自己免疫疾患治療剤
本願では、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それらの疾患の根治治療剤、およびそれらの疾患の進行阻害剤が開示される。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、自己免疫疾患治療剤に関し、詳細には、プロアントシアニジンを有効成分として含んでなる自己免疫疾患治療剤に関する。
【0002】
背景技術
近年、高齢化社会をむかえて慢性関節リウマチに代表される自己免疫疾患が増加している。自己免疫疾患には免疫応答のタイプの違う2種類に大別することができる。ひとつは細胞性免疫の過剰な亢進による疾患であり、もうひとつは自己抗体に媒介される疾患である。前者の非限定的な例は、慢性関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、自己免疫性甲状腺炎(AT)、若年性糖尿病やI型糖尿病等のインスリン依存型糖尿病(IDDM)、自己免疫ブドウ膜網膜炎(AUR)、乾癬症などである。後者の非限定的な例は、重症筋無力症(MG)、全身性エリテマトーデス(SLE)、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血などである。これら自己免疫疾患の既存の治療法としては、非特異的に免疫反応を抑制する免疫抑制剤が代表的である。例としてはメトトレキサート、シクロホスファミド、サイクロスポリンA、タクロリムス、各種ステロイド化合物などがある。これらの薬剤は毒性・副作用が深刻であるばかりでなく、治療期間中は免疫反応が抑制されているため感染症に罹患する危機にさらされる。このような背景の中、最近特にリウマチ治療において生物製剤が脚光を浴びている。細胞性免疫依存型の自己免疫疾患の増悪因子はTNF−α、IL−1、IL−6などの炎症性サイトカインであるが、抗TNF−α抗体、可溶性TNF−α受容体、抗IL−6受容体抗体、IL−1受容体アンタゴニストなどについて臨床試験が行われている。これらの生物製剤は、対症療法であるため継続的な投与を要する。
【0003】
ところで、自己免疫疾患の中で患者数が多いのは細胞性免疫亢進型自己免疫疾患である。このタイプでは、Th1細胞やTc1細胞が発症機序の中心的な役割を持っている。Th1細胞はヘルパーT細胞の亜群であり、抗原刺激に対して選択的にIFN−γ、TNF−α、IL−2などのTh1サイトカインを産生する。Th1細胞の分化には抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ)が産生するIL−12と呼ばれるサイトカインが必須であるが、細胞性免疫亢進型自己免疫疾患では抗原提示細胞によるIL−12産生量が増加しており、いっそうTh1細胞が誘導されやすい環境となっている。Th1細胞はTh1サイトカイン環境を作り出し、細胞障害活性をもつT細胞であるTc1細胞の分化を誘導する。従ってTh1サイトカインの産生を抑制することが自己免疫疾患の治療および予防に有効であると言える。
【0004】
漢方薬を始めとする民間療法もこの分野では試みられることが多く、ある種の植物素材も自己免疫疾患に効果があることが経験的に知られている。
【0005】
例えば、雷公藤はリウマチに効果があることが報告され(BMC Pharmacol., 2004,4(1):2)、人参湯はI型糖尿病に効果があることが報告され(Microbiol. Immunol., 2000, 44(4):299-305)、カンランは多発性硬化症に効果があることが報告されている(Arzneimittelforschung, 1998, 48(6):668-74)。また、シダの1種であるPolypodium Leucotomosは古くから乾癬症の治療に使われている(Padilla HC., 1974. Int J Dermatol 13, 276-282; Gonzales S., et al., 2000, Anticancer Res.20, 1567-1576)。また、同じシダ類であるサマンバイア(Polypodium lepidopteris)のエキスにはCD4+T細胞やB細胞の数に影響を与えることなく、CD8+T細胞の数を増加させる作用があることが知られている(Hostettmann K., et.al., 1995 Phytochemistry of Plants Used in Traditional Medicine, Proceedings of the Phytochemical Society of Europe. Oxford University Press: Oxford, NY)。このような素材で得られる効果については、科学的な解明はされていないが、安価で手軽に試みられる利点がある。また、ジャトバ(Hymenaea courbaril、別名:アスカル・ワーヨ)の樹皮、樹液、樹脂、葉などは下痢止めや膀胱炎、肝炎、前立腺炎、咳の自然薬として用いられてきた(Rutter, R.A. 1990 Catalogo de Plantas Utiles de la Amazonia Peruana. Instituto Linguistico de Verano. Yarinacocha, Peru. 349)。現在でも、ジャトバ樹皮から作るお茶や液体エキスは食欲促進、疲労回復、滋養強壮、栄養補給剤として広く受け入れられている(Silva., 1930. Catalogo de Extractos Fluidos, Araija e Cia.Ltd., Rio de Janeiro, Brazil: Cruz GL., 1995. Dicionario das Plantas Uteis Do Brasil, 5th Ed. Rio de Janeiro: Bertrand Brazil)。また、ジャトバの樹皮に含まれているアチルビンと呼ばれるフラボノイドが、抗酸化効果や肝臓保護特性を生み出すことや抗菌作用とテルペンやフェノールとの因果関係が報告されている (Closa D et al., 1997. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 56, 331-334;Pinheiro de SM., et.al., 1974. Molluscicidal activity of plants from Northeast Brazil. Rev Bras Fpesq Med Biol, 74: 389-394;Rouquayrol MZ., et al., 1980. Rev Brasil Pesq Med Biol 13, 135-143)。しかしながら、これらの成分のTh1サイトカイン産生に対する効果や自己免疫疾患に対する効果はこれまで報告がなされていない。
【0006】
ところで、プロアントシアニジンは様々な植物に広く含有される縮合型タンニンであり、酸処理によってアントシアニジンを与える。図1に示すように、主としてカテキン類すなわちフラバン−3−オールを基本単位として重合したポリフェノール成分である。すなわち、プロアントシアニジンとはフラバン骨格を基本として種々な部位に水酸基を有する単量体が重合した、非常に多様な化合物群の総称である。重合体の構成単位のうち、基端部をターミナルユニット、その他をエクステンションユニットと呼び、重合度は二量体、三量体のものから100量体以上の高分子にまで及ぶ。
【0007】
これまでに、プロアントシアニジンの好塩基球からのヒスタミン、ロイコトリエンなどの遊離抑制作用に基づく抗アレルギー剤としての利用が報告されている。(特開2001−278792号公報)また、抗肥満作用(特開平9−291039号公報)、マトリックスプロテアーゼ阻害作用(特表2003−504402号公報)、筋肉萎縮抑制作用(特開2002−338464号公報)、血糖降下作用(特開平4−253918号公報)など多様な報告がなされている。しかしながら、自己免疫疾患の治療および予防はもちろん、Th1サイトカインの産生抑制に関するプロアントシアニジンの作用は知られていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、特定の植物由来エキスがTh1偏向マウス脾臓細胞においてTh1サイトカインの産生を抑制すること、その効果をもたらす有効成分がポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンであること、特定の重合度を有するプロアントシアニジンが特にTh1サイトカインの産生抑制に有効であること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明者等はまた、4量体以上、特に5量体以上のプロアントシアニジンが実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおいて高い治療活性を示すこと等を確認した。
【0010】
本発明者らはまた、高重合度プロアントシアニジンがB細胞の活性化を抑制すること、自己抗体が誘導されたマウスにおいて高重合度プロアントシアニジンが自己抗体の産生を抑制すること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、インスリン依存型糖尿病をはじめとするTh1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患や自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤の提供を目的とする。
【0012】
本発明によれば、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含有してなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それら疾患の根治治療剤、およびそれら疾患の進行阻害剤(以下、「本発明による治療剤」という)が提供される。
【0013】
本発明によればまた、本発明による治療剤の製造のための、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用が提供される。
【0014】
本発明によれば更に、治療上の有効量の(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療方法、それら疾患の根治治療方法、およびそれら疾患の進行阻害方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プロアントシアニジンを構成するフラバン化合物の代表成分であるエピカテキンおよびカテキン並びにフラバン環3位水酸基にしばしばエステル付加する没食子酸の構造式をそれぞれ示した図である。
【図2】ヒト多発性硬化症モデルマウスの作成とジャトバ腹腔内投与のスケジュールを示した図である。
【図3】ヒト多発性硬化症モデルマウスにおける、ジャトバの抗自己免疫疾患活性を臨床スコアの変動により評価した図である。
【図4】A:脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γの産生活性に対するジャトバの抑制活性を示した図である。B:炎症性サイトカインであるTNF−αの産生活性に対するジャトバの抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図5】ジャトバの脱髄抑制効果を示した図である。コントロールマウス(Control, Score 3)(発症)とジャトバ投与マウス(50m/kg jatoba, Score 0)(無症状)を第15日目に剖検し、脊髄の脱髄の有無を観察した。
【図6】SJL/JマウスにPLPペプチドを用いて誘導したEAEモデルを第12日目で剖検し、脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γに対するジャトバの産生抑制活性を示した図である。「+PLP」はPLPペプチドを培養上清中に添加したもの、「−PLP」はPLPペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図7】A:ジャトバの予防投与1回の効果について臨床スコアの変動を示した図である。control:コントロール。Once:一回投与。B:第11日目で剖検し、脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γへジャトバの予防投与1回での抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図8】PVPP処理したジャトバ抽出物を投与した場合の臨床スコアの変動を示した図である。
【図9】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γおよび炎症性サイトカインであるTNF−αに対する、ジャトバ抽出物およびPVPP処理したジャトバ抽出物の抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図10】A:実施例7において、ジャトバエタノール抽出物を電子スプレーイオン化質量分析に供し、プロシアニジン二量体、三量体、四量体、五量体、そして六量体の分子イオンピークを観測したことを示した図である。B:実施例7において、ジャトバエタノール抽出物をマトリックス支援レーザー脱離イオン化―飛行時間型質量分析に供し、20以上の重合度を有するプロシアニジンの分子イオンピークが観測されたことを示した図である。
【図11】プロアントシアニジンを酸性条件下、トルエン−α−チオールと共に加熱する反応であるチオール開裂を模式的に示した図である。
【図12】ジャトバエタノール抽出物のチオール開裂反応生成物を逆相カラムクロマトグラフィで分析したクロマトグラムを示した図である。
【図13】ジャトバエタノール抽出物中のプロシアニジンを、メタノールとクロロホルムに対する溶解性の違いを利用して分別沈殿し、重合度別に分画したことを示した図である。※:プロシアニジンの平均重合度/含量%。
【図14】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γに対する、ジャトバエタノール抽出物および実施例9で分画された各画分(Fr)の抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図15】エピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)のプロトン(1H)NMRスペクトル(重アセトン、20℃、500MHz)であり、構造を同定する図である。
【図16】ベンジルチオールがフラバン環の4位に付加していることを証明する、エピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)のHMBCスペクトル(重アセトン、20℃、500MHz)の図である。
【図17】EC−BTEを標品としてHPLC分析を行ない、さらに各成分をモル換算して計算したプロシアニジンの平均重合度と含量%を示す図である。※:プロシアニジンの平均重合度/含量%。
【図18】アップルフェノン(登録商標)に含有されるプロシアニジンを逆相カラムクロマトグラフィで定量分析し、さらに液体クロマトグラフ質量分析によってそのメインピークが三量体であることを示した図である。
【図19】市販標品エピカテキンガレート(ECG)と精製したエピカテキンガレート−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)を比較するプロトン(1H)NMR (cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図20】ベンジルチオールがフラバン環の4位に付加していることを証明する、エピカテキンガレート−ベンジルチオールエーテル(ECG−BTE)のHMBC スペクトル(cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図21】エピカテキンガレート−ベンジルチオールエーテル(ECG−BTE)のHSQC (cd3od、20℃、600 MHz)であり、フラバン環4位、ベンジルチオールのSCH2部位のカーボンを帰属した図である。
【図22】市販標品カテキン(CA)と精製したカテキン−ベンジルチオールエーテル(CA−BTE)を比較するプロトン(1H)NMR (cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図23】ベンジルチオールがフラバン環の4位に付加していることを証明する、カテキン−ベンジルチオールエーテル(CA−BTE)のHMBC (cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図24】カテキン−ベンジルチオールエーテル(CA−BTE)のHSQC (cd3od、20℃、600 MHz)であり、フラバン環4位、ベンジルチオールのSCH2部位のカーボンを帰属した図である。
【図25】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9で得られたFr.5)を重合度別に厳密に分離したことを示すLC−MSクロマトグラムの図である。実線枠は1価イオンによるピーク同定を、破線枠は2価イオンによるピーク同定を、それぞれ示す。丸数字3、4、5、6、7、および8は重合度3、4、5、6、7、および8を意味する。
【図26】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.4)を重合度別に厳密に分離したことを示すLC−MSクロマトグラムの図である。実線枠は1価イオンによるピーク同定を、破線枠は2価イオンによるピーク同定を、それぞれ示す。丸数字3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12は重合度3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12を意味する。
【図27】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.5)の重合度分布を分析した図である。丸数字2、3、4、5、6、7、8、9、および10は重合度2、3、4、5、6、7、8、9、および10を意味する。
【図28】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.4)の重合度分布を分析した図である。丸数字2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13は重合度2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13を意味する。
【図29】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.3)の重合度分布を分析した図である。丸数字2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13は重合度2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13を意味する。
【図30】EAE臨床スコアへの各種プロシアニジン含有サンプルの影響を示した図である。括弧内の数字は平均重合度を示す。
【図31】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γへの各種プロシアニジン含有サンプルの抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図32】脾臓細胞が産生するTh1サイトカインであるIFN−α産生活性に対する他素材の高重合度プロシアニジン活性を比較した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図33】慢性関節炎誘導モデルマウスの作成とジャトバ腹腔内投与のスケジュールを示した図である。
【図34】TypeIIコラーゲン誘導関節炎モデルにおける、ジャトバ腹腔内投与群とコントロール群の臨床スコアの変動を示した図である。
【図35】I型糖尿病誘導モデルマウスの作成とジャトバ腹腔内投与のスケジュールを示した図である。
【図36】I型糖尿病誘導モデルマウスにおける、インビボにおけるジャトバ腹腔内投与群とコントロール群の糖尿発症率の変動を示した図である。
【図37】9週齢で剖検し、脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γに対するジャトバの抑制活性を示した図である。
【図38】I型糖尿病自然発症モデルマウス実験スケジュールを示した図である。
【図39】I型糖尿病自然発症モデルにおける抗原特異的な脾臓細胞の反応性を、インスリン依存的なIFN−γ産生活性で示した図である。
【図40】I型糖尿病自然発症モデルにおける脾臓細胞のポピュレーションを示した図である。
【図41】I型糖尿病自然発症モデルにおけるマクロファージの表面抗原発現レベルを示した図である。
【図42】I型糖尿病自然発症モデルにおけるジャトバ投与による発症率抑制を示した図である。
【図43】EAEモデルを用い、脾臓細胞における各免疫担当細胞割合の経時変化を示した図である。
【図44】EAEモデルにおける脾臓細胞中のマクロファージの細胞表面抗原発現量を示した図である。
【図45】リウマチモデルにおけるジャトバ抽出物、ポリフェノン、ジャトバ抽出物Fr3の経口投与の効果を臨床スコアで示した図である。
【図46】リウマチモデルにおけるジャトバの経口投与の効果を脾細胞の抗原特異的IFN−γ産生量で示した図である。「+コラーゲン」はタイプIIコラーゲンを培養上清中に添加したもの、「−コラーゲン」は添加しないものを意味する。両者を比較することにより抗原依存的な反応を確認できる。
【図47】リウマチモデルを用い、ジャトバFr3の効果について用量依存性を臨床スコアで示した図である。
【図48】ジャトバ投与の開始時期別に慢性関節炎リウマチスコアを示した図である。
【図49】慢性関節リウマチにおけるジャトバ抽出物Fr3による血中抗体価の抑制を示した図である。
【図50】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γの産生活性に対する各オリゴマーでの活性を比較した図である。
【図51】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γの産生活性に対する各オリゴマーでの活性を比較した図である。
【図52】ジャトバEtOH抽出物およびポリフェノンの単回投与による体重、摂餌量への影響を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0016】
有効成分
本発明において有効成分である「プロアントシアニジン」とは、カテキン類、すなわち、フラバン骨格を基本単位とするポリフェノール類をいう。その構成単位としては、例えば、フラバン−3−オールとしてカテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピディステニン(B環に水酸基を有さない)、アフゼレチン(Afzelechin)、エピアフゼレチン(epiafzelechin)が挙げられ、さらにフラバン−4−オール、ロイコアントシアニン(すなわち、フラバン−3,4−ジオール)、およびアントシアニジン等が挙げられる。
【0017】
3位の水酸基は没食子酸とエステル(ガレート)を形成していてもよく、3位以外のいずれかの部位の水酸基が配糖体あるいはメチルエーテル(メトキシ)を形成していてもよい(図1参照)。
【0018】
プロアントシアニジンの構成単位同士の主たる結合部位としては、4位と6位または4位と8位のいずれか1箇所(Bタイプ結合)、あるいは4位と8位および2位と7位酸素の2箇所(Aタイプ結合)が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、またこれら結合の立体配置も特に限定されるものではない。
【0019】
ある特定の単量体が重合したプロアントシアニジンには慣用名が与えられ、代表的なプロアントシアニジンとしては、B環(図1参照)の水酸基の数に応じて定義・分類された、プロペラルゴニジン(4’−OH)、プロシアニジン(3’−OH,4’−OH)、プロデルフィニジン(3’−OH,4’−OH,5’−OH)が挙げられるが、プロアントシアニジンはこれらに限定されるものではない。例えば、A環5位の水酸基を欠く成分を構成単位とした重合体であるプロガイボールチニジン(proguibourtinidin)、プロフィセチニジン、およびプロロビネチニジンがあり、さらにその他特定部位の水酸基の有無に応じて、プロテラカシジン、プロメラカシジン、プロアピゲニニジン、プロルテオリニジン等の慣用名を持つ成分が挙げられる。
【0020】
本発明において「プロアントシアニジン」は、好ましくは、プロシアニジンおよびプロデルフィニジンである。「プロシアニジン」の構成単位は、同一または異なっていてもよく、カテキン、エピカテキン、カテキンガレート、およびエピカテキンガレートから選択できる。「プロデルフィニジン」の構成単位は、同一または異なっていてもよく、ガロカテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンガレート、およびエピガロカテキンガレートから選択できる。
【0021】
本発明において有効成分として用いる「重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン」は、好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンであることができる。
【0022】
本発明において用いられるプロアントシアニジンは、その重合度が5以上の場合に実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおいて高い治療活性を示した(実施例31、図50)。従って、本発明において用いられるプロアントシアニジンの重合度は、少なくとも5であることが好ましい。
【0023】
本発明において用いられるプロアントシアニジンの重合度の上限は特に限定されるものではないが、プロアントシアニジンが植物由来である場合には、20量体〜30量体程度のプロアントシアニジンが確認されている。またプロアントシアニジンを有機合成する場合には、経済性および合成操作の便宜の観点から20量体〜30量体程度を重合度の上限とすることができる。更に、重合度が5以上のプロアントシアニジンに高い治療活性が認められたことから、プロアントシアニジンの重合度の上限を10量体程度としても、本発明による効果を期待できる。従って本発明においては、プロアントシアニジンの重合度は、4〜30量体、4〜20量体、あるいは4〜10量体とすることができ、好ましくは、5〜30量体、5〜20量体、あるいは5〜10量体である。また本発明においては、プロアントシアニジンの重合度を、5〜6量体、5〜7量体、5〜8量体、および5〜9量体とすることができる。本発明においてプロアントシアニジンの重合度は、例えば、質量分析法(Jan F. Stevens et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 3435-3443)により測定することができ、具体的には、実施例7、実施例16、実施例17、および実施例19に従って測定することができる。
【0024】
本発明において、プロアントシアニジンは式(I)で表すことができる。
【化1】
(上記式中、R1、R2、R5、R6、およびR7は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または−O−R11(R11は炭素数1〜4のアルキル基または糖残基を表す。)を表し、R3およびR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または基(II):
【化2】
を表し、但し、R3およびR4の両方が水酸基を表すことはなく、R3およびR4の両方が基(II)を表すことはなく、nは4〜30の整数を表し、各構成単位は、4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合しているか、あるいは4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している。)
式(I)中、R11が表すことがある「炭素数1〜4のアルキル基」は、好ましくは、メチル基である。
【0025】
式(I)中、R11が表すことがある「糖残基」は、ヘミアセタール性またはヘミケタール性水酸基とR3またはR4の水酸基とのエーテル結合を通じて式(I)の化合物に結合した糖を意味する。糖としては、例えば、グルコース、アロース、アルトロース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フルクトース、キシロース、リボース、アラビノース、リキソース、ラムノースが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
式(I)中、構成単位の2位、4位、6位、または8位を通じて各構成単位同士が結合する場合には、2位、4位、6位、または8位には水素原子の代わりに単結合が存在する。
【0027】
式(I)中、構成単位の7位を通じて各構成単位同士が結合する場合には、7位にはR2の代わりに、−O−が存在する。
【0028】
式(I)における各構成単位に存在する置換基は、すべて同一であっても、構成単位ごとに異なっていてもよい。
【0029】
式(II)中の水酸基は、同一または異なっていてもよく、R11−O−(R11は前記と同義である)を表すことができる。
【0030】
式(I)中、各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R6が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR7が水素原子を表す化合物、およびR1およびR2が水酸基を表し、R6が水酸基を表し、R5およびR7が水素原子を表す化合物は、プロペラルゴニジンに対応する。これらの場合において、R3およびR4いずれか一方が水酸基または基(II)を表し、他方が水素原子を表す場合が好ましい。
【0031】
式(I)中、各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R7が水素原子を表す化合物、およびR1およびR2が水酸基を表し、R5およびR6が水酸基を表し、R7が水素原子を表す化合物は、プロシアニジンに対応する。これら場合において、R3およびR4いずれか一方が水酸基または基(II)を表し、他方が水素原子を表す場合が好ましい。
【0032】
式(I)が表す構成単位のうち
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はカテキンガレートに対応し、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピカテキンガレートに対応する。
式(I)中、各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表す化合物、およびR1およびR2が水酸基を表し、R5、R6、およびR7が水酸基を表す化合物は、プロデルフィニジンに対応する。これら場合において、R3およびR4いずれか一方が水酸基または基(II)を表し、他方が水素原子を表す場合が好ましい。
【0033】
式(I)が表す構成単位のうち
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4が水素原子を表す式(I)の構成単位はガロカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピガロカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、R6がR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4が水素原子を表す式(I)の構成単位はガロカテキンガレートに対応し、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピガロカテキンガレートに対応する。
【0034】
式(I)中、nはプロアントシアニジンの重合度(量体)を表す。nは好ましくは5〜30の整数を表す。nはまた、4〜20、4〜10、5〜20、5〜10、5〜6、5〜7、5〜8、5〜9の整数であることができる。
【0035】
式(I)における各構成単位の結合様式としては、Aタイプ結合とBタイプ結合が挙げられる。Aタイプ結合は、各構成単位が4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している結合様式をいう。Bタイプ結合は、各構成単位が4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合している結合様式をいう。本発明においては、式(I)における構成単位同士の結合すべてがAタイプ結合である場合やBタイプ結合である場合のみならず、Aタイプ結合とBタイプ結合が混在している場合も含まれる。各構成単位の結合は、すべて同一であっても、構成単位ごとに異なっていてもよい。
【0036】
式(I)における各構成単位の結合様式の好ましい例は下記の通りである(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンにはガレート体も含まれる)。
【0037】
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→6結合)−カテキン/ガロカテキン;
[エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン/エピガロカテキン;および
エピカテキン/エピガロカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン。
【0038】
式(I)が表すプロアントシアニジンのうち好ましい例としては、
各構成単位が、同一または異なっていてもよく、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4およびR7が水素原子を表す(カテキン)か、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3およびR7が水素原子を表す(エピカテキン)か、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4およびR7が水素原子を表す(カテキンガレート)か、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3およびR7が水素原子を表す(エピカテキンガレート)か、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4が水素原子を表す式(I)の化合物はガロカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3が水素原子を表す(エピガロカテキン)か、
− R1、R2、R5、R6がR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4が水素原子を表す(ガロカテキンガレート)か、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3が水素原子を表し(エピガロカテキンガレート)
nが5〜30の整数を表し、
各構成単位の結合が、同一または異なっていてもよく、
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→6結合)−カテキン/ガロカテキン;
[エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン/エピガロカテキン;および
エピカテキン/エピガロカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン
から選択される(但し、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンにはガレート体も含まれる)、式(I)の化合物が挙げられる。
【0039】
式(I)における各構成単位の結合様式の特に好ましい例は下記の通りである。
【0040】
エピカテキン−(4β→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→6結合)−カテキン;
[エピカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン;および
エピカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン。
【0041】
式(I)が表すプロアントシアニジンのうち特に好ましい例としては、
各構成単位が、同一または異なっていてもよく、R1、R2、R3、R5、およびR6が水酸基を表し、かつR4およびR7が水素原子を表す(カテキン)か、あるいはR1、R2、R4、R5、およびR6が水酸基を表し、かつR3およびR7が水素原子を表し(エピカテキン)、
nが5〜30の整数を表し、
各構成単位の結合が、同一または異なっていてもよく、
エピカテキン−(4β→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→6結合)−カテキン;
[エピカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン;および
エピカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン
から選択される、式(I)の化合物が挙げられる。
【0042】
プロアントシアニジンは多くの植物に存在する成分であり、植物から抽出することにより調製することができる。プロアントシアニジンを植物から調製するための好ましい原料としては、ジャトバ、葡萄種子、クランベリー、シナモン、および松樹皮等が挙げられ、プロアントシアニジンの含有量の豊富な点からジャトバがより好ましい。プロアントシアニジンを含有する植物素材としては、例えば、ジャトバ樹皮乾燥粉末(有限会社エジソン・エス・アール・エル日本事務所)、クランベリー由来抽出物(「クランベリーパウダー」(キッコーマン(株))、葡萄種子由来抽出物(「グラビノールSL」(キッコーマン(株))、松樹皮由来抽出物(有限会社素材機能研究所)、カカオ由来抽出物(「カカオポリフェノール」(明治製菓(株))が挙げられ、これらをそのまま、あるいは後述するように所望の程度に高重合度のものを適宜分画精製し、本発明による有効成分として用いることができる。
【0043】
従って本発明では、「プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物」を有効成分として使用することができる。「プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物」としては、例えば、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、カカオ抽出物が挙げられるが、プロアントシアニジン(特に重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する限り、その素材は限定されない。
【0044】
本発明において有効成分として用いる「プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物」は、好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物であることができる。
【0045】
植物素材に含まれているプロアントシアニジンの構成成分を例示すると、表1の通りである。
【表1】
(表中、R1乃至R7は式(I)に対応し、ECはエピカテキンを、CAはカテキンを、ECGはエピカテキンガレートを、EGCGはエピガロカテキンガレートを、Gはガレートをそれぞれ表す。)
本発明による有効成分であるプロアントシアニジンおよび抽出物を、前述したような植物原料から分画精製する方法として、具体的には、該植物原料をそのままもしくは粉砕後、抽出操作に供することによって調製することができる。抽出方法としては、例えば、溶媒中に植物原料あるいは、その粉砕物などを冷浸、温浸等によって浸漬する方法;加温し攪拌しながら抽出を行い、濾過して抽出液を得る方法;またはパーコレーション法等を挙げられる。得られた抽出液は、必要に応じてろ過または遠心分離によって固形物を除去した後、使用の態様により、そのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮若しくは乾燥して用いてもよい。また濃縮乃至は乾燥後、さらに非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、またこれを更に適当な溶剤に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。更に、本発明においては、例えば、上記のようにして得られた溶媒抽出液を、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段により抽出エキス乾燥物として使用することもできる。従って、本発明における「抽出物」には、抽出物そのもののみならず、抽出物の濃縮物や乾燥物も含まれる。
【0046】
上記抽出に用いられる溶媒としては、例えば、水;メタノール,エタノール,プロパノールおよびブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール類;その他エチルエーテル、アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼンやヘキサン等の炭化水素;エチルエーテルや石油エーテルなどのエーテル類等の非極性溶媒の公知の有機溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用することもできる。より好ましくは、熱水、エタノール、またはアセトン等を用いた抽出方法を挙げることができる。特に、平均重合度の高いプロアントシアニジン画分を分画する場合には、70%アセトンあるいはエタノールによる抽出が有効である。更に特定平均重合度の画分を取得したい場合には、以下に述べるように70%アセトンあるいはエタノール抽出物を酢酸エチル/水により抽出した後、水層画分をメタノールに再溶解し、Saucierらの方法(J Agric Food Chem 49, 5732-5735(2001))に従いクロロホルムを用いた分画をおこなってもよい。即ち、プロアントシアニジンは重合度が高いほど低い濃度のクロロホルムで不溶となる性質を利用し、クロロホルム濃度を適宜変えていくことにより、所望の平均重合度の画分を得ることができる。従って本発明において「抽出物」は、好ましくは、水抽出物、エタノール抽出物、またはアセトン抽出物であることができる。
【0047】
上記のような溶媒抽出/沈殿操作に加えて、さらに慣用の分画精製手段を採用しても良い。具体的には、プロアントシアニジンを吸着かつ溶離できる吸着剤、例えばスチレンージビニルベンゼン系の合成吸着樹脂、陰イオン交換樹脂、オクタデシル基化学結合型シリカゲル(ODS)、ゲルろ過樹脂(Sephadex LH20など)などが使用される。これらの吸着剤を充填したカラムに上記の清澄抽出液や清澄果汁液などを通すことによりプロアントシアニジンを吸着させ、洗浄後、それぞれに適した溶出液を通すことにより、プロアントシアニジンの分画精製を行なうことができる。また、分子量分画膜を用いた膜分離法等を用いることもできる。
【0048】
各種抽出分画方法は特定重合度のプロアントシアニジンのみを得る目的で、あるいは、医薬や食品として用いる場合に安全性、物性、風味等の点で好ましくない成分あるいは溶媒を除去する目的でも使用することができる。
【0049】
本発明によれば、Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分の製造法であって、
(a)プロアントシアニジンを含有する植物原料を抽出操作に付す工程;および
(b)工程(a)で得られた抽出画分を限外濾過操作に付して、ケーキ(濾滓)を得る工程
を含んでなる、製造法が提供される。
【0050】
工程(a)の抽出操作および植物原料は前記の通りである。工程(a)の抽出操作においては好ましくは極性溶媒を用いることができ、特に、エタノール、水、含水アセトンが好ましい。植物原料としては好ましくはプロアントシアニジンを含有する植物を用いることができる。
【0051】
工程(a)においては、抽出液を溶媒留去して抽出画分を得、次いで、この抽出画分を非極性有機溶媒(例えば、酢酸エチル)/水を用いた抽出操作に付すことにより、水溶性画分とすることができる。あるいは、工程(a)で得られた抽出画分をそのまま工程(b)の限外濾過操作に付してもよい。
【0052】
工程(b)の限外濾過操作においては、Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分が限外濾過膜に残存するように(すなわち、限外濾過膜を透過しないように)、カットオフ値を設定することができる。Th1サイトカイン産生抑制活性とプロアントシアニジンの重合度の関係は上記した通りであり、限外濾過膜を透過する物質の分子量とカットオフ値との関係は当業者に周知であることから、当業者であれば製造すべきプロアントシアニジンの種類に応じて限外濾過膜のカットオフ値を適宜設定することができる。例えば、少なくとも5以上の重合度のプロシアニジンが高いTh1サイトカイン産生抑制活性を有し、重合度5のプロシアニジンの分子量は約1442であることから、例えば、カットオフ値を1400と設定することができる。
【0053】
工程(b)の後、必要に応じてケーキに含まれるプロアントシアニジンの重合度を測定してもよい。重合度は質量分析法(Jan F. Stevens et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 3435-3443)により測定することができる。またチオール開裂分析法(Sylvain Guyot, Nathalie Marnet, and Jean-Francois Drilleau, J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 14-20)により平均重合度を測定してもよい。プロアントシアニジンの重合度を測定することにより、Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分の製造を確認することができる。
【0054】
本発明による有効成分であるプロアントシアニジンは、重合度が4以上、好ましくは5以上である。従って、植物からプロアントシアニジンを調製する場合、元来重合度が4以上あるいは5以上のプロアントシアニジンを含有する抽出物の場合はそのまま有効成分として、あるいは後述実施例に示した活性測定法により活性を指標にするか、あるいは重合度を指標にして更に有効成分を分画・精製して使用することができる。また、平均重合度が3以下の抽出物についても、後述実施例に示した活性測定法により活性を指標にするかあるいは重合度を指標にして重合度が4以上の有効成分を多く含むものを分画・精製し使用することができる。医薬組成物あるいは食品中において、複数の重合度のプロアントシアニジンを含む場合は、平均重合度として4以下のものであっても、4以上の重合度のものを有効量含有している限り本発明の範囲内であるが、平均重合度が約4以上のプロアントシアニジンをより好ましくは用いることができる。
【0055】
プロアントシアニジンは植物からの抽出以外に、有機化学合成により調製してもよい(例えば、Swain et al., 1954. Chem Ind, 1144、Eastmond., 1974. J Inst Brew 80, 188. Kozikowski AP et al., 2003、 J Org Chem 68, 1641-1658、および特表2002−542240号公報参照)。
【0056】
用途
本発明において用いられるプロアントシアニジンおよびジャトバ等の特定植物の抽出物は、Th1偏向させた脾臓細胞においてTh1サイトカイン(具体的には、IFN−γ)産生を抑制し、細胞性免疫過多の状況を改善・抑制する。従って、本発明による医薬組成物は、Th1サイトカイン産生の抑制が治療に有効である疾患の治療に有効である。
【0057】
Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患としては、例えば、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患が挙げられる。本発明において「Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患」とは、細胞性免疫依存型自己免疫疾患を含む意味で用いられるものとする。
【0058】
Th1依存型自己免疫疾患としては、多発性硬化症(MS)、慢性関節リウマチ(RA)、若年性糖尿病やI型糖尿病等のインスリン依存型糖尿病(IDDM)、自己免疫性甲状腺炎(AT)、自己免疫性ブドウ膜網膜炎(AUR)、橋本病、乾癬症、クローン病、および円形脱毛症が挙げられる。
【0059】
Th1依存型自己免疫疾患では、炎症局所へのリンパ球(Th1細胞)の浸潤や血中でのTh1サイトカイン(例えば、IFN−γやTNF−α)の濃度亢進が認められている(Skurkovich B & Skurkovich S, Curr Opin Mol Ther. 2003 Feb;5(1):52-7; Fuss, I.J., et al, J. Immunol. 157:1261(1996); Gherardo M., et al, European Journal of Endocrinology(2003) 148 383-388)。更に、抗IFN−γ抗体や抗TNF−α抗体を使用することにより自己免疫疾患の症状が実際に改善することが報告されている(Skurkovich B & Skurkovich S, Curr Opin Mol Ther. 2003 Feb;5(1):52-7)。従って、これらの疾患の原因因子であるTh1サイトカイン(例えば、IFN−γやTNF−α)を抑制することは、これらの疾患の治療に有効である。
【0060】
本発明において用いられる高重合度プロアントシアニジンは、自己抗体が誘導されたマウスにおいて自己抗体の産生を抑制する(実施例30)。本発明において用いられる高重合度プロアントシアニジンを含有する抽出物は、自己抗体産生と密接な関連性を有するB細胞の活性化を抑制する(実施例25)。従って、本発明による医薬組成物は、自己抗体の産生抑制やB細胞の活性化の抑制が治療に有効である疾患の治療に有効である。
【0061】
自己抗体の産生抑制やB細胞の活性化の抑制が治療に有効である疾患としては、自己抗体媒介型自己免疫疾患(例えば、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、シェーグレン症候群、急性リウマチ熱、尋常性天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、および混合型本態性クリオグロブリン血症)が挙げられる。
【0062】
自己抗体媒介型自己免疫疾患では、自己抗体の産生あるいは産生亢進や、B細胞の活性化が認められている(Clin.Exp.Immunol.,1985:62:639-46; N.Engl.J.Med.,338:1359)。更に、B細胞の活性化の抑制が自己抗体産生に起因する自己免疫疾患の治療に有効であること(Int. Immunol.,2001:13(7):921-31)、自己反応性B細胞の増殖阻害と全身性エリテマトーデスの改善が一致すること(J.Clin.Invest.,2000:106(1):91-101)が報告されている。従って、これらの疾患の原因因子である自己抗体の産生を抑制することや自己抗体の産生に密接に関連するB細胞の活性化を抑制することは、これらの疾患の治療に有効である。本発明において「自己抗体の産生抑制」とは、自己抗体の産生と密接に関連するB細胞の活性化の抑制を含む意味で用いられるものとする。
【0063】
本発明において用いられるプロアントシアニジンはTh1サイトカインの産生を抑制することができる。従って本発明は、Th1サイトカインの産生が本質的な原因である疾患を根治でき、あるいはその疾患の進行を阻害できる点で、対症療法的に用いられる治療剤よりも有利である。特に慢性関節リウマチについては、炎症の抑制や痛みの軽減といった対症療法的に用いられる従来の治療剤とは異なり、根治治療することあるいは疾患の進行を阻害することが可能となる点で、本発明は有利であると言える。プロアントシアニジンによる慢性関節リウマチの根治治療は、実施例28および29において慢性関節リウマチモデルマウスにおいて臨床スコアが改善されたとともに、実施例30においてリウマチ抗体(自己抗体)の産生が抑制されたことからも裏付けられている。また、プロアントシアニジンによる慢性関節リウマチの病状の進行阻害は、実施例28および29において慢性関節リウマチモデルマウスにおいて一次免疫成立後においても臨床スコアが改善されたとともに、実施例30においてリウマチ抗体(自己抗体)の産生が抑制されたことからも裏付けられている。
【0064】
慢性関節リウマチにおいては、疾患の初期においてT細胞(具体的にはTh1細胞)が活性化され、それに伴って症状が発現しはじめること、疾患の中期あるいは慢性期において、活性化したT細胞によりB細胞の自己抗体産生が促され、異常に産生された自己抗体により症状の慢性化、重篤化に至ることが報告されている(Cin Exp Immunol 1998; 111:521-526; Springer Semin Immunopathol. 2003 Aug;25(1):3-18; Immunol Rev. 1990 Dec;118:193-232)。またマウスにおいてIgGレベルを低下させることによりリウマチが抑制されたことが報告されている(Ann Rheum Dis.,2003,62:707-14)。上記のようにプロアントシアニジンはTh1サイトカインを抑制し、Th1細胞の活性化を抑制するとともに、Th1細胞活性化により刺激された自己抗体であるリウマチ抗体の産生を実際に抑制した。また本発明による有効成分は、自己抗体産生と密接な関連性を有するB細胞の活性化を抑制した。従って、本発明において用いられるプロアントシアニジンは、慢性関節リウマチの初期の病状のみならず、慢性化、重篤化した病状の治療に用いることができる点でも有利である。
【0065】
従って本発明によれば、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、慢性関節リウマチの根治治療剤およびその進行阻害剤が提供される。
【0066】
本発明によればまた、治療上の有効量の(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、慢性関節リウマチを根治治療する方法およびその進行を阻害する方法が提供される。
【0067】
本発明によればまた、慢性関節リウマチの根治治療剤およびその進行阻害剤の製造のための、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する植物素材の抽出物の使用が提供される。
【0068】
本発明において「治療」とは、疾患の改善、調節、遅延、予防(特に、発症の予防および再発予防)を含む意味で用いられる。
【0069】
医薬組成物および食品組成物
本発明による治療剤は、前述した本発明による有効成分であるプロアントシアニジン、あるいは、それを含有した植物エキスや該エキスからの部分精製物を、有効成分として用い、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合することにより製造できる。本発明による治療剤は、経口または非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学的に許容される担体(例えば、賦形剤、添加剤)とともに製剤化することができる。薬学的に許容される賦形剤や添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0070】
製剤は、例えば下記のようにして製造できる。
【0071】
経口剤は、有効成分として、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などを用いることができる。
【0072】
注射剤は、有効成分を分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO 60(日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などと共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
【0073】
外用剤は、有効成分を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造することができる。例えば、上記固状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロース、白糖)、増粘剤(例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体)などを添加、混合して粉状とすることにより製造できる。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造できる。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟骨状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例えば、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム)などを含んでいてもよい。坐剤は、有効成分を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造できる。該組成物に用いる油性基剤としては、高級脂肪酸のグリセリド〔例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製)〕、中級脂肪酸〔例えば、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製)〕、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油)が挙げられる。水性基剤としては、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコールが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体が挙げられる。
【0074】
製剤化に当たっては、本発明による有効成分以外の1種またはそれ以上の医療上有効な有効成分を更に添加・配合してもよい。また本発明による有効成分の投与に当たっては、本発明による有効成分以外の1種またはそれ以上の医療上有効な有効成分を組み合わせて投与してもよい。このような他の有効成分としては、抗炎症剤、消炎鎮痛剤、免疫抑制剤、その他の自己免疫疾患治療剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗炎症剤としては、ステロイド抗炎症剤、非ステロイド抗炎症剤が挙げられる。ステロイド抗炎症剤としては、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾロン、メチルプレドニン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、ベタメタゾンが挙げられる。非ステロイド抗炎症剤としては、アスピリン、ジフルニサル、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリンダイアルミネートなどのサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤;ジクロフェナクナトリウム、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、アセメタシン、マレイン酸プログルメタシン、アンフェナクナトリウム、ナブメトン、モエゾラク、エトドラグなどのアリール酸系非ステロイド抗炎症剤;メフェナム酸、フルフェナム酸アルミニウム、トルフェナム酸、フロクタフェニンなどのフェナム酸系非ステロイド抗炎症剤;イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェンカルシウム、チアプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、ナトリウム、アルミノプロフェン、ザルトプロフェンなどのプロピオン酸系非ステロイド抗炎症剤;ピロキシカム、アンピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカムなどのオキシカム系非ステロイド抗炎症剤;塩酸チアラミド、エピリゾール、エモルファゾンなどの塩基性非ステロイド抗炎症剤が挙げられる。免疫抑制剤としては、サイクロスポリン、FK506が挙げられる。その他の自己免疫疾患治療剤としては、インターフェロンβなどの多発性硬化症治療剤が挙げられる。
【0075】
本発明による有効成分を、抗炎症剤、消炎鎮痛剤、免疫抑制剤などの他の有効成分と組み合わせることにより、治療活性がより強化された多機能性治療剤を提供することができる。特に、本発明による有効成分を、抗炎症剤や消炎鎮痛剤などの自己免疫疾患の対症療法に用いられる薬剤と併用することにより、自己免疫疾患の根本治療と対症治療が期待できる治療剤を提供することができる。また、本発明による有効成分を、免疫抑制剤などの根本治療が期待される薬剤と組み合わせることにより、自己免疫疾患の根本治療効果が強化された治療剤を提供することができる。慢性関節リウマチの治療に当たっては、本発明による有効性成分をコンドロイチンやムコ多糖を主成分とするグルコサミンと組み合わせてて投与してもよい。
【0076】
本発明による治療剤は、医薬品への適用のみならず、食品への適用も意図されている。従って、本発明による治療剤の食品への適用に当たっては、後述するような食品に関する記述を参照することができる。
【0077】
本発明による食品は、本発明による有効成分であるプロアントシアニジンを有効量含有した食品である。ここで「有効成分を有効量含有した」とは、個々の飲食品において通常喫食される量を摂取した場合に、後述するような範囲で有効成分が摂取されるような含有量をいう。本発明による食品には本発明による有効成分をそのままあるいは上記のような組成物の形態で、食品に配合することができる。より具体的には、本発明による食品は、前述した本発明による有効成分であるプロアントシアニジン、あるいはそれを含有した植物抽出物や該抽出物からの部分精製物をそのまま、飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、ペースト状のもの、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。本発明において「食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が摂取可能なものであればその形態に特に制限はない。
【0078】
本発明において「食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
【0079】
また「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であってもよい。
【0080】
本発明によれば、重合度が少なくとも4のプロアントシアニジンを、成人1人1日当たり50〜2000mg(好ましくは、400〜2000mg)の摂取量となるように含んでなる、健康食品が提供される。
【0081】
本発明によればまた、重合度が少なくとも5のプロアントシアニジンを、成人1人1日当たり50〜2000mg(好ましくは、400〜2000mg)の摂取量となるように含んでなる、健康食品が提供される。
【0082】
上記健康食品に含有されるプロアントシアニジンは、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される抽出物であって、重合度が少なくとも4あるいは少なくとも5のプロアントシアニジンを含む抽出物の形態で提供されてもよい。
【0083】
上記健康食品はまた、通常の食品の形状であっても、栄養補助食品の形状(例えば、サプリメント)であってもよい。
【0084】
本発明による有効成分は、Th1偏向させた脾臓細胞においてTh1サイトカイン(具体的には、IFN−γ)の産生を抑制し、細胞性免疫過多の状況を改善・抑制作用を有する。本発明による有効成分はまた、自己抗体が誘導されたマウスにおいて自己抗体の産生を抑制する。このため、日常摂取する食品やサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品に本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物を添加・配合することにより、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能、特に自己免疫疾患の治療機能を併せ持つ食品を提供することができる。
【0085】
従って、本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効成分として含む、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態(例えば、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患や自己抗体媒介型自己免疫疾患に特徴的な全身の強張りや関節の違和感)の改善または緩和機能が表示された食品が提供される。このような表示は、食品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかに付すことができる。
【0086】
本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療、それらの疾患の根治治療、および/またはそれらの疾患の進行阻害に用いられる食品が提供される。
【0087】
本発明によればまた、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する食品が提供される。
【0088】
本発明によれば更に、(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する抽出物を含んでなる食品が提供される。
【0089】
本発明による食品は、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能等の機能を期待する消費者に適した食品、すなわち、特定保健用食品、として提供することができる。ここでいう特定保健用食品とは、Th1サイトカイン産生抑制、自己抗体産生抑制、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和等を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から、各国において法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。
【0090】
本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物の添加・配合の対象である日常摂取する食品としては、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルト、プリン、ゼリーなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ジュースや清涼飲料水、乳飲料等の各種飲料;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギなど)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)などを例示することができるが、これらに特に制限されない。
【0091】
本発明のより好ましい態様によれば、添加・配合の対象である食品としては、飲料(例えば、茶飲料、乳飲料)、ヨーグルトが挙げられる。
【0092】
ここで茶飲料とは、ツバキ科の常緑樹である茶樹の葉(茶葉)、または茶樹以外の植物の葉もしくは穀類等を煎じて飲むための飲料をいい、発酵茶、半発酵茶および不発酵茶のいずれも包含される。茶飲料の具体例としては、日本茶(例えば、緑茶、麦茶)、紅茶、ハーブ茶(例えば、ジャスミン茶)、中国茶(例えば、中国緑茶、烏龍茶)、ほうじ茶等が挙げられる。
【0093】
ここで乳飲料とは、生乳、牛乳等またはこれらを原料として製造した食品を主原料とした飲料をいい、牛乳等そのもの材料とするものの他に、例えば、栄養素強化乳、フレーバー添加乳、加糖分解乳等の加工乳を原料とするものも包含される。
【0094】
またヨーグルトには、ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプのいずれのものも包含され、さらにヨーグルトを原料とする加工ヨーグルト製品も包含される。
【0095】
本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物の添加・配合の対象である日常摂取する食品としてはまた、プロアントシアニジンを元来含有する食品が挙げられる。本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物を、プロアントシアニジンを元来含有する食品に添加・配合することにより、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を強化することができる。ここで「強化」とは、食品に当初から含まれている有効成分の量が、期待される機能の発現に必要とされる量以上となるように本発明による有効成分あるいは抽出物を添加・配合することをいう。また、「プロアントシアニジンを元来含有する食品」としては、例えば、クランベリージュースやクランベリージャムなどのクランベリー製品;チョコレート菓子、ココアなどのカカオ製品;シナモンスティック、シナモンシュガー、シナモンガム、シナモンティーなどのシナモン製品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0096】
本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物の添加・配合の対象であるサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品の形態としては、例えば、ジュースや茶のような飲料、ゼリー、カプセル、顆粒剤、粒剤、ペーストが挙げられる。本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物を、単独で、あるいは他の成分(例えば、植物素材)と組み合わせて、飲料、ゼリー、カプセル、顆粒剤、粒剤、ペーストなどの形態に加工することによりで、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有するサプリメントなどの健康食品や機能性食品として提供することができる。特に、本発明による有効成分以外の成分であって、抗炎症作用、消炎鎮痛作用、または免疫抑制作用があるとされる他の成分と組み合わせることによって、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能をより強化することができる。抗炎症作用、消炎鎮痛作用、または免疫抑制作用があるとされる他の成分は公知の成分から選択することができる。抗炎症作用を有する成分としては、アリシン、カプサイシン、ブロメリン、硫化アリルが挙げられる。これらの成分は植物素材に含まれており、例えば、アリシンを含む植物素材としては、玉ねぎ、にら、にんにく、ニラ、葉ねぎが、カプサイシンを含む植物素材としては、唐辛子が、ブロメリンを含む植物素材としては、パイナップルが、硫化アリルを含む植物素材としては、あさつき、にんにく、エシャロット、ねぎ、葉ねぎ、ニラ、らっきょうが、それぞれ挙げられる。また、免疫抑制作用を有する成分としてはグリチルレチン酸が挙げられ、グリチルレチン酸を含む植物素材としては、カンゾウが挙げられる。また、リウマチに効果があるとされる雷公藤;I型糖尿病に効果があるとされる人参湯;多発性硬化症に効果があるとされるカンラン;乾癬症に効果があるとされるPolypodium Leucotomos等の植物素材を組み合わせることができる。また、本発明による機能以外の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の食品を提供することができる。
【0097】
本発明において提供される飲料(飲料形態の健康食品や機能性食品を含む)の製造に当たっては、通常の飲料の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤などを適宜添加することができる。飲料の製造に当たってはまた、当業界に公知の製造技術を参照することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0098】
本発明の好ましい態様によれば、重合度が少なくとも5のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能の強化等を目的として、プロアントシアニジンを元来含有する食品へ添加・配合することができる。
【0099】
本発明による有効成分または抽出物を、そのまま食用に供する場合や、あるいは一般食品の原料に添加・配合して食品とする場合は、有効成分の苦みが食品の味に影響しない範囲で用いるか、または苦味がマスクされるような工夫をすることが好ましい。例えば、有効成分または抽出物を、カプセルに注入するか、あるいは適当なコーティング剤でコーティングすることにより、苦味をマスクすることができる。カプセル化された形態としてはゼラチンカプセル、プルランカプセルが挙げられる。コーティングされた形態としては糖衣錠が挙げられる。
【0100】
本発明による食品は様々な形態を取ることができ、公知の医薬品の製造技術に準じて本発明による食品を製造してもよい。その場合には、本発明による治療剤の製造の項目において述べたような担体や製剤用添加剤を用いて製造することができ、具体的には、経口剤の欄に記載された担体や製造用添加剤を用いて製造することができる。
【0101】
本発明による有効成分であるプロアントシアニジンは、人類が食品として長年摂取してきたカカオやブドウ類に多く含まれていることから、毒性も低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いることができる。
【0102】
本発明による治療剤および食品を投与あるいは摂取する場合、本発明による有効成分の投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、本発明による有効成分を医薬として経口投与する場合、プロアントシアニジン量として成人1人1日当たり50〜5000mg、好ましくは50〜2000mg、非経口的に投与する場合は5〜500mg、好ましくは5〜200mgの範囲で投与することができる。本発明による有効成分と組み合わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜決定できる。また、食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり50〜5000mgの範囲、好ましくは50〜2000mgの範囲の摂取量となるよう本発明による有効成分を食品に配合することができる。
【0103】
本発明による治療剤の好ましい態様によれば、(i)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン、または(ii)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患(特に、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患)の治療剤、それらの疾患の根治治療剤、およびそれらの疾患の進行阻害剤が提供される。
【0104】
本発明の好ましい態様によればまた、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患(特に、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患)の治療剤、それらの疾患の根治治療剤、およびそれらの疾患の進行阻害剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン、または(ii)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物の使用が提供される。
【0105】
本発明の好ましい態様によればまた、治療上の有効量の(i)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン、または(ii)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患(特に、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患)の治療方法、その疾患の根治治療方法、およびその疾患の進行阻害方法が提供される。
【0106】
Th1サイトカインの産生抑制剤および自己抗体産生抑制剤
本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制剤が提供される。
【0107】
本発明によればまた、Th1サイトカインの産生抑制剤の製造のための(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)の使用が提供される。
【0108】
本発明によればまた、有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制方法が提供される。
【0109】
Th1サイトカインは、好ましくは、IFN−γである。
【0110】
Th1サイトカインの産生抑制剤は、Th1サイトカインの産生抑制を目的とした医薬品への適用のみならず、Th1サイトカインの産生抑制を目的とした食品への適用も意図されている。従って、本発明によるTh1サイトカインの産生抑制剤の実施に当たっては、前記のような治療剤に関する記述および食品に関する記述を参照することができる。
【0111】
本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効成分として含んでなる、自己抗体の産生抑制剤が提供される。
【0112】
本発明によればまた、自己抗体の産生抑制剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)の使用が提供される。
【0113】
本発明によればまた、有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を哺乳類に投与することを含んでなる、自己抗体の産生抑制方法が提供される。
【0114】
自己抗体の産生抑制剤は、自己抗体の産生抑制を目的とした医薬品への適用のみならず、自己抗体の産生抑制を目的とした食品への適用も意図されている。従って、本発明による自己抗体の産生抑制剤の実施に当たっては、前記のような治療剤に関する記述および食品に関する記述を参照することができる。
【0115】
検定方法
本発明によれば、試料中のプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を含んでなる、Th1サイトカイン産生抑制活性の検定方法であって、4以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカイン産生抑制活性を示すことを特徴とする方法が提供される。
【0116】
検定の対象である試料としては、例えば、植物原料由来の抽出物や乾燥粉末が挙げられる。植物原料としては、プロアントシアニジンを含む植物原料のみならず、プロアントシアニジンの含有が不明な植物原料も含まれる。抽出物としては、例えば、水や有機溶媒による抽出物が挙げられる。
【0117】
検定の対象である試料としてはまた、合成されたプロアントシアニジンやプロアントシアニジンが含有されているか不明な試料が挙げられる。
【0118】
プロアントシアニジンの重合度は、例えば、電子スプレーイオン化質量分析法(ESI−MS)やマトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)により測定することができる。
【0119】
本発明による検定方法では、試料中に5以上の重合度のプロアントシアニジンが含まれているか否かを指標にすることができる。実施例31および図50に示されたように、重合度が5以上のプロアントシアニジンはEAEモデルマウスにおいて高い治療活性を示す。従って、このような指標を採用することにより、試料が強いTh1サイトカイン産生抑制活性を有するか否かを検定することができる。
【0120】
本発明による検定方法ではまた、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性の検定に用いることができる。
【実施例】
【0121】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【0122】
実施例1:Th1偏向マウス脾臓細胞を用いた各種アマゾンハーブ抽出物のIFN−γ産生抑制能の検討
一連のアマゾンハーブについてTh1偏向させたマウスの脾臓細胞を用いて、インビトロにおけるIFN−γ産生抑制能を検討した。
【0123】
1.実験方法
(1)試料
サマンバイア(Polypodium lepidopteris)、ジャトバ(Hymenaea courbaril)、キャッツクロー(Uncaria tomentosa)、シジウム(Psidium guajava)、ヘルゴンサッチャ(Dracontium loretense Krause)の市販乾燥粉末(有限会社エジソン・エス・アール・エル日本事務所)10gにエタノールを200mL加え、一晩攪拌した。ろ過後、溶媒を留去し、エタノール抽出物を得た(表2)。抽出物をそれぞれ1%エタノールに溶解し、投与試料とした。
【0124】
表2:本発明の実施例において、サマンバイア、ジャトバ、キャッツクロー、シジウム、そしてヘルゴンサッチャのエタノール抽出物重量を示す。
【表2】
【0125】
(2)実験動物
6−8週齢、雄性、C57BL/6マウス(チャールズリバー社)に第0日目と第7日目に卵白アルブミン(OVA、生化学工業(株))1mgをcomplete freund’s adjuvant(シグマ社)にMycobacterium tuberculosis H37 Ra(Difco社)を0.8mg添加したもの(以下、CFAと表記する。)に混合し、エマルジョン化したものを腹腔内投与した。第14日目に解剖し、常法に従い、脾細胞を調製した。
【0126】
(3)脾細胞IFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いて測定した。
【0127】
(4)実験条件
実験動物の方法で調製した脾細胞をRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)+1mg OVA培地で5×106細胞/mlになるように懸濁し、200μl/ウェルで96穴プレートに分注した。さらに試験する各ハーブ抽出物を100あるいは500μg/mlで添加した。1週間後に培養上清を回収し、Th1サイトカインとしてIFN−γを測定した。
【0128】
2.実験結果
結果を表3に示す。サマンバイアにはIFN−γ産生抑制能は見られず、むしろ上昇した。他のハーブ抽出物でも同様なIFN−γ産生の上昇が見られた。ジャトバでのみ、顕著なIFN−γ産生抑制が見出された。
【0129】
表3:Th1偏向させたマウスの脾臓細胞を用いて、抗原特異的に産生されたTh1サイトカインであるIFN−γに対する各種アマゾンハーブの抑制、または亢進活性を示す。
【表3】
【0130】
実施例2:インビトロにおけるジャトバ抽出物IFN-γ抑制活性の濃度依存性検討
実験1によってIFN−γ抑制活性をインビトロで示したジャトバ抽出物について濃度依存性を検討した。
【0131】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバ乾燥粉末100gに500mLのエタノールを加え、一晩、室温で攪拌した。ろ過後、残渣を再度同量エタノールで抽出した。ろ液を濃縮乾固し、27.2gのエタノール抽出物を得た。抽出物を1%エタノールに溶解し、投与試料とした。
【0132】
(2)実験動物
実施例1と同様にOVAをCFAでエマルジョン化したものをC57BL/6に2回免疫し、Th1偏向マウスを作製した。
【0133】
(3)脾細胞IFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いて測定した。
【0134】
(4)実験条件
脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)+100μg/ml OVA培地で37℃、5%CO2の条件で1週間培養し、培養上清を回収し、IFN−γ濃度測定を行った。ジャトバ抽出物の添加濃度は0(コントロール)、15.5,31,62.5,125,250,500μg/mlとした。
【0135】
2.実験結果
7日後の培養上清中IFN−γ濃度を表4に示す。コントロール(ジャトバ無添加)でOVA添加によって強いIFN−γ産生が見られた。ジャトバ濃度依存的にIFN−γ産生は抑制され、125μg/ml以上で殆ど産生は見られなくなった。以上の結果、ジャトバはインビトロにおいてTh1サイトカインを抑制する活性があることが示された。これは細胞性免疫過多によって起こる自己免疫疾患の予防・治療に有効である可能性を示す。
【0136】
表4:Th1偏向させたマウスの脾臓細胞を用いて、抗原特異的に産生されたTh1サイトカインであるIFN−γに対するジャトバの抑制活性の容量依存性を示す。
【表4】
【0137】
実施例3:実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルを用いたジャトバ抽出物のインビボでの効果I
ジャトバ抽出物のインビボでの効果を明らかにするために、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルマウスで検討した。EAEモデルマウスは、ヒト多発性硬化症のモデルとして用いられている(Antel JP., 1999. J Neuroimmunol 100, 181-189)。
【0138】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2で調製したものを用いた。
【0139】
(2)実験動物
C57BL/6、雄性、6−8週齢のマウスに対して、第0日目にMyelin oligodendrocyte glycoprotein peptide(以下「MOGペプチド」と表記する:キアゲン社)200μgをCFA 800μgと混合して、エマルジョン化したものを皮下投与し、第1日目と第3日目に百日咳毒素(PTX:Calbiochem社)200ngを腹腔内投与することにより実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導した。試験期間を通じてマウスは標準固形飼料CE−2(アメリカ国立栄養研究所による標準組成)を供与された。飲用水は水道水を用いた。
【0140】
(3)実験条件
C57BL/6、雄性、6−8週齢を1群10匹でコントロール群、20mg/kg群、50mg/kg群、および50mg/kg前投与群に分けた。コントロール群は第0日目にMOG抗原投与後、第30日目まで週3回1%エタノールを腹腔内投与した。20mg/kg群、50mg/kg群は第0日目にMOG抗原投与後、第30日目まで週3回ジャトバを所定量投与した。50mg/kg前投与群はMOG抗原投与2週間前から合計7回ジャトバを50mg/kgで投与し、抗原感作後は1%エタノールに切り替えた。実験スケジュールを図2に示す。
【0141】
(4)臨床スコアのつけ方
スコア0:正常、スコア1:尾の麻痺、スコア2:正向不全、スコア3:後肢片方麻痺、スコア4:両後肢麻痺、スコア5:前後肢麻痺、スコア6:死亡で、第55日目まで毎日各個体の臨床スコア(clinical score)を記録した。
【0142】
(5)Ex vivo IFN−γ,TNF−α産生能測定
第12日目で各群5匹を解剖し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±MOG2μMで培養し、1週間培養後の上清についてIFN−γ濃度を、10日後培養上清についてTNF−α濃度を測定した。IFN−γ、TNF−αの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いた。
【0143】
(6)脊髄病理切片の作製と脱髄の観察
脊髄の脱髄がジャトバによって抑制されるかを検討するために、組織切片の作製と観察を行った。第15日目のコントロール群およびジャトバ群のマウスから脊髄を摘出し、20%のホルマリン溶液中で固定後、パラフィン包埋して5μm切片をミクロトームRM2145(ライカ社)にて作製した。切片を脱パラフィン後、ルクソールファストブルー溶液(武藤化学薬品社)で髄鞘染色し、水洗い後、コールドシッフ試薬で細胞質を染色した。最後にヘマトキシリンで核を染色し、顕微鏡下で観察した。
【0144】
2.実験結果
臨床スコアの平均値の経時変化グラフを図3に示す。コントロール群では第9日目で発症が始まり、第16日目で平均スコアが3.5を上回った。20mg/kg群では第15日目近辺で発症が始まり、第21日目前後でピークの平均スコア1.5になったが、その後症状は回復した。50mg/kgでは発症しなかった。また、50mg/kg前投与群では第30日目前後で発症し、第41日目にピークの平均スコアが2程度になったが、その後回復した。以上の結果、ジャトバは明確なEAE発症抑制効果を持つ事が明らかになった。またEAE誘導前に投与しておくと、発症が3週間遅延するという予防効果もあることが明らかになった。
【0145】
Ex vivoサイトカイン産生量を図4に示す。IFN−γについてはコントロール群で60,000pg/mlと高濃度の産生が見られているが、20mg/kg群では30,000pg/ml前後と半減し、50mg/kg群では5000pg/ml前後と激減した。TNF−αについても、コントロール群で180pg/ml前後であったのが、20mg/kg群で110pg/ml前後と減り、50mg/kg群で20pg/ml前後と激減した。さらに、脊髄切片のルクソールファストブルー染色による観察結果を図5に示した。コントロール群脊髄切片写真を見ると、脱髄による青く染色されない個所(切片写真中の組織右側個所)が観察されるのに対し、ジャトバ群ではそのような脱髄が抑制されていることが明らかである。以上の結果はジャトバがTh1サイトカイン産生を強く抑制し、EAEの症状を抑制したことを示している。
【0146】
実施例4:EAEモデルを用いたジャトバ抽出物のインビボでの効果II
実施例3の効果がマウス種によらないことを示す為、実施例3とは異なったマウス種を用いて、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルによる検討を行った。
【0147】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2で調製したものを用いた。
【0148】
(2)実験動物
SJL/J、雄性、8−10週齢のマウス(購入先:チャールスリバー社)に対して、Proteolipid protein peptide(以下「PLPペプチド」と表記する:キアゲン社)100μgをCFA 800μgにエマルジョン化したものを皮下投与し、第1日目と第3日目にPTX200ngを腹腔内投与することにより実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導した。飼料および飲用水は実施例3と同様のものを用いた。
【0149】
(3)実験条件
SJL/J、雄性、8−10週齢を1群10匹でコントロール群、50mg/kg群を設定した。抗原およびジャトバ抽出物の投与法・時期は実施例3の実験に準じた。
【0150】
(4)Ex vivo IFN−γ,TNF−α産生能測定
実施例3と同様に実施した。但し、培養時に添加する抗原は2μMPLPペプチドとした。
【0151】
2.実験結果
前記実施例3とは異なったマウス種であるSJL/Jにおいても、図6に示すようにex vivoでのIFN−γ産生はジャトバ投与によって殆ど見られなくなっており、ジャトバのEAE抑制効果はマウス種によらないことが明らかになった。
【0152】
実施例5:EAEモデルを用いたジャトバ抽出物単回前投与によるインビボでの効果
ジャトバ投与によるEAE発症予防について単回前投与による検討を行なった。
【0153】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物を用いた。
【0154】
(2)実験動物
実施例3で示したC57BL/6マウスをMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群は10匹で、第12日目に半数を解剖した。
【0155】
(3)実験条件
ジャトバ50mg/kgを、第0日目にMOG抗原を投与する前である第−1日目に、一回腹腔内投与する。
【0156】
(4)Ex vivo IFN−γ産生能測定
第12日目で5匹を解剖し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±MOG2μMで培養し、1週間培養後の上清についてIFN−γ濃度を測定した。IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いた。
【0157】
2.実験結果
EAEの臨床スコア平均値の経時変化では、コントロール群が第9日目に発症したのに対して、1回前投与した場合2日の遅れが観察された(図7A)。以上の結果、前記実施例3の複数回前投与よりは効果が劣るものの1回投与のみでも効果が認められた。本実施例および前記実施例3の前投与の結果を踏まえると、回数の増加と共に予防効果は増大することが示唆された。脾細胞のIFN−γ産生能は1回予防投与でも、著しく減少することが示された(図7B)。
【0158】
実施例6:ジャトバ抽出物の成分検討(I)
ジャトバ抽出物の活性成分の特性を明らかにするために、ジャトバ抽出物をポリビニルポリピロリドン(PVPP)で吸着処理し、非吸着画分の活性を実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルで検証した。
【0159】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物3.49gを水500mLに溶解し、ポリビニルポリピロリドン(PVPP シグマ社)50gを加えて一晩攪拌した。その後吸引濾過し、凍結乾燥を行ない、420.3mgのPVPP処理物、すなわちPVPP非吸着画分を得た。
【0160】
(2)実験動物
実施例3で示したC57BL/6マウスをMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群は10匹で、第12日目に半数を解剖した。
【0161】
(3)実験条件
コントロール群は第30日目まで週3回1%エタノールを腹腔内に注射した。ジャトバ群はジャトバエタノール抽出物を、ジャトバPVPP処理群はPVPP処理したジャトバエタノール抽出物をそれぞれ週3回、50mg/kgで投与した。
【0162】
(4)Ex vivo IFN−γ,TNF−α産生能測定
第12日目で各群5匹を解剖し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(SIGMA)+10% FCS(ロシュ)±MOG2μMで培養し、1週間培養後の上清についてIFN−γ濃度を、10日後培養上清についてTNF−α濃度を測定した。IFN−γ、TNF−αの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン)を用いた。
【0163】
2.実験結果
結果を図8に示す。コントロール群は第13日目に発症し、ジャトバ群は第21日目まで発症しなかった。ジャトバPVPP処理群は第15日目に発症した。脾細胞のIFN−γ,TNF−α産生能はジャトバ群では顕著に抑制されたが、ジャトバPVPP処理群では殆どコントロール群と変わらなかった(図9)。以上の結果、PVPP処理によってジャトバの活性は著しく減弱しており、従って、ジャトバの活性成分はPVPPに吸着することが明らかになった。PVPPはポリフェノールを強力に吸着する性質を有し、ポリフェノールの除去剤として知られている(Loomis, W.D., Battaile, J., 1966. Phytochem. 5, 423-438., Loomis, W.D., 1969. In: Lowenstein, J.M., (Ed.), Methods in enzymology Vol. 13. Academic Press, New York, pp. 555-563. Loomis, W.D., 1974. In: Fleischer, S., Packer, L., (Eds.), Methods in enzymology Vol. 31. Academic Press, New York, pp. 528-544.)。ジャトバエタノール抽出物の88%がPVPPに吸着したことから、ジャトバ抽出物の88%はポリフェノールであり、そして活性成分もポリフェノールである可能性が示唆された。
【0164】
実施例7:ジャトバ抽出物の成分検討(II)
実施例6より、ジャトバの活性成分はポリフェノールである可能性が示唆された。活性本体をさらに追求する目的で、ジャトバエタノール抽出物について以下の実験を実施した。
【0165】
1.実験方法
(1)塩酸−ブタノール法
ジャトバエタノール抽出物を文献(J. Agric. Food Chem. 1998, 46, 1698-1705)の方法に従い、塩酸−ブタノール法に供した。すなわちジャトバエタノール抽出物の4mg/mLメタノール溶液を調製し、その250μLに、5%塩酸を含む1−ブタノール1.5mLと、2%硫酸アンモニウムを含む2N塩酸50μLを添加し、95℃で50分反応させた。反応液を室温に戻し、550nmにおける吸光度を測定した。測定の対照には、ジャトバエタノール抽出物4mg/mL(メタノール溶液)を用いた。
【0166】
(2)順相カラムクロマトグラフィ(NP−HPLC)
ジャトバエタノール抽出物を文献(Journal of Chromatography A. 1993. 255-260)の方法に従い、NP−HPLCに供した。ポンプおよび制御装置はShimazu LC-10Advp、UV検出器はShimazu SPD-10Aを用いた。カラム条件を以下に示す。
【0167】
カラム:Finepak SIL−5 φ4.6×250mm(日本分光)
移動相:
(A)MeOH:CH2Cl2:HCOOH:H2O=7:41:1:13
(B)MeOH:CH2Cl2:HCOOH:H2O=43:7:1:1
移動相グラジェント条件:
時間(分) A溶媒(%) B溶媒(%)
0 95 5
10 85 15
35 80 20
37 77 23
40 77 23
42 70 30
45 50 50
46 0 100
50 0 100
移動相流速:1mL/分
検出波長:280nm
(3)電子スプレーイオン化質量分析(ESI−MS)
ジャトバエタノール抽出物をESI−MSに供した。装置はサーモクエスト社LCQを用いた。測定条件は、インフュージョン法、陰イオンモード、流速6μl/分, Sheath gas flow rate 60 arb, Spray voltage 4.5 kV, Capillary temp 200 ℃とした。
【0168】
(4)マトリックス支援レーザー脱離イオン化―飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)
ジャトバエタノール抽出物をMALDI−TOF−MSに供した。装置はPerSeptive Biosystems, voyagerを用い、マトリックスとして2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を用いた。
【0169】
2.実験結果
(1)プロアントシアニジンは酸性条件下における加熱処理により、フラバン間の結合が切断され、エクステンションユニットに由来するカルベニウムイオンと、ターミナルユニットに由来するカテキン類を与える。前者はさらに酸化されて赤色のアントシアニジンになる。この原理を利用した呈色法が塩酸−ブタノール法であり、550nmにおける吸光度の上昇をして試料中のプロアントシアニジンを鋭敏に検出できる。本法によってジャトバエタノール抽出物は赤色化し、550nmにおける吸光度は2.72となった。このことから、ジャトバに含有されるポリフェノールはプロアントシアニジンであることが明らかとなった。
【0170】
(2)NP−HPLCは、プロアントシアニジンのオリゴマー成分を溶出ピークとして検出することができる。しかし、より高重合度の成分はカラムに強く吸着されるために、溶出後半に特徴的なブロード型のクロマトグラムを与える。ジャトバエタノール抽出物のクロマトグラムは8本の溶出ピークと、それに続く特徴的なブロード形状を示したので、プロアントシアニジンのオリゴマーのみならず、より高重合度成分の存在を示唆した。
【0171】
(3)ESI−MSでは装置の測定限界として分子量2000までの成分しか観測できなかったが、図10Aに示すように、288ずつ増加していく分子イオンピークが5本観測された。すなわちジャトバのプロアントシアニジンは、分子量288の繰り返し構造を有していた。この分子量はカテキンまたはエピカテキンに相当し、かつガレートの付加がないことを示す。以上のことから、ジャトバエタノール抽出物の主成分はプロアントシアニジンのうち、プロシアニジンであることが明らかとなった。
【0172】
(4)MALDI−TOF−MSでは、ESI−MSでは観測することができなかった、さらなる高分子領域に属する高重合度プロシアニジンの存在が確認された。すなわち図10Bに示したように、プロシアニジン20量体以上にまで及ぶ分子イオンピークが観測された。
【0173】
実施例8:ジャトバ抽出物の成分検討(III)
実施例7により、ジャトバのエタノール抽出物の主成分がプロシアニジンであることが示された。構成単位の同定、結合様式、重合度の算出、および定量分析を精密に行なう目的で、Guyotらの方法(Sylvain Guyot, Nathalie Marnet, and Jean-Francois Drilleau, J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 14-20)に基づき、チオール開裂分析を行なった。
【0174】
1.実験方法
(1)チオール開裂、逆相液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)分析
ジャトバエタノール抽出物を4mg/mLのメタノール溶液に調製し、その25μLに3.3%塩酸含有メタノールを25μL、5%トルエン−α−チオール(シグマ社)50μLを添加し、40℃で30分反応させた後、反応液をそのままRP−HPLCに供し、分析した。ポンプはHITACHI L-7100、UV検出器はShimazu SPD-10Aを用いた。カラム条件を以下に示す。
【0175】
カラム:ディスカバリー C18φ4.6×250 mm(スペルコ社)
移動相:(A)2.5%酢酸/水(v/v)、(B)アセトニトリル
移動相グラジェント条件:
時間(分) A溶媒(%) B溶媒(%)
0 97 3
5 91 9
15 84 16
45 50 50
55 0 100
移動相流速:0.6mL/分
検出波長:280nm
(2)液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)による反応物の同定
チオール開裂反応液中にはトルエン−α−チオールが残存するために、反応液をそのままLC−MSに供することができない。そこでまず(1)のRP−HPLCにおいてそれぞれのピークを分取し、LC−MSに供した。LC部分のポンプはWaters 2690 allianceを使用し、検出は多波長検出器(Waters 996)で行なった。カラム条件を以下に示す。
【0176】
カラム:YMC Pack C18φ4.6×250 mm
移動相:(A)1%HCOOH/水(v/v)、(B)MeOH
移動相グラジェント条件:
時間(分) A溶媒(%) B溶媒(%)
0 90 10
5 84 16
45 50 50
50 0 100
移動相流速:1mL/分
検出波長:200−400nm
MSのイオン化モードはESIとし、装置はWaters micromass ZQ2000を用いた。
【0177】
(3)トルエン−α−チオール付加に伴うモル吸光係数(ε)値の補正
エピカテキンにトルエン−α−チオールが付加することに伴う280 nmにおけるε値の変化を、エピカテキン二量体であるプロシアニジンB2を用いて算出した。すなわちプロシアニジンB2を(1)の条件でチオール開裂し、RP−HPLC分析に供した。
【0178】
(4)平均重合度の算出と定量分析
(1)、(2)、および(3)の結果に基づき、ジャトバエタノール抽出物に含まれるプロアントシアニジンの平均重合度と含量を算出した。
【0179】
2.実験結果
(1)図11に示すように、プロアントシアニジンはチオール開裂によって、ターミナルユニットに由来する単量体成分と、エクステンションユニットに由来するベンジルチオエーテル付加体を与えるので、これらをRP−HPLCで分離、同定、定量することができる。ジャトバエタノール抽出物のチオール開裂を行なった結果、図12に示すように、21.6分と42.8分に2本のピークが認められた。前者はエピカテキン(EC)と溶出位置が一致した。これら2本以外には、いかなるピークをも与えなかった。
【0180】
Aタイプ結合はチオール開裂反応で開裂せず、残存する。そのため、もしAタイプ結合があれば、チオール開裂により、Aタイプで結合した二量体のベンジルチオエーテル付加体が生成され、RP−HPLCで検出される。チオール開裂分析の結果より、ジャトバのプロシアニジンにはAタイプ結合は存在せず、従ってBタイプ結合のみで構成されていることが明らかとなった。
【0181】
(2)(1)で検出されたピークをLC−MSによって同定した。すなわちこれら2本のピークは、プロシアニジンB2のチオール開裂産物であるEC、およびECのベンジルチオエーテル付加体(EC−BTE)とLC溶出位置および分子量がそれぞれ一致した。(1)と(2)の結果から、ジャトバのプロシアニジンはECのみを構成単位とすることが明らかとなった。
【0182】
(3)プロシアニジンB2をチオール開裂に供すると、ターミナルユニットに由来するECと、エクステンションユニットに由来するEC−BTEを等モル比で生成する。RP−HPLCで検出される両成分の280nmにおける吸光度すなわちピーク面積値を比較することにより、ECにトルエン−α−チオールが付加することに伴う280nmにおけるε値の変化を算出した。その結果、ECのε:EC−BTEのε=1:1.2であった。
【0183】
(4)(3)の結果に基づき、ジャトバエタノール抽出物に含まれるプロシアニジンの平均重合度を、以下のように計算した。
【0184】
平均重合度=(T+E/1.2)/T
T=ターミナルユニットのピーク面積
E=エクステンションユニットトルエン−α−チオール付加体のピーク面積
その結果、ジャトバエタノール抽出物中に含まれるプロシアニジンの平均重合度は、6.8と算出された。
【0185】
チオール開裂反応生成物であるECとEC−BTEを定量分析することによって、ジャトバエタノール抽出物中のプロシアニジン含量を求めることができる。定量分析に必要なチオール開裂の反応率は、プロシアニジンB2を外部標準として用い、生成したECを定量することで求めた。反応率は概して83%であった。その結果、ジャトバエタノール抽出物中のプロシアニジン含量を76.0%(w/w)と算出した。
【0186】
実施例9:ジャトバのプロシアニジンの分画・分析
実験方法および結果
(1)抽出および分画
ジャトバ市販乾燥粉末20gにエタノール(EtOH)500mLを加え、一晩、室温で攪拌した。ろ過後、残渣を再度同量EtOHで抽出した。ろ液を濃縮乾固し、抽出物6.97gを得た。この抽出物を100mLの水に再溶し、等量の酢酸エチルで3回抽出した。それぞれを溶媒留去し、水画分5.93g、酢酸エチル画分894mgを得た。水画分をメタノール(MeOH)に再溶し、Saucierらの方法(J. Agric. Food Chem., 2001. 49: 5732- 5735)に基づき、クロロホルム(CHCl3)を順次加え、生じた沈殿を分別した。本法により、プロシアニジンを重合度別に分画することができる。酢酸エチル画分はC18カラムによる固相抽出を行ない、さらに2つの画分に分別した。すなわち最初にジエチルエーテル(DEE)で溶出してFr.7を、次いでMeOHで溶出してFr.6を得た。それぞれの画分の重量を図13に示した。
【0187】
(2)ジャトバ抽出物ならびに各画分の分析
得られた分画物について、プロシアニジンの平均重合度と含量をチオール開裂分析により算出した(方法は実施例8を参照)。図13に示した通り、本法によって平均重合度を異にするプロシアニジン画分を容易に調製することができた。
【0188】
実施例10:EAEモデルを用いたジャトバ由来分画サンプルのIFN−γ抑制活性
実施例9で分画されたサンプルをEAEモデルマウスに腹腔内投与し、脾細胞のIFN−γ抑制活性を検討した。
【0189】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物および実施例9で分画された分画物Fr.1−7を使用した。
【0190】
(2)実験条件
C57BL/6、雄性、6週齢を1群3匹でコントロール群、ジャトバ群(未分画)、Fr1−Fr7群に分けた。コントロール群は第0日目にMOG抗原投与後、第0,2,4,7,9日目の合計5回、1%エタノールを腹腔内投与した。ジャトバ群は同じスケジュールで50mg/kg投与した。各フラクションは同じスケジュールで50mg/kgで投与した。第11日目に剖検し、脾細胞をMOGと共培養し、培養上清中のIFN−γ産生量をELISAにて測定した。
【0191】
2.実験結果
結果を図14に示す。コントロール群では約20000pg/mlのIFN−γ産生が見られたが、ジャトバ群では殆ど産生が見られなかった。Fr5−7ではコントロールに比べ、若干のIFN−γ産生が見られた。Fr1−4においては殆どIFN−γの産生がなかった。以上の結果、自己免疫疾患の増悪因子であるIFN−γ産生を抑制する活性は、平均重合度6.5以上で顕著に強い活性を有し、重合度が高い程同活性は高くなることが示唆された。
【0192】
実施例11:ジャトバ抽出物の成分検討(IV)
実施例8ではジャトバに含まれるプロシアニジンの構成単位の同定、結合様式の決定、重合度の算出、および定量分析を精密に行なう目的でチオール開裂分析を行なった。プロシアニジンの平均重合度および定量分析をさらに厳密に行なう目的で、エピカテキン(EC)のトルエン−α−チオール付加誘導体(EC−BTE)を精製・単離し、高分解能質量分析(HR−MS)と核磁気共鳴スペクトル(NMR)に供し、構造の同定を行なった後、これを標品としてHPLC分析を行なった。精製・単離された標品を用いて分析を行うことにより、より精密に、プロシアニジンの構成単位の同定、結合様式の決定、重合度の算出を行うことができた。
【0193】
1.実験方法
(1)EC−BTEの単離・精製
実施例9で調製したFr.1を実施例8の手法でチオール開裂を行ない、反応物をHPLCに供し、EC−BTEのピークを分取した。カラム条件を以下に示す。
【0194】
カラム Cadenza CD−C18 C18 φ10×250 mm(インタクト社)
移動相 メタノール:水:ギ酸(50:49.8:0.2、v/v/v)
移動相流速 2mL/分
検出波長 280nm
(2)EC−BTEの構造同定
前項で得たEC−BTEを、まず精密分子量を得る目的でHR−MSに供した。装置はJeolJMS−700(日本電子株式会社)を用い、イオン化モードは高速原子衝撃(FAB)とし、イオン化電圧は70eVとした。また、文献値とシグナルを比較するためにプロトンNMRスペクトルを測定した。装置はVarian社製UNITY INOVA−500(500MHz)を用いた。
【0195】
(3)プロシアニジンのHPLC分析
得られたEC−BTEを標品とし、実施例8に示した条件でHPLC分析を行ない、プロシアニジンの平均重合度と含量を算出した。平均重合度は以下のように計算した。
【0196】
平均重合度=(T+E)/T
T=ターミナルユニット(EC)のモル量
E=エクステンションユニット(EC−BTE)のモル量
含量は試料中のプロシアニジン量をEC換算した重量%で求めた。
【0197】
2.実験結果
(1)66mgのFr.1より10.8mgのEC−BTEを得た。
【0198】
(2)HR−MSの結果、MH+として413.1061のイオンピークが観測され、分子式がC22H21O6Sと定まり、EC−BTEと一致した。またプロトンNMRスペクトル(図15)も文献値(Chem. Pharm. Bull., 40, 889-898, 1992)と一致し、さらに1H−Detected Multiple−bond Heteronuclear Multiple Quantum Coherrence(HMBC)スペクトルにおいて、ベンジルチオールのSCH2部位のプロトンからフラバン環4位カーボンへの遠隔相関シグナルが観測されたので(図16)、ベンジルチオールはフラバン環4位に付加していることが証明され、以上の事実からEC−BTE構造が完全に同定された。
【0199】
(3)EC−BTEを標品として用いてHPLC分析を行なった結果得られたプロシアニジンの平均重合度と含量を図17に示した。
【0200】
実施例12:プロシアニジン含有試料の調製と分析(I)
実施例10より、ジャトバの活性本体が特定重合度以上のプロシアニジンであることが明らかになったので、更にプロシアニジンを含有する他素材の探索を行った。
【0201】
1.試料
市販の素材である、グラビノールSL(キッコーマン株式会社)、ポリフェノン(東京テクノフード株式会社)、アップルフェノン(ニッカウヰスキー株式会社)、クランベリーパウダー(キッコーマン株式会社)、カカオポリフェノール(明治製菓株式会社)、松樹皮エキス(有限会社素材機能研究所)、シナモン粉末(ヱスビー食品株式会社)を試料として用いた。
【0202】
2.実験方法
(1)シナモン試料の調製
シナモン粉末30.5gをエタノール300 mLで抽出し、得られたエタノール抽出物を濃縮乾固した後、50%メタノール/水に再溶し、等量のクロロホルムで4回抽出した。含水メタノール画分を溶媒留去後、1%エタノール/水による抽出を行なった。
【0203】
(2)クランベリー試料の調製
クランベリーパウダーより、高重合度プロシアニジンを含有する試料を調製した。すなわちクランベリーパウダー9gを水600mLに溶解し、セファデックスLH−20樹脂を充填したカラム(φ2.6cm×72cm)に供した。5mL/分の流速で1Lずつの水、メタノールで溶出した後、最後に1Lの70%アセトン/水で溶出した。このカラムクロマトグラフィを3回実施した。
【0204】
(3)プロシアニジン分析
実施例8のチオール開裂分析法により、各試料および(1)で調製したシナモン試料、(2)で調製したクランベリー試料に含有されるプロシアニジンを定量し、平均重合度、構成成分、結合様式を決定した。また試料によってはフラバン環3位水酸基へのガレート付加があったので、それに伴う280nmにおけるモル吸光係数(ε)値の変化を、エピカテキン(EC)とエピカテキンガレート(ECG)を用いて算出した。
【0205】
3.実験結果
(1)シナモンエタノール抽出物を3.91g得た。分配後の含水メタノール画分1.45gより、1%エタノール/水可溶画分635mgが得られ、これをシナモン試料とした。
【0206】
(2)合計27gのクランベリーパウダーより、水画分20.8g、メタノール画分303mg、含水アセトン画分217mgを得た。チオール開裂分析法により、含水アセトン溶出画分を高重合度プロシアニジン画分とした。
【0207】
(3)各試料に含まれるプロシアニジンの分析結果は表5のようになった。ジャトバについては実施例8を参照。ガレート付加体とその修飾体のピーク同定は、実施例8の1.(2)と同様に液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)によって行なった。ECとECGの280nmにおけるε値の比は1:3.1であったので、ガレート付加体を定量する際にはピーク面積を3.1で除算し、補正した。
【0208】
表5:本発明の実施例において、ジャトバ、グラビノールSL、ポリフェノン、アップルフェノン、クランベリー高重合度画分精製物、カカオポリフェノール、松樹皮エキス、そしてシナモン粗分画物に含有されるプロシアニジンについて、平均重合度、含量、そして構成成分の分析結果を示す。
【表5】
【0209】
ポリフェノンは緑茶由来のポリフェノール粗精製物であるが、プロシアニジンのオリゴマーは検出されず、主成分はエピガロカテキンガレート(EGCG)、EC、ECG、カテキン(CA)の単量体のみであった。グラビノールSLはブドウ種子由来、アップルフェノン(登録商標)はリンゴ由来のプロシアニジン粗精製物であり、構成成分はCA、EC、ECGであった。また、松樹皮エキス、カカオポリフェノール、シナモンのプロシアニジンはCA、ECから構成されていた。試料の平均重合度は1から6.8の範囲にあり、ジャトバの平均重合度が最も高かった。
【0210】
アップルフェノンの平均重合度は2.7であったが、チオール開裂を経ない試料を実施例8の1.(2)の条件でLC−MSに供した結果、観測されたのはプロシアニジン二量体、三量体、四量体の分子イオンピークのみであった。さらに実施例8の1.(1)の条件で逆相液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)による定量分析を行なった結果、主成分は三量体(38.1%,w/w)であった(図18)。
【0211】
クランベリーのプロシアニジン高重合度画分をチオール開裂し、実施例8の1.(2)の条件でLC−MSに供した結果、Aタイプ結合の存在が確認された。Aタイプ結合はクランベリー以外の試料では認められなかった。
【0212】
実施例13:プロシアニジン含有試料の調製と分析(II)
1.実験方法
実施例12で得られた知見をさらに精査する目的で、市販の素材であるシナモン(株式会社岡田薬局)、ピクノジェノール(株式会社バレンタイン)、グラビノール(キッコーマン株式会社)について、実施例9と同様のクロロホルム添加による沈殿分別分画法を行なった。
【0213】
(1)シナモン
200gのシナモン粉末に2Lのエタノールを加え、1晩室温で抽出した。ろ過してシナモン抽出液を得て、溶媒留去し、粗抽出物22.58gを得た。これをメタノール:水(50:50、v/v)400mLに溶解し、濃度を40g/Lに調整した。これを等容のクロロホルムで3回洗浄し、夾雑物を除去した。含水メタノール画分を減圧溶媒留去し、11.97gの試料を得た。これを300mLのメタノールに再溶し、等容のクロロホルムを加え、クロロホルム:メタノール(50:50、v/v)溶液とした。得られた沈殿(Fr.1)をガラス漏斗(ポアサイズP16)でろ過して分別後、ろ液に150mLのクロロホルムを添加してクロロホルム:メタノール(60:40、v/v)溶液とした。生じた沈殿(Fr.2)を同様に分別し、ろ液に250mLのクロロホルムを加えてクロロホルム:メタノール(70:30、v/v)溶液とした。生じた沈殿(Fr.3)を分別後、ろ液に200mLのクロロホルムを加えてクロロホルム:メタノール(75:25、v/v)溶液とした。生じた沈殿(Fr.4)を分別し、ろ液を溶媒留去してFr.5とした。
【0214】
(2)ピクノジェノール
10gのピクノジェノールを水200mLに溶解し、等容の酢酸エチルで4回分配を行ない、水層を乾固して6.54gの試料を得た。これを164mLのメタノールに溶解し、濃度を40g/Lに調整した。これに(1)と同様にクロロホルムを順次添加し、沈殿分別を行ない、Fr.1からFr.5を調製した。
【0215】
(3)グラビノール
10gのグラビノールを水200mLに溶解し、(2)と同様の手法でFr.1からFr.5を調製した。
【0216】
2.実験結果
(1)各画分の調製結果
シナモン、ピクノジェノール、グラビノールのプロシアニジンをクロロホルム沈殿分別法で分画した結果、得られた各画分の重量と重量比を表6に示す。
【0217】
表6:(1)から(3)で得られた分画物の重量を示す。
【表6】
【0218】
実施例14:プロシアニジン含有試料の調製と分析(III)
プロシアニジンの平均重合度および定量分析を精密に行なう目的で、実施例12で得られた各調製物をチオール開裂反応に供し、実施例11と同様の方針で計算した。すなわちエピカテキンガレート(ECG)のトルエン−α−チオール付加誘導体(ECG−BTE)およびカテキン(CA)のトルエン−α−チオール付加誘導体(CA−BTE)を精製・単離し、高分解能質量分析(HR−MS)と核磁気共鳴(NMR)に供し、構造の同定を行なった後、それぞれを標品として当該成分のHPLC分析を行なった。
【0219】
1.実験方法
(1)ECG−BTEの単離・精製
グラビノールを実施例8の方法でチオール開裂を行ない、反応物をHPLCに供し、ECG−BTEのピークを分取した。カラム条件を以下に示す。
【0220】
カラム XTerra MS C18 φ19×100 mm(Waters社)
移動相 0.2%(v/v)ギ酸水:メタノール(47:53)
移動相速度 3mL/分
検出波長 280nm
(2)ECG−BTEの構造同定
前項で得たECG−BTEについて、ECGのフラバン環4位へのベンジルチオール付加を立証するために、NMRスペクトルを測定した。装置はVarian社製UNITY INOVA−600(600MHz)を用いた。シグナルの比較のため、市販標品ECG(フナコシ株式会社)のプロトン(1H)NMRを測定した。
【0221】
(3)CA−BTEの単離・精製
ニュージーランド産の松樹皮エキスであるエンゾジノール(株式会社バレンタイン)を実施例8の方法でチオール開裂を行ない、反応物をHPLCに供し、CA−BTEのピークを分取した。カラム条件を以下に示す。またCA−BTEのピークを同定する目的で、Procyanidin B3(CAの2量体)をチオール開裂に供した。
【0222】
カラム Discovery(登録商標) C18 φ10×250 mm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
移動相 0.2%(v/v)ギ酸水:メタノール(50:50)
移動相速度 2mL/分
検出波長 280nm
(4)CA−BTEの構造同定
前項で得たCA−BTEについて、CAのフラバン環4位へのベンジルチオール付加を立証するために、NMRスペクトルを測定した。装置はVarian社製UNITY INOVA−600(600MHz)を用いた。シグナルの比較のため、市販標品CA(フナコシ株式会社)のプロトン(1H)NMRを測定した。
【0223】
(5)プロシアニジンのHPLC分析
実施例11で得られたエピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)と、今回得られたECG−BTE、CA−BTEをそれぞれを標品とし、実施例8に示した条件でHPLC分析を行ない、プロシアニジンの平均重合度と含有量を算出した。平均重合度は以下のように計算した。
【0224】
平均重合度=(T+E)/T
T=ターミナルユニット(EC、ECG、CA)のモル量
E=エクステンションユニット(EC−BTE、ECG−BTE、CA−BTE)のモル量
2.実験結果
(1)326mgのグラビノールより32.0mgのECG−BTEを得た。
【0225】
(2)ECG−BTEのプロトンNMRをECGのそれと比較した結果(図19)、ECGでは2.85ppm、3.00ppmに観測されたフラバン環4位メチレンのシグナルがECG−BTEでは消失し、代わりにベンジルチオール付加に伴い、4.17ppmに低磁場シフトした4位メチンのシグナルと、7.2ppm〜7.5ppmの領域にベンジルチオールのアロマティックプロトンのシグナルが観測された。また、1H−Detected Multiple-bond Heteronuclear Multiple Quantum Coherrence(HMBC)スペクトルにおいて、ベンジルチオールのSCH2部位のプロトンから4位カーボンへの遠隔相関シグナル、および4位プロトンからSCH2部位のカーボンへの遠隔相関シグナルが観測されたので(図20)、ベンジルチオールはフラバン環4位に付加していることが証明された。なお、4位カーボン、SCH2部位のカーボンのシグナルは、Heteronuclear Single Quantum Coherence(HSQC)スペクトル(図21)により帰属した。以上の事実から、ECG−BTE構造が同定された。
【0226】
(3)Procyanidin B3のチオール開裂反応物よりCA−BTEのカラム溶出位置を18.6分と定めた。90mgのエンゾジノールより11.3mgのCA−BTEを得た。
【0227】
(4)CA−BTEのプロトンNMRをCAのそれと比較した結果(図22)、CAでは2.50ppm、2.85ppmに観測されたフラバン環4位メチレンのシグナルがCA−BTEでは消失し、代わりにベンジルチオール付加に伴い、4.36ppmに低磁場シフトした4位メチンのシグナルと、7.2ppm〜7.4ppmの領域にベンジルチオールのアロマティックプロトンのシグナルが観測された。また、1H−Detected Multiple-bond Heteronuclear Multiple Quantum Coherrence(HMBC)スペクトルにおいて、ベンジルチオールのSCH2部位のプロトンから4位カーボンへの遠隔相関シグナル、および4位プロトンからSCH2部位のカーボンへの遠隔相関シグナルが観測されたので(図23)、ベンジルチオールはフラバン環4位に付加していることが証明された。なお、4位カーボン、SCH2部位のカーボンのシグナルは、Heteronuclear Single Quantum Coherence(HSQC)スペクトル(図24)によりアサインした。以上の事実から、CA−BTE構造が同定された。
【0228】
(5)チオール開裂で生成するEC、CA、ECG、EC−BTE、CA−BTE、そしてECG−BTEをそれぞれ標品として用いてHPLC分析を行なった結果得られた各調製物のプロシアニジンの平均重合度と含有量%(w/w)を表7に示した。
【0229】
表7:ジャトバ、グラビノールSL、ポリフェノン、アップルフェノン、クランベリー高重合度画分精製物、カカオポリフェノール、松樹皮エキス、そしてシナモン粗分画物に含有されるプロシアニジンについて、平均重合度、含量、そして構成成分の分析結果を示す。
【表7】
【0230】
実施例15:プロシアニジン含有試料の調製と分析(IV)
実施例13で得られたシナモン、ピクノジェノール、グラビノール由来のそれぞれの画分について、実施例8と同様にチオール開裂反応後、実施例14と同様の方針でプロシアニジンの構成単位の同定、重合度の算出、および含有量の定量分析を行なった。
【0231】
1.実験方法
実施例11で得られたエピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)と、実施例14で得られたECG−BTE、CA−BTEをそれぞれ標品とし、実施例8に示した条件でHPLC分析を行ない、プロシアニジンの平均重合度と含有量を算出した。平均重合度は以下のように計算した。
【0232】
平均重合度=(T+E)/T
T=ターミナルユニット(EC、ECG、CA)のモル量
E=エクステンションユニット(EC−BTE、ECG−BTE、CA−BTE)のモル量
2.実験結果
チオール開裂で生成するEC、CA、ECG、EC−BTE、CA−BTE、そしてECG−BTEをそれぞれ標品として用いてHPLC分析を行ない、得られた各画分のプロシアニジンの平均重合度と含有量%(w/w)を表8に示した。
【0233】
表8:シナモン、ピクノジェノール、グラビノールをクロロホルム沈殿分別法で分画した結果得られた各画分のプロシアニジン(PC)の平均重合度と含有量%(w/w)を示す表である。参考としてジャトバの数値を附記してある。
【表8】
【0234】
実施例16:ジャトバプロシアニジン3量体〜6量体の精製
1.実験方法
実施例9で調製したFr.5より、プロシアニジンの3量体から6量体までをカラム精製した。まずLC−MSで各オリゴマーの溶出位置を決め、次いで日立製のHPLCで大量精製を行なった。各々の条件を以下に示す。
【0235】
(1)LC−MS
カラム:Discovery(登録商標) HS PEG φ10×250 mm,5μm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
ポンプ:Waters社alliance(商標名)2690
移動相:0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(60:40、v/v)
移動相流速:2mL/分
検出波長:280nm(Waters社2996多波長検出器)
MS装置:Waters社micromassZQ2000
Fr.5は100μg/μLの濃度のメタノール溶液10μLにメタノール60μLを加え、水で120μLに希釈した溶液を100μLインジェクトした。UV検出器の出口流路を1/6にスプリットし、MSに導入した。イオン化モードはESIのネガティブイオンモードとし、分子量2000以上のプロシアニジンについては2価イオンで検出を行なった。コーン電圧は40Vとした。
【0236】
(2)大量精製
カラム、移動相、移動相流速、検出波長は(1)と同様とし、ポンプを日立L−7100、検出器を日立L−7455(多波長検出器)とした。サンプルループ容量は1mLとし、Fr.5の150mgをメタノール:水(50:50、v/v)溶媒1mLに溶解した試料を1回のインジェクト量とした。
【0237】
2.実験結果
(1)LC−MS
280nmでモニターしたクロマトグラムと、MSクロマトグラムを図25に示した。各オリゴマーにおいて複数のピークが検出されているのは4→8結合と4→6結合から構成される異性体があるためであると考えられる。Fr.5より、7量体までの重合体が検出され、8量体、9量体のピークは検出されなかった。なお、MS装置の性能として検出上限が2000なので、分子量1730の6量体までを1価イオンで検出し、7量体は2価イオン(1009)で検出した。
【0238】
PEGカラムにより、各オリゴマーは重合度順に溶出されていることが明らかとなった。
【0239】
(2)大量精製
(1)でアサインした溶出ピークパターンに基づき、3量体から6量体までの精製を行なった。7量体はFr.5中の含量が少なかったため、分取しなかった。2.31gのFr.5より、132.1mgの3量体、173.1mgの4量体、187.0mgの5量体、111.0mgの6量体を得た。精製物の一部を同HPLC条件に供し、純度検定を行なった結果、隣接する各オリゴマーの相互混入は微量であり、それぞれの純度は、3量体が95.7%、4量体が92.1%、5量体が97.4%、6量体が95.9%であった。
【0240】
実施例17:ジャトバプロシアニジン6量体〜9量体の精製
1.実験方法
実施例9と同様にして調製したFr.4より、プロシアニジンの6量体から9量体までをカラム精製した。まずLC−MSで各オリゴマーの溶出位置を決め、次いで日立製のHPLCで大量精製を行なった。各々の条件を以下に示す。
【0241】
(1)LC−MS
カラム:Discovery(登録商標)HS PEG φ10×250 mm,5μm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
ポンプ:Waters社alliance(商標名)2690
移動相:0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(80:20、v/v)
移動相流速:2mL/分
検出波長:280nm(Waters社2996多波長検出器)
MS装置:Waters社micromassZQ2000
Fr.4については、100μg/μLの濃度のメタノール溶液80μLを水で120μLに希釈した溶液を100μLインジェクトした。UV検出器の出口流路を1/6にスプリットし、MSに導入した。イオン化モードはESIのネガティブイオンモードとし、分子量2000以上のプロシアニジンについては2価イオンで検出を行なった。コーン電圧は40Vとした。
【0242】
(2)大量精製
カラム、移動相流速、検出波長は(1)と同様とし、移動相を0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(80:20、v/v)ポンプを日立L−7100、検出器を日立L−7455(多波長検出器)とした。サンプルループ容量は1mLとし、Fr.4の150mgをメタノール:水(70:30、v/v)溶媒900μLに溶解した試料を1回のインジェクト量とした。
【0243】
2.実験結果
(1)LC−MS
280nmでモニターしたクロマトグラムと、MSクロマトグラムを図26に示した。各オリゴマーにおいて複数のピークが検出されているのは4→8結合と4→6結合から構成される異性体があるためであると考えられる。Fr.4より、12量体までの重合体が検出された。なお、MS装置の性能として検出上限が2000なので、分子量1730の6量体までを1価イオンで検出し、7量体以上は2価イオンで検出した。
【0244】
PEGカラムにより、各オリゴマーは重合度順に溶出されていることが明らかとなった。
【0245】
(2)大量精製
(1)の結果、10量体以上のオリゴマーは量が少なかったので、帰属した溶出ピークパターンに基づき、6量体から9量体までの精製を行なった。2.66gのFr.4より、156.2mgの6量体、222.9mgの7量体、236.1mgの8量体、176.4mgの9量体を得た。精製物の一部を同HPLC条件に供し、純度検定を行なった結果、隣接する各オリゴマーの相互混入は微量であり、それぞれの純度は、6量体が95.9%、7量体が95.8%、8量体が90.3%、9量体が97・0%であった。
【0246】
実施例18:プロシアニジン3量体〜9量体のチオール開裂分析
1.実験方法
実施例16と実施例17で得た画分中のプロシアニジン含有量%(w/w)を算出するために、実施例8の方法でチオール開裂分析を行ない、実施例11の方法で結果を解析した。チオール開裂分析ではプロシアニジン含有量%(w/w)以外に、その平均重合度をも算出できる。なお、6量体については実施例17で得られたものを用いた。
【0247】
2.実験結果
3量体〜9量体の各画分中のプロシアニジン含有量%(w/w)を表9に示した。プロシアニジン(PC)含有量は低いものでも71.3%(6量体)、高いものでは83.0%(3量体)であった。また各々について算出した平均重合度についても表8に示した通り、いずれも目的重合度と符合し、チオール開裂分析法自体の精度が極めて良好であることも示された。
【0248】
表9:3量体〜9量体のプロシアニジンを実施例8の方法でチオール開裂分析し、平均重合度とプロシアニジン(PC)含有量%(w/w)を実施例11の方法で解析した結果である。オリゴマー純度%(w/w)は実施例16と実施例17のHPLCでの定量結果であり、総純度とはPC含有量にオリゴマー純度を乗算した値である。
【表9】
【0249】
実施例19:プロシアニジンオリゴマーのHPLC分析
プロシアニジンは実施例8および実施例11のチオール開裂分析により平均重合度と含有量%(w/w)を、実施例7、実施例16、実施例17の質量分析法により重合体の分布を分析することができるが、実施例16、実施例17のHPLC条件を以下のように設定することにより、プロシアニジンオリゴマーの分布をより高い重合度まで検出することが可能となる。
【0250】
1.実験方法
LC−MSの条件を以下のように設定した。
【0251】
カラム:Discovery(登録商標)HS PEG φ10×250 mm,5μm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
ポンプ:Waters社alliance(商標名)2690
移動相:0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(95:5、v/v)
移動相流速:2mL/分
検出波長:280nm(Waters社2996多波長検出器)
MS装置:Waters社micromassZQ2000
実施例9と同様にして調製したFr.5、Fr.4、Fr.3については、100μg/μLの濃度のメタノール溶液80μLを水で120μLに希釈した溶液を100μLインジェクトした。UV検出器の出口流路を1/6にスプリットし、MSに導入した。イオン化モードはESIのネガティブイオンモードとし、分子量2000以上のプロシアニジンについては2価イオンで検出を行なった。コーン電圧は40Vとした。
【0252】
2.実験結果
280nmでモニターしたFr.5、Fr.4、Fr.3のクロマトグラムをそれぞれ図27、図28、図29に示した。MSによってFr.4、Fr.3から13量体までのピークを確認した。MS装置の性能として検出上限が2000なので、分子量1730の6量体までを1価イオンで検出し、7量体以上は2価イオンで検出した。13量体は2価イオンで検出できる限界であり(イオンピーク1873)、Fr.4、Fr.3には、より高重合度のプロシアニジンを含んでいる可能性がある。
【0253】
実施例20:EAEモデルを用いた各種植物由来試料のインビボでの効果
プロアントシアニジン類の自己免疫疾患改善作用について検討するために、実施例8の各種植物素材由来の試料をEAEモデルマウスで検討した。
【0254】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物および、実施例12の各試料を使用した。各試料はそのプロシアニジン含量がジャトバエタノール抽出物と同一になるように1%エタノール溶液を調製した。
【0255】
(2)実験条件
C57BL/6、雄性、6週齢を1群10匹でコントロール群、および各試料群に分けた。コントロール群は第0日目にMOG抗原投与後、第0,2,4,7,9,11,14,16,18,21日目の合計10回、1%エタノールを投与した。各試料群は同じスケジュールでプロシアニジン換算で50mg/kgジャトバ相当量を投与した。第11日目に5匹を剖検し、脾細胞をMOGと共培養し、培養上清中のIFN−γ産生量をELISAにて測定した。また、残り5匹は第25日目まで臨床スコアを観察した。
【0256】
2.実験結果
臨床スコアの結果を図30に示す。コントロールは第11日目で発症し、最大臨床スコアは2.5前後となった。ジャトバと同様なEAE発症抑制が見られたのは松樹皮エキス、クランベリー高重合度画分およびシナモン抽出物であり、これらの素材では第25日目まで明確な発症が認められなかった。グラビノールSLでは発症が4日遅れ、臨床スコアではコントロールの半分程度の抑制が見られた。その他の試料ではEAE抑制はコントロールと同程度であり、効果が認められなかった。脾細胞によるIFN−γ産生能についてもグラビノール、クランベリー、松樹皮エキス、シナモン、ジャトバでは完全に抑制されたが、その他の試料では明確な抑制は見られなかった(図31)。
【0257】
以上の結果、実施例12で示したように主成分が三量体であるアップルフェノンに効果が無いことから少なくとも重合度3以下のプロアントシアニジンには自己免疫疾患抑制効果は無いことが示唆された。
【0258】
なお、平均重合度でアップルフェノン(2.72)と大差ないグラビノール(3.18)に、部分的な抑制活性が認められた点については、アップルフェノンが前述したように三量体が主成分であってそれより高い重合度の物の含有量が乏しいのに対し、予備的試験であるがグラビノールは重合度分布が広く4以上の高重合度のものを十分量含有していることを確認しており、これが両者の差となったと考えられる。
【0259】
効果が認められた試料に含まれるプロシアニジンの種類は一義に限定されず、例えばAタイプ,Bタイプの結合様式、構成成分、ガレート付加の有無は活性と相関しないことが明らかとなった。これらのことから、フラバン基本骨格の水酸基の数も活性には関係しないことが容易に演繹される。すなわち活性に関わるのは重合度のみであり、重合度4以上のプロアントシアニジンが自己免疫疾患改善作用を有することが明らかになった。
【0260】
実施例21:高重合度プロシアニジン含有素材における活性の普遍性
高重合度プロシアニジンを含む他素材活性比較のために、松の樹皮(ピクノジェノール)、シナモン、ぶどう種子(グラビノール)からジャトバのFr3相当(平均重合度10)のものを抽出し、自己免疫疾患改善活性を検討した。
【0261】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロール群には、1% EtOH、ジャトバ由来高重合度プロシアニジンとしてジャトバFr3(15.7)(実施例9)を、グラビノール由来高重合度プロシアニジンとしてグラビノールFr2(8.8)(実施例13)を、松の樹皮由来高重合度プロシアニジンとしてピクノジェノールFr2(8.6)(実施例13)を、シナモン由来高重合度プロシアニジンとしてシナモンFr1(10.2)(実施例13)を、それぞれ5mg/mlになるように1% EtOHに溶解した。()内は、平均重合度を示す。
【0262】
(2)実験動物
C57BL/6,雄,7週齢を用い、一群16匹で開始。MOG(200μg)と800μgのH37Raを含むCFAをエマルジョン化したものを第0日目に皮内投与、第1日目と第3日目に腹腔内に1μg/mlのPTXを200μl(実質200ng)投与して疾患を惹起した。
【0263】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0264】
(4)実験条件
各サンプルは1mg/mouseとなるように週3回腹腔内投与した。第11日目にて剖検し、脾細胞を調製した。脾臓細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±2μM MOG培地で37℃、5%CO2の条件で7日間培養し、培養上清を回収し、IFN−γ濃度測定を実施した。
【0265】
2.実験結果
いずれのプロシアニジン含有素材も高重合度プロシアニジンを濃縮する事により、同様に強い抗自己免疫疾患活性を示す事が分かった(図32)。また後述する実施例31において示されているように、抗自己免疫疾患活性は重合度5以上のプロアントシアニジンにより担われている。このことから、当該活性はジャトバに限定されるものではなく、高重合度プロシアニジンを含む他の素材にも適用可能であることが明らかとなった。
【0266】
実施例22:TypeII コラーゲン誘導関節炎モデルを用いたジャトバのインビボでの効果
ジャトバの慢性関節リウマチにおける効能を調べるために、TypeII コラーゲン誘導関節炎モデルで検討した。
【0267】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物を用いた。
【0268】
(2)実験動物およびその飼育
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢(購入先:チャールスリバー社)に対して、第0日目および第21日目にII型コラーゲン(コスモバイオ)150μgをCFA400μgと混合してエマルジョン化したものを皮内投与して誘導した。
【0269】
(3)実験条件
1群10匹でコントロール群、ジャトバ群に分けた。コントロール群は第0日目から第30日目まで週3回、1%エタノールを腹腔内投与した。ジャトバ群は同じスケジュールで50mg/kgでジャトバエタノール抽出物を腹腔内投与した。
【0270】
実験スケジュールを図33に示す。
【0271】
(4)臨床スコアのつけ方
スコア0:正常、スコア1:四肢の指など小関節が一本のみ膨張発赤、スコア2:小関節2本以上、あるいは手首・足首など大きな関節が膨張発赤、スコア3:一本の手や足全体が発赤膨張、スコア4:さらに1本の手や足の膨張が最大限に達している
臨床スコアは4本の足全てに対して、上記基準で観察し、4本の合計をスコアとして記録した。
【0272】
2.実験結果
臨床スコアの経時変化グラフを図34に示す。コントロール群では第21日目に2次免疫を行い(0日目とする)、二次免疫後2日経過した2日目で発症が始まり、それから2週間でほぼ完全発症(スコア16)した。ジャトバ群では2次免疫後、1週間経過した6日目近辺で発症が始まったが、スコア8までしか病状が進行しなかった。以上の結果、ジャトバ抽出物は慢性関節リウマチにも効果があることが示された。
【0273】
実施例23:I型糖尿病モデルを用いたジャトバのインビボでの効果
ジャトバのI型糖尿病における効能を調べるために、I型糖尿病が誘導されたNOD/Ltjマウスで検討した。
【0274】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物を用いた。
【0275】
(2)実験動物、飼育
NOD/Ltjマウス(雌)、4週齢(購入先:チャールスリバー社)に対して10週齢時にシクロホスファミド(Cy)を300mg/kg腹腔内投与した。
【0276】
(3)実験条件
1群20匹でコントロール群、ジャトバ群に分けた。コントロール群は4週齢時から週2回、1%エタノールを腹腔内投与した。ジャトバ群は同じスケジュールで50mg/kgでジャトバエタノール抽出物を腹腔内投与した。9週齢時に5匹を剖検し、脾細胞を抗原のひとつであるインスリンと共培養し、培養上清中のIFN−γ産生量をELISAにて測定した。また、残り15匹は10週齢時にCyを投与し、Cy投与後第35日目まで臨床スコアを観察した。実験スケジュールを図35に示す。
【0277】
(4)発症の判定
糖尿病の発症率はグルテストエース(三和化学研究所(株))で尾から微量採血したものを測定し、250mg/dl以上の値を示した場合、陽性とした。
【0278】
2.実験結果
糖尿病発症率を図36に示す。コントロール群ではCy投与後第28日目で39%が発症したが、ジャトバ群では13%しか発症しなかった。
【0279】
さらに、9週齢時点の脾細胞のインスリンに対するIFN−γ産生量を測定したところ、コントロール群では6000pg/mlの産生が見られたにも関わらず、ジャトバ群では1000pg/ml程度に抑制されていた。以上の結果、ジャトバ抽出物はI型糖尿病にも効果があることが示された(図37)。
【0280】
実施例24:I型糖尿病における効能検討
実施例23ではシクロホスファミドをマウスに投与してI型糖尿病を誘導し、そのマウスを実験に用いた。本実施例では、長期的なI型糖尿病自然発症モデルマウスを実験に用いることによって、本発明による有効成分の効果をより正確に検証する。
【0281】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロール群として1% EtOHを、またジャトバ投与群としてジャトバEtOH抽出物(実施例2)を5mg/mlになるように1% EtOHに溶解したもの
(2)実験動物
NOD/Ltjマウス(雌)、4週齢(購入先:チャールスリバー社)。
【0282】
(3)実験条件
1群20匹でI型糖尿病自然発症モデルマウスNOD/Ltjを4週齢で購入と同時にジャトバEtOH抽出物を1mg/mouse、コントロール群には1% EtOHを200μl腹腔内へ週2回投与を開始。9週目以降、週1回に切り替え、発症率の検討終了の33週目まで投与を継続した。また一部(n=3)9週目で剖検し、脾細胞の抗原特異的な反応を検討した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±300 μg/ml インスリン(シグマ社)で培養し、3日間培養後の上清についてIFN−γの濃度を測定した。更に11週目で一部(n=5)剖検し、脾臓細胞の各種免疫細胞存在比率を調べた。残りの個体は33週目まで週一回血糖値を測定し、発症率を検討した(図38)。
【0283】
(4)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0284】
(5)ex vivo 脾細胞における各種免疫担当細胞比率への影響
11週目で剖検した各群5匹から脾細胞を調製した。免疫担当細胞の表面マーカーの発現はフローサイトメトリーを用いて実施例25と同様の条件で調べた。
【0285】
(6)発症の判定
糖尿病の発症率はグルテストエース(三和化学研究所(株))で尾から微量採血したものを測定し、250mg/dl以上の値を示した場合、陽性とした。
【0286】
2.実験結果
9週目における抗原依存的な反応を調べた結果、抗原の一つであるインスリン依存的なIFN−γ産生が検出された。更にジャトバ投与によりこのIFN−γ産生が抑制された(図39)。また11週目で調べた脾臓細胞の各種免疫細胞存在比率に関してはジャトバ投与群でマクロファージの顕著な増加(約6%→20%)を観察した一方、CD4+T細胞、CD8+T細胞の減少傾向がみられた(図40)。また増加したマクロファージの表面抗原を調べたところ、MHC classIIや共刺激分子であるCD40,CD86に関してはそれぞれ発現低下傾向を示し(図41)、ジャトバ投与群ではT細胞活性化能の低い未熟なマクロファージが増加していると考えられる。これは実施例25におけるEAEモデルにおけるジャトバ投与の効果と同様の傾向である。
【0287】
また33週目における最終的な発症率は対照群の54%に比較してジャトバ投与群では22%に抑制されていた(図42)。以上の結果から、高重合度プロシアニジンを豊富に含むジャトバ抽出物はI型糖尿病に対して抑制効果を持つ事が明らかとなった。
【0288】
実施例25:ジャトバEtOH抽出物の脾細胞における各免疫担当細胞比率への影響検討
ジャトバ抽出物の特性を明らかにするために、ex vivoにおける脾細胞の免疫担当細胞の割合を実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルで検証した。
【0289】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバEtOH抽出物(実施例2)を5mg/mlになるように1% EtOH溶液に溶解させた。対照群には1%EtOH溶液を用いた。
【0290】
(2)実験動物
C57BL/6マウスをMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した一群3匹で第0,2,4,8,15日目と経時的に剖検を行った。
【0291】
(3)実験条件
対照群では週3回1%EtOHを200μl、ジャトバ投与群は5mg/ml(1% EtOH溶媒)を200μl腹腔内投与した。
【0292】
(4)ex vivo 脾細胞ポピュレーション解析
第0,2,4,8,15日目で各群、3匹解剖し、脾細胞とリンパ節細胞を調製した。免疫担当細胞の細胞表面マーカーの発現はフローサイトメトリーにて解析を行った(ベクトンデッキンソン)。解析する免疫担当細胞は、T細胞(CD3){CD4陽性(CD4)T細胞、CD8陽性(CD8)T細胞、制御性(CD4/CD25)T細胞}、B細胞(B220)、NK細胞(DX5)、マクロファージ(CD11b)、樹状細胞(CD11c)であり括弧内の細胞表面マーカーを指標とした。マクロファージの成熟度を示す細胞表面マーカーとしてはCD40、CD80、CD86、MHC class IIの抗体を用いた。
【0293】
細胞はFc受容体をブロックするためにCD16/CD32(Rat IgG2b,clone,93)でプレインキュベーションし洗浄後、5x105cellsを5%FBS、0.1%のアジ化ナトリウムを含むPBS中で目的とする抗原に特異的なマウスの抗体30分間、4℃でインキュベートした。染色にはfluorescein isothiocyanate (FITC)−またはphycoerythrin (PE)−で標識されたモノクローナル抗体を用いた。各々用いた抗体は、CD3e(Armenian hamster IgG,145−2C11), CD4(Rat IgG2b, GK1.5),CD8a(Rat IgG2a,53−6.7),CD11b (Rat TgG2b,M1/70),CD11c (Armenian Hamster IgG,N418), CD40(Rat IgG2a,1C10),CD80(B7−1)(Armenian hamster IgG,16−10A1),CD86(B7−2)(Rat IgG2b,GL1),MHC classII (Rat IgG2b,M5/114.15.2).ネガティブコントロールとして FITC−またはPE−標識したマウスIgG、ラットIgG、あるいはアルメニアハムスターIgGを用いた。これらの抗体は全てeBioscience Inc. (San Diego,CA)から購入した。
【0294】
2.実験結果
脾臓細胞では第8日目から第15日目にかけてヘルパーT細胞であるCD4+T細胞の増加が対照群でみられるのに対し、ジャトバ投与群では抑制されていた。また、抗原提示細胞であるDCおよびB細胞は実験開始から一貫して低下傾向にある一方でマクロファージは増加傾向にある(図43)。CD8+T細胞については特に両群間で差異はなかった。Th1免疫亢進性の疾患ではCD4+T細胞の減少や、抗原提示細胞(DC)の減少はその症状抑制に寄与すると考えられ、ジャトバ投与により、これらの細胞の割合が減少することは抑制活性をよく説明する結果となった。一方、これとは逆にジャトバ投与群で増加していたマクロファージについてその成熟度を検討するために、第10日目の脾臓細胞について更に解析した。細胞表面マーカーとして抗原提示能を反映すると言われている共刺激分子であるCD40,CD80,CD86,MHC class IIを用いた。その結果ジャトバ投与により増加しているマクロファージは調べたいずれの共刺激分子の発現も抑制傾向である事が分かり、特にTh1反応による炎症増幅に関わるCD80や抗原提示に主要に関わるMHC class IIについては有意に抑制していた。これらのことから、ジャトバ投与により脾細胞で増加しているマクロファージは対照群に比較して、抗原提示能が低い事が示唆された(図44)。
【0295】
実施例26:Type II collagen誘導関節炎モデルにおけるジャトバ経口投与による臨床スコアの改善
ジャトバの経口投与の効果を調べるためにType II collagen誘導関節炎モデルで検討した。
【0296】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバEtOH抽出物(実施例2)、ジャトバFr3分画物(実施例9)、カテキン類単量体である緑茶ポリフェノール(ポリフェノン:三井農林)を各々50mg/mlになるように10%EtOH溶液に溶解させた。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0297】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。
実験は一群13匹で実施した。
【0298】
(3)実験条件
一次免疫開始日から第40日目まで週5回、対照群では10%EtOHを250μl、ジャトバEtOH抽出物投与群、ジャトバFr3分画物投与群、緑茶ポリフェノール(ポリフェノン)投与群はそれぞれ50mg/ml(10%EtOH溶媒)に調製した試料を250μl強制経口投与した。
【0299】
(4)臨床スコアの付け方
2次免疫日を0日目として、以降31日目まで臨床症状を観察した。スコアの付け方は実施例22に従った。
【0300】
2.実験結果
臨床スコアの経時変化を図45に示した。ジャトバEtOH抽出物投与によって臨床スコアの抑制がみられた。またジャトバのRapid Fractionationによる分画物であるFr3投与では抑制効果が顕著であり、2次免疫後10日目から有意差をもって抑制することが分かった。一方単量体ポリフェノールであるポリフェノン投与では臨床スコアの増悪傾向が認められた。
【0301】
実施例27:Type II collagen誘導関節炎モデルにおけるジャトバ経口投与によるTh1サイトカイン産生能の抑制
ジャトバの経口投与の効果をex vivoで評価するためにType II collagen誘導関節炎モデルで検討した。
【0302】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバ投与群にはジャトバEtOH抽出物(実施例2)を50mg/mlになるように10%EtOH溶液に溶解したものを投与した。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0303】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μg H37Ra含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを皮内投与した。実験は一群20匹で実施した。
【0304】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0305】
(4)実験条件
免疫開始から2週間、週5回、対照群では10%EtOHを250μl、ジャトバ投与群は50mg/ml(1%EtOH溶媒)を250μl強制経口投与した。第14日目に剖検し、脾臓細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10%FCS(ロシュ社)±25μg/mlコラーゲン培地で37℃、5%CO2の条件で3日間培養し、培養上清を回収した。この上清中のIFN−γ濃度測定を実施した。
【0306】
2.実験結果
対照群における抗原依存的なIFN−γの上昇とジャトバ投与群における有意な抑制が確認できた(図46)。このことは経口投与によっても、腹腔内投与と同様にTh1型サイトカインであるIFN−γ産生の抑制を介して臨床スコアを改善している事を示している。
【0307】
実施例28:Type II collagen誘導関節炎モデルにおけるジャトバ経口投与による臨床スコアの改善効果の容量依存性
ジャトバの経口投与の効果について容量依存性を調べるためにType II collagen誘導関節炎モデルで検討した。
【0308】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバ抽出物のRapid Fractionation分画物であるFr3(実施例9)を各々50mg/ml,37.5mg/ml,25mg/mlになるように10%EtOH溶液に溶解させた。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0309】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。実験は一群7匹で実施した。
【0310】
(3)実験条件
一次免疫開始日から第40日目まで週5回、コントロール群では10%EtOHを250μl、50mg/ml, 37.5mg/ml,25mg/mlのFr3を各々250μl投与した。一匹あたりの投与量はFr3換算でそれぞれ12.5、9.375、6.25mg/マウスとなる。
【0311】
(4)臨床スコアの付け方
2次免疫日を0日目として、以降17日目まで臨床症状を観察した。スコアの付け方は実施例22に従った。
【0312】
2.実験結果
スコアの変化のグラフを図47に示す。約9.375mg/マウスのFr3投与より高い濃度においては有意に病状が抑制されたが、それより低い濃度においては有意なスコアの抑制はみられなかった。よってジャトバ抽出物の効果が期待できる濃度は約9.375mg/マウス以上と考えられた。
【0313】
実施例29:高重合度プロシアニジンの効果が得られる投与時期の検討
発症期、急性期、慢性期以降からの高重合度プロシアニジン経口投与を行い、有効な投与時期について検討を行った。
【0314】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロールとして10% EtOHを、また高重合度プロシアニジンサンプルとしてジャトバFr3(実施例9)を50mg/mlになるように10% EtOHに溶解したものを用いた。
【0315】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。実験は一群12匹で実施した。
【0316】
(3)実験条件
一次免疫開始日第0日目から第46日目まで週5回、以下のような条件で経口投与を実施した。(第21日目開始を発症期、第28日目開始を急性期、第35日目開始を慢性期投与とした。)なお、一回あたりのジャトバFr3の投与量は12.5mg/mouseである。
I.コントロール群:一次免疫開始から実験終了まで250μlの10% EtOH溶液を経口投与。
II. ジャトバ投与群:一次免疫開始から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
III. 第21日目開始群:一次免疫開始から第20日目まで250μlの10% EtOHを、2次免疫日の第21日目から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
IV. 第28日目開始群:一次免疫開始から第27日目まで250μlの10% EtOHを、2次免疫日から1週間後の第28日目から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
V. 第35日目開始群:一次免疫開始から第34日目まで250μlの10% EtOHを、2次免疫日から2週間後の第35日目から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
【0317】
(4)臨床スコアの付け方
2次免疫日を0日目として、以降25日目まで臨床症状を観察した。スコアの付け方は実施例22と同じ。
【0318】
2.実験結果
発症期投与としての第21日目投与開始群と、急性期投与としての第28日目投与開始群は、コントロール群と比較して発症率に影響はなかった(表10)。しかし、第21日目投与開始群では最大スコアが対照群のほぼ半分に、第28日目投与開始群ではコントロール群の約68%程度にまで抑制されていた(表10)。
【表10】
【0319】
平均スコアの推移を図48に示した。第21日目及び第28日目開始群は投与を開始することで病状の悪化を抑制していることが示された。高重合度プロシアニジンの抗自己免疫疾患効果は一次免疫成立後でも、有効であることが示された。
【0320】
実施例30:高重合度プロシアニジンによる血中抗体価の抑制活性
慢性関節炎リウマチモデルの臨床症状に加え、血中抗体価の抑制を確認する事を目的として実施した。
【0321】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロール群として10% EtOHを、またジャトバ投与群としてジャトバFr3(実施例9)を50mg/mlになるように10% EtOHに溶解したものを用いた。
【0322】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。実験は一群12匹で実施した。
【0323】
(3)血中抗体価の測定
ウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)をリン酸バッファーで3μg/mlに調製したものを4℃で一晩コーティングしたプレートに500〜5000倍希釈した血清サンプルを添加して測定した。一次抗体には500倍希釈したAP−conjugateの抗total IgG抗体, 抗IgG1抗体, 抗IgG2a抗体(コスモバイオ)を用い、その後pNPP(フナコシ)にて発色させて410nmにて検出した。
【0324】
(4)実験条件
一次免疫開始日から第40日目まで週5回対照群には10% EtOHを250μl、ジャトバ群にはジャトバFr3を250μl経口投与した。第42日目に採血し、血清を調製した。
【0325】
2.実験結果
抗原であるコラーゲンに特異的な血中抗体価について調べた。IgG1,IgG2a,総IgG量のいずれもジャトバFr3投与により抑制された。更にIgG1/IgG2a比については上昇傾向を認めており、Th1免疫の抑制傾向を示した(図49)。この結果から高重合度プロシアニジン投与により自己抗体の産生が抑制されること、高重合度プロシアニジンによる慢性関節炎リウマチ抑制効果は抗原特異的な抗体産生の抑制効果を介していることが明らかとなった。
【0326】
実施例31:プロシアニジンの重合度別活性検討(I)
ジャトバ抽出物から3量体から6量体までのプロシアニジンを重合度ごとに調製したものを、EAEのex vivoの系を用いて検討した。
【0327】
1.実験方法
(1)投与試料
3量体から6量体までのプロシアニジン分画(実施例16)はプロシアニジン換算で各々5mg/mlになるように1% EtOH溶液に溶解した。また単量体として、(−)エピカテキン(シグマ)を、二量体として、Procyanidin B2(フナコシ)を各々購入し、同様の条件で溶解した。対照群には1% EtOH溶液を用いた。
【0328】
(2)実験動物
C57BL/6マウスを実施例3に記載のMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群12匹で第11日目に剖検を行った。
【0329】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0330】
(4)実験条件
第0日目から第10日目までコントロール群では週3回1%EtOHを200μl、(−)エピカテキン、Procyanidin B2と調製した各オリゴマーは5mg/ml(1% EtOH溶媒)を200μl腹腔内投与した。第11日目にて剖検し、脾臓細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)2μM MOG培地で37℃、5%CO2の条件で7日間培養し、培養上清を条件回収し、IFN−γ濃度測定を実施した。
【0331】
2.実験結果
IFN−γの測定結果を図50に示す。単量体(−)エピカテキンから6量体までの活性比較により、5量体以上のプロシアニジンにIFN−γ抑制がみられた。このことからこれまでみられていたジャトバ抽出物投与によるTh1サイトカインの抑制効果は重合度5以上のプロシアニジンによることが示唆された。
【0332】
実施例32:プロシアニジンの重合度別活性検討(II)
ジャトバ抽出物から3量体から9量体までのプロシアニジンを各重合度別に調製したもの(実施例16および実施例17)をEAEのex vivoの系を用いて検討した。今回、7量体乃至9量体の効果を検討するため、投与量は実施例31の半分の用量で実験を実施した。
【0333】
1.実験方法
(1)投与試料
3量体から9量体までのプロシアニジン精製物(実施例16および17)はプロシアニジン換算で各々2.5mg/mlになるように1% EtOH溶液に溶解した。また単量体として(−)エピカテキン(シグマ)を、二量体としてProcyanidin B2(フナコシ)を各々購入し、同様の条件で溶解した。コントロール群には1% EtOH溶液を用いた。
【0334】
(2)実験動物
C57BL/6マウスを実施例31に記載のMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群12匹で第11日目に剖検を行った。
【0335】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0336】
(4)実験条件
第0日目から第10日目までコントロール群では週3回1%EtOHを200μl、(−)エピカテキン、Procyanidin B2と調製した各オリゴマーはそれぞれ500μg/mouseとなるように腹腔内投与した。第11日目にて剖検し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)2μM MOG培地で37℃、5%CO2の条件で7日間培養し、培養上清を回収し、IFN−γ濃度測定を実施した。
【0337】
2.実験結果
IFN−γの測定結果を図51に示す。実施例31で5量体以上のプロシアニジンに活性があることを示したが、本実施例においては投与量を減少させて、更に9量体まで活性比較を実施した。投与量を減少させたため5量体での活性は弱まったが、5量体以上のプロシアニジンでは重合度が高くなると共に、活性が上昇し、9量体まで重合度と活性の相関関係を確認することができた。
【0338】
実施例33:ジャトバ抽出物の安全性試験(ジャトバ抽出物の単回投与によるラットを用いた急性毒性試験)
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバEtOH抽出物(実施例2)、緑茶ポリフェノール(単量体)としてのポリフェノン(三井農林)を200mg/mlの容量になるように10%EtOHに溶解した。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0339】
(2)実験動物
SD系ラット、雄、6週齢
(3)実験条件
第0日目に200mg/mlのジャトバEtOH抽出物または緑茶ポリフェノールを2g/kgとなるように強制的に経口投与した。第6日目まで毎日同時間に体重と、摂餌量を計測した。
【0340】
2.実験結果
ジャトバ投与群では毒性は認められず、体重変化(図52上)、摂餌量(図52下)ともに、対照群と変わらなかった。一方、緑茶ポリフェノール投与群では第1日目で10g以上の体重減少を3個体で認めたが、翌日から回復し、死亡例はなかった。以上の結果からジャトバ抽出物では急性毒性は認められないことが分かった。
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、自己免疫疾患治療剤に関し、詳細には、プロアントシアニジンを有効成分として含んでなる自己免疫疾患治療剤に関する。
【0002】
背景技術
近年、高齢化社会をむかえて慢性関節リウマチに代表される自己免疫疾患が増加している。自己免疫疾患には免疫応答のタイプの違う2種類に大別することができる。ひとつは細胞性免疫の過剰な亢進による疾患であり、もうひとつは自己抗体に媒介される疾患である。前者の非限定的な例は、慢性関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、自己免疫性甲状腺炎(AT)、若年性糖尿病やI型糖尿病等のインスリン依存型糖尿病(IDDM)、自己免疫ブドウ膜網膜炎(AUR)、乾癬症などである。後者の非限定的な例は、重症筋無力症(MG)、全身性エリテマトーデス(SLE)、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血などである。これら自己免疫疾患の既存の治療法としては、非特異的に免疫反応を抑制する免疫抑制剤が代表的である。例としてはメトトレキサート、シクロホスファミド、サイクロスポリンA、タクロリムス、各種ステロイド化合物などがある。これらの薬剤は毒性・副作用が深刻であるばかりでなく、治療期間中は免疫反応が抑制されているため感染症に罹患する危機にさらされる。このような背景の中、最近特にリウマチ治療において生物製剤が脚光を浴びている。細胞性免疫依存型の自己免疫疾患の増悪因子はTNF−α、IL−1、IL−6などの炎症性サイトカインであるが、抗TNF−α抗体、可溶性TNF−α受容体、抗IL−6受容体抗体、IL−1受容体アンタゴニストなどについて臨床試験が行われている。これらの生物製剤は、対症療法であるため継続的な投与を要する。
【0003】
ところで、自己免疫疾患の中で患者数が多いのは細胞性免疫亢進型自己免疫疾患である。このタイプでは、Th1細胞やTc1細胞が発症機序の中心的な役割を持っている。Th1細胞はヘルパーT細胞の亜群であり、抗原刺激に対して選択的にIFN−γ、TNF−α、IL−2などのTh1サイトカインを産生する。Th1細胞の分化には抗原提示細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ)が産生するIL−12と呼ばれるサイトカインが必須であるが、細胞性免疫亢進型自己免疫疾患では抗原提示細胞によるIL−12産生量が増加しており、いっそうTh1細胞が誘導されやすい環境となっている。Th1細胞はTh1サイトカイン環境を作り出し、細胞障害活性をもつT細胞であるTc1細胞の分化を誘導する。従ってTh1サイトカインの産生を抑制することが自己免疫疾患の治療および予防に有効であると言える。
【0004】
漢方薬を始めとする民間療法もこの分野では試みられることが多く、ある種の植物素材も自己免疫疾患に効果があることが経験的に知られている。
【0005】
例えば、雷公藤はリウマチに効果があることが報告され(BMC Pharmacol., 2004,4(1):2)、人参湯はI型糖尿病に効果があることが報告され(Microbiol. Immunol., 2000, 44(4):299-305)、カンランは多発性硬化症に効果があることが報告されている(Arzneimittelforschung, 1998, 48(6):668-74)。また、シダの1種であるPolypodium Leucotomosは古くから乾癬症の治療に使われている(Padilla HC., 1974. Int J Dermatol 13, 276-282; Gonzales S., et al., 2000, Anticancer Res.20, 1567-1576)。また、同じシダ類であるサマンバイア(Polypodium lepidopteris)のエキスにはCD4+T細胞やB細胞の数に影響を与えることなく、CD8+T細胞の数を増加させる作用があることが知られている(Hostettmann K., et.al., 1995 Phytochemistry of Plants Used in Traditional Medicine, Proceedings of the Phytochemical Society of Europe. Oxford University Press: Oxford, NY)。このような素材で得られる効果については、科学的な解明はされていないが、安価で手軽に試みられる利点がある。また、ジャトバ(Hymenaea courbaril、別名:アスカル・ワーヨ)の樹皮、樹液、樹脂、葉などは下痢止めや膀胱炎、肝炎、前立腺炎、咳の自然薬として用いられてきた(Rutter, R.A. 1990 Catalogo de Plantas Utiles de la Amazonia Peruana. Instituto Linguistico de Verano. Yarinacocha, Peru. 349)。現在でも、ジャトバ樹皮から作るお茶や液体エキスは食欲促進、疲労回復、滋養強壮、栄養補給剤として広く受け入れられている(Silva., 1930. Catalogo de Extractos Fluidos, Araija e Cia.Ltd., Rio de Janeiro, Brazil: Cruz GL., 1995. Dicionario das Plantas Uteis Do Brasil, 5th Ed. Rio de Janeiro: Bertrand Brazil)。また、ジャトバの樹皮に含まれているアチルビンと呼ばれるフラボノイドが、抗酸化効果や肝臓保護特性を生み出すことや抗菌作用とテルペンやフェノールとの因果関係が報告されている (Closa D et al., 1997. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids 56, 331-334;Pinheiro de SM., et.al., 1974. Molluscicidal activity of plants from Northeast Brazil. Rev Bras Fpesq Med Biol, 74: 389-394;Rouquayrol MZ., et al., 1980. Rev Brasil Pesq Med Biol 13, 135-143)。しかしながら、これらの成分のTh1サイトカイン産生に対する効果や自己免疫疾患に対する効果はこれまで報告がなされていない。
【0006】
ところで、プロアントシアニジンは様々な植物に広く含有される縮合型タンニンであり、酸処理によってアントシアニジンを与える。図1に示すように、主としてカテキン類すなわちフラバン−3−オールを基本単位として重合したポリフェノール成分である。すなわち、プロアントシアニジンとはフラバン骨格を基本として種々な部位に水酸基を有する単量体が重合した、非常に多様な化合物群の総称である。重合体の構成単位のうち、基端部をターミナルユニット、その他をエクステンションユニットと呼び、重合度は二量体、三量体のものから100量体以上の高分子にまで及ぶ。
【0007】
これまでに、プロアントシアニジンの好塩基球からのヒスタミン、ロイコトリエンなどの遊離抑制作用に基づく抗アレルギー剤としての利用が報告されている。(特開2001−278792号公報)また、抗肥満作用(特開平9−291039号公報)、マトリックスプロテアーゼ阻害作用(特表2003−504402号公報)、筋肉萎縮抑制作用(特開2002−338464号公報)、血糖降下作用(特開平4−253918号公報)など多様な報告がなされている。しかしながら、自己免疫疾患の治療および予防はもちろん、Th1サイトカインの産生抑制に関するプロアントシアニジンの作用は知られていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、特定の植物由来エキスがTh1偏向マウス脾臓細胞においてTh1サイトカインの産生を抑制すること、その効果をもたらす有効成分がポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンであること、特定の重合度を有するプロアントシアニジンが特にTh1サイトカインの産生抑制に有効であること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明者等はまた、4量体以上、特に5量体以上のプロアントシアニジンが実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおいて高い治療活性を示すこと等を確認した。
【0010】
本発明者らはまた、高重合度プロアントシアニジンがB細胞の活性化を抑制すること、自己抗体が誘導されたマウスにおいて高重合度プロアントシアニジンが自己抗体の産生を抑制すること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、インスリン依存型糖尿病をはじめとするTh1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患や自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤の提供を目的とする。
【0012】
本発明によれば、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含有してなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それら疾患の根治治療剤、およびそれら疾患の進行阻害剤(以下、「本発明による治療剤」という)が提供される。
【0013】
本発明によればまた、本発明による治療剤の製造のための、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用が提供される。
【0014】
本発明によれば更に、治療上の有効量の(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療方法、それら疾患の根治治療方法、およびそれら疾患の進行阻害方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プロアントシアニジンを構成するフラバン化合物の代表成分であるエピカテキンおよびカテキン並びにフラバン環3位水酸基にしばしばエステル付加する没食子酸の構造式をそれぞれ示した図である。
【図2】ヒト多発性硬化症モデルマウスの作成とジャトバ腹腔内投与のスケジュールを示した図である。
【図3】ヒト多発性硬化症モデルマウスにおける、ジャトバの抗自己免疫疾患活性を臨床スコアの変動により評価した図である。
【図4】A:脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γの産生活性に対するジャトバの抑制活性を示した図である。B:炎症性サイトカインであるTNF−αの産生活性に対するジャトバの抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図5】ジャトバの脱髄抑制効果を示した図である。コントロールマウス(Control, Score 3)(発症)とジャトバ投与マウス(50m/kg jatoba, Score 0)(無症状)を第15日目に剖検し、脊髄の脱髄の有無を観察した。
【図6】SJL/JマウスにPLPペプチドを用いて誘導したEAEモデルを第12日目で剖検し、脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γに対するジャトバの産生抑制活性を示した図である。「+PLP」はPLPペプチドを培養上清中に添加したもの、「−PLP」はPLPペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図7】A:ジャトバの予防投与1回の効果について臨床スコアの変動を示した図である。control:コントロール。Once:一回投与。B:第11日目で剖検し、脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γへジャトバの予防投与1回での抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図8】PVPP処理したジャトバ抽出物を投与した場合の臨床スコアの変動を示した図である。
【図9】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γおよび炎症性サイトカインであるTNF−αに対する、ジャトバ抽出物およびPVPP処理したジャトバ抽出物の抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図10】A:実施例7において、ジャトバエタノール抽出物を電子スプレーイオン化質量分析に供し、プロシアニジン二量体、三量体、四量体、五量体、そして六量体の分子イオンピークを観測したことを示した図である。B:実施例7において、ジャトバエタノール抽出物をマトリックス支援レーザー脱離イオン化―飛行時間型質量分析に供し、20以上の重合度を有するプロシアニジンの分子イオンピークが観測されたことを示した図である。
【図11】プロアントシアニジンを酸性条件下、トルエン−α−チオールと共に加熱する反応であるチオール開裂を模式的に示した図である。
【図12】ジャトバエタノール抽出物のチオール開裂反応生成物を逆相カラムクロマトグラフィで分析したクロマトグラムを示した図である。
【図13】ジャトバエタノール抽出物中のプロシアニジンを、メタノールとクロロホルムに対する溶解性の違いを利用して分別沈殿し、重合度別に分画したことを示した図である。※:プロシアニジンの平均重合度/含量%。
【図14】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γに対する、ジャトバエタノール抽出物および実施例9で分画された各画分(Fr)の抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図15】エピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)のプロトン(1H)NMRスペクトル(重アセトン、20℃、500MHz)であり、構造を同定する図である。
【図16】ベンジルチオールがフラバン環の4位に付加していることを証明する、エピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)のHMBCスペクトル(重アセトン、20℃、500MHz)の図である。
【図17】EC−BTEを標品としてHPLC分析を行ない、さらに各成分をモル換算して計算したプロシアニジンの平均重合度と含量%を示す図である。※:プロシアニジンの平均重合度/含量%。
【図18】アップルフェノン(登録商標)に含有されるプロシアニジンを逆相カラムクロマトグラフィで定量分析し、さらに液体クロマトグラフ質量分析によってそのメインピークが三量体であることを示した図である。
【図19】市販標品エピカテキンガレート(ECG)と精製したエピカテキンガレート−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)を比較するプロトン(1H)NMR (cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図20】ベンジルチオールがフラバン環の4位に付加していることを証明する、エピカテキンガレート−ベンジルチオールエーテル(ECG−BTE)のHMBC スペクトル(cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図21】エピカテキンガレート−ベンジルチオールエーテル(ECG−BTE)のHSQC (cd3od、20℃、600 MHz)であり、フラバン環4位、ベンジルチオールのSCH2部位のカーボンを帰属した図である。
【図22】市販標品カテキン(CA)と精製したカテキン−ベンジルチオールエーテル(CA−BTE)を比較するプロトン(1H)NMR (cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図23】ベンジルチオールがフラバン環の4位に付加していることを証明する、カテキン−ベンジルチオールエーテル(CA−BTE)のHMBC (cd3od、20℃、600 MHz)の図である。
【図24】カテキン−ベンジルチオールエーテル(CA−BTE)のHSQC (cd3od、20℃、600 MHz)であり、フラバン環4位、ベンジルチオールのSCH2部位のカーボンを帰属した図である。
【図25】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9で得られたFr.5)を重合度別に厳密に分離したことを示すLC−MSクロマトグラムの図である。実線枠は1価イオンによるピーク同定を、破線枠は2価イオンによるピーク同定を、それぞれ示す。丸数字3、4、5、6、7、および8は重合度3、4、5、6、7、および8を意味する。
【図26】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.4)を重合度別に厳密に分離したことを示すLC−MSクロマトグラムの図である。実線枠は1価イオンによるピーク同定を、破線枠は2価イオンによるピーク同定を、それぞれ示す。丸数字3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12は重合度3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12を意味する。
【図27】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.5)の重合度分布を分析した図である。丸数字2、3、4、5、6、7、8、9、および10は重合度2、3、4、5、6、7、8、9、および10を意味する。
【図28】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.4)の重合度分布を分析した図である。丸数字2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13は重合度2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13を意味する。
【図29】Discovery(登録商標)HS PEGカラムを用いてプロシアニジン(実施例9と同様にして調製したFr.3)の重合度分布を分析した図である。丸数字2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13は重合度2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、および13を意味する。
【図30】EAE臨床スコアへの各種プロシアニジン含有サンプルの影響を示した図である。括弧内の数字は平均重合度を示す。
【図31】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γへの各種プロシアニジン含有サンプルの抑制活性を示した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図32】脾臓細胞が産生するTh1サイトカインであるIFN−α産生活性に対する他素材の高重合度プロシアニジン活性を比較した図である。「+MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加したもの、「−MOG」はMOGペプチドを培養上清中に添加しないものを意味する。両者の比較により抗原依存的な反応を確認できる。
【図33】慢性関節炎誘導モデルマウスの作成とジャトバ腹腔内投与のスケジュールを示した図である。
【図34】TypeIIコラーゲン誘導関節炎モデルにおける、ジャトバ腹腔内投与群とコントロール群の臨床スコアの変動を示した図である。
【図35】I型糖尿病誘導モデルマウスの作成とジャトバ腹腔内投与のスケジュールを示した図である。
【図36】I型糖尿病誘導モデルマウスにおける、インビボにおけるジャトバ腹腔内投与群とコントロール群の糖尿発症率の変動を示した図である。
【図37】9週齢で剖検し、脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γに対するジャトバの抑制活性を示した図である。
【図38】I型糖尿病自然発症モデルマウス実験スケジュールを示した図である。
【図39】I型糖尿病自然発症モデルにおける抗原特異的な脾臓細胞の反応性を、インスリン依存的なIFN−γ産生活性で示した図である。
【図40】I型糖尿病自然発症モデルにおける脾臓細胞のポピュレーションを示した図である。
【図41】I型糖尿病自然発症モデルにおけるマクロファージの表面抗原発現レベルを示した図である。
【図42】I型糖尿病自然発症モデルにおけるジャトバ投与による発症率抑制を示した図である。
【図43】EAEモデルを用い、脾臓細胞における各免疫担当細胞割合の経時変化を示した図である。
【図44】EAEモデルにおける脾臓細胞中のマクロファージの細胞表面抗原発現量を示した図である。
【図45】リウマチモデルにおけるジャトバ抽出物、ポリフェノン、ジャトバ抽出物Fr3の経口投与の効果を臨床スコアで示した図である。
【図46】リウマチモデルにおけるジャトバの経口投与の効果を脾細胞の抗原特異的IFN−γ産生量で示した図である。「+コラーゲン」はタイプIIコラーゲンを培養上清中に添加したもの、「−コラーゲン」は添加しないものを意味する。両者を比較することにより抗原依存的な反応を確認できる。
【図47】リウマチモデルを用い、ジャトバFr3の効果について用量依存性を臨床スコアで示した図である。
【図48】ジャトバ投与の開始時期別に慢性関節炎リウマチスコアを示した図である。
【図49】慢性関節リウマチにおけるジャトバ抽出物Fr3による血中抗体価の抑制を示した図である。
【図50】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γの産生活性に対する各オリゴマーでの活性を比較した図である。
【図51】脾臓細胞の産生するTh1サイトカインであるIFN−γの産生活性に対する各オリゴマーでの活性を比較した図である。
【図52】ジャトバEtOH抽出物およびポリフェノンの単回投与による体重、摂餌量への影響を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0016】
有効成分
本発明において有効成分である「プロアントシアニジン」とは、カテキン類、すなわち、フラバン骨格を基本単位とするポリフェノール類をいう。その構成単位としては、例えば、フラバン−3−オールとしてカテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピディステニン(B環に水酸基を有さない)、アフゼレチン(Afzelechin)、エピアフゼレチン(epiafzelechin)が挙げられ、さらにフラバン−4−オール、ロイコアントシアニン(すなわち、フラバン−3,4−ジオール)、およびアントシアニジン等が挙げられる。
【0017】
3位の水酸基は没食子酸とエステル(ガレート)を形成していてもよく、3位以外のいずれかの部位の水酸基が配糖体あるいはメチルエーテル(メトキシ)を形成していてもよい(図1参照)。
【0018】
プロアントシアニジンの構成単位同士の主たる結合部位としては、4位と6位または4位と8位のいずれか1箇所(Bタイプ結合)、あるいは4位と8位および2位と7位酸素の2箇所(Aタイプ結合)が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、またこれら結合の立体配置も特に限定されるものではない。
【0019】
ある特定の単量体が重合したプロアントシアニジンには慣用名が与えられ、代表的なプロアントシアニジンとしては、B環(図1参照)の水酸基の数に応じて定義・分類された、プロペラルゴニジン(4’−OH)、プロシアニジン(3’−OH,4’−OH)、プロデルフィニジン(3’−OH,4’−OH,5’−OH)が挙げられるが、プロアントシアニジンはこれらに限定されるものではない。例えば、A環5位の水酸基を欠く成分を構成単位とした重合体であるプロガイボールチニジン(proguibourtinidin)、プロフィセチニジン、およびプロロビネチニジンがあり、さらにその他特定部位の水酸基の有無に応じて、プロテラカシジン、プロメラカシジン、プロアピゲニニジン、プロルテオリニジン等の慣用名を持つ成分が挙げられる。
【0020】
本発明において「プロアントシアニジン」は、好ましくは、プロシアニジンおよびプロデルフィニジンである。「プロシアニジン」の構成単位は、同一または異なっていてもよく、カテキン、エピカテキン、カテキンガレート、およびエピカテキンガレートから選択できる。「プロデルフィニジン」の構成単位は、同一または異なっていてもよく、ガロカテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンガレート、およびエピガロカテキンガレートから選択できる。
【0021】
本発明において有効成分として用いる「重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン」は、好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンであることができる。
【0022】
本発明において用いられるプロアントシアニジンは、その重合度が5以上の場合に実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおいて高い治療活性を示した(実施例31、図50)。従って、本発明において用いられるプロアントシアニジンの重合度は、少なくとも5であることが好ましい。
【0023】
本発明において用いられるプロアントシアニジンの重合度の上限は特に限定されるものではないが、プロアントシアニジンが植物由来である場合には、20量体〜30量体程度のプロアントシアニジンが確認されている。またプロアントシアニジンを有機合成する場合には、経済性および合成操作の便宜の観点から20量体〜30量体程度を重合度の上限とすることができる。更に、重合度が5以上のプロアントシアニジンに高い治療活性が認められたことから、プロアントシアニジンの重合度の上限を10量体程度としても、本発明による効果を期待できる。従って本発明においては、プロアントシアニジンの重合度は、4〜30量体、4〜20量体、あるいは4〜10量体とすることができ、好ましくは、5〜30量体、5〜20量体、あるいは5〜10量体である。また本発明においては、プロアントシアニジンの重合度を、5〜6量体、5〜7量体、5〜8量体、および5〜9量体とすることができる。本発明においてプロアントシアニジンの重合度は、例えば、質量分析法(Jan F. Stevens et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 3435-3443)により測定することができ、具体的には、実施例7、実施例16、実施例17、および実施例19に従って測定することができる。
【0024】
本発明において、プロアントシアニジンは式(I)で表すことができる。
【化1】
(上記式中、R1、R2、R5、R6、およびR7は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または−O−R11(R11は炭素数1〜4のアルキル基または糖残基を表す。)を表し、R3およびR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または基(II):
【化2】
を表し、但し、R3およびR4の両方が水酸基を表すことはなく、R3およびR4の両方が基(II)を表すことはなく、nは4〜30の整数を表し、各構成単位は、4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合しているか、あるいは4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している。)
式(I)中、R11が表すことがある「炭素数1〜4のアルキル基」は、好ましくは、メチル基である。
【0025】
式(I)中、R11が表すことがある「糖残基」は、ヘミアセタール性またはヘミケタール性水酸基とR3またはR4の水酸基とのエーテル結合を通じて式(I)の化合物に結合した糖を意味する。糖としては、例えば、グルコース、アロース、アルトロース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フルクトース、キシロース、リボース、アラビノース、リキソース、ラムノースが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
式(I)中、構成単位の2位、4位、6位、または8位を通じて各構成単位同士が結合する場合には、2位、4位、6位、または8位には水素原子の代わりに単結合が存在する。
【0027】
式(I)中、構成単位の7位を通じて各構成単位同士が結合する場合には、7位にはR2の代わりに、−O−が存在する。
【0028】
式(I)における各構成単位に存在する置換基は、すべて同一であっても、構成単位ごとに異なっていてもよい。
【0029】
式(II)中の水酸基は、同一または異なっていてもよく、R11−O−(R11は前記と同義である)を表すことができる。
【0030】
式(I)中、各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R6が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR7が水素原子を表す化合物、およびR1およびR2が水酸基を表し、R6が水酸基を表し、R5およびR7が水素原子を表す化合物は、プロペラルゴニジンに対応する。これらの場合において、R3およびR4いずれか一方が水酸基または基(II)を表し、他方が水素原子を表す場合が好ましい。
【0031】
式(I)中、各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R7が水素原子を表す化合物、およびR1およびR2が水酸基を表し、R5およびR6が水酸基を表し、R7が水素原子を表す化合物は、プロシアニジンに対応する。これら場合において、R3およびR4いずれか一方が水酸基または基(II)を表し、他方が水素原子を表す場合が好ましい。
【0032】
式(I)が表す構成単位のうち
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はカテキンガレートに対応し、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3およびR7が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピカテキンガレートに対応する。
式(I)中、各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表す化合物、およびR1およびR2が水酸基を表し、R5、R6、およびR7が水酸基を表す化合物は、プロデルフィニジンに対応する。これら場合において、R3およびR4いずれか一方が水酸基または基(II)を表し、他方が水素原子を表す場合が好ましい。
【0033】
式(I)が表す構成単位のうち
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4が水素原子を表す式(I)の構成単位はガロカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピガロカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、R6がR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4が水素原子を表す式(I)の構成単位はガロカテキンガレートに対応し、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3が水素原子を表す式(I)の構成単位はエピガロカテキンガレートに対応する。
【0034】
式(I)中、nはプロアントシアニジンの重合度(量体)を表す。nは好ましくは5〜30の整数を表す。nはまた、4〜20、4〜10、5〜20、5〜10、5〜6、5〜7、5〜8、5〜9の整数であることができる。
【0035】
式(I)における各構成単位の結合様式としては、Aタイプ結合とBタイプ結合が挙げられる。Aタイプ結合は、各構成単位が4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している結合様式をいう。Bタイプ結合は、各構成単位が4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合している結合様式をいう。本発明においては、式(I)における構成単位同士の結合すべてがAタイプ結合である場合やBタイプ結合である場合のみならず、Aタイプ結合とBタイプ結合が混在している場合も含まれる。各構成単位の結合は、すべて同一であっても、構成単位ごとに異なっていてもよい。
【0036】
式(I)における各構成単位の結合様式の好ましい例は下記の通りである(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンにはガレート体も含まれる)。
【0037】
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→6結合)−カテキン/ガロカテキン;
[エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン/エピガロカテキン;および
エピカテキン/エピガロカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン。
【0038】
式(I)が表すプロアントシアニジンのうち好ましい例としては、
各構成単位が、同一または異なっていてもよく、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4およびR7が水素原子を表す(カテキン)か、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3およびR7が水素原子を表す(エピカテキン)か、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4およびR7が水素原子を表す(カテキンガレート)か、
− R1、R2、R5、およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3およびR7が水素原子を表す(エピカテキンガレート)か、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が水酸基を表し、R4が水素原子を表す式(I)の化合物はガロカテキンに対応し、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が水酸基を表し、R3が水素原子を表す(エピガロカテキン)か、
− R1、R2、R5、R6がR7が水酸基または−O−R11を表し、R3が式(II)を表し、R4が水素原子を表す(ガロカテキンガレート)か、
− R1、R2、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表し、R4が式(II)を表し、R3が水素原子を表し(エピガロカテキンガレート)
nが5〜30の整数を表し、
各構成単位の結合が、同一または異なっていてもよく、
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→8結合)−カテキン/ガロカテキン;
エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン/エピガロカテキン;
カテキン/ガロカテキン−(4α→6結合)−カテキン/ガロカテキン;
[エピカテキン/エピガロカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン/エピガロカテキン;および
エピカテキン/エピガロカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン/ガロカテキン
から選択される(但し、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンにはガレート体も含まれる)、式(I)の化合物が挙げられる。
【0039】
式(I)における各構成単位の結合様式の特に好ましい例は下記の通りである。
【0040】
エピカテキン−(4β→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→6結合)−カテキン;
[エピカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン;および
エピカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン。
【0041】
式(I)が表すプロアントシアニジンのうち特に好ましい例としては、
各構成単位が、同一または異なっていてもよく、R1、R2、R3、R5、およびR6が水酸基を表し、かつR4およびR7が水素原子を表す(カテキン)か、あるいはR1、R2、R4、R5、およびR6が水酸基を表し、かつR3およびR7が水素原子を表し(エピカテキン)、
nが5〜30の整数を表し、
各構成単位の結合が、同一または異なっていてもよく、
エピカテキン−(4β→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→8結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→8結合)−カテキン;
エピカテキン−(4β→6結合)−エピカテキン;
カテキン−(4α→6結合)−カテキン;
[エピカテキン−(4β→8)]2−エピカテキン;および
エピカテキン−(2β→7,4β→8結合)−カテキン
から選択される、式(I)の化合物が挙げられる。
【0042】
プロアントシアニジンは多くの植物に存在する成分であり、植物から抽出することにより調製することができる。プロアントシアニジンを植物から調製するための好ましい原料としては、ジャトバ、葡萄種子、クランベリー、シナモン、および松樹皮等が挙げられ、プロアントシアニジンの含有量の豊富な点からジャトバがより好ましい。プロアントシアニジンを含有する植物素材としては、例えば、ジャトバ樹皮乾燥粉末(有限会社エジソン・エス・アール・エル日本事務所)、クランベリー由来抽出物(「クランベリーパウダー」(キッコーマン(株))、葡萄種子由来抽出物(「グラビノールSL」(キッコーマン(株))、松樹皮由来抽出物(有限会社素材機能研究所)、カカオ由来抽出物(「カカオポリフェノール」(明治製菓(株))が挙げられ、これらをそのまま、あるいは後述するように所望の程度に高重合度のものを適宜分画精製し、本発明による有効成分として用いることができる。
【0043】
従って本発明では、「プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物」を有効成分として使用することができる。「プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物」としては、例えば、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、カカオ抽出物が挙げられるが、プロアントシアニジン(特に重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する限り、その素材は限定されない。
【0044】
本発明において有効成分として用いる「プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物」は、好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物であることができる。
【0045】
植物素材に含まれているプロアントシアニジンの構成成分を例示すると、表1の通りである。
【表1】
(表中、R1乃至R7は式(I)に対応し、ECはエピカテキンを、CAはカテキンを、ECGはエピカテキンガレートを、EGCGはエピガロカテキンガレートを、Gはガレートをそれぞれ表す。)
本発明による有効成分であるプロアントシアニジンおよび抽出物を、前述したような植物原料から分画精製する方法として、具体的には、該植物原料をそのままもしくは粉砕後、抽出操作に供することによって調製することができる。抽出方法としては、例えば、溶媒中に植物原料あるいは、その粉砕物などを冷浸、温浸等によって浸漬する方法;加温し攪拌しながら抽出を行い、濾過して抽出液を得る方法;またはパーコレーション法等を挙げられる。得られた抽出液は、必要に応じてろ過または遠心分離によって固形物を除去した後、使用の態様により、そのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮若しくは乾燥して用いてもよい。また濃縮乃至は乾燥後、さらに非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、またこれを更に適当な溶剤に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。更に、本発明においては、例えば、上記のようにして得られた溶媒抽出液を、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段により抽出エキス乾燥物として使用することもできる。従って、本発明における「抽出物」には、抽出物そのもののみならず、抽出物の濃縮物や乾燥物も含まれる。
【0046】
上記抽出に用いられる溶媒としては、例えば、水;メタノール,エタノール,プロパノールおよびブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール類;その他エチルエーテル、アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼンやヘキサン等の炭化水素;エチルエーテルや石油エーテルなどのエーテル類等の非極性溶媒の公知の有機溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用することもできる。より好ましくは、熱水、エタノール、またはアセトン等を用いた抽出方法を挙げることができる。特に、平均重合度の高いプロアントシアニジン画分を分画する場合には、70%アセトンあるいはエタノールによる抽出が有効である。更に特定平均重合度の画分を取得したい場合には、以下に述べるように70%アセトンあるいはエタノール抽出物を酢酸エチル/水により抽出した後、水層画分をメタノールに再溶解し、Saucierらの方法(J Agric Food Chem 49, 5732-5735(2001))に従いクロロホルムを用いた分画をおこなってもよい。即ち、プロアントシアニジンは重合度が高いほど低い濃度のクロロホルムで不溶となる性質を利用し、クロロホルム濃度を適宜変えていくことにより、所望の平均重合度の画分を得ることができる。従って本発明において「抽出物」は、好ましくは、水抽出物、エタノール抽出物、またはアセトン抽出物であることができる。
【0047】
上記のような溶媒抽出/沈殿操作に加えて、さらに慣用の分画精製手段を採用しても良い。具体的には、プロアントシアニジンを吸着かつ溶離できる吸着剤、例えばスチレンージビニルベンゼン系の合成吸着樹脂、陰イオン交換樹脂、オクタデシル基化学結合型シリカゲル(ODS)、ゲルろ過樹脂(Sephadex LH20など)などが使用される。これらの吸着剤を充填したカラムに上記の清澄抽出液や清澄果汁液などを通すことによりプロアントシアニジンを吸着させ、洗浄後、それぞれに適した溶出液を通すことにより、プロアントシアニジンの分画精製を行なうことができる。また、分子量分画膜を用いた膜分離法等を用いることもできる。
【0048】
各種抽出分画方法は特定重合度のプロアントシアニジンのみを得る目的で、あるいは、医薬や食品として用いる場合に安全性、物性、風味等の点で好ましくない成分あるいは溶媒を除去する目的でも使用することができる。
【0049】
本発明によれば、Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分の製造法であって、
(a)プロアントシアニジンを含有する植物原料を抽出操作に付す工程;および
(b)工程(a)で得られた抽出画分を限外濾過操作に付して、ケーキ(濾滓)を得る工程
を含んでなる、製造法が提供される。
【0050】
工程(a)の抽出操作および植物原料は前記の通りである。工程(a)の抽出操作においては好ましくは極性溶媒を用いることができ、特に、エタノール、水、含水アセトンが好ましい。植物原料としては好ましくはプロアントシアニジンを含有する植物を用いることができる。
【0051】
工程(a)においては、抽出液を溶媒留去して抽出画分を得、次いで、この抽出画分を非極性有機溶媒(例えば、酢酸エチル)/水を用いた抽出操作に付すことにより、水溶性画分とすることができる。あるいは、工程(a)で得られた抽出画分をそのまま工程(b)の限外濾過操作に付してもよい。
【0052】
工程(b)の限外濾過操作においては、Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分が限外濾過膜に残存するように(すなわち、限外濾過膜を透過しないように)、カットオフ値を設定することができる。Th1サイトカイン産生抑制活性とプロアントシアニジンの重合度の関係は上記した通りであり、限外濾過膜を透過する物質の分子量とカットオフ値との関係は当業者に周知であることから、当業者であれば製造すべきプロアントシアニジンの種類に応じて限外濾過膜のカットオフ値を適宜設定することができる。例えば、少なくとも5以上の重合度のプロシアニジンが高いTh1サイトカイン産生抑制活性を有し、重合度5のプロシアニジンの分子量は約1442であることから、例えば、カットオフ値を1400と設定することができる。
【0053】
工程(b)の後、必要に応じてケーキに含まれるプロアントシアニジンの重合度を測定してもよい。重合度は質量分析法(Jan F. Stevens et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 3435-3443)により測定することができる。またチオール開裂分析法(Sylvain Guyot, Nathalie Marnet, and Jean-Francois Drilleau, J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 14-20)により平均重合度を測定してもよい。プロアントシアニジンの重合度を測定することにより、Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分の製造を確認することができる。
【0054】
本発明による有効成分であるプロアントシアニジンは、重合度が4以上、好ましくは5以上である。従って、植物からプロアントシアニジンを調製する場合、元来重合度が4以上あるいは5以上のプロアントシアニジンを含有する抽出物の場合はそのまま有効成分として、あるいは後述実施例に示した活性測定法により活性を指標にするか、あるいは重合度を指標にして更に有効成分を分画・精製して使用することができる。また、平均重合度が3以下の抽出物についても、後述実施例に示した活性測定法により活性を指標にするかあるいは重合度を指標にして重合度が4以上の有効成分を多く含むものを分画・精製し使用することができる。医薬組成物あるいは食品中において、複数の重合度のプロアントシアニジンを含む場合は、平均重合度として4以下のものであっても、4以上の重合度のものを有効量含有している限り本発明の範囲内であるが、平均重合度が約4以上のプロアントシアニジンをより好ましくは用いることができる。
【0055】
プロアントシアニジンは植物からの抽出以外に、有機化学合成により調製してもよい(例えば、Swain et al., 1954. Chem Ind, 1144、Eastmond., 1974. J Inst Brew 80, 188. Kozikowski AP et al., 2003、 J Org Chem 68, 1641-1658、および特表2002−542240号公報参照)。
【0056】
用途
本発明において用いられるプロアントシアニジンおよびジャトバ等の特定植物の抽出物は、Th1偏向させた脾臓細胞においてTh1サイトカイン(具体的には、IFN−γ)産生を抑制し、細胞性免疫過多の状況を改善・抑制する。従って、本発明による医薬組成物は、Th1サイトカイン産生の抑制が治療に有効である疾患の治療に有効である。
【0057】
Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患としては、例えば、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患が挙げられる。本発明において「Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患」とは、細胞性免疫依存型自己免疫疾患を含む意味で用いられるものとする。
【0058】
Th1依存型自己免疫疾患としては、多発性硬化症(MS)、慢性関節リウマチ(RA)、若年性糖尿病やI型糖尿病等のインスリン依存型糖尿病(IDDM)、自己免疫性甲状腺炎(AT)、自己免疫性ブドウ膜網膜炎(AUR)、橋本病、乾癬症、クローン病、および円形脱毛症が挙げられる。
【0059】
Th1依存型自己免疫疾患では、炎症局所へのリンパ球(Th1細胞)の浸潤や血中でのTh1サイトカイン(例えば、IFN−γやTNF−α)の濃度亢進が認められている(Skurkovich B & Skurkovich S, Curr Opin Mol Ther. 2003 Feb;5(1):52-7; Fuss, I.J., et al, J. Immunol. 157:1261(1996); Gherardo M., et al, European Journal of Endocrinology(2003) 148 383-388)。更に、抗IFN−γ抗体や抗TNF−α抗体を使用することにより自己免疫疾患の症状が実際に改善することが報告されている(Skurkovich B & Skurkovich S, Curr Opin Mol Ther. 2003 Feb;5(1):52-7)。従って、これらの疾患の原因因子であるTh1サイトカイン(例えば、IFN−γやTNF−α)を抑制することは、これらの疾患の治療に有効である。
【0060】
本発明において用いられる高重合度プロアントシアニジンは、自己抗体が誘導されたマウスにおいて自己抗体の産生を抑制する(実施例30)。本発明において用いられる高重合度プロアントシアニジンを含有する抽出物は、自己抗体産生と密接な関連性を有するB細胞の活性化を抑制する(実施例25)。従って、本発明による医薬組成物は、自己抗体の産生抑制やB細胞の活性化の抑制が治療に有効である疾患の治療に有効である。
【0061】
自己抗体の産生抑制やB細胞の活性化の抑制が治療に有効である疾患としては、自己抗体媒介型自己免疫疾患(例えば、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、シェーグレン症候群、急性リウマチ熱、尋常性天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、および混合型本態性クリオグロブリン血症)が挙げられる。
【0062】
自己抗体媒介型自己免疫疾患では、自己抗体の産生あるいは産生亢進や、B細胞の活性化が認められている(Clin.Exp.Immunol.,1985:62:639-46; N.Engl.J.Med.,338:1359)。更に、B細胞の活性化の抑制が自己抗体産生に起因する自己免疫疾患の治療に有効であること(Int. Immunol.,2001:13(7):921-31)、自己反応性B細胞の増殖阻害と全身性エリテマトーデスの改善が一致すること(J.Clin.Invest.,2000:106(1):91-101)が報告されている。従って、これらの疾患の原因因子である自己抗体の産生を抑制することや自己抗体の産生に密接に関連するB細胞の活性化を抑制することは、これらの疾患の治療に有効である。本発明において「自己抗体の産生抑制」とは、自己抗体の産生と密接に関連するB細胞の活性化の抑制を含む意味で用いられるものとする。
【0063】
本発明において用いられるプロアントシアニジンはTh1サイトカインの産生を抑制することができる。従って本発明は、Th1サイトカインの産生が本質的な原因である疾患を根治でき、あるいはその疾患の進行を阻害できる点で、対症療法的に用いられる治療剤よりも有利である。特に慢性関節リウマチについては、炎症の抑制や痛みの軽減といった対症療法的に用いられる従来の治療剤とは異なり、根治治療することあるいは疾患の進行を阻害することが可能となる点で、本発明は有利であると言える。プロアントシアニジンによる慢性関節リウマチの根治治療は、実施例28および29において慢性関節リウマチモデルマウスにおいて臨床スコアが改善されたとともに、実施例30においてリウマチ抗体(自己抗体)の産生が抑制されたことからも裏付けられている。また、プロアントシアニジンによる慢性関節リウマチの病状の進行阻害は、実施例28および29において慢性関節リウマチモデルマウスにおいて一次免疫成立後においても臨床スコアが改善されたとともに、実施例30においてリウマチ抗体(自己抗体)の産生が抑制されたことからも裏付けられている。
【0064】
慢性関節リウマチにおいては、疾患の初期においてT細胞(具体的にはTh1細胞)が活性化され、それに伴って症状が発現しはじめること、疾患の中期あるいは慢性期において、活性化したT細胞によりB細胞の自己抗体産生が促され、異常に産生された自己抗体により症状の慢性化、重篤化に至ることが報告されている(Cin Exp Immunol 1998; 111:521-526; Springer Semin Immunopathol. 2003 Aug;25(1):3-18; Immunol Rev. 1990 Dec;118:193-232)。またマウスにおいてIgGレベルを低下させることによりリウマチが抑制されたことが報告されている(Ann Rheum Dis.,2003,62:707-14)。上記のようにプロアントシアニジンはTh1サイトカインを抑制し、Th1細胞の活性化を抑制するとともに、Th1細胞活性化により刺激された自己抗体であるリウマチ抗体の産生を実際に抑制した。また本発明による有効成分は、自己抗体産生と密接な関連性を有するB細胞の活性化を抑制した。従って、本発明において用いられるプロアントシアニジンは、慢性関節リウマチの初期の病状のみならず、慢性化、重篤化した病状の治療に用いることができる点でも有利である。
【0065】
従って本発明によれば、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、慢性関節リウマチの根治治療剤およびその進行阻害剤が提供される。
【0066】
本発明によればまた、治療上の有効量の(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、慢性関節リウマチを根治治療する方法およびその進行を阻害する方法が提供される。
【0067】
本発明によればまた、慢性関節リウマチの根治治療剤およびその進行阻害剤の製造のための、(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジン(好ましくは、重合度が5以上のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を含有する植物素材の抽出物の使用が提供される。
【0068】
本発明において「治療」とは、疾患の改善、調節、遅延、予防(特に、発症の予防および再発予防)を含む意味で用いられる。
【0069】
医薬組成物および食品組成物
本発明による治療剤は、前述した本発明による有効成分であるプロアントシアニジン、あるいは、それを含有した植物エキスや該エキスからの部分精製物を、有効成分として用い、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合することにより製造できる。本発明による治療剤は、経口または非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学的に許容される担体(例えば、賦形剤、添加剤)とともに製剤化することができる。薬学的に許容される賦形剤や添加剤としては、担体、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体としては、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等が挙げられる。
【0070】
製剤は、例えば下記のようにして製造できる。
【0071】
経口剤は、有効成分として、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などを用いることができる。
【0072】
注射剤は、有効成分を分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO 60(日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などと共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
【0073】
外用剤は、有効成分を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造することができる。例えば、上記固状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロース、白糖)、増粘剤(例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体)などを添加、混合して粉状とすることにより製造できる。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造できる。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟骨状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例えば、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム)などを含んでいてもよい。坐剤は、有効成分を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造できる。該組成物に用いる油性基剤としては、高級脂肪酸のグリセリド〔例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製)〕、中級脂肪酸〔例えば、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製)〕、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油)が挙げられる。水性基剤としては、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコールが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体が挙げられる。
【0074】
製剤化に当たっては、本発明による有効成分以外の1種またはそれ以上の医療上有効な有効成分を更に添加・配合してもよい。また本発明による有効成分の投与に当たっては、本発明による有効成分以外の1種またはそれ以上の医療上有効な有効成分を組み合わせて投与してもよい。このような他の有効成分としては、抗炎症剤、消炎鎮痛剤、免疫抑制剤、その他の自己免疫疾患治療剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗炎症剤としては、ステロイド抗炎症剤、非ステロイド抗炎症剤が挙げられる。ステロイド抗炎症剤としては、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾロン、メチルプレドニン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、ベタメタゾンが挙げられる。非ステロイド抗炎症剤としては、アスピリン、ジフルニサル、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリンダイアルミネートなどのサリチル酸系非ステロイド抗炎症剤;ジクロフェナクナトリウム、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、アセメタシン、マレイン酸プログルメタシン、アンフェナクナトリウム、ナブメトン、モエゾラク、エトドラグなどのアリール酸系非ステロイド抗炎症剤;メフェナム酸、フルフェナム酸アルミニウム、トルフェナム酸、フロクタフェニンなどのフェナム酸系非ステロイド抗炎症剤;イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェンカルシウム、チアプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、ナトリウム、アルミノプロフェン、ザルトプロフェンなどのプロピオン酸系非ステロイド抗炎症剤;ピロキシカム、アンピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカムなどのオキシカム系非ステロイド抗炎症剤;塩酸チアラミド、エピリゾール、エモルファゾンなどの塩基性非ステロイド抗炎症剤が挙げられる。免疫抑制剤としては、サイクロスポリン、FK506が挙げられる。その他の自己免疫疾患治療剤としては、インターフェロンβなどの多発性硬化症治療剤が挙げられる。
【0075】
本発明による有効成分を、抗炎症剤、消炎鎮痛剤、免疫抑制剤などの他の有効成分と組み合わせることにより、治療活性がより強化された多機能性治療剤を提供することができる。特に、本発明による有効成分を、抗炎症剤や消炎鎮痛剤などの自己免疫疾患の対症療法に用いられる薬剤と併用することにより、自己免疫疾患の根本治療と対症治療が期待できる治療剤を提供することができる。また、本発明による有効成分を、免疫抑制剤などの根本治療が期待される薬剤と組み合わせることにより、自己免疫疾患の根本治療効果が強化された治療剤を提供することができる。慢性関節リウマチの治療に当たっては、本発明による有効性成分をコンドロイチンやムコ多糖を主成分とするグルコサミンと組み合わせてて投与してもよい。
【0076】
本発明による治療剤は、医薬品への適用のみならず、食品への適用も意図されている。従って、本発明による治療剤の食品への適用に当たっては、後述するような食品に関する記述を参照することができる。
【0077】
本発明による食品は、本発明による有効成分であるプロアントシアニジンを有効量含有した食品である。ここで「有効成分を有効量含有した」とは、個々の飲食品において通常喫食される量を摂取した場合に、後述するような範囲で有効成分が摂取されるような含有量をいう。本発明による食品には本発明による有効成分をそのままあるいは上記のような組成物の形態で、食品に配合することができる。より具体的には、本発明による食品は、前述した本発明による有効成分であるプロアントシアニジン、あるいはそれを含有した植物抽出物や該抽出物からの部分精製物をそのまま、飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、ペースト状のもの、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。本発明において「食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が摂取可能なものであればその形態に特に制限はない。
【0078】
本発明において「食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
【0079】
また「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であってもよい。
【0080】
本発明によれば、重合度が少なくとも4のプロアントシアニジンを、成人1人1日当たり50〜2000mg(好ましくは、400〜2000mg)の摂取量となるように含んでなる、健康食品が提供される。
【0081】
本発明によればまた、重合度が少なくとも5のプロアントシアニジンを、成人1人1日当たり50〜2000mg(好ましくは、400〜2000mg)の摂取量となるように含んでなる、健康食品が提供される。
【0082】
上記健康食品に含有されるプロアントシアニジンは、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される抽出物であって、重合度が少なくとも4あるいは少なくとも5のプロアントシアニジンを含む抽出物の形態で提供されてもよい。
【0083】
上記健康食品はまた、通常の食品の形状であっても、栄養補助食品の形状(例えば、サプリメント)であってもよい。
【0084】
本発明による有効成分は、Th1偏向させた脾臓細胞においてTh1サイトカイン(具体的には、IFN−γ)の産生を抑制し、細胞性免疫過多の状況を改善・抑制作用を有する。本発明による有効成分はまた、自己抗体が誘導されたマウスにおいて自己抗体の産生を抑制する。このため、日常摂取する食品やサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品に本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物を添加・配合することにより、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能、特に自己免疫疾患の治療機能を併せ持つ食品を提供することができる。
【0085】
従って、本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効成分として含む、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態(例えば、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患や自己抗体媒介型自己免疫疾患に特徴的な全身の強張りや関節の違和感)の改善または緩和機能が表示された食品が提供される。このような表示は、食品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかに付すことができる。
【0086】
本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療、それらの疾患の根治治療、および/またはそれらの疾患の進行阻害に用いられる食品が提供される。
【0087】
本発明によればまた、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する食品が提供される。
【0088】
本発明によれば更に、(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する抽出物を含んでなる食品が提供される。
【0089】
本発明による食品は、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能等の機能を期待する消費者に適した食品、すなわち、特定保健用食品、として提供することができる。ここでいう特定保健用食品とは、Th1サイトカイン産生抑制、自己抗体産生抑制、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和等を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から、各国において法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。
【0090】
本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物の添加・配合の対象である日常摂取する食品としては、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルト、プリン、ゼリーなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ジュースや清涼飲料水、乳飲料等の各種飲料;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギなど)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)などを例示することができるが、これらに特に制限されない。
【0091】
本発明のより好ましい態様によれば、添加・配合の対象である食品としては、飲料(例えば、茶飲料、乳飲料)、ヨーグルトが挙げられる。
【0092】
ここで茶飲料とは、ツバキ科の常緑樹である茶樹の葉(茶葉)、または茶樹以外の植物の葉もしくは穀類等を煎じて飲むための飲料をいい、発酵茶、半発酵茶および不発酵茶のいずれも包含される。茶飲料の具体例としては、日本茶(例えば、緑茶、麦茶)、紅茶、ハーブ茶(例えば、ジャスミン茶)、中国茶(例えば、中国緑茶、烏龍茶)、ほうじ茶等が挙げられる。
【0093】
ここで乳飲料とは、生乳、牛乳等またはこれらを原料として製造した食品を主原料とした飲料をいい、牛乳等そのもの材料とするものの他に、例えば、栄養素強化乳、フレーバー添加乳、加糖分解乳等の加工乳を原料とするものも包含される。
【0094】
またヨーグルトには、ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプのいずれのものも包含され、さらにヨーグルトを原料とする加工ヨーグルト製品も包含される。
【0095】
本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物の添加・配合の対象である日常摂取する食品としてはまた、プロアントシアニジンを元来含有する食品が挙げられる。本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物を、プロアントシアニジンを元来含有する食品に添加・配合することにより、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を強化することができる。ここで「強化」とは、食品に当初から含まれている有効成分の量が、期待される機能の発現に必要とされる量以上となるように本発明による有効成分あるいは抽出物を添加・配合することをいう。また、「プロアントシアニジンを元来含有する食品」としては、例えば、クランベリージュースやクランベリージャムなどのクランベリー製品;チョコレート菓子、ココアなどのカカオ製品;シナモンスティック、シナモンシュガー、シナモンガム、シナモンティーなどのシナモン製品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0096】
本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物の添加・配合の対象であるサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品の形態としては、例えば、ジュースや茶のような飲料、ゼリー、カプセル、顆粒剤、粒剤、ペーストが挙げられる。本発明の有効成分あるいはジャトバ等の抽出物を、単独で、あるいは他の成分(例えば、植物素材)と組み合わせて、飲料、ゼリー、カプセル、顆粒剤、粒剤、ペーストなどの形態に加工することによりで、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有するサプリメントなどの健康食品や機能性食品として提供することができる。特に、本発明による有効成分以外の成分であって、抗炎症作用、消炎鎮痛作用、または免疫抑制作用があるとされる他の成分と組み合わせることによって、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能をより強化することができる。抗炎症作用、消炎鎮痛作用、または免疫抑制作用があるとされる他の成分は公知の成分から選択することができる。抗炎症作用を有する成分としては、アリシン、カプサイシン、ブロメリン、硫化アリルが挙げられる。これらの成分は植物素材に含まれており、例えば、アリシンを含む植物素材としては、玉ねぎ、にら、にんにく、ニラ、葉ねぎが、カプサイシンを含む植物素材としては、唐辛子が、ブロメリンを含む植物素材としては、パイナップルが、硫化アリルを含む植物素材としては、あさつき、にんにく、エシャロット、ねぎ、葉ねぎ、ニラ、らっきょうが、それぞれ挙げられる。また、免疫抑制作用を有する成分としてはグリチルレチン酸が挙げられ、グリチルレチン酸を含む植物素材としては、カンゾウが挙げられる。また、リウマチに効果があるとされる雷公藤;I型糖尿病に効果があるとされる人参湯;多発性硬化症に効果があるとされるカンラン;乾癬症に効果があるとされるPolypodium Leucotomos等の植物素材を組み合わせることができる。また、本発明による機能以外の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の食品を提供することができる。
【0097】
本発明において提供される飲料(飲料形態の健康食品や機能性食品を含む)の製造に当たっては、通常の飲料の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤などを適宜添加することができる。飲料の製造に当たってはまた、当業界に公知の製造技術を参照することができ、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0098】
本発明の好ましい態様によれば、重合度が少なくとも5のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)を、Th1サイトカイン産生抑制機能、自己抗体産生抑制機能、またはTh1サイトカイン産生増大に関連する状態や自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能の強化等を目的として、プロアントシアニジンを元来含有する食品へ添加・配合することができる。
【0099】
本発明による有効成分または抽出物を、そのまま食用に供する場合や、あるいは一般食品の原料に添加・配合して食品とする場合は、有効成分の苦みが食品の味に影響しない範囲で用いるか、または苦味がマスクされるような工夫をすることが好ましい。例えば、有効成分または抽出物を、カプセルに注入するか、あるいは適当なコーティング剤でコーティングすることにより、苦味をマスクすることができる。カプセル化された形態としてはゼラチンカプセル、プルランカプセルが挙げられる。コーティングされた形態としては糖衣錠が挙げられる。
【0100】
本発明による食品は様々な形態を取ることができ、公知の医薬品の製造技術に準じて本発明による食品を製造してもよい。その場合には、本発明による治療剤の製造の項目において述べたような担体や製剤用添加剤を用いて製造することができ、具体的には、経口剤の欄に記載された担体や製造用添加剤を用いて製造することができる。
【0101】
本発明による有効成分であるプロアントシアニジンは、人類が食品として長年摂取してきたカカオやブドウ類に多く含まれていることから、毒性も低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いることができる。
【0102】
本発明による治療剤および食品を投与あるいは摂取する場合、本発明による有効成分の投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、本発明による有効成分を医薬として経口投与する場合、プロアントシアニジン量として成人1人1日当たり50〜5000mg、好ましくは50〜2000mg、非経口的に投与する場合は5〜500mg、好ましくは5〜200mgの範囲で投与することができる。本発明による有効成分と組み合わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜決定できる。また、食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり50〜5000mgの範囲、好ましくは50〜2000mgの範囲の摂取量となるよう本発明による有効成分を食品に配合することができる。
【0103】
本発明による治療剤の好ましい態様によれば、(i)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン、または(ii)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患(特に、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患)の治療剤、それらの疾患の根治治療剤、およびそれらの疾患の進行阻害剤が提供される。
【0104】
本発明の好ましい態様によればまた、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患(特に、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患)の治療剤、それらの疾患の根治治療剤、およびそれらの疾患の進行阻害剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン、または(ii)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物の使用が提供される。
【0105】
本発明の好ましい態様によればまた、治療上の有効量の(i)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン、または(ii)重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患(特に、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患)の治療方法、その疾患の根治治療方法、およびその疾患の進行阻害方法が提供される。
【0106】
Th1サイトカインの産生抑制剤および自己抗体産生抑制剤
本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制剤が提供される。
【0107】
本発明によればまた、Th1サイトカインの産生抑制剤の製造のための(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)の使用が提供される。
【0108】
本発明によればまた、有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制方法が提供される。
【0109】
Th1サイトカインは、好ましくは、IFN−γである。
【0110】
Th1サイトカインの産生抑制剤は、Th1サイトカインの産生抑制を目的とした医薬品への適用のみならず、Th1サイトカインの産生抑制を目的とした食品への適用も意図されている。従って、本発明によるTh1サイトカインの産生抑制剤の実施に当たっては、前記のような治療剤に関する記述および食品に関する記述を参照することができる。
【0111】
本発明によれば、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を有効成分として含んでなる、自己抗体の産生抑制剤が提供される。
【0112】
本発明によればまた、自己抗体の産生抑制剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)の使用が提供される。
【0113】
本発明によればまた、有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジン)、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物(好ましくは、重合度が少なくとも5のプロシアニジンおよび/またはプロデルフィニジンを含有する植物素材の抽出物)を哺乳類に投与することを含んでなる、自己抗体の産生抑制方法が提供される。
【0114】
自己抗体の産生抑制剤は、自己抗体の産生抑制を目的とした医薬品への適用のみならず、自己抗体の産生抑制を目的とした食品への適用も意図されている。従って、本発明による自己抗体の産生抑制剤の実施に当たっては、前記のような治療剤に関する記述および食品に関する記述を参照することができる。
【0115】
検定方法
本発明によれば、試料中のプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を含んでなる、Th1サイトカイン産生抑制活性の検定方法であって、4以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカイン産生抑制活性を示すことを特徴とする方法が提供される。
【0116】
検定の対象である試料としては、例えば、植物原料由来の抽出物や乾燥粉末が挙げられる。植物原料としては、プロアントシアニジンを含む植物原料のみならず、プロアントシアニジンの含有が不明な植物原料も含まれる。抽出物としては、例えば、水や有機溶媒による抽出物が挙げられる。
【0117】
検定の対象である試料としてはまた、合成されたプロアントシアニジンやプロアントシアニジンが含有されているか不明な試料が挙げられる。
【0118】
プロアントシアニジンの重合度は、例えば、電子スプレーイオン化質量分析法(ESI−MS)やマトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)により測定することができる。
【0119】
本発明による検定方法では、試料中に5以上の重合度のプロアントシアニジンが含まれているか否かを指標にすることができる。実施例31および図50に示されたように、重合度が5以上のプロアントシアニジンはEAEモデルマウスにおいて高い治療活性を示す。従って、このような指標を採用することにより、試料が強いTh1サイトカイン産生抑制活性を有するか否かを検定することができる。
【0120】
本発明による検定方法ではまた、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性の検定に用いることができる。
【実施例】
【0121】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【0122】
実施例1:Th1偏向マウス脾臓細胞を用いた各種アマゾンハーブ抽出物のIFN−γ産生抑制能の検討
一連のアマゾンハーブについてTh1偏向させたマウスの脾臓細胞を用いて、インビトロにおけるIFN−γ産生抑制能を検討した。
【0123】
1.実験方法
(1)試料
サマンバイア(Polypodium lepidopteris)、ジャトバ(Hymenaea courbaril)、キャッツクロー(Uncaria tomentosa)、シジウム(Psidium guajava)、ヘルゴンサッチャ(Dracontium loretense Krause)の市販乾燥粉末(有限会社エジソン・エス・アール・エル日本事務所)10gにエタノールを200mL加え、一晩攪拌した。ろ過後、溶媒を留去し、エタノール抽出物を得た(表2)。抽出物をそれぞれ1%エタノールに溶解し、投与試料とした。
【0124】
表2:本発明の実施例において、サマンバイア、ジャトバ、キャッツクロー、シジウム、そしてヘルゴンサッチャのエタノール抽出物重量を示す。
【表2】
【0125】
(2)実験動物
6−8週齢、雄性、C57BL/6マウス(チャールズリバー社)に第0日目と第7日目に卵白アルブミン(OVA、生化学工業(株))1mgをcomplete freund’s adjuvant(シグマ社)にMycobacterium tuberculosis H37 Ra(Difco社)を0.8mg添加したもの(以下、CFAと表記する。)に混合し、エマルジョン化したものを腹腔内投与した。第14日目に解剖し、常法に従い、脾細胞を調製した。
【0126】
(3)脾細胞IFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いて測定した。
【0127】
(4)実験条件
実験動物の方法で調製した脾細胞をRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)+1mg OVA培地で5×106細胞/mlになるように懸濁し、200μl/ウェルで96穴プレートに分注した。さらに試験する各ハーブ抽出物を100あるいは500μg/mlで添加した。1週間後に培養上清を回収し、Th1サイトカインとしてIFN−γを測定した。
【0128】
2.実験結果
結果を表3に示す。サマンバイアにはIFN−γ産生抑制能は見られず、むしろ上昇した。他のハーブ抽出物でも同様なIFN−γ産生の上昇が見られた。ジャトバでのみ、顕著なIFN−γ産生抑制が見出された。
【0129】
表3:Th1偏向させたマウスの脾臓細胞を用いて、抗原特異的に産生されたTh1サイトカインであるIFN−γに対する各種アマゾンハーブの抑制、または亢進活性を示す。
【表3】
【0130】
実施例2:インビトロにおけるジャトバ抽出物IFN-γ抑制活性の濃度依存性検討
実験1によってIFN−γ抑制活性をインビトロで示したジャトバ抽出物について濃度依存性を検討した。
【0131】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバ乾燥粉末100gに500mLのエタノールを加え、一晩、室温で攪拌した。ろ過後、残渣を再度同量エタノールで抽出した。ろ液を濃縮乾固し、27.2gのエタノール抽出物を得た。抽出物を1%エタノールに溶解し、投与試料とした。
【0132】
(2)実験動物
実施例1と同様にOVAをCFAでエマルジョン化したものをC57BL/6に2回免疫し、Th1偏向マウスを作製した。
【0133】
(3)脾細胞IFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いて測定した。
【0134】
(4)実験条件
脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)+100μg/ml OVA培地で37℃、5%CO2の条件で1週間培養し、培養上清を回収し、IFN−γ濃度測定を行った。ジャトバ抽出物の添加濃度は0(コントロール)、15.5,31,62.5,125,250,500μg/mlとした。
【0135】
2.実験結果
7日後の培養上清中IFN−γ濃度を表4に示す。コントロール(ジャトバ無添加)でOVA添加によって強いIFN−γ産生が見られた。ジャトバ濃度依存的にIFN−γ産生は抑制され、125μg/ml以上で殆ど産生は見られなくなった。以上の結果、ジャトバはインビトロにおいてTh1サイトカインを抑制する活性があることが示された。これは細胞性免疫過多によって起こる自己免疫疾患の予防・治療に有効である可能性を示す。
【0136】
表4:Th1偏向させたマウスの脾臓細胞を用いて、抗原特異的に産生されたTh1サイトカインであるIFN−γに対するジャトバの抑制活性の容量依存性を示す。
【表4】
【0137】
実施例3:実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルを用いたジャトバ抽出物のインビボでの効果I
ジャトバ抽出物のインビボでの効果を明らかにするために、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルマウスで検討した。EAEモデルマウスは、ヒト多発性硬化症のモデルとして用いられている(Antel JP., 1999. J Neuroimmunol 100, 181-189)。
【0138】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2で調製したものを用いた。
【0139】
(2)実験動物
C57BL/6、雄性、6−8週齢のマウスに対して、第0日目にMyelin oligodendrocyte glycoprotein peptide(以下「MOGペプチド」と表記する:キアゲン社)200μgをCFA 800μgと混合して、エマルジョン化したものを皮下投与し、第1日目と第3日目に百日咳毒素(PTX:Calbiochem社)200ngを腹腔内投与することにより実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導した。試験期間を通じてマウスは標準固形飼料CE−2(アメリカ国立栄養研究所による標準組成)を供与された。飲用水は水道水を用いた。
【0140】
(3)実験条件
C57BL/6、雄性、6−8週齢を1群10匹でコントロール群、20mg/kg群、50mg/kg群、および50mg/kg前投与群に分けた。コントロール群は第0日目にMOG抗原投与後、第30日目まで週3回1%エタノールを腹腔内投与した。20mg/kg群、50mg/kg群は第0日目にMOG抗原投与後、第30日目まで週3回ジャトバを所定量投与した。50mg/kg前投与群はMOG抗原投与2週間前から合計7回ジャトバを50mg/kgで投与し、抗原感作後は1%エタノールに切り替えた。実験スケジュールを図2に示す。
【0141】
(4)臨床スコアのつけ方
スコア0:正常、スコア1:尾の麻痺、スコア2:正向不全、スコア3:後肢片方麻痺、スコア4:両後肢麻痺、スコア5:前後肢麻痺、スコア6:死亡で、第55日目まで毎日各個体の臨床スコア(clinical score)を記録した。
【0142】
(5)Ex vivo IFN−γ,TNF−α産生能測定
第12日目で各群5匹を解剖し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±MOG2μMで培養し、1週間培養後の上清についてIFN−γ濃度を、10日後培養上清についてTNF−α濃度を測定した。IFN−γ、TNF−αの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いた。
【0143】
(6)脊髄病理切片の作製と脱髄の観察
脊髄の脱髄がジャトバによって抑制されるかを検討するために、組織切片の作製と観察を行った。第15日目のコントロール群およびジャトバ群のマウスから脊髄を摘出し、20%のホルマリン溶液中で固定後、パラフィン包埋して5μm切片をミクロトームRM2145(ライカ社)にて作製した。切片を脱パラフィン後、ルクソールファストブルー溶液(武藤化学薬品社)で髄鞘染色し、水洗い後、コールドシッフ試薬で細胞質を染色した。最後にヘマトキシリンで核を染色し、顕微鏡下で観察した。
【0144】
2.実験結果
臨床スコアの平均値の経時変化グラフを図3に示す。コントロール群では第9日目で発症が始まり、第16日目で平均スコアが3.5を上回った。20mg/kg群では第15日目近辺で発症が始まり、第21日目前後でピークの平均スコア1.5になったが、その後症状は回復した。50mg/kgでは発症しなかった。また、50mg/kg前投与群では第30日目前後で発症し、第41日目にピークの平均スコアが2程度になったが、その後回復した。以上の結果、ジャトバは明確なEAE発症抑制効果を持つ事が明らかになった。またEAE誘導前に投与しておくと、発症が3週間遅延するという予防効果もあることが明らかになった。
【0145】
Ex vivoサイトカイン産生量を図4に示す。IFN−γについてはコントロール群で60,000pg/mlと高濃度の産生が見られているが、20mg/kg群では30,000pg/ml前後と半減し、50mg/kg群では5000pg/ml前後と激減した。TNF−αについても、コントロール群で180pg/ml前後であったのが、20mg/kg群で110pg/ml前後と減り、50mg/kg群で20pg/ml前後と激減した。さらに、脊髄切片のルクソールファストブルー染色による観察結果を図5に示した。コントロール群脊髄切片写真を見ると、脱髄による青く染色されない個所(切片写真中の組織右側個所)が観察されるのに対し、ジャトバ群ではそのような脱髄が抑制されていることが明らかである。以上の結果はジャトバがTh1サイトカイン産生を強く抑制し、EAEの症状を抑制したことを示している。
【0146】
実施例4:EAEモデルを用いたジャトバ抽出物のインビボでの効果II
実施例3の効果がマウス種によらないことを示す為、実施例3とは異なったマウス種を用いて、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルによる検討を行った。
【0147】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2で調製したものを用いた。
【0148】
(2)実験動物
SJL/J、雄性、8−10週齢のマウス(購入先:チャールスリバー社)に対して、Proteolipid protein peptide(以下「PLPペプチド」と表記する:キアゲン社)100μgをCFA 800μgにエマルジョン化したものを皮下投与し、第1日目と第3日目にPTX200ngを腹腔内投与することにより実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導した。飼料および飲用水は実施例3と同様のものを用いた。
【0149】
(3)実験条件
SJL/J、雄性、8−10週齢を1群10匹でコントロール群、50mg/kg群を設定した。抗原およびジャトバ抽出物の投与法・時期は実施例3の実験に準じた。
【0150】
(4)Ex vivo IFN−γ,TNF−α産生能測定
実施例3と同様に実施した。但し、培養時に添加する抗原は2μMPLPペプチドとした。
【0151】
2.実験結果
前記実施例3とは異なったマウス種であるSJL/Jにおいても、図6に示すようにex vivoでのIFN−γ産生はジャトバ投与によって殆ど見られなくなっており、ジャトバのEAE抑制効果はマウス種によらないことが明らかになった。
【0152】
実施例5:EAEモデルを用いたジャトバ抽出物単回前投与によるインビボでの効果
ジャトバ投与によるEAE発症予防について単回前投与による検討を行なった。
【0153】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物を用いた。
【0154】
(2)実験動物
実施例3で示したC57BL/6マウスをMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群は10匹で、第12日目に半数を解剖した。
【0155】
(3)実験条件
ジャトバ50mg/kgを、第0日目にMOG抗原を投与する前である第−1日目に、一回腹腔内投与する。
【0156】
(4)Ex vivo IFN−γ産生能測定
第12日目で5匹を解剖し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±MOG2μMで培養し、1週間培養後の上清についてIFN−γ濃度を測定した。IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン社)を用いた。
【0157】
2.実験結果
EAEの臨床スコア平均値の経時変化では、コントロール群が第9日目に発症したのに対して、1回前投与した場合2日の遅れが観察された(図7A)。以上の結果、前記実施例3の複数回前投与よりは効果が劣るものの1回投与のみでも効果が認められた。本実施例および前記実施例3の前投与の結果を踏まえると、回数の増加と共に予防効果は増大することが示唆された。脾細胞のIFN−γ産生能は1回予防投与でも、著しく減少することが示された(図7B)。
【0158】
実施例6:ジャトバ抽出物の成分検討(I)
ジャトバ抽出物の活性成分の特性を明らかにするために、ジャトバ抽出物をポリビニルポリピロリドン(PVPP)で吸着処理し、非吸着画分の活性を実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルで検証した。
【0159】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物3.49gを水500mLに溶解し、ポリビニルポリピロリドン(PVPP シグマ社)50gを加えて一晩攪拌した。その後吸引濾過し、凍結乾燥を行ない、420.3mgのPVPP処理物、すなわちPVPP非吸着画分を得た。
【0160】
(2)実験動物
実施例3で示したC57BL/6マウスをMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群は10匹で、第12日目に半数を解剖した。
【0161】
(3)実験条件
コントロール群は第30日目まで週3回1%エタノールを腹腔内に注射した。ジャトバ群はジャトバエタノール抽出物を、ジャトバPVPP処理群はPVPP処理したジャトバエタノール抽出物をそれぞれ週3回、50mg/kgで投与した。
【0162】
(4)Ex vivo IFN−γ,TNF−α産生能測定
第12日目で各群5匹を解剖し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(SIGMA)+10% FCS(ロシュ)±MOG2μMで培養し、1週間培養後の上清についてIFN−γ濃度を、10日後培養上清についてTNF−α濃度を測定した。IFN−γ、TNF−αの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン)を用いた。
【0163】
2.実験結果
結果を図8に示す。コントロール群は第13日目に発症し、ジャトバ群は第21日目まで発症しなかった。ジャトバPVPP処理群は第15日目に発症した。脾細胞のIFN−γ,TNF−α産生能はジャトバ群では顕著に抑制されたが、ジャトバPVPP処理群では殆どコントロール群と変わらなかった(図9)。以上の結果、PVPP処理によってジャトバの活性は著しく減弱しており、従って、ジャトバの活性成分はPVPPに吸着することが明らかになった。PVPPはポリフェノールを強力に吸着する性質を有し、ポリフェノールの除去剤として知られている(Loomis, W.D., Battaile, J., 1966. Phytochem. 5, 423-438., Loomis, W.D., 1969. In: Lowenstein, J.M., (Ed.), Methods in enzymology Vol. 13. Academic Press, New York, pp. 555-563. Loomis, W.D., 1974. In: Fleischer, S., Packer, L., (Eds.), Methods in enzymology Vol. 31. Academic Press, New York, pp. 528-544.)。ジャトバエタノール抽出物の88%がPVPPに吸着したことから、ジャトバ抽出物の88%はポリフェノールであり、そして活性成分もポリフェノールである可能性が示唆された。
【0164】
実施例7:ジャトバ抽出物の成分検討(II)
実施例6より、ジャトバの活性成分はポリフェノールである可能性が示唆された。活性本体をさらに追求する目的で、ジャトバエタノール抽出物について以下の実験を実施した。
【0165】
1.実験方法
(1)塩酸−ブタノール法
ジャトバエタノール抽出物を文献(J. Agric. Food Chem. 1998, 46, 1698-1705)の方法に従い、塩酸−ブタノール法に供した。すなわちジャトバエタノール抽出物の4mg/mLメタノール溶液を調製し、その250μLに、5%塩酸を含む1−ブタノール1.5mLと、2%硫酸アンモニウムを含む2N塩酸50μLを添加し、95℃で50分反応させた。反応液を室温に戻し、550nmにおける吸光度を測定した。測定の対照には、ジャトバエタノール抽出物4mg/mL(メタノール溶液)を用いた。
【0166】
(2)順相カラムクロマトグラフィ(NP−HPLC)
ジャトバエタノール抽出物を文献(Journal of Chromatography A. 1993. 255-260)の方法に従い、NP−HPLCに供した。ポンプおよび制御装置はShimazu LC-10Advp、UV検出器はShimazu SPD-10Aを用いた。カラム条件を以下に示す。
【0167】
カラム:Finepak SIL−5 φ4.6×250mm(日本分光)
移動相:
(A)MeOH:CH2Cl2:HCOOH:H2O=7:41:1:13
(B)MeOH:CH2Cl2:HCOOH:H2O=43:7:1:1
移動相グラジェント条件:
時間(分) A溶媒(%) B溶媒(%)
0 95 5
10 85 15
35 80 20
37 77 23
40 77 23
42 70 30
45 50 50
46 0 100
50 0 100
移動相流速:1mL/分
検出波長:280nm
(3)電子スプレーイオン化質量分析(ESI−MS)
ジャトバエタノール抽出物をESI−MSに供した。装置はサーモクエスト社LCQを用いた。測定条件は、インフュージョン法、陰イオンモード、流速6μl/分, Sheath gas flow rate 60 arb, Spray voltage 4.5 kV, Capillary temp 200 ℃とした。
【0168】
(4)マトリックス支援レーザー脱離イオン化―飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)
ジャトバエタノール抽出物をMALDI−TOF−MSに供した。装置はPerSeptive Biosystems, voyagerを用い、マトリックスとして2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を用いた。
【0169】
2.実験結果
(1)プロアントシアニジンは酸性条件下における加熱処理により、フラバン間の結合が切断され、エクステンションユニットに由来するカルベニウムイオンと、ターミナルユニットに由来するカテキン類を与える。前者はさらに酸化されて赤色のアントシアニジンになる。この原理を利用した呈色法が塩酸−ブタノール法であり、550nmにおける吸光度の上昇をして試料中のプロアントシアニジンを鋭敏に検出できる。本法によってジャトバエタノール抽出物は赤色化し、550nmにおける吸光度は2.72となった。このことから、ジャトバに含有されるポリフェノールはプロアントシアニジンであることが明らかとなった。
【0170】
(2)NP−HPLCは、プロアントシアニジンのオリゴマー成分を溶出ピークとして検出することができる。しかし、より高重合度の成分はカラムに強く吸着されるために、溶出後半に特徴的なブロード型のクロマトグラムを与える。ジャトバエタノール抽出物のクロマトグラムは8本の溶出ピークと、それに続く特徴的なブロード形状を示したので、プロアントシアニジンのオリゴマーのみならず、より高重合度成分の存在を示唆した。
【0171】
(3)ESI−MSでは装置の測定限界として分子量2000までの成分しか観測できなかったが、図10Aに示すように、288ずつ増加していく分子イオンピークが5本観測された。すなわちジャトバのプロアントシアニジンは、分子量288の繰り返し構造を有していた。この分子量はカテキンまたはエピカテキンに相当し、かつガレートの付加がないことを示す。以上のことから、ジャトバエタノール抽出物の主成分はプロアントシアニジンのうち、プロシアニジンであることが明らかとなった。
【0172】
(4)MALDI−TOF−MSでは、ESI−MSでは観測することができなかった、さらなる高分子領域に属する高重合度プロシアニジンの存在が確認された。すなわち図10Bに示したように、プロシアニジン20量体以上にまで及ぶ分子イオンピークが観測された。
【0173】
実施例8:ジャトバ抽出物の成分検討(III)
実施例7により、ジャトバのエタノール抽出物の主成分がプロシアニジンであることが示された。構成単位の同定、結合様式、重合度の算出、および定量分析を精密に行なう目的で、Guyotらの方法(Sylvain Guyot, Nathalie Marnet, and Jean-Francois Drilleau, J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 14-20)に基づき、チオール開裂分析を行なった。
【0174】
1.実験方法
(1)チオール開裂、逆相液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)分析
ジャトバエタノール抽出物を4mg/mLのメタノール溶液に調製し、その25μLに3.3%塩酸含有メタノールを25μL、5%トルエン−α−チオール(シグマ社)50μLを添加し、40℃で30分反応させた後、反応液をそのままRP−HPLCに供し、分析した。ポンプはHITACHI L-7100、UV検出器はShimazu SPD-10Aを用いた。カラム条件を以下に示す。
【0175】
カラム:ディスカバリー C18φ4.6×250 mm(スペルコ社)
移動相:(A)2.5%酢酸/水(v/v)、(B)アセトニトリル
移動相グラジェント条件:
時間(分) A溶媒(%) B溶媒(%)
0 97 3
5 91 9
15 84 16
45 50 50
55 0 100
移動相流速:0.6mL/分
検出波長:280nm
(2)液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)による反応物の同定
チオール開裂反応液中にはトルエン−α−チオールが残存するために、反応液をそのままLC−MSに供することができない。そこでまず(1)のRP−HPLCにおいてそれぞれのピークを分取し、LC−MSに供した。LC部分のポンプはWaters 2690 allianceを使用し、検出は多波長検出器(Waters 996)で行なった。カラム条件を以下に示す。
【0176】
カラム:YMC Pack C18φ4.6×250 mm
移動相:(A)1%HCOOH/水(v/v)、(B)MeOH
移動相グラジェント条件:
時間(分) A溶媒(%) B溶媒(%)
0 90 10
5 84 16
45 50 50
50 0 100
移動相流速:1mL/分
検出波長:200−400nm
MSのイオン化モードはESIとし、装置はWaters micromass ZQ2000を用いた。
【0177】
(3)トルエン−α−チオール付加に伴うモル吸光係数(ε)値の補正
エピカテキンにトルエン−α−チオールが付加することに伴う280 nmにおけるε値の変化を、エピカテキン二量体であるプロシアニジンB2を用いて算出した。すなわちプロシアニジンB2を(1)の条件でチオール開裂し、RP−HPLC分析に供した。
【0178】
(4)平均重合度の算出と定量分析
(1)、(2)、および(3)の結果に基づき、ジャトバエタノール抽出物に含まれるプロアントシアニジンの平均重合度と含量を算出した。
【0179】
2.実験結果
(1)図11に示すように、プロアントシアニジンはチオール開裂によって、ターミナルユニットに由来する単量体成分と、エクステンションユニットに由来するベンジルチオエーテル付加体を与えるので、これらをRP−HPLCで分離、同定、定量することができる。ジャトバエタノール抽出物のチオール開裂を行なった結果、図12に示すように、21.6分と42.8分に2本のピークが認められた。前者はエピカテキン(EC)と溶出位置が一致した。これら2本以外には、いかなるピークをも与えなかった。
【0180】
Aタイプ結合はチオール開裂反応で開裂せず、残存する。そのため、もしAタイプ結合があれば、チオール開裂により、Aタイプで結合した二量体のベンジルチオエーテル付加体が生成され、RP−HPLCで検出される。チオール開裂分析の結果より、ジャトバのプロシアニジンにはAタイプ結合は存在せず、従ってBタイプ結合のみで構成されていることが明らかとなった。
【0181】
(2)(1)で検出されたピークをLC−MSによって同定した。すなわちこれら2本のピークは、プロシアニジンB2のチオール開裂産物であるEC、およびECのベンジルチオエーテル付加体(EC−BTE)とLC溶出位置および分子量がそれぞれ一致した。(1)と(2)の結果から、ジャトバのプロシアニジンはECのみを構成単位とすることが明らかとなった。
【0182】
(3)プロシアニジンB2をチオール開裂に供すると、ターミナルユニットに由来するECと、エクステンションユニットに由来するEC−BTEを等モル比で生成する。RP−HPLCで検出される両成分の280nmにおける吸光度すなわちピーク面積値を比較することにより、ECにトルエン−α−チオールが付加することに伴う280nmにおけるε値の変化を算出した。その結果、ECのε:EC−BTEのε=1:1.2であった。
【0183】
(4)(3)の結果に基づき、ジャトバエタノール抽出物に含まれるプロシアニジンの平均重合度を、以下のように計算した。
【0184】
平均重合度=(T+E/1.2)/T
T=ターミナルユニットのピーク面積
E=エクステンションユニットトルエン−α−チオール付加体のピーク面積
その結果、ジャトバエタノール抽出物中に含まれるプロシアニジンの平均重合度は、6.8と算出された。
【0185】
チオール開裂反応生成物であるECとEC−BTEを定量分析することによって、ジャトバエタノール抽出物中のプロシアニジン含量を求めることができる。定量分析に必要なチオール開裂の反応率は、プロシアニジンB2を外部標準として用い、生成したECを定量することで求めた。反応率は概して83%であった。その結果、ジャトバエタノール抽出物中のプロシアニジン含量を76.0%(w/w)と算出した。
【0186】
実施例9:ジャトバのプロシアニジンの分画・分析
実験方法および結果
(1)抽出および分画
ジャトバ市販乾燥粉末20gにエタノール(EtOH)500mLを加え、一晩、室温で攪拌した。ろ過後、残渣を再度同量EtOHで抽出した。ろ液を濃縮乾固し、抽出物6.97gを得た。この抽出物を100mLの水に再溶し、等量の酢酸エチルで3回抽出した。それぞれを溶媒留去し、水画分5.93g、酢酸エチル画分894mgを得た。水画分をメタノール(MeOH)に再溶し、Saucierらの方法(J. Agric. Food Chem., 2001. 49: 5732- 5735)に基づき、クロロホルム(CHCl3)を順次加え、生じた沈殿を分別した。本法により、プロシアニジンを重合度別に分画することができる。酢酸エチル画分はC18カラムによる固相抽出を行ない、さらに2つの画分に分別した。すなわち最初にジエチルエーテル(DEE)で溶出してFr.7を、次いでMeOHで溶出してFr.6を得た。それぞれの画分の重量を図13に示した。
【0187】
(2)ジャトバ抽出物ならびに各画分の分析
得られた分画物について、プロシアニジンの平均重合度と含量をチオール開裂分析により算出した(方法は実施例8を参照)。図13に示した通り、本法によって平均重合度を異にするプロシアニジン画分を容易に調製することができた。
【0188】
実施例10:EAEモデルを用いたジャトバ由来分画サンプルのIFN−γ抑制活性
実施例9で分画されたサンプルをEAEモデルマウスに腹腔内投与し、脾細胞のIFN−γ抑制活性を検討した。
【0189】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物および実施例9で分画された分画物Fr.1−7を使用した。
【0190】
(2)実験条件
C57BL/6、雄性、6週齢を1群3匹でコントロール群、ジャトバ群(未分画)、Fr1−Fr7群に分けた。コントロール群は第0日目にMOG抗原投与後、第0,2,4,7,9日目の合計5回、1%エタノールを腹腔内投与した。ジャトバ群は同じスケジュールで50mg/kg投与した。各フラクションは同じスケジュールで50mg/kgで投与した。第11日目に剖検し、脾細胞をMOGと共培養し、培養上清中のIFN−γ産生量をELISAにて測定した。
【0191】
2.実験結果
結果を図14に示す。コントロール群では約20000pg/mlのIFN−γ産生が見られたが、ジャトバ群では殆ど産生が見られなかった。Fr5−7ではコントロールに比べ、若干のIFN−γ産生が見られた。Fr1−4においては殆どIFN−γの産生がなかった。以上の結果、自己免疫疾患の増悪因子であるIFN−γ産生を抑制する活性は、平均重合度6.5以上で顕著に強い活性を有し、重合度が高い程同活性は高くなることが示唆された。
【0192】
実施例11:ジャトバ抽出物の成分検討(IV)
実施例8ではジャトバに含まれるプロシアニジンの構成単位の同定、結合様式の決定、重合度の算出、および定量分析を精密に行なう目的でチオール開裂分析を行なった。プロシアニジンの平均重合度および定量分析をさらに厳密に行なう目的で、エピカテキン(EC)のトルエン−α−チオール付加誘導体(EC−BTE)を精製・単離し、高分解能質量分析(HR−MS)と核磁気共鳴スペクトル(NMR)に供し、構造の同定を行なった後、これを標品としてHPLC分析を行なった。精製・単離された標品を用いて分析を行うことにより、より精密に、プロシアニジンの構成単位の同定、結合様式の決定、重合度の算出を行うことができた。
【0193】
1.実験方法
(1)EC−BTEの単離・精製
実施例9で調製したFr.1を実施例8の手法でチオール開裂を行ない、反応物をHPLCに供し、EC−BTEのピークを分取した。カラム条件を以下に示す。
【0194】
カラム Cadenza CD−C18 C18 φ10×250 mm(インタクト社)
移動相 メタノール:水:ギ酸(50:49.8:0.2、v/v/v)
移動相流速 2mL/分
検出波長 280nm
(2)EC−BTEの構造同定
前項で得たEC−BTEを、まず精密分子量を得る目的でHR−MSに供した。装置はJeolJMS−700(日本電子株式会社)を用い、イオン化モードは高速原子衝撃(FAB)とし、イオン化電圧は70eVとした。また、文献値とシグナルを比較するためにプロトンNMRスペクトルを測定した。装置はVarian社製UNITY INOVA−500(500MHz)を用いた。
【0195】
(3)プロシアニジンのHPLC分析
得られたEC−BTEを標品とし、実施例8に示した条件でHPLC分析を行ない、プロシアニジンの平均重合度と含量を算出した。平均重合度は以下のように計算した。
【0196】
平均重合度=(T+E)/T
T=ターミナルユニット(EC)のモル量
E=エクステンションユニット(EC−BTE)のモル量
含量は試料中のプロシアニジン量をEC換算した重量%で求めた。
【0197】
2.実験結果
(1)66mgのFr.1より10.8mgのEC−BTEを得た。
【0198】
(2)HR−MSの結果、MH+として413.1061のイオンピークが観測され、分子式がC22H21O6Sと定まり、EC−BTEと一致した。またプロトンNMRスペクトル(図15)も文献値(Chem. Pharm. Bull., 40, 889-898, 1992)と一致し、さらに1H−Detected Multiple−bond Heteronuclear Multiple Quantum Coherrence(HMBC)スペクトルにおいて、ベンジルチオールのSCH2部位のプロトンからフラバン環4位カーボンへの遠隔相関シグナルが観測されたので(図16)、ベンジルチオールはフラバン環4位に付加していることが証明され、以上の事実からEC−BTE構造が完全に同定された。
【0199】
(3)EC−BTEを標品として用いてHPLC分析を行なった結果得られたプロシアニジンの平均重合度と含量を図17に示した。
【0200】
実施例12:プロシアニジン含有試料の調製と分析(I)
実施例10より、ジャトバの活性本体が特定重合度以上のプロシアニジンであることが明らかになったので、更にプロシアニジンを含有する他素材の探索を行った。
【0201】
1.試料
市販の素材である、グラビノールSL(キッコーマン株式会社)、ポリフェノン(東京テクノフード株式会社)、アップルフェノン(ニッカウヰスキー株式会社)、クランベリーパウダー(キッコーマン株式会社)、カカオポリフェノール(明治製菓株式会社)、松樹皮エキス(有限会社素材機能研究所)、シナモン粉末(ヱスビー食品株式会社)を試料として用いた。
【0202】
2.実験方法
(1)シナモン試料の調製
シナモン粉末30.5gをエタノール300 mLで抽出し、得られたエタノール抽出物を濃縮乾固した後、50%メタノール/水に再溶し、等量のクロロホルムで4回抽出した。含水メタノール画分を溶媒留去後、1%エタノール/水による抽出を行なった。
【0203】
(2)クランベリー試料の調製
クランベリーパウダーより、高重合度プロシアニジンを含有する試料を調製した。すなわちクランベリーパウダー9gを水600mLに溶解し、セファデックスLH−20樹脂を充填したカラム(φ2.6cm×72cm)に供した。5mL/分の流速で1Lずつの水、メタノールで溶出した後、最後に1Lの70%アセトン/水で溶出した。このカラムクロマトグラフィを3回実施した。
【0204】
(3)プロシアニジン分析
実施例8のチオール開裂分析法により、各試料および(1)で調製したシナモン試料、(2)で調製したクランベリー試料に含有されるプロシアニジンを定量し、平均重合度、構成成分、結合様式を決定した。また試料によってはフラバン環3位水酸基へのガレート付加があったので、それに伴う280nmにおけるモル吸光係数(ε)値の変化を、エピカテキン(EC)とエピカテキンガレート(ECG)を用いて算出した。
【0205】
3.実験結果
(1)シナモンエタノール抽出物を3.91g得た。分配後の含水メタノール画分1.45gより、1%エタノール/水可溶画分635mgが得られ、これをシナモン試料とした。
【0206】
(2)合計27gのクランベリーパウダーより、水画分20.8g、メタノール画分303mg、含水アセトン画分217mgを得た。チオール開裂分析法により、含水アセトン溶出画分を高重合度プロシアニジン画分とした。
【0207】
(3)各試料に含まれるプロシアニジンの分析結果は表5のようになった。ジャトバについては実施例8を参照。ガレート付加体とその修飾体のピーク同定は、実施例8の1.(2)と同様に液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)によって行なった。ECとECGの280nmにおけるε値の比は1:3.1であったので、ガレート付加体を定量する際にはピーク面積を3.1で除算し、補正した。
【0208】
表5:本発明の実施例において、ジャトバ、グラビノールSL、ポリフェノン、アップルフェノン、クランベリー高重合度画分精製物、カカオポリフェノール、松樹皮エキス、そしてシナモン粗分画物に含有されるプロシアニジンについて、平均重合度、含量、そして構成成分の分析結果を示す。
【表5】
【0209】
ポリフェノンは緑茶由来のポリフェノール粗精製物であるが、プロシアニジンのオリゴマーは検出されず、主成分はエピガロカテキンガレート(EGCG)、EC、ECG、カテキン(CA)の単量体のみであった。グラビノールSLはブドウ種子由来、アップルフェノン(登録商標)はリンゴ由来のプロシアニジン粗精製物であり、構成成分はCA、EC、ECGであった。また、松樹皮エキス、カカオポリフェノール、シナモンのプロシアニジンはCA、ECから構成されていた。試料の平均重合度は1から6.8の範囲にあり、ジャトバの平均重合度が最も高かった。
【0210】
アップルフェノンの平均重合度は2.7であったが、チオール開裂を経ない試料を実施例8の1.(2)の条件でLC−MSに供した結果、観測されたのはプロシアニジン二量体、三量体、四量体の分子イオンピークのみであった。さらに実施例8の1.(1)の条件で逆相液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)による定量分析を行なった結果、主成分は三量体(38.1%,w/w)であった(図18)。
【0211】
クランベリーのプロシアニジン高重合度画分をチオール開裂し、実施例8の1.(2)の条件でLC−MSに供した結果、Aタイプ結合の存在が確認された。Aタイプ結合はクランベリー以外の試料では認められなかった。
【0212】
実施例13:プロシアニジン含有試料の調製と分析(II)
1.実験方法
実施例12で得られた知見をさらに精査する目的で、市販の素材であるシナモン(株式会社岡田薬局)、ピクノジェノール(株式会社バレンタイン)、グラビノール(キッコーマン株式会社)について、実施例9と同様のクロロホルム添加による沈殿分別分画法を行なった。
【0213】
(1)シナモン
200gのシナモン粉末に2Lのエタノールを加え、1晩室温で抽出した。ろ過してシナモン抽出液を得て、溶媒留去し、粗抽出物22.58gを得た。これをメタノール:水(50:50、v/v)400mLに溶解し、濃度を40g/Lに調整した。これを等容のクロロホルムで3回洗浄し、夾雑物を除去した。含水メタノール画分を減圧溶媒留去し、11.97gの試料を得た。これを300mLのメタノールに再溶し、等容のクロロホルムを加え、クロロホルム:メタノール(50:50、v/v)溶液とした。得られた沈殿(Fr.1)をガラス漏斗(ポアサイズP16)でろ過して分別後、ろ液に150mLのクロロホルムを添加してクロロホルム:メタノール(60:40、v/v)溶液とした。生じた沈殿(Fr.2)を同様に分別し、ろ液に250mLのクロロホルムを加えてクロロホルム:メタノール(70:30、v/v)溶液とした。生じた沈殿(Fr.3)を分別後、ろ液に200mLのクロロホルムを加えてクロロホルム:メタノール(75:25、v/v)溶液とした。生じた沈殿(Fr.4)を分別し、ろ液を溶媒留去してFr.5とした。
【0214】
(2)ピクノジェノール
10gのピクノジェノールを水200mLに溶解し、等容の酢酸エチルで4回分配を行ない、水層を乾固して6.54gの試料を得た。これを164mLのメタノールに溶解し、濃度を40g/Lに調整した。これに(1)と同様にクロロホルムを順次添加し、沈殿分別を行ない、Fr.1からFr.5を調製した。
【0215】
(3)グラビノール
10gのグラビノールを水200mLに溶解し、(2)と同様の手法でFr.1からFr.5を調製した。
【0216】
2.実験結果
(1)各画分の調製結果
シナモン、ピクノジェノール、グラビノールのプロシアニジンをクロロホルム沈殿分別法で分画した結果、得られた各画分の重量と重量比を表6に示す。
【0217】
表6:(1)から(3)で得られた分画物の重量を示す。
【表6】
【0218】
実施例14:プロシアニジン含有試料の調製と分析(III)
プロシアニジンの平均重合度および定量分析を精密に行なう目的で、実施例12で得られた各調製物をチオール開裂反応に供し、実施例11と同様の方針で計算した。すなわちエピカテキンガレート(ECG)のトルエン−α−チオール付加誘導体(ECG−BTE)およびカテキン(CA)のトルエン−α−チオール付加誘導体(CA−BTE)を精製・単離し、高分解能質量分析(HR−MS)と核磁気共鳴(NMR)に供し、構造の同定を行なった後、それぞれを標品として当該成分のHPLC分析を行なった。
【0219】
1.実験方法
(1)ECG−BTEの単離・精製
グラビノールを実施例8の方法でチオール開裂を行ない、反応物をHPLCに供し、ECG−BTEのピークを分取した。カラム条件を以下に示す。
【0220】
カラム XTerra MS C18 φ19×100 mm(Waters社)
移動相 0.2%(v/v)ギ酸水:メタノール(47:53)
移動相速度 3mL/分
検出波長 280nm
(2)ECG−BTEの構造同定
前項で得たECG−BTEについて、ECGのフラバン環4位へのベンジルチオール付加を立証するために、NMRスペクトルを測定した。装置はVarian社製UNITY INOVA−600(600MHz)を用いた。シグナルの比較のため、市販標品ECG(フナコシ株式会社)のプロトン(1H)NMRを測定した。
【0221】
(3)CA−BTEの単離・精製
ニュージーランド産の松樹皮エキスであるエンゾジノール(株式会社バレンタイン)を実施例8の方法でチオール開裂を行ない、反応物をHPLCに供し、CA−BTEのピークを分取した。カラム条件を以下に示す。またCA−BTEのピークを同定する目的で、Procyanidin B3(CAの2量体)をチオール開裂に供した。
【0222】
カラム Discovery(登録商標) C18 φ10×250 mm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
移動相 0.2%(v/v)ギ酸水:メタノール(50:50)
移動相速度 2mL/分
検出波長 280nm
(4)CA−BTEの構造同定
前項で得たCA−BTEについて、CAのフラバン環4位へのベンジルチオール付加を立証するために、NMRスペクトルを測定した。装置はVarian社製UNITY INOVA−600(600MHz)を用いた。シグナルの比較のため、市販標品CA(フナコシ株式会社)のプロトン(1H)NMRを測定した。
【0223】
(5)プロシアニジンのHPLC分析
実施例11で得られたエピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)と、今回得られたECG−BTE、CA−BTEをそれぞれを標品とし、実施例8に示した条件でHPLC分析を行ない、プロシアニジンの平均重合度と含有量を算出した。平均重合度は以下のように計算した。
【0224】
平均重合度=(T+E)/T
T=ターミナルユニット(EC、ECG、CA)のモル量
E=エクステンションユニット(EC−BTE、ECG−BTE、CA−BTE)のモル量
2.実験結果
(1)326mgのグラビノールより32.0mgのECG−BTEを得た。
【0225】
(2)ECG−BTEのプロトンNMRをECGのそれと比較した結果(図19)、ECGでは2.85ppm、3.00ppmに観測されたフラバン環4位メチレンのシグナルがECG−BTEでは消失し、代わりにベンジルチオール付加に伴い、4.17ppmに低磁場シフトした4位メチンのシグナルと、7.2ppm〜7.5ppmの領域にベンジルチオールのアロマティックプロトンのシグナルが観測された。また、1H−Detected Multiple-bond Heteronuclear Multiple Quantum Coherrence(HMBC)スペクトルにおいて、ベンジルチオールのSCH2部位のプロトンから4位カーボンへの遠隔相関シグナル、および4位プロトンからSCH2部位のカーボンへの遠隔相関シグナルが観測されたので(図20)、ベンジルチオールはフラバン環4位に付加していることが証明された。なお、4位カーボン、SCH2部位のカーボンのシグナルは、Heteronuclear Single Quantum Coherence(HSQC)スペクトル(図21)により帰属した。以上の事実から、ECG−BTE構造が同定された。
【0226】
(3)Procyanidin B3のチオール開裂反応物よりCA−BTEのカラム溶出位置を18.6分と定めた。90mgのエンゾジノールより11.3mgのCA−BTEを得た。
【0227】
(4)CA−BTEのプロトンNMRをCAのそれと比較した結果(図22)、CAでは2.50ppm、2.85ppmに観測されたフラバン環4位メチレンのシグナルがCA−BTEでは消失し、代わりにベンジルチオール付加に伴い、4.36ppmに低磁場シフトした4位メチンのシグナルと、7.2ppm〜7.4ppmの領域にベンジルチオールのアロマティックプロトンのシグナルが観測された。また、1H−Detected Multiple-bond Heteronuclear Multiple Quantum Coherrence(HMBC)スペクトルにおいて、ベンジルチオールのSCH2部位のプロトンから4位カーボンへの遠隔相関シグナル、および4位プロトンからSCH2部位のカーボンへの遠隔相関シグナルが観測されたので(図23)、ベンジルチオールはフラバン環4位に付加していることが証明された。なお、4位カーボン、SCH2部位のカーボンのシグナルは、Heteronuclear Single Quantum Coherence(HSQC)スペクトル(図24)によりアサインした。以上の事実から、CA−BTE構造が同定された。
【0228】
(5)チオール開裂で生成するEC、CA、ECG、EC−BTE、CA−BTE、そしてECG−BTEをそれぞれ標品として用いてHPLC分析を行なった結果得られた各調製物のプロシアニジンの平均重合度と含有量%(w/w)を表7に示した。
【0229】
表7:ジャトバ、グラビノールSL、ポリフェノン、アップルフェノン、クランベリー高重合度画分精製物、カカオポリフェノール、松樹皮エキス、そしてシナモン粗分画物に含有されるプロシアニジンについて、平均重合度、含量、そして構成成分の分析結果を示す。
【表7】
【0230】
実施例15:プロシアニジン含有試料の調製と分析(IV)
実施例13で得られたシナモン、ピクノジェノール、グラビノール由来のそれぞれの画分について、実施例8と同様にチオール開裂反応後、実施例14と同様の方針でプロシアニジンの構成単位の同定、重合度の算出、および含有量の定量分析を行なった。
【0231】
1.実験方法
実施例11で得られたエピカテキン−ベンジルチオールエーテル(EC−BTE)と、実施例14で得られたECG−BTE、CA−BTEをそれぞれ標品とし、実施例8に示した条件でHPLC分析を行ない、プロシアニジンの平均重合度と含有量を算出した。平均重合度は以下のように計算した。
【0232】
平均重合度=(T+E)/T
T=ターミナルユニット(EC、ECG、CA)のモル量
E=エクステンションユニット(EC−BTE、ECG−BTE、CA−BTE)のモル量
2.実験結果
チオール開裂で生成するEC、CA、ECG、EC−BTE、CA−BTE、そしてECG−BTEをそれぞれ標品として用いてHPLC分析を行ない、得られた各画分のプロシアニジンの平均重合度と含有量%(w/w)を表8に示した。
【0233】
表8:シナモン、ピクノジェノール、グラビノールをクロロホルム沈殿分別法で分画した結果得られた各画分のプロシアニジン(PC)の平均重合度と含有量%(w/w)を示す表である。参考としてジャトバの数値を附記してある。
【表8】
【0234】
実施例16:ジャトバプロシアニジン3量体〜6量体の精製
1.実験方法
実施例9で調製したFr.5より、プロシアニジンの3量体から6量体までをカラム精製した。まずLC−MSで各オリゴマーの溶出位置を決め、次いで日立製のHPLCで大量精製を行なった。各々の条件を以下に示す。
【0235】
(1)LC−MS
カラム:Discovery(登録商標) HS PEG φ10×250 mm,5μm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
ポンプ:Waters社alliance(商標名)2690
移動相:0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(60:40、v/v)
移動相流速:2mL/分
検出波長:280nm(Waters社2996多波長検出器)
MS装置:Waters社micromassZQ2000
Fr.5は100μg/μLの濃度のメタノール溶液10μLにメタノール60μLを加え、水で120μLに希釈した溶液を100μLインジェクトした。UV検出器の出口流路を1/6にスプリットし、MSに導入した。イオン化モードはESIのネガティブイオンモードとし、分子量2000以上のプロシアニジンについては2価イオンで検出を行なった。コーン電圧は40Vとした。
【0236】
(2)大量精製
カラム、移動相、移動相流速、検出波長は(1)と同様とし、ポンプを日立L−7100、検出器を日立L−7455(多波長検出器)とした。サンプルループ容量は1mLとし、Fr.5の150mgをメタノール:水(50:50、v/v)溶媒1mLに溶解した試料を1回のインジェクト量とした。
【0237】
2.実験結果
(1)LC−MS
280nmでモニターしたクロマトグラムと、MSクロマトグラムを図25に示した。各オリゴマーにおいて複数のピークが検出されているのは4→8結合と4→6結合から構成される異性体があるためであると考えられる。Fr.5より、7量体までの重合体が検出され、8量体、9量体のピークは検出されなかった。なお、MS装置の性能として検出上限が2000なので、分子量1730の6量体までを1価イオンで検出し、7量体は2価イオン(1009)で検出した。
【0238】
PEGカラムにより、各オリゴマーは重合度順に溶出されていることが明らかとなった。
【0239】
(2)大量精製
(1)でアサインした溶出ピークパターンに基づき、3量体から6量体までの精製を行なった。7量体はFr.5中の含量が少なかったため、分取しなかった。2.31gのFr.5より、132.1mgの3量体、173.1mgの4量体、187.0mgの5量体、111.0mgの6量体を得た。精製物の一部を同HPLC条件に供し、純度検定を行なった結果、隣接する各オリゴマーの相互混入は微量であり、それぞれの純度は、3量体が95.7%、4量体が92.1%、5量体が97.4%、6量体が95.9%であった。
【0240】
実施例17:ジャトバプロシアニジン6量体〜9量体の精製
1.実験方法
実施例9と同様にして調製したFr.4より、プロシアニジンの6量体から9量体までをカラム精製した。まずLC−MSで各オリゴマーの溶出位置を決め、次いで日立製のHPLCで大量精製を行なった。各々の条件を以下に示す。
【0241】
(1)LC−MS
カラム:Discovery(登録商標)HS PEG φ10×250 mm,5μm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
ポンプ:Waters社alliance(商標名)2690
移動相:0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(80:20、v/v)
移動相流速:2mL/分
検出波長:280nm(Waters社2996多波長検出器)
MS装置:Waters社micromassZQ2000
Fr.4については、100μg/μLの濃度のメタノール溶液80μLを水で120μLに希釈した溶液を100μLインジェクトした。UV検出器の出口流路を1/6にスプリットし、MSに導入した。イオン化モードはESIのネガティブイオンモードとし、分子量2000以上のプロシアニジンについては2価イオンで検出を行なった。コーン電圧は40Vとした。
【0242】
(2)大量精製
カラム、移動相流速、検出波長は(1)と同様とし、移動相を0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(80:20、v/v)ポンプを日立L−7100、検出器を日立L−7455(多波長検出器)とした。サンプルループ容量は1mLとし、Fr.4の150mgをメタノール:水(70:30、v/v)溶媒900μLに溶解した試料を1回のインジェクト量とした。
【0243】
2.実験結果
(1)LC−MS
280nmでモニターしたクロマトグラムと、MSクロマトグラムを図26に示した。各オリゴマーにおいて複数のピークが検出されているのは4→8結合と4→6結合から構成される異性体があるためであると考えられる。Fr.4より、12量体までの重合体が検出された。なお、MS装置の性能として検出上限が2000なので、分子量1730の6量体までを1価イオンで検出し、7量体以上は2価イオンで検出した。
【0244】
PEGカラムにより、各オリゴマーは重合度順に溶出されていることが明らかとなった。
【0245】
(2)大量精製
(1)の結果、10量体以上のオリゴマーは量が少なかったので、帰属した溶出ピークパターンに基づき、6量体から9量体までの精製を行なった。2.66gのFr.4より、156.2mgの6量体、222.9mgの7量体、236.1mgの8量体、176.4mgの9量体を得た。精製物の一部を同HPLC条件に供し、純度検定を行なった結果、隣接する各オリゴマーの相互混入は微量であり、それぞれの純度は、6量体が95.9%、7量体が95.8%、8量体が90.3%、9量体が97・0%であった。
【0246】
実施例18:プロシアニジン3量体〜9量体のチオール開裂分析
1.実験方法
実施例16と実施例17で得た画分中のプロシアニジン含有量%(w/w)を算出するために、実施例8の方法でチオール開裂分析を行ない、実施例11の方法で結果を解析した。チオール開裂分析ではプロシアニジン含有量%(w/w)以外に、その平均重合度をも算出できる。なお、6量体については実施例17で得られたものを用いた。
【0247】
2.実験結果
3量体〜9量体の各画分中のプロシアニジン含有量%(w/w)を表9に示した。プロシアニジン(PC)含有量は低いものでも71.3%(6量体)、高いものでは83.0%(3量体)であった。また各々について算出した平均重合度についても表8に示した通り、いずれも目的重合度と符合し、チオール開裂分析法自体の精度が極めて良好であることも示された。
【0248】
表9:3量体〜9量体のプロシアニジンを実施例8の方法でチオール開裂分析し、平均重合度とプロシアニジン(PC)含有量%(w/w)を実施例11の方法で解析した結果である。オリゴマー純度%(w/w)は実施例16と実施例17のHPLCでの定量結果であり、総純度とはPC含有量にオリゴマー純度を乗算した値である。
【表9】
【0249】
実施例19:プロシアニジンオリゴマーのHPLC分析
プロシアニジンは実施例8および実施例11のチオール開裂分析により平均重合度と含有量%(w/w)を、実施例7、実施例16、実施例17の質量分析法により重合体の分布を分析することができるが、実施例16、実施例17のHPLC条件を以下のように設定することにより、プロシアニジンオリゴマーの分布をより高い重合度まで検出することが可能となる。
【0250】
1.実験方法
LC−MSの条件を以下のように設定した。
【0251】
カラム:Discovery(登録商標)HS PEG φ10×250 mm,5μm(シグマ−アルドリッチ社スペルコ事業部)
ポンプ:Waters社alliance(商標名)2690
移動相:0.1%(v/v)ギ酸入りメタノール:0.1%(v/v)ギ酸水(95:5、v/v)
移動相流速:2mL/分
検出波長:280nm(Waters社2996多波長検出器)
MS装置:Waters社micromassZQ2000
実施例9と同様にして調製したFr.5、Fr.4、Fr.3については、100μg/μLの濃度のメタノール溶液80μLを水で120μLに希釈した溶液を100μLインジェクトした。UV検出器の出口流路を1/6にスプリットし、MSに導入した。イオン化モードはESIのネガティブイオンモードとし、分子量2000以上のプロシアニジンについては2価イオンで検出を行なった。コーン電圧は40Vとした。
【0252】
2.実験結果
280nmでモニターしたFr.5、Fr.4、Fr.3のクロマトグラムをそれぞれ図27、図28、図29に示した。MSによってFr.4、Fr.3から13量体までのピークを確認した。MS装置の性能として検出上限が2000なので、分子量1730の6量体までを1価イオンで検出し、7量体以上は2価イオンで検出した。13量体は2価イオンで検出できる限界であり(イオンピーク1873)、Fr.4、Fr.3には、より高重合度のプロシアニジンを含んでいる可能性がある。
【0253】
実施例20:EAEモデルを用いた各種植物由来試料のインビボでの効果
プロアントシアニジン類の自己免疫疾患改善作用について検討するために、実施例8の各種植物素材由来の試料をEAEモデルマウスで検討した。
【0254】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物および、実施例12の各試料を使用した。各試料はそのプロシアニジン含量がジャトバエタノール抽出物と同一になるように1%エタノール溶液を調製した。
【0255】
(2)実験条件
C57BL/6、雄性、6週齢を1群10匹でコントロール群、および各試料群に分けた。コントロール群は第0日目にMOG抗原投与後、第0,2,4,7,9,11,14,16,18,21日目の合計10回、1%エタノールを投与した。各試料群は同じスケジュールでプロシアニジン換算で50mg/kgジャトバ相当量を投与した。第11日目に5匹を剖検し、脾細胞をMOGと共培養し、培養上清中のIFN−γ産生量をELISAにて測定した。また、残り5匹は第25日目まで臨床スコアを観察した。
【0256】
2.実験結果
臨床スコアの結果を図30に示す。コントロールは第11日目で発症し、最大臨床スコアは2.5前後となった。ジャトバと同様なEAE発症抑制が見られたのは松樹皮エキス、クランベリー高重合度画分およびシナモン抽出物であり、これらの素材では第25日目まで明確な発症が認められなかった。グラビノールSLでは発症が4日遅れ、臨床スコアではコントロールの半分程度の抑制が見られた。その他の試料ではEAE抑制はコントロールと同程度であり、効果が認められなかった。脾細胞によるIFN−γ産生能についてもグラビノール、クランベリー、松樹皮エキス、シナモン、ジャトバでは完全に抑制されたが、その他の試料では明確な抑制は見られなかった(図31)。
【0257】
以上の結果、実施例12で示したように主成分が三量体であるアップルフェノンに効果が無いことから少なくとも重合度3以下のプロアントシアニジンには自己免疫疾患抑制効果は無いことが示唆された。
【0258】
なお、平均重合度でアップルフェノン(2.72)と大差ないグラビノール(3.18)に、部分的な抑制活性が認められた点については、アップルフェノンが前述したように三量体が主成分であってそれより高い重合度の物の含有量が乏しいのに対し、予備的試験であるがグラビノールは重合度分布が広く4以上の高重合度のものを十分量含有していることを確認しており、これが両者の差となったと考えられる。
【0259】
効果が認められた試料に含まれるプロシアニジンの種類は一義に限定されず、例えばAタイプ,Bタイプの結合様式、構成成分、ガレート付加の有無は活性と相関しないことが明らかとなった。これらのことから、フラバン基本骨格の水酸基の数も活性には関係しないことが容易に演繹される。すなわち活性に関わるのは重合度のみであり、重合度4以上のプロアントシアニジンが自己免疫疾患改善作用を有することが明らかになった。
【0260】
実施例21:高重合度プロシアニジン含有素材における活性の普遍性
高重合度プロシアニジンを含む他素材活性比較のために、松の樹皮(ピクノジェノール)、シナモン、ぶどう種子(グラビノール)からジャトバのFr3相当(平均重合度10)のものを抽出し、自己免疫疾患改善活性を検討した。
【0261】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロール群には、1% EtOH、ジャトバ由来高重合度プロシアニジンとしてジャトバFr3(15.7)(実施例9)を、グラビノール由来高重合度プロシアニジンとしてグラビノールFr2(8.8)(実施例13)を、松の樹皮由来高重合度プロシアニジンとしてピクノジェノールFr2(8.6)(実施例13)を、シナモン由来高重合度プロシアニジンとしてシナモンFr1(10.2)(実施例13)を、それぞれ5mg/mlになるように1% EtOHに溶解した。()内は、平均重合度を示す。
【0262】
(2)実験動物
C57BL/6,雄,7週齢を用い、一群16匹で開始。MOG(200μg)と800μgのH37Raを含むCFAをエマルジョン化したものを第0日目に皮内投与、第1日目と第3日目に腹腔内に1μg/mlのPTXを200μl(実質200ng)投与して疾患を惹起した。
【0263】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0264】
(4)実験条件
各サンプルは1mg/mouseとなるように週3回腹腔内投与した。第11日目にて剖検し、脾細胞を調製した。脾臓細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±2μM MOG培地で37℃、5%CO2の条件で7日間培養し、培養上清を回収し、IFN−γ濃度測定を実施した。
【0265】
2.実験結果
いずれのプロシアニジン含有素材も高重合度プロシアニジンを濃縮する事により、同様に強い抗自己免疫疾患活性を示す事が分かった(図32)。また後述する実施例31において示されているように、抗自己免疫疾患活性は重合度5以上のプロアントシアニジンにより担われている。このことから、当該活性はジャトバに限定されるものではなく、高重合度プロシアニジンを含む他の素材にも適用可能であることが明らかとなった。
【0266】
実施例22:TypeII コラーゲン誘導関節炎モデルを用いたジャトバのインビボでの効果
ジャトバの慢性関節リウマチにおける効能を調べるために、TypeII コラーゲン誘導関節炎モデルで検討した。
【0267】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物を用いた。
【0268】
(2)実験動物およびその飼育
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢(購入先:チャールスリバー社)に対して、第0日目および第21日目にII型コラーゲン(コスモバイオ)150μgをCFA400μgと混合してエマルジョン化したものを皮内投与して誘導した。
【0269】
(3)実験条件
1群10匹でコントロール群、ジャトバ群に分けた。コントロール群は第0日目から第30日目まで週3回、1%エタノールを腹腔内投与した。ジャトバ群は同じスケジュールで50mg/kgでジャトバエタノール抽出物を腹腔内投与した。
【0270】
実験スケジュールを図33に示す。
【0271】
(4)臨床スコアのつけ方
スコア0:正常、スコア1:四肢の指など小関節が一本のみ膨張発赤、スコア2:小関節2本以上、あるいは手首・足首など大きな関節が膨張発赤、スコア3:一本の手や足全体が発赤膨張、スコア4:さらに1本の手や足の膨張が最大限に達している
臨床スコアは4本の足全てに対して、上記基準で観察し、4本の合計をスコアとして記録した。
【0272】
2.実験結果
臨床スコアの経時変化グラフを図34に示す。コントロール群では第21日目に2次免疫を行い(0日目とする)、二次免疫後2日経過した2日目で発症が始まり、それから2週間でほぼ完全発症(スコア16)した。ジャトバ群では2次免疫後、1週間経過した6日目近辺で発症が始まったが、スコア8までしか病状が進行しなかった。以上の結果、ジャトバ抽出物は慢性関節リウマチにも効果があることが示された。
【0273】
実施例23:I型糖尿病モデルを用いたジャトバのインビボでの効果
ジャトバのI型糖尿病における効能を調べるために、I型糖尿病が誘導されたNOD/Ltjマウスで検討した。
【0274】
1.実験方法
(1)投与試料
実施例2のジャトバエタノール抽出物を用いた。
【0275】
(2)実験動物、飼育
NOD/Ltjマウス(雌)、4週齢(購入先:チャールスリバー社)に対して10週齢時にシクロホスファミド(Cy)を300mg/kg腹腔内投与した。
【0276】
(3)実験条件
1群20匹でコントロール群、ジャトバ群に分けた。コントロール群は4週齢時から週2回、1%エタノールを腹腔内投与した。ジャトバ群は同じスケジュールで50mg/kgでジャトバエタノール抽出物を腹腔内投与した。9週齢時に5匹を剖検し、脾細胞を抗原のひとつであるインスリンと共培養し、培養上清中のIFN−γ産生量をELISAにて測定した。また、残り15匹は10週齢時にCyを投与し、Cy投与後第35日目まで臨床スコアを観察した。実験スケジュールを図35に示す。
【0277】
(4)発症の判定
糖尿病の発症率はグルテストエース(三和化学研究所(株))で尾から微量採血したものを測定し、250mg/dl以上の値を示した場合、陽性とした。
【0278】
2.実験結果
糖尿病発症率を図36に示す。コントロール群ではCy投与後第28日目で39%が発症したが、ジャトバ群では13%しか発症しなかった。
【0279】
さらに、9週齢時点の脾細胞のインスリンに対するIFN−γ産生量を測定したところ、コントロール群では6000pg/mlの産生が見られたにも関わらず、ジャトバ群では1000pg/ml程度に抑制されていた。以上の結果、ジャトバ抽出物はI型糖尿病にも効果があることが示された(図37)。
【0280】
実施例24:I型糖尿病における効能検討
実施例23ではシクロホスファミドをマウスに投与してI型糖尿病を誘導し、そのマウスを実験に用いた。本実施例では、長期的なI型糖尿病自然発症モデルマウスを実験に用いることによって、本発明による有効成分の効果をより正確に検証する。
【0281】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロール群として1% EtOHを、またジャトバ投与群としてジャトバEtOH抽出物(実施例2)を5mg/mlになるように1% EtOHに溶解したもの
(2)実験動物
NOD/Ltjマウス(雌)、4週齢(購入先:チャールスリバー社)。
【0282】
(3)実験条件
1群20匹でI型糖尿病自然発症モデルマウスNOD/Ltjを4週齢で購入と同時にジャトバEtOH抽出物を1mg/mouse、コントロール群には1% EtOHを200μl腹腔内へ週2回投与を開始。9週目以降、週1回に切り替え、発症率の検討終了の33週目まで投与を継続した。また一部(n=3)9週目で剖検し、脾細胞の抗原特異的な反応を検討した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)±300 μg/ml インスリン(シグマ社)で培養し、3日間培養後の上清についてIFN−γの濃度を測定した。更に11週目で一部(n=5)剖検し、脾臓細胞の各種免疫細胞存在比率を調べた。残りの個体は33週目まで週一回血糖値を測定し、発症率を検討した(図38)。
【0283】
(4)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0284】
(5)ex vivo 脾細胞における各種免疫担当細胞比率への影響
11週目で剖検した各群5匹から脾細胞を調製した。免疫担当細胞の表面マーカーの発現はフローサイトメトリーを用いて実施例25と同様の条件で調べた。
【0285】
(6)発症の判定
糖尿病の発症率はグルテストエース(三和化学研究所(株))で尾から微量採血したものを測定し、250mg/dl以上の値を示した場合、陽性とした。
【0286】
2.実験結果
9週目における抗原依存的な反応を調べた結果、抗原の一つであるインスリン依存的なIFN−γ産生が検出された。更にジャトバ投与によりこのIFN−γ産生が抑制された(図39)。また11週目で調べた脾臓細胞の各種免疫細胞存在比率に関してはジャトバ投与群でマクロファージの顕著な増加(約6%→20%)を観察した一方、CD4+T細胞、CD8+T細胞の減少傾向がみられた(図40)。また増加したマクロファージの表面抗原を調べたところ、MHC classIIや共刺激分子であるCD40,CD86に関してはそれぞれ発現低下傾向を示し(図41)、ジャトバ投与群ではT細胞活性化能の低い未熟なマクロファージが増加していると考えられる。これは実施例25におけるEAEモデルにおけるジャトバ投与の効果と同様の傾向である。
【0287】
また33週目における最終的な発症率は対照群の54%に比較してジャトバ投与群では22%に抑制されていた(図42)。以上の結果から、高重合度プロシアニジンを豊富に含むジャトバ抽出物はI型糖尿病に対して抑制効果を持つ事が明らかとなった。
【0288】
実施例25:ジャトバEtOH抽出物の脾細胞における各免疫担当細胞比率への影響検討
ジャトバ抽出物の特性を明らかにするために、ex vivoにおける脾細胞の免疫担当細胞の割合を実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルで検証した。
【0289】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバEtOH抽出物(実施例2)を5mg/mlになるように1% EtOH溶液に溶解させた。対照群には1%EtOH溶液を用いた。
【0290】
(2)実験動物
C57BL/6マウスをMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した一群3匹で第0,2,4,8,15日目と経時的に剖検を行った。
【0291】
(3)実験条件
対照群では週3回1%EtOHを200μl、ジャトバ投与群は5mg/ml(1% EtOH溶媒)を200μl腹腔内投与した。
【0292】
(4)ex vivo 脾細胞ポピュレーション解析
第0,2,4,8,15日目で各群、3匹解剖し、脾細胞とリンパ節細胞を調製した。免疫担当細胞の細胞表面マーカーの発現はフローサイトメトリーにて解析を行った(ベクトンデッキンソン)。解析する免疫担当細胞は、T細胞(CD3){CD4陽性(CD4)T細胞、CD8陽性(CD8)T細胞、制御性(CD4/CD25)T細胞}、B細胞(B220)、NK細胞(DX5)、マクロファージ(CD11b)、樹状細胞(CD11c)であり括弧内の細胞表面マーカーを指標とした。マクロファージの成熟度を示す細胞表面マーカーとしてはCD40、CD80、CD86、MHC class IIの抗体を用いた。
【0293】
細胞はFc受容体をブロックするためにCD16/CD32(Rat IgG2b,clone,93)でプレインキュベーションし洗浄後、5x105cellsを5%FBS、0.1%のアジ化ナトリウムを含むPBS中で目的とする抗原に特異的なマウスの抗体30分間、4℃でインキュベートした。染色にはfluorescein isothiocyanate (FITC)−またはphycoerythrin (PE)−で標識されたモノクローナル抗体を用いた。各々用いた抗体は、CD3e(Armenian hamster IgG,145−2C11), CD4(Rat IgG2b, GK1.5),CD8a(Rat IgG2a,53−6.7),CD11b (Rat TgG2b,M1/70),CD11c (Armenian Hamster IgG,N418), CD40(Rat IgG2a,1C10),CD80(B7−1)(Armenian hamster IgG,16−10A1),CD86(B7−2)(Rat IgG2b,GL1),MHC classII (Rat IgG2b,M5/114.15.2).ネガティブコントロールとして FITC−またはPE−標識したマウスIgG、ラットIgG、あるいはアルメニアハムスターIgGを用いた。これらの抗体は全てeBioscience Inc. (San Diego,CA)から購入した。
【0294】
2.実験結果
脾臓細胞では第8日目から第15日目にかけてヘルパーT細胞であるCD4+T細胞の増加が対照群でみられるのに対し、ジャトバ投与群では抑制されていた。また、抗原提示細胞であるDCおよびB細胞は実験開始から一貫して低下傾向にある一方でマクロファージは増加傾向にある(図43)。CD8+T細胞については特に両群間で差異はなかった。Th1免疫亢進性の疾患ではCD4+T細胞の減少や、抗原提示細胞(DC)の減少はその症状抑制に寄与すると考えられ、ジャトバ投与により、これらの細胞の割合が減少することは抑制活性をよく説明する結果となった。一方、これとは逆にジャトバ投与群で増加していたマクロファージについてその成熟度を検討するために、第10日目の脾臓細胞について更に解析した。細胞表面マーカーとして抗原提示能を反映すると言われている共刺激分子であるCD40,CD80,CD86,MHC class IIを用いた。その結果ジャトバ投与により増加しているマクロファージは調べたいずれの共刺激分子の発現も抑制傾向である事が分かり、特にTh1反応による炎症増幅に関わるCD80や抗原提示に主要に関わるMHC class IIについては有意に抑制していた。これらのことから、ジャトバ投与により脾細胞で増加しているマクロファージは対照群に比較して、抗原提示能が低い事が示唆された(図44)。
【0295】
実施例26:Type II collagen誘導関節炎モデルにおけるジャトバ経口投与による臨床スコアの改善
ジャトバの経口投与の効果を調べるためにType II collagen誘導関節炎モデルで検討した。
【0296】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバEtOH抽出物(実施例2)、ジャトバFr3分画物(実施例9)、カテキン類単量体である緑茶ポリフェノール(ポリフェノン:三井農林)を各々50mg/mlになるように10%EtOH溶液に溶解させた。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0297】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。
実験は一群13匹で実施した。
【0298】
(3)実験条件
一次免疫開始日から第40日目まで週5回、対照群では10%EtOHを250μl、ジャトバEtOH抽出物投与群、ジャトバFr3分画物投与群、緑茶ポリフェノール(ポリフェノン)投与群はそれぞれ50mg/ml(10%EtOH溶媒)に調製した試料を250μl強制経口投与した。
【0299】
(4)臨床スコアの付け方
2次免疫日を0日目として、以降31日目まで臨床症状を観察した。スコアの付け方は実施例22に従った。
【0300】
2.実験結果
臨床スコアの経時変化を図45に示した。ジャトバEtOH抽出物投与によって臨床スコアの抑制がみられた。またジャトバのRapid Fractionationによる分画物であるFr3投与では抑制効果が顕著であり、2次免疫後10日目から有意差をもって抑制することが分かった。一方単量体ポリフェノールであるポリフェノン投与では臨床スコアの増悪傾向が認められた。
【0301】
実施例27:Type II collagen誘導関節炎モデルにおけるジャトバ経口投与によるTh1サイトカイン産生能の抑制
ジャトバの経口投与の効果をex vivoで評価するためにType II collagen誘導関節炎モデルで検討した。
【0302】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバ投与群にはジャトバEtOH抽出物(実施例2)を50mg/mlになるように10%EtOH溶液に溶解したものを投与した。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0303】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μg H37Ra含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを皮内投与した。実験は一群20匹で実施した。
【0304】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0305】
(4)実験条件
免疫開始から2週間、週5回、対照群では10%EtOHを250μl、ジャトバ投与群は50mg/ml(1%EtOH溶媒)を250μl強制経口投与した。第14日目に剖検し、脾臓細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10%FCS(ロシュ社)±25μg/mlコラーゲン培地で37℃、5%CO2の条件で3日間培養し、培養上清を回収した。この上清中のIFN−γ濃度測定を実施した。
【0306】
2.実験結果
対照群における抗原依存的なIFN−γの上昇とジャトバ投与群における有意な抑制が確認できた(図46)。このことは経口投与によっても、腹腔内投与と同様にTh1型サイトカインであるIFN−γ産生の抑制を介して臨床スコアを改善している事を示している。
【0307】
実施例28:Type II collagen誘導関節炎モデルにおけるジャトバ経口投与による臨床スコアの改善効果の容量依存性
ジャトバの経口投与の効果について容量依存性を調べるためにType II collagen誘導関節炎モデルで検討した。
【0308】
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバ抽出物のRapid Fractionation分画物であるFr3(実施例9)を各々50mg/ml,37.5mg/ml,25mg/mlになるように10%EtOH溶液に溶解させた。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0309】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。実験は一群7匹で実施した。
【0310】
(3)実験条件
一次免疫開始日から第40日目まで週5回、コントロール群では10%EtOHを250μl、50mg/ml, 37.5mg/ml,25mg/mlのFr3を各々250μl投与した。一匹あたりの投与量はFr3換算でそれぞれ12.5、9.375、6.25mg/マウスとなる。
【0311】
(4)臨床スコアの付け方
2次免疫日を0日目として、以降17日目まで臨床症状を観察した。スコアの付け方は実施例22に従った。
【0312】
2.実験結果
スコアの変化のグラフを図47に示す。約9.375mg/マウスのFr3投与より高い濃度においては有意に病状が抑制されたが、それより低い濃度においては有意なスコアの抑制はみられなかった。よってジャトバ抽出物の効果が期待できる濃度は約9.375mg/マウス以上と考えられた。
【0313】
実施例29:高重合度プロシアニジンの効果が得られる投与時期の検討
発症期、急性期、慢性期以降からの高重合度プロシアニジン経口投与を行い、有効な投与時期について検討を行った。
【0314】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロールとして10% EtOHを、また高重合度プロシアニジンサンプルとしてジャトバFr3(実施例9)を50mg/mlになるように10% EtOHに溶解したものを用いた。
【0315】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。実験は一群12匹で実施した。
【0316】
(3)実験条件
一次免疫開始日第0日目から第46日目まで週5回、以下のような条件で経口投与を実施した。(第21日目開始を発症期、第28日目開始を急性期、第35日目開始を慢性期投与とした。)なお、一回あたりのジャトバFr3の投与量は12.5mg/mouseである。
I.コントロール群:一次免疫開始から実験終了まで250μlの10% EtOH溶液を経口投与。
II. ジャトバ投与群:一次免疫開始から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
III. 第21日目開始群:一次免疫開始から第20日目まで250μlの10% EtOHを、2次免疫日の第21日目から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
IV. 第28日目開始群:一次免疫開始から第27日目まで250μlの10% EtOHを、2次免疫日から1週間後の第28日目から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
V. 第35日目開始群:一次免疫開始から第34日目まで250μlの10% EtOHを、2次免疫日から2週間後の第35日目から実験終了までジャトバFr3を経口投与。
【0317】
(4)臨床スコアの付け方
2次免疫日を0日目として、以降25日目まで臨床症状を観察した。スコアの付け方は実施例22と同じ。
【0318】
2.実験結果
発症期投与としての第21日目投与開始群と、急性期投与としての第28日目投与開始群は、コントロール群と比較して発症率に影響はなかった(表10)。しかし、第21日目投与開始群では最大スコアが対照群のほぼ半分に、第28日目投与開始群ではコントロール群の約68%程度にまで抑制されていた(表10)。
【表10】
【0319】
平均スコアの推移を図48に示した。第21日目及び第28日目開始群は投与を開始することで病状の悪化を抑制していることが示された。高重合度プロシアニジンの抗自己免疫疾患効果は一次免疫成立後でも、有効であることが示された。
【0320】
実施例30:高重合度プロシアニジンによる血中抗体価の抑制活性
慢性関節炎リウマチモデルの臨床症状に加え、血中抗体価の抑制を確認する事を目的として実施した。
【0321】
1.実験方法
(1)投与試料
コントロール群として10% EtOHを、またジャトバ投与群としてジャトバFr3(実施例9)を50mg/mlになるように10% EtOHに溶解したものを用いた。
【0322】
(2)実験動物
DBA/1Jマウス(雄)、8週齢に対してウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)150μgを400μgの結核死菌(H37Ra:ディフコ)含むCFAと混合し、エマルジョン化したものを第0日目に皮内投与(1次免疫)、3週間後の第21日目に腹腔内投与(2次免疫)することで疾患を誘導した。実験は一群12匹で実施した。
【0323】
(3)血中抗体価の測定
ウシタイプIIコラーゲン(コスモバイオ)をリン酸バッファーで3μg/mlに調製したものを4℃で一晩コーティングしたプレートに500〜5000倍希釈した血清サンプルを添加して測定した。一次抗体には500倍希釈したAP−conjugateの抗total IgG抗体, 抗IgG1抗体, 抗IgG2a抗体(コスモバイオ)を用い、その後pNPP(フナコシ)にて発色させて410nmにて検出した。
【0324】
(4)実験条件
一次免疫開始日から第40日目まで週5回対照群には10% EtOHを250μl、ジャトバ群にはジャトバFr3を250μl経口投与した。第42日目に採血し、血清を調製した。
【0325】
2.実験結果
抗原であるコラーゲンに特異的な血中抗体価について調べた。IgG1,IgG2a,総IgG量のいずれもジャトバFr3投与により抑制された。更にIgG1/IgG2a比については上昇傾向を認めており、Th1免疫の抑制傾向を示した(図49)。この結果から高重合度プロシアニジン投与により自己抗体の産生が抑制されること、高重合度プロシアニジンによる慢性関節炎リウマチ抑制効果は抗原特異的な抗体産生の抑制効果を介していることが明らかとなった。
【0326】
実施例31:プロシアニジンの重合度別活性検討(I)
ジャトバ抽出物から3量体から6量体までのプロシアニジンを重合度ごとに調製したものを、EAEのex vivoの系を用いて検討した。
【0327】
1.実験方法
(1)投与試料
3量体から6量体までのプロシアニジン分画(実施例16)はプロシアニジン換算で各々5mg/mlになるように1% EtOH溶液に溶解した。また単量体として、(−)エピカテキン(シグマ)を、二量体として、Procyanidin B2(フナコシ)を各々購入し、同様の条件で溶解した。対照群には1% EtOH溶液を用いた。
【0328】
(2)実験動物
C57BL/6マウスを実施例3に記載のMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群12匹で第11日目に剖検を行った。
【0329】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0330】
(4)実験条件
第0日目から第10日目までコントロール群では週3回1%EtOHを200μl、(−)エピカテキン、Procyanidin B2と調製した各オリゴマーは5mg/ml(1% EtOH溶媒)を200μl腹腔内投与した。第11日目にて剖検し、脾臓細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)2μM MOG培地で37℃、5%CO2の条件で7日間培養し、培養上清を条件回収し、IFN−γ濃度測定を実施した。
【0331】
2.実験結果
IFN−γの測定結果を図50に示す。単量体(−)エピカテキンから6量体までの活性比較により、5量体以上のプロシアニジンにIFN−γ抑制がみられた。このことからこれまでみられていたジャトバ抽出物投与によるTh1サイトカインの抑制効果は重合度5以上のプロシアニジンによることが示唆された。
【0332】
実施例32:プロシアニジンの重合度別活性検討(II)
ジャトバ抽出物から3量体から9量体までのプロシアニジンを各重合度別に調製したもの(実施例16および実施例17)をEAEのex vivoの系を用いて検討した。今回、7量体乃至9量体の効果を検討するため、投与量は実施例31の半分の用量で実験を実施した。
【0333】
1.実験方法
(1)投与試料
3量体から9量体までのプロシアニジン精製物(実施例16および17)はプロシアニジン換算で各々2.5mg/mlになるように1% EtOH溶液に溶解した。また単量体として(−)エピカテキン(シグマ)を、二量体としてProcyanidin B2(フナコシ)を各々購入し、同様の条件で溶解した。コントロール群には1% EtOH溶液を用いた。
【0334】
(2)実験動物
C57BL/6マウスを実施例31に記載のMOG抗原で免疫する方法でEAEを誘導した。一群12匹で第11日目に剖検を行った。
【0335】
(3)脾細胞のIFN−γの測定
IFN−γの測定はOptEIA ELISA Set(ベクトン・デッキンソン社)を用いて実施した。
【0336】
(4)実験条件
第0日目から第10日目までコントロール群では週3回1%EtOHを200μl、(−)エピカテキン、Procyanidin B2と調製した各オリゴマーはそれぞれ500μg/mouseとなるように腹腔内投与した。第11日目にて剖検し、脾細胞を調製した。脾細胞はRPMI1640(シグマ社)+10% FCS(ロシュ社)2μM MOG培地で37℃、5%CO2の条件で7日間培養し、培養上清を回収し、IFN−γ濃度測定を実施した。
【0337】
2.実験結果
IFN−γの測定結果を図51に示す。実施例31で5量体以上のプロシアニジンに活性があることを示したが、本実施例においては投与量を減少させて、更に9量体まで活性比較を実施した。投与量を減少させたため5量体での活性は弱まったが、5量体以上のプロシアニジンでは重合度が高くなると共に、活性が上昇し、9量体まで重合度と活性の相関関係を確認することができた。
【0338】
実施例33:ジャトバ抽出物の安全性試験(ジャトバ抽出物の単回投与によるラットを用いた急性毒性試験)
1.実験方法
(1)投与試料
ジャトバEtOH抽出物(実施例2)、緑茶ポリフェノール(単量体)としてのポリフェノン(三井農林)を200mg/mlの容量になるように10%EtOHに溶解した。対照群には10%EtOH溶液を用いた。
【0339】
(2)実験動物
SD系ラット、雄、6週齢
(3)実験条件
第0日目に200mg/mlのジャトバEtOH抽出物または緑茶ポリフェノールを2g/kgとなるように強制的に経口投与した。第6日目まで毎日同時間に体重と、摂餌量を計測した。
【0340】
2.実験結果
ジャトバ投与群では毒性は認められず、体重変化(図52上)、摂餌量(図52下)ともに、対照群と変わらなかった。一方、緑茶ポリフェノール投与群では第1日目で10g以上の体重減少を3個体で認めたが、翌日から回復し、死亡例はなかった。以上の結果からジャトバ抽出物では急性毒性は認められないことが分かった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それらの疾患の根治治療剤、およびそれらの疾患の進行阻害剤。
【請求項2】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が少なくとも5である、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項3】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が4〜30である、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項4】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が5〜30である、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項5】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、カテキン、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、およびこれらの組み合わせから選択される構成単位を少なくとも含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項6】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、プロペラルゴニジン、プロシアニジン、プロデルフィニジン、プロガイボールチニジン(proguibourtinidin)、プロフィセチニジン、プロロビネチニジン、プロテラカシジン、プロメラカシジン、プロアピゲニニジン、およびプロルテオリニジンからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項7】
(i)のプロアントシアニジンが、ジャトバ、葡萄種子、クランベリー、シナモン、松樹皮、またはカカオ由来である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項8】
(ii)の植物素材の抽出物が、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項9】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが式(I)で表される、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【化1】
(上記式中、R1、R2、R5、R6、およびR7は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または−O−R11(R11は炭素数1〜4のアルキル基または糖残基を表す。)を表し、R3およびR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または基(II):
【化2】
を表し、但し、R3およびR4の両方が水酸基を表すことはなく、R3およびR4の両方が基(II)を表すことはなく、nは4〜30の整数を表し、各構成単位は、4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合しているか、あるいは4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している。)
【請求項10】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R6が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項9に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項11】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R6が水酸基を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項10に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項12】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項10または11に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項13】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項10または11に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項14】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R7が水素原子を表す、請求項9に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項15】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5およびR6が水酸基を表し、R7が水素原子を表す、請求項14に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項16】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項14または15に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項17】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項14または15に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項18】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表す、請求項9に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項19】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5、R6、およびR7が水酸基を表す、請求項18に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項20】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項18または19に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項21】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項18または19に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項22】
nが5〜30の整数を表す、請求項9〜21のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項23】
各構成単位が、4位と6位または4位と8位において互いに結合している、請求項9〜22のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項24】
各構成単位が、4位と8位および2位と7位において互いに結合している、請求項9〜22のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項25】
Th1サイトカインの産生抑制が治療上有効である疾患が、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患である、請求項1〜24のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項26】
Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患が、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、インスリン依存型糖尿病、自己免疫性甲状腺炎(AT)、自己免疫性ブドウ膜網膜炎(AUR)、橋本病、乾癬症、クローン病、および円形脱毛症から選択される、請求項25に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項27】
自己抗体の産生抑制が治療上有効である疾患が、自己抗体媒介型自己免疫疾患である、請求項1〜24のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項28】
自己抗体媒介型自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、シェーグレン症候群、急性リウマチ熱、尋常性天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、および混合型本態性クリオグロブリン血症から選択される、請求項27に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項29】
Th1サイトカインがIFN−γである、請求項1〜26のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項30】
経口剤または外用剤の態様で提供される、請求項1〜29に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項31】
Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それら疾患の根治治療剤、およびそれら疾患の進行阻害剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用。
【請求項32】
Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それら疾患の根治治療剤、およびそれら疾患の進行阻害剤が、食品の形態で提供される、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
治療上の有効量の(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療方法、それら疾患の根治治療方法、およびそれら疾患の進行阻害方法。
【請求項34】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制剤。
【請求項35】
Th1サイトカインの産生抑制剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用。
【請求項36】
Th1サイトカインの産生抑制剤が、食品の形態で提供される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制方法。
【請求項38】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、自己抗体の産生抑制剤。
【請求項39】
自己抗体の産生抑制剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用。
【請求項40】
自己抗体の産生抑制剤が、食品の形態で提供される、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を哺乳類に投与することを含んでなる、自己抗体の産生抑制方法。
【請求項42】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療、それらの疾患の根治治療、および/またはそれらの疾患の進行阻害に用いられる食品。
【請求項43】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する食品。
【請求項44】
(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する抽出物を含んでなる食品。
【請求項45】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能が表示された食品。
【請求項46】
本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかにTh1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体に関連する状態の改善または緩和機能が表示された、請求項45に記載の食品。
【請求項47】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が少なくとも5である、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項48】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が4〜30である、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品
【請求項49】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が5〜30である、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品
【請求項50】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、カテキン、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、およびこれらの組み合わせから選択される構成単位を少なくとも含む、請求項42〜49のいずれか一項に記載の食品。
【請求項51】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、プロペラルゴニジン、プロシアニジン、プロデルフィニジン、プロガイボールチニジン(proguibourtinidin)、プロフィセチニジン、プロロビネチニジン、プロテラカシジン、プロメラカシジン、プロアピゲニニジン、およびプロルテオリニジンからなる群から選択される、請求項42〜49のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項52】
(i)のプロアントシアニジンが、ジャトバ、葡萄種子、クランベリー、シナモン、または松樹皮由来である、請求項42〜51のいずれか一項に記載の食品。
【請求項53】
(ii)の植物素材の抽出物が、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項54】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが式(I)で表される、請求項42〜53のいずれか一項に記載の食品。
【化3】
(上記式中、R1、R2、R5、R6、およびR7は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または−O−R11(R11は炭素数1〜4のアルキル基または糖残基を表す。)を表し、R3およびR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または基(II):
【化4】
を表し、但し、R3およびR4の両方が水酸基を表すことはなく、R3およびR4の両方が基(II)を表すことはなく、nは4〜30の整数を表し、各構成単位は、4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合しているか、あるいは4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している。)
【請求項55】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R6が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項54に記載の食品。
【請求項56】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R6が水酸基を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項55に記載の食品。
【請求項57】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項55または56に記載の食品。
【請求項58】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項55または56に記載の食品。
【請求項59】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R7が水素原子を表す、請求項54に記載の食品。
【請求項60】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5およびR6が水酸基を表し、R7が水素原子を表す、請求項59に記載の食品。
【請求項61】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項59または60に記載の食品。
【請求項62】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項59または60に記載の食品。
【請求項63】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表す、請求項54に記載の食品。
【請求項64】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5、R6、およびR7が水酸基を表す、請求項63に記載の食品。
【請求項65】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項63または64に記載の食品。
【請求項66】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項63または64に記載の食品。
【請求項67】
nが5〜30の整数を表す、請求項54〜66のいずれか一項に記載の食品。
【請求項68】
各構成単位が、4位と6位または4位と8位において互いに結合している、請求項54〜67のいずれか一項に記載の食品。
【請求項69】
各構成単位が、4位と8位および2位と7位において互いに結合している、請求項54〜67のいずれか一項に記載の食品。
【請求項70】
Th1サイトカイン産生増大に関連する状態が、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患に特徴的な状態である、請求項43〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項71】
Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患が、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、インスリン依存型糖尿病、自己免疫性甲状腺炎(AT)、自己免疫性ブドウ膜網膜炎(AUR)、橋本病、乾癬症、クローン病、および円形脱毛症から選択される、請求項70に記載の食品。
【請求項72】
自己抗体産生に関連する状態が、自己抗体媒介型自己免疫疾患に特徴的な状態である、請求項43〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項73】
自己抗体媒介型自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、シェーグレン症候群、急性リウマチ熱、尋常性天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、および混合型本態性クリオグロブリン血症から選択される、請求項72に記載の食品。
【請求項74】
Th1サイトカインがIFN−γである、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項75】
Th1サイトカイン産生増大に関連する状態および/または自己抗体産生に関連する状態が、全身の強張りや関節の違和感である、請求項43〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項76】
重合度が少なくとも4のプロアントシアニジンを、成人1人1日当たり50〜2000mgの摂取量となるように含んでなる、健康食品。
【請求項77】
プロアントシアニジンが、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される抽出物であって、重合度が少なくとも4のプロアントシアニジンを含む抽出物の形態で提供される、請求項76に記載の健康食品。
【請求項78】
プロアントシアニジンの重合度が4〜30である、請求項76または77に記載の健康食品。
【請求項79】
プロアントシアニジンの重合度が少なくとも5である、請求項76または77に記載の健康食品。
【請求項80】
プロアントシアニジンの重合度が5〜30である、請求項76または77に記載の健康食品。
【請求項81】
特定保健用食品、栄養機能食品、または栄養補助食品である、請求項76〜80のいずれか一項に記載の健康食品。
【請求項82】
通常の食品の形状あるいは栄養補助食品の形状である、請求項76〜81のいずれか一項に記載の健康食品。
【請求項83】
Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分の製造法であって、
(a)プロアントシアニジンを含有する植物原料を抽出操作に付す工程;および
(b)工程(a)で得られた抽出画分を限外濾過操作に付して、ケーキを得る工程
を含んでなる、製造法。
【請求項84】
工程(b)の後に、(c)工程(b)で得られたケーキに含まれるプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を更に含んでなる、請求項83に記載の製造法。
【請求項85】
試料中のプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を含んでなる、Th1サイトカイン産生抑制活性の検定方法であって、4以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカイン産生抑制活性を示すことを特徴とする方法。
【請求項86】
5以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカイン産生抑制活性の指標である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
試料中のプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性の検定方法であって、4以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性を示すことを特徴とする方法。
【請求項88】
5以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性の指標である、請求項87に記載の方法。
【請求項1】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それらの疾患の根治治療剤、およびそれらの疾患の進行阻害剤。
【請求項2】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が少なくとも5である、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項3】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が4〜30である、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項4】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が5〜30である、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項5】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、カテキン、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、およびこれらの組み合わせから選択される構成単位を少なくとも含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項6】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、プロペラルゴニジン、プロシアニジン、プロデルフィニジン、プロガイボールチニジン(proguibourtinidin)、プロフィセチニジン、プロロビネチニジン、プロテラカシジン、プロメラカシジン、プロアピゲニニジン、およびプロルテオリニジンからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項7】
(i)のプロアントシアニジンが、ジャトバ、葡萄種子、クランベリー、シナモン、松樹皮、またはカカオ由来である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項8】
(ii)の植物素材の抽出物が、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項9】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが式(I)で表される、請求項1に記載の治療剤および阻害剤。
【化1】
(上記式中、R1、R2、R5、R6、およびR7は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または−O−R11(R11は炭素数1〜4のアルキル基または糖残基を表す。)を表し、R3およびR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または基(II):
【化2】
を表し、但し、R3およびR4の両方が水酸基を表すことはなく、R3およびR4の両方が基(II)を表すことはなく、nは4〜30の整数を表し、各構成単位は、4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合しているか、あるいは4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している。)
【請求項10】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R6が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項9に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項11】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R6が水酸基を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項10に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項12】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項10または11に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項13】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項10または11に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項14】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R7が水素原子を表す、請求項9に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項15】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5およびR6が水酸基を表し、R7が水素原子を表す、請求項14に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項16】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項14または15に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項17】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項14または15に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項18】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表す、請求項9に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項19】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5、R6、およびR7が水酸基を表す、請求項18に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項20】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項18または19に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項21】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項18または19に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項22】
nが5〜30の整数を表す、請求項9〜21のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項23】
各構成単位が、4位と6位または4位と8位において互いに結合している、請求項9〜22のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項24】
各構成単位が、4位と8位および2位と7位において互いに結合している、請求項9〜22のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項25】
Th1サイトカインの産生抑制が治療上有効である疾患が、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患である、請求項1〜24のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項26】
Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患が、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、インスリン依存型糖尿病、自己免疫性甲状腺炎(AT)、自己免疫性ブドウ膜網膜炎(AUR)、橋本病、乾癬症、クローン病、および円形脱毛症から選択される、請求項25に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項27】
自己抗体の産生抑制が治療上有効である疾患が、自己抗体媒介型自己免疫疾患である、請求項1〜24のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項28】
自己抗体媒介型自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、シェーグレン症候群、急性リウマチ熱、尋常性天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、および混合型本態性クリオグロブリン血症から選択される、請求項27に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項29】
Th1サイトカインがIFN−γである、請求項1〜26のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項30】
経口剤または外用剤の態様で提供される、請求項1〜29に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項31】
Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それら疾患の根治治療剤、およびそれら疾患の進行阻害剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用。
【請求項32】
Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療剤、それら疾患の根治治療剤、およびそれら疾患の進行阻害剤が、食品の形態で提供される、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
治療上の有効量の(i)重合度が4以上のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を、必要であれば薬学上許容される担体とともに哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療方法、それら疾患の根治治療方法、およびそれら疾患の進行阻害方法。
【請求項34】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制剤。
【請求項35】
Th1サイトカインの産生抑制剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用。
【請求項36】
Th1サイトカインの産生抑制剤が、食品の形態で提供される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を哺乳類に投与することを含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制方法。
【請求項38】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効成分として含んでなる、自己抗体の産生抑制剤。
【請求項39】
自己抗体の産生抑制剤の製造のための、(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物の使用。
【請求項40】
自己抗体の産生抑制剤が、食品の形態で提供される、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
有効量の(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を哺乳類に投与することを含んでなる、自己抗体の産生抑制方法。
【請求項42】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患および/または自己抗体の産生抑制が治療に有効である疾患の治療、それらの疾患の根治治療、および/またはそれらの疾患の進行阻害に用いられる食品。
【請求項43】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する食品。
【請求項44】
(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能を有する抽出物を含んでなる食品。
【請求項45】
(i)重合度が少なくとも4のプロアントシアニジン、または(ii)プロアントシアニジンを含有する植物素材の抽出物を有効量含んでなる食品であって、Th1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体産生に関連する状態の改善または緩和機能が表示された食品。
【請求項46】
本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかにTh1サイトカイン産生抑制機能、Th1サイトカイン産生増大に関連する状態の改善または緩和機能、自己抗体産生抑制機能、または自己抗体に関連する状態の改善または緩和機能が表示された、請求項45に記載の食品。
【請求項47】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が少なくとも5である、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項48】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が4〜30である、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品
【請求項49】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンの重合度が5〜30である、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品
【請求項50】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、カテキン、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、およびこれらの組み合わせから選択される構成単位を少なくとも含む、請求項42〜49のいずれか一項に記載の食品。
【請求項51】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが、プロペラルゴニジン、プロシアニジン、プロデルフィニジン、プロガイボールチニジン(proguibourtinidin)、プロフィセチニジン、プロロビネチニジン、プロテラカシジン、プロメラカシジン、プロアピゲニニジン、およびプロルテオリニジンからなる群から選択される、請求項42〜49のいずれか一項に記載の治療剤および阻害剤。
【請求項52】
(i)のプロアントシアニジンが、ジャトバ、葡萄種子、クランベリー、シナモン、または松樹皮由来である、請求項42〜51のいずれか一項に記載の食品。
【請求項53】
(ii)の植物素材の抽出物が、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項54】
(i)および/または(ii)のプロアントシアニジンが式(I)で表される、請求項42〜53のいずれか一項に記載の食品。
【化3】
(上記式中、R1、R2、R5、R6、およびR7は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または−O−R11(R11は炭素数1〜4のアルキル基または糖残基を表す。)を表し、R3およびR4は、同一または異なっていてもよく、水素原子、水酸基、または基(II):
【化4】
を表し、但し、R3およびR4の両方が水酸基を表すことはなく、R3およびR4の両方が基(II)を表すことはなく、nは4〜30の整数を表し、各構成単位は、4位と6位または4位と8位の一カ所において互いに結合しているか、あるいは4位と8位および2位と7位の二カ所において互いに結合している。)
【請求項55】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R6が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項54に記載の食品。
【請求項56】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R6が水酸基を表し、R5およびR7が水素原子を表す、請求項55に記載の食品。
【請求項57】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項55または56に記載の食品。
【請求項58】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項55または56に記載の食品。
【請求項59】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5およびR6が水酸基または−O−R11を表し、R7が水素原子を表す、請求項54に記載の食品。
【請求項60】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5およびR6が水酸基を表し、R7が水素原子を表す、請求項59に記載の食品。
【請求項61】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項59または60に記載の食品。
【請求項62】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項59または60に記載の食品。
【請求項63】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基または−O−R11を表し、R5、R6、およびR7が水酸基または−O−R11を表す、請求項54に記載の食品。
【請求項64】
各構成単位において、R1およびR2が水酸基を表し、R5、R6、およびR7が水酸基を表す、請求項63に記載の食品。
【請求項65】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が水酸基を表し、他方が水素原子を表す、請求項63または64に記載の食品。
【請求項66】
各構成単位において、R3およびR4いずれか一方が基(II)を表し、他方が水素原子を表す、請求項63または64に記載の食品。
【請求項67】
nが5〜30の整数を表す、請求項54〜66のいずれか一項に記載の食品。
【請求項68】
各構成単位が、4位と6位または4位と8位において互いに結合している、請求項54〜67のいずれか一項に記載の食品。
【請求項69】
各構成単位が、4位と8位および2位と7位において互いに結合している、請求項54〜67のいずれか一項に記載の食品。
【請求項70】
Th1サイトカイン産生増大に関連する状態が、Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患に特徴的な状態である、請求項43〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項71】
Th1サイトカイン依存型自己免疫疾患が、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、インスリン依存型糖尿病、自己免疫性甲状腺炎(AT)、自己免疫性ブドウ膜網膜炎(AUR)、橋本病、乾癬症、クローン病、および円形脱毛症から選択される、請求項70に記載の食品。
【請求項72】
自己抗体産生に関連する状態が、自己抗体媒介型自己免疫疾患に特徴的な状態である、請求項43〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項73】
自己抗体媒介型自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、シェーグレン症候群、急性リウマチ熱、尋常性天疱瘡、自己免疫性血小板減少性紫斑病、および混合型本態性クリオグロブリン血症から選択される、請求項72に記載の食品。
【請求項74】
Th1サイトカインがIFN−γである、請求項42〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項75】
Th1サイトカイン産生増大に関連する状態および/または自己抗体産生に関連する状態が、全身の強張りや関節の違和感である、請求項43〜46のいずれか一項に記載の食品。
【請求項76】
重合度が少なくとも4のプロアントシアニジンを、成人1人1日当たり50〜2000mgの摂取量となるように含んでなる、健康食品。
【請求項77】
プロアントシアニジンが、ジャトバ抽出物、葡萄種子抽出物、クランベリー抽出物、シナモン抽出物、松樹皮抽出物、およびカカオ抽出物からなる群から選択される抽出物であって、重合度が少なくとも4のプロアントシアニジンを含む抽出物の形態で提供される、請求項76に記載の健康食品。
【請求項78】
プロアントシアニジンの重合度が4〜30である、請求項76または77に記載の健康食品。
【請求項79】
プロアントシアニジンの重合度が少なくとも5である、請求項76または77に記載の健康食品。
【請求項80】
プロアントシアニジンの重合度が5〜30である、請求項76または77に記載の健康食品。
【請求項81】
特定保健用食品、栄養機能食品、または栄養補助食品である、請求項76〜80のいずれか一項に記載の健康食品。
【請求項82】
通常の食品の形状あるいは栄養補助食品の形状である、請求項76〜81のいずれか一項に記載の健康食品。
【請求項83】
Th1サイトカイン産生抑制活性を有する画分の製造法であって、
(a)プロアントシアニジンを含有する植物原料を抽出操作に付す工程;および
(b)工程(a)で得られた抽出画分を限外濾過操作に付して、ケーキを得る工程
を含んでなる、製造法。
【請求項84】
工程(b)の後に、(c)工程(b)で得られたケーキに含まれるプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を更に含んでなる、請求項83に記載の製造法。
【請求項85】
試料中のプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を含んでなる、Th1サイトカイン産生抑制活性の検定方法であって、4以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカイン産生抑制活性を示すことを特徴とする方法。
【請求項86】
5以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカイン産生抑制活性の指標である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
試料中のプロアントシアニジンの重合度を測定する工程を含んでなる、Th1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性の検定方法であって、4以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性を示すことを特徴とする方法。
【請求項88】
5以上の重合度のプロアントシアニジンの検出がTh1サイトカインの産生抑制が治療に有効である疾患の治療活性の指標である、請求項87に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図17】
【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【国際公開番号】WO2005/030200
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514228(P2005−514228)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014116
【国際出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/014116
【国際出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【Fターム(参考)】
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