説明

自律応答性ゲルの配列体、自律応答体、自律応答装置、自律応答方法、及び自律応答性ゲルの配列体の製造方法

【課題】外部刺激によって自律応答する自律応答性ゲルの配列体、自律応答体及び自律応答性ゲルの配列体の製造方法の提供。また自律応答性ゲルの配列体の自律応答を電位によって制御する自律応答装置及び自律応答方法の提供。
【解決手段】本発明の自律応答性ゲルの配列体は、自律応答性ゲルで形成された、直径1μm〜1000μm、軸方向の高さ20μm〜400μmの複数の突起と、前記突起の軸方向の一部で連結し該突起と同質の自律応答性ゲルで構成される自律応答性ゲル層と、を有する。本発明の自律応答体は、前記自律応答性ゲルの配列体の間隙に反応基質が充填されてなる。本発明の自律応答性ゲルの配列体は、フォトマスクを介した紫外線照射により作製される。本発明の自律応答体の自律応答は、自律応答性ゲルへの電圧印加により制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律応答性ゲルの配列体、自律応答体、自律応答装置、自律応答方法、及び自律応答性ゲルの配列体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の特性は、構成する元素の熱力学安定構造(結晶構造などの周期構造)により決定されるため、人工的な規則構造を付与することで物質の新たな機能の発現が期待できる。超格子膜や規則配列構造は、この一例であり、様々な物質創成研究が行われている。
一方で、生体機能はその階層的な内部構造によって、様々な機能を発現させていることが知られており、人工規則構造にはない、刺激の応答により内部構造を変化させるインテリジェント機能を有している。
【0003】
ここで、万能計算機概念として提唱されたセルオートマトン(以下、「CA」と称する場合がある)は、そのような刺激応答性を人為的に発現する原理の一つと考えられているが、未だ複雑系現象のシミュレーション手法に用いられるに留まっている。
【0004】
一方、Turingは、自然界に存在する様々なパターン形成原理を、反応拡散系原理(以下、「RD原理」と称する場合がある)によると予測した。反応拡散系研究は、シミュレーションによる様々なパターン予測に留まらす、実験的にも人工的パターン形成原理としての有用性が実験検証されつつある。
【0005】
CA及びRD原理は、超格子膜や規則配列構造などと同じく、人為的なミクロの基本構成要素の機能を基本としている。しかし、大きな違いは、隣接するミクロ要素の単純な相互作用により、このミクロ要素のサイズスケールよりも遥かに大きなパターン形成、あるいは階層的なパターン形成が行われ、更に原理的には動的な時空間パターンを形成し得る点にある。これはミクロ要素の機能をマクロな機能に結び付ける一つの典型的な仕組みであり、生体機能も多くこの仕組みを利用している。したがって、CA及びRD原理は、従来型の材料創成手法に無い「局所刺激に対しマクロ機能が変化・応答するインテリジェント性」を付与できる可能性がある。
【0006】
ここで、セルオートマトン(CA)とは、隣り合う要素間の相互作用だけを決めて、集団現象、非線形、非平衡現象を予測する数理モデルである。計算科学の分野では、既に森林火災、交通渋滞のシミュレーション、重油の流出分布の予測などに利用されている。
例えば、(1)同じ大きさの均一なセルを有し、(2)前記セルは、有限の個数で構成され、(3)時間tにおけるある特定のセルの状態によって、時間t+1における前記特定のセルに隣接するセルの状態が決定されるという情報を与えることにより、所望の時空間パターンを示すセルオートマトンが実現される。
【0007】
CA原理を用いた応用例として、熱・光・イオンなどの流れを可変的に制御できる「エネルギーフィルター」や、自律的なゲルの膨張伸縮運動により、物質を輸送できる「人工鞭毛」のようなデバイスの創製が期待される。熱の流れを可変的に制御できる技術は、廃熱利用における重要技術と考えられる。このセルオートマトン的エネルギーフィルターの利点は、(1)部分的な刺激によりマクロなエネルギーの流量を制御できること、(2)自律応答現象を利用して直流から交流へ変換できること等が挙げられ、新たなマクロ機能を発現させる。
【0008】
上述の、外部刺激に応答してマクロ機能(階層構造)が動的変化するCA型機能材料は、大きくは次の3つの要素に分けることができる。
(1)同じ大きさのセルで構成される規則配列体の形成。
(2)前記セルに、刺激に対するスイッチ機能の付与。
(3)各セル間を相互的に作用させる機能の付与。
【0009】
ここで、刺激に対するスイッチ機能を有する自律応答性ゲルとして、Ru錯体を含有するゲルが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
このゲルは、ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応)を利用した、自律的かつ周期的に膨順収縮振動するゲルである。ルテニウム錯体(Ru(bpy))はBZ反応溶液中で周期的に酸化還元変化を起こし、価数が2価と3価との間で周期的に変化する。Ru錯体の酸化状態(3価)は親水性を示し、還元状態(2価)は疎水性を示す。非特許文献1に記載のポリマーゲルは、温度応答ポリマーであるため、Ru錯体の酸化還元状態の変化により、相転移温度が変化し、結果、膨順収縮振動する。
【0010】
また、自律応答性ゲルの規則配列体の製造方法としては、X線を用いた3次元微細加工法などが適用されており、数百μm程度のサイズに加工されている(例えば、前述の非特許文献1参照)。
また、他の製造方法としては、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔を利用した規則配列体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−62049号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】坂井崇匡、吉田亮「自励振動ゲルを用いた時空間機能表面の作製」表面科学Vol.28,No.11,p647〜652,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、規則配列体の形成方法としては幾つか提案されているが、各セル間を効果的に相互に作用させる方法については明らかにされていない。
【0014】
そこで、本発明の課題は、外部刺激によって自律応答する自律応答性ゲルの配列体、自律応答体、及び自律応答性ゲルの配列体の製造方法を提供することである。
また、本発明の課題は、自律応答性ゲルの配列体の自律応答を電位によって制御する自律応答装置、及び自律応答方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、
自律応答性ゲルで形成された、直径1μm〜1000μm、軸方向の高さ20μm〜400μmの複数の突起と、
前記突起の軸方向の一部で連結し、該突起と同質の自律応答性ゲルで構成される自律応答性ゲル層と、
を有する自律応答性ゲルの配列体である。
【0016】
請求項2に係る発明は、
前記自律応答性ゲル層の厚さが、前記突起の軸方向の長さに対して、1%以上30%以下である請求項1に記載の自律応答性ゲルの配列体である。
【0017】
請求項3に係る発明は、
前記自律応答性ゲルが、刺激応答性である請求項1又は請求項2に記載の自律応答性ゲルの配列体である。
【0018】
請求項4に係る発明は、
前記自律応答性ゲルが、
N−イソプロピルアクリルアミドと、
ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky反応)の触媒であるルテニウム錯体、セリウム錯体、マンガン錯体、又は鉄−フェナントロリン錯体を有するモノマーと、
に由来する構成単位を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体である。
【0019】
請求項5に係る発明は、
前記ルテニウム錯体を有するモノマーが、下記化学式(1)で表される化合物である請求項4に記載の自律応答性ゲルの配列体である。
【0020】
【化1】

【0021】
請求項6に係る発明は、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体と、
前記配列体の間隙に充填した、反応拡散を伝達する反応基質と、
を有する自律応答体である。
【0022】
請求項7に係る発明は、
前記反応基質が、有機酸、無機酸、及び酸化剤を含む混合溶液である請求項6に記載の自律応答体である。
【0023】
請求項8に係る発明は、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体と、
前記配列体の間隙に充填した、反応拡散を伝達する反応基質と、
前記配列体の一部に接続した電極と、
前記反応基質に接する電極と、
前記電極に電圧を印加する電圧印加装置と、
を有する自律応答体の自律応答装置である。
【0024】
請求項9に係る発明は、
請求項6又は請求項7に記載の自律応答体に、−0.5V〜−2.0Vの電圧を印加する自律応答体の自律応答方法である。
【0025】
請求項10に係る発明は、
自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液に、
フォトマスクを介して紫外線を照射する、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0026】
請求項11に係る発明は、
照射強度が10mW/cm以上5000mW/cm以下の紫外線を、50秒以上10000秒以下で照射する請求項10項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0027】
請求項12に係る発明は、
下記式(1)を満たす照射量で前記紫外線を照射する請求項10又は請求項11に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
100000≧照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)≧500 式(1)
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、外部刺激によって自律応答する自律応答性ゲルの配列体、自律応答体、及び自律応答性ゲルの配列体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、自律応答性ゲルの配列体の自律応答を電位によって制御する自律応答装置、及び自律応答方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の自律応答体の一例を表す模式断面図である。
【図2】自律応答性ゲルの配列体の作製方法を説明する模式図である。
【図3】自律応答性ゲルを自律応答させる電圧印加方法の一例を示す図である。
【図4】本発明の自律応答装置の一例を示す模式図である。
【図5】実施例1で得た自律応答性ゲル配列体の断面の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で得た自律応答性ゲル配列体が、電圧印加によって自律応答する様子を示す写真である。(A)は電圧印加して2分後の様子を示す写真であり、(B)は電圧印加して5分後の様子を示す写真である。
【図7】図6の写真を説明するための図である。図7(A)(B)は、図6(A)(B)にそれぞれ対応する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態の一例について図面を参照し説明する。なお、実質的に同様の機能を有するものには、全図面を通して同じ符号を付して説明し、場合によってはその説明を省略することがある。
【0031】
<自律応答性ゲルの配列体、及び自律応答体>
本発明の自律応答性ゲルの配列体は、自律応答性ゲルで形成された直径1μm〜1000μm、軸方向の高さ20μm〜400μmの複数の突起と、前記突起の軸方向の一部で連結し該突起と同質の自律応答性ゲルで構成される自律応答性ゲル層と、を有する。
また、本発明の自律応答体は、前記自律応答性ゲルの配列体と、該配列体の間隙に充填した、反応拡散を伝達する反応基質と、を有する。
【0032】
ここでまず始めに、これまで原理的に考えられていた、規則配列体の各セル間を相互的に作用させる方法について説明する。
自律応答の一つであるBZ反応では、P.Foersterらが提唱する下記式(1)(2)の2変数のOregonatorモデル、及び実験から得た下記式(3)(4)によれば(P.Foerster, S.C.Muller, B.Hess, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.86, p6831-6834 (1989)、 P.Foerster, J.Phys.Chem., Vol.94, Issue.26, p8859-8861 (1990))、自律応答性ゲルの大きさ(直径)に応じて、平面波速度cや拡散係数Dを調整することで、配列した自律応答体ゲルの間で化学伝播波を伝播させることができる。
【0033】
【数1】



【0034】
上記式(1)(2)中、2変数(u,v)はそれぞれ、[HBrO]、[触媒:Ru2+]の濃度を表す。Dは拡散係数を表し、f、ε、gはそれぞれ興奮(=酸化)の閾値、興奮性、反応速度定数に対応するパラメータである。
【0035】
上式(3)は、BZ反応による時空間パターンの伝播波の曲率(K)と、曲線波面の速度(N)、平面波速度(c)、拡散定数(D)との関係を表し、化学波が起こらない閾値の半径(Rcrit)を(4)式から見積もっている。なお、この実験では、2つの銀電極(ギャップ4mm、直径100mm)を浸して反応領域を制限し、BZ溶液での時空間パターンのK、N、c、Dを画像解析し、Rcritを見積もっている。
【0036】
ここで、上記式(4)から導かれるように、拡散係数Dおよび平面波速度cを調節することにより、化学伝播波の最小半径Rcritを変えることができる。拡散係数Dの低減は、自律応答性ゲルの配列体に充填された反応基質液の粘度を高めたり、或いは固化させたりすることで実現できる。
つまり、自律応答性ゲルの各セルの大きさに応じた化学伝播波の最小半径Rcritとなるように反応基質液の粘度等を調整すると、各セル間で化学波が伝播される。
【0037】
このように、配列した自律応答性ゲルの各セル間で相互に作用させるには、自律応答性ゲルの配列体の間隙に充填する反応基質の拡散係数D及び平面波速度cを上記式から算出し、その拡散係数D及び平面波速度cとなるよう反応基質液の粘度を調整する等の煩雑な操作が必要であった。また、反応基質液の粘度を調整しても、化学伝播波の距離が短い、或いは応答速度が遅い等という場合があった。
特に、配列した自律応答性ゲルのそれぞれの径を数百μm以下に小さくすると、ゲルの自励振動が発生し難くなることが明らかとなった。
【0038】
これに対して、本発明の自律応答体は、前記式(1)〜(4)に基づく平面波速度cや拡散係数Dの調節を行なうことなく、また、配列したゲルの各径が小さい場合や、35℃以下と温度が低い場合であっても、化学伝播波を効果的に伝播させることができる。
【0039】
(自律応答性ゲル)
本発明に係る「自律応答性ゲル」とは、外部刺激に対して判断しその反応を決定し、反応基質の存在によって自律応答を発現するゲルをいう。
本発明の自律応答性ゲルの配列体に用いる自律応答性ゲルは、反応基質の存在によって自律応答性を示す。ここで、「自律性」とは、自ら時間的、空間的な秩序を形成し得る性質をいう。自律応答性ゲルは、その内部に周期的な反応系を内包することによって、自律的な応答を可能とする。このような周期的な反応としては、例えば、周期的な酸化還元反応を示すベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応)や、周期的な化学反応を示す、沃素(I)、塩化酸化物(ClO)及びマロン酸の反応(CDIMA反応)等を挙げることができる。また、「応答性」とは、熱や光などの外部刺激に応答する性質をいう。
したがって、本発明の自律応答性ゲルは、少なくとも、自律性を有する部位、及び刺激に対するスイッチ機能(感応性)を有する部位、を有する。
【0040】
以下では、自律応答性ゲルの一例として、ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応)を用いた温度応答性ポリマーについて説明する。
【0041】
BZ反応の触媒であるルテニウム錯体(Ru(bby))(以下「Ru錯体」と称する場合がある)は、時間の経過とともに自発的かつ周期的に酸化還元反応を起こし、3価の酸化状態と2価の還元状態との間で自発的かつ周期的に変化する。ここで、酸化状態のRu錯体(Ru3+)は親水性を示し、還元状態のRu錯体(Ru2+)は疎水性を示す。
【0042】
よって、このRu錯体を温度応答性ポリマーの一部に導入したゲルは、Ru錯体の酸化還元状態の変化により、相転移温度が変化する。具体的には、Ru錯体が酸化状態(Ru3+)の場合には、組み合わせた元の温度応答性ポリマーの相転移温度(下限臨界相転移温度:LCST)よりも高い相転移温度を示し、逆にRu錯体が還元状態(Ru2+)の場合には、元の温度応答性ポリマーの相転移温度よりも低い相転移温度を示す。
【0043】
そのため、一定温度にしてこのゲルをBZ反応溶液(マロン酸、臭素酸ナトリウム、硝酸の混合溶液)に浸すと、Ru錯体の周期的な価数の変化に対応して、ポリマー鎖の親水性/疎水性が周期的に変化し、膨張・伸縮運動が自発的に起こる。
【0044】
また、Ru錯体は価数によって色調が異なる。酸化状態(Ru3+)では淡緑色であり、還元状態(Ru2+)では橙色を呈する。したがって、Ru錯体を有するゲルは、時間の経過とともに自発的かつ周期的に色調を変化させる。
【0045】
BZ反応の周期や振幅は反応基質の濃度や温度に依存するため、濃度や温度を変化させることによりゲルの振動リズムや色調変化を制御できる。
その他、BZ反応を利用した温度応答性の自律応答性ゲルに関しては、坂井崇匡、吉田亮「自励振動ゲルを用いた時空間機能表面の作製」表面科学Vol.28,No.11,p647〜652,2007を参照できる。
【0046】
なお、前記温度応答性のゲルとしては、N−イソプロピルアクリルアミドポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエーテル、セルロース誘導体、N−置換アクリルアミド誘導体ポリマーで構成するゲルを挙げることができ、より低温で相転移するという観点からは、N−イソプロピルアクリルアミドに由来する構造単位を有するゲルであることが好ましい。
【0047】
また、BZ反応の触媒としては、Ru錯体のほかに、セリウム(Ce)錯体、マンガン(Mn)錯体、又は鉄−フェナントロリン(Fe(phen))錯体が挙げられ、このなかでRu錯体が好ましい。
【0048】
したがって、温度応答性の自律応答性ゲルとしては、少なくとも、N−イソプロピルアクリルアミドに由来する構造単位と、前記Ru錯体を有するモノマーに由来する構成単位とを有するゲルが好適である。温度応答性の自律応答性ゲルは、その他のモノマーに由来する構成単位を含んでもよい。
【0049】
前記Ru錯体を有するモノマーとしては、ゲルの合成の容易さの観点から、下記化学式(1)で表される化合物が好適である。
【化2】

【0050】
また、前記温度応答性の自律応答性ゲルはゲル状を呈するため、N−イソプロピルアクリルアミドに由来する構成単位の少なくとも1部において架橋している。
以上から、本発明における温度応答性の自律応答性ゲルは、以下の構造を有するゲルであることが好適である。
【化3】

【0051】
なお、本発明の自律応答性ゲルの配列体における自律応答性ゲルは、上記のような温度に応答するゲルのほか、光、水素イオン濃度(pH)、電圧、電位、圧力等の刺激に応答する刺激応答性ゲルであってもよい。この中でも、応答の制御の容易さや、後述の製造方法の観点から、温度応答性のゲルであることが好ましい。
【0052】
上述の例で示した温度応答性の自律応答性ゲルのほか、例えば、原雄介, 機械材料, 2007年2月号, Vol.27, No.2, p40-p49に記載されるように、BZ反応に必要不可欠な酸性環境を自ら作り出す部位(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸:AMPS)を内包した自律応答型高分子(ポリ−Nイソプロピルアクリルアミド−Ru(bpy)錯体−AMPS)と酸化剤の臭素酸を自ら共有する部位(4級カチオンであるメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド:MAPTAC)を内包した自律応答型高分子ポリ−Nイソプロピルアクリルアミド−(Ru(bpy)錯体−AMPS−MAPTAC)も適用できる。
【0053】
(構造)
本発明の自律応答性ゲルの配列体は、自律応答性ゲルで形成された直径1μm〜1000μm、軸方向の高さ20μm〜400μmの複数の突起と、前記突起の軸方向の一部で連結し該突起と同質の自律応答性ゲルで構成される自律応答性ゲル層と、を有する。また、本発明の自律応答体は、前記自律応答性ゲルの配列体と、該配列体の間隙に充填した、反応拡散を伝達する反応基質と、を有する。
【0054】
図1は、本発明の自律応答体の一例を表す模式断面図である。
本発明の自律応答性ゲルの配列体10は、自律応答性ゲルで形成された複数の突起12と、この複数の突起12を連結する自律応答性ゲル層14と、を有する。自律応答性ゲル層14は、突起12の軸方向の一部において連結するように設けられる。自律応答性ゲル層14で連結する位置は限定されないが、突起12の軸方向における一方の端部で連結されていることが、アクチュエーター等の用途で用いる際に好適であり、また製造する際にもより簡易に作製できる。
【0055】
本発明の自律応答体20は、自律応答性ゲルの配列体10の間隙に反応基質16が充填される。反応基質16としては、例えば、BZ反応を利用する自律応答性ゲルを用いる場合には、BZ反応を起こすマロン酸などの有機酸、硝酸などの無機酸、酸化剤の臭素酸(NaBrO)を含む媒質を用いる。反応基質16は水などの溶媒に添加して配列体10の間隙に充填される。
【0056】
突起12及び自律応答性ゲル層14は、自律応答反応を起こす触媒18を含有する。例えば、BZ反応を利用した自律応答性ゲルにおける触媒18としては、時間の経過とともに自発的かつ周期的に酸化還元反応を起こす、ルテニウム(Ru)錯体、セリウム(Ce)錯体、マンガン(Mn)錯体、又は鉄−フェナントロリン(Fe(phen))錯体が挙げられる。
【0057】
ここで、自律応答性ゲル層14は、突起12と同質の自律応答性ゲルで構成される。ここでいう同質とは、ゲルを構成するモノマー単位が同じであることを意味する。後述のように紫外線照射により自律応答性ゲルの前駆体(モノマー)を重合させゲルを作製する場合、突起12と自律応答性ゲル層14とは、同じ自律応答性ゲル前駆体から作製される。
【0058】
突起12の軸方向の一部において、突起12と同質の自律応答性ゲルで連結する自律応答性ゲル層14を設けることで、複数の突起12間を効果的に相互作用させることができる。この理由については以下のように推測されるが、該推測によって本発明が限定されることはない。
【0059】
突起12と同質の自律応答性ゲル層14で、複数の突起12を連結することで、突起12中に含まれる反応基質16が自律応答性ゲル層14を通じて拡散するため(図1における矢印)、反応基質16の拡散流束が大きくなり、比較的小さな外部刺激(例えば、比較的低い電圧)によっても自律応答現象を誘発するトリガーとなり得る。また、ゲルの配列体に外部刺激を付与(例えば、ゲルの配列体に接続した電極間に電位差を与えて電圧を印加する)ことにより、自律的には応答しにくい場合(例えば、配列したゲルの各径が小さい場合や、35℃以下と温度が低い場合)でも、自律応答現象を誘発できる。
【0060】
一方で、複数の突起12の間に自律応答性ゲル層14が存在せず、反応基質16で充填されている場合には、突起12と反応基質16との間で拡散抵抗が存在する。また突起12の間隙に存在する反応基質16の拡散速度を適切に調節しなければ、複数の突起12の間で化学伝播波が伝播しない。
【0061】
特に、反応基質の拡散流束や、複数の突起12の応答現象の発生を電圧印加によって制御することを考慮すると、自律応答性ゲル層14の厚さTは、軸方向の長さLに対して、1%以上30%以下であることが好ましく、2%以上25%以下であることがより好ましく、5%以上20%以下であることが更に好ましい。例えば、突起12の高さ(軸方向の長さL)が50μmの場合には、自律応答性ゲル層14の厚さは、0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0062】
自律応答性ゲル層14の厚さTが、軸方向の長さLに対して30%を超えると、ゲル配列体の性質が、軸方向の長さLを膜厚とするゲル連続膜の性質と略等しくなり、電圧を印加しなくても自律的に応答現象を示す。この現象は実験によって確認されている。よって、電圧印加によって自律応答(振動)現象を制御する場合には、自律応答性ゲル層14の厚さTを上記範囲内とすることが好適である。
【0063】
自律応答性ゲル層14の厚さTは、後述の作製工程において、紫外線照射の照射時間を変えることで調整できる。
【0064】
突起12の直径は、マイクロメーターサイズであって1μm〜1000μmであり、好適には10μm〜1000μmであり、より好適には40μm〜1000μmである。
【0065】
突起12の軸方向の長さLは、20μm〜400μmであり、40μm〜200μmとすることがより好ましく、50μm〜100μmとすることが更に好ましい。
突起12の軸方向の長さLが20μm未満の場合には、自律応答ゲルに含まれる触媒の酸化状態と還元状態における色調変化、光学的コントラストが小さくなり、時間の経過に伴う構造変化(時空間パターン)の自律応答性の観察が容易でなくなる。一方、400μmを超える場合には、ゲルの突起パターンを形成するのが困難になる。ゆえに、自律応答性ゲルの配列体の自律応答(振動)現象を抑制する場合は、軸方向の長さLを上記範囲内とすることが好適である。
【0066】
なお突起12の形状は限定されず、棒状、柱状、円錐状、多角錐状等いずれであってもよい。また、突起12の断面形状も限定されず、円、楕円、多角形等いずれであってもよい。
【0067】
突起12の軸方向の長さLは、後述の作製工程において、紫外線を照射する前駆体溶液の深さを変えることで調整できる。なお、突起12の軸方向の長さLは、ゲル前駆体の紫外線によるパターニング容易性に関係する。パターニング容易性とは、光照射時のゲル前駆体溶液における光の屈折や拡散による広がりによって隣接するパターンとの分離の限界が存在することを意味する。パターニング容易性は、紫外線に対するゲル前駆体の重合感度にも影響される。また、突起12の軸方向の長さLは、後述の図2に示すように、ゲル前駆体溶液34が注入されたシール(スペーサ)32で囲われた容器部分の厚さによっても調整される。
【0068】
(反応基質)
本発明の自律応答体20は、反応拡散を伝達する反応基質16を含む。反応基質16の存在により自律応答性ゲルが自律応答する。
反応拡散を伝達する反応基質16としては、BZ反応を利用する自律応答性ゲルを用いる場合には、BZ反応を起こすマロン酸などの有機酸、硝酸などの無機酸、酸化剤の臭素酸(NaBrO)を含む媒質を用いる。
【0069】
本発明の自律応答体20は、前述のような、前記式(1)〜(4)に基づく平面波速度cや拡散係数Dの調節を行なうことなく、化学伝播波を効果的に伝播させることができる。よって、前記式(4)における拡散係数Dの調節のために、反応基質16にゲル化剤や増粘剤を添加してゲル化し或いは粘度を高めるような調整は特段必要ないが、このような調整を行なってもかまわない。前記ゲル化剤としては、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、増粘剤は公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0070】
<自律応答性ゲルの配列体の製造方法>
次に、自律応答性ゲルの配列体10の製造方法について説明する。
本発明の自律応答性ゲルの配列体10の製造方法は、自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液に、フォトマスクを介して紫外線を照射する工程を有する。その他の工程を含んでもよい。
【0071】
本発明では上述の自律応答性ゲルを用いるため、光や熱などの外部刺激に対して自発的かつ周期的に変動する。したがって一般的なポリマーの製造方法をそのまま転用できるとは限らない。
【0072】
ここで、自律応答性ゲルの配列体はセルオートマトンへの適用を考慮するものであり、規則的に配列する構造体である。効率的に化学伝播が起こる自律応答性ゲルの配列体の製造方法を種々検討した結果、フォトマスクを介して紫外線照射し、配列体を作製することが好適であった。
【0073】
なお、前述の特許文献1における自律応答性ゲルの配列体の製造方法の1つは、ポリマーを準備し、このポリマーを溶媒に溶解して、これを陽極酸化アルミナの細孔に充填し、溶媒を蒸発させるという方法である。
しかし、自律応答性ゲルのようなゲル状の物質の場合、上記の方法で細孔に充填することは極めて困難である。また、自律応答性ゲル自体を均質に溶解する適切な溶媒を選択することも極めて困難である。
また、陽極酸化アルミナの細孔をゲルの鋳型として用いる方法では、複数の自律応答性ゲルの突起12を連結する自律応答性ゲル層14を設けることは困難であった。
【0074】
自律応答性ゲルの配列体の他の製造方法として、前述の非特許文献1のようなX線を用いた3次元微細加工(LIGA)がある。しかしこの方法でも、自律応答性ゲルで形成される複数の突起12を連結する自律応答性ゲル層14を設けることは困難であった。また、X線加工法(LIGA)によるゲルの配列体の作製は非常に難しく、生産効率が低い。更に、加工精度も最小サイズが200μm程度であり、これよりも小さなゲル配列体は形成されていない。
【0075】
以上のように従来の自律応答性ゲルの配列体の製造方法では、自律応答性ゲル層14を設けるような実状になかった。また、操作も煩雑であり生産効率も低い。
【0076】
これに対し、本発明の自律応答性ゲルの配列体の製造方法は、自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液に、フォトマスクを介して紫外線を照射する方法である。
【0077】
図2に、本発明に係る自律応答性ゲルの配列体の作製方法を説明する模式図を示す。ガラス基板30上に熱融着シール32によって枠を作製し、この中に、前記前駆体溶液34を注入する。この状態でフォトマスク36を介して紫外線UVを照射し、前記前駆体を重合させる。
【0078】
本発明の自律応答性ゲルの配列体の製造方法では、自律応答性ゲル層14を形成できることに加え、微細な突起12を作製でき、操作も簡易であり、生産効率も高い。
【0079】
本発明の製造方法で自律応答性ゲル層14が形成される理由については明らかとなっていないが、以下のような理由が推測される。しかし、本発明はこのような理由によって限定されることはない。
自律応答性ゲル層14の形成は、紫外線がフォトマスクの遮蔽部分に回り込んだり、或いは照射によって自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液の温度が上昇したりすることで、フォトマスクで遮蔽された部分でも重合反応が進むためではないかと推測される。
以下、自律応答性ゲルの配列体の製造方法を工程毎に説明する。
【0080】
(前駆体溶液の準備)
自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液(以下「前駆体溶液」と称する場合がある)を準備する。前駆体溶液は、少なくとも自律応答性ゲルの前駆体と重合開始剤と架橋剤とを含む。更に、前駆体溶液は溶媒などを含んでもよい。
【0081】
自律応答性ゲルの前駆体は、自律応答性ゲルを形成するためのモノマー又はオリゴマーであり、自律性を付与するための部位、及び刺激に対するスイッチ機能(感応性)を付与するための部位を少なくとも含む。
【0082】
ゲルに自律性を付与するためのモノマーとしては、前述の通り、好ましくは前記Ru錯体を有するモノマーであり、より好ましくは、前記化学式(1)で表される化合物である。
また、ゲルに感応性を付与するためモノマーとしては、温度応答性ゲルが得られるN−イソプロピルアクリルアミドが好ましい。
更に、前駆体溶液には他のモノマーを加えてもよい。
【0083】
前駆体溶液中の自律応答性ゲルの前駆体の含有率(濃度)は、作業性及び重合度の観点から、0.1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、16質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0084】
前駆体溶液に添加する重合開始剤は公知のものを適用でき、有機過酸化物等が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、クメンヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、ジクロルペルオキシド、ジ第3ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等が挙げられる。
【0085】
なお、光重合開始剤は、極大吸収波長が450nm以下であることが好ましく、更に360nm以下であることが好ましい。このように吸収波長を紫外線領域にすることにより、照射前の前駆体溶液を白灯下で取り扱える。
【0086】
市販の光重合開始剤としては、例えば、チバスペシャルケミカルズ製のIrgacure 651、Irgacure 184、Irgacure 127、Irgacure 907等が挙げられる。
【0087】
本発明における光重合開始剤としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
光重合開始剤の含有率は、自律応答性ゲルの前駆体の全量に対して(重合開始剤/自律応答性ゲルの前駆体の全量)、0.1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下であることが更に好ましい。
【0089】
前駆体溶液に添加する架橋剤は公知のものを適用でき、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、N−スクシンイミジルアクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等が挙げられる。
本発明における架橋剤としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
架橋剤の含有率は、自律応答性ゲルの前駆体の全量に対して(架橋剤/自律応答性ゲルの前駆体の全量)、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0091】
前駆体溶液に用いる溶媒は、前記自律応答性ゲルの前駆体を溶解するものであれば特に制限されない。エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を例示することができる。
【0092】
(紫外線の照射)
ガラス基板30上に熱融着シール32によって枠を作製し、この中に、前記前駆体溶液34を注入する。この状態でフォトマスク36を介して紫外線を照射し、前記前駆体を重合させる。
重合のための照射には、波長200nm以上500nm以下の紫外線を用いることが好ましく、波長250nm以上360nm以下の紫外線がより好ましい。
【0093】
紫外線は、両面マスクアライナー、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、高輝度紫外線スポット光源装置、紫外線レーザ、メタルハライドランプ等を用いて照射することができる。
【0094】
紫外線の照射強度は、10mW/cm以上5000mW/cm以下であることが好ましく、10mW/cm以上2500mW/cm以下であることがより好ましく、10mW/cm以上2000mW/cm以下であることが更に好ましい。
【0095】
紫外線の照射時間は、50秒以上10000秒以下であることが好ましく、50秒以上500秒以下であることがより好ましく、80秒以上180秒以下であることが更に好ましい。
照射により得られるゲルは自律性を示し、環境によっては時間の経過とともに自発的かつ周期的に変化するため、上記範囲の照射時間とすることが望ましい。
【0096】
紫外線の照射量は、下記式(2)を満たすことが好ましい。式(2)を満たす照射量で紫外線を照射すると、自律応答性ゲルの形状性に優れる。
【0097】
100000≧照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)≧500 式(2)
【0098】
「照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)」で表される照射量は、500以上90000以下であることがより好ましく、1200以上65000以下であることが更に好ましい。
【0099】
(洗浄)
照射によって得たゲルを洗浄する。洗浄液としては、未反応のモノマーを洗い流すよう、未反応モノマーが溶解する溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0100】
<自律応答体の製造方法>
上記方法によって得た自律応答性ゲルの配列体10の間隙に、前記反応基質16を充填する。反応基質16は、水、エタノール、メタノールなどの極性溶媒に含有して、自律応答性ゲルの配列体10の間隙に充填する。
更に反応基質16を含む溶媒には、寒天などのゲル化剤、増粘剤、重合促進剤などの添加剤を添加してもよい。
反応基質16を含む溶媒は、自律応答性ゲルの配列体10の全体が浸漬するように充填しても、一部が浸漬するように充填してもよい。
【0101】
<自律応答方法、及び自律応答装置>
本発明の自律応答体は、時間の経過とともに自発的かつ周期的に変化する。
例えば、前記Ru錯体等を有する自律応答性ゲルは、前記BZ反応溶液中で周期的に酸化還元変化するため、自律的かつ周期的に膨潤収縮運動し得る。よって配列体として形成した自律応答性ゲルは、BZ反応溶液による化学反応波の伝播を制御することで、自律応答性ゲルの突起12間で時間の経過とともに膨潤・収縮運動が伝播し、人工鞭毛のような働きが期待できる。
【0102】
また、前記Ru錯体を有する自律応答性ゲルは、前記BZ反応溶液中で周期的に色調も変化し得るため、オートマトン的エネルギーフィルター等への応用も期待される。
【0103】
このように、本発明の自律応答体は、微小物質の輸送に適した小型アクチュエーターや、セルオートマトン型のエネルギーフィルターへの応用が期待されるものである。
【0104】
なお本発明の自律応答体は、部分的な外部刺激により自律応答現象が誘起される。例えば、外部刺激として電圧を印加すると、電圧信号をトリガーとして自律応答現象が誘起される。この場合、応答現象の発生と停止を電圧の印加によって制御することが可能となる。
【0105】
電圧の印加方法としては、図3に示すような、電圧電源に接続した金属プローブを用いる方法を挙げることができる。図3の方法では、一方の金属プローブ40を自律応答性ゲルの配列体10に接続し、他方の金属プローブ42を反応基質16に接触させて、電圧印加装置44によって金属プローブ40,42の間に電圧を印加する。
【0106】
本発明の自律応答体は、下記のように、電極及び電圧印加装置を組み込んだ自律応答装置としてもよい。
本発明の自律応答装置は、前記自律応答性ゲルの配列体と、前記配列体の間隙に充填した前記反応基質と、前記配列体の一部に接続した電極と、前記電極に電圧を印加する電圧印加装置と、を有する。
【0107】
図4は、本発明の自律応答装置50の一例を示す模式図である。
図4に示す自律応答装置50では、自律応答性ゲルの配列体10と、配列体10の一部に接続した電極52,53,54,55と、電極に電圧を印加する電圧印加装置(図示せず)とを有する。自律応答性ゲルの配列体10の間隙には反応基質16(図示せず)が充填される。また、自律応答性ゲルの配列体10では、複数の突起12が自律応答性ゲル層14によって連結されている。
【0108】
電極52,53,54,55は、反応基質16によって劣化しないよう、金やプラチナなどの貴金属で構成されていることが望ましい。
【0109】
図3のように金属プローブを用いた場合でも、図4のように自律応答装置を用いた場合でも、自律応答体に印加する電圧は、自律応答性ゲルの酸化還元電位に応じて適宜設定することが好ましい。
例えば、Ru錯体を有する自律応答性ゲルでBZ反応によって自律応答させる場合、自律応答体に印加する電圧は−2V〜−0.5Vであることが好ましく、−1.5V〜−0.5Vであることがより好ましく、−1.5V〜−1.0Vであることが更に好ましい。
【0110】
本発明の効果により、ゲル配列体の酸化状態と還元状態の変化による自律応答現象が、外部電位によって制御可能になる。自律応答現象が起きない場合でも、一部に電圧を印加すると、局所的にゲルに含まれる触媒の酸化還元反応が誘起され、触媒金属の電子価を変化させる。その後、ゲル突起を連結している自律応答性ゲル層を介して反応基質が拡散することで、隣接するゲル突起の触媒の酸化還元反応が誘発される。これが時間の経過により、更に隣接するゲルの突起に相互作用し、連鎖的に自律応答現象を発現する。
【実施例】
【0111】
以下では実施例により本発明を説明するが、本発明の自律応答体及びその製造方法の一例について述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0112】
尚、実施例において記載した寸法は、日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡S-5500によって測定した値である。
【0113】
[実施例1]
<ゲルの作製>
(ゲル前駆体溶液の調製)
・N−イソプロピルアクリルアミド 168mg
・下記化学式(3)で表される化合物(Ru(bby))を有する化合物) 10mg
・N,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)(架橋剤) 12mg
・Irgacure 651(重合開始剤) 19mg
・エタノール 540μl
・ジメチルスルホキシド(DMSO) 60μl
【0114】
【化4】

【0115】
上記配合で混合したものを、脱気および窒素置換して酸素を除去し、ゲル前駆体溶液を調製した。
【0116】
(紫外線照射)
ガラス板上にポリマーシート(厚さ50μm〜100μm)をスペーサーとして設け、その空隙に上記ゲル前駆体溶液を注入し、更にその上にガラス板を配置した。
ここに、両面マスクアライナー(PEM−800、ユニオン光学株式会社製)によって、15W/cm、波長405nmの紫外線を100秒間照射した。
【0117】
(洗浄)
照射によって得られたゲルをエタノールでよく洗い、未反応モノマーを洗い流した。得られたゲルの配列体はエタノール中で保存した。
【0118】
<観察>
図5に、得られた自律応答性ゲル配列体の断面の電子顕微鏡写真を示す。図5の電子顕微鏡写真に示されるように、直径約60μm、軸方向の長さ(高さ)約50μmの自律応答性ゲルの突起が、厚さ8μmの自律応答性ゲル層で連結された自律応答性ゲル配列体が得られた。
【0119】
[実施例2〜6]
実施例1における紫外線の照射時間を80秒、90秒、95秒、110秒、120秒に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、自律応答性ゲルの配列体を作製した。
得られた自律応答性ゲルの配列体を実施例1と同様に電子顕微鏡写真で観察し、軸方向の長さ(高さ)と自律応答性ゲル層の厚さを測定した。その結果を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
実施例1〜6の結果から、照射時間(総照射量)を変えることで、自律応答性ゲル層の厚さを調節できることがわかった。
【0122】
[実施例7]
<BZ振動現象の観察>
(ゲルの準備)
実施例1で得たゲルをエタノール中に浸漬し、密封して室温保存し、その後室温にて1時間乾燥した。
【0123】
上記乾燥したゲルに、硝酸7000μL(1.4M)と水1952μLを付与した。
ここに、臭素酸ナトリウム840μL(0.084M)を加えてゲルを酸化させ、ゲルが橙色から緑色に変化するのを待った。ゲルが緑色に変化した後、マロン酸208μL(0.0625)を加えた。
【0124】
よって、ゲルに付与したBZ反応溶液の組成は、以下の通りである。
(BZ反応溶液の組成)
・硝酸 7000μL(1.4M)
・水 1952μL
・臭素酸ナトリウム 840μL(0.084M)
・マロン酸 208μL(0.0625M)
【0125】
この状態で、20℃において、図3に示すように金属プローブを用いてゲルに−0.8Vの直流電圧を印加すると、金属プローブの接した部分を中心に緑色(酸化状態)から橙色(還元状態)に変化し、更に、その橙色に変化した領域(還元領域)が、金属プローブの接触した部分を中心に反時計回りに回転するように移動した。
【0126】
その様子を表す写真を図6(A)(B)に示す。図6(A)は、−0.8Vの直流電圧を印加してから2分経過したときのゲル配列体の様子を表す写真である。図(A)は、−0.8Vの直流電圧を印加してから5分経過したときのゲル配列体の様子を表す写真である。
【0127】
なお、図6(A)(B)の写真に示される橙色に変化した領域(還元領域)を識別しやすいよう、図6(A)(B)を説明する図として図7(A)(B)を示す。図7(A)(B)は、図6(A)(B)にそれぞれ対応する。図7(A)(B)において、符号60は、橙色に変化した領域(還元領域)であり、符号62は、緑色を示した領域(酸化領域)である。
図6及び図7に示されるように、電圧の印加によってゲルの還元領域が自律的に移動し、ゲルの自律応答現象が確認された。なお、実施例1で作成したゲルの配列体は、35℃以下では電圧を印加しないと自律応答現象を発現しなかった。
【0128】
[実施例8]
実施例7と同様の方法で、但し、実施例1で作製したゲルに変えて実施例3,4で作製したゲルを用い、或いは印加電圧を変えて、BZ振動現象を観察した。結果を表2に示す。表2中、○は自律応答現象を示したことを表し、×は自律応答現象が見られなかったことを示す。
【0129】
【表2】

【0130】
表2に示されるように、実施例1,3,4で作製されたいずれのゲルも電圧の印加によって自律応答し、且つその自律応答が電圧の印加によって制御された。なお、これらのゲルの配列体は、35℃以下では電圧を印加しないと自律応答現象を発現しなかった。
【符号の説明】
【0131】
10 配列体
12 自律応答性ゲル
14 自律応答性ゲル層
16 反応基質
18 触媒
20 自律応答体
30 ガラス基板
32 熱融着シール
34 前駆体溶液
36 フォトマスク
40,42 金属プローブ
44 電圧印加装置
50 自律応答装置
52,53,54,55 電極
60 橙色に変化した領域(還元領域)
62 緑色を示した領域(酸化領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律応答性ゲルで形成された、直径1μm〜1000μm、軸方向の高さ20μm〜400μmの複数の突起と、
前記突起の軸方向の一部で連結し、該突起と同質の自律応答性ゲルで構成される自律応答性ゲル層と、
を有する自律応答性ゲルの配列体。
【請求項2】
前記自律応答性ゲル層の厚さが、前記突起の軸方向の長さに対して、1%以上30%以下である請求項1に記載の自律応答性ゲルの配列体。
【請求項3】
前記自律応答性ゲルが、刺激応答性である請求項1又は請求項2に記載の自律応答性ゲルの配列体。
【請求項4】
前記自律応答性ゲルが、
N−イソプロピルアクリルアミドと、
ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky反応)の触媒であるルテニウム錯体、セリウム錯体、マンガン錯体、又は鉄−フェナントロリン錯体を有するモノマーと、
に由来する構成単位を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体。
【請求項5】
前記ルテニウム錯体を有するモノマーが、下記化学式(1)で表される化合物である請求項4に記載の自律応答性ゲルの配列体。
【化1】

【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体と、
前記配列体の間隙に充填した、反応拡散を伝達する反応基質と、
を有する自律応答体。
【請求項7】
前記反応基質が、有機酸、無機酸、及び酸化剤を含む混合溶液である請求項6に記載の自律応答体。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体と、
前記配列体の間隙に充填した、反応拡散を伝達する反応基質と、
前記配列体の一部に接続した電極と、
前記反応基質に接する電極と、
前記電極に電圧を印加する電圧印加装置と、
を有する自律応答体の自律応答装置。
【請求項9】
請求項6又は請求項7に記載の自律応答体に、−0.5V〜−2.0Vの電圧を印加する自律応答体の自律応答方法。
【請求項10】
自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液に、
フォトマスクを介して紫外線を照射する、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項11】
照射強度が10mW/cm以上5000mW/cm以下の紫外線を、50秒以上10000秒以下で照射する請求項10項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項12】
下記式(1)を満たす照射量で前記紫外線を照射する請求項10又は請求項11に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
100000≧照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)≧500 式(1)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−222465(P2010−222465A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70922(P2009−70922)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】