説明

自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂、該樹脂の製造方法および該樹脂を含む樹脂材料

【課題】従来技術で応用展開が進んでいないポリヒドロキシポリウレタン樹脂において、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性などに優れた製品などの提供を可能とし、しかも温暖化ガス削減の観点から有用な環境対応の新規な自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を提供すること。
【解決手段】5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に、マスキングされたイソシアネート基を有することを特徴とする自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂、該樹脂の製造方法および該樹脂を含む樹脂材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂、該樹脂の製造方法および該樹脂を含む樹脂材料に関する。さらに詳しくは、フィルム・成型材料、各種コーティング材、各種バインダーなどを形成する際の樹脂材料とした場合に、滑性、耐摩耗性、耐薬品性、非粘着性、耐熱性に優れた製品とでき、しかも、樹脂の製造原料に二酸化炭素を用いることで樹脂中に二酸化炭素が固定されるので、地球環境破壊を阻止する観点からも有用な自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の提供を可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を製造原料としたポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、以前から知られているが(例えば、特許文献1および2参照)、その応用展開は進んでいないのが実情である。その理由は、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、同種系の高分子化合物として対比されるポリウレタン系樹脂に比べて特性面で明らかに劣るからである。
【0003】
一方、近年、増加の一途をたどる二酸化炭素の排出に起因すると考えられている地球の温暖化現象は、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な技術課題となっている。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている(例えば、非特許文献1および2)。
【0004】
上記のような背景下、本発明者らは、前記したポリヒドロキシポリウレタン樹脂を見直し、該樹脂の応用展開を可能とできる技術を提供は、非常に有用であるとの認識をもつに至った。すなわち、ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の原料となる二酸化炭素は、容易に入手可能であり、かつ、持続可能な炭素資源であるので、二酸化炭素を原料とし、これを固定化したプラスチックを有効利用する技術の提供は、近年、地球が直面している、温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段となり得るからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,072,613号公報
【特許文献2】特開2000−319504号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(11),2765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を産業用として利用可能なものにするには、例えば、同種系の石化プラスチックと同様に使用できるように、その性能を向上させることは勿論、新たな付加価値を付ける必要性がある。つまり、地球環境保護の観点に加え、一層の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などといった、産業用材料として不可欠な性能を向上させた樹脂の開発が要望される。
【0008】
したがって、本発明の目的は、地球温暖化、資源枯渇などの問題解決に資すると考えられる有用な材料でありながら、その応用展開が進んでいないポリヒドロキシポリウレタン樹脂を、産業用として有効利用できる材料とする技術を提供することにある。より具体的には、該樹脂によって形成される製品が、環境対応製品でありながら、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などの性能においても十分に満足できるものとなるポリヒドロキシポリウレタン樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に、マスキングされたイソシアネート基を有することを特徴とする自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を提供する。
【0010】
本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂のより好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、その構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含んでなること;前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂分子中におけるポリシロキサンセグメントの含有量が、1〜75質量%であること;前記マスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であって、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、その構造中の水酸基と反応して自己架橋するものであることである。
【0011】
また、本発明は、別の実施形態として、上記のいずれかの自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法であって、少なくとも一個の遊離のイソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を用い、該変性剤の遊離のイソシアネート基を、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と反応させて、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を得ることを特徴とする自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法のより好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、上記化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含むこと;前記変性剤が、有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物であること、である。
【0013】
また、本発明は、別の実施形態として、上記いずれかの自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に、他のバインダー樹脂を混合してなることを特徴とする樹脂材料を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地球温暖化、資源枯渇などの問題解決に資すると考えられる有用な材料でありながら、その応用展開が進んでいないポリヒドロキシポリウレタン樹脂を、産業用として有効利用できる材料となり得る自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が提供される。より具体的には、本発明によれば、当該材料で形成される製品が、二酸化炭素を取り入れた、温暖化ガス削減に寄与できる環境対応製品でありながら、滑性、耐摩耗性、耐薬品性、非粘着性、耐熱性などの性能においても十分に満足できるものとなる自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、前記5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に、マスキングされたイソシアネート基を有することを特徴とする。該自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくとも一個の遊離のイソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を用い、該変性剤の遊離のイソシアネート基を、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と反応させることで、容易に得ることができる。以下に、各成分について説明する。
【0016】
(変性剤)
<有機ポリイソシアネート化合物>
本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法で使用する変性剤の構成成分について説明する。該変性剤としては、有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物を用いることができる。本発明で使用し得る有機ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族或いは芳香族化合物中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する有機化合物であって、従来からポリウレタン樹脂の合成原料として広く使用されているものが挙げられる。これらの公知の有機ポリイソシアネート化合物は、いずれも本発明において有用である。本発明で使用し得る特に好ましい有機ポリイソシアネート化合物を挙げれば、以下の通りである。
【0017】
例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが挙げられる。さらに、これらの有機ポリイソシアネート化合物と他の化合物との付加体、例えば、下記構造式のものが好適に使用できるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】




【0019】
<マスキング剤>
本発明の製造方法で使用する変性剤は、上記した有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物であるが、マスキング剤としては、下記のものが使用できる。アルコール系、フェノール系、活性メチレン系、酸アミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、ピリジン系の各化合物などがあり、これらを単独あるいは混合して使用してもよい。具体的なマスキング剤としては下記の通りである。
【0020】
アルコール系として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、メチルセロソルブ、シクロヘキサノールなどが挙げられる。フェノール系として、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ノニルフェノールなどが挙げられる。活性メチレン系として、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどが挙げられる。酸アミド系として、アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどが挙げられる。イミダゾール系として、イミダゾール、2−メチルイミダゾールなどが挙げられる。尿素系として、尿素、チオ尿素、エチレン尿素などが挙げられる。オキシム系として、ホルムアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどが挙げられる。ピリジン系として、2−ヒドロキシピリジン、2−ヒドロキシキノリンなどが挙げられる。
【0021】
<変性剤の合成方法>
上記に列挙した有機ポリイソシアネート化合物と、上記に列挙したマスキング剤とを反応させて、本発明で用いる、少なくとも一個の遊離イソシアネート基を有し、かつ、他はマスキングされたイソシアネート基を有する変性剤を合成する。合成方法は特に限定されないが、上記の如きマスキング剤と上記有機ポリイソシアネート化合物とを、1分子中でイソシアネート基が1個以上過剰になる官能基比で、有機溶媒及び触媒の存在下または不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で、30分〜3時間反応させることによって容易に得ることができる。
【0022】
(ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂)
上記したような特定の変性剤によって変性されるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、5員環環状カーボネート化合物と、アミン変性ポリシロキサン化合物との反応により得られる。以下に、この際に用いる各成分について説明する。
【0023】
<5員環環状カーボネート化合物>
本発明で使用する5員環環状カーボネート化合物は、下記[式−A]で示されるように、エポキシ化合物と二酸化炭素とを反応させて製造することができる。さらに詳しくは、エポキシ化合物を有機溶媒の存在下又は不存在下、及び触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で常圧又は僅かに高められた圧力下、10〜20時間二酸化炭素と反応させることによって得られる。
【0024】

【0025】
上記で使用し得る、エポキシ化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。
【0026】


















【0027】
以上列記したエポキシ化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0028】
上記したようなエポキシ化合物と、二酸化炭素の反応において使用される触媒としては、塩基触媒およびルイス酸触媒が挙げられる。
上記塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタン及びピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0029】
ルイス酸触媒としては、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0030】
上記、触媒の量は、エポキシ化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部程度、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、100質量部を超えると最終樹脂の諸性能を低下させる場合があるので好ましくない。しかし、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して除去する構成としてもよい。
【0031】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応において、使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0032】
<樹脂の合成方法>
本発明で使用するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、例えば、下記[式−B]で示されるように、上記のようにして得られた5員環環状カーボネート化合物と、アミン変性ポリシロキサン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0033】

【0034】
上記反応に使用するアミン変性ポリシロキサン化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられ、1種或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、下記の低級アルキレン基とは、炭素数が1〜6、より好ましくは1〜4のものを意味する。




【0035】
以上列記したアミン変性ポリシロキサン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0036】
<物性>
上記のようにして得られるポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、該樹脂分子中に占めるポリシロキサンセグメントの含有量が1〜75質量%となるようにすることが好ましい。すなわち、1質量%未満ではポリシロキサンセグメントに基づく表面エネルギーに伴う機能の発現が不十分となる。一方、75質量%を超えるとポリヒドロキシウレタン樹脂の機械強度、耐摩耗性などの性能が不十分となるので好ましくない。より好ましくは2〜70質量%であり、さらに好ましくは5〜60質量%である。
【0037】
また、本発明で使用するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の数平均分子量(GPCで測定した、標準ポリスチレン換算値)は、2,000〜100,000の範囲のものが好ましく、より好ましい数平均分子量の範囲としては、5,000〜70,000程度である。
【0038】
また、本発明で使用するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その水酸基価が20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が不足であり、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての諸物性不足となるので好ましくない。
【0039】
(自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法)
本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、それぞれ上述のようにして得られた、変性剤と、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂とを反応させることによって得られる。詳しくは、上記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と、該変性剤中の少なくとも一個の遊離したイソシアネート基が反応することによって得られる。
【0040】
本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の変性剤による変性率は、2〜60%であることが好ましい。変性率が2%未満であると、十分な架橋が起こらないので、製品の耐熱性や耐薬品性などが不足する場合があり、好ましくない。一方で、変性率が60%を超えると、解離したイソシアネート基が、反応せずに残存する可能性が増すので、好ましくない。なお、変性率は下記のようにして算出する。
変性率(%)={1−(変性後の樹脂の水酸基÷変性前の樹脂の水酸基)}×100
【0041】
変性剤とポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂との反応は、有機溶媒および触媒の存在下または不存在下で、0〜150℃、好ましくは20〜80℃の温度で、30分〜3時間反応させることが好ましい。このような方法によって、本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を容易に得ることができる。但し、反応時にはマスキング剤の解離温度より低い温度で反応させる点に注意し、反応によって、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に、マスキングされたイソシアネート基を有するものとなるようにしなければならない。
【0042】
(自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の使用)
上記のようにして得られる本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、そのまま、フィルム・成型材料、各種コーティング材、各種塗料、各種バインダーなどとして用いることができ、これにより、滑性、耐摩耗性、耐薬品性、非粘着性、耐熱性に優れた製品などが得ることができる。各種用途や皮膜の形成に際しては、樹脂特性の調整などを目的として、自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に、バインダー樹脂として、従来公知の各種樹脂を混合して使用することもできる。この際に使用するバインダー樹脂としては、自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中のマスキング部分が解離することによって生成するイソシアネート基と、化学的に反応し得るものであることが好ましい。しかし、上記のような反応性を有していない樹脂であっても、目的に応じて適宜に本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と併用できる。
【0043】
発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂と併用できるバインダー樹脂としては、従来から用いられている各種樹脂が使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、各種樹脂をシリコーンやフッ素で変性した樹脂なども使用することができる。これらのバインター樹脂を併用する場合、その使用量は作成する製品や使用目的によっても異なるが、本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して5〜90質量部、より好ましくは、60質量部以下を添加するとよい。勿論、本発明の自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の使用割合が多いほど、より好ましい環境対応製品となる。
【0044】
本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、熱処理することによりマスキングされた部分が解離してイソシアネート基を生成する。そして、その生成したイソシアネート基とポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基とが反応して、自己架橋することで架橋樹脂を生成する。このため、製品等にした場合に、優れた耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性を得ることができる。該樹脂は、ポリシロキサンセグメントが表面に配向するので、ポリシロキサンセグメントの持つ耐熱性、滑り性、非粘着性などに特に優れたものとなる。また、本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成する場合に用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、5員環環状カーボネート化合物を用いて合成されるが、前記したように、該5員環環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られるものであるため、樹脂中に二酸化炭素を取り入れ、固定することができる。このことは、本発明によって、温暖化ガス削減の観点からも有用な、従来品では到達出来なかった環境保全対応材料の提供が可能となることを意味している。
【0045】
以上の如く、本発明の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、各種成型材料、合成皮革や人工皮革材料、繊維コーティング材、表面処理材、感熱記録材料、剥離性材料、塗料、印刷インキのバインダーなどとして非常に有用である。
【実施例】
【0046】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0047】
<製造例1>(変性剤の製造)
トリメチロールプロパンと、ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(コロネートHL(商品名)、日本ポリウレタン社製、NCO=12.9%、固形分75%)100部、酢酸エチル24.5部を、100℃でよく撹拌しながら、ε−カプロラクタム25.5部を添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトル(堀場製作所製のFT−720で測定、以下同様)によれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.1%であるのに対し、実測値は1.8%であった。
【0048】
上記の変性剤の主たる化合物の構造は、下記式と推定される。

【0049】
<製造例2>(変性剤の製造)
ヘキサメチレンジイソシアネートと、水の付加体(ジュラネート24A−100(商品名)、旭化成社製、NCO=23.0%)100部、酢酸エチルを80℃でよく撹拌しながら、メチルエチルケトオキシムを32部添加し、5時間反応させた。得られた変性剤の赤外吸収スペクトルによれば、2,270cm-1に遊離イソシアネート基による吸収は残っており、この遊離イソシアネート基を定量すると、固形分50%で理論値が2.9%であるのに対し、実測値は2.6%であった。
【0050】
上記の変性剤の主たる化合物の構造は、下記式と推定される。

【0051】
<製造例3>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
撹拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ化合物(エピコート828(商品名)、ジャパンエポキシレジン(株)製、;エポキシ当量187g/mol)100部、N−メチルピロリドン100部、ヨウ化ナトリウム1.5部を加え、均一に溶解させた。
【0052】

【0053】
その後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら、80℃で30時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた溶液を300部のn−ヘキサン中に300rpmで高速撹拌しながら徐々に添加し、生成した粉末状生成物をフィルターでろ過、さらにメタノールで洗浄し、N−メチルピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。粉末を乾燥機中で乾燥し、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−A)118部(収率95%)を得た。
【0054】
得られた生成物(1−A)の赤外吸収スペクトルは、910cm-1付近の原料のエポキシ基由来のピークが、生成物ではほぼ消滅し、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。又、生成物の数平均分子量は414(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−A)中には、19%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0055】
<製造例4>(5員環環状カーボネート化合物の製造)
製造例3で用いた2価エポキシ化合物Aの代わりに、下記式Bで表わされる2価エポキシ化合物(YDF−170(商品名)、東都化成(株)製、;エポキシ当量172g/mol)を使い、製造例3と同様に反応させ、白色粉末の5員環環状カーボネート化合物(1−B)121部(収率96%)を得た。
【0056】

【0057】
なお、得られた生成物については、製造例3の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネート化合物(1−B)中には、20.3%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0058】
<実施例1>(自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
撹拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに製造例3で得られた5員環環状カーボネート化合物100部を、固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、下記式Cで表わされるアミン変性ポリシロキサン化合物を201部(所定当量)加え、90℃の温度で10時間撹拌し、アミン変性ポリシロキサン化合物が確認できなくなるまで反応させた。次に、製造例1で得た変性剤(固形分50%)を、樹脂との固形分比が100:10になる量添加し、90℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルによるイソシアネート基の吸収が消失したことを確認し、本実施例の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0059】

【0060】
<実施例2〜4>(自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
以下、実施例1と同様に5員環環状カーボネート化合物、アミン変性ポリシロキサン化合物、変性剤を組み合わせて、実施例1と同様の方法で反応させて、表1に記載の実施例2〜4の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液をそれぞれに得た。
【0061】
<比較例1>(ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
最終工程の、製造例1で得た変性剤との反応を行わない以外は実施例1と同様の方法で、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。具体的には、下記のようにして製造した。撹拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、これに製造例4で得た5員環環状カーボネート化合物を用い、さらに固形分が35%になるようにN−メチルピロリドンを加え均一に溶解した。次に、アミン変性ポリシロキサン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間撹拌し、アミン変性ポリシロキサン化合物が確認できなくなるまで反応させた。得られたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は、表1に記載の通りである。
【0062】

【0063】
<比較例2>(ポリエステルポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、比較例のポリエステルポリウレタン樹脂を合成した。撹拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペートを150部と、1,4−ブタンジオールを15部とを、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく撹拌しながら、62部の水添加MDI(メチレンビス(1,4−シクロヘキサン)−ジイソシアネート)を、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で、3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0064】
<比較例3>(ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、比較例のポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂を合成した。下記式Dで表され、かつ、平均分子量が約3,200であるポリジメチルシロキサンジオール150部および1,4−ブタンジオール10部を、200部のメチルエチルケトンと50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶媒を加え、また、40部の水添加MDIを120部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有し、この溶液から得られたフィルムは破断強度21MPaで破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。

【0065】
<評価>
上記実施例1〜4および比較例1〜3の各樹脂溶液からキャスティング法によりフィルムを作成し、得られた各フィルムについて下記の特性をそれぞれ測定した。キャスティング条件は100℃で3分間乾燥後、160℃で30分間加熱処理をした。
【0066】
[機械物性(引張強さ、伸び)]
各フィルムについて、JIS K7311に準じて、機械物性(引張強さ、伸び)を評価した。その結果を表2に示した。
【0067】
[熱軟化点]
各フィルムについて、JIS K7206(ビカット軟化点測定法)に準じて、熱軟化点を評価した。その結果を表2に示した。
[摩耗性]
各フィルムについて、JIS K7311に準じて、摩耗性を評価した。その結果を表2に示した。
【0068】
[摩擦係数]
各フィルムについて、フィルム表面の摩擦係数を表面試験機(新東科学製)で測定し、評価した。その結果を表2に示した。
【0069】
[耐溶剤性]
JIS K5600−6−1に準じ、50℃トルエンに10分間浸漬した前後での各フィルムの外観変化について観察し、耐溶剤性を評価した。その結果を表2に示した。
【0070】
[環境対応性]
各フィルム中における二酸化炭素の固定化の有無によって、○×で評価した。その結果を表2に示した。
【0071】

【産業上の利用可能性】
【0072】
以上の本発明によれば、地球温暖化、資源枯渇などの問題解決に資すると考えられる有用な材料であり、かつ、産業用として有効利用できる自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が提供される。より具体的には、本発明によれば、形成される製品が、二酸化炭素を取り入れた、温暖化ガス削減に寄与できる環境対応製品でありながら、耐熱性、滑り性、非粘着性、耐摩耗性、耐薬品性などの性能においても十分に満足できるものとなる自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が提供されるので、その活用範囲は広く、各分野での広範な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に、マスキングされたイソシアネート基を有することを特徴とする自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。
【請求項2】
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、その構造中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含んでなる請求項1に記載の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。
【請求項3】
前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂分子中におけるポリシロキサンセグメントの含有量が、1〜75質量%である請求項1又は2に記載の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。
【請求項4】
前記マスキングされたイソシアネート基は、有機ポリイソシアネート基とマスキング剤との反応生成物であって、熱処理することによりマスキングされた部分が解離されてイソシアネート基を生成し、その構造中の水酸基と反応して自己架橋するものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法であって、
少なくとも一個の遊離のイソシアネート基と、マスキングされたイソシアネート基とを有する変性剤を用い、該変性剤の遊離のイソシアネート基を、5員環環状カーボネート化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサンセグメントを有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中の水酸基と反応させて、その構造中にマスキングされたイソシアネート基を有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を得ることを特徴とする自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記5員環環状カーボネート化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応物であって、かつ、上記化合物とアミン変性ポリシロキサン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂中に二酸化炭素を1〜25質量%の範囲で含む請求項5に記載の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記変性剤が、有機ポリイソシアネート化合物とマスキング剤との反応生成物である請求項5又は6に記載の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自己架橋型ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に、他のバインダー樹脂を混合してなることを特徴とする樹脂材料。

【公開番号】特開2012−219114(P2012−219114A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83139(P2011−83139)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】