説明

自己免疫疾患治療のための乳酸菌の使用

本発明は、自己免疫疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、乳酸菌から選択される少なくとも一種のプロバイオティクス細菌(Probiotic bacteria)株の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患の治療および/または予防のための薬学的組成物の製造のための、乳酸菌から選択される少なくとも一種のプロバイオティクス細菌(Probiotics bacteria)株の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロバイオティクス細菌は生きている微生物と定義され、適量の投与で宿主に有益な働きを及ぼす。乳酸菌やビフィズス菌は、プロバイオティクス製品として最も頻繁に使用されている細菌である。これらの細菌は一般的に安全で、これらの細菌に基づいたプロバイオティクス製品も同様である。どのような年代に対しても病原性はなく、免疫低下者に対しても病原性はない。種々のプロバイオティクス細菌の摂取は様々な生理的、病理的状況において、臨床的な有益性を示してきた。最も明解な影響は、抗生物質治療や、ロタウイルスの感染が原因で生じる下痢において示されてきた。また、プロバイオティクス細菌の摂取後、炎症性腸疾患やアトピー性皮膚炎、さらに、高コレステロール血症に対しても、良好な臨床的な効果が示されている。プロバイオティクス細菌がこれらの臨床的改良に、寄与する機序は明らかではない。動物におけるインビトロ・インビボの研究と同様に、ヒト由来のインビトロにおける研究から、種々の乳酸菌は先天性免疫、および後天性免疫に様々な方法で影響を及ぼしていることが示されている。
【0003】
臨床的な研究においては主に先天性細胞免疫系の刺激や、自然感染に対する体液性免疫応答の増進や、経口又は全身免疫の増進が示されている。先天性免疫系について、多形核細胞(PMN)の食作用活性の上昇や、NK細胞の腫瘍攻撃活性の上昇が報告されている。われわれの知見として、プロバイオティクス細菌摂取後における特異的細胞免疫系への影響を示す臨床研究はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明に従い、乳酸菌やグラム陰性細菌のP.ルンデンシス(P. lundensis)の毎日の摂取後の先天性免疫や後天性免疫系への影響を徹底的に検討した。興味深いことに、L.プランタラム(L. plantarum)を受けた被験者において、特異的な細胞免疫系の活性化が観察され、L.パラカゼイ(L. paracasei)を受けた被験者においても、同様のことが示された。さらに、種々の乳酸菌スピーシーズを受けた被験者では、NKT細胞集団の増加や食作用活性の増強のように、先天性免疫における免疫増強効果が観察された。グラム陰性細菌であるP.ルンデンシスでは効果はなく、ここに記載している実験のとおり、測定した他のどのような免疫パラメーターにも影響しなかった。
【0005】
西側社会では、ヒト個人の免疫系が自らのミスにより自分自身を攻撃し、個人は重病になるといった自己免疫疾患や自己免疫関連疾患への問題がある。自己免疫疾患は結合組織に影響を及ぼし皮膚、神経、脳、肺、腎臓、関節といった特定の器官のような体の他の多くの部分にも影響を及ぼす。神経や脳における自己免疫疾患の例は、多発性硬化症であり、皮膚における例は乾癬である。自己免疫疾患は多くの様々な形態をとり、それに対する治療も数多く存在する。その治療は病気の種類や冒される器官に依存している。
【0006】
当該技術の範囲内において、病気が発症する前に予防的処置を提供するのと同様に自己免疫疾患の症状を処置したり、緩和したりする必要性が存在する。これらの問題は、以下より明らかとなる本発明の主題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要約
本発明の目的は、自己免疫疾患の治療及び/又は予防のための薬学的組成物の製造のための、乳酸菌から選択された、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌 (Probiotic bacteria) 株の使用である。
【0008】
本発明の別の目的は、自己免疫疾患の治療方法であって、乳酸菌から選ばれたプロバイオティクス細菌株の少なくとも一種を個体に投与する方法である。
【0009】
本発明の実施形態において乳酸菌から選ばれた少なくとも一つのプロバイオティクス細菌株は、多発性硬化症(MS)、アレルギー、乾癬、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、I型糖尿病、炎症性腸疾患、又は全身性エリテマトーデスのような臓器特異的自己免疫から選択される自己免疫疾患の治療のための薬学的組成物の製造に使用されるがこれらに限定されない。
【0010】
特に言及していないが、プロバイオティクス細菌株が(予防もしくは治療可能な)効果を及ぼす、他のどんな自己免疫疾患も本発明の範囲内である。
【0011】
本文中に記載されている単語「治療および/または予防」とは、個体における予防的処置、すなわち、疾患を予防するためにプロバイオティクス細菌での処置が疾患が発症する前に開始され、並びにすでに個体で発症した疾患の治療を包含する。後者の場合、例えば症状の緩和が期待されることか、もしくは患者の一般的状態がよい方向に向かうこと、もしくは患者が疾患から治癒する。つまり、個体が自己免疫疾患を発症するリスクがあるかない個人、もしくはすでに疾患を有する患者であり得る。
【0012】
本発明に従い使用される乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノーザス(Lactobacillus rhamnsosus)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)からなる群より選択されたものであるがそれらに限定されない。
【0013】
ここで明確に開示したプロバイオティクス細菌株よりも、他のプロバイオティクス細菌株が、当然に本発明に従い使用され得る。それらの菌株は、期待される効果、すなわち自己免疫疾患の症状の緩和もしくは、自己免疫疾患の予防効果を提供する限り、本発明の範囲内である。
【0014】
本発明に従い使用されるラクトバチルス・プランタラムはラクトバチルス・プランタラム299、DSM 6595、ラクトバチルス・プランタラム299v、DSM 9843、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 9、DSM 15312、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 19、DSM 15313、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 99、DSM 15316からなる群より選択されたものであり得るがそれらに限らない。
【0015】
本発明に従い使用されるラクトバチルス・パラカゼイは、ラクトバチルス・パラカゼイ 8700:2、DSM 13434、ラクトバチルス・パラカゼイ・02A、DSM 13432からなる群から選択されたものであり得るがそれらに限らない。
【0016】
本発明に従い使用されるラクトバチルス・ガセリはラクトバチルス・ガセリ・VPG44、DSM 16737から選択されたものであり得るがそれらに限らない。
【0017】
本発明の他の実施形態では少なくとも二種のプロバイオティクス株が前記の自己免疫疾患に対する治療および/または予防のために使用される。その少なくとも二種の株は乳酸菌から、望ましくはラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ラムノーザス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・パラカゼイ、およびラクトバチルス・ガセリから選択される。
【0018】
少なくとも二種のプロバイオティクス株が目的の治療に使用される本実施形態では、前記の二種の株は連続的にもしくは同時に投与されることが意図される。つまり、株は一つの組成物として混合された形で投与されてもよく、または、異なる組成物として、独立に連続して投与されてもよい。
【0019】
さらに本発明の実施形態では、前記の薬学的組成物が液体製剤または固体製剤となる。前記の固体製剤は錠剤、吸引錠剤、スウィート(sweet)、チューイングタブレット(chewing tablet)、チューインガム、カプセル剤、サシェ、散剤、顆粒剤、被覆粒子及び被覆錠剤、腸溶錠及び腸溶カプセル剤、メルティングストリップ並びにフィルムからなる群から選択され、前記液体製剤は、経口液剤、懸濁剤、乳濁剤及びシロップ剤からなる群から選択される。
【0020】
さらにまだ加えて、本発明の実施形態では、前記組成物に担体材料を含んでもよい。前記担体材料は、オートミール粥、乳酸醗酵食品、難消化性澱粉、食物繊維、炭水化物、タンパク質及び糖化タンパク質からなる群より独立に選択されるが、それらに限定されない。
【0021】
さらなる本発明の実施形態において、前記薬学的組成物は、医療用食品、機能性食品、栄養補助食品、栄養製品、食品調製物から選択されたものであるがそれらに限らない。従って、本明細書で使用される「薬学的組成物」という用語は、医薬品のように、通常の意味での薬学的組成物を必ずしも意味せず、医療用食品、機能性食品、栄養補助食品、栄養製品、食品(food product)の領域内の製品であり得る。前記の食品である場合、該食品は飲料、ヨーグルト、ジュース、アイスクリーム、パン、ビスケット、シリアル、ヘルスバー及びスプレッドから選択され得るが、それらに限らない。
【0022】
このように、本発明に従う組成物の使用は、予防的に使用可能であるという意味で、即ち、自己免疫疾患が発症する前に、非常に有益であり得る。使用される薬学的組成物は通常の意味の医薬品である必要はなく、健康補助食品や機能性食品であってもよいので、正常健常人にとって予防的に本発明の組成物を摂取することは非常に都合がよい。
【0023】
本発明の実施形態において前記の各株は組成物中に約1×106から約1×1014 CFU、好ましくは、約1×108から約1×1012より好ましくは、1×109か1×1011の量で存在する。
【0024】
本発明に従う薬学的組成物は、不活性ビヒクル、もしくは薬学的に許容されるアジュバント、担体、保存料などのような、当業者によく知られた、その他の物質も含んでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
実施例
実施例1
被験者と治験基準
18歳から55歳の(平均26歳)57人の明確に健康なボランティアを盲検プラセボ対照研究のために選んだ。被験者は無作為的に8群に割り当て、グラム陽性菌、L.プランタラム(L. plantarum) 299v (n= 7)、L.プランタラム・Heal(L. plantarum Heal) 19 (n= 7)、L.ファーメンタム(L. fermentum) 35D (n= 7)、L.パラカゼイ(L. paracasei) 8700:2 (n= 7)、L.ガセリ(L. gasseri) VPG 44 (n= 7)、L.ラムノーザス(L. rhamnsosus) 271 (n= 7)、もしくはグラム陰性菌P.ルンデンシス(P. Lundensis) n= 7)、もしくはプラセボ (n= 10)を受けた。細菌の用量は乳酸菌においては1010細菌/日で、P.ルンデンシスにおいては109細菌/日であった。対象群にはスキムミルク粉末1gを与えた。群によっては、調査は6週間か、もしくは9週間行った。そのうち2週間は休薬期間であり、アクティブ研究期間は2週間か5週間で、残りは2週間のフォローアップ期間である(図4)。それぞれの被験者に対して、すべての試験期間中で消費するべきではないプロバイオティック製品を含む製品リストを渡した。末梢血サンプルは被験者の静脈より2、3回、0日目、14 日目、35 日目に採血した。被験者の副作用の訴え、健康状態、摂取した研究製品の確認を記録した日誌は治験中記録した。
【0026】
フローサイトメトリー
全血中のリンパ球の表現形の解析はフローサイトメトリーにより行った。様々な細胞集団の表面マーカーとして、以下に示す抗ヒトモノクローナル抗体を用いた。CD3 FITC (SK7)、CD4 APC (SK3)、CD8 PerCP (SK1)、CD19 PerCP (SJ25C1)、CD56 PE (MY31)、CD16 PE (B73.1)、およびCD5 FITC (L17F12)。以下に示す抗ヒトモノクローナル抗体は様々な活性化および記憶マーカーを検出するために使用される:CD25 FITC (2A3)、HLA-DR PE (L243)、CD45RO PE(UCHL-1)、CD38 PE (HB7)、CD27 PE(L128)、およびCD11b PE (D12)。すべての抗体は、ベクトン、ディッキンソン社(エレンボーデン、ベルギー)より購入した。全血(100 μl)は抗体(10 μl)と暗所にて4℃、30 分インキュベートし、その後2 mlのFACS lysing solution(ベクトン、ディッキンソン社)を加え、暗所にて20℃、15 分インキュベートした。細胞は3 mlのFACSFlowを加えて洗浄し、300 x gにて5 分間遠心し、200 μlのFACSFlowで再懸濁した。解析はFacsCalibur(ベクトン、ディッキンソン社)とCellQuestソフトウェアを用いて行った。
【0027】
食作用測定法
単球や顆粒球の食作用活性はPHAGOTEST(登録商標)(オルペゲン・ファーマ社、ハイデルベルグ、ドイツ)を用いて、製造業者の仕様書に従い幾つかの改変を加えて測定した。簡単に説明すると、20×106個のFITC標識された大腸菌(E. coli)、もしくは黄色ブドウ球菌(S. aureus)をあらかじめ冷やしておいた全血(100 μl)に加える。血球細胞と細菌を37℃、10 インキュベートし、FacsCaliburとCellQuestソフトウェアを行った。
【0028】
計算
様々な免疫パラメーターに関する個人間の変化は、14日目と0日目、あるいは35日目と0日目に得られた個人の値の比を計算することで決定した。これらの比は、すべての群の計算と統計処理に使用した。
【0029】
統計処理
すべての統計学的解析はStatviewを用いて行った。マンフォイットニーU検定は異なる群間を比較するために使用した。
【0030】
結果
臨床学的観察
57人のボランティアのうち54人が完全に研究された。2 名が感染し、抗生物質治療のために除外した(1 名はプラセボ群で、もう1 名はP.ルンデンシス受種群)。また、1 名は16 日目に妊娠のため除外した(プラセボ群)。研究製品の摂取後に、緩やかな胃腸系の副作用のみが報告された(図1)
【0031】
乳酸菌摂取がT細胞を活性化する
活性化マーカーのCD4+およびCD8+T細胞において、個々の変動もあり、ベースライン(0日目)が非常に高かった。様々な細胞表面マーカー発現している細胞の百分率のベースラインは図2に示した。この時点の種々の群間において、有意な差異は見られなかった。非常に大きな個体間差が観察されたので、それぞれ個人の0日目と比較した14日目と、35日目の比の値を比較するために選択した。すべての計算値とその比較は比の値(14日目/0日目と35日目/0日目)で行った。L.プランタラム 299vを含む研究製品を摂取した14日後、CD8+ T細胞上の活性化マーカーCD25の約2倍の発現上昇が観察された(p=0.01)(図5)。また、有意ではないものの(p=0.12)、L.プランタラム 299v摂取によって、CD8+ 細胞上のHLA-DRの強いアップレギュレーションも示された。さらに、L.プランタラム 299v摂取後にCD4+T細胞の活性化の傾向が観察された。グラム陰性細菌P.ルンデンシスと同様に本研究に含まれる他の乳酸菌種の摂取も行ったところ、CD4+ T細胞もCD8+T細胞も活性化しなかった。しかしながら、L.パラカゼイ摂取では確かに、CD4+ T細胞のHLA-DRの発現が上昇する傾向にあった(p=0.18)。
【0032】
乳酸菌の摂取はCD4+ T細胞の記憶型表現形誘導させる
CD4+ およびCD8+ T細胞上のCD45ROの発現の蛍光強度の幾何平均(Geometric means of the fluorescence intensity(GMFI))を異なる研究製品を受けた群間で比較した。上記の通り、群の計算値は個人の比の値に基づいて(14日目/0日目と35日目/0日目)比較のために使用した。L.プランタラム299vを含む研究製品を摂取して35日後、CD4+T細胞におけるCD45ROのGMFI値は有意に上昇した(p=0.03)。また、L.プランタラムの摂取後のCD8+ T細胞上のCD45ROの増加する傾向も存在した(図6)。その上、L.パラカゼイの摂取がCD8+T細胞上のCD45ROのアップレギュレーションにポジティブな効果を持っているようである‘(p=0.10)(図6)
【0033】
研究製品の摂取による様々な細胞の集団への効果
L.パラカゼイを摂取することで、NKT細胞と同定できるリンパ球の百分率が上昇した(p=0.06)(図7)。0日目と比較して、相対的に増大したか減少したかについてはCD4+T細胞、CD8+ T細胞、B細胞、B-1細胞(CD19+、CD5+)、NK細胞、顆粒球、単球などの、他の細胞に関しては確認できなかった。
【0034】
食作用活性
顆粒球と単球はFSC-SSCダイヤグラムで同定できる。これらの細胞の、FITCラベルしたグラム陰性菌とグラム陽性菌の食作用活性についてテストした。図8に示したとおり、L.プランタラム299v (p=0.064)、L.プランタラムHeal19 (p=0.064)、L.ファーメンタム(p=0.064)、又はL.パラカゼイ(p=0.05)受けたボランティアから得た顆粒球は、プラセボ群のボランティアより得た顆粒球に比べて、より効果的にグラム陰性菌である大腸菌の食作用を示した。ところが、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌では食作用の群間での差異が見られなかった。単球における、食作用活性の差異も検出されなかった(データは示さない)。
【0035】
考察
免疫系の一次タスクは迅速かつ猛烈に微生物と反応し、その結果感染を予防し、治癒する。微生物の殺傷には強力な機構を採用しており、我々自身の組織も損傷を受ける。ゆえに、我々自身の組織にも、その環境に存在する、無害な物質にも応答しないことが必要である。ゆえに、免疫系は、我々自身の体の成分と、食物や吸い込んできたタンパク質の両方に対する寛容を進展し、維持している。もし、これが機能しなくなると、幾多もの疾病を引き起こす。特定の免疫寛容を発生する手段は免疫系において不可欠な作業である。
【0036】
すべての免疫反応において、ヘルパーT細胞が中心的な役割を担っている。ヘルパーT細胞が特定の抗原により活性化され、分裂し、成熟すると、様々なサイトカインを産生し、それらは免疫系における、細胞障害性T細胞やB細胞などの、他のタイプの細胞に働きかける。ヘルパーT細胞の活性化は抗体産生を含むほとんどのタイプの免疫反応を作り上げるために必要である。逆に、ヘルパーT細胞の活性化が阻害されると、ほとんどのタイプの免疫反応は麻痺してしまう。
【0037】
ヘルパーT細胞の活性化と寛容の維持を堅固にするには様々な機構が存在する。一つの機構は、胸腺T細胞内で自分自身の組織を認識し、反応する能力をもって排除することである。しかしながら、その排除は完全ではないので、さらに外来性抗原に対する特異的な免疫寛容を発達させる必要がある。そうでないと、吸入し摂取するすべてのタイプの物質に対して猛烈に反応することになり、広範囲の炎症を引き起こし免疫資源を無駄にする。
【0038】
寛容の維持に中心的な細胞のタイプは制御性T細胞である。この細胞タイプは表面にCD4やCD25を発現し、細胞内においてはCTLA-4を保持し、核内タンパク質であるFoxp3を転写するといった特定のマーカーによって認識され得る。制御型T細胞は無害な物質に遭遇した際に、他のT細胞が活性化するのを抑える能力を有し、従って、要求されていないすべてのタイプの免疫反応を回避する。
【0039】
CD4+やCD25+のような特定のマーカーに関連している本文中の記号「+」は、そのマーカーがT細胞に発現していることを意味する。例えば、CD4+CD25+T細胞はその表面上にCD4マーカーとCD25マーカーの両方が発現しているT細胞である。しかしながら、発現されるマーカーの量については何も述べず、それが存在することのみである。CD4++またはCD25++のようなマーカーに関連している本文中の記号「++」は、そのマーカーがT細胞表層上で多量に発現していることを意味する。制御型T細胞はCD25をその表面上で多量に発現している細胞、すなわちCD4+CD25++T細胞である。それに対して、CD4+CD25+T細胞は単に活性化したT細胞である。時には、CD4CD25のように、「+」や「++」といった特異的な記号は使用されず、これはCD4+CD25+細胞と同様に活性化された細胞を意味する。すなわち、CD4CD25はCD4+CD25+と同じである。制御型T細胞に関して議論する際には常にCD4+CD25++細胞と表記される。
【0040】
この、盲検プラセボ対照研究は独自のもので、初めて異なるグラム陽性菌である乳酸菌、またはグラム陰性菌P.ルンデンシス摂取後の様々な免疫パラメーターに対する影響を比較した最初の研究である。面白いことに、P.ルンデンシス摂取後は確かに測定したどんな免疫パラメーターも影響を及ぼさなかった。これに対して、乳酸菌摂取は特異的免疫系、先天性免疫系の両者の異なる要素に影響を与えた。この研究における新規な知見は、L.プランタラムの摂取がT細胞集団において、記憶細胞の活性化と誘導にポジティブな影響を及ぼすと断言できる。細胞傷害性T 細胞のHLA-DRのアップレギュレーションに対する強い傾向とIL-2受容体α鎖(CD25)の有意なアップレギュレーションが見られた。これらの活性化マーカーに対するアップレギュレーションに対する傾向はL. プランタラム摂取後における、ヘルパーT細胞においても観察された。活性化マーカーの発現はT細胞が抗原特異的、または非特異的な刺激に応答して増殖開始すること、および静止期T細胞(resting T cell)と比較してより早くそのエフェクター機能を働かせることを示している。L.プランタラムによって誘導されるT細胞の活性化の背景にある機構は、微生物化合物が、Toll様受容体に結合することで活性化し、抗原提示をしている細胞を介していると考えられる。抗原提示細胞の活性化は、T細胞に対する抗原提示をより効果的にする。さらに、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T 細胞の両者ともに様々なToll様受容体を発現しており、微生物成分および生産物による、非特異的な活性化に対してこれらの細胞がおそらく感知させると考えられる。
【0041】
ヘルパーT細胞コンパートメントの類似点から、CD45ROの発現は細胞障害性T細胞において記憶集団をマークするようである。L.プランタラム摂取後35日目において、ヘルパーT細胞の、この記憶型細胞マーカーの有意な発現上昇と、細胞障害性T細胞がアップレギュレーションする傾向が見出された。さらにまた、L.パラカゼイも細胞障害性T細胞上のCD45ROのアップレギュレーションの傾向を示した。ナイーブT細胞と比較して、CD45ROT細胞は幅広い範囲でサイトカインの分泌を行っている。その上、CD3-TCR複合体が次善最適条件下において刺激を受けたとき、CD45ROT細胞は増殖しIL-2を産生することができる。これに対して、ナイーブT細胞はこれらの機能を実行するには、強いCD3-TCR刺激が必要である。感染およびワクチン接種後の効果的な免疫応答の誘導には、記憶型T細胞の形成が重要となる。
【0042】
先天性の細胞性免疫系は、プロバイオティクス細菌の摂取によっても引き起こされる。L.パラカゼイ摂取に引き続いて、ナチュラルキラーT(NKT)細胞集団が増大することが実証された。NKT細胞はNK細胞マーカーのCD56やT細胞マーカーのCD3-T細胞受容体複合体を共発現しているリンパ球亜集団を構成する。ヒトおよびマウスにおける研究では、多発性硬化症やI型糖尿病、全身性エリテマトーデスのような自己免疫疾患の制御において、NKT細胞が中心的な役割を担っていることが実証されている。NKT細胞はさらに、腫瘍やウイルス感染に対するエフェクター機能を働かせる。すなわち、NKT細胞は自身の機能について多面的である。プロバイオティクス細菌の免疫に対する効果を評価したその他臨床的な研究では、L.ラムノーザスHN101および、ビフィドバクテリウム・ラクチス(Bifidobacterium lactis) HN019の摂取がNK細胞の(NKT細胞を含む)のK562細胞へ対する腫瘍殺傷活性を高めることを示した。この研究においては、ほかにも多核球細胞の食作用活性が、様々な乳酸菌の摂取後に増加することも確認されている。本研究において観察された種々の免疫パラメーターへの影響の結果として、ウイルス上昇するといった感染および/または腫瘍に対して、免疫防御が強化されるという点において細胞障害性T細胞の活性化とNKT細胞の増大が同時に起こると推測される。インビトロの知見として、乳酸菌は単球細胞のIL-12、およびIL-18の分泌を誘導することを見出し、これらの細菌の摂取が、細胞を介した活性を刺激しているという理論を支持している
本発明に従い、L.プランタラムおよびL.パラカゼイの摂取が特異的、および先天的細胞免疫系に深い影響を有していると結論付けられた。
【0043】
実施例2
この実施例での目標は、幾つかの(異なる種の)乳酸菌を順序正しく次々に投与したときと比較して、同じ種の乳酸菌をより長期間与えることによる免疫系に対する効果を検討することである。
【0044】
ボランティアは14日間、もしくは35日間凍結乾燥された粉末状の細菌を与えられた。グラム陽性細菌として、ラクトバチルス・プランタラム299vのプロバイオティクス細菌を単独、もしくはL.ラムノーザス、L.ファーメンタム、L.パラカゼイ、L.ガセリとの組み合わせで使用した。また、グラム陰性細菌としてシュードモナス・ルンデンシスを使用した。
以下に示す群で研究を行った。
1)ラクトバチルス・プランタラム299v 35日間
2)L.プランタラム299v 7日間、L.ラムノーザス271 7日間、L.ファーメンタム35D 7日間、L.パラカゼイ8700:2 7日間、L.パラカゼイVGP44 7日間、合計35日間(連続)
3)L.プランタラム299v、L.ラムノーザス271、L.ファーメンタム35D、L.パラカゼイ8700:2、L.パラカゼイVGP44の混合物。合計14日間
4)L.ラムノーザス271 14日間
5)L.ファーメンタム35D 14日間
6)L.パラカゼイ8700:2 14日間
7)L.ガセリVGP44 14日間
8)シュードモナス・ルンデンシス14日間
コントロール群2)プラセボ35日間
コントロール群1)プラセボ14日間
血液サンプルは0日目、14日目、35日目に採血した。CD25が大量に発現されているヘルパーT細胞(CD4+)の量は、上記実験例1にて特定したフローサイトメトリーを用いて、各群で決定した。
【0045】
結果
14日目に、5種類の異なる乳酸菌株を順番に摂取した個人において、CD4+CD25++T細胞の増大は境界の有意性であった。
【0046】
考察
CD25分子を高密度で発現している(CD4+CD25++)ヘルパーT細胞(CD4+)は自己免疫疾患、アレルギー、炎症性腸疾患から保護するのに重要であることが別の研究で示されてきた。この知見からは、連続的に異なる乳酸菌を摂取した後に、これらの細胞の数が増えるということが、上記疾病の進行に関するリスクを懸念する個人にとって、これらの細菌の摂取が有益であることを示唆している。
【0047】
実施例3
動物
8週齢のC57BL/6、マウスをタコニックヨーロッパ(デンマーク)より購入した。動物はルンド大学細胞生物学科(Dept. of Cell and organism biology)にある従前の動物施設で飼育・繁殖を行った。すべての実験は、スウェーデン、マルモ市の倫理委員会に従って実行した。マウスには普通の食事と水を随意に与えた。そして実験開始の少なくとも一週間前に、新しい環境への順応期間を与えた。EAE実験に使用したマウスは体重測定され、この実験においては、EAEの臨床的症状、および毎日の臨床的評定において説明されるスケールに従ったスコアを検査した。スコア6のマウスは、脱水症を防ぐために一日に一回0.5 mlの生理食塩水を皮下に与えた。マウスに臨床的な疾病の症状が確認されればケージ下部にエサを置いた。スコア7のマウスは倫理的な理由により犠牲にした。実験は、免疫開始後24日で終了した。
【0048】
抗原
ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)の脳脊髄炎誘発性ペプチドを実験的自己免疫脳炎(EAE)誘導に用いた。合成ペプチドのアミノ酸35-55(MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK)は、シェーファーN(コペンハーゲン、デンマーク)より購入した。使用したペプチドの純度は99 %であった。
【0049】
免疫
EAEは前に記載したとおり、雌性C57BL/6マウスに誘導をかけた。簡単に説明すると、皮下注射によるイソフルラン麻酔下で各動物を免疫し、PBSに溶かした200 μgのMOG35-55とマイコバクテリウム・ツベルキュロシス(Mycobacterium tuberculosis) H37Raを含むCFAの1:1エマルションを100 μlを脇腹に注射した。その後すぐに、免疫後48時間で、マウスに4 μg/mlの百日咳毒素0.1mlを腹腔内注射した。
【0050】
臨床的評価
EAEの臨床的兆候は以下の0から8のスケールに従いスコアリングした。0:臨床的疾患の徴候が見られない。1:尻尾が弱まる、2:尻尾が麻痺する、3:後脚麻痺および歩行障害、4:後脚の一つが麻痺、5:両後脚の麻痺、および胴体後部の麻痺、マウスは前脚でもって動き回ることが可能。6:両後脚の麻痺、および胴体後部の麻痺、さらに深刻な移動障害。7:四肢の麻痺、移動不可、瀕死、8:死亡。
【0051】
細菌株と治療
L.プランタラムHEAL 9、L.パラカゼイ8700:2はプロビ エービーより提供された(イデオン、ルンド、スウェーデン)。細菌は遠心分離により収穫し、一度洗浄した後、水道水で終濃度2×109コロニー形成単位(CFU)/100 mlで、一つのボトルに再懸濁した。三番目のボトルはL.プランタラムHEAL 9とL.パラカゼイ8700:2の混合物で、終濃度2×109CFU /100 mlで調製した。ボトルは洗浄され、細菌含有のビヒクルは毎日調製した。それぞれの治療群において、10匹のマウスで実験を行った。それぞれの動物は、一日あたり約108CFUを含む4-5 mlビヒクルを飲んだ。
【0052】
結果
プロバイオティクス処置はMOG誘導EAEの進行を抑える
プロバイオティクスの抗炎症効果を研究するために、3群の動物をプロバイオティクスであるL.プランタラムHEAL9、L.パラカゼイ8700:2およびL.プランタラムHEAL 9とL.パラカゼイ8700:2の混合物であらかじめ12日間前処置を行った後、CFAとMOG35-55のエマルションを用いてEAEについて免疫を0日目に行い、その後すべての実験期間中通して(24日目まで)処置した。4番目の群の動物はコントロールとして水道水のみを与えた。図10に示すように、L.プランタラム・ヒール9もしくは、L.パラカゼイ8700:2での処置は、11日目に開始した重度なEAEを示したコントロールマウスと比較して、10日目には慢性EAEの進行を首尾良く妨げた。細菌混合物で処置を行ったマウスでは、コントロールと比較して発症の約5日の遅延も示した。これらのマウスは、単一の細菌で処置を行ったマウスと比較して、より重篤なEAEに進展した。24日目に、コントロールマウスの91 %に対して、単一の細菌で処置を行った14 %と罹患動物の発症率は顕著に減少した。また、細菌混合物で処置を行ったマウスでは60 %の発症率であった。実験期間中における、動物の体重の変化を解析してみると、驚いたことに、細菌混合物での処置は、普通なら病気の発症後生じる体重の減少を抑えていることが示された(図9)。単一の細菌で処理された動物は、コントロールマウスと比較しても、麻痺の症状を示さないにもかかわらず、体重が減少した。
【0053】
EAEの予防的処置
動物は免疫前12日間と実験期間中ずっとプロバイオティクスで処置した。
様々な細菌を含む飲料水100 mlは毎日新鮮なものを準備した。
約1.108細菌/マウス/日で、コントロールマウスでは水のみを与えた。
NPlamtarum=7、NParacasei=7、NMix=10、NControl=11
結果は図9に示す。
【0054】
EAEの慢性的炎症の治療的処置
EAE発症一日後のプロバイオティクスでの経口処置。動物は、個々に給餌用針にて、処置した。
約1.108細菌/マウス/日。コントロールマウスは9 mg/mlの滅菌生理食塩水を与えた。
NPlamtarum=6、NParacasei=6、NMix=8、NControl=8
結果は図10に示す。
【0055】
実験例4
ラクトバチルス・パラカゼイとラクトバチルス・プランタラムの経口投与による、中枢神経系の慢性的炎症の抑制
この研究の目的は中枢神経系において、T細胞媒介慢性炎症にプロバイオティクスがどんな効果を及ぼすかについて検討することであった。本発明者らは、プロバイオティクスの経口処置が病原性T細胞エフェクターの免疫調節によって抗炎症効果を与えていると仮定した。
【0056】
材料と方法
動物モデル
実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)は、多発性硬化症の動物疾患モデルで、完全フロイントアジュバンド中のミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)の35−55番目のペプチドでの免疫によって誘導される。百日咳毒素も更なる炎症効果の増大に関連して注入した。二週間後に、動物は臨床的な兆候を示し始めた。EAEの兆候は8つのカテゴリーにスコアリングされた。0:臨床的疾患の兆候無し。1:尻尾が弱まる、2:尻尾が麻痺する、3:麻痺および歩行障害、4:後脚の一つが麻痺、5:両後脚の麻痺、6:両後脚の麻痺および第3の脚の麻痺、マウスは前に動くことが可能。7:四肢の麻痺、移動不可、瀕死、8:死亡。
【0057】
プロバイオティクス細菌株
ラクトバチルス・パラカゼイ8700:2、ラクトバチルス・パラカゼイ・ディフェクティ、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 9、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 19、ラクトバチルス・プランタラム299v、ラクトバチルス・デルブルエキィ(Delbrueckii)はプロビ エービーより提供された。
【0058】
処置プロトコール
予防的処置;1.109から1.1010の様々な細菌を含む100 mlの飲料水は毎日新鮮なものを準備した。それぞれのマウスは、約5 ml(約1.108-1.109細菌/マウス/日)を飲む。動物は免疫前7から14日間およびすべての実験期間中において、処置を行った。コントロールマウスは水のみを与えた。本発明者らの最近の実験では、実験期間中において、2日毎に、動物を免疫後10日目に給餌用針によって処置する。
治療的処置;発症10日後、それぞれの動物は、実験期間中において、2日毎に、1×109細菌を個々の処置で与えられた。コントロールマウスは生理食塩水が与えられた。
メトトレキサート(methetraxate)(MTX)は実験期間中において、2日毎に、終濃度2.5 mg/kgで腹腔内投与された。
【0059】
解析
更なる研究のために様々な器官及び材料:脳、脊髄、脾臓、リンパ節(腸間膜・鼠径部)、腸(パイアー斑を含む部位)及び血液を動物から採取した。いくつかの器官は、免疫組織化学解析のためにイソペンタンで処理を行った。脾臓及びリンパ節細胞はフローサイトメトリー(FACS)で解析を行い、または更なるサイトカインのELISAを用いた検討のために培養を行い、MOGペプチド、抗CD3およびLPSで刺激した。
【0060】
結果
予防的処置
免疫前7日間、動物を1.108のラクトバチルス・パラカゼイ8700:2もしくはラクトバチルス・プランタラムHEAL19で処置した。EAEは短期間で有意に抑制された。
【0061】
免疫前12日間、動物を1.109のラクトバチルス・パラカゼイ8700:2もしくは、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 9で処置した。EAEの発症は1週間を超えて遅延し、EAEの進行も緩やかであった(図11および図12を参照)
脊髄の免疫組織化学解析ではプロバイオティクス処置動物において、炎症性T細胞の有意に低い量が示された。インビトロの脾臓細胞の増殖アッセイではT細胞のMOG特異的増殖と同じであることが明らかとなったが、興味深いことに、炎症性サイトカインTNF-α及びIFN-γを有意に少ない量産生し、IL-4とIL-10はより高い量を産生した。パラカゼイ処置動物は、血漿中の総IgGおよびIgA抗体の発現レベルがより高いことを示した。腸間膜リンパ節のFACS解析では、CD4+CD25+T細胞の増加が示された。脾臓の免疫組織化学解析では、Foxp3+(Treg)細胞の増加を示した。
スクリーニング1:
5種類の異なる乳酸菌(ラクトバチルス・パラカゼイ8700:2、ラクトバチルス・パラカゼイ・デフェクティ、ラクトバチルス・プランタラム・Heal 9、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 19、ラクトバチルス・プランタラム299v)を予防的処置のプロトコルによるEAEの抑制のためにスクリーニングを行った。
【0062】
移植(Transfer)1;
動物をラクトバチルス・パラカゼイ 8700:2、ラクトバチルス・プランタラム・Heal 9または、両株の混合物で2週間処置した。腸間膜リンパ節細胞を回収し、移植の1日後EAEについて免疫されたレシピエント(i.v)に移植した。二つの株の混合物で処置した動物由来の細胞によってEAEは有意に抑制された。この抑制効果はCD4+細胞を取り除くことで解消した(図13参照)。
【0063】
この実験はラクトバチルス・パラカゼイ8700:2、ラクトバチルス・プランタラムHeal 9、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 19を含む三つの株の混合物で処置した動物の群を含んで繰り返し行われた。
【0064】
動物は、EAEで免疫された。EAE発症の10日後、それらはラクトバチルス・パラカゼイ8700:2、ラクトバチルス・プランタラムHeal 9、ラクトバチルス・プランタラムHEAL 19の混合物で個々に処置した。確立されたEAEの疾患は、生理食塩水を受けたコントロールと比較して有意に抑制された。この実験は、繰り返しても同様の結果を得ることに成功している。非特異的細菌のラクトバチルス・デルブルエキィもしくはメトトレキサート(methetraxate)(一般的な抗炎症剤)での処置は、今回のプロトコルの独特な治療効果は示さなかった。
【0065】
これらの治療の作用の抗炎症機序はいまだ分かっていないが、しかし、われわれの結果がCD4+CD25+Foxp3制御型T細胞集団の量の重要な役割を明快に示している(図14参照)。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は治験中において、胃腸系に何らかのマイナーな副作用の報告がなされたボランティアの数を示す。
【図2】図2は血液1 ml当りの様々なリンパ球のベースライン数(0日目)(平均±(SEM))を示す。
【図3】図3は様々な細胞の活性化と記憶マーカーに対して陽性であるリンパ球のベースライン(0日目)の百分率とGMFI(平均値±(SEM))を示す。
【図4】被験者を無作為に9つの異なる実験群に割り当てた。治験は二週間の休薬期間を設けて、その後続いて、アクティブ研究期間を実施した。この期間では、被験者たちは1日当たり1つの用量の研究製品を14日間(L.プランタラム Heal 19、L.ファーメンタム、L.パラカゼイ、L.ガセリ、L.ラムノーザス、P.ルンデンシス群)もしくは35日間(L.プランタラム299v及びプラセボ群)消費した。それぞれの用量は、1010(乳酸菌群)コロニー形成単位(CFU)または109CFU細菌(P.ルンデンシス群)である。
【図5】活性化表現形であるCD8CD25、CD8HLA-DR、CD4CD25やCD4HLA-DRを発現しているリンパ球の百分率をフローサイトメトリーで解析したものである。群平均値(±SEM)は個人内での数値の割合に基づいており、14日目/0日目、35日目/0日目(L.プランタラム299vとプラセボ群のみ)で示す。
【図6】記憶型表現形であるCD8CD45ROおよびCD4CD45ROを発現しているリンパ球の百分率をフローサイトメトリーにて解析した。群平均値(±SEM)は個体の割合に基づいており、14日目/0日目、35日目/0日目(L.プランタラムとプラセボ群のみ)で示す。
【図7】NKT細胞マーカー(CD56CD16CD3)に対して陽性のリンパ球の百分率をフローサイトメトリーにて解析した。群の計算は個体の割合に基づく(14日目/0日目)。
【図8】好中球の食作用活性は、FITC標識した大腸菌または、黄色ブドウ球菌と全血球細胞をインキュベートすることで解析した。14日目と0日目に得た平均蛍光値の割合を個々に決定し、群計算値を図に示した。
【図9】図9はEAEの進行に対する予防的処置、体重、および臨床的症状を示す(実験3)。
【図10】図10は発病後、EAE治療の開始日における慢性炎症の治療的処置を示す(実験3)。
【図11】図11と図12は、L.パラカゼイ8700: 2およびL.プランタラム・HEAL9を与えることによる、EAEの発症遅延を、コントロール群と比較して示す。
【図12】図11と図12は、L.パラカゼイ8700: 2およびL.プランタラム・HEAL9を与えることによる、EAEの発症遅延を、コントロール群と比較して示す。
【図13】図13はプロバイオティクス細菌のL.パラカゼイ8700: 2、L.プランタラムHEAL 9とL.プランタラムHEAL 19の混合物がEAEを抑制することを示す。図13はさらに、CD4+T細胞を除去することによってこの抑制効果が崩壊されることを示したものである。
【図14】図14はコントロール、メトトレキセート(methetraxate)、L・デルブルエキィと比較して、L.パラカゼイ8700: 2、L.プランタラム・HEAL9、L.プランタラム・HEAL19の混合物がEAEを抑制することを示す。
【図15】図15は実験2からの活性化表現形であるCD4CD25が発現しているリンパ球の割合を示す。
【図16】図16は実験2からの活性化表現形であるCD4+CD25++が発現しているリンパ球の割合を示す。
【図17】図17は実験2からの活性化表現形であるCD8+HLA-DR+が発現しているリンパ球の割合を示す。
【図18】図18は実験2からの活性化表現形であるCD8+CD25+が発現しているリンパ球の割合を示す。
【図19】図19は実験2からの活性化表現形であるCD4CD45ROが発現しているリンパ球の割合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患の治療及び/又は予防のための薬学的組成物の製造のための、乳酸菌から選択された、少なくとも1種のプロバイオティクス細菌 (Probiotic bacteria) 株の使用。
【請求項2】
前記の自己免疫が、多発性硬化症(MS)、アレルギー、乾癬、関節リウマチ(rhematoid arthritis)、クローン病(Chrohn’s disease)、潰瘍性大腸炎、I型糖尿病、炎症性腸疾患、及び全身性エリテマトーデスなどの臓器特異的自己免疫(organ specifc autoimmunity)からなる群から選ばれる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記の乳酸菌株が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノーザス(Lactobacillus rhamnsosus)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus・paracasei)、及びラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)からなる群より選ばれる、請求項1もしくは2に記載の使用。
【請求項4】
前記のラクトバチルス・プランタラムが、ラクトバチルス・プランタラム299、DSM6595、ラクトバチルス・プランタラム299v、DSM9843、ラクトバチルス・プランタラム・HEAL9、DSM15312、ラクトバチルス・プランタラム・HEAL19、DSM15313、及びラクトバチルス・プランタラム・HEAL 99、及びDSM 15316からなる群より選ばれる、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記のラクトバチルス・パラカゼイ株が、ラクトバチルス・パラカゼイ8700:2、DSM 13434、及びラクトバチルス・パラカゼイ02A、DSM 13432からなる群より選ばれる、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記のラクトバチルス・ガセリが、ラクトバチルス・ガセリVPG44、DSM 16737から選ばれる、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
前記の少なくとも二種のプロバイオティクス株が、前記の自己免疫疾患の治療及び/又は予防に使用される、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記の少なくとも二種の株が、連続的に、もしくは同時に投与されることが意図される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記の薬学的組成物が液体製剤もしくは固体製剤である、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記の固体製剤が、錠剤、吸引錠剤、スウィート(sweet)、チューイングタブレット(chewing tablet)、チューインガム、カプセル剤、サシェ、散剤、顆粒剤、被覆粒子及び被覆錠剤、腸溶錠及び腸溶カプセル剤、メルティングストリップ(melting strip)、及びフィルムからなる群より選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記の液体製剤が、経口液剤、懸濁液、乳濁剤、及びシロップ剤からなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記の組成物が、担体材料を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記の薬学的組成物が、医療用食品、機能性食品、栄養補助食品、栄養製品、及び食品調製物である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記の担体材料が、オートミール粥、乳酸醗酵食品、難消化性澱粉、食物繊維、炭水化物、タンパク質、及び糖化タンパク質からなる群より独立的に選択される、請求項12もしくは13に記載の使用。
【請求項15】
前記の食品調製物が、飲料、ヨーグルト、ジュース、アイスクリーム、パン、ビスケット、シリアル、ヘルスバー及びスプレッドからなる群より選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記各株が組成物中に約1×106から約1×1014 CFU、好ましくは約1×108から約1×1012、より好ましくは1×109から1×1011の量で存在する、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
自己免疫疾患の治療及び/又は予防の方法であって、乳酸菌から選ばれたプロバイオティクス細菌株の少なくとも一種を個体に投与する、方法。
【請求項18】
前記の自己免疫疾患が、多発性硬化症(MS)、アレルギー、乾癬、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、I型糖尿病、炎症性腸疾患、及び全身性エリテマトーデスなどの臓器特異的自己免疫である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記の少なくとも2種のプロバイオティクス細菌株が個体に投与される、請求項17もしくは18に記載の方法。
【請求項20】
前記の株が連続もしくは同時に投与される、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2009−511471(P2009−511471A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534491(P2008−534491)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【国際出願番号】PCT/SE2006/001139
【国際公開番号】WO2007/040446
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(500045257)プロビ エービー (6)
【Fターム(参考)】