説明

自己保護オリゴヌクレオチドを使用する、遺伝子発現を調節するための組成物および方法

本発明は、標的遺伝子に相補的な領域及び1つ以上の自己相補的な領域を含む新しい核酸分子、並びに遺伝子発現を調節し、種々の疾患及び感染症を治療するためのそのような核酸分子及びそれらを含む組成物の使用を対象とする。本発明は、遺伝子発現の調節において有用な自己保護オリゴヌクレオチドを含む新しい組成物及び方法を提供する。一実施形態において、本発明は、標的mRNA配列に相補的な配列を有する領域及び1つ以上の自己相補的な領域を含む単離された自己保護ポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態において、オリゴヌクレオチドは、2つ以上の自己相補的な領域を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、自己保護ポリヌクレオチド、並びに遺伝子発現を調節して疾患を治療するためのそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術)
遺伝子サイレンシング、即ち遺伝子発現の抑制の現象は、治療及び診断目的、並びに遺伝子機能そのものの研究において、多大な期待を担っている。この現象の例には、アンチセンス技術及び転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)が含まれる。
【0003】
遺伝子サイレンシングのアンチセンス手法には、近年大きな関心が寄せられている。基本となる概念は単純であるものの、原則的には有効であり、即ち、アンチセンス核酸(NA)が標的RNAと塩基対合し、不活性化をもたらす。アンチセンスRNA又はDNAによる標的RNAの認識は、ハイブリダイゼーション反応とみなすことができる。標的は配列相補性により結合するため、アンチセンスNAを適切に選択して高い特異性を確保しなければならないことが示唆される。標的RNAの不活性化は、アンチセンスNAの性質(修飾又は未修飾のDNA又はRNA)、及び抑制を起こす生体系の性質に応じて、種々の経路を介して生じる可能性がある。
【0004】
しかし、効果的なアンチセンス及びTGS技術の開発においては、依然として多くの問題が存在する。例えば、DNAアンチセンスオリゴヌクレオチドは短期間の有効性しか示さず、通常は必要な用量において毒性を示し;同様に、アンチセンスRNAの使用は安定性の問題のために有効ではないことが証明されている。ヌクレアーゼの感受性を低減することによりアンチセンスの安定性を改善する試みでは、種々の方法が使用されている。これらには、例えばホスホロチオエート又はメチルホスホネートを使用した通常のホスホジエステル骨格の修飾、2’−OMe−ヌクレオチドの組み込み、ペプチド核酸(PNA)の使用、及び3’−末端キャップ、例えば3’−アミノプロピル修飾又は3’−3’末端連鎖の使用が含まれる。しかし、これらの方法は高価であり、追加の工程を必要とする。更に、非天然のヌクレオチド及び修飾を使用すると、アンチセンス配列をインビボで発現する能力がなくなるため、それらを合成し、後に投与することが必要となる。
【0005】
したがって、特に高等な脊椎動物の細胞における、インビトロ及びインビボでの遺伝子機能のターゲティング指向された抑制のための有効で持続性のある方法及び組成物、例えば安定性の向上した改良されたアンチセンスRNA等が依然として必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、遺伝子発現の調節において有用な自己保護オリゴヌクレオチドを含む新しい組成物及び方法を提供する。
【0007】
一実施形態において、本発明は、標的mRNA配列に相補的な配列を有する領域及び1つ以上の自己相補的な領域を含む単離された自己保護ポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態において、オリゴヌクレオチドは、2つ以上の自己相補的な領域を含む。自己相補的な領域は、ポリヌクレオチドの5’末端若しくは3’末端又はそれらの両端に位置する場合がある。
【0008】
特定の実施形態において、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、RNA、DNA又はペプチド核酸を含む。
【0009】
追加の実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、標的mRNA配列に対して非相補的又は半相補的であり、自己相補的な領域に対して非相補的である第の配列を更に含み、前記第2配列は、自己相補的な領域と標的mRNA配列に相補的な配列の間に位置する。
【0010】
特定の実施形態において、自己相補的な領域はステムループ構造を含む。
【0011】
関連する実施形態において、自己相補的な領域は標的mRNA配列に相補的な配列に対して相補的ではない。
【0012】
ポリヌクレオチドが2つの自己相補的な領域を有する更に関連する実施形態において、2つの自己相補的な領域は互いに相補的ではない。
【0013】
特定の実施形態において、標的mRNA配列に相補的な配列は、少なくとも17個のヌクレオチド又は17〜30個のヌクレオチドを含む。
【0014】
他の実施形態において、自己相補的な領域は、少なくとも5個のヌクレオチド、少なくとも12個のヌクレオチド、少なくとも24個のヌクレオチド、又は、12〜48個のヌクレオチドを含む。
【0015】
更なる実施形態において、ステムループ構造のループ領域は、少なくとも1個のヌクレオチドを含む。他の実施形態において、ループ領域は、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、又は少なくとも6個のヌクレオチドを含む。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、本発明の自己保護ポリヌクレオチドを複数含むアレイを含む。
【0017】
更なる実施形態において、本発明は、本発明の自己保護ポリヌクレオチドを発現することができる発現ベクターを含む。種々の実施形態において、発現ベクターは構成又は誘導ベクターである。
【0018】
本発明は、生理学的に許容される担体及び本発明の自己保護ポリヌクレオチドを含む組成物を更に含む。
【0019】
他の実施形態において、本発明は、細胞に本発明の自己保護オリゴヌクレオチドを導入することを含む、遺伝子の発現を低減する方法を提供する。種々の実施形態において、細胞は、植物、動物、原生動物、ウイルス、細菌又は真菌である。一実施形態において、細胞は哺乳動物である。
【0020】
一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは細胞内に直接導入され、他の実施形態において、ポリヌクレオチドは、細胞内に単離されたポリヌクレオチドを送達する十分な手段により、細胞外から導入される。
【0021】
別の実施形態において、本発明は、細胞内に本発明の自己保護ポリヌクレオチドを導入することを含む、疾患を治療する方法を含み、ここで標的遺伝子の過剰発現は疾患に関連する。一実施形態において、疾患は癌である。
【0022】
本発明は更に、本発明の自己保護ポリヌクレオチドを患者に導入することを含む(ここで単離されたポリヌクレオチドは、感染性物質の進入、複製、組み込み、伝達又は維持を媒介する)、患者における感染を治療する方法を提供する。
【0023】
更に別の関連する実施形態において、本発明は、本発明の自己保護オリゴヌクレオチドを細胞に導入し(ここで単離されたポリヌクレオチドは遺伝子の発現を抑制し)、細胞の特性に対するポリヌクレオチドの導入の効果を測定して、それにより標的遺伝子の機能を測定することを含む、遺伝子の機能を識別する方法を提供する。一実施形態において、この方法は、高性能のスクリーニングを使用して実施される。
【0024】
更なる実施形態において、本発明は、(a)長さ17〜30個のヌクレオチドであり標的遺伝子に相補的な第1配列を選択すること;(b)自己相補的な領域を含み、第1配列に非相補的である長さ12〜48個のヌクレオチドの追加の配列を1つ以上選択すること;及び(c)標的遺伝子に非相補的又は自己相補的であり、工程(b)において選択された追加の配列に非相補的である長さ2〜12個のヌクレオチドの更に追加の配列を1つ以上選択することを含む、標的遺伝子の発現の調節のための1つ以上の自己相補的な領域を含むポリヌクレオチド配列を設計する方法を提供する。
【0025】
別の実施形態において、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、自己相補的な領域を1つ以上欠失している同じポリヌクレオチドよりも、インビボでの半減期が長くなっている。
【0026】
更に関連する実施形態において、本発明は、細胞に自己保護ポリヌクレオチドを導入することを含む(ここで標的mRNAは対応する野生型mRNAと比べて突然変異を1つ以上含む、疾患(例えば突然変異したmRNA又は遺伝子に関連する疾患)を治療する方法を提供する。特定の一実施形態において、この疾患は嚢胞性線維症である。
【0027】
同様に、関連する実施形態において、本発明は、細胞に自己保護ポリヌクレオチドを導入することを含む(ここで前記標的RNA配列は前記突然変異mRNAの領域を含む)、細胞内における突然変異mRNAの発現を調節する方法を含む。特定の一実施形態において、突然変異mRNAは、嚢胞性線維症に関連する。特定の実施形態において、突然変異mRNAは、突然変異体の嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)のポリペプチドをコードする遺伝子から発現されたmRNAである。別の実施形態において、突然変異mRNAは、腫瘍に関連する。別の実施形態において、突然変異mRNAは、突然変異体p53ポリヌクレオチドをコードする遺伝子から発現されたmRNAである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
本発明は、インビボ及びインビトロで原核生物及び真核生物における標的遺伝子の発現を抑制する新しい組成物及び方法を提供する。
【0029】
本発明は部分的に、ステムループ構造を形成することができる1つ以上の自己相補的な領域を更に含むアンチセンスオリゴヌクレオチドがより安定であり、標的遺伝子の発現の抑制において顕著により効果的であるという意外な発見に基づいている。特定の実施形態において、本発明は、インビトロ又はインビボにおいて標的遺伝子の発現を抑制するのに有効な組成物を提供する。その増大した有効性を考慮して、本発明の組成物は、付随する毒性は低減しつつ、より低濃度において、細胞又は対象に送達される場合がある。
【0030】
A.自己保護ポリヌクレオチド
本発明によれば、標的遺伝子から発現されたmRNAに相補的なヌクレオチド配列並びに1つ以上の自己相補的な領域を含む自己保護ポリヌクレオチドが遺伝子発現の調節に使用される。本明細書で使用される自己保護ポリヌクレオチドとは、標的mRNA又は遺伝子配列の領域に相補的な一本鎖領域、及びステムループ構造のような2本鎖領域を形成することができるポリヌクレオチドの5’又は3’末端の一方又は両方に位置する1つ以上の自己相補的な領域を含む、単離されたポリヌクレオチドを意味する。自己保護ポリヌクレオチドは又、本明細書において自己保護オリゴヌクレオチドとも呼ばれる。本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、安定性及び有効性の向上といった、アンチセンスRNA及びRNA干渉分子のような先行技術のポリヌクレオチド抑制剤よりも優れた意外な利点をもたらす。
【0031】
特定の実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、標的遺伝子に相補的な配列の領域を複数含む。特定の実施形態において、これらの領域は、同じ標的遺伝子又はmRNAに相補的であるのに対して、他の実施形態において、これらは2つ以上の異なる標的遺伝子又はmRNAに相補的である。従って、本発明は、1つ以上の標的mRNA又は遺伝子に相補的な一連の配列を含む自己相補的なポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態において、これらの配列は、標的mRNA配列に非相補的又は半相補的であり、自己相補的な領域に非相補的である配列の領域により分離されている。標的遺伝子又はmRNAに相補的な多重配列を含む自己保護ポリヌクレオチドの他の実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、標的遺伝子に相補的な配列の領域1つ以上の5’末端若しくは3’末端又はそれらの両端において自己相補的な領域を含む。特定の実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、標的遺伝子に相補的な各領域の5’及び3’末端において自己相補的な領域を有する、1つ以上の標的遺伝子に相補的な配列の領域を複数含む。
【0032】
本明細書で使用される「自己相補的な」という用語は、ヌクレオチド配列の第1領域がヌクレオチド配列の第2領域と結合してA−T(U)及びG−Cハイブリダイゼーションの対を形成するヌクレオチド配列を指す。相互に結合するヌクレオチド配列の2つの領域は、隣接する場合もあれば、他のヌクレオチドにより分離される場合もある。「非相補的」という用語は、ヌクレオチドの特定の伸長において、標的とアラインしてA−T(U)又はG−Cハイブリダイゼーションを形成するヌクレオチドがないことを指す。「半相補的」という用語は、ヌクレオチドの伸長において、標的とアラインしてA−T(U)又はG−Cハイブリダイゼーションを形成する少なくとも1組のヌクレオチド対があるものの、生理学的条件下でのヌクレオチドの伸長における結合を支援するのに十分な数の相補ヌクレオチド対はないことを指す。
【0033】
「単離された」というという用語は、ある物質の天然の状態において物質に通常付随している成分を少なくとも部分的に含有しない物質を指す。単離は原料又は周囲からの分離の程度を意味する。本明細書で使用される「単離された」とは、例えばDNAに関する場合、他のコーディング配列からは実質的に離れているポリヌクレオチド、及びDNA分子が非関連のコーディングDNAの大部分、例えば大型の染色体フラグメント又はその他の機能的遺伝子又はポリペプチドコーディング領域を含有しないことを指す。当然ながら、これは元々単離されているDNA分子を指し、後に人為的にセグメントに付加された遺伝子又はコーディング領域を排除するものではない。
【0034】
種々の実施形態において、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、RNA、DNA若しくはペプチド核酸、又はこれらの型の分子の何れか又は全ての組合せを含む。更に、自己保護ポリヌクレオチドは、修飾された核酸、又は核酸の誘導体又は類縁体を含む場合がある。
【0035】
核酸の修飾の例には、ビオチン標識、蛍光標識、ポリペプチドに第1アミンを導入するアミノ修飾物質、ホスフェート基、デオキシウリジン、ハロゲン化ヌクレオシド、ホスホロチオエート、2’−OMeRNA類縁体、キメラRNA類縁体、ウオッブル基及びデオキシイノシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される[類縁体」という用語は、本明細書のポリヌクレオチドと同じ構造及び/又は機能(例えば標的への結合)を保持する分子、化合物又は組成物を指す。類縁体の例には、ペプチドミメティック、ペプチド核酸並びに小型及び大型の有機又は無機化合物が含まれる。
【0037】
本明細書で使用される「誘導体」又は「変異体」という用語は、1つ以上の核酸の欠失、付加、置換又は側鎖修飾により天然のポリヌクレオチド(例えば標的遺伝子配列)とは異なるポリヌクレオチドを指す。特定の実施形態において、変異体は、標的遺伝子配列の領域に少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する。即ち、例えば特定の実施形態において、本発明の自己保護オリゴヌクレオチドは、標的遺伝子配列の変異体に相補的である領域を含む。
【0038】
何れの場合においても、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、標的遺伝子又はポリヌクレオチド配列(又はその変異体)の1つ以上の領域に相補的であり、より好ましくは完全に相補的である配列領域を含む。特定の実施形態において、標的遺伝子(又はmRNA)に相補的な配列領域の選択は、選択された標的配列の解析、並びに二次構造、Tm結合エネルギー及び相対的安定性の測定に基づく。このような配列は、宿主細胞における標的mRNAへの特異的結合を低減又は禁止する、2量体、ヘアピン又はその他の二次構造を形成することが相対的に不可能であることに基づいて選択してよい。mRNAの極めて好ましい標的領域には、AUG翻訳開始コドンにある又はその周辺にある領域、及びmRNAの5’領域に実質的に相補的である配列が含まれる。これらの二次構造の解析及び標的部位の選択の検討は、例えばOLIGOプライマー解析ソフトウェアのv.4及び/又はBLASTIN2.0.5アルゴリズムソフトウェアを使用して実施することができる(Altschul, et al., Nucleic Acids Res. 1997, 25(17): 3389−402)。
【0039】
別の実施形態において、標的部位は、AAジヌクレオチド配列の存在に関して標的mRNA転写物配列をスキャンすることにより選択される。3’末端の隣接する約19個のヌクレオチドと組み合わせた各AAジヌクレオチドは、潜在的なsiRNA標的部位である。一実施形態において、調節領域を結合するタンパク質はポリヌクレオチドの結合を妨害する場合があるため、標的部位は5’及び3’非翻訳領域(UTR)又は開始コドン周辺の領域(約75塩基内)内に位置しないことが優勢である。更に、潜在的な標的部位は、www.ncbi.nlmのNCBIサーバーで入手できるBLASTN2.0.5のような適切なゲノムデータベースと比較される場合があり、他のコーディング配列との有意な相同性を有する潜在的な標的配列は除外される。
【0040】
標的遺伝子又はmRNAは、何れかの種、例えば植物、動物(例えば哺乳動物)、原生動物、ウイルス、細菌又は真菌のものである場合がある。
【0041】
上述の通り、標的遺伝子配列、及び自己保護ポリヌクレオチドの相補領域は、相互の完全な相補体である場合もあれば、鎖が生理学的条件下で相互にハイブリダイズする限りにおいて、完全な相補体ではない場合もある。
【0042】
本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、標的mRNA又は遺伝子に相補的な領域、並びに1つ以上の自己相補的な領域を含む。更に、それらは場合により、標的mRNA又は遺伝子に相補的な領域と自己相補的な領域の間に位置する1つ以上のギャップ領域を含む場合がある。
【0043】
一般的に、標的mRNA又は遺伝子に相補的な領域は、長さ17〜30個のヌクレオチドであり、これらの範囲内の整数値も含まれる。この領域は少なくとも長さ16個のヌクレオチド、少なくとも長さ17個のヌクレオチド、少なくとも長さ20個のヌクレオチド、少なくとも長さ24個のヌクレオチド、長さ16〜24個のヌクレオチド、又は長さ17〜24個のヌクレオチドである場合があり、これらの範囲内の何れかの整数値も含まれる。
【0044】
自己相補的な領域は、一般的に長さ14〜30個のヌクレオチド、少なくとも長さ14個のヌクレオチド、少なくとも長さ16個のヌクレオチド、又は少なくとも長さ20個のヌクレオチドであり、これらの範囲内の何れかの整数値も含まれる。特定の実施形態において、自己相補的な領域は、ポリヌクレオチドの5’又は3’末端に位置する。ポリヌクレオチドが2つの自己相補的な領域を含む場合、特定の実施形態において、1つは5’末端に位置し、1つは3’末端に位置する。
【0045】
好ましい実施形態において、自己相補的な領域は、2本鎖構造を形成するために十分な長さを有する。一実施形態において、自己相補的な領域は、自己相補的な配列の2本鎖領域及び一本鎖配列のループを含むステムループ構造を形成する。従って、一実施形態において、自己相補的な領域の一次配列は、相補的ではないか半相補的である追加の配列により分離される相互に相補的である配列の2つの伸長を含む。最適には至らないが、追加の配列は特定の実施形態において相補的であってもよい。追加の配列はステムループ構造のループを形成するため、2つの相補的な伸長が相互に結合できるようにために必要な折畳を容易にするために十分な長さを有する必要がある。特定の実施形態において、ループ配列は、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、又は少なくとも6個の塩基を含む。一実施形態において、ループ配列は4個の塩基を含む。(自己相補的な領域内、即ちステム領域内の)相互に相補的な配列の2つの伸長は、生理学的条件下で相互に特異的にハイブリダイズするために十分な長さを有する。特定の実施形態において、各伸長は4〜12個のヌクレオチドを含み;他の実施形態において各伸長は少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも8個、又は少なくとも10個のヌクレオチドを含み、又はこれらの範囲内の何れかの整数値も含む。特定の実施形態において、自己相補的な領域は、少なくとも4個のヌクレオチドのループ配列により分離された少なくとも4個の相補ヌクレオチドの2つの伸長を含む。更に、自己保護ポリヌクレオチドが自己相補的な領域を複数含む場合、好ましい実施形態において、これらの2つの領域は、相互に相補的ではない。更に、好ましい実施形態において、自己相補的な領域は、標的mRNA又は遺伝子に相補的である自己保護ポリヌクレオチドの領域に相補的ではない。
【0046】
特定の実施形態において、任意のギャップ領域は、少なくとも長さ1個、少なくとも長さ2個、少なくとも長さ3個、少なくとも長さ4個のヌクレオチド、又は長さ1〜6個のヌクレオチドを含み、これらの範囲内の何れかの整数値も含む。種々の実施形態において、ギャップ領域は、標的mRNA又は遺伝子に相補的ではないか、又は標的mRNA又は遺伝子に半相補的である。一実施形態において、ギャップ領域は、自己相補的な領域のステム領域に相補的ではない。
【0047】
特定の実施形態において、自己相補的な領域は、例えばステムループ構造を形成するための自己相補的な領域の結合に適した熱力学的パラメータを有している。
【0048】
一実施形態において、自己相補的な領域は、自由エネルギー解析を介したRNAの使用により熱力学的に計算された後、残存する「非自己相補的な領域」又はループ領域内に含まれるエネルギーと比較されることにより、エネルギー組成が所望の構造、例えばステムループ構造を形成するのに十分であることが確認される。一般的に、ステムループ構造の組成物を決定するに当たっては、mRNA標的領域の異なるヌクレオチド配列が考慮されており、これによりそれらの形成を確実に行っている。自由エネルギー解析式は、ここでもヌクレオチドの型、又はそれが使用される環境のpHに相応するように改変される場合がある。当該技術分野では、多くの異なる二次構造の予測プログラムが使用可能であり、それぞれが本発明に従って使用される場合がある。RNA及びDNA塩基の熱力学的パラメータも又、一部が当該技術分野で使用可能な標的配列選択アルゴリズムと組み合わせて一般的に入手可能である。
【0049】
一実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、(a)mRNA分子の少なくとも一部分に相補的であり、これと生理学的条件下でハイブリダイズすることができる長さ17〜30個のヌクレオチド(これらの範囲内の何れかの整数値も含む)を含む配列を含むか、これらからなり、(b)長さ1〜4個のヌクレオチドを含む2つのギャップ領域によりフランキングされ、(c)長さ16〜24個のヌクレオチド(これらの範囲内の何れかの整数値も含む)を含む2つの自己相補的な配列を含むか、これらを含む。一実施形態において、各自己相補的な配列は、ステムループ構造を形成することができ、その内の1つが自己保護ポリヌクレオチドの5’末端に位置し、もう1つが3’末端に位置する。
【0050】
特定の実施形態において、自己相補的な領域は、細胞内の条件のような生理学的条件下において自己保護オリゴヌクレオチドの分解を抑制又は低減する機能を有する。特定の理論に拘束されるものではないが、自己相補的な領域により採用される構造によって、ヌクレアーゼ分解に対するポリヌクレオチドの耐性が自己相補的な領域を欠失しているものよりも高くなると考えられる。更に、自己相補的な領域により採用される構造が存在することで、細胞の取り込みが促進され、望ましくない副作用が低減されると考えられる。従って、種々の実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、本明細書に記載する通り、自己相補的な領域を欠失した同じポリヌクレオチドよりも、インビボでの半減期が長くなっている。半減期は、種々の実施形態において、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、又は少なくとも10倍長くなる場合がある。
【0051】
好ましい実施形態において、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、標的mRNAに結合して、その発現を低減する。標的遺伝子は、既知の標的遺伝子である場合もあれば、或いは既知ではない場合もあり、即ち、ランダム配列が使用される場合もある。特定の実施形態において、標的mRNAのレベルは、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%低下する。
【0052】
本発明の一実施形態において、標的遺伝子発現(即ちmRNA発現)の抑制レベルは、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又であり、又はほぼ100%であり、従って細胞又は生物は、実質的に遺伝子のいわゆる「ノックアウト」と等しい表現型を有することになる。しかし、一部の実施形態では、表現型が遺伝子のいわゆる「ノックアウト」と等しくなるように一部の抑制のみが達成されることが望ましい場合もある、遺伝子発現をノックダウンするこの方法は、治療又は研究のため(例えば、疾患状態のモデルを作成するため、遺伝子の機能を調べるため、薬剤が遺伝子に対して作用するかどうかを試験するため、標的の薬剤送達を確認するため)に使用することができる。
【0053】
本発明は更に、マイクロアレイを含む、本発明の自己保護ポリヌクレオチドのアレイを提供する。マイクロアレイは、一般的に化学及び生化学反応を実施するためのマイクロメートルからミリメートル範囲の大きさを有する小型のデバイスであり、本発明の実施形態に特に適している。アレイは、半導体産業及び/又は生化学産業において既知であり使用可能な実質的に全ての手法を使用した超小型電子技術及び/又は超小型加工技術を介して構築される場合があるが、但し、そのような技法がポリヌクレオチド配列の堆積及び/又はスクリーニングに適しており、適合している場合にのみ可能となる。
【0054】
本発明のマイクロアレイは、2つ以上の自己保護ポリヌクレオチドの高性能解析に特に望ましいものである。マイクロアレイは、一般的に本発明の自己保護ポリヌクレオチドを含む個別の領域又はスポットを有するように構築し、各スポットは好ましくはアレイ表面上の位置指定可能な場所において1つ以上の自己保護ポリヌクレオチドを含む。本発明のアレイは、当該技術分野で使用可能な何れかの方法により作成される場合がある。例えば、Affymetrixにより開発された光指向化学合成方法(米国特許5,445,934及び5,856,174を参照)を使用して、光リソグラフ加工技法に固相光化学合成を組み合わせることにより、チップ表面上で生物分子を合成する場合がある。Incyte Pharmaceuticalにより開発された化学堆積手法は、チップ表面上への指向性堆積のために事前に合成したcDNAプローブを使用している(例えば米国特許5,874,554を参照)。
【0055】
特定の実施形態において、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、当該技術分野で広範に使用されている技法を使用して合成される。他の実施形態において、これは、適切且つ広範に知られた技法を使用して、インビトロ又はインビボで発現される。従って、特定の実施形態において、本発明は、本発明の自己保護ポリヌクレオチドの配列を含む、インビトロ及びインビボの発現ベクターを含む。当業者に良く知られる方法を使用して、自己保護ポリヌクレオチドをコードする配列並びに適切な転写及び翻訳制御因子を含有する発現ベクターが構築される場合がある。これらの方法には、インビトロ組み換えDNA技法、合成技法及びインビボ遺伝子組み換えが含まれる。このような技法については、例えば、Sambrook, J., et al. (1989) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y.、及びAusubel, F. M., et al. (1989) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y.に記載されている。
【0056】
発現ベクターには一般的に、自己保護ポリヌクレオチドの発現を調節する調節配列が含まれる。発現ベクター内に存在する調節配列には、ベクターの非翻訳領域、例えばエンハンサー、プロモーター、5’及び3’非翻訳領域が含まれ、これらは宿主細胞タンパク質と相互作用して転写及び翻訳を実施する。このような因子は、その強度及び特異性が変動する場合がある。利用するベクター系及び細胞に応じて、任意の数の好適な転写及び翻訳因子、例えば構成及び誘導プロモーターが使用される場合がある。更に、組織特異的又は細胞特異的なプロモーターが使用される場合もある。
【0057】
哺乳動物細胞における発現においては、哺乳動物遺伝子由来又は哺乳動物ウイルス由来のプロモーターが一般的に好ましい。更には、2つ以上のウイルス系の発現系も一般的に使用できる。例えば、アデノウイルスを発現ベクターとして使用する場合、対象となるポリペプチドをコードする配列を、後期プロモーター及び3要素のリーダー配列よりなるアデノウイルス転写/翻訳複合体内にライゲーションする場合がある。ウイルスゲノムの非必須E1又はE3領域の挿入を使用して、感染した宿主細胞でのポリペプチドの発現が可能な生存ウイルスを得る場合もある(Logan, J. and Shenk, T. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 82: 3655−3659)。更に、転写エンハンサー、例えばラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターを使用して、哺乳動物宿主細胞内の発現を増大させる場合がある。
【0058】
特定の実施形態において、本発明は、自己保護ポリヌクレオチドのコンディショナル発現を提供する。細胞及び動物の両方で使用される種々のコンディショナル発現系が当該技術分野で知られ、使用可能であり、本発明は自己保護ポリヌクレオチドの発現又は活性を調節するためのかかる何れかのコンディショナル発現系の使用を意図している。本発明の一実施形態において、例えば誘導発現は、REV−TET系を使用して達成される。この系の要素並びに遺伝子の発現を制御するためにこの系を使用する方法は、文献に詳細に記載されており、テトラサイクリン制御性転写活性因子(tTA)又は逆tTA(rtTA)を発現するベクターが市販されている(例えばpTet−Off、pTet−On及びptTA−2/3/4ベクター、Clontech[米国カリフォルニア州パロアルト])。このような系は、例えば参考として全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5650298号、第6271348号、第5922927号及び関連特許に記載されている。
【0059】
特定の一実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、pSUPERベクター骨格を含むベクター系及び発現する自己保護ポリヌクレオチドに対応する追加の配列を使用して発現される。pSUPERベクター系は、siRNA試薬を発現する場合、及び遺伝子発現をダウンレギュレートする場合に有用であることが分かっている(Brummelkamp, T. T., et al., Science 296: 550 (2202)、及びBrummelkamp, T. R., et al., Cancer Cell, published online August 22, 2002)。pSUPERベクターは、OligoEngine[米国ワシントン州シアトル]から市販されている。
【0060】
B.遺伝子発現を調節する方法
本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、種々の目的に使用される場合があり、一般的には全てが標的遺伝子の発現を抑制又は低減する能力に関連している。従って、本発明は、標的遺伝子又はその相同体、変異体若しくはオーソログを含有する細胞に本発明の自己保護ポリヌクレオチドを導入することを含む、1つ以上の標的遺伝子の発現を低減する方法を提供する。更に、自己保護ポリヌクレオチドは、発現を間接的に低減するために使用される場合がある。例えば、自己保護ポリヌクレオチドは第の遺伝子の発現を駆動する転写活性因子の発現を低減することにより、第の遺伝子の発現を低減するために使用される場合がある。同様に、自己保護ポリヌクレオチドは、発現を間接的に増大させるために使用される場合がある。例えば、自己保護ポリヌクレオチドは、第の遺伝子の発現を抑制する転写リプレッサーの発現を低減することにより、第の遺伝子の発現を増大させるために使用される場合がある。
【0061】
種々の実施形態において、標的遺伝子は、自己保護ポリヌクレオチドを導入する細胞から誘導した遺伝子、内因性遺伝子、外因性遺伝子、トランスジーン、又は細胞のトランスフェクション後に細胞中に存在する病原体の遺伝子の何れかとなる。特定の標的遺伝子及び細胞内に送達される自己保護ポリヌクレオチドの量に応じて、本発明の方法は、標的遺伝子の発現の抑制を部分的又は完全に誘発する場合がある。標的遺伝子を含有する細胞は、何れかの生物(例えば植物、動物、原生動物、ウイルス、細菌又は真菌)から誘導されるものの場合もあれば、それに含有されるものの場合もある。
【0062】
標的遺伝子の発現の抑制は、例えば、本発明の分野の当業者の知る技法を使用して、標的遺伝子によりコードされるタンパク質、及び/又は標的遺伝子由来のmRNA産物、及び/又は遺伝子の発現に関連する表現型、のレベルの非存在又は観察可能な低下を観察又は検出することが含まれるがこれらに限定されない手段により確認することができる。
【0063】
本発明の自己保護ポリヌクレオチドの導入により誘発される作用を測定するために検査される場合がある細胞の特徴の例には、細胞増殖、アポトーシス、細胞周期の特性、細胞分化及び形態学的特徴が含まれる。
【0064】
自己保護ポリヌクレオチドは、直接細胞に(即ち細胞内に)導入される場合もあれば、細胞外の体腔、間質空間内に導入される、生物の循環系に導入される、経口導入される、自己保護ポリヌクレオチドを含有する溶液に生物を浸積することにより導入される、又は細胞内に自己保護ポリヌクレオチドを送達するために十分なその他の手段により導入される場合もある。
【0065】
更に、自己保護ポリヌクレオチドを発現するように操作されたベクターが細胞内に導入される場合もあり、その場合このベクターが自己保護ポリヌクレオチドを発現することによって、細胞内にこれを導入する。細胞内に発現ベクターを転移させる方法は広範に知られ、当該技術分野で使用可能であり、例えば、トランスフェクション、リポフェクション、スクレープローディング、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、感染、遺伝子銃及びレトロトランスポジションが含まれる。一般的に、細胞内にベクターを導入する好適な方法は、ベクターの型及び細胞の型、並びに当該技術分野で広範に入手できる教示内容に基づいて当業者により容易に決定される。感染性物質は、当該技術分野で容易に使用可能な種々の手段、例えば経鼻吸入により導入される場合がある。
【0066】
本発明の自己保護オリゴヌクレオチドを使用した遺伝子発現を抑制する方法は、他のノックダウン及びノックアウト方法、例えば遺伝子ターゲティング、アンチセンスRNA、リボザイム、2本鎖RNA(例えばshRNA及びsiRNA)と組み合わせることにより、標的遺伝子の発現を更に低減する場合がある。
【0067】
種々の実施形態において、本発明の標的細胞は、初代細胞、細胞系統、不朽化細胞又は形質転換細胞である。標的細胞は体細胞である場合もあれば、生殖細胞である場合もある。標的細胞は非分裂細胞、例えばニューロンでる場合もあれば、好適な細胞培養条件においてインビトロで増殖できる場合もある。標的細胞は正常細胞である場合もあれば、疾患細胞、例えば既知の遺伝子突然変異を含有するものである場合もある。本発明の真核生物の標的細胞には、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞、ネズミ細胞、げっ歯類細胞及び霊長類細胞が含まれる。一実施形態において、本発明の標的細胞は幹細胞であり、これには例えば胚性幹細胞、例えばネズミ胚性幹細胞が含まれる。
【0068】
本発明の自己保護ポリヌクレオチド及び方法は、例えば、炎症性疾患、心臓血管疾患、神経系疾患、腫瘍、脱髄疾患、消化系疾患、内分泌系疾患、生殖系疾患、血液リンパ疾患、免疫学的疾患、精神障害、骨格筋疾患、神経学的障害、神経筋疾患、代謝疾患、性感染症、皮膚及び結合組織の疾患、泌尿器疾患及び感染症を含むがこれらに限定されない広範な種類の疾患又は障害の何れかを治療するために使用される場合がある。
【0069】
これらの方法は、特定の実施形態では動物にて、特定の実施形態では哺乳動物にて、特定の実施形態ではヒトにて実施される。
【0070】
従って、一実施形態において、本発明には、遺伝子の脱調節、過剰発現又は突然変異に関連する疾患の治療又は予防のために自己保護オリゴヌクレオチドを使用する方法が含まれる。例えば、自己保護ポリヌクレオチドを癌性細胞又は腫瘍に導入することによって、癌原性/腫瘍発生性の表現型の維持に必要な、又はそれに関連する遺伝子の発現が抑制される場合がある。疾患又はその他の病状を予防するために、標的遺伝子は、例えば疾患/病状の開始又は維持に必要なものが選択される場合がある。治療には、疾患に関連する何れかの症状又は病状に関連する臨床適応症の緩解が含まれる。
【0071】
更に、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、遺伝子突然変異に関連する疾患又は障害を治療するために使用される。一実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、突然変異した遺伝子又は対立遺伝子の発現を調節するために使用される。当該実施形態において、突然変異した遺伝子は、突然変異した遺伝子の領域に相補的な領域を含む自己保護ポリヌクレオチドの標的である。この領域は突然変異を含む場合があるが、必須ではなく、遺伝子の別の領域も又ターゲティングされ、それにより突然変異体の遺伝子又はmRNAの発現の低下をもたらす場合がある。特定の実施形態において、この領域は突然変異を含み、関連する実施形態において、得られた自己保護オリゴヌクレオチドは、突然変異体のmRNA又は遺伝子の発現を特異的に抑制するが、野生型のmRNA又は遺伝子は抑制しない。このような自己保護ポリヌクレオチドは、例えば対立遺伝子が突然変異しているものとしていないものがある状況において特に有用である。しかし、他の実施形態において、この配列は必ずしも突然変異を含んでいなくてもよく、従って、野生型配列のみを含む場合がある。このような自己保護ポリヌクレオチドは、例えば全ての対立遺伝子が突然変異している状況において特に有用である。当該技術分野では、種々の疾患及び障害が遺伝子の突然変異に関連するか、これにより誘発されることが知られており、本発明はこのような疾患又は障害何れかの自己保護ポリヌクレオチドによる治療を包含する。例えば、一実施形態において、嚢胞性線維症は、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節(CFTR)遺伝子をターゲティングする自己保護ポリヌクレオチドを使用して治療される。別の実施形態において、癌はp53遺伝子又は対立遺伝子をターゲティングする自己保護ポリヌクレオチドを使用して治療される。特定の実施形態において、p53遺伝子又は対立遺伝子は、突然変異体のp53遺伝子又は対立遺伝子である。
【0072】
特定の実施形態では、病原体の遺伝子が抑制のためにターゲティングされる。例えば、遺伝子は宿主の免疫抑制を直接誘発するか、又は病原体の複製、病原体の伝達、若しくは感染の維持に必須である可能性がある。更に、標的遺伝子は宿主への病原体の進入、病原体又は宿主による薬剤代謝、病原体のゲノムの複製又は組込み、宿主内における感染の樹立又は拡大、又は次世代の病原体の構築を担う病原性遺伝子又は宿主遺伝子である場合もある。予防の方法(即ち感染の防止又は危険性の低減)並びに感染に関連する症状の頻度又は重症度の低減は、本発明に包含される。例えば、病原体による感染の危険性がある細胞又は既に感染している細胞、特にヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は、本発明に基づく自己保護ポリヌクレオチドの導入による治療のためにターゲティングされる場合がある。
【0073】
他の特定の実施形態において、本発明は、何れかの型の癌の治療又は治療法の開発のために使用される。本明細書に記載した方法を使用して治療できる腫瘍の例には、神経芽腫、骨髄腫、前立腺癌、小細胞肺癌、結腸癌、卵巣癌、非小細胞肺癌、脳腫瘍、乳癌、白血病、リンパ腫等が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
自己保護ポリヌクレオチド及び発現ベクター(ウイルスベクター及びウイルスを含む)は、インビトロ又はex vivoにて細胞に導入され、その後動物に投入して治療に付す場合もあれば、インビボ投与により患者に直接導入される場合もある。即ち、本発明は、特定の実施形態において、遺伝子療法の方法を提供する。本発明の組成物は、2つ以上の方法の何れかにより患者に投与される場合あり、例えば、非経腸、静脈内、全身、局所、経口、腫瘍内、筋肉内、皮下、腹腔内、吸入、又は何れかのこのような送達方法が含まれる。一実施形態において、組成物は、非経腸投与、即ち関節内、静脈内、腹腔内、皮下又は筋肉内投与される。特定の実施形態において、リポソーム組成物は、静脈内注入により投与されるか、又は瞬時注射により腹腔内投与される。
【0075】
本発明の組成物は、患者への送達に好適な医薬組成物として製剤化される場合がある。本発明の医薬組成物は、1つ以上の緩衝液(例えば中性乾燥食塩水又はリン酸塩緩衝食塩水)、炭水化物(例えばグルコース、マンノース、スクロース、デキストロース又はデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチド又はアミノ酸(例えばグリシン)、抗酸化剤、静菌剤、キレート形成剤(例えばEDTA又はグルタチオン)、アジュバント(例えば水酸化アルミニウム)、製剤をレシピエントの血液と等張、低張又は弱低張にする溶質、懸濁剤、濃厚化剤及び/又は保存料を更に含むことが多くなる。或いは、本発明の組成物は、凍結乾燥物として製剤化される場合がある。
【0076】
患者に投与される自己保護オリゴヌクレオチドの量は、種々の要因、例えば疾患、及び使用するベクターから発現される自己保護オリゴヌクレオチドのレベル(ベクターを投与する場合)を基に、医師が容易に決定することができる。用量当たりの投与量は、一般的に最低治療用量を上回るが毒性用量を超えない量となるように選択される。用量当たりの量の選択は、2つ以上の要因、例えば患者の病歴、その他の療法の使用、及び疾患の性質等により異なる。更に、投与量は、患者の治療への応答、及び治療に関連する副作用の有無又は重症度に応じて、治療期間を通して調整される場合がある。
【0077】
本発明には更に、これまで未知であった機能の標的遺伝子の活性を抑制するための自己保護ポリヌクレオチドの使用を含む、生物における遺伝子機能を同定する方法が含まれる。従来の遺伝子スクリーニングによる時間と手間のかかる単離に代わり、機能ゲノム学は、標的遺伝子活性の量を低減し、及び/又はその時期を改変するために本発明を使用することにより、特徴付けされていない遺伝子の機能を測定することを想定している。本発明は、医薬品の潜在的標的の決定、発達に関連する正常及び病理学的事象の解明、生後の発達/加齢に関与するシグナリング経路の決定等において使用される場合がある。ゲノム及び発現した遺伝子の供給源、例えばコウボ、D・メラノガスター及びC・エレガンスのゲノムからヌクレオチド配列情報を取得する、次第に速まる速度を本発明と組み合わせることで、生物(例えば線虫)中の遺伝子の機能を決定することができる。特定のコドンを使用するための種々の生物の優先性、関連する遺伝子産物の配列データベースの検索、遺伝形質の連鎖マップとヌクレオチド配列誘導元の物理的地図との相関、及び人工知能法を使用して、このような配列決定プロジェクトで取得されるヌクレオチド配列から推定オープンリーディングフレームを定義する場合もある。
【0078】
一実施形態において、例えば遺伝子の機能又は生物学的活性を特定するために、自己保護オリゴヌクレオチドが使用され、発現配列タグ(EST)から得られる部分配列に基づいて遺伝子発現が抑制される。成長、発達、代謝、疾患耐性又はその他の生物学的プロセスにおける機能的な改変は、ESTの遺伝子産物の正常な役割を示す。
【0079】
標的遺伝子を含有する未損傷の細胞/生物内に自己保護ポリヌクレオチドを容易に導入できることから、本発明はハイスループットスクリーニング(HTS)に使用することができる。例えば、異なる発現遺伝子を抑制できる自己保護ポリヌクレオチドを含有する溶液は、順序付けされたアレイとして微量定量プレート配置された個々のウェルに入れることができ、各ウェル内の未損傷の細胞/生物について、標的遺伝子活性の抑制に起因する挙動又は発達における何らかの変化又は修飾があるかどうかを評価することができる。標的遺伝子の機能は、遺伝子活性が抑制された場合に細胞/生物に及ぼす作用から評価することができる。一実施形態において、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、化学ゲノムスクリーニングに使用され、即ち、本発明の自己保護ポリヌクレオチドを使用した遺伝子発現の低減によりモデル化される、疾患を退行させる化合物の能力が試験される。
【0080】
RFLP又はQTL解析により生物の特性が多形に遺伝子的に関連していると判明した場合、本発明は、その遺伝子的多形が特性を直接担っているかどうかに関する知見を得るために使用することができる。例えば、遺伝子多形を定義するフラグメント、又はそのような多形の周辺の配列を増幅して、RNAを作成し、自己保護ポリヌクレオチドを生物に導入して、特性の改変が抑制に相関するかどうかを調べることができる。
【0081】
本発明は又、必須遺伝子の抑制を可能にする場合にも有用である。そのような遺伝子は、特定の発達段階又は細胞コンパートメントにおいてのみ細胞又は生物の生存能力に必須となる場合がある。標的遺伝子の活性を、これが生存能力に必須でない場合又は場所において抑制することにより、コンディショナル突然変異の機能的等価物が産生される場合がある。本発明は、標的のゲノムに永久突然変異を導入することなく、生物の特定の発生時期及び場所における自己保護ポリヌクレオチドの付加を可能にする。同様に、本発明は、所望の時にのみ自己保護ポリヌクレオチドを発現する誘導又はコンディショナルベクターの使用を意図している。
【0082】
本発明は又、遺伝子産物が創薬又は新薬開発のための標的であるかどうかを確認する方法に関する。分解のために遺伝子に対応するmRNAをターゲティングする自己保護ポリヌクレオチドが、細胞又は生物内に導入される。細胞又は生物をmRNAの分解が起こる条件下に維持することで、遺伝子の発現が低下する。この遺伝子発現の低下により細胞又は生物に作用が及ぶかどうかが調べられる。遺伝子発現の低下が作用を及ぼす場合は、遺伝子産物が創薬又は新薬開発の標的となる。
【0083】
C.自己保護ポリヌクレオチドの設計及び生成方法
本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、自己保護ポリヌクレオチドの利点を付与する1つ以上の2本鎖領域を含有する二次構造(一般的にステムループ構造)を採用するように配置された、一連の新規で固有の機能的配列を含む。従って、特定の実施形態において、本発明には、本発明の自己保護ポリヌクレオチドを設計する方法が含まれる。そのような方法では一般的に、自己保護ポリヌクレオチドの種々の配列成分の適切な選択が行われる。
【0084】
一実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドの基本設計は、以下の通りとなる:
設計モチーフ:
(ステムA)(ループA)(ステムB)(X)(標的)(X)(ステムC)(ループB)(ステムD)
x=任意のスペーサー
従って、関連する実施形態において、自己保護ポリヌクレオチドは、以下の通り設計される:
a.標的ヌクレオチド配列から始める。この長さ及び組成は、全ステム及びループ領域の長さ及び配列組成に影響する。
【0085】
b.ステムA及びDは、酵素適合性のために特定のヌクレオチドを必要とする場合がある。
【0086】
c.標的の等しい長さ領域に支配的な融点を持つ(4〜12個の)ヌクレオチドを含むステムA及びBの候補を構築する。ステム鎖は、相互にA−T、G−C相補性を有する。
【0087】
d.標的の等しい長さ領域に支配的な融点を持つ(4〜12個の)ヌクレオチドを含むステムC及びDの候補を構築する。ステム鎖は、相互にA−T、G−C相補性を有するが、ステムA及びBに対する相補性は有さない。
【0088】
e.(4〜8個の)A−Tリッチのヌクレオチドを使用してループ候補を構築し、ループA及びBとする。
【0089】
f.各モチーフ候補の隣接配列を構築する。
【0090】
g.所望のパラメータを有するソフトウェアを使用して候補配列を折り畳む。
【0091】
h.出力から、所望のステム/ループ構造を有する一端又は両端でフランキングされた一本鎖標的領域を有する構造を特定する。
【0092】
一実施形態において、標的遺伝子の発現を調節するための自己相補的な領域を1つ以上有するポリヌクレオチド配列(即ち自己保護ポリヌクレオチド)を設計する方法には、(a)長さ17〜30個のヌクレオチドからなり、標的遺伝子に相補的な第1配列を選択すること;及び(b)自己相補的な領域を含み、第1配列に非相補的である、長さ12〜48個のヌクレオチドの追加の配列を1つ以上選択することが含まれる。別の実施形態において、この方法は更に、(c)標的遺伝子に非相補的又は半相補的であり、工程(b)で選択された追加の配列に非相補的である、長さ2〜12個のヌクレオチドの更に追加の配列を1つ以上選択することが含まれる。
【0093】
これらの方法には、特定の実施形態において、工程(b)で選択された配列により採用された二次構造を決定又は予測することにより、例えばそれらの配列がステムループ構造を採用できることを判定することが含まれる。
【0094】
同様に、これらの方法には、例えばインビボ又はインビトロ試験系において、設計したポリヌクレオチド配列の標的遺伝子発現抑制能力を試験することを含む確認工程が含まれてもよい。
【0095】
本発明は更に、本明細書に記載した相補性に基づき自己保護ポリヌクレオチドの配列を選択するためのコンピュータプログラムの使用を意図する。即ち、本発明は、自己保護ポリヌクレオチド配列を選択するために使用されるコンピュータソフトウェアプログラム、及び前記ソフトウェアプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な媒体、並びに本発明のプログラムの1つを格納するコンピュータを提供する。
【0096】
特定の実施形態において、ユーザーは、標的遺伝子の配列、場所又は名称に関する情報をコンピュータに提供する。コンピュータは、この入力を本発明のプログラムにおいて使用することにより、ターゲティングする標的遺伝子の適切な領域を1つ以上同定し、本発明の自己保護ポリヌクレオチドにおいて使用する相補配列を出力又は提供する。次に、コンピュータプログラムは、この配列情報を使用して、自己保護ポリヌクレオチドの自己相補的な領域1つ以上の配列を選択する。一般的に、プログラムは、標的遺伝子、又は標的mRNAに相補的な自己保護ポリヌクレオチドの領域を含む、ゲノム配列とは相補的でない配列を選択する。更に、プログラムは、相互に相補的ではない自己相補的な領域の配列を選択する。所望により、プログラムは又、ギャップ領域の配列も提供する。適切な配列を選択すると、コンピュータプログラムは、ユーザーにこの情報を出力又は提供する。
【0097】
本発明のプログラムは更に、標的遺伝子を含有する生物のゲノム配列に関する入力、例えば公的又は私的なデータベース、並びに特定の配列の二次構造及び/又はハイブリダイゼーション特性を予測する追加のプログラムを使用することにより、自己保護ポリヌクレオチドが正しい二次構造を採用しており、非標的遺伝子にハイブリダイズしないことを確認する。
【0098】
本発明は、本明細書に記載の通り自己保護ポリヌクレオチドが標的遺伝子の発現を低減するのに極めて有効であるという意外な発見に部分的に基づいている。自己保護ポリヌクレオチドは、安定性又はヌクレアーゼ耐性及び有効性の向上といった、以前に記載したアンチセンスRNAよりも優れた有意な利点をもたらす。更には、自己保護ポリヌクレオチドを使用することで、dsRNA分子に伴うオフターゲット抑制が実質的に不要となっていることから、本発明の自己保護ポリヌクレオチドは、siRNAに使用される従来のdsRNA分子よりも優れた追加の利点ももたらす。
【0099】
本発明の実施では、当該技術分野の範囲に含まれる細胞生物学、分子生物学、微生物学及び組み換えDNAの種々の従来の技法が使用される。そのような手法については、文献に詳細に記載されている。例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., ed. by Sambrook, Fritsch, and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989);及びDNA Cloning, Volumes I and II (D. N, Glover ed. 1985)を参照されたい。
【実施例】
【0100】
実施例1
GL2ターゲティング自己保護ポリヌクレオチドpSUPER発現ベクターの設計及び製造
GL2 mRNAをターゲティングする自己保護ポリヌクレオチドを発現する、GL2−1289 pSUPER、GL2−0209 pSUPER及びGL2−1532 pSUPERと標記される発現ベクターを、以下の設計パラメータに従い、pSUPERベクター骨格を使用して作成した。「5’−3’non−coding」とは、プラスミド中の非コーディングDNA鎖を指し;「5’−3’RNA−trans」とは、プラスミド由来の発現RNA転写物を指し;「5’−3’RNA−struct」とは、プラスミドから発現されたRNA転写物の折畳構造を指し;「3’−5’coding_as」とは、プラスミド中のコーディングDNA鎖を指す。
【0101】
1.GL2−1289 pSUPERのspDNA設計理論
【0102】
【化1】

2.GL2−0209 pSUPERのspDNA設計理論
【0103】
【化2】

3.GL2−1532 pSUPERのspDNA設計理論
【0104】
【化3】

以下のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、pSuperベクター内にサブクローニングするためのGL2遺伝子の領域をPCR増幅した:
【0105】
【化4】

【0106】
【化5】

増幅した配列は、通常の分子及び細胞生物学の技法を使用して、pSuperベクター(一般的にPCT公開番号WO01/36646に記載;Oligoengine[米国ワシントン州シアトル]より入手)内にサブクローニングした。
【0107】
実施例2
自己保護ポリヌクレオチドによる遺伝子発現の抑制
本発明の自己保護オリゴヌクレオチドの抑制作用は、ルシフェラーゼを安定的に生成するヒト胚性腎細胞系統293−Luxを使用して、インビボの遺伝子発現に対する作用を検査することにより明らかにした(GL2型)。細胞を血清含有培地500μLの24ウェルディッシュ中にプレーティングした。細胞が概ね60%コンフルエントとなった時点で、それらを、Mirus’TransIT−siQuest試薬1μLを使用して、ルシフェラーゼ遺伝子に相補的なRNA配列の領域を含む自己保護オリゴヌクレオチド50pmol(又はスクランブルルシフェラーゼ配列を含む陰性対照)でトランスフェクトした。詳細には、使用した自己保護ポリヌクレオチドには、sp−19−1289、sp−19−209、sp−19−1532、sp−17−1289及びsp−17−209が含まれた。これらの自己保護ポリヌクレオチドのそれぞれにおいて、第1の数(17又は19)は標的ルシフェラーゼmRNAに相補的な領域の長さを指し、第2の数(1289、209又は1532)は相補領域でターゲティングされるルシフェラーゼ遺伝子の第1塩基を指す。細胞は24時間で採取し、細胞溶解物を照度計で読み取った。
【0108】
試験した5つの自己保護オリゴヌクレオチドのうち、2つが対照値の50%〜60%までルシフェラーゼ発現を低減し、他の2つが対照値の約75%又は80%までルシフェラーゼ発現を低減した(表1)。
【0109】
【表1】

これらのデータにより、本発明の自己保護ポリヌクレオチド配列が、インビボの遺伝子発現を低減するのに有効であることが示され、遺伝子過剰発現に関連する疾患及び障害の治療を含む種々の目的にこれらを使用できることが立証されている。
【0110】
実施例3
TransIT−TKO siRNAトランスフェクション試薬を使用した、哺乳動物細胞におけるp53遺伝子発現の抑制
哺乳動物細胞のp53遺伝子発現の低減における本発明の自己保護オリゴヌクレオチドの有効性を、培養細胞を使用して明らかにした。75%コンフルエントの293−H細胞を、DMEM/10%BSA 300μLを含有する24ウェルプレート中で、TransIT−TKO siRNAトランスフェクション試薬(Mirus Bio Corporation[米国ウィスコンシン州マディソン])2μLと表2に示した50nmolのspRNAオリゴヌクレオチド又はp53 siRNAオリゴヌクレオチドでトランスフェクトした。
【0111】
p53遺伝子配列(GenBankアクセッション番号AN082923)は、その転写されたmRNA内に、以前に公開されているRNAi標的配列を含有している。この標的部位のmRNA配列は、GACUCCAGUGGUAAUCUAC(配列番号16)である。この配列をターゲティングする「siRNA p53_public」及び「spRNA p53_public(9.0)」と標記されるsiRNA及びspRNAオリゴヌクレオチドを作成した。これらのオリゴヌクレオチドは、以下の配列を含有しており、spRNA p53_public(9.0)は以下に示す構造を有していた。
【0112】
【化6】

追加のspRNAオリゴヌクレオチドを作成して、以下のp53mRNA部位をターゲティングしたところ、これは非折畳(n..19):UGCCCUCAACAAGAUGUUU(配列番号20)であることが判明した。
【0113】
spRNAp53_83は、n..19結合モチーフの両端に短いステム/ループ構造を含有しており、以下の5’−3’配列及び構造を含んでいる:
【0114】
【化7】

spRNAp53_83 NO−5’は、n..19結合モチーフの3’末端側に短いステム/ループ構造を含有しており、以下の5’−3’配列及び構造を含んでいる:
【0115】
【化8】

spRNAp53_83_Longは、n..19結合モチーフの両端に、より長いステム/ループ構造を含有しており、以下の5’−3’配列及び構造を含んでいる:
【0116】
【化9】

spRNAp53_83_LongNO−5’は、n..19結合モチーフの3’末端側に、より長いステム/ループ構造を含有しており、以下の5’−3’配列及び構造を含んでいる:
【0117】
【化10】

細胞を受動溶解緩衝液100μL中において48時間で回収した。1:40希釈物100μLを、Assay Designs p53 TiterZyme EIAキット(米国ミシガン州アンアーバー)を使用して試験することにより、存在するp53の量を測定した。表2に示す結果は、試験時に標準曲線を作成するに当たって使用した対照標準物質からの推定値として、p53をピコグラムで示している。p53のノックダウン率は、擬似トランスフェクションウェルと比べたp53のピコグラムに基づいている。
【0118】
【表2】

これらを比較したところ、siRNA p53 publicを使用して得た結果は、p53が160pgであった(内因性p53の32%ノックダウン)。
【0119】
これらの結果は、本発明の自己保護オリゴヌクレオチドが哺乳動物細胞における標的遺伝子発現を低減するのに有用であることを証明しており、遺伝子の過剰発現、脱調節、不適切な発現又は遺伝子の突然変異により誘発される疾患、例えば、p53の突然変異により誘発される腫瘍を治療する際のこれらの有用性を裏付けている。更にこれらの結果は、本発明の自己保護ポリヌクレオチドが、標的遺伝子発現の低減において、siRNAオリゴヌクレオチドよりも有効性が高いことも示している。
【0120】
実施例4
SiQuest試薬を使用した哺乳動物細胞におけるp53遺伝子発現の抑制
哺乳動物細胞のp53遺伝子発現の低減における自己保護オリゴヌクレオチドの有効性を、異なるトランスフェクション剤により培養細胞を使用して明らかにした。65%コンフルエントの293−H細胞を、DMEM/10%BSA 300μLを含有する24ウェルプレート中で、TransIT(登録商標)−siQUESTTM(Mirus Bio Corporation[米国ウィスコンシン州マディソン])1μLと表3に示した50nmolのspRNA又はp53 siRNAでトランスフェクトした。
【0121】
細胞を受動溶解緩衝液100μL中において48時間で回収した。1:40希釈物100μLを、Assay Designs p53 TiterZyme EIAキットを使用して試験することにより、存在するp53の量を測定した。表3に示す結果は、試験時に標準曲線を作成するに当たって使用した対照標準物質からの推定値として、p53をピコグラムで示している。p53のノックダウン率は、擬似トランスフェクションウェルと比べたp53のピコグラムに基づいている。
【0122】
【表3】

これらを比較したところ、siRNA p53 publicを使用して得た結果は、p53が215pgであった(内因性p53の34%ノックダウン)。
【0123】
これらの結果は、本発明の自己保護オリゴヌクレオチドが哺乳動物細胞における標的遺伝子発現を低減するのに有用であることを証明しており、遺伝子の過剰発現、脱調節、不適切な発現又は遺伝子の突然変異により誘発される疾患、例えば、p53の突然変異により誘発される腫瘍を治療する際のこれらの有用性を裏付けている。更にこれらの結果は、本発明の自己保護ポリヌクレオチドが、標的遺伝子発現の低減において、siRNAオリゴヌクレオチドよりも有効性が高いことも示している。
【0124】
本明細書において言及した、及び/又は出願データシートに列挙した上記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許公開文献は全て、参考として全体が本明細書に組み入れられる。
【0125】
以上にて本発明の特定の実施形態を説明の目的のためにのみ本明細書に記載してきたが、本発明の趣旨及び適用範囲を逸脱しない範囲で種々の変更が行われる場合があることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、本発明の代表的なポリヌクレオチドの図である。(A)は標的mRNAに相補的な配列を含む領域を示し;(B)は自己相補的な領域を示し;(C)は自己相補的な領域により形成されるステムループ構造のループ領域を示し;(D)は標的mRNAに相補的な配列を含む領域と自己相補的な領域の間のギャップ領域を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的mRNA配列に相補的な配列を有する領域及び1つ以上の自己相補的な領域を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドが2つ以上の自己相補的な領域を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドがRNAを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドがDNAを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドがペプチド核酸を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記自己相補的な領域が、前記ポリヌクレオチドの5’末端若しくは3’末端又はそれらの両端に位置する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
標的mRNA配列に相補的な配列の1つ以上の追加の領域を更に含み、標的mRNA配列に相補的な配列の該領域が、前記ポリヌクレオチドの5’末端若しくは3’末端又はそれらの両端に位置する自己相補的な領域により分離されている、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
標的mRNA配列に相補的な配列の前記領域が、同じ標的mRNAに対して相補的である、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
標的mRNA配列に相補的な配列の前記領域が、2つ以上の異なるmRNAに対して相補的である、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
標的mRNA配列に対して非相補的又は半相補的であり、かつ自己相補的な領域に対して非相補的である第2配列を更に含み、該第2配列が、該自己相補的な領域と該標的mRNA配列に相補的な配列との間に位置する、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記自己相補的な領域がステムループ構造を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
前記自己相補的な領域が、標的mRNA配列に相補的な前記配列に対して相補的ではない、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記ポリヌクレオチドが2つの自己相補的な領域を含み、該2つの自己相補的な領域が互いに相補的ではない、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
標的mRNA配列に相補的な前記配列が少なくとも17個のヌクレオチドを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
標的mRNA配列に相補的な前記配列が17〜30個のヌクレオチドを含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記自己相補的な領域が少なくとも5個のヌクレオチドを含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
前記自己相補的な領域が少なくとも24個のヌクレオチドを含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記自己相補的な領域が12〜48個のヌクレオチドを含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
前記ループが少なくとも4個のヌクレオチドを含む、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを複数含む、アレイ。
【請求項21】
請求項1に記載のポリヌクレオチドをコードする、発現ベクター。
【請求項22】
生理学的に許容される担体及び請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む、組成物。
【請求項23】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを細胞に導入することを含む、遺伝子の発現を低減する方法。
【請求項24】
前記細胞が植物、動物、原生動物、ウイルス、細菌又は真菌である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が哺乳動物のものである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
単離された前記ポリヌクレオチドが細胞に直接導入される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
単離された前記ポリヌクレオチドを細胞に送達するのに十分な手段により、単離された該ポリヌクレオチドが細胞外から導入される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
疾患を治療する方法であって、該方法は、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを細胞に導入することを含み、該mRNAの過剰発現が該疾患に関連する、方法。
【請求項29】
該疾患が癌である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
患者の感染を治療する方法であって、該方法は、請求項1に記載の単離された該ポリヌクレオチドを該患者に導入することを含み、該単離されたポリヌクレオチドが感染性物質の進入、複製、組込み、伝達又は維持を媒介する、方法。
【請求項31】
遺伝子の機能を同定する方法であって、
(a)請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを細胞に導入する工程であって、該単離されたポリヌクレオチドは遺伝子の発現を抑制する、工程;及び、
(b)細胞の特性に対する工程(a)の効果を測定して、それにより遺伝子の機能を決定すること、
を含む、方法。
【請求項32】
前記方法がハイスループットスクリーニングを使用して実施される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
標的遺伝子の発現の調節のための1つ以上の自己相補的な領域を含むポリヌクレオチド配列を設計する方法であって、
(a)長さ17〜30個のヌクレオチドの、標的遺伝子に相補的な第1配列を選択する工程;
(b)自己相補的な領域を含み、該第1配列に非相補的である長さ12〜48個のヌクレオチドの追加の配列を1つ以上選択する工程;及び、
(c)該標的遺伝子に非相補的又は自己相補的であり、工程(b)において選択された該追加の配列に非相補的である長さ2〜12個のヌクレオチドの更に追加の配列を1つ以上選択して、それにより標的遺伝子の発現の調節のためのポリヌクレオチド配列を設計する工程、
を含む、方法。
【請求項34】
前記ポリヌクレオチドが、自己相補的な領域を1つ以上欠失している同じポリヌクレオチドよりも、インビボでの長い半減期を示す、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項35】
疾患を治療する方法であって、該方法は、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを細胞に導入することを含み、前記mRNAが対応する野生型mRNAと比べて突然変異を1つ以上含む、方法。
【請求項36】
前記疾患が嚢胞性線維症である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
細胞内における突然変異mRNAの発現を調節する方法であって、該方法は、請求項1に記載のポリヌクレオチドを細胞に導入することを含み、前記標的RNA配列が該突然変異mRNAの領域を含む、方法。
【請求項38】
前記突然変異mRNAが嚢胞性線維症に関連する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記突然変異mRNAが、突然変異体の嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)のポリペプチドをコードする遺伝子から発現されたmRNAである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記突然変異mRNAが腫瘍に関連する、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記突然変異mRNAが、突然変異体p53ポリヌクレオチドをコードする遺伝子から発現されたmRNAである、請求項40に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−526213(P2008−526213A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549691(P2007−549691)
【出願日】平成17年12月30日(2005.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/047610
【国際公開番号】WO2006/074108
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507220486)
【出願人】(507220165)
【Fターム(参考)】