説明

自己免疫過剰活性抑制剤、貼付薬シート、及び自己免疫過剰活性の抑制方法

【課題】実効的に自己免疫系の過剰活性化を抑制させる手法を提供する。
【解決手段】本発明に係る自己免疫過剰活性の抑制方法は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を体内に導入し、SOCSを誘導させ、サイトカインシグナルの異常を抑制させることにより、自己免疫の過剰活性を抑制させる。前記(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである。SOCSは、SOCS1、SOCS2、又は、SOCS3のいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫過剰活性抑制剤、貼付薬シート、及び、自己免疫過剰活性の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、病原体等の外敵から自己を守るために必須の生体機構である。もっとも、免疫系の過剰な活性化は自らの生体組織を破壊し、膠原病等の自己免疫疾患の原因となる。膠原病は、結合組織と血管の炎症を主とし、自己抗体の出現を伴う原因不明の自己免疫性・難治性疾患である。
【0003】
古典的膠原病としては、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:以下、「SLE」と略記する。)、強皮症(progressive systemic sclerosis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)、慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、リウマチ熱(rheumatic fever)、結節性多発(性)動脈炎(polyarteritis nodosa)の6疾患がある。
【0004】
SLEは、1942年にクレンペラー(Klemperer)により提唱された臨床形態学的概念であり、結合組織の系統的疾患であって、全身の膠原繊維にフィブリノイド変性という共通の病変が見られる疾患群の総称である。
【0005】
近年、生体の免疫応答、造血反応等の生体機能の発現を調節する蛋白因子として数多くのサイトカインが発見され、その構造や作用が解明されるにつれて、サイトカインの作用が免疫系に影響を及ぼし、病態生理とも関連深いことが明らかにされつつある。
【0006】
例えば、特許文献1には、サイトカインシグナルの異常を抑制させるサイトカイン産生抑制剤が記載されている。
【0007】
また、例えば、特許文献2には、ファセオルス・ヴルガリス(Phaseolus vulgaris)由来のレクチンを有効成分として含有する全身性エリテマトーデス診断用試薬が記載されている。
【0008】
しかしながら、これらの技術では、自己の免疫系が過剰に活性化することを適切に抑制できない。そのため、膠原病等の自己免疫の過剰活性に起因する疾患を有効に改善させる手法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−002132号公報
【特許文献2】特開2002−168865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、実効的に、自己免疫系の過剰活性化を抑制させる自己免疫過剰活性抑制剤、貼付薬シート、及び、その抑制手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、この発明の第1の観点に係る自己免疫過剰活性抑制剤は、
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を含有する、ことを特徴とする。
【0012】
また、前記(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである、ことも可能である。
【0013】
また、上記目的を達成するため、この発明の第2の観点に係る貼付薬シートは、
支持材上に、薬剤を含有する薬剤層を積層して形成され、患部に前記薬剤が当接して浸透するように貼り付けて使用する貼付薬シートにおいて、
前記薬剤は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を含有する、ことを特徴とする。
【0014】
また、前記(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである、ことも可能である。
【0015】
また、上記目的を達成するため、この発明の第3の観点に係る自己免疫過剰活性の抑制方法は、
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を体内に導入し、SOCSを誘導させ、サイトカインシグナルの異常を抑制させることにより、自己免疫の過剰活性を抑制させる、ことを特徴とする。
【0016】
また、前記(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである、ことも可能である。
【0017】
前記SOCSが、SOCS1、SOCS2、又は、SOCS3のいずれかである、ことも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る自己免疫過剰活性抑制剤は、自己免疫系の過剰活性化を、有効的に抑制させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】EGCGの化学式を説明する図である。
【図2】本実施形態に係る貼付薬シートの断面を説明する図である。
【図3】EGCGにより誘導されたSOCS1の発現の結果を説明する図である。
【図4】EGCGにより誘導されたSOCS3の発現の結果を説明する図である。
【図5】EGCGによるIgE抗体の産出の抑制を説明する図である。
【図6】U266細胞におけるSOCS1の発現レベルを説明する図である。
【図7】SLE末梢血単核球における、EGCGのIgG抗DNA抗体の産生抑制を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(自己免疫過剰活性の抑制方法)
本実施形態の自己免疫過剰活性の抑制方法は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を体内に導入し、SOCS(サイトカインシグナル伝達抑制因子(suppressor of cytokine signaling))を誘導させ、サイトカインシグナルの異常を抑制させることにより、自己免疫の過剰活性を抑制させる。
【0021】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、図1に示される構造を有している。
【0022】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、例えば、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出する。なお、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、例えば、アッサム雑種茶や中国種茶から抽出することも可能である。
【0023】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)の緑茶植物の葉からの抽出は、例えば、下記に示す手法にて行うことができる。即ち、まず、緑茶葉を温水で抽出し、茶カテキン及びカフェインを含有する緑茶抽出物を得る。そして、この緑茶溶液をさらに濃縮し、濃縮緑茶抽出物溶液を形成する。そして、濃縮緑茶抽出物溶液をマクロポーラス極性樹脂を充填したカラムに付すことにより、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を分離する。
【0024】
また、茶抽出物粉末は、例えば Guizhou Highyin Biological Product Co., P.R. China、 または Zhejang Zhongke Plant Technical Co. Ltd., Hangzhou, Zhejang, P. R. Chinaから市販もされている。
【0025】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)の体内への導入は、例えば、後述するように、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を有効成分として含有する錠剤を経口投与にて導入することができる。
【0026】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)が体内に導入されることにより、SOCSが誘導される。SOCS(サイトカインシグナル伝達抑制因子(suppressor of cytokine signaling))は、サイトカイン誘導性の細胞内分子である。
【0027】
サイトカインは、細胞の分化、増殖、生存等に重要な機能を有し、生体にとって必要不可欠な細胞間の情報伝達物質であるものの、サイトカインが過剰に存在したり、そのシグナルが過剰に伝達されると、自己免疫疾患や炎症性疾患等が引き起こされる。しかしながら、本実施形態に係る自己免疫過剰活性の抑制方法によると、SOCSの誘導により、サイトカインシグナルの異常を抑制させることができるのである。
【0028】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)の導入により、サイトカインシグナルの異常を抑制させるサイトカインとしては、特に限定されるものではないが、例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−6、IL−10、IL−12、IL−18、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、TNF−α、TNF−β、TGF−β等がある。
【0029】
このうちIL−4は、活性化されたCD4T細胞(Th2細胞)、CD8T細胞、マスト細胞(肥満細胞)、好塩基球、NKT細胞から産生される。IL−4は、活性化されたB細胞に作用し、IgMから、IgG1、IgEへのクラススイッチを促進させ、IgG1抗体、IgE抗体の産生を促進する。
【0030】
本実施形態に係る自己免疫過剰活性の抑制方法によって誘導されるSOCSは、特に限定されるものではないが、例えば、SOCS1、SOCS2、又は、SOCS3のいずれかである。SOCS1、SOCS2、又は、SOCS3は、それぞれ、異なった分子機序でサイトカインシグナル伝達を制御する。
【0031】
SOCS1は、チロシンキナーゼの一つであるJAK分子と結合して、その機能を抑制することでサイトカインシグナルを制御する。
【0032】
SOCS2は、受容体のリン酸化チロシンと結合し、STAT分子を競合阻害することで、サイトカインシグナルを制御する。
【0033】
SOCS3は、受容体のリン酸化チロシンと結合し、JAK分子にアクセスすることで、JAK分子の機能を阻害して、サイトカインシグナルを制御する。
【0034】
サイトカインシグナルの異常を抑制させることにより、自己免疫の過剰活性に伴う疾患を実効的に改善させることができる。本実施形態に係る自己免疫過剰活性の抑制方法にて改善できる疾患としては、特に限定されるものではないが、例えば、SLE、強皮症(systemic sclerosis)、皮膚筋炎(dermatomyositis)、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、リウマチ熱(rheumatic fever)、結節性多発(性)動脈炎(polyarteritis nodosa)等があげられ、さらには、エンドトキシンショック、ARDS、熱傷、喘息、ウィルス性心筋炎の急性期、特発性拡張型心筋症、SIRS(全身性炎症反応症候群)からの臓器不全への移行、多臓器不全、クローン病、高γグロブリン血症、多発性硬化症、癌転移抑制、モノクローナルB細胞異常症、ポリクローナルB細胞異常症、心房粘液腫、キャッスルマン症候群、原発性糸球体腎炎、メサンギュウム増殖性腎炎、癌カヘキシー、悪性リンパ腫、乾癬、アトピー性皮膚炎、エイズに伴うカポシ肉腫、閉経後骨粗しょう症、敗血症、肝炎等もあげられる。
【0035】
本実施形態に係る自己免疫過剰活性の抑制方法にて改善できる患者、患蓄としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳類(マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等)を例示することができるが、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物等、任意である。
【0036】
(自己免疫過剰活性抑制剤)
本実施形態における自己免疫過剰活性抑制剤は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を有効成分量含有する。
【0037】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、特に限定されるものではないが、例えば、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである。
【0038】
なお、EGCGは、緑茶植物から抽出されたものに限定されず、EGCG抽出前の緑茶植物、緑茶抽出物、EGCGを含むカテキン、EGCG誘導体、及び、人工的に合成された合成EGCGも含まれる。
また、EGCGは、緑茶以外の例えば、アッサム雑種茶、中国種茶、烏龍茶及び紅茶等の茶葉、また、EGCGが含まれる植物、薬品及び食品から抽出することもできる。EGCGが含まれる食品等は、例えば、ポリフェノン(登録商標)(三井農林株式会社)、カテキンが含まれる特定保健用食品、及び、健康食品等、任意である。
【0039】
緑茶に含まれているカテキンは8種類あるが、その主なものは(−)−エピカテキン(EC;茶葉全カテキン中の比率=10%)、(−)−エピガロカテキン(EGC;22%)、(−)−エピカテキンガレート(ECG;11%)、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG;54%)であり、これらの中でEGCGが主成分である。
【0040】
自己免疫過剰活性抑制剤は、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、カプセル剤等の形状を有するものとすることも可能である。錠剤中若しくはカプセル中には、リジン、プロリン、アルギニン、ビタミンC、マグネシウム等の種々の健康促進機能を有する物質を含有させることができる。
【0041】
また、渋み等を改善させるために、錠剤中に、グレープフルーツ等のかんきつ類果汁、苦味マスキングペプチド等を、渋みをマスキングする成分として含有させることも可能である。
【0042】
錠剤中における(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)の有効成分濃度は、この範囲に限定されるものではないが、例えば6〜40重量%濃度とすることができる。
【0043】
(貼付薬シート)
本実施形態に係る貼付薬シート900は、図2に示されるように、支持材100上に、薬剤を含有する薬剤層200を積層して形成される。
【0044】
貼付薬シート900は、患部に薬剤が当接して浸透するように貼り付けて使用する。
【0045】
薬剤層200に含有される薬剤には、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)が有効成分として含有されている。
【0046】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、特に限定されるものではないが、例えば、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものを使用できる。
【0047】
薬剤層200には、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)が含有される以外に、有粘着成分としての粘着剤(軟膏)が含有される。
【0048】
支持材100は、透明性を有する高分子フィルム110と、編布120と、を有して構成される。
【0049】
支持材100は、透明性を有する高分子フィルム110を有して構成されるから、患部に貼付薬シート900を貼り付けたとしても目立ちにくい。透明性を有する高分子フィルム110としては、例えばポリエステルフィルムを使用できる。
【0050】
また、支持材100は、編布120を有して構成されるから、支持材100は所定の強度を有するとともに、編布120と薬剤層200との間の剥離が生じにくい。
【0051】
編布としては、横編み、縦編みいずれでもよく、例えば、ミラニーズ編布、ラッセル編布、メリヤス編布等にて形成される。
【0052】
薬剤層200は、図2に示されるように、離型フィルム300にて被覆される。貼付薬シート900を使用する際には、離型フィルム300を剥離させて、薬剤層200を露出させ、患部に貼付させて使用する。
【0053】
貼付薬シート900は、自己免疫の過剰活性により皮膚に疾患が生じている患部に貼り付けて使用する。そのため、貼付薬シート900を使用することにより、疾患患部を集中的かつ直接的に治療することができる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
緑茶から抽出されたEGCGについて、ヒト血液細胞におけるSOCSの発現の誘導を調べた。
【0055】
(末梢血単核球の準備)
健康的な人間から採取された20mlのへパリナイズされた静脈血液を、リン酸緩衝食塩水PBS(Nacalai Tesque Inc.,product code 1429-95)にて1:1で希釈した。その後、50mlの遠心分離チューブ(Corning Inc.,product code 430291)の中で10mlのリンフォプレップ(Axis-Shield PoC AS, Oslo, Norway)の上に積層し、室温にて、30分間、2000rpmで、遠心分離した(Tomy EX-126, Tomy Digital Biology Company Ltd)。採取されたリンパ球は、PBSにて三回、洗浄し、その後、室温にて、5分間、1500rpmで、遠心分離した。こうして、密度沈降により静脈血から末梢血単核球(PBMC)を精製した。
【0056】
(リンパ球分別)
末梢血単核球を、MACS磁気ラベルされた抗体(Miltenyi Biotec, Inc., Auburn)を使用することにより、B細胞と、単球と、T細胞と、に分別した。B細胞の分別に使用したMACS抗体は、抗ヒトCD19抗体(product code 130-050-301)であった。単球の分別に使用されたMACS抗体は、抗ヒトCD14抗体(product code 130-050-201)であった。T細胞の分別に使用されたMACS抗体は、抗ヒトCD3抗体(product code 130-050-101)であった。これらのMACS抗体を使用した細胞分別は、通常のマニュアル手法により実行された。なお、当該細胞分別には、公知のいかなる方法も用いることができる。
【0057】
(血液細胞のEGCG処理)
MACS抗体により分離されたB細胞と、単球と、T細胞とは、10%の牛胎児の血清(Hyclone Ltd.,product code SV30014.03)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(Nacalai Tesque, Inc.,product code 26253-84)を含有するRPMI媒体(Wako Pure Chemical Industries Ltd.,product code 189-02025)中で培養された。そして、37℃、5%二酸化炭素存在下にて、一晩、12ウェルコースタープレート(Corning, Inc)にて、1×10セル/mlの濃度にて静置した。緑茶パウダー(Sigma-Aldrich, Inc.,product code E4143)から得られたEGCGを10mMの濃度で水に溶解させ、10μMの濃度で細胞処理に使用した。
【0058】
(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるPBMC(末梢血単核球)におけるSOCS誘導の定量)
EGCG処理を行ったPBMC(末梢血単核球)を得た後、RNA(ribonucleic acid)を、通常のマニュアル手法により、Qiagen Rneasyキット(Qiagen, Inc., Valencia,product code 74106)を使用して精製した。SOCS発現の確認は、リバース転写及びリアルタイムPCRにて実行した。PBMC cDNAは、Quantitect Reverse Transcriptionキット(Qiagen, Inc., Valencia,product code 205311)を使用し、通常のマニュアル手法にて、1μgのPBMC RNAを用いて準備し、容量にして30μlのcDNAサンプルを得た。
【0059】
QuantiTect SYBR green PCRキット(Qiagen, Inc., Valencia)を使用して、血液細胞cDNAサンプルに対し、半定量的リアルタイムPCRによる測定を行った。そして、SOCS1及びSOCS3の発現レベルをBio-Rad iCycler (Bio-Rad Laboratories, Inc)にて測定した。PBMC cDNAサンプルにおけるヒトβアクチンの発現レベルも測定し、SOCS1及びSOCS3の発現レベルを補正した。PCR反応は、10μlの2xSYBRグリーンPCRバッファ、1μlのcDNA(前述した30μlのcDNAサンプルから得たもの)、1μlのフォワードプライマー(0.5μMの最終濃度)、1μlのリバースプライマー(0.5μMの最終濃度)、3μlの無菌水、にて行われた。個々のcDNAサンプルのPCR反応は、各PCRランにおいて3回ずつ行った。
【0060】
最終のPCRサイクル実行後に融解曲線作製が実行され、PCR産物組成を確認するために60℃から95℃(0.3℃毎に蛍光が判読された)までの温度上昇に対して蛍光強度をプロットして融解曲線を得た。Bio-Rad光学システムソフトウェアを使用して光学グラフを得、PCRサイクルに対する個々のサンプル反応の蛍光強度を示した。サイクルスレッショルド(Ct)値(Bio-Rad装置の任意の閾値デフォルトレベルに到達する蛍光レベルに必要なPCRサイクル数の値)は、各々の反応にて決定した。全てのPCRランにおいては、対応のターゲット遺伝子に対する標準キャリブレーション曲線を同時に作製した。この際のサンプルは、cDNAサンプル反応を欠く水コントロールと、SOCS1及びSOCS3を高いレベルで発現することが確認されたPBMC cDNAサンプルの2倍希釈系列を含有するものであった。
【0061】
全ての反応におけるCt値は、Bio-Rad光学システムソフトウェアを使用して決定し、そして、ターゲット遺伝子の発現レベルの任意の値を得るために標準カーブと比較分析された。コントロールサンプル(cDNA reactions lacking reverse-transcriptase enzyme)から得られた値は、並行使用したcDNAサンプルから得られた発現値から減算した。PCR産物は、ときに2%アガロースゲルにて電気泳動を行い、融解曲線データと相関する増幅産物純度であることを確認した。
【0062】
使用されたプライマーシークエンスとPCR条件は、以下に示すものであった。即ち、ヒトSOCS1フォワードプライマー(5’-agaccccttctcacctcttg-3’)、ヒトSOCS1リバースプライマー(5’-gcacagcagaaaaataaagc-3’)。増幅サイクルは、30秒、95℃での初期変性サイクルの後、10秒、95℃での変性サイクル、15秒,62℃でのアニーリング、10秒、72℃での延長加熱を計45サイクル行った。ヒトSOCS3フォワードプライマー(5’-cccgccggcacctttctg-3’)、リバースプライマー(5’-aggggccggctcaacacc-3’)、増幅サイクルは、30秒、95℃での初期変性サイクルの後、10秒、96℃の変性サイクル、15秒、68℃でのアニーリング、15秒、72℃での延長加熱を計45回行った。ヒトβアクチンフォワードプライマー(5’-agcctcgcctttgccga-3’)、ヒトβアクチンリバースプライマー(5’-ctggtgcctggggcg-3’)。増幅サイクルは、30秒、95℃での初期変性サイクルの後、30秒、95℃の変性サイクル、30秒、60℃でのアニーリング、15秒、72℃での延長加熱を計45回行った。
【0063】
図3は、B細胞(図中ではB)、単球(図中ではM)、T細胞(図中ではT)において、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)により誘導されたSOCS1の発現の結果である。また、図4は、B細胞(図中ではB)、単球(図中ではM)、T細胞(図中ではT)において、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)により誘導されたSOCS3の発現の結果である。B細胞では、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)により、SOCS1もSOCS3もともに強く誘導されていた。単球では、SOCS3の誘導の程度は弱いものの、SOCS1は強く誘導されていた。
【0064】
(実施例2)
次に、緑茶から抽出されたEGCGのヒトB細胞IgE抗体に対する作用を調べた。
【0065】
(U266細胞の培養及び緑茶から得られたEGCGによる細胞の処理)
U266(IgE アイソタイプ産生のB細胞株)を、10%牛胎児血清(Hyclone Ltd., product code SV30014.03)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(Nacalai Tesque, Inc.,product code 26253-84)を含有するRPMI媒体(Wako Pure Chemical Industries Ltd.,product code 189-02025)中で培養した。そして、37℃、5%二酸化炭素のインキュベータにて、一晩、12ウェルコースタープレート(Corning, Inc)にて、1×10セル/mlの濃度にて載置した。緑茶パウダーから得られたEGCG(Sigma-Aldrich, Inc.,product code E4143)は10mMの濃度で水に溶解させ、細胞の処理に10μMの濃度で使用した。
【0066】
(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるU266細胞におけるIgE発現の定量)
EGCG処理を行ったU266細胞を回収した後、RNAを、通常のマニュアル手法により、Qiagen Rneasyキット(Qiagen, Inc., Valencia,product code 74106)を使用して精製した。IgE発現の確定は、リバース転写及びリアルタイムPCRにて実行した。U266 cDNAは、Quantitect Reverse Transcriptionキット(Qiagen, Inc., Valencia,product code 205311)を使用して通常のマニュアル手法により、1μgの一定分量のU266 RNAをもとに作製し、容量にして30μlのcDNAサンプルを得た。
【0067】
QuantiTect SYBR green PCRキット(Qiagen, Inc., Valencia)を使用して、U266cDNAサンプルに対し、半定量的リアルタイムPCRによる測定を行った。そして、IgE発現レベルをBio-Rad iCycler (Bio-Rad Laboratories, Inc)にて測定した。U266 cDNAサンプルにおけるヒトβアクチンの発現レベルも測定し、SOCS1及びSOCS3の発現レベルを補正した。PCR反応は、10μlの2xSYBRグリーンPCRバッファ、1μlのcDNA(前述した30μlのcDNAサンプルから得たもの)、1μlのフォワードプライマー(0.5μMの最終濃度)、1μlのリバースプライマー(0.5μMの最終濃度)、3μlの無菌水、にて行った。個々のcDNAサンプルのPCR反応は、各々のPCRランにおいて3回ずつ行った。
【0068】
最終のPCRサイクル実行後に融解曲線の作成が実行され、PCR産物組成を確認するために60℃から95℃(0.3℃毎に蛍光が判読された)までの温度上昇に対して蛍光強度をプロットして融解曲線を得た。Bio-Rad光学システムソフトウェアを使用して光学グラフを得、PCRサイクルに対する個々のサンプル反応の蛍光強度を示した。サイクルスレッショルド(Ct)値(Bio-Rad装置の任意の閾値デフォルトレベルに到達する蛍光レベルに必要なPCRサイクル数の値)は、各々の反応にて決定した。全てのPCRランにおいては、対応のターゲット遺伝子に対する標準キャリブレーション曲線を同時に作製し、cDNAサンプルを欠く水コントロールを同時に使用した。
【0069】
全ての反応におけるCt値は、Bio-Rad光学システムソフトウェアを使用して決定し、そして、ターゲット遺伝子の発現レベルの任意の値を得るために標準カーブと比較分析された。コントロールサンプル(cDNA reactions lacking reverse-transcriptase enzyme)から得られた値は、並行使用したcDNAサンプルから得られた発現値から減算した。PCR産物は、ときに2%アガロースゲルにて電気泳動を行い、融解曲線データと相関する増幅産物純度であることを確認した。
【0070】
使用されたプライマーシークエンスは、以下に示すものであった。即ち、ヒトIgEフォワードプライマー(5’-accctggtcaccgtctcctca-3’)、ヒトIgEリバースプライマー(5’-ccaccagacaggtgatcgtg-3’)。増幅サイクルは、30秒、95℃での初期変性サイクルの後、10秒、95℃での変性サイクル、15秒、62℃でのアニーリング、10秒、72℃での延長加熱を計45回繰り返した。ヒトβアクチンプライマー及びサイクリング条件は、上述した条件と同じであった。
【0071】
図5は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)によるIgE抗体の産出の抑制を示すものである。図5の最下段において、+は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)が含有されていることを示し、−は、含有されていないことを示す。図5から明らかなように、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)が、IL−4および抗CD40抗体によって誘導されるIgEの産出を抑制している。なお、4時間後の抗体の産出抑制の程度が、2時間後の抗体の産出抑制の程度と比較してやや弱いのは、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)の安定度が4時間以上経過することによりやや損なわれることが原因であると推察される。
【0072】
図6は、U266細胞におけるSOCS1の発現レベルを示すものである。図6において、+は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)が含有されていることを示し、−は、含有されていないことを示す。図6から明らかなように、SOCS1の誘導量は(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)に依存する。
【0073】
(実施例3)
次に、緑茶から抽出されたEGCGについて、SLE患者の培養PBMCにおける抗DNA抗体の生産を調べた。
【0074】
(サンプル患者)
SLE患者10人(8人の女性、2人の男性、年齢37〜58歳、平均年齢42歳)につき、PBMCにおける抗DNA抗体の生産を評価した。これらの患者の民族分析は、7人がコーカサス白人であり、2人がアフロカリビアンであり、1人が南アジア人であった。全てのSLE患者が、American College of Rheumatology (ACR)の疾患分類における改訂基準を充足した。これらの患者の疾患活動性は、BILAGを使用して評価した。8つの組織乃至システム(体格、粘膜・皮膚、中枢神経、筋肉、心臓血管、血管、腎臓、血液細胞)は、分離して評価され、評価A(最も活動性が高い)から評価E(活動性が認められない)にてランクした。評価A,B,Cの場合は、組織乃至システムにおける疾患活動性ありとした。全患者からの静脈血のサンプルは、ロンドン単科大学のリウマチセンターでの外来のSLE患者から取得した。また、静脈血のサンプルは、午前中に取得した。
【0075】
(患者の隔離とIgG抗体の枯渇)
SLE患者のへパリナイズされた全血液サンプル20mlから、室温にて、1000x rpmで、10分間の遠心分離(Beckman, Beckman Ltd)を行い、血清サンプルを得た。分離した血清は、プロテインGセファロースファストフロー4(GE Healthcare Life Sciences,Buckinghamshire;Product code 17-0618-01.)にて、IgGの除去を行った。すなわち、個々のSLE患者から単離された血清サンプルを、25%のプロテインGセファロースを含有するPBSにて1:1で希釈し、室温下、ローターにて15分間インキュベートした。血清サンプルは、セファロースを取り除いた後に、遠心分離にて得られた。
【0076】
(ヒトPBMC(末梢血単核球)の準備)
PBMCを密度沈降により静脈血から精製した。個々のSLE患者から得られた、20mlのへパリナイズされたヒト静脈血(血清が除去されたもの)は、PBS(Nacalai Tesque Inc.; product code 1429-95)にて1:1で希釈され、そして、50mlの遠心分離チューブ(Corning Inc.,product code 430291)の中で、10mlのリンフォプレップ(Axis-Shield PoC AS, Oslo, Norway)の上に積層され、室温にて、30分間、2000rpmで、遠心分離された(Tomy EX-126, Tomy Digital Biology Company Ltd)。採取されたPBMCを、PBS(Nacalai Tesque Inc; product code 1429-95)にて三回洗浄し、その後、室温にて、5分間、1500rpmで、遠心分離した。こうして、密度沈降により静脈血からヒトPBMCを精製した。
【0077】
(PBMC細胞の培養及びEGCG処理)
密度沈降により以下の処理を行った。個々のSLE患者から得たPBMCを、20%のIgG除去患者血清(PBSで1:1に希釈されたもの)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(Sigma)を含有するRPMI媒体中で培養した。そして、37℃、5%二酸化炭素のインキュベータ中の、12ウェルプレート(Corning, Inc)にて、1×10セル/mlの濃度にて載置した。各々の患者のコントロールとして、ミディアムプラス患者の血清(細胞フリー)を載置した。緑茶パウダーから得られたEGCG(Sigma-Aldrich, Inc.,product code E4143)を10mMの濃度で水に溶解させ、PBMCに対する処理(最終濃度10μM)に用いた。IgG抗DNA抗体の生産の分析のため、培養3日目で、培養上清および細胞なしのコントロールサンプルを回収した。
【0078】
(抗DNA抗体の生産のためのELISA)
抗DNA抗体産生についてELISAによって測定した。96ウェルのELISAプレートを、pH8.0のクエン酸塩緩衝液に溶いた500pg/mlの濃度のDNA(シングル螺旋及び二重螺旋)にて、2時間37℃でコートし、続いてPBSで洗浄した。ブロッキングステップは必要ではなかった。培養上清は希釈なしでDNAでコートされたプレートにて2時間37℃でインキュベートされ、その後1%ツイン20で補足されたPBSで三回洗浄された。アルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG(Sigma, Poole)を1:1000で希釈し、4℃にて一晩インキュベートした。IgEの値は、405nmの3回繰り返しの平均吸光度を測定し、抗原非存在下で得られたバックグランド値で補正したのち、標準コントロール(既知の高値抗DNA抗体を有する活動期SLE患者からの1:1000希釈血清サンプル)に対する相対値として表した。
【0079】
図7は、SLE末梢血単核球における、EGCGのIgG抗DNA抗体産生抑制の効果を示すものである。図7から明らかなように、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)により、IgG抗DNA抗体の産出が抑制される。そのため、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、例えばSLE疾患の治療に対して非常に有効であることが判明した。
【符号の説明】
【0080】
100 支持材
110 高分子フィルム
120 編布
200 薬剤層
300 離型フィルム
900 貼付薬シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を含有する、
ことを特徴とする自己免疫過剰活性抑制剤。
【請求項2】
前記(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである、
ことを特徴とする請求項1記載の自己免疫過剰活性抑制剤。
【請求項3】
支持材上に、薬剤を含有する薬剤層を積層して形成され、患部に前記薬剤が当接して浸透するように貼り付けて使用する貼付薬シートにおいて、
前記薬剤は、(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を含有する、
ことを特徴とする貼付薬シート。
【請求項4】
前記(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである、
ことを特徴とする請求項3記載の貼付薬シート。
【請求項5】
(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)を体内に導入し、SOCSを誘導させ、サイトカインシグナルの異常を抑制させることにより、自己免疫の過剰活性を抑制させる、
ことを特徴とする自己免疫過剰活性の抑制方法。
【請求項6】
前記(−)−エピガロカテキンガレート(EGCG)は、緑茶植物camellia sinensisの葉から抽出されたものである、
ことを特徴とする請求項5記載の自己免疫過剰活性の抑制方法。
【請求項7】
前記SOCSが、SOCS1、SOCS2、又は、SOCS3のいずれかである、
ことを特徴とする請求項5又は6記載の自己免疫過剰活性の抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−159215(P2010−159215A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1192(P2009−1192)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】