説明

自律応答性ゲルの配列体及びその製造方法、並びに自律応答体及びその製造方法

【課題】ナノ単位の自律応答性ゲルの配列体及びその製造方法、並びにナノ単位の自律応答体及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明の自律応答性ゲルの配列体は、多孔質の陽極酸化アルミナと、前記陽極酸化アルミナの細孔内に存在する自律応答性ゲルとを有する。本発明の自律応答体は、前記多孔質の陽極酸化アルミナを鋳型及び固定化土台に用いた自律応答性ゲルの配列体と、反応拡散を伝達する反応基質とを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律応答性ゲルの配列体及びその製造方法、並びに自律応答体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の特性は、構成する元素の熱力学安定構造(結晶構造などの周期構造)により決定されるため、人工的な規則構造を付与することで物質の新たな機能の発現が期待できる。超格子膜やナノドット規則構造は、この一例であり、様々な物質創成研究が行われている。
一方、生体機能は、その階層的な内部構造によって機能を発現させていることが知られている。生体機能は、人工規則構造にはない、刺激の応答により内部構造を変化させるインテリジェント機能を有している。
【0003】
万能計算機概念として提唱されたセルオートマトン(以下、「CA」と称する場合がある)は、そのような刺激応答性を人為的に発現する原理の一つと考えられているが、まだ複雑系現象のシミュレーション手法に用いられるに留まっている。
一方、Turingは、自然界に存在する様々なパターン形成原理を、反応拡散系原理(以下、「RD原理」と称する場合がある)によると予測した。反応拡散系研究は、シミュレーションによる様々なパターン予測に留まらす、実験的にも人工的パターン形成原理としての有用性が実験検証されつつある。
【0004】
CA及びRD原理は、超格子膜やナノドット構造などと同じく、人為的なミクロの基本構成要素の機能を基本としている。しかし、大きな違いは、隣接するミクロ要素の単純な相互作用により、このミクロ要素のサイズスケールよりも遥かに大きなパターン形成、あるいは階層的なパターン形成が行われ、更に原理的には動的な時空間パターンを形成し得る点にある。これはミクロ要素の機能をマクロな機能に結び付ける一つの典型的な仕組みであり、生体機能も多くこの仕組みを利用している。したがって、CA及びRD原理は、従来型の材料創成手法に無い「局所刺激に対しマクロ機能が変化・応答するインテリジェント性」を付与できる可能性がある。
【0005】
ここで、セルオートマトン(CA)とは、隣り合う要素間の相互作用だけを決めて、集団現象、非線形、非平衡現象を予測する数理モデルである。計算科学の分野では、既に森林火災、交通渋滞のシミュレーション、重油の流出分布の予測などに利用されている。
例えば、(1)同じ大きさの均一なセルを有し、(2)前記セルは、有限の個数で構成され、(3)時間tにおけるある特定のセルの状態によって、時間t+1における前記特定のセルに隣接するセルの状態が決定されるという情報を与えることにより、所望の時空間パターンを示すセルオートマトンが実現される。
【0006】
CA原理を用いた応用例としては、熱・光・イオンなどの流れを可変的に制御できる「エネルギーフィルター」や、自律的なゲルの膨張伸縮運動により、物質を輸送できる「人工鞭毛」のようなデバイスの創製が期待される。熱の流れを可変的に制御できる技術は、廃熱利用における重要技術と考えられる。このセルオートマトン的エネルギーフィルターの利点は、(1)ナノ領域での刺激によりマクロなエネルギーの流量を制御できること、(2)自律振動現象を利用して直流から交流へ変換できること等が挙げられ、新たなマクロ機能が発現する。
【0007】
上述の、外部刺激に応答してマクロ機能(階層構造)が動的変化するCA型機能材料は、大きくは次の3つの要素に分けることができる。
(1)同じ大きさのナノ単位のセルで構成される規則配列体の形成。
(2)前記セルに、刺激に対するスイッチ機能の付与。
(3)各セル間を相互作用させる機能の付与。
【0008】
ここで、刺激に対するスイッチ機能を有する自律応答性ゲルとして、Ru錯体を含有するゲルが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
このゲルは、ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応)を利用して、自律的かつ周期的に膨順収縮振動するゲルである。ルテニウム錯体(Ru(bpy))はBZ反応溶液中で周期的に酸化還元変化を起こし、価数が2価と3価との間で周期的に変化する。Ru錯体の酸化状態(3価)は親水性を示し、還元状態(2価)は疎水性を示す。非特許文献1に記載のポリマーゲルは、温度応答ポリマーであるため、Ru錯体の酸化還元状態の変化により、相転移温度が変化し、結果、膨順収縮振動する。
【0009】
しかし、自律応答性ゲルは、X線を用いた3次元微細加工法などによって数百μm程度のサイズに加工されているが(例えば、前述の非特許文献1参照)、ナノ単位の配列体は得られていない。
【0010】
他方、一般的なポリマーにおいて、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔を利用したナノ単位の配列体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−62049号公報
【非特許文献1】坂井崇匡、吉田亮「自励振動ゲルを用いた時空間機能表面の作製」表面科学Vol.28,No.11,p647〜652,2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、自律応答性ゲルのナノ単位での配列体は得られていない。そこで、本発明の課題は、ナノ単位の自律応答性ゲルの配列体及び自律応答体を提供することである。
また、本発明の課題は、ナノ単位の自律応答性ゲルの配列体及び自律応答体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の特許文献1におけるナノ単位の配列体の製造方法の1つは、まずポリマーを準備し、このポリマーを溶媒に溶解して、これを陽極酸化アルミナの細孔に充填し、溶媒を蒸発させるという方法である。
しかし、自律応答性ゲルのようなゲル状の物質の場合、上記の方法で細孔に充填することは極めて困難である。また、自律応答性ゲル自体を均質に溶解する適切な溶媒を選択することも極めて困難である。
【0013】
また、特許文献1のその他の製造方法として、陽極酸化アルミナの細孔にモノマーや重合試薬を含んだ溶液を充填し、熱や光によって重合して構造体を得る方法が記載されている。
しかしながら、自律応答性ゲルは熱や光などの外部刺激に応答するゲルであるため、熱や光を付与したときにどのような挙動を示すか明らかでなく、一般的なポリマーの製法をそのまま転用することができない。
【0014】
以上の事実を踏まえ、本発明者らの鋭意検討により、製造方法を工夫することによって、自律応答性ゲルのナノ単位の配列体を得ることに成功した。
【0015】
すなわち、請求項1に記載の発明は、
多孔質の陽極酸化アルミナと、前記陽極酸化アルミナの細孔内に存在する自律応答性ゲルと、を有する自律応答性ゲルの配列体である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、
前記多孔質の陽極酸化アルミナを鋳型及び固定化土台に用いた自律応答性ゲルの配列体と、
反応拡散を伝達する反応基質と、
を含んで構成される自律応答体である。
【0017】
請求項3に記載の発明は、
前記自律応答性ゲルが、刺激応答性の自律応答性ゲルである請求項2に記載の自律応答体である。
【0018】
請求項4に記載の発明は、
前記自律応答性ゲルが、
N−イソプロピルアクリルアミドと、
ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky反応)の触媒であるルテニウム錯体、セリウム錯体、マンガン錯体、又は鉄−フェナントロリン錯体を有するモノマーと、
に由来する構成単位を有する請求項2又は請求項3に記載の自律応答体である。
【0019】
請求項5に記載の発明は、
前記ルテニウム錯体を有するモノマーが、下記化学式(1)で表される化合物である請求項4に記載の自律応答体である。
【0020】
【化1】

【0021】
請求項6に記載の発明は、
前記陽極酸化アルミナの細孔の平均径が、10nm以上1000nmである請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答体である。
【0022】
請求項7に記載の発明は、
前記自律応答性ゲルがロッド状であり、該自律応答性ゲルの平均直径が10nm以上1000nm以下である請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載の自律応答体である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、
多孔質の陽極酸化アルミナの細孔に、自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液を注入し、
紫外線を照射する、
自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0024】
請求項9に記載の発明は、
前記自律応答性ゲルが刺激応答性の自律応答性ゲルである請求項8に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、
前記自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液が、
N−イソプロピルアクリルアミドと、
ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky反応)の触媒であるルテニウム錯体、セリウム錯体、マンガン錯体、又は鉄−フェナントロリン錯体を有するモノマーと、
を含む請求項8又は請求項9に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0026】
請求項11に記載の発明は、
前記多孔質の陽極酸化アルミナの細孔は両端が貫通しており、その一方の端部を蒸着によって金属で塞いだ後に、前記自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液を注入する請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0027】
請求項12に記載の発明は、
前記紫外線を、50mW/cm以上5000mW/cm以下の照射強度で照射する請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0028】
請求項13に記載の発明は、
下記式(2)を満たす照射量で前記紫外線を照射する請求項8〜請求項12のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
100000≧照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)≧30000 式(2)
【0029】
請求項14に記載の発明は、
前記陽極酸化アルミナを、0℃以上10℃以下の酸性水溶液中で陽極酸化により作製する請求項8〜請求項13のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0030】
請求項15に記載の発明は、
前記紫外線の照射後に、
エッチング液を付与して前記陽極酸化アルミナを部分的に除去し、一部の自律応答性ゲルを露出させる請求項8〜請求項14のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0031】
請求項16に記載の発明は、
前記エッチング液が、アルカリ水溶液である請求項15に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法である。
【0032】
請求項17に記載の発明は、
請求項8〜請求項16のいずれか1項に記載の製造方法によって得た自律応答性ゲルの配列体の間隙に、反応拡散を伝達する反応基質を充填する自律応答体の製造方法である。
【0033】
請求項18に記載の発明は、
前記自律応答性ゲルの間隙に、ゲル化剤を含む前記反応基質を充填し、該反応基質を固める請求項17に記載の自律応答体の製造方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ナノ単位の自律応答性ゲルの配列体及び自律応答体を提供することができる。また、本発明によれば、ナノ単位の自律応答性ゲルの配列体の製造方法、及び自律応答体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
<自律応答体>
本発明の自律応答性ゲルの配列体は、少なくとも、前記多孔質の陽極酸化アルミナと、前記陽極酸化アルミナの細孔内に存在する自律応答性ゲルとを有する。
また本発明の自律応答体は、前記多孔質の陽極酸化アルミナを鋳型及び固定化土台に用いた自律応答性ゲルの配列体と、反応拡散を伝達する反応基質とを含んで構成される。
【0036】
多孔質の陽極酸化アルミナはナノ単位の細孔を有するため、これを鋳型に用いることでナノ単位の配列体が得られる。また、陽極酸化アルミナを固定化土台とすることで自律応答性ゲルが固定化され、自律応答性ゲルを配列体として得ることができる。多孔質の陽極酸化アルミナを鋳型に用い、且つその陽極酸化アルミナを固定化土台として備える自律応答性ゲルの配列体の製造方法については、後述する。
【0037】
また、本発明の自律応答体は、反応拡散を伝達する反応基質を含む。反応基質の存在により自律応答性ゲルが自律応答する。
以下では、まず自律応答性ゲルの配列体及び自律応答体を構成する材料について説明する。
【0038】
<自律応答性ゲル>
本発明に係る「自律応答性ゲル」とは、外部刺激に対して判断しその反応を決定し、反応基質の存在によって自律応答を発現するゲルをいう。
本発明の自律応答性ゲルの配列体に用いる自律応答性ゲルは、反応基質の存在によって自律応答性を示す。ここで、「自律性」とは、自ら時間的、空間的な秩序を形成し得る性質をいう。自律応答性ゲルは、その内部に周期的な反応系を内包することによって、自律的な応答を可能とする。このような周期的な反応としては、例えば、周期的な酸化還元反応を示すベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応)や、周期的な化学反応を示す、沃素(I)、塩化酸化物(ClO)及びマロン酸の反応(CDIMA反応)等を挙げることができる。また、「応答性」とは、熱や光などの外部刺激に応答する性質をいう。
したがって、本発明の自律応答性ゲルは、少なくとも、自律性を有する部位、及び刺激に対するスイッチ機能(感応性)を有する部位、を有する。
【0039】
以下では、自律応答性ゲルの一例として、ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応)を用いた温度応答性ポリマーについて説明する。
【0040】
BZ反応の触媒であるルテニウム錯体(Ru(bby))(以下「Ru錯体」と称する場合がある)は、時間の経過とともに自発的かつ周期的に酸化還元反応を起こし、3価の酸化状態と2価の還元状態との間で自発的かつ周期的に変化する。ここで、酸化状態のRu錯体(Ru3+)は親水性を示し、還元状態のRu錯体(Ru2+)は疎水性を示す。
【0041】
よって、このRu錯体を温度応答性ポリマーの一部に導入したゲルは、Ru錯体の酸化還元状態の変化により、相転移温度が変化する。具体的には、Ru錯体が酸化状態(Ru3+)の場合には、組み合わせた元の温度応答性ポリマーの相転移温度(下限臨界相転移温度:LCST)よりも高い相転移温度を示し、逆にRu錯体が還元状態(Ru2+)の場合には、元の温度応答性ポリマーの相転移温度よりも低い相転移温度を示す。
【0042】
そのため、一定温度にしてこのゲルをBZ反応溶液(マロン酸、臭素酸ナトリウム、硝酸の混合溶液)に浸すと、Ru錯体の周期的な価数の変化に対応して、ポリマー鎖の親水性/疎水性が周期的に変化し、膨張・伸縮運動が自発的に起こる。
【0043】
また、Ru錯体は価数によって色調が異なる。酸化状態(Ru3+)では淡緑色であり、還元状態(Ru2+)では橙色を呈する。したがって、Ru錯体を有するゲルは、時間の経過とともに自発的かつ周期的に色調を変化させる。
【0044】
BZ反応の周期や振幅は濃度や温度に依存するため、濃度や温度を変化させることによりゲルの振動リズムや色調変化を制御できる。
その他、BZ反応を利用した温度応答性の自律応答性ゲルに関しては、坂井崇匡、吉田亮「自励振動ゲルを用いた時空間機能表面の作製」表面科学Vol.28,No.11,p647〜652,2007を参照できる。
【0045】
なお、温度応答性のゲルとしては、N−イソプロピルアクリルアミドポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエーテル、セルロース誘導体、N−置換アクリルアミド誘導体ポリマーで構成するゲルを挙げることができ、より低温で相転移するという観点からは、N−イソプロピルアクリルアミドに由来する構造単位を有するゲルであることが好ましい。
【0046】
また、BZ反応の触媒としては、Ru錯体のほかに、セリウム(Ce)錯体、マンガン(Mn)錯体、又は鉄−フェナントロリン(Fe(phen))錯体が挙げられ、このなかでRu錯体が好ましい。
【0047】
したがって、温度応答性の自律応答性ゲルとしては、少なくとも、N−イソプロピルアクリルアミドに由来する構造単位と、前記Ru錯体を有するモノマーに由来する構成単位とを有するゲルが好適である。温度応答性の自律応答性ゲルは、その他のモノマーに由来する構成単位を含んでもよい。
【0048】
前記Ru錯体を有するモノマーとしては、ゲルの合成の容易さの観点から、下記化学式(1)で表される化合物が好適である。
【化2】

【0049】
また、前記温度応答性の自律応答性ゲルはゲル状を呈するため、N−イソプロピルアクリルアミドに由来する構成単位の少なくとも1部において架橋している。
以上から、本発明における温度応答性の自律応答性ゲルは、以下の構造を有するゲルであることが好適である。
【化3】

【0050】
なお、本発明の自律応答性ゲルの配列体における自律応答性ゲルは、上記のような温度に応答するゲルのほか、光、水素イオン濃度(pH)、電圧、電位、圧力等の刺激に応答する刺激応答性ゲルであってもよい。この中でも、応答の制御の容易さや、後述の製造方法の観点から、温度応答性のゲルであることが好ましい。
【0051】
上述の例で示した温度応答性の自律応答性ゲルのほか、例えば、原雄介, 機械材料, 2007年2月号, Vol.27, No.2, p40-p49に記載されるように、BZ反応に必要不可欠な酸性環境を自ら作り出す部位(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸:AMPS)を内包した自律振動型高分子(ポリ−Nイソプロピルアクリルアミド−Ru(bpy)錯体−AMPS)と酸化剤の臭素酸を自ら共有する部位(4級カチオンであるメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド:MAPTAC)を内包した自律振動型高分子ポリ−Nイソプロピルアクリルアミド−(Ru(bpy)錯体−AMPS−MAPTAC)も適用できる。
【0052】
<多孔質の陽極酸化アルミナ>
本発明において「陽極酸化アルミナ」とは、アルミニウムの金属又はアルミニウム合金を陽極として用い、これを硫酸、シュウ酸、リン酸などの酸性水溶液中に浸漬しつつ、陰極と陽極と間に電圧を印加して得られる多孔質ナノ構造体をいう。本発明の製造方法では、陽極酸化アルミナを鋳型及び自律応答性ゲルの固定化土台として用いる。
【0053】
本発明では、ナノ単位の細孔が規則的に形成されている陽極酸化アルミナを用いることが望ましい。
陽極酸化アルミナの細孔は、平均径が10nm以上1000nm以下であることが好ましく、50nm以上300nm以下であることがより好ましい。
また、陽極酸化アルミナの細孔は、長さが、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましい。
前記平均直径および長さは、走査型電子顕微鏡により、100〜500個の細孔を測定したときの平均値である。
その他、多孔質の陽極酸化アルミナの作製方法等については後述する。
【0054】
<自律応答性ゲルの配列体>
本発明に係る自律応答性ゲルの配列体では、前記自律応答性ゲルの固定化土台として陽極酸化アルミナを備える。自律応答ゲルの配列体は、後述のように、陽極酸化アルミナの細孔内に自律応答性ゲルを有する配列体から、陽極酸化アルミナを部分的に除去し、一部の自律応答ゲルを露出させて得られる。
【0055】
露出した自律応答性ゲルの配列体は、鋳型として用いた陽極酸化アルミナの細孔のサイズに対応して、10nm〜1000nm程度の直径を有するロッド状の自律応答体として得られる。陽極酸化アルミナの細孔のサイズによっては、直径10nm程度にまでロッドを微細にすることが可能である。
自律応答性ゲルのナノロッドの長さは、陽極酸化アルミナの細孔の長さに対応して、0.1μm〜10μm程度とすることが可能である。
【0056】
<自律応答性ゲルの配列体の製造方法>
次に、自律応答性ゲルの配列体の製造方法について説明する。
本発明の自律応答性ゲルの配列体の製造方法は、多孔質の陽極酸化アルミナの細孔に、自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液を注入し、紫外線を照射する、という工程を有する。その他の工程を含んでもよい。
【0057】
本発明では上述の自律応答性ゲルを用いるため、光や熱などの外部刺激に対して自発的かつ周期的に変動する。したがって一般的なポリマーの製造方法をそのまま転用できるとは限らない。
【0058】
ここで、自律応答性ゲルの配列体はセルオートマトンへの適用を考慮するものであり、ナノ単位で規則的に配列する構造体である。ナノオーダーでの自律応答性ゲルの配列体の製造方法を種々検討した結果、多孔質の陽極酸化アルミナの細孔の規則配列構造を鋳型として利用することが好適であった。
【0059】
なお、陽極酸化アルミナの細孔はナノオーダーであり、この細孔にゲル状の物質を充填することは極めて困難である。また、ゲルを溶解させた溶解液を細孔に注入する場合、ゲルを均質に溶解させる溶媒の選択が困難である。
【0060】
そこで、本発明に係る自律応答性ゲルの配列体の製造方法では、自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液を陽極酸化アルミナの細孔に注入し、その状態で前駆体を重合させて自律応答性ゲルを得る。このとき、陽極酸化アルミナの細孔内に存在する自律応答性ゲル前駆体を重合するのに付与するエネルギーとしては、紫外線が有効である。
例えば、熱重合では、アルミナ細孔内に自律応答ゲルが生成しにくい場合がある。その理由として、不均質構造内でのゲル化では、アルミナ細孔内に局所的に重合反応基質が分断されて存在するため、重合反応基質が均質に存在する場合に比べて、モノマーと架橋剤、重合開始剤との反応速度が遅くなり、重合反応が促進されにくいことが挙げられる。更に、反応速度を高めるために高温で重合するとモノマー自身の構造が変質するため、自律応答ゲルが形成しない場合がある。これらの理由から、熱重合よりも紫外線照射による重合が適切である。
【0061】
特に、温度感応性の自律応答性ゲルは熱に応答するため、熱エネルギーを付与して重合する場合には、重合反応中から熱に感応して均質なゲルが得られにくい。よって、温度感応性の自律応答性ゲルのナノ単位の配列体を製造する場合には、特に紫外線によって重合させることが好ましい。
【0062】
なお、本発明の自律応答体の製造方法では、紫外線の一部は陽極酸化アルミナの細孔を介して自律応答性ゲルの前駆体に照射されるが、この場合であっても自律応答性ゲルの前駆体は重合反応を起こし、自律応答性ゲルを形成する。
以下、自律応答性ゲルの配列体の製造方法を工程毎に説明する。
【0063】
(多孔質の陽極酸化アルミナの準備)
本発明では、ナノ単位の細孔が規則的に形成されている陽極酸化アルミナを用いることが望ましく、0℃以上10℃以下の酸性水溶液中で電圧を印加し陽極酸化によって作製されることが好ましい。電圧印加後には、所望の細孔径となるよう、酸性水溶液中に浸漬して細孔径を拡大させることが好ましい。
【0064】
陽極酸化アルミナの製造方法は、特開2007−231405号公報、特開2005−256071号公報など公知の方法を参照することができる。
【0065】
多孔質の陽極酸化アルミナは、自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液の流出を防ぐよう、細孔の一方の端部が閉じていることが望ましい。
よって、両端の細孔が貫通した陽極酸化アルミナは、一方の端部を塞いで使用することが好ましく、特に金属蒸着によって一方の端部を塞ぐことが好ましい。
また、細孔の一方の端部が閉じている多孔質の陽極酸化アルミナとして、シリコン基板上のアルミニウム膜を陽極酸化して得る陽極酸化アルミナを好適に用いることができる。
これら細孔の一方の端部が閉じている多孔質の陽極酸化アルミナのなかでも、本発明においては、後の工程でエッチングにより金属及びアルミナを除去し易いという観点から、両端の細孔が貫通した陽極酸化アルミナを用い、その一方の端部に金属を蒸着して塞いだものを用いることが好ましい。
【0066】
細孔の一方の端部に蒸着する前記金属としては、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム等を挙げることができ、後の工程で陽極酸化アルミナとともに同じエッチング液により除去できる観点からは、アルミニウムであることが好適である。
【0067】
両端の細孔が貫通した陽極酸化アルミナは、Whatmann社製のANODISCなどの市販のものを適用してよい。
【0068】
(前駆体溶液の準備)
自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液(以下「前駆体溶液」と称する場合がある)を準備する。前駆体溶液は、少なくとも自律応答性ゲルの前駆体と重合開始剤と架橋剤とを含む。更に、前駆体溶液は溶媒などを含んでもよい。
【0069】
自律応答性ゲルの前駆体は、自律応答性ゲルを形成するためのモノマーであり、自律性を付与するためのモノマー、及び刺激に対するスイッチ機能(感応性)を付与するためのモノマーを少なくとも含む。或いは、前記前駆体として、自律応答性ゲルを形成するオリゴマーを用いてもよい。
【0070】
ゲルに自律性を付与するためのモノマーとしては、前述の通り、好ましくは前記Ru錯体を有するモノマーであり、より好ましくは、前記化学式(1)で表される化合物である。
また、ゲルに感応性を付与するためモノマーとしては、温度応答性ゲルが得られるN−イソプロピルアクリルアミドが好ましい。
更に、前駆体溶液には他のモノマーを加えてもよい。
【0071】
前駆体溶液中の自律応答性ゲルの前駆体の含有率(濃度)は、陽極酸化アルミナの細孔に注入する作業性及び重合度の観点から、0.1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、16質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0072】
前駆体溶液に添加する重合開始剤は公知のものを適用でき、有機過酸化物等が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、クメンヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、ジクロルペルオキシド、ジ第3ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等が挙げられる。
【0073】
なお、光重合開始剤は、極大吸収波長が400nm以下であることが好ましく、更に360nm以下であることが好ましい。このように吸収波長を紫外線領域にすることにより、照射前の前駆体溶液の取り扱いを白灯下で実施することができる。
【0074】
市販の光重合開始剤としては、例えば、チバスペシャルケミカルズ製のIrgacure 651、Irgacure 184、Irgacure 127、Irgacure 907等が挙げられる。
【0075】
本発明における光重合開始剤としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
光重合開始剤の含有率は、自律応答性ゲルの前駆体の全量に対して(重合開始剤/自律応答性ゲルの前駆体の全量)、0.1質量%以上100質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下であることが更に好ましい。
【0077】
前駆体溶液に添加する架橋剤は公知のものを適用でき、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、N−スクシンイミジルアクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等が挙げられる。
本発明における架橋剤としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
架橋剤の含有率は、自律応答性ゲルの前駆体の全量に対して(架橋剤/自律応答性ゲルの前駆体の全量)、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0079】
前駆体溶液に用いる溶媒は、前記自律応答性ゲルの前駆体を溶解するものであれば特に制限されない。エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を例示することができる。
【0080】
(細孔への注入)
調製した前駆体溶液を前記陽極酸化アルミナの細孔に注入する。紫外線照射前に、前駆体溶液に含まれる酸素は、脱気及び窒素置換により除去する。
具体的には、陽極酸化アルミナに前駆体溶液を塗布し、真空脱気した後、窒素置換で大気圧に戻すことにより、毛細管現象によって細孔に注入する。
【0081】
前駆体溶液は、陽極酸化アルミナの細孔の長さに対して、略同程度に充填することが好ましい。
陽極酸化アルミナに対して前駆体液の付与量が多すぎると、陽極酸化アルミナの細孔の端部に分厚いゲル膜が形成される。この分厚いゲル層は、後工程でエッチング液に浸した際に変形し易く、ロット状の自律応答性ゲルを得ることが難しくなる。
【0082】
(紫外線の照射)
前駆体溶液を細孔に含む陽極酸化アルミナに対して紫外線を照射し、前記前駆体を重合させる。
重合のための照射には、波長200nm以上500nm以下の紫外線を用いることが好ましく、波長250nm以上360nm以下の紫外線がより好ましい。
【0083】
紫外線は、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、高輝度紫外線スポット光源装置、紫外線レーザ、メタルハライドランプ等を用いて照射することができ、照射強度の観点からは、高輝度紫外線スポット光源装置を用いることが好適である。
【0084】
紫外線の照射強度は、50mW/cm以上5000mW/cm以下であることが好ましく、200mW/cm以上2500mW/cm以下であることがより好ましく、500mW/cm以上2000mW/cm以下であることが更に好ましい。
上記範囲内の照射強度は、陽極酸化アルミナの細孔内で、自律応答性ゲルの前駆体がムラ無く重合するのに好適である。
【0085】
紫外線の照射時間は、10秒以上1200秒以下であることが好ましく、30秒以上120秒以下であることがより好ましく、30秒以上60秒以下であることが更に好ましい。
照射により得られるゲルは自律性を示し、環境によっては時間の経過とともに自発的かつ周期的に変化するため、上記範囲の照射時間とすることが望ましい。
【0086】
紫外線の照射量は、下記式(2)を満たすことが好ましい。式(2)を満たす照射量で紫外線を照射すると、自律応答性ゲルの形状性に優れる。
【0087】
100000≧照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)≧30000 式(2)
【0088】
「照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)」で表される照射量は、30000以上90000以下であることがより好ましく、30000以上65000以下であることが更に好ましい。
【0089】
紫外線照射によって前駆体が重合し、自律応答性ゲルが生成する。この自律応答性ゲルは、陽極酸化アルミナの細孔内に充填された状態で得られる。
【0090】
(陽極酸化アルミナの除去)
上記工程で得られた、陽極酸化アルミナの細孔内に自律応答性ゲルを有する配列体から陽極酸化アルミナを部分的に除去すると、ナノロッド状の自律応答性ゲルが部分的に露出した配列体が得られる。陽極酸化アルミナは、エッチング液によってエッチングして部分的に除去することが好適である。
【0091】
前記エッチング液は、陽極酸化アルミナをエッチングするためのものである。エッチング液としては、水酸化ナトリウム水溶液、リン酸水溶液、フッ酸水溶液等が挙げられ、入手容易性の観点からは、水酸化ナトリウム水溶液がより好適である。
【0092】
エッチング液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、水酸化ナトリウムの濃度は、0.1mol/L以上1.0mol/L以下であることが好ましく、0.4mol/L以上0.5mol/L以下であることがより好ましい。
【0093】
陽極酸化アルミナは、エッチング液に浸漬することによって除去される。浸漬時間は、エッチング液の濃度や、除去する陽極酸化アルミナの大きさによっても異なるが、0.5N程度の水酸化ナトリウム水溶液であれば、10秒〜60秒程度とすることが好ましい。
【0094】
本発明の自律応答性ゲルの配列体の製造方法では、これまでの方法では得られなかったより微細な自律応答性ゲルの配列体を作製することができ、且つX線を用いた3次元微細加工法等の従来の方法よりも簡便な方法である。
【0095】
<反応基質>
本発明の自律応答体は、反応拡散を伝達する反応基質を含む。反応基質の存在により自律応答性ゲルが自律応答する。
BZ反応を利用する自律応答性ゲルを用いる場合には、BZ反応を起こすマロン酸などの有機酸、硝酸などの無機酸、酸化剤の臭素酸(NaBrO)を含む媒質を、反応拡散を伝達する反応基質として用いる。
【0096】
ここで、P.Foersterらは、BZ反応を記述する理論として、下記(1)式及び(2)式の2変数のOregonatorモデルを提唱している(P.Foerster, S.C.Muller, B.Hess, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.86, p6831-6834 (1989)、 P.Foerster, J.Phys.Chem., Vol.94, Issue.26, p8859-8861 (1990))。
(1)(2)式中、2変数(u,v)はそれぞれ、[HBrO]、[触媒:Ru2+]の濃度を表す。Dは拡散係数を表し、f、ε、qはそれぞれ興奮(=酸化)の閾値、興奮性、反応速度定数に対応するパラメータである。
また、P.Foersterらは、実験からBZ反応により時空間パターンの伝播波の曲率(K)と、曲線波面の速度(N)、平面波速度(c)、拡散定数(D)には(3)式の関係があり、化学波が起こらない閾値の半径(Rcrit)を(4)式から見積もっている。尚この実験では、2つの銀電極(ギャップ4mm、直径100mm)を浸して反応領域を制限し、BZ溶液での時空間パターンのK、N、c、Dを画像解析し、Rcritを見積もっている。
【0097】
【数1】

【0098】
上(4)式において、Dは拡散係数を表し、cは平面波速度を表す。したがって拡散係数Dを小さくし、或いは平面波速度cを大きくすることにより、化学伝播波の最小半径を小さくできる。
よってナノ単位の自律応答体を用いる場合には、平面波速度cを大きくする、又は拡散係数Dを小さくすることが望ましい。拡散係数Dの低減には、反応基質液の粘度を高めたり、或いは固化させることも有効である。
【0099】
そこで、本発明に係る反応基質は、液体の状態で適用してもよいし、上記拡散係数Dの調整の観点から、ゲル化剤等により固めて適用してもよい。更には、増粘剤を添加して反応基質液の粘度を調整することも好適である。本発明の自律応答性ゲルの直径を勘案すると、ゲル化剤によって固化した反応基質を適用することが好適である。
【0100】
前記ゲル化剤としては、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、増粘剤は公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0101】
<自律応答体の製造方法>
上記方法によって得た自律応答性ゲルの配列体の間隙を、前記反応基質で充填する。液体の反応基質で充填しても、或いは寒天等で固めた反応基質で充填してもよい。このとき化学伝播波の最小半径を調整すべく、適切な拡散係数Dとなるように反応基質を調製し充填する。
【0102】
<自律応答体の挙動>
得られたナノロッド状の自律応答体は、反応基質の存在下で、時間の経過とともに自発的かつ周期的に変化する。
例えば、前記Ru錯体等を有するナノロッド状の自律応答性ゲルは、前記BZ反応溶液中で周期的に酸化還元変化するため、自律的かつ周期的に膨潤収縮運動し得る。よって配列体として形成したナノロッド状の自律応答性ゲルは、BZ反応溶液による化学反応波の伝播を制御することで、時間の経過とともにナノロッド状のゲルの膨潤・収縮運動が伝播し、人工鞭毛のような働きが期待できる。
また、前記Ru錯体を有するナノロッド状の自律応答性ゲルは、前記BZ反応溶液中で周期的に色調も変化し得るため、オートマトン的エネルギーフィルター等への応用も期待される。
【0103】
このように、本発明のナノロッド状の自律応答体は、微小物質の輸送に適した小型アクチュエーターや、セルオートマトン型のエネルギーフィルターへの応用が期待されるものである。
【実施例】
【0104】
以下では実施例により本発明を説明するが、本発明の自律応答体及びその製造方法の一例について述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0105】
尚、実施例において記載した寸法は、日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡S-5500によって測定した値である。
【0106】
[実施例1]
(陽極酸化アルミナの準備)
Si基板上に、厚さ1μmのアルミニウム膜をRFマグネトロン スパッタリング法によって形成した。このアルミニウム膜に対して下記条件で1段階の陽極酸化を行なった。
【0107】
・電解液 0.3Mのリン酸水溶液
・電解液温度 5℃
・印加電圧 110V
・印加時間 20分間
【0108】
その後、リン酸5質量%水溶液に20分間に浸して細孔径拡大処理を行った。得られた陽極酸化アルミナの細孔径は、約150nm程度であった。
図1(a)に、得られた陽極酸化アルミナの断面の電子顕微鏡写真(SEM)像を示し、図1(b)にその表面のSEM像を示す。
【0109】
(ゲル前駆体溶液の調製)
・N−イソプロピルアクリルアミド 168mg
・下記化学式(3)で表される化合物(Ru(bby))を有する化合物) 10mg
・N,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)(架橋剤) 12mg
・Irgacure 651(重合開始剤) 19mg
・エタノール 540μl
・ジメチルスルホキシド(DMSO) 60μl
【0110】
【化4】

【0111】
上記配合で混合したものを、脱気および窒素置換して酸素を除去し、ゲル前駆体溶液を調製した。
【0112】
(紫外線照射)
上記陽極酸化アルミナの細孔に上記ゲル前駆体溶液を注入した。ここに、輝度紫外線スポット光源装置(浜松ホトニクス社製、LIGHTNINGCURE,L8858)によって、1020mW/cm、60秒間、波長360nmの紫外線を照射した。
【0113】
図2に、得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真を示す。図2の電子顕微鏡写真に示されるように、細孔内へのゲルの充填率は、ほぼ100%であった。
【0114】
[実施例2]
実施例1における紫外線の照射時間を90秒間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、自律応答性ゲルの配列体を作製した。
図3に、得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真を示す。実施例2の自律応答性ゲルの配列体では、細孔内で空隙が僅かに発生していた。
【0115】
[実施例3]
実施例1における紫外線の照射時間を120秒間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、自律応答性ゲルの配列体を作製した。
図4に、得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真を示す。実施例3の自律応答性ゲルの配列体では、細孔内で空隙が僅かに発生していた。
【0116】
[実施例4]
実施例1における紫外線の照射条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、自律応答性ゲルの配列体を作製した。
・照射強度 4500mW/cm
・照射時間 120秒間
【0117】
図5に、得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真を示す。実施例5の自律応答性ゲルの配列体では、ゲル前駆体の注入口側の細孔(写真における上部)にはゲルが充填されていたが、細孔の底部である、シリコン基板側(写真における下部)にまではゲルが充填されなかった。
【0118】
実施例1〜4の結果から、照射強度としては、4500mW/cmよりも1020mW/cmが好適であることが判明した。但し、照射強度4500mW/cmの場合であっても、細孔内の一部ではナノロッド状の自律応答性ゲルが形成されていた。
また、照射強度1020mW/cmでは、照射時間60秒、90秒、120秒のなかでは、60秒の照射時間が最も良好であり、細孔内のゲルの充填率が高くなっていた。
【0119】
[実施例5]
(陽極酸化アルミナの準備)
細孔径100〜200nm(一方の端部の孔径100nm、他方の端部の孔径200nm)、厚み60μmの貫通陽極酸化アルミナメンブレム(Whatmann製ANODISC)の一方の端部の細孔上に、アルミニウム(Al)膜をスパッタ蒸着法により作製した。Al膜の膜厚は、約800nmであった。
【0120】
この陽極酸化アルミナを用いた以外は、実施例1と同様の方法で自律応答性ゲルの配列体を作製した。
図6に、得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真を示す。実施例5の自律応答性ゲルの配列体は、図6の電子顕微鏡写真に示されるように、細孔内へのゲルの充填率が、ほぼ100%であった。
【0121】
[実施例6]
実施例5で作製した自律応答性ゲルの配列体を、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液に30秒間浸漬した。図7に、アルカリ水溶液に浸漬後の自律応答性ゲルの配列体の表面における電子顕微鏡写真を示す。
図7の電子顕微鏡写真に示されるように、直径200nm、長さ2μm〜4μmのPoly(NIPAAm-co-Ru(bpy)3)の自律応答性ゲルのナノロッドが形成された。
【0122】
図8〜図10に、この試料の細孔部分を拡大した電子顕微鏡写真を示す。
アルカリ処理後の試料の細孔部分を拡大して観察すると、アルミナ細孔壁とゲルロッド間に空隙が見られた。ゲルの形状は、アルミナ細孔のハニカム形状を反映していた。アルカリ処理により、細孔壁の一部が溶出することで、隙間が生じ、ゲルロッドが動きやすくなったため、ゲルロッドの一部が分離したと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】(a)は、実施例1で準備した陽極酸化アルミナの断面の電子顕微鏡写真(SEM)像であり、(b)はその表面のSEM像である。
【図2】実施例1で得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例3で得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例4で得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例5で得られた自律応答性ゲルの配列体の電子顕微鏡写真を示す。
【図7】アルカリ処理後の自律応答性ゲルの配列体の表面における電子顕微鏡写真である。
【図8】図7の試料の拡大した電子顕微鏡写真である。
【図9】図7の試料の拡大した電子顕微鏡写真である。
【図10】図7の試料の拡大した電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の陽極酸化アルミナと、前記陽極酸化アルミナの細孔内に存在する自律応答性ゲルと、を有する自律応答性ゲルの配列体。
【請求項2】
前記多孔質の陽極酸化アルミナを鋳型及び固定化土台に用いた自律応答性ゲルの配列体と、
反応拡散を伝達する反応基質と、
を含んで構成される自律応答体。
【請求項3】
前記自律応答性ゲルが、刺激応答性の自律応答性ゲルである請求項2に記載の自律応答体。
【請求項4】
前記自律応答性ゲルが、
N−イソプロピルアクリルアミドと、
ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky反応)の触媒であるルテニウム錯体、セリウム錯体、マンガン錯体、又は鉄−フェナントロリン錯体を有するモノマーと、
に由来する構成単位を有する請求項2又は請求項3に記載の自律応答体。
【請求項5】
前記ルテニウム錯体を有するモノマーが、下記化学式(1)で表される化合物である請求項4に記載の自律応答体。
【化1】

【請求項6】
前記陽極酸化アルミナの細孔の平均径が、10nm以上1000nmである請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の自律応答体。
【請求項7】
前記自律応答性ゲルがロッド状であり、該自律応答性ゲルの平均直径が10nm以上1000nm以下である請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載の自律応答体。
【請求項8】
多孔質の陽極酸化アルミナの細孔に、自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液を注入し、
紫外線を照射する、
自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項9】
前記自律応答性ゲルが刺激応答性の自律応答性ゲルである請求項8に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項10】
前記自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液が、
N−イソプロピルアクリルアミドと、
ベロウソフ・ジャボチンスキ反応(Belousov-Zhabotinsky反応)の触媒であるルテニウム錯体、セリウム錯体、マンガン錯体、又は鉄−フェナントロリン錯体を有するモノマーと、
を含む請求項8又は請求項9に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質の陽極酸化アルミナの細孔は両端が貫通しており、その一方の端部を蒸着によって金属で塞いだ後に、前記自律応答性ゲルの前駆体を含む溶液を注入する請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項12】
前記紫外線を、50mW/cm以上5000mW/cm以下の照射強度で照射する請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項13】
下記式(2)を満たす照射量で前記紫外線を照射する請求項8〜請求項12のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
100000≧照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)≧30000 式(2)
【請求項14】
前記陽極酸化アルミナを、0℃以上10℃以下の酸性水溶液中で陽極酸化により作製する請求項8〜請求項13のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項15】
前記紫外線の照射後に、
エッチング液を付与して前記陽極酸化アルミナを部分的に除去し、一部の自律応答性ゲルを露出させる請求項8〜請求項14のいずれか1項に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項16】
前記エッチング液が、アルカリ水溶液である請求項15に記載の自律応答性ゲルの配列体の製造方法。
【請求項17】
請求項8〜請求項16のいずれか1項に記載の製造方法によって得た自律応答性ゲルの配列体の間隙に、反応拡散を伝達する反応基質を充填する自律応答体の製造方法。
【請求項18】
前記自律応答性ゲルの間隙に、ゲル化剤を含む前記反応基質を充填し、該反応基質を固める請求項17に記載の自律応答体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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