説明

自己乳化性粒子、及び自己乳化性粒子からエマルジョンを作製する無溶媒プロセス

【課題】トナーの製造コストを抑制し且つ環境にやさしいトナー製造方法を実現し得る、自己乳化性粒子、その製造方法、及び自己乳化性粒子を用いたトナー製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを、水および有機溶媒の非存在下で接触させて混合物を形成する工程であって、前記固体中和剤が、1個または2個以上の窒素原子を含む単環式化合物、1個または2個以上の窒素原子を含む多環式化合物、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される固体中和剤である、前記工程;前記混合物を溶融混合する工程;前記溶融混合された混合物の自己乳化性複合物を形成する工程;前記複合物を固化する工程;及び、前記複合物を粒子化する工程、を含むプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己乳化性粒子、及び自己乳化性粒子からエマルジョンを作製する無溶媒プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
トナー作製については数多くのプロセスが当業者に知られている。乳化凝集(EA)は、そのような方法の1つである。乳化凝集トナーは、印刷画像および/または電子写真画像の形成に用いることができる。乳化凝集法においては、バッチまたは半連続乳化重合を用い、モノマーを加熱することにより、樹脂粒子のエマルジョンラテックスを形成し得る。
【0003】
低融点特性(low melt properties)を持つポリエステルトナーが、非晶質および結晶性ポリエステル樹脂を用いて作製されている。
【0004】
ポリエステルトナーは、低融点挙動(low melt behavior)を得るためにポリエステル樹脂を用いて作製されており、それによって、印刷速度の高速化および消費エネルギーの低減が可能となる。しかし、このようなポリエステルをトナーへ組み込むには、まず、溶媒フラッシュ乳化(solvent flash emulsification)および/または溶媒を用いた転相乳化(solvent−based phase inversion emulsification)を例とする溶媒含有プロセスによってポリエステルをラテックスエマルジョンに調製する必要がある。いずれの場合でも、ケトンまたはアルコールなどの有機溶媒が樹脂を溶解するために大量に用いられており、これは、ラテックスの形成のために、続いてエネルギー集約的な蒸留を必要とする場合があり、環境にやさしいものではない。
【0005】
無溶媒ラテックスエマルジョンは、中和溶液、界面活性剤溶液、および水を、加熱軟化させた樹脂に添加することにより、バッチプロセスまたは押出しプロセスで形成される。無溶媒自己乳化性粒子(solventless self emulsifying granules)も、樹脂、中和剤、界面活性剤、および水の混合物を溶融混合することによって形成される。
【0006】
水は、融点が高いため、ほとんどの無機および固体中和剤の溶解に必要である。しかし、押出し機への水の注入は困難であり、最終的な樹脂の特性に悪影響を及ぼす場合があることから、水を用いることは、ラテックスおよび自己乳化性粒子の製造に対していくつかの操作上の問題を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3933954号公報
【特許文献2】米国特許第4056653号公報
【特許文献3】米国特許第5278020号公報
【特許文献4】米国特許第5290654号公報
【特許文献5】米国特許第5302486号公報
【特許文献6】米国特許第5308734号公報
【特許文献7】米国特許第5344738号公報
【特許文献8】米国特許第5346797号公報
【特許文献9】米国特許第5348832号公報
【特許文献10】米国特許第5354804号公報
【特許文献11】米国特許第5364729号公報
【特許文献12】米国特許第5366841号公報
【特許文献13】米国特許第5370963号公報
【特許文献14】米国特許第5399597号公報
【特許文献15】米国特許第5403693号公報
【特許文献16】米国特許第5405728号公報
【特許文献17】米国特許第5418108号公報
【特許文献18】米国特許第5496676号公報
【特許文献19】米国特許第5501935号公報
【特許文献20】米国特許第5527658号公報
【特許文献21】米国特許第5548004号公報
【特許文献22】米国特許第5585215号公報
【特許文献23】米国特許第5650255号公報
【特許文献24】米国特許第5650256号公報
【特許文献25】米国特許第5723253号公報
【特許文献26】米国特許第5744520号公報
【特許文献27】米国特許第5763133号公報
【特許文献28】米国特許第5766818号公報
【特許文献29】米国特許第5747215号公報
【特許文献30】米国特許第5804349号公報
【特許文献31】米国特許第5827633号公報
【特許文献32】米国特許第5840462号公報
【特許文献33】米国特許第5853943号公報
【特許文献34】米国特許第5853944号公報
【特許文献35】米国特許第5863698号公報
【特許文献36】米国特許第5869215号公報
【特許文献37】米国特許第5902710号公報
【特許文献38】米国特許第5910387号公報
【特許文献39】米国特許第5916725号公報
【特許文献40】米国特許第5919595号公報
【特許文献41】米国特許第5925488号公報
【特許文献42】米国特許第5977210号公報
【特許文献43】米国特許第5994020号公報
【特許文献44】米国特許第6080807号公報
【特許文献45】米国特許第6512024 B1号公報
【特許文献46】米国特許第7064156 B2号公報
【特許文献47】米国特許第7385001 B2号公報
【特許文献48】米国特許出願公開第2002/0074号公報681
【特許文献49】米国特許出願公開第2008/0107989号公報
【特許文献50】米国特許出願公開第2008/0153027号公報
【特許文献51】国際特許出願公開第98/45356号公報
【特許文献52】国際特許出願公開第00/17256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
工程および材料の数を低減する改良されたトナー製造方法が依然として所望されている。このようなプロセスは、そのようなトナーの製造コストを抑制することができ、環境にやさしいものであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のプロセスは、ポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを、水および有機溶媒の非存在下で接触させて混合物を形成する工程であって、前記固体中和剤が、
1個または2個以上の窒素原子を含む単環式化合物、1個または2個以上の窒素原子を含む多環式化合物、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される固体中和剤である、前記工程;前記混合物を溶融混合する工程;前記溶融混合された混合物の自己乳化性複合物を形成する工程;前記複合物を固化する工程;及び、前記複合物を粒子化する工程、を含む。
【0010】
ある態様において、本開示のプロセスは、結晶性ポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを、水および有機溶媒の非存在下で接触させて混合物を形成する工程であって、前記固体中和剤が、1個または2個以上の窒素原子を含む単環式化合物、1個または2個以上の窒素原子を含む多環式化合物、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される固体中和剤である、前記工程;前記混合物を溶融混合する工程;前記溶融混合された混合物の自己乳化性複合物を形成する工程;前記複合物を固化する工程;及び、前記複合物を粒子化する工程、を含むポリエステルトナーを作製するためのプロセスであり、ここで、ラテックスエマルジョンの形成が所望される場合は、前記自己乳化性複合物に水を添加する工程をさらに含んでもよく、また、所望される場合は、トナー組成物の1つまたは2つ以上の追加成分を、前記樹脂に添加してもよい。
【0011】
本開示の自己乳化性粒子は、少なくとも1種のポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを含有し、且つ水と接触させることによりラテックスエマルジョンを形成する自己乳化性粒子であって、前記固体中和剤が、
1個または2個以上の窒素原子を含む単環式化合物、1個または2個以上の窒素原子を含む多環式化合物、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される固体中和剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、トナーの製造コストを抑制し且つ環境にやさしいトナー製造方法を実現し得る、自己乳化性粒子、その製造方法、及び自己乳化性粒子を用いたトナー製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、先行技術に従って粒子を作製する押出し方法のフローチャートである。
【図2】図2は、本開示に従って粒子を作製する押出し方法のフローチャートである。
【図3】図3は、本開示のトナーの帯電(AゾーンおよびCゾーンの両方)を、対照区トナーおよび比較トナーと比較したグラフである。
【図4】図4は、本開示のトナーならびに比較トナーの流動特性および凝着を比較するグラフである。
【図5】図5は、比較トナーおよび対照区トナーと比較した、実施例で作製された本開示のトナーで得られた光沢度を示すグラフである。
【図6】図6は、比較トナーおよび対照区トナーと比較した、実施例で作製された本開示のトナーで得られた折り曲げ領域(crease area)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、溶媒としての水が存在しない条件下において、樹脂からなる自己乳化性粒子を形成するプロセスを提供する。当該自己乳化性粒子を用いて、トナーの作製に使用可能なラテックス粒子を含有するラテックスエマルジョンを形成することができる。別の選択肢として、固化および粒子化の前に、押出し機による押出し物を水へ添加することにより、粒子化工程を介さずに直接ラテックスを形成することもできる。ある実施形態では、本開示のプロセスは、有機溶媒が存在せず且つ水が存在しない条件下において、樹脂を界面活性剤および固体中和剤と接触させて混合物を形成する工程;前記混合物を溶融混合する工程;自己乳化性複合物を形成する工程;及び、前記自己乳化性複合物の自己乳化性粒子を形成する工程、を含む。自己乳化性粒子の直径は、例えば約0.5cm〜約2cm、ある実施形態では約0.8cm〜約1.2cm、であるが、これらの範囲外の値が得られてもよい。
【0015】
本開示は、トナーを形成するために、自己乳化性複合物または自己乳化性粒子からラテックスエマルジョンを作製するためのプロセスも提供する。ある実施形態では、本開示のエマルジョンを作製するためのプロセスは、有機溶媒が存在せず且つ水が存在しない条件下において、結晶性樹脂を界面活性剤および固体中和剤と接触させて混合物を形成する工程;前記混合物を溶融混合する工程;及び、前記溶融混合した混合物の自己乳化性粒子を形成する工程、を含み、ここで、ラテックスエマルジョンの形成が所望される場合は、前記自己乳化性粒子に水を添加する工程をさらに含んでもよく、また、所望される場合は、トナー組成物の1つまたは2つ以上の追加成分(例えば着色剤、ワックス、およびその他の添加剤など)を、前記樹脂に添加してもよい。
【0016】
本開示は、さらに、有機溶媒および水の非存在下にて少なくとも1種のポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを含有し、且つ水と接触させることによりラテックスエマルジョンを形成する自己乳化性粒子も提供する。
【0017】
本開示の自己乳化性複合物の形成には、いかなる樹脂を用いてもよい。ある実施形態では、樹脂は、非晶質樹脂、結晶性樹脂、および/またはこれらの組み合わせであってよい。また、ある実施形態では、樹脂は、ポリエステル樹脂であってよい。
【0018】
ある実施形態では、樹脂は、ジオールを二塩基酸と反応させることによって形成されるポリエステル樹脂であってよい。ここで当該反応は、所望する場合には、触媒の存在下にて行われてもよい。
【0019】
有機二塩基酸の量は、例えば、ある実施形態では樹脂に対して約40〜約60モルパーセント、ある実施形態では約42〜約52モルパーセント、ある実施形態では約45〜約50モルパーセント、の範囲から選択することができる。また第二の二塩基酸の量は、樹脂に対して約0〜約10モルパーセントの範囲から選択することができる。
【0020】
ある実施形態では、上述のように、不飽和非晶質ポリエステル樹脂をラテックス樹脂として用いてよい。
【0021】
ある実施形態では、適切なポリエステル樹脂は、下記式(I)を持つプロポキシル化ビスフェノールA‐フマル酸コポリマー樹脂などの非晶質ポリエステルであり得る。
【0022】
【化1】

【0023】
式中、mは、約5〜約1000であってよい。
【0024】
使用可能な適切な結晶性樹脂としては、米国特許出願公開第2006/0222991号に開示のものが挙げられる。所望される場合は、前記結晶性樹脂は、上述の非晶質樹脂と組み合わせて用いられてもよい。ある実施形態では、適切な結晶性樹脂としては、下記式(II)で表される、エチレングリコールとドデカン二酸およびフマル酸コモノマーの混合物とから形成される樹脂を挙げることができる。
【0025】
【化2】

【0026】
式中、bは、約5〜約2000であり、dは、約5〜約2000である。
【0027】
1種類、2種類、または3種類以上の樹脂を用いてよい。2種類または3種類以上の樹脂を用いる実施形態では、これらの樹脂は適切ないかなる比率(例:重量比)であってよく、例えば、第一の樹脂と第二の樹脂の比率(第一の樹脂(%)/第二の樹脂(%))が約1/99〜約99/1、ある実施形態では約10/90〜約90/10などである。樹脂が非晶質樹脂および結晶性樹脂を含む場合、この2種類の樹脂の重量比(非晶質樹脂(%):結晶性樹脂(%))は、約99:1〜約1:99であってよい。
【0028】
ある実施形態では、樹脂は酸性基を有していてよく、ある実施形態では、前記酸性基は樹脂の末端に存在していてよい。存在していてよい酸性基としては、カルボン酸基などが挙げられる。カルボン酸基の数は、樹脂の形成に用いられる物質および反応条件を調節することによって調節することができる。
【0029】
ある実施形態では、樹脂は、その酸価が樹脂1gあたり約2mgKOH〜約200mgKOHであるポリエステル樹脂であってよく、ある実施形態では、その酸価が樹脂1gあたり約5mgKOH〜約50mgKOHであるポリエステル樹脂であってよい。酸含有樹脂は、テトラヒドロフラン溶液中に溶解することができる。酸価は、指示薬としてフェノールフタレインを含むKOH/メタノール溶液で滴定することによって検出することができる。滴定の終点で決定される、樹脂上のすべての酸性基の中和に要したKOH/メタノールの当量に基づいて、酸価を算出することができる。
【0030】
得られた樹脂は、これに添加された弱塩基または中和剤と共に、高温で溶融混合され得る。ある実施形態では、この塩基は固体であってよい。
【0031】
ある実施形態では、中和剤を用いて樹脂中の酸性基を中和し得る。本明細書において中和剤は、「塩基性中和剤」とも称され得る。本開示に従って、適切ないかなる塩基性中和剤を用いてもよい。ある実施形態では、適切な塩基性中和剤としては、無機塩基性剤および有機塩基性剤の両方を挙げることができる。適切な塩基性剤としては、少なくとも1個の窒素原子を持つ、単環式化合物および多環式化合物を挙げることができる。ある実施形態では、単環式および多環式化合物は、無置換であってよく、または環上のいずれの炭素位で置換されていてもよい。
【0032】
塩基性剤は、樹脂に対して約0.001重量%〜50重量%の量で、ある実施形態では樹脂に対して約0.01重量%〜約25重量%の量で、ある実施形態では樹脂に対して約0.1重量%〜5重量%の量で存在するように用いることができるが、これらの範囲外の量を用いてもよい。
【0033】
上述のように、塩基性中和剤を、酸性基を有する樹脂に添加してよい。塩基性中和剤の添加により、酸性基を有する樹脂を含むエマルジョンのpHを、約5〜約12、ある実施形態では約6〜約11、に上昇させることができるが、これらの範囲外の値が得られてもよい。酸性基の中和により、ある実施形態では、エマルジョンの形成を促進することができる。本開示の中和剤による酸・塩基反応は、本明細書にて、以下のように概略的に示される。
【0034】
【化3】

【0035】
水酸化ナトリウムなどの塩基とは異なり、例えばピペラジンなどの二級アミンは、ポリエステル樹脂と混和可能であり、約106℃の融点を有し、従って、溶融した樹脂中にて、水を必要とせずに直接中和剤として作用することができる。さらに、ある実施形態では、ピペラジンは室温で固体であるため、樹脂と容易に予め混合して、押出し機用乾燥供給材料の一部を形成することができる。
【0036】
ピペラジンなどのこれらの二級アミンの特性により、水等の流体を押出し機中へポンプ注入する必要がなくなることから、無溶媒乳化プロセスが大きく簡略化される。押出し機中へ流体をポンプ注入すると、実際には完全に解決することができないいくつかの問題が起こり、そのため、生成物が所望される規格の範囲外となる場合が多い。水の使用を必要とする塩基を用いたラテックスの製造において直面する障害の形態としては、押出し機フィードホッパーにおける供給材料の焼結(水の注入およびそれに続く蒸気の形成による)、水/乾燥供給材料の比率の不十分な制御、差し込まれた注入ノズル、およびポンプの故障が挙げられるが、これらは前記障害の形態のうちのほんの数例である。水酸化ナトリウムなどの塩基も、所望される規格の範囲外(粒径、粒径分布、樹脂の分解)である物質が製造される反応条件の相違を引き起こし得る。
【0037】
NaOHの酸塩基反応性は、本明細書にて以下のように概略的に示される。
【0038】
【化4】

【0039】
NaOHをピペラジンおよびその他の二級アミンに置き換えることにより、トナー性能に影響を与えずに前記形態のプロセス障害を取り除くことができる。
【0040】
さらに、本開示の中和剤を用いることにより、ラテックスの製造で見られるポリエステルの分解(加水分解)を低減または除去することができる。ピペラジンのpKaが9.7(水中にて)であるところ、NaOHのpKaは15.7(水中にて)であるため、NaOHはピペラジンよりも非常に強い塩基であり、ポリエステル樹脂のエステル結合を容易に加水分解してポリエステル樹脂を分解する強い求核剤である。カルボン酸のpKa値は4.7(すなわち、アルカンカルボン酸)から4.2(すなわち、安息香酸)の範囲であるため、制御可能な条件下にて反応する酸の強度に近いより適切な塩基は、より穏やかで非求核性である二級アミン塩基である。
【0041】
本開示の二級アミンは、さらに、流出および腐食の事故を引き起こす可能性のあるその他の代替液体アミン(ピペリジン、モルホリン、および/またはトリエチルアミン)と比較して、取り扱いが容易で安全でもある。さらに、固体二級アミンは、ピペリジンまたはモルホリンほどの臭気も毒性もなく、NMR分光分析で容易に検出可能であり、およびその化学構造が対称であるために、その製品品質を容易に測定することができる。
【0042】
ある実施形態では、本開示のプロセスは、溶融混合の前またはその最中に、界面活性剤を高温下にて樹脂に添加する工程を含んでもよい。ある実施形態では、界面活性剤は、樹脂を溶融混合する前に高温下にて添加されてもよい。界面活性剤を用いる場合は、1種類、2種類、または3種類以上の界面活性剤が樹脂エマルジョンに含まれてよい。界面活性剤は、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤から選択することができる。「イオン性界面活性剤」の用語には、アニオン性界面活性剤およびカチオン性界面活性剤が包含される。ある実施形態では、界面活性剤は、固体状態で添加されても、高濃度の溶液状態で添加されてもよく、溶液状態の場合は、その濃度は例えば約40重量%〜約100重量%(界面活性剤のみ)、ある実施形態では約45重量%〜約95重量%であり得るが、これらの範囲外の量を用いてもよい。ある実施形態では、界面活性剤は、樹脂に対して約0.01重量%〜約20重量%、ある実施形態では樹脂に対して約0.1重量%〜約12重量%、他のある実施形態では樹脂に対して約1重量%〜約10重量%、の量で存在するように使用できるが、これらの範囲外の量を用いてもよい。
【0043】
上述のように、本開示のプロセスは、有機溶媒および水を用いずに、樹脂、固体または高濃度の界面活性剤、および固体中和剤を含有する混合物を、高温下にて溶融混合する工程を含むプロセスであり、これにより自己乳化性粒子などの自己乳化性複合物を形成する。自己乳化性粒子の形成には2種類以上の樹脂を用いてもよい。上述のように、樹脂は、非晶質樹脂、結晶性樹脂、またはこれらの組み合わせであり得る。ある実施形態では、樹脂は非晶質樹脂であってよく、高温とは、当該樹脂のガラス転移点よりも高い温度であってよい。他のある実施形態では、樹脂は結晶性樹脂であってよく、高温とは、当該樹脂の融点よりも高い温度であってよい。さらなるある実施形態では、樹脂は非晶質樹脂と結晶性樹脂との混合物であってよく、温度は、当該混合物のガラス転移点よりも高い温度であってよい。
【0044】
ある実施形態では、本開示のプロセスは、水および有機溶媒の非存在下にて、ポリエステル樹脂を、固体中和剤および高濃度液体または固体である界面活性剤と共に、短時間溶融混合する工程を含み得る。
【0045】
このような二級アミンを用いることにより、押出し機をより高い温度で運転することが可能となり、その結果、プロセスのスループットを高め得る。プロセスに水が存在しないため、運転温度が水の沸点に制限されることはない。そのため、より高い温度を用いることができるので、樹脂の粘度が下がり、ダイの圧力の低下が小さくなり、製造速度が向上し得る。
【0046】
ある実施形態では、界面活性剤は、溶融混合の前、最中、または後に、樹脂組成物の1種類または2種類以上の成分に対して添加できる。ある実施形態では、界面活性剤は、中和剤の添加の前、最中、または後に添加できる。ある実施形態では、界面活性剤の添加は、中和剤の添加の前に行い得る。
【0047】
前記加熱工程において、高温とは、例えば約30℃〜約300℃、ある実施形態では約50℃〜約200℃、他のある実施形態では約70℃〜約150℃、であってよいが、これらの範囲外の温度を用いてもよい。
【0048】
溶融混合は、押出し機(すなわち二軸押出し機)、Haakeミキサーなどの混練機、バッチ反応器、または粘性材料を密に混合して均質に近い混合物を作製する能力を有するその他のいずれかの装置、にて実施することができる。
【0049】
必須ではないが、攪拌することで自己乳化性粒子の形成を促進することができる。適切ないずれの攪拌装置を用いてもよい。ある実施形態では、攪拌は、1分間あたりの回転数(rpm)で約10rpm〜約5000rpm、ある実施形態では約20rpm〜約2000rpm、他のある実施形態では約50rpm〜約1000rpm、で行ってよいが、これらの範囲外の速度を用いてもよい。攪拌は一定の速度である必要はなく、速度を変化させてもよい。例えば、混合物の加熱をより均一とするために、攪拌速度を上昇させることができる。
【0050】
溶融ミキサーから排出された自己乳化性複合物を、室温まで冷却し、それによって、容易に粉砕、切断、または造粒して自己乳化性粒子化することが可能な固体材料を形成することができる。ある実施形態では、この固体材料は、約0.1cm〜約2cm、ある実施形態では約0.5cm〜約1.5cm、他のある実施形態では約0.8cm〜約1.2cm、の平均直径を有する自己乳化性粒子へ造粒され得るが、これらの範囲外のサイズであってもよい。
【0051】
自己乳化性粒子は、樹脂の材料特性に影響を与えることなく、長期間にわたって輸送および保存することができる。ある実施形態では、この自己乳化性粒子は、約1日〜約50日、他のある実施形態では約2日から45日、の期間保存することができるが、これらの範囲外の期間が得られてもよい。
【0052】
本開示の自己乳化性粒子は、先行技術に比しての利点の多くを提供するものであり、当該利点としては例えば、低い粗粒子含有量、狭い粒径分布、および乳化凝集法によるトナー製造に適する粒径;ラテックスの作製にホモジナイザーまたはその他の分散装置が不要;粗粒子の除去のためのろ過が不要;好都合な固体材料からのラテックスのオンデマンド製造;生分解に対する長期間にわたる安定性;輸送および保管コストの低減;及び二酸化炭素排出量の削減が挙げられる。
【0053】
本開示の自己乳化性粒子を用いて、結晶性および/または非晶質ポリエステル樹脂を用いた乳化凝集超低融点プロセス(emulsion aggregation ultra low melt processes)に適する粒径を作り出すことができる。この自己乳化性粒子から、均質化またはろ過を行うことなく、粗粒子含有量の低いラテックスを作製することができる。自己乳化性粒子の作製では、製造施設と消費施設との間を輸送される物質の体積を減少させることによってシンプルに二酸化炭素排出量を削減し、ラテックスの輸送費用を低減することができる。
【0054】
本開示の自己乳化性粒子が得られれば、好都合である場合もしくは所望される場合には、当該粒子状材料を水に添加してラテックスエマルジョンを形成することができる。水を添加して、固形分が例えば約5%〜約50%、ある実施形態においては約10%〜約35%、であるラテックスを形成できる。高い水温で溶解工程を促進することは可能であるが、ラテックスは、室温程度の低い温度で形成してもよい。他のある実施形態では、水温は約40℃〜約110℃、ある実施形態では約50℃〜約100℃、であり得るが、これらの範囲外の温度を用いてもよい。
【0055】
水と自己乳化性粒子との間の接触は、適切ないかなる方法で実施してもよく、例えば容器中、連続した導管中、充填層中などにおいての接触実施が可能である。バッチ処理で、自己乳化性粒子を緩やかに攪拌した状態で湯浴へ添加してラテックスを形成してもよい。他のある実施形態では、自己乳化性粒子を篩い装置に保持させ、該自己乳化性粒子でできたフィルターケーキへ水を通してもよく、または別の選択肢である、ある実施形態では、自己乳化性粒子の層の上から、該自己乳化性粒子が溶解してラテックスを形成するまで水を通してもよい。
【0056】
形成されるラテックスエマルジョンの粒径は、ポリエステル樹脂に対する界面活性剤および中和剤の濃度比によって制御することができる。ラテックスの固形分濃度は、水に対する自己乳化性粒子材料の比率によって制御することができる。
【0057】
本開示によると、本開示のプロセスにより、出発物質である樹脂(ある実施形態では、エマルジョンの形成に用いられる自己乳化性バルク、または、予め作製された樹脂)と同一の分子量特性を保持する乳化樹脂粒子を作製できることが分かった。
【0058】
水性媒体中の乳化樹脂粒子の粒径は、約1500nmまたはそれ未満であってよく、例えば約10nm〜約1200nm、ある実施形態では約30nm〜約1000nmであってよい。
【0059】
乳化の後、追加の界面活性剤、水、および/または中和剤を、所望により添加して、エマルジョンを希釈してよいが、これは必須ではない。乳化の後、エマルジョンを例えば約20℃〜約25℃の室温まで冷却してよい。
【0060】
自己乳化性粒子を上述のように水と接触させてエマルジョンを形成し、得られたラテックスを用いて、当業者の理解の範囲内であるいずれかの方法によりトナーを形成することができる。このラテックスエマルジョンを、適切なプロセス(例えば、ある実施形態では乳化凝集および合一(coalescence)プロセス)により、着色剤、およびその他の添加剤と接触させることによって、超低融点トナー(ultra low melt toner)を形成することができる。ここで、着色剤は、所望される場合は分散液であってよい。
【0061】
ある実施形態では、所望される場合に含まれていてもよい、トナー組成物の追加成分(例えば、着色剤、ワックス、その他の添加剤等)は、樹脂を溶融混合して自己乳化性粒子を形成する前、該形成の最中、または該形成の後に添加可能である。追加成分の添加は、自己乳化性粒子が水と接触するラテックスエマルジョンの形成の前、該形成の最中、または該形成の後に行い得る。ある実施形態では、着色剤の添加は、界面活性剤の添加の前に行ってよい。
【0062】
トナーに含まれていてよい、添加される着色剤としては、例えば、染料、顔料、染料混合物、顔料混合物、染料と顔料との混合物などの、種々の公知の適切な着色剤が挙げられる。ある実施形態では、トナー中に含まれる着色剤の量は、例えば、トナーに対して約0.1〜約35重量%、またはトナーに対して約1〜約15重量%、またはトナーに対して約3〜約10重量%、であってよいが、着色剤の量はこれらの範囲外であってもよい。
【0063】
ある実施形態では、顔料または着色剤は、固形分基準でトナー粒子に対して約1重量%〜約35重量%、他のある実施形態では約5重量%〜約25重量%、の量で用い得る。しかし、ある実施形態では、これらの範囲外の量であってもよい。
【0064】
所望される場合は、トナー粒子の形成において、樹脂および着色剤に加え、ワックスを用いてもよい。ワックスは、ワックス分散液として提供されてよく、これは、単一の種類のワックスを含むものでも、または2または3種類以上の異なるワックスの混合物を含むものでもよい。例えば、単一のワックスをトナー製剤に添加して、トナー粒子形状、トナー粒子表面上のワックスの存在および量、帯電特性および/または定着特性、光沢、剥離性(stripping)、オフセット特性などの、特定のトナー特性を改善し得る。あるいは、複数種類のワックスの組み合わせを添加して、トナー組成物に複数の特性を提供することもできる。
【0065】
ワックスがトナー中に含まれる場合、ワックスの量は、例えば、トナー粒子に対して約1重量%〜約25重量%、ある実施形態ではトナー粒子に対して約5重量%〜約20重量%、で存在し得るが、ワックスの量はこれらの範囲外であってもよい。
【0066】
ワックス分散液を用いる場合、ワックス分散液は、乳化凝集トナー組成物に従来から用いられる種々のワックスのいずれを含んでいてもよい。選択することができるワックスとしては、例えば、平均分子量が約500〜約20000、ある実施形態では約1000〜約10000、であるワックスが挙げられる。
【0067】
ある実施形態では、ワックスは、水中の固体ワックスの1種類または2種類以上の水性エマルジョンまたは分散液の形でトナー中へ組み込まれてよく、ここで、当該固体ワックスの粒径は、約100〜約300nmの範囲内であってよい。
【0068】
トナー粒子は、当業者の理解の範囲内であるいずれの方法で作製してもよい。以下、トナー粒子の作製に関連するある実施形態を、乳化凝集プロセスについて説明するが、トナー粒子作製方法は適切ないずれの方法であってもよく、その例としては米国特許第5,290,654号および第5,302,486号に開示される懸濁およびカプセル化プロセスなどの化学プロセスが挙げられる。ある実施形態では、トナー組成物およびトナー粒子は、小径樹脂粒子を適切なトナー粒子径へと凝集させ、続いて合一させることによって最終的なトナー粒子形状および形態が得られる、凝集および合一プロセスによって作製し得る。
【0069】
ある実施形態では、トナー組成物は、乳化凝集プロセス、例えば、所望により含まれ得る着色剤、所望により含まれ得るワックス、およびその他の所望されるまたは必要とされるいずれかの添加剤、ならびに所望により上述の界面活性剤中に含まれ得る上述の樹脂を含むエマルジョン、の混合物を凝集させること、及び、当該凝集混合物を合一させること、を含むプロセスなどによって作製し得る。混合物は、例えば、所望される場合は界面活性剤を含む分散液中であってもよい、着色剤(所望される場合はワックスまたはその他の物質を含んでいてもよい)を、エマルジョン(樹脂を含む2または3種類以上のエマルジョンの混合物であってよい)に添加することによって作製し得る。得られた混合物のpHは、例えば、酢酸、硝酸などの酸によって調節してよい。ある実施形態では、混合物のpHは、約2〜約5に調節し得る。さらに、ある実施形態では、混合物を均質化してもよい。混合物を均質化する場合、1分間あたり約600〜約6000回転で混合することによって均質化を達成してよい。均質化は、適切ないずれの手段で達成してもよく、例えば、IKA ULTRA TURRAX T50プローブホモジナイザーが挙げられる。
【0070】
上記の混合物の作製に続いて、該混合物に凝集剤を添加し得る。トナーの形成には適切ないずれの凝集剤を用いてもよい。適切な凝集剤としては、例えば、二価カチオンまたは多価カチオン物質の水溶液が挙げられる。
【0071】
トナーの形成に用いられる混合物への凝集剤の添加量は、例えば、混合物中の樹脂に対して、約0重量%〜約10重量%、ある実施形態では約0.2重量%〜約8重量%、他のある実施形態では約0.5重量%〜約5重量%、であり得るが、凝集剤の量はこれらの範囲外であってもよい。凝集を起こすのに十分な量の凝集剤を供する。
【0072】
粒子の凝集は、所定の所望される粒径が得られるまで行われてよい。所定の所望される粒径とは、形成の前に決定された得られるべき所望の粒径を意味し、そのような粒径に到達するまで、成長プロセスの間、粒径をモニタリングする。成長プロセスの間、サンプルを採取し、例えばクールター計数器によって平均粒径の分析を行い得る。攪拌を続けた状態で、高温を維持することにより、または、例えば約40℃〜約100℃の温度まで緩やかに温度を上昇させ、そして混合物を当該温度で約0.5時間〜約6時間、ある実施形態では約1時間〜約5時間、保持することにより、凝集を進行させて、凝集粒子を提供し得る。所定の所望される粒径に到達したら、成長プロセスを停止させる。
【0073】
凝集剤の添加に続く粒子の成長および成形は、適切ないずれの条件下で達成してもよい。例えば、成長および成形は、凝集が合一とは独立して発生する条件下で実施してよい。凝集と合一とが独立している工程では、凝集プロセスは、上記で考察したように樹脂のガラス転移点より低くてよい温度、例えば約40℃〜約90℃、ある実施形態では約45℃〜約80℃である、上昇させた温度におけるせん断条件下にて実施してよい。
トナー粒子の粒径が所望される最終粒径に至ったところで、塩基により混合物のpHを、約3〜約10、ある実施形態では約5〜約9、の値に調節してよい。pHの調節によって、トナーの成長を凍結(すなわち停止)することができる。
【0074】
ある実施形態では、凝集の後、かつ合一の前に、凝集粒子に対して樹脂コーティングを施し、その上にシェルを形成してもよい。シェルとして用い得る樹脂としては、コア樹脂の形成に適する樹脂として挙げた上述の樹脂が挙げられる。ある実施形態では、上述の非晶質ポリエステル樹脂ラテックスがシェルに含まれていてよい。さらに他のある実施形態では、上述の非晶質ポリエステル樹脂ラテックスをコアの形成に用いてよい樹脂と組み合わせ、次に樹脂コーティングとして粒子に添加してシェルを形成してもよい。
【0075】
ある実施形態では、シェルの形成に用いてよい樹脂としては、上述の結晶性樹脂ラテックス、およびコアとしての使用について上述した非晶質樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態では、本開示に従ってシェルの形成に用いてよい非晶質樹脂としては、非晶質ポリエステルが挙げられ、これは、所望される場合は上述の結晶性ポリエステル樹脂ラテックスと組み合わせてよい。複数の樹脂を用いてもよく、該複数の樹脂の各々の量は適切ないずれの量であってもよい。前記式(I)の非晶質樹脂を例とする第一の非晶質ポリエステル樹脂は、ある実施形態では、全シェル樹脂に対して約20重量パーセント〜約100重量パーセント、ある実施形態では全シェル樹脂に対して約30重量パーセント〜約90重量パーセント、の量で存在してよい。第二の樹脂は、ある実施形態では、全シェル樹脂に対して約0重量パーセント〜約80重量パーセント、ある実施形態では全シェル樹脂に対して約10重量パーセント〜約70重量パーセント、の量でシェル樹脂中に存在してよい。
【0076】
シェル樹脂は、当業者の理解の範囲内のいかなる方法で凝集粒子に適用してもよい。ある実施形態では、シェルの形成に用いられる樹脂は、上述のいずれかの界面活性剤を含むエマルジョンであってよい。所望される場合は上述のピペラジンで中和された無溶媒結晶性ポリエステル樹脂ラテックスであってよい、樹脂を有するエマルジョンを、凝集粒子上にシェルが形成されるように、上述の凝集粒子と組み合わせることができる。
【0077】
凝集粒子上のシェルの形成は、約30℃〜約80℃、ある実施形態では約35℃〜約70℃、の温度まで加熱する間に行なわれてよい。シェルの形成は、約5分〜約10時間、ある実施形態では約10分〜約5時間、の間に行なわれてよい。
【0078】
所望の粒径への凝集、および所望される場合は行ってよいシェルの適用に続いて、粒子を合一させることにより所望の最終形状となし得る。この合一は、例えば、混合物を、トナー粒子の形成に用いられる樹脂のガラス転移点またはそれを超えていてよい約45℃〜約100℃の温度、ある実施形態では約55℃〜約99℃の温度、まで加熱すること、および/または、攪拌を、例えば約100rpm〜約1000rpm、ある実施形態では約200rpm〜約800rpm、まで低下させることにより達成される。温度がバインダーに用いられる樹脂の関数であると解されることから、上記よりも高いまたは低い温度を用いてもよい。合一は、例えば約0.01〜約9時間、ある実施形態では約0.1〜約4時間かけて達成され得る。
【0079】
凝集および/または合一の後、混合物を、室温、例えば約20℃〜約25℃まで冷却してよい。冷却は、所望に応じて、急速であっても緩やかであってもよい。適切な冷却方法としては、反応器の周囲のジャケットに冷水を導入する方法を挙げることができる。冷却後、所望される場合はトナー粒子を水で洗浄し、続いて乾燥させてよい。乾燥は、適切ないかなる乾燥方法によって達成されてもよく、当該乾燥方法としては、例えば凍結乾燥が挙げられる。
【0080】
ある実施形態では、トナー粒子は、所望または必要に応じて、その他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、トナーは、正電荷または負電荷制御剤(positive or negative charge control agents)を、例えばトナーに対して約0.1〜約10重量%、ある実施形態ではトナーに対して約1〜約3重量%、の量で含んでいてよい。適切な電荷制御剤の例としては、ハロゲン化アルキルピリジニウムを含む四級アンモニウム化合物;硫酸水素塩;米国特許第4,298,672号に開示されるものを含むアルキルピリジニウム化合物;米国特許第4,338,390号に開示されるものを含む有機硫酸塩およびスルホン酸塩組成物;セチルピリジニウムテトラフルオロボレート;ジステアリルジメチルアンモニウムメチルサルフェート;BONTRON E84(商標)またはE88(商標)(Orient Chemical Industries, Ltd.)などのアルミニウム塩;これらの組み合わせ、などが挙げられる。
【0081】
さらに、トナー粒子の形成後、流動促進剤(flow aid additives)等の、トナー粒子の表面に存在してよい外添剤粒子を、トナー粒子と混合してもよい。
【0082】
一般的に、トナーの流動、摩擦帯電(tribo)の向上、混合の制御、現像および転写安定性の改善、ならびにトナーブロッキング温度上昇の目的で、シリカをトナー表面に適用してよい。相対湿度(RH)安定性の向上、摩擦帯電の制御、現像安定性の向上、ならびに転写安定性の向上の目的で、TiO2を適用してもよい。潤滑特性、現像体の導電性、摩擦帯電の向上を提供し、トナーとキャリア粒子との間の接触回数を増加させることによってトナーの帯電および帯電安定性を高めることを可能とする目的で、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、および/またはステアリン酸マグネシウムも、所望される場合は外添剤として用いてよい。
【0083】
このような外添剤は各々、トナーに対して例えば約0.1重量%〜約5重量%、ある実施形態ではトナーに対して約0.25重量%〜約3重量%、の量で存在してよいが、添加剤の量はこれらの範囲外であってもよい。ある実施形態では、トナーは、例えば、約0.1重量%〜約5重量%のチタニア、約0.1重量%〜約8重量%のシリカ、および約0.1重量%〜約4重量%のステアリン酸亜鉛、を含んでいてよい。
適切な添加剤としては、米国特許第3,590,000号、第3,800,588号、および第6,214,507号に開示されるものが挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明する。本開示の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。尚、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準であり、「室温」は約20℃〜約25℃の範囲内の温度を示す。
【0085】
[比較例1](結晶性ポリエステル樹脂及び中和剤としての水酸化ナトリウムを用いた、押出し機中における自己乳化性粒子の作製、およびバッチプロセスによる乳化)
フィードホッパーおよび液体注入ポートを備えた図1に示す押出し機を、約95℃まで予備加熱し、ローター速度を約450rpmに設定した。約1120グラムのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS、約7重量%)、約160グラムのNaOH、および約16キログラムのポリ(ノニレン−デカノエート)結晶性ポリエステル樹脂をタンブラー10中にて混合し、予備混合した混合物を作製した。図1に示すように、この予備混合した混合物をスクリューフィーダーのホッパーへ充填し、混合物はここから約380g/分で押出し機20へ供給された。この材料がスクリューフィーダー内を降下して溶解されたところで、脱イオン水(DIW)をタンク30から押出し機の第一の注入ポート70へ、ダイヤフラムポンプ40を介して1分あたり約150mlの供給速度で供給した。ポート60から入ってポート50から排出される間接スチームを介する多管式熱交換機(shell and tube heat exchanger)により、押出し機のポート70へ入る前に水を加熱する。水がNaOHおよびSDBSを活性化し、それによって、中和された樹脂の均質な混合物が押出し機のダイで作製された。得られた押出し物を回収し、冷却し、粉砕した。約15.2グラムの押出し物サンプルを取り出し、冷却し、乾燥した場所で保存した。その後、固体の押出し物を、約95℃の温度まで予備加熱したケトル80中にて、緩やかに攪拌しながら約160グラムのDIWに添加した。このエマルジョンの固形分は、DIWに対する押出し物の比率で制御した。次に、このラテックスエマルジョンを、凝集・合一プロセスに用いた。
【0086】
このプロセスでは、押出し機に水を添加する必要があり、ラテックス中の樹脂の分解を引き起こした。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)アッセイにより、このプロセスにおいてポリマーの平均分子量が14%低下したことが分かった(表1参照)。
【0087】
[実施例1](結晶性ポリエステル樹脂及び中和剤としての二級アミンを用いた、押出し機中における自己乳化性粒子の作製、およびバッチプロセスによる乳化)
フィードホッパーおよび液体注入ポートを備えた図1に示す押出し機を、約130℃まで予備加熱し、ローター速度を約450rpmに設定した。約131グラムのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS、約7重量%)、約20グラムのピペラジン、および約1.875キログラムのポリ(ノニレン−デカノエート)結晶性ポリエステル樹脂をタンブラー10中にて混合し、予備混合した混合物を作製した。図2に示すように、この予備混合した混合物をスクリューフィーダーのホッパーへ充填し、混合物はここから約75g/分で押出し機20へ供給された。この材料がスクリューフィーダー内を降下するに伴い、該材料は溶解し、ピペラジンにより樹脂の酸末端基が中和された。本プロセスでは界面活性剤も樹脂中に溶融混合され、中和された樹脂の均質な混合物が押出し機のダイで作製された。得られた押出し物を回収し、冷却し、粉砕した。その後、固体の押出し物を、約95℃の温度まで予備加熱したケトル80中にて、緩やかに攪拌しながら約160グラムのDIWに添加した。このエマルジョンの固形分は、DIWに対する押出し物の比率で制御した。次に、このラテックスエマルジョンを、凝集・合一プロセスに用いた(実施例3)。
【0088】
このプロセスでは、押出し機に水を添加する必要がなく、(滞留時間がより長いにも関わらず)ラテックス中の樹脂の分子量に影響を与えなかった。GPCアッセイにより、ポリマーの平均分子量がこのプロセスの開始前と終了後との間で変らなかったことが分かった(表1参照)。
【0089】
[比較例2](非晶質ポリエステル樹脂及び中和剤としての水酸化ナトリウムを用いた、Haakeミキサー中での自己乳化性粒子の作製、およびバッチプロセスによる乳化)
対向回転ローター(counter−rotating rotors)を装備したHaake溶融ミキサーを、約95℃まで予備加熱し、ローター速度を約100rpmに設定した。約50グラムの非晶質ポリエステル樹脂(プロポキシル化ビスフェノール−エトキシル化ビスフェノール−テレフタル酸コポリマー)をHaakeミキサーに充填し、溶融した。この材料に対して、約4グラムのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(5重量%)および約1.27グラムのNaOHをミキサーのキャビティにおいて添加し、この材料を約15分間溶融混合した。約11.4グラムの水をミキサーのキャビティに約10分間かけて添加し、次に、さらに10分間、樹脂と共に溶融混合させた。生成物をHaakeミキサーのキャビティから取り出し、冷却して固化させた。この固体材料を手で粉砕し、直径およそ1cmの自己乳化性粒子とした。この自己乳化性粒子を、温度が約95℃である脱イオン水約400グラムに攪拌しながら添加して、ラテックスを形成した。
【0090】
上記プロセスを経た樹脂をGPCアッセイしたところ、上記プロセス終了後における樹脂の分子量が、プロセスの開始前に比して48%低下したことが分かった(表1参照)。
【0091】
[実施例2](非晶質ポリエステル樹脂及び中和剤としての二級アミンを用いた、Haakeミキサー中での自己乳化性粒子の作製、およびバッチプロセスによる乳化)
対向回転ローター(counter−rotating rotors)を装備したHaake溶融ミキサーを、約130℃まで予備加熱し、ローター速度を約100rpmに設定した。約50グラムの非晶質ポリエステル樹脂(プロポキシル化ビスフェノール−エトキシル化ビスフェノール−テレフタル酸コポリマー)をHaakeミキサーに充填し、溶融した。この材料に対して、約4グラムのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(5重量%)および約1.36グラムのピペラジンをミキサーのキャビティにおいて添加し、この材料を約15分間溶融混合した。生成物をHaakeミキサーのキャビティから取り出し、冷却して固化させた。この固体材料を手で粉砕し、直径およそ1cmの自己乳化性粒子とした。この自己乳化性粒子を、温度が約95℃である脱イオン水約400グラムに攪拌しながら添加して、ラテックスを形成した。
【0092】
上記プロセスを経た樹脂をGPCアッセイしたところ、上記プロセスの開始前に比しての、プロセス終了後における樹脂の分子量の低下は18%であった。これはピペラジンではなくNaOHを用いた場合(比較例2)の分子量低下(48%低下)に較べて著しく少ない値である。
【0093】
下記の表1は、自己乳化性粒子中の樹脂の分子量を、経時および乳化後に比較したものである。表1に示されるように、自己乳化性粒子材料中では樹脂の分子量は時間と共に変化することはなかった。なお、後述の実施例3では、押出し機で作製された自己乳化性粒子の樹脂は、約6日間経過後の分子量が約8.6および約2.5kDa(MwおよびMn)であり、約21日間経過後の分子量が約8.8および約2.7kDa(MwおよびMn)であった(ここで記載した分子量間の相違はGPC測定技術の精度の範囲内である)。
【0094】
経時後、自己乳化性粒子を水に添加してラテックスを形成し、このラテックスを乾燥させて、樹脂の分子量を再度GPCによって測定可能とした。乾燥ラテックス中の樹脂の分子量は、21日間の保存後の自己乳化性粒子の分子量(Mw=8.4およびMn=2.6kDa)と同じであった。その他の例でも、自己乳化性粒子中における同様のポリマー分子量の保持が見られた。このデータによって裏付けられるように、自己乳化性粒子は、樹脂の特性に有害な影響を及ぼすことなく、長期間保存することができる。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から判るように、本開示では、水に溶解したNaOHなどの強塩基に代えて本開示の二級アミンを用いることにより、ポリエステル樹脂の分解度が大きく低減される。
【0097】
[実施例3](NaOHで中和された、溶媒ベースの結晶性ラテックスに代えて、ピペラジンで中和された、無溶媒結晶性ラテックスを用い、約6μmのシアン色ポリエステルトナー粒子を作製する凝集および合一プロセス)
約529.2グラムのDIW、約204.2グラムの非晶質ポリエステル樹脂(プロポキシル化ビスフェノール−エトキシル化ビスフェノール−テレフタル酸コポリマー)、実施例1の自己乳化性粒子から作製した約41.6グラムの無溶媒結晶性ポリエステルラテックス(約6.8重量%)、約2.26グラムのDowfax 2A1アニオン性界面活性剤、約52.9グラムのSun Chemical製シアン顔料PB15:3、および約46.2グラムのIGI製ポリエチレンワックスを、2リットルのプラスチックビーカーに充填した。得られたスラリー混合物のpHを、希硝酸で約4に調節した。得られた全トナースラリーを、ポータブルTurrexホモジナイザープローブを用い、約10分間、約4000〜約6000rpmにて均質化した。均質化プロセスの最中に、少量の硫酸アルミニウム凝集剤の添加も行った。得られた濃厚なトナースラリーを、機械攪拌器が取り付けられダブルインペラーを備えた2LのBuchiステンレススチール反応器中へ投入し、約450rpmにて約5分間攪拌した。
【0098】
その後、トナーの凝集プロセスに供するために、内容物全体を約42℃まで加熱した。加熱して温度を上昇させる間、粒子の成長および粒径を、クールター計数器を用いて頻繁にモニタリングした。反応器温度が約42℃に達したところで、粒径がおよそ5μmとなるまでトナー粒子の成長を詳細にモニタリングした。続いて、約112.9グラムのプロポキシル化ビスフェノール−エトキシル化ビスフェノール−テレフタル酸コポリマーである非晶質「シェル用」ラテックスを添加し、この混合物を約30分間加熱した。粒径を測定したところ、約5.8〜約6μmであった。
【0099】
次に、トナー粒子の成長プロセスを、少量のNaOH塩基溶液を添加してトナースラリーのpHを約7よりも高く上昇させることにより停止させ、続いてトナー樹脂のTgよりも高い温度(約50℃〜約95℃)にて合一プロセスを行った。原料の調製から始まり、均質化、凝集および合一までの全プロセスが完了するまで、およそ7〜8時間を要した。所望のトナー粒径が得られたところでトナースラリーを急冷し、2リットル反応器から取り出した。
【0100】
この乳化凝集・合一プロセスにより、GSDが約1.27であり、粒径が約6.15μmであり、平滑な形態を有し、固形分が約13%であるポリエステルトナー粒子が得られた。最終的な固体粒子をろ過し、続いて室温にてスクリーニングおよび洗浄を行い、その後乾燥プロセスを行った。
【0101】
得られたトナー粒子は、基準となるNaOHで中和された溶媒ベースの結晶性ラテックスと、凝集および合一プロセスにおいて同様の挙動を示し、混合、トナー粘度、トナー粒子成長、およびトナー凍結工程における安定性、という面において特にプロセス上の問題はなかった。最終的なトナー粒径、GSD、およびトナー形状(真円度)は、下記の表2に示されるように、いずれのトナーについても同様であった。
【0102】
【表2】

【0103】
以上から判るように、中和剤としてピペラジンを用いることは、トナーの作製プロセスにもトナーの特性にも悪影響を与えなかった。
【0104】
[帯電性能]
(実施例2で作製されたピペラジン含有トナーの帯電性能)
帯電特性は、約0.5グラムのトナーを、約1重量%のポリメチルメタクリレートでコーティングされた約10グラムの電子写真用キャリア(65μmのスチールコア、Hoeganaes Corporation)と組み合わせることで作製された現像剤を試験することによって測定した。現像剤をガラスビンに入れ、ペイントシェーカーを用いて1分間あたり約715サイクルにて混合した。
各環境にサンプルを一晩保持して完全に平衡状態とした。翌日、ターブラミキサー(Turbula mixer)にて約1時間サンプルを攪拌することにより、現像剤を帯電させた。トナー粒子上の電荷は、チャージスペクトログラフ(CSG)を用いて測定した。結果を図3に示す。図3は、本開示のトナーである実施例1のトナー(無溶媒ポリエステル・ピペラジンベースのトナー)の帯電を、比較トナーA(生産スケールにおいて転相乳化(PIE)で製造された溶媒ベースのポリエステル樹脂トナー)および比較トナーB(実験室スケールにおいて転相乳化(PIE)で製造された溶媒ベースのポリエステル樹脂トナー)、ならびに比較例1のトナー(無溶媒ポリエステル・NaOHベースのトナー)と比較するプロットを含む。低湿度試験(C‐Z)を約10℃および約15%RHの条件下にて実施し、一方、高湿度試験(A‐Z)を約28℃および約85%RHの条件下にて実施した。トナーの電荷は、CSGからのトナー電荷軌跡(toner charge trace)の中間点として算出した。電荷/距離(Q/d)を、ゼロラインからの偏位のミリメートル(mm)単位で報告するが、mm単位であるこの値に0.092をかけることによりfC/μmに変換することもできる。μC/グラム単位で表される、対応する電荷/質量(Q/m)も測定した。図3は、ベースラインの溶媒を用いてなるトナーと比較した、ピペラジンベースのトナーのQ/dのプロットを示す。図から分かるように、中和剤として無溶媒トナーに対するNaOHまたは溶媒ベースのトナーに対するNH4OHを用いることに代えて、中和剤としてピペラジンを用いても、帯電性能への悪影響はなかった。
【0105】
図3に示されるように、本開示の実施例1のトナーは、溶媒を用いるプロセスを含む比較トナーと、好ましい光沢性能において非常に類似していた。キャリアに対するトナーの摩擦帯電には好ましくない高湿度および高温条件下にて(A‐Z)、実施例1のトナーは、比較トナーと実質的に同一の電荷を示した。摩擦帯電には好ましい低湿度および低温条件下にて(C‐Z)、実施例1のトナーは、比較トナーと比べて、電荷は僅かに大きく、経時での電荷移動は少なかった。従って、摩擦帯電という観点から、無溶媒でピペラジンを用いたポリエステル樹脂からなる本開示のトナーは、基準トナーと同等の性能を提供し、且つ、現像剤の経時特性が改善されることが公知である、溶媒を用いた系で作製された比較トナーに比して、帯電性が改良された。
【0106】
[トナーの流動性]
トナーは、効果的なトナーの流動が可能となるよう、その凝着性が低いことが所望される。本開示のトナーおよび比較のトナーを、互いに重ねあわされたスクリーンA(53μm)、スクリーンB(45μm)およびスクリーンC(38μm)からなるスクリーン一式を用い、Hosokawa粉粒体流動性試験装置で試験した。ここでは、スクリーンの重量を記録後、開放皿(open dish)で秤量して指定の温度および50%の相対湿度にて環境チャンバー中で調整したトナーの約2グラムを、最上部のスクリーンへ添加した。Hosokawa粉粒体流動性試験装置の振動時間は、約1mmの振動にて約90秒間に設定した。約17時間後、サンプルを取り出して約30分間周囲環境に順応させた。再順応させたサンプルの各々を、上側に1000μm、下側に106μm、として重ね合わせた予め秤量済の2枚のメッシュ篩いに通すことにより、篩いにかけて測定した。
振動の後、スクリーンを取り出し、秤量してトナー重量を測定した[(振動後重量)−(振動前重量)=(残ったトナーの重量)]。熱凝着度(%)は、式:[(凝着%) = (R1/Ti)×100%+(R2/Ti)×60%+(R3/Ti)×20%]で算出した(式中、R1、R2、およびR3はそれぞれ、スクリーンA、B、およびCに残ったトナーの量であり、Tiは、最初のトナー量である)。その他のサンプルも作製し、チャンバー温度を変えて測定し、温度に対する熱凝着度(%)のプロットを作成した。結果を図4に示す。ベースライン流動を表す線と凝着を表す線との交点が熱凝着の開始点であった。
【0107】
図4に示されるように、実施例1および3に記載の無溶媒でピペラジンを用いたポリエステル樹脂からなるトナーの作製方法により、低凝着性の(すなわち、粒子同士の凝着が低減された)所望のトナーが得られることが分かった。例えば、実施例1のトナーは、比較トナーB(EAで得られる、溶媒を用いてなるポリエステルトナー)および比較例1のトナーに比べて凝着性が非常に低かった。すなわち、本開示のトナーのトナー流動特性は、先行技術のトナーよりも優れていた。
【0108】
[光沢]
試験サンプルの定着性能を、Patriot(FBNF‐フリーベルトニップ定着器)オフライン溶融定着器を用いて評価した。まず、改造したDC12(定着器ランプを除去)を用いて一式の未定着画像を作製した。当該画像の、未塗工紙基材(ColorXpressions+90gsm、Xerox製)上における、単位面積あたりのトナー重量(TMA)は、約1.05mg/cm2であった。当該画像を、220mm/秒の処理速度、一定の範囲の定着ロール温度にて、オフラインPatriot溶融定着器に通した。図5に示すように、定着されたトナー画像の印刷光沢(ガードナー光沢単位(ggu))を、75°BYKガードナー光沢計を用いて、Xerox Digital Color Elite Gloss紙上に定着したトナーの単位面積あたりの値として測定した。
【0109】
図5に示されるように、実施例1のトナー、比較トナーA、および比較トナーB(EAで得られる、溶媒を用いてなるポリエステルトナー)について、定着ロール温度の関数として光沢をプロットした。実施例1のトナーおよび比較トナーB(EAで得られる、溶媒を用いてなるポリエステルトナー)に対する光沢曲線は、互いの実験誤差の範囲内であった。比較トナーA(PIEで得られる、溶媒を用いてなるポリエステル樹脂トナー)については、定着ロール温度の低温側に向かって光沢の少しのシフトが測定され、これは、恐らくは冷却速度の違いに起因するものと思われる。
【0110】
次に、同一の3種類のサンプルトナーについて、標準的な折り曲げ領域測定により、トナーの紙への接着を測定した。図6に示すように、これらのサンプルトナーの示す折り曲げ領域最小定着温度(crease area minimum fusing temperatures)は、約120℃〜約123℃であり、これは、十分に互いの実験誤差の範囲内であった。
【0111】
定着および折り曲げ性能のプロットから判るように、NH4OHで中和され溶媒を用いてなる結晶性ラテックスに代えて、ピペラジンで中和され無溶媒プロセスにより得られる結晶性ラテックスを用いることでは、定着性能への影響はなかった。まとめると、本開示のトナーは、効果的な光沢制御を可能とし、優れた摩擦帯電特性を提供し、同時に、NH4OHで中和され溶媒を用いてなる結晶性ラテックスを有する比較トナーと比べて、好ましいトナー流動および接着特性を示した。興味深いことに、帯電レベルに有害な影響を及ぼすことなく、光沢を効果的に制御可能であることが分かった。さらに、本開示のトナーでは、中和剤を溶解するための水の使用を必要とするプロセスにより得られるポリエステル樹脂からなるトナーの示す凝着性能および接着性能と同様もしくはそれより向上した、凝着性能および接着性能の両方が、中和剤を溶解するための水の使用を必要とせずに提供されることも分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを、水および有機溶媒の非存在下で接触させて混合物を形成する工程であって、前記固体中和剤が、1個または2個以上の窒素原子を含む単環式化合物、1個または2個以上の窒素原子を含む多環式化合物、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される固体中和剤である、前記工程;
前記混合物を溶融混合する工程;
前記溶融混合された混合物の自己乳化性複合物を形成する工程;
前記複合物を固化する工程;及び、
前記複合物を粒子化する工程、を含むプロセス。
【請求項2】
前記自己乳化性複合物に水を添加して、ラテックス粒子を含有するラテックスエマルジョンを形成する工程;及び
前記ラテックスエマルジョンの形成に続いて、前記ラテックス粒子を回収する工程、を更に含むこと、及び
前記ポリエステル樹脂が、非晶質ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
結晶性ポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを、水および有機溶媒の非存在下で接触させて混合物を形成する工程であって、前記固体中和剤が、1個または2個以上の窒素原子を含む単環式化合物、1個または2個以上の窒素原子を含む多環式化合物、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される固体中和剤である、前記工程;
前記混合物を溶融混合する工程;
前記溶融混合された混合物の自己乳化性複合物を形成する工程;
前記複合物を固化する工程;及び、
前記複合物を粒子化する工程、を含むポリエステルトナーを作製するためのプロセス。
【請求項4】
さらに、前記自己乳化性複合物に水を添加することによりラテックスエマルジョンを形成する工程、及び、トナー組成物の1つまたは2つ以上の追加成分を、前記結晶性ポリエステル樹脂に添加する工程、のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
少なくとも1種のポリエステル樹脂と、高濃度の界面活性剤と、固体中和剤とを含有し、且つ水と接触させることによりラテックスエマルジョンを形成する自己乳化性粒子であって、前記固体中和剤が、1個または2個以上の窒素原子を含む単環式化合物、1個または2個以上の窒素原子を含む多環式化合物、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される固体中和剤であることを特徴とする、前記自己乳化性粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−2830(P2011−2830A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133813(P2010−133813)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】