説明

自己融着糸条

【課 題】 滑らかな表面を有し、切断しやすく、また、切断したときに糸を構成するフィラメントがばらけることがなく、さらに水切れ性に優れ、複数種類のフィラメントを組み合わせることが可能な自己融着糸を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより、隣接するフィラメントを実質的に融着させ、ついで、延伸倍率1.0より高い倍率で加熱下延伸することにより製造される融着糸条。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接するフィラメント同士が実質的に融着している自己融着糸条の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レジャー用や漁業用釣糸、マグロ漁のはえなわなどの水産用資材、ロープ、ガットまたは凧糸等に使用される糸としては、主としてモノフィラメント糸と複数本のモノフィラメントを製紐した製紐糸とに大別される。
【0003】
モノフィラメント糸は、製紐糸よりも表面が滑らかであるから、他の物とこすれたときの摩擦抵抗が少ない。例えば、モノフィラメント糸を釣糸として用いた場合、釣糸の投げ入れ時に釣糸とガイドとのこすれにより生じる摩擦抵抗が少ないことから、餌などを正確かつ遠くに投げ入れることができる。また、モノフィラメント糸は内部に水を抱き込むことがないので水切れ性にも優れている。さらに、製紐糸は切断しにくかったり、糸を切断したときに切断部分の糸が割れて切断部分が毛羽状になり取扱いがしにくかったりするが、モノフィラメント糸はかかる問題点がないという利点も有する。しかし、例えば、糸を構成する樹脂が超高分子量ポリエチレンまたは全芳香族ポリアミド等である場合には、紡糸の際に溶媒を使用し、紡糸後に溶媒を除去する必要があるため、上記のような釣糸、ロープまたはガットなどの用途に用いるのに適した一定以上の太さのモノフィラメントを製造することが困難であるという問題点がある。
【0004】
一方、製紐糸は、複数本のモノフィラメント又はマルチフィラメントを用いるので、原料となる樹脂の種類を問わず、上記のような用途に用いるのに適した太さの糸条とすることが可能である。さらに、製紐糸には、複数種類のフィラメントを組み合わせることができるという利点があり、その結果、例えば比重を所望に応じて調整することができるなど、単独のフィラメントでは得られない効果を発揮させることができる。モノフィラメント糸では、複数種類のフィラメントを組み合わせることは当然不可能である。
【0005】
特許文献1には、ポリオレフィンの複数のフィラメントを製紐又は加撚した後、ポリオレフィンの融点範囲の温度に延伸倍率1.0以上で延伸しながら暴露することで隣接するフィラメントを融着させ、釣糸を製造する方法が記載されている。しかしながら、本発明者らは、このような方法では、上記釣糸における隣接するフィラメントを実質的に融着させることが実際上困難であること、従って、このように製造された釣糸は、実際には実質的に融着していないために、使用によって物理的な力が加わると、繊維の結合がばらけてしまって、本来の融着させて擬似モノフィラメントのようにするという目的が達成できなくなること、つまり、使用によって物理的な力が加わると、普通の製紐糸と変わらなくなってしまう問題点があることを見出した。またさらに、このような方法では、加熱処理によって糸の強度が落ちるため、その落ちた強度を補おうとすると、どうしても糸を延伸せざるを得ず、その結果、延伸によって強度は補われるものの、糸が著しく細くなり、例えば処理前の糸の太さと比べて約60%以下の糸の太さとなり、耐磨耗性が悪くなるという欠点を見出した。
【0006】
なお、本発明者は、上述したモノフィラメント糸の利点と製紐糸の利点を合わせ有する糸条について鋭意検討し、高強力繊維のフィラメント糸複数本を、前記フィラメント糸の融点よりも低い融点を有する低温熱接着性樹脂を用いて一体化させた糸条を開発した(特許文献2)。さらに、検討を重ねた結果、低温熱接着性樹脂の代わりに、ホットメルト接着剤を用いた糸条も開発した(特許文献3)。
【特許文献1】特開平9−98698号公報
【特許文献2】特開2002−54041号公報
【特許文献3】特開2003−116431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、滑らかな表面を有し、切断しやすく、また、切断したときに糸条を構成するフィラメントがばらけることがなく、さらに水切れ性、例えば使用によって物理的な力が加わっても繊維の結合がばらけないといった耐久性に優れ、複数種類のフィラメントを組み合わせることが可能で、モノフィラメント糸の利点と製紐糸の利点を合わせ有する融着糸条の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐し、ついで延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより、融着させるための媒体なしに隣接するフィラメントを実質的に完全融着させることができるという思いがけない知見を得た。また、本発明者らは、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸させると、加熱延伸処理して得られる融着糸条が処理前に比較して、より太くなり、上記公知技術における問題点を解決することを知見した。このように隣接するフィラメントを実質的に完全に融着させることにより、モノフィラメント糸にも製紐糸にも属さない下記利点を有する新規な糸条が得られる。すなわち、本発明の融着糸条は、滑らかな表面を有し、内部に水を抱き込むことがないので水切れ性にも優れている。さらに、上記糸条は切断しやすく、また、切断したときだけでなく、長期使用でも構成フィラメントがばらけない。このように、モノフィラメント糸の利点を有していながら、フィラメントを構成する樹脂は単独種類に限定されず異なる2種類以上のフィラメントを組み合わせてそれぞれフィラメントの特色を発揮させるようにしてもよい。しかしながら、最も好ましい樹脂は、例えば、超高分子量ポリエチレンフィラメント等の高強力フィラメント等を用いることである。
本発明者らは、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより、隣接するフィラメントを実質的に融着させ、ついで、延伸倍率1.0より高い倍率で加熱下延伸することを特徴とする融着糸条の製造方法、
(2) 熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂またはポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載の融着糸条の製造方法、
(3) 熱可塑性樹脂からなるフィラメントが、20g/d以上の引張強度を有するフィラメントであることを特徴とする上記(1)に記載の融着糸条の製造方法、
(4) 延伸倍率1.0未満で加熱下延伸する際の温度が、熱可塑性樹脂からなるフィラメントの融点より高いことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の融着糸条の製造方法、
(5) 延伸倍率1.0より高い倍率での加熱下延伸後に、さらに、外周を合成樹脂で被覆することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の融着糸条の製造方法、
(6) 芯糸を取り囲むように熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえるか、所望によりさらに加撚するかまたは芯糸のまわりを熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本で製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより、隣接するフィラメントを実質的に融着させ、ついで、所望により延伸倍率1.0より高い倍率で加熱下延伸することを特徴とする融着糸条の製造方法、
(7) 熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することを特徴とする、隣接するフィラメントを実質的に融着させる方法、
(8) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法を用いて製造されることを特徴とする融着糸条、
(9) 熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本含み、融着のための媒体が含まれておらず、隣接するフィラメントが互いに実質的に融着していることを特徴とする融着糸条、及び、
(10) 熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を含有し、隣接するフィラメントが実質的に融着している糸条であって、その糸条の太さが、上記糸条と同じ熱可塑性樹脂からなる同数のフィラメントを含有する同数のヤーンを含み、隣接するフィラメントが融着していない糸条の太さの±10%の範囲内であり、その糸条の引張強度が、上記融着していない糸条の引張強度以上であることを特徴とする上記(9)記載の融着糸条、
に関する。
【0010】
上記から明らかなように、本発明の糸条にあっては、糸条を構成するフィラメントは互いに融着しているが、フィラメントを融着させるための接着剤や特許文献3に記載されている低融点融着糸等の融着させるための媒体は使用されていない。本発明の製造方法にあっては、延伸倍率1.0未満で加熱延伸した後、さらに延伸倍率1.0以上の加熱延伸を行うことが特長である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の自己融着糸条は、複数本のフィラメントから構成されていながら、従来の製紐糸からなる糸条よりも滑らかな表面を有する。それ故に、他の物とこすれたときの摩擦抵抗が少なくなり、耐久性が向上する。例えば、本発明の自己融着糸条を釣糸として使用したときには、釣糸とガイドとの摩擦抵抗が少ないので、餌などを遠くへかつ正確に投げ入れることができる。さらに、糸繰り操作が行いやすく、絡まったりもつれたりしにくい。
本発明の自己融着糸条は、隣接するフィラメントを実質的に完全融着しているため、水を抱き込みにくく、水切れ性に優れている。このことから、特に本発明の自己融着糸条はレジャーや漁業用釣糸、水産資材として好適に用いることができる。
【0012】
さらに、本発明の自己融着糸条は、切断しやすく、また、切断した後でも構成フィラメントがばらけない、すなわち、切断部分が羽毛状にならないので、糸を結んだりする際の操作性が良い。
加えて、本発明の自己融着糸条においては、複数種類のフィラメントを用いたり、芯糸を糸条の中心に挿入したりすることによって、例えば比重を任意に設定するなど、単独のフィラメントでは得られない効果を発揮させることができる。又は、単糸デニールを細くしなくても、初期の強力を維持できるため、耐磨耗性に優れた糸条の製造ができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより、隣接するフィラメントを実質的に完全融着させ、ついで、延伸倍率1.0より高い倍率で加熱下延伸することを特長とする自己融着糸条の製造方法に関する。本発明によれば、さらに詳しくは、例えば(イ)熱可塑性樹脂のフィラメントを複数本引き揃える、(ロ)熱可塑性樹脂のフィラメントを複数本引き揃えて、さらに加撚する、(ハ)熱可塑性樹脂のフィラメントを複数本引き揃えて製紐し、又は(ニ)熱可塑性樹脂のフィラメントを複数本引き揃えて加撚し、ついで製紐した後、延伸倍率1.0未満の加熱下延伸と、さらに延伸倍率1.0より高い加熱下延伸に付することを特長とする。
【0014】
以下、本発明の製造方法で使用される熱可塑性樹脂からなるフィラメントについて説明する。
本発明の製造方法で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂またはポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。
ポリアミド系樹脂としては、具体的に、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,10などの脂肪族ポリアミドもしくはその共重合体、または芳香族ジアミンとジカルボン酸により形成される半芳香族ポリアミドもしくはその共重合体などが挙げられる。
【0015】
ポリエステル系樹脂としては、具体的に、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェニル)エタン、4,4’−ジカルボキシフェニルもしくは5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸もしくはセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコールまたはテトラメチレングリコールなどのジオール化合物とから重縮合されるポリエステルもしくはその共重合体などが挙げられる。
【0016】
フッ素系樹脂としては、具体的に、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリモノクロロトリフルオロエチレンもしくはポリヘキサフルオロプロピレンまたはその共重合体などが挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、具体的に、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレン等が挙げられる。
【0017】
本発明において熱可塑性樹脂からなるフィラメントとしては、引張強度が約20g/d程度以上、好ましくは約25〜50g/d程度、より好ましくは約30〜40g/d程度の高強力フィラメントを用いることが好ましい。ここで、「引張強度」は、例えば、JIS L 1013「化学フィラメント糸試験方法」に従った方法にて、引張試験機、例えば、万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 株式会社島津製作所製)で容易に測定できる。
【0018】
熱可塑性樹脂からなるフィラメントとしては、高強力フィラメントが好ましい。
上記高強力フィラメントとして、具体的には、例えば、超高分子量ポリエチレンフィラメント、全芳香族ポリアミドフィラメント、ヘテロ環高性能フィラメントまたは全芳香族ポリエステルフィラメント等が挙げられる。なかでも、屈曲性高分子からなる超高分子量ポリエチレンフィラメントが好ましい。
【0019】
上記超高分子量ポリエチレンフィラメントとは、超高分子量ポリエチレンからなるフィラメントをいう。ここで、超高分子量ポリエチレンとは、分子量が20万程度以上、好ましくは60万程度以上であり、エチレンのホモポリマーの他、エチレンと炭素原子数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体も含むものである。エチレンとα−オレフィンとの共重合体の場合、後者の割合はポリエチレン部位の炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度、好ましくは平均0.5〜10個程度であるような共重合体が好ましい。
超高分子量ポリエチレンフィラメントの製造方法は、たとえば特開昭55−5228号公報、特開昭55−107506号公報などに開示されており、これら公知の方法を用いてよい。また、超高分子量ポリエチレンフィラメントとして、ダイニーマ(登録商標)(商品名 東洋紡績株式会社製)やスペクトラ(商品名 ハネウエル社製)等の市販品を用いてもよい。
【0020】
本発明の自己融着糸条の原料であるフィラメントは、例えば、複数本のフィラメントからなるマルチフィラメント、1本のフィラメントからなるモノフィラメント、前記モノフィラメント複数本が合糸されているモノマルチフィラメントなどのいかなる形態を有していてもよい。本発明の自己融着糸条においては、マルチフィラメント、モノフィラメントまたはモノマルチフィラメントのうち一形態のフィラメントのみで構成されていてもよく、また複数形態のフィラメントが混在していても良い。本発明で用いるフィラメントは、例えば、その断面が真円状のフィラメントであってもよいし、偏平のフィラメントであっても良い。また、本発明で用いるフィラメントは中空構造を有していてもよい。
【0021】
また、本発明で用いるフィラメントは、発明の目的を損なわない範囲内で各種公知の添加物を有していてもよい。添加物としては、例えば、下記に詳述する顔料、色素、安定剤、可塑剤もしくは滑剤などが挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、添加物としては、磁性物質、導電性物質、高誘電率を有する物質なども挙げられる。前記物質として、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルク、雲母、長石、ベントナイト、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化チタン、シリカまたは石膏などが挙げられる。これら物質は、例えばステアリン酸またはアクリル酸などで被覆されていてもよい。本発明で使用されるマルチ、モノ又はモノマルチフィラメントは、色素又は顔料を含む溶液又は分散液で着色されたものであってもよい。
【0022】
本発明で用いるフィラメントには、比重や沈降速度を調整するために、金属粒子を含有させてもよい。金属粒子を構成する原料としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、錫、ニッケルまたはタングステン等が挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、2以上の金属原料を混合してもしくは合金にして使用してもよい。中でも、タングステン粒子を用いるのが好ましい。タングステンは、比重が大きいために、糸条に重さを与えやすく、従って、強度の低下を極力抑えて比重を高くする効果が少量の添加により現れるからである。これら金属粒子は粉末状であると、粒状であるとを問わず本発明に適用することができる。その平均粒径は約20μm程度以下、好ましくは約10μm以下が好適である。金属粒子の粒径が大きすぎると、混合後の全体的な均一性が乏しくなるので上記範囲が好ましい。更に、金属粒子の添加量は、樹脂100重量部に対して約1〜90重量部程度、より好ましくは約5〜70重量部程度が好適である。
上記金属粒子を含有するフィラメントは、例えば、単軸または二軸混練機などを用いて金属粒子を溶融混練することにより、金属を含有する熱可塑性樹脂を作成し、かかる熱可塑性樹脂から広く実施されている溶融紡糸方法などを用いて製造することができる。
【0023】
本発明においては、1種類の熱可塑性樹脂からなるフィラメントのみを用いてもよいし、複数種類の熱可塑性樹脂からなるフィラメントを組み合わせて用いてもよい。好ましい態様としては、1種類の熱可塑性樹脂からなるフィラメントのみからなる自己融着糸条が挙げられる。なお、本発明においては、複数種類の熱可塑性樹脂からなるフィラメントを組み合わせて用いる場合、互いに融点範囲の近い熱可塑性樹脂からなるフィラメントを組み合わせて用いるのが好ましく、より具体的には、ダイニーマ(登録商標)とポリエチレン又はポリプロピレンからなるフィラメントとを組み合わせて用いるのが好ましい。
【0024】
以下、本発明の製造方法における各工程について説明する。
本発明においては、上述した熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐する。
フィラメント複数本を引きそろえる際には、所望により、芯糸を中心にして、その周りを取り囲むようにフィラメントを引きそろえてもよい。
複数本のフィラメントに撚りをかける方法としては、特に限定されないが、例えば、リング撚糸機、ダブルツイスターまたはイタリー式撚糸機など公知の撚糸機を用いて行うことができる。本工程における撚りの程度は特に限定されないが、撚係数Kが約0.2〜1.5程度、より好ましくは約0.3〜1.2程度、さらに好ましくは約0.4〜0.8程度となるように撚りをかけることが好適である。なお、撚係数Kは次式:K=t×D1/2(但し、t:撚り数(回/m)、D:繊度(tex)を表す。)より算出される。前記式における繊度は、JIS L 1013(1999)に従って測定する。
【0025】
複数本のフィラメントを製紐する方法としては、特に限定されないが、通常は組紐機(製紐機)を用いて行われる。例えば4本のフィラメントを準備し、右側または左側のフィラメントを交互に真中に配置させてくみ上げていく。製紐に用いるフィラメントの数は、4本に限らず、8本、12本または16本の場合などがある。製紐に用いるフィラメントは、予め撚りがかけられていてもよい。さらに、上述したような芯糸を中心において、芯糸の周りを複数本のフィラメントで製紐することもできる。
【0026】
ついで、得られた引き揃え糸、撚り糸または製紐糸を延伸倍率1.0程度未満で加熱下延伸する。
延伸処理の方法は、例えば空気中で加熱しながら延伸する等の自体公知の方法が採用され得る。延伸は、1段で行ってもよいし、2段以上で行ってもよい。延伸時の温度は、フィラメントの種類もしくは径の大きさまたは延伸速度によって異なるので一概には言えないが、例えば、通常、フィラメントの融点−約10℃以上の温度である。延伸時の温度の上限は、特に限定されない。より具体的には、フィラメントが超高分子量ポリエチレンフィラメントの場合、延伸時の温度は、約150℃以上(好ましくは約150℃〜170℃)である。
【0027】
本延伸工程においては、延伸倍率1.0程度未満で行うことが特徴である。この工程によって複数のフィラメントがお互いに実質的に融着する。このように糸条を加熱下リラックスさせることにより、融着させるための媒体なしに隣接するフィラメントを実質的に互いに融着させることができる。ここで、「隣接するフィラメントが実質的に融着している」とは、本発明で製造される自己融着糸条を任意の箇所で切断し、切断部分を手でこすっても、構成フィラメントがほぐれて、バラバラならないことをいう。融着させるための媒体とは、融着を促進または補助する物質を指し、例えば、熱接着性樹脂、接着剤、鉱油(例えば、平均分子量が250〜700の伝熱性グレードの鉱油)、パラフィン油および植物油(例えば、ヤシ油)などが挙げられる。このような融着させるための媒体は、本発明で製造される自己融着糸条を製造する際はもちろん、本発明で製造される自己融着糸条を用いて複合体や布帛などの他の製品を製造する際にも必ずしも必要ないが、所望によりこのような媒体を使用してもよい。
【0028】
ついで、前工程(延伸倍率1.0未満での加熱下延伸)で得られた糸条を延伸倍率1.0程度より高い倍率で加熱下延伸する。芯糸に例えば金属線や無機繊維などの延伸しがたい糸条を用いた場合は本工程を行わないほうが好ましく、本発明の方法で製造される自己融着糸条が熱可塑性樹脂からなるフィラメントのみから構成されている場合は本工程を行うことが好ましい。
延伸処理の方法は、液体または気体中で加熱しながら延伸する等の自体公知の方法が採用され得る。延伸は、1段で行ってもよいし、2段以上で行ってもよい。本延伸処理は、約1.0より高い延伸倍率で行うことを特徴とする。実際にどのような延伸倍率で行うかは、フィラメントの種類、原料となるフィラメントに対し既に延伸処理がされているか否か、または既に延伸処理がされている場合はどの程度の延伸倍率で延伸されているのか等の事情に応じて、適宜選択すればよい。例えば市販のフィラメントのように、前工程において原料として、既に延伸倍率1.0よりも高い倍率で延伸されているフィラメントを用いる場合は、本工程(延伸倍率1.0より高い倍率での加熱下延伸)の延伸倍率は通常約1.01〜5程度、好ましくは約1.01〜3程度、より好ましくは約2.2〜3程度が好適である。一方、前工程において未延伸フィラメントを用いる場合は、本工程での延伸倍率は通常約1.01〜15程度、好ましくは約2〜10程度、より好ましくは約4〜8程度が好適である。ここで、「未延伸フィラメント」とは、製造工程において全く延伸されていないフィラメントもしくは市販のフィラメントの製造時の延伸倍率に満たない延伸倍率で延伸されているフィラメントをいう。
【0029】
本発明においては、以下のようにして延伸時にテーパー状を形成させることができる。具体的には、延伸速度を調整することにより延伸時にテーパー状を形成させることができる。より具体的には、延伸速度を上げることにより、長手方向に径が小さくなり、延伸速度を下げることにより、長手方向に径が大きくなることを利用してテーパー状を形成させることができる。前記のように延伸速度を変化させる際には、延伸速度の変化がなだらかに増加傾向または減少傾向に傾斜していることが好ましい。すなわち、延伸時に延伸速度を漸増または/および漸減することが好ましい。延伸速度の変化がそのようななだらかな変化であれば、延伸速度は直線的に変化してもよいし、そうでなくでもよい。延伸時の延伸速度は、フィラメントの種類また径の大きさ等により異なるので一概には言えない。例えば、径の最も大きい部分を形成させる際の延伸速度と、径の最も小さい部分を形成させる際の延伸速度との比が、1:1.5〜4程度であることが好ましい。
【0030】
また、本発明で製造される自己融着糸条の他の好ましい態様としては、熱可塑性樹脂からなる芯糸を有し、芯糸が中心にくるように複数本の熱可塑性樹脂からなるフィラメントが配置されており、隣接するフィラメントが実質的に完全融着されている自己融着糸条が挙げられる。より具体的には、芯糸を取り囲むように複数本の熱可塑性樹脂からなるフィラメントが引きそろえられているか、芯糸の周りが複数本の熱可塑性樹脂からなるフィラメントで製紐されており、隣接するフィラメントが実質的に完全融着されている自己融着糸条が挙げられる。本態様において、熱可塑性樹脂からなるフィラメントは、1種類の熱可塑性樹脂からなるフィラメントのみを用いてもよいし、複数種類の熱可塑性樹脂からなるフィラメントを組み合わせて用いてもよいが、1種類の熱可塑性樹脂からなるフィラメントのみを用いることが好ましい。
【0031】
上記のようにして自己融着糸条を製造することによって、製造された糸条は、全体として、融着させるための媒体を含まず、隣接するフィラメント同士が互いに実質的に融着している。また、本発明によれば、熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を含有し、隣接するフィラメントが実質的に融着している糸条であって、その糸条の太さが、上記糸条と同じ熱可塑性樹脂からなる同数のフィラメントを含有する同数のヤーンを含み、隣接するフィラメントが融着していない糸条の太さの±約10%(好ましくは±5%)の範囲内であり、その糸条の引張強度が、上記融着していない糸条の引張強度以上であることを特徴とする融着糸条が提供される。なお、本発明によれば、上記糸条の太さは、通常、デニールで表わされる。
【0032】
本発明の自己融着糸条においては、自己融着糸条を構成している複数のフィラメントが互いに実質的に融着している。「実質的に融着している」とは、製造された糸条を切断し、切断箇所を成人男子の手の人差し指の腹部分と親指の腹部分との間に挟み、成人男子の最大指圧力をかけながら、糸条を揉み解すことを試みても、糸条が目視によりばらけていない状態をいう。本発明における「完全融着」とは、糸条を任意箇所で切断して、上記テストを百回繰り返した場合に、100%糸条がばらけないことをいうが、本発明においては、85%以上ばらけないことをもって、合格とする。好ましくは90%以上である。なお、自己融着されている糸条の複数のフィラメントは、単一種類のフィラメントであってもよいし、2種以上のフィラメントの混合であってもよい。
【0033】
本発明においては、上記のようにして得られる自己融着糸条をさらに合成樹脂で被覆してもよい。このような糸条も本発明の融着糸条に含まれることはいうまでもない。
本発明において前記被覆に用いる合成樹脂(以下、「被覆樹脂」ともいう。)は、公知の樹脂を用いてよいが、本発明の自己融着糸条に密着できるものが好ましい。特に、屋外での長期使用に耐え、こすれ、曲げ疲労性等の耐久特性に優れたものが前記被覆樹脂としてより好ましい。下記に詳述する押出被覆により本発明の自己融着糸条の外周を被覆樹脂で被覆する場合、自己融着糸条がダイニーマである場合は、被覆樹脂としては、メルトインデックスが約0.1g/10分以上、より好ましくは、約0.1g/10分〜1000g/10分程度のものが好適である。コアとなる本発明の自己融着糸条の引張強度を損なわずに被覆するためには、上記範囲のメルトインデックスを有する被覆樹脂を用いることが好ましい。ここで、樹脂のメルトインデックスは、JIS K 7210(1976)「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」に従った方法にて、メルトインデクサ(宝工業株式会社製 L−202)で測定する。
【0034】
被覆樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン酢酸ビニル共重合体などポリオレフィン系樹脂もしくはその変性物、ナイロンもしくは共重合ナイロンなどのポリアミド樹脂、アクリル系樹脂もしくはその共重合変性物、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂またはエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0035】
本発明においては、被覆樹脂として、金属粒子を含有する樹脂を用いてもよい。金属粒子を含有させることにより、被覆樹脂固有の比重に関係なく、任意の比重を有する糸条、特に比重の大きい糸条を製造できるという利点がある。ここで用いられる金属粒子の種類または含有量については、フィラメントに金属粒子を含有させる場合と同様でよい。
【0036】
本発明において、本発明の自己融着糸条の外周を被覆樹脂で被覆する方法としては、加圧押出し被覆など自体公知の方法を採用して行うことができる。中でも、パイプ式押出被覆による方法が好適である。パイプ式押出被覆による方法は押出成型機から溶融した被覆樹脂を押し出し、予熱されているコアとなる糸条に当該被覆樹脂を加圧状況下に密着させるものであり、皮膜の密着性が格段に優れたものとなる。その他、例えばアプリケーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、ロッドコーターまたは刷毛など公知の手段を用いて被覆樹脂を塗布してもよいし、溶融状もしくは溶液状の被覆樹脂を収納した桶の中にコアとなる糸条を浸漬し引き上げて余剰量をしぼり取るという方法を用いてもよい。
【0037】
前記被覆樹脂による被覆を行うに際して、本発明の自己融着糸条の形状をテーパー状とすることができる。テーパー形状を形成する方法として、公知の方法を用いてよい。例えば、押出機に組み込まれている計量ポンプ(ギヤーポンプ)の回転数を任意に上下させて樹脂の吐出量を変え、さらに、それぞれの状況下における回転数の持続時間をコントロールすることにより、目的とする太部と細部とテーパー部とにおいて、それぞれの長さを持ち合わせているテーパー形状を形成することができる。テーパー部の形状は計量ポンプの、高速回転から低速回転または低速回転から高速回転への切り替え時間の長短により変化を付けることができる。
このようにして上記自己融着糸条を被覆樹脂で被覆することにより、さらに水切れ性に優れた自己融着糸条を製造し得る。
【0038】
本発明の方法で製造される自己融着糸条の用途としては、特に限定されないが、例えば、釣糸、特に各種レジャーや漁業用釣糸、その他マグロ漁のはえなわなどの水産用資材、ロープ、ガット、凧糸、“雑草除去(weedeater)”糸、ブラインド用コード、ダイヤルコード、携帯ストラップ用コード或いは延長コードなどの各種産業資材用コード、洋弓弦、楽器弦、金庫ロック用糸又は手術用縫合糸等に好適に用いることができる。
【実施例1】
【0039】
ダイニーマ(登録商標、東洋紡績株式会社製)100デニール4本を用いて、製紐機で組み上げ、製紐糸Aを製造した。この製紐糸Aを、送り込みローラー100m/分、巻き取りローラー40m/分の速度で149℃に加熱した加熱炉に送り込み、融着糸Bを製造した。この融着糸Bを、送り込みローラー30m/分、巻き取りローラー40m/分の速度で149℃に加熱した加熱炉に再度送り込み、融着糸Cを製造した。
製造した製紐糸A、融着糸B及び融着糸Cの強力(kg)及び伸度(%)を、万能試験機
オートグラフAG−100kNI(製品名、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【実施例2】
【0041】
ユニチカファイバー社製ナイロン6マルチフィラメント糸210デニール8本を用いて、製紐機で組み上げ、製紐糸A’を製造した。この製紐糸A’を、送り込みローラー5m/分、巻き取りローラー4m/分の速度で220℃に加熱した加熱炉に送り込み、融着糸B’を製造した。この融着糸B’を、送り込みローラー4m/分、巻き取りローラー5.5m/分の速度で220℃に加熱した加熱炉に再度送り込み、融着糸C’を製造した。
製造した製紐糸A’、融着糸B’及び融着糸C’の引張強力(kg)、引張強度(g/d)及び伸度(%)を、実施例1と同様にして測定した。測定結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の糸条は、レジャーや漁業用釣糸、マグロ漁のはえなわなどの水産資材用の糸、ロープ、ガットまたは凧糸用の糸に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより、隣接するフィラメントを実質的に融着させ、ついで、延伸倍率1.0より高い倍率で加熱下延伸することにより製造される融着糸条。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂またはポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の融着糸条。
【請求項3】
熱可塑性樹脂からなるフィラメントが、20g/d以上の引張強度を有するフィラメントであることを特徴とする請求項1に記載の融着糸条。
【請求項4】
延伸倍率1.0未満で加熱下延伸する際の温度が、熱可塑性樹脂からなるフィラメントの融点より高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の融着糸条。
【請求項5】
延伸倍率1.0より高い倍率での加熱下延伸後に、さらに、外周を合成樹脂で被覆することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の融着糸条。
【請求項6】
芯糸を取り囲むように熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえるか、所望によりさらに加撚するかまたは芯糸のまわりを熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本で製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより、隣接するフィラメントを実質的に融着させ、ついで、所望により延伸倍率1.0より高い倍率で加熱下延伸することにより製造される融着糸条。
【請求項7】
熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を引きそろえ、所望により加撚および/または製紐し、ついで、延伸倍率1.0未満で加熱下延伸することにより隣接するフィラメントを実質的に融着させて製造される融着糸条。
【請求項8】
熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本含み、融着のための媒体が含まれておらず、隣接するフィラメントが互いに実質的に融着していることを特徴とする融着糸条。
【請求項9】
熱可塑性樹脂からなるフィラメント複数本を含有し、隣接するフィラメントが実質的に融着している糸条であって、その糸条の太さが、上記糸条と同じ熱可塑性樹脂からなる同数のフィラメントを含有する同数のヤーンを含み、隣接するフィラメントが融着していない糸条の太さの±10%の範囲内であり、その糸条の引張強度が、上記融着していない糸条の引張強度以上であることを特徴とする請求項8記載の融着糸条。

【公開番号】特開2008−75239(P2008−75239A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278402(P2007−278402)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【分割の表示】特願2003−308444(P2003−308444)の分割
【原出願日】平成15年9月1日(2003.9.1)
【出願人】(000246479)有限会社よつあみ (9)
【Fターム(参考)】