説明

自己流動性水硬性組成物

【課題】 高い流動性を有して、施工作業を容易に行うに充分な可使時間を保持しながら、施工作業終了後に急速に硬化が進行し、優れた水平レベル性と極めて良好な表面仕上り性が得られ、特に高温環境下での施工においても卓越した表面仕上り性が得られるセルフレベリング性の水硬性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、凝結促進剤は硫酸アルミニウムとリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般建築物の主に床下地調整に使用されるセルフレベリング材として、現場での実施工において充分な可使時間を有し、さらに卓越した硬化体表面の仕上り状態が得られる自己流動性水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルフレベリング材として使用される水硬性組成物には、自己平滑性を確保するための高い流動性、早期開放を可能にするに十分な速硬性、施工作業を容易にする面から適度の可使時間が取れることなどが要求される。
施工性を確保に関しては、特許文献1には、作業特性(高流動性、長可使時間)、速硬性および硬化特性(高強度、高耐摩耗性、高平滑性、着色可能性)に優れた自己流動性水硬性組成物として、アルミナセメント、石膏および高炉スラグよりなる水硬性成分、硫酸アルミニウムおよびリチウム塩よりなる凝結調整剤、減水剤、および、高分子エマルジョンよりなる自己流動性水硬性組成物が開示されている。
また、特許文献2には、硬化時間の目安となるスラリー表面の水分が乾くまでの時間が1〜2時間程度で、高温下で使用しても高い流動性を有し、硬化表面に微小な凹凸が発生しないアルミナセメント系のセルフレベリング材として、水硬性成分、細骨材、減水剤及び増粘剤とを含み、細骨材100質量%中に平均粒径1〜100μmの微粉細骨材を1〜20質量%含む自己流動性水硬性組成物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−231165号公報
【特許文献2】特開2006−45025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い流動性を有して、施工作業を容易に行うに充分な可使時間を保持しながら、施工作業終了後に急速に硬化が進行し、優れた水平レベル性と極めて良好な表面仕上り性が得られ、特に高温環境下での施工においても卓越した表面仕上り性が得られるセルフレベリング性の水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、水硬性成分としてアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏を使用し、一定割合の微粒分を含む細骨材を使用し、さらに凝結促進剤として硫酸アルミニウムとリチウム塩とを併用することによって前記課題を解消できることを見出して本発明を完成した。
即ち、本発明の第一は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、凝結促進剤は硫酸アルミニウムとリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。
【0006】
本発明の第二は、本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルである。
本発明の第三は、本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体である。
【0007】
本発明の自己流動性水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。好ましい態様は複数組み合わせることができる。
1)水硬性成分が、アルミナセメント20〜67.5質量%、ポルトランドセメント27.5〜75質量%及び石膏5〜50質量%からなる水硬性成分であること。
2)水硬性成分100質量部に対し、硫酸アルミニウムが0.02〜1.0質量部であること。
3)細骨材は、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒分を3〜20質量%含み、150μm以上〜850μm未満の粒子を97〜80質量%含むこと。
4)水硬性組成物は、凝結遅延剤を含み、さらに流動化剤、増粘剤、消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むこと。
5)水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる無機成分を少なくとも1種以上含むこと。
【発明の効果】
【0008】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、凝結遅延剤の添加効果によって、優れた流動性と施工作業を容易に行うに充分な可使時間とを確保しながらも、凝結促進剤として硫酸アルミニウムとリチウム塩とを併せて使用することにより、施工作業終了後に急速に硬化を進行させることができ、さらに微粒骨材を適正量含む細骨材を用いることでモルタル表層部の材料分離を抑制・解消でき、優れた水平レベル性と卓越した表面仕上り性が得られる。特に硬化体表面の乾燥現象が激しく、硬化体表面仕上りには極めて厳しい高温環境下での施工においても、優れた表面仕上り性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、凝結促進剤は硫酸アルミニウムとリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物に関する。
【0010】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる。
水硬性成分は、
好ましくは、
アルミナセメント20〜67.5質量部、ポルトランドセメント27.5〜75質量部及び石膏5〜50質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
さらに好ましくは、
アルミナセメント26〜62質量部、ポルトランドセメント28〜64質量部及び石膏8〜45質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
より好ましくは、
アルミナセメント33〜56質量部、ポルトランドセメント28.5〜52質量部及び石膏10〜40質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
特に好ましくは、
アルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント29〜40質量部及び石膏15〜30質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
を用いることにより、急硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0011】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0012】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0013】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0014】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含み、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とするのが好ましい。
【0015】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを好適に用いることができる。
【0016】
本発明の自己流動性水硬性組成物では、自己流動性水硬性組成物と水とを混練したモルタルが、良好な流動性と充分な可使時間とを確保しつつ、速やかな水引き特性と卓越した表面仕上り性を得るために、特定の凝結促進剤と微粒骨材とを併用して使用する。
【0017】
凝結促進剤は、施工後の凝結を促進してモルタル表面の水引きを速やかにし、さらにモルタルの硬化を急速に促進することにより、未硬化のモルタルが硬化を開始するまでの時間に生じるモルタル表面の材料分離を抑制・解消する効果がある。
本発明では凝結促進剤として、硫酸アルミニウムとリチウム塩とを併せて使用することにより、モルタルの硬化を急速に促進し、表面性状に影響を及ぼすわずかばかりの材料分離が進行する前にモルタル組織を硬化させることができ、さらにこの効果は微粒骨材を用いることによって高められた未硬化のモルタル自体の材料分離抵抗性と相まって、卓越した硬化体表面仕上りを得ることができる。
【0018】
本発明で用いる硫酸アルミニウムとしては、無水または各種含水量の硫酸アルミニウムの他、硫酸アルミニウムを含む各種ミョウバンを挙げることが出来る。
本発明では硫酸アルミニウムを使用し、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.02〜1.0質量部、さらに好ましくは0.05〜0.9質量部、より好ましくは0.1〜0.8質量部、特に好ましくは0.25〜0.7質量部の範囲で用いると、モルタルの流動特性を大きく損なうことなく良好な硬化促進効果が得られることから好ましい。
硫酸アルミニウムの使用量が、0.02質量部未満では硬化促進効果が不十分なため、施工したモルタル表面の水引きに時間を要し、モルタル硬化体の表面硬度についても早期に高い値を得ることが困難なため好ましくない。また、1.0質量部を超えて過剰に添加した場合、良好な硬化体表面が得られなくなることがあるため好ましくない。
【0019】
本発明では凝結促進剤として、硫酸アルミニウムとリチウム塩とを併せて使用する。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0020】
リチウム塩は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部、さらに好ましくは0.02〜0.3質量部、特に好ましくは0.04〜0.2質量部の範囲で用いることによって、水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性が得られることから好ましい。
【0021】
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0022】
本発明では、モルタル流動性を向上させるとともに、モルタル内部の保水性を高めて材料分離抵抗性を向上させ、また、モルタル表面の水浮き(ブリージング)を抑制するために一定割合の微粒分を含む細骨材を使用することが好ましい。
細骨材としては、一般的に細骨材として用いられる公知の珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナセメントクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。また、粒度構成が異なる2種類以上の細骨材を混合して、微粒分を好適な割合含む細骨材を調製して用いることができる。本発明で好適に用いることができる細骨材は、前記の粒度構成を満足していれば特にその調製方法は限定されるものではない。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0023】
細骨材は、好ましくは、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒分を3〜20質量%含み、150μm以上〜850μm未満の粒子を97〜80質量%含むもの、さらに好ましくは、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒分を4〜20質量%含み、150μm以上〜850μm未満の粒子を96〜80質量%含むもの、特に好ましくは、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒分を4.5〜20質量%含み、150μm以上〜850μm未満の粒子を95.5〜80質量%含むものが、モルタルの流動性、材料分離抵抗性、水浮き抑制の点から好ましく用いることができる。
細骨材が、150μm以上〜850μm未満の粒子を、80質量%より少なく含む場合、特に好適な流動性を得るための必要な水量もしくは流動化剤の添加量が増加する傾向が強くなるため好ましくなく、30μm以上〜150μm未満の粒子を、3質量%より少なく含む場合には、モルタルの保水性が充分に得られず、充分な材料分離抵抗性を付与することが難しくなり、モルタルの硬化までの水浮きを抑制する効果が小さくなり、硬化体表面の仕上り状態が不良になることがあることから好ましくない。
【0024】
また本発明で用いる細骨材は、好ましくは粒径が1180μm以上の粒子を含まないこと、さらに好ましくは850μm以上の粒子を含まないこと、特に好ましくは600μm以上の粒子を含まないことが、良好なモルタルの流動特性及び材料分離特性が得られることから、更に平滑で優れた表面仕上り性を安定して得られることから好ましい。
【0025】
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは150〜250質量部の範囲で用いることが好ましい。
前記範囲の微粒分を含む細骨材を、水硬性成分100質量部に対して前記の好ましい範囲で用いることによって、モルタル全体の材料分離抵抗性を好適な性状の保つことができる。
【0026】
自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いる。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜1.0質量部、特に好ましくは0.05〜0.3質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合が考えられる。
【0027】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含む増粘剤を好適に用いることができ、またヒドロキシエチルメチルセルロースと他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤とを併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、自己流動性水硬性組成物100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.01〜1質量部、より好ましくは0.05〜0.7質量部、特に0.1〜0.5質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0028】
凝結遅延剤は、使用する水硬性成分や水硬性組成物に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間と速硬性とを調整するために使用する。
【0029】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、オキシカルボン酸などの有機酸又はその塩、重炭酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等の無機塩などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0030】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0031】
凝結遅延剤は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜2質量部であり、より好ましくは0.1〜1.6質量部、さらに好ましくは0.2〜1.4質量部、特に好ましくは0.4〜1.2質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0032】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0033】
本発明の自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、凝結促進剤、凝結遅延剤、微粒骨材、硅砂などの細骨材、高炉スラグ微粉末などの無機成分、流動化剤、増粘剤及び消泡剤を含むものである。
【0034】
本発明では、自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、凝結促進剤、凝結遅延剤、微粒骨材、硅砂などの細骨材、高炉スラグ微粉末などの無機成分、流動化剤、増粘剤及び消泡剤などを混合機で混合し、自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0035】
自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状のセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルを製造することができ、そのモルタルを硬化させて自己流動性水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0036】
自己流動性水硬性組成物は、水と混合・攪拌してモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間、材料分離抵抗性、モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
水の添加量は、自己流動性水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは10〜40質量部、さらに好ましくは14〜34質量部、より好ましくは18〜30質量部、特に好ましくは22〜28質量部の範囲で添加して用いることが好ましい。
【0037】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタル(スラリー)のフロー値が、好ましくは190〜270mm、さらに好ましくは200〜260mm、特に好ましくは210〜250mmに調整されていることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0038】
SL値のL0およびL20は、好ましくは350mm以上、さらに好ましくは400mm以上、より好ましくは440mm以上、特に好ましくは480mm以上であることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
SL値のL0とL20との差異、即ち流動性の経時変化については、L20(SL値の測定値)/L0(SL値の測定値)が、好ましくは0.88〜1.1の範囲、さらに好ましくは0.9〜1.05の範囲、特に好ましくは0.92〜1.02の範囲にあることが、施工時に良好な作業性を確保できることから好ましい。
SL試験器を用いて測定したモルタル(スラリー)の移動速度については、L0とL20との差異、即ち流動速度の経時変化については、L20(流動速度の測定値)/L0(流動速度の測定値)が、好ましくは1.0〜2.2の範囲、さらに好ましくは1.0〜1.9の範囲、特に好ましくは1.0〜1.5の範囲にあることが、施工時に安定して良好な作業性が確保できることから好ましい。
【0039】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して製造されるスラリーの水引き(表面水分乾燥時間)が、好ましくは40〜120分、さらに好ましくは45〜100分、特に好ましくは50〜90分の範囲で調整されることが好ましい。
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して製造されるスラリーの凝結時間の始発が、好ましくは40〜90分、さらに好ましくは40〜80分、特に好ましくは40〜70分の範囲で、凝結時間の終結が、好ましくは50〜110分、さらに好ましくは50〜100分、特に好ましくは50〜90分の範囲に調整されることが好ましい。
【0040】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、特性を損なわない範囲で水を加えることにより、流動性及び流動保持性を有する床下地調整などのセルフレベリング材として用いることができ、5〜40℃の温度範囲内で、工場、倉庫、駐車場、ガソリンスタンド、厨房、マンション等の施工現場に、セルフレベリング性に優れ、優れた表面仕上げ性を有する床下地調整材又は床仕上げ材として用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0042】
(1)モルタルの評価:
評価に用いるモルタルは、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製した混練直後のモルタルを用いる。
・フロー値:
JASS 15M−103に記載の方法に準拠して測定する。
・セルフレベリング性:
図1に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
同様に成形後20分後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL20とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
評価条件は、温度30℃、湿度65%の環境下で行う。
・水引き :調製したスラリーを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、その後硬化が進行し、表面を軽く触れても、スラリーが付着しなくなるまでの時間とする。
・凝結時間:JIS R 5201の8に記載の凝結試験方法により測定する。
【0043】
(2)硬化体の評価:
モルタル硬化体表面の仕上り状態は、調製したスラリーを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、24時間後に評価した。表面粉化は目視観察により評価した。なし肌は硬化体表面の微細な凹凸が発生した状態であり、手で触れることにより評価した。ゆず肌は幅1〜2mmの小さな凸が発生した状態であり、目視観察により評価した。表面仕上りの評価基準は、実施工時を想定して以下の通りとした。
5:優れる、4:良好、3:問題ない、2:やや不良、1:不良。
【0044】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:II型無水石膏(セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)。
2)無機成分
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
3)細骨材
・珪砂A:6号珪砂。
・珪砂B:6号珪砂と7号珪砂の混合砂。混合比率は、6号珪砂(質量部)/7号珪砂(質量部)=94/6の割合で混合砂を調製した。
・6号砂、7号珪砂及び6号珪砂と7号珪砂の混合砂の粒度分布を表3に示す。
4)凝結遅延剤:
・重炭酸Na :重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na :L−酒石酸ニナトリウム(扶桑化学工業社製)。
5)凝結促進剤:
・硫酸Al:無水硫酸アルミニウム(大明化学工業社製)
・炭酸Li:炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)。
6)混和剤
・流動化剤 :ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
・増粘剤 :ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズMX−30000、松本油脂社製)。
・消泡剤 :ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
【0045】
(実施例1〜3、比較例1、2)
表1に示す水硬性成分、無機成分、細骨材、凝結促進剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結遅延剤(総量:1.5kg)を、ケミスタラーを用いて混練して水硬性組成物を調整し、さらに水390gを加えて3分間混練して、モルタルを得た。水硬性組成物及びスラリーの調整は、温度30℃、湿度65%の雰囲気下で行った。
【0046】
得られたモルタルを用いて、SL特性、水引き状況、凝結時間(始発―終結)、モルタル硬化体表面状態の評価を行った結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
1)凝結促進剤として炭酸リチウムのみを使用し、微粒分を適正量含まない細骨材(珪砂A)を用いた比較例1の場合、流動特性は良好なものの硬化体表面仕上りについては表面粉化が見られ、なし肌が発生して不良であった。
2)微粒分を適正量含む細骨材(珪砂B)を使用し、凝結促進剤として硫酸アルミニウムのみを使用した比較例2の場合、炭酸リチウムを使用していないため終結時間が大幅に遅くなり、硬化体表面のなし肌が発生していた。
3)微粒分を適正量含む細骨材(珪砂B)を使用し、凝結促進剤として炭酸リチウムのみを使用した比較例3の場合、流動性は良好であり、また硬化体表面の仕上りも良好であった。
4)微粒分を適正量含む細骨材(珪砂B)を使用し、凝結促進剤として硫酸アルミニウムと炭酸リチウムとを併用した実施例1〜3の場合、比較例3と対比して流動性はスラリー調製直後及び調整後20分経過時点ともに良好であり、硬化体表面の仕上り状態はより優れた性状を示した。また、硫酸アルミニウムの添加量の増加に伴って、スラリー調整直後と調整後20分経過時点との流動特性の差が小さくなっており、流動性の経時変化(フローロス)は抑制されていた。
【0051】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、凝結遅延剤の添加効果によって、優れた流動性と施工作業を容易に行うに充分な可使時間とを確保し、微粒分を適正量含む細骨材を用いることで、水硬性成分と細骨材とが連続粒度を形成して、モルタル表層部のわずかな材料分離をさらに抑制・解消することができ、さらに凝結促進剤として硫酸アルミニウムとリチウム塩とを併せて使用することにより、可使時間経過後にスラリー表層の微妙な材料分離が進行する前に急速に硬化を進行させることができ、優れた水平レベル性と卓越した表面仕上り性を有する硬化体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】SL測定器を用いた、モルタルのセルフレベリング性評価の概略を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、凝結促進剤と、細骨材とを含む水硬性組成物であり、凝結促進剤は硫酸アルミニウムとリチウム塩とを含むことを特徴とする自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性成分が、アルミナセメント20〜67.5質量%、ポルトランドセメント27.5〜75質量%及び石膏5〜50質量%からなる水硬性成分であることを特徴とする請求項1に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性成分100質量部に対し、硫酸アルミニウムが0.02〜1.0質量部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
細骨材は、細骨材100質量%中に30μm以上〜150μm未満の微粒分を3〜20質量%含み、150μm以上〜850μm未満の粒子を97〜80質量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項5】
水硬性組成物は、凝結遅延剤を含み、さらに流動化剤、増粘剤、消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる無機成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−162837(P2008−162837A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353451(P2006−353451)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】