説明

自律分散型プロトコルにおけるデータ同期装置及びデータ同期方法

【課題】自律分散型プロトコルによるネットワークにおいて、時刻管理のための新たなサーバ設置を必要とすることなく、且つ、時刻管理のための新たな情報の管理を必要とせずに、複数のルータ間におけるデータを簡易に同期させる。
【解決手段】自律分散型プロトコルを実行する複数のルータを備えたネットワークにおいて、前記各ルータは、レイヤ2トポロジからレイヤ3トポロジを構築するため、LSAにより自身の各リンクに運用者により事前に割当てられたコストをネットワーク中に広報し、自身のLSAを含め受信した全てのLSAを保存管理するLSDBを備える一方、前記LSAは作成時からの経過時間の情報であるLS Ageを含むとともにLS Ageはルータ間伝搬時に遅延時間が加算されて伝搬され、各ルータはLSA受信時点のLS Ageを常時監視して保存管理し前記LS Ageを使用して各ルータ間のデータの同期を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークを構成する各ルータがデータを広報する場合の同期装置及び同期方法に関し、特に、自律分散型プロトコル(分散ルーティングプロトコル)を動作するルータに実装され、複数のルータ間で、サーバ等による管理や時刻同期を要求することなく、時々刻々と変化するデータのルータ間でのデータ同期を簡易に実現するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワークにおける電力消費の省エネ化を図るため、時々刻々と変化するネットワークの使用状況に応じて、ネットワークの構成を物理的な接続(レイヤ2トポロジ)からレイヤ3トポロジへ動的に変更し、更に不要な機器を停止することでネットワーク全体の電力消費量を削減する手順が非特許文献2に提案されている。
【0003】
このようなネットワークにおいては、時々刻々と変化する機器(ルータ)毎に利用状況(例えばルータが転送するトラヒック量)を他のルータと定期的又はルータが任意のタイミングで交換し、交換したルータ毎の利用状況(転送トラヒック量)からネットワーク全体の利用状況を各ルータが把握する。把握したネットワーク全体の利用状況に応じて最も電力消費量が最適となるようネットワークの構成(レイヤ3トポロジ)をルータ毎に判断し、それぞれが動的に変更される。また、全てのルータで同じネットワークの構成変更を行うためには、その判断材料となるネットワーク全体の利用状況を同じにする必要がある。
【0004】
しかしながら、ネットワークを構成するルータ間には転送遅延があるため、ルータ毎に利用状況を単純にネットワーク中の他のルータに広報するだけでは、各ルータで異なる判断(異なるネットワーク全体の利用状況)となってしまうという問題がある。
例えば、図5に示すように、ルータAとルータBの2つのルータ間で、各ルータが定期的に自身の送受信トラヒック量を監視し、さらにトラヒック情報をネットワーク中に広報する場面を想定する。また、ルータAとルータBの間のネットワークには、5秒間の遅延があるとする(実際に5秒もの遅延があるネットワークは少ないが、あくまで例として仮定する)。
【0005】
ルータAの送受信トラヒック量は現時点(図5(ア)左,0秒)から過去20秒(図5(ア)左,−20秒)は10Mbyteであったとする。また、ルータBの送受信トラヒック量は現時点(図5(ア)右,0秒)から過去10秒(図5(ア)右,−10秒)は20Mbyte,過去10秒(図5(ア)右,−10秒)から過去20秒(図5(ア)右,−20秒)までは10Mbyteであったとする。自身のルータに関する送受信トラヒック量は、自身の値を参照するので遅延なく取得することができる。
【0006】
その一方、ルータA及びルータBが自身の送受信トラヒック量をネットワーク中に広報する場合、ネットワークに5秒間の遅延があるため、トラヒック情報のみを定期的に広報すると、ルータBの送受信トラヒック量情報は、ルータA上では、実際の送受信トラヒック量の変化より5秒間遅れることとなる(図5(イ)左)。また、同様にルータAの送受信トラヒック量情報はルータB上では、実際の送受信トラヒック量の変化より5秒遅れる(図5(イ)右)。
上記(ア)(イ)の情報よりネットワーク遅延を考慮せずに、例えば過去10秒間のネットワーク全体(ルータAとルータB)の送受信トラヒック量の平均を求める場合、ルータAとルータBで求まる値は、遅延により異なる値となる(図5(ウ))。
【0007】
非特許文献1では、この課題に対処するため、時々刻々と変化するネットワークの使用状況を、新たに設置した管理サーバが集中管理し、さらに集中管理サーバが一括してネットワークの構成を変更することが行われている。
【0008】
すなわち、図6に示すように、各ルータの送受信トラヒック量(図6(ア))を、管理サーバが各送受信トラヒック量(図6(イ))として一括管理することで、送受信トラヒック量の平均を求める(図6(ウ))。この場合、各ルータと管理サーバ間の遅延に関係なく、ネットワークの使用状況を管理する主体が管理サーバの1カ所であるため、図5で説明した不都合は発生しない。
【0009】
また、非特許文献2及び非特許文献3には、ネットワークにおいてルータ間の時刻同期を行う方法が開示されている。ルータ間の時刻同期により、広報する各ルータの送受信トラヒック量に時刻情報を加えて広報するものである。図5と同様に、ルータA及びルータBの2つのルータを5秒の遅延があるネットワークで接続した場合を例に図7を参照して説明する。
【0010】
ルータAの送受信トラヒック量は現時点(図7(ア)左,0秒)から過去20秒(図7(ア)左,−20秒)は10Mbyteであったとする。また、ルータBの送受信トラヒック量は現時点(図7(ア)右,0秒)から過去10秒(図7(ア)右,−10秒)は20Mbyte,過去10秒(図7(ア)右,−10秒)から過去20秒(図7(ア)右,−20秒)までは10Mbyteであったとする。自身の送受信トラヒック量は、自身から値を参照するのみであるので遅延なく取得することができる。
【0011】
ルータA及びルータBが自身の送受信トラヒック量をネットワーク中に広報する際、広報する送受信トラヒック量に加えて時刻情報も併せて送信する。時刻は、非特許文献3及び非特許文献4に記載の手順により、ルータA及びルータB間で同期されているものとする。ネットワークに5秒間の遅延があるため、ルータBの送受信トラヒック量情報は、ルータA上では、実際の送受信トラヒック量の変化より5秒間遅れることとなる(図7(イ)左)。また、同様にルータAの送受信トラヒック量情報はルータB上では、実際の送受信トラヒック量の変化より5秒遅れる(図7(イ)右)。
【0012】
上記(イ)の情報に含まれる時刻情報と受信時点の時刻との比較により、各ルータは、ネットワークに5秒の遅延があることを知ることができる。平均を求める場合、左記遅延時間により、受信データを補正することで、ルータA及びルータBともに同じ結果を得ることができる(図7(ウ))。
【0013】
また、上記の時刻情報に代えて遅延情報を、ルータ自身が送受信するトラヒック情報に加えて送信して広報することも可能である。
【0014】
更に、ネットワーク中の全てのリンクの遅延情報(ルータAとルータB間は5秒であるという情報と同様に、他の全てのルータ組合せ間の情報)が既知の場合、予め全てのリンクの遅延情報を各ルータ内に保存して管理することもできる。各ルータは、受信した情報を遅延情報で補正することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特願2009−001101
【特許文献2】特願2009−083444
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】荒川豊,石井大介,津留崎彩,山中直明,石川浩行,斯波康裕,"ネットワークの低消費電力化に向けた網再構成手法,"電子情報通信学会技術研究報告 フォトニックネットワーク研究会 PN2008-16 Vol.108, No.183, pp.13-18, Aug. 2008.
【非特許文献2】RFC1305 NTP (Network Time Protocol), 1992
【非特許文献3】RFC2030 SNTP (Simple Network Time Protocol), 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述した非特許文献2に記載のシステムであると、各ルータの送受信トラヒック量を一括管理する大容量の管理サーバの設置が必要となり、コスト増になるという課題があった。
上述した非特許文献3及び非特許文献4に記載のシステムであると、NTPサーバが必要になるとともに、ルータ間の時刻同期が必要になるという課題があった。
【0018】
また、遅延情報の広報による方式である場合、遅延情報を広報するために新たなパケットを規定する必要があるという課題があった。更に、多数のルータが存在するネットワークでは、通常ルータが多段に接続され、例えばルータAとルータXとの間に10個のルータが存在する場合、ルータAに到達する時点のルータXの情報は、10個のルータによる遅延時間の総和となり、その管理も必要となる。
また、遅延時間情報の登録による方式である場合、ルータの追加等が行われた場合に、各ルータの遅延時間情報の更新が必要になり管理が煩雑になるという課題があった。
【0019】
本発明は上記実情に鑑みて提案されたものであり、自律分散型プロトコル(OSPF:Open Shortest Path Fast)において、時刻管理のための新たなサーバ設置を必要とすることなく、且つ、時刻管理のための新たな情報の管理を必要とせずに、複数のルータ間におけるデータの取得を簡易に同期させることができる同期装置及び同期方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため本発明は、自律分散型プロトコル(OSPF:Open Shortest Path Fast)によりルーティングを行う複数ルータを備えたネットワークにおいて、各ルータが定期的又は任意のタイミングで計測又は取得するトラヒック量等の情報や、ルータの給気面温度のような環境情報(以下、単にデータと呼ぶ)を複数のルータ間で交換する際、サーバ等によるデータの管理やルータ間の時刻同期を要求することなく、データを複数のルータ間で簡易に同期可能とするものである。
【0021】
すなわち請求項1は、自律分散型プロトコルを実行する複数のルータを備えたネットワークにおいて、
リンクを介して接続された前記各ルータは、
レイヤ2トポロジからレイヤ3トポロジを構築するため、LSAとして自身の各リンクに予め割当てられたコストをネットワーク中に広報し、自身のLSAを含めたルータから受信した全てのLSAを保存管理するLSDBを備えた制御部と、
前記LSAは作成時からの経過時間の情報であるLS Ageを含むとともにLS Ageはルータ間伝搬時に遅延時間が加算されて伝搬され、各ルータがLSAを受信した時点のLS Ageを、LSAを送信したルータから自身までのネットワーク遅延情報として算出する遅延情報算出部と、
ネットワーク中に広報するデータを管理するとともに、他のルータが広報したデータを受信するデータ送受信部と、
前記データ送受信部で受信した各ルータからのデータを管理するためルータ数に対応したデータ管理テーブルとネットワーク遅延情報部を有する送受信情報管理部と、
を具備し、
前記送受信情報管理部は、前記遅延情報算出部で算出したネットワーク遅延情報を前記ネットワーク遅延情報部に格納し、前記ネットワーク遅延情報に基づいて前記各データ管理テーブルで管理されたデータ間の同期をとる
ことを特徴としている。
【0022】
請求項2は、請求項1のデータ同期装置において、前記送受信情報管理部は、受信データを格納するデータ管理テーブルに、データが生成されてからの時間を管理するためのAgeフィールドを有し、データ管理テーブルにおいて直前にエントリされたAgeフィールドは、1秒毎にルータによりインクリメントすることを特徴としている。
【0023】
請求項3の自律分散型プロトコルにおけるデータ同期方法は、
自律分散型プロトコルを実行する複数のルータを備えたネットワークにおいて、
前記各ルータは、レイヤ2トポロジからレイヤ3トポロジを構築するため、LSAにより自身の各リンクに運用者により事前に割当てられたコストをネットワーク中に広報し、自身のLSAを含め受信した全てのLSAを保存管理するLSDBを備える一方、
前記LSAは作成時からの経過時間の情報であるLS Ageを含むとともにLS Ageはルータ間伝搬時に遅延時間が加算されて伝搬され、
各ルータはLSA受信時点のLS Ageを常時監視して保存管理し前記受信時点のLS Ageを使用して各ルータ間のデータの同期を簡易に行う
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明のデータ同期装置及びデータ同期方法によれば、自律分散型プロトコル(OSPF:Open Shortest Path Fast)によりルーティングを行う複数ルータを備えたネットワークにおいて、サーバやネットワーク遅延を広報するための新たなパケットを定義することなく、OSPFに規定されたLSA受信時点のLS Ageを監視し、LS Ageの情報とともに、ルータ毎にデータを履歴管理することで、ルータ間のデータ同期を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のデータ同期装置が用いられる自律分散型プロトコル(OSPF)によるネットワークにおける利用率の高い時間帯と低い時間帯の動作をイメージしたモデル図である。
【図2】本発明の自律分散型プロトコル(OSPF)におけるデータ同期装置が用いられる想定環境を示すモデル図である。
【図3】本発明のデータ同期装置の実施形態の一例を示すブロック図である。
【図4】自律分散型プロトコル(OSPF)によるネットワークにおける各ルータ間のLSA伝搬を説明するためのモデル図である。
【図5】ネットワークを構成するルータ間の遅延を説明するためのモデル図である。
【図6】従来技術におけるルータ間の遅延を回避するために時刻を一括管理する管理サーバを使用する例を説明するためのモデル図である。
【図7】従来技術におけるルータ間の遅延を回避するために時刻同期を行うNTPサーバを使用する例を説明するためのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の自律分散型プロトコル(OSPF)におけるデータ同期装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する
本発明のデータ同期装置は、例えばネットワーク全体の電力消費量削減を目的に、ネットワーク上に複数存在するネットワーク機器(ルータ)が、ネットワークの利用状況に応じその構成を動的に変更し、さらに構成変更によりトラヒック転送に不要となったネットワーク機器(ルータ)の電源を停止する場合の各ルータに適用する。
【0027】
すなわち、図1に示すように、ネットワークシステムを構成する各ノード1は、物理的な配線であるリンク(レイヤ2トポロジ2)により相互に接続され、自律分散的なプロトコルを構築している。
ネットワークシステムにおいては、全て若しくは一部のノード1が特許文献2で提案した機能を有することで、ノード1の物理的な配線(レイヤ2トポロジ2)から、ネットワークの論理構成(トラヒックをどのように転送するかのレイヤ3トポロジ3)を動的に生成する。レイヤ3トポロジ3は、ネットワークの利用状況に応じて、システムにおいて動的に変更される。
【0028】
例えば、利用率が高い(ネットワーク中を流れるトラヒック量が多い)利用状況の場合、ネットワーク中の全ノードを用いた効率的なトラヒック転送を実施し(図1左)、利用率が低い利用状況となった場合には、一部のノードのみを用いてトラヒック転送するようレイヤ3トポロジを変更し、さらに不要なノードとリンクを停止する(図1右)。
【0029】
停止中のノードの情報は、起動中の周囲のノード1が管理し、例えばトラヒック利用率が低い状況から高い状況に変化した場合には、周囲のノード1が停止中のノード1をネットワーク経由で起動する。このようなレイヤ2トポロジからレイヤ3トポロジを構築するための自律分散型プロトコル(OSPF)は、例えば、RFC2328 OSPF Version 2, 1998、http://www.ietf.org/rfc/rfc2328.txt等に開示されている。
【0030】
自律分散型プロトコル(OSPF)のネットワークにおいて、全てのルータで同じネットワークの構成変更を行うためには、背景技術で説明したように、その判断材料となるネットワーク全体の利用状況が同じタイミングのものである必要がある。各ルータは、把握したネットワーク全体の利用状況に応じて最も電力消費量が最適となるようネットワークの経路構成(レイヤ3トポロジ)をそれぞれ判断し、動的に変更を行うからである。
そして、本発明で新たに提案する自律分散型プロトコル(OSPF)のネットワークの各ルータでは、利用状況が同じタイミングのものでネットワーク全体の利用状況を把握するため、同時期のデータを共有するためのデータ同期装置を有している。
【0031】
このデータ同期装置の構成について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、図1で示したネットワークの一部を取り出したもので、自律分散型プロトコル(OSPF)で動作するルータ1としてルータA(10.1.1.1)、ルータB(10.1.1.2)、ルータC(10.1.1.3)がリンクを介して接続されている。
【0032】
各ルータ1内には、図3に示すように、ルータ間に生じる遅延情報を算出する遅延情報算出部10と、他のルータとの間でデータの送受信を行うデータ送受信部20と、データ送受信部20で受信した情報について延情報算出部10で算出した遅延情報を考慮して管理する送受信情報管理部30と、ネットワーク全体の利用状況に応じて経路構成(レイヤ3トポロジ)を行うためのデータを保持管理するとともに前記各部の制御を行う制御部40とを備えたデータ同期装置が構築されている。
【0033】
制御部40は、レイヤ2トポロジからレイヤ3トポロジを構築するため、隣接するノード(B)との経路コストの値であるLSA(Link State Advertisement)を保存管理するLSAテーブル41を備えている。また、制御部40は、ネットワーク中の他ノードにLSAの各値を送信して広報する。
【0034】
LSAテーブル41で管理されるコストは、ノードのネットワークインタフェース(リンク)毎に運用者により予め設定された値であり、コストの値が低いとレイヤ3トポロジ算出時に経路として選択され易いことを意味している。このコストの値は、ネットワーク利用状況に応じて制御部40が書き換えるようになっている。
【0035】
また、制御部40は、他のノードからのコスト値(LSA)がそれぞれ送信され、自身のLSAを含め受信した全てのLSAを保存管理するLSDB(データベース)42を備えている。制御部40は、LSDB42を参照することで、レイヤ2トポロジとリンクのコストが分かる。
【0036】
また、LSDB42で管理される各LSAは、図3に示すように、少なくともルータID、シーケンス番号、LS Ageフィールドを有している。図3中のLSDB42では、同期装置の動作に必要な情報以外のフィールド(例えばコスト値)は省略している。
【0037】
ルータIDはOSPFルータを一意に識別するために使用される。ルータIDはIPアドレスの形式となる。図2及び図3の例では、ルータAがIPアドレス「10.1.1.1」を有し、ルータBがIPアドレス「10.1.1.2」を有し、ルータCがIPアドレス「10.1.1.3」を有している。
【0038】
シーケンス番号は、ルータによるLSAの広報毎に更新される番号であり、同じLSAのインスタンスが2つある場合、いずれが新しいかを識別するために用いられる。
【0039】
また、LSDB42における各LSAのLS Ageフィールドは、LSAが生成されてから経過した時間(秒)を示す。図3の例では、ルータAについての説明であるため、IPアドレス「10.1.1.1」は自身となるので、LS Ageが「0」(ルータAが自身のLSAを更新した直後を図示しているとする)となり、LSAの生成からIPアドレス「10.1.1.2」(ルータB)は125秒、IPアドレス「10.1.1.3」(ルータC)は20秒が経過していることを示している。
【0040】
また、LSDB42における各LSAのLS Ageフィールドの値(時間)は、LSAを受信した後に1秒ずつ加算される。図3で示したLSDB42は、自身のルータのLSAのLS Ageが「0」であるので、自身のLSAを更新した直後を示している。表中のLS Ageフィールドの値(時間)は、この後、それぞれ毎秒1ずつ加算される。
【0041】
通常、制御部40のLSDB42におけるLS Ageフィールドの値は、0〜30分(1800)の範囲にあり、自身のルータに対応する(生成元の)LSAの値が30分になると、ルータがLSAテーブル41のLSAを新たに作成し、広報することで、LSAをリフレッシュする。新しいLSAではシーケンス番号が更新され、新しいLSA を受信したルータのLSDB42では、LS Ageの値がリセットされる。
【0042】
データ送受信部20は、送受信するトラヒック情報や温度情報等、ネットワーク中に広報するデータを管理し、定期的またはデータの更新があった等、予め運用者等により設定されたタイミングでデータをネットワーク中に広報する。広報は、各ルータに対してブロードキャストやマルチキャストによりデータ送信することで実現される。また、データ送受信部20は、他のルータがネットワーク中に広報したデータを受信する。
【0043】
また、データ送受信部20は、自律分散型プロトコル(OSPF)のネットワークにおいて、ネットワーク中の全てのルータにくまなくLSAを伝搬するため、各ルータがLSAを受信した場合、LSAを受信したリンク以外の全てのリンクにLSAを伝搬することが行われる。この伝搬は、図4に示すように、例えばLSAを更新したルータAがネットワーク中に自身のLSAを広報する場合、LSAを受信したルータBなどの他のルータは、LSAを送信したリンク以外の他のリンクに順次LSAを伝搬する。LSAを伝搬するに際し、各ルータはリンク(これからLSAを伝搬するリンク)による遅延時間をLS Ageに加えて次のルータへ伝搬すること(LSAの伝搬処理)が行われる。
ルータ間のリンクによる遅延時間は、OSPFを実行するルータがそれそれリンク毎に保持している。すなわち、各ルータは、当該ルータに直接接続されている各リンクについて、運用者により事前に設定された遅延時間を管理している。
したがって、各ルータでルータにより伝搬されてきたLSAを受信した時点のLS Ageは、LSAを送信したルータから受信したルータまでの遅延時間を表すことになる。図4の場合、ルータBでは、ルータAが送信したLSAのLS Age(ルータAはLS AgeをルータA〜B間の遅延とする)に対してルータB〜C間の遅延時間を加算し、他のリンクに伝搬する。ルータCで受信する時点では、ルータAが送信したLSAのLS AgeはルータA〜C間の遅延時間となる。
【0044】
このLSAの伝搬処理により、ネットワーク中の全てのルータに漏れなくLSAが伝搬されることとなる。
【0045】
遅延情報算出部10は、制御部40が他のルータにより伝搬されてきたLSAの受信を検知した際、LSAを受信した時点のLS Ageを、LSAを送信したルータから自身(受信したルータ)までのネットワーク遅延として算出する。
【0046】
送受信情報管理部30は、トラヒック情報量等、同期が必要なデータを管理する。ネットワーク中の各ルータに対応した数のデータ管理テーブル31とネットワーク遅延情報部32を有する。
データ管理テーブル31は、各ルータからデータ送受信部20で受信したデータを受信順に管理保存するテーブルであり、データ送信からの経過時間を管理するAgeフィールドを有している。
ネットワーク遅延情報部32は、遅延情報算出部10で算出した各ルータとのネットワーク遅延を、各ルータに対応するデータ管理テーブル31に紐づけて格納するものである。
【0047】
続いて、上述したデータ同期装置を備えた各ルータにおけるデータの送受信についての具体的な動作について説明する。
【0048】
(LSA送信S01及びLSA受信S02によるLSDB作成処理)
制御部40によりLSAがネットワーク中に広報され(S01)、各ルータは受信したLSA(S02)を、LSAを管理するためのLSDB42に保存する。LSDB42は、保存する全てのLSAのLS Ageを1秒ずつ加算する。また、各ルータは、LSAのLS Ageフィールドの値が一定値(例えば、30分、1800)になる前に、LSAを新たに作成し、広報することで、LSAを更新する(機器故障等により通信できない環境とならない限り、LSDB42内の全てのLSAのLS Ageは1800以下に保たれる)。
【0049】
(遅延情報伝搬処理S03)
また、各ルータがLSAを受信した場合(S02)、受信したLSAのLS Ageに伝搬先のリンクの遅延を加算し、LSAを受信したリンクを除く他のリンクからLSAを伝搬する(S03)。この伝搬は、図4に示すように、LSA受信したルータが、LSAを受信したリンク以外の全てのリンクにLSAが順次伝搬されるようにして行われる。
そして、制御部40が他のルータからLSAを受信した場合(S02)、次ルータへLSAを伝搬するに際し、各ルータの制御部40は送信先のリンクの遅延時間をLS Ageに加えることが行われる。
すなわち、各ルータにおいて、伝搬LSAを受信した時点のLS Ageは、LSAを送信したルータから受信したルータまでの遅延時間を表すことになる。
【0050】
(遅延情報更新処理S1)
遅延情報算出部10は、制御部40が他の各ルータからLSA受信を検知した際、LSAを受信した時点のLS Ageを、LSAを送信したルータから自身までのネットワーク遅延として算出する。検出した各ルータに対応するネットワーク遅延は、送受信情報管理部30に出力される。図3の場合、ルータBのネットワーク遅延のみを示し、LSAを受信した時点のLS Ageから求めたネットワーク遅延時間が「5秒」となっている。
【0051】
送受信情報管理部30は、LSDBに含まれるLSAのエントリ毎(ネットワーク中に含まれるルータ毎)にデータ管理テーブル31とネットワーク遅延情報部32を有しているので、遅延情報算出部30により検出したネットワーク遅延は、LSAに含まれるルータIDにより識別され、ルータIDに関連付けられたネットワーク遅延情報部32に保存される。ネットワーク遅延情報は、ルータがLSAを受信する毎に更新される。
【0052】
(定期送信処理S2)
データ送受信部20は、トラヒック情報等ネットワーク中で同期したい情報を定期的にネットワーク中に広報する。広報は、ブロードキャストまたはマルチキャスト送信によりネットワーク中に伝搬される。広報する際の送信元アドレスは、OSPFで規定されているルータIDと同じとする。
【0053】
(データ受信処理S3)
他のルータが広報したトラヒック情報等のデータを受信した場合、受信データは、受信情報管理部30に渡される。
【0054】
(テーブル更新処理S4)
受信情報管理部30は、各ルータからの受信データを各データ管理テーブル31で管理する。データ管理テーブルは、番号、データ、Ageから構成される。
番号は、データを履歴管理するために用いられ、小さいほど新しいデータとする。またAgeは、データが生成されてからの時間を秒単位で示す。
【0055】
データを受信した場合、受信したデータには最も新しいデータであることを示す番号「0」が割当てられる。それまで、番号「0」に割当てられたデータは「1」に、「1」に割り当てられていたデータは「2」に順に再格納される。
また、Ageには、受信した時点で、予め遅延情報更新処理S1の手順により取得したネットワーク遅延(例えば図3では、ルータBに対しては5秒)が設定される。さらに、それまで番号「0」に割当てられたデータを「1」に再格納する際、Ageからネットワーク遅延(5秒)が差し引かれる。「1」「2」…割り当てられていたデータは、そのまま「2」「3」…に再格納される。
【0056】
データ管理テーブルの番号「0」のエントリのAgeのみは、1秒毎にルータによりインクリメントされる。
その結果、各ルータにおける各データ管理テーブル31の番号「0」に対応する受信データについて、実時間で管理することが可能となる。
【0057】
上述したデータ同期装置を使用して、各データ管理テーブル31より、ルータAとルータBが過去30秒間に送受信したトラヒック量の平均を求める場合を例示する。
ルータAのトラヒック量については、ルータAのデータ管理テーブル31より、直前29秒が10Mbyte、それより前の195秒が12Mbyteであるため、直前30秒間でのトラヒック量は、
(10Mbyte × 29) + (12Mbyte × 1)= 302
となる。
ルータBのトラヒック量については、ルータBのデータ管理テーブルより、
(20Mbyte × 5) + (10Mbyte × 25)= 350
となる。
したがって、30秒間の平均トラヒック量は、
{ルータA(302) + ルータB(350)} ÷ 30 = 21.73333…Mbyte
と求めることができる。
【0058】
上述したデータ同期装置によれば、自律分散型プロトコル(OSPF:Open Shortest Path Fast)により、ルーティングを行うネットワークを対象に、サーバやネットワーク遅延を広報するための新たなパケットを定義することなく、OSPFに規定されたLSA受信時点のLS Age(伝搬されるLSAのLS Age)を監視し、LS Ageの情報とともにルータ間の遅延時間を算出することで、ルータ毎に設けたデータ管理テーブルにより履歴管理し、ルータ間におけるデータ同期が可能となり、実時間でデータを管理することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…ノード、 2…リンク(レイヤ2トポロジ)、 3…レイヤ3トポロジ、 10…遅延情報算出部、 20…データ送受信部、 30…送受信情報管理部、 31…データ管理テーブル、 32…ネットワーク遅延情報部、 40…制御部、 41…LSA、 42…LSDB。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律分散型プロトコルを実行する複数のルータを備えたネットワークにおいて、
リンクを介して接続された前記各ルータは、
レイヤ2トポロジからレイヤ3トポロジを構築するため、LSAとして自身の各リンクに予め割当てられたコストをネットワーク中に広報し、自身のLSAを含めたルータから受信した全てのLSAを保存管理するLSDBを備えた制御部と、
前記LSAは作成時からの経過時間の情報であるLS Ageを含むとともにLS Ageはルータ間伝搬時に遅延時間が加算されて伝搬され、各ルータがLSAを受信した時点のLS Ageを、LSAを送信したルータから自身までのネットワーク遅延情報として算出する遅延情報算出部と、
ネットワーク中に広報するデータを管理するとともに、他のルータが広報したデータを受信するデータ送受信部と、
前記データ送受信部で受信した各ルータからのデータを管理するためルータ数に対応したデータ管理テーブルとネットワーク遅延情報部を有する送受信情報管理部と、
を具備し、
前記送受信情報管理部は、前記遅延情報算出部で算出したネットワーク遅延情報を前記ネットワーク遅延情報部に格納し、前記ネットワーク遅延情報に基づいて前記各データ管理テーブルで管理されたデータ間の同期をとる
ことを特徴とする自律分散型プロトコルにおけるデータ同期装置。
【請求項2】
前記送受信情報管理部は、受信データを格納するデータ管理テーブルに、データが生成されてからの時間を管理するためのAgeフィールドを有し、
データ管理テーブルにおいて直前にエントリされたAgeフィールドは、1秒毎にルータによりインクリメントする
請求項1に記載の自律分散型プロトコルにおけるデータ同期装置。
【請求項3】
自律分散型プロトコルを実行する複数のルータを備えたネットワークにおいて、
前記各ルータは、レイヤ2トポロジからレイヤ3トポロジを構築するため、LSAにより自身の各リンクに運用者により事前に割当てられたコストをネットワーク中に広報し、自身のLSAを含め受信した全てのLSAを保存管理するLSDBを備える一方、
前記LSAは作成時からの経過時間の情報であるLS Ageを含むとともにLS Ageはルータ間伝搬時に遅延時間が加算されて伝搬され、
各ルータはLSA受信時点のLS Ageを常時監視して保存管理し前記受信時点のLS Ageを使用して各ルータ間のデータの同期を簡易に行う
ことを特徴とする自律分散型プロトコルにおけるデータ同期方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−211429(P2011−211429A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76217(P2010−76217)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構「新世代ネットワークの構築に関する設計・評価手法の研究開発 課題ウ:ネットワークのエネルギー消費を低減させる新しい技術の研究開発およびその評価〜省電力ネットワークプロトコル技術〜」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599108264)株式会社KDDI研究所 (233)
【Fターム(参考)】