説明

自己免疫疾患治療剤のスクリーニング方法

【課題】抗自己免疫疾患剤の新規なスクリーニング方法の提供。
【解決手段】
ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR関連因子発現を修飾する被験物質を選択する工程を含む、自己免疫疾患の予防剤および/または治療剤のスクリーニング方法、ならびに、当該スクリーニング方法を用いて選択される物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗自己免疫疾患剤に関する。さらに本発明は、抗自己免疫疾患剤の新規有効成分を探索し取得するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は通常、自己の構成成分(自己抗原)に対しては免疫応答を示さず、免疫学的恒常性が保たれている。このような恒常性は自然免疫寛容と呼ばれている。この寛容状態が破れて、自己抗原と反応する抗体やリンパ球が生じてくることがある。このような現象を自己免疫と呼び、それが引金となって起こってくる病気を自己免疫疾患と呼んでいる。自己免疫疾患には全身性自己免疫疾患と臓器特異的自己免疫疾患がある。代表的なものとして前者は全身性エリテマトーデス、関節リウマチが挙げられ、後者は多発性硬化症、重症筋無力症、自己免疫性喀血性貧血、橋本氏甲状腺炎などが挙げられる。全身性の自己免疫疾患は、古くは結合組織の増生を特徴とする膠原病という範疇に入れられていた。しかし近年、それらの成因が研究されてきて、少なくとも部分的には自己免疫が関与していると考えられるようになってきたが、なお不明な点も多い。一方、臓器特異的自己免疫疾患では、自己抗体の病因的役割がはっきりしている場合が多い。これまでの研究から、臓器特異的自己免疫疾患は、抗原刺激を受けた Tリンパ球によって引き起こされるものと推定されるに至っている。自己抗体の産生機序については、さまざまな考えが出されている。第1は特定の自己抗体の産生にあずかる遺伝子の関与説である。第2は、通常血中に微量にしか存在しない抗原がなんらかの原因で多量に放出されること、ないし抗原がなんらかの原因で修飾されることによるとするものである。第3は、抗体産生にあずかるリンパ球側に異常があり、寛容状態から逸脱してしまうことによるとするものである。おそらく、これらが重複して自己抗体が産生されてくると考えられている。
【0003】
関節リウマチ(rheumatoid arthritis)は自己免疫疾患の一つで、多発性関節炎を主徴とし、同時に多臓器を障害する原因不明の全身性炎症疾患であり、寛解と増悪を繰り返しながら慢性に進行し、無治療で放置すると関節の破壊と変形を来し、やがて運動機能障害を呈し、ときには生命をも脅かす可能性もある疾患である。しかしながら現在の医学では関節リウマチを完全に治癒させることも予防することもできないとされている。従って、現時点での治療目標は早期に診断し、早期から積極的治療を開始し、リウマチ性炎症を可及的速やかにかつ最大限に抑制して、非可逆的変化の出現を防止、ないしはその進展を阻止することにより、患者の身体的、精神的、社会的な生活の質(QOL)の向上を図ることである。
【0004】
関節リウマチの治療に使用されている主な薬物は、非ステロイド系抗炎症薬(以下、「NSAIDs」と記載する)、疾患修飾性抗リウマチ薬(以下、「DMARDs」と記載する)及び副腎皮質ステロイド薬である。
【0005】
NSAIDsは慢性関節リウマチ患者に最初に使用される薬物であり、鎮痛効果は速やかに得られるが、抗炎症作用は1〜2週間後に発現する。NSAIDsには炎症の程度を軽減させる作用はあっても、リウマチ性炎症の進行を阻止する作用、関節破壊を防止する作用はない。また、NSAIDsの副作用はその薬理作用(cyclooxygenase-1阻害活性)とは切り離せないものが多く、消化管障害等はしばしば治療の妨げともなる。
【0006】
DMARDsは、関節リウマチの免疫異常を是正することによりリウマチ性炎症を鎮静化させて、寛解導入を目的とする薬物の総称である。DMARDsは一般に遅効性であるが、効果が発現すると長期間に亘って効果が持続する。DMARDsには鎮痛効果がなく、投与開始時は速効性のNSAIDsや副腎皮質ステロイド薬を併用する。一方、問題点として、まれに骨髄抑制、腎炎、間質性肺炎などの重篤な副作用が出現することや至適用量に個人差があることなどが知られている。さらに、従来のDMARDsは投与を持続することにより耐性を示すことが多く(エスケープ現象)、その効果は2〜3年で減弱し、投与中止に至る例が少なくない。
【0007】
副腎皮質ステロイド薬はリウマチ性炎症を迅速かつ確実に抑制し、短期間ではあるものの、慢性関節リウマチ患者のQOLを著しく改善するが、長期連用による効果の減弱、離脱困難(反跳現象、離脱症候群)、関節破壊の進行阻止不能、さらに感染症の誘発、副腎機能不全、消化管障害、骨粗鬆症などの重篤な副作用の出現などの弊害も多い。
【0008】
自己免疫疾患、特に関節リウマチの病態形成には様々な細胞が関与していることが知られている。代表的なものとしては、Tリンパ球、マクロファージ細胞、破骨細胞(関節の破壊に関与している)、線維芽細胞(関節強直に関与している)などが挙げられる。
【0009】
Endoplasmic Reticulum(小胞体;以下、本明細書において「ER」と略記する)は、細胞の核近傍にあって糸状や網目状構造を有する細胞内膜系であり、核の外膜との連続が認められる。形態は管状、扁平袋状など細胞の種類によって多様である。小胞体は、表面にタンパク質合成の場であるリボソームが多数付着した粗面小胞体とリボソームをもたない滑面小胞体に分けられる。細胞の種類により、また、活性の相違により粗面小胞体、滑面小胞体の発達度は異なる。大量の分泌タンパク質を産生している膵臓や唾液腺の細胞は粗面小胞体がよく発達しており、副腎皮質細胞などのステロイドホルモン産生細胞には滑面小胞体が発達していることが明らかとなっている。最近の研究の進展に伴い、ERにはBipなどの多様な分子シャペロンやフォールディング酵素(S-S結合や糖鎖付加を触媒)が存在し、これらの作用により通常新生蛋白質はきわめて効率よく折り畳まれ、その品質が管理されていることが明らかとなってきた。しかし、確率論的にも時として高次構造形成に失敗する場合があり、ユビキチン・プロテアソーム系であるER関連蛋白質分解機構(ERAD)によって処理されることが明らかとなっている。新生蛋白質の折り畳み作用と分解作用によりERにおける品質管理機構は成立していると考えられている。ERストレスとは、このようなバランスに変化が生じ、結果としてER内に高次構造の異常な蛋白質が蓄積する状況を指し、これらに対する細胞の応答はERストレス応答すなわちUPR(Unfolded Protein Response;非折り畳みタンパク質応答)と呼ばれている。ERストレスが生じる場合としては、(1)環境要因的なストレスなどにより蛋白質折り畳み装置や分解装置が破綻した場合、(2)装置は正常であってもそれらの処理能力を超える量の蛋白質がER内に送り込まれる場合、および(3)遺伝学的変異などによって元来正常に折り畳まれ得ない蛋白質が合成される場合などが挙げられる。UPRとはER内に高次構造の異常な蛋白質が蓄積する状況に対する細胞応答のことであり、次の3つの応答を含む概念である:(1)ERにそれ以上新生蛋白質が送り込まれないようにして負荷を軽減する翻訳抑制;(2)ERシャペロンの転写誘導によるER内折り畳み容量の増強;(3)ER関連蛋白質分解機構に関与する因子の転写誘導による分解機構の容量増強。
また、生体内においては、ERストレス応答は極端なストレス状況下で作動するものではなく、plasma cellの抗体産生など、多量の蛋白質が一度に産生されるような場合に起こると考えられている。これまでに制癌剤であるCisplatin、DoxorubicinがERストレスを増強することが報告され、癌細胞障害メカニズムの一つとして考えられている。また、特許文献1および特許文献2には、UPRまたはXBP-1を調節することと自己免疫疾患の治療との関連についての記載がある。 しかし、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPRの活性を調節することにより、自己免疫疾患の予防および/または治療が達成できるとの報告は全く知られていなかった。

【0010】
ERストレス inducerとしては、Thapsigargin、Tunicamysin、A23187、Cisplatin、Doxorubicin、Bortezomibなどが知られているが、自己免疫疾患に対する作用は報告されていない。
【0011】
一方、下記式1aで表される3-[(1S)-1-(2-フルオロビフェニル-4-イル)エチル]-5-{[アミノ(モルフォリン-4-イル)メチレン]アミノ}イソキサゾール(以下、「化合物(I)」とも称する;例えば、特許文献3参照)に関して、代表的な関節リウマチのモデル動物であるアジュバント関節炎ラットおよびコラーゲン関節炎マウスに対して抗関節炎作用があることが報告されている(例えば、特許文献4参照)。
式1a:
【0012】
【化1】

【0013】
しかし、化合物(I)のUPRに対する作用は、これまで全く知られていなかった。
【0014】
【特許文献1】特表2006−515163号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0250182号明細書
【特許文献3】特許第3237608号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/049215号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、新規な作用機序に基づく、優れた抗自己免疫疾患剤を提供することである。さらに本発明は、当該抗自己免疫疾患剤の有効成分となる候補物質を探索し取得するために有用なスクリーニング方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下の驚くべき知見を得た。
(1)化合物(I)がERストレス存在下において選択的にBip mRNAの発現を促進すること、すなわちUPRを活性化させること。(実施例1)。
(2)化合物(I)がERストレス存在下において選択的にeIF2αのリン酸化を促進すること(実施例2)。
(3)化合物(I)がERストレス存在下において選択的に、XIAPおよびATF4のmRNAの発現レベルを抑制せずに蛋白質発現を抑制すること(実施例3)。
(4)化合物(I)がERストレス存在下において選択的にAkt1の蛋白質発現を抑制すること。このときAkt1 mRNAの発現レベルには影響しないこと。さらにプロテアソーム阻害剤およびカスパーゼ3阻害剤が、化合物(I)のAkt1蛋白質発現抑制に影響を及ぼさないこと(実施例4)。
(5)化合物(I)が自己免疫疾患、特に関節リウマチの病態形成に関与する種々の細胞(Tリンパ球、ヒト滑膜組織由来細胞など)に対して、ERストレス存在下において選択的にアポトーシス誘導作用を示すこと(実施例5、6)。
(6)自己免疫疾患の動物モデルおよび関節リウマチ患者滑膜組織において、罹患部ではUPRが活性化していること、すなわちERストレスが自己免疫疾患の病態形成に関与していること(実施例7)。
(7)化合物(I)がアジュバント関節炎ラットの肢浮腫および関節破壊を抑制すること(実施例8)。
(8)化合物(I)が多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)マウスの病態重症化を用量依存的に抑制すること(実施例9)
【0017】
ERストレスに関連して変動する因子は、Bip (Binding Immunoglobulin Protein)、XBP-1 (X Box-binding Protein 1)、eIF2A (Eukaryotic translation Initiation Factor 2 A)、XIAP(X-chromosome-linked Inhibitor of Apoptosis)、ATF4 (Activating Transcription Factor 4)、IRE1 (Inositol-Requiring Enzyme 1)、PERK (PKR-Like ER Kinase)およびATF6 (Activating Transcription Factor 6)など多数知られている。例えば、ERストレス存在下では、UPRが活性化され、BipやスプライスされたXBP-1の発現が誘導され、eIF2αがリン酸化されることにより、ATF4の翻訳が開始される。
【0018】
UPR関連因子とは、UPRの活性化に伴い変化する因子の総称であり、その多くは、上記、ERストレスに関連して変動する因子と同一である。UPR関連因子の具体例としては、例えば、Akt、Bip、XBP-1、eIF2α、XIAP、ATF4などが挙げられる。
本発明者は、これらのうちBipおよびeIF2αに着目し、鋭意検討を行った結果、前記(1、2)の知見を得た。これら知見より、化合物(I)などのUPR修飾剤は、Bipの発現レベルやeIF2αのリン酸化レベルを修飾し、Tリンパ球のアポトーシスを誘導すると考えられる。また、ウシ胎児血清非存在下においてUPRが活性化されることが報告されており、化合物(I)などのUPR修飾剤はウシ胎児血清非存在下におけるヒト滑膜組織由来線維芽細胞にアポトーシスを誘導すると考えられる。
【0019】
本発明者らは、上記の知見より、これら化合物(化合物(I)など)はUPR修飾作用を介して自己免疫疾患の病態改善効果を発揮することを見出すとともに、ERストレス存在下において選択的にUPRを修飾する物質が、自己免疫疾患の予防剤および/または治療剤として有効に利用できるとの確信を得た。本発明はかかる知見に基づき完成するに至ったものである。
【0020】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 下記の工程(a)ないし(e)を含む抗自己免疫疾患剤のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のUPR関連因子発現量を測定し、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のUPR関連因子発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のUPR関連因子発現量と、被験物質を接触させない細胞のUPR関連因子発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのUPR関連因子発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のUPR関連因子発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR関連因子発現を修飾する被験物質を選択する工程。
[2] UPR関連因子が、Akt、Bip、XBP-1、eIF2α、XIAPおよびATF4からなる群より選ばれる因子である項[1]記載のスクリーニング方法。
[3] UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、Akt蛋白の発現を抑制する被験物質である項[1]記載のスクリーニング方法。
[4] UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、Bip遺伝子またはBip蛋白の発現を増強する被験物質である項[1]記載のスクリーニング方法。
[5] UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、スプライシングフォームのXBP-1 mRNAまたはスプライシングフォームのXBP-1蛋白の発現を抑制する被験物質である項[1]記載のスクリーニング方法。
[6] UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、eIF2αのリン酸化を促進する被験物質である項[1]記載のスクリーニング方法。
[7] UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、XIAP蛋白の発現を抑制する被験物質である項[1]記載のスクリーニング方法。
[8] UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、ATF4蛋白の発現を抑制する被験物質である項[1]記載のスクリーニング方法。

[9] 下記の工程(a)ないし(e)を含む抗自己免疫疾患剤のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のアポトーシスレベルを測定し、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のアポトーシスレベルと比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のアポトーシスレベルと、被験物質を接触させない細胞のアポトーシスレベルとを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのアポトーシス誘導率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のアポトーシス誘導率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にアポトーシスを誘導する被験物質を選択する工程。
[10] 被験物質濃度10μMにおいて、ERストレス非存在下で実質的にアポトーシスを誘導せず、ERストレス存在下で40%以上のアポトーシス誘導率を示す被験物質を選択する、項[9]記載のスクリーニング方法。
【0021】
[11] 細胞が哺乳類の細胞である項[1]〜項[10]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[12] 細胞が自己免疫疾患における病態関連細胞である項[1]〜項[11]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[13] 細胞が関節リウマチにおける病態関連細胞である項[1]〜項[11]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[14] 細胞がT細胞、滑膜細胞、B細胞、マクロファージ、線維芽細胞および破骨細胞からなる群より選ばれる細胞である項[1]〜項[11]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[15] 細胞がEL-4、SW982およびBCL-1からなる群より選ばれる細胞である項[1]〜項[11]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[16] 抗自己免疫疾患剤が、自己免疫疾患予防剤および/または自己免疫疾患治療剤である項[1]〜項[15]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[17] 抗自己免疫疾患剤が、免疫の異常亢進改善剤である項[1]〜項[15]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[18] 自己免疫疾患が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病、橋本甲状腺炎、原発性粘液水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、Good-pasture症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交換性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、およびシェーグレン症候群からなる群より選ばれる疾患である項[1]〜項[17]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[19] 自己免疫疾患が、関節リウマチまたは多発性硬化症である項[1]〜項[17]のいずれか記載のスクリーニング方法。
[20] 抗自己免疫疾患剤が、関節リウマチ患者における慢性炎症の抑制剤、関節破壊の抑制剤、関節変形への進行抑制剤、または身体機能の改善剤である項[1]〜項[19]のいずれか記載のスクリーニング方法。
【0022】
[21] 項[1]〜項[15]のいずれか記載のスクリーニング方法を用いて選択される物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【0023】
[22] ERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
[23] ERストレス存在下に選択的なAkt1蛋白質発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
[24] ERストレス存在下に選択的なBip mRNAまたはBip蛋白の発現増強作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
[25] ERストレス存在下に選択的なスプライシングフォームのXBP-1 mRNAまたはスプライシングフォームのXBP-1蛋白の発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
[26] ERストレス存在下に選択的なeIF2αのリン酸化促進作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
[27] ERストレス存在下に選択的なXIAP蛋白の発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
[28] ERストレス存在下に選択的なATF4蛋白の発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
[29] ERストレス存在下に選択的なアポトーシス誘導作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【0024】
[30] 哺乳動物体内におけるUPRを、ERストレス存在下の細胞に対して自己免疫疾患の予防および/または治療に有効な程度修飾することを含む、該哺乳動物の自己免疫疾患の予防および/または治療方法。
[31] ERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質を、自己免疫疾患の予防および/または治療に有効な量哺乳動物に投与することを含む、該哺乳動物の自己免疫疾患の予防および/または治療方法。
[32] 抗自己免疫疾患剤の製造のための、ERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質の使用。
[33] 3-[(1S)-1-(2-フルオロビフェニル-4-イル)エチル]-5-{[アミノ(モルフォリン-4-イル)メチレン]アミノ}イソキサゾール(化合物(I))またはその薬学上許容される塩を有効成分として含むUPR修飾剤。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、新規な作用機序に基づく、優れた抗自己免疫疾患剤を提供することができる。さらに本発明により、当該抗自己免疫疾患剤の有効成分となる候補物質を探索し取得するために有用なスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、3-[(1S)-1-(2-フルオロビフェニル-4-イル)エチル]-5-{[アミノ(モルフォリン-4-イル)メチレン]アミノ}イソキサゾール(化合物(I))またはその薬学上許容される塩に関する水和物、アルコール和物等の溶媒和物およびあらゆる態様の結晶形のものも包含している。
【0027】
薬学上許容される塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、カンファー−スルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が挙げられる。
【0028】
化合物(I)は、例えば、特許文献3に記載の方法によって製造することができる。
【0029】
以下、本発明の抗自己免疫疾患剤、およびそのスクリーニング方法について詳細に説明する。
【0030】
I.抗自己免疫疾患剤
一般に「自己免疫疾患」は、自己の組織を構成する成分に反応する抗体あるいはリンパ球が、体内で持続的に産生されることによって組織障害をきたす疾患であり、大別すると下記に掲げる臓器特異的自己免疫疾患と臓器非特異的自己免疫疾患(全身性自己免疫疾患)の2つに分類することができる。
【0031】
(1) 臓器特異的自己免疫疾患:橋本甲状腺炎、原発性粘液水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、Good-pasture症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交換性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群。
【0032】
(2)臓器非特異的自己免疫疾患(全身性自己免疫疾患):関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病。
【0033】
本発明はこれらの「自己免疫疾患」を任意に対象とするものである。好ましくは、関節リウマチ、及び多発性硬化症を例示することができる。
【0034】
また本発明の「抗自己免疫疾患剤」とは、上記各種の自己免疫疾患に対して、その発症を阻害若しくは抑制する作用、その発症を遅延させる作用、発症後その症状を軽減若しくは改善する作用、または疾患を治癒する作用のいずれか少なくとも1つの作用を有するものである。その意味で、本発明の「抗自己免疫疾患剤」は、自己免疫疾患予防剤、自己免疫疾患症状緩和剤、自己免疫疾患改善剤、または自己免疫疾患治療剤と言い換えることもできる。
【0035】
本発明において(ERストレス存在下の細胞において選択的な)「UPR修飾作用」とは、その作用機序の別を問うことなく、上記UPRを修飾する作用を広く意味するものである。なお、ここで「UPRを修飾する作用」には、UPR活性を阻害する作用およびUPR活性を増強する作用が包含される。
【0036】
なお、本発明の「(選択的な)UPRを修飾する作用を有する物質」は、上記に掲げる作用のいずれか少なくとも1つを有する物質であればよく、その形態や性状の別を何ら問うものではない。また、本発明の「(選択的な)UPR修飾作用を有する物質」は、少なくともヒトUPRに対して修飾作用を有するものであればよく、ヒト以外の哺乳類やその他の生物種に由来するUPRに対する修飾作用の有無は、特に制限されない。さらに、「(選択的な)UPRを修飾する作用を有する物質」には、後述の(II)の欄で具体的に記載された態様も含まれる。
【0037】
(選択的な)UPR修飾作用を有する物質には、蛋白質、ペプチド、及び低分子化合物等も含まれる。(選択的な)UPR修飾作用を有する例えば低分子化合物は、低分子化合物ライブラリー(例えば、CamBridge Research Laboratories社等の低分子化合物ライブラリー)等に対して後述する本発明のスクリーニング方法を実施することによって、取得することができる。
【0038】
以上説明する(選択的な)UPR修飾作用を有する物質は、抗自己免疫疾患剤の有効成分として有用である。また抗自己免疫疾患剤の有効成分は、上記に具体的に掲げる物質に特に限定されることなく、下記に記載する本発明のスクリーング方法によって取得することも可能である。
【0039】
従って、本発明が対象とする抗自己免疫疾患剤には、
(1)上記の(ERストレス存在下の細胞において選択的な)UPR修飾作用を有する物質を有効量含有する製剤;並びに
(2)下記に記載するスクリーング方法によって取得される(ERストレス存在下の細胞において選択的な)UPR修飾作用を有する物質を有効量含有する製剤;
がいずれも包含される。なお、ここで(選択的)UPR修飾作用を有する物質の有効量は、それを含有する抗自己免疫疾患剤が結果として(選択的)UPR修飾効果を発揮するようなUPR修飾作用物質の配合量であればよく、特に制限されるものではない。また抗自己免疫疾患剤は、UPR修飾作用物質以外に薬学的に許容される担体や各種の添加剤を含有していてもよい。
【0040】
かかる担体や添加剤の種類、抗自己免疫疾患剤の形態、並びに抗自己免疫疾患剤の用法(投与形態、投与方法、投与量)については、後述の(III)の欄で詳細に説明する。
【0041】
II.抗自己免疫疾患剤の有効成分のスクリーニング方法
本発明者らは、後述する実施例に示すように、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR活性を修飾することによって自己免疫疾患の発症を抑制し、かつ/または病態を改善することができるという新たな知見を取得した。このことから、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する物質は抗自己免疫疾患剤の有効成分として有用と考えられる。本発明のスクリーニング方法は、かかる知見に基づいて開発されたものであり、被験物質の中からERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する物質を探索することによって、抗自己免疫疾患剤の有効成分を取得しようとするものである。
【0042】
本発明のスクリーニング方法が対象とする「ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する物質」は、結果としてUPRの活性を修飾し得る物質であればよく、その作用機序を特に限定するものではない。UPR修飾作用として、具体的には、1)UPR活性を阻害する作用、および2)UPR活性を増強する作用を挙げることができる。UPR修飾作用を有する物質は、かかるUPR修飾作用の少なくとも1つを有するものであればよい。
【0043】
UPR修飾作用の具体的な例として、UPR関連因子の発現を修飾する作用を挙げることができる。UPR関連因子とは、UPRの活性化(または活性の阻害)に伴い変化する因子の総称であり、その多くは、ERストレスに関連して変動する因子と同一である。UPR関連因子の具体例としては、例えば、Akt、Bip、XBP-1、eIF2α、XIAP、ATF4などが挙げられ、より具体的には、Akt蛋白、Bip遺伝子、Bip蛋白、XBP-1遺伝子(好ましくは、スプライシングフォームのXBP-1 mRNA)、XBP-1蛋白(好ましくは、スプライシングフォームのXBP-1蛋白)、eIF2α、XIAP蛋白、ATF4蛋白などが挙げられる。
【0044】
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)Akt1蛋白質発現抑制作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された、ERストレス存在下の細胞において選択的なUPR修飾作用(以下、「選択的UPR修飾作用」と称することもある)を有する物質を挙げることができる。
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)Akt1蛋白質発現抑制作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された選択的UPR修飾作用を有する物質を挙げることができる。
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)Bip mRNAまたはBip蛋白の発現増強作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された選択的UPR修飾作用を有する物質を挙げることができる。
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)スプライシングフォームのXBP-1 mRNAまたはスプライシングフォームのXBP-1蛋白の発現抑制作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された選択的UPR修飾作用を有する物質を挙げることができる。
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)eIF2αのリン酸化促進作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された選択的UPR修飾作用を有する物質を挙げることができる。
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)XIAP蛋白の発現抑制作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された選択的UPR修飾作用を有する物質を挙げることができる。
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)ATF4蛋白の発現抑制作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された選択的UPR修飾作用を有する物質を挙げることができる。
本発明における「(ERストレス存在下に選択的な)アポトーシス誘導作用を有する物質」の例としては、本明細書に例示された選択的UPR修飾作用を有する物質を挙げることができる。
【0045】
抗自己免疫疾患剤の有効成分となり得る候補物質としては、核酸、ペプチド、蛋白質、有機化合物(低分子化合物を含む)、無機化合物などを挙げることができる。本発明のスクリーニング方法は、これらの候補物質となりえる物質または該物質を含む試料(これらを総称して「被験物質」という)を対象として実施することができる。さらに、候補物質を含む試料(被験物質)として、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、微生物培養上清、及び菌体成分などを使用することもできる。
【0046】
本発明の「UPR修飾作用を有する物質」は、薬学的に許容される限りいかなる構造のものでも良く、以下に限定されないが、その具体例として例えば以下のものを挙げることができる。
・3-[(1S)-1-(2-フルオロビフェニル-4-イル)エチル]-5-{[アミノ(モルフォリン-4-イル)メチレン]アミノ}イソキサゾール(化合物(I))またはその薬学上許容される塩
【0047】
本発明のスクリーニング方法は、かかる被験物質の中から上記に掲げるUPR修飾作用を指標として上記UPR修飾作用の少なくとも1つを有する物質を探索すること、特に、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する物質を探索することによって実施される。斯くして選別取得される被験物質は、抗自己免疫疾患剤の有効成分として有用である。
【0048】
本発明のスクリーニング方法の具体的態様としては、限定されないが、例えば以下に示す方法をあげることができる。
方法1
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的なUPR修飾作用を有する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のUPR関連因子発現量を測定し、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のUPR関連因子発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のUPR関連因子発現量と、被験物質を接触させない細胞のUPR関連因子発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのUPR関連因子発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のUPR関連因子発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR関連因子発現を修飾する被験物質を選択する工程。
【0049】
方法2
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的にAkt蛋白の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のAkt蛋白発現量を測定し(ウェスタンブロッティング法など)、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のAkt蛋白発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のAkt蛋白発現量と、被験物質を接触させない細胞のAkt蛋白発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのAkt蛋白発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のAkt蛋白発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にAkt蛋白の発現を抑制する被験物質を選択する工程。
方法3
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的にBip遺伝子(またはBip蛋白)の発現を増強する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のBip遺伝子(またはBip蛋白)発現量を測定し(定量的RT-PCR法、ウェスタンブロッティング法など)、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のBip遺伝子(またはBip蛋白)発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のBip遺伝子(またはBip蛋白)発現量と、被験物質を接触させない細胞のBip遺伝子(またはBip蛋白)発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのBip遺伝子(またはBip蛋白)発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のBip遺伝子(またはBip蛋白)発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にBip遺伝子(またはBip蛋白)の発現を増強する被験物質を選択する工程。
方法4
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的にスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現量を測定し(定量的RT-PCR法、ウェスタンブロッティング法など)、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現量と、被験物質を接触させない細胞のスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にスプライシングフォームのXBP-1 mRNA(またはスプライシングフォームのXBP-1蛋白)の発現を抑制する被験物質を選択する工程。
方法5
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的にeIF2αのリン酸化を促進する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のeIF2αのリン酸化レベルを測定し、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のeIF2αのリン酸化レベルと比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のeIF2αのリン酸化レベルと、被験物質を接触させない細胞のeIF2αのリン酸化レベルとを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのeIF2αのリン酸化レベル修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のeIF2αのリン酸化レベル修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にeIF2αのリン酸化を促進する被験物質を選択する工程。

方法6
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的にXIAP蛋白の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のXIAP蛋白発現量を測定し(ウェスタンブロッティング法など)、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のXIAP蛋白発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のXIAP蛋白発現量と、被験物質を接触させない細胞のXIAP蛋白発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのXIAP蛋白発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のXIAP蛋白発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にXIAP蛋白の発現を抑制する被験物質を選択する工程。
方法7
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的にATF4蛋白の発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のATF4蛋白発現量を測定し(ウェスタンブロッティング法など)、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のATF4蛋白発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のATF4蛋白発現量と、被験物質を接触させない細胞のATF4蛋白発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのATF4蛋白発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のATF4蛋白発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にATF4蛋白の発現を抑制する被験物質を選択する工程。
【0050】
方法8
下記の工程(a)ないし(e)を含む、ERストレス存在下の細胞において選択的なアポトーシス誘導作用を有する物質のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のアポトーシスレベルを測定し、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のアポトーシスレベルと比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のアポトーシスレベルと、被験物質を接触させない細胞のアポトーシスレベルとを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのアポトーシス誘導率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のアポトーシス誘導率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にアポトーシスを誘導する被験物質を選択する工程。

【0051】
本発明における「ERストレス存在下において選択的な作用」とは、ERストレスを誘導した細胞における当該作用を、ERストレスを誘導しない同種の対照細胞における当該作用と比較して、作用が相対的に強いことを表す。例えば、(1)対照細胞では当該作用がほとんど無く、ERストレス存在下の細胞では当該作用がある場合、(2)対照細胞でも当該作用が見られるが、ERストレス存在下の細胞では対照細胞より当該作用が強い場合、などが挙げられる。
【0052】
上記の方法1〜方法8において用いられる細胞としては、種々の細胞が使用可能であるが、例えば哺乳類の細胞が挙げられる。好ましくは、自己免疫疾患における病態関連細胞が挙げられ、例えば関節リウマチにおける病態関連細胞が挙げられる。
自己免疫疾患における病態関連細胞の具体例としては、例えば、T細胞、滑膜細胞、B細胞、マクロファージ、線維芽細胞、破骨細胞などを挙げることができる。これらの中で、実験的に本発明のスクリーニング方法に用いることのできる細胞として、例えばEL-4細胞、SW982細胞、BCL-1細胞などを挙げることができる。
【0053】
上記の方法1〜方法8において、スクリーニングの際の被験物質濃度、および「ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する」と判定するための判定基準は、適宜設定することができる。例えば被験物質濃度としては、これに限定されないが、100μM、10μM、1μM、0.1μM、0.01μM、0.001μM、およびこれらの中間的な濃度(5μM、3μM、2μM、0.5μM、0.3μM、0.2μMなど)を挙げることができる。「ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する」と判定するための判定基準としては、これに限定されないが、対照と比較してのアポトーシス誘導率が、例えば以下のものを挙げることができる。
(1)被験物質濃度10μMにおいて、ERストレス非存在下で実質的にアポトーシスを誘導せず、ERストレス存在下で40%以上のアポトーシス誘導率を示す。
【0054】
本発明における、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する物質のスクリーニング方法は、上記態様には限定されず、当業者の技術常識に基づいて適宜設計することが可能である。
【0055】
以上説明した、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR修飾作用を有する物質のスクリーニング方法によって被験物質の中から選別された候補物質は、更に、例えばヒトの各種の自己免疫疾患を模倣した病態モデル動物を用いた薬効試験や安全性試験に供することにより、より一層実用的な抗自己免疫疾患剤の有効成分として取得することができる。
【0056】
より具体的には、本発明のスクリーニング方法によって選別された候補物質について、自己免疫疾患および炎症性疾患の治療剤として有用かどうか、特にリウマチ等の慢性炎症に有効かどうかは、関節リウマチの病態モデル動物(例えば、コラーゲン誘導性関節炎 [Trentham DE,Townes AS,Kang AH:Autoimunity to typeII collagens:An experimental model of arthritis J Exp Med 146:857-868,1977]、抗原誘導性関節炎、またはアジュバント誘導性関節炎[Pearson CM:Development of arthritis,periarthritis and periotitis in rats given adjuvant.Proc Soc Expe Biolo Med 91:95-101,1956]等のいずれかのマウスもしくはラット)を用いた薬効試験を行うことにより評価できる。
【0057】
特に、ラットのアジュバント関節炎モデルを用いることにより、当該候補物質について関節リウマチに対する抑制効果(予防効果、治療効果)を詳細に評価することができる。ラットのアジュバント関節炎は、発症機序にTリンパ球が関与し、関節の軟骨・骨変化および線維化を主体に進行する実験的関節炎であり、慢性炎症の基礎的研究および治療薬の薬効薬理研究における疾患モデルとして広く用いられている。アジュバント関節炎の病態は通常、(1)注射足のみが腫脹する非特異的1次炎症期(ピーク:4〜5日後)、(2)所属リンパ節内に活性化リンパ球が増加する誘導期(期間:5〜9日)、(3)多発性関節炎が発症するアジュバント関節炎の増悪期(ピーク:15〜17日)、および(4)関節の変形・破壊を残し炎症が鎮静化する自然治癒期(25日以降の期間)のように進行する。注射足側はアジュバント感作による非特異的な1次炎症も病態の進行に関与しているのに対し、非注射足側はTリンパ球の関与により発症し病態が進行していくことから、より関節リウマチに近い現象がみられると考えられる。また、薬物作用は、接種日から投与する予防効果と、関節炎が発症した後に投与を開始する治療効果が検討されている。薬効評価の指標としては、(1)左右後肢それぞれの容積、(2)薬物投与の前後に左右それぞれの後肢容積を測定し、投与前後の容積差を算出することにより得られる浮腫量の変化、(3)軟X線による骨の形態学的評価、および(4)組織切片による病理学的評価などが一般的に用いられている。
【0058】
また、選別された候補物質について、多発性硬化症の病態モデル動物(例えばEAE発症誘導マウス)を用いた薬効試験を行うことにより、当該候補物質について多発性硬化症に対する抑制効果(予防効果、治療効果)を評価することができる。
【0059】
このようにして選別、取得された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
【0060】
以上のような本発明のスクリーニング方法を用いて選択されるERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質は、前述の如き抗自己免疫疾患剤の有効成分として有用である。ここで自己免疫疾患としては、具体的には本明細書の第I章に記載する各種の疾病を任意に挙げることができるが、特に本発明が対象とするUPR修飾作用物質は、好ましくは関節リウマチ、及び多発性硬化症に対して有効に使用することができる。
【0061】
本発明の「抗自己免疫疾患剤」は、各種の自己免疫疾患に対して、その発症を阻害若しくは抑制する作用、その発症を遅延させる作用、発症後その症状を軽減若しくは改善する作用、または疾患を治癒する作用のいずれか少なくとも1つの作用を有するものである。その意味で、上記の「抗自己免疫疾患剤」は、自己免疫疾患予防剤、自己免疫疾患症状緩和剤、自己免疫疾患改善剤、または自己免疫疾患治療剤と言うこともでき、よって本発明のスクリーニング方法は、これらの有効成分の探索方法でありえる。
【0062】
本発明は、上記のスクリーニング方法により得られるERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質を有効成分とする抗自己免疫疾患剤を提供するものである。
【0063】
III.抗自己免疫疾患剤の用法について
以下、本発明のUPR修飾作用を有する物質を有効成分とする抗自己免疫疾患剤の投与形態、投与方法及び投与量等につき説明する。
【0064】
UPR修飾作用を有する物質が低分子化合物、ペプチドまたは抗体などの蛋白質である場合は、これらの物質について通常用いられる一般的な医薬組成物(医薬製剤)の形態に調製することができ、その形態に応じて経口または非経口的に投与することができる。一般的には以下のような投与形態、及び投与方法が挙げられる。
【0065】
投与形態としては、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤及びカプセル剤等の固形製剤や、溶液、懸濁液、乳液、シロップ及びエリキシルなどの液剤などの形態を挙げることができる。これらの各種形態は、投与経路に応じて経口投与剤の他、経鼻剤、経皮剤、直腸投与剤(坐剤)、舌下剤、経膣剤、注射剤(経静脈、経動脈、経筋肉、皮下、皮内)や点滴剤等の非経口投与剤に分類することができる。例えば、経口投与剤としては、例えば錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、溶液、懸濁液、乳液、及びシロップ等が、又は直腸投与剤や経膣剤としては、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤などの形態を採ることができる。経皮剤としては、例えばローション等の液剤の他、クリームや軟膏等の半固形剤の形態を採ることもできる。
【0066】
注射剤としては、例えば溶液、懸濁液または乳剤等の形態を採ることができ、具体的には無菌処理した水、水−プロピレングリコール溶液、緩衝化液、0.4重量%濃度の生理食塩水等を例示することができる。さらに注射剤は、液剤に調製した後、凍結処理又は凍結乾燥処理されていてもよく、これにより保存することができる。後者の凍結乾燥処理で調製される凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水などを加え、再溶解して使用される。
【0067】
上記の医薬組成物(医薬製剤)の形態には、当該分野で行われている通常の手法により、UPR修飾作用を有する物質と薬学的に許容される担体を配合することによって調製される。薬学的に許容される担体としては、賦形剤、希釈剤、充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、滑沢剤及び分散剤などを例示することができる。また、さらに当該分野において通常用いられる添加剤を配合することもできる。かかる添加剤は、調製する医薬組成物の形態に応じて、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、増粘剤、pH調整剤、乳化剤、懸濁化剤、防腐剤、香料、着色料、張度調節剤、キレート剤、界面活性剤などの中から適宜選択して用いることができる。
【0068】
このような形態を有する医薬組成物は、目的とする疾患、標的臓器等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、経口投与、あるいは静脈、動脈、皮下、皮内または筋肉内に投与するか、又は病変の認められる組織そのものに直接局所投与してもよいし、また経皮投与や直腸投与も可能である。
【0069】
これらの医薬組成物の投与量や投与回数は、投与形態、患者の疾患やその症状、患者の年齢や体重等によって異なり、一概に規定することができないが、通常は成人に対し1日あたり有効成分の量として約0.0001〜約1000mgの範囲、好ましくは約0.001〜約300mgの範囲、さらに好ましくは約0.1〜約300mgの範囲、特に好ましくは約1〜約240mgの範囲を1日1回または数回に分けて投与することができる。
【0070】
実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例において、下記の化合物を使用した。

化合物(I):3-[(1S)-1-(2-フルオロビフェニル-4-イル)エチル]-5-{[アミノ(モルフォリン-4-イル)メチレン]アミノ}イソキサゾール(例えば、特許第3237608号明細書に記載の方法に従って合成できる)
式1a:
【0071】
【化2】

【実施例1】
【0072】
実施例1 UPR修飾活性の検討(1)
Tリンパ球をERストレス inducerであるCalcium Ionophore A23187で刺激した時の化合物(I)のUPR活性修飾作用を評価した。
EL-4細胞(マウスTリンパ球系細胞株)を10%胎仔ウシ血清含有Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM:SIGMA社)で培養し、実験に供した。1×106個/wellの割合で細胞を6穴プレートに播種し、被験化合物として化合物(I)を含むDMEM培地を添加し、2時間培養した。続いて刺激剤としてA23187を含むDMEM培地を添加し、4時間または24時間培養した。被験化合物および刺激剤の最終濃度は化合物(I)が30μM、A23187が250ng/mLとなるように調製した。上清除去後、RNeasy kit(R)(QIAGEN社)を用いてtotal RNAを精製した。TaqMan RT assay reagent(R)(Applied Biosystems社)を用いてcDNAを合成した。TaqMan Universal Master mix(R)(Applied Biosystems社)およびTaqMan(R) Gene Expression Assays(Applied Biosystems社)を用いて、Multiplex Real Time PCRを実施した。CT methodを用いてβ-actin mRNA発現量との相対値として定量的解析を行った。図1に示すように、A23187(250ng/mL)単独刺激によって経時的にBip mRNAの発現が誘導された。一方、化合物(I)(30μM)単独処置は少なくとも24時間後までBip mRNAの発現を誘導しなかった。化合物(I)(30μM)2時間前処置後にA23187を添加した群においては、A23187単独処置群を上回るBip mRNAの発現誘導が認められた。これらの結果は、ERストレス存在下において選択的に化合物(I)がBip mRNAの発現を増強すること、すなわち、ERストレス存在下において選択的に化合物(I)がUPR活性を修飾することを示している。
【実施例2】
【0073】
実施例2 UPR修飾活性の検討(2)
EL-4細胞(マウスTリンパ球系細胞株)を10%胎仔ウシ血清含有Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM:SIGMA社)で培養し、実験に供した。2×106個/dishの割合で細胞を6cm dishに播種し、被験化合物を含むDMEM培地を添加し、2時間培養した。続いてA23187を含むDMEM培地を添加した。被験化合物および刺激剤の最終濃度は化合物(I)が30μM、A23187が250ng/mLとなるように調製した。さらに15分間、30分間、1時間または4時間培養した。プロテアーゼインヒビター(SIGMA社)およびフォスファターゼインヒビター(SIGMA社)添加済みRIPA buffer(0.2mL/dish)を加え、vortexで攪拌後、氷上で10分間放置した。14,000rpm.で5分間遠心し(4℃)、上清を細胞可溶化物とした。細胞可溶化物を10%ポリアクリルアミドゲルにアプライし(50μg/レーン)、145Vで約2時間電気泳動した。水槽型ブロッティング装置を用いてゲルからPVDFメンブレンへタンパクを吸着させた(100V,1時間)。メンブレンを5% Skim milkに浸し、室温にて1時間処置した。メンブレンを洗浄後、抗phospho-eIF2α抗体(Cell Signaling社)または抗eIF2α抗体(Santa Cruz社)を添加し、4℃にて一晩反応させた。メンブレンを洗浄後、2次抗体(GE Healthcare社)を室温にて1時間反応させた。メンブレンを洗浄し、Super signal west pico(PIERCE社)を用いて化学発光させ、シグナルを検出した。メンブレンはRe-Blot Plus(Chemicon社)を用いてストリッピングし、再利用した。図2に示すように、化合物(I)(30μM)2時間前処置後にA23187を添加した群においては、経時的にeIF2α (Ser51)のリン酸化レベルが上昇することが明らかとなった。一方、化合物(I)単独処置群およびA23187単独処置群のeIF2α (Ser51)リン酸化レベルにおいて、明確な経時変化は認められなかった。これらの結果は、ERストレス存在下において選択的に化合物(I)がeIF2αのリン酸化を促進すること、すなわち、ERストレス存在下において選択的に化合物(I)がUPR活性を修飾することを示している。
【実施例3】
【0074】
実施例3 UPR修飾活性の検討(3)
EL-4細胞(マウスTリンパ球系細胞株)を10%胎仔ウシ血清含有Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM:SIGMA社)で培養し、実験に供した。2×106個/dishの割合で細胞を6cm dishに播種し、被験化合物を含むDMEM培地を添加し、2時間培養した。続いてA23187を含むDMEM培地を添加した。被験化合物および刺激剤の最終濃度は化合物(I)が30μM、A23187が250ng/mLとなるように調製した。さらに24時間培養した。プロテアーゼインヒビター(SIGMA社)およびフォスファターゼインヒビター(SIGMA社)添加済みRIPA buffer(0.2mL/dish)を加え、vortexで攪拌後、氷上で10分間放置した。14,000rpm.で5分間遠心し(4℃)、上清を細胞可溶化物とした。細胞可溶化物を10%ポリアクリルアミドゲルにアプライし(50μg/レーン)、145Vで約2時間電気泳動した。水槽型ブロッティング装置を用いてゲルからPVDFメンブレンへタンパクを吸着させた(100V,1時間)。メンブレンを5% Skim milkに浸し、室温にて1時間処置した。メンブレンを洗浄後、抗XIAP抗体(Cell Signaling社)、抗ATF4抗体(Santa Cruz社)または抗β-actin抗体(SIGMA社)を添加し、4℃にて一晩反応させた。メンブレンを洗浄後、2次抗体(GE Healthcare社)を室温にて1時間反応させた。メンブレンを洗浄し、Super signal west pico(PIERCE社)を用いて化学発光させ、シグナルを検出した。メンブレンはRe-Blot Plus(Chemicon社)を用いてストリッピングし、再利用した。図3に示すように、化合物(I)(30μM)2時間前処置後にA23187を添加した群においては、XIAPおよびATF4の蛋白質発現レベルが低下することが明らかとなった。この時、β-actinの発現レベルには影響を及ぼさなかった。一方、A23187単独処置群のXIAPおよびATF4蛋白質発現レベルに明確な変化は認められなかった。これらの結果は、ERストレス存在下において選択的に化合物(I)がXIAPおよびATF4の蛋白質発現を抑制すること、すなわち、ERストレス存在下において選択的に化合物(I)がUPR活性を修飾することを示している。
【実施例4】
【0075】
実施例4 Akt1蛋白質発現抑制作用の検討
EL-4細胞(マウスTリンパ球系細胞株)を10%胎仔ウシ血清含有Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM:SIGMA社)で培養し、実験に供した。2×106個/dishの割合で細胞を6cm dishに播種し、被験化合物、プロテアソームインヒビターであるMG-262(Calbiochem社)およびcaspaseインヒビターであるZVAD-fmk(Calbiochem社)を含むDMEM培地を添加し、2時間培養した。続いてA23187を含むDMEM培地を添加した。被験化合物および刺激剤の最終濃度は化合物(I)が30μM、A23187が250ng/mLとなるように調製した。さらに24時間培養した。プロテアーゼインヒビター(SIGMA社)およびフォスファターゼインヒビター(SIGMA社)添加済みRIPA buffer(0.2mL/dish)を加え、vortexで攪拌後、氷上で10分間放置した。14,000rpm.で5分間遠心し(4℃)、上清を細胞可溶化物とした。細胞可溶化物を10%ポリアクリルアミドゲルにアプライし(50μg/レーン)、145Vで約2時間電気泳動した。水槽型ブロッティング装置を用いてゲルからPVDFメンブレンへタンパクを吸着させた(100V,1時間)。メンブレンを5% Skim milkに浸し、室温にて1時間処置した。メンブレンを洗浄後、抗Akt1抗体(Cell Signaling社)、抗ERK2抗体(Santa Cruz社)または抗β-actin抗体(SIGMA社)を添加した。抗Akt1抗体は4℃にて一晩反応させ、抗ERK2抗体および抗β-actin抗体は室温にて1時間反応させた。メンブレンを洗浄後、2次抗体(GE Healthcare社)を室温にて1時間反応させた。メンブレンを洗浄し、Super signal west pico(PIERCE社)を用いて化学発光させ、シグナルを検出した。メンブレンはRe-Blot Plus(Chemicon社)を用いてストリッピングし、再利用した。図4に示すように、化合物(I)(30μM)2時間前処置後にA23187を添加した群においては、Akt1の蛋白質発現レベルが低下することが明らかとなった。この時、ERK2およびβ-actinの発現レベルには影響を及ぼさなかった。一方、化合物(I)およびA23187それぞれの単独処置群において、Akt1蛋白質発現レベルに明確な変化は認められなかった。また、Akt1 mRNAの発現レベルには明確な変化が認められなかった。さらに、プロテアソームインヒビターまたはcaspaseインヒビター添加群によって化合物(I)のAkt1蛋白質発現低下作用はキャンセルされなかった。これらの結果は、ERストレス存在下において選択的に化合物(I)がAkt1蛋白質発現レベルを、転写レベルまたは蛋白分解レベルではなく、翻訳レベルにおいて抑制することを示唆している。
【実施例5】
【0076】
実施例5 Tリンパ球に対するアポトーシス誘導作用の検討
EL-4細胞(マウスTリンパ球系細胞株)を10%胎仔ウシ血清含有Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM:SIGMA社)で培養し、実験に供した。1×104個/wellの割合で細胞を96穴プレートに播種し、被験化合物を含むDMEM培地とA23187を含むDMEM培地を添加した。被験化合物および刺激剤の最終濃度は化合物(I)が5-30μM、A23187が250ng/mlとなるように調製した。66時間培養後、alamar blue(R)(BIOSOURCE社)20μlを各wellに添加し、更に6時間培養し、蛍光プレートリーダーを用いて蛍光強度を測定した(Ex:544nm, Em:590nm)。蛍光強度を細胞数の指標とし、以下の式によって求められる値をApoptotic cells (%)(アポトーシス誘導率)とした。
Apoptotic cells (%) = (1-(FI(sample)-FI(blank))/(FI(DMSO)-FI(blank))) x 100
FI(sample):各サンプル添加ウェルの蛍光強度
FI(blank):培地添加ウェルの蛍光強度
FI(DMSO):DMSO(0.1%)添加ウェルの蛍光強度
図5に示す通り、UPR修飾剤である化合物(I)はA23187存在下において用量依存的にEL-4細胞のアポトーシスを誘導した。これらの結果はERストレス存在下におけるT細胞の生存維持にUPRが関与していることを示しており、化合物(I)がERストレス下の細胞において選択的にUPR活性を修飾することによってアポトーシスを誘導していることを強く示唆している。
【実施例6】
【0077】
実施例6 ヒト滑膜組織由来細胞に対するアポトーシス誘導作用の検討
ヒト滑膜組織由来細胞株SW982細胞を10%胎仔ウシ血清含有L-15 Medium(SIGMA社)で培養し、実験に供した。SW982を96well平底プレートに無血清下で4×104/wellで播種した。被験物質(化合物(I))は細胞の播き込みと同時に添加し、200μl / wellで培養した。18時間後にalamar blue(R)(BIOSOURCE社)20μlを各wellに添加し、更に6時間培養し、蛍光プレートリーダーを用いて蛍光強度を測定した(Ex:544nm, Em:590nm)。蛍光強度を細胞数の指標とし、以下の式によって求められる値をApoptotic cells (%)(アポトーシス誘導率)とした。
Apoptotic cells (%) = (1-(FI(sample)-FI(blank))/(FI(DMSO)-FI(blank))) x 100
FI(sample):各サンプル添加ウェルの蛍光強度
FI(blank):培地添加ウェルの蛍光強度
FI(DMSO):DMSO(0.1%)添加ウェルの蛍光強度
図6に示す通り、UPR修飾剤である化合物(I)は胎仔ウシ血清非存在下において用量依存的にSW982細胞のアポトーシスを誘導した。これらの結果はERストレス存在下におけるヒト滑膜細胞の生存維持にUPRが関与していることを示しており、化合物(I)がERストレス下の細胞において選択的にUPR活性を修飾することによってアポトーシスを誘導していることを強く示唆している。
【実施例7】
【0078】
実施例7 関節リウマチ患者滑膜およびアジュバント誘発関節炎ラット関節罹患部におけるUPR活性化の評価
Genelogic社のデータベースを用いて、関節リウマチ患者滑膜組織におけるBipおよびXBP-1 mRNAの発現レベルを解析した。対照として変形性関節症患者滑膜組織を用いた。また、抗炎症剤や抗リウマチ剤の薬理評価に広く用いられるアジュバント関節炎ラットの関節罹患部のBipおよびXBP-1 mRNA発現レベルについて正常ラットと比較した。アジュバント関節炎は、Mycobacterium butyricum(アジュバント)の流動パラフィン懸濁液(1mg/200μl)をLewisラット(雄性、6週齢)の右側後肢足蹠皮下に注入し惹起した。アジュバント注入17日後に左側後肢からtotal RNAを抽出し、さらにtotal RNAからcDNAを合成した。cDNAをDNA chip解析に供し、BipおよびXBP-1の発現を定量した。
図7に示す通り、関節リウマチ患者滑膜組織においてBipおよびXBP-1 mRNAの発現量が上昇していた。また、図8に示す通り、アジュバント関節炎ラット罹患部においても同様に発現上昇が認められた。これらの結果は関節リウマチ患者滑膜組織およびアジュバント誘発関節炎ラット罹患部において、UPRが活性化されていることを強く示唆している。
【実施例8】
【0079】
実施例8 アジュバント誘発関節炎に対する作用
アジュバント誘発関節炎モデルはラットに惹起される代表的な慢性炎症モデルであり、抗炎症剤や抗リウマチ剤の薬理評価に広く用いられている。そこで、このモデルを用い化合物(I)の発症予防効果を検討した。発症予防試験では投与期間中、経時的に後肢容積を測定し、長期間にわたる薬物の効果を検討した。なお、薬効評価の指標として後肢容積または浮腫量を用いた。
(実験方法)
Mycobacterium butyricum(アジュバント)の流動パラフィン懸濁液(1mg/200μl)をLewisラット(雄性、6週齢)の右側後肢足蹠皮下に注入し関節炎を惹起した。発症予防試験ではアジュバントを注入した当日から1日1回連続21日間投与した。連日水置換法にて左右後肢容積を測定した。
尚、コントロールとして被験化合物を含まない0.5%メチルセルロースのみを上記と同様にして投与した。
(結果)
アジュバントを注入すると、10日前後に左後肢に関節炎を発症し、肢容積は17日目前後まで増大し、最大値に達する。化合物(I)(20-80mg/kg)をアジュバント注入の当日から21日間経口投与した場合の左右後肢容積を図9に示した。
図9に示す通り、左後肢(非注入肢)が浮腫を呈する前に投与を開始する発症予防試験において、化合物(I)は顕著な浮腫抑制効果を示した。
【実施例9】
【0080】
実施例9 実験的アレルギー性脳脊髄炎に対する作用
多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎マウスを用いて化合物(I)の薬効評価を行なった。実験的アレルギー性脳脊髄炎の惹起はBradleyらの方法(J. Clinical Investigation, 107: 995-1006, 2001)に従った。すなわち、7週齢の雌性 SJL/Jマウス(チャールズリバーより購入)の背後部皮下にFreund完全アジュバントに混和したPLP部分ペプチド(PLP139-151)150μgを注射した。症状の重篤さの程度は次の基準に従いスコア(病態スコア)で表示した。
0 :無症状
0.5:尾の軽い麻痺
1 :尾の麻痺
2 :軽度の後肢の麻痺
3 :中程度から強度の後肢の麻痺、あるいは軽度の前肢の麻痺
4 :完全な後肢の麻痺、あるいは中程度から強度の前肢の麻痺
5 :四肢の麻痺あるいは死線期にある
6 :死亡
化合物(I)は0.5%メチルセルロース溶液に懸濁してそれぞれ8mg/ml(80mg/kg投与群)、4mg/ml(40mg/kg投与群)および2mg/ml(20mg/kg投与群)の投与液を調製し、マウスの体重10 g当たり0.1 mlを経口投与した。陽性対照としてのプレドニゾロン群では、プレドニゾロンを0.5%メチルセルロース溶液に懸濁して0.3mg/mlの投与液を調製し、マウスの体重10 g当たり0.1 mlを経口投与した。対照群には0.5%メチルセルロース溶液のみを皮下投与した。投与は感作日から開始し、1日1回、40日間連日実施した。Normal群では、PLP139-151感作および被験物質投与を共に行わなかった。
その結果を、表1、図10および図11に示す。化合物(I)は、病態スコアをいずれの投与量でも抑制し、その作用は用量依存的であった。また、対照群では全例(9匹中9匹)が発症し、試験期間中に9匹中4匹が神経麻痺により死亡したのに対し、化合物(I)投与群では80mg/kg投与群で10匹中1匹死亡した以外は死亡例がなかった。プレドニゾロンは発症を強く抑制した(10匹中2匹のみ発症)が、対照群や化合物(I)投与群とは異なり、発育による体重の自然増加を強く抑制した。この結果はプレドニゾロンの連続投与に伴う作用であり、慢性の病態に長期投与を行う場合の問題点となる。即ち、化合物(I)は、代表的なステロイドであるプレドニゾロン投与群において見られた長期投与時の強い体重増加抑制を伴うことなく、実験的アレルギー性脳脊髄炎の病態重症化を用量依存的に抑制することが示された。
【0081】
表1. 実験的アレルギー性脳脊髄炎マウスにおける効果
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
被験物質 用量 n 発症率 死亡率
(mg/kg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
対照群 9 9/ 9 4/ 9
Normal群 10 0/10 0/10
プレドニゾロン 3 10 2/10 0/10
化合物(I) 20 10 8/10 0/10
40 10 7/10 0/10
80 10 8/10 1/10
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明により、新規な作用機序に基づく、抗自己免疫疾患剤の有効成分となる候補物質を探索し取得するために有用なスクリーニング方法を提供することができる。さらに本発明により、新規な作用機序に基づく、優れた抗自己免疫疾患剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】マウスTリンパ球系細胞株EL-4細胞をCalcium Ionophore A23187で刺激した時のBip mRNA発現量を示すグラフである。結果は各群とも3ウェルの平均値と標準偏差で示す。化合物(I)添加群(30μM)およびコントロール群の結果を示す。
【図2】マウスTリンパ球系細胞株EL-4細胞をCalcium Ionophore A23187で刺激した時のeIF2αリン酸化レベルについて、ウェスタンブロッティングの結果を示す。化合物(I)添加群(30μM)およびコントロール群の結果を示す。
【図3】マウスTリンパ球系細胞株EL-4細胞をCalcium Ionophore A23187で刺激した時のXIAPおよびATF4蛋白質発現レベルについて、ウェスタンブロッティングの結果を示す。化合物(I)添加群(30μM)およびコントロール群の結果を示す。
【図4】A:マウスTリンパ球系細胞株EL-4細胞をCalcium Ionophore A23187で刺激した時のAkt1蛋白質発現レベルについて、ウェスタンブロッティングの結果を示す。B:プロテアソームインヒビターまたはcaspaseインヒビター添加群におけるAkt1蛋白質発現レベルについて、ウェスタンブロッティングの結果を示す。化合物(I)添加群(30μM)およびコントロール群の結果を示す。
【図5】マウスTリンパ球系細胞株EL-4細胞をCalcium Ionophore A23187で刺激した時のアポトーシス誘導率を示すグラフである。結果は各群とも3ウェルの平均値と標準偏差で示す。化合物(I)添加群(5,10,20 および 30μM)およびコントロール群の結果を示す。グラフ中、●はA23187添加群を示し、○はA23187非添加群を示す。
【図6】ヒト滑膜組織由来細胞であるSW982細胞のアポトーシスを示すグラフである。結果は各群とも3ウェルの平均値と標準偏差で示す。化合物(I)添加群(最大濃度30μM)およびコントロール群の結果を示す。グラフ中、●は胎仔ウシ血清非添加群を示し、○は胎仔ウシ血清添加群を示す。
【図7】関節リウマチ患者滑膜におけるBipおよびXBP-1 mRNA発現量を示す。最小値、25%分位点、中央値、75%分位点、最大値で示す。
【図8】アジュバント誘発関節炎ラット関節罹患部におけるBipおよびXBP-1 mRNA発現量を示す。グラフ中、●はBip mRNAの発現量を示し、▲はXBP-1 mRNAの発現量を示す。いずれも、関節罹患部は4サンプル、正常部位は3サンプルの測定結果を示す。
【図9】ラットのアジュバント誘発関節炎における両側後肢の浮腫量の変化を示すグラフである。化合物(I)投与群(20-80mg/kg)、およびコントロール群の結果を示す。グラフ中、■は化合物(I)(20mg/kg)投与群の結果を示す。▲は化合物(I)(40mg/kg)投与群の結果を示す。●は化合物(I)(80mg/kg)投与群の結果を示す。◇は被験化合物非投与群(コントロール群)の結果を示す。各群とも10例の平均値と標準偏差で示す。
【図10】多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎マウスを用いて化合物(I)を試験した時の、病態スコアを示すグラフである。□は化合物(I)(20mg/kg)投与群の結果を示す。▲は化合物(I)(40mg/kg)投与群の結果を示す。■は化合物(I)(80mg/kg)投与群の結果を示す。×はプレドニゾロン(3mg/kg)投与群の結果を示す。●は被験化合物非投与群(コントロール群)の結果を示す。+は正常コントロール群の結果を示す。対照群は9例、他の各群は10例の平均値で示す。
【図11】多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎マウスを用いて化合物(I)を試験した時の、体重増加に及ぼす作用を示すグラフである。□は化合物(I)(20mg/kg)投与群の結果を示す。▲は化合物(I)(40mg/kg)投与群の結果を示す。■は化合物(I)(80mg/kg)投与群の結果を示す。×はプレドニゾロン(3mg/kg)投与群の結果を示す。●は被験化合物非投与群(コントロール群)の結果を示す。+は正常コントロール群の結果を示す。対照群は9例、他の各群は10例の平均値で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)ないし(e)を含む抗自己免疫疾患剤のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のUPR関連因子発現量を測定し、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のUPR関連因子発現量と比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のUPR関連因子発現量と、被験物質を接触させない細胞のUPR関連因子発現量とを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのUPR関連因子発現修飾率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のUPR関連因子発現修飾率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にUPR関連因子発現を修飾する被験物質を選択する工程。
【請求項2】
UPR関連因子が、Akt、Bip、XBP-1、eIF2α、XIAPおよびATF4からなる群より選ばれる因子である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、Akt蛋白の発現を抑制する被験物質である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、Bip遺伝子またはBip蛋白の発現を増強する被験物質である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、スプライシングフォームのXBP-1 mRNAまたはスプライシングフォームのXBP-1蛋白の発現を抑制する被験物質である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、eIF2αのリン酸化を促進する被験物質である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、XIAP蛋白の発現を抑制する被験物質である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
UPR関連因子発現を修飾する被験物質が、ATF4蛋白の発現を抑制する被験物質である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
下記の工程(a)ないし(e)を含む抗自己免疫疾患剤のスクリーニング方法:
(a) 被験物質とERストレスを誘導した細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞のアポトーシスレベルを測定し、被験物質を接触させずにERストレスを誘導した細胞のアポトーシスレベルと比較する工程、
(c) ERストレスを誘導しない対照細胞において、上記(a)および(b)と同様の工程により、被験物質を接触させた細胞のアポトーシスレベルと、被験物質を接触させない細胞のアポトーシスレベルとを比較する工程、
(d) 上記(b)の比較結果としてのアポトーシス誘導率を、上記(c)の比較結果としての対照細胞のアポトーシス誘導率と比較する工程、および
(e) 上記(d)の比較結果に基づいて、ERストレス存在下の細胞において選択的にアポトーシスを誘導する被験物質を選択する工程。
【請求項10】
被験物質濃度10μMにおいて、ERストレス非存在下で実質的にアポトーシスを誘導せず、ERストレス存在下で40%以上のアポトーシス誘導率を示す被験物質を選択する、請求項9記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
細胞が哺乳類の細胞である請求項1〜10のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
細胞が自己免疫疾患における病態関連細胞である請求項1〜11のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
細胞が関節リウマチにおける病態関連細胞である請求項1〜11のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
細胞がT細胞、滑膜細胞、B細胞、マクロファージ、線維芽細胞および破骨細胞からなる群より選ばれる細胞である請求項1〜11のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
細胞がEL-4、SW982およびBCL-1からなる群より選ばれる細胞である請求項1〜11のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
抗自己免疫疾患剤が、自己免疫疾患予防剤および/または自己免疫疾患治療剤である請求項1〜15のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
抗自己免疫疾患剤が、免疫の異常亢進改善剤である請求項1〜15のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
自己免疫疾患が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病、橋本甲状腺炎、原発性粘液水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、Good-pasture症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交換性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、およびシェーグレン症候群からなる群より選ばれる疾患である請求項1〜17のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項19】
自己免疫疾患が、関節リウマチまたは多発性硬化症である請求項1〜17のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項20】
抗自己免疫疾患剤が、関節リウマチ患者における慢性炎症の抑制剤、関節破壊の抑制剤、関節変形への進行抑制剤、または身体機能の改善剤である請求項1〜19のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項21】
請求項1〜15のいずれか記載のスクリーニング方法を用いて選択される物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項22】
ERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項23】
ERストレス存在下に選択的なAkt1蛋白質発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項24】
ERストレス存在下に選択的なBip mRNAまたはBip蛋白の発現増強作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項25】
ERストレス存在下に選択的なスプライシングフォームのXBP-1 mRNAまたはスプライシングフォームのXBP-1蛋白の発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項26】
ERストレス存在下に選択的なeIF2αのリン酸化促進作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項27】
ERストレス存在下に選択的なXIAP蛋白の発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項28】
ERストレス存在下に選択的なATF4蛋白の発現抑制作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項29】
ERストレス存在下に選択的なアポトーシス誘導作用を有する物質を有効成分として含む抗自己免疫疾患剤。
【請求項30】
哺乳動物体内におけるUPRを、ERストレス存在下の細胞に対して自己免疫疾患の予防および/または治療に有効な程度修飾することを含む、該哺乳動物の自己免疫疾患の予防および/または治療方法。
【請求項31】
ERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質を、自己免疫疾患の予防および/または治療に有効な量哺乳動物に投与することを含む、該哺乳動物の自己免疫疾患の予防および/または治療方法。
【請求項32】
抗自己免疫疾患剤の製造のための、ERストレス存在下に選択的なUPR修飾作用を有する物質の使用。
【請求項33】
3-[(1S)-1-(2-フルオロビフェニル-4-イル)エチル]-5-{[アミノ(モルフォリン-4-イル)メチレン]アミノ}イソキサゾールまたはその薬学上許容される塩を有効成分として含むUPR修飾剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−118870(P2008−118870A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303509(P2006−303509)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】