説明

自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法

【課題】ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー鎖の光学的異方性を変化、または増大させる自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法を提供する。
【解決手段】ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー膜の可逆的制御方法であって、溶媒を用いて濃厚な溶液をスピンコートして製膜すること、またはポリマー膜に対して、溶媒蒸気との接触、熱、光、磁場、及び電場からなる群から選択される刺激の少なくとも1つを付与することにより、膜中に高次の規則構造を誘起させ、膜の光学的異方性を変化および/または増大させる自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマーの可逆的制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアセチレン類はドーピングすることで優れた導電性を示すことが知られているが、ポリマー主鎖の二重結合を介してシス形・トランス形の異性体が存在し、熱、圧力、電磁波、光、放射線または磁場などの刺激によりシス−トランス異性化を生じて吸収スペクトルが変化することや色彩が変化することも知られている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1及び2参照)。このような性質を利用して、ポリアセチレン類は導電性材料、可変色材料、非線形光学材料、磁性材料、感圧材料などの様々な用途に用いられる。
【0003】
また、安定ならせん構造を有するポリアセチレン置換体について近年研究が進んでおり、ポリアセチレン置換体の構造中に不斉炭素を導入して旋光性を付与した光学活性ポリアセチレン置換体は、らせんが一定方向に規則正しく巻かれており、しかも上記のように熱などの刺激によってらせんの巻き方向の反転やらせんの巻き数の増幅などらせん構造の変化を制御できることが知られている(例えば、非特許文献3、特許文献4参照)。
【0004】
しかし、従来、溶液中における光学活性ポリアセチレン類の色変化およびらせん反転が報告されているものの、固体状態や膜状態では分子の動きが抑制されるため色変化はしても外部刺激により新たならせん構造の形成やらせんの巻き方向の制御を行うことはできなかった。
配向膜はエレクトロニクス材料、光学材料等に有用であり、ポリシラン配向膜などが知られている(例えば特許文献5、非特許文献4参照)。
しかし、近年、光学デバイス、光学メモリ、光学分割剤として、より旋光度や円偏光に二色性の大きな材料がもと求められるようになってきた。
【特許文献1】特開2004−161835号公報
【特許文献2】特開2004−256690号公報
【特許文献3】特開2004−300394号公報
【特許文献4】特開2004−155929号公報
【特許文献5】特許第2535780号明細書
【非特許文献1】「高分子加工」,2001年,第50巻,第5号,p.221−223
【非特許文献2】「Macromolecule」,2001年,第34巻,第11号,p.3776−3782
【非特許文献3】「J.Am.Chem.Soc.」,2001年,第123巻,p.8159−8160
【非特許文献4】「Polymer」,1999年,第40巻,p.5857
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー鎖の光学的異方性を変化、または増大させる自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法、および光学的異方性を大きい自己組織化ポリマー膜の製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、製膜方法の選択、あるいは溶媒蒸気との接触、熱、光、磁場、電場等の外的負荷により、ラセン構造ポリマー膜の旋光度、円偏光二色性等の光学的異方性を増大させうることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー膜の可逆的制御方法であって、溶媒を用いて濃厚な溶液から製膜すること、またはポリマー膜に対して溶媒蒸気との接触、熱、光、磁場、及び電場からなる群から選択される刺激の少なくとも1つを付与することにより、膜中に高次の規則構造を誘起させ、膜の光学的異方性を変化および/または増大させる自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法、
(2)ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー膜の可逆的制御方法であって、溶媒を用いて濃厚な溶液から製膜すること、またはポリマー膜に対して溶媒蒸気との接触させることにより、膜中に高次の規則構造を誘起させ、膜の光学的異方性を変化および/または増大させる自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法、
(3)前記ポリマー膜が一般式(1)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする(1)または(2)に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法、
【0008】
【化5】

【0009】
(式中、nは10以上の整数、Rは1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
(4)前記ポリマー膜が一般式(2)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1または2記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法、
【0010】
【化6】

【0011】
(式中、nは10以上の整数であり、X1、X2およびX3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、X1、X2およびX3のうち少なくともひとつは、1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
(5)前記ポリマー膜が一般式(3)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1または2に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法、
【0012】
【化7】

【0013】
(式中、nは10以上の整数、Rは1つ以上の光学活性炭素を有する基を表し、R´は芳香族または脂肪族炭化水素基を表す。)
(6)前記ポリマー膜が一般式(4)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1または2に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法、
【0014】
【化8】

【0015】
(式中、nは10以上の整数であり、X1、X2、X及びXはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、X1及びX2のうち少なくともひとつは、1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
(7)前記光学的異方性が膜の旋光度または円偏光二色性であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
及び
(8)ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー膜の製膜方法であって、溶媒を用いて濃厚な溶液から製膜し、膜中に高次の規則構造を誘起させることを特徴とする自己組織化ポリマー膜の製膜方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、光学デバイス、光メモリ、光学分割剤等の用途に有利な膜の旋光度、円偏光二色性等の光学的異方性が大きいポリマー膜の製膜方法、および膜の旋光度、円偏光二色性等の光学的異方性を変化および/または増大させる、可逆的制御方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の可逆的制御方法は、ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有する自己組織化ポリマー膜に対して、製膜条件または外的刺激の負荷により、膜中に高次の規則構造を誘起させ、膜の光学的異方性を可逆的に変化および/または増大させるものである。
【0018】
本発明において「自己組織化ポリマー」とは外部刺激により分子の高次構造を自ら変化させることが可能であるポリマーをいう。
本発明において「膜の光学的異方性」とは円偏光に対する吸光度が左右で異なることをいい、例えば、膜の旋光度および円偏光二色性が挙げられる。ここで、旋光度とは、光学活性体が直線偏光の向きを右ないし左に回転させる角度をいい、円偏光二色性とは、旋光性物質の中を円偏光が通過する際左回りと右回りの吸収が異なる現象をいう。
本発明において「高次の規則構造」とは分子鎖同士が規則正しく並んだ構造のことをいう。また、膜中に高次の規則構造が誘起されたことは、X線散乱を測定することで確認される。高次の規則構造とは、2次以上の規則構造をいう。
本発明において「光学活性炭素」とはキラリティを有する炭素のことをいい、好ましくは不斉炭素原子である。
【0019】
本発明において、「らせん構造」とは、前記ポリマー鎖が、下記数値範囲のらせん直径、らせんピッチ及びらせん持続長を有するものをいう。
前記ポリマー分子鎖の前記らせん直径は50nm以下であり、0.1〜50nmであることが好ましく、0.5〜10nmであることがより好ましい。
前記ポリマー分子鎖の前記らせんピッチは50nm以下であり、0.1〜50nmであることが好ましく、0.5〜10nmであることがより好ましい。
前記ポリマー分子鎖の前記らせん持続長は10nm以上であり、50nm以上であることが好ましく、50nm〜500nmであることがより好ましい。
【0020】
本発明において、「らせん方向」とは、右巻き方向又は左巻き方向のいずれかをいう。「らせん方向を変化させる」とは、右巻き方向から左巻き方向に、又は左巻き方向を右巻き方向に変化させることをいう。円偏光二色性の数値は膜厚や分子のパッキング状態により変化するが、例えば可視部の極大吸光度が1程度の膜を用いた一方巻きらせんの場合、円偏光二色性の数値範囲は1〜500mdeg、好ましくは、5〜100mdegであり、逆巻きらせんの場合、−1〜−500mdeg、好ましくは、−5〜−100mdegである。また、本発明において、円偏光二色性を増大させる場合には、その数値を好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは1.5〜10倍に増大させるものである。
本発明において、「らせんピッチ」とは、ポリマーらせんが1回転したときの両ユニット間の距離をいう。前記らせんピッチを変化させる具体例としては、例えば、1.8nmから2.5nmに変化させること、2.5nmから1.8nmに変化させること等が挙げられる。らせんピッチの変化は電子顕微鏡等による直接観察により測定できる。
【0021】
本発明において、「結晶構造」とは、一定のらせん軸間距離を有するカラムナー構造等の高次構造をいう。前記結晶構造を変化させる具体例としては、例えば、アモルファス構造からカラムナー構造に変化させること、カラムナー構造からアモルファス構造に変化させること等が挙げられる。結晶構造の変化は広角X線散乱により測定できる。
本発明において、「ポリマーの分子配向」とは、分子のらせん軸が一定の方向を有する構造をいう。前記ポリマーの分子配向を変化させる具体例としては、例えば、無配向から一軸配向に変化させること、一軸配向から無配向に変化させること等が挙げられる。ポリマーの分子配向の変化は、偏光UVスペクトルにおいて、無配向は吸収が膜の向きにかかわらず一定で二色比が1として、一軸配向は延伸方向の偏光の吸収が大きくなとともにこれと垂直方向の偏光の吸収は小さくなり、二色比の増大として測定される。
【0022】
前記外的負荷としては、溶媒蒸気との接触、熱、光、磁場、電場等の刺激が挙げられ、溶媒との接触が好ましい。
前記刺激の各々の具体的処理条件は特に制限はないが、例えば下記のような条件が挙げられる。
「溶媒蒸気との接触」については、例えば、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン等の任意の溶媒の蒸気を適宜選択した温度、時間条件にて前記ポリマー分子鎖がらせん構造を有するポリマー膜を処理することができる。
「熱」処理については、加熱温度を、好ましくは60〜200℃、より好ましくは100〜150℃とし、加熱時間を、好ましくは1〜60分、より好ましくは3〜30分とする加熱処理が挙げられる。
「光」処理については、例えば、100mJ/1平方cm〜100000mJ/1平方cm、好ましくは500mJ/1平方cm〜10000mJ/1平方cmの光量にて前記ポリマー分子鎖がらせん構造を有するポリマー膜を処理することが挙げられる。
「磁場」処理については、例えば、0.1T〜10T、好ましくは1T〜10Tにて前記ポリマー分子鎖がらせん構造を有するポリマー膜を処理することが挙げられる。
「電場」処理については、例えば、0.01MV/cm〜10MV/cm、好ましくは0.1MV/cm〜1MV/cmにて前記ポリマー分子鎖がらせん構造を有するポリマー膜を処理することが挙げられる。
【0023】
前記外的負荷を付与することにより、ポリマーの共役状態は、例えば、吸収極大が400nmから500nmへ変化させることができたり、500nmから400nmへ変化させることができる。
前記光学的異方性は、例えば、ポリマー膜の色が黄色から赤色へ変化させることができたり、旋光度が正から負へ変化させることができる。例えば、膜の旋光度が正から負へ変化すること、または負から正へ変化することは、膜の旋光性が変化し、逆転することを意味する。また、本発明において、膜の旋光性が増大するとは、旋光度及び/又は円偏光二色性が増大することをいう。「旋光度が増大する」とは旋光度及び/又は円偏光二色性が5倍以上大きくなることをいう。
【0024】
本発明における自己組織化ポリマー膜は、ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマーに、前記刺激の少なくとも1つを付与して、前記ポリマー鎖の膜の旋光度及び/又は円偏光二色性を可逆的に制御しうることが好ましい。
本発明の方法で製膜もしくは制御された自己組織化ポリマー膜は、粒子、微粒子、粉体及び/又は基板を備える膜に等に適宜調製し、用いことができる。
本発明の方法で制御された自己組織化ポリマー膜は、各種電子・光学デバイスとして使用することができる。
前記電子・光学デバイスの具体例としては、光学メモリ素子、分子メモリ素子等が挙げられる。
【0025】
次に、前記可逆的制御方法に好ましく用いられる、「ポリマー鎖がらせん構造を有する下記一般式(1)で表されるポリマー」について説明する。
【0026】
【化9】

【0027】
(式中、nは10以上の整数、Rは1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
本発明に用いられる化合物において、特定の部分を「基」と称した場合には、当該部分は基自体が置換されていなくても、一種以上の(可能な最多数までの)置換基で置換されていても良いことを意味する。例えば、「アルキル基」とは置換または無置換のアルキル基を意味する。また、本発明における基が有してもよい「置換基」は、例えばフェニル基、アルキル基、エステル基、アミド基を挙げることができ、フェニル基、エステル基が好ましい。
【0028】
1つ以上の光学活性炭素を有する基上に置換する基としては特に制限は無いが、例えばアルキル基、フェニル基、アミド基、カルボニル基、水酸基等が例として挙げられる。好ましくは、アルキル基、フェニル基、アミド基である。
【0029】
上記の基の中で水素原子を有するものは、これを取り去りさらに置換基で置換されていてもよい。そのような複合置換基の例としては、エーテル基、エステル基等が挙げられる。
【0030】
前記一般式(1)で表されるポリマーの重合度nはポリマーの重合度を表し、10以上の整数である。好ましくは10〜10000であり、より好ましくは20〜500である。
また、前記一般式(1)で表されるポリマーの数平均分子量は1000〜1000000が好ましく、10000〜100000がより好ましい。
一般式(1)で表されるポリマーは、一般式(3)で表されるものであってもよい。
【0031】
【化10】

【0032】
(式中、nは10以上の整数、Rは1つ以上の光学活性炭素を有する基を表し、R´は芳香族または脂肪族炭化水素基を表す。)
R’が示す芳香族基の例としては、炭素数が好ましくは4〜20、より好ましくは6〜14のものであり、具体的にはフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基が挙げられる。脂肪族炭化水素の例としては炭素数が好ましくは1〜18、より好ましくは1〜10のものであり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、2−エチルヘキシル基が挙げられる。
この芳香族基または脂肪族炭化水素基は、前記のような光学活性を有していてもよい。
また、一般式(1)で表されるポリマーは一般式(2)で表されるポリマーであることが好ましい。
【0033】
【化11】

【0034】
(式中、nは10以上の整数であり、X、XおよびXはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、X、XおよびXのうち少なくとも1つは、1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
【0035】
本発明において、X、XおよびXのうち少なくとも1つは光学活性炭素を有する基であるのが好ましい。
、XおよびXのうち少なくとも1つが光学活性炭素を有する基であり、かつそのX1、X2およびX3の組み合わせとして、X1が水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子、X2がアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基又はアミノ基、X3が水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子の場合が好ましく、X1が水素原子、アルキル基又はハロゲン原子、X2が光学活性アルキル基又は光学活性アルコキシ基、X3が水素原子、アルキル基又はハロゲン原子の場合がより好ましく、X1及びX3が水素原子であり、X2が光学活性アルコキシ基である場合が特に好ましい。
【0036】
前記光学活性炭素を有する基が、1つ以上の不斉炭素を有し、かつ該不斉炭素にOH基が置換した炭素数2以上のアルキル基又はアルコキシル基であることが特に好ましい。
【0037】
前記光学活性アルキル基とは、炭素数2〜10の直鎖または分岐のアルキル基であって、1つ以上の不斉炭素を含みかつ該不斉炭素にOH基が置換したものを表す。炭素数が4〜8のものが好ましい。具体例としては、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、1−ヒドロキシ−1−メチルプロピル基、1−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基、2−ヒドロキシペンチル基、2−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシへプチル基、2−ヒドロキシオクチル基、2−ヒドロキシノニル基、2−ヒドロキシデシル基等が挙げられ、特に好ましくは、2−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシへプチル基、2−ヒドロキシオクチル基である。
【0038】
前記光学活性アルコキシ基とは、炭素数2〜10の直鎖または分岐のアルコキシ基であって、1つ以上の不斉炭素を含みかつ該不斉炭素にOH基が置換したものを表す。炭素数が4〜8のものが好ましい。具体例としては、1−ヒドロキシエトキシ基、2−ヒドロキシプロポキシ基、2−ヒドロキシブトキシ基、1−ヒドロキシ−1−メチルプロポキシ基、1−ヒドロキシ−2−メチルプロポキシ基、2−ヒドロキシペンチルオキシ基、2−ヒドロキシヘキシルオキシ基、2−ヒドロキシへプチルオキシ基、2−ヒドロキシオクチルオキシ基、2−ヒドロキシノニルオキシ基、2−ヒドロキシデシルオキシ基等が挙げられ、特に好ましくは、2−ヒドロキシヘキシルオキシ基、2−ヒドロキシへプチルオキシ基、2−ヒドロキシオクチルオキシ基である。
【0039】
また、X1とX2又はX2とX3が連結して、環(芳香族または非芳香族の、炭化水素環または複素環。これらはさらに組み合わされて多環縮合環を形成することができる。例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、キノリン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、キノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、フェナジン環、が挙げられる。)構造をとることもできる。
また、一般式(2)で表される化合物としては、下記一般式(4)で表されるものであってもよい。
【0040】
【化12】

【0041】
(X及びXは、一般式(2)におけると同義であり、好ましいものも同様である。X及びXは水素原子または置換基であり、好ましくは水素原子である。)
前記一般式(2)で表されるポリマーは、前記一般式(7)で表されるアセチレン置換体モノマーを重合することにより製造できる。
置換アセチレンモノマーの製造方法は特に限定されないが、例えばR.D’Amato,T.Sone,M.Tabata,M.V.Russo,A.Fdurlaniらによる「Macromolecules」,Vol.31,p.8660(1998)に記載の方法により得ることができる。
【0042】
本発明に用いられるポリマーを製造する重合反応は、ロジウム錯体触媒の存在下で行うことが好ましい。ロジウム錯体触媒を用いることにより、ポリマー主鎖の共役二重結合がすべてシス形に制御された立体規則性ポリマーを生成することができる。また、式(3)、(4)のポリマーについてはニオブ、タンタル等5族遷移金属触媒の存在下で行うことが好ましい。
ロジウム錯体触媒としては特に限定されないが、[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2、[Rh(シクロオクタジエン)Cl]2、[Rh(ビス−シクロオクテン)Cl]2等のジエンおよびモノエン配位子を有するロジウム錯体触媒が挙げられ、特に[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2が好ましく用いられる。
本発明に用いられるポリマーの製造方法においては、ロジウム錯体触媒として[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2を用い、かつ助触媒としてトリエチルアミンを用いることが好ましい。
ニオブ、タンタル錯体触媒としては特に限定されないが、NbCl5、NbBr5、TaCl5、TaBr5等のハロゲン化物触媒が挙げられ、特にTaCl5が好ましく用いられる。
本発明に用いられるポリマーの製造方法においては、タンタル錯体触媒としてTaCl5を用い、かつ助触媒としてトリエチルシランを用いることが好ましい。
【0043】
また、上記の反応において、溶媒としては、ヘキサン、トルエン、クロロホルム等の非極性有機溶媒や、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アルコール類(メタノール、エタノール等)等の極性有機溶媒が挙げられる。
【0044】
本発明に用いられるポリマーは、下記一般式(5)で表され、ポリマー鎖が規則的ならせん構造を有することが好ましい。
【0045】
【化13】

【0046】
式中、R”は、1つ以上の不斉炭素を含みかつ該不斉炭素にOH基が置換した、炭素数2〜10のアルキル基又はアルコキシ基を表す。不斉炭素の数は1〜3個が好ましいが、立体制御の観点から1個が特に好ましい。
【0047】
また、nが10〜10000でR”がフェノキシ酸素を有する基であることも好ましい。この化合物は、例えば、[Rh(ノルボルナジエン)Cl]触媒を用いることにより合成することができる。
本発明に用いられるポリマーは、前記不斉炭素にOH基を置換することで、水素結合によりらせん構造を安定化できると考えられる。
【0048】
R”で表されるアルキル基とは、炭素数2〜10の直鎖または分岐のアルキル基であって、1つ以上の不斉炭素を含みかつ該不斉炭素にOH基が置換したものを表す。炭素数が4〜8のものが好ましい。具体例としては、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、1−ヒドロキシ−1−メチルプロピル基、1−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基、2−ヒドロキシペンチル基、2−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシへプチル基、2−ヒドロキシオクチル基、2−ヒドロキシノニル基、2−ヒドロキシデシル基等が挙げられ、特に好ましくは、2−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシへプチル基、2−ヒドロキシオクチル基である。
あるいは、フェノキシ酸素を含む基であってもよい。
【0049】
R”で表されるアルコキシ基とは、炭素数2〜10の直鎖または分岐のアルコキシ基であって、1つ以上の不斉炭素を含みかつ該不斉炭素にOH基が置換したものを表す。炭素数が4〜8のものが好ましい。具体例としては、1−ヒドロキシエトキシ基、2−ヒドロキシプロポキシ基、2−ヒドロキシブトキシ基、1−ヒドロキシ−1−メチルプロポキシ基、1−ヒドロキシ−2−メチルプロポキシ基、2−ヒドロキシペンチルオキシ基、2−ヒドロキシヘキシルオキシ基、2−ヒドロキシへプチルオキシ基、2−ヒドロキシオクチルオキシ基、2−ヒドロキシノニルオキシ基、2−ヒドロキシデシルオキシ基等が挙げられ、特に好ましくは、2−ヒドロキシヘキシルオキシ基、2−ヒドロキシへプチルオキシ基、2−ヒドロキシオクチルオキシ基である。
【0050】
nはポリマーの重合度を表し、10以上の整数である。好ましくは10〜10000であり、より好ましくは20〜500である。
【0051】
本発明に用いられるポリマーは光学活性を有しており、旋光性を示す。本発明のポリマーはS異性体およびR異性体のいずれであってもよいがラセミ混合物ではない。
本発明に用いられるポリマーの数平均分子量は1000〜1000000が好ましく、4000〜100000がより好ましい。
【0052】
つぎに、本発明に用いられるポリマーの製造方法について説明する。
前記一般式(2)で表されるポリマーは、下記一般式(6)で表されるアセチレン化合物を重合することにより製造できる。
【0053】
【化14】

【0054】
式中、X1、X2およびX3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、X1、X2およびX3のうち少なくともひとつは、1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。X1、X2およびX3は前記一般式(2)におけるX1、X2およびX3と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0055】
また、前記一般式(5)で表される光学活性ポリマーは、下記一般式(7)で表されるアセチレン化合物を重合することにより製造できる。
【0056】
【化15】

【0057】
式中、R”は前記一般式(5)におけるR”と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0058】
前記一般式(6)または(7)で表される置換アセチレンモノマーの製造方法は特に限定されないが、例えばR.D’Amato,T.Sone,M.Tabata,M.V.Russo,A.Fdurlaniらによる「Macromolecules」,Vol.31,p.8660(1998)に記載の方法により得ることができる。
【0059】
本発明に用いられるポリマーを製造する重合反応は、ロジウム錯体触媒の存在下で行うことが好ましい。ロジウム錯体触媒を用いることにより、ポリマー主鎖の共役二重結合がすべてシス形に制御された立体規則的なポリマーを生成することができる。
ロジウム錯体触媒としては特に限定されないが、[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2、[Rh(シクロオクタジエン)Cl]2、[Rh(ビス−シクロオクテン)Cl]2等のジエンおよびモノエン配位子を有するロジウム錯体触媒が挙げられ、特に[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2が好ましく用いられる。また、助触媒としてアルキルアミン類を用いることが好ましく、例えばジエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチルアミン等が用いられる。
本発明に用いられるポリマーの製造方法においては、ロジウム錯体触媒として[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2を用い、かつ助触媒としてトリエチルアミンを用いることが好ましい。
【0060】
また、上記の製造方法において、溶媒としては、ヘキサン、トルエン、クロロホルム等の非極性有機溶媒や、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アルコール類(メタノール、エタノール等)等の極性有機溶媒が挙げられる。
【0061】
本発明においては、ポリマー膜の製膜方法の選択により、膜中の高次の規則構造を誘起させても良い。また、ポリマー膜の製膜方法の選択と溶媒蒸気との接触、熱、光、磁場、及び電場からなる群から選択される刺激の少なくとも1つの付与を組み合わせて用いても良い。ポリマー膜の製膜方法の選択と溶媒蒸気との接触との組み合わせが好ましい。
【0062】
本発明におけるポリマー膜の製造方法について説明する。
該ポリマー膜は、上記のポリマーを溶媒に溶解させた濃厚な溶液を、例えば、ガラス等の上にスピンコートして製膜することにより、膜中に高次の規則構造を誘起させることで形成することができる。
溶媒としては、好ましくはクロロホルム等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、ジエチルアミン等のアミン系溶媒、メタノール等のアルコール系溶媒、トルエン等の芳香族系溶媒から選択される1種または2種以上の溶媒が用いられ、より好ましくはクロロホルム、テトラヒドロフラン、ジエチルアミンであり、さらに好ましくはクロロホルムである。
また、本発明において、ポリマーの濃厚な溶液とは、置換基により異なるが、ポリマー濃度が好ましくは0.5〜10質量%であり、0.5〜5質量%がより好ましく、4質量%程度がさらに好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。
【0063】
例えば、ポリマーがポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール]であり、溶媒がクロロホルムである場合には、ポリマーの濃度は1〜5質量%が好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。
また、ポリマーがポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート]であり、溶媒がクロロホルムである場合には、ポリマーの濃度は0.5〜5質量%が好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
【0064】
スピンコートの条件は、目的とする高次の規則構造を膜中に誘起させることができるものであれば特に限定されるものではないが、回転数は500〜10000rpmであることが好ましく、1000〜2000rpmであることがさらに好ましい。
また、スピンコート後の乾燥条件も、目的とする高次の規則構造を膜中に誘起させることができるものであれば特に限定されるものではないが、温度30〜60℃で、1〜24時間であることが好ましく、温度40〜50℃で、1〜3時間であることがさらに好ましい。
製膜方法は、膜中に高次の規則構造を誘起させるものであれば、スピンコートに限定されるものではなく、例えば通常のキャスト法であってもよい。
ポリマー膜の膜厚は、0.01μm〜1mmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。
【0065】
本発明におけるポリマー膜は、溶媒蒸気との接触、加熱、光照射、磁場印加、または電場印加、好ましくは溶媒蒸気との接触させることにより、色彩および共役状態が変化し、並びにらせん構造が変化および/または新たならせん構造を形成することが好ましい。また、溶媒蒸気と接触させることで新たに形成されるらせんの向きを制御することができる。共役状態がどのように変化しているかは未だ定かではないが、ポリマー主鎖における単結合の立体構造または高次構造の変化が生じると考えられている。この共役状態の変化は色彩変化を誘起し、電気的・電子的性質の変化をも誘起する。
【0066】
上記の処理において用いられる溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;クロロホルム、ジクロロメタン等の含塩素溶媒などの有機溶媒が挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。
上記有機溶媒の蒸気を本発明のポリマーに接触させる際の条件は、常圧下又は減圧下で0〜50℃の雰囲気で行うことが好ましい。接触時間は10〜90分が好ましい。蒸気温度は、10〜30℃が好ましい。
【0067】
また、加熱、光照射、磁場印加、または電場印加の各処理における好ましい処理条件については上記のポリマー分子鎖がらせん構造を有するポリマー膜の処理条件で挙げられた条件が挙げられる。
【0068】
本発明のポリマー分子よりなる自己組織化ポリマー膜は、上記の刺激により吸収のピークトップが400〜550nmの範囲で一意的かつ任意に制御可能であることが好ましい。
本発明において、一意的かつ任意にとは、加熱温度等の刺激の種類により吸収のピークトップが制御可能であることを意味する。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
実施例1
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量30000)のクロロホルム溶液(4質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.6μm)。この時の吸光度は1.08であった。得られた膜の吸収スペクトルは350nm付近に吸収極大を示し、溶液中と同様のスペクトルの形を示した。CDスペクトルにおいては320nm付近に負、360nm付近に正、430nm付近に正、470nm付近に負のピークが観測された。320nmのピークは−390mdegであった。ORDスペクトルにおいては340nm付近に負、410nm付近に負、450nm付近に正のピークが観測された。340nmのピークは−430mdegであった。広角X線散乱では28Å付近に鋭いピークが現れ、分子間の規則構造が確認された。
【0071】
実施例2
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量20000)のクロロホルム溶液(4質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.6μm)。得られた膜に金蒸着を施し、これを走査電子顕微鏡により10000倍で観察したところ膜の表面に筋状の模様が観察され、高次(3次)の規則構造の存在が示唆された。
【0072】
実施例3
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量20000)の1μg/mLのクロロホルム溶液をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させた。これに金蒸着を施して走査電子顕微鏡により100000倍で観察したところ長さ約600nm、幅約80nmの棒状ポリマーが多数観測され、高次(3次)の規則構造の存在が示唆された。
【0073】
実施例4
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)のクロロホルム溶液(1質量%)を石英基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、無色のポリマー膜を作製した(膜厚0.4μm)。得られた膜の吸収スペクトルは230nm付近に吸収極大を示し、溶液中と同様のスペクトルの形を示した。この時の吸光度は0.5であった。得られた膜のCDスペクトルにおいては220nm付近に正、240nm付近に負、280nm付近に正、320nm付近に負のピークが観測された。240nmのピークは−190mdegであった。ORDスペクトルにおいては250nm付近に負、300nm付近に正のピークが観測された。250nmのピークは−230mdegであった。広角X線散乱では15Å付近に鋭いピークが現れ、分子間の規則構造が確認された。
【0074】
実施例5
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)のクロロホルム溶液(4質量%)を石英基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、無色のポリマー膜を作製した(膜厚0.4μm)。得られた膜に金蒸着を施し、これを走査電子顕微鏡により10000倍で観察したところ膜の表面に筋状の模様が観察され、高次(3次)の規則構造の存在が示唆された。
【0075】
実施例6
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)の1μg/mLのテトラヒドロフラン溶液を石英基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させた。これに金蒸着を施して走査電子顕微鏡により100000倍で観察したところ長さ約500nm、幅約40nmの棒状ポリマーが観測され、高次(3次)の規則構造の存在が示唆された。
【0076】
実施例7
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)のテトラヒドロフラン溶液(3質量%)を石英基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、無色のポリマー膜を作製した(膜厚0.4μm)。得られた膜のCDスペクトルにおいては240nm付近に負、290nm付近に正のピークが観測された。240nmのピークは−250mdegであった。これを25℃常圧でジエチルアミンの蒸気に10分間接触させると、吸光度は変化せずに240nmのピークは−1000mdegに増大した。
【0077】
実施例8
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量50000)のクロロホルム溶液(4質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.9μm)。この時の吸光度は1.8であった。得られた膜の吸収スペクトルは350nm付近に吸収極大を示し、溶液中と同様のスペクトルの形を示した。ORDスペクトルにおいては340nm付近に負、410nm付近に負、450nm付近に正のピークが観測された。340nmのピークは−1200mdegであった。これを25℃常圧でジエチルアミンの蒸気に10分間接触させると、吸光度は変化せずに330nm付近に正、400nm付近に負のピークが観測され、スペクトルは大きく変化した。330nmのピークは140mdegとなり、その絶対値は大きく減少した。実施例1,8より光学的異方性の可逆的な変化が確認された。
【0078】
実施例9
ポリ[1−(4−((S)−2−メトキシオクチロキシ)フェニル)−2−フェニルアセチレン](数平均分子量50000)のクロロホルム溶液(2質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.4μm)。この時の吸収極大の吸光度は0.5であった。得られた膜の吸収スペクトルは420nm付近に吸収極大を示し、溶液中と同様のスペクトルの形を示した。CDスペクトルにおいては410nm付近に正のピークが観測された。410nmのピークは450mdegであった。これを25℃常圧でクロロホルムの蒸気に15分間接触させると、吸光度はほとんど変化せずに410nmのピークは1900mdegとなり、その絶対値は大きく増大した。
【0079】
実施例10
ポリ[1−(4−((S)−2−ヒドロキシオクチロキシ)フェニル)−2−フェニルアセチレン](数平均分子量30000)のクロロホルム溶液(4質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.6μm)。この時の吸収極大の吸光度は0.8であった。得られた膜の吸収スペクトルは440nm付近に吸収極大を示し、溶液中と同様のスペクトルの形を示した。CDスペクトルにおいては390nm付近に負のピークが観測された。390nmのピークは−50mdegであった。これを25℃常圧でジエチルアミンの蒸気に1分間接触させると、吸光度は変化せずに400nm付近に負、440nm付近に正のピークが観測され、スペクトルは大きく変化した。400nmのピークは−330mdegとなり、その絶対値は大きく増大した。
【0080】
実施例11
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量20000)のクロロホルム溶液(20質量%)を室温で静置し、これを偏光顕微鏡で観察したところ縞模様が観察されコレステリック液晶構造の形成が確認された。
【0081】
実施例12
ポリ[1−(4−((S)−2−ヒドロキシオクチロキシ)フェニル)−2−フェニルアセチレン](数平均分子量30000)のトルエン溶液(12質量%)を室温で静置し、これを偏光顕微鏡で観察したところ縞模様が観察されコレステリック液晶構造の形成が確認された。
【0082】
実施例13
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)のトルエン溶液(12質量%)を室温で静置し、これを偏光顕微鏡で観察したところ模様が観察され液晶構造の形成が確認された。
【0083】
比較例1
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量20000)のクロロホルム溶液(1質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.15μm)。得られた膜の吸収スペクトルでは350nm付近に吸収極大を示し、溶液中と同様のスペクトルの形を示した。この時の吸光度は0.25であった。CDスペクトルにおいては310nm付近に負、360nm付近に正、460nm付近に負のピークが観測された。310nmのピークは−27mdegであった。ORDスペクトルにおいては340nm付近に負、410nm付近に正のピークが観測された。340nmのピークは−22mdegであった。広角X線散乱ではピークは観測されなかった。
【0084】
比較例2
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量20000)のメタノール溶液(1質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.2μm)。得られた膜に金蒸着を施し、これを走査電子顕微鏡により10000倍で観察したところ膜の表面は平滑であった。
【0085】
比較例3
ポリ[(S)−1−(4−エチニルフェニル)−1−ドデカノール](数平均分子量20000)の1μg/mLのメタノール溶液をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させた。これに金蒸着を施して走査電子顕微鏡により100000倍で観察したところ直径10nmのポリマー粒子が観測された。
【0086】
比較例4
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)のクロロホルム溶液(0.5質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.08μm)。得られた膜の吸収スペクトルは230nm付近に吸収極大を示し、溶液中と同様のスペクトルの形を示した。この時の吸光度は0.1であった。CDスペクトルにおいては240nm付近に負、290nm付近に正のピークが観測された。240nmのピークは−14mdegであった。ORDスペクトルにおいては240nm付近に負のピークが観測された。240nmのピークは−37mdegであった。広角X線散乱ではピークは観測されなかった。
【0087】
比較例5
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)のクロロホルム溶液(0.5質量%)をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させて、黄色のポリマー膜を作製した(膜厚0.08μm)。得られた膜に金蒸着を施し、これを走査電子顕微鏡により10000倍で観察したところ膜の表面は平滑であった。
【0088】
比較例6
ポリ[N−プロパルギル−(S)−1−メチルヘキシルカルバメート](数平均分子量10000)の1μg/mLのクロロホルム溶液をガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、これを40℃、1時間乾燥させた。得られた膜に金蒸着を施して走査電子顕微鏡により10000倍で観察したところ直径10nmのポリマー粒子が観測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー膜の可逆的制御方法であって、溶媒を用いて濃厚な溶液から製膜すること、またはポリマー膜に対して溶媒蒸気との接触、熱、光、磁場、及び電場からなる群から選択される刺激の少なくとも1つを付与することにより、膜中に高次の規則構造を誘起させ、膜の光学的異方性を変化および/または増大させる自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
【請求項2】
ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー膜の可逆的制御方法であって、溶媒を用いて濃厚な溶液から製膜すること、またはポリマー膜に対して溶媒蒸気との接触させることにより、膜中に高次の規則構造を誘起させ、膜の光学的異方性を変化および/または増大させる自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
【請求項3】
前記ポリマー膜が一般式(1)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1または2に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
【化1】

(式中、nは10以上の整数、Rは1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
【請求項4】
前記ポリマー膜が一般式(2)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1または2記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
【化2】

(式中、nは10以上の整数であり、X1、X2およびX3はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、X1、X2およびX3のうち少なくともひとつは、1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
【請求項5】
前記ポリマー膜が一般式(3)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1または2に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
【化3】

(式中、nは10以上の整数、Rは1つ以上の光学活性炭素を有する基を表し、R´は芳香族または脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項6】
前記ポリマー膜が一般式(4)で表されるらせん構造を有するポリマーからなることを特徴とする請求項1または2に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
【化4】

(式中、nは10以上の整数であり、X1、X2、X及びXはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ただし、X1及びX2のうち少なくともひとつは、1つ以上の光学活性炭素を有する基を表す。)
【請求項7】
前記光学的異方性が膜の旋光度または円偏光二色性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の自己組織化ポリマー膜の可逆的制御方法。
【請求項8】
ポリマー分子鎖がらせん構造および光学活性を有するポリマー膜の製膜方法であって、溶媒を用いて濃厚な溶液から製膜し、膜中に高次の規則構造を誘起させることを特徴とする自己組織化ポリマー膜の製膜方法。