説明

自己始動式アキシャルギャップ同期モータ、それを用いた圧縮機及び冷凍サイクル装置

【課題】インバータを使用することなく商用電源で始動できる自己始動式アキシャルギャップ同期モータ、それを用いた圧縮機及び空気調和機を得る。
【解決手段】
アキシャルギャップ型のモータ1は、複数の小固定子16を同一円周上に配置して構成した固定子2と、前記固定子に対向する複数の永久磁石17を同一円周上に配置して構成した円盤形の回転子3と、この回転子と接続されたシャフト4とを備える。前記円盤形の回転子は、同一円周上に配置された複数の前記永久磁石を取り囲むように設けられた金属枠6を備え、この金属枠は非磁性で且つ導電性の材料で構成することにより、自己始動式のアキシャルギャップ同期モータとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータとステータを軸線方向に対向配置したアキシャルギャップ型の誘導モータ及び同期モータを備える自己始動式アキシャルギャップ同期モータ、それを用いた圧縮機及び冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアキシャルギャップ型の誘導モータ及び同期モータを備えるアキシャルギャップモータとしては、例えば特開2009−38871号公報(特許文献1)に記載されているものがある。この従来技術のものでは、複数の永久磁石を周方向に等間隔に配置したPM(永久磁石)ロータと、誘導モータとしてのIMロータを、ステータの軸方向の両側にそれぞれ配置すると共に、前記両ロータを共通の回転軸に固定し、前記各ロータと各ステータとの間にはエアギャップを設けて回転可能な構成としている。
【0003】
上記特許文献1のものによれば、力行中にIMロータ及びPMロータを同時に駆動するようにして、力強いトルクが得られるようにした発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−38871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の誘導同期アキシャルギャップモータを商用電源で始動しようとすると、一方のロータは誘導モータとしてのIMロータであるため回転トルクが生じるが、他方のPMロータはブレーキとなり、負荷が大きくなるため、十分な始動誘導トルクが得られない可能性がある。即ち、特許文献1記載のものは誘導同期アキシャルギャップモータを商用電源で始動することについての配慮は為されていない。
【0006】
また、特許文献1のものでは、商用電源による同期運転時においても、ステータの一方側に設けられたPMロータのみが同期運転に寄与し、他方側のIMロータはトルクを発生しないため、全体として大きな回転トルクを得ることは困難になり、大きな負荷に対応すすることはできない。
【0007】
更に、モータのステータ鉄心は電磁鋼板を積層したものが一般的であるが、電磁鋼板によるものでは、モータ回転時の回転磁界によって、前記ステータ鉄心の電磁鋼板に、該電磁鋼板厚みの二乗に比例する渦電流が発生し、大きな損失が発生する。この損失はモータ効率を悪化させる一つの原因となっている。従って、モータ効率を向上させるには、この損失(鉄損)を低減することが必要である。
【0008】
なお、アキシャルギャップ型のモータにおいて、固定子の両端部側に配置した回転子に異極の永久磁石を配置する構成としている場合、コギングトルクは従来のラジアルギャップ型のモータより大きくなることが予想される。
【0009】
本発明の目的は、インバータを使用することなく商用電源で始動できる自己始動式アキシャルギャップ同期モータ、それを用いた圧縮機及び空気調和機を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、複数の小固定子を同一円周上に配置して構成した固定子と、前記固定子に対向する複数の永久磁石を同一円周上に配置して構成した円盤形の回転子と、この回転子と接続されたシャフトとを備えるアキシャルギャップ型のモータにおいて、前記円盤形の回転子は、同一円周上に配置された複数の前記永久磁石を取り囲むように設けられた金属枠を備え、この金属枠は非磁性で且つ導電性の材料で構成されている自己始動式アキシャルギャップ同期モータとしたことに特徴がある。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、圧縮機構部とこの圧縮機構部を駆動するモータを備えている圧縮機において、前記モータを上記自己始動式アキシャルギャップ同期モータで構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明の更に他の特徴は、モータで駆動されるファンを有する凝縮器及び蒸発器を備える冷凍サイクル装置において、前記凝縮器または前記蒸発器の少なくとも何れかに備えられたファンのモータを、上記自己始動式アキシャルギャップ同期モータで構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インバータを使用することなく商用電源で始動できる自己始動式アキシャルギャップ同期モータ、それを用いた圧縮機及び空気調和機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの実施例1を示す縦断面図。
【図2】図1に示す同期モータの回転子の構成を示す図で、(a)図は側断面図、(b)図は(a)図のB−B線矢視断面図。
【図3】図1,図2に示す回転子を構成する金属枠の構成と、回転子始動時に発生する誘導電流と回転力の方向を説明する図で、(a)図は側断面図、(b)図は(a)図のC−C線矢視断面図。
【図4】図1に示す固定子の構成部材である小固定子16の構成を説明する図で、(a)図は小固定子鉄心の斜視図、(b)図は(a)図に示す非磁性体部材の構成を示す斜視図、(c)図は(a)図に示す小固定子鉄心に巻線を巻回した小固定子を示す斜視図。
【図5】図1のA−A線矢視断面図。
【図6】本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの実施例2に使用される小固定子鉄心の種々の構成例を示す斜視図。
【図7】本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの実施例3に使用される小固定子鉄心の種々の構成例を示す斜視図。
【図8】本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの実施例4に使用される回転子の構成を示す図で、(a)図は側断面図、(b)図は(a)図のF−F線矢視断面図。
【図9】本発明の実施例5を示すもので、自己始動式アキシャルギャップ同期モータを備えたスクロール圧縮機を示す縦断面図。
【図10】本発明の実施例6を説明する自己始動式アキシャルギャップ同期モータを備えた空気調和機を示す冷凍サイクル構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0016】
図1〜図5により本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータ実施例1を説明する。図1は本実施例の自己始動式アキシャルギャップ同期モータを示す縦断面図である。
【0017】
図1に示すように、自己始動式アキシャルギャップ同期モータ1は、複数の小固定子16をホルダー8に挿入してモールドした固定子2、円盤状の回転子3、前記固定子2にベアリング5を介して回転支持されたシャフト4、及び前記回転子3を内部に収容するように前記固定子2に取り付けられたブラケット7a,7bなどによって構成されている。前記ブラケット7a,7bは前記回転子3の保護用で、前記固定子2の端部に取り付けられている。
【0018】
前記回転子3は前記固定子2を挟むように固定子の両端部側に対向して配置されると共に、前記シャフト4に固定されている。前記回転子3には同一円周上に複数の永久磁石17が等間隔に配置され、前記永久磁石17は前記複数の小固定子16に対向する位置に設けられている。また、前記回転子3は前記固定子2の両端面に対し一定のギャップ(2mm以下)を保持するように前記シャフト4に固定され、前記回転軸4と共に自由に回転できるように構成されている。
【0019】
なお、前記小固定子16は小固定子鉄心14とこの小固定子鉄心14に巻かれた巻線15から構成され、前記小固定子鉄心14の中心には非磁性体部材11が設けられている。また、前記回転子3は、非磁性体の円板9と、この円板9に固定された金属枠6を備え、前記永久磁石17のそれぞれは前記金属枠6で囲まれた構成となっている。また、前記金属枠6及び前記永久磁石17は絶縁紙31を介して前記円板9に固定されている。
【0020】
図2は図1に示す回転子3の構成を示す図で、(a)図は回転子の側断面図、(b)図は(a)図のB−B線矢視断面図である。図3は図1,図2に示す回転子を構成する金属枠の構成を示す図で、(a)図は側断面図、(b)図は(a)図のC−C線矢視断面図である。
【0021】
図2に示すように、前記回転子3は、非磁性体で構成された前記円板9と、非磁性材料(金属又は非金属でも良い)で且つ導電性の材料で構成された金属枠6(図3参照)を備え、前記円板9には前記金属枠6が同軸に配置され、それらの間には絶縁材(絶縁紙など)31を介在させて取り付けられている。なお、前記円板9は前記シャフト4に固定される。
本実施例では、前記金属枠6は、その直径が前記円板9とほぼ同じで、材質はアルミ(アルミ合金を含む)又は銅材(銅合金材を含む)であり、アルミダイカスト又は鍛造などの方法で製作されている。
【0022】
前記金属枠6には、前記永久磁石17を設けるための穴6aが、複数個、周方向に等間隔に設けられており、この等間隔に設けた穴6aのそれぞれに、前記永久磁石17が配置され、接着剤などで前記円板9側に固定されている。前記永久磁石17の外周は、前記金枠6とは接触していても、或いは接触しないように空間を設けるようにしても良い。
【0023】
前記永久磁石17は、前記回転子3を組立後、着磁装置を用いてパルス電流を流すことにより着磁して永久磁石にされる。また、図2に示すように、周方向に隣接する磁石は互いに異極となるように着磁されている。前記永久磁石17の材質はフェライトや希土類磁石が好ましい。更に、前記永久磁石17の形状は、図2に示すように、略扇形に構成することが好ましいが、長方形、正方形、楕円或いは円などの形状にすることも可能である。前記永久磁石17の厚さは均等にするか、或いは不均一な厚さに構成することもできる。
【0024】
モータとして組み立てた後の前記固定子2と前記回転子3との間のアキシャルギャップは2mm以下で接触を回避できる大きさとし、そのギャップは均一にするか、或いは不均一にすることもできる。なお、前記アキシャルギャップは接触を回避できる限り小さいほど良いが、一般には0.3〜1.5mm程度が好ましく、更に好ましくは0.4〜0.8mmとするのが良い。
【0025】
同一円周上に配置された複数の前記永久磁石を取り囲むように設けられた前記金属枠6の構成を図3により説明する。前記金属枠6は、前記永久磁石17の外周側を周方向に接続する外周部材6bと、前記永久磁石17の内周側を周方向に接続する内周部材6cと、前記周方向に配置された永久磁石17の間に設けられ前記外周部材6bと内周部材6cを接続する径方向部材6dとを備え、前記外周部材6bと内周部材6cと径方向部材6dとで形成される前記穴6aに前記永久磁石17が配置されている。
【0026】
前記固定子2を構成している周方向に配置された前記複数の小固定子16の構成を図4により説明する。図4は図1に示す固定子の構成部材である小固定子16の構成を説明する図で、(a)図は小固定子鉄心の斜視図、(b)図は(a)図に示す非磁性体部材の構成を示す斜視図、(c)図は(a)図に示す小固定子鉄心に巻線を巻回した小固定子を示す斜視図である。
【0027】
図4の(a)図に示すように、小固定子鉄心14は、非磁性体部材11の外周に、片面に厚さ数ミクロンの絶縁皮膜を有するアモルファス薄帯12を巻き、所定の寸法になるまで巻回して、前記アモルファス薄帯12を切断し、更に接着剤や樹脂などのコーティング材13によって固めるか、或いは接着剤付きの絶縁紙により固定することにより、図に示すような扇形断面の小固定子鉄心14が製作される。
【0028】
前記非磁性体部材11は、(b)図に示すように、一定長さの略扇形断面で、樹脂成形などの方法で製作される。この非磁性体部材11の形状は扇形に限らず、円、楕円、台形などの形状とすることもできる。
【0029】
(a)図のように製作された小固定子鉄心14には、(c)図に示すように、巻線(好ましくは三相巻線)15が巻き付けられ、前記巻線15の両端線15a,15bが外に出されて、小固定子16が製作される。
【0030】
次に、図1に示した前記固定子2の構造について図5により説明する。図5は図1のA−A線矢視断面図で、本実施例の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの断面図であって、図1と同一符号を付した部分は同一部分である。図5において、8は図4(c)に示した小固定子16を周方向に等間隔に保持するためのホルダーで、非磁性体材料で樹脂成形などの方法で製作され、前記シャフト4と同心に配置されている。このホルダー8の外周側の周方向に等間隔に設けられた穴8aのそれぞれに、前記複数の小固定子16が挿入して装着固定され、それぞれの前記小固定子16の三相巻線(U,V,W)の端線15a,15bを結線した後、樹脂2aを型に流し込むことにより、固定子2がモールド成形され一体化される。なお、図5において、18はモータ取付部である。
【0031】
本実施例では、モータの固定子は12極、回転子は8極の構成にしているが、固定子と回転子の極数比はそれ以外の組み合わせにすることもできる。
また、前記回転子3と固定子2を逆にし、前記回転子を中央に配置し、その回転子の両端面側にそれぞれ前記固定子を配置するように構成するようにしても良い。
【0032】
次に、上述した自己始動式アキシャルギャップ同期モータに回転トルクが発生して駆動される理由を特に図3を用いて説明する。図3により、モータ始動時に回転子の金属枠6発生する誘導電流と回転力の方向を説明する
前記固定子2の三相の巻線15に商用電源で通電すると、図3に示すように、巻線15により回転磁界Hが発生し、前記固定子2と対向配置された前記回転子3に設けた前記金属枠6に起電力が誘導され、前記金属枠6で構成された各回路には電流Iが流れる。この時、前記電流が流れている導体の前記金属枠6には、前記回転磁界Hを受け、フレミングの左手の法則により、図3に示すような回転力Fが発生する。これにより、回転子3には回転トルクが発生し、モータは誘導モータとして駆動、加速され、回転数が上昇する。前記回転子3の回転数が同期回転数に近づいていくと、前記回転子3に設けた永久磁石17の働きにより、前記回転子3が回転磁界の同期速度に引き込まれ、モータは同期モータとして駆動される。
【0033】
上述した実施例によれば、インバータ制御をすることなく、商用電源で一定速運転可能なモータを得ることができ、インバータ制御用回路が不要となるからコスト低減できる。
また、低鉄損で高透磁率のアモルファス薄帯を渦巻状に巻くことにより小固定子鉄心14を作り、これに巻線15を巻いて小固定子16を製作し、該小固定子16を周方向に配置するようにして固定子2を製作しているので、簡単な製造工程で固定子2を製作することができるだけでなく、鉄損の少ない高効率の自己始動式アキシャルギャップ同期モータを実現することが可能になる。
従って、本実施例によれば、インバータを用いることなく、商用電源により、高効率で高力率の一定速運転可能な自己始動式アキシャルギャップ同期モータを得ることができる。
【実施例2】
【0034】
次に、図6により本発明の実施例2を説明する。図6は本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの実施例2に使用される小固定子鉄心の種々の構成例を示す斜視図である。
【0035】
図6の(a)図に示す小固定子鉄心24は上記実施例1における小固定子鉄心14に相当するもので、本実施例においては、実施例1と同様に、一定長さの非磁性体部材11に、片面絶縁皮膜を有するアモルファス薄帯22を巻き付けた後、接着剤などのコーティング材23により固めることにより、扇形断面のアモルファス材料による小固定子鉄心24が製作されている。なお、接着剤などのコーティング材23に代わりに、樹脂やテープにより前記アモルファス薄帯22を前記非磁性体部材11と共に固定化するようにしても良い。
【0036】
モータを運転すると、その時の回転磁界により、前記小固定子鉄心24の積層面には還流状の渦電流が発生し、損失が発生する。この渦電流による損失は、モータ効率を低下させる一つ要因となっている。本実施例では、この渦電流による損失を低減するため、前記小固定子鉄心24の積層面に、アモルファス薄帯22を切断するように幅が2mm以下の軸方向のスリット25を設けたものである。前記スリット25は、(a)図に示すように、アモルファス薄帯22の平面部の中央に軸方向に形成し、その切断幅は2〜1mm程度とすることが好ましい。
【0037】
このようなスリット25を設けることにより、前記渦電流が形成されるループをオープンにすることができ、前記小固定子鉄心24の積層面に渦電流が形成されるのを抑制できる。従って、実施例1のものよりも損失を低減して更に効率向上を図ることのできる自己始動式アキシャルギャップ同期モータを得ることができる。
【0038】
なお、上記スリット25の形状は、(a)図に示したように、アモルファス薄板22を軸方向に貫通するスリットにするものには限定されず、(b)図に示すように、小固定子鉄心24の一方の端面22aには開口し、他方の端面22bには開口しない(切断されていない)スリット26のように構成しても良い。また、(c)図に示すように、小固定子鉄心24の両端面22a,22bの何れにも開口しないスリット27のように構成しても良い。
【0039】
前記(a)〜(c)図に示した小固定子鉄心24には、図6の(d)図に示すように、巻線15が巻き付けられて、小固定子30が形成される。この小固定子30は、実施例1と同様に、複数の小固定子30を、ホルダー8を用いて円周方向に配列し、前記ホルダー8と共に樹脂成形されて、固定子2が製作される。
【0040】
本実施例によれば、上述した実施例1と同様の効果が得られると共に、低損失のアモルファス鉄心材料を使用して構成された固定子の損失を更に低減することができるので、自己始動式アキシャルギャップモータの効率を更に向上することができる。
【実施例3】
【0041】
図7により本発明の実施例3を説明する。図7は本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの実施例3に使用される小固定子鉄心の種々の構成例を示す斜視図である。
図7の(a)図は本実施例3の第1例を示す小固定子鉄心34の斜視図、(b)図は(a)図に示す小固定子鉄心の正面図である。また、(c)図は本実施例3の第2例を示す小固定子鉄心38の斜視図、(d)図は(c)図に示す小固定子鉄心の正面図である。
【0042】
図7に示す小固定子鉄心34,38は上記実施例1における小固定子鉄心14に相当するもので、本実施例においても、実施例1と同様に、一定長さの非磁性体部材11に、片面絶縁皮膜を有するアモルファス薄帯32を巻き付けた後、接着剤などのコーティング材33で固める、或いは樹脂やテープにより前記アモルファス薄帯32を前記非磁性体部材11と共に固定化するようにして、扇形断面のアモルファス材料による小固定子鉄心34が製作されている。
【0043】
図1に示すモータが同期モータとして運転している時、前記永久磁石17と前記小固定子鉄心14の間にはコギングトルクが発生している。このコギングトルクはモータの振動になる加振力であるため、モータの固有振動数と一致した時、大きな騒音を発生させるという課題があった。そこで、本実施例では、このコギングトルクを低減するため、以下のように構成している。
【0044】
図7の(a),(b)図に示す第1例では、前記回転子3の永久磁石17と対面する小固定子鉄心34の部分、即ち小固定子鉄心34の両端面32a,32bに、幅0.1〜1.5mm、深さ0.5〜2mm程度の半径方向のスリット35を複数本設けたものである。このスリット35は小固定子鉄心34を構成するアモルファス薄板32の外周側と内周側の部分に形成されている。このように構成することにより、前記永久磁石17と前記小固定子鉄心34の間に発生するコギングトルクの振幅が減少し、振動・騒音を抑制することのできる自己始動式アキシャルギャップ同期モータを得ることができる。
【0045】
次に、図7の(c),(d)図に示す第2例を説明する。この例では、前記永久磁石17と対面する小固定子鉄心38の両端面32aa,32bbに、小固定子鉄心38の中央部は軸方向に厚く、周方向の両側37は軸方向に薄くなるように構成したものである。即ち、小固定子鉄心38の軸方向厚みが不均一になるように、その両端面32aa,32bbに曲面36を設けたものである。
【0046】
このように構成することにより、モータ回転時、前記小固定子鉄心38に巻かれた巻線15により誘導された誘起電圧は、小固定子鉄心38の周方向に滑らかに変化するため、隣接する異極の前記永久磁石17(S、N極)は、周方向に滑らかに変化する前記誘起電圧により、前記固定子2の間に発生するコギングトルクの振幅が減少される。この結果、振動・騒音を抑制できる自己始動式アキシャルギャップ同期モータが得られる。
【0047】
本実施例によれば、上述した実施例1と同様の効果が得られると共に、低損失のアモルファス鉄心材料で構成した高効率の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの騒音・振動を減少させることができる効果が得られる。
【実施例4】
【0048】
図8は本発明の自己始動式アキシャルギャップ同期モータの実施例4に使用される回転子の構成を示す図で、(a)図は側断面図、(b)図は(a)図のF−F線矢視断面図である。
この実施例は、回転子3の金属枠6内に設けられているそれぞれの永久磁石47を変肉形状としたものである。変肉形状としては、例えば、中央が凸の半球面形状とするか、周方向両端側が周方向中央側よりも肉厚の薄い曲面形状にすると良い。
【0049】
このように構成することにより、前記小固定子鉄心14と、これに対面する前記永久磁石47との間の隙間が周方向に変化するので、前記永久磁石47に作用する回転トルクの脈動を低減できる。従って、前記実施例3と同様に、前記永久磁石47と前記小固定子鉄心14の間に発生するコギングトルクの振幅を減少でき、振動・騒音を抑制できる自己始動式アキシャルギャップ同期モータを得ることができる。
【実施例5】
【0050】
図9は、本発明の実施例5を示すもので、上記実施例1〜4の何れかに記載の自己始動式アキシャルギャップ同期モータを備えた冷凍サイクル装置用のスクロール圧縮機を示す縦断面図である。図9において、図1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。
【0051】
図9に示すように、スクロール圧縮機82は、圧力容器69、この圧力容器69内の上部に設けられ冷媒ガスを吸入して圧縮する圧縮機構部83、この圧縮機構部83を駆動するため前記密閉容器69内の中央付近に設けられたモータ1、前記密閉容器内下部に設けられた油溜め部71などにより構成されている。
【0052】
前記圧縮機構部83は、端板61に渦巻状のスクロールラップ62を立設した固定スクロール60と、端板64に渦巻状のスクロールラップ65を立設した旋回スクロール63とを噛み合わせて構成されている。前記旋回スクロール63はクランクシャフト4aによって旋回運動され、それによって圧縮動作が行なわれる。
【0053】
固定スクロール60と旋回スクロール63によって形成される複数の圧縮室66のうち、最も外径側に位置している圧縮室は、旋回スクロール63の旋回運動に伴って両スクロール60,63の中心に向かって移動しながら容積が次第に縮小し、固定スクロール60の中心部付近に設けられた吐出口67から圧縮された冷媒ガスを吐出室74に吐出する。吐出された圧縮ガスは、固定スクロール60及びフレーム68の外周側に設けられたガス通路(図示せず)を通ってフレーム68下部の圧力容器69内に流れ、圧縮ガス中に含まれる油が分離されて、圧力容器69の側壁に設けられた吐出パイプ70から圧縮機外に排出される。なお、75は吐出圧と吸込圧の中間圧となっている背圧室、76は副軸受、80はバランスウエイトである。
【0054】
前記モータ1は、図1〜8に示した上記各実施例で説明した自己始動式アキシャルギャップ同期モータで構成され、一定速度で回転し、前記旋回スクロール63を駆動する。前記油溜め部71内の油は、油溜め部71の圧力(吐出圧)と、前記クランクシャフト4a内に形成された油孔72による差圧及び遠心力の作用により、前記クランクシャフト4a内に設けられた油孔72を介して、旋回スクロール63とクランクシャフト4aとの摺動部や軸受73等の潤滑に供される。
【0055】
本実施例によれば、圧縮機駆動用の電動機として、図1〜8で述べた上記各実施例の何れかの自己始動式アキシャルギャップ同期モータを使用しているので、インバータを使用することなく、高効率の一定速圧縮機を実現できる。また、自己始動式のアキシャルギャップモータとしているので、コンパクトで高出力な圧縮機を得ることも可能になる。更に、前記自己始動式アキシャルギャップ同期モータは、固定子2の両端面側にそれぞれ同じ構成の回転子3を設けると共に異極の永久磁石を配置する構成としているから、出力を大きくできるだけでなく、軸方向に相反する方向の磁力が発生するため、低振動のスクロール圧縮機が得られる。
【0056】
なお、上記実施例3に記載の自己始動式アキシャルギャップモータを採用すれば、電源投入位相によって過大に生じる始動トルクが軽減できるため、軸受73や旋回スクロール63の応力破壊も防止できる信頼性の高いスクロール圧縮機を得ることもできる。
【0057】
なお、前述した実施例1〜4の自己始動式アキシャルギャップモータは、スクロール圧縮機だけでなく、ロータリー型や往復動型の圧縮機にも同様に適用することができる。
【実施例6】
【0058】
図10は、本発明の実施例6を説明する自己始動式アキシャルギャップ同期モータを備えた冷凍サイクル装置を示す冷凍サイクル構成図である。
図10は冷凍サイクル装置としての空気調和機の冷凍サイクル構成図で、80は室外機、81は前記室外機80に冷媒配管で接続されている室内機である。前記室外機80には、圧縮機82a(例えば、図9に示したスクロール圧縮機82)、凝縮器84および膨張弁85などが設けられ、前記圧縮機82a内には冷媒が封入されていて、冷媒配管により前記凝縮器84や前記膨張弁85と接続されている。また、前記室内機81には前記冷媒配管と接続された蒸発器86が設けられている。
【0059】
前記凝縮器84及び蒸発器86には、それぞれファン88とこのファン88を駆動するためのモータが備えられており、このモータは前述した実施例1〜4に記載の自己始動式アキシャルギャップ同期モータ1で構成されたものを使用している。前記モータ1の回転により前記ファン88も回転し、前記凝縮器84や蒸発器86における熱交換器を流れる冷媒と周囲空気とを熱交換させる。
【0060】
図10に示す冷凍サイクルにおいては、冷媒は矢印の方向に循環され、前記圧縮機82によって冷媒を圧縮し、前記凝縮器84、膨張弁85、蒸発器86へ順次冷媒を流すことにより、前記室内機81で冷房を行う。なお、圧縮機82の吐出側に四方弁を設けて、圧縮機からの冷媒の流動方向を変えることにより冷房だけでなく、暖房運転も可能になる。
【0061】
本実施例においては、前述した実施例1〜4に記載の自己始動式アキシャルギャップ同期モータ1を、冷凍サイクルを構成する蒸発器や凝縮器のファン88に使用しているので、インバータを使用することなく、ファンの効率向上を図ることができ、入力を低減して、地球温暖化につながるCO2の排出を削減できる効果がある。また、前記実施例3や4に記載の自己始動式アキシャルギャップ同期モータ1を使用すれば、ファンの信頼性向上も図れる。
【0062】
なお、上記ファン88としては、プロペラファンやターボファンとすることが好ましい。また、本実施例においては、冷凍サイクル装置として、空気調和機の場合について説明したが、冷蔵装置や冷凍装置などでも同様に実施可能である。
【0063】
以上述べたように、本発明の各実施例によれば、インバータを使用することなく商用電源で始動できる自己始動式アキシャルギャップ同期モータ、それを用いた圧縮機及び空気調和機を得ることができる。
【0064】
また、上述した自己始動式アキシャルギャップ同期モータでは、商用電源による同期運転時においても、ステータの両側に設けられたロータがそれぞれ同期運転に寄与して回転トルクを発生するため、全体として大きな回転トルクを得ることができる。従って、大きな負荷に対応可能な自己始動式アキシャルギャップ同期モータを得ることができる。
【0065】
モータのステータ鉄心を、非磁性体部材にアモルファス薄帯を巻回させた構造としたものでは、モータ回転時の回転磁界によって、前記ステータ鉄心に発生する渦電流を大幅に低減できるから、損失を低減してモータ効率を向上させることができる。また、この実施例によれば、アモルファス鉄心材料の打ち抜き加工が不要となるから、そのための金型が不要となりコスト低減及び製造工数の低減を図ることが可能となる。
【0066】
更に、本実施例の自己始動式アキシャルギャップ同期モータでは、固定子の両端部側に回転子を設け、異極の永久磁石を配置する構成としているので、出力を大きくできるだけでなく、軸方向に相反する方向の磁力が発生するため、低振動のモータが得られる。また、実施例3または4に記載の構成とすることにより、コギングトルクも小さく抑えることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…自己始動式アモルファスアキシャルギャップ同期モータ、
2…固定子、2a…樹脂、3…回転子、
4…シャフト、4a…クランクシャフト、5,73…軸受、
6…金属枠、6a…穴、6b…外周部材、6c…内周部材、6d…径方向部材、
7a,7b…ブラケット、8…ホルダー、8a…穴、9…円板、
11…非磁性体部材、12,22,32…アモルファス薄帯、
22a,22b,32a,32b,32aa,32bb…端面、
14,24,34,38…小固定子鉄心、13,33…コーティング材、
15…巻線、15a,15b…端線、16,30…小固定子、
17,47…永久磁石、18…モータ取付け部、
25,26、27,35…スリット、31…絶縁材、36…曲面、37…両側、
60…固定スクロール(61…端板、62…スクロールラップ)
63…旋回スクロール(64…端板、65…スクロールラップ)
66…圧縮室、67…吐出口、68…フレーム、69…圧力容器、
70…吐出パイプ、71…油溜め部、72…油孔、74…吐出室、
80…室外機、81…室内機、
82…スクロール圧縮機、82a…圧縮機、83…圧縮機構部、
84…凝縮機、85…膨張弁、86…蒸発器、88…ファン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の小固定子を同一円周上に配置して構成した固定子と、前記固定子に対向する複数の永久磁石を同一円周上に配置して構成した円盤形の回転子と、この回転子と接続されたシャフトとを備えるアキシャルギャップ型のモータにおいて、
前記円盤形の回転子は、同一円周上に配置された複数の前記永久磁石を取り囲むように設けられた金属枠を備え、この金属枠は非磁性で且つ導電性の材料で構成されている
ことを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項2】
請求項1において、前記金属枠は、前記永久磁石の外周側を周方向に接続する外周部材と、前記永久磁石の内周側を周方向に接続する内周部材と、前記周方向に配置された永久磁石の間に設けられ前記外周部材と内周部材を接続する径方向部材とを備え、前記外周部材と内周部材と径方向部材とで形成される穴に前記永久磁石が配置されていることを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項3】
請求項2において、前記回転子は、シャフトに固定される円板を備え、この円板に前記金属枠及び前記永久磁石が固定されていることを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項4】
請求項3において、前記回転子は、前記固定子を挟むように、該固定子の両端部側に対向してそれぞれ配置されていることを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項5】
請求項4において、前記金属枠の材質はアルミ又は銅材であることを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項6】
請求項5において、前記永久磁石の材質は希土類永久磁石又はフェライト永久磁石であることを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項7】
請求項6において、前記永久磁石を変肉形状とすることにより、前記固定子との隙間を周方向に変化させ、前記永久磁石に作用する回転トルクの脈動を低減させるように構成したことを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項8】
請求項1において、前記固定子を構成する前記小固定子は、小固定子鉄心と、この小固定子鉄心に巻かれた巻線から構成され、前記小固定子鉄心は、非磁性体部材の外周にアモルファス薄帯を巻回して構成されていることを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項9】
請求項8において、前記アモルファス薄帯は、その片面に厚さ数ミクロンの絶縁皮膜を有することを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項10】
請求項9において、前記小固定子鉄心の積層面に前記アモルファス薄帯を切断するように軸方向のスリットを設けたことを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項11】
請求項9において、前記小固定子鉄心の両端面の外周側または内周側の少なくとも何れかに複数本の半径方向のスリットを設けたことを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項12】
請求項9において、前記小固定子鉄心の両端部に、該小固定子鉄心の中央部は軸方向に厚く、周方向の両側は軸方向に薄くなるよう曲面を設け、前記小固定子鉄心の軸方向厚みを不均一にしてコギングトルクを減少させるように構成したことを特徴とする自己始動式アキシャルギャップ同期モータ。
【請求項13】
圧縮機構部とこの圧縮機構部を駆動するモータを備えている圧縮機において、前記モータを請求項5に記載の自己始動式アキシャルギャップ同期モータで構成したことを特徴とする圧縮機。
【請求項14】
モータで駆動されるファンを有する凝縮器及び蒸発器を備える冷凍サイクル装置において、前記凝縮器または前記蒸発器の少なくとも何れかに備えられたファンのモータを、請求項5に記載の自己始動式アキシャルギャップ同期モータで構成したことを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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