自律神経機能を調節する作用を有する香気組成物、およびその利用
【課題】 人の五感のうち、嗅覚を介して自律神経活動を調節することが可能な組成物と、当該組成物の代表的な利用技術とを提案する。
【解決手段】 本発明にかかる香気組成物は、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、自律神経機能を調節可能としている。具体的には、ウィスキーやブランデーの香気成分を香気組成物として用いることができる。
【解決手段】 本発明にかかる香気組成物は、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、自律神経機能を調節可能としている。具体的には、ウィスキーやブランデーの香気成分を香気組成物として用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能を調節する作用を有する香気組成物と、その代表的な利用、例えば、当該香気組成物を用いた医薬品、飲食品等として用いる薬学的組成物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の恒常性を維持するために、生体には自律神経系、内分泌系、免疫系が備わっている。その中でも自律神経系は、大脳の支配から比較的独立して、特に意思に無関係に自動的に働くことからこの名称が与えられており、主に内臓の機能を調節している。
【0003】
自律神経系には、交感神経系と副交感神経系との二系統が存在し、両者の活動のバランスにより自律神経系全体が制御されている。具体的には、身体が活動しているときには交感神経の活動が優位となり、全身が緊張した状態となる。逆に、副交感神経の活動が優位なときは身体の緊張がとれ、くつろいでいる状態となる。
【0004】
ところで、ストレスにより自律神経活動の乱れが長期に続くと様々な身体的機能障害が生じることが知られている。自律神経活動の乱れとは、本来優位となる状態でないにも関わらず交感神経活動または副交感神経活動が優位な状態になることを意味するが、他に、交感神経および副交感神経の両者の活動が低下することも知られている。なお、自律神経活動の乱れは、喫煙等の生活習慣や各種疾患、運動、ストレス等によって生ずることが知られている。
【0005】
このように自律神経活動に乱れや低下が生じると、様々な健康障害を引き起こすことが知られている。ところが、これらの健康障害は、各症状や疾患ごとに対症的に治療が行われていることが実情であり、根本的な原因である自律神経活動そのものを調節する方法はとられていない。対症療法は一時的にその病態そのものを改善することができるが、服薬を中止すれば再発し、また、服薬を継続していれば、一つの疾患は改善したとしても根本原因である自律神経活動の乱れや自律神経活動の低下による他の疾患が発症する場合も多い。
【0006】
そこで、根本原因である自律神経活動そのものを調節する医薬品あるいは健康食品が求められていた。つまり、何らかの要因により亢進した交感神経活動または副交感神経活動を抑制したり、低下した交感神経活動または副交感神経活動を上昇させたりすることにより、交感神経活動優位な状態または副交感神経活動優位な状態を実現させ、結果的に、全体的に自律神経活動が亢進した状態もしくは低下した状態を回復させる作用を有する化合物が得られれば、種々の疾患の予防的観点から見ても利用価値は極めて高い。
【0007】
ところで、従来から、ストレスを解消または緩和する方法(ストレス対処法、リラクゼーション法)が種々提案されている。ストレスは、人がストレッサーという刺激や負荷を感ずることで生じるものであるため、逆に、他の感覚を通じてストレスを解消または緩和することが可能となる。このようなリラクゼーション法の一つとして、アロマテラピーが存在する。アロマテラピーは、人間の嗅覚という感覚を介してストレスの解消や緩和を図る方法である。
【0008】
ただし、嗅覚を通じたリラクゼーションという考え方や方法は、古くから世界各地に存在しており、各地域の環境や文化と密接に関連して独自に発展してきたものである。そのため、種々の香りが生体に好影響をもたらすことそのものは広く知られているものの、経験的な知識に基づくものが多く、その科学的根拠も明確になっているものは少ない。したがって、アロマテラピーという技術全体を見れば、未だ整理されておらず科学的な裏付けも不十分な点があるため、技術的には発展途上であると言うことができる。それゆえ、近年では、様々な香気成分が身体に与える影響を検討する研究がなされたり、このような研究から得られた知見から、実際にストレスの解消や緩和に有効な香気を特定して利用する技術が提案されたりしている。
【0009】
具体的には、例えば、非特許文献1には、ワインの香りにリラクゼーション効果が存在することが開示されており、非特許文献2には、ウィスキーの香気成分にストレス緩和作用が存在することも開示されている。さらに、本出願人は、ストレスを有効に予防・軽減でき、さらに安全でかつ服用や摂取が容易な抗ストレス剤として、酒類の香気成分を有効成分として含む抗ストレス剤を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−171286(平成15年6月17日公開)
【非特許文献1】永井元他、AROMA RESEARCH Vol. 1, No.4, p48 (2000)
【非特許文献2】青島均他、AROMA RESEARCH Vol. 3, No.4, p11 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の技術のように、嗅覚を介して、ストレスそのものの緩和や解消を図る技術は知られている。しかしながら、嗅覚を介して自律神経活動を調節する手法や技術は、これまで知られていなかった。
【0011】
すなわち、ストレスの発生には自律神経活動が大きく影響するため、自律神経活動を調節することにより、ストレスの調節を円滑・良好に行うことが可能になる。これにより、ストレスに影響を受け難くなったり、過剰ストレスの発生を抑制したりすることが可能となると考えられるだけでなく、自律神経活動の乱れや低下を緩和したり、これらの発生を回避または抑制したりすることも可能になり、自律神経活動の乱れや低下に伴う前述した各種疾患に対して有効な対処技術となる可能性がある。
【0012】
しかも、嗅覚は知的活動に直接利用されることが無い上に、嗅覚を介した手法は、過剰な臭いでない限りは概ねどのような環境でも利用可能である、香りをつけるだけなので媒体が限定されない等の利点を有する。そのため、嗅覚を介した手法や技術は、自律神経活動をより円滑・良好に調節する上では非常に有効な技術であると考えられる。
【0013】
上述したように自律神経活動の低下や乱れは様々な身体的・精神的障害を引き起こす。そのため、自律神経活動を調節する化合物または組成物、特に、医薬・食品への適応に優れた副作用の少ない化合物または組成物の開発が強く望まれていた。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、人の五感のうち、嗅覚を介して自律神経活動を調節することが可能な組成物と、当該組成物の代表的な利用技術とを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ブランデーやウィスキーのように、蒸留後オーク製の樽で熟成させるタイプの蒸留酒では、その香りにより自律神経活動を調節することを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明にかかる香気組成物は上記の課題を解決するために、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、自律神経機能を調節可能とすることを特徴としている。具体的には、副交感神経活動を亢進させたり、活動の抑制を緩和したりすることで、副交感神経活動を調節可能とすることができる。
【0017】
上記香気組成物においては、上記植物性素材が、果実または穀類であればよく、具体的には、例えば、上記果実としてブドウを、穀類としてオオムギを挙げることができる。なお、オオムギは、発芽した麦芽として用いることができる。
【0018】
上記香気組成物においては、上記抽出画分としてブランデーまたはウィスキーを用いることができる。また、上記抽出画分としては、エタノールを除去したものも用いることができる。
【0019】
本発明の利用は特に限定されるものではないが、上記香気組成物を含む薬学的組成物を挙げることができる。具体的には、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、芳香剤の少なくとも何れかとして用いられる薬学的組成物を挙げることができ、代表的な例としては、芳香剤を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明では、醸造したエタノール含有物を蒸留して得られるエタノール溶液によりオーク材を抽出することで得られる抽出画分を、自律神経活動を調節するための有効成分として用いている。
【0021】
これにより、嗅覚を介して自律神経活動を調節することが可能になるため、幅広い環境で、かつ様々な媒体に対して処方することができ、自律神経活動の乱れや低下の状態に応じた適切な対処が可能になる。しかも、香気による自律神経活動の調節であるため、それ自体がストレッサーとなることを抑制または回避することが可能になるので、自律神経活動をより円滑・良好に調節し、ひいてはストレスの調節も円滑・良好に行うことが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の一形態について以下に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0023】
(I)本発明にかかる香気組成物
本発明にかかる香気組成物は、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたもの(発酵液)を蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでいる。すなわち、本発明では、植物性原料をアルコール発酵させる工程(発酵工程)と、発酵液を蒸留する工程(蒸留工程)と、蒸留により得られたエタノール溶液でオーク材を抽出する工程(抽出工程)とを少なくとも含む製造方法により香気組成物の有効成分である抽出画分を製造する。
【0024】
<発酵工程>
上記エタノール溶液の製造に用いられる植物性素材は、アルコール発酵可能な程度に糖質やデンプン質を含むものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ブドウ、リンゴ、ナシ、ビワ、イチゴ、桜桃、マルメロ、モモ、アンズ等の果実;オオムギ、トウモロコシ、ライムギ、コメ等の穀類;サツマイモ、サトウキビ等のその他の素材等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。この中でも、果実や穀類が好ましく、果実としてはブドウが、穀類としてオオムギがより好ましい。なお、オオムギは、そのまま用いることもできるが、発芽したものすなわち麦芽としても用いることができる。
【0025】
上記植物性素材をアルコール発酵させる方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により発酵させればよい。グルコース等の単糖類を多く含む植物性素材を原料として用いる場合は、当該植物性素材に対して必要に応じて適切な加工を施した上で、水および必要に応じてその他の原料と混合し、酵母等のアルコール発酵性の微生物を用いて適切な条件で発酵させればよい。同様に、デンプン質を多く含む植物性素材を原料として用いる場合には、デンプンをグルコースに分解する糖化処理(例えば、麹や麦芽を用いる)を行った上で、酵母等のアルコール発酵性の微生物を用いて適切な条件で発酵させればよい。
【0026】
アルコール発酵により得られた発酵液におけるエタノール濃度は特に限定されるものではないが、5〜10%程度の範囲内であればよい。
【0027】
<蒸留工程・抽出工程>
アルコール発酵により得られた発酵液を蒸留する手法も特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ブランデー、ウィスキー、乙類焼酎等の蒸留に用いられる単式蒸留器を用いてもよいし、甲類焼酎等の蒸留に用いられる連続蒸留器を用いてもよい。
【0028】
なお、蒸留により得られたエタノール溶液は、そのまま用いてもよいし、エタノール濃度を調整するために加水してもよい。エタノール溶液におけるエタノール濃度は特に限定されるものではないが、30〜70%の範囲内であればよい。これによりオーク材の抽出をより効率的に行うことができる。
【0029】
上記エタノール溶液によるオーク材の抽出方法は特に限定されるものではなく、公知の抽出方法により抽出すればよい。通常は、オーク材に対して、必要に応じて適切な加工を施した上で、上記エタノール溶液に接触させてオーク材中の成分を抽出すればよい。接触方法は特に限定されるものではなく、エタノール溶液中に浸漬させる方法であってもよいし、オーク材で容器を作製し、この容器内にエタノール溶液を充填する方法であってもよい。
【0030】
オーク材の容器としては、樽が好適に用いられる。このようなオーク製の樽としては、貯蔵型の蒸留酒の製造に用いられる樽を挙げることができる。具体的には、例えば、(a)アメリカンオークで作られた樽でバーボンウィスキーの熟成に使われた古樽であるバーボン樽、(b)スパニッシュホワイトオークで作られた樽でシェリー酒を熟成させた古樽であるシェリー樽、(c)前記バーボン樽やシェリー樽を一度スコッチ・ウィスキーの熟成に使った古樽、いわば再々使用した樽であるプレーンオーク(リフィルカスク)等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0031】
抽出の条件も特に限定されるものではなく、抽出温度は常温の範囲内であればよいが、必要に応じて温度を変化させてもよい。また、抽出時間も特に限定されるものではないが、約1年〜30年程度の長期間にわたることが好ましい。
【0032】
抽出工程により得られた抽出画分は、そのまま用いることもできるし、必要に応じてエタノールを除去してもよい。本発明にかかる香気組成物においては、その有効成分はエタノールではなく抽出画分中に含まれる複合香気成分であるため、成分としてのエタノールは必ずしも含まれていなくてもよい。
【0033】
抽出画分からエタノールを除去する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような濃縮処理を施すことができる。
【0034】
まず、オーク材を抽出したエタノール溶液を水で希釈する。このとき、約1.1〜5倍程度、より好ましくは約2倍程度に希釈するのが好ましい。次に、希釈された溶液に対し有機溶媒を用いた抽出を行う。溶媒抽出の際に用いる有機溶媒は特に限定されるものではないが、炭素数1〜8の低級炭化水素を用いることが好ましく、炭素数1〜8の低級アルカンを用いることがより好ましく、ペンタンを用いることが好ましい。また、当該有機溶媒としては、エーテルまたはエーテルと炭素数1〜8の低級炭化水素の混合溶媒を用いることもできる。より好ましくは、エーテルとペンタンの混合溶液、さらに好ましくは前記成分の混合比(容量比)が2:1の混合溶液を用いることが好ましい。
【0035】
次に、抽出した後の有機溶媒を飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄する。そのとき、中性部は有機溶媒層に分画される。有機溶媒層のみを取り出し、脱水剤、好ましくは無水硫酸ナトリウムで脱水する。その後、溶媒を除去する。溶媒の除去は、当業者が公知方法の中から適宜選択することができる。具体的には、減圧下で留去する方法、シュナイダーカラムを用いたKD濃縮器で常圧濃縮し、さらに減圧下で除去する方法を用いることが好ましい。次に、さらに残渣を減圧下、好ましくは約100mmHg程度の圧力下で蒸留し、イソアミルアルコール等のフーゼルアルコールを除去する。これにより、エタノールを除去した抽出画分を得ることができる。
【0036】
<具体的な抽出画分>
本発明にかかる香気組成物は、上記製造過程を経て製造することができる。したがって、本発明にかかる香気組成物においては、有効成分(抽出画分)として、オーク製の樽で貯蔵するタイプの蒸留酒を用いることができる。具体的には、ブランデーまたはウィスキーを挙げることができる。
【0037】
ブランデーは、主としてブドウを原料として製造される貯蔵型の蒸留酒であり、ウィスキーは、主として麦芽を原料として製造される貯蔵型の蒸留酒である。これら蒸留酒は、貯蔵にオーク製の樽を用いるため、貯蔵の過程でオーク材の抽出を行うことになる。したがって、本発明にかかる香気組成物に含まれる抽出画分として用いることができる。
【0038】
ブランデーの製造方法の一例について説明する。まず、白ぶどうを絞り、果汁を得、これに酵母を添加し発酵させ、アルコール分8〜10%のぶどう発酵液を得る。これを銅製
のシャラントポット(単式蒸溜器)Iにて二度蒸留しアルコール分約60%のエタノール溶液(ヌーベル)を得る。このヌーベルをブランデー製造用のリムーザンオーク樽(33
50L容量、内面は焙煎により黒褐色に焦がされたもの)に詰め12年以上貯蔵する。これを加水によりアルコール分40%に調整することで、ブランデーが製造される。
【0039】
次に、ウィスキーの製造方法の一例について説明する。まず、麦芽を粉砕し、温水と混合し糖化させ、濾過した糖液に酵母を加え発酵させ、アルコール分7.0〜7.5%の発酵液(もろみ)を得る。もろみを銅製のポットスチル(単式蒸溜器)にて二度蒸溜し、アルコール分約60%のアルコール溶液(ニューポット)を得る。次に、ホワイトオーク製のウィスキー製造用の樽(内面は直火により黒褐色に焦がされたもの)に詰め12年以上貯蔵する。これを加水によりアルコール分40%に調整することで、ウィスキーが製造される。
【0040】
本発明にかかる香気組成物は、上記ウィスキーやブランデーを抽出画分(有効成分)として含有させてもよいし、前項で説明したように、抽出画分をさらに抽出してエタノールを除く等の濃縮処理を施したもの(濃縮物)を抽出画分(有効成分)として含有させてもよい。また、上記ウィスキーやブランデー、あるいはその濃縮物を精製し、この生成物を抽出画分(有効成分)として含有させてもよい。上記精製の手法は特に限定されるものではなく、例えばカラムクロマトグラフィーによる精製などの公知の方法を用いることができる。
(II)香気組成物の機能
本発明にかかる香気組成物は、自律神経機能を調節する作用を有している。すなわち、本発明にかかる香気組成物を用いれば、交感神経系および副交感神経系からなる自律神経系全体の活動(自律神経機能)を調節することが可能となる。これにより、自律神経活動の乱れや低下の状態に応じた適切な対処が可能になり、かつ、医薬・食品への適応にも優れたものとなっている。
【0041】
<自律神経活動の乱れおよび低下とその影響>
前述したように、自律神経系には、交感神経系と副交感神経系との二系統が存在し、両者の活動のバランスにより自律神経系全体が制御されている。交感神経活動が優位の状態では、全身が緊張した状態となるのに対して、副交感神経活動が優位の状態では、身体の緊張がとれ、くつろいでいる状態となる。これら自律神経活動のバランスが乱れた状態が長期に持続したり、自律神経活動が低下したりすると、様々な身体的機能障害が生じることが知られている。
【0042】
まず、自律神経活動の乱れについて説明する。自律神経系は自分の意思では支配できない神経系であり、呼吸、循環、消化、代謝、排泄、体温調整などの生命活動を維持しているだけでなく、さらに内分泌系や免疫系にも深くかかわっている。このようにさまざまな働きを持つ自律神経活動が乱れると心身両面でいろいろな変化が起こる。
【0043】
自律神経の乱れによって起こりやすい症状としては、息切れ、動悸、肩凝り、頭痛、めまい、不安感、食欲不振、倦怠感、不眠などが上げられる。特に更年期においてはその75%が自律神経の失調によるものとの報告もあり、更年期障害におけるのぼせ・ほてり・冷感・急な発汗などのつらい症状も自律神経活動の乱れに起因する体温調節障害によるものである。また、交感神経活動は熱産生にかかわっており、脂肪を燃焼させる方向に働くため、交感神経活動の低下は、エネルギー代謝障害の要因ともなる。
【0044】
特に現代社会においては、交感神経活動の優位な状態が持続することによる健康障害が問題視されている。交感神経活動が優位な状態は、交感神経活動が亢進した場合、交感神経活動は変化せずに副交感神経活動が低下した場合、あるいは交感神経活動が亢進するとともに副交感神経活動が低下した場合に引き起こされる。
【0045】
交感神経活動が亢進し自律神経のバランスが乱れると、その結果として副腎髄質からのホルモン分泌を促し、心拍数や血圧の上昇、細気管支の拡張、腸管の運動と分泌の抑制、グルコース代謝の上昇、瞳孔散大、立毛、皮膚と内臓血管の収縮、さらに、骨格金の血管拡張が起こる(参考文献1:岩波講座「現代医学の基礎」第4巻、萩原俊男、垂井清一郎編、生体の調節システム、1999年)。したがって、交感神経活動が優位な状態が持続すると、高血圧、高血糖、皮膚血流低下、免疫機能低下等の健康障害が起こる。
【0046】
また、副交感神経活動が亢進して自律神経のバランスが乱れると、慢性的な下痢が起こる。近年では、副交感神経活動の低下が冠動脈性疾患や突然死の重要な危険因子であることが指摘されている。
【0047】
自律神経活動の乱れを引き起こす要因としては喫煙、運動、糖尿病、心臓疾患、肥満などが挙げられる。例えば、喫煙においては、副交感神経活動の低下と相対的な交感神経活動の亢進とが起こり、これが虚血性心疾患や突然死の重要な危険因子である事が報告されている(参考文献2:Akselrod et al., Science 213:220-22 (1981)、参考文献3:G.E. Billman et al., Circulation 80:874-80 (1989))。また、自律神経活動の乱れはストレスによっても生じ、原因不明の体調不良を訴える人も少なくない。
【0048】
次に自律神経活動の低下について説明する。自律神経の全体的な活動を低下させる要因としては、糖尿病や肥満、強度の運動、加齢などが挙げられる。例えば、糖尿病の患者では、一般的に、健常人に比べて交感神経活動および副交感神経活動の双方が同時に低下しており、特に、早期には副交感神経活動の低下が先んじて起きていることが報告されている(参考文献4:Yamasaki Y et al., Diabetes Res. 17:73-80 (1991)、参考文献5:Bellavere F et al., Diabetes, 41:433-440 (1992))。また、糖尿病の患者では、自律神経活動の低下に加え、交感神経活動や副交感神経活動の反応性の低下が見られることが報告されている(参考文献6:新谷らほか、Jpn. J Electrocardiol., 18:40-45 (1998))。
【0049】
あるいは、肥満者では副交感神経活動の低下に加え、交感神経活動が低下しており、さらに自律神経活動の反応性の低下が知られている(参考文献7:Peterson HR et al., N Engl J Med. 318:1077-83 (1988)、参考文献8:Matsumoto T et al., Int J Obes Relat Metab Disord. 23:793-800 (1999))。また、加齢によって自律神経活動の低下がおこることも報告されている(参考文献9:Oida E et al., J Gerontol Med Sci. 54:219-224 (1999))。さらに、自律神経障害が突然死、無症候性心筋梗塞、無自覚性低血糖等の疾患の原因となることも知られている(参考文献10:日本臨床60巻、創刊号10、2002年)。
【0050】
本発明にかかる香気組成物は、自律神経活動の調節を可能とする上に、食品原料由来の香気組成物であるため、自律神経活動の乱れや低下の状態に応じた適切な対処が可能になるとともに、医薬・食品への適応に優れたものとなっている。
【0051】
<香気組成物の具体的な機能>
本発明にかかる香気組成物は、後述する実施例に示すように、心拍変動パワースペクトル解析法により自律神経活動を定量解析した結果、自律神経活動を調節することが可能であった。
【0052】
心拍変動パワースペクトル解析法について説明する。心臓の拍動のリズムつまり心臓の拍動間の間隔(R−R間隔)は常に変化しており、このR−R間隔の変動を心拍変動とよぶ。心拍変動は自律神経が心臓に働きかけることによって引き起こされるため、この心拍変動を見ることにより自律神経の活動状態を評価することができる。
【0053】
具体的には、心電図から得られた心拍変動を高速フーリエ変換で処理して周波数解析を行い、心拍変動パワースペクトルが得られる。得られたパワースペクトルの低周波数領域(Low Frequency,0.04〜0.15Hz)は交感神経活動および副交感神経活動を、高周波数領域(High Frequency,0.15〜0.4Hz)は副交感神経活動を示している。これら周波数領域のバランスは、Low Frequency/High Frequency(LF/HF)比で表わすことができる(参考文献11:Akselrod S et al., Science 213:220-222 (1981)、参考文献12:Moritani T et al., J sportmed Sci. 7:31-39 (1993))。交感神経活動が優位になるとこの値は上昇し、反対に副交感神経活動が優位になると低下する。
【0054】
つまり、心拍変動パワースペクトル解析法は副交感神経活動や交感神経/副交感神経のバランスを非侵襲的に定量できる方法として有用である。しかも、この解析法では、自律神経活動の伝達物質であるカテコールアミンの血中での変動が見られない微細な自律神経活動の変化をも捉えることができる。加えて、現在の所、副交感神経活動を定量的に測定できるパラメーターは心拍変動しかない。したがって、心拍変動パワースペクトル解析法は、自律神経活動を評価するためには有用な方法であり、広く利用されている(参考文献13:Heart rate variability: standards of measurement, physiological interpretation and clinical use. Circulation, 93:1043-1065 (1996)、参考文献14:西村ら、臨床検査、35:585-590 (1991))。
【0055】
後述する実施例1では、本発明にかかる香気組成物としてウィスキーやブランデーの香りを堤示すると、LF/HF比が低下し、副交感神経活動の亢進が認められた。副交感神経活動の抑制は心筋由来の突然死や不整脈のリスクファクターであり、臨床における診断においても不可欠な手法になっている。
【0056】
また、後述する実施例2では、本発明にかかる香気組成物としてウィスキーやブランデーの香りを呈示した状態で語想起課題を負荷し、心拍数を測定すると、心拍変動の抑制が認められた。副交感神経活動の抑制(活動低下)により心拍の増加が起こることから、ウィスキーやブランデーの香りは副交感神経活動の抑制を緩和したことが示された。
【0057】
このように、アルコール発酵液を蒸留してなるエタノール溶液によりオーク材を抽出することで得られる抽出画分は、自律神経活動を調節する作用を有することが、本発明者らの検討により初めて明らかとなった。それゆえ、上記抽出画分を有効成分として含む本発明にかかる香気組成物は、自律神経活動を調節することが可能となっている。
(III)本発明の利用
本発明にかかる香気組成物の利用は特に限定されるものではなく、当該香気組成物を含む薬学的組成物として、広く用いることができる。ここで言う薬学的組成物とは、医薬品だけでなく、飲食品、医薬部外品等も含むものとする。
【0058】
<医薬品>
本発明にかかる薬学的組成物としての医薬品は、上記香気組成物を含んでおり、かつ、経口投与または非経口投与が都合よく行われるものであればどのような剤形のものであってもよい。本発明に係る医薬品の剤形としては、例えば注射液、輸液、用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤等の液体製剤;散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ等の固形製剤;内湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤等が挙げられる。また、本発明においては、症状に応じて、上記剤形の医薬品をそれぞれ単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0059】
上記医薬品においては、目的に応じて、医薬の製剤技術分野において通常使用し得る公知の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、安定化剤等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。より具体的には、上記医薬品が固形製剤の場合には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなどの賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。
【0060】
また、上記医薬品が液体製剤の場合には、例えば、水、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。また、液体製剤の場合、上記医薬品は有効成分である抽出画分(または香気組成物)を用時溶解させる形態の製剤であってもよい。
【0061】
上記医薬品の投与経路は特に限定されるものではなく、経口投与または非経口投与のいずれでもよい。服用の容易性の点から経口投与が可能であることが好ましい。また、上記医薬品の投与量は、投与経路、剤形、患者の症状の重篤度、年齢もしくは体重などによって適宜設定されるものであり特に限定されるものではない。
【0062】
<飲食品>
本発明にかかる薬学的組成物としての飲食品は、上記香気組成物を含んでいる飲食品であれば特に限定されるものではない。例えば、サプリメントとして用いる場合には、上記医薬製剤の形態と同様で用いることができる。また、上記飲食品は、自然流動食、半消化態栄養食もしくは成分栄養食、またはドリンク剤等の加工形態とすることもできる。
【0063】
さらに、上記飲食品は、アルコール飲料やミネラルウォーターに用時添加する易溶性製剤としてもよい。より具体的には、本発明に係る機能性食品としては、例えばビスケット、クッキー、ケーキ、キャンデー、チョコレート、チューインガム、和菓子等の菓子類;パン、麺類、ごはん、豆腐もしくはその加工品;清酒、薬用酒等の発酵食品;みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシング等の調味料;ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズ等の畜農食品;かまぼこ、揚げ天、はんぺん等の水産食品;果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶などの飲料等の形態が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0064】
また、上記飲食品は、例えば、医師の食事箋に基づく栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に、任意の食品に対して、本発明にかかる香気組成物を加え、その場で調製した飲食品の形態で患者に与えることもできる。したがって、本発明にかかる香気組成物は、液状であっても、粉末や顆粒などの固形状であってもよい。
【0065】
なお、上記飲食品は、当該分野で公知の補助成分を含んでいてもよい。このような補助成分としては、例えば、乳糖、ショ糖、液糖、蜂蜜、ステアリン酸マグネシウム、オキシプロピルセルロース、各種ビタミン類、微量元素、クエン酸、リンゴ酸、香料、無機塩などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0066】
上記飲食品は、自律神経活動の調節を図りたい場合や、ストレス等による自律神経活動の乱れが予想される場合等に好ましく摂取することができるが、その摂取の経路や方法等は特に限定されるものではない。
【0067】
なお、上記飲食品および前記医薬品は、他のビタミン剤、ホルモン剤、その他の栄養剤、または微量元素もしくは鉄化合物と併用することができる。例えば、上記飲食品がドリンク剤の場合、必要に応じて、他の生理活性成分、ミネラル、ホルモン、栄養成分、香味剤等を混合することができる。これにより、嗜好飲料的性格を持たせることができるため好ましい。
【0068】
<医薬部外品・化粧品・洗剤・芳香剤>
本発明にかかる薬学的組成物としての医薬部外品、化粧品、洗剤または芳香剤は、上記香気組成物を含んでいるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、フレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、歯磨き粉、洗剤、柔軟仕上げ剤、台所用洗剤、漂白剤、芳香剤等を挙げることができる。
【0069】
これら製品は、当該製品において公知の形態に加工されていればよく、その組成も公知の組成に上記香気組成物が含まれておればよい。本発明にかかる薬学的組成物は、上記香気組成物を含んでいるため、芳香剤、あるいは消臭剤も兼ねた芳香剤(消臭芳香剤)等として好適に用いることができる。さらに、上述した医薬部外品、化粧品、洗剤は、その使用目的から様々な香り付けがなされることがほとんどであるため、本発明にかかる香気組成物を含有させる対象としては好適である。
【0070】
上記芳香剤の具体的な組成は特に限定されるものではないが、後述する実施例3に示すように、本発明にかかる香気組成物に加えて、アルコール等の揮発促進成分、3−メチル−3メトクシブタノール、ジベンジリデンソルビトール、セイジオイル等の他の香気成分、酸化防止剤、精製水等を含んでいる構成を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
本発明について、実施例、並びに図1・2に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、実施例1・2における実験対象と、香気組成物の呈示および課題の施行の具体的な手法を、次に示す。
【0072】
〔対象〕
以下の何れの実施例においても、実験の方法および結果につき説明を受け、承諾がなされた健常成人男子20名(平均年齢:35.8±2.5歳)を被験者とした。
【0073】
〔香気組成物の呈示および課題の施行〕
コントロールとしての無嗅の水、アルコール嗅(40%)、ブランデー、ウィスキーの香りを被験者の鼻から20cmの位置に呈示した。なお、順序効果を除く目的で、被験者をブランデー先行群とウィスキー先行群の2群にわけた。これらの香りを呈示した状態で、賦活時間10秒の語想起課題(例:国の名前をできるだけ多く想起する)を負荷した。
【0074】
〔実施例1〕
香気組成物としてのウィスキーおよびブランデーが、語想起課題の施行中における心拍変動に与える効果について、心電図を14ビットのA/D変換を用い1024Hzで測定した。
【0075】
上述した手法で1分間の安静時間の後、被験者に香気組成物(ウィスキーおよびブランデーの香り)を呈示し、語想起課題を負荷した。各香気組成物につき、10秒の課題遂行を1試行として5試行った。心拍変動の結果を図1に示す。
【0076】
図1に示す結果から明らかなように、語想起課題により、心拍数の増加が認められた。
ウィスキーとブランデーの呈示時には、心拍変動の増加の抑制が認められた。副交感神経活動の抑制(活動低下)により心拍の増加が起こることから、ウィスキーやブランデーの香りは語想起課題負荷による副交感神経活動の抑制を緩和したことが示された。
【0077】
このように、上記心拍変動の増加は、水>アルコール>ウィスキー>ブランデーの香り呈示の順で大きく、ウィスキーとブランデーとの比較では、ブランデーの方がより効果が高いという結果が示された。
【0078】
〔実施例2〕
香気組成物としてのウィスキーおよびブランデーが、自律神経活動におよぼす影響について検討した。
【0079】
1分間の安静時間の後に、上述した手法で被験者に香気組成物(ウィスキーおよびブランデーの香り)を1分間呈示し、自律神経活動を測定した。心電図を14ビットのA/D変換を用い1024Hzでサンプリングした。心電図から得られた心拍変動を高速フーリエ変換で処理して周波数解析を行い、心拍変動パワースペクトルを得た。
【0080】
心拍変動スペクトルを分離・定量化するため、主として低周波数領域(LF,0.04〜0.15Hz)および高周波数領域(HF,0.15〜0.4Hz)の二つの周波数帯域のスペクトル積分値を求め、LF領域のスペクトル積分値を交感神経および副交感神経活動の指標とし、HF領域のスペクトル積分値を副交感神経活動の指標とした。また、LF領域のスペクトル積分値をHF領域のスペクトル積分値で除した値(LF/HF)を交感・副交感神経活動のバランスの指標とした。その結果を図2に示す。
【0081】
図2に示す結果から明らかなように、ブランデーおよびウィスキーを呈示すると、LF/HF比が水およびアルコール群と比較して低下し、副交感神経活動の亢進が認められた。ストレスが負荷されると副交感神経活動の低下が認められるが、これらの香りには、ストレスが負荷されると副交感神経活動の低下を改善する作用があるものと考えられる。
【0082】
〔実施例3〕
本発明にかかる香気組成物としてブランデーを用い、芳香剤を調製した。具体的には、次の表1に示す組成となるように、各成分を混合して芳香剤とした。
【0083】
【表1】
【0084】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
このように、本発明によれば、自律神経活動を調節することが可能になっている。そのため、本発明は、食品、医薬品、医薬部外品等の産業に有効に利用できるだけでなく、芳香を利用するあらゆる産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施例1における心拍変動の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例2における心拍のLF/HF比の測定結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能を調節する作用を有する香気組成物と、その代表的な利用、例えば、当該香気組成物を用いた医薬品、飲食品等として用いる薬学的組成物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の恒常性を維持するために、生体には自律神経系、内分泌系、免疫系が備わっている。その中でも自律神経系は、大脳の支配から比較的独立して、特に意思に無関係に自動的に働くことからこの名称が与えられており、主に内臓の機能を調節している。
【0003】
自律神経系には、交感神経系と副交感神経系との二系統が存在し、両者の活動のバランスにより自律神経系全体が制御されている。具体的には、身体が活動しているときには交感神経の活動が優位となり、全身が緊張した状態となる。逆に、副交感神経の活動が優位なときは身体の緊張がとれ、くつろいでいる状態となる。
【0004】
ところで、ストレスにより自律神経活動の乱れが長期に続くと様々な身体的機能障害が生じることが知られている。自律神経活動の乱れとは、本来優位となる状態でないにも関わらず交感神経活動または副交感神経活動が優位な状態になることを意味するが、他に、交感神経および副交感神経の両者の活動が低下することも知られている。なお、自律神経活動の乱れは、喫煙等の生活習慣や各種疾患、運動、ストレス等によって生ずることが知られている。
【0005】
このように自律神経活動に乱れや低下が生じると、様々な健康障害を引き起こすことが知られている。ところが、これらの健康障害は、各症状や疾患ごとに対症的に治療が行われていることが実情であり、根本的な原因である自律神経活動そのものを調節する方法はとられていない。対症療法は一時的にその病態そのものを改善することができるが、服薬を中止すれば再発し、また、服薬を継続していれば、一つの疾患は改善したとしても根本原因である自律神経活動の乱れや自律神経活動の低下による他の疾患が発症する場合も多い。
【0006】
そこで、根本原因である自律神経活動そのものを調節する医薬品あるいは健康食品が求められていた。つまり、何らかの要因により亢進した交感神経活動または副交感神経活動を抑制したり、低下した交感神経活動または副交感神経活動を上昇させたりすることにより、交感神経活動優位な状態または副交感神経活動優位な状態を実現させ、結果的に、全体的に自律神経活動が亢進した状態もしくは低下した状態を回復させる作用を有する化合物が得られれば、種々の疾患の予防的観点から見ても利用価値は極めて高い。
【0007】
ところで、従来から、ストレスを解消または緩和する方法(ストレス対処法、リラクゼーション法)が種々提案されている。ストレスは、人がストレッサーという刺激や負荷を感ずることで生じるものであるため、逆に、他の感覚を通じてストレスを解消または緩和することが可能となる。このようなリラクゼーション法の一つとして、アロマテラピーが存在する。アロマテラピーは、人間の嗅覚という感覚を介してストレスの解消や緩和を図る方法である。
【0008】
ただし、嗅覚を通じたリラクゼーションという考え方や方法は、古くから世界各地に存在しており、各地域の環境や文化と密接に関連して独自に発展してきたものである。そのため、種々の香りが生体に好影響をもたらすことそのものは広く知られているものの、経験的な知識に基づくものが多く、その科学的根拠も明確になっているものは少ない。したがって、アロマテラピーという技術全体を見れば、未だ整理されておらず科学的な裏付けも不十分な点があるため、技術的には発展途上であると言うことができる。それゆえ、近年では、様々な香気成分が身体に与える影響を検討する研究がなされたり、このような研究から得られた知見から、実際にストレスの解消や緩和に有効な香気を特定して利用する技術が提案されたりしている。
【0009】
具体的には、例えば、非特許文献1には、ワインの香りにリラクゼーション効果が存在することが開示されており、非特許文献2には、ウィスキーの香気成分にストレス緩和作用が存在することも開示されている。さらに、本出願人は、ストレスを有効に予防・軽減でき、さらに安全でかつ服用や摂取が容易な抗ストレス剤として、酒類の香気成分を有効成分として含む抗ストレス剤を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−171286(平成15年6月17日公開)
【非特許文献1】永井元他、AROMA RESEARCH Vol. 1, No.4, p48 (2000)
【非特許文献2】青島均他、AROMA RESEARCH Vol. 3, No.4, p11 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の技術のように、嗅覚を介して、ストレスそのものの緩和や解消を図る技術は知られている。しかしながら、嗅覚を介して自律神経活動を調節する手法や技術は、これまで知られていなかった。
【0011】
すなわち、ストレスの発生には自律神経活動が大きく影響するため、自律神経活動を調節することにより、ストレスの調節を円滑・良好に行うことが可能になる。これにより、ストレスに影響を受け難くなったり、過剰ストレスの発生を抑制したりすることが可能となると考えられるだけでなく、自律神経活動の乱れや低下を緩和したり、これらの発生を回避または抑制したりすることも可能になり、自律神経活動の乱れや低下に伴う前述した各種疾患に対して有効な対処技術となる可能性がある。
【0012】
しかも、嗅覚は知的活動に直接利用されることが無い上に、嗅覚を介した手法は、過剰な臭いでない限りは概ねどのような環境でも利用可能である、香りをつけるだけなので媒体が限定されない等の利点を有する。そのため、嗅覚を介した手法や技術は、自律神経活動をより円滑・良好に調節する上では非常に有効な技術であると考えられる。
【0013】
上述したように自律神経活動の低下や乱れは様々な身体的・精神的障害を引き起こす。そのため、自律神経活動を調節する化合物または組成物、特に、医薬・食品への適応に優れた副作用の少ない化合物または組成物の開発が強く望まれていた。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、人の五感のうち、嗅覚を介して自律神経活動を調節することが可能な組成物と、当該組成物の代表的な利用技術とを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ブランデーやウィスキーのように、蒸留後オーク製の樽で熟成させるタイプの蒸留酒では、その香りにより自律神経活動を調節することを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明にかかる香気組成物は上記の課題を解決するために、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、自律神経機能を調節可能とすることを特徴としている。具体的には、副交感神経活動を亢進させたり、活動の抑制を緩和したりすることで、副交感神経活動を調節可能とすることができる。
【0017】
上記香気組成物においては、上記植物性素材が、果実または穀類であればよく、具体的には、例えば、上記果実としてブドウを、穀類としてオオムギを挙げることができる。なお、オオムギは、発芽した麦芽として用いることができる。
【0018】
上記香気組成物においては、上記抽出画分としてブランデーまたはウィスキーを用いることができる。また、上記抽出画分としては、エタノールを除去したものも用いることができる。
【0019】
本発明の利用は特に限定されるものではないが、上記香気組成物を含む薬学的組成物を挙げることができる。具体的には、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、芳香剤の少なくとも何れかとして用いられる薬学的組成物を挙げることができ、代表的な例としては、芳香剤を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明では、醸造したエタノール含有物を蒸留して得られるエタノール溶液によりオーク材を抽出することで得られる抽出画分を、自律神経活動を調節するための有効成分として用いている。
【0021】
これにより、嗅覚を介して自律神経活動を調節することが可能になるため、幅広い環境で、かつ様々な媒体に対して処方することができ、自律神経活動の乱れや低下の状態に応じた適切な対処が可能になる。しかも、香気による自律神経活動の調節であるため、それ自体がストレッサーとなることを抑制または回避することが可能になるので、自律神経活動をより円滑・良好に調節し、ひいてはストレスの調節も円滑・良好に行うことが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の一形態について以下に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0023】
(I)本発明にかかる香気組成物
本発明にかかる香気組成物は、糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたもの(発酵液)を蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでいる。すなわち、本発明では、植物性原料をアルコール発酵させる工程(発酵工程)と、発酵液を蒸留する工程(蒸留工程)と、蒸留により得られたエタノール溶液でオーク材を抽出する工程(抽出工程)とを少なくとも含む製造方法により香気組成物の有効成分である抽出画分を製造する。
【0024】
<発酵工程>
上記エタノール溶液の製造に用いられる植物性素材は、アルコール発酵可能な程度に糖質やデンプン質を含むものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ブドウ、リンゴ、ナシ、ビワ、イチゴ、桜桃、マルメロ、モモ、アンズ等の果実;オオムギ、トウモロコシ、ライムギ、コメ等の穀類;サツマイモ、サトウキビ等のその他の素材等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。この中でも、果実や穀類が好ましく、果実としてはブドウが、穀類としてオオムギがより好ましい。なお、オオムギは、そのまま用いることもできるが、発芽したものすなわち麦芽としても用いることができる。
【0025】
上記植物性素材をアルコール発酵させる方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により発酵させればよい。グルコース等の単糖類を多く含む植物性素材を原料として用いる場合は、当該植物性素材に対して必要に応じて適切な加工を施した上で、水および必要に応じてその他の原料と混合し、酵母等のアルコール発酵性の微生物を用いて適切な条件で発酵させればよい。同様に、デンプン質を多く含む植物性素材を原料として用いる場合には、デンプンをグルコースに分解する糖化処理(例えば、麹や麦芽を用いる)を行った上で、酵母等のアルコール発酵性の微生物を用いて適切な条件で発酵させればよい。
【0026】
アルコール発酵により得られた発酵液におけるエタノール濃度は特に限定されるものではないが、5〜10%程度の範囲内であればよい。
【0027】
<蒸留工程・抽出工程>
アルコール発酵により得られた発酵液を蒸留する手法も特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ブランデー、ウィスキー、乙類焼酎等の蒸留に用いられる単式蒸留器を用いてもよいし、甲類焼酎等の蒸留に用いられる連続蒸留器を用いてもよい。
【0028】
なお、蒸留により得られたエタノール溶液は、そのまま用いてもよいし、エタノール濃度を調整するために加水してもよい。エタノール溶液におけるエタノール濃度は特に限定されるものではないが、30〜70%の範囲内であればよい。これによりオーク材の抽出をより効率的に行うことができる。
【0029】
上記エタノール溶液によるオーク材の抽出方法は特に限定されるものではなく、公知の抽出方法により抽出すればよい。通常は、オーク材に対して、必要に応じて適切な加工を施した上で、上記エタノール溶液に接触させてオーク材中の成分を抽出すればよい。接触方法は特に限定されるものではなく、エタノール溶液中に浸漬させる方法であってもよいし、オーク材で容器を作製し、この容器内にエタノール溶液を充填する方法であってもよい。
【0030】
オーク材の容器としては、樽が好適に用いられる。このようなオーク製の樽としては、貯蔵型の蒸留酒の製造に用いられる樽を挙げることができる。具体的には、例えば、(a)アメリカンオークで作られた樽でバーボンウィスキーの熟成に使われた古樽であるバーボン樽、(b)スパニッシュホワイトオークで作られた樽でシェリー酒を熟成させた古樽であるシェリー樽、(c)前記バーボン樽やシェリー樽を一度スコッチ・ウィスキーの熟成に使った古樽、いわば再々使用した樽であるプレーンオーク(リフィルカスク)等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0031】
抽出の条件も特に限定されるものではなく、抽出温度は常温の範囲内であればよいが、必要に応じて温度を変化させてもよい。また、抽出時間も特に限定されるものではないが、約1年〜30年程度の長期間にわたることが好ましい。
【0032】
抽出工程により得られた抽出画分は、そのまま用いることもできるし、必要に応じてエタノールを除去してもよい。本発明にかかる香気組成物においては、その有効成分はエタノールではなく抽出画分中に含まれる複合香気成分であるため、成分としてのエタノールは必ずしも含まれていなくてもよい。
【0033】
抽出画分からエタノールを除去する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような濃縮処理を施すことができる。
【0034】
まず、オーク材を抽出したエタノール溶液を水で希釈する。このとき、約1.1〜5倍程度、より好ましくは約2倍程度に希釈するのが好ましい。次に、希釈された溶液に対し有機溶媒を用いた抽出を行う。溶媒抽出の際に用いる有機溶媒は特に限定されるものではないが、炭素数1〜8の低級炭化水素を用いることが好ましく、炭素数1〜8の低級アルカンを用いることがより好ましく、ペンタンを用いることが好ましい。また、当該有機溶媒としては、エーテルまたはエーテルと炭素数1〜8の低級炭化水素の混合溶媒を用いることもできる。より好ましくは、エーテルとペンタンの混合溶液、さらに好ましくは前記成分の混合比(容量比)が2:1の混合溶液を用いることが好ましい。
【0035】
次に、抽出した後の有機溶媒を飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄する。そのとき、中性部は有機溶媒層に分画される。有機溶媒層のみを取り出し、脱水剤、好ましくは無水硫酸ナトリウムで脱水する。その後、溶媒を除去する。溶媒の除去は、当業者が公知方法の中から適宜選択することができる。具体的には、減圧下で留去する方法、シュナイダーカラムを用いたKD濃縮器で常圧濃縮し、さらに減圧下で除去する方法を用いることが好ましい。次に、さらに残渣を減圧下、好ましくは約100mmHg程度の圧力下で蒸留し、イソアミルアルコール等のフーゼルアルコールを除去する。これにより、エタノールを除去した抽出画分を得ることができる。
【0036】
<具体的な抽出画分>
本発明にかかる香気組成物は、上記製造過程を経て製造することができる。したがって、本発明にかかる香気組成物においては、有効成分(抽出画分)として、オーク製の樽で貯蔵するタイプの蒸留酒を用いることができる。具体的には、ブランデーまたはウィスキーを挙げることができる。
【0037】
ブランデーは、主としてブドウを原料として製造される貯蔵型の蒸留酒であり、ウィスキーは、主として麦芽を原料として製造される貯蔵型の蒸留酒である。これら蒸留酒は、貯蔵にオーク製の樽を用いるため、貯蔵の過程でオーク材の抽出を行うことになる。したがって、本発明にかかる香気組成物に含まれる抽出画分として用いることができる。
【0038】
ブランデーの製造方法の一例について説明する。まず、白ぶどうを絞り、果汁を得、これに酵母を添加し発酵させ、アルコール分8〜10%のぶどう発酵液を得る。これを銅製
のシャラントポット(単式蒸溜器)Iにて二度蒸留しアルコール分約60%のエタノール溶液(ヌーベル)を得る。このヌーベルをブランデー製造用のリムーザンオーク樽(33
50L容量、内面は焙煎により黒褐色に焦がされたもの)に詰め12年以上貯蔵する。これを加水によりアルコール分40%に調整することで、ブランデーが製造される。
【0039】
次に、ウィスキーの製造方法の一例について説明する。まず、麦芽を粉砕し、温水と混合し糖化させ、濾過した糖液に酵母を加え発酵させ、アルコール分7.0〜7.5%の発酵液(もろみ)を得る。もろみを銅製のポットスチル(単式蒸溜器)にて二度蒸溜し、アルコール分約60%のアルコール溶液(ニューポット)を得る。次に、ホワイトオーク製のウィスキー製造用の樽(内面は直火により黒褐色に焦がされたもの)に詰め12年以上貯蔵する。これを加水によりアルコール分40%に調整することで、ウィスキーが製造される。
【0040】
本発明にかかる香気組成物は、上記ウィスキーやブランデーを抽出画分(有効成分)として含有させてもよいし、前項で説明したように、抽出画分をさらに抽出してエタノールを除く等の濃縮処理を施したもの(濃縮物)を抽出画分(有効成分)として含有させてもよい。また、上記ウィスキーやブランデー、あるいはその濃縮物を精製し、この生成物を抽出画分(有効成分)として含有させてもよい。上記精製の手法は特に限定されるものではなく、例えばカラムクロマトグラフィーによる精製などの公知の方法を用いることができる。
(II)香気組成物の機能
本発明にかかる香気組成物は、自律神経機能を調節する作用を有している。すなわち、本発明にかかる香気組成物を用いれば、交感神経系および副交感神経系からなる自律神経系全体の活動(自律神経機能)を調節することが可能となる。これにより、自律神経活動の乱れや低下の状態に応じた適切な対処が可能になり、かつ、医薬・食品への適応にも優れたものとなっている。
【0041】
<自律神経活動の乱れおよび低下とその影響>
前述したように、自律神経系には、交感神経系と副交感神経系との二系統が存在し、両者の活動のバランスにより自律神経系全体が制御されている。交感神経活動が優位の状態では、全身が緊張した状態となるのに対して、副交感神経活動が優位の状態では、身体の緊張がとれ、くつろいでいる状態となる。これら自律神経活動のバランスが乱れた状態が長期に持続したり、自律神経活動が低下したりすると、様々な身体的機能障害が生じることが知られている。
【0042】
まず、自律神経活動の乱れについて説明する。自律神経系は自分の意思では支配できない神経系であり、呼吸、循環、消化、代謝、排泄、体温調整などの生命活動を維持しているだけでなく、さらに内分泌系や免疫系にも深くかかわっている。このようにさまざまな働きを持つ自律神経活動が乱れると心身両面でいろいろな変化が起こる。
【0043】
自律神経の乱れによって起こりやすい症状としては、息切れ、動悸、肩凝り、頭痛、めまい、不安感、食欲不振、倦怠感、不眠などが上げられる。特に更年期においてはその75%が自律神経の失調によるものとの報告もあり、更年期障害におけるのぼせ・ほてり・冷感・急な発汗などのつらい症状も自律神経活動の乱れに起因する体温調節障害によるものである。また、交感神経活動は熱産生にかかわっており、脂肪を燃焼させる方向に働くため、交感神経活動の低下は、エネルギー代謝障害の要因ともなる。
【0044】
特に現代社会においては、交感神経活動の優位な状態が持続することによる健康障害が問題視されている。交感神経活動が優位な状態は、交感神経活動が亢進した場合、交感神経活動は変化せずに副交感神経活動が低下した場合、あるいは交感神経活動が亢進するとともに副交感神経活動が低下した場合に引き起こされる。
【0045】
交感神経活動が亢進し自律神経のバランスが乱れると、その結果として副腎髄質からのホルモン分泌を促し、心拍数や血圧の上昇、細気管支の拡張、腸管の運動と分泌の抑制、グルコース代謝の上昇、瞳孔散大、立毛、皮膚と内臓血管の収縮、さらに、骨格金の血管拡張が起こる(参考文献1:岩波講座「現代医学の基礎」第4巻、萩原俊男、垂井清一郎編、生体の調節システム、1999年)。したがって、交感神経活動が優位な状態が持続すると、高血圧、高血糖、皮膚血流低下、免疫機能低下等の健康障害が起こる。
【0046】
また、副交感神経活動が亢進して自律神経のバランスが乱れると、慢性的な下痢が起こる。近年では、副交感神経活動の低下が冠動脈性疾患や突然死の重要な危険因子であることが指摘されている。
【0047】
自律神経活動の乱れを引き起こす要因としては喫煙、運動、糖尿病、心臓疾患、肥満などが挙げられる。例えば、喫煙においては、副交感神経活動の低下と相対的な交感神経活動の亢進とが起こり、これが虚血性心疾患や突然死の重要な危険因子である事が報告されている(参考文献2:Akselrod et al., Science 213:220-22 (1981)、参考文献3:G.E. Billman et al., Circulation 80:874-80 (1989))。また、自律神経活動の乱れはストレスによっても生じ、原因不明の体調不良を訴える人も少なくない。
【0048】
次に自律神経活動の低下について説明する。自律神経の全体的な活動を低下させる要因としては、糖尿病や肥満、強度の運動、加齢などが挙げられる。例えば、糖尿病の患者では、一般的に、健常人に比べて交感神経活動および副交感神経活動の双方が同時に低下しており、特に、早期には副交感神経活動の低下が先んじて起きていることが報告されている(参考文献4:Yamasaki Y et al., Diabetes Res. 17:73-80 (1991)、参考文献5:Bellavere F et al., Diabetes, 41:433-440 (1992))。また、糖尿病の患者では、自律神経活動の低下に加え、交感神経活動や副交感神経活動の反応性の低下が見られることが報告されている(参考文献6:新谷らほか、Jpn. J Electrocardiol., 18:40-45 (1998))。
【0049】
あるいは、肥満者では副交感神経活動の低下に加え、交感神経活動が低下しており、さらに自律神経活動の反応性の低下が知られている(参考文献7:Peterson HR et al., N Engl J Med. 318:1077-83 (1988)、参考文献8:Matsumoto T et al., Int J Obes Relat Metab Disord. 23:793-800 (1999))。また、加齢によって自律神経活動の低下がおこることも報告されている(参考文献9:Oida E et al., J Gerontol Med Sci. 54:219-224 (1999))。さらに、自律神経障害が突然死、無症候性心筋梗塞、無自覚性低血糖等の疾患の原因となることも知られている(参考文献10:日本臨床60巻、創刊号10、2002年)。
【0050】
本発明にかかる香気組成物は、自律神経活動の調節を可能とする上に、食品原料由来の香気組成物であるため、自律神経活動の乱れや低下の状態に応じた適切な対処が可能になるとともに、医薬・食品への適応に優れたものとなっている。
【0051】
<香気組成物の具体的な機能>
本発明にかかる香気組成物は、後述する実施例に示すように、心拍変動パワースペクトル解析法により自律神経活動を定量解析した結果、自律神経活動を調節することが可能であった。
【0052】
心拍変動パワースペクトル解析法について説明する。心臓の拍動のリズムつまり心臓の拍動間の間隔(R−R間隔)は常に変化しており、このR−R間隔の変動を心拍変動とよぶ。心拍変動は自律神経が心臓に働きかけることによって引き起こされるため、この心拍変動を見ることにより自律神経の活動状態を評価することができる。
【0053】
具体的には、心電図から得られた心拍変動を高速フーリエ変換で処理して周波数解析を行い、心拍変動パワースペクトルが得られる。得られたパワースペクトルの低周波数領域(Low Frequency,0.04〜0.15Hz)は交感神経活動および副交感神経活動を、高周波数領域(High Frequency,0.15〜0.4Hz)は副交感神経活動を示している。これら周波数領域のバランスは、Low Frequency/High Frequency(LF/HF)比で表わすことができる(参考文献11:Akselrod S et al., Science 213:220-222 (1981)、参考文献12:Moritani T et al., J sportmed Sci. 7:31-39 (1993))。交感神経活動が優位になるとこの値は上昇し、反対に副交感神経活動が優位になると低下する。
【0054】
つまり、心拍変動パワースペクトル解析法は副交感神経活動や交感神経/副交感神経のバランスを非侵襲的に定量できる方法として有用である。しかも、この解析法では、自律神経活動の伝達物質であるカテコールアミンの血中での変動が見られない微細な自律神経活動の変化をも捉えることができる。加えて、現在の所、副交感神経活動を定量的に測定できるパラメーターは心拍変動しかない。したがって、心拍変動パワースペクトル解析法は、自律神経活動を評価するためには有用な方法であり、広く利用されている(参考文献13:Heart rate variability: standards of measurement, physiological interpretation and clinical use. Circulation, 93:1043-1065 (1996)、参考文献14:西村ら、臨床検査、35:585-590 (1991))。
【0055】
後述する実施例1では、本発明にかかる香気組成物としてウィスキーやブランデーの香りを堤示すると、LF/HF比が低下し、副交感神経活動の亢進が認められた。副交感神経活動の抑制は心筋由来の突然死や不整脈のリスクファクターであり、臨床における診断においても不可欠な手法になっている。
【0056】
また、後述する実施例2では、本発明にかかる香気組成物としてウィスキーやブランデーの香りを呈示した状態で語想起課題を負荷し、心拍数を測定すると、心拍変動の抑制が認められた。副交感神経活動の抑制(活動低下)により心拍の増加が起こることから、ウィスキーやブランデーの香りは副交感神経活動の抑制を緩和したことが示された。
【0057】
このように、アルコール発酵液を蒸留してなるエタノール溶液によりオーク材を抽出することで得られる抽出画分は、自律神経活動を調節する作用を有することが、本発明者らの検討により初めて明らかとなった。それゆえ、上記抽出画分を有効成分として含む本発明にかかる香気組成物は、自律神経活動を調節することが可能となっている。
(III)本発明の利用
本発明にかかる香気組成物の利用は特に限定されるものではなく、当該香気組成物を含む薬学的組成物として、広く用いることができる。ここで言う薬学的組成物とは、医薬品だけでなく、飲食品、医薬部外品等も含むものとする。
【0058】
<医薬品>
本発明にかかる薬学的組成物としての医薬品は、上記香気組成物を含んでおり、かつ、経口投与または非経口投与が都合よく行われるものであればどのような剤形のものであってもよい。本発明に係る医薬品の剤形としては、例えば注射液、輸液、用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤等の液体製剤;散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ等の固形製剤;内湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤等が挙げられる。また、本発明においては、症状に応じて、上記剤形の医薬品をそれぞれ単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0059】
上記医薬品においては、目的に応じて、医薬の製剤技術分野において通常使用し得る公知の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、安定化剤等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。より具体的には、上記医薬品が固形製剤の場合には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなどの賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。
【0060】
また、上記医薬品が液体製剤の場合には、例えば、水、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。また、液体製剤の場合、上記医薬品は有効成分である抽出画分(または香気組成物)を用時溶解させる形態の製剤であってもよい。
【0061】
上記医薬品の投与経路は特に限定されるものではなく、経口投与または非経口投与のいずれでもよい。服用の容易性の点から経口投与が可能であることが好ましい。また、上記医薬品の投与量は、投与経路、剤形、患者の症状の重篤度、年齢もしくは体重などによって適宜設定されるものであり特に限定されるものではない。
【0062】
<飲食品>
本発明にかかる薬学的組成物としての飲食品は、上記香気組成物を含んでいる飲食品であれば特に限定されるものではない。例えば、サプリメントとして用いる場合には、上記医薬製剤の形態と同様で用いることができる。また、上記飲食品は、自然流動食、半消化態栄養食もしくは成分栄養食、またはドリンク剤等の加工形態とすることもできる。
【0063】
さらに、上記飲食品は、アルコール飲料やミネラルウォーターに用時添加する易溶性製剤としてもよい。より具体的には、本発明に係る機能性食品としては、例えばビスケット、クッキー、ケーキ、キャンデー、チョコレート、チューインガム、和菓子等の菓子類;パン、麺類、ごはん、豆腐もしくはその加工品;清酒、薬用酒等の発酵食品;みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシング等の調味料;ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズ等の畜農食品;かまぼこ、揚げ天、はんぺん等の水産食品;果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶などの飲料等の形態が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0064】
また、上記飲食品は、例えば、医師の食事箋に基づく栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に、任意の食品に対して、本発明にかかる香気組成物を加え、その場で調製した飲食品の形態で患者に与えることもできる。したがって、本発明にかかる香気組成物は、液状であっても、粉末や顆粒などの固形状であってもよい。
【0065】
なお、上記飲食品は、当該分野で公知の補助成分を含んでいてもよい。このような補助成分としては、例えば、乳糖、ショ糖、液糖、蜂蜜、ステアリン酸マグネシウム、オキシプロピルセルロース、各種ビタミン類、微量元素、クエン酸、リンゴ酸、香料、無機塩などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0066】
上記飲食品は、自律神経活動の調節を図りたい場合や、ストレス等による自律神経活動の乱れが予想される場合等に好ましく摂取することができるが、その摂取の経路や方法等は特に限定されるものではない。
【0067】
なお、上記飲食品および前記医薬品は、他のビタミン剤、ホルモン剤、その他の栄養剤、または微量元素もしくは鉄化合物と併用することができる。例えば、上記飲食品がドリンク剤の場合、必要に応じて、他の生理活性成分、ミネラル、ホルモン、栄養成分、香味剤等を混合することができる。これにより、嗜好飲料的性格を持たせることができるため好ましい。
【0068】
<医薬部外品・化粧品・洗剤・芳香剤>
本発明にかかる薬学的組成物としての医薬部外品、化粧品、洗剤または芳香剤は、上記香気組成物を含んでいるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、フレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗浄剤、浴用剤、歯磨き粉、洗剤、柔軟仕上げ剤、台所用洗剤、漂白剤、芳香剤等を挙げることができる。
【0069】
これら製品は、当該製品において公知の形態に加工されていればよく、その組成も公知の組成に上記香気組成物が含まれておればよい。本発明にかかる薬学的組成物は、上記香気組成物を含んでいるため、芳香剤、あるいは消臭剤も兼ねた芳香剤(消臭芳香剤)等として好適に用いることができる。さらに、上述した医薬部外品、化粧品、洗剤は、その使用目的から様々な香り付けがなされることがほとんどであるため、本発明にかかる香気組成物を含有させる対象としては好適である。
【0070】
上記芳香剤の具体的な組成は特に限定されるものではないが、後述する実施例3に示すように、本発明にかかる香気組成物に加えて、アルコール等の揮発促進成分、3−メチル−3メトクシブタノール、ジベンジリデンソルビトール、セイジオイル等の他の香気成分、酸化防止剤、精製水等を含んでいる構成を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
本発明について、実施例、並びに図1・2に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、実施例1・2における実験対象と、香気組成物の呈示および課題の施行の具体的な手法を、次に示す。
【0072】
〔対象〕
以下の何れの実施例においても、実験の方法および結果につき説明を受け、承諾がなされた健常成人男子20名(平均年齢:35.8±2.5歳)を被験者とした。
【0073】
〔香気組成物の呈示および課題の施行〕
コントロールとしての無嗅の水、アルコール嗅(40%)、ブランデー、ウィスキーの香りを被験者の鼻から20cmの位置に呈示した。なお、順序効果を除く目的で、被験者をブランデー先行群とウィスキー先行群の2群にわけた。これらの香りを呈示した状態で、賦活時間10秒の語想起課題(例:国の名前をできるだけ多く想起する)を負荷した。
【0074】
〔実施例1〕
香気組成物としてのウィスキーおよびブランデーが、語想起課題の施行中における心拍変動に与える効果について、心電図を14ビットのA/D変換を用い1024Hzで測定した。
【0075】
上述した手法で1分間の安静時間の後、被験者に香気組成物(ウィスキーおよびブランデーの香り)を呈示し、語想起課題を負荷した。各香気組成物につき、10秒の課題遂行を1試行として5試行った。心拍変動の結果を図1に示す。
【0076】
図1に示す結果から明らかなように、語想起課題により、心拍数の増加が認められた。
ウィスキーとブランデーの呈示時には、心拍変動の増加の抑制が認められた。副交感神経活動の抑制(活動低下)により心拍の増加が起こることから、ウィスキーやブランデーの香りは語想起課題負荷による副交感神経活動の抑制を緩和したことが示された。
【0077】
このように、上記心拍変動の増加は、水>アルコール>ウィスキー>ブランデーの香り呈示の順で大きく、ウィスキーとブランデーとの比較では、ブランデーの方がより効果が高いという結果が示された。
【0078】
〔実施例2〕
香気組成物としてのウィスキーおよびブランデーが、自律神経活動におよぼす影響について検討した。
【0079】
1分間の安静時間の後に、上述した手法で被験者に香気組成物(ウィスキーおよびブランデーの香り)を1分間呈示し、自律神経活動を測定した。心電図を14ビットのA/D変換を用い1024Hzでサンプリングした。心電図から得られた心拍変動を高速フーリエ変換で処理して周波数解析を行い、心拍変動パワースペクトルを得た。
【0080】
心拍変動スペクトルを分離・定量化するため、主として低周波数領域(LF,0.04〜0.15Hz)および高周波数領域(HF,0.15〜0.4Hz)の二つの周波数帯域のスペクトル積分値を求め、LF領域のスペクトル積分値を交感神経および副交感神経活動の指標とし、HF領域のスペクトル積分値を副交感神経活動の指標とした。また、LF領域のスペクトル積分値をHF領域のスペクトル積分値で除した値(LF/HF)を交感・副交感神経活動のバランスの指標とした。その結果を図2に示す。
【0081】
図2に示す結果から明らかなように、ブランデーおよびウィスキーを呈示すると、LF/HF比が水およびアルコール群と比較して低下し、副交感神経活動の亢進が認められた。ストレスが負荷されると副交感神経活動の低下が認められるが、これらの香りには、ストレスが負荷されると副交感神経活動の低下を改善する作用があるものと考えられる。
【0082】
〔実施例3〕
本発明にかかる香気組成物としてブランデーを用い、芳香剤を調製した。具体的には、次の表1に示す組成となるように、各成分を混合して芳香剤とした。
【0083】
【表1】
【0084】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
このように、本発明によれば、自律神経活動を調節することが可能になっている。そのため、本発明は、食品、医薬品、医薬部外品等の産業に有効に利用できるだけでなく、芳香を利用するあらゆる産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施例1における心拍変動の結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例2における心拍のLF/HF比の測定結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、
自律神経機能を調節可能とすることを特徴とする香気組成物。
【請求項2】
副交感神経活動を調節可能とすることを特徴とする請求項1に記載の香気組成物。
【請求項3】
上記植物性素材が、果実または穀類であることを特徴とする請求項1または2に記載の香気組成物。
【請求項4】
上記果実がブドウであることを特徴とする請求項3に記載の香気組成物。
【請求項5】
上記穀類がオオムギであることを特徴とする請求項3に記載の香気組成物。
【請求項6】
上記オオムギは、発芽した麦芽として用いられることを特徴とする請求項5に記載の香気組成物。
【請求項7】
上記抽出画分として、ブランデーまたはウィスキーが用いられることを特徴とする請求項1ないし6の何れか1項に記載の香気組成物。
【請求項8】
上記抽出画分として、エタノールを除去したものが用いられることを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の香気組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の香気組成物を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項10】
飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、芳香剤の少なくとも何れかとして用いられることを特徴とする請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項1】
糖質またはデンプン質を含む植物性素材と水とを原料としてアルコール発酵させたものを蒸留してなるエタノール溶液により、オーク材を抽出することで得られる抽出画分を含んでおり、
自律神経機能を調節可能とすることを特徴とする香気組成物。
【請求項2】
副交感神経活動を調節可能とすることを特徴とする請求項1に記載の香気組成物。
【請求項3】
上記植物性素材が、果実または穀類であることを特徴とする請求項1または2に記載の香気組成物。
【請求項4】
上記果実がブドウであることを特徴とする請求項3に記載の香気組成物。
【請求項5】
上記穀類がオオムギであることを特徴とする請求項3に記載の香気組成物。
【請求項6】
上記オオムギは、発芽した麦芽として用いられることを特徴とする請求項5に記載の香気組成物。
【請求項7】
上記抽出画分として、ブランデーまたはウィスキーが用いられることを特徴とする請求項1ないし6の何れか1項に記載の香気組成物。
【請求項8】
上記抽出画分として、エタノールを除去したものが用いられることを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の香気組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の香気組成物を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項10】
飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、洗剤、芳香剤の少なくとも何れかとして用いられることを特徴とする請求項9に記載の薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2006−104067(P2006−104067A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288471(P2004−288471)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】
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