説明

自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物、およびその利用

【課題】樹状細胞におけるクロスプレゼンテーションのメカニズム、並びにクロスプレゼンテーションを制御する遺伝子およびタンパク質を明らかにするとともに、これらを利用して、自己免疫疾患による組織傷害を抑える組成物およびその利用技術を提供する。
【解決手段】樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤を有効成分として含む、自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、本来外界からの有害な異物の侵入に対する生体の防御機構として存在するものである。しかし、時にはこの免疫系の働きが、結果的に生体に有害であることがある。その1つがアレルギーである。
【0003】
生体は、外界からの異物に対してのみならず、自己の成分に対してもアレルギー反応を起こすことが知られており、自己免疫現象と呼ばれている。そして、自己免疫によりある種の病態が生じた疾患は、自己免疫疾患と呼ばれている。
【0004】
自己免疫疾患は、全身性の疾患であるが、臓器特異性のある疾患(臓器特異的自己免疫疾患)と、臓器特異性のない疾患(臓器非特異的自己免疫疾患)との2つに大別される。臓器特異的自己免疫疾患には、慢性甲状腺炎、原発性粘膜水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、およびシェーグレン症候群がある。臓器非特異的自己免疫疾患には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、および混合結合組織病がある。
【0005】
これら自己免疫疾患の多くは、組織に病変が認められるとともに、組織傷害を伴うものである。
【0006】
ところで、実験動物を同一の抗原で繰り返して免疫し続けると、免疫応答は極期をむかえ、やがて疲弊する。その結果として、組織傷害を伴う種々の自己免疫疾患(病態)が生じることが知られている(例えば、特許文献1参照および非特許文献1)。
【0007】
自己免疫疾患による組織傷害に関する研究は現在進みつつあり、組織傷害に、抗原提示細胞による抗原のクロスプレゼンテーションが関わっていることが明らかにされている。具体的には、(1)自己免疫疾患を患うと、樹状細胞における抗原のクロスプレゼンテーションが増強されること、(2)樹状細胞におけるクロスプレゼンテーションが増強されるとCD8T細胞が活性化し、当該CD8T細胞によって細胞傷害が誘導されること、が明らかにされている(例えば、特許文献2および非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−288382号公報(2006年10月26日公開)
【特許文献2】特開2010−004750号公報(2010年 1月14日公開)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tsumiyama K et al., PLoS ONE, Vol.4, No.12, e8382, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自己免疫疾患による組織傷害に樹状細胞における抗原のクロスプレゼンテーションが関与することが明らかになっているが、当該クロスプレゼンテーション自体のメカニズム、並びにクロスプレゼンテーションを制御する遺伝子およびタンパク質に関しては不明な点が多い。
【0011】
本発明は、樹状細胞におけるクロスプレゼンテーションのメカニズム、並びにクロスプレゼンテーションを制御する遺伝子およびタンパク質を明らかにするとともに、これらを利用して、自己免疫疾患による組織傷害を抑える組成物およびその利用技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、樹状細胞において、(1)抗原のクロスプレゼンテーションには小胞体ではなく、エンドソームが関与していること、(2)抗原のクロスプレゼンテーションにはSec61タンパク質が関与していること、(3)Sec61タンパク質により、エンドソームから細胞質へ抗原物質が放出されることがクロスプレゼンテーションにおいて重要な過程であること、という新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物は、上記課題を解決するために、樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤を有効成分として含むことを特徴としている。
【0014】
本発明の自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物では、上記薬剤は、Sec61タンパク質の機能を阻害するものであることが好ましい。
【0015】
本発明の自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物では、上記薬剤は、Pseudomonas aeruginosa exotoxin Aであることが好ましい。
【0016】
本発明の自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物は、上記課題を解決するために、樹状細胞において、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出が亢進している性質を有することを特徴としている。
【0017】
本発明の自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物は、上記樹状細胞では、Sec61タンパク質の機能が亢進していることが好ましい。
【0018】
本発明の薬剤のスクリーニング方法は、上記課題を解決するために、樹状細胞において、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤のスクリーニング方法であって、エンドソームに抗原物質を含む樹状細胞と、薬剤候補物質とを接触させる第1工程と、第1工程後に、上記抗原物質が細胞質に放出されたか否かを判定する第2工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る組成物によれば、自己免疫疾患による組織傷害を抑えることができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明は、簡便に、自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物を作製することができるという効果を奏する。
【0021】
さらに、本発明に係るスクリーニング方法によれば、簡便に、樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤をスクリーニングすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例において、抗原のクロスプレゼンテーションにエンドソームが関与することを示す図である。
【図2】実施例において、抗原のクロスプレゼンテーションに小胞体が関与しないことを示す図である。
【図3】実施例において、抗原のクロスプレゼンテーションにSec61タンパク質が関与することを示す図である。
【図4】実施例において、タンパク尿を検出した結果を示す。
【図5】実施例において、IFN−γ産生CD8T細胞を検出した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の「自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物」(以下、本発明に係る組成物と称する。)、「自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物」(以下、本発明に係るモデル動物と称する。)および「樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤のスクリーニング方法」(以下、本発明に係るスクリーニング方法と称する。)の一実施形態について詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
〔1.本発明に係る組成物〕
本明細書において、「自己免疫疾患」とは、自己成分(例えば、免疫グロブリンなど)に対する自己抗体(例えば、リウマチ因子など)が検出され、自己免疫が病態に関与している疾患が意図される。
【0025】
自己免疫疾患としては、臓器特異的自己免疫疾患(例えば、慢性甲状腺炎、原発性粘膜水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、およびシェーグレン症候群など)、および臓器非特異的自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、および混合結合組織病など)が挙げられる。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症および混合結合組織病は、膠原病として知られている。すなわち膠原病は、全身性自己免疫疾患に含まれるものである。本発明における自己免疫疾患は、膠原病であることが好ましい。
【0026】
本明細書において、「組織傷害」とは、生体内の組織の形態および生理学的機能のうち少なくとも何れかが、健常者と比べて異なる状態が意図される。例えば、腎臓における組織傷害の場合には、増殖性糸球体腎炎の発症およびタンパク尿の陽性度の異常が挙げられる。
【0027】
本明細書において、「自己免疫疾患による組織傷害」とは、上述した組織傷害が免疫応答の異常による自己免疫現象により引き起こされるものが意図される。自己免疫現象とは、外界からの異物に対してではなく、自己の成分に対して免疫反応を起こす現象である。
【0028】
自己免疫疾患による組織傷害が発症する可能性のある組織としては、例えば、腎臓、肝臓、甲状腺、唾液腺(顎下腺)、耳介および皮膚などが挙げられる。
【0029】
本明細書において、「クロスプレゼンテーション」とは、抗原提示細胞が外来性抗原を取り込み、プロテアソーム等により外来性抗原をプロセッシングした後、MHCクラスI分子によって抗原を提示する抗原提示機構をいう。
【0030】
通常、MHCクラスI分子は、細胞内に侵入した細菌およびウイルスによって産生されプロセッシングされた抗原(例えば、プロテアソームにより分解されて生じたペプチド断片)を提示する。一方、体内に侵入した細菌および毒物等の外来性抗原は、抗原提示細胞にエンドサイトーシスによって取り込まれると、細胞内の酵素によってプロセッシングされ分解される。そしてこの分解産物(例えば、ペプチド断片)が抗原としてMHCクラスII分子によって提示される。すなわち、抗原提示細胞によって取り込まれた外来性抗原は、本来、MHCクラスII分子により提示される。
【0031】
しかしながら、クロスプレゼンテーションによれば、本来MHCクラスII分子によって提示される抗原が、MHCクラスI分子によって提示される。なお、本明細書中で使用される場合、「クロスプレゼンテーション」は、本来MHCクラスII分子により提示される抗原が、MHCクラスI分子により提示される現象または提示されている状態をも意図するものである。
【0032】
以下に、本実施の形態の組成物に関して更に詳細に説明する。
【0033】
本実施の形態の自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物は、樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤を有効成分として含んでいる。
【0034】
上記薬剤は、樹状細胞において、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する活性を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出(分泌)に関与するタンパク質の機能を阻害する薬剤等を挙げることができる。
【0035】
エンドソームから細胞質への抗原物質の放出に関与するタンパク質としては、例えば、トランスロコンおよびSec61タンパク質などが知られている。したがって、上記薬剤は、これらのタンパク質の少なくとも1つの機能を阻害するものであることが好ましく、特にSec61タンパク質の機能を阻害するものであることが好ましい。なお、Sec61タンパク質は、タンパク質膜透過チャネル(トランスコロン)として機能する、3種類のヘテロタンパク質からなるタンパク質である(例えば、Hellmuth-Alexander Meyer et al., Journal of Biological Chemistry, Vol.275, No.19, p14550-14557, 2000参照)。
【0036】
上記薬剤は、例えば、ポリヌクレオチド(例えば、dsRNA(double stranded RNA)、dsRNA発現用ベクター、ドミナントネガティブ変異体発現用ベクターなど)、ポリペプチド、抗体(例えば、Sec61特異的抗体、中和抗体など)、低分子化合物または高分子化合物などであり得るが、これらに限定されない。
【0037】
上記薬剤がSec61タンパク質の機能を阻害する薬剤である場合には、例えば、Pseudomonas aeruginosa exotoxin Aであることが好ましい。
【0038】
上記薬剤が低分子化合物である場合には、当該低分子化合物は、抗原物質とSec61との相互作用を阻害するもの、Sec61のタンパク質の膜透過(膜輸送)機能を阻害するものなどであり得るが、これらに限定されない。
【0039】
Sec61タンパク質の機能を阻害する薬剤としては、Sec61のmRNAに対してRNA干渉を引き起こすことができるdsRNAを用いることも可能である。dsRNAの塩基配列としては特に限定されず、適宜設計することが可能である。上記dsRNAの長さとしては特に限定されないが、例えば、15bp〜30bpであることが好ましく、15bp〜25bpであることが更に好ましく、21bpであることが最も好ましい。上記dsRNAのGC含有率は特に限定されないが、例えば、40%〜60%であることが好ましく、45%〜55%であることが更に好ましく、50%であることが最も好ましい。
【0040】
上記dsRNAの具体的な配列は特に限定されないが、例えば、5´末端の塩基配列が、「AA」「AAG」または「AAC」であることが好ましい。
【0041】
上記dsRNAの更に具体的な配列は特に限定されないが、例えば、以下の配列であり得る。なお、以下に示す配列は単なる例示であって、本発明は、これらに限定されない。
【0042】
・dsRNA(1):5´−GCAAGUACACUCGUUCGUA−3´ (配列番号1)
・dsRNA(2):5´−UGUUCCAGUAUUGGUUAUGA−3´ (配列番号2)
・dsRNA(3):5´−GCCAAGUCGGCAGUUUGUAAAGGAC−3´ (配列番号3)
・dsRNA(4):5´−GUCCUUUACAAACUGCCGACUUGGC−3´ (配列番号4)
・dsRNA(5):5´−GCAAGUACACGCGAUCAUA−3´ (配列番号5)
・dsRNA(6):5´−CAUCGCUGCUGUAUUUAUG−3´ (配列番号6)
・dsRNA(7):5´−CCACUGUUCGGCAGAGAAA−3´ (配列番号7)
・dsRNA(8):5´−GGCGAUUCUACACGGAAGA−3´ (配列番号8)
・dsRNA(9):5´−AAUGAUCAUUACUAUCGGU−3´ (配列番号9)
なお、上記dsRNAがSec61のmRNAに対してRNA干渉を引き起こすことができることは、「Molecular Biology of the Cell, Vol.18, 1064-1072, March 2007」、「BMC Cell Biology, vol.10, 11, February 2009」、「Cancer Research, vol.69, 9105-9111, December 2009」、「Nature, vol.461, 788-792, October 2009」、および「International Immunology, vol.17, 45-53, January 2005」などに実証されている。
【0043】
上記薬剤は、上記dsRNAを発現することが可能なベクターであっても良い。この場合には、市販のキットを用いて上記dsRNAを発現することが可能なベクターを作製すればよい。具体的には、市販のベクター(例えば、アデノウイルスベクター)に、上記dsRNAに相当する二本鎖DNAを挿入することによって、上記dsRNAを発現することが可能なベクターを作製することが可能である。
【0044】
Sec61タンパク質の機能を阻害する薬剤としては、Sec61タンパク質の機能を阻害する中和抗体を用いることも可能である。中和抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であっても良い。中和抗体は、公知のものを使用することが可能であるし、作製することも可能である。
【0045】
中和抗体を作製する場合には、公知のモノクローナル抗体の作製方法に従って作製することが可能である。例えば、Sec61タンパク質の全長アミノ酸を抗原としてマウスを免疫し、当該マウスから分離した抗体生産細胞と骨髄腫細胞とのハイブリドーマ細胞株を樹立する。そして、各ハイブリドーマ細胞株が生産する抗体について、Sec61タンパク質の機能を阻害する中和活性があるか否かを検討すればよい。
【0046】
中和活性の有無を調べる具体的なアッセイ方法としては特に限定されない。以下にその一例を示す。
【0047】
Sec61タンパク質は、エンドソーム内の抗原物質を細胞質へ放出する機能を有している。後述する実施例からも明らかなように、樹状細胞内においてSec61タンパク質が存在する位置(Sec61タンパク質の局在化位置)と抗原物質が存在する位置とが重なっていることから、抗原物質はSec61タンパク質を経由して細胞質に放出されると考えられる。このため、例えば、抗原物質とSec61タンパク質との相互作用を阻害する抗体を中和抗体として利用できる。かかる中和抗体は、例えば、樹状細胞内においてSec61タンパク質が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なっていないことを指標として識別できる。
【0048】
また、樹状細胞と抗原物質とを接触させれば、通常、一時的にエンドソームのマーカータンパク質(例えば、EEA1など)が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なった後、両者の存在位置は異なるものになる。それ故に、一定の時間(例えば、抗原物質と樹状細胞とを接触させてから5分間)のみエンドソームのマーカータンパク質が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なり、その後、両者の存在位置が異なるものになれば、抗原物質は細胞質に放出されたと判定される。一方、一定の時間(例えば、抗原物質と樹状細胞とを接触させてから15分間〜30分間)にわたってエンドソームのマーカータンパク質が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なっていれば、抗原物質は細胞質に放出されないと判定される。したがって、一定の時間(例えば、抗原物質と樹状細胞とを接触させてから15分間〜30分間)にわたってエンドソームのマーカータンパク質が存在する位置と抗原物質が存在する位置とを重ならせることができる抗体を、中和抗体として識別すればよい。
【0049】
例示した2種類のアッセイにおいて、細胞に対してモノクローナル抗体を投与する方法は特に限定されないが、確実に細胞内へモノクローナル抗体を導入するという観点からは、インジェクション法またはリポソーム法を用いることが好ましい。
【0050】
本実施の形態の組成物は、薬学的に受容可能な任意のキャリアをさらに含み得る。キャリアとしては、例えば、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、植物油、乳化剤、懸濁剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、徐放剤、他のタンパク質(BSAなど)およびトランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等が挙げられる。さらに、本発明において使用可能なキャリアとしては、グルコース、ラクトース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプン、マグネシウムトリシリケート、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、および尿素などが挙げられる。
【0051】
本実施の形態の組成物の剤型は特に制限されず、例えば、溶液(注射剤)、粉体、マイクロカプセルまたは錠剤などであってもよい。
【0052】
本実施の形態の組成物の患者への投与経路は適宜選択され、例えば、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内または経口的に行われ得るがこれらに限定されない。また、本実施の形態の組成物は全身的または局所的に投与され得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には、病変部位への局所投与が好ましい。投与量および投与方法は、有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者は適宜選択し得る。
【0053】
本実施の形態の組成物中に含まれる有効成分の割合は特に限定されず、適宜設定することが可能である。例えば、有効成分を総組成物の0.1重量%〜90重量%含むことが可能であり、50重量%〜90重量%含むことも可能であり、75重量%〜90%含むことも可能であるが、これらに限定されない。
【0054】
本実施の形態の組成物中に含まれる有効成分の投与量は特に限定されないが、非経口投与では、1日当たり体重1kg当たり、0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜300mg、より好ましくは0.01mg〜100mgである。しかし、組成物中に含まれる有効成分の投与量は、疾患状態、体重、治療に対する患者の反応、投与形態、病気の経過の段階、または投与の間隔に依存して適宜調整され得る。なお、投与は、1回〜数回に分けておこなわれ得、例えば、1日あたり1〜5回投与され得る。
【0055】
本実施の形態の組成物の投与対象としては、例えば、ヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、およびサルなど)、ならびにその他の脊椎動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物への適用は、ヒトの組織傷害疾患に対する予防法または治療法を開発するためにも有用である。例えば、投与対象として非ヒト哺乳動物を用いて作製したモデル動物を用いることにより、自己免疫疾患による組織傷害の発症を予防する新たな治療プロトコルを開発することができる。
【0056】
〔2.本発明に係るモデル動物〕
本実施の形態の自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物は、樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出が亢進している性質を示すものである。
【0057】
具体的には、本実施の形態の組織傷害発症モデル動物では、樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出に関与するタンパク質の機能が亢進していることが好ましい。上記タンパク質としては特に限定されないが、例えば、トランスロコンおよびSec61タンパク質の少なくとも1つであることが好ましく、少なくともSec61タンパク質の機能が亢進していることが更に好ましい。
【0058】
本実施の形態の組織傷害発症モデル動物は、ヒト以外の哺乳動物であれば限定されるものではないが、ヒトの自己免疫疾患による組織傷害に対する予防法または治療法を開発するために用いられる実験動物が好ましい。例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシおよびイヌ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
以下に、本実施の形態の自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物の製造方法を説明する。なお、本発明は、当該組織傷害発症モデル動物の製造方法を包含する。
【0060】
自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物の製造方法は、樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を亢進する工程を含むことを特徴としている。上記組織傷害発症モデル動物の製造方法では、上記工程は、Sec61の機能を亢進することを含むことが好ましい。上記工程としては特に限定されないが、少なくとも樹状細胞において、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出に関与するタンパク質の機能を亢進する工程であることが好ましい。
【0061】
上述したように、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出に関与するタンパク質としては、例えば、トランスロコンおよびSec61タンパク質などが知られている。したがって、上記工程は、これらのタンパク質の少なくとも1つの機能を亢進させる工程であることが好ましく、少なくともSec61タンパク質の機能を亢進させる工程であることが更に好ましい。
【0062】
具体的には、上記工程は、少なくとも樹状細胞において、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出に関与するタンパク質の少なくとも1つを強制発現させることを含んでいることが好ましく、少なくともSec61タンパク質を強制発現させることを含んでいることが更に好ましい。
【0063】
樹状細胞においてこれらのタンパク質を強制発現させる方法としては特に限定されず、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、周知のトランスジェニック動物の作成方法に従って作成することが可能である。
【0064】
本実施の形態の組織傷害発症モデル動物は、自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための薬剤のスクリーニングなどに利用することができる。
【0065】
〔3.本発明に係るスクリーニング方法〕
本実施の形態のスクリーニング方法は、樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤のスクリーニング方法であって、エンドソームに抗原物質を含む樹状細胞と、薬剤候補物質とを接触させる第1工程と、上記抗原物質が細胞質に放出されたか否かを判定する第2工程と、を含んでいる。
【0066】
以下に、第1工程および第2工程について説明する。
【0067】
〔3−1.第1工程〕
第1工程は、エンドソームに抗原物質を含む樹状細胞と、薬剤候補物質とを接触させる工程である。
【0068】
エンドソームに抗原物質を含む樹状細胞は、例えば、生体由来の樹状細胞と抗原物質とを共培養することによって作製することができる。上記樹状細胞の由来は特に限定されないが、例えば、一般的なモデル動物由来の樹状細胞のほか、上述した本発明に係るモデル動物由来の樹状細胞を用いることも可能である。
【0069】
実施例に示しているように、骨髄由来DCを『Inaba K, et al. J Exp Med. 176:1693-1702, 1992.』および『Lutz MB, et al. J Immunol Methods. 223:77-92, 1999.』に記載されている方法にしたがって入手する。次いで、所望の抗原物質の存在下で、骨髄由来DCを培養する。抗原物質としては特に限定されず、例えば、卵白アルブミンなどを用いることが可能である。以上のようにして、エンドソームに抗原物質を含む樹状細胞を作製することができる。
【0070】
また、抗原物質は、放射性同位元素(例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、イオウ(35S)、トリチウム(H)、インジウム(112In)、およびテクネチウム(99mTc))、ならびに蛍光標識(例えば、GFP(Green Fluorescent Protein)、フルオレセインおよびローダミン)ならびにビオチン等の標識物質で標識されていることが好ましい。また、in vivoでの画像解析のための標識またはマーカーとして、X線撮影法、NMR、またはESRによって検出可能なものも適宜使用可能である。X線撮影法については、適切な標識として、検出可能な放射線を放射するが、被検体に対して明らかには有害ではない、バリウムまたはセシウムのような放射性同位元素が挙げられる。NMRおよびESRのための適切なマーカーとして、関連する樹状細胞に栄養分の標識等によって取り込まれ得る、重水素のような検出可能な特徴的な回転を有するものが挙げられる。
【0071】
in vivoでの試験では、放射性同位元素(例えば、131I、111In、99mTc)、放射性不透過体(radio-opaque)基質、又は核磁気共鳴によって検出可能な物質のような適切な検出可能な画像解析部分で標識されている、抗原物質が、試験される哺乳動物中に(例えば、非経口的、皮下、または静脈内)導入される。被検体の大きさおよび使用される画像解析システムによって、診断用の画像を生じるために必要とされる画像解析部分の量が決定されることが、当該分野で理解される。放射性同位元素部分の場合、ヒト被検体については、注射される放射活性の量は、通常約5〜20ミリキュリーの範囲の99mTcである。次いで、標識抗体または抗体フラグメントは、本発明に係るタンパク質に対する抗体を含む細胞の位置に優先的に蓄積する。なお、参考例として、in vivoでの腫瘍の画像解析については、S. W. Burchielら、「Immunopharmacokinetics of Radiolabeled Antibodies and Their Fragments」(Tumer Imaging 第13章: The Radiochemical Detection of Cancer, Burchiel, S. W. およびRhodes, B. A. 編、Masson Publishing Inc.(1982))に記載されている。
【0072】
適切な放射性同位体標識の例としては、H、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc、109Pdなどが挙げられる。111Inは、in vivoでのイメージングが用いられる場合に好ましい同位体である。これら放射性核種は、イメージングのためにより好ましいγ放出エネルギーを有する(Perkinsら、Eur. J. Nucl. Med. 10: 296-301(1985); Carasquilloら、J. Nucl. Med. 28: 281-287(1987))。
【0073】
また、適切な非放射性同位体標識の例としては、157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、および56Feが挙げられる。
【0074】
また、適切な蛍光標識の例としては、152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリトリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、o−フタルアルデヒド標識、およびフルオレサミン標識が挙げられる。
【0075】
化学発光標識の例としては、ルミナール標識、イソルミナール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸エステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、およびエクオリン標識が挙げられる。
【0076】
核磁気共鳴コントラスト剤の例としては、Gd、Mn、およびFeのような重金属原子核が挙げられる。
【0077】
第1工程では、上述した樹状細胞と薬剤候補物質とを接触させる。
【0078】
薬剤候補物質としては特に限定されない。例えば、薬剤候補物質はポリヌクレオチド、ポリペプチド、低分子化合物または高分子化合物などであり得、これらを1つまたは複数含むものであり得る。
【0079】
樹状細胞と薬剤候補物質とを接触させる具体的な方法は特に限定されない。例えば、樹状細胞を培養している培養液へ、薬剤候補物質を直接投与することが可能である。薬剤候補物質がポリヌクレオチドである場合には、リポフェクション法またはエレクトロポレーション法などによって、より確実に薬剤候補物質を樹状細胞内へ導入することが好ましい。薬剤候補物質がポリペプチドまたは高分子化合物である場合には、インジェクション法またはリポソーム法などによって、より確実に薬剤候補物質を樹状細胞内へ導入することが好ましい。
【0080】
〔3−2.第2工程〕
第2工程は、抗原物質が細胞質に放出されたか否かを判定する工程である。
【0081】
当該工程は、抗原物質がエンドソームから細胞質に放出されたか否かを判定することができる工程であればよく、具体的な構成は特に限定されない。
【0082】
例えば、上記第2工程は、エンドソームのマーカータンパク質(例えば、EEA1など)が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なっているか否かを判定することを含んでいることが好ましい。位置が重なっているか否かを判定する具体的な方法は特に限定されないが、蛍光染色法や上述した各種標識物質を利用した方法等によって判定することが、簡便さおよび精度の面で好ましいといえる。
【0083】
後述する実施例に示すように、樹状細胞と抗原物質とを接触させれば、通常、一時的にエンドソームのマーカータンパク質が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なった後、両者の存在位置は異なるものになる。したがって、一定の時間(例えば、抗原物質と樹状細胞とを接触させてから5分間)のみエンドソームのマーカータンパク質が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なり、その後、両者の存在位置が異なるものになれば、抗原物質は細胞質に放出されたと判定される。一方、一定の時間(例えば、抗原物質と樹状細胞とを接触させてから15分間〜30分間)にわたってエンドソームのマーカータンパク質が存在する位置と抗原物質が存在する位置とが重なっていれば、抗原物質は細胞質に放出されないと判定される。
【0084】
当該第2工程において、薬剤候補物質の作用により、樹状細胞において、抗原物質がエンドソームから細胞質に放出されない場合、当該薬剤候補物質は、自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための物質と判断できる。かかる物質の機能については、樹状細胞において、抗原物質がエンドソームから細胞質に放出させない機能を有しておればよく、Sec61タンパク質の機能を阻害する物質、Sec61タンパク質と抗原物質との相互作用を阻害する物質、Sec61タンパク質の発現を阻害する物質等を挙げることができる。
【0085】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0086】
<1.骨髄由来DC(BM−DC)の入手>
骨髄由来DC(bone marrow-dendritic cell:BM−DC)は、『Inaba K, et al. J Exp Med. 176:1693-1702, 1992.』および『Lutz MB, et al. J Immunol Methods. 223:77-92, 1999.』に記載されている方法にしたがって入手した。以下に、その方法について説明する。
【0087】
BALB/cマウスの大腿骨から採取した骨髄細胞(5×10細胞)を、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony-stimulating factor:GM−CSF)の濃度が20ng/mLであるRPMI 1640培地10mLにて培養した。
【0088】
培養開始3日後に、GM−CSFの濃度が20ng/mLであるRPMI培地10mLを加えた。
【0089】
培養開始6日後に、培地10mLを、GM−CSFの濃度が20ng/mLであるRPMI培地10mLと交換した。
【0090】
培養開始7日後に、浮遊細胞を回収した後、磁気分離法によってCD11cをマーカーとして骨髄由来DCを単離した。
【0091】
<2.抗原およびエンドソームの局在に関する検討>
本実施例では、抗原として蛍光標識した卵白アルブミン(ovalbumin :OVA)を用いた。更に具体的には、蛍光標識した卵白アルブミンとしては、市販の蛍光標識OVA(Invitrogen社製のAlexa Fluor488標識OVA、または、Alexa Fluor594標識OVA)を用いた。
【0092】
BM−DCを、蛍光標識した卵白アルブミンと共に5分間、15分間または30分間培養した。その後、蛍光標識抗体を用いて初期エンドソームのマーカーであるearly endosome antigen 1(EEA1)を染色した。なお、染色には市販の抗体(Affinity BioReagents社製の抗EEA1抗体およびInvitrogen社製のAlexa Fluor594標識抗rabbit IgG抗体)を用いた。また、Hoechstを用いて核を染色した。
【0093】
次いで、蛍光顕微鏡下において、BM−DC内におけるOVAおよびEEA1の局在を観察した。
【0094】
図1に観察結果を示す。5分間培養した場合には、OVAの存在位置とEEA1の存在位置とが重なった。つまり、5分間培養した場合には、OVAは初期エンドソームに存在しており、このことは、クロスプレゼンテーション、およびクロスプレゼンテーションによって引き起こされる組織傷害に、初期エンドソームが関与していることを示している。
【0095】
15分間培養した場合には、5分間培養した場合よりも、OVAの存在位置とEEA1の存在位置との重なりが減少した。また、30分間培養した場合には、15分間培養した場合よりも、OVAの存在位置とEEA1の存在位置との重なりが更に減少した。つまり、15分間、30分間と培養時間を増加させるにつれて、初期エンドソームに存在していたOVAが細胞質へと放出された。
【0096】
<3.抗原および小胞体の局在に関する検討>
BM−DCを、蛍光標識した卵白アルブミンと共に5分間、15分間または30分間培養した。その後、蛍光標識抗体を用いて小胞体(endoplasmic reticulum:ER)のマーカーであるカルネキシン(calnexin)を染色した。なお、染色には市販の抗体(Stressgen社製の抗カルネキシン抗体およびInvitrogen社製のAlexa Fluor635標識抗rabbit IgG抗体)を用いた。また、Hoechstを用いて核を染色した。
【0097】
次いで、蛍光顕微鏡下において、BM−DC内におけるOVAおよびカルネキシンの局在を観察した。
【0098】
図2に観察結果を示す。5分間、15分間および30分間培養した何れの場合も、OVAの存在位置とカルネキシンの存在位置とが重なることはなかった。つまり、5分間、15分間および30分間培養した何れの場合も、OVAが小胞体に存在することはなかった。このことは、クロスプレゼンテーション、およびクロスプレゼンテーションによって引き起こされる組織傷害に、小胞体は関与していないことを示している。
【0099】
<4.抗原およびSec61タンパク質の局在に関する検討>
BM−DCを、蛍光標識した卵白アルブミンと共に15分間培養した。その後、蛍光標識抗体を用いてトランスコロンであるSec61タンパク質を染色した。なお、染色には市販の抗体(Proteintech Group社製の抗Sec61B抗体およびInvitrogen社製のAlexa Fluor488標識抗rabbit IgG抗体)を用いた。また、Hoechstを用いて核を染色した。
【0100】
次いで、蛍光顕微鏡下において、BM−DC内におけるOVAおよびSec61タンパク質の局在を観察した。
【0101】
図3に観察結果を示す。図3から明らかなように、OVAの存在位置とSec61タンパク質の存在位置とが重なった。このことは、クロスプレゼンテーション、およびクロスプレゼンテーションによって引き起こされる組織傷害に、Sec61タンパク質が関与していることを示している。つまり、このことは、クロスプレゼンテーション、およびクロスプレゼンテーションによる組織傷害を引き起こすためには、Sec61タンパク質によって、抗原物質がエンドソームから細胞質へ放出されることが重要であることを示している。
【0102】
<5.Sec61タンパク質の阻害実験>
Sec61タンパク質の機能を、Pseudomonas aeruginosa由来のexotoxin Aで阻害した場合における、細胞傷害性T細胞(CTL)の生成と、組織傷害のひとつである腎炎の発症とを、in vivoにて検討した。その実験方法と実験結果とを以下に示す。なお、exotoxin AはSec61タンパク質の阻害剤の一例であって、当業者であれば、Sec61タンパク質の機能を阻害し得るものであれば、exotoxin Aと同様の効果が得られることを理解するであろう。
【0103】
BALB/cマウスの腹腔内へ、Sec61タンパク質の阻害剤であるexotoxin A (2.5μg)を投与した。exotoxin Aを投与した3時間後に、0.5mgの卵白アルブミン(OVA)を、上記BALB/cマウスの腹腔内へ投与した。上記exotoxin AおよびOVAの投与を、5日毎に合計12回、繰り返し行った。対照実験として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のみを5日毎に合計12回繰り返し投与する実験と、OVAのみを5日毎に合計12回繰り返し投与する実験とを行った。
【0104】
腎炎発症の有無を検討するために、最終投与から2日後にタンパク尿を検出した。具体的には、アルブスティックス(バイエル社)を用いて、テトラブロムフェノールブルーによる呈色反応に基づいてタンパク尿を検出した(なお、同様の検出方法が、本明細書中に記載された特許文献1および2、並びに、非特許文献1にも記載されているので参考のこと)。
【0105】
CTLの生成を検討するために、最終投与から9日後にBALB/cマウスを屠殺し、脾臓におけるIFN−γ産生CD8T細胞をフローサイトメーターにて検出した。具体的には、細胞内染色によってIFN−γを染色し、IFN−γ産生CD8T細胞をフローサイトメーターにて検出した(なお、同様の検出方法が、本明細書中に記載された特許文献1および2、並びに、非特許文献1にも記載されているので参考のこと)。
【0106】
図4に、タンパク尿を検出した結果を示す。図4に示すように、PBSのみを投与した場合には、腎炎は発症しないのでタンパク尿は検出されず、OVAのみを投与した場合には、腎炎が発症してタンパク尿が検出される。このとき、OVAとexotoxin Aとの両方を投与した場合には、OVAのみを投与した場合と比較して、タンパク尿のスコアが低下していた。このことは、OVAとexotoxin Aとの両方を投与することによって、腎炎の発症が有意に抑制されたことを示している。
【0107】
図5に、IFN−γ産生CD8T細胞を検出した結果を示す。図5に示すように、PBSのみを投与した場合には、脾臓においてIFN−γ産生CD8T細胞は増加せず、OVAのみを投与した場合には、脾臓においてIFN−γ産生CD8T細胞が増加する。OVAとexotoxin Aとの両方を投与した場合には、OVAのみを投与した場合と比較して、脾臓におけるIFN−γ産生CD8T細胞の増加が有意に抑制された。
【0108】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、自己免疫疾患による組織傷害の治療に用いることができる。また、本発明は、医療分野、製薬分野および保健医学分野をはじめ、生命科学分野の産業に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹状細胞におけるエンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤を有効成分として含む、自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物。
【請求項2】
上記薬剤は、Sec61タンパク質の機能を阻害するものである請求項1に記載の自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物。
【請求項3】
上記薬剤は、Pseudomonas aeruginosa exotoxin Aである請求項2に記載の自己免疫疾患による組織傷害を抑えるための組成物。
【請求項4】
樹状細胞において、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出が亢進している性質を有する、自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物。
【請求項5】
上記樹状細胞では、Sec61タンパク質の機能が亢進している請求項4に記載の自己免疫疾患による組織傷害を発症する組織傷害発症モデル動物。
【請求項6】
樹状細胞において、エンドソームから細胞質への抗原物質の放出を阻害する薬剤のスクリーニング方法であって、
エンドソームに抗原物質を含む樹状細胞と、薬剤候補物質とを接触させる第1工程と、
第1工程後に、上記抗原物質が細胞質に放出されたか否かを判定する第2工程と、を含むスクリーニング方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−72135(P2012−72135A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192115(P2011−192115)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(504156706)株式会社膠原病研究所 (13)
【Fターム(参考)】