説明

自己修復性に優れたアルミニウム合金の防食塗膜およびそれを有するアルミニウム合金

【課題】 従来のアルミニウム合金の防食塗膜及びその形成方法に係る上記問題点を解決することを目的とし、アルミニウム合金、特に一過式の熱交換器に適する自己修復性の優れたアルミニウム合金の防食塗膜を提案する。
【解決手段】 アルミニウム合金からなる基板上に形成され、亜鉛、チタン及びニオブから選ばれた1種又は2種上を0.1〜10vol%含有する三フッ化樹脂からなり、自己修復性に優れている。この場合においてアルミニウム合金を熱交換器とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の防食塗膜及びその形成方法に係り、特に海水等を冷却水として使用する熱交換器に適する自己修復性の優れたアルミニウム合金の防食塗膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は比強度が高くかつ、熱伝導性が高いために、小型で軽量な熱交換器の材料として利用されている。このような熱交換器は海水環境で使用されることが多く、その場合には厳しい腐食環境に曝されるため、十分な防食対策が必要になる。
【0003】
アルミニウム合金の防食手段としては、陽極酸化塗膜の形成によるもののほかに電気防食、塗膜形成などの手段が用いられており、また熱交換器に適用する場合には冷却水中にインヒビターを添加するなどの手段も利用されている。しかし、一過式の熱交換器では、冷却水が装置内を通過した後に系外に排出され、循環使用が行われないので、インヒビターを利用する防食対策は不適切であり、塗膜形成による防食対策が適している。
【0004】
このようなアルミニウム合金に対する塗膜として、無機系、有機系、有機−無機ハイブリッド系など種々のタイプのものが提案され、実際に利用されている。そのような熱交換器の塗膜形成手段として、たとえば特開2003−888748号公報、特開2004−42482号公報などが存在する。また、非特許文献1には、一過式の熱交換器に対する防食塗膜として三フッ化樹脂が自己修復性を有することが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−888748号公報
【特許文献2】特開2004−42482号公報
【非特許文献1】矢吹彰広,山上広義,大脇武史,足立清美,野一色公二 アルミニウム合金用防食塗膜の自己修復性能 材料と環境研究発表会講演集,3−4(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海水を冷却媒体として利用する熱交換器にあっては、熱交換器の表面が傷つきやすくかつ、一旦傷が入ると海水による激しい腐食作用により傷が急激に拡大する傾向があることが知られており、そのための対策が求められている。そのような目的に適うものとして、いわゆる自己修復性のある塗膜の利用が考えられる。しかしながら、上記特許文献1,2に記載の各手段により生成された塗膜は、いずれも自己修復性を有さず、したがって、海水を冷却媒体として利用する熱交換器の防食塗膜として、十分な特性を有するものといえない。一方、非特許文献1に記載の手段は、自己修復性のために三フッ化樹脂の利用を示唆するものであるが、実用的レベルに達するにはなお改良の余地がある。
【0007】
本発明は、従来のアルミニウム合金の防食塗膜及びその形成方法に係る上記問題点を解決することを目的とし、特に熱交換器に適する自己修復性の優れたアルミニウム合金の防食塗膜及びその形成方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルミニウム合金の防食塗膜は、アルミニウム合金からなる基地上に形成され、亜鉛、チタン及びニオブから選ばれた1種又は2種上を0.1〜10vol%含有する三フッ化樹脂からなり、自己修復性に優れている。この場合においてアルミニウム合金を熱交換器に適用することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるアルミニウム合金の防食塗膜は、厳しい海水腐食条件下において使用中に傷が入ったときでも高い自己修復性を備えているため、本発明の防食塗膜を備えたアルミニウム合金、さらには、アルミニウム合金製熱交換器は長期間に亘り、メインテナンスフリーで使用可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
適用されるアルミニウム合金は、熱交換器に使用できるものであれば、熱交換器の製造に利用されるもの、たとえば、JIS H 4000(アルミニウムおよびアルミニウム合金の板および条)に規定されるA3003Pなどが好適に利用できる。
【0011】
アルミニウム合金には、後に記す三フッ化樹脂塗膜を密着性良く形成させるための下地処理が行われる。代表的には、脱脂洗浄後、アルカリ処理液への浸漬、硝酸水溶液への浸漬、さらにはイオン交換水によるリンスを行ってアルミニウム合金基板上に形成されている酸化物、水酸化物を除去して、金属表面を露出させることが重要である。
【0012】
このようにして準備され金属面が露出した基板上に三フッ化樹脂塗膜の形成が行われる。そのために用いる三フッ化樹脂は、モノマー、オリゴマーを有するものを用いることができ、代表的にはクロロトリフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体をイソシアネートにて架橋した三フッ化樹脂を用いることができる。この場合において、共重合物として、ビニルエーテルのほかにアクリルやビニルエステルを用いることもできる。
【0013】
塗液を調整するに当たっては、まず、主剤に対して硬化剤を加え、これに基礎溶液を調整する。例を挙げれば、質量比で主剤13部に対して硬化剤1部を混合し、これに必要に応じてシンナーを用いて希釈して基礎塗液とする。本発明では、この基礎塗液に対して亜鉛、チタン、マンガン、アルミニウム及びニオブから選ばれた金属粉体を1種又は2種上を添加して塗液とする。
【0014】
図1は、上記のようにして調整された基礎塗液に対し、金属粉体として粒子径20μm以下の亜鉛粉末、チタン粉末、及びニオブ粉末のいずれか1種を、乾燥後の塗膜中における上記金属粉末の占める体積比率が0.8vol%となり、かつ乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗液を調整し、これをアルミニウム合金製の基板(JISA3003P)に塗布後、7日間乾燥させて塗膜試験片を得、これについて120hまでの範囲で腐食抵抗の経時変化を測定した結果である。なお、使用する樹脂の密度、添加する金属粉の金属種の密度、及び要求される金属粉の樹脂中における体積比を基に、樹脂に対して添加する金属粉の質量比を計算することができる。
【0015】
腐食抵抗の経時変化の測定方法は次のとおりである。
(1)塗膜試験片の塗膜面にカッターナイフにより塗膜を貫通し基板に到達する傷を刻む。
(2)塩酸によりpH:1に調整された3mass%の食塩水からなる腐食試験液を準備し、これに前記(1)により傷を刻んだ試験片を浸漬して温度70℃で所定時間保持する。
(3)所定時間経過後塗膜試験片を試験液から取り出し、外観を観察するとともに図2にその概略構成を示す電気化学インピーダンス測定装置を用いて、試験片に±10mVの交流を0.01Hz〜20kHzの範囲で変化させてそのインピーダンスおよび位相差を測定する。
(4)低周波域(0.1〜0.01Hz)で測定されるインピーダンス(R)を腐食抵抗とし、その浸漬12h値(R12)を基準値として規格化した値(R/R12)を腐食抵抗比とした。
【0016】
図1から分るように、本発明のように三フッ化樹脂を基礎塗膜素材とし、これに亜鉛粉末、チタン粉末、又はニオブ粉末を添加した場合は、これらを添加しない場合に比べて腐食抵抗比(R/R12)の著しい増加が認められる。この現象は、いい換えれば、これら金属粉を三フッ化樹脂に添加することによって塗膜の自己修復性が得られたことを示している。
【0017】
このような自己修復性の向上が得られる機構は、図3に示されているように、腐食試験液に浸漬した場合に塗膜成分、三フッ化樹脂及び金属粉末が塗膜層から離脱し、これらが傷の内部で反応して傷の内部を新しい塗膜層で覆うためであろうと推測される。
【0018】
このような自己修復性の向上機能をもたらす金属粉としては、亜鉛、チタン、マンガン、アルミニウム及びニオブから選ばれた1種又は2種以上を挙げることができる。また、これらの量は、三フッ化樹脂塗膜中の0.1〜10vol%とするのが好適である。金属粉の量が0.1vol%未満であると、単に三フッ化樹脂からなる塗膜層に比べて自己修復機能の向上量(R/R12の差)が少なく、一方、10vol%を超えて金属分を添加すると三フッ化樹脂塗膜の流動性が低下し、アルミニウム基板への塗布作業が困難になるなどの問題が生ずる。
【0019】
本発明に係るアルミニウム合金の防食塗膜は、一般のアルミニウム合金の防食塗膜として有用であるほか、特に熱交換器、なかでも一過式の熱交換器、さらには海水を冷却媒体として利用する一過式の熱交換器の防食塗膜として非常に有益であり、このような塗膜を備えるアルミニウム合金、特にアルミニウム合金製熱交換器は、長期間に亘り、たとえば3年に亘り、メインテナンスフリーで使用可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各種塗膜の腐食試験液浸漬時間と腐食抵抗比の関係を示すグラフである。
【図2】電気化学インピーダンス測定装置の概略構成図である。(a)は全体構成図、(b)は試験片取付部の詳細図である。
【図3】本発明により自己修復性の向上が得られる機構を示す模式的説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる基地上に形成され、亜鉛、チタン、マンガン、アルミニウム及びニオブから選ばれた1種又は2種上を0.1〜10vol%含有する三フッ化樹脂からなることを特徴とする自己修復性に優れたアルミニウム合金の防食塗膜。
【請求項2】
熱交換器に適用されていることを特徴とする請求項1記載の自己修復性に優れたアルミニウム合金の防食塗膜。
【請求項3】
亜鉛、チタン、マンガン、アルミニウム及びニオブから選ばれた1種又は2種上を0.1〜10vol%含有する三フッ化樹脂からなる防食塗膜を有することを特徴とする塗膜の自己修復性に優れたアルミニウム合金。
【請求項4】
亜鉛、チタン、マンガン、アルミニウム及びニオブから選ばれた1種又は2種上を0.1〜10vol%含有する三フッ化樹脂からなる防食塗膜を有することを特徴とする塗膜の自己修復性に優れたアルミニウム合金製熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−169561(P2006−169561A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360946(P2004−360946)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】