説明

自己流動性水硬性組成物

【課題】 低温環境下において、高い流動性と水平レベル性及び表面仕上り性に優れ、施工対象となる躯体温度の影響を受けやすい0.3mm〜7mmの薄付け施工においても、優れた硬化特性が得られるとともに、薄付け施工時に発生しやすいひび割れが発生しないセルフレベリング性の水硬性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の第一は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、凝結促進剤はアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温環境における施工において、高い流動性と水平レベル性を有し、卓越した速硬性を有し、優れた硬化体表面が得られるセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性セメント組成物を0℃以下の低温条件で用いた場合に、硬化不良あるいは硬化しないといった問題点を解決する方法として、特許文献1にはポルトランドセメント、CaO−Al系化合物及び無水石膏からなる水硬性セメント組成物とアルカリ金属の炭酸塩、硫酸塩、アルミン酸塩及び塩化物からなる群より選ばれた1種以上の無機塩とを含有する低温硬化用セメント組成物が開示されている。
また、冬場等の低温時にも良好な作業性を有し、強度の発現が良好で亀裂の発生が起こり難い速硬性セルフレベリング材について、特許文献2には、超速硬セメント、高炉水滓スラグ粉末、珪砂、かんらん石粉末、高性能減水剤、増粘剤からなり、更に凝結調整剤としてオキシカルボン酸又はその塩、アルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ソーダからなる薬剤を乾式混合してなる速硬性セルフレベリング材が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−288150号公報
【特許文献2】特開平7−69704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低温環境下において、高い流動性と水平レベル性及び表面仕上り性に優れ、施工対象となる躯体温度の影響を受けやすい0.3mm〜7mmの薄付け施工においても、優れた硬化特性が得られるとともに、薄付け施工時に発生しやすいひび割れが発生しないセルフレベリング性の水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、
凝結促進剤はアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。
【0006】
本発明の第二は、本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルである。
本発明の第三は、本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体である。
【0007】
本発明の自己流動性水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。好ましい態様は複数組み合わせることができる。
1)水硬性成分が、アルミナセメント20〜75質量%、ポルトランドセメント10〜60質量%及び石膏5〜38質量%からなる水硬性成分であること。
2)アルミン酸塩はアルミン酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対してアルミン酸塩を0.05〜1.0質量部含むこと。
3)リチウム塩は炭酸リチウムであり、水硬性成分100質量部に対してリチウム塩を0.01〜1質量部含むこと。
4)細骨材は微粒骨材であり、微粒骨材100質量%中に粒径が106μm〜212μmの粒子が70質量%以上であり、水硬性成分100質量部に対して微粒骨材を100〜300質量部含むこと。
5)水硬性組成物は、さらに無機成分、凝結遅延剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含むこと。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、凝結促進剤としてアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを併用して用い、さらに細骨材として微粒骨材を用いることにより、低温環境下(1℃〜7℃)での薄付け施工において、良好な施工性、優れた硬化特性および良好な表面仕上りが得られる。
本発明では、細骨材として微粒骨材を用いることにより、0.3mm〜7mmの薄付け施工が可能となるだけでなく、微粒骨材の優れた保水性により、スラリーの材料分離抵抗性が向上し、良好な流動特性が得られる。また、凝結促進剤としてアルミン酸塩とリチウム塩とを併用して用いることによって、低温環境下においても極めて良好な硬化特性が得られる。
これら凝結促進剤と微粒骨材とを併用する相乗効果によって、低温環境下で生じやすい硬化遅延と、硬化遅延に伴う材料分離に起因したモルタル表面の仕上り状態の悪化を回避でき、良好な表面仕上り状態を得ることができる。すなわち、微粒骨材がモルタル内部の保水性を高めて、材料分離抵抗性を付与してモルタル表面の水浮き(ブリージング)を抑制し、凝結促進剤によって水和反応が促進されて速硬性を発揮することにより、モルタル表面の水引きを促進でき、速やかにモルタル表面の硬度を高めることが可能となる。
さらに、本発明では、樹脂粉末を添加することによって、薄付け施工時の耐クラック性能をより優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、
凝結促進剤はアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物に関する。
【0010】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる。
水硬性成分は、好ましくは
アルミナセメント20〜75質量部、ポルトランドセメント10〜60質量部及び石膏5〜38質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
さらに好ましくはアルミナセメント25〜70質量部、ポルトランドセメント15〜54質量部及び石膏10〜36質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
より好ましくはアルミナセメント27〜60質量部、ポルトランドセメント20〜46質量部及び石膏13〜34質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)、
特に好ましくはアルミナセメント30〜52質量部、ポルトランドセメント25〜42質量部及び石膏16〜30質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成
を用いることにより、急硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0011】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0012】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0013】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0014】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とするのが好ましい。
【0015】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0016】
本発明の自己流動性水硬性組成物では、自己流動性水硬性組成物と水とを混練したモルタルを低温環境下(1℃〜7℃)において施工した場合に、良好な流動性と優れた表面仕上り性を保ちつつ、速やかな水引き特性と速やかな硬化体強度を得るために、特定の凝結促進剤と微粒骨材とを併用して使用する。
【0017】
本発明では、一定の可使時間を経た後に、スラリーの硬化を促進して、モルタル表面の水引を促進するとともに、モルタル硬化体表面の硬度を高めるために、凝結促進剤としてアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを併用して用いる。
【0018】
アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウムおよびアルミン酸マグネシウム等の一般に公知のリチウム塩を除くアルミン酸塩を使用でき、特にアルミン酸ナトリウムを好適に使用できる。
アルミン酸塩の使用量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.05〜1.0質量部、さらに好ましくは0.07〜0.8質量部、より好ましくは0.09〜0.6質量部、特に好ましくは0.1〜0.5質量部の範囲で用いるとモルタルの流動特性を大きく損なうことなく良好な硬化促進効果が得られることから好ましい。
アルミン酸塩の使用量が、0.05質量部未満では硬化促進効果が不十分なため、施工したモルタル表面の水引きに時間を要し、モルタル硬化体の表面硬度についても早期に高い値を得ることが困難なため好ましくない。また、1.0質量部を超えて添加した場合、速硬性はさらに向上しモルタル表面の水引きまでの時間が短縮されるものの、モルタル流動性の経時変化(流動性の低下)が大きくなって可使時間が短くなることから好ましくない。
【0019】
本発明では凝結促進剤としてアルミン酸塩と併せてリチウム塩を使用する。
リチウム塩の一例としては、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸リチウム塩などの有機リチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
リチウム塩の使用量は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.015〜0.5質量部、さらに好ましくは0.018〜0.3質量部、特に好ましくは0.02〜0.2質量部の範囲で用いることによって、水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性が得られることから好ましい。
【0020】
凝結促進剤としては、モルタルの流動特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下とするのが好ましい。
特にリチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0021】
本発明では、薄付け施工を可能とするとともに、低温環境下でのスラリー流動性を向上させ、さらにモルタル内部の保水性を高め、モルタル表面の水浮き(ブリージング)を抑制し、モルタル表面の硬度向上させるために、細骨材として微粒骨材を使用する。
微粒骨材としては、一般に細骨材として用いられる公知の珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
【0022】
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
微粒骨材の粒径は、106μm〜212μmの粒径を有する粒子を、微粒骨材100質量%中に、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは82質量%以上含むものを好適に用いることができる。
微粒骨材が、106μm未満の粒子を、10質量%を超えて過剰に含む場合、好適な流動性を得るために必要な水量もしくは流動化剤の添加量が増加するため好ましくなく、212μmを超える粒子を、10%を超えて過剰に含む場合には、モルタルの保水性が充分に得られず、また充分な材料分離抵抗性を付与することが難しく、水浮きを抑制する効果が小さくなることから好ましくない。
微粒骨材は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは100〜300質量部、さらに好ましくは120〜280質量部、より好ましくは140〜260質量部、特に好ましくは150〜250質量部を配合すると、良好なモルタル流動性が得られつつ、好適な保水性と材料分離抵抗性とを付与でき、モルタル表面の水浮き(ブリージング)を抑制できることから好ましい。
微粒骨材の添加量が100質量部未満の場合、モルタルの保水性が充分に得られず、また充分な材料分離抵抗性を付与することが難しいことから好ましくなく、300質量部を超えて添加すると、モルタルの流動性が低下する傾向が見られ、また硬化体強度も充分に得られないことから好ましくない。
【0023】
本発明では、アルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを含む凝結促進剤と、微粒骨材とを併用して用いることによって、凝結促進剤の添加に伴うモルタル流動性の若干の低下を、微粒骨材の添加よる流動性の改善効果によって補うとともに、微粒骨材がモルタル内部の保水性を高めて、材料分離抵抗性を付与してモルタル表面の水浮き(ブリージング)を抑制し、凝結促進剤によって水和反応を促進して速硬性を発揮し、この結果、モルタル表面の水引きを促進して、速やかにモルタル表面の硬度を高めることができる。さらに、これら凝結促進剤と微粒骨材とを併用して用いることによる相乗効果によって、低温環境下で生じやすい硬化遅延に伴う材料分離に起因したモルタル表面の仕上り状態の悪化も回避できる。
【0024】
本発明では、薄付け施工したモルタル硬化体のクラック発生をより確実に防止するために樹脂粉末を添加することが好ましい。樹脂粉末は、乾燥によって発生する収縮応力がひび割れ発生に繋がる過程で、ひび割れの発生に対する抵抗性を向上させる効果がある。
樹脂粉末としては、樹脂の粉末化方法などの製法については特に限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができる。また樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。
樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化型の樹脂粉末を用いることが好ましい。
樹脂粉末の粒子径は、315μmふるい上残分が3%以下、さらに300μmふるい上残分が3%以下、特にさらに300μmふるい上残分が2%以下のものを好ましく用いることが出来る。
樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは0.7〜4.5質量部、さらに好ましくは0.9〜4質量部、特に好ましくは1〜3.5質量部を配合したものを好適に用いることができる。
【0025】
樹脂粉末としては、アクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステルなどの成分を一種単独又は二種以上より得られる樹脂の粉末状のものを用いることができる。
樹脂粉末は、酢酸ビニル及びバーサチック酸ビニルエステルから選ばれる少なくとも1種又は2種を含む成分から得られる樹脂粉末が好ましく、特に、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル/アクリル酸エステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル/アクリル酸エステル/エチレン、酢酸ビニル/エチレン、酢酸ビニル/アクリル酸エステル/エチレン、バーサチック酸ビニルエステル/アクリル酸エステルなどの共重合物を好ましく用いることが出来る。
【0026】
自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保するため流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いることが好ましい。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜1.0質量部、特に好ましくは0.05〜0.3質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合が考えられる。
【0027】
凝結遅延剤は、使用する水硬性成分や水硬性組成物の成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加でき、凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間と速硬性とを調整することが可能であり、セルフレベリング材(自己流動性モルタル)としての特性をより向上させるため使用することが好ましい。
【0028】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸など、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0029】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0030】
凝結遅延剤は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.15〜1質量部、特に好ましくは0.2〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0031】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含む増粘剤を好適に用いることができ、またヒドロキシエチルメチルセルロースと他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤とを併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、自己流動性水硬性組成物100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.7質量部、特に0.03〜0.5質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0032】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0033】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0034】
本発明の自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを含む凝結促進剤、珪砂などの微粒骨材、高炉スラグ微粉末などの無機成分、樹脂粉末、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結遅延剤を含むものである。
【0035】
本発明では、自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、アルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを含む凝結促進剤、珪砂などの微粒骨材、高炉スラグ微粉末などの無機成分、樹脂粉末、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結遅延剤などを混合機で混合し、自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0036】
自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状のセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルを製造することができ、そのモルタルを硬化させて自己流動性水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0037】
自己流動性水硬性組成物は、水と混合・攪拌してモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間、材料分離性、モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
水の添加量は、自己流動性水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは10〜40質量部、さらに好ましくは14〜34質量部、より好ましくは18〜30質量部、特に好ましくは22〜28質量部の範囲で添加して用いることが好ましい。
【0038】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルのフロー値が、好ましくは190〜280mm、さらに好ましくは200〜270mm、特に好ましくは210〜260mmに調整されていることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0039】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルを低温環境下(5℃)で施工した後、好ましくは6時間後のモルタル硬化体の表面硬度(ショア硬度)が10以上、さらに好ましくは5時間後のモルタル硬化体の表面硬度(ショア硬度)が8以上のショア硬度を有することにより、良好な施工効率を確保することができる。
また、本発明のセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルは、施工後48時間のショア硬度が好ましくは60以上、より好ましくは65以上の硬度が得られることが、良好な施工効率を確保する上で好ましい。
【0040】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルを低温環境下(5℃)で施工した後、モルタル表面の水引き時間は好ましくは180分以内、さらに好ましくは175分以内であることが良好な表面状態を有するモルタル硬化体を得るために好ましい。
【0041】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、好ましくは1℃〜7℃、さらに好ましくは1℃〜6.5℃、特に好ましくは1℃〜6℃の低温環境にある床下地や、工場、倉庫、駐車場、ガソリンスタンド、厨房、マンション等の施工現場において、セルフレベリング性に優れた床仕上げ材として用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0043】
(1)モルタルの評価:
評価に用いるモルタルは、自己流動性水硬性組成物と水とを混練し、混練後直ぐのモルタルを用いる。
・セルフレベリング性:
図1に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
同様に成形後20分後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL20とする。
同様に成形後30分後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL30とする。
評価条件は、温度5℃、湿度65%の環境下で行い、使用材料及び使用器具については、予め温度5℃、湿度65%の環境下に保持したものを使用する。
【0044】
(2)硬化体の評価:
・水引き :
上記(1)で得られるスラリー(モルタル)を、30cm×30cmのコンクリート板の表面に厚さ5mmになるように流し込み、スラリー(モルタル)表面の全面について、光沢がなくなるまでの経過時間を水引きに要した時間とする。
・モルタル硬化体の表面硬度 :
打設後、2時間を経過した時点から1時間毎に硬化した表面の硬度をスプリング式硬度計タイプD型((株)上島製作所製)を用いて、任意の3〜5カ所の表面硬度を測定し、そのスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間の表面硬度とする。なお、未硬化状態では測定が不能となる。
・モルタル表面状態(白華、粉化、ゆず肌、凹凸、クレーター):
白華、粉化、ゆず肌、凹凸及びクレーターは、上記(1)で得られるスラリー(モルタル)を、30cm×30cmのコンクリート板の表面に厚さ5mmになるように流し込み、硬化終了後、モルタル硬化体の表面状態を目視で観察した。評価は以下の通りとした。
○:無し、×:有り。
【0045】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:II型無水石膏(セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)。
2)無機成分
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
3)細骨材
・微粒骨材:微粒珪砂(N−70、瓢屋製)
・微粒骨材の粒度構成を表3に示す。
4)凝結促進剤:
・アルミン酸ナトリウム:(北陸化成社製)
・炭酸リチウム:(本荘ケミカル社製)。
5)凝結遅延剤:
・重炭酸Na:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na:L−酒石酸ニナトリウム(扶桑化学工業社製)。
6)混和剤
・流動化剤:ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
・増粘剤:ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズMX−30000、松本油脂社製)。
・消泡剤:ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
7)樹脂成分:
・樹脂粉末:DM201P(ニチゴー・モビニール社製)
【0046】
(実施例1〜3、比較例1、2)
表1に示す水硬性成分、微粒骨材、凝結促進剤、無機成分、流動化剤、増粘剤、消泡剤、凝結遅延剤及び樹脂粉末(総量:1.5kg)を、ケミスタラーを用いて混練して水硬性組成物を調整し、さらに水375gを加えて3分間混練して、スラリー(モルタル)を得た。水硬性組成物及びスラリーの調整は、温度5℃、湿度65%の雰囲気下で行った。
得られたモルタルを用いて、SL特性、水引き状況、モルタル硬化体表面硬度、モルタル硬化体表面状態の評価を行った結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
1)凝結促進剤を用いない比較例1では、施工後のスラリー(モルタル)表面の水引きまでの時間が205分(目標:180分以下)と長く、さらに48時間後の硬化体表面のショア硬度は50未満であった。
凝結促進剤として炭酸リチウムのみを用いた比較例2の場合、48時間後の硬化体表面のショア硬度は77であり良好な硬度が得られたが、施工後のスラリー(モルタル)表面の水引きまでの時間は218分と長く、初期の硬化が不良であった。
凝結促進剤として炭酸リチウムのみを用いた比較例3〜5の場合についても、水引きまでの時間が長く、180分以上を要した。
2)凝結促進剤として炭酸リチウムとアルミン酸ナトリウムとを併用した実施例1〜5の場合、スラリー(モルタル)のフロー、SL特性、流動速度ともに良好な流動特性を示し、水引き時間についても180分以下と短く、硬化体表面のショア硬度についても施工後6時間以内に10以上の硬度が得られた。
3)早強セメントを含まない水硬性成分を用いた比較例6、7の場合、凝結促進剤として炭酸リチウムとアルミン酸ナトリウムとを併用しても良好な流動性は得られなかった。
4)また、細骨材に微粒骨材を使用しているため、スラリー(モルタル)を施工した後、硬化するまでの数時間に生じやすい材料分離を抑制できるため、スラリー(モルタル)硬化体の表面状態はいずれの場合においても良好な結果を得ることができた。
【0051】
本発明では、凝結促進剤としてアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを併用して用い、さらに細骨材として微粒骨材を用いることにより、低温環境下(1℃〜7℃)での薄付け施工において、良好な施工性、優れた硬化特性および良好な表面仕上りが得られる。
本発明では、細骨材として微粒骨材を用いることにより、0.3mm〜7mmの薄付け施工が可能となるだけでなく、微粒骨材の優れた保水性により、スラリーの材料分離抵抗性が向上し、良好な流動特性が得られる。また、凝結促進剤としてアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを併用して用いることによって、低温環境下においても優れた流動特性と極めて良好な硬化特性とを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】SL測定器を用いた、モルタルのセルフレベリング性評価の概略を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、
凝結促進剤はアルミン酸塩(リチウム塩を除く)とリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性成分が、アルミナセメント20〜75質量%、ポルトランドセメント10〜60質量%及び石膏5〜38質量%からなる水硬性成分であること
を特徴とする請求項1に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
アルミン酸塩はアルミン酸ナトリウムであり、水硬性成分100質量部に対してアルミン酸塩を0.05〜1.0質量部含むこと
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
リチウム塩は炭酸リチウムであり、水硬性成分100質量部に対してリチウム塩を0.01〜1質量部含むこと
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項5】
細骨材は微粒骨材であり、微粒骨材100質量%中に粒径が106μm〜212μmの粒子が70質量%以上であり、水硬性成分100質量部に対して微粒骨材を100〜300質量部含むこと
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性組成物は、さらに無機成分、凝結遅延剤及び樹脂粉末から選ばれる成分を少なくとも1種以上を含むこと
を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127250(P2008−127250A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315058(P2006−315058)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】