、アゾトバクテルビネランディー及びシュードモナスフルオレッセンスのようなバクテリアによって生成される(特許文献1参照)。
【0003】
二価のカチオンが二つの異なったアルギネートポリマーのそれぞれのG残基から負に帯電した基とイオン結合を形成するときに、アルギネートゲルが形成され、それによって二つのポリマーを架橋させる。多くのアルギネートポリマーの中でも多重架橋形成物はアルギネート構造であるマトリックスを生じさせる。
【0004】
アルギネートゲルはヒドロゲル、即ち溶解なしで大量の水を含む架橋アルギネートポリマーを含む。アルギネートヒドロゲルのようなバイオポリマーは組織工学及びその他の生物医学用途のための魅力的な候補である。このそして生理学的条件下でゲルを形成する能力のために、アルギネートは広範囲に使用されそしてカプセル化の目的及び生物構造剤として研究されてきた。アルギネートビーズ内に細胞をカプセル化することは通常使用される技術である。また、アルギネートは、組織工学や神経再生の土台としてを含む他の種類の生物構造体用材料として有用であることが示されてきた。
【0005】
アルギネートヒドロゲルの製造には異なった方法が存在する。最も一般的な方法は、アルギネート溶液が外部貯槽からゲル形成性イオンの拡散によってゲル化する透析/拡散法である。この方法はアルギネートゲルビーズを作る場合及び食品用途で多く使用される。アルギネートミクロビーズの製造はゲル形成性イオンのゲルネットワーク中への拡散によって規定される高速な方法である。この方法はミクロビーズ中への細胞の取り込みには適しているが、他の形状や構造の製造にはあまり有用ではない。大きなサイズのゲル構造を製造するためには拡散ゲル化系は可能性に制限がある。これは高速のゲル化プロセスはゲル構造の形状化を可能にする時間を制限するためである。
【0006】
ゲル化プロセスの遅延化は、ゲル形成の前に、体内に注入する及び/又は細胞又はその他の生物材料をゲルマトリックス中に混合するのを可能にするために使用される。それゆえに、他のタイプの生体適合性アルギネートゲル構造製造のために、代替の方法が開発されてきた。ゲル化速度は、ゲル形成性イオンが生成ゲル内部にゆっくりと拡散する内部ゲル化システムを使用することによって低下する。これはゲルの内部歪として記載されている。通常、内部ゲル化システムにおいては、溶解度に制限のあるカルシウム塩、又はCa2+錯イオンをアルギネート溶液に混合するが、その場合カルシウムイオンはゆっくりと拡散する。組織工学のためのアルギネートベースの細胞運搬媒体においては硫酸カルシウムが使用されてきた。カルシウムの拡散とゲル化動力学はまたpH依存性の溶解度をもつカルシウム塩の使用及びD−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)のようなゆっくり作用する酸の添加によってコントロールされる。pHが変化するにつれ、カルシウムイオンは解放され拡散する。またカルシウムを含むリポソームも制御可能なアルギネートゲル化系として使用されてきた。内部ゲル化に基づくアルギネートゲル化系はより特徴的で、カルシウムイオンが飽和ゲルを与えるためにアルギネート溶液に拡散するのを可能にする拡散システムに対比してゲル形成性イオンの供給を制限する。
【0007】
最近のアルギネートゲル構造の製造方法は制限をもっている。制限されたサイズや形状のゲルを作るためにはいくつかの技術のみが有用である。用途によってはゲル化動力学のコントロールに関する問題がある。或る場合には、望ましくない物質がゲル中に存在するが、そのような物質は化学的にコントロールされたゲル化メカニズムの残渣及び副生物であるためである。或る場合には、生理的でないpH値がゲル化のために必要でありそしてそのような条件はそのような方法の使用に制限をもたらす。それゆえに、他のゲル化系及び調合法の必要性が存在する。
【0008】
【特許文献1】WO04011628A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、形状やサイズ及びゲル化動力学をコントロールでき使用上の制限の少ない、外科手術や治療及びインプラント用に使用可能な自己ゲル化性アルギネート、その組成物、キット、それらの製造方法及び使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はアルギネートゲルを製造するためのキットに関する。キットは可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなる。
【0011】
本発明はさらに自己ゲル化性アルギネート分散物を分配する(disperse)方法に関する。その方法は可溶性アルギネート溶液中で不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を形成させ、そしてアルギネートゲルマトリックスを形成させるように分散物を分配することからなる。
【0012】
本発明はさらに自己ゲル化性アルギネート分散物を人体に投与(disperse)する方法に関する。その方法は、可溶性アルギネート溶液中で不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を形成させ、そしてアルギネートゲルマトリックスを人体中で形成させるように分散物を人体に投与することからなる。
【0013】
本発明はさらに組織バルク剤としての使用、血管塞栓手術での使用、術後粘着形成を防ぐための使用、創傷治療での使用、糖尿病治療での使用及び関節炎の治療での使用のために、人体内に自己ゲル化性アルギネート分散物を投与する方法に関する。
【0014】
本発明はさらにインプラント(植え込み)可能なアルギネートゲルに関する。その方法は、自己ゲル化性アルギネート分散物を分配して自己ゲル化性アルギネートを形成させ、引き続きインプラント形成性アルギネートを人体に植え込むゲル形成を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明はさらに、インプラント可能な部材の製造方法に関する。
本発明はさらに、5mm以上の厚みと均質なアルギネートマトリックスネットワークをもつアルギネートゲルに関する。
【0016】
本発明はさらに、5mm以上の厚みをもちそして硫酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、乳酸塩、EDTA又は脂質を含まないアルギネートゲルに関する。
本発明はさらに、均質なアルギネートゲル被覆からなるインプラント可能な部材に関する。
【0017】
本発明はさらに、関節炎から生ずる痛風関節炎を、軟骨細胞を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内へ投与することによって、又は軟骨細胞を含む生体適合性マトリックスを人体内にインプラントすることによって修復する方法に関する。
【0018】
本発明はさらに、インシュリン生成細胞又は多細胞集合体を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内に投与することによって、又はインシュリン生成細胞又は多細胞集合体を含む生体適合性マトリックスを人体内にインプラントすることによって糖尿病を治療する方法。
【0019】
本発明はさらに、膵島、又は他の細胞集合体又は組織を自己ゲル化性アルギネート分散物中に内包させることによって膵島、又は他の細胞集合体又は組織の生育を改良する方法に関する。
本発明はさらに、超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子及びその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、形状やサイズ及びゲル化時間及びゲル強度を変化させることができ、又pH変化無しでゲル化を与え、必要とする成分も最小でよく、そして使用上の制限も少なく、外科手術や治療及びインプラント用に使用可能な自己ゲル化性アルギネート、その組成物、キット、それらの製造方法及び使用方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
代替のアルギネートゲル化系を提供する。この系は多くの生物医学分野及びその他の用途で使用されている。この系は高度の生体適合性をもつアルギネート及びゲル形成性イオンを包含する。この系は特定の用途の要求に従ってゲル化時間及びゲル強度を変化させることができる。この系は他の系で遭遇するpH変化なしでゲル化を与えそして必要とする成分の数も最小でよい。
【0022】
この系は二つの成分からなる:一つは可溶性アルギネート;他方は不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子である。その成分が溶媒の存在下で分散物を形成するために合体するときに、アルギネートゲルは粒子のゲル形成性イオンとして生成を始め、粒子及び溶液中の可溶性アルギネートポリマーから架橋アルギネートポリマーとなる。二つの成分は攪拌又は好適な混合装置を使用して混合される。調合のゲル化動力学は、溶液中の可溶性アルギネートの濃度、分散物中の不溶性アルギネート粒子の濃度、ゲル形成性イオン/アルギネートの相対比、非ゲル形成性イオン又は炭水化物の存在、温度、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子のサイズ、ゲルに取り込まれる又はゲル化過程で存在する細胞、多細胞集合体、組織又はその他の生体材料の含有量、(不純物の存在)及び使用されるアルギネートの種類及び不溶性アルギネート粒子の製造プロセスやアルギネート出発物質の製造後の処理等を包含するいくつかの因子に依存する。このアルギネート系はそれゆえにそれぞれの特定の用途に広範囲に適用できる。生成ゲル内への細胞、多細胞集合体、組織又はその他の生体材料を取り込むためには、溶媒、アルギネート溶液又は分散物は取り込むべき物質と予め混合される。
【0023】
分配は、人体内ではアルギネートゲルマトリックスが望ましい場所に液体/スラリーとして投与される。アルギネートゲル形成は、可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子が溶媒の存在下で混合され、連続的に供給されそしてアルギネートゲルがインシツで固定されるときに始まる。ここで使用されるとき、用語“自己ゲル化性”とは、可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子が溶媒の存在下で混合されるときに起こるゲル化プロセスを意味する。“自己ゲル化性アルギネート”とは、アルギネート分散物又は溶媒中で生成する可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含むゲルである。
【0024】
この系で使用される成分は使用前にいくつかの形態で保持される。例えば、可溶性アルギネートは溶液中で又は粉末として保持される。或る態様においては、可溶性アルギネートは凍結乾燥のように直ちに溶解する粉末として保持される。同様に、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は分散物又は粉末として保持される。
【0025】
可溶性アルギネート中で使用されるアルギネートポリマー又はそれらの組み合わせは不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中のものと同じでも異なっていてもよい。
【0026】
アルギネート、可溶性アルギネート及び溶媒量に比較して分散物中の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は両方共に、ゲル化時間、細孔度、安定性及び生分解性、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与えそして特定の性質をもつゲルは、溶媒に対する可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の比を特定の比にすることによって製造される。一般的には、アルギネートの濃度を低くすると(与えられた可溶性アルギネート/不溶性アルギネートの比の場合)、ゲルの生分解性は大きくなる。いくつかの態様においては、ほぼ0.5%、0.75%、1%、1.25%、1.5%、2%、2.5%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%以上のアルギネート(可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネート)が使用される。
【0027】
分散物中の可溶性アルギネート対不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートとの相対濃度はゲル化時間、細孔サイズ、安定性及び生分解性、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与えそして特定の性質をもつゲルは、可溶性アルギネート対不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子との比を特定の比にすることによって製造される。或る態様においては、可溶性アルギネートの濃度は、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度にほぼ等しい(1:1)。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は可溶性アルギネートの濃度の2倍である(2:1)。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は可溶性アルギネートの濃度の半分である(1:2)。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は可溶性アルギネートの濃度に対して1/0.7である(1:0.7)。一般的には、ゲル形成性イオンの存在量が少ないと、より生分解性のゲルが生ずる。系内の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオンの濃度の減少は、ゲルネットワークで架橋イオンの飽和度が小さくなるので、低い安定性で高い生分解性のゲルを作り出すために使用される。自己ゲル化性はゲル形成性イオンの濃度がより低いゲルの製造を可能にし特に生分解性用途に適したゲルの製造を可能にする。いくつかの好ましい態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子対可溶性アルギネートのアルギネート比は:5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、又は1:5である。
【0028】
アルギネートポリマー中のG及びMモノマーの相対含有量は細孔サイズ、安定性及び生分解性、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与える。アルギネートポリマーはG及びMの合計含有量に大きな変化幅があり、そして連続構造の相対含有量もまた大きく変化し(G−ブロック、M−ブロック及びMG交互連続)ポリマー鎖に沿った連続長さも同様である。一般的に、使用されるアルギネートポリマー中のM含有量に比較してG含有量が低くなると、より生分解性の高いゲルとなる。高G含量アルギネートは、一般に小さな細孔サイズと低ゲル強度をもつ高M含量アルギネートのゲルに比較して大きな細孔サイズとより強いゲル強度をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は50%以上のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%以上のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%−80%のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は65%−75%のα−L−グルロン酸を含む。アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は70%以上のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は50%以上のC−5エピマー(光学異性体)β−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%以上のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%−80%のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は65%−70%のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は70%以上のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。ウロン酸ブロックの製造方法は特許文献2に開示されている。G−ブロックアルギネートポリマー及びアルギネートゲルの性質の調節剤としての使用は特許文献3に示されている。いくつかの好ましい態様においては、30%G、35%G、40%G、45%G、50%G、55%G、60%G、65%G、70%G、75%G、80%G又は85%Gである。
【0029】
アルギネートポリマーの平均分子量はゲル化時間、細孔サイズ、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与える。アルギネートポリマーは2から1000kDの範囲の平均分子量をもつ。
【0030】
アルギネートの分子量はゲル形成及びその最終のゲルの性質に影響を与える。一般的には、使用されるアルギネートの分子量が小さくなると、より生分解性の高いゲルとなる。可溶性アルギネート成分中で使用されるアルギネートポリマー又はそれらの組み合わせは不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中のものと同じでも異なっていてもよい。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは5から350kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは2から100kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは50から500kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは100から1000kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、ゲルは高度の生分解性をもつようにデザインされる。従って、少ないアルギネートをもつゲル、少ない低G含量のゲル形成性イオン及び低分子量アルギネートは、ここで述べたように、これらパラメーターの一つ以上の制限を少なくして製造することができ、高度の生分解性を生み出すことができる。
【0031】
アルギネートは25から1000mPasの20℃で測定した1%溶液粘度をもち、好ましくは50から1000mPasの20℃で測定した1%溶液粘度をもつ。
或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の製造方法はゲル形成性イオンの化学的当量(100%飽和)で生成物を与えることが好ましい。そのような化学的当量の塩の使用は自己ゲル化性アルギネート系で大きな生産性を与える。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の製造方法はゲル形成性イオンの亜(不足)当量(100%飽和以下)で生成物を与えることが好ましい。そのような亜当量(sub−stoichiometric)の塩の使用は自己ゲル化性アルギネート系で生分解性を与える。
【0032】
或る態様においては、アルギネートは超高純度のアルギネートである。超高純度のアルギネートはラミナリアハイパーボレアのような海藻の異なった原料からのように商業的に利用出来る。アルギネートの市販のカルシウム塩は一般にはアルギン酸にカルシウムを固相で単純混合によって添加しそしてその成分を一緒に混練する方法で製造される。アルギン酸の市販のカルシウム塩の例としては、プロトウエルド(FMCバイオポリマー社製)及びISP社製のケルセットがある。不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は、超高純度のアルギネートとゲル形成性イオンを使用してアルギネートゲルを作り、超高純度のアルギネート中に存在するナトリウム又はその他のイオンを洗浄し、ゲルを乾燥して水を取り除き、そして乾燥ゲルから粒子を作ることによって、超高純度のアルギネートを使用して製造される。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は当量塩である。不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は好ましくは、例えば、カルシウム又はストロンチウム、バリウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、鉛、コバルト、ニッケル、又はそれらの組み合わせのような、高純度で特定の一般に均質な含量のゲル形成性イオンをもつことで、それによってゲル形成速度とゲル強度がより厳密に予測できるものが得られる。例えば、カルシウムアルギネート又はナトリウムアルギネート(使用されるゲル形成性イオンによる)のようなアルギン酸の不溶性アルカリ土類金属塩又はアルギン酸の不溶性遷移金属塩(銅、ニッケル、亜鉛、鉛、鉄、マンガン又はコバルトのような)は公知のそして予め決められたアルカリ土類イオンの含有量を用いて溶液から沈殿させることによって製造できる。或る態様においては、市販のアルギン酸ナトリウムは最初にアルギン酸ナトリウム溶液を調製するために使用される。所望により、炭酸ナトリウムのようなナトリウム塩をアルギン酸ナトリウム溶液に含ませてもよい。例えば塩化カルシウム又は塩化ストロンチウムのようなカルシウム塩又はストロンチウム塩のような不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子のための所望のゲル形成性イオンを含む塩が溶液を作るために使用される。アルギン酸ナトリウム溶液は、好ましくはゲル形成性イオン溶液とゆっくりと合体される。好ましくは、合体された溶液は混合プロセスの過程で連続的に攪拌される。例えば、カルシウムアルギネート又はナトリウムアルギネート(使用されるゲル形成性イオンによる)のような不溶性アルギネートは合体溶液から沈殿する。沈殿した不溶性アルギネートはそれから溶液から取り出され、例えば全ての溶解イオンを除去するために精製水で2−10回繰り返し洗浄する。可溶性イオンの除去は例えば精製水の電気伝導度と比較した不溶性アルギネートの電気伝導度をテストすることによって行われる。洗浄後、不溶性アルギネートは真空で乾燥される。乾燥したアルギネートは粉砕され、そして或る態様においては、粒子サイズで選別される。
【0033】
或る態様においては、アルギネートは無菌性である。いくつかの好ましい態様においては、アルギネートは無菌性で超高純度のアルギネートである。物質を無菌化するためにしばしば使用される条件は、分子量の低下のようにアルギネートを変化させる。いくつかの態様では、無菌性アルギネートは無菌フィルターを使用して製造される。いくつかの態様では、アルギネートは<25EU/gのエンドトキシンを含む。
【0034】
或る態様においては、アルギネートマトリックスは、ゲルマトリックスが形成後にポリアミノ酸又はキトサンのようなポリカチオン性ポリマーで被覆してもよい。或る態様においては、ポリリシンはポリカチオン性ポリマーである。或る態様においては、ポリカチオン性ポリマーは別の基と結合しそしてポリリシンはこのようにゲルとの基の結合を容易にするために使用される。ポリカチオン性ポリマーを使用するゲルと結合した基の例としては、例えば、薬剤、ペプチド、対照試薬、受容体結合リガンド(配位子)又はその他の検知可能ラベルを包含する。いくつかの特定の例としては血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、変換成長因子(TGF)、及び骨形態タンパク質(BMP)を包含する。薬剤としては、タキソール、シス−白金及び/又は白金含有誘導体のような癌の化学療法剤を包含する。炭水化物ポリマーとしてはヒアルロナン、キトサン、ヘパリン、ラミナリン、フコイダン、コンドロイチン硫酸塩を包含する。或る態様においては、使用されるアルギネートは一つ以上のポリマーが別のアルギネートポリマーに結合している化学的に変性されたアルギネートのような変性アルギネートポリマーである。そのような変性アルギネートポリマーは特許文献4(ここでは参照として取り込まれている)に示されている。
【0035】
或る態様においては、アルギネートポリマーは、例えば、薬剤、ペプチド、対照試薬、受容体結合リガンド(配位子)又はその他の検知可能ラベルのような非−アルギネート部分を含んでいてもよい。或る態様においては、アルギネートポリマーはRDGペプチド(Arg−Asp−Gly)、放射性部分(例えば131I)又は放射線不透過物質を含む。アルギネートポリマーに結合した基のその他の例としては、例えば、薬剤、ペプチド、対照試薬、受容体結合リガンド(配位子)又はその他の検知可能ラベルを包含する。いくつかの特定の例としては血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、変換成長因子(TGF)、及び骨形態タンパク質(BMP)を包含する。薬剤としては、タキソール、シス−白金及び/又は白金含有誘導体のような癌の化学療法剤を包含する。炭水化物ポリマーとしてはヒアルロナン、キトサン、ヘパリン、ラミナリン、フコイダン、コンドロイチン硫酸塩を包含する。
【0036】
可溶性アルギネートは、例えば、Na+−アルギネート、K+−アルギネート、PEG−アルギネート(ポリエチレングリコール−アルギネート)、NH4−アルギネート又はそれらの組み合わせのような塩である。
【0037】
或る態様においては、可溶性アルギネートは凍結乾燥又は他の方法で乾燥される。凍結乾燥した可溶性アルギネートは“即可溶性”である。“即可溶性”アルギネートは1分以内、好ましくは30秒以内、より好ましくは15秒以内に水に溶解する。“容易に溶解する”アルギネートは1秒以上そして通常は数分で溶液になる。
【0038】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中で使用されるゲル形成性イオンはゲルの動力学、ゲル強度、及び弾性に影響を与える。ゲル形成性イオンはまた細胞の成長にも影響を与える。不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中で使用されるゲル形成性イオンはCa++、Sr++、Ba++、Mn++、Fe++、Cu++、Pb++、Co、Ni、又はそれらの組み合わせである。不溶性アルギネートゲル形成性イオン錯体は粒子である。その粒子は一般に粒子サイズが最大寸法(L)及び最小寸法(D)によって特徴付けられるL/Dに基づくと非−繊維状である。非−繊維状L/Dは10より小さく、好ましくは5より小さく、より好ましくは2より小さい。10以上のL/Dは切断された繊維である。不溶性アルギネートゲル形成性イオンは分散物又は乾燥形態として保持される。もし前者なら、分散物は、可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物を形成するために、可溶性アルギネート又は即可溶性アルギネートを含む溶液と混合できる。もし、不溶性アルギネートゲル形成性イオン粒子が乾燥形態であるなら、それらは、可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物を形成するために、乾燥即可溶性アルギネートそして引き続き溶液と混合するか、又は乾燥不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物を形成するために、可溶性アルギネート含む溶液と合体させる。
【0039】
分散物を形成させるための成分の混合を生じさせる攪拌は溶液内で固体粒子の分布を生じさせる。そのようにして製造された分散物は、成形型やキャビティー内にそのような成形型やキャビティーの形状を形成するために流し込み、押し出し可能なスラリー形態であることができる。
【0040】
可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物が形成され、アルギネートゲルを形成するために自己ゲル化が起こる場所に分配される。或る態様においては、分散物は生体内の部分に投与される。或る態様においては、分散物は成形型又はその他の容器又は表面に分配される。
【0041】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中で使用されるゲル形成性イオンの濃度はゲルの動力学、ゲル強度及び弾性率に影響を及ぼす。ゲル形成性イオンの濃度がたかくなると、ゲル強度は高くなる。ゲル強度はゲルがゲル形成性イオンで飽和するとき最大となる。反対に、ゲル形成性イオンの濃度が低くなると、ゲル強度は低下しそして生分解性の度合いが高くなる。
【0042】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の粒子サイズはゲルの動力学及びゲルの最終的性質に影響する。粒子サイズが小さくなると、ゲルの形成はより急速に完了する。大きな粒子サイズはより強いゲルを生み出す。粒子サイズは、例えば、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の粒子を、粒子が予め決められたサイズ範囲になるように種々の異なったサイズのフィルターを通して分別される。或る態様においては、粒子は<25μm、≧5−45μm、45−75μm、75−125μm、又は>125μmである。
【0043】
使用される溶媒は、例えば、水、塩類溶液、細胞培養液、薬液溶液のような溶液、タンパク質、又は核酸、細胞懸濁液のような懸濁液、リポソーム、又は対照試薬懸濁液である。
【0044】
生成するアルギネートヒドロゲルは、例えば、薬剤核酸分子、細胞、多細胞集合体、組織、タンパク質、酵素、リポソーム、対照試薬又は生体活性物質を含む。生体活性物質の例はヒアルロン酸塩及びキトサンである。対照試薬はタンタル及びガドリニウムを含む。タンパク質のいくつかの特定例としては、血管内皮成長因子(VEGF)、成長因子(EGF)、変換成長因子(TGF)、及び骨形態タンパク質(BMP)を包含する。薬剤は、タキソール、シス−白金及び/又は白金含有誘導体のような癌の化学療法剤を包含する。炭水化物ポリマーとしてはヒアルロナン、キトサン、ヘパリン、ラミナリン、フコイダン、コンドロイチン硫酸塩を包含する。
【0045】
ゲル中で使用される細胞は非−組み換え細胞及び組み換え細胞を含む。細胞がアルギネートマトリックス内にカプセル化されているいくつかの態様においては、カプセル化されている細胞は哺乳類の細胞であり、好ましくは人間の細胞である。カプセル化されている細胞が非−増殖細胞である場合には、非−増殖細胞は、膵島(pancreatic islets)、肝細胞、神経細胞、腎皮質細胞、血管内皮細胞、甲状腺及び副甲状腺細胞、副腎細胞、胸腺細胞、卵巣細胞及び軟骨細胞からなる群から選ばれる。カプセル化されている細胞が増殖細胞である場合には、増殖細胞は、基幹細胞、前駆細胞、特定器官の増殖細胞、繊維芽細胞及び表皮角化細胞、又は例えば、293、MDCK及びC2C12細胞腺のような確立された細胞腺から導かれる細胞である。或る態様においては、カプセル化されている細胞は、細胞が維持されるときに発現される一つ以上のタンパク質を記号化する発現ベクターを含む。或る態様においては、タンパク質はシトキン、成長因子、インシュリン又はアンギオスタチン又はエンドスタチンのような血管形成抑制剤、その他の医療用タンパク質又は薬剤のようなその他の治癒力のある分子である。約60−70kD以下の低い分子量をもつタンパク質は、ゲルネットワークが細孔をもつ故に特に良好な候補である。
【0046】
自己ゲル化性アルギネートは、均質なアルギネートネットワークをもつ5mmより大きなアルギネートゲルを作り出すために使用される。或る態様においては、均質なアルギネートゲルは10mmより大きい。拡散法によって形成されたゲルは一般的には1mmより大きな均質なアルギネートゲルとはならない。好ましい態様においては、自己ゲル化性アルギネートゲル形成によって形成された均質なアルギネートゲルは硫酸塩、クエン酸塩、リン酸塩(TSPP:テトラピロリン酸ナトリウム及びポリリン酸塩がアルギネートプリン等々の食品用途で使用される)、乳酸塩、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)及びカプセル化ゲルイオンに使用されるリポソームのような脂質を含まない。
【0047】
自己ゲル化性アルギネートの用途は沢山ある。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは食品用途で使用される。食品用途で特に有用な自己ゲル化性アルギネートはその他の食品成分と一緒に液体/スラリー混合物として調製されそして容器に分配される。容器は、ゲル/食品製品が成形型形状で固体又は半固体を形成するような成形型であることが好ましい。キャンディー、デコレーションケーキ、プリン及びその他の成形形状化された食品製品が製造される。
【0048】
或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは生物医学用途で使用される。生体適合性自己ゲル化性アルギネートは局所的に投与される。生体適合性自己ゲル化性アルギネートは、自己ゲル化性アルギネートが、マトリックスが必要な場所に分散物として分配されるようなインシツ空間にゲルマトリックスを順応させることが望まれる生医学用途で、特に有用である。分散物は窪みや空間を液体/スラリー形態で満たしそして窪みや空間内で固体を形成させる。代わりに、分散物は固定化の前に拡げることができる場所に局所的に分配される。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、固体を型形状に形成し及び/又は組織又は器官移植に有用なカプセル化された細胞をもつマトリックスを形成するための成形型に分配される液体/スラリー混合物を調製することによって特定の形状で調製することができるマトリックスの製造に使用される。
【0049】
制御可能で特にインシツでのゲル形成インプラント用に望まれるアルギネート自己ゲル化系が提供される。人体の内部又は外部に注入又はその他の方法で投与するのに容易に使用できる溶液は固体ゲルマトリックスを形成するために提供される。ゲルイオンが不溶性粒子のゲルネットワーク内に拘束されるようなゲルイオン源をもつ溶媒の存在下で、アルギネートを混合することによって、ゲル形成物質は液体として分配されそして所望のパターン及び時間枠内で固定することができる。その溶液は予め決められた時間で硬化しそしてゲルを形成する。その調合は、pH変動や毒性化合物の存在が遮断されるので、生体適合性がある。生物学的なpHからの大きな変化は必要ない。
【0050】
或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、逆流問題の治療(例えば、尿失禁、腎臓逆流又は食道逆流問題)、良性又は悪性腫瘍の治療のような閉塞術、術後粘着形成処理としての抗−粘着治療、及び創傷治療等々の組織バルク化のような生物医学用途で使用される。最近の技術は、細胞又はその他の生体物質がゲル化系に混合され、それによって細胞又は組織を支える人工的な生体外部細胞マトリックスを作り出すので、人体外又は人体内の組織構造物を含むいくつかの用途で使用される。いくつかの用途においては、生体適合性の固体集合体がタンパク質や薬剤のような活性成分を時間をかけて放出するようにインプラントされる。
【0051】
自己ゲル化性アルギネートは、遠くからアクセス可能な場所に導入できそして他のタイプのインプラントに比較して液体スラリーとして窪み(キャビティー)により完全に順応するように投与できる組織バルク剤として特に有用である。分散物は人体の他の組織又は器官を維持しそして支持するのに十分な量で投与でき、そしてインシツでのゲル形成において他の組織又は器官を維持しそして支持するための構造を作り出すことができる。自己ゲル化性アルギネートは組織バルク剤用途によく適合する成分を含んでいてもよい。例えば、ゲル化剤としてのストロンチウムの使用は細胞の過剰成長及び望ましくない組織形成を阻止するゲルを生じさせる。
【0052】
自己ゲル化性アルギネートは、遠くからアクセス可能に血管に導入できそして液体スラリーとして血管又はその内部により完全に順応するように投与でき、そして他のタイプの縫合のような閉止に比較してより完全にそして効果的にブロックできる血管塞栓術として特に有用である。分散物はインシツでのゲル形成において循環をブロックするのに十分な量で投与できる。自己ゲル化性アルギネートは血管塞栓術用途によく適合させる成分を含む。例えば、その成分は比較的早い硬化と高強度用に選択することができる。血管塞栓術用途に使用される自己ゲル化性アルギネートは、その存在と位置をモニターする対照試薬を含んでいてもよい。
【0053】
自己ゲル化性アルギネートは、露出表面、特に切開部位又はその近傍を完全に覆うための液体スラリーとして外科的処置領域を通じて導入される術後粘着形成処理としての抗−粘着治療において特に有用である。自己ゲル化性アルギネートは抗−粘着治療用途によく適合する成分を含んでいてもよい。例えば、ゲル化剤としてのストロンチウムの使用は細胞の過剰成長及び望ましくない組織形成を阻止するゲルを生じさせる。
【0054】
自己ゲル化性アルギネートは、露出表面を完全に覆うための液体スラリーとして創傷部位を通して導入することのできる創傷治療において特に有用である。さらに、自己ゲル化性アルギネートは、例えば液体スラリーとして創傷部内に投与することができる。分散物は、ゲルのインシツ形成過程でゲルが創傷内部を遮断しそして内出血による血液損失を防ぐように窪み内部を満たすのに十分な量で投与される。自己ゲル化性アルギネートは、創傷治療用途に良く適合する如何なる成分を含んでいてもよい。例えば、血液凝固成分や同様に殺菌剤及び抗生物質の組成物を含んでいてもよい。
【0055】
自己ゲル化性アルギネートは、人体外又は人体内の組織構成物を作り出すのに特に有用である。細胞又はその他の生体物質はゲル系に混合され、それによって細胞又は組織を支持する人工的生体外部細胞マトリックスを作り出す。分散物は、組織/細胞が治療効果を達成するように機能する部位に液体スラリーとして導入することができる。組織構成物の例としては、骨、軟骨、結合組織、筋肉、肝臓、心臓、膵臓及び皮膚を包含する。この例は、糖尿病治療のための細胞を分泌するインシュリンを含む調合、関節の欠陥を修復するための軟骨細胞を含む処方、及びパーキンソン病を治療するための細胞がある。そのような細胞は液体スラリー中に内包させることができそしてゲル形成によってそれらが生体適合性のアルギネートマトリックス内に存在しそして機能する部位に投与される。ゲルもまた宿主免疫系に対して取り込まれた細胞を保護する免疫障壁として使用される。自己ゲル化性アルギネートもまた、ゲルがその意図した使用に適合した形状に形成できる、人体外細胞をカプセル化するために使用される。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、真皮細胞のような細胞をカプセル化し、そして火傷の犠牲者や皮膚移植又は大面積の創傷治癒が必要なその他の人を治療するために使用される人工皮膚を作るために使用される。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、細胞をカプセル化しそしてインプラントできるマトリックスを形成するために使用される。
【0056】
糖尿病の治療は、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子と可溶性アルギネート溶液中のインシュリン生成細胞からなる分散物を調製することによってインシュリン生成細胞からなる生体適合性マトリックスを製造し、そして生体適合性のあるマトリックスを形成する分散物を人体の部位に投与することからなる。人体のその部位は窪み又は人体にインプラントされる構造体である。分散物は、人体にインプラントされる生体適合性のあるマトリックスを形成する成形型、構造物又は容器に分配される。マトリックス中の細胞によって作り出されるインシュリンは細胞によって分泌されそしてマトリックスから人体に放出され、糖尿病状態の兆候を軽減するために機能する。或る態様においては、インシュリン生成細胞は膵島細胞である。或る態様においては、インシュリン生成細胞はインシュリンを分泌するために作られる組み換え細胞である。
【0057】
自己ゲル化性アルギネートはインプラント用部材のような被覆した部材を製造するのに有用である。或る態様においては、その部材はステント、心臓ペースメーカー、カテーテル、インプラント用人工器官、手術用スクリュー、手術用ワイヤー、組織バルク用インプラント、食道逆流防止用インプラント、失禁防止用インプラント、腎臓還流物、アルギネートマトリックスで表面外側を被覆するか及び/又はアルギネートマトリックスを内包した細胞維持に好適な容器(例えば固体部材又はマクロカプセル)、胸部用インプラント、顎用インプラント、頬用インプラント、胸筋用インプラント、臀筋用インプラント及び歯科用インプラントからなる群から選ばれる。自己ゲル化性アルギネートを使用した被覆物は形状に拘わらず効果的な被覆物である。ゲルイオンとしてのストロンチウムの使用はインプラントにおける細胞の過剰成長を防止する。
【0058】
自己ゲル化性アルギネートはインプラントできるマトリックスの製造に使用される。そのようなマトリックスは、成形用型に分配され型の形状で固体を形成するような液体/スラリー混合物を調製することによって特定の形状で得ることができる。インプラント用に調製されたマトリックスは生体活性な薬剤及び/又は細胞を含む。ゲルが製造されそして外科的にインプラントされ、局所的に又は外部開口部を介して器官内に投与される。
【0059】
或る態様に従えば、アルギネートゲルを製造するためのキットが提供される。そのキットは可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなる。それぞれの容器は集積された容器系の分離した容器区画であってもよい。
【0060】
或る態様においては、キットは可溶性アルギネートを溶液形態で含む。或る態様においては、キットは溶媒を含む追加の容器を含む。
或る態様においては、キットは粉末形状の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む。或る態様においては、キットは分散物形態の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む。
【0061】
或る態様においては、キットは、可溶性アルギネート溶液又は粉末からなる容器内に含まれる及び/又は不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粉末又は分散物からなる容器に含まれる薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む追加の容器を含む。或る態様においては、キットは薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む。
【0062】
或る態様に従えば、組成物がゲルを調製するために提供される。この組成物は即可溶性アルグネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子からなる。この組成物はさらに薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む。この組成物はキットの成分である。そのようなキットはさらに溶媒の入った容器を含む。
【0063】
キットは好ましくは使用説明書を含む。
或る態様においては、キットは混合部材を含む。混合部材は容器の一部又は容器系として集積されていてもよい。或る態様においては、混合部材は、混合を容易にするために、一つの容器から別の容器へ分散物を通過させるバルブ系を含む。
【0064】
或る態様においては、キットは分配部材を含む。分配部材は、混合部材および/又は分散物を収容するのに適した容器と連携した塗布器であってもよい。或る態様においては、分配部材はカテーテルを含む。或る態様においては、分配部材はシリンジを含む。
以下に、実施例を示す。ここで添付図面についてまとめて説明する。
【0065】
図1はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率は、以下の異なったカルシウム−アルギネート(プロタウエルドTX120)濃度のゲルに対して測定した(混合物/ゲルの濃度):1.0%カルシウム−アルギネートを1.05のナトリウム−アルギネートと混合し、そして1.5%カルシウム−アルギネートを1.0%のナトリウム−アルギネートと混合し、そして2.0%カルシウム−アルギネートを1.0%のナトリウム−アルギネートと混合した。使用したナトリウム−アルギネートはプロタナルSF120であった。
【0066】
図2はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率は以下のゲル濃度で、ナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)及びカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)を等量で混合することによって測定した:0.75%、1.0%、1.25%又は1.5%ナトリウムアルギネート及びカルシウムアルギネート。
【0067】
図3はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率はカルシウムアルギネート(パネルA)及びナトリウムアルギネート(パネルB)の異なった分子量をもつゲルに対して測定した。パネルAのゲルは1%のナトリウムアルギネートと1.5%のカルシウムアルギネートを含み、そしてパネルBのゲルは1%のナトリウムアルギネートと1%のカルシウムアルギネートを含む。パネルAで使用されるアルギネートは:カルシウムアルギネート:プロタウエルドTX120及び60℃で33日間分解させたプロタウエルドTX120である。ナトリウムアルギネートとして測定された二つのカルシウムアルギネートの粘度(20℃で1%溶液)はそれぞれ270mPasと44mPasであった。ナトリウムアルギネート:プロタナールSF120。パネルBで使用されるアルギネートは:カルシウムアルギネート:プロタウエルドTX120である。ナトリウムアルギネート:プロタナールSF120及びプロタナールSF/LFである。ナトリウムアルギネートの粘度(20℃で1%溶液)はそれぞれ95mPasと335mPasであった。
【0068】
図4はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率は、ゲル形成性イオンとしてストロンチウム又はカルシウムで測定した。ナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)及びストロンチウム/カルシウムアルギネートの量はそれぞれゲル中で0.75%となるように調節した。使用したカルシウムアルギネートはアルギン酸(FMCプロセスの生成物)(65.2g)と炭酸カルシウム(35.32g)を実験室規模のニーダーで1.5時間、混練し、それから乾燥し粉砕することによって作った。使用したストロンチウムアルギネートはアルギン酸(FMCプロセスの生成物)(65.2g)と炭酸ストロンチウム(52.10g)を実験室規模のニーダーで1.5時間混練し、それから乾燥し粉砕することによって作った。
【0069】
図5はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率測定は、グルロン酸の高含量及び低含量のナトリウムアルギネートを含むゲルで行った。図5のパネルAにおいては、使用したカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)及びナトリウムアルギネートはそれぞれゲルの1.0%となるように調節した。使用したナトリウムアルギネートはプロタナールSF120(69%G)とプロタナールHF60D(32%G、MW:119,000)である。図5のパネルBにおいては、5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)を1.25%のナトリウムアルギネートと1:4の比で混合した(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。使用したナトリウムアルギネートはプロノバアップ100G(69%G、MW:122,000)及びプロノバアップ100M(46%G、MW:119,000)であった。二つのナトリウムアルギネートバッチのMW(及び粘度)は同一に(できるだけ近く)なるように選ばれた。図5のパネルBのそれぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定の平均値である。
【0070】
図6は異なったカルシウムイオン含量で作られそして生理学的条件下で6ヶ月間貯蔵されたアルギネートゲルの安定性と生理学的分解性を示す。ゲルディスクは加圧蒸気殺菌器に入れられたカルシウムアルギネート分散物(プロタウエルドTX120)と無菌ろ過されたナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG)を混合して、それぞれ最終濃度をアルギネート1.0%としそして二つのペトリ皿中でゲル化させることによって作られた。片方の皿のゲルディスク(Vとマークされた)を50mMの塩化カルシウムでゲル化後10分間洗浄しそして両方の皿にその後細胞培養媒体(10%FBSを追加したDMEM)を添加した。これらの皿を炭酸ガス入り培養器中において無菌条件下で貯蔵し一週間に3回定期的に媒体を交換した。それぞれの皿中における最大のゲルディスクサイズは最初は同じサイズであった。示される写真は6ヶ月後のものである。
【0071】
図7は自己ゲル化性アルギネート中に取り込まれた細胞を使用した実験のデータを示す。図7のパネルAは自己ゲル化性アルギネート中に取り込み45日後のC2C12マウスの筋原細胞を示す。そのゲルは、細胞を含んでいること以外は図6と同様にして作りそして貯蔵した。その写真は、細胞生育のマーカーとしてカルセイン(金属指示薬、分子プローブ、L−3224)で細胞にシミをつけた後に撮影した。光が当たった領域及び部分は生育細胞の存在を示す。生育細胞はゲル構造物の表面上及び内側に位置している。図7のパネルBは自己ゲル化性アルギネート中に取り込まれた人の軟骨細胞を示す。そのゲルは、プロノーバSLG20と人の軟骨細胞を含むカルシウムアルギネートの自己ゲル化性混合物5mlから作られた。ゲル化の3日後、ゲルを振動切断機を使用して600μmの切片に分割した。これらのゲル切片を炭酸ガス入り培養器中において細胞成育媒体中で保存しそして6ヵ月後に写真を撮影した。その写真は、細胞生育のマーカーとしてカルセイン(金属指示薬、分子プローブ、L−3224)で細胞にシミをつけた後に撮影したもので、非常に多くの生育細胞の存在を示している(光が当たった部分)。
【0072】
図8はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率の測定は、塩化ナトリウム又はナトリウムヘキサメタフォスフェートの存在下又は不存在下で、1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合したゲルで行った(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。それぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定(曲線)の平均値である。
【0073】
図9はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率の測定は、1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を異なった粒子サイズで作られた5.5%のカルシウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合したゲルで行った(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。異なった粒子サイズは凍結乾燥したカルシウムアルギネートを粉砕しそして指定されたサイズで振り分けて作った。それぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定(曲線)の平均値である。
【0074】
図10はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率の測定は、異なった温度で、1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG)を1.25%のカルシウムアルギネート(実施例14)と9:1の比で混合したゲルで行った(最終のアルギネート濃度は2%であった)。
【0075】
図11はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。貯蔵弾性率は、異なった分子量のナトリウムアルギネートを含むゲルで時間を関数として測定した。そのゲルは、分解していない(対照)又は分解した同じアルギネートバッチの1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を含む。ゲルは又分解したナトリウムアルギネート2.5%濃度から作られた(上の曲線)。すべてのケースで、ナトリウムアルギネートは5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合した。それぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定(曲線)の平均値である。
【実施例1】
【0076】
異なったカルシウム濃度でのゲル化
この実験においては、ゲルはナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)の溶液とカルシウムアルギネート分散物(プロタウエルドTX120)を混合して作られた。カルシウムアルギネートの量は変化(ゲル中で1.0%、1.5%又は2.0%)させ、一方ナトリウムアルギネートの量は一定(ゲル中で1.0%)である。時間経過に対する自己ゲル化系の硬化はフィジカMCR300レオメーターを使用して測定した(測定系:PP50、鋸歯状、温度:20℃、隙間:1mm、振動数:1Hz、歪:0.005)。3mlのサンプルをレオメーターに添加する前に、この溶液と分散物を急速に混合し、そして振動テストを18−24時間実施した。図1に示されるように、ゲル強度は最初の1−2時間の時間経過で急速に増加し、その後ゲル強度変化は減少して安定化傾向を示した。データはまた高カルシウム濃度で増加することを示す。
【実施例2】
【0077】
異なったアルギネート濃度でのゲル化
アルギネート自己ゲル化系をナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)の溶液とカルシウムアルギネート懸濁物を混合して作りそして測定を実施例1で記載したように実施した。振動測定を18−24時間実施した。ナトリウムアルギネート(プロタナルSF120)とカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)の等量を使用した。ナトリウムアルギネートとカルシウムアルギネートの量は最終ゲル中でそれぞれ0.75%、1%、1.25%及び1.5%となるように調節した(図2)。ゲル化動力学は四つのケース全てで同一のパターンを示した。しかしながら、実施例1のときは、ゲル強度はアルギネート濃度と共に明らかに増加した。
【実施例3】
【0078】
異なった分子量のアルギネートでのゲル化
この実験においては、異なった分子量をもったナトリウム−カルシウムアルギネートのゲル化動力学を比較した(図3)。アルギネート(プロタウエルドTX120)の低いMWのサンプルは数日間温度を上昇させることによって得られた(図3のパネルA)。異なったMWをもつプロタナールSF120とプロタナールSF/LFナトリウムアルギネートもまた比較された(図3のパネルB)。レオロジー的測定は実施例1に記載されたとおりに実施しそしてデータを図3に示す。図に示されるように、ゲル化工程はナトリウムとカルシウムアルギネートの両者共に明らかにアルギネートの分子量に依存している。両者の場合共に、ゲル強度は高分子量アルギネートでより急速に増加しそしてまた高度なレベルに到達した。図3に見られることと同様に、図11はまた、温度を上昇させることで得られたナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG100)の低MWサンプルのゲル化を示す。しかしながら、この場合、ゲル化はストロンチウムアルギネートと混合させることによって開始された。図11に示すように、ゲル化工程は、ゲル強度が高分子量アルギネートのためにより高いレベルに到達するにつれ、明らかにアルギネート分子量に依存している。図11のデータはカルシウムアルギネート又はストロンチウムアルギネートを100%飽和当量使用したものであるが、アルギネート濃度の増加がゲル強度に関してはMWの低下を補償していることを示す。
【実施例4】
【0079】
異なったゲル形成性イオンでのゲル化
この実験においては、カルシウムアルギネート又はストロンチウムアルギネートをナトリウムアルギネート(プロタナルSF120)と混合した。カルシウムアルギネート及びストロンチウムアルギネートはアルギン酸と炭酸カルシウムを混練することによって作られた。レオロジー的測定は実施例1に記載されたとおりに実施しそしてデータを図4に示す。ナトリウムアルギネート及びストロンチウム/カルシウムアルギネートの量はそれぞれゲル中で0.75%に調節された。明らかに、ゲル形成性イオンとしてのストロンチウムの使用は、より強いゲル構造とより速いゲル化動力学を生じさせた。
【実施例5】
【0080】
異なったグルロン酸含量でのゲル化
アルギネート中のグルロン酸含量はアルギネートゲル強度に大きな影響をもつことが知られているので、グルロン酸の異なった含有量でナトリウムアルギネート(プロタナールSF120及びプロタナールHF60D)を使用する効果についてテストした。図5において、パネルAはグルロン酸の高又は低含量でのナトリウムアルギネートを含むゲルに対する時間の関数としての貯蔵弾性率を示す。両曲線において、系は、カルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)の分散物と高含量のグルロン酸とを混合させることによってゲル化させた。使用したナトリウムアルギネートとカルシウムアルギネートの量はゲル中でそれぞれ1%となるように調節した。測定は実施例1に記載の通りとした。両方のケースで、高含量のグルロン酸とカルシウムアルギネートが使用されたにも拘らず、高含量のグルロン酸とナトリウムアルギネートの使用は明らかに系のゲル強度を増加させた。図5のパネルBにおいては、ストロンチウムアルギネート(実施例14で高含量のグルロン酸で作られたFMC生成物)をまたグルロン酸の高又は低含量でナトリウムアルギネートと混合した。使用したナトリウムアルギネートはプロノバアップ100G(69%G、MW:122000)及びプロノバアップ100M(46%G、MW:119000)であった。二つのナトリウムアルギネートバッチのMW(及び粘度)は同一に(できるだけ近く)なるように選ばれた。データが明白に示すように、またストロンチウムアルギネートをゲル形成性イオン源として使用するときは、ナトリウムアルギネートと高含量のグルロン酸の使用は、ナトリウムアルギネートと低含量のグルロン酸に比較してゲル強度を増加させた。
【実施例6】
【0081】
生理的条件下での異なったカルシウム含量で作られたゲルの安定性
この実施例においては、異なったカルシウムイオン含量で作られたアルギネートゲルの安定性と生分解性を観察した(図6)。ゲルディスクはオートクレーブで無菌化されたカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)と無菌化ろ過されたナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG)をそれぞれ1.0%と0.7%の最終濃度になるように混合した。分散物は二つのペトリ皿でゲル化させた。片方の皿のゲルディスク(Vとマークされた)を50mMの塩化カルシウムでゲル化後10分間洗浄しそして両方の皿にその後、細胞培養媒体(10%FBSを追加したDMEM)を添加した。これらの皿中の媒体を一週間に3回定期的に新鮮な媒体と交換しそして皿を炭酸ガス入り培養器中において無菌条件下で37℃で貯蔵した。それぞれの皿中における最大のゲルディスクサイズは最初は同じサイズであった。6ヶ月後、図6に示されるように追加のカルシウムで洗浄していないゲルは大部分が消失しているが、一方、追加のカルシウムで洗浄したディスクは時間の経過でサイズに変化がないか又はわずかのままであった。これは、限定されたカルシウム含量で作られたアルギネートゲルは生理的条件下で強度に分解していることを明確に示している。
【実施例7】
【0082】
細胞の取り込み
アルギネートミクロビーズ中への細胞のカプセル化は最近、生物医学用途の発達により広範に使用されている技術である。アルギネートビーズは治療物質用に“バイオ工場”として使用される。アルギネートゲルは酸素やグルコースのような必須栄養素の流入と所望の治療用分子と廃棄物の排出を可能にする。膵島細胞のような敏感な細胞を使用することによって、“バイオ工場”は宿主に応答する。しかしながら、ゲルネットワークは、人体によその細胞をインプラントするときに非常に危機的になる宿主の免疫系から取り込まれた細胞を保護する必要がある。しかしながら、細胞はミクロビーズよりも他のアルギネート構造中にうまく取り込まれることが示されてきた。
【0083】
我々の自己ゲル化性アルギネートマトリックス中に取り込まれた細胞上のゲルの効果もまた示されている(図7)。実験(図7のパネルA)においては、C2C12マウスの筋原細胞は、加圧殺菌されたカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)と混合する前にプロノバアップMVGアルギネート溶液と混合された。細胞と0.7%のナトリウムアルギネートと1.0%のカルシウムアルギネートを含む混合物をペトリ皿に注入しディスクとして成形した。数分後、ゲルの分解を防ぐためにゲルを50mMの塩化カルシウムで10分間洗浄し(実施例6参照)そしてその後、ゲルに細胞培養媒体(10%FBSを追加したDMEM)を添加した。アルギネートゲル/細胞培養物は炭酸ガス入り培養器中において無菌条件下で37℃で貯蔵しそしてその後は媒体を週に3回定期的に交換した。45日後、培養物中にカルセインの染みを付けた顕微鏡観察で生育細胞の存在が認められた。生育細胞を検知するのには蛍光顕微鏡が使用された。
【0084】
図7のパネルAに示される写真はゲルの外側及び内側の生育細胞の存在を示す。ゲルの異なった部分で顕微鏡の焦点が異なるため、写真では明瞭度が場所により異なる。写真の多くの部分を占める光が当たった領域及び部分はゲル表面に入りそこで繁殖した生育細胞を示している。ゲル表面のこの部分は単層として成長している細胞で完全に覆われている。ゲル表面上のいくつかの細胞は、しかしながら、また他の領域中にも存在している。
【0085】
別の実験(図7のパネルB)においては、人の軟骨細胞はアルギネートゲル中に取り込まれている。この場合、そのゲルはプロノーバSLG20(高いグルロン酸含量をもつ低粘度の凍結された無菌のアルギネート)と人の軟骨細胞を含むカルシウムアルギネート(FMCプロセスの生成物、実施例14)の自己ゲル化性混合物5mlから作られた。ゲル化の3日後、ゲルを振動切断機を使用して600μmの切片に分割した。これらのゲル切片を炭酸ガス入り培養器中において細胞成育媒体中で保存しそして6ヵ月後に写真を撮影した。その写真は、細胞生育のインジケーターとしてカルセインで細胞にシミをつけた後に蛍光顕微鏡で撮影した。その写真は明らかに非常に多くの生育細胞の存在を示している。アルギネートゲルネットワークはそれゆえに長い時間細胞を支持する良好なマトリックスでなければならない。結論として、そのデータは、ゲルが細胞及び細胞生育のための生体適合性マトリックスであることを明白に示している。
【0086】
人の軟骨細胞を含む、異なったアルギネート系のサンプルも又調製された。この場合、高分子量アルギネートは、低いゲル形成性イオン及びアルギネート濃度でゲル強度を維持するために選択された。これらはプロノーバG及びプロノーバSLM100(高い及び低いグルロン酸含量をそれぞれもつ低粘度の凍結された無菌のアルギネート)であった。軟骨細胞は細胞媒体中の約2%のアルギネート溶液中に混合した。アルギネート/細胞懸濁物はさらに使用する前に空気の気泡を放出させるためにそれから1時間半保持した。細胞懸濁物は不溶性カルシウム又はナトリウム無菌性アルギネート(実施例14で高含量のグルロン酸で作られたFMC生成物で、バイアル瓶中に5mlの10%アルギネート分散物、合計で0.5mgのアルギネートを含む)と混合した。不溶性アルギネートの各バイアル瓶は攪拌用のマグネットを含みそして解封後は同じ日のうちに使用した。不溶性生成物は又粉砕しそして粒子サイズを調節するために篩い分けそしてグルロン酸を高又は低含量で含むストロンチウム及びカルシウムアルギネートとして製造された。アルギネート/細胞懸濁物と不溶性アルギネート分散物の混合は少容量の小さなテスト用チューブで行った。所望の量がバイアル瓶から取り出されるときは、不溶性アルギネート分散物はマグネット攪拌下に保持した。異なったサンプルを下記の表に記載されたように混合した。
【0087】
細胞を含むゲル形成系(カッコ内はスタート時の濃度)
グループ アルギネート溶液 イオン源アルギネート 混合
1 1.6%プロノーバSLG100(2.0%) 2.0%ストロンチウム高G(10%) 4:1
2 1.6%プロノーバSLG100(2.0%) 2.0%カルシウム高G(10%) 4:1
3 1.6%プロノーバSLM100(2.0%) 2.0%ストロンチウム高G(10%) 4:1
4 1.6%プロノーバSLG100(2.0%) 2.0%ストロンチウム高M(10%) 4:1
【0088】
混合物の数分間の初期ゲル化後に、小さなゲル片を炭酸ガス入り培養器中の細胞培養媒体中で貯蔵しそして一週間後に細胞生育度をカルセイン染み(記述のとおり)を用いてチェックした。この研究においては、全てのアルギネートゲル/細胞サンプルにおいて良好な細胞生育度が観察された。これに代わり、アルギネートゲル/軟骨細胞サンプルもインシツで調製した。用途によって、異なった自己ゲル化処方がそれぞれの特定の使用法に対して適用された。ゲルは直接細胞を含むが、またミクロビーズ又は細胞を含むその他の生物構造体を含んでいてもよい。その調合はゲル化が完結する前に注入されるが、しかしゲルはまたインプラントする前に完全に又は部分的に人体外で硬化する。さらに、ゲルは、ゲル内で細胞増殖させるか、又はさせないために、環境に適合させるために又は免疫保護を与えるために、より強く又はあまり強くなく又は多孔質に作られる。またゲル構造は低カルシウム含量(実施例6及び図6に示されるように)、低分子量アルギネート又は低アルギネート濃度を使用することによってより大きな又は小さな生分解性となるように製造される。ゲルは又物性改良のために、ヒアルロン酸塩又はキトサンのような他のバイオポリマーを混合してもよい。ゲルは又追加のカルシウムを好適な浸漬又はスプレー手段で構造体に適用することによってさらに強化してもよい。
【実施例8】
【0089】
徐放(controlled release)系
薬剤やその他治療用分子の放出の場合に徐放系のアルギネートの有用性が強調されてきた。ここで強調されている調合のタイプもまた同様に使用されてきたし、異なった処方においても利点がある。一つの例は、治療期間を制限するために低濃度のゲル形成性イオンを使用することによる生分解性ゲルの使用である。癌患者の治療においては、薬剤や放射性元素を含む空間充填ゲルが疾患の慢性化を防ぐために手術過程で適用される。活性物質が放出され放射性が減衰した後で、ゲルが溶解しそして人体から排出されることが望ましい。自己ゲル化性徐放処方は勿論又直接に外科手術なしで人体に注入されてもよいし、そしてまたゲル/アルギネート溶液は口腔投与で使用されてもよい。口腔投与の場合、アルグネートは最近、抗−逆流療法としての処方でよく知られている。それゆえに、アルギネート自己ゲル化性処方は同様な用途を見出すかもしれない。
【実施例9】
【0090】
組織工学用途
ここで提示されたように、アルギネート内への細胞の取り込みは、種々の疾患をもつ患者の治療のために活性物質を与えるインプラント可能な“バイオ工場”を生み出すために使用される。しかしながら、アルギネート内への細胞の取り込みはまた組織工学用途で使用されてもよい。組織工学の場合、三次元構造物内又は上で細胞成長が必要でそしてそれ故にそのような用途向けの良好な生体材料が必要となる。架橋イオンの時間を遅延した徐放はゲル化アルギネート懸濁物をゲル化が起こる前に複雑な幾何形状に成形する。人体外条件下ではそのようなアルギネート構造物は組織又は人工器官の発達における成長物質として使用される。細胞はアルギネートゲルビーズの表面上でゲル表面として成長し細胞の成長物質となる。アルギネートゲル上での細胞の成長はアルギネート及び使用されるゲル形成性イオンに依存することが見出された。本発明の自己ゲル化形成物は、アルギネートシート表面又はその他の形状のゲル構造物表面内又は表面上で成長する細胞の多層を作り出すために使用される。さらに、アルギネートゲルはクエン酸塩、リン酸塩又はその他のゲル形成性イオンキレート剤での処理で後になってから徐去される。これは組織や器官構造物内のいくつかの細胞層と結合する可能性を与える。ゲル構造物表面内又は表面上の細胞のいくつかのタイプは構造物の成長に望ましいなら合体させてもよい。
【0091】
神経の再生は組織工学でのアルギネートの使用の興味深い例である。自己ゲル化性アルギネートの人工的神経導管の充填は神経再成長への生体適合性を改良して構造物を作り出すのに適している。この系は他の系に比較してより良好な柔軟性及び成形プロセス及び構造物性のより良好な制御性を与える。
【0092】
注入可能なアルギネート/細胞懸濁系は又外科的処置なしで欠陥のある又は損傷を受けた組織部分に投与される。そのような用途の場合、ゲル化する前に材料の形状化に要する或る作業時間をもつことが必要である。しかしながら、ゲル化速度はまたゲル/溶液を投与する際の長すぎる待ち時間又は問題点を避けることができるように妥当な程度に早いことが要求される。自己ゲル化系はここで示されるようにそして既に述べたように異なったゲル化時間−曲線及び異なった強度と安定性をもつように適用される。この変化はそれゆえに注入手順のそれぞれのタイプに適合して使用される。例としては、軟骨欠陥の修復は自己ゲル化性アルギネート構造物の使用の可能性を保持している。アルギネートは軟骨組織工学に使用される有用な生体材料であることが見出されてきておりそしてアルギネートは骨の発生を刺激することが見出されてきた。それゆえに、自己ゲル化性アルギネート溶液は軟骨細胞又は他の細胞の有る無しに拘わらず直接に関節欠陥の治療に注入される。関節炎の患者は今日では既に“結合流体治療”で治療されておりそして市場では二つの製品、ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアルガン)及びヒランG−F20(シンビスク)が有り、それらはヒアルロン酸、結合流体に粘度を与える物質を補充することによる潤滑剤として作用すると思われる。痛みの緩和は或る人々にとっては6から13ヶ月の長さで継続する。治療は、人々にとっては、膝の関節炎を和らげるのにマイルドであることが最も効果的であることが証明されてきた。しかしながら、ヒアルロン酸は、生分解性の少ないアルギネートのような他のバイオポリマーの使用によって人体内で分解することが知られているので良好な生体適合性は利点を提供することになる。
【0093】
アルギネートヒドロゲルは、スポンジ状又は繊維状のような生体適合性の有る構造物を作り出すために、凍結乾燥されるか又はその他の方法で水を部分的又は完全に除去される。本明細書で示す技術の使用、自己ゲル化性アルギネート系はまた、組織工学又はその他の用途に有用な生体適合性のスポンジ又はその他の構造物を製造する工程で使用される。
【0094】
自己ゲル化性アルギネートの処方はステント又は移植片(グラフト)又はその他のインプラント用部材の被覆で使用される。アルギネートの処方のタイプにより、被覆層は生分解性が高く又は低くそして宿主細胞の成長又は部材に添加される細胞の成長をより強く又は低くサポートするように作られる。
【実施例10】
【0095】
組織バルク剤
アルギネートは、膀胱尿失禁の治療のためのバルク剤を与えるために、尿道括約筋近くの粘膜下組織に投与されそしてその手順は既に診療所で実施されている。別の例では、胃−食道逆流症の治療の補助として食道と胃の間の結合部にアルギネート調合物を投与する。アルギネートの高度の適用性は、化粧品分野において魅力的な他の材料の代替物として注入可能な溶液の使用を可能にさせている。
【0096】
自己ゲル化性アルギネートに基づく処方は、予め決められた容量を満たすために予め決められた硬化時間で注入可能な溶液又はペーストを作り出すために使用される。既述のように、ゲル処方は、バルク形成物に所望の性質を与える生分解性のものに、又は生分解性がないものに作られてもよい。
【実施例11】
【0097】
血管塞栓術
動脈塞栓の形成方法は動静脈異常、動脈瘤、腫瘍に供給される過剰血液、大量出血のコントロール、及び症状を緩和させるために塞栓術が必要とされるその他の症状のような症状を治療するために使用される。いくつかの塞栓術システムは、血液やその他の体液と触れたときに固化又は沈殿し始めるポリマー溶液の使用を包含する。そのようなシステムは、しかしながら、固体ポリマーの形成又は沈殿を引き起こすのに時間遅れが必要なために、人体の望ましくない部分への泳動の問題に悩まされている。これらのポリマー溶液系の泳動は、溶液が血管系のような“高流速”領域に注入されるときに特に問題となる。ポリマー溶液系から形成される繊維もまた、うまく塞栓されない、過剰にもろい、又は生体適合性でない、のようなその他の問題に悩まされている。PVA(ポリビニルアルコール)の粒子又はビーズ又はゼラチンビーズの使用は塞栓術に有用であることが見出されてきておりそして最近では診療所で使用されている。
【0098】
アルギネートベースの調合はまた塞栓術処置での使用も提案されてきた。動脈閉塞は、カルシウムアルギネート(アルギン酸カルシウム)を使用して、閉塞をターゲットにした血管系内の或る部分で出会いそして重合するように、アルギネート液体と塩化カルシウム溶液の注入を制御することによって軽減化される。そのような系に比較して、本明細書の自己ゲル化性アルギネート処方は優位性をもっている。治療は単一の注入で実施されそして自己硬化性調合物の強度は系のより良好な制御で調節される。特定的には、自己ゲル化性アルギネート処方は、ゲル化前の時間及び生分解性が制御される必要があるときに有用である。
【実施例12】
【0099】
抗−粘着性調合物
粘着形成は外科手術、外傷性疾患、伝染病等々に帰する。粘着はしばしば腹部手術後に起こりそして腸内妨害、不妊症、及び痛みを生ずる主要な医療的問題を起こす。粘着を防止する又は軽減させるための努力は多くの場合不成功に終わっているが;しかしながら、異なったバイオポリマーを使用する最近開発された機械的障壁は粘着防止において驚異的な医療的進歩を遂げてきた。
【0100】
アルギネートベースの調合物はまたここで示した自己ゲル化性アルギネート系を使用することによって調合される。溶液/ゲルの調合は使用前にすばやく予備混合しそして好適な生分解性で作られる。その種の調合はまたその他のポリマー、薬剤又は補助的化合物を含んでいてもよい。追加のポリマーはゲルの性質を改良するために、とりわけゲル構造体と組織との間の粘着性を増加させるために使用される。
【実施例13】
【0101】
創傷治療調合物
アルギネート包帯はにじみ出る創傷の治療に使用される。創傷治療のための最近のアルギネート製品は柔らかい、不織繊維又はパッドから構成されている。アルギネートは多くの場合それ自身の重量を吸収しそして創傷内にゲルを形成して空間を埋めそして湿潤な環境を維持することができる。アルギネートが未知のメカニズムで創傷治療に影響を及ぼすことが暗示されてきたし、そしてアルギネート創傷用包帯内に存在するカルシウムは細胞への影響によって創傷治療に影響を及ぼすことが仮定されてきた。
【0102】
自己ゲル化性アルギネート構造物は治癒過程で組織表面の三次元構造体を形成することができる。とりわけ、より制御性があり規定されたカルシウム含量をもつ調合物が達成され、同様に再吸収度の高い構造物を達成可能にしている。
【実施例14】
【0103】
不溶性カルシウムアルギネートの製造
カルシウムアルギネートを超高純度の(エンドトキン含有量の少ない)市販アルギネートを使用して調製した。さらに、カルシウム含有量は化学当量であった。約130,000の分子量、約150mPas(1%溶液、20℃)、64%のグルロン酸塩、及び260EU/gのエンドトキシン含量をもつプロノーバアップナトリウムアルギネートの60g(バッチFP−008−04)を5リットルの精製水中に溶解させた。炭酸ナトリウム26gを添加した。塩化カルシウム無水物の165gを先ず500mlの精製水中に溶解させそしてpHを硝酸で中性に調節した。連続攪拌しながら、アルギネート溶液を塩化カルシウム溶液に注意深く添加した。沈殿したカルシウムアルギネートをそれから電気伝導度が精製水のそれと同レベルとなるまで精製水で4−8回洗浄した。洗浄したカルシウムアルギネートをそれから真空下で乾燥しそして引き続き粉砕した。塩化カルシウムの代わりにストロンチウム塩を使用して同様な方法で不溶性ストロンチウムアルギネートを調製した。得られた不溶性アルギネートは、ゲル化系で使用したときに他の方法で調製された不溶性アルギネートを使用して製造されたものよりも大きな均質性を再現できるゲルを生み出すように制御されたカルシウム又はストロンチウム当量又は亜当量をもっていた。
【実施例15】
【0104】
他のイオン及びカルシウム結合剤の存在下でのゲル化
実験においては、前に記載した(実施例1)ように振動測定を行った。貯蔵弾性率は時間を関数として1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合したゲルで測定した(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。ゲルの発達は、塩化ナトリウム又はナトリウムヘキサホスフェートの存在又は不存在下で測定した(図8)。塩化ナトリウムの二つの異なった濃度についてテストしたところデータはナトリウムイオン濃度が上昇するときにゲル化速度が上昇することを明らかに示している。ナトリウムヘキサホスフェートのようなカルシウム結合剤の存在もまた明らかにゲル化動力学を変化させそして最終のゲル強度を低下させた。データはこのようにナトリウムヘキサホスフェートのようなナトリウム又はカルシウムの錯体化合物のような非ゲル形成性イオンの存在はゲル化動力学及びゲルの最終物性を変化させるために使用してもよいことを示している。
【実施例16】
【0105】
異なったサイズのカルシウムアルギネート粒子でのゲル化
不溶性アルギネートの製造プロセス過程で、最終生成物の粒子サイズはコントロールされる。この実施例では、異なった粒子サイズに分離するために粉砕しそして篩い分けしたカルシウムアルギネートを1バッチ作った。他の条件は同じにして異なったストロンチウムアルギネート粒子でゲル化させた場合はゲル化プロセス及びゲルの最終物性には大きな差があった(図9)。ゲル化はより小さな粒子サイズで速くなるが、合計のゲル化時間は大きな粒子サイズではかなり長くなりそしてまた非常に高い強度のゲルを与えた。しかしながら、より小さな粒子サイズの場合、ゲル化速度が非常に速い(特に25μmより小さな粒子の場合)ので、二つの成分の混合過程で恐らくゲルの幾分かの分解が起こることに注意すべきである。この結果はそれゆえに又最終のゲル強度に幾分かの差異があることに寄与している。それにも拘らず、結論的には、我々のデータは粒子サイズを考慮する必要があることそして所望の物性を得るために積極的に利用できることを示している。
【実施例17】
【0106】
異なった温度でのゲル化
我々は又、温度の調節がゲル化系の硬化を積極的にコントロールするのに使用できるかどうかをテストした。図10においては、異なった温度でのカルシウムアルギネートとナトリウムアルギネートの混合物に対するレオロジー的なデータを示す。明らかに、ゲル化速度は室温に比べて10℃では低下しそしてまた37℃では上昇した。データはこのように温度がゲル化動力学をコントロールするために積極的に使用できることを示している。とりわけ、温度の低下によって、体内投与の前にもっと時間をかけたゲルの調製と取り扱いを可能にする点で積極的に利用することができる。
【実施例18】
【0107】
不飽和のカルシウム又はストロンチウムアルギネート粒子を用いたゲル化
カルシウムアルギネート及びストロンチウムアルギネートは、飽和していない(100%以下の飽和度)ゲル形成性イオンを用い当量で調製された。そのような粒子は水を含む溶液と接触すると非常に急速に再水和する飽和粒子と対比される。不飽和粒子はそれ故にゲル粒子(非−固体ゲル)を含む即席のゲル構造を形成するために使用できる。ゲル構造は弱いのであるが、長い時間経過で容易に形状化する。細胞又はその他の物質は粉末と混合する前に水を含む溶液中にそれらを単純に添加することによってゲル構造物中に容易に混合することができる。他の粒子又は材料もまた、水を含む溶液を添加する前に不飽和粒子と予備混合させることによってゲル構造物中に混合することができる。この一つの例は、水を含む溶液を添加する前に、乾燥ナトリウムアルギネート、飽和した不溶性アルギネート及び飽和していない可溶性アルギネートを予備混合することである。水と接触すると、前述のこの混合物は即席の水吸収性ゲル構造体を与えるが、しかしながら、ゲル中の溶解性アルギネートと不溶性飽和アルギネートの粒子は次第に水和しゲルが溶解し始めるので、ゲル強度は時間と共にさらに上昇する。ここで述べた処方、不飽和の不溶性アルギネートの水吸収性を利用することはこのように細胞又はその他の物質との組み合わせにもまた使用されそして組織工学及びその他の用途にも非常に有用である。
【実施例19】
【0108】
炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、化学当量のカルシウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−008−04(64%グルロン酸含量、130,000g/モルの分子量、146mPasの20℃で1%溶液の粘度、400EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。15gの炭酸ナトリウムを添加した。139gのCaCl2・2H2Oを12mlの硝酸(65%)を添加した300mlの精製水に溶解させた塩化カルシウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は55mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.08mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥した。
【実施例20】
【0109】
FP−411−04、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、不足(亜)化学当量のカルシウム(50%飽和)、G−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
25gのプロノーバアップLVG(実施例19で記載したもの)を精製水1.5リットルに溶解させた。必要なカルシウムの量を計算すると、25gのアルギネートは0.146モルのアルギネートを表す(171g/モルの分子量を使用する)。使用したアルギネート、プロノーバアップLVGバッチFP−411−04は64%のグルロン酸含量をもち、それは0.093モルのカルシウム結合サイトを生ずる(0.146モルのアルギネートx64%のグルロン酸モノマー)。カルシウムで50%置換するためには、0.0465モル(0.093/2=0.0465モル)のカルシウムを必要とする。0.0465モルのカルシウム塩は二水和物の6.84g(0.0465モルx147.02g/モル(CaCl2・2H2O)=6.84gのCaCl2・2H2O)と計算される。6.84gのCaCl2・2H2Oを150mlの精製水と6mlの硝酸(65%)中に溶解させる。7.5gの炭酸カルシウムをアルギネート溶液に添加する。細かな沈殿が生じる。この溶液の電気伝導度は8mS/cmと測定される。沈殿物を電気伝導度が0.4mS/cmとなるまで精製水で6回洗浄する。沈殿物を真空乾燥する。
【実施例21】
【0110】
FP−411−05、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、化学当量のストロンチウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むストロンチウムアルギネートの製造
47gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−008−04(64%グルロン酸含量、130,000g/モルの分子量、146mPasの20℃で1%溶液の粘度、400EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。15gの炭酸ナトリウムを添加した。252gのSrCl2・6H2Oを2mlの硝酸(65%)を添加した300mlの精製水に溶解させたストロンチウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は78mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.0159mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥した。
【実施例22】
【0111】
FP−411−06、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、不足(亜)化学当量のストロンチウム(50%飽和)、G−の多いアルギネートを含むストロンチウムアルギネートの製造
23.3gのプロノーバアップLVG(実施例19で記載したもの)を精製水1.5リットルに溶解させた。必要なカルシウムの量を計算すると、23.3gのアルギネートは0.136モルのアルギネートを表す(171g/モルの分子量を使用する)。使用したアルギネート、プロノーバアップLVGバッチFP−411−04は64%のグルロン酸含量をもち、それは0.087モルのカルシウム結合サイトを生ずる(0.136モルのアルギネートx64%のグルロン酸モノマー)。ストロンチウムで50%置換するためには、0.0435モル(0.087/2=0.0435モル)のストロンチウムを必要とする。0.0435モルのストロンチウム塩は六水和物の11.6g(0.0435モルx266.62g/モル(SrCl2・6H2O)=11.6gのSrCl2・6H2O)と計算される。11.6gのSrCl2・6H2Oを150mlの精製水と6mlの硝酸(65%)中に溶解させる。7.5gの炭酸カルシウムをアルギネート溶液に添加する。細かな沈殿が生じる。この溶液の電気伝導度は22mS/cmと測定される。沈殿物を電気伝導度が0.6mS/cmとなるまで精製水で3回洗浄する。沈殿物を真空乾燥する。
【実施例23】
【0112】
FP−506−03、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のストロンチウム(100%飽和)、M−の多いアルギネートを含むストロンチムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVMナトリウムアルギネート、バッチFP−408−01(44%グルロン酸含量、220,000g/モルの分子量、127mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。400mlの精製水に252gのSrCl2・6H2Oを溶解させたストロンチウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は43mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.143mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例24】
【0113】
FP−505−05、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のストロンチウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むストロンチムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−408−02(69%グルロン酸含量、219,000g/モルの分子量、138mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。400mlの精製水に252gのSrCl2・6H2Oを溶解させたストロンチウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は40mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.1mS/cmとなるまで精製水で7回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例25】
【0114】
FP−505−02、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のカルシウム(100%飽和)、M−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVMナトリウムアルギネート、バッチFP−408−01(44%グルロン酸含量、220,000g/モルの分子量、127mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。300mlの精製水に137gのCaCl2・2H2Oを溶解させたカルシウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は45mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.0129mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例26】
【0115】
FP−504−02、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のカルシウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−408−01(69%グルロン酸含量、219,000g/モルの分子量、138mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水5リットルに溶解させた。500mlの精製水に231gのCaCl2・2H2Oを溶解させたカルシウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は43mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.0068mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例27】
【0116】
カルシウム及びストロンチウム含量の化学当量を変化させ、同様に使用されるアルギネートの種類(グルロン酸塩の多い(G)又はマンヌロンサン塩の多い(M))を変化させて製造した生成物の更なる例を添付の表に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【特許文献2】US6,121,441
【特許文献3】US6,407,226
【特許文献4】US6,642,363
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、組織バルク剤としての使用、血管塞栓手術での使用、術後粘着形成を防ぐための使用、創傷治療での使用、糖尿病治療での使用及び関節炎の治療、膵島、又は他の細胞集合体又は組織の生育の改良及びインプラント用途等の医療分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図2】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図3】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図4】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図5】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図6】異なったカルシウムイオン含量で作られそして生理学的条件下で6ヶ月間貯蔵されたアルギネートゲルの安定性と生理学的分解性を示す写真。
【図7】自己ゲル化性アルギネート中に取り込まれた細胞を使用した実験のデータを示す写真。
【図8】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図9】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図10】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図11】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延されたゲル化速度をもつアルギネート系及び組成物、部材(デバイス)、キット及びそのような系の製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギネートは親水性の海産バイオポリマーで、生物学的に適切な温度で生育し定着できる熱安定性ゲルを形成できるユニークな能力をもっている。アルギネートは、1−4グリコシド的に結合したβ−D−マンヌロン酸(M)とα−L−グルロン酸(G)残基をもつ分岐のない二元コポリマーの仲間である。二つのウロン酸の相対量とそのポリマー鎖に沿った連続配列はアルギネートの起源によって広範囲に変化する。アルギネートはラミナリアハイパーボリア、マクロシスチスピリフェーラ、レソニアニグレセンス及びアスコフィリウムノドサムのような海産の褐色藻類中の構造ポリマーである。アルギネートは又シュードモナスアエルギノーザ、アゾトバクテルビネランディー及びシュードモナスフルオレッセンスのようなバクテリアによって生成される(特許文献1参照)。
【0003】
二価のカチオンが二つの異なったアルギネートポリマーのそれぞれのG残基から負に帯電した基とイオン結合を形成するときに、アルギネートゲルが形成され、それによって二つのポリマーを架橋させる。多くのアルギネートポリマーの中でも多重架橋形成物はアルギネート構造であるマトリックスを生じさせる。
【0004】
アルギネートゲルはヒドロゲル、即ち溶解なしで大量の水を含む架橋アルギネートポリマーを含む。アルギネートヒドロゲルのようなバイオポリマーは組織工学及びその他の生物医学用途のための魅力的な候補である。このそして生理学的条件下でゲルを形成する能力のために、アルギネートは広範囲に使用されそしてカプセル化の目的及び生物構造剤として研究されてきた。アルギネートビーズ内に細胞をカプセル化することは通常使用される技術である。また、アルギネートは、組織工学や神経再生の土台としてを含む他の種類の生物構造体用材料として有用であることが示されてきた。
【0005】
アルギネートヒドロゲルの製造には異なった方法が存在する。最も一般的な方法は、アルギネート溶液が外部貯槽からゲル形成性イオンの拡散によってゲル化する透析/拡散法である。この方法はアルギネートゲルビーズを作る場合及び食品用途で多く使用される。アルギネートミクロビーズの製造はゲル形成性イオンのゲルネットワーク中への拡散によって規定される高速な方法である。この方法はミクロビーズ中への細胞の取り込みには適しているが、他の形状や構造の製造にはあまり有用ではない。大きなサイズのゲル構造を製造するためには拡散ゲル化系は可能性に制限がある。これは高速のゲル化プロセスはゲル構造の形状化を可能にする時間を制限するためである。
【0006】
ゲル化プロセスの遅延化は、ゲル形成の前に、体内に注入する及び/又は細胞又はその他の生物材料をゲルマトリックス中に混合するのを可能にするために使用される。それゆえに、他のタイプの生体適合性アルギネートゲル構造製造のために、代替の方法が開発されてきた。ゲル化速度は、ゲル形成性イオンが生成ゲル内部にゆっくりと拡散する内部ゲル化システムを使用することによって低下する。これはゲルの内部歪として記載されている。通常、内部ゲル化システムにおいては、溶解度に制限のあるカルシウム塩、又はCa2+錯イオンをアルギネート溶液に混合するが、その場合カルシウムイオンはゆっくりと拡散する。組織工学のためのアルギネートベースの細胞運搬媒体においては硫酸カルシウムが使用されてきた。カルシウムの拡散とゲル化動力学はまたpH依存性の溶解度をもつカルシウム塩の使用及びD−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)のようなゆっくり作用する酸の添加によってコントロールされる。pHが変化するにつれ、カルシウムイオンは解放され拡散する。またカルシウムを含むリポソームも制御可能なアルギネートゲル化系として使用されてきた。内部ゲル化に基づくアルギネートゲル化系はより特徴的で、カルシウムイオンが飽和ゲルを与えるためにアルギネート溶液に拡散するのを可能にする拡散システムに対比してゲル形成性イオンの供給を制限する。
【0007】
最近のアルギネートゲル構造の製造方法は制限をもっている。制限されたサイズや形状のゲルを作るためにはいくつかの技術のみが有用である。用途によってはゲル化動力学のコントロールに関する問題がある。或る場合には、望ましくない物質がゲル中に存在するが、そのような物質は化学的にコントロールされたゲル化メカニズムの残渣及び副生物であるためである。或る場合には、生理的でないpH値がゲル化のために必要でありそしてそのような条件はそのような方法の使用に制限をもたらす。それゆえに、他のゲル化系及び調合法の必要性が存在する。
【0008】
【特許文献1】WO04011628A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、形状やサイズ及びゲル化動力学をコントロールでき使用上の制限の少ない、外科手術や治療及びインプラント用に使用可能な自己ゲル化性アルギネート、その組成物、キット、それらの製造方法及び使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はアルギネートゲルを製造するためのキットに関する。キットは可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなる。
【0011】
本発明はさらに自己ゲル化性アルギネート分散物を分配する(disperse)方法に関する。その方法は可溶性アルギネート溶液中で不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を形成させ、そしてアルギネートゲルマトリックスを形成させるように分散物を分配することからなる。
【0012】
本発明はさらに自己ゲル化性アルギネート分散物を人体に投与(disperse)する方法に関する。その方法は、可溶性アルギネート溶液中で不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を形成させ、そしてアルギネートゲルマトリックスを人体中で形成させるように分散物を人体に投与することからなる。
【0013】
本発明はさらに組織バルク剤としての使用、血管塞栓手術での使用、術後粘着形成を防ぐための使用、創傷治療での使用、糖尿病治療での使用及び関節炎の治療での使用のために、人体内に自己ゲル化性アルギネート分散物を投与する方法に関する。
【0014】
本発明はさらにインプラント(植え込み)可能なアルギネートゲルに関する。その方法は、自己ゲル化性アルギネート分散物を分配して自己ゲル化性アルギネートを形成させ、引き続きインプラント形成性アルギネートを人体に植え込むゲル形成を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明はさらに、インプラント可能な部材の製造方法に関する。
本発明はさらに、5mm以上の厚みと均質なアルギネートマトリックスネットワークをもつアルギネートゲルに関する。
【0016】
本発明はさらに、5mm以上の厚みをもちそして硫酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、乳酸塩、EDTA又は脂質を含まないアルギネートゲルに関する。
本発明はさらに、均質なアルギネートゲル被覆からなるインプラント可能な部材に関する。
【0017】
本発明はさらに、関節炎から生ずる痛風関節炎を、軟骨細胞を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内へ投与することによって、又は軟骨細胞を含む生体適合性マトリックスを人体内にインプラントすることによって修復する方法に関する。
【0018】
本発明はさらに、インシュリン生成細胞又は多細胞集合体を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内に投与することによって、又はインシュリン生成細胞又は多細胞集合体を含む生体適合性マトリックスを人体内にインプラントすることによって糖尿病を治療する方法。
【0019】
本発明はさらに、膵島、又は他の細胞集合体又は組織を自己ゲル化性アルギネート分散物中に内包させることによって膵島、又は他の細胞集合体又は組織の生育を改良する方法に関する。
本発明はさらに、超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子及びその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、形状やサイズ及びゲル化時間及びゲル強度を変化させることができ、又pH変化無しでゲル化を与え、必要とする成分も最小でよく、そして使用上の制限も少なく、外科手術や治療及びインプラント用に使用可能な自己ゲル化性アルギネート、その組成物、キット、それらの製造方法及び使用方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
代替のアルギネートゲル化系を提供する。この系は多くの生物医学分野及びその他の用途で使用されている。この系は高度の生体適合性をもつアルギネート及びゲル形成性イオンを包含する。この系は特定の用途の要求に従ってゲル化時間及びゲル強度を変化させることができる。この系は他の系で遭遇するpH変化なしでゲル化を与えそして必要とする成分の数も最小でよい。
【0022】
この系は二つの成分からなる:一つは可溶性アルギネート;他方は不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子である。その成分が溶媒の存在下で分散物を形成するために合体するときに、アルギネートゲルは粒子のゲル形成性イオンとして生成を始め、粒子及び溶液中の可溶性アルギネートポリマーから架橋アルギネートポリマーとなる。二つの成分は攪拌又は好適な混合装置を使用して混合される。調合のゲル化動力学は、溶液中の可溶性アルギネートの濃度、分散物中の不溶性アルギネート粒子の濃度、ゲル形成性イオン/アルギネートの相対比、非ゲル形成性イオン又は炭水化物の存在、温度、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子のサイズ、ゲルに取り込まれる又はゲル化過程で存在する細胞、多細胞集合体、組織又はその他の生体材料の含有量、(不純物の存在)及び使用されるアルギネートの種類及び不溶性アルギネート粒子の製造プロセスやアルギネート出発物質の製造後の処理等を包含するいくつかの因子に依存する。このアルギネート系はそれゆえにそれぞれの特定の用途に広範囲に適用できる。生成ゲル内への細胞、多細胞集合体、組織又はその他の生体材料を取り込むためには、溶媒、アルギネート溶液又は分散物は取り込むべき物質と予め混合される。
【0023】
分配は、人体内ではアルギネートゲルマトリックスが望ましい場所に液体/スラリーとして投与される。アルギネートゲル形成は、可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子が溶媒の存在下で混合され、連続的に供給されそしてアルギネートゲルがインシツで固定されるときに始まる。ここで使用されるとき、用語“自己ゲル化性”とは、可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子が溶媒の存在下で混合されるときに起こるゲル化プロセスを意味する。“自己ゲル化性アルギネート”とは、アルギネート分散物又は溶媒中で生成する可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含むゲルである。
【0024】
この系で使用される成分は使用前にいくつかの形態で保持される。例えば、可溶性アルギネートは溶液中で又は粉末として保持される。或る態様においては、可溶性アルギネートは凍結乾燥のように直ちに溶解する粉末として保持される。同様に、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は分散物又は粉末として保持される。
【0025】
可溶性アルギネート中で使用されるアルギネートポリマー又はそれらの組み合わせは不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中のものと同じでも異なっていてもよい。
【0026】
アルギネート、可溶性アルギネート及び溶媒量に比較して分散物中の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は両方共に、ゲル化時間、細孔度、安定性及び生分解性、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与えそして特定の性質をもつゲルは、溶媒に対する可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の比を特定の比にすることによって製造される。一般的には、アルギネートの濃度を低くすると(与えられた可溶性アルギネート/不溶性アルギネートの比の場合)、ゲルの生分解性は大きくなる。いくつかの態様においては、ほぼ0.5%、0.75%、1%、1.25%、1.5%、2%、2.5%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%以上のアルギネート(可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネート)が使用される。
【0027】
分散物中の可溶性アルギネート対不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートとの相対濃度はゲル化時間、細孔サイズ、安定性及び生分解性、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与えそして特定の性質をもつゲルは、可溶性アルギネート対不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子との比を特定の比にすることによって製造される。或る態様においては、可溶性アルギネートの濃度は、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度にほぼ等しい(1:1)。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は可溶性アルギネートの濃度の2倍である(2:1)。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は可溶性アルギネートの濃度の半分である(1:2)。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子形態中のアルギネートの濃度は可溶性アルギネートの濃度に対して1/0.7である(1:0.7)。一般的には、ゲル形成性イオンの存在量が少ないと、より生分解性のゲルが生ずる。系内の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオンの濃度の減少は、ゲルネットワークで架橋イオンの飽和度が小さくなるので、低い安定性で高い生分解性のゲルを作り出すために使用される。自己ゲル化性はゲル形成性イオンの濃度がより低いゲルの製造を可能にし特に生分解性用途に適したゲルの製造を可能にする。いくつかの好ましい態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子対可溶性アルギネートのアルギネート比は:5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、又は1:5である。
【0028】
アルギネートポリマー中のG及びMモノマーの相対含有量は細孔サイズ、安定性及び生分解性、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与える。アルギネートポリマーはG及びMの合計含有量に大きな変化幅があり、そして連続構造の相対含有量もまた大きく変化し(G−ブロック、M−ブロック及びMG交互連続)ポリマー鎖に沿った連続長さも同様である。一般的に、使用されるアルギネートポリマー中のM含有量に比較してG含有量が低くなると、より生分解性の高いゲルとなる。高G含量アルギネートは、一般に小さな細孔サイズと低ゲル強度をもつ高M含量アルギネートのゲルに比較して大きな細孔サイズとより強いゲル強度をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は50%以上のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%以上のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%−80%のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は65%−75%のα−L−グルロン酸を含む。アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は70%以上のα−L−グルロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は50%以上のC−5エピマー(光学異性体)β−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%以上のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は60%−80%のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は65%−70%のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーの一つ以上は70%以上のC−5エピマーβ−D−マンヌロン酸を含む。ウロン酸ブロックの製造方法は特許文献2に開示されている。G−ブロックアルギネートポリマー及びアルギネートゲルの性質の調節剤としての使用は特許文献3に示されている。いくつかの好ましい態様においては、30%G、35%G、40%G、45%G、50%G、55%G、60%G、65%G、70%G、75%G、80%G又は85%Gである。
【0029】
アルギネートポリマーの平均分子量はゲル化時間、細孔サイズ、ゲル強度及びゲル弾性に影響を与える。アルギネートポリマーは2から1000kDの範囲の平均分子量をもつ。
【0030】
アルギネートの分子量はゲル形成及びその最終のゲルの性質に影響を与える。一般的には、使用されるアルギネートの分子量が小さくなると、より生分解性の高いゲルとなる。可溶性アルギネート成分中で使用されるアルギネートポリマー又はそれらの組み合わせは不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中のものと同じでも異なっていてもよい。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは5から350kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは2から100kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは50から500kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、アルギネートマトリックスのアルギネートポリマーは100から1000kDの平均分子量をもつ。或る態様においては、ゲルは高度の生分解性をもつようにデザインされる。従って、少ないアルギネートをもつゲル、少ない低G含量のゲル形成性イオン及び低分子量アルギネートは、ここで述べたように、これらパラメーターの一つ以上の制限を少なくして製造することができ、高度の生分解性を生み出すことができる。
【0031】
アルギネートは25から1000mPasの20℃で測定した1%溶液粘度をもち、好ましくは50から1000mPasの20℃で測定した1%溶液粘度をもつ。
或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の製造方法はゲル形成性イオンの化学的当量(100%飽和)で生成物を与えることが好ましい。そのような化学的当量の塩の使用は自己ゲル化性アルギネート系で大きな生産性を与える。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の製造方法はゲル形成性イオンの亜(不足)当量(100%飽和以下)で生成物を与えることが好ましい。そのような亜当量(sub−stoichiometric)の塩の使用は自己ゲル化性アルギネート系で生分解性を与える。
【0032】
或る態様においては、アルギネートは超高純度のアルギネートである。超高純度のアルギネートはラミナリアハイパーボレアのような海藻の異なった原料からのように商業的に利用出来る。アルギネートの市販のカルシウム塩は一般にはアルギン酸にカルシウムを固相で単純混合によって添加しそしてその成分を一緒に混練する方法で製造される。アルギン酸の市販のカルシウム塩の例としては、プロトウエルド(FMCバイオポリマー社製)及びISP社製のケルセットがある。不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は、超高純度のアルギネートとゲル形成性イオンを使用してアルギネートゲルを作り、超高純度のアルギネート中に存在するナトリウム又はその他のイオンを洗浄し、ゲルを乾燥して水を取り除き、そして乾燥ゲルから粒子を作ることによって、超高純度のアルギネートを使用して製造される。或る態様においては、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は当量塩である。不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は好ましくは、例えば、カルシウム又はストロンチウム、バリウム、亜鉛、鉄、マンガン、銅、鉛、コバルト、ニッケル、又はそれらの組み合わせのような、高純度で特定の一般に均質な含量のゲル形成性イオンをもつことで、それによってゲル形成速度とゲル強度がより厳密に予測できるものが得られる。例えば、カルシウムアルギネート又はナトリウムアルギネート(使用されるゲル形成性イオンによる)のようなアルギン酸の不溶性アルカリ土類金属塩又はアルギン酸の不溶性遷移金属塩(銅、ニッケル、亜鉛、鉛、鉄、マンガン又はコバルトのような)は公知のそして予め決められたアルカリ土類イオンの含有量を用いて溶液から沈殿させることによって製造できる。或る態様においては、市販のアルギン酸ナトリウムは最初にアルギン酸ナトリウム溶液を調製するために使用される。所望により、炭酸ナトリウムのようなナトリウム塩をアルギン酸ナトリウム溶液に含ませてもよい。例えば塩化カルシウム又は塩化ストロンチウムのようなカルシウム塩又はストロンチウム塩のような不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子のための所望のゲル形成性イオンを含む塩が溶液を作るために使用される。アルギン酸ナトリウム溶液は、好ましくはゲル形成性イオン溶液とゆっくりと合体される。好ましくは、合体された溶液は混合プロセスの過程で連続的に攪拌される。例えば、カルシウムアルギネート又はナトリウムアルギネート(使用されるゲル形成性イオンによる)のような不溶性アルギネートは合体溶液から沈殿する。沈殿した不溶性アルギネートはそれから溶液から取り出され、例えば全ての溶解イオンを除去するために精製水で2−10回繰り返し洗浄する。可溶性イオンの除去は例えば精製水の電気伝導度と比較した不溶性アルギネートの電気伝導度をテストすることによって行われる。洗浄後、不溶性アルギネートは真空で乾燥される。乾燥したアルギネートは粉砕され、そして或る態様においては、粒子サイズで選別される。
【0033】
或る態様においては、アルギネートは無菌性である。いくつかの好ましい態様においては、アルギネートは無菌性で超高純度のアルギネートである。物質を無菌化するためにしばしば使用される条件は、分子量の低下のようにアルギネートを変化させる。いくつかの態様では、無菌性アルギネートは無菌フィルターを使用して製造される。いくつかの態様では、アルギネートは<25EU/gのエンドトキシンを含む。
【0034】
或る態様においては、アルギネートマトリックスは、ゲルマトリックスが形成後にポリアミノ酸又はキトサンのようなポリカチオン性ポリマーで被覆してもよい。或る態様においては、ポリリシンはポリカチオン性ポリマーである。或る態様においては、ポリカチオン性ポリマーは別の基と結合しそしてポリリシンはこのようにゲルとの基の結合を容易にするために使用される。ポリカチオン性ポリマーを使用するゲルと結合した基の例としては、例えば、薬剤、ペプチド、対照試薬、受容体結合リガンド(配位子)又はその他の検知可能ラベルを包含する。いくつかの特定の例としては血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、変換成長因子(TGF)、及び骨形態タンパク質(BMP)を包含する。薬剤としては、タキソール、シス−白金及び/又は白金含有誘導体のような癌の化学療法剤を包含する。炭水化物ポリマーとしてはヒアルロナン、キトサン、ヘパリン、ラミナリン、フコイダン、コンドロイチン硫酸塩を包含する。或る態様においては、使用されるアルギネートは一つ以上のポリマーが別のアルギネートポリマーに結合している化学的に変性されたアルギネートのような変性アルギネートポリマーである。そのような変性アルギネートポリマーは特許文献4(ここでは参照として取り込まれている)に示されている。
【0035】
或る態様においては、アルギネートポリマーは、例えば、薬剤、ペプチド、対照試薬、受容体結合リガンド(配位子)又はその他の検知可能ラベルのような非−アルギネート部分を含んでいてもよい。或る態様においては、アルギネートポリマーはRDGペプチド(Arg−Asp−Gly)、放射性部分(例えば131I)又は放射線不透過物質を含む。アルギネートポリマーに結合した基のその他の例としては、例えば、薬剤、ペプチド、対照試薬、受容体結合リガンド(配位子)又はその他の検知可能ラベルを包含する。いくつかの特定の例としては血管内皮成長因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、変換成長因子(TGF)、及び骨形態タンパク質(BMP)を包含する。薬剤としては、タキソール、シス−白金及び/又は白金含有誘導体のような癌の化学療法剤を包含する。炭水化物ポリマーとしてはヒアルロナン、キトサン、ヘパリン、ラミナリン、フコイダン、コンドロイチン硫酸塩を包含する。
【0036】
可溶性アルギネートは、例えば、Na+−アルギネート、K+−アルギネート、PEG−アルギネート(ポリエチレングリコール−アルギネート)、NH4−アルギネート又はそれらの組み合わせのような塩である。
【0037】
或る態様においては、可溶性アルギネートは凍結乾燥又は他の方法で乾燥される。凍結乾燥した可溶性アルギネートは“即可溶性”である。“即可溶性”アルギネートは1分以内、好ましくは30秒以内、より好ましくは15秒以内に水に溶解する。“容易に溶解する”アルギネートは1秒以上そして通常は数分で溶液になる。
【0038】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中で使用されるゲル形成性イオンはゲルの動力学、ゲル強度、及び弾性に影響を与える。ゲル形成性イオンはまた細胞の成長にも影響を与える。不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中で使用されるゲル形成性イオンはCa++、Sr++、Ba++、Mn++、Fe++、Cu++、Pb++、Co、Ni、又はそれらの組み合わせである。不溶性アルギネートゲル形成性イオン錯体は粒子である。その粒子は一般に粒子サイズが最大寸法(L)及び最小寸法(D)によって特徴付けられるL/Dに基づくと非−繊維状である。非−繊維状L/Dは10より小さく、好ましくは5より小さく、より好ましくは2より小さい。10以上のL/Dは切断された繊維である。不溶性アルギネートゲル形成性イオンは分散物又は乾燥形態として保持される。もし前者なら、分散物は、可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物を形成するために、可溶性アルギネート又は即可溶性アルギネートを含む溶液と混合できる。もし、不溶性アルギネートゲル形成性イオン粒子が乾燥形態であるなら、それらは、可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物を形成するために、乾燥即可溶性アルギネートそして引き続き溶液と混合するか、又は乾燥不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子は可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物を形成するために、可溶性アルギネート含む溶液と合体させる。
【0039】
分散物を形成させるための成分の混合を生じさせる攪拌は溶液内で固体粒子の分布を生じさせる。そのようにして製造された分散物は、成形型やキャビティー内にそのような成形型やキャビティーの形状を形成するために流し込み、押し出し可能なスラリー形態であることができる。
【0040】
可溶性アルギネートを含む溶液中で、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の分散物が形成され、アルギネートゲルを形成するために自己ゲル化が起こる場所に分配される。或る態様においては、分散物は生体内の部分に投与される。或る態様においては、分散物は成形型又はその他の容器又は表面に分配される。
【0041】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子中で使用されるゲル形成性イオンの濃度はゲルの動力学、ゲル強度及び弾性率に影響を及ぼす。ゲル形成性イオンの濃度がたかくなると、ゲル強度は高くなる。ゲル強度はゲルがゲル形成性イオンで飽和するとき最大となる。反対に、ゲル形成性イオンの濃度が低くなると、ゲル強度は低下しそして生分解性の度合いが高くなる。
【0042】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の粒子サイズはゲルの動力学及びゲルの最終的性質に影響する。粒子サイズが小さくなると、ゲルの形成はより急速に完了する。大きな粒子サイズはより強いゲルを生み出す。粒子サイズは、例えば、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の粒子を、粒子が予め決められたサイズ範囲になるように種々の異なったサイズのフィルターを通して分別される。或る態様においては、粒子は<25μm、≧5−45μm、45−75μm、75−125μm、又は>125μmである。
【0043】
使用される溶媒は、例えば、水、塩類溶液、細胞培養液、薬液溶液のような溶液、タンパク質、又は核酸、細胞懸濁液のような懸濁液、リポソーム、又は対照試薬懸濁液である。
【0044】
生成するアルギネートヒドロゲルは、例えば、薬剤核酸分子、細胞、多細胞集合体、組織、タンパク質、酵素、リポソーム、対照試薬又は生体活性物質を含む。生体活性物質の例はヒアルロン酸塩及びキトサンである。対照試薬はタンタル及びガドリニウムを含む。タンパク質のいくつかの特定例としては、血管内皮成長因子(VEGF)、成長因子(EGF)、変換成長因子(TGF)、及び骨形態タンパク質(BMP)を包含する。薬剤は、タキソール、シス−白金及び/又は白金含有誘導体のような癌の化学療法剤を包含する。炭水化物ポリマーとしてはヒアルロナン、キトサン、ヘパリン、ラミナリン、フコイダン、コンドロイチン硫酸塩を包含する。
【0045】
ゲル中で使用される細胞は非−組み換え細胞及び組み換え細胞を含む。細胞がアルギネートマトリックス内にカプセル化されているいくつかの態様においては、カプセル化されている細胞は哺乳類の細胞であり、好ましくは人間の細胞である。カプセル化されている細胞が非−増殖細胞である場合には、非−増殖細胞は、膵島(pancreatic islets)、肝細胞、神経細胞、腎皮質細胞、血管内皮細胞、甲状腺及び副甲状腺細胞、副腎細胞、胸腺細胞、卵巣細胞及び軟骨細胞からなる群から選ばれる。カプセル化されている細胞が増殖細胞である場合には、増殖細胞は、基幹細胞、前駆細胞、特定器官の増殖細胞、繊維芽細胞及び表皮角化細胞、又は例えば、293、MDCK及びC2C12細胞腺のような確立された細胞腺から導かれる細胞である。或る態様においては、カプセル化されている細胞は、細胞が維持されるときに発現される一つ以上のタンパク質を記号化する発現ベクターを含む。或る態様においては、タンパク質はシトキン、成長因子、インシュリン又はアンギオスタチン又はエンドスタチンのような血管形成抑制剤、その他の医療用タンパク質又は薬剤のようなその他の治癒力のある分子である。約60−70kD以下の低い分子量をもつタンパク質は、ゲルネットワークが細孔をもつ故に特に良好な候補である。
【0046】
自己ゲル化性アルギネートは、均質なアルギネートネットワークをもつ5mmより大きなアルギネートゲルを作り出すために使用される。或る態様においては、均質なアルギネートゲルは10mmより大きい。拡散法によって形成されたゲルは一般的には1mmより大きな均質なアルギネートゲルとはならない。好ましい態様においては、自己ゲル化性アルギネートゲル形成によって形成された均質なアルギネートゲルは硫酸塩、クエン酸塩、リン酸塩(TSPP:テトラピロリン酸ナトリウム及びポリリン酸塩がアルギネートプリン等々の食品用途で使用される)、乳酸塩、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)及びカプセル化ゲルイオンに使用されるリポソームのような脂質を含まない。
【0047】
自己ゲル化性アルギネートの用途は沢山ある。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは食品用途で使用される。食品用途で特に有用な自己ゲル化性アルギネートはその他の食品成分と一緒に液体/スラリー混合物として調製されそして容器に分配される。容器は、ゲル/食品製品が成形型形状で固体又は半固体を形成するような成形型であることが好ましい。キャンディー、デコレーションケーキ、プリン及びその他の成形形状化された食品製品が製造される。
【0048】
或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは生物医学用途で使用される。生体適合性自己ゲル化性アルギネートは局所的に投与される。生体適合性自己ゲル化性アルギネートは、自己ゲル化性アルギネートが、マトリックスが必要な場所に分散物として分配されるようなインシツ空間にゲルマトリックスを順応させることが望まれる生医学用途で、特に有用である。分散物は窪みや空間を液体/スラリー形態で満たしそして窪みや空間内で固体を形成させる。代わりに、分散物は固定化の前に拡げることができる場所に局所的に分配される。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、固体を型形状に形成し及び/又は組織又は器官移植に有用なカプセル化された細胞をもつマトリックスを形成するための成形型に分配される液体/スラリー混合物を調製することによって特定の形状で調製することができるマトリックスの製造に使用される。
【0049】
制御可能で特にインシツでのゲル形成インプラント用に望まれるアルギネート自己ゲル化系が提供される。人体の内部又は外部に注入又はその他の方法で投与するのに容易に使用できる溶液は固体ゲルマトリックスを形成するために提供される。ゲルイオンが不溶性粒子のゲルネットワーク内に拘束されるようなゲルイオン源をもつ溶媒の存在下で、アルギネートを混合することによって、ゲル形成物質は液体として分配されそして所望のパターン及び時間枠内で固定することができる。その溶液は予め決められた時間で硬化しそしてゲルを形成する。その調合は、pH変動や毒性化合物の存在が遮断されるので、生体適合性がある。生物学的なpHからの大きな変化は必要ない。
【0050】
或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、逆流問題の治療(例えば、尿失禁、腎臓逆流又は食道逆流問題)、良性又は悪性腫瘍の治療のような閉塞術、術後粘着形成処理としての抗−粘着治療、及び創傷治療等々の組織バルク化のような生物医学用途で使用される。最近の技術は、細胞又はその他の生体物質がゲル化系に混合され、それによって細胞又は組織を支える人工的な生体外部細胞マトリックスを作り出すので、人体外又は人体内の組織構造物を含むいくつかの用途で使用される。いくつかの用途においては、生体適合性の固体集合体がタンパク質や薬剤のような活性成分を時間をかけて放出するようにインプラントされる。
【0051】
自己ゲル化性アルギネートは、遠くからアクセス可能な場所に導入できそして他のタイプのインプラントに比較して液体スラリーとして窪み(キャビティー)により完全に順応するように投与できる組織バルク剤として特に有用である。分散物は人体の他の組織又は器官を維持しそして支持するのに十分な量で投与でき、そしてインシツでのゲル形成において他の組織又は器官を維持しそして支持するための構造を作り出すことができる。自己ゲル化性アルギネートは組織バルク剤用途によく適合する成分を含んでいてもよい。例えば、ゲル化剤としてのストロンチウムの使用は細胞の過剰成長及び望ましくない組織形成を阻止するゲルを生じさせる。
【0052】
自己ゲル化性アルギネートは、遠くからアクセス可能に血管に導入できそして液体スラリーとして血管又はその内部により完全に順応するように投与でき、そして他のタイプの縫合のような閉止に比較してより完全にそして効果的にブロックできる血管塞栓術として特に有用である。分散物はインシツでのゲル形成において循環をブロックするのに十分な量で投与できる。自己ゲル化性アルギネートは血管塞栓術用途によく適合させる成分を含む。例えば、その成分は比較的早い硬化と高強度用に選択することができる。血管塞栓術用途に使用される自己ゲル化性アルギネートは、その存在と位置をモニターする対照試薬を含んでいてもよい。
【0053】
自己ゲル化性アルギネートは、露出表面、特に切開部位又はその近傍を完全に覆うための液体スラリーとして外科的処置領域を通じて導入される術後粘着形成処理としての抗−粘着治療において特に有用である。自己ゲル化性アルギネートは抗−粘着治療用途によく適合する成分を含んでいてもよい。例えば、ゲル化剤としてのストロンチウムの使用は細胞の過剰成長及び望ましくない組織形成を阻止するゲルを生じさせる。
【0054】
自己ゲル化性アルギネートは、露出表面を完全に覆うための液体スラリーとして創傷部位を通して導入することのできる創傷治療において特に有用である。さらに、自己ゲル化性アルギネートは、例えば液体スラリーとして創傷部内に投与することができる。分散物は、ゲルのインシツ形成過程でゲルが創傷内部を遮断しそして内出血による血液損失を防ぐように窪み内部を満たすのに十分な量で投与される。自己ゲル化性アルギネートは、創傷治療用途に良く適合する如何なる成分を含んでいてもよい。例えば、血液凝固成分や同様に殺菌剤及び抗生物質の組成物を含んでいてもよい。
【0055】
自己ゲル化性アルギネートは、人体外又は人体内の組織構成物を作り出すのに特に有用である。細胞又はその他の生体物質はゲル系に混合され、それによって細胞又は組織を支持する人工的生体外部細胞マトリックスを作り出す。分散物は、組織/細胞が治療効果を達成するように機能する部位に液体スラリーとして導入することができる。組織構成物の例としては、骨、軟骨、結合組織、筋肉、肝臓、心臓、膵臓及び皮膚を包含する。この例は、糖尿病治療のための細胞を分泌するインシュリンを含む調合、関節の欠陥を修復するための軟骨細胞を含む処方、及びパーキンソン病を治療するための細胞がある。そのような細胞は液体スラリー中に内包させることができそしてゲル形成によってそれらが生体適合性のアルギネートマトリックス内に存在しそして機能する部位に投与される。ゲルもまた宿主免疫系に対して取り込まれた細胞を保護する免疫障壁として使用される。自己ゲル化性アルギネートもまた、ゲルがその意図した使用に適合した形状に形成できる、人体外細胞をカプセル化するために使用される。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、真皮細胞のような細胞をカプセル化し、そして火傷の犠牲者や皮膚移植又は大面積の創傷治癒が必要なその他の人を治療するために使用される人工皮膚を作るために使用される。或る態様においては、自己ゲル化性アルギネートは、細胞をカプセル化しそしてインプラントできるマトリックスを形成するために使用される。
【0056】
糖尿病の治療は、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子と可溶性アルギネート溶液中のインシュリン生成細胞からなる分散物を調製することによってインシュリン生成細胞からなる生体適合性マトリックスを製造し、そして生体適合性のあるマトリックスを形成する分散物を人体の部位に投与することからなる。人体のその部位は窪み又は人体にインプラントされる構造体である。分散物は、人体にインプラントされる生体適合性のあるマトリックスを形成する成形型、構造物又は容器に分配される。マトリックス中の細胞によって作り出されるインシュリンは細胞によって分泌されそしてマトリックスから人体に放出され、糖尿病状態の兆候を軽減するために機能する。或る態様においては、インシュリン生成細胞は膵島細胞である。或る態様においては、インシュリン生成細胞はインシュリンを分泌するために作られる組み換え細胞である。
【0057】
自己ゲル化性アルギネートはインプラント用部材のような被覆した部材を製造するのに有用である。或る態様においては、その部材はステント、心臓ペースメーカー、カテーテル、インプラント用人工器官、手術用スクリュー、手術用ワイヤー、組織バルク用インプラント、食道逆流防止用インプラント、失禁防止用インプラント、腎臓還流物、アルギネートマトリックスで表面外側を被覆するか及び/又はアルギネートマトリックスを内包した細胞維持に好適な容器(例えば固体部材又はマクロカプセル)、胸部用インプラント、顎用インプラント、頬用インプラント、胸筋用インプラント、臀筋用インプラント及び歯科用インプラントからなる群から選ばれる。自己ゲル化性アルギネートを使用した被覆物は形状に拘わらず効果的な被覆物である。ゲルイオンとしてのストロンチウムの使用はインプラントにおける細胞の過剰成長を防止する。
【0058】
自己ゲル化性アルギネートはインプラントできるマトリックスの製造に使用される。そのようなマトリックスは、成形用型に分配され型の形状で固体を形成するような液体/スラリー混合物を調製することによって特定の形状で得ることができる。インプラント用に調製されたマトリックスは生体活性な薬剤及び/又は細胞を含む。ゲルが製造されそして外科的にインプラントされ、局所的に又は外部開口部を介して器官内に投与される。
【0059】
或る態様に従えば、アルギネートゲルを製造するためのキットが提供される。そのキットは可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなる。それぞれの容器は集積された容器系の分離した容器区画であってもよい。
【0060】
或る態様においては、キットは可溶性アルギネートを溶液形態で含む。或る態様においては、キットは溶媒を含む追加の容器を含む。
或る態様においては、キットは粉末形状の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む。或る態様においては、キットは分散物形態の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む。
【0061】
或る態様においては、キットは、可溶性アルギネート溶液又は粉末からなる容器内に含まれる及び/又は不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粉末又は分散物からなる容器に含まれる薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む追加の容器を含む。或る態様においては、キットは薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む。
【0062】
或る態様に従えば、組成物がゲルを調製するために提供される。この組成物は即可溶性アルグネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子からなる。この組成物はさらに薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む。この組成物はキットの成分である。そのようなキットはさらに溶媒の入った容器を含む。
【0063】
キットは好ましくは使用説明書を含む。
或る態様においては、キットは混合部材を含む。混合部材は容器の一部又は容器系として集積されていてもよい。或る態様においては、混合部材は、混合を容易にするために、一つの容器から別の容器へ分散物を通過させるバルブ系を含む。
【0064】
或る態様においては、キットは分配部材を含む。分配部材は、混合部材および/又は分散物を収容するのに適した容器と連携した塗布器であってもよい。或る態様においては、分配部材はカテーテルを含む。或る態様においては、分配部材はシリンジを含む。
以下に、実施例を示す。ここで添付図面についてまとめて説明する。
【0065】
図1はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率は、以下の異なったカルシウム−アルギネート(プロタウエルドTX120)濃度のゲルに対して測定した(混合物/ゲルの濃度):1.0%カルシウム−アルギネートを1.05のナトリウム−アルギネートと混合し、そして1.5%カルシウム−アルギネートを1.0%のナトリウム−アルギネートと混合し、そして2.0%カルシウム−アルギネートを1.0%のナトリウム−アルギネートと混合した。使用したナトリウム−アルギネートはプロタナルSF120であった。
【0066】
図2はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率は以下のゲル濃度で、ナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)及びカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)を等量で混合することによって測定した:0.75%、1.0%、1.25%又は1.5%ナトリウムアルギネート及びカルシウムアルギネート。
【0067】
図3はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率はカルシウムアルギネート(パネルA)及びナトリウムアルギネート(パネルB)の異なった分子量をもつゲルに対して測定した。パネルAのゲルは1%のナトリウムアルギネートと1.5%のカルシウムアルギネートを含み、そしてパネルBのゲルは1%のナトリウムアルギネートと1%のカルシウムアルギネートを含む。パネルAで使用されるアルギネートは:カルシウムアルギネート:プロタウエルドTX120及び60℃で33日間分解させたプロタウエルドTX120である。ナトリウムアルギネートとして測定された二つのカルシウムアルギネートの粘度(20℃で1%溶液)はそれぞれ270mPasと44mPasであった。ナトリウムアルギネート:プロタナールSF120。パネルBで使用されるアルギネートは:カルシウムアルギネート:プロタウエルドTX120である。ナトリウムアルギネート:プロタナールSF120及びプロタナールSF/LFである。ナトリウムアルギネートの粘度(20℃で1%溶液)はそれぞれ95mPasと335mPasであった。
【0068】
図4はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率は、ゲル形成性イオンとしてストロンチウム又はカルシウムで測定した。ナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)及びストロンチウム/カルシウムアルギネートの量はそれぞれゲル中で0.75%となるように調節した。使用したカルシウムアルギネートはアルギン酸(FMCプロセスの生成物)(65.2g)と炭酸カルシウム(35.32g)を実験室規模のニーダーで1.5時間、混練し、それから乾燥し粉砕することによって作った。使用したストロンチウムアルギネートはアルギン酸(FMCプロセスの生成物)(65.2g)と炭酸ストロンチウム(52.10g)を実験室規模のニーダーで1.5時間混練し、それから乾燥し粉砕することによって作った。
【0069】
図5はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数とするゲルの貯蔵弾性率測定は、グルロン酸の高含量及び低含量のナトリウムアルギネートを含むゲルで行った。図5のパネルAにおいては、使用したカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)及びナトリウムアルギネートはそれぞれゲルの1.0%となるように調節した。使用したナトリウムアルギネートはプロタナールSF120(69%G)とプロタナールHF60D(32%G、MW:119,000)である。図5のパネルBにおいては、5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)を1.25%のナトリウムアルギネートと1:4の比で混合した(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。使用したナトリウムアルギネートはプロノバアップ100G(69%G、MW:122,000)及びプロノバアップ100M(46%G、MW:119,000)であった。二つのナトリウムアルギネートバッチのMW(及び粘度)は同一に(できるだけ近く)なるように選ばれた。図5のパネルBのそれぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定の平均値である。
【0070】
図6は異なったカルシウムイオン含量で作られそして生理学的条件下で6ヶ月間貯蔵されたアルギネートゲルの安定性と生理学的分解性を示す。ゲルディスクは加圧蒸気殺菌器に入れられたカルシウムアルギネート分散物(プロタウエルドTX120)と無菌ろ過されたナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG)を混合して、それぞれ最終濃度をアルギネート1.0%としそして二つのペトリ皿中でゲル化させることによって作られた。片方の皿のゲルディスク(Vとマークされた)を50mMの塩化カルシウムでゲル化後10分間洗浄しそして両方の皿にその後細胞培養媒体(10%FBSを追加したDMEM)を添加した。これらの皿を炭酸ガス入り培養器中において無菌条件下で貯蔵し一週間に3回定期的に媒体を交換した。それぞれの皿中における最大のゲルディスクサイズは最初は同じサイズであった。示される写真は6ヶ月後のものである。
【0071】
図7は自己ゲル化性アルギネート中に取り込まれた細胞を使用した実験のデータを示す。図7のパネルAは自己ゲル化性アルギネート中に取り込み45日後のC2C12マウスの筋原細胞を示す。そのゲルは、細胞を含んでいること以外は図6と同様にして作りそして貯蔵した。その写真は、細胞生育のマーカーとしてカルセイン(金属指示薬、分子プローブ、L−3224)で細胞にシミをつけた後に撮影した。光が当たった領域及び部分は生育細胞の存在を示す。生育細胞はゲル構造物の表面上及び内側に位置している。図7のパネルBは自己ゲル化性アルギネート中に取り込まれた人の軟骨細胞を示す。そのゲルは、プロノーバSLG20と人の軟骨細胞を含むカルシウムアルギネートの自己ゲル化性混合物5mlから作られた。ゲル化の3日後、ゲルを振動切断機を使用して600μmの切片に分割した。これらのゲル切片を炭酸ガス入り培養器中において細胞成育媒体中で保存しそして6ヵ月後に写真を撮影した。その写真は、細胞生育のマーカーとしてカルセイン(金属指示薬、分子プローブ、L−3224)で細胞にシミをつけた後に撮影したもので、非常に多くの生育細胞の存在を示している(光が当たった部分)。
【0072】
図8はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率の測定は、塩化ナトリウム又はナトリウムヘキサメタフォスフェートの存在下又は不存在下で、1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合したゲルで行った(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。それぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定(曲線)の平均値である。
【0073】
図9はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率の測定は、1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を異なった粒子サイズで作られた5.5%のカルシウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合したゲルで行った(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。異なった粒子サイズは凍結乾燥したカルシウムアルギネートを粉砕しそして指定されたサイズで振り分けて作った。それぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定(曲線)の平均値である。
【0074】
図10はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。時間を関数としたゲルの貯蔵弾性率の測定は、異なった温度で、1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG)を1.25%のカルシウムアルギネート(実施例14)と9:1の比で混合したゲルで行った(最終のアルギネート濃度は2%であった)。
【0075】
図11はレオメーター測定によるデータである。振動の測定はフィジカMCR300レオメーターを使用して行った。貯蔵弾性率は、異なった分子量のナトリウムアルギネートを含むゲルで時間を関数として測定した。そのゲルは、分解していない(対照)又は分解した同じアルギネートバッチの1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を含む。ゲルは又分解したナトリウムアルギネート2.5%濃度から作られた(上の曲線)。すべてのケースで、ナトリウムアルギネートは5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合した。それぞれの曲線は、それぞれの点で示される平均標準偏差で三つの独立した測定(曲線)の平均値である。
【実施例1】
【0076】
異なったカルシウム濃度でのゲル化
この実験においては、ゲルはナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)の溶液とカルシウムアルギネート分散物(プロタウエルドTX120)を混合して作られた。カルシウムアルギネートの量は変化(ゲル中で1.0%、1.5%又は2.0%)させ、一方ナトリウムアルギネートの量は一定(ゲル中で1.0%)である。時間経過に対する自己ゲル化系の硬化はフィジカMCR300レオメーターを使用して測定した(測定系:PP50、鋸歯状、温度:20℃、隙間:1mm、振動数:1Hz、歪:0.005)。3mlのサンプルをレオメーターに添加する前に、この溶液と分散物を急速に混合し、そして振動テストを18−24時間実施した。図1に示されるように、ゲル強度は最初の1−2時間の時間経過で急速に増加し、その後ゲル強度変化は減少して安定化傾向を示した。データはまた高カルシウム濃度で増加することを示す。
【実施例2】
【0077】
異なったアルギネート濃度でのゲル化
アルギネート自己ゲル化系をナトリウムアルギネート(プロタナールSF120)の溶液とカルシウムアルギネート懸濁物を混合して作りそして測定を実施例1で記載したように実施した。振動測定を18−24時間実施した。ナトリウムアルギネート(プロタナルSF120)とカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)の等量を使用した。ナトリウムアルギネートとカルシウムアルギネートの量は最終ゲル中でそれぞれ0.75%、1%、1.25%及び1.5%となるように調節した(図2)。ゲル化動力学は四つのケース全てで同一のパターンを示した。しかしながら、実施例1のときは、ゲル強度はアルギネート濃度と共に明らかに増加した。
【実施例3】
【0078】
異なった分子量のアルギネートでのゲル化
この実験においては、異なった分子量をもったナトリウム−カルシウムアルギネートのゲル化動力学を比較した(図3)。アルギネート(プロタウエルドTX120)の低いMWのサンプルは数日間温度を上昇させることによって得られた(図3のパネルA)。異なったMWをもつプロタナールSF120とプロタナールSF/LFナトリウムアルギネートもまた比較された(図3のパネルB)。レオロジー的測定は実施例1に記載されたとおりに実施しそしてデータを図3に示す。図に示されるように、ゲル化工程はナトリウムとカルシウムアルギネートの両者共に明らかにアルギネートの分子量に依存している。両者の場合共に、ゲル強度は高分子量アルギネートでより急速に増加しそしてまた高度なレベルに到達した。図3に見られることと同様に、図11はまた、温度を上昇させることで得られたナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG100)の低MWサンプルのゲル化を示す。しかしながら、この場合、ゲル化はストロンチウムアルギネートと混合させることによって開始された。図11に示すように、ゲル化工程は、ゲル強度が高分子量アルギネートのためにより高いレベルに到達するにつれ、明らかにアルギネート分子量に依存している。図11のデータはカルシウムアルギネート又はストロンチウムアルギネートを100%飽和当量使用したものであるが、アルギネート濃度の増加がゲル強度に関してはMWの低下を補償していることを示す。
【実施例4】
【0079】
異なったゲル形成性イオンでのゲル化
この実験においては、カルシウムアルギネート又はストロンチウムアルギネートをナトリウムアルギネート(プロタナルSF120)と混合した。カルシウムアルギネート及びストロンチウムアルギネートはアルギン酸と炭酸カルシウムを混練することによって作られた。レオロジー的測定は実施例1に記載されたとおりに実施しそしてデータを図4に示す。ナトリウムアルギネート及びストロンチウム/カルシウムアルギネートの量はそれぞれゲル中で0.75%に調節された。明らかに、ゲル形成性イオンとしてのストロンチウムの使用は、より強いゲル構造とより速いゲル化動力学を生じさせた。
【実施例5】
【0080】
異なったグルロン酸含量でのゲル化
アルギネート中のグルロン酸含量はアルギネートゲル強度に大きな影響をもつことが知られているので、グルロン酸の異なった含有量でナトリウムアルギネート(プロタナールSF120及びプロタナールHF60D)を使用する効果についてテストした。図5において、パネルAはグルロン酸の高又は低含量でのナトリウムアルギネートを含むゲルに対する時間の関数としての貯蔵弾性率を示す。両曲線において、系は、カルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)の分散物と高含量のグルロン酸とを混合させることによってゲル化させた。使用したナトリウムアルギネートとカルシウムアルギネートの量はゲル中でそれぞれ1%となるように調節した。測定は実施例1に記載の通りとした。両方のケースで、高含量のグルロン酸とカルシウムアルギネートが使用されたにも拘らず、高含量のグルロン酸とナトリウムアルギネートの使用は明らかに系のゲル強度を増加させた。図5のパネルBにおいては、ストロンチウムアルギネート(実施例14で高含量のグルロン酸で作られたFMC生成物)をまたグルロン酸の高又は低含量でナトリウムアルギネートと混合した。使用したナトリウムアルギネートはプロノバアップ100G(69%G、MW:122000)及びプロノバアップ100M(46%G、MW:119000)であった。二つのナトリウムアルギネートバッチのMW(及び粘度)は同一に(できるだけ近く)なるように選ばれた。データが明白に示すように、またストロンチウムアルギネートをゲル形成性イオン源として使用するときは、ナトリウムアルギネートと高含量のグルロン酸の使用は、ナトリウムアルギネートと低含量のグルロン酸に比較してゲル強度を増加させた。
【実施例6】
【0081】
生理的条件下での異なったカルシウム含量で作られたゲルの安定性
この実施例においては、異なったカルシウムイオン含量で作られたアルギネートゲルの安定性と生分解性を観察した(図6)。ゲルディスクはオートクレーブで無菌化されたカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)と無菌化ろ過されたナトリウムアルギネート(プロノバアップLVG)をそれぞれ1.0%と0.7%の最終濃度になるように混合した。分散物は二つのペトリ皿でゲル化させた。片方の皿のゲルディスク(Vとマークされた)を50mMの塩化カルシウムでゲル化後10分間洗浄しそして両方の皿にその後、細胞培養媒体(10%FBSを追加したDMEM)を添加した。これらの皿中の媒体を一週間に3回定期的に新鮮な媒体と交換しそして皿を炭酸ガス入り培養器中において無菌条件下で37℃で貯蔵した。それぞれの皿中における最大のゲルディスクサイズは最初は同じサイズであった。6ヶ月後、図6に示されるように追加のカルシウムで洗浄していないゲルは大部分が消失しているが、一方、追加のカルシウムで洗浄したディスクは時間の経過でサイズに変化がないか又はわずかのままであった。これは、限定されたカルシウム含量で作られたアルギネートゲルは生理的条件下で強度に分解していることを明確に示している。
【実施例7】
【0082】
細胞の取り込み
アルギネートミクロビーズ中への細胞のカプセル化は最近、生物医学用途の発達により広範に使用されている技術である。アルギネートビーズは治療物質用に“バイオ工場”として使用される。アルギネートゲルは酸素やグルコースのような必須栄養素の流入と所望の治療用分子と廃棄物の排出を可能にする。膵島細胞のような敏感な細胞を使用することによって、“バイオ工場”は宿主に応答する。しかしながら、ゲルネットワークは、人体によその細胞をインプラントするときに非常に危機的になる宿主の免疫系から取り込まれた細胞を保護する必要がある。しかしながら、細胞はミクロビーズよりも他のアルギネート構造中にうまく取り込まれることが示されてきた。
【0083】
我々の自己ゲル化性アルギネートマトリックス中に取り込まれた細胞上のゲルの効果もまた示されている(図7)。実験(図7のパネルA)においては、C2C12マウスの筋原細胞は、加圧殺菌されたカルシウムアルギネート(プロタウエルドTX120)と混合する前にプロノバアップMVGアルギネート溶液と混合された。細胞と0.7%のナトリウムアルギネートと1.0%のカルシウムアルギネートを含む混合物をペトリ皿に注入しディスクとして成形した。数分後、ゲルの分解を防ぐためにゲルを50mMの塩化カルシウムで10分間洗浄し(実施例6参照)そしてその後、ゲルに細胞培養媒体(10%FBSを追加したDMEM)を添加した。アルギネートゲル/細胞培養物は炭酸ガス入り培養器中において無菌条件下で37℃で貯蔵しそしてその後は媒体を週に3回定期的に交換した。45日後、培養物中にカルセインの染みを付けた顕微鏡観察で生育細胞の存在が認められた。生育細胞を検知するのには蛍光顕微鏡が使用された。
【0084】
図7のパネルAに示される写真はゲルの外側及び内側の生育細胞の存在を示す。ゲルの異なった部分で顕微鏡の焦点が異なるため、写真では明瞭度が場所により異なる。写真の多くの部分を占める光が当たった領域及び部分はゲル表面に入りそこで繁殖した生育細胞を示している。ゲル表面のこの部分は単層として成長している細胞で完全に覆われている。ゲル表面上のいくつかの細胞は、しかしながら、また他の領域中にも存在している。
【0085】
別の実験(図7のパネルB)においては、人の軟骨細胞はアルギネートゲル中に取り込まれている。この場合、そのゲルはプロノーバSLG20(高いグルロン酸含量をもつ低粘度の凍結された無菌のアルギネート)と人の軟骨細胞を含むカルシウムアルギネート(FMCプロセスの生成物、実施例14)の自己ゲル化性混合物5mlから作られた。ゲル化の3日後、ゲルを振動切断機を使用して600μmの切片に分割した。これらのゲル切片を炭酸ガス入り培養器中において細胞成育媒体中で保存しそして6ヵ月後に写真を撮影した。その写真は、細胞生育のインジケーターとしてカルセインで細胞にシミをつけた後に蛍光顕微鏡で撮影した。その写真は明らかに非常に多くの生育細胞の存在を示している。アルギネートゲルネットワークはそれゆえに長い時間細胞を支持する良好なマトリックスでなければならない。結論として、そのデータは、ゲルが細胞及び細胞生育のための生体適合性マトリックスであることを明白に示している。
【0086】
人の軟骨細胞を含む、異なったアルギネート系のサンプルも又調製された。この場合、高分子量アルギネートは、低いゲル形成性イオン及びアルギネート濃度でゲル強度を維持するために選択された。これらはプロノーバG及びプロノーバSLM100(高い及び低いグルロン酸含量をそれぞれもつ低粘度の凍結された無菌のアルギネート)であった。軟骨細胞は細胞媒体中の約2%のアルギネート溶液中に混合した。アルギネート/細胞懸濁物はさらに使用する前に空気の気泡を放出させるためにそれから1時間半保持した。細胞懸濁物は不溶性カルシウム又はナトリウム無菌性アルギネート(実施例14で高含量のグルロン酸で作られたFMC生成物で、バイアル瓶中に5mlの10%アルギネート分散物、合計で0.5mgのアルギネートを含む)と混合した。不溶性アルギネートの各バイアル瓶は攪拌用のマグネットを含みそして解封後は同じ日のうちに使用した。不溶性生成物は又粉砕しそして粒子サイズを調節するために篩い分けそしてグルロン酸を高又は低含量で含むストロンチウム及びカルシウムアルギネートとして製造された。アルギネート/細胞懸濁物と不溶性アルギネート分散物の混合は少容量の小さなテスト用チューブで行った。所望の量がバイアル瓶から取り出されるときは、不溶性アルギネート分散物はマグネット攪拌下に保持した。異なったサンプルを下記の表に記載されたように混合した。
【0087】
細胞を含むゲル形成系(カッコ内はスタート時の濃度)
グループ アルギネート溶液 イオン源アルギネート 混合
1 1.6%プロノーバSLG100(2.0%) 2.0%ストロンチウム高G(10%) 4:1
2 1.6%プロノーバSLG100(2.0%) 2.0%カルシウム高G(10%) 4:1
3 1.6%プロノーバSLM100(2.0%) 2.0%ストロンチウム高G(10%) 4:1
4 1.6%プロノーバSLG100(2.0%) 2.0%ストロンチウム高M(10%) 4:1
【0088】
混合物の数分間の初期ゲル化後に、小さなゲル片を炭酸ガス入り培養器中の細胞培養媒体中で貯蔵しそして一週間後に細胞生育度をカルセイン染み(記述のとおり)を用いてチェックした。この研究においては、全てのアルギネートゲル/細胞サンプルにおいて良好な細胞生育度が観察された。これに代わり、アルギネートゲル/軟骨細胞サンプルもインシツで調製した。用途によって、異なった自己ゲル化処方がそれぞれの特定の使用法に対して適用された。ゲルは直接細胞を含むが、またミクロビーズ又は細胞を含むその他の生物構造体を含んでいてもよい。その調合はゲル化が完結する前に注入されるが、しかしゲルはまたインプラントする前に完全に又は部分的に人体外で硬化する。さらに、ゲルは、ゲル内で細胞増殖させるか、又はさせないために、環境に適合させるために又は免疫保護を与えるために、より強く又はあまり強くなく又は多孔質に作られる。またゲル構造は低カルシウム含量(実施例6及び図6に示されるように)、低分子量アルギネート又は低アルギネート濃度を使用することによってより大きな又は小さな生分解性となるように製造される。ゲルは又物性改良のために、ヒアルロン酸塩又はキトサンのような他のバイオポリマーを混合してもよい。ゲルは又追加のカルシウムを好適な浸漬又はスプレー手段で構造体に適用することによってさらに強化してもよい。
【実施例8】
【0089】
徐放(controlled release)系
薬剤やその他治療用分子の放出の場合に徐放系のアルギネートの有用性が強調されてきた。ここで強調されている調合のタイプもまた同様に使用されてきたし、異なった処方においても利点がある。一つの例は、治療期間を制限するために低濃度のゲル形成性イオンを使用することによる生分解性ゲルの使用である。癌患者の治療においては、薬剤や放射性元素を含む空間充填ゲルが疾患の慢性化を防ぐために手術過程で適用される。活性物質が放出され放射性が減衰した後で、ゲルが溶解しそして人体から排出されることが望ましい。自己ゲル化性徐放処方は勿論又直接に外科手術なしで人体に注入されてもよいし、そしてまたゲル/アルギネート溶液は口腔投与で使用されてもよい。口腔投与の場合、アルグネートは最近、抗−逆流療法としての処方でよく知られている。それゆえに、アルギネート自己ゲル化性処方は同様な用途を見出すかもしれない。
【実施例9】
【0090】
組織工学用途
ここで提示されたように、アルギネート内への細胞の取り込みは、種々の疾患をもつ患者の治療のために活性物質を与えるインプラント可能な“バイオ工場”を生み出すために使用される。しかしながら、アルギネート内への細胞の取り込みはまた組織工学用途で使用されてもよい。組織工学の場合、三次元構造物内又は上で細胞成長が必要でそしてそれ故にそのような用途向けの良好な生体材料が必要となる。架橋イオンの時間を遅延した徐放はゲル化アルギネート懸濁物をゲル化が起こる前に複雑な幾何形状に成形する。人体外条件下ではそのようなアルギネート構造物は組織又は人工器官の発達における成長物質として使用される。細胞はアルギネートゲルビーズの表面上でゲル表面として成長し細胞の成長物質となる。アルギネートゲル上での細胞の成長はアルギネート及び使用されるゲル形成性イオンに依存することが見出された。本発明の自己ゲル化形成物は、アルギネートシート表面又はその他の形状のゲル構造物表面内又は表面上で成長する細胞の多層を作り出すために使用される。さらに、アルギネートゲルはクエン酸塩、リン酸塩又はその他のゲル形成性イオンキレート剤での処理で後になってから徐去される。これは組織や器官構造物内のいくつかの細胞層と結合する可能性を与える。ゲル構造物表面内又は表面上の細胞のいくつかのタイプは構造物の成長に望ましいなら合体させてもよい。
【0091】
神経の再生は組織工学でのアルギネートの使用の興味深い例である。自己ゲル化性アルギネートの人工的神経導管の充填は神経再成長への生体適合性を改良して構造物を作り出すのに適している。この系は他の系に比較してより良好な柔軟性及び成形プロセス及び構造物性のより良好な制御性を与える。
【0092】
注入可能なアルギネート/細胞懸濁系は又外科的処置なしで欠陥のある又は損傷を受けた組織部分に投与される。そのような用途の場合、ゲル化する前に材料の形状化に要する或る作業時間をもつことが必要である。しかしながら、ゲル化速度はまたゲル/溶液を投与する際の長すぎる待ち時間又は問題点を避けることができるように妥当な程度に早いことが要求される。自己ゲル化系はここで示されるようにそして既に述べたように異なったゲル化時間−曲線及び異なった強度と安定性をもつように適用される。この変化はそれゆえに注入手順のそれぞれのタイプに適合して使用される。例としては、軟骨欠陥の修復は自己ゲル化性アルギネート構造物の使用の可能性を保持している。アルギネートは軟骨組織工学に使用される有用な生体材料であることが見出されてきておりそしてアルギネートは骨の発生を刺激することが見出されてきた。それゆえに、自己ゲル化性アルギネート溶液は軟骨細胞又は他の細胞の有る無しに拘わらず直接に関節欠陥の治療に注入される。関節炎の患者は今日では既に“結合流体治療”で治療されておりそして市場では二つの製品、ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアルガン)及びヒランG−F20(シンビスク)が有り、それらはヒアルロン酸、結合流体に粘度を与える物質を補充することによる潤滑剤として作用すると思われる。痛みの緩和は或る人々にとっては6から13ヶ月の長さで継続する。治療は、人々にとっては、膝の関節炎を和らげるのにマイルドであることが最も効果的であることが証明されてきた。しかしながら、ヒアルロン酸は、生分解性の少ないアルギネートのような他のバイオポリマーの使用によって人体内で分解することが知られているので良好な生体適合性は利点を提供することになる。
【0093】
アルギネートヒドロゲルは、スポンジ状又は繊維状のような生体適合性の有る構造物を作り出すために、凍結乾燥されるか又はその他の方法で水を部分的又は完全に除去される。本明細書で示す技術の使用、自己ゲル化性アルギネート系はまた、組織工学又はその他の用途に有用な生体適合性のスポンジ又はその他の構造物を製造する工程で使用される。
【0094】
自己ゲル化性アルギネートの処方はステント又は移植片(グラフト)又はその他のインプラント用部材の被覆で使用される。アルギネートの処方のタイプにより、被覆層は生分解性が高く又は低くそして宿主細胞の成長又は部材に添加される細胞の成長をより強く又は低くサポートするように作られる。
【実施例10】
【0095】
組織バルク剤
アルギネートは、膀胱尿失禁の治療のためのバルク剤を与えるために、尿道括約筋近くの粘膜下組織に投与されそしてその手順は既に診療所で実施されている。別の例では、胃−食道逆流症の治療の補助として食道と胃の間の結合部にアルギネート調合物を投与する。アルギネートの高度の適用性は、化粧品分野において魅力的な他の材料の代替物として注入可能な溶液の使用を可能にさせている。
【0096】
自己ゲル化性アルギネートに基づく処方は、予め決められた容量を満たすために予め決められた硬化時間で注入可能な溶液又はペーストを作り出すために使用される。既述のように、ゲル処方は、バルク形成物に所望の性質を与える生分解性のものに、又は生分解性がないものに作られてもよい。
【実施例11】
【0097】
血管塞栓術
動脈塞栓の形成方法は動静脈異常、動脈瘤、腫瘍に供給される過剰血液、大量出血のコントロール、及び症状を緩和させるために塞栓術が必要とされるその他の症状のような症状を治療するために使用される。いくつかの塞栓術システムは、血液やその他の体液と触れたときに固化又は沈殿し始めるポリマー溶液の使用を包含する。そのようなシステムは、しかしながら、固体ポリマーの形成又は沈殿を引き起こすのに時間遅れが必要なために、人体の望ましくない部分への泳動の問題に悩まされている。これらのポリマー溶液系の泳動は、溶液が血管系のような“高流速”領域に注入されるときに特に問題となる。ポリマー溶液系から形成される繊維もまた、うまく塞栓されない、過剰にもろい、又は生体適合性でない、のようなその他の問題に悩まされている。PVA(ポリビニルアルコール)の粒子又はビーズ又はゼラチンビーズの使用は塞栓術に有用であることが見出されてきておりそして最近では診療所で使用されている。
【0098】
アルギネートベースの調合はまた塞栓術処置での使用も提案されてきた。動脈閉塞は、カルシウムアルギネート(アルギン酸カルシウム)を使用して、閉塞をターゲットにした血管系内の或る部分で出会いそして重合するように、アルギネート液体と塩化カルシウム溶液の注入を制御することによって軽減化される。そのような系に比較して、本明細書の自己ゲル化性アルギネート処方は優位性をもっている。治療は単一の注入で実施されそして自己硬化性調合物の強度は系のより良好な制御で調節される。特定的には、自己ゲル化性アルギネート処方は、ゲル化前の時間及び生分解性が制御される必要があるときに有用である。
【実施例12】
【0099】
抗−粘着性調合物
粘着形成は外科手術、外傷性疾患、伝染病等々に帰する。粘着はしばしば腹部手術後に起こりそして腸内妨害、不妊症、及び痛みを生ずる主要な医療的問題を起こす。粘着を防止する又は軽減させるための努力は多くの場合不成功に終わっているが;しかしながら、異なったバイオポリマーを使用する最近開発された機械的障壁は粘着防止において驚異的な医療的進歩を遂げてきた。
【0100】
アルギネートベースの調合物はまたここで示した自己ゲル化性アルギネート系を使用することによって調合される。溶液/ゲルの調合は使用前にすばやく予備混合しそして好適な生分解性で作られる。その種の調合はまたその他のポリマー、薬剤又は補助的化合物を含んでいてもよい。追加のポリマーはゲルの性質を改良するために、とりわけゲル構造体と組織との間の粘着性を増加させるために使用される。
【実施例13】
【0101】
創傷治療調合物
アルギネート包帯はにじみ出る創傷の治療に使用される。創傷治療のための最近のアルギネート製品は柔らかい、不織繊維又はパッドから構成されている。アルギネートは多くの場合それ自身の重量を吸収しそして創傷内にゲルを形成して空間を埋めそして湿潤な環境を維持することができる。アルギネートが未知のメカニズムで創傷治療に影響を及ぼすことが暗示されてきたし、そしてアルギネート創傷用包帯内に存在するカルシウムは細胞への影響によって創傷治療に影響を及ぼすことが仮定されてきた。
【0102】
自己ゲル化性アルギネート構造物は治癒過程で組織表面の三次元構造体を形成することができる。とりわけ、より制御性があり規定されたカルシウム含量をもつ調合物が達成され、同様に再吸収度の高い構造物を達成可能にしている。
【実施例14】
【0103】
不溶性カルシウムアルギネートの製造
カルシウムアルギネートを超高純度の(エンドトキン含有量の少ない)市販アルギネートを使用して調製した。さらに、カルシウム含有量は化学当量であった。約130,000の分子量、約150mPas(1%溶液、20℃)、64%のグルロン酸塩、及び260EU/gのエンドトキシン含量をもつプロノーバアップナトリウムアルギネートの60g(バッチFP−008−04)を5リットルの精製水中に溶解させた。炭酸ナトリウム26gを添加した。塩化カルシウム無水物の165gを先ず500mlの精製水中に溶解させそしてpHを硝酸で中性に調節した。連続攪拌しながら、アルギネート溶液を塩化カルシウム溶液に注意深く添加した。沈殿したカルシウムアルギネートをそれから電気伝導度が精製水のそれと同レベルとなるまで精製水で4−8回洗浄した。洗浄したカルシウムアルギネートをそれから真空下で乾燥しそして引き続き粉砕した。塩化カルシウムの代わりにストロンチウム塩を使用して同様な方法で不溶性ストロンチウムアルギネートを調製した。得られた不溶性アルギネートは、ゲル化系で使用したときに他の方法で調製された不溶性アルギネートを使用して製造されたものよりも大きな均質性を再現できるゲルを生み出すように制御されたカルシウム又はストロンチウム当量又は亜当量をもっていた。
【実施例15】
【0104】
他のイオン及びカルシウム結合剤の存在下でのゲル化
実験においては、前に記載した(実施例1)ように振動測定を行った。貯蔵弾性率は時間を関数として1.25%のナトリウムアルギネート(プロノバアップ100G)を5.5%のストロンチウムアルギネート(実施例14)と4:1の比で混合したゲルで測定した(最終のアルギネート濃度は2.1%であった)。ゲルの発達は、塩化ナトリウム又はナトリウムヘキサホスフェートの存在又は不存在下で測定した(図8)。塩化ナトリウムの二つの異なった濃度についてテストしたところデータはナトリウムイオン濃度が上昇するときにゲル化速度が上昇することを明らかに示している。ナトリウムヘキサホスフェートのようなカルシウム結合剤の存在もまた明らかにゲル化動力学を変化させそして最終のゲル強度を低下させた。データはこのようにナトリウムヘキサホスフェートのようなナトリウム又はカルシウムの錯体化合物のような非ゲル形成性イオンの存在はゲル化動力学及びゲルの最終物性を変化させるために使用してもよいことを示している。
【実施例16】
【0105】
異なったサイズのカルシウムアルギネート粒子でのゲル化
不溶性アルギネートの製造プロセス過程で、最終生成物の粒子サイズはコントロールされる。この実施例では、異なった粒子サイズに分離するために粉砕しそして篩い分けしたカルシウムアルギネートを1バッチ作った。他の条件は同じにして異なったストロンチウムアルギネート粒子でゲル化させた場合はゲル化プロセス及びゲルの最終物性には大きな差があった(図9)。ゲル化はより小さな粒子サイズで速くなるが、合計のゲル化時間は大きな粒子サイズではかなり長くなりそしてまた非常に高い強度のゲルを与えた。しかしながら、より小さな粒子サイズの場合、ゲル化速度が非常に速い(特に25μmより小さな粒子の場合)ので、二つの成分の混合過程で恐らくゲルの幾分かの分解が起こることに注意すべきである。この結果はそれゆえに又最終のゲル強度に幾分かの差異があることに寄与している。それにも拘らず、結論的には、我々のデータは粒子サイズを考慮する必要があることそして所望の物性を得るために積極的に利用できることを示している。
【実施例17】
【0106】
異なった温度でのゲル化
我々は又、温度の調節がゲル化系の硬化を積極的にコントロールするのに使用できるかどうかをテストした。図10においては、異なった温度でのカルシウムアルギネートとナトリウムアルギネートの混合物に対するレオロジー的なデータを示す。明らかに、ゲル化速度は室温に比べて10℃では低下しそしてまた37℃では上昇した。データはこのように温度がゲル化動力学をコントロールするために積極的に使用できることを示している。とりわけ、温度の低下によって、体内投与の前にもっと時間をかけたゲルの調製と取り扱いを可能にする点で積極的に利用することができる。
【実施例18】
【0107】
不飽和のカルシウム又はストロンチウムアルギネート粒子を用いたゲル化
カルシウムアルギネート及びストロンチウムアルギネートは、飽和していない(100%以下の飽和度)ゲル形成性イオンを用い当量で調製された。そのような粒子は水を含む溶液と接触すると非常に急速に再水和する飽和粒子と対比される。不飽和粒子はそれ故にゲル粒子(非−固体ゲル)を含む即席のゲル構造を形成するために使用できる。ゲル構造は弱いのであるが、長い時間経過で容易に形状化する。細胞又はその他の物質は粉末と混合する前に水を含む溶液中にそれらを単純に添加することによってゲル構造物中に容易に混合することができる。他の粒子又は材料もまた、水を含む溶液を添加する前に不飽和粒子と予備混合させることによってゲル構造物中に混合することができる。この一つの例は、水を含む溶液を添加する前に、乾燥ナトリウムアルギネート、飽和した不溶性アルギネート及び飽和していない可溶性アルギネートを予備混合することである。水と接触すると、前述のこの混合物は即席の水吸収性ゲル構造体を与えるが、しかしながら、ゲル中の溶解性アルギネートと不溶性飽和アルギネートの粒子は次第に水和しゲルが溶解し始めるので、ゲル強度は時間と共にさらに上昇する。ここで述べた処方、不飽和の不溶性アルギネートの水吸収性を利用することはこのように細胞又はその他の物質との組み合わせにもまた使用されそして組織工学及びその他の用途にも非常に有用である。
【実施例19】
【0108】
炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、化学当量のカルシウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−008−04(64%グルロン酸含量、130,000g/モルの分子量、146mPasの20℃で1%溶液の粘度、400EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。15gの炭酸ナトリウムを添加した。139gのCaCl2・2H2Oを12mlの硝酸(65%)を添加した300mlの精製水に溶解させた塩化カルシウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は55mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.08mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥した。
【実施例20】
【0109】
FP−411−04、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、不足(亜)化学当量のカルシウム(50%飽和)、G−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
25gのプロノーバアップLVG(実施例19で記載したもの)を精製水1.5リットルに溶解させた。必要なカルシウムの量を計算すると、25gのアルギネートは0.146モルのアルギネートを表す(171g/モルの分子量を使用する)。使用したアルギネート、プロノーバアップLVGバッチFP−411−04は64%のグルロン酸含量をもち、それは0.093モルのカルシウム結合サイトを生ずる(0.146モルのアルギネートx64%のグルロン酸モノマー)。カルシウムで50%置換するためには、0.0465モル(0.093/2=0.0465モル)のカルシウムを必要とする。0.0465モルのカルシウム塩は二水和物の6.84g(0.0465モルx147.02g/モル(CaCl2・2H2O)=6.84gのCaCl2・2H2O)と計算される。6.84gのCaCl2・2H2Oを150mlの精製水と6mlの硝酸(65%)中に溶解させる。7.5gの炭酸カルシウムをアルギネート溶液に添加する。細かな沈殿が生じる。この溶液の電気伝導度は8mS/cmと測定される。沈殿物を電気伝導度が0.4mS/cmとなるまで精製水で6回洗浄する。沈殿物を真空乾燥する。
【実施例21】
【0110】
FP−411−05、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、化学当量のストロンチウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むストロンチウムアルギネートの製造
47gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−008−04(64%グルロン酸含量、130,000g/モルの分子量、146mPasの20℃で1%溶液の粘度、400EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。15gの炭酸ナトリウムを添加した。252gのSrCl2・6H2Oを2mlの硝酸(65%)を添加した300mlの精製水に溶解させたストロンチウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は78mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.0159mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥した。
【実施例22】
【0111】
FP−411−06、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用した、不足(亜)化学当量のストロンチウム(50%飽和)、G−の多いアルギネートを含むストロンチウムアルギネートの製造
23.3gのプロノーバアップLVG(実施例19で記載したもの)を精製水1.5リットルに溶解させた。必要なカルシウムの量を計算すると、23.3gのアルギネートは0.136モルのアルギネートを表す(171g/モルの分子量を使用する)。使用したアルギネート、プロノーバアップLVGバッチFP−411−04は64%のグルロン酸含量をもち、それは0.087モルのカルシウム結合サイトを生ずる(0.136モルのアルギネートx64%のグルロン酸モノマー)。ストロンチウムで50%置換するためには、0.0435モル(0.087/2=0.0435モル)のストロンチウムを必要とする。0.0435モルのストロンチウム塩は六水和物の11.6g(0.0435モルx266.62g/モル(SrCl2・6H2O)=11.6gのSrCl2・6H2O)と計算される。11.6gのSrCl2・6H2Oを150mlの精製水と6mlの硝酸(65%)中に溶解させる。7.5gの炭酸カルシウムをアルギネート溶液に添加する。細かな沈殿が生じる。この溶液の電気伝導度は22mS/cmと測定される。沈殿物を電気伝導度が0.6mS/cmとなるまで精製水で3回洗浄する。沈殿物を真空乾燥する。
【実施例23】
【0112】
FP−506−03、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のストロンチウム(100%飽和)、M−の多いアルギネートを含むストロンチムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVMナトリウムアルギネート、バッチFP−408−01(44%グルロン酸含量、220,000g/モルの分子量、127mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。400mlの精製水に252gのSrCl2・6H2Oを溶解させたストロンチウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は43mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.143mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例24】
【0113】
FP−505−05、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のストロンチウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むストロンチムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−408−02(69%グルロン酸含量、219,000g/モルの分子量、138mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。400mlの精製水に252gのSrCl2・6H2Oを溶解させたストロンチウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は40mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.1mS/cmとなるまで精製水で7回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例25】
【0114】
FP−505−02、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のカルシウム(100%飽和)、M−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVMナトリウムアルギネート、バッチFP−408−01(44%グルロン酸含量、220,000g/モルの分子量、127mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水3リットルに溶解させた。300mlの精製水に137gのCaCl2・2H2Oを溶解させたカルシウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は45mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.0129mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例26】
【0115】
FP−504−02、炭酸ナトリウム及び硝酸を使用しない、化学当量のカルシウム(100%飽和)、G−の多いアルギネートを含むカルシウムアルギネートの製造
50gのプロノーバアップLVGナトリウムアルギネート、バッチFP−408−01(69%グルロン酸含量、219,000g/モルの分子量、138mPasの20℃で1%溶液の粘度、<25EU/gのエンドトキシン含量)を精製水5リットルに溶解させた。500mlの精製水に231gのCaCl2・2H2Oを溶解させたカルシウム溶液を添加した。細かな沈殿が生じた。この溶液の電気伝導度は43mS/cmと測定された。沈殿物を電気伝導度が0.0068mS/cmとなるまで精製水で8回洗浄した。沈殿物を真空乾燥し、粉砕しそして分別した。
【実施例27】
【0116】
カルシウム及びストロンチウム含量の化学当量を変化させ、同様に使用されるアルギネートの種類(グルロン酸塩の多い(G)又はマンヌロンサン塩の多い(M))を変化させて製造した生成物の更なる例を添付の表に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【特許文献2】US6,121,441
【特許文献3】US6,407,226
【特許文献4】US6,642,363
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、組織バルク剤としての使用、血管塞栓手術での使用、術後粘着形成を防ぐための使用、創傷治療での使用、糖尿病治療での使用及び関節炎の治療、膵島、又は他の細胞集合体又は組織の生育の改良及びインプラント用途等の医療分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図2】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図3】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図4】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図5】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図6】異なったカルシウムイオン含量で作られそして生理学的条件下で6ヶ月間貯蔵されたアルギネートゲルの安定性と生理学的分解性を示す写真。
【図7】自己ゲル化性アルギネート中に取り込まれた細胞を使用した実験のデータを示す写真。
【図8】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図9】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図10】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【図11】レオメーター測定によるデータを示すグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなるアルギネートゲル製造用キット。
【請求項2】
さらに混合部材及び/又は分配部材を含む請求項1記載のキット。
【請求項3】
混合部材がT−コネクターである請求項2記載のキット。
【請求項4】
溶媒を含む追加の容器をさらに含む請求項1記載のキット。
【請求項5】
さらに、薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む請求項1記載のキット。
【請求項6】
不溶性アルギネートに比べて可溶性アルギネートが過剰に存在する請求項1記載のキット。
【請求項7】
可溶性アルギネート/不溶性アルギネートの濃度比が5:1から1:5である請求項1記載のキット。
【請求項8】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子サイズが、<25μm、25−45μm、75−125μm及び>125μmからなる群から選ばれる請求項1記載のキット。
【請求項9】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが高G含量のアルギネートを含む請求項1記載のキット。
【請求項10】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが約5−350kDの分子量をもつ請求項1記載のキット。
【請求項11】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが<25EU/gのレベルのエンドトキシンを含む請求項1記載のキット。
【請求項12】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが無菌性である請求項1記載のキット。
【請求項13】
可溶性アルギネートがNa−アルギネート、K−アルギネート、PEG−アルギネート又はNH4−アルギネートの一つ以上を含む請求項1記載のキット。
【請求項14】
不溶性アルギネートがカルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、マンガン、鉛、コバルト又はニッケルの一つ以上を含む請求項1記載のキット。
【請求項15】
即可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含むゲル製造用組成物。
【請求項16】
さらに、薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む請求項15記載の組成物。
【請求項17】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが高G含量のアルギネートを含む請求項15記載の組成物。
【請求項18】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが約5−350kDの分子量をもつ請求項15記載の組成物。
【請求項19】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが<25EU/gのレベルのエンドトキシンを含む請求項15記載の組成物。
【請求項20】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが無菌性である請求項15記載の組成物。
【請求項21】
可溶性アルギネートがNa−アルギネート、K−アルギネート、PEG−アルギネート又はNH4−アルギネートの一つ以上を含む請求項15記載の組成物。
【請求項22】
不溶性アルギネートがカルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、マンガン、鉛、コバルト又はニッケルの一つ以上を含む請求項15記載の組成物。
【請求項23】
不溶性アルギネートに比べて可溶性アルギネートが過剰に存在する請求項15記載の組成物。
【請求項24】
可溶性アルギネート/不溶性アルギネートの濃度比が5:1から1:5である請求項15記載の組成物。
【請求項25】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子サイズが、<25μm、25−45μm、75−125μm及び>125μmからなる群から選ばれる請求項15記載の組成物。
【請求項26】
a)i)可溶性アルギネートと不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む溶液を混合するか又はii)即可溶性アルギネート、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子及び溶媒を混合することによって分散物を形成させ、そしてb)分散物を形成してアルギネートゲルマトリックスを形成させることを特徴とする自己ゲル化性アルギネート分散物の分配方法。
【請求項27】
分散物の分配が人体内への投与である請求項26記載の方法からなる自己ゲル化性アルギネート分散物の分配方法。
【請求項28】
請求項27記載の方法に従って人体内に自己ゲル化性アルギネート分散物を分配することからなる、組織バルク剤としてアルギネートを使用する方法。
【請求項29】
ゲル形成性アルギネート分散物を人体の尿道括約筋に近い粘膜下組織内に投与して、アルギネートゲルを尿失禁治療用の組織バルク剤として使用するか、又は該ゲル形成性アルギネート分散物を人体の食道と胃の間の結合部に投与して、アルギネートゲルを胃食道逆流症治療用の組織バルク剤として使用する請求項28記載の方法。
【請求項30】
自己ゲル化性アルギネート分散物を請求項27の記載に従って人体に投与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の人体の血管への投与であることを特徴とする人体の血管塞栓手術での自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項31】
血管塞栓手術が良性又は悪性腫瘍の治療で実施されると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が、腫瘍に血液を送っている人体の血管への投与であることを特徴とする請求項30記載の方法。
【請求項32】
請求項27の記載に従って、自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内に供与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が人体の手術部位への投与であることを特徴とする術後粘着形成を防ぐための自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項33】
請求項27の記載に従って、自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内に投与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が人体の創傷部位への投与であることを特徴とする人体の創傷治療における自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項34】
請求項26の記載に従って、自己ゲル化性アルギネート分散物を投与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が人体の皮膚の創傷部位への投与であることを特徴とする人体の皮膚の創傷治療における自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項35】
請求項26の記載に従って自己ゲル化性アルギネート分散物を分配して自己ゲル化性アルギネートを形成させ、引き続きインプラント形成性アルギネートを人体に植え込むゲル形成を行うことを特徴とするインプラント用アルギネートゲルの使用方法。
【請求項36】
請求項26の記載に従って自己ゲル化性アルギネート分散物をインプラント部材上に分配することを特徴とするインプラント用部材の製造方法。
【請求項37】
該分散物がさらに、薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬からなる群から選ばれる一つ以上の成分を含む請求項26記載の方法。
【請求項38】
5mm以上の厚みと均質なアルギネートマトリックスネットワークをもつアルギネートゲル。
【請求項39】
該アルギネートゲルが10mm以上の厚みをもつ請求項38記載のアルギネートゲル。
【請求項40】
該ゲルが硫酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、乳酸塩、EDTA又は脂質を含む請求項38記載のアルギネートゲル。
【請求項41】
5mm以上の厚みをもちそして硫酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、乳酸塩、EDTA又は脂質を含まないアルギネートゲル。
【請求項42】
該アルギネートゲルが10mm以上の厚みをもつ請求項41記載のアルギネートゲル。
【請求項43】
均質なアルギネートゲル被覆をもつインプラント部材。
【請求項44】
インプラント部材が、心臓ペースメーカー、カテーテル、インプラント用人工器官、手術用スクリュー、手術用ワイヤー、組織バルク用インプラント、食道逆流防止用インプラント、失禁防止用インプラント、腎臓還流物、アルギネートマトリックスで表面外側を被覆するか及び/又はアルギネートマトリックスを内包した細胞維持に好適な容器(例えば固体部材又はマクロカプセル)、胸部用インプラント、顎用インプラント、頬用インプラント、胸筋用インプラント、臀筋用インプラント及び歯科用インプラントからなる群から選ばれる請求項43記載のインプラント部材。
【請求項45】
請求項27の記載に従って関節炎から生ずる痛風関節炎を軟骨細胞を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を投与することによって修復する方法。
【請求項46】
軟骨細胞が同一個体からのものである請求項45記載の方法。
【請求項47】
請求項27の記載に従って、インシュリン生成細胞又は多細胞集合体を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を投与することによって糖尿病を治療する方法。
【請求項48】
インシュリン生成細胞又は多細胞集合体が膵島又は培養されたインシュリン製造細胞腺である請求項47記載の方法。
【請求項49】
膵島、又は他の細胞集合体又は組織を請求項26の記載に従って製造された自己ゲル化性アルギネート分散物中に内包させることによって膵島、又は他の細胞集合体又は組織の生育を改良する方法。
【請求項50】
超高純度のアルギン酸ナトリウムを水に溶解させそしてナトリウム塩を添加し;ゲル形成性イオン塩を水に溶解させそしてpHを中性に調節し;攪拌を続けながら、アルギネート溶液を塩化カルシウム溶液と混ぜ;沈殿した不溶性のアルギネートを回収しそして電気伝導度が精製水と同レベルに低下するまで水で洗浄し;洗浄した不溶性アルギネートを乾燥し;そして該乾燥した不溶性アルギネートの粒子を生成させる諸工程からなる不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の製造方法。
【請求項51】
ゲル形成性イオンがカルシウム又はストロンチウムである請求項50記載の方法。
【請求項52】
超高純度のアルギン酸ナトリウムを水に溶解させそして炭酸ナトリウムを添加し;無水塩化カルシウムを水に溶解させそして硝酸でpHを中性に調節し;攪拌を続けながら、アルギネート溶液を塩化カルシウム溶液と混ぜ;沈殿した不溶性のアルギネートを回収しそして電気伝導度が精製水と同レベルに低下するまで水で洗浄し;洗浄したアルギン酸カルシウムを乾燥し;そして乾燥したアルギン酸カルシウムを粒子に粉砕する諸工程からなる請求項50記載の方法。
【請求項53】
請求項52の方法で製造された超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【請求項54】
<25EU/gのレベルのエンドトキシンを含む超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【請求項55】
アルギネートがゲル形成性イオンで飽和している請求項54記載の超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【請求項56】
ゲル形成性イオンがカルシウム又はストロンチウムである請求項54記載の超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【請求項1】
可溶性アルギネートを含む第一容器と不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む第二容器とからなるアルギネートゲル製造用キット。
【請求項2】
さらに混合部材及び/又は分配部材を含む請求項1記載のキット。
【請求項3】
混合部材がT−コネクターである請求項2記載のキット。
【請求項4】
溶媒を含む追加の容器をさらに含む請求項1記載のキット。
【請求項5】
さらに、薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む請求項1記載のキット。
【請求項6】
不溶性アルギネートに比べて可溶性アルギネートが過剰に存在する請求項1記載のキット。
【請求項7】
可溶性アルギネート/不溶性アルギネートの濃度比が5:1から1:5である請求項1記載のキット。
【請求項8】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子サイズが、<25μm、25−45μm、75−125μm及び>125μmからなる群から選ばれる請求項1記載のキット。
【請求項9】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが高G含量のアルギネートを含む請求項1記載のキット。
【請求項10】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが約5−350kDの分子量をもつ請求項1記載のキット。
【請求項11】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが<25EU/gのレベルのエンドトキシンを含む請求項1記載のキット。
【請求項12】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが無菌性である請求項1記載のキット。
【請求項13】
可溶性アルギネートがNa−アルギネート、K−アルギネート、PEG−アルギネート又はNH4−アルギネートの一つ以上を含む請求項1記載のキット。
【請求項14】
不溶性アルギネートがカルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、マンガン、鉛、コバルト又はニッケルの一つ以上を含む請求項1記載のキット。
【請求項15】
即可溶性アルギネート及び不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含むゲル製造用組成物。
【請求項16】
さらに、薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬を含む請求項15記載の組成物。
【請求項17】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが高G含量のアルギネートを含む請求項15記載の組成物。
【請求項18】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが約5−350kDの分子量をもつ請求項15記載の組成物。
【請求項19】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが<25EU/gのレベルのエンドトキシンを含む請求項15記載の組成物。
【請求項20】
可溶性アルギネート及び/又は不溶性アルギネートが無菌性である請求項15記載の組成物。
【請求項21】
可溶性アルギネートがNa−アルギネート、K−アルギネート、PEG−アルギネート又はNH4−アルギネートの一つ以上を含む請求項15記載の組成物。
【請求項22】
不溶性アルギネートがカルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、マンガン、鉛、コバルト又はニッケルの一つ以上を含む請求項15記載の組成物。
【請求項23】
不溶性アルギネートに比べて可溶性アルギネートが過剰に存在する請求項15記載の組成物。
【請求項24】
可溶性アルギネート/不溶性アルギネートの濃度比が5:1から1:5である請求項15記載の組成物。
【請求項25】
不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子サイズが、<25μm、25−45μm、75−125μm及び>125μmからなる群から選ばれる請求項15記載の組成物。
【請求項26】
a)i)可溶性アルギネートと不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子を含む溶液を混合するか又はii)即可溶性アルギネート、不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子及び溶媒を混合することによって分散物を形成させ、そしてb)分散物を形成してアルギネートゲルマトリックスを形成させることを特徴とする自己ゲル化性アルギネート分散物の分配方法。
【請求項27】
分散物の分配が人体内への投与である請求項26記載の方法からなる自己ゲル化性アルギネート分散物の分配方法。
【請求項28】
請求項27記載の方法に従って人体内に自己ゲル化性アルギネート分散物を分配することからなる、組織バルク剤としてアルギネートを使用する方法。
【請求項29】
ゲル形成性アルギネート分散物を人体の尿道括約筋に近い粘膜下組織内に投与して、アルギネートゲルを尿失禁治療用の組織バルク剤として使用するか、又は該ゲル形成性アルギネート分散物を人体の食道と胃の間の結合部に投与して、アルギネートゲルを胃食道逆流症治療用の組織バルク剤として使用する請求項28記載の方法。
【請求項30】
自己ゲル化性アルギネート分散物を請求項27の記載に従って人体に投与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の人体の血管への投与であることを特徴とする人体の血管塞栓手術での自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項31】
血管塞栓手術が良性又は悪性腫瘍の治療で実施されると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が、腫瘍に血液を送っている人体の血管への投与であることを特徴とする請求項30記載の方法。
【請求項32】
請求項27の記載に従って、自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内に供与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が人体の手術部位への投与であることを特徴とする術後粘着形成を防ぐための自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項33】
請求項27の記載に従って、自己ゲル化性アルギネート分散物を人体内に投与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が人体の創傷部位への投与であることを特徴とする人体の創傷治療における自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項34】
請求項26の記載に従って、自己ゲル化性アルギネート分散物を投与すると共に、該自己ゲル化性アルギネート分散物の投与が人体の皮膚の創傷部位への投与であることを特徴とする人体の皮膚の創傷治療における自己ゲル化性アルギネート分散物の使用方法。
【請求項35】
請求項26の記載に従って自己ゲル化性アルギネート分散物を分配して自己ゲル化性アルギネートを形成させ、引き続きインプラント形成性アルギネートを人体に植え込むゲル形成を行うことを特徴とするインプラント用アルギネートゲルの使用方法。
【請求項36】
請求項26の記載に従って自己ゲル化性アルギネート分散物をインプラント部材上に分配することを特徴とするインプラント用部材の製造方法。
【請求項37】
該分散物がさらに、薬剤、ペプチド、タンパク質、細胞、多細胞集合体、組織、検知性ラベル又は対照試薬からなる群から選ばれる一つ以上の成分を含む請求項26記載の方法。
【請求項38】
5mm以上の厚みと均質なアルギネートマトリックスネットワークをもつアルギネートゲル。
【請求項39】
該アルギネートゲルが10mm以上の厚みをもつ請求項38記載のアルギネートゲル。
【請求項40】
該ゲルが硫酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、乳酸塩、EDTA又は脂質を含む請求項38記載のアルギネートゲル。
【請求項41】
5mm以上の厚みをもちそして硫酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、乳酸塩、EDTA又は脂質を含まないアルギネートゲル。
【請求項42】
該アルギネートゲルが10mm以上の厚みをもつ請求項41記載のアルギネートゲル。
【請求項43】
均質なアルギネートゲル被覆をもつインプラント部材。
【請求項44】
インプラント部材が、心臓ペースメーカー、カテーテル、インプラント用人工器官、手術用スクリュー、手術用ワイヤー、組織バルク用インプラント、食道逆流防止用インプラント、失禁防止用インプラント、腎臓還流物、アルギネートマトリックスで表面外側を被覆するか及び/又はアルギネートマトリックスを内包した細胞維持に好適な容器(例えば固体部材又はマクロカプセル)、胸部用インプラント、顎用インプラント、頬用インプラント、胸筋用インプラント、臀筋用インプラント及び歯科用インプラントからなる群から選ばれる請求項43記載のインプラント部材。
【請求項45】
請求項27の記載に従って関節炎から生ずる痛風関節炎を軟骨細胞を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を投与することによって修復する方法。
【請求項46】
軟骨細胞が同一個体からのものである請求項45記載の方法。
【請求項47】
請求項27の記載に従って、インシュリン生成細胞又は多細胞集合体を含む自己ゲル化性アルギネート分散物を投与することによって糖尿病を治療する方法。
【請求項48】
インシュリン生成細胞又は多細胞集合体が膵島又は培養されたインシュリン製造細胞腺である請求項47記載の方法。
【請求項49】
膵島、又は他の細胞集合体又は組織を請求項26の記載に従って製造された自己ゲル化性アルギネート分散物中に内包させることによって膵島、又は他の細胞集合体又は組織の生育を改良する方法。
【請求項50】
超高純度のアルギン酸ナトリウムを水に溶解させそしてナトリウム塩を添加し;ゲル形成性イオン塩を水に溶解させそしてpHを中性に調節し;攪拌を続けながら、アルギネート溶液を塩化カルシウム溶液と混ぜ;沈殿した不溶性のアルギネートを回収しそして電気伝導度が精製水と同レベルに低下するまで水で洗浄し;洗浄した不溶性アルギネートを乾燥し;そして該乾燥した不溶性アルギネートの粒子を生成させる諸工程からなる不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子の製造方法。
【請求項51】
ゲル形成性イオンがカルシウム又はストロンチウムである請求項50記載の方法。
【請求項52】
超高純度のアルギン酸ナトリウムを水に溶解させそして炭酸ナトリウムを添加し;無水塩化カルシウムを水に溶解させそして硝酸でpHを中性に調節し;攪拌を続けながら、アルギネート溶液を塩化カルシウム溶液と混ぜ;沈殿した不溶性のアルギネートを回収しそして電気伝導度が精製水と同レベルに低下するまで水で洗浄し;洗浄したアルギン酸カルシウムを乾燥し;そして乾燥したアルギン酸カルシウムを粒子に粉砕する諸工程からなる請求項50記載の方法。
【請求項53】
請求項52の方法で製造された超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【請求項54】
<25EU/gのレベルのエンドトキシンを含む超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【請求項55】
アルギネートがゲル形成性イオンで飽和している請求項54記載の超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【請求項56】
ゲル形成性イオンがカルシウム又はストロンチウムである請求項54記載の超高純度の不溶性アルギネート/ゲル形成性イオン粒子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−515927(P2008−515927A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535898(P2007−535898)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2005/036460
【国際公開番号】WO2006/044342
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(504369661)エフエムシー バイオポリマー エイエス (14)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2005/036460
【国際公開番号】WO2006/044342
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(504369661)エフエムシー バイオポリマー エイエス (14)
【Fターム(参考)】
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