説明

自己組織化方法及びそれを使用したエピタキシャル成長方法

【課題】ガラスやセラミック等の非単結晶基板上に単結晶エピタキシャル層の成長を可能にする。
【解決手段】結晶成長させようとする単結晶の薄膜と格子整合の取れた下地層を調整する自己組織化方法であって、非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布するステップと、前記塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して、規則的に配列された格子を自発的に生成させるステップと、を行なうものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶成長させようとする単結晶の薄膜と格子整合の取れた下地層を調整する自己組織化方法に関し、特にガラスやセラミック等の非単結晶基板上に単結晶エピタキシャル層の成長を可能にしようとする自己組織化方法及びそれを使用したエピタキシャル成長方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶の膜を形成する方法としては、単結晶基板上に結晶方位が揃った単結晶の薄膜を成長させる、いわゆるエピタキシャル成長方法が一般的である。
【0003】
例えば、窒化ガリウム(GaN)の単結晶膜は、単結晶サファイア基板上に有機金属気相成長法(MOVPE法)等によりエピタキシャル成長させる方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この場合、サファイア基板は、GaNと格子定数が異なるため、サファイア基板上に直接GaNの単結晶を成長させることができず、サファイア基板上に低温形成したAINやGaNのバッファ層を成長させ、このバッファ層で格子の歪みを緩和させてからその上にGaNの単結晶を成長させるようになっている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−162887号公報
【特許文献2】特開昭63−188983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような従来のエピタキシャル成長方法では、サファイアやGaN等の単結晶基板上に単結晶の膜を成長させるものであったため、基板のコストが高いこと、大型の基板を製造することが困難であること等により、単結晶膜の製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
また、従来のエピタキシャル成長方法では、上述したように単結晶基板が必須であり、ガラスやセラミック等の非単結晶基板上に単結晶膜をエピタキシャル成長させることができなかった。したがって、この点も、単結晶膜の製造コストが高くなる要因であった。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、ガラスやセラミック等の非単結晶基板上に単結晶エピタキシャル層の成長を可能にしようとする自己組織化方法及びそれを使用したエピタキシャル成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明による自己組織化方法は、結晶成長させようとする単結晶の薄膜と格子整合の取れた下地層を調整する自己組織化方法であって、非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布するステップと、前記塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して、規則的に配列された格子を自発的に生成させるステップと、を行なうものである。
【0010】
このような構成により、非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布し、上記塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して、規則的に配列された格子を自発的に生成させる。
【0011】
また、前記有機−無機ハイブリッド材料は、有機溶媒に可溶なSi−O又はSi−N結合を持つ無機ポリマーである。これにより、有機溶媒に溶解させたSi−O又はSi−N結合を持つ無機ポリマーを基板に塗布して焼成し、基板上にSiO膜を形成する。
【0012】
そして、前記無機ポリマーは、ポリシラザンである。これにより、ポリシラザンの溶液を基板に塗布して焼成し、基板上にSiO膜を形成する。
【0013】
また、本発明によるエピタキシャル成長方法は、基板上に単結晶の薄膜を成長させるエピタキシャル成長方法であって、非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布するステップと、前記塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して、格子が規則的に配列された下地層を形成するステップと、前記下地層上に該下地層の格子と整合の取れた単結晶の薄膜を成長させるステップと、を行うものである。
【0014】
このような構成により、非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布し、上記塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して、格子が規則的に配列された下地層を形成した後、下地層上に該下地層の格子と整合の取れた単結晶の薄膜を成長させる。
【0015】
さらに、前記有機−無機ハイブリッド材料は、有機溶媒に可溶なSi−O又はSi−N結合を持つ無機ポリマーであり、前記単結晶の薄膜は、水晶の膜である。これにより、有機溶媒に可溶なSi−O又はSi−N結合を持つ無機ポリマーを非単結晶基板上に塗布してシリカを母体とした規則性の高い下地層を形成し、該下地層上に水晶の膜を成長させる。
【0016】
そして、前記無機ポリマーは、ポリシラザンである。これにより、ポリシラザンの溶液を基板に塗布して、基板上にSiO膜から成る下地層を形成する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る自己組織化方法の発明によれば、ガラスやセラミック等の非単結晶基板上に単結晶の薄膜を結晶成長させることが可能になる。したがって、例えばガラス基板上に例えば単結晶GaNエピタキシャル層を成長させれば、LEDの製造コストを低減することが可能となる。また、ガラス基板上に単結晶SiCエピタキシャル層を成長させれば、インバータの製造コストを低減することも可能となる。
【0018】
さらに、請求項2及び3に係る発明によれば、非単結晶基板上にSiO膜を形成することができる。したがって、該SiO膜を下地層としてその上にSiOの膜を例えば気相成長させると水晶の膜を結晶成長させることができる。
【0019】
また、請求項4に係るエピタキシャル成長方法の発明によれば、ガラスやセラミック等の非単結晶基板上に単結晶の薄膜を結晶成長させることができる。したがって、例えばガラス基板上に例えば単結晶GaNエピタキシャル層を成長させれば、LEDの製造コストを低減することが可能となる。また、ガラス基板上に単結晶SiCエピタキシャル層を成長させれば、インバータの製造コストを低減することも可能となる。
【0020】
そして、請求項5及び6に係る発明によれば、非単結晶基板上にSiO膜を形成することができる。したがって、該SiO膜を下地層としてその上にSiOの膜を例えば気相成長させると水晶の膜が成長する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による自己組織化方法の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明による自己組織化方法の工程を示す説明図である。
【図3】本発明による自己組織化方法において使用する有機−無機ハイブリッド材料の例を示すポリシラザンのSi−N結合を示す説明図である。
【図4】上記ポリシラザンを焼成して得られるSiO膜のSi−O結合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明による自己組織化方法の実施形態を示すフローチャートであり、図2はその工程を示す説明図である。この自己組織化方法は、結晶成長させようとする単結晶の薄膜と格子整合の取れた下地層を調整するもので、非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布する第1ステップS1と、塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して溶媒を蒸発させ、規則的に配列された格子を自発的に生成させる第2ステップS2と、を行うものである。以下、各ステップを詳細に説明する。
【0023】
先ず、第1ステップS1においては、例えば、ガラス基板1上に、有機溶媒に溶解させたSi−O又はSi−N結合を持つ無機ポリマーを一定厚みにスピンコート又はスプレーコートする(図2(a)参照)。
【0024】
上記無機ポリマーの具体例は、図3に示すような、例えばSi−N,N−H,Si−N結合のみから構成される完全無機なポリマーであるポリシラザン2であり、キシレン、ミネラルターペン、高沸点芳香族系溶媒等に溶解させて使用される。
【0025】
次に、第2ステップS2においては、ポリシラザン2を塗布したガラス基板1を、例えば内部に発熱抵抗体の熱源3を埋め込んだステージ4上に載置して、大気中(酸素及び水分が存在する雰囲気中)で、例えば室温(25℃)から450℃程度の温度で焼成する(図2(b)参照)。これにより、ポリシラザン2の塗膜が大気中の水分と反応して自己組織化が起こり、水晶と同じ格子定数を有する図4に示すようなSiO膜6へ転化する。
【0026】
この場合、焼成温度が高いほど緻密なSiO膜6を形成することができる。しかし、焼成温度は、使用するガラス基板1の軟化温度(ガラス転移点)によって適宜設定される。例えば、軟化温度の高い石英ガラスを使用した場合には、焼成温度を450℃程度とすることができ、緻密で高純度なシリカを母体とした規則性の高い膜を得ることができる。
【0027】
上述のような自己組織化方法によって形成された下地層としてのSiO膜6上に、例えばCVD装置を使用し、基板温度が100℃〜400℃の条件下でシランガス(SiH)又はテトラエトキシシランガス(TEOS)、及び酸素ガスを反応室内に導入してSiO膜を堆積させた場合には、下地層であるSiO膜6の格子と整合した水晶の膜がエピタキシャル成長する。
【0028】
なお、上記実施形態においては、第2ステップS2の焼成を大気中で行う場合について説明したが、本発明はこれに限られず、形成しようとする下地層に応じて反応性気体中又は不活性ガス中で焼成してもよい。
【0029】
このように、本発明の自己組織化方法を使用すれば、ガラス、セラミック、金属又は他の非単結晶基板上にも単結晶の膜をエピタキシャル成長させることができる。したがって、例えば単結晶GaNと格子整合のとれた下地層を自己組織化可能な有機―無機ハイブリッド材料を使用すれば、ガラス等の非単結晶基板上に単結晶GaNエピタキシャル層を成長させることも可能となる。それ故、大面積のガラス基板上に単結晶GaNエピタキシャル層を成長させて、例えばLEDの作製も可能となり、LEDの製造コストを大幅に低減することが可能となる。
【0030】
さらに、本発明の自己組織化方法を使用すれば、例えばガラス基板1上に単結晶シリコンカーバイト(SiC)をエピタキシャル成長させて、例えば太陽電池の電力変換器であるインバータの製造コストを低減することも可能となる。
【0031】
なお、上記実施形態においては、CVD装置を使用した化学気相成長によるエピタキシャル成長方法について説明したが、本発明はこれに限られず、エピタキシャル成長させようとする単結晶の膜の種類に応じて種々の公知技術が適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1…ガラス基板(非単結晶基板)
2…ポリシラザン(有機−無機ハイブリッド材料)
6…SiO膜(下地層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長させようとする単結晶の薄膜と格子整合の取れた下地層を調整する自己組織化方法であって、
非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布するステップと、
前記塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して、規則的に配列された格子を自発的に生成させるステップと、
を行なうことを特徴とする自己組織化方法。
【請求項2】
前記有機−無機ハイブリッド材料は、有機溶媒に可溶なSi−O又はSi−N結合を持つ無機ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の自己組織化方法。
【請求項3】
前記無機ポリマーは、ポリシラザンであることを特徴とする請求項2記載の自己組織化方法。
【請求項4】
基板上に単結晶の薄膜を成長させるエピタキシャル成長方法であって、
非単結晶基板上に有機−無機ハイブリッド材料の溶液を塗布するステップと、
前記塗布された有機−無機ハイブリッド材料を予め定められた温度及び雰囲気下で処理して、格子が規則的に配列された下地層を形成するステップと、
前記下地層上に該下地層の格子と整合の取れた単結晶の薄膜を成長させるステップと、
を行うことを特徴とするエピタキシャル成長方法。
【請求項5】
前記有機−無機ハイブリッド材料は、有機溶媒に可溶なSi−O又はSi−N結合を持つ無機ポリマーであり、
前記単結晶の薄膜は、水晶の膜である、
ことを特徴とする請求項4記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項6】
前記無機ポリマーは、ポリシラザンであることを特徴とする請求項5記載のエピタキシャル成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−40058(P2013−40058A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176253(P2011−176253)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】