自律神経機能診断装置およびプログラム
【課題】交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定できるようにする。
【解決手段】自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する。心拍数算出25は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する。制御装置18は、被診断者に対して起立試験等の負荷試験を指示し、自律神経活動度算出部24により算出された交感神経活動度指標(LF/HF)の負荷試験前後における差と、心拍数算出部25により算出された心拍数(HR)の負荷試験前後における差との関係を2次元表示するように表示装置22を制御する。
【解決手段】自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する。心拍数算出25は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する。制御装置18は、被診断者に対して起立試験等の負荷試験を指示し、自律神経活動度算出部24により算出された交感神経活動度指標(LF/HF)の負荷試験前後における差と、心拍数算出部25により算出された心拍数(HR)の負荷試験前後における差との関係を2次元表示するように表示装置22を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能を診断するための自律神経機能診断装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経には、人体を活動させる際に優位になる交感神経と、人体を鎮静させる際に優位になる副交感神経とがある。そして、正常な人体では、この交感神経と副交感神経とが適切に切り替わることにより人体の各種機能が正常に動作するようになっている。
【0003】
そして、この交感神経を優位な状態にしようとする際にはアドレナリンやノルアドレナリンという神経伝達物質が体内に放出され、このノルアドレナリンが交感神経の受容体に取り込まれることにより交感神経の状態が亢進する。
【0004】
そして、この交感神経の受容体には、大きくα受容体とβ受容体という2種類の受容体が存在することが知られている。そして、α受容体が刺激を受けると、末梢血管の収縮等のα作用が起こり、β受容体が刺激を受けると、心拍数の増加、気管支拡張等のβ作用が起こることも知られている。
【0005】
このような交感神経の機能に基づいて、高血圧の患者に投与される降圧剤には、α受容体への神経伝達物質の取り込みを阻害するα遮断薬や、β受容体への神経伝達物質の取り込みを阻害するβ遮断薬が用いられている場合がある。また、起立性低血圧等の患者には、α受容体を刺激するα受容体刺激薬やβ受容体を刺激するβ受容体刺激薬が用いられる場合がある。
【0006】
しかし、個人差によってα受容体が反応し易い(刺激を受けやすい)、つまりα作用が強い患者や、β受容体が反応し易い、つまりβ作用が強い患者が存在する。そのため、各種の治療や投薬の際には、各患者毎に交感神経機能におけるα作用が強いのかβ作用が強いのかを把握することが望まれる。
【0007】
従来では、自律神経機能の診断を客観的に行う方法として、様々な方法が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかし、これらの従来技術において開示されている診断方法では、自律神経機能が正常か否かの判定等を行うことはできるが、被診断者がα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−35896号公報
【特許文献2】特許第4327243号公報
【特許文献3】特許第4516623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術では、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを診断することができないという問題点があった。
【0010】
本発明の目的は、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定可能な自律神経機能診断装置およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[自律神経機能診断装置]
上記目的を達成するために、本発明の自律神経機能診断装置は、被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを有する。
【0012】
本発明では、被診断者から測定された負荷試験前後の心電データに基づいて交感神経活動度指標と心拍数を算出し、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差と心拍数の差が2次元表示される。そして、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後の心拍数の差で除算した値はα作用の強さを示し、負荷試験前後の心拍数の差はβ作用の強さを示す。従って、本発明によれば、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定することが可能となる。
【0013】
本発明の他の自律神経機能診断装置は、心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを有する。
【0014】
また、本発明の自律神経機能診断装置は、前記制御手段が、前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を前記表示手段に表示するよう制御するようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明の自律神経機能診断装置では、前記制御手段は、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後における心拍数の差により除算した値をα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差をβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定するようにしてもよい。
【0016】
[プログラム]
本発明のプログラムは、心電測定手段により被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により負荷試験後の被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させる。
【0017】
本発明の他のプログラムは、心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により測定された負荷試験後の被診断者の心電を受け付けるステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させる。
【0018】
また、本発明のプログラムは、算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を表示するステップをさらにコンピュータに実行させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定することができるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の自律神経機能評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態の自律神経機能評価装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態の自律神経機能評価装置におけるLF・HF演算方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】LF・HF演算の際の心拍変動測定方法を示す図である。
【図5】LF・HF演算の際のスペクトル分析した一例を示す図である。
【図6】図1中の表示装置22に表示される表示内容を説明するための図である。
【図7】図6に示した2次元表示におけるβ作用の判定表示領域のみを示す図である。
【図8】図6に示した2次元表示におけるα作用の判定表示領域のみを示す図である。
【図9】起立試験前後における心拍数HRと交感神経活動度指標LF/HFの値の一例を示す図である。
【図10】図9に示した測定結果を表した場合の表示結果を示す図である。
【図11】実際の測定結果に基づく表示結果の一例を示す図である。
【図12】実際の測定結果に基づく表示結果の他の例を示す図である。
【図13】実際の測定結果に基づく表示結果の他の例を示す図である。
【図14】実際の測定結果に基づく表示結果の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態の自律神経機能診断装置は、図1に示されるように、被測定者の心電データを取得するための心電図モニタ14と、制御装置18と、記憶装置20と、生体情報を表示するための表示装置22と、自律神経活動度算出部24と、心拍数算出部25とから構成されている。
【0023】
心電図モニタ14は、被診断者の例えば喉元にマイナス電極を、左脇腹にプラス電極を、右脇腹にボディアースをそれぞれ装着し、心臓の動きを電気信号として得て心電データとして記録する。
【0024】
自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する。なお、LF/HFの具体的な算出の方法は後述する。
【0025】
心拍数算出25は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する。具体的には、心拍数算出25は、心電データから1分間の心拍数の平均値を算出する。
【0026】
制御装置18は、例えばコンピュータからなり、自律神経活動度算出部24により得られた交感神経活動度指標(LF/HF)や心拍数算出部25により算出された心拍数を処理し、この処理した情報を記憶装置20に記憶し、あるいは表示装置22に表示する。
【0027】
また、制御装置18は、被診断者に対して起立試験等の負荷試験を指示する指示手段としても機能する。そして、制御装置18は、自律神経活動度算出部24により算出された交感神経活動度指標(LF/HF)の負荷試験前後における差(交感神経活動度指標変化量ΔLF/HF)と、心拍数算出部25により算出された心拍数(HR)の負荷試験前後における差(心拍数変化量ΔHR)との関係を2次元表示するように表示装置22を制御する。
【0028】
ここで、交感神経活動度指標(LF/HF)の負荷試験前後における差とは、負荷試験後における交感神経活動度指標(LF/HF)の値から、負荷試験前における交感神経活動度指標(LF/HF)の値を引いたものである。同様に、心拍数(HR)の負荷試験前後における差とは、負荷試験後における心拍数(HR)の値から、負荷試験前における心拍数(HR)の値を引いたものである。
【0029】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を図2のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0030】
まず初期設定として、診断が開始される前に、被診断者の氏名、年齢、ID番号、性別等の被診断者の情報が制御装置18に入力される(S201)。この状態において、被診断者は、座位(または仰臥位)の状態のような安静状態となっている。
【0031】
そして、診断が開始されると、心電図モニタ14により被診断者の心電データの測定が行われる(ステップS202)。そして、自律神経活動度算出部24は、LF/HF演算を行って、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する(ステップS203)。また、心拍数算出部25は、被診断者の心拍数を算出する(ステップS204)。そして、自律神経活動度算出部24により算出された交感神経活動度指標(LF/HF)および心拍数算出部25により算出された心拍数のデータは、制御装置18により記憶装置20に格納される(ステップS205)。
【0032】
次に、制御装置18は、表示装置22等を介して被診断者に対して起立を行うことを指示する(ステップS206)。本実施形態では、負荷試験として、座位(または仰臥位)の状態から起立する起立試験を行うものとして説明するが、被診断者に適度な負荷をかけることができるものであれば、例えば、トレッドミル検査法のような運動負荷や他の負荷試験であっても良い。
【0033】
そして、被診断者に対して起立指示を行った後に、所定時間が経過するのを待った後に(ステップS207)、心電図モニタ14により再度被診断者の心電データの測定が行われる(ステップS208)。そして、自律神経活動度算出部24は、LF/HF演算を行って、負荷試験後の交感神経活動度指標(LF/HF)を再度算出する(ステップS209)。また、心拍数算出部25は、負荷試験後の被診断者の心拍数を再度算出する(ステップS210)。
【0034】
すると、制御装置18は、記憶装置20に記憶されている負荷試験前の交感神経活動度指標(LF/HF)および心拍数を読み出し、負荷試験後の交感神経活動度指標(LF/HF)および心拍数との差を算出する。そして、制御装置18は、算出された交感神経活動度指標の差(ΔLF/HF)および心拍数の差(ΔHR)を表示装置22に対して2次元表示する。この表示内容の具体例については後述する。
【0035】
次に、図2のステップS203、ステップS209に示したLF/HF演算方法の詳細を図3〜図5に示す。
【0036】
まずステップS301において、自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14から入力された心電データから心拍変動を算出する。この心拍変動の算出は、図4A及びBに示すように、R波と次のR波との間隔をとってR−R間隔を測定し、次に図4C及びDに示すように、測定したR-R間隔データを後方のR波の時間的位置にプロットし、これを補間した後に、等間隔(図4Cの点線)で再サンプリングしたデータを作成することにより行う。次のステップS302においては、ステップS301で求めたデータに対してスペクトル分析(周波数変換)を行う。このステップS302でスペクトル分析した一例を図5に示す。次のステップS303においては、低周波成分LFを求める。ここで、低周波成分LFは、0.04〜0.15Hzのパワースペクトル成分の積分値である。次のステップS304においては、高周波成分HFを求める。ここで、高周波成分HFは、0.15〜0.40Hzのパワースペクトル成分の積分値である。そして、ステップS305において、ステップS303で求めたLFとステップS304で求めたHFとの比を算出し、LF/HFとするものである。
【0037】
このようにして自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データから、交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する。また、心拍数算出部25は、測定されたR−R間隔の平均値から1分間あたりの心拍の数を心拍数HRとして算出する。
【0038】
次に、表示装置22に表示される表示例を図6を参照して説明する。
図6に示されるよう、この表示例では、縦軸を交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFとし、横軸を心拍数の変化量ΔHRとした2次元表示となっている。
【0039】
また、この2次元表示では、各値に対して2つのしきい値をそれぞれ設定することにより2次元平面が9つのエリア(領域)に分割されて表示されている。具体的には、図6に示した表示例では、ΔLF/HFのしきい値として0.5および5.0が設定され、ΔHRのしきい値として5および10が設定されている。
【0040】
なお、この図6に示した表示例では、縦軸の交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFの値は等間隔に目盛りが設けられていない。これは判定の際に重要な範囲を強調して表示するためである。
【0041】
ここで、本実施形態では、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差ΔLF/HFを、負荷試験前後における心拍数の差ΔHRにより除算した値(ΔLF/HF)/ΔHRをα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差ΔHRをβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定する。
【0042】
そして、本実施形態では、(ΔLF/HF)/ΔHRについては、0.05以下ではα作用が弱く、0.05〜1.0の範囲に収まっていればα作用は正常であり、1.0以上の場合にはα作用が強いという判定を行うものとして説明する。また、ΔHRについては、5以下ではβ作用が弱く、5〜10の範囲に収まっていればβ作用は正常であり、10以上の場合にはβ作用が強いという判定を行うものとして説明する。
【0043】
なお、図6に示した表示例では、縦軸を交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFとしているため、α作用の強さを判定するための表示領域は、ΔLF/HF=ΔHR×1.0、ΔLF/HF=ΔHR×0.05という2つの式により表される線を境界として示されている。そして、上記でも述べたように、図6に示した表示例では、縦軸の交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFが等間隔ではないため、この2つの式により表される線は直線ではなく、間隔が変わる点で傾きが変わる折れ線になっている。
【0044】
なお、図6では、5≦ΔHR≦10、ΔHR×0.05≦ΔLF/HF≦ΔHR×1.0の範囲が、α作用、β作用がともに正常な範囲として示されている。
【0045】
そして、図6に示した表示例では、2次元表示におけるα作用の判定表示領域とβ作用の判定表示領域とが重なっているため、β作用の判定表示領域のみを図7に示し、α作用の判定表示領域のみを図8に示す。
【0046】
図7に示すように、β作用の判定表示領域では、ΔHRが10以上の領域がβ作用が強いと判定される領域として表示され、ΔHRが5以下の領域がβ作用が弱いと判定される領域として表示されている。
【0047】
また、図8に示すように、α作用の判定表示領域では、ΔHR×1.0≦ΔLF/HFの領域がα作用が強いと判定される領域として表示され、ΔLF/HF≦ΔHR×0.05の領域がα作用が弱いと判定される領域として表示されている。
【0048】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置により測定された、起立試験前後における心拍数HRと交感神経活動度指標LF/HFの値の一例を図9に示す。
【0049】
例えば、図9に示すように安静時(座位)での交感神経活動度指標(LF/HF)が1.5、心拍数HRが60(拍/分)であり、起立後の立位での交感神経活動度指標(LF/HF)が4.5、心拍数HRが68(拍/分)であったものとする。
【0050】
すると、制御装置18では、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差(ΔLF/HF)を3.0(4.5−1.5)、負荷試験前後の心拍数の差(ΔHR)を8(68−60)と算出する。そして、制御装置18では、(ΔLF/HF)/ΔHR=3.0/8=0.375として算出する。
【0051】
次に、図9に示した測定データ例に基づいて、本実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の表示の一例を図10に示す。そして、この図10に示した表示例では、測定値は黒丸で示されている。
図10に示した例では、測定値は、(ΔLF/HF)/ΔHR、ΔHRともに正常値の範囲に入っている。そのため、この表示内容を参照することにより、被診断者の交感神経機能におけるα作用とβ作用の機能の強さは正常であり、その強さも同程度であると判定することができる。
【0052】
次に、実際の被診断者を測定することにより得られた測定結果に基づく表示例を図11〜図14に示す。
【0053】
図11は、β遮断薬を服用した被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用が強く、β作用が弱いと判定することができる。
【0054】
また、図12は、立ちくらみを起こすことが多い被診断者において立ちくらみ症状が発生していない間歇期の被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用が弱く、β作用は正常であると判定することができる。なお、ΔLF/HFについては負の値になっているため、ここではΔLF/HF=0として表示している。
【0055】
また、図13は、パーキンソン病の被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用、β作用がともに弱いと判定することができる。
【0056】
さらに、図14は、起立性低血圧症の被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用が弱く、β作用は強いと判定することができる。
【0057】
このように、本実施形態の律神経機能診断装置によれば、被診断者の測定結果が、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差と、負荷試験前後の心拍数の差の2次元表示上に示される。そして、この2次元表示上では、α作用の強さを判定するための判定領域、β作用の強さを判定するための判定領域が設けられているため、測定結果がどの位置に表示されるかを見るだけで、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定することが可能となる。
【0058】
そして、例えば、医師が高血圧の患者に降圧剤を投与する際に本実施形態の自律神経機能診断装置を用いてこの患者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを把握することにより、投与する降圧剤としてα遮断薬を選択するのかβ遮断薬を選択するのかを判断する際の参考とするようなことも可能となる。
【0059】
[変形例]
なお、上記の実施形態では、心電図モニタ14を有し、この心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて交感神経活動度指標(LF/HF)や心拍数HRの算出を行っているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。心電図モニタ14を設けることなく、外部からの心電データを受け付ける受付手段を設け、この受付手段により受け付けた心電データに基づいて交感神経活動度指標(LF/HF)や心拍数HRの算出を行うような構成とすることもできる。このような構成とすることにより、自律神経機能診断装置には心電図モニタ14のような心電測定手段を設ける必要がなくなる。
【0060】
さらに、上記の実施形態では、制御装置18は、起立試験前後の値を表示装置22に2次元表示するだけのものとして説明しているが、本発明はこのような場合に限定されるものではない。制御装置18は、自律神経活動度算出部24により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と、心拍数算出部25により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、その判定結果を表示装置22に表示するよう制御してもよい。
【0061】
この場合には、制御装置18は、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後における心拍数の差により除算した値をα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差をβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定する。
【符号の説明】
【0062】
14 心電図モニタ
18 制御装置
20 記憶装置
22 表示装置
24 自律神経活動度算出部
25 心拍数算出部
S201〜S211 ステップ
S301〜S305 ステップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能を診断するための自律神経機能診断装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経には、人体を活動させる際に優位になる交感神経と、人体を鎮静させる際に優位になる副交感神経とがある。そして、正常な人体では、この交感神経と副交感神経とが適切に切り替わることにより人体の各種機能が正常に動作するようになっている。
【0003】
そして、この交感神経を優位な状態にしようとする際にはアドレナリンやノルアドレナリンという神経伝達物質が体内に放出され、このノルアドレナリンが交感神経の受容体に取り込まれることにより交感神経の状態が亢進する。
【0004】
そして、この交感神経の受容体には、大きくα受容体とβ受容体という2種類の受容体が存在することが知られている。そして、α受容体が刺激を受けると、末梢血管の収縮等のα作用が起こり、β受容体が刺激を受けると、心拍数の増加、気管支拡張等のβ作用が起こることも知られている。
【0005】
このような交感神経の機能に基づいて、高血圧の患者に投与される降圧剤には、α受容体への神経伝達物質の取り込みを阻害するα遮断薬や、β受容体への神経伝達物質の取り込みを阻害するβ遮断薬が用いられている場合がある。また、起立性低血圧等の患者には、α受容体を刺激するα受容体刺激薬やβ受容体を刺激するβ受容体刺激薬が用いられる場合がある。
【0006】
しかし、個人差によってα受容体が反応し易い(刺激を受けやすい)、つまりα作用が強い患者や、β受容体が反応し易い、つまりβ作用が強い患者が存在する。そのため、各種の治療や投薬の際には、各患者毎に交感神経機能におけるα作用が強いのかβ作用が強いのかを把握することが望まれる。
【0007】
従来では、自律神経機能の診断を客観的に行う方法として、様々な方法が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。しかし、これらの従来技術において開示されている診断方法では、自律神経機能が正常か否かの判定等を行うことはできるが、被診断者がα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−35896号公報
【特許文献2】特許第4327243号公報
【特許文献3】特許第4516623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術では、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを診断することができないという問題点があった。
【0010】
本発明の目的は、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定可能な自律神経機能診断装置およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[自律神経機能診断装置]
上記目的を達成するために、本発明の自律神経機能診断装置は、被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを有する。
【0012】
本発明では、被診断者から測定された負荷試験前後の心電データに基づいて交感神経活動度指標と心拍数を算出し、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差と心拍数の差が2次元表示される。そして、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後の心拍数の差で除算した値はα作用の強さを示し、負荷試験前後の心拍数の差はβ作用の強さを示す。従って、本発明によれば、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定することが可能となる。
【0013】
本発明の他の自律神経機能診断装置は、心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段とを有する。
【0014】
また、本発明の自律神経機能診断装置は、前記制御手段が、前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を前記表示手段に表示するよう制御するようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明の自律神経機能診断装置では、前記制御手段は、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後における心拍数の差により除算した値をα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差をβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定するようにしてもよい。
【0016】
[プログラム]
本発明のプログラムは、心電測定手段により被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により負荷試験後の被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させる。
【0017】
本発明の他のプログラムは、心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により測定された負荷試験後の被診断者の心電を受け付けるステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させる。
【0018】
また、本発明のプログラムは、算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を表示するステップをさらにコンピュータに実行させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定することができるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の自律神経機能評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態の自律神経機能評価装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態の自律神経機能評価装置におけるLF・HF演算方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】LF・HF演算の際の心拍変動測定方法を示す図である。
【図5】LF・HF演算の際のスペクトル分析した一例を示す図である。
【図6】図1中の表示装置22に表示される表示内容を説明するための図である。
【図7】図6に示した2次元表示におけるβ作用の判定表示領域のみを示す図である。
【図8】図6に示した2次元表示におけるα作用の判定表示領域のみを示す図である。
【図9】起立試験前後における心拍数HRと交感神経活動度指標LF/HFの値の一例を示す図である。
【図10】図9に示した測定結果を表した場合の表示結果を示す図である。
【図11】実際の測定結果に基づく表示結果の一例を示す図である。
【図12】実際の測定結果に基づく表示結果の他の例を示す図である。
【図13】実際の測定結果に基づく表示結果の他の例を示す図である。
【図14】実際の測定結果に基づく表示結果の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態の自律神経機能診断装置の構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態の自律神経機能診断装置は、図1に示されるように、被測定者の心電データを取得するための心電図モニタ14と、制御装置18と、記憶装置20と、生体情報を表示するための表示装置22と、自律神経活動度算出部24と、心拍数算出部25とから構成されている。
【0023】
心電図モニタ14は、被診断者の例えば喉元にマイナス電極を、左脇腹にプラス電極を、右脇腹にボディアースをそれぞれ装着し、心臓の動きを電気信号として得て心電データとして記録する。
【0024】
自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する。なお、LF/HFの具体的な算出の方法は後述する。
【0025】
心拍数算出25は、心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する。具体的には、心拍数算出25は、心電データから1分間の心拍数の平均値を算出する。
【0026】
制御装置18は、例えばコンピュータからなり、自律神経活動度算出部24により得られた交感神経活動度指標(LF/HF)や心拍数算出部25により算出された心拍数を処理し、この処理した情報を記憶装置20に記憶し、あるいは表示装置22に表示する。
【0027】
また、制御装置18は、被診断者に対して起立試験等の負荷試験を指示する指示手段としても機能する。そして、制御装置18は、自律神経活動度算出部24により算出された交感神経活動度指標(LF/HF)の負荷試験前後における差(交感神経活動度指標変化量ΔLF/HF)と、心拍数算出部25により算出された心拍数(HR)の負荷試験前後における差(心拍数変化量ΔHR)との関係を2次元表示するように表示装置22を制御する。
【0028】
ここで、交感神経活動度指標(LF/HF)の負荷試験前後における差とは、負荷試験後における交感神経活動度指標(LF/HF)の値から、負荷試験前における交感神経活動度指標(LF/HF)の値を引いたものである。同様に、心拍数(HR)の負荷試験前後における差とは、負荷試験後における心拍数(HR)の値から、負荷試験前における心拍数(HR)の値を引いたものである。
【0029】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置の動作を図2のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0030】
まず初期設定として、診断が開始される前に、被診断者の氏名、年齢、ID番号、性別等の被診断者の情報が制御装置18に入力される(S201)。この状態において、被診断者は、座位(または仰臥位)の状態のような安静状態となっている。
【0031】
そして、診断が開始されると、心電図モニタ14により被診断者の心電データの測定が行われる(ステップS202)。そして、自律神経活動度算出部24は、LF/HF演算を行って、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する(ステップS203)。また、心拍数算出部25は、被診断者の心拍数を算出する(ステップS204)。そして、自律神経活動度算出部24により算出された交感神経活動度指標(LF/HF)および心拍数算出部25により算出された心拍数のデータは、制御装置18により記憶装置20に格納される(ステップS205)。
【0032】
次に、制御装置18は、表示装置22等を介して被診断者に対して起立を行うことを指示する(ステップS206)。本実施形態では、負荷試験として、座位(または仰臥位)の状態から起立する起立試験を行うものとして説明するが、被診断者に適度な負荷をかけることができるものであれば、例えば、トレッドミル検査法のような運動負荷や他の負荷試験であっても良い。
【0033】
そして、被診断者に対して起立指示を行った後に、所定時間が経過するのを待った後に(ステップS207)、心電図モニタ14により再度被診断者の心電データの測定が行われる(ステップS208)。そして、自律神経活動度算出部24は、LF/HF演算を行って、負荷試験後の交感神経活動度指標(LF/HF)を再度算出する(ステップS209)。また、心拍数算出部25は、負荷試験後の被診断者の心拍数を再度算出する(ステップS210)。
【0034】
すると、制御装置18は、記憶装置20に記憶されている負荷試験前の交感神経活動度指標(LF/HF)および心拍数を読み出し、負荷試験後の交感神経活動度指標(LF/HF)および心拍数との差を算出する。そして、制御装置18は、算出された交感神経活動度指標の差(ΔLF/HF)および心拍数の差(ΔHR)を表示装置22に対して2次元表示する。この表示内容の具体例については後述する。
【0035】
次に、図2のステップS203、ステップS209に示したLF/HF演算方法の詳細を図3〜図5に示す。
【0036】
まずステップS301において、自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14から入力された心電データから心拍変動を算出する。この心拍変動の算出は、図4A及びBに示すように、R波と次のR波との間隔をとってR−R間隔を測定し、次に図4C及びDに示すように、測定したR-R間隔データを後方のR波の時間的位置にプロットし、これを補間した後に、等間隔(図4Cの点線)で再サンプリングしたデータを作成することにより行う。次のステップS302においては、ステップS301で求めたデータに対してスペクトル分析(周波数変換)を行う。このステップS302でスペクトル分析した一例を図5に示す。次のステップS303においては、低周波成分LFを求める。ここで、低周波成分LFは、0.04〜0.15Hzのパワースペクトル成分の積分値である。次のステップS304においては、高周波成分HFを求める。ここで、高周波成分HFは、0.15〜0.40Hzのパワースペクトル成分の積分値である。そして、ステップS305において、ステップS303で求めたLFとステップS304で求めたHFとの比を算出し、LF/HFとするものである。
【0037】
このようにして自律神経活動度算出部24は、心電図モニタ14により測定された心電データから、交感神経活動度指標(LF/HF)を算出する。また、心拍数算出部25は、測定されたR−R間隔の平均値から1分間あたりの心拍の数を心拍数HRとして算出する。
【0038】
次に、表示装置22に表示される表示例を図6を参照して説明する。
図6に示されるよう、この表示例では、縦軸を交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFとし、横軸を心拍数の変化量ΔHRとした2次元表示となっている。
【0039】
また、この2次元表示では、各値に対して2つのしきい値をそれぞれ設定することにより2次元平面が9つのエリア(領域)に分割されて表示されている。具体的には、図6に示した表示例では、ΔLF/HFのしきい値として0.5および5.0が設定され、ΔHRのしきい値として5および10が設定されている。
【0040】
なお、この図6に示した表示例では、縦軸の交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFの値は等間隔に目盛りが設けられていない。これは判定の際に重要な範囲を強調して表示するためである。
【0041】
ここで、本実施形態では、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差ΔLF/HFを、負荷試験前後における心拍数の差ΔHRにより除算した値(ΔLF/HF)/ΔHRをα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差ΔHRをβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定する。
【0042】
そして、本実施形態では、(ΔLF/HF)/ΔHRについては、0.05以下ではα作用が弱く、0.05〜1.0の範囲に収まっていればα作用は正常であり、1.0以上の場合にはα作用が強いという判定を行うものとして説明する。また、ΔHRについては、5以下ではβ作用が弱く、5〜10の範囲に収まっていればβ作用は正常であり、10以上の場合にはβ作用が強いという判定を行うものとして説明する。
【0043】
なお、図6に示した表示例では、縦軸を交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFとしているため、α作用の強さを判定するための表示領域は、ΔLF/HF=ΔHR×1.0、ΔLF/HF=ΔHR×0.05という2つの式により表される線を境界として示されている。そして、上記でも述べたように、図6に示した表示例では、縦軸の交感神経活動度指標の変化量ΔLF/HFが等間隔ではないため、この2つの式により表される線は直線ではなく、間隔が変わる点で傾きが変わる折れ線になっている。
【0044】
なお、図6では、5≦ΔHR≦10、ΔHR×0.05≦ΔLF/HF≦ΔHR×1.0の範囲が、α作用、β作用がともに正常な範囲として示されている。
【0045】
そして、図6に示した表示例では、2次元表示におけるα作用の判定表示領域とβ作用の判定表示領域とが重なっているため、β作用の判定表示領域のみを図7に示し、α作用の判定表示領域のみを図8に示す。
【0046】
図7に示すように、β作用の判定表示領域では、ΔHRが10以上の領域がβ作用が強いと判定される領域として表示され、ΔHRが5以下の領域がβ作用が弱いと判定される領域として表示されている。
【0047】
また、図8に示すように、α作用の判定表示領域では、ΔHR×1.0≦ΔLF/HFの領域がα作用が強いと判定される領域として表示され、ΔLF/HF≦ΔHR×0.05の領域がα作用が弱いと判定される領域として表示されている。
【0048】
次に、本実施形態の自律神経機能診断装置により測定された、起立試験前後における心拍数HRと交感神経活動度指標LF/HFの値の一例を図9に示す。
【0049】
例えば、図9に示すように安静時(座位)での交感神経活動度指標(LF/HF)が1.5、心拍数HRが60(拍/分)であり、起立後の立位での交感神経活動度指標(LF/HF)が4.5、心拍数HRが68(拍/分)であったものとする。
【0050】
すると、制御装置18では、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差(ΔLF/HF)を3.0(4.5−1.5)、負荷試験前後の心拍数の差(ΔHR)を8(68−60)と算出する。そして、制御装置18では、(ΔLF/HF)/ΔHR=3.0/8=0.375として算出する。
【0051】
次に、図9に示した測定データ例に基づいて、本実施形態の自律神経機能診断装置における表示装置22の表示の一例を図10に示す。そして、この図10に示した表示例では、測定値は黒丸で示されている。
図10に示した例では、測定値は、(ΔLF/HF)/ΔHR、ΔHRともに正常値の範囲に入っている。そのため、この表示内容を参照することにより、被診断者の交感神経機能におけるα作用とβ作用の機能の強さは正常であり、その強さも同程度であると判定することができる。
【0052】
次に、実際の被診断者を測定することにより得られた測定結果に基づく表示例を図11〜図14に示す。
【0053】
図11は、β遮断薬を服用した被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用が強く、β作用が弱いと判定することができる。
【0054】
また、図12は、立ちくらみを起こすことが多い被診断者において立ちくらみ症状が発生していない間歇期の被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用が弱く、β作用は正常であると判定することができる。なお、ΔLF/HFについては負の値になっているため、ここではΔLF/HF=0として表示している。
【0055】
また、図13は、パーキンソン病の被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用、β作用がともに弱いと判定することができる。
【0056】
さらに、図14は、起立性低血圧症の被診断者の測定結果を示した表示例であり、この表示結果からα作用が弱く、β作用は強いと判定することができる。
【0057】
このように、本実施形態の律神経機能診断装置によれば、被診断者の測定結果が、負荷試験前後の交感神経活動度指標の差と、負荷試験前後の心拍数の差の2次元表示上に示される。そして、この2次元表示上では、α作用の強さを判定するための判定領域、β作用の強さを判定するための判定領域が設けられているため、測定結果がどの位置に表示されるかを見るだけで、交感神経活動による作用のうちα作用の方が強いのかβ作用の方が強いのかを容易に判定することが可能となる。
【0058】
そして、例えば、医師が高血圧の患者に降圧剤を投与する際に本実施形態の自律神経機能診断装置を用いてこの患者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを把握することにより、投与する降圧剤としてα遮断薬を選択するのかβ遮断薬を選択するのかを判断する際の参考とするようなことも可能となる。
【0059】
[変形例]
なお、上記の実施形態では、心電図モニタ14を有し、この心電図モニタ14により測定された心電データに基づいて交感神経活動度指標(LF/HF)や心拍数HRの算出を行っているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。心電図モニタ14を設けることなく、外部からの心電データを受け付ける受付手段を設け、この受付手段により受け付けた心電データに基づいて交感神経活動度指標(LF/HF)や心拍数HRの算出を行うような構成とすることもできる。このような構成とすることにより、自律神経機能診断装置には心電図モニタ14のような心電測定手段を設ける必要がなくなる。
【0060】
さらに、上記の実施形態では、制御装置18は、起立試験前後の値を表示装置22に2次元表示するだけのものとして説明しているが、本発明はこのような場合に限定されるものではない。制御装置18は、自律神経活動度算出部24により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と、心拍数算出部25により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、その判定結果を表示装置22に表示するよう制御してもよい。
【0061】
この場合には、制御装置18は、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後における心拍数の差により除算した値をα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差をβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定する。
【符号の説明】
【0062】
14 心電図モニタ
18 制御装置
20 記憶装置
22 表示装置
24 自律神経活動度算出部
25 心拍数算出部
S201〜S211 ステップ
S301〜S305 ステップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を有する自律神経機能診断装置。
【請求項2】
心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を有する自律神経機能診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を前記表示手段に表示するよう制御する請求項1または2記載の自律神経機能診断装置。
【請求項4】
前記制御手段は、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後における心拍数の差により除算した値をα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差をβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定する請求項3記載の自律神経機能診断装置。
【請求項5】
心電測定手段により被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により負荷試験後の被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により測定された負荷試験後の被診断者の心電を受け付けるステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項7】
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を表示するステップをさらにコンピュータに実行させる請求項5または6記載のプログラム。
【請求項1】
被診断者の心電を測定する心電測定手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を有する自律神経機能診断装置。
【請求項2】
心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付ける受付手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出する自律神経活動度算出手段と、
前記受付手段により受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出する心拍数算出手段と、
生体情報を表示するための表示手段と、
前記被診断者に対して負荷試験を指示する指示手段と、
前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するよう前記表示手段を制御する制御手段と、
を有する自律神経機能診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記自律神経活動度算出手段により算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と前記心拍数算出手段により算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を前記表示手段に表示するよう制御する請求項1または2記載の自律神経機能診断装置。
【請求項4】
前記制御手段は、負荷試験前後における交感神経活動度指標の差を、負荷試験前後における心拍数の差により除算した値をα作用の強さの指標とし、負荷試験前後における心拍数の差をβ作用の強さの指標として、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定する請求項3記載の自律神経機能診断装置。
【請求項5】
心電測定手段により被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により負荷試験後の被診断者の心電を測定するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
前記心電測定手段により測定された負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
心電測定手段により測定された被診断者の心電データを受け付けるステップと、
受け付けた心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、
心電測定手段により測定された負荷試験後の被診断者の心電を受け付けるステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、
受け付けた負荷試験後の心電データに基づいて、被診断者の心拍数を算出するステップと、
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係を2次元表示するスステップとをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項7】
算出された負荷試験前後における交感神経活動度指標の差と算出された負荷試験前後における心拍数の差との関係から、被診断者の交感神経機能においてα作用が強いのかβ作用が強いのかを判定し、該判定結果を表示するステップをさらにコンピュータに実行させる請求項5または6記載のプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−239666(P2012−239666A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113052(P2011−113052)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(504254998)株式会社クロスウェル (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(504254998)株式会社クロスウェル (37)
【Fターム(参考)】
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