説明

自己診断機能を有するコンクリート構造物及びその点検・調査・診断方法。

【課題】 構造が簡単で低コストとなる自己診断機能を有するコンクリート構造物及びコンクリート構造物の点検・調査・診断方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 自己診断機能を有するコンクリート構造物において、補強ネット・感光性樹脂を含浸させた感光性樹脂保持シートからなる補強用シートを表面に取り付けたコンクリート構造物又はコンクリート部材であって、補強ネットの破断伸びを感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートの破断伸びより大きいものとし、コンクリート構造物又はコンクリート部材に作用する負荷による変形に伴う補強用シートの白化現象を視覚で観察しコンクリート構造物又はコンクリート部材の異常を検知することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や鉄道のトンネル内のコンクリート被覆部、高速道路や鉄道高架橋のコンクリート製橋脚、橋桁及び床版、RC造の建築物のコンクリート製柱、梁等を補修・補強する自己診断機能を有するコンクリート構造物とそれを用いたコンクリート構造物の点検・調査・診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物又はコンクリート部材を補修・補強する工法としては、鋼板をコンクリートに接着ささせる鋼板補強工法、炭素繊維などの補強繊維に樹脂を含浸させた繊維強化プラスチックによる補強・補修工法、感光性樹脂を含浸させた感光性樹脂保持シートに補強ネット等を挟み込んだ補強材による補修・補強工法が知られている。しかし、たとえコンクリート構造物又はコンクリート部材を前記工法により補強・補修しても、コンクリート構造物又はコンクリート部材に作用する圧縮、曲げ、引っ張り等の負荷によりコンクリート構造物又はコンクリート部材が変形しコンクリート構造物又はコンクリート部材に破断につながるような異常が発生するが、補強・補修部材で覆われているため、その異常を確認することができなかった。その対策として、非特許文献1には、コンクリート構造物又はコンクリート部材に作用する負荷による歪みを、コンクリート中に埋め込まれた炭素繊維とガラス繊維からなるFRPの電気抵抗の変化で検出する異常検出方法が記載されている。また、特許文献1には、多数本の補強繊維糸条を並行に配列してなるシートがコンクリート表面に接着されたコンクリート構造物であって、前記シートは、前記補強繊維以外に、コンクリート構造物表面の劣化または異常状態の検知に用いる為のチェック糸がまばらに配列し、チェック糸の変化を視覚で観察してコンクリート構造物の異常を検知する方法が記載されている。
【特許文献1】特許第3097497号公報
【非特許文献1】「強化プラスチック」Vol.41,No.4,1995年発行,p16からp18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたものは、補修・補強材に特別な検知手段を設ける必要があり、補修・補強材の製造コストが上昇し、非特許文献1に記載された電気抵抗の変化により異常を検知するものは、電気抵抗を検出する装置等が必要であり、高コストになるという問題を有するものであった。
【0004】
本発明は、上記従来技術のもつ課題を解決する、構造が簡単で低コストとなる自己診断機能を有するコンクリート構造物とそれを用いたコンクリート構造物又はコンクリート部材の健全性の点検・調査・診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本第1発明は、上記課題を解決するために、自己診断機能を有するコンクリート構造物において、補強ネット・感光性樹脂を含浸させた感光性樹脂保持シートからなる補強用シートを表面に取り付けたコンクリート構造物又はコンクリート部材であって、補強ネットの破断伸びを感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートの破断伸びより大きいものとし、コンクリート構造物又はコンクリート部材に作用する負荷による変形に伴う補強用シートの白化現象を視覚で観察しコンクリート構造物又はコンクリート部材の異常を検知することを特徴とする。
【0006】
本第2発明は、自己診断機能を有するコンクリート構造物において、補強ネット・感光性樹脂を含浸させた感光性樹脂保持シートからなる補強用シートを表面に取り付けたコンクリート構造物又はコンクリート部材であって、補強ネットの破断伸びを感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートの破断伸びより小さいものとし、コンクリート構造物又はコンクリート部材に作用する負荷による変形に伴う補強ネットの破断を視覚で観察しコンクリート構造物又はコンクリート部材の異常を検知することを特徴とする。
【0007】
第3発明は、本第1又は第2発明の自己診断機能を有するコンクリート構造物において、前記コンクリート構造物又はコンクリート部材補強用の補強用シートがコンクリート構造物又はコンクリート部材の取り付け前に一体に形成されることを特徴とする。
【0008】
本第4発明は、本第1又は第2発明の自己診断機能を有するコンクリート構造物において、前記補強用シートがコンクリート構造物又はコンクリート部材表面にプライマー塗布し乾燥した後、感光性樹脂保持シートに感光性樹脂の下塗りを施し、その上に、補強ネットを配置し密着させ光照射により樹脂硬化して形成されることを特徴とする。
【0009】
本第5発明は、コンクリート構造物の点検・調査・診断方法において、本第1〜第4発明のいずれかの自己診断機能を有するコンクリート構造物に作用する負荷に伴う視覚的変化を観察することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成により、補強ネット・感光性樹脂を含浸させた透明感光性樹脂保持シートからなる補強用シートに何等特別の材料や装置を用いることなく、補強用シートの微細な破壊による白化現象又は補強ネットの破断を視覚で確認するだけでコンクリート構造物又はコンクリート部材の異常を検知することができるので、低コストで簡便なコンクリート構造物又はコンクリート部材の異常検出手段とすることができる。
補強用シートは、予め一体に形成したものをコンクリート構造物又はコンクリート部材の表面に取り付けても、現場でコンクリート構造物又はコンクリート部材表面にプライマー塗布し乾燥した後、感光性樹脂保持シートに感光性樹脂の下塗りを施し、その上に、補強ネットを配置し密着させ光照射により樹脂硬化して形成して取り付けても、同様の自己診断機能を有するので、汎用性の広いコンクリート構造物又はコンクリート部材の補強手段兼異常検出手段とすることができる。
補強手段である補強ネット・感光性樹脂を含浸させた感光性樹脂保持シートを取り付けるだけで簡便で低コストのコンクリート構造物又はコンクリート部材の健全性の点検・調査・診断方法とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を図により説明する。図1は、本発明の一実施形態を示すものである。この実施形態では、コンクリート構造物又はコンクリート部材の補強用シートは、コンクリート構造物又はコンクリート部材の表面にプライマーを塗布し、乾燥した後、感光性樹脂保持シートを配置し、感光性樹脂保持シートに感光性樹脂を塗布して含浸させ、その上に補強ネットを配置し、密着させ、光照射により感光性樹脂を硬化させたものである。この実施形態では、補強ネットを感光性樹脂保持シートの上に配置し一体としているが、補強ネットの配置は、感光性樹脂保持シートの下に配置しても、感光性樹脂保持シートに挟み込まれるような配置であってもよい。また、補強用シートは、コンクリート構造物又はコンクリート部材の表面に取り付ける前に、一体に形成し、接着剤等でコンクリート構造物又はコンクリート部材の表面に取り付けてもよい。
【0012】
本発明の補強用シートの一実施例の仕様を次の表1に示す。
【表1】

【0013】
本発明の補強用シートの他の実施例の仕様を次の表2に示す。
【表2】

【0014】
表1に示される補強用シートを取り付けた試験体を含む複数の試験体を用いて曲げ引っ張り試験を実施した。
試験内容:
試験体:
寸法:幅23cm、高さ25cm、長さ150cmのコンクリート梁
試験体の配筋:D13を主筋として配置し、支点部分にD10の帯筋を配置した単純梁
コンクリートの一軸圧縮強度:350Kg/cm2
載荷方法:
載荷装置:図2に示される載荷装置を用いた。
載荷装置では、コンクリート梁を支間長120cmの単純梁として保持し、上部より2点載荷をおこなった。ここで、2点載荷の間隔は40cmとし、載荷点は、梁中央点からそれぞれ20cmずつの距離とした。この載荷により、中央の40cmの間において曲げモーメントが一定となる。
表3は複数の試験体の補強仕様を示し、表4は計測項目を示し、表5は使用機器一覧を示し、表6に試験結果一覧を示し、表7に表6の試験結果の数値データの抜粋をしめし。
図3は測定位置を示し、図4は変位と荷重の関係図であり、図5はひび割れ幅と荷重の関係図であり、図6は鉄筋ひずみと荷重の関係図であり、図7はコンクリートひずみと荷重の関係図である。
【表3】

【0015】
【表4】

【0016】
【表5】

【0017】
【表6】

【0018】
【表7】

【0019】
表6の試験結果一覧から、補強ネットを直貼りしたものは、無補強の降伏荷重に比べて1割程度、降伏荷重が増加し、補強ネットに加えて感光性樹脂を含浸し硬化させた感光性樹脂保持シートを配置したものは、、無補強の降伏荷重に比べて2割程度、降伏荷重が増加している。
目合1cmと2cmとの差はほとんどない。これは目合を2cmとした場合も、ネット(束)の太さを2倍として、目付け量は変化させないようにしたことによる。
【0020】
表6の試験結果一覧から、補強ネット、含浸性樹脂、感光性樹脂保持シートの損傷モードについて、次のように考察できる。
(1)補強ネット直貼りの場合(No.2,3,5)
補強ネット直貼りの試験体では、降伏荷重よりも小さい荷重で、含浸性樹脂が破断する。(No.2では、降伏荷重116kNに対して含浸性樹脂が破断するのは110kNである。)
含浸性樹脂に破断が生じるのは、コンクリート梁下端面に0.25−0.30mmのひび割れ幅が発生した時である。
降伏荷重時においても補強ネットは全てが破断している状態までに至っていない。
(2)補強ネット+シートの場合(No.4,6)
補強ネット及び感光性樹脂を含浸させ硬化した感光性樹脂保持シートとも破断するのは、終局時においてであり、今回の試験では、コンクリート梁及び補強シートの破断は同時に発生した。
補強シート破断前の補強材料の変状としては、感光性樹脂を含浸させ硬化した感光性樹脂保持シートの白化現象が試験体の広い範囲に渡って観察された。シートの白化現象については、樹脂面とコンクリート下地との剥がれによるものではなく、シート内部において生じていると判断される。
【0021】
試験体に白化現象が認められたのは、表1の補強シートを取り付けたNo.4,No.6の試験体であった。感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートの白化現象は次のメカニズムで発生すると考えられる。
コンクリート梁への載荷荷重が増加するに従って、コンクリート梁は下方向に撓み、コンクリート梁下端面には曲げ引張力が作用する(載荷試験では2点載荷を行っているので、載荷点の間の曲げモーメントは一定である)。またコンクリート梁下端面に貼り付けられた補強ネットと感光性樹脂を含浸させ硬化させた感光性樹脂保持シートにも曲げ引張力が作用し、引張歪が大きくなる。ここで、補強ネットと感光性樹脂を含浸させ硬化させた感光性樹脂保持シートに作用する歪の大きさは、連続条件が等しくなる。また、表1に示されるように補強ネットの破断伸びが3.7−3.8%であるのに対して、感光性樹脂を含浸させ硬化させたガラス繊維の不織布の破断伸びは1.5%程度である。このことから、載荷荷重が大きくなると、硬化後の感光性保持シートの歪みは、その破断伸びに至り、感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートの微細な破壊が発生し、白化現象が生じる。実際、試験では、No.4,No.6の試験体に広い範囲に渡り補強シートの白化現象が観察された。なお、この時点においても、補強ネットは破断伸びに至っていないこと、補強ネットと感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートとの間には付着力が働いていることから、コンクリート梁から補強ネットには力が伝達されている。ここで、載荷荷重をさらに増加させると、補強シートの破断、さらにはコンクリート梁下端面からの補強シートの剥がれが生じ、さらに補強ネットも破断し、コンクリート梁が破壊する。試験の結果、補強シートの破断面において、補強ネットの繊維束は伸びや抜け出しが見られ、繊維束が解れてばらばらになっているのが観察された。また、コンクリート梁自体の破壊としては、コンクリート梁下端面におけるコンクリートの曲げ引張りによるひび割れの幅等の増加や、コンクリート梁上端面における圧壊などが観察できた。歪の値としては、コンクリート梁の下側の鉄筋に取り付けられた鉄筋歪のデータ(図6の試験体No.4,No.6)から、補強シートの白化現象が生じるのは、鉄筋の降伏歪に当たる1,000マイクロストレインと最大耐力を示す1,200から1,600マイクロストレインで生じたものと考えられる。両者の値は、感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シート(ガラス繊維強化プラスチック)の破断伸び1.5%に近い値となっており、補強ネットの破断伸びには届いていない。これらの関係には、複合材料の複合則が関係しているものと考えられる。
【0022】
表2に示される補強シートにおいて、補強ネットの破断(断線)を視覚で観察することにより、コンクリート構造物又はコンクリート部材の異常を検知することが可能である。ただし、感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートは、補強ネットの一部が破断(断線)した後においても、荷重を支えきるほどの補強効果を有している必要がある。
【0023】
試験結果から、表1に示される補強ネットと感光性樹脂を含浸させ硬化させた感光性樹脂保持シートを使用した場合、シートの白化現象を観察することにより、コンクリート構造物又はコンクリート部材の曲げ引張による破壊を事前に検知できることが判明した。これにより、観察体制を強化したり、コンクリート構造物又はコンクリート部材の補強対策、さらには制限付きの使用や使用禁止処置等により、破壊に伴う損害(人の怪我や死亡事故を含む)や費用を低減することができる。
さらに、前記機能は、コンクリート剥落防止材料又は工法が目的とする性能に付加して、材料の選定により自ずから備わるものであり、何等余分な材料や装置を伴わず、簡便でコストを必要とせず、目視点検の範囲で行えることから便利である。
同じく、表2に示される補強ネットと感光性樹脂を含浸させ硬化させた感光性樹脂保持シートを使用した場合、補強ネットの破断(断線)を観察することにより、コンクリート構造物又はコンクリート部材の曲げ引張による破壊を事前に検知できる。これにより、観察体制を強化したり、コンクリート構造物又はコンクリート部材の補強対策、さらには制限付きの使用や使用禁止処置等により、破壊に伴う損害(人の怪我や死亡事故を含む)や費用を低減することができる。
さらに、前記機能は、コンクリート剥落防止材料又は工法が目的とする性能に付加して、材料の選定により自ずから備わるものであり、何等余分な材料や装置を伴わず、簡便でコストを必要とせず、目視点検の範囲で行えることから便利である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】コンクリート構造物又はコンクリート部材の補強用シートを示す図である。
【図2】載荷試験装置を示す図である。
【図3】試験体の測定位置を示す図である。
【図4】変位と荷重の関係図である。
【図5】ひび割れ幅と荷重の関係図である。
【図6】鉄筋ひずみと荷重の関係図である。
【図7】コンクリートひずみと荷重との関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強ネット・感光性樹脂を含浸させた感光性樹脂保持シートからなる補強用シートを表面に取り付けたコンクリート構造物又はコンクリート部材であって、補強ネットの破断伸びを感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートの破断伸びより大きいものとし、コンクリート構造物又はコンクリート部材に作用する負荷による変形に伴う補強用シートの白化現象を視覚で観察しコンクリート構造物又はコンクリート部材の異常を検知することを特徴とする自己診断機能を有するコンクリート構造物。
【請求項2】
補強ネット・感光性樹脂を含浸させた感光性樹脂保持シートからなる補強用シートを表面に取り付けたコンクリート構造物又はコンクリート部材であって、補強ネットの破断伸びを感光性樹脂が硬化した感光性樹脂保持シートの破断伸びより小さいものとし、コンクリート構造物又はコンクリート部材に作用する負荷による変形に伴う補強ネットの破断を視覚で観察しコンクリート構造物又はコンクリート部材の異常を検知することを特徴とする自己診断機能を有するコンクリート構造物。
【請求項3】
前記補強用シートがコンクリート構造物又はコンクリート部材への取り付け前に一体に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の自己診断機能を有するコンクリート構造物。
【請求項4】
前記補強用シートがコンクリート構造物又はコンクリート部材表面にプライマー塗布し乾燥した後、感光性樹脂保持シートに感光性樹脂の下塗りを施し、その上に、補強ネットを配置し密着させ光照射により樹脂硬化して形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の自己診断機能を有するコンクリート構造物。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己診断機能を有するコンクリート構造物に作用する負荷に伴う視覚的変化を観察することを特徴とするコンクリート構造物の点検・調査・診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−2553(P2007−2553A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184504(P2005−184504)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】