説明

自己粘着性合成樹脂シート

【目的】 頻繁な貼り替えを必要とするポスターやラベルなどに効果的に使用される自己粘着性合成樹脂シートであって、このような頻繁な貼り替えにより発生し易い擦過傷や汚れなどに対して高い抵抗性を有する表面保護が施された自己粘着性合成樹脂シートを提供することを目的とする。
【構成】 自己粘着性合成樹脂シートに直接および/または該シートに施された印刷面上に表面保護層を、合成樹脂フィルムをラミネートすることにより、あるいは紫外線硬化型塗料または溶剤型塗料を塗布することにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自己粘着性合成樹脂シート自体の表面保護、あるいは該シートに施された印刷面の保護がなされた自己粘着性合成樹脂シートに関する。
【0002】
【技術背景】最近、ファーストフードの店、コンビニエンスストアー、ファミリーレストランなどにおいて、頻繁に貼り替える必要のある広告用あるいは各種表示用のポスターやラベルなどに、接着剤や粘着剤を使用することなく、着脱自在に貼着できる自己粘着性シートの必要性が高まり、塩化ビニル系樹脂にDOP、DBP、C7,C9,C11混合フタル酸エステルなどの可塑剤を単独でまたは2種以上を混合して多量に配合し、カレンダー法や押出法でシート化した自己粘着性塩化ビニル系樹脂シートが開発されている。
【0003】ところで、以上のような各種の自己粘着性合成樹脂シートは、上記のように頻繁に貼り替える必要のあるポスターやラベルなどの使用に適しているため、多数回の貼り替えが行われるのが一般的である。しかし、多数回の貼り替えを行っているうちに、表面に微細な傷が生じたり、各種の汚れが付着するのを避けることはできない。しかも、印刷されたものであれば、摩擦などにより印刷面が剥落し、再使用に耐え得なくなることも必至である。このようなことから、折角の自己粘着性合成樹脂シートの、接着剤や粘着剤を使用することなく、着脱自在に貼着でき、したがって頻繁な貼り替えを要する各種の用途に適すると言った特性が没却されることが懸念される。
【0004】以上のような実情下において、従来の自己粘着性合成樹脂シートはもとより、本発明者らによる自己粘着性合成樹脂シートにおいては、シート自体および印刷面の表面保護の技術の開発が急務とされている。
【0005】
【発明の目的】そこで、本発明は、自己粘着性合成樹脂シートに直接、あるいは該シートに施された印刷面上に、表面保護処理を行った自己粘着性合成樹脂シートを提供することを目的とする。
【0006】
【目的を達成するための手段】本発明の自己粘着性合成樹脂シートは、上記の目的を達成するために、自己粘着性合成樹脂シートに直接および/または該シートに施された印刷面上に表面保護層が形成されてなることを特徴とする。
【0007】上記の表面保護層は、どのような手段で形成されたものであってもよいが、本発明では、合成樹脂フィルムがラミネートされてなるもの、あるいは紫外線硬化型塗料または溶剤型塗料が塗布されてなるものであることが、自己粘着性合成樹脂シートや印刷面との密着性を良好にしたり、あるいは表面保護層の形成作業を容易にするなどの理由で、特に好ましい。また、印刷面上に形成する場合は、印刷インクの面のみでもよいし、ベースである自己粘着性合成樹脂シートの露出面を含んでいてもよい。
【0008】上記のラミネートされる合成樹脂フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂などのように、表面破壊に対し高い抵抗値(すなわち、高い表面強度)を有し、また各種の汚れに対して難付着性や高い除去性などを有する合成樹脂の単独または2種以上からなるフィルムが使用できる。これらの合成樹脂フィルムは、単層でラミネートしてもよいし、複数層でラミネートすることもできる。
【0009】上記のラミネート用合成樹脂フィルムは、ラミネートしようとする自己粘着性合成樹脂シートの種類(すなわち、該シートを構成している合成樹脂の種類や、該合成樹脂に配合されている可塑剤、着色剤、その他の添加剤の種類など、以下、「自己粘着性合成樹脂シートの種類」というときは、これらの種類を意味する)、あるいは該シートに施されている印刷インクの種類(すなわち、該インクのベヒクルを構成している合成樹脂の種類や、該合成樹脂に配合されている着色剤、可塑剤、その他の添加剤の種類など、以下、「印刷インク」というときは、これらの種類を意味する)を考慮して、また自己粘着性合成樹脂シートの用途を考慮して、最適なものが選択されて使用される。
【0010】すなわち、上記のラミネート用合成樹脂フィルムは、自己粘着性合成樹脂シートや印刷インクの種類により、強固な密着状態でラミネートすることが不可能なものもある。また、強固な密着状態を得ることはできても、例えば自己粘着性塩化ビニル系樹脂シートや自己粘着性オレフィン系樹脂シートのように、これらの自己粘着性合成樹脂シートが本来有している高い透明性、高い柔軟性、自己粘着性、その他の優れた特性が阻害されるものもある。さらには、自己粘着性合成樹脂シートの用途によって、これらの特性の一部が、ある程度阻害されても支障ない場合もある。加えて、上記の合成樹脂フィルムのラミネート工程中に、自己粘着性合成樹脂シートに加えられる温度、圧力、その他の種々の負荷により、自己粘着性合成樹脂シート自体、あるいは印刷面が、製品となり得ない程の損傷を受ける場合もある。これらの各種の要因を考慮して、ラミネートしようとする自己粘着性合成樹脂シートや印刷インクの種類、あるいは用途に応じて、最適の合成樹脂フィルムを選択すればよい。
【0011】ラミネートの厚さは、自己粘着性合成樹脂シートや印刷インクの種類、自己粘着性合成樹脂シートの用途などによって異なり、一概には決められないが、あまり薄すぎても表面保護の効果が発現せず、逆にあまり厚すぎるとコストアップを招来するため、本発明では、単層の場合も、複数層の場合も、合計で5〜50μm程度とすることが好ましい。
【0012】上記の合成樹脂フィルムをラミネートするに際しては、ラミネートの手法や、ラミネートされる自己粘着性合成樹脂シートの種類にもよるが、接着剤や粘着剤を必要とするものもある。この場合に使用することができる接着剤や粘着剤としては、自己粘着性合成樹脂シートとラミネートしようとする合成樹脂フィルムとを強固に接着(合成樹脂フィルムを複数層ラミネートする場合は、各層の合成樹脂フィルム同士をも強固に接着)することができるとともに、上記した合成樹脂フィルムの場合と同様に、自己粘着性合成樹脂シートが有している高い透明性、高い柔軟性、自己粘着性、その他の優れた特性を損なわないものを選択することが重要となる場合もある。
【0013】また、表面保護層は、塗料を塗布することにより形成することもできる。この塗料としては、紫外線硬化型塗料、溶剤型塗料、水系塗料などが使用できるが、塗膜の乾燥の早さの点から、紫外線硬化型塗料あるいは溶剤型塗料を使用することが好ましい。紫外線硬化型塗料としては、例えば、アクリル系、ポリエン−チオール系、カチオン重合性樹脂系のものなどが使用でき、溶剤型塗料としては、例えば、塩化ビニル系、アクリル系、ウレタン系のものなどが使用できる。
【0014】これら紫外線硬化型塗料または溶剤型塗料の塗布層の厚さは、前記したラミネートの場合と同様に、自己粘着性合成樹脂シートや印刷インクの種類、自己粘着性合成樹脂シートの用途などによって異なり、一概には決められないが、あまり薄すぎても表面保護の効果が発現せず、逆にあまり厚すぎると、塗布された合成樹脂層にひび割れが発生し易くなるとともに、コストアップを招来するため、本発明では、単層で塗布する場合も、複数層で塗布する場合も、合計で0.5〜20μm程度とすることが好ましい。
【0015】前述の合成樹脂フィルムをラミネートする手法としては、例えば、予め、接着剤層または粘着剤層が設けられた合成樹脂フィルムの、該接着剤層面または粘着剤層面と、自己粘着性合成樹脂シートの印刷が施された面とを重ね合わせ、圧着する方法などが採用できる。また、上述の紫外線硬化型塗料または溶剤型塗料の塗布手法としては、通常のロールコーター法などが利用でき、特に制限はない。
【0016】以上のようにして表面保護層が形成される本発明の自己粘着性合成樹脂シートとしては、前述した従来の塩化ビニル系樹脂にDOP、DBP、C7,C9,C11混合フタル酸エステルなどの可塑剤を多量に配合したものの外に、先に出願した本発明者らによる自己粘着性塩化ビニル系樹脂シートや自己粘着性オレフィン系樹脂シートを挙げることができる。
【0017】
【作用】本発明では、自己粘着性合成樹脂シートの表面に形成された保護層が、該シートの表面強度を向上させる。このため、本発明の自己粘着性合成樹脂シートは、表面の耐スクラッチ性、耐クラック性などに優れたものとなる。また、上記の表面保護層は、自己粘着性合成樹脂シートに、優れた防汚性を付与するとともに、万一、汚れが付着した場合には、この汚れの高い除去性をも付与する。これらのために、本発明の自己粘着性合成樹脂シートは、頻繁な貼り替えによる使用が行われても、表面状態を良好に維持することができる。
【0018】さらに、上記の表面保護層は、高い柔軟性を有する故に、極く高温あるいは極く低温雰囲気に長時間曝される際の形状維持が懸念される自己粘着性合成樹脂シートの保形作用をも発現し、長期間にわたって良好な形状を維持することができる。
【0019】
【実施例】
実施例1〔自己粘着性塩化ビニル樹脂シートの調製例〕表1に示す組成の配合物をバンバリーミキサーで混練し、次いで最終ロール温度175℃のカレンダーで厚み0.2mmの自己粘着性塩化ビニル樹脂シートを形成した。以下、この自己粘着性塩化ビニル樹脂シートを、「シートS1」と呼ぶ。
【0020】
【表1】


【0021】また、上記のシートS1に、紫外線硬化型インクを使用して、適宜の文字、数値、記号、文様をオフセット印刷によって印刷した。以下、この印刷済みの自己粘着性塩化ビニル樹脂シートを、「印刷シートS2」と呼ぶ。
【0022】〔表面保護層の形成例1〕上記のシートS1の表面全面に、予めアクリル系粘着剤を塗布した厚さ20μmのポリプロピレンフィルムをラミネートし、表面保護層を形成した。以下、この表面保護層の形成されたシートS1を「シートS1′」と呼ぶ。また、上記の印刷シートS2の表面全面(すなわち、印刷インク面と該印刷インク面から露出しているシート面のこと、以下同じ)に、予めアクリル系粘着剤を塗布した厚さ20μmのポリプロピレンフィルムをラミネートし、表面保護層を形成した。以下、この表面保護層の形成された印刷シートS2′を「印刷シートS2′」と呼ぶ。
【0023】〔表面保護層の形成例2〕アクリル系紫外線硬化型塗料を、シートS1および印刷シートS2のそれぞれの表面全面に、ロールコーター法で、厚さ5μmにて塗布した後、紫外線照射して表面保護層を形成した。以下、これらの表面保護層の形成されたシートS1および印刷シートS2を、それぞれ「シートS1″」および「印刷シートS2″」と呼ぶ。
【0024】〔表面強度などの評価試験例〕
(1)上記の表面保護層の形成例1および2で得られたシートS1′、印刷シートS2′、シートS1″、印刷シートS2″のそれぞれの表面保護層について、学振型染色堅牢度試験機により10往復させたときの状態を観察したところ、いずれのシートの表面保護層にも擦過傷は一切発生していなかった。比較のために、表面保護層を形成していないシートS1および印刷シートS2についも、同様の擦過試験を行ったところ、表面に多数の微細な擦過傷が生じていた。特に、印刷シートS2では、印刷インクの剥落も見られた。
(2)また、シートS1′、印刷シートS2′、シートS1″、印刷シートS2″のそれぞれの表面保護層に、モーターに使用されていて暗褐色に汚染されていたグリースを塗り付け、24時間放置後に、このグリースをウエスで拭ったところ、いずれのシートの表面保護層からもグリースを略完全に払拭することができた。比較のために、表面保護層を形成していないシートS1および印刷シートS2についも、同様の汚れ試験を行ったところ、特に、印刷シートS2の印刷インク面では、グリースの完全な払拭はできず、グリースによる汚れが残存しているのが確認された。
(3)上記(1)および(2)の評価試験後のシートの裏面を、ガラス板面に貼着させたところ、いずれのシートも良好に貼着することができ、しかもこれらのシートの端部から捲り剥がしたところ、いずれのシートも容易に剥離することができた。
【0025】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、ベースの自己粘着性合成樹脂シートの自己粘着性を全く阻害することなく、擦過などの機械的刺激に対する優れた抵抗性や、油などの化学的刺激に対する優れた抵抗性を有する表面保護層を備えた自己粘着性合成樹脂シートを提供することができる。したがって、本発明は、頻繁に貼り替える必要のある故に、機械的、化学的な表面保護の必要性の高いポスターやラベルなどの使用に極めて適した自己粘着性合成樹脂シートを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 自己粘着性合成樹脂シートに直接および/または該シートに施された印刷面上に表面保護層が形成されてなることを特徴とする自己粘着性合成樹脂シート。
【請求項2】 表面保護層が、合成樹脂フィルムがラミネートされてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の自己粘着性合成樹脂シート。
【請求項3】 表面保護層が、紫外線硬化型塗料または溶剤型塗料が塗布されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の自己粘着性合成樹脂シート。

【公開番号】特開平6−134935
【公開日】平成6年(1994)5月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−352761
【出願日】平成4年(1992)10月27日
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)