説明

自浄防汚シート

【課題】光触媒機能層を附帯する膜材において、光触媒層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、光触媒層を保持し長期間に渡たっての防汚効果を持続させることが出来る自浄防汚シートの提供。
【解決手段】光触媒機能層3を有する可撓性シートにおいて、光触媒機能層を、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(I)で形成し、島成分3−1−aを、光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)から形成された光触媒粒子含有域とし、海成分3−2−bを、光触媒粒子5−1を含有しない合成樹脂(B)から形成された光触媒粒子非含有域とする。さらに合成樹脂(A)は光触媒活性による被分解性とし、合成樹脂(B)は光触媒活性に対して難分解性とする。また、シート状基材と光触媒機能層との間に、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(II)を形成する光触媒中間層を設けること、さらに島成分に過酸化物を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自浄防汚シートに関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は自浄防汚と耐久性に優れ、中大型テント、テント倉庫などの膜構造建築物用部材、屋外大型看板用サインシート、店舗一体型内照看板などの産業用資材として好適に用いられる自浄防汚に優れた可撓性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維布帛を基布として、その片面以上に熱可塑性樹脂製防水層を形成してなる積層シート、いわゆるターポリンや帆布は、日除けテント、中大型テント、テント倉庫、及び建築養生シートなどの建築部材、並びにトラック用幌、看板用サインシート、及びフレキシブルコンテナーなどの産業資材シートの分野に用いられている。最近、日除けテント、中大型テント、テント倉庫などの膜構造物の恒久性用途において、その耐用年数の向上に伴う付加価値としての光触媒防汚技術が注目されるようになり、本出願人においてもこのような光触媒層付の膜材を種々提案してきた。(特許文献1〜3)
【0003】
これらの光触媒層付膜材は、膜材表面に光触媒層を設けることで汚れ成分を光触媒で分解し、この残滓を降雨洗浄しようとするものであるが、しばしば、これらの膜材では汚れの種類や付着状態によっては除去効果発現までに長いリードタイムを要していた。このようなリードタイムの短縮の方法として、光触媒層の風化による汚れ除去の提案がなされている。この方法は意図的に光触媒層表面を分解コントロールして、付着汚れごと表面層を脱落させ、常時新しい表面を露出させることで美観維持を図ろうとするものである。(特許文献4)
【0004】
しかし、これらの方法では光触媒層の自己衰痩を伴うため、一定期間の使用を過ぎると急激に防汚効果が消失してしまう問題を孕んでいる。従って、防汚層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、尚且つ防汚層を保持することが出来れば、膜材の使用開始から長期間に渡たる防汚効果を持続させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−098464号公報
【特許文献2】特開2001−105535号公報
【特許文献3】特開2001−113640号公報
【特許文献4】特開2005−271490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光触媒機能層を附帯する膜材において、光触媒層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、光触媒層を保持し、それによって膜材の使用開始から長期間に渡たっての防汚効果を持続させることが出来る自浄防汚シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、シート状基材の1面以上に光触媒機能層を有する可撓性シートにおいて、光触媒機能層を、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(I)で形成し、この海島微細構造(I)において、島成分を、光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)から形成された光触媒粒子含有域として、海成分を、光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)から形成された光触媒粒子非含有域として、さらに合成樹脂(A)は光触媒活性による被分解性で、かつ前記合成樹脂(B)は光触媒活性に対して難分解性とすること、さらにシート状基材と光触媒機能層との間に、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(II)を形成する光触媒中間層を設けること、さらに島成分に過酸化物を含有させることなどにより、光触媒層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、光触媒層を保持し、それによって膜材の使用開始から長期間に渡たっての防汚効果を持続させることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明の自浄防汚シートは、シート状基材の1面以上に光触媒機能層を有する可撓性シートであって、前記光触媒機能層が、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(I)を形成し、この海島微細構造(I)において、島成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)から形成された前記光触媒粒子含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)によって形成された前記光触媒粒子非含有域であり、さらに前記合成樹脂(A)は光触媒活性による被分解性を有し、かつ前記合成樹脂(B)は光触媒活性に対して難分解性であることが好ましい。これによって本発明の自浄防汚シートは光触媒層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、光触媒層を保持し、それによって膜材の使用開始から長期間に渡たっての防汚効果を持続させることを可能とする。
【0009】
本発明の自浄防汚シートは、前記シート状基材と、前記光触媒機能層との間に、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(II)を形成する光触媒中間層を有し、この海島微細構造(II)において、島成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(C)から形成された前記光触媒粒子非含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(D)によって形成された前記光触媒粒子含有域であり、さらに前記合成樹脂(C)は光触媒活性による被分解性を有し、かつ前記合成樹脂(D)は光触媒活性に対して難分解性であることが好ましい。これによって本発明の自浄防汚シートは光触媒層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、光触媒層を保持し、それによって膜材の使用開始から長期間に渡たっての防汚効果を持続させることを可能とする。
【0010】
本発明の自浄防汚シートは、前記海島微細構造(I)の島成分が、前記合成樹脂(A)に対して、さらに過酸化物を0.001〜1質量%含有することが好ましい。これによって本発明の自浄防汚シートは、島成分の分解が加速されて使い始め段階から効果的自浄防汚効果を発揮することができる。
【0011】
本発明の自浄防汚シートは、前記シート状基材が繊維布帛を芯材として含む繊維複合積層体であることが好ましい。これによって本発明の自浄防汚シートは、中大型テント、テント倉庫などの膜構造建築物用部材、屋外大型看板用サインシート、店舗一体型内照看板などの産業用資材に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
中大型テント、テント倉庫などの膜構造建築物用部材、屋外大型看板用サインシート、店舗一体型内照看板などの産業用資材に本発明の自浄防汚シートを用いることによって、
光触媒層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、光触媒層を保持し、それによって膜材の使用開始から長期間に渡たる防汚効果を持続させることができるので、上記膜構造建築物や看板の外観をメンテナンスフリーで美麗に維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自浄防汚シートの断面図の一例を示す図
【図2】本発明の自浄防汚シートの断面図の一例を示す図
【図3】本発明の自浄防汚シートの光触媒機能層の海島微細構造(I)の一例を 示す図
【図4】本発明の自浄防汚シートの光触媒中間層の海島微細構造(II)の一例 を示す図
【図5】本発明の自浄防汚シートの断面図(初期の汚れ付着)の一例を示す図
【図6】本発明の自浄防汚シートの光触媒機能層の海島微細構造(I)の侵食過程の 概念を示す断面図
【図7】本発明の自浄防汚シートの光触媒中間層の海島微細構造(II)の侵食過程 の概念を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の自浄防汚シートは、シート状基材の1面以上に光触媒機能層を有する可撓性シートであって、光触媒機能層が、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(I)を形成し、この海島微細構造(I)において、島成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)から形成された光触媒粒子含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)によって形成された光触媒粒子非含有域であり、さらに前記合成樹脂(A)は光触媒活性による被分解性を有し、かつ合成樹脂(B)は光触媒活性に対して難分解性であることが好ましい。本発明を達成するための海島微細構造(I)は、合成樹脂(A)と合成樹脂(B)との非相溶ブレンドによる微分散によって形成され、光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)による組成物と光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)による組成物とを混合することによって得ることが出来る。
【0015】
本発明の自浄防汚シートに用いるシート状基材は、厚さ0.1〜0.3mmの熱可塑性樹脂フィルム(例えば軟質〜半硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなど)、または厚さ0.3〜1.0mmの熱可塑性樹脂シート(例えば軟質〜半硬質塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなど)を用いることができるが、特に本発明の自浄防汚シートおいては特にシート状基材が繊維布帛を芯材として含む繊維複合積層体であることが引張強度及び寸法安定性に優れ好ましい。本発明に用いる繊維複合積層体は、繊維布帛に熱可塑性樹脂を含浸(ディッピィング)して固化させた態様、繊維布帛に熱可塑性樹脂を塗布(コーティング)して固化させた態様、繊維布帛に熱可塑性樹脂フィルムやシートを熱ラミネートまたは接着剤でラミネートした態様、及びこれらの組み合せによって得られる、厚さ0.3〜1.0mmのシートが挙げられ、特に繊維布帛に熱可塑性樹脂を含浸して固化させた態様で繊維布帛両面に樹脂皮膜が形成された態様、繊維布帛に熱可塑性樹脂フィルムを熱ラミネートした態様であるものが、中大型テント、テント倉庫などの膜構造建築物用部材、及び屋外大型看板用サインシート、店舗一体型内照看板などの用途に好ましい。
【0016】
シート状基材に用いる繊維布帛には織布、編布、不織布の何れであってもよい。織布は、平織、綾織、繻子織、模紗織など公知の織布が挙げられるが、中でも平織織布が、得られる自浄防汚シートの経緯物性バランスに優れ好ましい。織布は経糸及び緯糸で織製され、糸間間隙を均等において平行に多数配置した経糸、及び糸間間隙を均等において平行に多数配置した緯糸を含んで構成された空隙率5〜50%の目空き織布(目安として糸条打込密度5〜30本/inch)、または空隙率5%未満の高密度織布(目安として糸条打込密度30〜80本/inch)の何れであってもよい。これらの使い分けは目空き織布は熱可塑性樹脂フィルムの熱ラミネート用芯材に適し、高密度織布は熱可塑性樹脂による含浸加工、または塗布加工用芯材に適している。また繊維布帛には屋外使用の際、降雨の染み込みを防止するための公知の撥水処理、また、着炎時に自己消火性を付与するための公知の防炎処理が任意で施されていてもよい。
【0017】
シート状基材に用いる繊維布帛を構成する繊維糸条は、モノフィラメント、マルチフィラメント、短繊維紡績糸条の態様が挙げられ、これらはケナフ繊維、コットン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、芳香族ポリマー繊維、芳香族ヘテロ環ポリマー繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維など、及びこれらの混紡繊維が挙げられる。本発明に用いる繊維布帛は、フィラメント数3〜300本、繊度138〜2223dtex(デシテックス)、特に277〜1112dtexのポリエステルマルチフィラメント糸条繊維(特にPET繊維、PEN繊維)が好ましい。
【0018】
本発明の自浄防汚シートにおいて光触媒機能層は、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(I)を形成し、この海島微細構造(I)において、島成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)から形成された光触媒粒子含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)によって形成された光触媒粒子非含有域である。このような海島微細構造(I)は2種類の合成樹脂の溶融混合、または2種類の液状合成樹脂の攪拌混合物からなる合成樹脂非相溶対により形成される。光触媒機能層は0.01〜0.25mm、特に0.02〜0.1mmの厚さであることが好ましい。光触媒機能層の厚さが0.01mm以下だとシートの自浄防汚の長期持続性が不十分となることがある。
【0019】
本発明において光触媒機能層は、2種類の合成樹脂の混合物からなる合成樹脂非相溶対で、非相溶であれば合成樹脂の組合せに制限はない。本発明に用いられる合成樹脂(A)の例は、塩化ビニル樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂(PE,PPなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、合成樹脂(B)の例は、フッ素含有共重合体樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、及びビニルエステル樹脂など、(A)群及び(B)群とから選ばれた非相溶対である。
【0020】
これらの合成樹脂非相溶対は相分離性を示すもので特に海島微細構造(I)であることが好ましい。この海島微細構造(I)において海成分と島成分は種類の異なる樹脂で構成され、本発明においては島成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)から形成された光触媒粒子含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)によって形成された光触媒粒子非含有域である。島成分を構成する合成樹脂(A)の比率は、海成分を構成する合成樹脂樹脂(B)の体積に対して10〜70体積%(好ましくは20〜50体積%)、光触媒機能層全体に対する島成分含有率は9〜41.1体積%(好ましくは16.6〜33.3体積%)である。光触媒機能層全体に対する島成分含有率が9体積%未満だと得られるシートの防汚効果が不十分となることがある。また島成分含有率が41.1体積%を越えると、海島微細構造(I)バランスが反転となることがある。
【0021】
上記海島微細構造(I)において、合成樹脂(A)は光触媒活性による被分解性を有し、かつ合成樹脂(B)は光触媒活性に対して難分解性であること、すなわち島成分が被分解性を有し、海成分が難分解性であることが好ましい。島成分の形状は球状、歪んだ球状、碁石状、ラグビーボール状などである。島成分の平均粒径は0.05〜25μmであり、特に0.5〜10μmが好ましい。島成分のサイズが25μmより大きいと、島成分の分解に時間が掛かり、島成分の侵食痕に煤塵が蓄積し易くなることで、得られるシートの防汚効果が不十分となることがある。また、島成分のサイズが0.05μm未満では島成分に十分な量の光触媒粒子を保持するための領域が不足することがある。本発明において、島の最小単位は、1つの島に含有する光触媒粒子の数が1であり、特に光触媒粒子の表面が合成樹脂(A)による被膜で被覆されたものは島成分として有効である。
【0022】
本発明において光触媒機能層は、2種類の合成樹脂の非相溶混合物からなる海島微細構造(I)を有しており、かつ、海島微細構造(I)において島成分のみが光触媒粒子を含んでいる。島成分のみが光触媒粒子を含んでいるためには、合成樹脂非相溶対を構成する2種類の合成樹脂のうち、島成分を形成する側の合成樹脂(A)に光触媒粒子を混練または攪拌により均一分散し、光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)と光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)との混合によって、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(I)を形成することができる。合成樹脂(A)と合成樹脂(B)は非相溶対なので、過度の混合の場合にも合成樹脂(A)に含有する光触媒粒子が合成樹脂(B)内に取り込まれることはなく、これによって本発明の自浄防汚シートに不可欠な海島微細構造(I)による光触媒機能層を得ることができる。
【0023】
島成分に含有させる光触媒粒子は、酸化チタン(TiO)、過酸化チタン(ペルオキソチタン酸)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化鉄(Fe)、及びこれらの光触媒物質にPt、Rh、RuO、Nb、Cu、Sn、NiOなどの金属及び金属酸化物をドーピングして光触媒活性を強化したもの、から選ばれた1種以上である。また、これらの光触媒粒子を担持する無機系多孔質微粒子などを使用することもできる。無機系多孔質微粒子とは具体的に、平均一次粒子径が0.01〜10μm、特に0.05〜5μmのシリカ、ゼオライト、チタンゼオライト、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、ハイドロタルサイト、ヒドロキシアパタイト、シリカアルミナ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイソウ土などで、これらの多孔質に光触媒粒子を担持する複合粒子である。本発明に用いる光触媒粒子は特に酸化チタンが好ましく、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の何れも使用できる。また光触媒活性を有する酸化チタン粒子表面をシリカ、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、ヒドロキシアパタイト、シリカアルミナ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの無機化合物で部分被覆してなる光触媒活性コントロールタイプの酸化チタン複合粒子が特に好ましい。これら光触媒粒子の含有量は島成分領域全体の体積、すなわち合成樹脂(A)の体積に対して10〜90体積%、好ましくは25〜65体積%である。
【0024】
また、本発明における光触媒機能層は、光触媒粒子含有域である島成分、すなわち合成樹脂(A)の侵食度合をコントロールする目的で充填剤を添加することが好ましい。充填剤としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属複合酸化物、金属複合水酸化物などが挙げられ、これらは具体的に酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化ケイ素(シリカ)などの金属酸化物、及びホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、ジルコニウム−アンチモンなどの金属複合酸化物など、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物、及びドロマイト、ハイドロタルサイト、ホウ砂などの金属複合水酸化物が挙げられ、その他、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、モンモリロナイト、ベントナイトなどが挙げられる。これら充填剤の粒子径は0.01〜10μmであることが好ましい。
【0025】
本発明における光触媒機能層は、光触媒粒子含有域である島成分、すなわち合成樹脂(A)の侵食度合をコントロールする目的で合成樹脂(A)に対して過酸化物を0.001〜1質量%添加することが好ましい。過酸化物としては、−O−O−結合を有する有機化合物であり、加熱や分解促進剤の作用により分解して遊離ラジカルを生成するものが好ましい。この遊離ラジカルが合成樹脂(A)の分子鎖を攻撃することで、光触媒活性による合成樹脂(A)の分解をより早くすることができる。有機過酸化物の具体例としては、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシドなどのヒドロパーオキシド;ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキシド;ジイソブチリルパーオキシド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノニル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジスクシニックアシッドパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシドなどのジアシルパーオキシド;メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサンパーオキシド、アセチルアセトンパーオキシドなどのケトンパーオキサイド;などが挙げられる。これらの有機過酸化物は2種以上を組合せて用いてもよい。また無機過酸化物として、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化バリウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムおよび過炭酸バリウムなどが挙げられ、これらは2種以上を組合せて用いることもできる。
【0026】
また、本発明の自浄防汚シートは、シート状基材と、光触媒機能層との間に、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(II)を形成する厚さが、0.01〜0.25mm、特に0.02〜0.1mmの光触媒中間層を有していてもよい。この海島微細構造(II)は、島成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(C)から形成された前記光触媒粒子非含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(D)によって形成された前記光触媒粒子含有域であり、さらに前記合成樹脂(C)は光触媒活性による被分解性を有し、かつ前記合成樹脂(D)は光触媒活性に対して難分解性であることが好ましい。海島微細構造(II)において、合成樹脂(C)は海島微細構造(I)における合成樹脂(A)と同一であってもよく、また合成樹脂(D)は海島微細構造(I)における合成樹脂(B)と同一であってもよい。光触媒中間層において、海島微細構造(II)は2種類の合成樹脂の溶融混合、または2種類の液状合成樹脂の攪拌混合物からなる合成樹脂非相溶対により形成される。
【0027】
本発明において光触媒中間層は、2種類の合成樹脂の混合物からなる合成樹脂非相溶対で、非相溶であれば合成樹脂の組合せに制限はない。本発明に用いられる合成樹脂(C)の例は、塩化ビニル樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂(PE,PPなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、合成樹脂(D)の例は、フッ素含有共重合体樹脂(アクリル−フッ化ビニリデン共重合体、シリコン−フッ化ビニリデングラフト共重合体、ウレタン−フッ化ビニリデングラフト共重合体、アクリル−ウレタン−フッ化ビニリデングラフト共重合体、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン4フッ化エチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、及びビニルエステル樹脂など、(C)群及び(D)群とから選ばれた非相溶対である。合成樹脂(C)には分解促進剤として過酸化物を0.001〜1質量%添加して含むことが好ましい。
【0028】
光触媒中間層の海成分に含む光触媒粒子は、光触媒機能層に用いたものと同様、1).酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、及びこれらの光触媒物質のドーピング物、2).光触媒粒子を担持する無機系多孔質微粒子、3).光触媒活性を有する光触媒粒子粒子表面の一部を無機化合物で被覆した光触媒複合粒子などを用いることができ、なかでも特に酸化チタン光触媒粒子が好ましい。これら光触媒粒子の含有量は海成分領域全体の体積、すなわち合成樹脂(D)の体積に対して0.5〜30体積%、好ましくは1〜15体積%である。
【0029】
本発明において光触媒機能層さらには光触媒中間層を、シート状基材上に設ける方法としては、例えば、有機溶剤に分散させた樹脂非相溶混合物、樹脂エマルジョン(ラテックス)非相溶混合物、樹脂ディスパージョン非相溶混合物、ポリ塩化ビニル樹脂を主体とするペーストゾル非相溶混合物、熱硬化性樹脂を主体とする非相溶混合物などを用いて、公知の塗工方法、例えばディッピング(シート状基材への両面加工)、コーティング(シート状基材への片面加工、または両面加工)などの塗工が例示できる。またシート状基材にカレンダー成型、Tダイス押出法により成形した、非相溶熱可塑性混合物からなる0.01〜0.25mm、好ましくは0.05〜1.0mmのフィルム又はシートを、接着剤を介して、あるいは熱ラミネートにより積層する方法、及びこれらの塗工と積層の組合わせが例示できる。
【0030】
また、本発明において光触媒機能層とシート状基材の中間、または光触媒中間層とシート状基材の中間には、光触媒粒子によって分解され難く、かつ皮膜形成能を有する合成樹脂(D)群、さらには、ポリシラザン、有機シリケート化合物、有機シリケート化合物の低縮合物の加水分解物(シラノール基含有シラン化合物)などのケイ素化合物縮合体のいずれか1種以上の成分からなる、厚さが0.005〜0.1mmのバリヤー層が設けられていることが好ましい。
【0031】
本発明の自浄防汚シートに関して、図1及び図2の可撓性シートを一例として説明する。図1の可撓性シート(1)は、シート状基材(2)として、繊維布帛(2−1)を芯材として含む繊維複合積層体(2−3)、この繊維複合積層体(2−3)は繊維布帛(2−1)の両面全面に熱可塑性樹脂層(2−2)を積層したものである。この繊維複合積層体(2−3)の片面全面上に光触媒機能層(3)が設けられている。また、図2の可撓性シートは、シート状基材(2)として、繊維布帛(2−1)を芯材として含む繊維複合積層体(2−3)を用い、この片面全面上に光触媒中間層(4)が設けられ、さらにその表面全面に光触媒機能層(3)が形成されている。
【0032】
図3は本発明の自浄防汚シート(1)の光触媒機能層(3)の海島微細構造(I)を示すものである。光触媒機能層(3)が、光触媒粒子含有域(3−1)と光触媒粒子非含有域(3−2)からなる海島微細構造(I)を形成し、この海島微細構造(I)において、島成分(3−1−a)は光触媒粒子(5−1)を含有する合成樹脂(A)から形成された光触媒粒子含有域(3−1)を示し、海成分(3−2−b)は光触媒粒子(5)を含有しない合成樹脂(B)によって形成された光触媒粒子非含有域(3−2)を示している。図4は本発明の自浄防汚シート(1)の光触媒中間層(4)の海島微細構造(II)を示すものである。光触媒中間層(4)が、光触媒粒子非含有域(4−1)と、光触媒粒子含有域(4−2)とからなる海島微細構造(II)を形成し、この海島微細構造(II)において、島成分(4−1−a)は光触媒粒子(5)を含有しない合成樹脂(C)から形成された光触媒粒子非含有域(4−1)を示し、海成分(4−2−b)は光触媒粒子(5−2)を含有する合成樹脂(D)によって形成された光触媒粒子含有域(4−2)を示している。
【0033】
図5は本発明の自浄防汚シートの断面図(初期の汚れ付着状態)の一例を示すものである。図6は本発明の自浄防汚シート(1)の光触媒機能層(3)の海島微細構造(I)の侵食による汚れ除去過程の概念を示すものである。島成分(3−1−a)である光触媒粒子(5−1)を含有する合成樹脂(A)から形成された光触媒粒子含有域(3−1)が自己分解による侵食により消失し、光触媒機能層(3)の表面には、海成分(3−2−b)である光触媒粒子(5)を含有しない合成樹脂(B)によって形成された光触媒粒子非含有域(3−2)が残っていることを示している。図6では図示しないが、この海成分(3−2−b)である光触媒粒子非含有域(3−2)も、更なる島成分(3−1−a)である光触媒粒子含有域(3−1)の自己分解による侵食に伴い消失する。図7は本発明の自浄防汚シート(1)の光触媒中間(4)の海島微細構造(II)の侵食による汚れ除去過程の概念を示すものである。島成分(4−1−a)である光触媒粒子(5)を含有しない合成樹脂(C)から形成された光触媒粒子非含有域(4−1)は、海成分(4−2−b)である光触媒粒子(5−2)を含有する合成樹脂(D)によって形成された光触媒粒子含有域(4−2)による接触分解による侵食により緩やかな速度で消失し、光触媒中間層(4)の表面には、海成分(4−2−b)である光触媒粒子(5−2)を含有する合成樹脂(D)によって形成された光触媒粒子含有域(4−2)が残っていることを示している。図7では図示しないが、この海成分(4−2−b)である光触媒粒子含有域(4−2)も、更なる島成分(4−1−a)である光触媒粒子非含有域(4−1)の接触分解による緩やかな速度での侵食に伴い消失する。
【実施例】
【0034】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、シート状基材として繊維布帛を芯材として含む下記の繊維複合積層体を用いた。シート状基材の寸法は、たて(繊維布帛の経糸方向)45cm×よこ(繊維布帛の緯糸方向)30cmとし、実施例及び比較例において、すべて同一のシート状基材を用いた。
〈シート状基材〉
ポリエステル(PET)製555dtexのマルチフィラメントを用いた平織織布(密度:タテ(経糸)23本/インチ×ヨコ(緯糸)23本/インチ:質量100g/m:目抜度26%)を繊維布帛として、この繊維布帛の表面と裏面それぞれに、下記の軟質塩化ビニル樹脂配合組成物からなる厚さ0.18mmのPVCフィルムを熱圧着法でブリッジ積層し、厚さ0.44mm、質量528g/mのシート状基材を得た。ブリッジ積層とは表面と裏面に配置したPVCフィルム同士が、繊維布帛の目抜部を介して、PVCフィルムの融点以上の温度で熱融着接着させると同時に、繊維布帛とも良好に密着または接着させる熱ラミネート法である。得られたシート状基材の表面(光触媒機能層形成側)に下記表面処理層を形成した。表面処理層は、80メッシュのグラビア塗工にて12g/m(wet)均一全面塗布し、固形分付着量3.6g/mのアクリル樹脂層を形成した。この表面処理層は軟質塩化ビニル樹脂配合物の拡散移行、揮発防止の役割と、光触媒機能層との接着を補助する役割を果たすものである。
【0035】
〈軟質塩化ビニル樹脂組成物〉
ストレート塩化ビニル樹脂(P=1050)100質量部
DOP(可塑剤) 30質量部
塩素化n−パラフィン(可塑剤) 10質量部
アジピン酸ポリエステル(可塑剤) 30質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系複合安定剤 2質量部
ルチル型酸化チタン(着色剤) 5質量部
有機系防カビ剤(OBPA) 0.2質量部
紫外線吸収剤 0.3質量部
酸化防止剤 0.1質量部
〈表面処理層形成用塗工液〉
商品名:ソニーボンドSC−474:ソニーケミカル(株):アクリル系共重合樹脂
(固形分30質量%) 100質量部
【0036】
次いでこの表面処理層上に、1〜3の光触媒機能層を形成し、本発明の自浄防汚シート
実施例1,3,5を得た。また、特に実施例2,4,6においては、表面処理層上に光触媒中間層1〜3を形成し、光触媒中間層上に1〜3の光触媒機能層を形成した。
【0037】
〈防汚性の評価〉
得られたシートを12ヶ月間屋外で南向き30°と90°(垂直)の設置角度で曝露し、垂直面における雨筋汚れの発生の有無と、30°面の汚れ度合いを初期(ブランク)とのΔE値(JIS Z−8729)で評価した。色差計測はJUKI(株)製の光学色差計(JP7200F)を用いた。ΔE値が3.0を超えるものはセルフクリーニング性に劣るものと判定する。
※屋外展張は、埼玉県草加市内において10月より開始した。
ΔE=0〜1.9 :1=汚れがなく良好。初期の状態を維持している。
ΔE=2〜2.9 :2=うすく汚れているが外観に支障はない。
ΔE=3〜3.9 :3=汚れ付着、雨筋が目立つ。
ΔE=4以上 :4=汚れと雨筋が酷く、外観的に支障がある。
【0038】
[実施例1]
下記配合1のフッ化ビニリデン樹脂混合物に、下記配合2の塩化ビニル樹脂混合物(光触媒粒子含有)を、フッ化ビニリデン樹脂単体の質量に対して20質量%加えてブレンドし、塩化ビニル樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物1の液を得た。この非相溶樹脂混合物1の液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.05mmの光触媒機能層1を形成した。この光触媒機能層1を顕微鏡観察すると、塩化ビニル樹脂が光触媒粒子を含有する島成分を構成しており、フッ化ビニリデン樹脂が光触媒粒子非含有の海成分を構成していた。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは0.9の評価1レベルであった。
[光触媒機能層1形成のための非相溶樹脂混合物1]
<配合1>
フッ化ビニリデン樹脂 100質量部
メチルエチルケトン(溶剤) 400質量部
<配合2>
塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
Ba−Zn系複合安定剤 2質量部
光触媒酸化チタン 8質量部
(無機酸化物による表面被覆率4〜10%範囲の部分被覆)
炭酸カルシウム(平均粒子径1μm) 10質量部
有機過酸化物(ジクミルパーオキシド) 0.03質量部
【0039】
[実施例2]
実施例1の処方において、光触媒機能層1とシート状基材(界面は表面処理層)との間に下記光触媒中間層1を設けた以外は実施例1と同様とし、光触媒機能層1付きシートを得た。光触媒中間層1は下記配合3のフッ化ビニリデン樹脂混合物(光触媒粒子含有)に、下記配合4の塩化ビニル樹脂混合物を、フッ化ビニリデン樹脂単体の質量に対して20質量%加えてブレンドし、塩化ビニル樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物2の液を得た。この非相溶樹脂混合物2の液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.03mmの光触媒中間層1を形成した。この光触媒中間層1を顕微鏡観察すると、塩化ビニル樹脂が光触媒粒子非含有の島成分を構成しており、フッ化ビニリデン樹脂が光触媒粒子を含有する海成分を構成していた。この光触媒中間層1上に実施例1で用いた非相溶樹脂混合物1液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.03mmの光触媒機能層1を形成した。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは0.8の評価1レベルであった。
[光触媒中間層1形成のための非相溶樹脂混合物2]
<配合3>
フッ化ビニリデン樹脂 100質量部
光触媒酸化チタン 8質量部
(無機酸化物による表面被覆率4〜10%範囲の部分被覆)
メチルエチルケトン(溶剤) 400質量部
<配合4>
塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
Ba−Zn系複合安定剤 2質量部
炭酸カルシウム(平均粒子径1μm) 10質量部
有機過酸化物(ジクミルパーオキシド) 0.03質量部
【0040】
[実施例3]
下記配合5のフッ化ビニリデン樹脂混合物に、下記配合6の軟質塩化ビニル樹脂混合物(光触媒粒子含有)を、フッ化ビニリデン樹脂単体の質量に対して20質量%加えて180℃で加熱溶融ブレンドし、軟質塩化ビニル樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物3コンパウンドを得た。この非相溶樹脂混合物3コンパウンドを、180℃設定のカレンダー装置で圧延し、厚さ0.08mmのフィルムを得、これを光触媒機能層2とした。このフィルムをシート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上に170℃で熱ラミネート積層した。この光触媒機能層2を顕微鏡観察すると、軟質塩化ビニル樹脂が光触媒粒子を含有する島成分を構成しており、フッ化ビニリデン樹脂が光触媒粒子非含有の海成分を構成していた。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは1.1の評価1レベルであった。
[光触媒機能層2形成のための非相溶樹脂混合物3]
<配合5>
フッ化ビニリデン樹脂 100質量部
<配合6>
塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
DOP(可塑剤) 30質量部
アジピン酸ポリエステル(可塑剤) 30質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系複合安定剤 2質量部
光触媒酸化チタン 8質量部
(無機酸化物による表面被覆率4〜10%範囲の部分被覆)
炭酸カルシウム(平均粒子径1μm) 10質量部
有機過酸化物(ジクミルパーオキシド) 0.03質量部
【0041】
[実施例4]
実施例3の処方において、光触媒機能層2とシート状基材(界面は表面処理層)との間に下記光触媒中間層2を設けた以外は実施例3と同様とし、光触媒機能層2付きシートを得た。光触媒中間層2は下記配合7のフッ化ビニリデン樹脂混合物(光触媒粒子含有)に、下記配合8の軟質塩化ビニル樹脂混合物を、フッ化ビニリデン樹脂単体の質量に対して20質量%加えて180℃で加熱溶融ブレンドし、軟質塩化ビニル樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物4コンパウンドを得た。この非相溶樹脂混合物4コンパウンドを、180℃設定のカレンダー装置で圧延し、厚さ0.08mmのフィルムを得、これを光触媒中間層2としてシート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上に170℃で熱ラミネート積層した。この光触媒中間層2を顕微鏡観察すると、軟質塩化ビニル樹脂が光触媒粒子を非含有の島成分を構成しており、フッ化ビニリデン樹脂が光触媒粒子を含有する海成分を構成していた。この光触媒中間層2上に実施例3で用いた非相溶樹脂混合物3コンパウンドを180℃設定のカレンダー装置で圧延して得た厚さ0.08mmのフィルムを光触媒機能層2として170℃で熱ラミネート積層した。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは1.0の評価1レベルであった。
[光触媒中間層2形成のための非相溶樹脂混合物4]
<配合7>
フッ化ビニリデン樹脂 100質量部
光触媒酸化チタン 8質量部
(無機酸化物による表面被覆率4〜10%範囲の部分被覆)
<配合8>
塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
DOP(可塑剤) 30質量部
アジピン酸ポリエステル(可塑剤) 30質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系複合安定剤 2質量部
炭酸カルシウム(平均粒子径1μm) 10質量部
有機過酸化物(ジクミルパーオキシド) 0.03質量部
【0042】
[実施例5]
下記配合9のシリコーン樹脂混合物に、配合6の軟質塩化ビニル樹脂混合物(光触媒粒子含有)を、シリコーン樹脂単体の質量に対して20質量%加えてブレンドし、軟質塩化ビニル樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物5の液を得た。この非相溶樹脂混合物5の液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.05mmの光触媒機能層3を形成した。この光触媒機能層3を顕微鏡観察すると、軟質塩化ビニル樹脂が光触媒粒子を含有する島成分を構成しており、シリコーン樹脂が光触媒粒子非含有の海成分を構成していた。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは1.4の評価1レベルであった。
[光触媒機能層3形成のための非相溶樹脂混合物5]
<配合9>
2液付加反応硬化型シリコーン樹脂 50質量部
(品名:シラスコンRTV4086A
:ダウコーニングアジア社製)
2液付加反応硬化型シリコーン樹脂 50質量部
(品名:シラスコンRTV4086B
:ダウコーニングアジア社製)
メチルエチルケトン(溶剤) 100質量部
【0043】
[実施例6]
実施例5の処方において、光触媒機能層3とシート状基材(界面は表面処理層)との間に下記光触媒中間層3を設けた以外は実施例5と同様とし、光触媒機能層3付きシートを得た。光触媒中間層3は下記配合10のシリコーン樹脂混合物(光触媒粒子含有)に、配合8の軟質塩化ビニル樹脂混合物を、シリコーン樹脂単体の質量に対して20質量%加えてブレンドし、軟質塩化ビニル樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物6の液を得た。この非相溶樹脂混合物6の液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.03mmの光触媒中間層3を形成した。この光触媒中間層3を顕微鏡観察すると、軟質塩化ビニル樹脂が光触媒粒子を非含有の島成分を構成しており、シリコーン樹脂が光触媒粒子を含有する海成分を構成していた。この光触媒中間層3上に実施例5で用いた非相溶樹脂混合物5液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.03mmの光触媒機能層3を形成した。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは1.4の評価1レベルであった。
[光触媒中間層3形成のための非相溶樹脂混合物6]
<配合10>
2液付加反応硬化型シリコーン樹脂 50質量部
(品名:シラスコンRTV4086A
:ダウコーニングアジア社製)
2液付加反応硬化型シリコーン樹脂 50質量部
(品名:シラスコンRTV4086B
:ダウコーニングアジア社製)
光触媒酸化チタン 8質量部
(無機酸化物による表面被覆率4〜10%範囲の部分被覆)
メチルエチルケトン(溶剤) 100質量部
【0044】
[実施例7]
配合1のフッ化ビニリデン樹脂混合物に、下記配合11のポリウレタン樹脂混合物(光触媒粒子含有)を、フッ化ビニリデン樹脂単体の質量に対して20質量%加えてブレンドし、ポリウレタン樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物7の液を得た。この非相溶樹脂混合物7の液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.05mmの光触媒機能層4を形成した。この光触媒機能層4を顕微鏡観察すると、ポリウレタン樹脂が光触媒粒子を含有する島成分を構成しており、フッ化ビニリデン樹脂が光触媒粒子非含有の海成分を構成していた。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは1.0の評価1レベルであった。
[光触媒機能層4形成のための非相溶樹脂混合物7]
<配合11>
ポリウレタン樹脂(エステル系) 100質量部
光触媒酸化チタン 8質量部
(無機酸化物による表面被覆率4〜10%範囲の部分被覆)
炭酸カルシウム(平均粒子径1μm) 10質量部
有機過酸化物(ジクミルパーオキシド) 0.03質量部
【0045】
[実施例8]
実施例7の処方において、光触媒機能層4とシート状基材(界面は表面処理層)との間に下記光触媒中間層4を設けた以外は実施例7と同様とし、光触媒機能層4付きシートを得た。光触媒中間層4は配合7のフッ化ビニリデン樹脂混合物(光触媒粒子含有)に、配合11のポリウレタン樹脂混合物を、フッ化ビニリデン樹脂単体の質量に対して20質量%加えてブレンドし、ポリウレタン樹脂が均一分散した非相溶樹脂混合物8の液を得た。この非相溶樹脂混合物8の液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.03mmの光触媒中間層4を形成した。この光触媒中間層4を顕微鏡観察すると、ポリウレタン樹脂が光触媒粒子を非含有の島成分を構成しており、フッ化ビニリデン樹脂が光触媒粒子を含有する海成分を構成していた。この光触媒中間層4上に実施例7で用いた非相溶樹脂混合物7液を、シート状基材のアクリル樹脂による表面処理層上にウェットコートし、この塗膜を180℃の熱風ブロー乾燥させ、塗膜厚さ0.03mmの光触媒機能層4を形成した。このシートを12ヶ月間屋外曝露して汚れ状態の観察を行った結果、ΔEは0.9の評価1レベルであった。
【0046】
実施例1〜8のシートは、1年間の屋外曝露試験の結果、いずれもΔE=0〜1.9の範囲内であり、防汚シートとして充分な自浄防汚効果を有するものであった。特に光触媒機能層の島成分中に有機過酸化物(ジクミルパーオキシド)を0.001〜1質量%含有することで島成分の分解速度が加速され、使用開始から3ヶ月目でのΔEは0〜1.9の自浄性を示していた。光触媒機能層の島成分中に有機過酸化物(ジクミルパーオキシド)を含有しない場合、ΔEは0〜1.9の範囲内となるまでに4ヶ月を必要とした。これより光触媒機能層の島成分中に有機過酸化物を用いることで、1ヶ月早い段階で自浄性が得られるので美観維持に効果的である。また実施例1〜8のシートはいずれも高周波溶着性を有し、大型テント構造物施工用に適したものであった。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、配合1のフッ化ビニリデン樹脂混合物の併用を省略した以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートを1年間屋外暴露して防汚性評価を行った結果、約9ヶ月経過より光触媒機能層が脱落して消失し、下地のアクリル樹脂層が露出することによって汚れの蓄積が目立ち始めた。ΔEは3.3の評価3レベルであった。
【0048】
[比較例2]
実施例1において、配合2の塩化ビニル樹脂混合物から光触媒粒子を省略した以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートを1年間屋外暴露して防汚性評価を行った結果、ΔEは3.6の評価3レベルであった。
【0049】
[比較例3]
実施例3において、配合5のフッ化ビニリデン樹脂混合物の併用を省略した以外は実施例3と同様にしてシートを得た。得られたシートを1年間屋外暴露して防汚性評価を行った結果、可塑剤のブリードによる汚れ付着の蓄積が酷く、光触媒機能層が効果的に作用せずにΔEは7.8の評価4レベルであった。
【0050】
[比較例4]
実施例3において、配合6の塩化ビニル樹脂混合物から光触媒粒子を省略した以外は実施例3と同様にしてシートを得た。得られたシートを1年間屋外暴露して防汚性評価を行った結果、ΔEは4.2の評価4レベルであった。
【0051】
比較例1〜4のシートは、1年間の屋外曝露試験の結果、いずれもΔE=2を越えており、防汚シートとして充分な自浄防汚効果が得られないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の自浄防汚シートを、中大型テント、テント倉庫などの膜構造建築物用部材、屋外大型看板用サインシート、店舗一体型内照看板などの産業用資材に用いることによって、
光触媒層の分解作用による汚れ除去効果を発揮しながら、光触媒層を保持し、それによって膜材の使用開始から長期間に渡たる防汚効果を持続させることができるので、上記膜構造建築物や看板の外観をメンテナンスフリーで美麗に維持することを可能とする。
【符号の説明】
【0053】
1:自浄防汚シート
2:シート状基材
2−1:繊維布帛
2−2:熱可塑性樹脂層
2−3:繊維複合積層体
3:光触媒機能層:海島微細構造(I)
3−1:光触媒粒子含有域:合成樹脂(A)による
3−2:光触媒粒子非含有域:合成樹脂(B)による
3−1−a:島成分
3−2−b:海成分
4:光触媒中間層:海島微細構造(II)
4−1:光触媒粒子非含有域:合成樹脂(C)による
4−2:光触媒粒子含有域:合成樹脂(D)による
4−1−a:島成分
4−2−b:海成分
5:光触媒粒子
5−1:光触媒粒子(海島微細構造(I)に含む)
5−2:光触媒粒子(海島微細構造(II)に含む)
6:汚れ(初期付着状態)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材の1面以上に光触媒機能層を有する可撓性シートであって、前記光触媒機能層が、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(I)を形成し、この海島微細構造(I)において、島成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(A)から形成された前記光触媒粒子含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(B)によって形成された前記光触媒粒子非含有域であり、さらに前記合成樹脂(A)は光触媒活性による被分解性を有し、かつ前記合成樹脂(B)は光触媒活性に対して難分解性であることを特徴とする自浄防汚シート。
【請求項2】
前記シート状基材と、前記光触媒機能層との間に、光触媒粒子含有域と光触媒粒子非含有域からなる海島微細構造(II)を形成する光触媒中間層を有し、この海島微細構造(II)において、島成分が光触媒粒子を含有しない合成樹脂(C)から形成された前記光触媒粒子非含有域であり、海成分が光触媒粒子を含有する合成樹脂(D)によって形成された前記光触媒粒子含有域であり、さらに前記合成樹脂(C)は光触媒活性による被分解性を有し、かつ前記合成樹脂(D)は光触媒活性に対して難分解性である請求項1に記載の自浄防汚シート。
【請求項3】
前記海島微細構造(I)の島成分が、前記合成樹脂(A)に対して、さらに過酸化物を0.001〜1質量%含有する、請求項1または2に記載の自浄防汚シート。
【請求項4】
前記シート状基材が繊維布帛を芯材として含む繊維複合積層体である、請求項1から3のいずれか1項に記載の自浄防汚シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86122(P2012−86122A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233315(P2010−233315)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【Fターム(参考)】