説明

自己組織化単分子膜形成用の化合物及びそれを用いた有機半導体素子

【課題】大気中での接触角の経時変化が少ない自己組織化単分子膜を基板表面に形成して、良好な特性を有する有機半導体層を再現性よく形成することを可能とする。
【解決手段】有機半導体層を形成する溶液に対する良好なぬれ性を基板表面に与える自己組織化単分子膜を形成するための化合物であって、下記の化学式(1)で表される構造を有する。ただし、化学式(1)中、n=1または8、R1はアルキル基、R2及びR3はそれぞれ水素、アルキル基またはアリール基から選ばれた一種であって、R2=R3=Hの場合を除く。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層が形成される基板表面に、ぬれ性を改善するための自己組織化単分子膜の形成に用いる化合物に関する。また、その化合物からなる自己組織化単分子膜を介在させて形成された有機半導体層を有する有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体は、近年ではアモルファスシリコンと同等の移動度を示す例も報告されており、有機半導体をチャネル層に用いた有機半導体素子、例えば有機電界効果トランジスタ(有機FET)は、優れた電気的特性を示す。しかも、有機半導体素子は、非常に高温の製造プロセスを必要とせず、低価格、低環境負荷の製造装置で簡単に製造できるという利点を有する。すなわち、有機半導体材料は、溶液からの塗布によって薄膜として形成可能であるため、無機半導体材料に比べ、簡単なプロセスで大面積の電子デバイス作製が可能である。
【0003】
有機半導体材料を溶液法で再現性よく塗布するためには、基板のぬれ性が大きく、安定していることが必須である。基板のぬれ性を良好にする手法の一つとして、自己組織化単分子膜(SAM)を基板上に化学吸着法で成膜し、その膜上に有機半導体材料を塗布する方法が知られている。SAMの作用により、有機半導体層の良好な結晶性の獲得や、水分子などの影響除去など、さまざまな効果が得られる。
【0004】
またSAMを成膜した上に有機半導体層を形成することにより、SAM分子の双極子モーメントの違いを利用して、有機半導体素子の性能の一つの指標である閾値電圧(Vth)の制御も可能となる。例えば、非特許文献1には、シリコン基板上にフッ素置換アルキルSAM(FSAM)や末端アミノアルキルSAM(NH2−SAM)を成膜し、その上に有機半導体層を蒸着することにより、閾値電圧を正方向および負方向にそれぞれシフトさせることが開示されている。また、特許文献1には、電子供与性および電子吸引性の官能基を有する有機シラン化合物を閾値制御層として、有機半導体層の閾値電圧を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−228968号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Materials 3、 317 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のようなNH2−SAM処理を施した基板は、接触角測定の結果から、大気中で膜安定性が低いことが判った。そのため、NH2−SAM処理を施した基板に有機半導体層を再現性よく成膜して、安定したトランジスタ性能を得ることが難しいという問題点がある。
【0008】
また、特許文献1における有機シラン化合物についての開示は、閾値電圧を制御する閾値制御層としての記載に限定されており、有機半導体層を再現性よく成膜するための基板表面処理の効果に関する記載はない。そのため、閾値制御層の大気中で膜安定性、すなわち接触角の経時変化を低減することに関する記載はない。
【0009】
従って本発明は、大気中での接触角の経時変化が少ないSAMを基板表面に形成して、良好な特性を有する有機半導体層を再現性よく形成することを可能とするSAM形成用の化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の自己組織化単分子膜形成用の化合物は、有機半導体層を形成する溶液に対する良好なぬれ性を基板表面に与える自己組織化単分子膜を形成するための化合物であって、下記の化学式(1)で表される構造を有する。ただし、化学式(1)中、n=1または8、R1はアルキル基、R2及びR3はそれぞれ水素、アルキル基またはアリール基から選ばれた一種であって、R2=R3=Hの場合を除く。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明の有機半導体素子は、基板上に自己組織化単分子膜を介して形成された有機半導体層を備え、前記自己組織化単分子膜が、上記化学式(1)で表わされる自己組織化単分子膜形成用の化合物の分子により形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のSAM形成用の化合物によれば、新規な末端アミノ基を有するSAMを形成することにより、大気中での接触角の経時変化を十分に少なくすることができる。それにより、良好な特性を有する有機半導体層を再現性よく形成することが可能であり、また、SAMによる有機半導体素子の閾値電圧の制御についても良好な特性を得ることができる。さらに、本発明の化合物の分子は気相法で容易に成膜可能なため、大面積基板上においても容易にSAMを形成して、有機半導体層を再現性良く作製することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態における有機FETの構造を示す断面図
【図2】同実施の形態における有機FET作製のためのSAMを成膜する方法の一例を示す断面図
【図3】同実施の形態におけるSAMのぬれ性について、経時変化を評価するために行った実験の結果を示すグラフ
【図4A】塗布法の一例により有機半導体層を作製する工程を示す斜視図
【図4B】同有機半導体層を作製する工程を示す断面図
【図5A】本発明の実施の形態における有機FETの伝達特性を示す図
【図5B】同有機FETの出力特性を示す図
【図6】同有機FETにおける閾値電圧の制御効果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の自己組織化単分子膜形成用の化合物は、上記化学式(1)において、R1=CH3またはC25であって、R2とR3が、
2=H、かつR3=CH3,C25,C613またはアリール基の組合せ、
2=R3=C25,C613またはアリール基、または
2=CH3,C25,C613またはアリール基、かつR3=CH3,C25,C613またはアリール基の組合せ(但し、R2≠R3)である化合物とすることができる。
【0016】
また、下記化学式(1−1)〜(1−4)のいずれかで表される化合物とすることができる。
【0017】
【化2】

【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施の形態)
[有機半導体素子の構造]
本発明の実施の形態における有機半導体素子について、図1を参照して説明する。図1に示す半導体素子は、有機半導体層を伝導チャネルとする有機電界効果トランジスタ(有機FET)であり、基板1として、不純物ドープシリコン層1aの表面部にSiO2からなるシリコン絶縁層1bが形成されたものが用いられている。シリコン絶縁層1b上には、自己組織化単分子膜(SAM)2が形成され、その上に有機半導体層3が形成されている。有機半導体層3上には、相互間に間隔を設けてソース電極4、ドレイン電極5が形成されている。不純物ドープシリコン層1aがゲート電極として用いられ、シリコン絶縁層1bがゲート絶縁膜として機能する。
【0020】
基板1としては、上記構成に限らず、ガラス基板等、周知のどのような材料を用いた構成としてもよい。また、有機FETの構造としても、他の種々の周知の構造を用いることができる。本発明の特徴は、SAM2が、上記化学式(1)で表わされるSAM形成用化合物を用いて形成されていることである。
【0021】
より具体的な例としては、化学式(1)において、R1=CH3またはC25であって、R2とR3が、R2=H、かつR3=CH3,C25,C613またはアリール基の組合せ、R2=R3=C25,C613またはアリール基、または、R2=CH3,C25,C613またはアリール基、かつR3=CH3,C25,C613またはアリール基の組合せ(但し、R2≠R3)であるSAM形成用化合物を用いて形成される。
【0022】
さらに具体的な例としては、上記化学式(1−1)〜(1−4)のいずれかで表されるSAM形成用化合物を用いて形成される。
【0023】
本発明のSAM形成用化合物を用いることにより、シリコン絶縁層1b上に化学吸着法(気相法)でSAM2を成膜した基板1は、接触角の経時変化が実用的に十分に少なく、大気中での膜安定性が高い。従って、基板1上への溶液からの塗布膜作製により、再現性よく有機半導体層3が得られ、歩留まりが高い高性能な有機半導体デバイスを実現可能である。本発明の化合物を用いたSAM2による基板1の表面のぬれ性は十分に大きく、有機半導体層3の良好な結晶性の獲得を可能とする本来の機能を十分に発揮する。
【0024】
なお、SAM2は、種々の有機溶媒に対して十分なぬれ性を有することが望ましい。有機半導体材料を溶液を用いて塗布するとき、溶媒に対する溶解性が十分に良好である必要があり、有機半導体材料の種類に応じた種々の有機溶媒が用いられるため、SAM2もそれに応じた特性が要求されるからである。本発明の上記化合物を用いてSAM2を形成した基板は、有機溶媒に対する接触角測定の結果によれば、種々の有機溶媒に対して非常にぬれ性がよく、汎用性に優れている。
【0025】
また、本発明の化合物を用いれば、SAM処理による有機半導体素子の閾値電圧の制御についても、良好な特性を得ることができる。特に、アミノ系SAMの表面電位を考慮に入れると、n型半導体材料には格別な効果を得ることが可能である。
【0026】
さらに、本発明の化合物の分子は気相法で容易に成膜可能なため、大面積基板上においても容易に自己組織化単分子膜を形成可能である。従って、大面積トランジスタの作製に好適である。
【0027】
[SAM形成用化合物の合成方法]
本発明のSAM形成用化合物の合成には、一例として、以下に記載するような合成法を用いることができる。
【0028】
<10-(N,N-ジメチルアミノ)-1-デケンの合成>
10-ブロモ-1-デケン(4.963 g, 22.6 mmol)をジメチルアミン溶液(11 %エタノール溶液)(25 ml,50.0 mmol,2.21 mol amt.)に加え、室温で24時間撹拌した。反応溶液に10 %の水酸化ナトリウム水溶液を加えた後、ジエチルエーテルで抽出し、有機層を回収した。ジエチルエーテルを減圧留去し、残渣を真空蒸留することで10-(N,N-ジメチルアミノ)-1-デケンを得た。収量3.297 g (80%)。
【0029】
化合物データ:1H NMR (400 MHz, CDCl3, 25℃): d/ppm = 1.28-1.46 (m, 12H), 2.03 (q, 2H,), 2.21-2.24 (m, 8H), 4.91-5.01 (m, 2H), 5.76-5.86 (m, 1H)。
【0030】
参考文献: P. Thebault et al., Eur. J. Med. Chem. 44, 717 (2009)。
【0031】
<N,N-ジメチル-10-アミノデシルトリエトキシシランの合成>
10-(N,N-ジメチルアミノ)-1-デケン(1.846 g,10.1 mmol)にトリエトキシシラン(1.525 g,9.3 mmol)とトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド(10 mg,1.08×10-2 mmol)、脱水トルエン(10 mL)を加えて、85℃で16時間加熱撹拌した。反応溶液を室温に戻し、トルエンを減圧留去し、真空蒸留を行うことでN,N-ジメチル-10-アミノデシルトリエトキシシランを得た。収量1.946 g (60%)。
【0032】
化合物データ:1H NMR (400 MHz, CDCl3, 25℃): d/ppm = 0.60-0.64 (m, 2H), 1.20-1.44 (m, 25H), 2.20-2.24 (m, 8H), 3.80 (q, 6H)。
【0033】
参考文献: R. Fetouaki et al., Inorg. Chim. Acta 359, 4865 (2006)。
【0034】
<3-(N,N-ジフェニルアミノ)プロピルトリメトキシシランの合成>
ビフェニルアミン(2.842 g,16.8 mmol)とNaH(403 mg,16.8 mmol,1.0 mol amt.)をトルエンとTHFの混合溶媒21 mL(トルエン:THF = 1:1)に溶解させ、室温で30分間撹拌した。さらに3-ヨードプロピルトリメトキシシラン(4.990 g, 17.1 mmol,1.02 mol amt.)を加え、120℃で35時間還流した。セライト濾過により無機塩を除いた後、濾液を濃縮し、真空蒸留をすることで3-(N,N-ジフェニルアミノ)プロピルトリメトキシシランを得た。収量2.445 g (44%)。
【0035】
化合物データ:1H NMR (400 MHz, CDCl3) d 7.27-7.23 (m, 4H), 7.05-6.75 (m, 4H), 6.93 (t, 2H, J = 7.2 Hz), 3.69 (t, 2H, J = 7.6 Hz), 3.54 (s, 9H), 1.83-1.74 (m, 2H), 0.66 (t, 2H, J = 8.4 Hz)。
【0036】
参考文献: S. V.M. de Moraes et al., Talanta 59, 1039 (2003)。
【0037】
[SAMの成膜方法]
本発明のSAM形成用化合物を用いて、SAMを成膜する方法の一例について、図2を参照して説明する。この方法は、気相法による密閉型システムによるものである。
【0038】
まず、シリコン基板(あるいはガラス基板)を、アセトンおよびイソプロピルアルコールでそれぞれ10分間超音波洗浄する。次に、吸着水を飛ばすためシリコン基板を200℃のホットプレート上で5分間ベークする。さらに、UV−オゾンでシリコン基板を30分間処理する。
【0039】
次に、図2に示すように、上述のように処理を施したシリコン基板6を、上記のSAM形成用化合物7とともにテフロン(登録商標)容器8に密封する。密閉したテフロン容器8を加熱した電気炉9内に置き、120℃で加熱する。それにより、SAM形成用化合物7が気化してシリコン基板6表面の水酸基と反応しSAMが形成される。
【0040】
次に、SAM処理済のシリコン基板6を大気中に取り出して、表面上に物理吸着した過剰なSAM分子を取り除くために、アセトンおよびイソプロピルアルコールでそれぞれ5分づつ超音波洗浄する。その後、120℃でシリコン基板6をベークする。
【0041】
[SAMのぬれ性評価]
上記のSAM形成用化合物を用いて形成されたSAMについて、水に対するぬれ性を評価するために行った実験の結果について、(表1)を参照して説明する。実験は、下記の(化3)に示す化合物を用いてSAMを形成した基板について行った。なお、APrTS及びDTSは比較例である。また、参考のため、SAM非形成のシリコン絶縁層に対する接触角も測定した。
【0042】
【化3】

【0043】
(表1)は、SAM形成の処理時間(h)を変えて行ったときの、各時間で処理された基板6における水に対する接触角の測定結果を示す。処理時間(h)は、0.5h、1.0h、及び2.0hとした。接触角は、シリコン絶縁層上の3点に滴下した水についての平均値を求めた値である。なお、DTSの接触角は参考値である。
【0044】
【表1】

【0045】
(表1)から判るように、アミノ基上のフェニル基の数が増えると、水に対する接触角が大きくなる。APrTS<PhAPrTS<DPhAPrTSである。また、アミノ基末端SAMは、アルキル基のみのDTSよりも接触角は小さい。
【0046】
次に、有機溶媒に対するSAM処理した基板のぬれ性を評価するために行った実験の結果について(表2)を参照して説明する。実験は、DTSを除く(化3)に示した化合物を用いてSAMを形成した基板について行った。(表2)は、SAM形成の処理時間(h)を上述の実験と同様に異ならせたときの、o-ジクロロベンゼン(oDCB)及びテトラリンに対する接触角の測定結果を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(表2)から判るように、本発明の末端アミノ基を有するSAMは、溶液プロセスで用いる溶媒であるoDCBやtetralinに対するぬれ性が、SAM非形成の基板よりも良好である。従って、有機半導体層を成膜するための溶液プロセスに適している。
【0049】
次に、SAMのぬれ性について、経時変化を評価するために行った実験の結果について、図3を参照して説明する。実験は、(化3)に示した化合物を用いてSAMを形成した基板について行った。図3における横軸は、時間の経過(s)を示す。縦軸は、水に対する接触角(°)を示す。
【0050】
図3から、PhAPrTSおよびDPhAPrTSを用いた場合は、APrTSまたはDTSを用いた場合と比べて、接触角の経時変化が小さいことが判る。すなわち、SAMの膜安定性が高い。また、APrTSを用いた場合は、報告されている接触角のばらつきが大きい。このように、本発明のSAM形成用化合物を用いることにより、SAMの膜安定性が改善され、SAM形成処理を施した基板に有機半導体層を再現性よく作製することができる。それにより、安定した特性を有する有機半導体素子を得ることが可能となる。
【0051】
[有機FETの特性]
本発明のSAM形成用化合物を用いて半導体素子を作製し、そのFET特性を評価するための実験を行った結果について、以下に説明する。有機半導体材料としては、真空蒸着法により成膜した場合に高いFET特性を示すアルキル置換ジナフトチエノチオフェン(DNTT)(μ=8cm2/Vs)を用いた。有機半導体層は、上述のようにしてSAMが形成された基板上に、塗布法により成膜した。
【0052】
塗布法としては、本発明者らが開発した塗布膜の作製法である「ギャップキャスト法」を用いた。ギャップキャスト法について、図4A、図4Bを参照して説明する。図4Aは斜視図、図4Bは断面図である。
【0053】
この方法では、SAM2が形成された基板1に対して傾斜させて、平面接触部材10を配置する。すなわち、平面接触部材10の一方の端部は支持部材11上に載置され、平面接触部材10の下面である接触面10aと基板1の表面の間には、くさび状の間隙が形成される。この状態で、加熱したジクロロベンゼンなどの芳香族系溶媒に化合物を溶解させ、その原料溶液を接触面10aに接触するように供給する。これにより、接触面10aと基板1の表面の間隙中に、原料溶液をキャピラリーフォースによって展開させる。形成された原料溶液の液滴12は、接触面10aにより保持されて、一定の力が作用する状態になる。
【0054】
接触面10aにより液滴12が保持された状態で乾燥プロセス(基板を約120℃に保持)を行って、液滴12中の溶媒を蒸発させる。それにより、液滴12中では、接触面10aの傾斜方向(矢印Aの方向)における接触面10aの開放側の端縁部分で順次、溶媒の蒸発により原料溶液が飽和状態になり、有機半導体材料の結晶が析出し始める。溶媒の蒸発に伴い液滴12の開放側の端縁は、一点鎖線12a、12bで示すように移動し、有機半導体材料の結晶化が進展して、図4Bに示すように有機半導体層3が成長する。
【0055】
この乾燥プロセスにおいては、原料溶液の液滴12の乾燥方向が一定になるため、液滴12と接触面10aとの接触を介して、結晶成長方向を規定する作用が働く。これにより、結晶性の制御効果が得られ、有機半導体層3の分子の配列の規則性が良好になる。
【0056】
以上のようにして、有機半導体材料の高配向性な結晶性塗布膜を得た。乾燥後、図1に示したように、有機半導体層3上にAuからなるソース電極4、ドレイン電極5を形成して、トップコンタクト型のFETを作製した。
【0057】
有機半導体層3を形成するための有機半導体材料としては、例えば、ルブレン、DNTT(dinaphtho[2,3-b:2',3'-f]thieno [3,2-b]thiophene)、アルキル−DNTT、TIPSペンタセン(6,13-Bis(triisopropylsilylethynyl)pentacene)、PDIF−CN2等の低分子材料、pBTTT(poly[2,5-bis(3-alkylthiophen-2-yl)thieno(3,2-b)thiophene])、pDA2T(poly(dialkylthieno[3,2-b]thiophene-co-bithiophene))、P3HT(poly(3-hexylthiophene))、PQT(poly[5,5′-bis(3-alkyl-2-thienyl)-2,2′-bithiophene])等の高分子材料、グラフェン、多層グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)等の各種有機材料等、任意の有機半導体材料を用いることができる。
【0058】
また、有機半導体層の作製には、上述のギャップキャスト法に限らず、他の各種のキャスト手法等の塗布手法、単結晶を気相中で作製する方法、蒸着等の気相成長手法、スピンコート、インクジェット、印刷等を用いることができる。そのような方法を用いた場合でも、本発明のSAM形成用化合物を用いることによる効果は、相応に十分に得ることが可能である。
【0059】
上述のように作製し動作させた有機TFTの、飽和領域における伝達特性を、図5Aに示す。図5Aにおいて、横軸はゲート電圧Vg(V)、左側の縦軸はドレイン電流−ID(A)、右側の縦軸はドレイン電流の絶対値の平方根|ID1/2(10-3A)である。曲線B1はドレイン電流、曲線B2はドレイン電流の絶対値の平方根を示す。図5Aによれば、DTS処理した基板を用いたものと比較して、飽和領域において同程度の移動度(μ=6〜8cm2/Vs)を有することが判る。図5Bは、作製された有機TFTの出力特性を示す。ゲート電圧VG=−20、−40、−60、−80、−100Vの各々の場合が示される。
【0060】
次に、本発明のSAM形成用化合物を用いて処理を施した基板上に有機半導体層を形成することにより、有機TFTの閾値電圧(Vth)を制御する効果について、図6を参照して説明する。図6は、有機FETの伝達特性を示す図であり、横軸はゲート電圧Vg(V)、縦軸はドレイン電流−ID(μA)を示す。
【0061】
曲線C1は、本発明の化合物を用いて形成したSAMを介して有機半導体層が形成された場合、曲線C2は、SAM非形成の基板上に有機半導体層が形成された場合の、有機TFTの閾値電圧特性を示す。SAMが形成された場合(C1)、閾値電圧は約15V負側にシフトした値(Vth=−5V)を示している。すなわち、SAM非形成の場合(C2)と比べると、ゼロにより近いゲート電圧で電流が流れ始め、電流量がより大きくなるという望ましいトランジスタ特性になっている。このように、本発明のSAM形成用化合物を用いることにより、有機TFTの閾値電圧を十分に制御することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の自己組織化単分子膜形成用の化合物は、有機半導体層を形成する基板の表面に良好なぬれ性を経時的に安定して与えることができ、有機半導体素子の製造に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 基板
1a 不純物ドープシリコン層
1b シリコン絶縁層
2 自己組織化単分子膜(SAM)
3 有機半導体層
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 シリコン基板
7 SAM形成用化合物
8 テフロン容器
9 電気炉
10 平面接触部材
10a 接触面
11 支持部材
12 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層を形成する溶液に対する良好なぬれ性を基板表面に与える自己組織化単分子膜を形成するための化合物であって、下記の化学式(1)で表される構造を有する自己組織化単分子膜形成用の化合物。
ただし、化学式(1)中、n=1または8、R1はアルキル基、R2及びR3はそれぞれ水素、アルキル基またはアリール基から選ばれた一種であって、R2=R3=Hの場合を除く。
【化1】

【請求項2】
1=CH3またはC25であって、R2とR3が、
2=H、かつR3=CH3,C25,C613またはアリール基の組合せ、
2=R3=C25,C613またはアリール基、または
2=CH3,C25,C613またはアリール基、かつR3=CH3,C25,C613またはアリール基の組合せ(但し、R2≠R3)である請求項1に記載の自己組織化単分子膜形成用の化合物。
【請求項3】
下記化学式(1−1)〜(1−4)のいずれかで表される請求項2に記載の自己組織化単分子膜形成用の化合物。
【化2】

【請求項4】
基板上に自己組織化単分子膜を介して形成された有機半導体層を備えた有機半導体素子であって、
前記自己組織化単分子膜が、請求項1に記載の自己組織化単分子膜形成用の化合物の分子により形成されていることを特徴とする有機半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40124(P2013−40124A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177539(P2011−177539)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】