説明

自己修復性エラストマー系

【課題】自己修復性エラストマー系及び適切なエラストマーの製造方法を提供する。
【解決手段】(a)表面及び内部を有し、その内部に、共有結合された第1の官能基を有するエラストマーマトリックスを含むエラストマーと、(b)前記エラストマーの前記表面に隣接する液相を含み、該液相が添加剤を含み、前記第1の官能基及び前記添加剤が、前記エラストマーが損傷した場合に、前記液相と接触した前記第1の官能基が反応するように選択されている、エラストマー系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、自己修復性の(selbstheilend)エラストマー系及びエラストマー、これらを製造する方法、並びにその使用である。
【背景技術】
【0002】
エラストマープラスチックは、外部からの影響によって損傷することがある。このような損傷は、特にエラストマーをシールやコーティングとして用いる場合に問題となる。エラストマーは、例えば、高温、高圧又は大きな機械的負荷が作用すると、オゾンのような化学物質が作用すると、又は外部応力がかかると、その構造に望ましくない変化が生じ得る。この場合、特に表面に損傷又は亀裂が生じ得る。材料は、最初の亀裂又は表面損傷が生じた後、さらなる損傷に対して特に攻撃され易くなることが多い。したがって、最初は小さかった亀裂が、その後の負荷によって深くなり、材料全体がもはや用をなさなくなる可能性がある。よって、多くの用途では、シール又はコーティングを頻繁に点検し、修理又は交換しなければならない。
【0003】
このような問題を、「自己修復性」のエラストマーによって克服することが試みられている。
【0004】
非特許文献1は、修復に必要な成分をマトリックスに加える方法を記載している。この場合、成分の1つは「カプセル封止された形態」でエラストマーに混合される。さらに、第2の成分として、触媒がポリマーマトリックスに加えられる。損傷(亀裂形成)した場合、カプセルが開き、これにより修復成分が放出される。触媒の存在下で重合反応が起こり、これにより亀裂が閉じられる。
【0005】
特許文献1は、様々な充填カプセルがマトリックス中に埋め込まれている自己修復性エラストマーを記載している。第1のカプセルには重合可能な材料が含まれ、第2のカプセルには重合開始剤が含まれている。
【0006】
上記系では、修復反応に関与する反応物質が全てマトリックスに加えられている。このような系は、慣例の負荷及び通常の使用でもマイクロカプセルが開いて、修復物質と反応性物質とが互いに反応し得るという欠点を有する。しかし、シール及びコーティングは、まさに高い圧力及び機械的負荷に曝されていることが多い。このような材料の製造においても、例えば密閉型混合機での混合、圧延、押し出し又はカレンダー加工の際に、機械的負荷が伴い、この機械的負荷は、カプセルの望まれざる開放及び早期の反応を招き得る。カプセル封止された反応物及び触媒は、エラストマー製造の全行程を通じて、つまり180℃以上までの高温及び高圧での且つラジカルの存在下での混合、加硫及び再加熱の間、安定に保たれなくてはならない。これにより、修復物質及び修復物質系(「カプセル」)並びに触媒系の選択は、極めて限定されたものとなる。例えば重合させたいモノマー、つまり「修復性物質」を生じるモノマーの沸点は、カプセルが破裂しないように、加硫温度以上になくてはならない。さらに、このカプセルは、必要であればさらに目的に合致した効果を奏することができるように、大抵は複数年以上ともなる典型的な使用期間を「生き延び」なくてはならない。
【0007】
これら公知のシステムのもう1つの欠点は、カプセルを用いる場合、エラストマーマトリックス中に修復物質を完全に均一に分布させるのは、基本的に不可能だということである。できるだけ均一な分布を得るには、カプセルを特に小さくし、できるだけ多数のカプセルが存在するようにしなければならない。しかし、カプセルの割合が高くなると、エラストマー特性は望ましくない影響を受ける。小さいカプセルを選択した場合、含まれる液体体積はカプセル半径の3乗に比例して減少するという、不都合な作用が生じる。これは、カプセル直径がわずかに減少するだけでも、含まれる反応物が大量に減少することを意味する。
【0008】
さらに、カプセルを使用する場合には、多量のカプセル材料がポリマー材料と共生可能(若しくは相溶可能)であることが重要である。そうでなければ、エラストマーマトリックス中にはカプセルが均一に分布せず、機械的特性の悪化を招き得る。分布が不均一であれば、自己修復作用が行われない領域が、材料中に生じる可能性がある。
【0009】
この修復物質の放出は、比較的「非特異的(unspezifisch)」でもあり(放出量が損傷度合いに対応していない)、それというのは、放出量は、常にカプセル内容物の数倍の量であるからである。よって、材料の損傷が小さい場合でも、それより明らかに大きい損傷の場合と同一量の作用物質が放出され得る。また、細かい亀裂が常にカプセルに出会ってカプセルを開くということも保証されていない。また、この修復メカニズムでは、外部からはいかなる物質も損傷箇所に到達しないので、亀裂の閉塞は一度しか起こらない。もう1つの欠点は、このような充填されたカプセルの製造もその処理も、手間がかかり且つ高価であるということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2007/143475号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Whiteら、Nature、2001年、409号、794〜797頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、前記の欠点を克服する自己修復性システムを提供することである。簡単に製造可能であり、エラストマーの損傷を効果的に修復する自己修復性システムが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記課題は、特許請求の範囲に記載の自己修復性のエラストマ系、エラストマー、方法及び使用によって解決される。
【0014】
本発明による自己修復性のエラストマー系は、
a)表面及び内部を有するエラストマーであって、エラストマーマトリックスを有し、該エラストマーマトリックスが、内部に、特定の領域に共有結合された第1の官能基(図1に示すH)と、任意に、反応を促進する別の触媒とを含む、エラストマー、並びに
b)前記エラストマーの表面に隣接する液相であって、特殊な添加剤を含有し、該添加剤が、同様に特定の官能基(図1に示すF)を含む、液相
を含み、
前記第1の官能基H及び前記添加剤の官能基Fが、エラストマーが損傷した場合に、マトリックスの第1の官能基Hが、液相中の添加剤の官能基Fと反応するように選択される、自己修復性のエラストマー系を包含する。この反応は、化学反応だけでなく、強い物理的結合をも生じるものであってもよい。
【0015】
液相は、少なくともエラストマー表面に隣接する。液相は、通常条件下、すなわち損傷が存在しない場合では、エラストマー内部にも第1の官能基Hにも実質的に接触しない。エラストマー、又はエラストマーと液相との間の隔離層が損傷すると、液相はエラストマーの内部に進入し、官能基Hと接触する。
【0016】
エラストマーは、エラストマーマトリックスを含む。エラストマーマトリックスとは、エラストマー特性を有する架橋されたポリマー基質を意味する。エラストマーは、架橋されたエラストマーマトリックスの構成成分ではない追加的な成分を含む。エラストマーは、例えば液体をエラストマーマトリックスから隔離する隔離層によって、コーティングすることもできる。隔離層自体がエラストマー材料からなるものでなくても、このような構成を本出願では「エラストマー」と呼ぶ。
【0017】
第1の官能基Hの反応によって、エラストマーは安定化される。この反応は、エラストマーの損傷した表面の液相と接触する箇所で、実質的に選択的に起こる。よって、第1の官能基Hの反応によって、少なくとも部分的に系の自己修復が得られる。したがって、本発明は、この反応を「修復反応」とも呼ぶ。損傷したエラストマーの安定化は、損傷若しくはその後の損傷に対抗して作用する又は損傷を補修する。「自己修復性」とは、修復反応のプロセスに必要な全ての成分が、本発明の系に含有されていることを意味する。したがって、この反応は、外部からの介入なしに行うことができる。例えばユーザ又は機器によって外部から成分が加えられる必要はない。しかし、本発明は、系を外部から変化させる可能性を排除しない。例えば、特殊な負荷又は損傷の後には、液相に添加剤を追加することができる。
【0018】
損傷とは、エラストマーの構造のあらゆる種類の損害であり得、これにより、添加剤と第1の官能基Hとが接触する。これは、特に、液相がエラストマーの内部と接触するか又はエラストマーの内部に進入する場合を指す。これは、エラストマーに亀裂が生じるか又は表面が磨耗若しくは損傷した場合に生じ得る。エラストマーが隔離層を有する場合には、損傷とは隔離層の破損でもあり得る。
【0019】
エラストマーマトリックスは、内部に第1の官能基Hを含む。この官能基は、エラストマーマトリックスと共有結合されていてもよいし、また、添加剤として又は担持された充填材としてエラストマーコンパウンドに添加することもできる。
【0020】
「内部に(で)」とは、エラストマーが、損傷していない状態では液相と接触しない位置にある第1の官能基Hを備えていることを意味する。しかし、このことは、エラストマーの表面に第1の反応基Hが存在する可能性を排除しない。その場合、エラストマーの表面は、損傷していない状態の時には液相と接触してはならない。エラストマーはこの場合、エラストマーマトリックスを液相から隔離する隔離層を備えている。
【0021】
隔離層が存在しない場合、官能基Hが表面で官能基Fと反応しないように、エラストマーの表面を前処理することができる。本発明の別の実施形態では、液相が添加剤の過剰量を含み、エラストマーと接触するとまず表面の反応基と反応する。エラストマーの内部には、反応基を有する安定な自己修復性の系が、液相中には添加剤が残る。第1の官能基は、エラストマーの内部に均一に分布しているのが好ましい。
【0022】
このシステムの第1の官能基Hの修復反応は、この官能基相互間で行われるか、或いは少なくとも1つの別の反応パートナー、つまり、液体からの少なくとも第2の官能基Fを含む添加剤との間で行われる。この反応は、ポリマーマトリックスに添加されている触媒によって促進することができる。本発明は、修復反応の進行に必要な少なくとも1つの成分が、エラストマーに含まれているのではなく、添加剤として液相に含まれているという原理に基づく。
【0023】
本発明の有利な一実施形態では、このシステムが、第1の官能基Hと添加剤の官能基Fとの反応を加速させる触媒を含み、その場合、触媒は、ポリマーマトリックスの一部であり、このポリマーマトリックスに共有結合し、非共有結合でマトリックスに埋め込まれ、且つ/又は添加剤の構成成分である。
【0024】
有利には、この自己修復性のエラストマー系は、反応に触媒作用する触媒又は反応を支援する助剤を含む。この助剤は、例えば、反応促進剤又は反応開始剤であってよい。触媒及び助剤はこの場合、添加剤、及び/又は添加剤の構成成分、及び/又は液相に追加的に含まれるもの、及び/又はエラストマーに含まれるものであってよい。
【0025】
本発明の一実施形態で、添加剤は第2の官能基Fを有し、この場合、エラストマーマトリックスの第1の官能基Hと、第2の反応基Fを含む添加剤とが反応する。このシステムは、さらに、触媒又は反応を支援する助剤を含んでいてよい。これらの触媒又は助剤は、エラストマー中に又は液相中に存在していてよい。
【0026】
この場合、いずれの添加剤も、少なくとも1つの官能基Fを有する。添加剤当たりの官能基がだた1つである場合には、添加剤は、反応の結果としてエラストマーに付加する。層又はフィルムが生じ、これにより、エラストマーへのさらなる被害(摩耗若しくは取り去られること)が防止される。添加剤当たりの官能基Fが2つ以上であれば、修復反応の際に架橋が起こる。添加剤は、第1の相の少なくとも2つの異なる第1の官能基Hを互いに結合することができる。
【0027】
本発明の一実施形態で、添加剤は重合可能なモノマーである。エラストマーマトリックスの第1の官能基は、重合のための付加箇所となる。エラストマーマトリックスは、触媒又は反応を支援する助剤、例えば反応開始剤又は反応促進剤を含む。
【0028】
本発明の別の実施形態では、例えば、エラストマーマトリックス中に、架橋していない二重結合が含まれている場合、エラストマーマトリックスの第1の官能基の反応が相互に起こる。この実施形態の場合、添加剤は、有利には触媒又は反応を支援する助剤、例えば反応開始剤又は反応促進剤又は架橋剤である。
【0029】
本発明の別の実施形態では、エラストマーマトリックスが、エラストマーマトリックスと共有結合している第2の官能基を有し、エラストマーマトリックスの第1の官能基と、エラストマーマトリックスの第2の官能基との反応が起こる。この実施形態では、添加剤は、有利には触媒又は反応を支援する助剤、例えば反応開始剤又は反応促進剤又は架橋剤である。
【0030】
本発明の別の実施形態では、エラストマーマトリックス中に、マトリックスと非共有的に結合し且つ第2の官能基を有する助剤が含まれ、エラストマーマトリックスの第1の官能基と、助剤の第2の官能基との反応が起こる。この実施形態では、添加剤は、有利には、触媒又は反応を支援する助剤、例えば反応開始剤又は反応促進剤である。
【0031】
本発明の別の実施形態では、エラストマーマトリックスは重合可能なモノマーを含む。エラストマーマトリックスの第1の官能基は、重合のための付加サイトである。添加剤は、触媒又は反応を支援する助剤、例えば反応開始剤又は反応促進剤である。
【0032】
エラストマーマトリックスの第1の官能基の反応は、化学反応であっても物理的反応であってよもい。化学反応の場合には、共有結合が形成される。これらの官能基は相互間で、又は損傷箇所でエラストマーの安定化を生じる別な官能基と、相互作用する。この反応は、共有結合の形成又は非共有結合性の相互作用の形成であってよく、この非共有結合性の相互作用とは、ファンデルワールス力による作用、磁気性の作用、静電気性の作用、イオン性の作用、疎水性の作用、双極子による作用又はその他の相互作用の中から選択される。
【0033】
本発明の別の実施形態では、官能基及び添加剤が、それぞれ磁気性であり且つ/又はそれぞれイオン性であり(磁気的に結合する且つ/又はイオン性結合するものであり)、相互間に親和力を有する。磁気的相互作用を利用する場合、有利には、液相とエラストマーとの間に、磁気的相互作用を遮蔽する材料からなる隔離層を設ける。隔離層が損傷してエラストマーが露出すると、直ちに液相から磁性粒子が付着して、表面を封止する。
【0034】
本発明の一実施形態では、エラストマーマトリックス中に永久磁性粒子があり、液相中に、磁性はあるが永久磁性ではない粉末が存在し、粉末は自由であるか(粉末のまま存在するか)又はエラストマー若しくはポリマーに被覆されていてよく、その場合、粉末の平均粒径は1μm未満である。
【0035】
表1に、本発明の実施形態の例を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
適する化学反応は、例えば、重合、縮合、メタセシス反応、ディールス・アルダー反応、アリル付加及びラジカル付加である。官能基は、例えば、ビニル基、ジエン基、アミン基、アルコキシシロキサン基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ウレタン基、イソシアナート基、シロキサン基、エステル基、アミド基及びチオール基の中から選択される。
【0038】
表2に、エラストマーと添加剤との間での化学反応を得るために、エラストマーマトリックスの第1の官能基H及び添加剤の第2の官能基Fをどのように選択できるかを示す。
【0039】
【表2】

【0040】
反応は、架橋反応が好ましい。架橋反応の前提条件は、分子内に又は粒子上に少なくとも2つの反応基Fを有する反応物(架橋剤)が存在することである。有利な一実施形態では、添加剤が架橋剤として用いられる。
【0041】
特に有利には、第2の官能基Fを多数持つ粒子を添加剤として用いる。粒子は、固くエラストマーに結合することができ、架橋作用によって亀裂の成長を防止することができる。
【0042】
エラストマーは、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDMゴム)のような公知のゴムからなっていてよい。EPDMゴムは、高い弾性、及び特に極性有機溶媒に対する良好な化学的耐性を有し、広い温度範囲にわたって使用可能である。天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、又は水素化ニトリル・ブタジエンゴム(HNBR)から選択されたゴムを使用することもできる。この場合、ホモポリマー、コポリマー又はブロックコポリマーを使用できる。フッ素化又は塩素化されたゴム、例えばペルフルオロゴム(FFKM)、フッ素ゴム(FKM)、又はプロピレン・テトラフルオロエチレンゴム(PTFE)、並びにこれらのコポリマーも使用可能である。エラストマーは、慣例の添加物質、例えば色素、充填剤、軟化剤、帯電防止剤、酸化防止剤及びゴム固有の架橋化学物質を含んでていよい。
【0043】
有利な一実施形態では、添加剤は、第2の官能基Fを表面に含む粒子からなる。この場合、この粒子は、その表面に第2の官能基Fが設けられている(被着されている)担体材料からなっていてよい。担体材料としては、エラストマー材料が考慮の対象となる。適しているのは、例えば表面にOH基を有するエラストマー粒子(Microporph(商標)、Rhein Chemie社、Rheinau)である。適切な他の担体材料は、例えば、機能化されたカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボン・ナノチューブ、シリカ、ケイ酸アルミニウム、及び鉱物性充填材である。粒子の使用は有利であり、それは、粒子が亀裂を充填できるからである。粒子の大きさは、粒子が亀裂中に拡散又は移動し、反応によって亀裂を閉じる(又は亀裂壁を「貼り合わせる」)ことができるように選択される。担体材料としては、例えば、エラストマー粒子、熱可塑性粒子、粒子状、繊維状若しくは中空繊維状の炭素、又はその他の無機材料、例えばシリカを用いることができ、これらの材料は、場合によっては機能化されていてよい。粒子の平均粒径は、<5、<3又は<1であってよい。有利な一実施形態では、粒子の平均粒径が10nm〜10μm、特に30nm〜5μm又は100nm〜3μmである。有利には、平均寸法を、少なくとも2つの次元で1μm未満とする。
【0044】
本発明の有利な一実施形態で、液相は、第2の官能基Fを有する架橋可能な添加剤を含み、エラストマーマトリックスは、触媒及び/又は反応開始剤又は反応促進剤を含み、これらは、マトリックス中に、純粋な形態で又は担持された形態で存在していてよい。担持された形態で存在させる場合には、沈降又は焼成シリカ又はカーボンブラックに担持させて、エラストマー中に加えることができる。
【0045】
上記触媒又は反応開始剤又は反応促進剤は、エラストマーマトリックスの第1の官能基Hと添加剤との反応を支援又は開始させることができる。その場合、添加剤の二重結合が、エラストマーマトリックスと又はエラストマーに特別に加えられた反応基と反応する。エラストマーマトリックスは、例えば(カルボキシル化ニトリル・ブタジエンゴム、XNBRにおいて)カルボン酸基により誘導されたものであってよい。イソシアナート基、又はフルオロカーボンゴム(FKM)もしくはポリエチルアクリレート(ACM)に含まれるハロゲンアルカン基(−CHCl又はCHBr)のような特別な架橋箇所も適している。エラストマーが、マトリックスに非共有結合された官能基を、例えば短鎖ポリマーの形で含むことも可能である(Zeon ChemicalsのNipol(商標)又はLubrizol Corp.のHycar(商標))。第1の官能基は、化学反応によってエラストマーマトリックスに結合させることができる。表面に第1の反応基を有する充填剤を、エラストマーマトリックスに加えることもできる。この充填剤を、例えば加硫の際に、エラストマーマトリックスに結合させることができる。
【0046】
有利な実施形態では、この系は、エラストマーと液相との間に位置する隔離層をさらに備えている。この場合、液相は、通常の状態では直接エラストマーに接触せず、隔離層に接触する。隔離層は、添加剤がエラストマーに拡散できないほど小さい孔径を有するのであれば、多孔質のものであってよい。隔離層が損傷した場合、その下にあるエラストマーから、第1の官能基Hが少なくとも部分的に放出されて、添加剤と接触する。隔離層は、例えば1つのエラストマーからなる。修復反応に必要な成分が含まれないのであれば、反応性エラストマー成分にあるものと同じエラストマーを使用することができる。例えば、反応が、エラストマーマトリックスに埋め込まれた触媒を必要とする場合には、隔離層として、反応性エラストマー相と同じエラストマーであって、触媒が埋め込まれていないものを用いることができる。保護塗料、例えば潤滑塗料も適している。
【0047】
本発明の一実施形態では、エラストマーは追加的に助剤を含み、この助剤は、エラストマーマトリックスと非共有結合し、エラストマーマトリックスの第1の官能基と添加剤との相互作用に関与する。この助剤は、例えば触媒、反応開始剤、反応促進剤又は架橋剤であってよい。液相は、例えば水相又は油相、例えば潤滑油であってよい。液相は、アルコールのようなその他の液体成分を含むか又はそれらの成分からなっていてよい。液相は、修復作用を促進する添加剤だけでなく、溶解したイオンのような別の慣例の添加物を含んでいてよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】損傷していない状態にある、本発明による自己修復性エラストマー系を例示的に且つ模式的に示す。
【図2】エラストマーに亀裂が生じた場合の、本発明によるエラストマー系の自己修復反応を例示的に且つ模式的に示す。
【図3】隔離層が損傷した場合の、エラストマーの本発明による自己修復を例示的に且つ模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1に、損傷していない状態にある、本発明による自己修復性エラストマー系を示す。この系は、架橋されたゴム(1)を含むエラストマー(6)を含む。隔離層(2)は、添加剤(4)を含む液相(3)を、エラストマー中の官能基Hから隔離する。隔離層(2)は、その材料を後からコーティングすることによって塗布される。隔離層(2)は、液体溶媒(3)及び官能基H(5)と反応不能であり、且つエラストマーに良好に付着するという特性を有する。エラストマーマトリックス(1)は、官能基(5)Hを含み、添加剤(4)の官能基Fと又はこの官能基の存在下で、化学的又は物理的に反応する。液体溶媒に添加される添加剤(4)は、図1においては、担持材料及びその表面にある第2の官能基Fからなる。
【0050】
図2は、エラストマー(6)に亀裂を生じた場合の、本発明によるエラストマー系の自己修復反応を示す。この亀裂は、隔離層(2)を貫通しており、液相(3)がエラストマー内部と接触する。可溶性添加剤は粒子の形で存在し、第2の官能基Fが担体材料(4)と結合している。可溶性添加剤は亀裂内に拡散し、そこで第2の官能基Fを介して、エラストマーの第1の官能基H(5)と反応する。これにより、粒子は亀裂内に固定され、エラストマーは安定化され、亀裂の成長が停止する。有利には、この反応の際に架橋が起こり、添加剤とエラストマーマトリックスの間に複数の結合が形成される。
【0051】
図3に、隔離層(2)が損傷した際の、エラストマー(6)の本発明による自己修復を例示的に示す。液相内にはモノマー添加剤(3)が含まれおり、この添加剤(3)は、ポリマーからなる隔離層(2)と同じ構成要素からなる。加えて、この液相は、官能基Fを有する粒子4を含む。この隔離層が例えば磨耗によって損傷すると、エラストマーマトリックスの官能基が、液相のモノマー添加剤(3)と接触する。モノマー添加剤(3)は、ポリマーマトリックスの官能基Hと、例えば二重結合と反応する。場合によってこの反応は、エラストマー中の触媒によって促進される。この反応によって、開いている箇所が閉じられ、隔離層(2)が再生される。
【0052】
本発明によるエラストマーは、場合によっては隔離層を備えており、成形品を形成する。この成形品は、有利には、シール又はコーティングである。シール及びコーティングは、頻繁に液体と接触し、亀裂及び表面の傷などの損傷の影響を受けやすい。このような傷は、発見がしばしば極めて困難であるか又は発見に手間がかかるし、また、シール又はコーティングがその役目を果たせなくなり、二次的損傷を生じる原因となる。有利には、このエラストマーは、シールリング、例えばラジアルシール又はOリングである。
【0053】
本発明の対象は、表面及び内部を有するエラストマーであって、エラストマーマトリックスを含み、このエラストマーマトリックスが、内部で、共有結合された第1の官能基Hを有し、表面で、共有結合された第1の官能基Hを実質的に有しておらず、
(a)エラストマーマトリックスが第2の官能基を有し、この官能基が、エラストマーマトリックスの構成成分であるか、若しくはエラストマーマトリックスに結合しており、且つ/又は
(b)エラストマーマトリックス中に、第2の官能基を含む助剤、触媒、反応開始剤、反応促進剤及び/又は架橋剤が、非共有結合的に含まれており、
上記第2の官能基、触媒、反応開始剤、反応促進剤及び/又は架橋剤が、別の成分がエラストマーに進入した時に、第1の官能基Hとの反応を起こす又は触媒する若しくは反応開始するように選択されている、エラストマーでもある。
【0054】
有利な一実施形態では、第1の官能基がカルボキシル基であって、エラストマーマトリックスに、エステル化のための触媒が含まれている。このエラストマーは、隔離層を備えていてよい。
【0055】
本発明の対象は、エラストマーの損傷を修復するための、本発明による系又はエラストマーの使用でもある。
【0056】
本発明の対象は、自己修復性エラストマー系を製造する方法又はエラストマーの損傷を修復する方法であって、
(a)表面及び内部を有するエラストマーを製造し、このエラストマーがエラストマーマトリックスを含み、このエラストマーマトリックスが、内部に、共有結合された第1の官能基を有し、
(b)エラストマーの表面に隣接する液相を加え、この液相が添加剤を含み、
第1の官能基及び添加剤を、エラストマーが損傷した場合に、液相と接触した第1の官能基が反応するように選択する、方法でもある。
【0057】
本発明の対象は、自己修復性エラストマー系を製造する方法又はエラストマーの損傷を修復する方法であって、エラストマー系が、
(a)表面及び内部を有するエラストマーを含み、このエラストマーがエラストマーマトリックスを含み、このエラストマーマトリックスが、内部に、共有結合された第1の官能基を有し、
(b)このエラストマー系が、エラストマーの表面に隣接する液相を含み、
上記液相に添加剤を添加し、第1の官能基及び添加剤が、エラストマーが損傷した場合に、液相と接触した第1の官能基が反応するように選択することを特徴とする、方法でもある。
【0058】
本発明による系は、自己修復性を有する。しかし、このことは、系を外部から変化させるということを排除しない。したがって、本発明では、特に液相の組成を、ある特定の要求事項又は外部の状況に適合させることもできる。添加剤を、例えば消費を補充するように、液相に間歇的に添加することができる。添加剤を、必要とされた時に添加して、希望の濃度とすることもできる。これは、例えば、機械的負荷又は温度負荷が大きくなったことによりエラストマーが損傷したことが確認されるか又はその可能性がある場合に重要である。反応性添加剤が液相中にまだ十分存在するかどうか、定期的に試験することもできる。その場合、必要に応じて添加剤を新規に添加し、又は交換し、又は添加剤を含む液相全体を交換する。
【0059】
本発明による系は、公知の系と比較して数多くの利点がある。本発明による系では、液相がエラストマーの内部に進入すると直ちに反応が開始する。最低限の機械的負荷によってカプセルを開く必要さえもない。つまり、本願は、機械的負荷を受けてカプセルが開く(それがたとえごく小さい負荷であっても負荷を受けて初めてカプセルが開く)機構とは異なる。よって、本発明では、亀裂の成長に対し、亀裂形成の早期の段階で対処できる。
【0060】
本発明では、エラストマーの修復反応の成分を空間的に完全に隔離することによって、修復反応の高度な選択性が可能となる。この系は、損傷が生じた箇所で効果的に反応する。亀裂は、部分的に又は完全に閉じることができる。エラストマー内のその他の箇所では、非特異的な反応は起こらない。カプセルを用いる公知の系の場合、カプセルの損傷によって、非特異的な反応が開始する可能性がある。しかし、本発明では、エラストマーの、液相がエラストマー内部に進入しない箇所では、反応が起こる可能性はない。
【0061】
この修復メカニズムは、液体溶媒中の移動性成分とゴムの非移動性成分との相互作用によって進行する。本発明で、粒子を可溶性添加剤として用いる場合、損傷を修復するために、完全な重合反応は不要であり、特定の接触点で反応が生じさえすればよい。それにより、粒子が亀裂を充填し、又はエラストマーの損傷表面を被覆する。本発明によって、損傷した箇所での損傷が生じた直後の修復反応の開始が可能となる。添加剤は、損傷箇所に直接作用する。望ましくない反応は、エラストマーの内部にも液相中にも生じない。したがって、何らかの異常若しくは変則的な事象によるエラストマー相の損害も、液相中の凝縮物形成も起こらない。亀裂が生じた場合、亀裂表面の様々な箇所で架橋を行うことができる。分子のかすがい(Klammer)の形成によるこの「橋架け作用(架橋作用、Brueckeneffekt)」によって、さらなる亀裂の伝播が防止される。
【0062】
本願のエラストマー系及びエラストマーは、好ましくは、シール、ダイヤフラム、ベローズ、成形品、ゴム−金属部品、ブシュ又は液圧式マウントにおいて使用される。
【実施例】
【0063】
本発明による、潤滑油中のラジアル軸シール用のエラストマー系の組成
エラストマーを、表3に記載のように組成する。実施例1及び2は、本発明によるものである。比較例組成(一番左の欄)は触媒を含んでおらず、修復反応が生じない。
【0064】
【表3】

【0065】
1)Lanxess社のカルボキシル化ブタジエン・アクリロニトリルターポリマー
2)安定剤、酸化防止剤
3)酸化防止剤
4)加硫促進剤
5)自己修復の架橋触媒
ラジアル軸シールリングのための潤滑油として、標準として、鉱物油ベースのGEM1-220 N(MuenchenのKlueber Luburications社)を用いた。この潤滑油に、添加剤としてMicromorph 20を15重量%添加した。
【符号の説明】
【0066】
1 架橋ゴム
2 隔離層
3 液相、液体溶媒
4 添加剤
5 官能基H
6 エラストマー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己修復性のエラストマー系であって、
(a)表面及び内部を有するエラストマーを含み、該エラストマーがエラストマーマトリックスを含み、該エラストマーマトリックスが、前記内部に、共有結合された第1の官能基を有し、
(b)前記エラストマーの前記表面に隣接する液相を含み、該液相が添加剤を含み、
前記第1の官能基及び前記添加剤が、前記エラストマーが損傷した場合に、前記液相と接触した前記第1の官能基が反応するように選択されている、エラストマー系。
【請求項2】
前記反応が、前記エラストマーを安定させる、請求項1に記載のエラストマー系。
【請求項3】
前記系が、前記第1の官能基と反応可能な第2の官能基を含んでおり、該第2の官能基が、前記エラストマーマトリックスの構成成分であり、前記エラストマーマトリックスに結合し、非共有結合によってマトリックスに埋め込まれ、且つ/又は前記添加剤の構成成分である、請求項1又は2に記載のエラストマー系。
【請求項4】
前記系が、触媒、反応促進剤及び/又は反応開始剤を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項5】
前記添加剤が第2の官能基を有し、前記エラストマーマトリックスの第1の官能基が、前記添加剤の第2の官能基と反応する、請求項1から4のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項6】
前記第1の官能基の相互間の反応が起こる、請求項1から4のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項7】
前記エラストマーマトリックスが、該エラストマーマトリックスと共有結合している第2の官能基を有し、当該エラストマーマトリックスの第1の官能基が前記第2の官能基と反応する、請求項1から4のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項8】
前記エラストマーマトリックスに助剤が含まれ、該助剤が、マトリックスと共有結合しておらず、第2の官能基を有し、前記エラストマーマトリックスの第1の官能基が、前記助剤の第2の官能基と反応する、請求項1から4のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項9】
前記反応が、共有結合の形成又は非共有結合による相互作用の形成であり、当該相互作用が、ファンデルワールス力による作用、磁気的作用、静電気的作用、イオン的作用、疎水性作用、双極子的な作用又は他のによる相互作用の中から選択される、請求項1から8のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項10】
前記反応が架橋反応である、請求項1から9のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項11】
前記架橋反応が可能である基が、ビニル基、ジエン基、アミン基、アルコキシシロキサン基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ウレタン基、イソシアナート基、シロキサン基、エステル基、アミド基及びチオール基から選択される、請求項10に記載のエラストマー系。
【請求項12】
前記添加剤が、表面に第2の官能基を含む粒子からなる、請求項1から11のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項13】
前記官能基及び前記添加剤がそれぞれ磁性を有し且つ/又はそれぞれイオン性を有し、相互間に親和力を持つ、請求項1から12のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項14】
前記エラストマーが、前記エラストマーマトリックスと前記液相との間に配置されている隔離層をさらに有する、請求項1から13のいずれか1項に記載のエラストマー系。
【請求項15】
表面及び内部を有するエラストマーであって、エラストマーマトリックスを含み、該エラストマーマトリックスが、前記内部に、共有結合された第1の官能基を有し、当該エラストマーが、前記表面に、共有結合された第1の官能基を実質的に有していない、エラストマーであって、
(a)前記エラストマーマトリックスが第2の官能基を有し、該第2の官能基が、前記エラストマーマトリックスの構成成分であるか又は当該エラストマーマトリックスに結合されており、且つ/又は
(b)第2の官能基を有する助剤、触媒、反応開始剤、反応促進剤及び/又は架橋剤が、共有結合されずに前記エラストマーマトリックス中に含まれており、
前記第2の官能基、触媒、反応開始剤、反応促進剤及び/又は架橋剤が、別の成分が前記エラストマーに進入した際に、前記第1の官能基との反応を起こす又は触媒するか又は開始するように選択される、エラストマー。
【請求項16】
前記第1の官能基が、カルボキシル基であり、前記エラストマーマトリックス中に、エステル化のための触媒が含まれている、請求項15又は16に記載の自己修復性エラストマー。
【請求項17】
隔離層を有する、請求項15又は16に記載の自己修復性エラストマー。
【請求項18】
前記エラストマーの損傷を修復するための、請求項1から15のいずれか1項に記載の系又は請求項15から17のいずれか1項に記載のエラストマーの使用。
【請求項19】
自己修復性エラストマー系を製造する方法又はエラストマーの損傷を修復する方法であって、
(a)表面及び内部を有するエラストマーを準備し、該エラストマーが、共有結合された第1の官能基を前記内部に有するエラストマーマトリックスを含み、
(b)前記エラストマーの前記表面に隣接する液相を加え、該液相が添加剤を含み、
前記第1の官能基及び前記添加剤を、エラストマーが損傷した場合に、前記液相と接触した第1の官能基が反応するように選択する、上記の方法。
【請求項20】
自己修復性エラストマー系を製造する方法又はエラストマーの損傷を修復する方法であって、前記エラストマー系が、
(a)表面及び内部を有するエラストマーであって、共有結合された第1の官能基を前記内部に有するエラストマーマトリックスを含むもの、並びに
(b)前記エラストマーの前記表面に隣接する液相
を含む方法であって、
前記液相に前記添加剤が加えられ、前記第1の官能基及び前記添加剤を、前記エラストマーが損傷した場合に、前記液相と接触した前記第1の官能基が反応するように選択する、方法。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか1項に記載されたエラストマー系の、シール、ダイヤフラム、ベローズ、成形品、ゴム−金属部品、ブシュ又は液圧式マウントのための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−242800(P2009−242800A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78675(P2009−78675)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(501479868)カール・フロイデンベルク・カーゲー (73)
【Fターム(参考)】