説明

自律神経調節剤

【課題】本発明は、自律神経に作用してその機能を調節することができる、副作用のない安全な自律神経調節剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、チリロサイドを有効成分とする自律神経調節剤を提供する。特に該自律神経調節剤は、交感神経活動亢進作用を有する。前記チリロサイドは、ローズヒップ、ナニワイバラの偽果(金櫻子)、ハマナスの偽果または花、リンデンの花または葉、ウスベニアオイの全草、ウスベニタチアオイの葉または花、ツリーラヴァテラの葉、エゾツルキンバイの葉または果実、ヒメオドリコソウの全草、タチアオイの葉または根、ラズベリーの葉または果実、あるいはいちごの果実または種子の抽出物に含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チリロサイドを有効成分とする自律神経調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経系は意思とは無関係に自動的に働き、諸器官を支配し、循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌、生殖、および代謝等の機能を制御する。自律神経系はホルモンによる調節機構である内分泌系と協調しながら、種々の生理的パラメータを調節しホメオスタシスの維持に貢献している。自律神経系は交感神経系と副交感神経系の2つの神経系からなり、双方がひとつの臓器を支配することが多い。また1つの臓器に及ぼす両作用は一般に拮抗的に働く。身体が活動している時は交感神経の活動が優位となり全身が緊張した状態となる。逆に、副交感神経の活動が優位な時は身体の緊張がとれくつろいでいる状態となる。
【0003】
自律神経は全身の器官をコントロールしているため、そのバランスが崩れると、様々な機能に支障をきたして、高血圧、動悸、のぼせ、微熱、めまい、耳鳴り、胃潰瘍、便秘、下痢、慢性疲労、強い不安感等の様々な症状が出る。最近、自律神経のバランスが崩れ、身体機能や精神面にさまざまな疾患を伴う人が急増している。このような観点から自律神経活動をコントロールする医薬品あるいは健康食品が求められている。最近では、自律神経機能を評価するために高感度で再現性の高い心拍変動パワースペクトル解析が行われている(特許文献1)。
【0004】
心臓の拍動間の間隔(R−R間隔)は常に変化している(心拍変動)。心拍変動は自律神経が心臓に働きかけることにより引き起こされるため、この心拍変動を見ることにより自律神経の活動状態を評価することができる。心電図から得られた心拍変動を高速フーリエ変換で処理して周波数解析を行うことにより、心拍変動パワースペクトルが得られる。得られたパワースペクトルの低周波数領域(LF、0.04〜0.15Hz)は交感と副交感神経の活動を、高周波数領域(HF、0.15〜0.4Hz)は副交感神経の活動を示すと考えられている。超低周波数領域(VLF、0.007〜0.036Hz)は熱産生機構に関与すると考えられている。LF、HFおよびVLFのパワースペクトルの総和(Total)は、交感神経活動が主に占める自律神経活動全体を反映していると考えられている。
【0005】
チリロサイドはローズヒップなどの植物に含有されている成分であり、生体内での脂肪代謝を促進し、かつ耐糖能を改善する作用を有する(特許文献2および3)。しかし、自律神経系への作用については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−320278号公報
【特許文献2】特開2007−176858号公報
【特許文献3】特開2010−202594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、副作用がなく安全に自律神経に作用してその機能を調節することができる自律神経調節剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、チリロサイドが、優れた自律神経調節効果を有することを見出して本発明を完成した。
【0009】
本発明は、チリロサイドを有効成分とする自律神経調節剤を提供する。
【0010】
ある実施態様においては、上記自律神経調節剤は交感神経活動亢進剤である。
【0011】
ある実施態様においては、上記チリロサイドは、ローズヒップ、ナニワイバラの偽果(金櫻子)、ハマナスの偽果または花、リンデンの花または葉、ウスベニアオイの全草、ウスベニタチアオイの葉または花、ツリーラヴァテラの葉、エゾツルキンバイの葉または果実、ヒメオドリコソウの全草、タチアオイの葉または根、ラズベリーの葉または果実、あるいはいちごの果実または種子の抽出物に含まれている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有効成分であるチリロサイドは、自律神経の機能に変化をもたらし、優れた自律神経調節効果を発揮する。特に交感神経の活動を亢進させる。そして自律神経活動に関連する症状を改善し、予防および/または治療することができる。本発明に用いられるチリロサイドは、天然成分であり、安全である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】心電図パワースペクトル解析の心臓自律神経機能の総自律神経活動(Total)をPre時点のパワーを1.00とした変化率で示すグラフである。
【図2】心電図パワースペクトル解析の心臓自律神経機能の交感神経活動(LF)をPre時点のパワーを1.00とした変化率で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有効成分であるチリロサイド(tiliroside)は、ポリフェノールの1種であり、以下の式(I)で表される。
【0015】
【化1】

【0016】
上記チリロサイドは、主に植物の各部位(例えば、植物全体、花、茎、鱗茎、根、種子(偽果)、種皮など)に含有される。具体的には、ローズヒップ(Rosa caninaの偽果)、ナニワイバラ(R. laviegata)の偽果(金櫻子)、ハマナス(R. rugosa)の偽果および花、リンデン(Tilia cordata、T. platyphyllos、またはT.argentea)の花および葉、ウスベニアオイ(Malva silvestris)の全草、ウスベニタチアオイ(Althaea officinalis)の葉および花、ツリーラヴァテラ(Lavatera thuringiaca)の葉、エゾツルキンバイ(Potentilla anserina)の葉および果実、ヒメオドリコソウ(Lamium purpureum, L. album)の全草、タチアオイ(Althaea rosea)の葉および根、ラズベリー(Rubus idaeus)の葉および果実、いちご(Fragaria ananassa)の果実および種子などが挙げられる。好ましくはローズヒップである。
【0017】
本発明においては、チリロサイドを含有する上記植物、その加工物(乾燥物、破断物、細断物、またはこれらを粉末化した乾燥粉末、乾燥物を粉砕後成形したものなど)、またはこれらの抽出物をチリロサイドとして用いてもよい。本明細書において、抽出物とは、上記植物またはその加工物を溶媒で抽出して得られる抽出液、その希釈液または濃縮液、あるいはそれらの乾燥物を意味する。チリロサイドの精製度が高い点、あるいは飲食物、医薬組成物として使用する点などを考慮すると、抽出物を用いることが好ましい。
【0018】
抽出に用いる溶媒は、極性溶媒であっても、非極性溶媒であってもよく、特に制限されない。このような溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール類;エーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;ヘプタン、ヘキサンなどの炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;および、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素類が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または組合せて用いることができる。
【0019】
上記溶媒の中でも、アルコール、酢酸エチル、水、およびこれらの2またはそれ以上の混合溶媒が好ましく用いられる。アルコールとしては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の低級アルコールが好ましく用いられる。アルコールと水との混合溶媒がより好ましい。例えば、エタノールと水とを容積比で99:1〜1:99、好ましくは95:5〜5:95、さらに好ましくは70:30〜30:70で用いてもよい。エタノールが多い方が好ましく、例えば、70v/v(容量/容量)%エタノール(エタノール:水=70:30)も用いられる。
【0020】
抽出方法に特に制限はないが、使用における安全性および利便性の観点から、できるだけ緩やかな条件で行うことが好ましい。例えば、原料植物部位またはその乾燥物を粉砕、破砕または細断し、これに5〜20倍量の極性または非極性溶媒を加え、0℃〜溶媒の還流温度の範囲で30分〜48時間、振盪、撹拌あるいは還流などの条件下、抽出を行う。抽出後、濾過、遠心分離などの分離操作を行い、不溶物を除去して、必要に応じて希釈、濃縮操作を行うことにより、抽出液を得ることができる。さらに必要に応じて、上記不溶物について同じ操作を繰り返してさらに抽出し、その抽出液を併せて用いてもよい。
【0021】
この抽出液は、そのままあるいは濃縮して、液状物、濃縮物、ペースト状で、あるいは、さらにこれらを乾燥した乾燥物の形状で用いられる。乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、流動乾燥等の当業者が通常用いる方法により行われる。抽出物は、当業者が通常用いる精製方法によりさらに精製してもよい。
【0022】
このようにして得られる抽出物は、チリロサイドを乾燥質量換算で好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上含有する。抽出物中のチリロサイドは、例えば、高速液体クロマトグラフィーなどにより確認される。
【0023】
本発明の自律神経調節剤が有する自律神経調節作用とは、例えば、交感神経活動亢進作用、交感神経活動亢進の抑制作用、交感神経活動抑制作用、副交感神経活動亢進作用、副交感神経活動亢進の抑制作用、副交感神経活動抑制作用を含み、好ましくは交感神経活動亢進作用である。
【0024】
本発明の自律神経調節剤は、自律神経活動に関連した疾患または状態の処置、例えば自律神経の乱れによって起こりやすい症状である、息切れ、動悸、肩凝り、頭痛、めまい、不安感、食欲不振、倦怠感、不眠等の処置に使用し得る。
【0025】
本発明の自律神経調節剤は、上記チリロサイドを有効成分とする。この自律神経調節剤は、主に食品、医薬品などに利用される。チリロサイドの摂取量は、ヒトでは、1日あたり、0.1〜1mgが好ましく、0.1〜0.3mgがより好ましい。チリロサイドとして植物抽出物を用いる場合は、チリロサイドの含有量に応じて適宜設定すればよい。例えば、ローズヒップ抽出物の摂取量は、1日あたり、乾燥質量換算で100〜1000mgが好ましい。
【0026】
本発明の自律神経調節剤の形態は、利用される食品、医薬品などの形態に応じて適宜設定される。例えば、当業者が通常用いる添加剤(例えば、デキストリン、デンプン、糖類、リン酸カルシウムなどの賦形剤、香料、香油など)を用いて、錠剤、顆粒剤などの形状に成形してもよいし、あるいは、水、飲料などに溶解して、液剤としてもよい。投与経路は制限されないが、好ましくは経口投与である。
【0027】
本発明の自律神経調節剤は、上述のように、食品、医薬品などとして利用される。この場合、自律神経調節作用を阻害しない限り、症状に応じて本発明とは異なる作用を有する物質と組合せて製剤としてもよい。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1:ローズヒップ抽出液の調製)
チリ産のローズヒップ(Rosa canina)の果実(種子を含む)の乾燥粉砕物に、50(v/v)%エタノール水溶液を加えて、90℃付近で還流抽出した。この混合物を濾過して不溶物を除去した後、減圧下、エタノールを留去して抽出液を得た。
【0030】
(実施例2:ローズヒップ抽出物製剤の調製)
実施例1で得られた抽出液を乾燥した粉末と賦形剤デキストリン、環状オリゴ糖とを混合し、常法によりチリロサイド抽出物を100mgまたは300mg含有する錠剤を得た。
【0031】
(実施例3:チリロサイドの調製)
実施例2で得られた粉末を50(v/v)%メタノール水溶液に溶解し、これを、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(オープンカラム)により以下の条件1で分画した。得られた画分について、薄層クロマトグラフィー(TLC)によりチリロサイドを検出した。なお、指標として市販標品tiliroside(フナコシ)を用いた。
【0032】
(条件1)
カラム:シリカゲル(Chromatorex(登録商標)ODS:Fuji silysia Chemical LTD.社製)を充填(15cmΦ×60cm)
移動層:メタノール/水(容積比が50/50、70/30、および100/0の順で溶出を行う)
【0033】
TLCによりチリロサイドが検出された画分を合わせた(画分1とする)。この画分1を、さらに順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(オープンカラム)により以下の条件2で分画した。上記と同様にして、チリロサイドが検出された画分を合わせた(画分2とする)。
【0034】
(条件2)
カラム:シリカゲル60N(球状、中性)(関東化学株式会社)を充填(5cmΦ×40cm)
移動層:トリクロロメタン/メタノール/水(容積比が15/3/1、10/3/1、および7/3/1の順で溶出を行い、最後にメタノールのみで溶出する)
【0035】
画分2を、さらにプレパラティブ用カラムおよび示唆屈折率検出器(RI)を備えた高速液体クロマトグラフィー装置を用いて以下の条件3で分画した。得られた画分を乾燥してチリロサイド67.1mgを得た。
【0036】
(条件3)
カラム: YMC−Pack ODS−A(株式会社ワイエムシィ)
カラム温度: 室温
移動層: アセトニトリル/水(容積比:30/70)
流速: 10ml/min
【0037】
得られたチリロサイドを賦形剤デキストリン、環状オリゴ糖と混合し、常法によりチリロサイドを0.1mg含む錠剤を得た。
【0038】
(実施例4)自律神経調節効果の評価
実施例2で得られたローズヒップ抽出物を含有する製剤を用いて自律神経調節効果を以下のようにして評価した。
【0039】
被験者は健常女子大学生10名であった。被験者の中には、喫煙習慣や処方箋を有する者はいなかった。すべての測定はダブルブラインド・クロスオーバーで行われた。被験者は、3種類のサンプル(A:プラセボ;B:ローズヒップ抽出物(100mg含有);C:ローズヒップ抽出物(300mg含有))を1週間のウォッシュアウト期間をおいてランダムに摂取した。それぞれの測定日において、被験者はAM7:00に起床し、AM7:30に指定した朝食(白米200g)を各自で摂取した。AM8:45に実験室に来室して体組成を測定した後、30分間座位で安静にした。その後、心電図8分間および呼気ガス8分間を安静座位にて同時測定した(Pre)。そして、サンプルを水100ccとともに摂取し、Preと同様の測定を摂取30分後(Post30)および摂取60分後(Post60)に行った。
【0040】
心電図から心拍変動パワースペクトル解析によって、心臓自律神経機能の総自律神経活動(Total)、交感神経活動(LF)、副交感神経活動(HF)、およびVLFを定量評価した。統計解析は統計処理ソフトSPSS(Statistical Package for Social Science)を用いて一元配置分散分析を行い、事後検定にはDunnettのt検定を採用した(Pre vs Post30,Post60)。統計解析における有意確率はp<0.05とした。
【0041】
心電図パワースペクトル解析の結果を、Preの値を1.00とした変化率で表した(Total:図1;LF:図2)。サンプルBにおいてはTotalがPost60の時点で有意に亢進した。また、サンプルCにおいてはTotalおよびLFがPost60の時点で有意に亢進し、LFはPost30の時点で高い傾向を示した。
【0042】
本結果より、チリロサイドは、自律神経機能の総自律神経活動(Total)、および交感神経活動(LF)を亢進する作用を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の自律神経調節剤は、チリロサイドを有効成分とする。このチリロサイドは、自律神経に作用してその活動を亢進させる作用を有することにより、優れた自律神経調節効果を発揮する。特に交感神経の活動を亢進させ、自律神経機能の低下による諸症状の予防、治療剤として優れた効果を発揮する。本発明の自律神経調節剤は、食品、医薬品などとして利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チリロサイドを有効成分とする自律神経調節剤。
【請求項2】
交感神経活動亢進剤である請求項1に記載の自律神経調節剤。
【請求項3】
前記チリロサイドが、ローズヒップ、ナニワイバラの偽果、ハマナスの偽果または花、リンデンの花または葉、ウスベニアオイの全草、ウスベニタチアオイの葉または花、ツリーラヴァテラの葉、エゾツルキンバイの葉または果実、ヒメオドリコソウの全草、タチアオイの葉または根、ラズベリーの葉または果実、あるいはいちごの果実または種子の抽出物に含まれている、請求項1に記載の自律神経調節剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35786(P2013−35786A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173678(P2011−173678)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000191755)森下仁丹株式会社 (30)
【出願人】(391026058)ザ コカ・コーラ カンパニー (238)
【氏名又は名称原語表記】The Coca‐Cola Company
【Fターム(参考)】